説明

生体移植片移送器具及び生体移植片の移送方法

【課題】生体移植片移送器具を簡素な構成とし、シート状の生体移植片を確実且つ簡便に保持して所望位置に移送する。
【解決手段】生体移植片移送器具10は、プレート状の支持体12と、前記支持体12の長手方向に沿って巻回されるシート状のベルト体14と、前記ベルト体14の両端部が連結され、前記支持体12に沿って変位自在に設けられた把持部16とを備え、術者が、把持部16を把持した状態で支持体12の先端12bをシート状細胞培養物30に接近させ、前記支持体12を前記シート状細胞培養物30に向かって変位させることにより、前記先端12bが、ベルト体14と共に前記シート状細胞培養物30の下部側へと移動して該ベルト体14の外周面に対して載置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療に用いられる生体移植片を所望位置に移送可能な生体移植片移送器具及び生体移植片の移送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、心筋梗塞等の治療において、患者自身の細胞を培養して組織化したシート状細胞培養物(生体移植片)を患部へと移植する治療方法が広く知られている。このようなシート状細胞培養物は、薄膜状のため脆弱であり、しかも、水分を含んでいるため自己密着性が高く、培養された培養容器から取り出して患部へと移送させる際に高度な手技を要する。そこで、このようなシート状細胞培養物の移送を行うための移送器具が用いられる。
【0003】
この移送器具は、例えば、中空状の外筒の内部にスライド部材が摺動自在に設けられ、前記スライド部材の先端部には、柔軟性を有するシート支持体が設けられている。そして、シート支持体は、スライド部材を外筒に対して変位させることにより、前記外筒の内部に収容可能に設けられ、前記外筒の外部において平面状となったシート支持体にシート状細胞培養物を載置し、前記スライド部材を引き込み動作させることにより、前記シート状細胞培養物が前記外筒の内部に収容される。そして、外筒の先端部を、患者の患部に臨む位置へと配置した後、スライド部材を押し出すことにより、シート状細胞培養物が前記患部へと移植される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の移送器具でシート状細胞培養物を移送することは可能であっても、前記移送器具にシート状細胞培養物を載置することは困難であり、高度な手技が要求される。
【0006】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、簡素な構成で、シート状の生体移植片を確実且つ簡便に保持して所望位置に移送することが可能な生体移植片移送器具及び生体移植片の移送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明は、生体移植片を移送するための生体移植片移送器具において、
本体部と、
前記本体部に対して変位自在に設けられる変位体と、
前記変位体の先端及び基端を覆うように巻回され、前記本体部に接続されるベルト体と、
を備え、
前記変位体の先端側において、前記生体移植片が前記ベルト体に載置されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、変位体と、前記変位体の先端及び基端を覆うように巻回されたベルト体とを備え、前記変位体を変位自在に保持する本体部に対して前記ベルト体を接続している。そして、本体部に対して変位体を変位させることにより、該変位体と共にベルト体を進退動作させることができる。変位体はベルト体により保持されている。
【0009】
従って、変位体及びベルト体を変位させることによって該変位体の先端において生体移植片をベルト体に載置して保持することができ、一方、ベルト体に載置された生体移植片は、前記とは反対に変位体を変位させた場合に、前記先端を前記生体移植片に対して後退させて患者の患部等に載置することができる。その結果、変位体の先端を、生体移植片に接触させた状態、又は、すでに前記生体移植片をベルト体に載置した状態において、前記変位体を本体部に対して進退動作させるという簡単な操作で、シート状の生体移植片を確実且つ安定的に移送することが可能である。
【0010】
また、生体移植片移送器具は、本体部、変位体及びベルト体からなる構成としているため、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0011】
さらに、変位体の基端には、本体部に対して変位体を変位させる際に用いる操作部を設けるとよい。これにより、術者が生体移植片移送器具を用いて生体移植片の移送を行う際、操作部を介して変位体を確実に変位させることができる。
【0012】
さらにまた、ベルト体は、生体移植片を保持する保持面が親水性を有した材質で形成されているため、水分等を含んだ生体移植片が、前記保持面において弾かれてしまうことが回避され、前記保持面で安定的に保持することが可能となる。
【0013】
またさらに、ベルト体には、保持面に対して突出し、生体移植片を懸架又は刺入可能な突起部を設けることにより、前記ベルト体を進退動作させ突起部を前記生体移植片に臨む位置とした場合に、前記突起部によって生体移植片を懸架又は刺入し、その状態で、前記生体移植片を前記保持面に載置して保持することができるため、前記生体移植片を前記突起部によって確実且つ安定的に載置、保持することが可能である。
【0014】
また、操作部を、変位体の基端が内部に挿通されて連結される立体形状に形成するとよい。これにより、生体移植片移送器具で生体移植片の移送を行う際、術者が、前記操作部を安定して把持して操作することが可能となる。また、立体形状に形成された操作部に対して本体部を進退動作させることにより、手元の操作部から変位体の先端部までの距離を変化させずに生体移植片をベルト体へ載置したり、前記ベルト体から移送することができる。
【0015】
さらに、変位体は、先端、基端及び前記先端と基端とを接続する一組のフレームとから中空状に形成することにより、生体移植片移送器具で生体移植片の移送を行う際、例えば、ベルト体に付着した水分等によって該ベルト体が前記変位体の表面に密着してしまうことが確実に防止される。そのため、変位体及びベルト体に水分等が付着した場合でも、前記変位体及びベルト体の摺動抵抗が増加してしまうことがなく、円滑に作動させることができる。
【0016】
さらにまた、本発明は、生体移植片移送器具を用いて生体移植片を目的部位へと移送するための生体移植片の移送方法であって、
前記生体移植片移送器具のベルト体が巻回された先端を前記生体移植片近傍に配置する工程と、
前記ベルト体を、該ベルト体の内部に変位自在に設けられた変位体を介して進退動作させ、前記生体移植片の載置された表面から離脱させて、前記ベルト体上に前記生体移植片を載置する工程と、
前記生体移植片を目的部位へ移送する工程と、
を有することを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、生体移植片移送器具の先端を生体移植片近傍に配置し、変位体を進退動作させることによってベルト体上に生体移植片を載置した後、再び前記変位体を進退動作させ前記生体移植片を目的部位へ移送する。従って、ベルト体を介して生体移植片を生体移植片の載置された表面から確実且つ安定的に離脱させ目的部位へと移送することができる。
【0018】
さらに、生体移植片の上に薄膜状のシート体を積層させる工程と、
前記ベルト体を、該ベルト体の内部に変位自在に設けられた変位体を介して進退動作させ、前記生体移植片を前記シート体と共に前記ベルト体から離脱させて目的部位へ移送する工程と、を有するとよい。
【0019】
これにより、生体移植片を、積層されたシート体と共に目的部位へと移送することができるため、前記生体移植片を単独で移送する場合と比較し、前記ベルト体の端部における前記生体移植片の巻き込みを防止することができると共に、前記生体移植片が前記シート体によって保護されているため、その損傷等が好適に回避され安定的に目的部位へと移送することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0021】
すなわち、生体移植片移送器具を、変位体と、前記変位体の先端及び基端を覆うように巻回されたベルト体とから構成し、前記変位体を本体部に対して変位させることにより、該変位体と共にベルト体を進退動作させることができる。そのため、変位体の先端を、生体移植片に接触させた状態、又は、すでに前記生体移植片をベルト体に載置した状態において、前記変位体を本体部に対して進退動作させるという簡単な操作で、シート状の生体移植片を確実且つ安定的に移送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る生体移植片移送器具の外観斜視図である。
【図2】図1に示す生体移植片移送器具の全体縦断面図である。
【図3】図2に示す生体移植片移送器具をシート状細胞培養体に接近させた状態を示す動作説明図である。
【図4】図3に示す生体移植片移送器具においてシート状細胞培養体をベルト体に載せた移送状態を示す動作説明図である。
【図5】図4に示す生体移植片移送器具においてシート状細胞培養体をベルト体から患者の患部へと移植した状態を示す動作説明図である。
【図6】フィルムを用いてシート状細胞培養体の移送を行う場合を示す生体移植片移送器具の外観斜視図である。
【図7】図7Aは、図6の生体移植片移送器具の先端近傍を示す拡大断面図であり、図7Bは、図7Aの生体移植片移送器具においてシート状細胞培養体をベルト体から患者の患部へと移植する状態を示した動作説明図である。
【図8】複数の孔を有した第1変形例に係る支持体を有した生体移植片移送器具の一部切欠斜視図である。
【図9】複数のスリット孔を有した第2変形例に係る支持体を有した生体移植片移送器具の一部切欠斜視図である。
【図10】基端側に向かって徐々に厚く形成された第3変形例に係る支持体を有した生体移植片移送器具の一部切欠斜視図である。
【図11】図11A〜図11Dは、第4〜第7変形例に係るベルト体を有した生体移植片移送器具の拡大斜視図である。
【図12】ブロック状に形成された第8変形例に係る把持部を有した生体移植片移送器具の外観斜視図である。
【図13】軸状に形成された第9変形例に係る把持部を有した生体移植片移送器具の外観斜視図である。
【図14】支持体の先端にベルト挿通孔を有した第10変形例に係る把持部を有した生体移植片移送器具の外観斜視図である。
【図15】図15Aは、図14の生体移植片移送器具の先端近傍を示す拡大断面図であり、図15Bは、図15Aの生体移植片移送器具の変形例を示す拡大断面図である。
【図16】支持体の基端に箱状の操作部を備えた第11変形例に係る生体移植片移送器具の外観斜視図である。
【図17】図16の生体移植片移送器具の全体縦断面図である。
【図18】フレーム状に形成された支持体を備えた第12変形例に係る生体移植片移送器具の外観斜視図である。
【図19】進退機構を備えた第13変形例に係る生体移植片移送器具の外観斜視図である。
【図20】図20Aは、図19の生体移植片移送器具の全体縦断面図であり、図20Bは、図20Aの生体移植片移送器具の進退機構を用いてベルト体を進退動作させた状態を示す全体縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る生体移植片移送器具及び生体移植片の移送方法につき、該移送方法を実施する生体移植片移送器具との関連で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1において、参照符号10は、本発明の実施の形態に係る生体移植片移送器具を示す。
【0025】
この生体移植片移送器具10は、図1及び図2に示されるように、プレート状の支持体(変位体)12と、前記支持体12の長手方向に沿って巻回されたベルト体14と、前記ベルト体14の両端部が連結され、前記支持体12に沿って変位自在に設けられた把持部(本体部)16とを含む。なお、図1及び図2において、生体移植片移送器具10の右側を「基端12a」側(矢印A方向)、前記生体移植片移送器具10の左側を「先端12b」側(矢印B方向)と呼び、他の各図についても同様とする。
【0026】
支持体12は、例えば、樹脂製材料や金属製材料から略一定厚さt(図2参照)で形成された板材から略長方形状に形成される。具体的には、支持体12は、厚さ1mm程度のアクリル樹脂、塩化ビニル等や、アルミニウム合金、ステンレス等の板材から形成される。すなわち、支持体12は、所定強度を有する材質且つ厚さtで形成されていれば良く、さらに、前記厚さtは、5mm以下であることが望ましく、1mm以下であればさらに望ましく、0.5mm以下であれば最適である。
【0027】
また、支持体12の先端12bは、例えば、可撓性を有した樹脂製材料で形成すると好適である。具体的には、先端12bは、該先端12bにおけるベルト体14の摺動性が低下せず、しかも、シート状細胞培養物(生体移植片)30を積載可能な剛性を有した範囲内で可撓性(硬度)を備えるように形成される。これにより、生体移植片移送器具10でシート状細胞培養物30を患部(目的部位)34へと載置する際に、支持体12の先端12bが前記患部34に対して接触した場合でも好適に撓曲させることができるため、前記患部34の損傷を防止して安全に作業を行うことが可能となる。
【0028】
なお、支持体12の先端12bのみでなく、該支持体12の全体を、可撓性を有する樹脂製材料で形成するようにしてもよいし、前記先端12bのみが撓曲するように厚さtを部分的に薄くするようにしてもよい。
【0029】
また、支持体12の基端12aには、側方に突出した部位に操作部18が設けられ、前記操作部18は、前記支持体12の長手方向(矢印A、B方向)に対して直交方向に延在し、例えば、術者が生体移植片移送器具10を操作する際に把持する。
【0030】
さらに、支持体12の表面20a及び裏面20bは、例えば、疎水性を有した材料(フッ素樹脂等)や、親水性を有した材料で被覆するようにしてもよい。なお、この疎水性を有する材料とは、支持体12の表面20a及び裏面20bから水を弾いたり、水滴を作ったりするような表面の状態を得る物質のことであり、水との接触角を増大させる働きを持つ物質のことである。一方、親水性を有する材料とは、支持体12の表面20a及び裏面20bを水となじみやすくさせ、水を弾いたり、水滴を作るようなことがない表面の状態を得る物質のことであり、水との接触角を減少させる働きを持つ物質のことである。
【0031】
このように、支持体12の表面20a及び裏面20bを疎水性又は親水性を有した材料で被覆することによって、該支持体12とベルト体14との間における摺動抵抗が低減されるため、前記支持体12に対して前記ベルト体14を円滑に摺動させることができる。すなわち、支持体12に対するベルト体14の摺動性を向上させることが可能となる。
【0032】
ベルト体14は、薄膜のシート状に形成され、支持体12の長手方向(矢印A、B方向)に沿って延在し、該支持体12の先端12b及び基端12aを覆い、且つ、前記支持体12の表面20a及び裏面20bに沿うように巻回される。このベルト体14の幅寸法は、支持体12の幅寸法と略同等若しくは若干だけ大きく設定される。そして、ベルト体14は、支持体12に巻回された状態において、該支持体12の先端12b及び基端12aに対してそれぞれ当接している。
【0033】
また、ベルト体14は、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)や、ポリオレフィン系の樹脂製材料、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂製材料からなる高分子フィルムからなり、その厚さは、0.2mm以下であることが望ましく、0.05mm以下とすると最適である。なお、このベルト体14の材質は、上述したものに限定されるものではなく、薄く且つ機械的強度が高く、しかも、摩擦係数が小さく捩じれ等の発生しにくい材質であれば良い。
【0034】
さらに、ベルト体14の外周面は、後述するシート状細胞培養物30を載せるために親水性を有していることが好ましく、例えば、前記ベルト体14に対して親水性を有した材料で被覆するようにしてもよい。この親水性を有する材料とは、ベルト体14の表面を水となじみやすくさせ、水を弾いたり、水滴を作るようなことがない表面の状態を得る物質のことであり、水との接触角を減少させる働きを持つ物質のことである。
【0035】
これらの物質としては、大きく分けて界面活性剤などの両親媒性物質、親水性の天然高分子や合成高分子およびそれらの混合物に分類される。界面活性剤としては、これらに限定するものではないが、例えば、脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン等のイオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル等の非イオン性界面活性剤があげられる。
【0036】
また、親水性の天然高分子としては、これらに限定するものではないが、例えば、フィブリンゲル、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質、寒天、カラギーナン、でんぷんなどの多糖類、核酸やペプチド等があげられる。
【0037】
さらに、親水性の合成高分子は、これに限定するものではないが、例えば、カルボキシメチルセルロースなどの天然高分子誘導体、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリアクリル酸及びその塩、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリイソプロピルアクリルアミド等が挙げられる。
【0038】
なお、これらの物質は、ベルト体14の外周面に直接塗りつけて被覆するほか該ベルト体14に対して何らかの結合により固定してもよい。
【0039】
一方、ベルト体14の内周面も、例えば、疎水性を有した材料(フッ素樹脂等)や、親水性を有した材料で被覆するようにしてもよい。この疎水性を有する材料とは、ベルト体14の内周面から水を弾いたり、水滴を作ったりするような表面の状態を得る物質のことであり、水との接触角を増大させる働きを持つ物質のことである。一方、親水性を有する材料とは、ベルト体14の内周面を水となじみやすくさせ、水を弾いたり、水滴を作るようなことがない表面の状態を得る物質のことであり、水との接触角を減少させる働きを持つ物質のことである。
【0040】
このように、ベルト体14の内周面を疎水性又は親水性を有した材料で被覆することによって、該支持体12とベルト体14との間における摺動抵抗が低減され、しかも、前記ベルト体14の内周面が前記支持体12の表面20a及び裏面20bに付着して密着してしまうことが防止される。その結果、ベルト体14を支持体12に対して円滑に摺動させることができる。すなわち、支持体12に対するベルト体14の摺動性を向上させることが可能となる。
【0041】
把持部16は、例えば、偏平した断面長方形状に形成され、その中央部には支持体12の挿通される孔部22を有している。これにより、把持部16は、孔部22に挿通された支持体12の長手方向(矢印A、B方向)に沿って変位自在に設けられる。この際、把持部16は、支持体12に設けられた図示しない案内手段によって前記支持体12に対して所定間隔離間した状態で安定的に保持される。
【0042】
また、把持部16の先端16bには、支持体12に巻回されたベルト体14の一端部14aが融着又は接着等、または、プレート24aを介した圧迫等による固定手段によって固定され、一方、前記把持部16の基端16aには、前記支持体12に巻回されたベルト体14の他端部14bが融着又は接着等、または、プレート24bを介した圧迫等による固定手段によって固定される。そして、術者が、把持部16を保持し操作部18を介して支持体12を長手方向に沿って進退動作させることにより、ベルト体14が前記支持体12の外側を周回するように変位する。このベルト体14は、把持部16を挟んで環状に形成され、支持体12の表面20a及び裏面20bを覆うように配設される。
【0043】
本発明における生体移植片としては、上述したシート状細胞培養物30が挙げられ、前記シート状細胞培養物30は、通常知られた方法によって作製することができる。
【0044】
また、生体移植片は、典型的には培養した細胞及び/又はその産出物で構成され、必要に応じて生体移植片は目的の部位(例えば、患部等などの生体の所定部位)を補填及び/又は支持するための各種の材料(補填材料や支持材料)などを含んでもよい。さらに、生体移植片は、典型的には、哺乳動物、例えば、ヒトや家畜等の疾病、傷病の治療等に用いられるものであるが、これに限定されるものではない。また、生体移植片の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、シート状、膜状、塊状、柱状等の種々の形状で形成されていてもよい。また、生体移植片は、水分を含んだ状態で保持されていてもよく、通常、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の水分を含む。生体移植片は、水中又は少なくとも一部が水に接触した状態で保持されていてもよい。
【0045】
また、生体移植片は、単一の生体移植片であってもよいし、複数の生体移植片からなる移植片の集団であってもよい。この生体移植片の集団は、典型的には、例えば、同一ロット(工程)で製造された生体移植片の集団等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0046】
本発明の実施の形態に係る生体移植片移送器具10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。なお、ここでは、図3に示されるような培養容器28で培養されたシート状細胞培養物30を、生体移植片移送器具10を用いて患者32の患部34へと移送させる場合について説明する。
【0047】
先ず、図3に示されるように、シート状細胞培養物30の培養された培養容器28を準備した後、図示しない術者が生体移植片移送器具10を把持し、その先端12b側(矢印B方向)が下方、基端12a側(矢印A方向)が上方となるように所定角度傾斜させた状態で、前記先端12bを前記シート状細胞培養物30へと接近させる。この場合、支持体12及びベルト体14は、把持部16を境として基端12a側(矢印A方向)がより多く突出している状態にある。換言すれば、把持部16は、支持体12の長手方向に沿った中央部より先端12b側(矢印B方向)に配置されている状態にある。
【0048】
次に、支持体12の先端12bを、シート状細胞培養物30と培養容器28との間に挿入した後、術者が操作部18を把持部16及び前記シート状細胞培養物30側(矢印B方向)に向かって押し出すことにより、前記支持体12及びベルト体14が、把持部16に対してシート状細胞培養物30側(矢印B方向)へと徐々に突出していき、前記シート状細胞培養物30を培養容器28から剥離させながら徐々に該シート状細胞培養物30の下側へと挿入されていく。
【0049】
詳細には、操作部18をシート状細胞培養物30側(矢印B方向)に向かって押し出した際、支持体12の先端12bが徐々に把持部16から離間する方向(矢印B方向)へと変位(前進)し、該先端12bによって押圧されたベルト体14が、前記支持体12の先端12bを支点として該支持体12の裏面20b側から表面20a側へと徐々に転回していく。また、同時に、支持体12の基端12aが把持部16側(矢印B方向)へと移動し、それに伴って、ベルト体14が、前記基端12aを支点として該支持体12の表面20a側から裏面20b側へと徐々に転回していく。
【0050】
これにより、支持体12及びベルト体14が、把持部16に対して徐々に先端12b側(矢印B方向)へと移動していくことにより、生体移植片移送器具10における先端12bの位置が前進し、前記シート状細胞培養物30の下側に挿入されてベルト体14の外周面(保持面)に載置されていく(図4参照)。これにより、図4に示されるように、シート状細胞培養物30が、支持体12の表面20a側となるベルト体14の外周面に密着して保持された状態となる。
【0051】
この場合、シート状細胞培養物30は、培養容器28の底面に沿って平面状に載置されており、この平面状の形態を維持したままで該シート状細胞培養物30をベルト体14の外周面へと徐々に載せていき、該ベルト体14を介して支持体12に保持される。
【0052】
そして、シート状細胞培養物30が、図4に示されるように、完全に生体移植片移送器具10のベルト体14に載って保持されていることを確認した後、術者が、図5に示されるように、前記生体移植片移送器具10をシート状細胞培養物30と共に患者32の患部34近傍へと移動させる。そして、生体移植片移送器具10の先端12bが下方となるように再び所定角度傾斜させ、該先端12bを前記シート状細胞培養物30を移植すべき患部34近傍に配置する。詳細には、生体移植片移送器具10の先端12bを、患部34の表面に対して接触させるように配置する。
【0053】
次に、術者が、再び操作部18を把持し、把持部16から離間させる方向(矢印A方向)にゆっくりと変位させることにより、支持体12の基端12aが徐々に前記把持部16から離間する方向(矢印A方向)に変位し、該基端12aによって押圧されたベルト体14が、前記支持体12の基端12aを支点として該支持体12の裏面20b側から表面20a側へと徐々に転回していく。また、同時に、支持体12の先端12bが把持部16側(矢印A方向)へと移動し、それに伴って、ベルト体14が、前記先端12bを支点として該支持体12の表面20a側から裏面20b側へと徐々に転回していく。これにより、支持体12及びベルト体14が、把持部16に対して徐々に基端12a側(矢印A方向)へと離間していくことにより、生体移植片移送器具10における先端12bの位置が後退し、前記ベルト体14に保持されていたシート状細胞培養物30が徐々に患部34へと載置されていく。
【0054】
換言すれば、シート状細胞培養物30は、患部34に対する相対的な位置が変化することはなく、該シート状細胞培養物30を保持していた支持体12及びベルト体14が徐々に後退し、前記患部34との間からいなくなることによって取り残されて患部34に載置される。
【0055】
最後に、シート状細胞培養物30が、生体移植片移送器具10から完全に離脱して患部34に移植(貼付)されたことを確認した後、前記生体移植片移送器具10を患部34から離間させることにより、患者32の患部34に対するシート状細胞培養物30の移植が完了する。
【0056】
以上のように、本実施の形態では、生体移植片移送器具10を、プレート状の支持体12と、前記支持体12の長手方向に沿って巻回されたベルト体14と、前記ベルト体14の両端部が連結され、前記支持体12に沿って変位自在に設けられた把持部16とからなる構成で、シート状細胞培養物30を培養容器28から取り出すことができると共に、取り出した前記シート状細胞培養物30を患者32の患部34へと移植することが可能となる。その結果、生体移植片移送器具10の構造をこのように構成することによって製造コストの低減及び小型軽量化を図ることが可能となる。
【0057】
また、生体移植片移送器具10は、把持部16を把持し、支持体12を長手方向に沿って変位させるという簡単な操作で、シート状細胞培養物30を確実且つ安定的に移送することが可能であるため、平面状のシート状細胞培養物30の形態を変化させることなく移送することができ、しかも、シート状細胞培養物30の自己密着及び損傷等を好適に回避することができる。
【0058】
さらに、シート状細胞培養物30が、培養容器28において水分等によって浮遊している場合においても、生体移植片移送器具10を前記シート状細胞培養物30と培養容器28との間に挿入することによって前記水分等から好適に離脱させ、支持体12を変位させることによって確実に保持して移送することが可能である。
【0059】
また、生体移植片移送器具10を用いてシート状細胞培養物30を患者32の患部34へと移送する方法は、上述した方法に限定されるものではなく、例えば、図6、図7A及び図7Bに示されるように、薄膜状のフィルム(シート体)36をシート状細胞培養物30に積層させて行うようにしてもよい。
【0060】
この移送方法では、先ず、生体移植片移送器具10のベルト体14にシート状細胞培養物30が載って保持された状態で、術者が、前記シート状細胞培養物30の上方よりシート状のフィルム36を載置することによって、図6及び図7Aに示されるように、前記フィルム36とベルト体14との間に前記シート状細胞培養物30を挟んだ状態とする。換言すれば、ベルト体14の上部に、シート状細胞培養物30とフィルム36とを積層させる。なお、このフィルム36の枚数は、1枚若しくは2枚が最適である。
【0061】
これにより、シート状細胞培養物30は、水分等によってフィルム36に吸着されて密着した状態となり、前記シート状細胞培養物30が、前記フィルム36と一体となることによって該フィルム36の剛性が得られ一時的に強度が向上した状態となる。
【0062】
そして、図7Bに示されるように、生体移植片移送器具10の操作部18を操作し、支持体12の先端12bを後退させていくことにより、フィルム36と共にシート状細胞培養物30が徐々に患部34へと載置されていく。最後に、シート状細胞培養物30が生体移植片移送器具10から完全に離脱して患部34に移植(貼付)されたことを確認した後、該シート状細胞培養物30の上面からフィルム36を静かに取り外すことにより、患者32の患部34に対するシート状細胞培養物30の移植が完了する。
【0063】
このような移送方法を用いることにより、シート状細胞培養物30を、その上方に載置されたフィルム36と共にベルト体14から患部34へと移送することができるため、支持体12の先端12bにおける前記シート状細胞培養物30の巻き込みを防止することができると共に、前記シート状細胞培養物30に比べて剛性の高いフィルム36と共に該シート状細胞培養物30を患部34へと移送することができるため、該シート状細胞培養物30の損傷等が好適に回避され、確実且つ安定的に前記患部34へと移植することができる。
【0064】
さらに、他の移送方法としては、生体移植片移送器具10のベルト体14にシート状細胞培養物30を載せた状態で、術者が、前記生体移植片移送器具10の上下方向を反転させ、前記シート状細胞培養物30を患者32の患部34に対峙させた後、前記生体移植片移送器具10を前記患部34へと接近させ、前記シート状細胞培養物30を前記患部34に対して直接接触させる。そして、生体移植片移送器具10を介してシート状細胞培養物30を患部34に押し当てた後、前記生体移植片移送器具10を前記患部34から離間させる方向に水平に移動させる。これにより、シート状細胞培養物30が患部34に載置された状態で、該シート状細胞培養物30をベルト体14から離脱させることができるため、前記患部34に前記シート状細胞培養物30が移植された状態となる。
【0065】
これにより、術者が操作部18を操作することなく、シート状細胞培養物30を簡便且つ確実に患者32の患部34へと移植することが可能となる。
【0066】
また、上述した生体移植片移送器具10においては、支持体12が、略一定厚さで形成された略長方形状の板材から形成される場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、図8に示される第1変形例に係る生体移植片移送器具50のように、互いに等間隔離間して開口した複数の孔52を有する支持体54を用いるようにしてもよいし、図9に示される第2変形例に係る生体移植片移送器具56のように、長手方向(矢印A、B方向)に沿って延在し、互いに所定間隔離間した複数のスリット孔58を有した支持体60を用いるようにしてもよいし、さらには、図10に示される第3変形例に係る生体移植片移送器具62のように、基端64a側(矢印A方向)が断面円弧状に形成され、且つ、先端64bから前記基端64aに向かって徐々に厚さが大きくなるように設定された支持体66を用いるようにしてもよい。
【0067】
すなわち、支持体54、60、66は、その表面20a及び裏面20bを周回するように巻回されたベルト体14が、前記支持体54、60、66の変位作用下に円滑に回転(転回)可能な構成であれば、特にその形状には限定されるものではない。例えば、図8及び図9に示される支持体54、60のように、複数の孔52及びスリット孔58を設けることにより、ベルト体14が前記支持体54、60に沿って回転する際の抵抗を低減することができ、一方、図10に示される支持体66のように、その基端64aを断面円弧状とすることにより、ベルト体14が反転する際の抵抗を低減することが可能となるため、前記ベルト体14をより一層円滑に回転させることが可能となる。
【0068】
さらに、上述した生体移植片移送器具10では、その表面が平滑に形成されたベルト体14を用いる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、図11Aに示される第4変形例に係る生体移植片移送器具68のように、外周面に対して所定高さで突出した突起部70を有するベルト体72を用いるようにしてもよい。
【0069】
この突起部70は、例えば、ベルト体72の長手方向に沿って等間隔離間して複数設けられ、且つ、前記ベルト体72の幅方向における略中央部に設けられる。そして、突起部70が、支持体12の先端12bとなるように配置した状態で、該先端12bをシート状細胞培養物30の下側に挿入した後、操作部18を把持部16から離間させる方向(矢印A方向)へと移動させることにより、前記シート状細胞培養物30の下部に挿入された突起部70が上方に向かって立ち上がり、該シート状細胞培養物30が懸架又は刺入される。
【0070】
これにより、シート状細胞培養物30は、突起部70に刺入された状態で該シート状細胞培養物30の下側に挿入されてベルト体72の外周面に載置されていく。すなわち、シート状細胞培養物30を突起部70によって懸架又は刺入することにより、確実且つ安定的にベルト体72に載置して保持することが可能となる。
【0071】
また、図11Bに示される第5変形例に係る生体移植片移送器具74のように、外周面の一部に表面粗さを大きく設定した抵抗部76を設けたベルト体78を用いるようにしてもよいし、図11Cに示される第6変形例に係る生体移植片移送器具80のように、ベルト体84の外周面に、該ベルト体84の長手方向(矢印A、B方向)と直交方向に延在した複数の溝部82を設けるようにしてもよいし、図11Dに示される第7変形例に係る生体移植片移送器具86のように、ベルト体92の外周面に吸入孔88を設けるようにしてもよい。なお、吸入孔88は、ベルト体92の長手方向に沿って延在した通路90と連通している。
【0072】
すなわち、表面粗さの大きな抵抗部76や複数の溝部82を、シート状細胞培養物30の下部に挿入することにより、前記抵抗部76及び溝部82との接触抵抗の大ききを利用してベルト体78、84に前記シート状細胞培養物30を確実且つ安定的に接触させて保持することができ、一方、吸入孔88がシート状細胞培養物30の下部となるようにベルト体92を挿入し、該吸入孔88から水分等の液体を吸入する際の吸引力を利用してシート状細胞培養物30を吸着することにより、前記ベルト体92に対して確実且つ安定的に載置して保持することができる。
【0073】
一方、上述した生体移植片移送器具10においては、把持部16が、中央に孔部22を有した断面長方形状の筒状に形成される場合について説明したが、これに限定されるものではなく、前記把持部16の代わりに、例えば、図12に示される第8変形例に係る生体移植片移送器具100のように、上方に向かって所定高さを有したブロック状の把持部102を備えるようにしてもよいし、図13に示される第9変形例に係る生体移植片移送器具104のように、上方に向かって突出した軸状の把持部106を備えるようにしてもよい。このような把持部102、106を採用することにより、該把持部102、106を把持してシート状細胞培養物30の移送を行う際、その作業性を向上することが可能となる。
【0074】
また、図14、図15Aに示される第10変形例に係る生体移植片移送器具110のように、支持体112の先端112b近傍にベルト体114が挿通されるベルト挿通孔116を形成するようにしてもよい。このベルト挿通孔116は、支持体112の先端112bから所定距離だけ基端112a側(矢印A方向)となる位置に形成され、前記支持体112の幅方向に沿って一直線状且つ前記支持体112の幅寸法より小さく形成される。すなわち、ベルト挿通孔116の両端部は、支持体112の両側面から所定距離だけ内側となる位置に形成される。一方、ベルト体114は、ベルト挿通孔116の幅寸法と略同等若しくは若干だけ小さく設定される。
【0075】
そして、ベルト体114は、支持体112のベルト挿通孔116に挿通され、該ベルト挿通孔116と基端112aを覆うように巻回される。すなわち、ベルト体114が、支持体112の先端112bまで覆うことがなく、その基端112a側(手前側)に形成されたベルト挿通孔116に挿通されて前記支持体112を覆っている。
【0076】
この生体移植片移送器具110でシート状細胞培養物30の移送を行う際、操作部18を操作することによってベルト体114の表面に載置された前記シート状細胞培養物30が前記ベルト体114に密着した状態で該ベルト体114と共に支持体112の裏面20b側へと巻き込まれて移動してしまうことが防止される。
【0077】
換言すれば、操作部18を操作することによってベルト体114が徐々に後退する際、該ベルト体114は支持体112の先端112bまで到達せずに、その基端112a側に開口したベルト挿通孔116で転回するため、シート状細胞培養物30のみが前記先端112bまで移動することとなり、該先端112bを介して患者32の患部34へと好適に移植される。
【0078】
また、ベルト体114が、支持体112の先端112bまで巻回されず、しかも、前記ベルト体114の挿通されるベルト挿通孔116が、支持体112の長手方向(矢印A、B方向)に幅狭状に形成されているため、該ベルト挿通孔116を通じてシート状細胞培養物30が支持体112の裏面20b側へと移動してしまうことの確実に防止される。
【0079】
なお、図15Bに示される生体移植片移送器具120のように、支持体122の先端122bを、下方にオフセットさせて形成し、該先端122bから所定距離だけ基端側(矢印A方向)となる位置にベルト挿通孔124を形成するようにしてもよい。すなわち、支持体122は、その先端122bが段付状に形成される。
【0080】
上述したような支持体122を用いてシート状細胞培養物30の移送を行うことにより、ベルト体114及び支持体122の後退によってシート状細胞培養物30が下方にオフセットした先端122bに沿って下方へと移動し、該先端122bから離間して患者32の患部34へと好適に載置することができる。この際、シート状細胞培養物30は、段付状に形成された支持体122の先端122bへと移動することにより、ベルト体114から確実に離脱することとなるため、前記シート状細胞培養物30を前記ベルト体114に対してより一層確実に離脱させ、患者32の患部34へと好適に移植することが可能となる。
【0081】
また、図16及び図17に示される第11変形例に係る生体移植片移送器具130のように、支持体132の基端12aに箱状(立体形状)の操作部134を設けるようにしてもよい。この操作部134は、断面長方形状で中空状に形成され、その中央部に支持体132の基端12aが挿通され、該基端12aの両側面と前記操作部134の内壁面とが接合されている。すなわち、操作部134は、支持体132の基端12aに対して一体的に設けられている。また、操作部134は、その上面及び下面が略水平方向に延在する平面状にそれぞれ形成される。
【0082】
そして、生体移植片移送器具130でシート状細胞培養物30の移送を行う際、術者が、把持部16を把持した状態で、操作部134を前記把持部16に対して接近・離間させる方向(矢印B、A方向)へと変位させることにより、前記操作部134に接合された支持体132を一体的に変位させることができる。そのため、術者の把持する上面及び下面が平面状に形成され、且つ、前記支持体132の幅方向に所定幅を有した操作部134を把持して安定した操作を行うことが可能となる。すなわち、生体移植片移送器具130の操作性を向上させることができる。
【0083】
また、操作部134に対して把持部(本体部)16を進退動作させるようにしてもよい。換言すれば、前記操作部134の位置を変えずに把持部16の位置を進退動作させることにより、手元の操作部134から支持体(変位体)132の先端部12bまでの距離を変化させずに、シート状細胞培養物30をベルト体14に載置したり、前記ベルト体14から移送することができる。
【0084】
また、図18に示される第12変形例に係る生体移植片移送器具140のように、支持体142を中空状のフレーム144から構成するようにしてもよい。このフレーム144は、略長方形状に形成され、支持体142の先端を構成する先端フレーム146と、前記支持体142の基端を構成する基端フレーム148と、前記先端フレーム146と基端フレーム148の端部をそれぞれ接続する一対のサイドフレーム150a、150bとからなり、前記先端フレーム146と基端フレーム148との間にベルト体14が巻回される。
【0085】
このように支持体142を、その外縁部に設けられた、先端フレーム146、基端フレーム148及びサイドフレーム150a、150bの4本のフレーム144から構成することにより、生体移植片移送器具140でシート状細胞培養物30の移送を行う際、ベルト体14に付着した水分等によって該ベルト体14が支持体142の表面及び裏面に対して付着してしまうことを確実に回避することができる。そのため、支持体142及びベルト体14に対して水分等が付着した場合でも、前記支持体142に対して前記ベルト体14が吸着されて密着してしまうことがなく、該ベルト体14の内周面が、前記支持体142の先端フレーム146及び基端フレーム148のみに接触した状態で円滑に回転させシート状細胞培養物30の移送を行うことができる。
【0086】
また、図19、図20A及び図20Bに示される第13変形例に係る生体移植片移送器具160のように、把持部16に設けられた回転ローラ(回転体)162と、支持体12に設けられ前記回転ローラ162に噛合されるラック部164とを含む進退機構166を備えるようにしてもよい。この進退機構166は、例えば、把持部16における幅方向中央に、回転ローラ162が軸部168を介して回転自在に支持される。この回転ローラ162には、略中央部に形成された軸部168と同軸上にギア部(第1歯部)170が形成され、前記ギア部170のギア172がラック部164の歯部(第2歯部)174に対して噛合される。また、回転ローラ162は、把持部16の上面に開口した開口部を介してその一部が外部へと露呈している。
【0087】
ラック部164は、支持体12の表面20aに設けられ、該支持体12の長手方向(矢印A、B方向)に沿って一直線状に延在し、回転ローラ162のギア部170に臨む上面には、複数の歯部174が前記長手方向に沿って刻設されている。
【0088】
そして、生体移植片移送器具160でシート状細胞培養物30の移送を行う際、術者が、把持部16の外部に露呈した回転ローラ162を所定方向に回転させることにより、該回転ローラ162のギア部170に噛合されたラック部164が支持体12の長手方向(矢印A、B方向)に沿って進退動作する。すなわち、回転ローラ162の回転動作が、ラック部164を介して支持体12の長手方向に沿った直線変位へと変換される。
【0089】
そのため、操作部を操作することなく、進退機構166の回転ローラ162を回転させるという簡便な作業で、支持体12の先端12bを前進又は後退させてベルト体14を介してシート状細胞培養物30を移送することができる。
【0090】
なお、本発明に係る生体移植片移送器具及び生体移植片の移送方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0091】
10、50、56、62、68、74、80、86、100、104、110、120、130、140、160…生体移植片移送器具
12、54、60、66、112、122、132…支持体
12a、16a、64a…基端 12b、16b、64b…先端
14、72、78、84、92、114…ベルト体
16、102、106…把持部 18、134…操作部
20a…表面 20b…裏面
22…孔部 28…培養容器
30…シート状細胞培養物 32…患者
34…患部 36…フィルム
116、124…ベルト挿通孔 144…フレーム
162…回転ローラ 164…ラック部
166…進退機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体移植片を移送するための生体移植片移送器具において、
本体部と、
前記本体部に対して変位自在に設けられる変位体と、
前記変位体の先端及び基端を覆うように巻回され、前記本体部に接続されるベルト体と、
を備え、
前記変位体の先端側において、前記生体移植片が前記ベルト体に載置されることを特徴とする生体移植片移送器具。
【請求項2】
請求項1記載の生体移植片移送器具において、
前記変位体の基端には、前記本体部に対して前記変位体を変位させる際に用いる操作部が設けられることを特徴とする生体移植片移送器具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の生体移植片移送器具において、
前記ベルト体は、前記生体移植片を保持する保持面が親水性を有した材質で形成されることを特徴とする生体移植片移送器具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体移植片移送器具において、
前記ベルト体には、前記保持面に対して突出し、前記生体移植片を懸架又は刺入可能な突起部が設けられることを特徴とする生体移植片移送器具。
【請求項5】
請求項2記載の生体移植片移送器具において、
前記操作部は、前記変位体の基端が内部に挿通されて連結される立体形状に形成されることを特徴とする生体移植片移送器具。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体移植片移送器具において、
前記変位体は、前記先端、前記基端及び前記先端と基端とを接続する一組のフレームとから中空状に形成されることを特徴とする生体移植片移送器具。
【請求項7】
生体移植片移送器具を用いて生体移植片を目的部位へと移送するための生体移植片の移送方法であって、
前記生体移植片移送器具のベルト体が巻回された先端を前記生体移植片近傍に配置する工程と、
前記ベルト体を、該ベルト体の内部に変位自在に設けられた変位体を介して進退動作させ、前記生体移植片の載置された表面から離脱させて、前記ベルト体上に前記生体移植片を載置する工程と、
前記生体移植片を目的部位へ移送する工程と、
を有することを特徴とする生体移植片の移送方法。
【請求項8】
請求項7記載の移送方法であって、
前記生体移植片の上に薄膜状のシート体を積層させる工程と、
前記ベルト体を、該ベルト体の内部に変位自在に設けられた変位体を介して進退動作させ、前記生体移植片を前記シート体と共に前記ベルト体から離脱させて目的部位へ移送する工程と、
を有することを特徴とする生体移植片の移送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−30045(P2012−30045A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98992(P2011−98992)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】