説明

生体組織切片を用いるテロメラーゼ活性の測定方法

【課題】 生体組織切片を用いて、テロメラーゼ活性を精度よく測定することができる方法を提供すること。
【解決手段】 以下の工程を含む、生体組織切片を用いるテロメラーゼ活性の測定方法:(a)測定対象となる生体組織を摘出し、未固定の凍結組織切片を作成する工程、(b) 前記組織切片にテロメア延長用オリゴDNAプライマー溶液を添加し、組織内のテロメラーゼ活性によってテロメアを延長させる工程、(c)前記組織切片を固定剤で固定する工程、(d)延長されたテロメア部分をPCRにより増幅し、得られた増幅産物を顕微鏡観察する工程、ならびに該方法に用いるテロメラーゼ活性測定用キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織切片を用いるテロメラーゼ活性の測定方法、および該方法に用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
テロメアは染色体の末端部位の構造をいい、DNAレベルではテロメア3’末端は一本鎖で、同一生物種内では共通構造をしていると推定されている。この3’末端の一本鎖部分は短い塩基配列を単位とする反復配列(ヒトでは5'-TTAGGG-3')により構成されている。DNAを鋳型とするDNAポリメラーゼは直鎖状染色体の5'末端を複製することができず、ウイルスから高等生物まで直鎖状DNAを染色体に持つ生物はいくつかの方法でこの点を克服している。真核生物のテロメラーゼによるテロメアの合成もその一つである。テロメラーゼは1985年にBlackburnらにより原生動物テトラヒメナにおいて発見された酵素で、真核生物の染色体DNAの末端部分(テロメア)の3'末端を特異的に延長する作用を有する。テロメラーゼは、RNA鎖と複数のタンパク質(酵素サブユニット、テロメラーゼ逆転写酵素など)からなる複合体で、このRNA鎖にはテロメアの反復配列と相補的な配列が含まれており、この部分が鋳型となって3'末端が延長され、染色体の短縮が回避されている。
【0003】
テロメアはまた生体内における細胞分裂寿命を決定する重要な因子のひとつであり、テロメア短縮は生体内における細胞分裂停止、細胞機能低下等の細胞老化を引き起こすと考えられている。一方、殆どの癌細胞ではテロメラーゼ活性が上昇することによりテロメアが短縮せず、無限に細胞分裂が起こり、不死化状態にあると考えられている(非特許文献1)。こうしたことから、生体におけるテロメラーゼ活性の検出によって癌診断を行うことができ、また、テロメラーゼ活性阻害物質は癌治療薬となりうる。
【0004】
これまでテロメラーゼ活性の測定方法としては、TRAP(Telemetric Repeat Ampfilication Protocol)法が知られている。TRAP法は、試料中のテロメラーゼ活性により基質の3’末端側にテロメア反復配列(5'-TTAGGG-3')を付加、延長させた後、その産物をPCRによって増幅して検出する方法である。しかしながら、従来のTRAP法では測定に用いる試料が細胞や組織の抽出物であるため、測定されるテロメラーゼ活性は、その細胞や組織全体の平均値にすぎず、また細胞や組織におけるテロメラーゼ存在場所が明確に特定できない。
【0005】
【非特許文献1】Kim, N. W. et al., Specific association of human telomerase activity with immortal cells and cancer., Science 266, 2011-2015. (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、従来のTRAP法のように測定試料を生体組織から抽出することなく、生体組織切片自体を用いて、テロメラーゼ活性を精度よく測定することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、基質プライマー溶液組成を改変することにより、組織切片上において内因性テロメラーゼによるテロメア反復配列の付加・延長を可能にし、また、延長反応後に該組織切片を固定化することによって延長されたテロメア部分をPCRにて増幅・検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)以下の工程を含む、生体組織切片を用いるテロメラーゼ活性の測定方法。
(a)測定対象となる生体組織を摘出し、未固定の凍結組織切片を作成する工程
(b) 前記組織切片にテロメア延長用オリゴDNAプライマー溶液を添加し、該組織内のテロメラーゼ活性によってテロメアを延長させる工程
(c)前記組織切片を固定剤で固定する工程
(d)延長されたテロメア部分をPCRにより増幅し、得られた増幅産物を顕微鏡観察する工程
【0009】
(2)テロメア延長用オリゴDNAプライマー溶液と、テロメア延長部分のPCR用プライマーセットとを別個に独立して含む、生体組織切片を用いるテロメラーゼ活性の測定用キット。
【0010】
(3)以下の工程を含む、テロメラーゼ阻害剤のスクリーニング方法。
(a)被験物質を動物に投与し、該動物から生体組織を摘出し、未固定の凍結組織切片を作成する工程
(b) 前記組織切片にテロメア延長用オリゴDNAプライマー溶液を添加し、該組織内のテロメラーゼ活性によってテロメアを延長させる工程
(c)前記組織切片を固定剤で固定する工程
(d)延長されたテロメア部分をPCRにより増幅し、得られた増幅産物を顕微鏡観察してテロメアの延長が抑制されるか否かを判定する工程
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法は、従来のTRAP法のように測定試料として組織や細胞の抽出物を用いることなく、生体組織切片を用いてテロメラーゼ活性の測定を行うことができる。従って、in situでテロメアの動態、例えば、組織のどの部分でテロメアの延長が起こっているかの情報を簡便かつ正確に得ることができる。
【0012】
また、本発明の方法によれば、テロメラーゼの有無の検出を生体組織の種類を問わず、従来のTRAP法では検出できない程度の微弱なテロメラーゼの発現であっても精度よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
1.生体組織切片を用いるテロメラーゼ活性の測定方法
本発明において、テロメラーゼとはテロメア配列の繰返し配列を延長させる機能を有するRNA依存性DNAポリメラーゼをいう。テロメラーゼは、ヒトを含む哺乳類動物などの多細胞真核生物、あるいは酵母や原生動物などの単細胞真核生物由来のものが知られており、本発明の方法の測定対象は、その由来を問わない。
【0014】
本発明の生体組織切片を用いてテロメラーゼ活性を測定する方法(以下、本明細書において「in situ TRAP法」ともいう)は、以下の工程を含む。
(a)測定対象となる生体組織を摘出し、未固定の凍結組織切片を作成する工程
(b) 前記組織切片にテロメア延長用オリゴDNAプライマー溶液を添加し、組織内のテロメラーゼ活性によってテロメアを延長させる工程
(c)前記組織切片を固定剤で固定する工程
(d)延長されたテロメア部分をPCRにより増幅し、得られた増幅産物を顕微鏡観察する工程
以下、本発明の方法を工程ごとに具体的に説明する。
【0015】
まず、工程(a)では、測定対象となる生体組織を摘出し、未固定の凍結組織切片を作成する。
【0016】
生体組織は、器官の由来を問わず、任意に選択することができる。例えば、脳神経系、筋肉・骨格系、消化器系、呼吸器系、造血系、リンパ系などの器官由来の組織が挙げられる。また、生体組織は、ヒト、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ブタ等の哺乳動物由来のいずれでもよく、テロメラーゼ活性陽性であれば特に限定されない。
【0017】
さらに、上記組織は正常のものに限定されず、腫瘍組織、肝硬変などの肝疾患組織などの病変組織を使用することができる。
【0018】
生体組織の摘出、凍結組織切片の作成は常法により行うことができる。例えば、摘出した組織を生理食塩水などで洗浄後、OCT compound内に包埋し、ドライアイス・イソペンタン中に入れて凍結させた後、クリオスタットを用いてスライスし、スライドグラスに貼り付け、用時まで冷凍保存する。ここで、スライドガラス、器具等はRnaseフリーのものを使用する。
【0019】
工程(b)では、前記組織切片にテロメア延長用オリゴDNAプライマー溶液を添加し、組織内の内在性テロメラーゼ活性によってテロメア配列TTAGGGの繰り返し配列からなるDNA配列を前記テロメア延長用オリゴDNAプライマーの3’末端に延長させてテロメラーゼ反応延長産物を調製する。
【0020】
ここで、テロメア延長用オリゴDNAプライマーとしては、上記テロメア延長反応が起こるものればあればいかなるものでもよく、好ましくは、公知のTSプライマー:5'-AAT CCG TCG AGC AGA GTT-3'(配列番号1)を用いることができるが、これに限定はされない。該プライマーは、通常のホスホアミダイト法等により市販のDNA合成機を用いて合成することができる。
【0021】
上記のテロメア延長反応は、工程(a)で調製した組織切片に対して、テロメア延長用オリゴDNAプライマー溶液を加え、24℃〜37℃、20〜30分間程度保持することによって行う。
【0022】
テロメア延長用オリゴDNAプライマーの溶液組成は、前記テロメア延長用オリゴDNAプライマーを含み、かつ組織切片上でのテロメラーゼ反応が可能であるものあればいかなるものでもよいが、たとえば、細胞核の破壊を防ぐためにMg2+イオンを含む緩衝液が好ましく、タンパク変性防止剤を含むことが好ましい。タンパク変性防止剤としては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)などが挙げられるが、これらに限定はされない。また、細胞抽出操作を行う必要がないので、Triton X-100、CHAPS、NP-40などの界面活性剤は含めない。
【0023】
工程(c)では、テロメラーゼ反応後の組織切片を固定剤にて固定化する。固定化することによって、テロメラーゼ反応延長産物を組織切片上に安定に保持することができる。固定剤としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒドなどを用いることができ、固定化は3〜5分間程度行う。固定後の組織切片はPCRに供する前に、例えば0.01M PBSで洗浄し、エタノールで脱水して風乾する。
【0024】
最後に、工程(d)では、延長されたテロメア部分をPCRにより増幅し、得られた増幅産物を顕微鏡観察する。
【0025】
PCRによる増幅におけるセンス・プライマーとしては、前記のテロメア延長用オリゴDNAプライマーを用いる。一方、アンチセンス・プライマーとしては、前記テロメア延長用オリゴDNAプライマーとはアニールせず、テロメラーゼにより産生したテロメア配列TTAGGGの繰返し配列にアニールするDNA配列、すなわちテロメア配列の相補配列CCCTAAの繰返し配列からなるDNA配列を有するものを用いればよい。かかるプライマーとして、好ましくは、公知のCXプライマー:5'-CCC TTA CCC TTA CCC TTA CCC TTA-3'(配列番号2)を用いることができるが、これに限定はされない。該プライマーは、通常のホスホアミダイト法等により市販のDNA合成機を用いて合成することができる。
【0026】
PCRによる増幅は、上記テロメラーゼ反応延長産物、上記センス・プライマー及びアンチセンス・プライマーを用いて通常の方法で行えばよい。例えば、PCR反応条件としては、94℃30秒、60℃、30秒を1サイクルとして12〜15サイクル程度行うことが例示される。
【0027】
PCRにおいて基質として加えるデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dTTP、dATP、dGTP、dCTP:以下dNTPと総称)に顕微鏡にて観察可能な標識物質を付す。標識物質としては、蛍光色素(フルオレッセン、シアニンなど)、酵素(アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼなど)、重金属(金粒子など)等が挙げられる。標識物質の検出は、具体的には、ジゴキシゲニン、チミンダイマー、スルホン化DNA等の修飾塩基などをハプテンとして免疫学的に検出する方法、ビオチンとストレプトアビジンの特異的な結合反応を用いて検出する方法により行うことができる。また、標識物質による標識は通常の方法により行うことができる。
【0028】
顕微鏡観察は、標識物質の種類により、蛍光色素の場合は蛍光顕微鏡、レーザー顕微鏡;酵素の場合は光学顕微鏡(明視野透過光観察)、重金属の場合は電子顕微鏡(透過型、走査型)、光学顕微鏡(暗視野透過光観察)により行うことができる。
【0029】
2.生体組織切片を用いるテロメラーゼ活性測定用キット
本発明のキットは、本発明の測定方法に使用される試薬として、少なくともテロメア延長用オリゴDNAプライマー溶液と、テロメア延長部分のPCR用プライマーセットをそれぞれ別個に独立して含む。
【0030】
本発明のキットには、上記成分のほか、緩衝液、洗浄液、dNTPmix、コントロール(陽性、陰性)、指示書などを含めることもできる。
【0031】
3.本発明のテロメラーゼ活性測定方法の利用
本発明のテロメラーゼ活性測定方法により、被検試料である生体組織に含まれるテロメラーゼの活性を精度よく簡便に測定することができる。
【0032】
組織中のテロメラーゼ活性は、癌化の程度を示す指標となるので、本発明の方法は、癌の早期診断や予後判定に用いることができる。組織中のテロメラーゼ活性はまた、細胞周期、細胞の老化、癌化などに関連するので、本発明の方法は、これらの生命現象の解析に用いることができる。
【0033】
本発明の方法は、テロメラーゼ阻害剤のスクリーニング手段としても用いることができる。
【0034】
例えば、被験物質を動物に投与し、該動物から摘出した生体組織を用いて上記の方法によりテロメラーゼ活性を測定し、該被験物質がテロメアの延長を抑制するかどうかを判定する。ここで、動物には、マウス、ラット、ウサギなどを用いることができる。
【0035】
また、生体組織としては、テロメラーゼが活発に働いていることが知られる組織、例えば、癌組織、生殖系組織、造血系組織などを用いることが好ましい。
【0036】
被験物質の存在する場合に、テロメアの延長が阻害された場合は、その被験物質はテロメラーゼ阻害剤の候補とすることができる。
スクリーニングされたテロメラーゼ阻害剤は、例えば、癌治療薬の候補となりうる。
【0037】
また本発明においてスクリーニングされたテロメラーゼ阻害剤は、細胞内に投与された後に代謝されてテロメラーゼ阻害活性を発現するものでもよく、所謂プロドラックをも含む。
【0038】
本発明のスクリーニング方法の対象となる被験物質の種類は特に限定されない。例えば、天然に生じる分子(例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、核酸など);脂質、ステロイド、グリコペプチド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど;あるいは天然に生じる分子の合成アナログ又は誘導体(例えば、ペプチド擬態物など);及び天然に生じない分子(例えば、コンビナトリアルケミストリー技術等を用いて作成した低分子有機化合物);ならびにそれらの混合物などを挙げることができる。また、被験物質としては単一の被験物質を独立に試験しても、いくつかの候補となる被験物質の混合物(ライブラリーなどを含む)について試験をしてもよい。複数の被験物質を含むライブラリーとしては、合成化合物ライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)、ペプチドライブラリー(コンビナトリアルライブラリーなど)などが挙げられる。
【0039】
被験物質の投与量や濃度は適宜設定することができるが、例えば、希釈系列を作成するなどして複数の投与量を設定してもよい。被験物質の投与期間も適宜設定することができるが、例えば、1日から数週間までの期間に渡って投与することができる。動物に被験物質を投与する場合の投与経路は特に限定されず、被験物質の種類に応じて経口投与、静脈注射、腹腔内注射、経皮投与、皮下注射等の投与形態を適宜使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
(実施例1)in situ TRAP法
新鮮な成熟(8週齢)マウス精巣をOCT(Optimal Cutting Temperature;最適切削温度)化合物内に包埋し、直ちに液体窒素中へ移して凍結させた。その後、OCTに包埋された凍結組織を、4〜5μmの厚さにスライスし、数十分乾燥させた。得られた切片をA液(20 mM Tris-HCl (pH 8.3)、1.5 mM MgCl2、63 mM KCl、1 mM EGTA、50 mM デオキシヌクレオシド酸リン酸(dNTP)、0.1% ウシ血清アルブミン、および TS-プライマー:5'-AAT CCG TCG AGC AGA GTT-3'を含むテロメラーゼ反応バッファー)100μl中で37℃にて20分間インキュベートした。インキュベーション後、切片を中性に緩衝化させた10%ホルマリン液中で1分間固定化し、0.01M PBSで20秒間3回洗浄し、エタノールで脱水後、風乾した。
【0041】
次に、切片をB液(ジゴキシゲニン-11-dUTP を含むdNTP MIX、Takara Ex taq、TS-プライマー:5'-AAT CCG TCG AGC AGA GTT-3'、およびCX-プライマー:5'-CCC TTA CCC TTA CCC TTA CCC TTA-3'を含むTAKARA Exバッファー)とともに密封し、In situ PCRを行った。In situ PCR は TaKaRa PCR Thermal Cycler MP とin situ PCR (TaKaRa, Japan)用のTaKaRa Slide Sealを用い、94oC 30秒、 60oC 30 秒を1サイクルとする15サイクルの反応条件で行った。
【0042】
PCR後、切片を0.01M PBSで洗浄し、抗-ジゴキシゲニン-POD抗体(Roche Diagnostics, USA)で標識し、シグナルを0.05% DAB(3, 3'-diaminobenzidine tetrahydrochloride)の 0.01M PBS溶液と 0.01% H2O2にて可視化した。また、同切片の核をヘマトキシリンで対比染色した。
【0043】
図1に、成熟マウス精巣を用い、上記方法によってテロメア動態の解析を行った結果を示す。テロメア延長の陽性シグナルが茶色のシグナルとして観察された(図1、左のパネル)。また摘出した組織切片をRNaseで処理、または85℃で熱処理した後に同様にして上記の方法を実施した場合、いずれもテロメア延長が認められなかった(図1中央のパネル:RNaseで処理、右のパネル:熱処理)。
【0044】
図2に、成熟マウス精巣を用い、上記方法によって精子形成の異なるステージ(マウスではステージI〜XIIが存在する)におけるテロメア動態の解析を行った結果を示す。精細管の横断面には、外側から精祖細胞、精母細胞、精子細胞という分化が順に進んでいく数種の精細胞が観察され、これらの精細胞がステージによってパターンの異なる上皮構造(精上皮)を呈している。ステージIでは、パテキン期の精母細胞とステップ1の丸い精子細胞、ステップ13の細長い精子細胞が観察された。ステージXでは、精祖細胞、一部の精母細胞に弱いシグナルが認められ、ステップ10の伸長過程にある精子細胞に強いシグナルが認められた。なお、ステップ13以降の精子細胞ではシグナルが消失した。
【0045】
これより、減数分裂後の半数細胞においてテロメア延長がゲノム複製なしに起こることが示された。
【0046】
(実施例2)免疫組織化学染色
新鮮な成熟(8週齢)マウス精巣をメタカン固定剤(100%メタノール60ml、クロロホルム30ml、氷酢酸10mlの混合液)で固定し、パラフィンに包埋し、4〜5μmの厚さにスライスした。
【0047】
得られた切片を脱パラフィン化し、anti-TERT(telomerase reverse transcriptase)モノクローナル抗体(Abacam製)とインキュベートした。免疫反応物はAlexa FluorTM 488-標識ストレプトアビジンまたはAlexa FluorTM 488-標識二次抗体にて可視化した。また、同切片の核をヨウ化プロピジウム(PI;(Molecular Probes, USA)で染色した。染色像は LSM-510 共焦点レーザー顕微鏡 (Carl Zeiss, Germany)によって得、LSM-510 付属のソフトフトウェアで解析した。
【0048】
図3に、ステージXにおける精細管の免疫組織化学染色による分析結果を示す(A:抗-TERT抗体による免疫染色像、B:PI-核染色像、C:Merged image)。
【0049】
テロメラーゼ存在部分を示す陽性シグナルが緑色のシグナルとして観察され(図3A)、in situ TRAP法の結果とほぼ一致した。
【0050】
(実施例3)FISH分析
新鮮な成熟(8週齢)マウス精巣をメタカン固定剤(100%メタノール60ml、クロロホルム30ml、氷酢酸10mlの混合液)で固定し、パラフィンに包埋し、10-12μmの厚さにスライスした。
【0051】
得られた切片を脱パラフィンし、NP40 とTriton X-100 を含む前処理用クエン酸バッファーと90oCでインキュベートした。洗浄後、切片を70% ホルムアミド/2XSSCで100℃にて変性し、冷エタノール中で3分間脱水し、ローダミン標識テロメラーゼプローブ(TTAGGG)3と37℃にて12時間インキュベートした後、42℃にて0.01XSSC で洗浄した。また、同切片の核をSYTE-Green (Molecular Probes, USA)にて対比染色した。
【0052】
図4に、ステージIにおける精細管のFISH分析結果を示す(A:SYTE-Green-核染色像、B:FISH像、C:Merged image)。
【0053】
テロメアを示す陽性シグナルが赤色のシグナルとして観察された(図4B)。また、ステージIにおけるステップ13の精子細胞のテロメア長が大きくなっていることが確認できた。これは、in situ TRAPによるテロメラーゼ活性の結果に対応したものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の方法により、成熟マウス精巣組織切片を用いてテロメア動態の解析を行った光学顕微鏡写真を示す(左:処理なし、中央:RNase処理、右:85℃で熱処理)。
【図2】本発明の方法により、成熟マウス精巣組織切片を用いて精子形成の異なるステージにおけるテロメア動態の解析を行った光学顕微鏡写真を示す。
【図3】ステージXにおける精細管の免疫組織化学染色による分析結果を示す(A:抗-TERT抗体による免疫染色像、B:PI-核染色像、C:Merged image)。
【図4】ステージIにおける精細管のFISH分析結果を示す(A:SYTE-Green-核染色像、B:FISH像、C:Merged image)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、生体組織切片を用いるテロメラーゼ活性の測定方法。
(a)測定対象となる生体組織を摘出し、未固定の凍結組織切片を作成する工程
(b) 前記組織切片にテロメア延長用オリゴDNAプライマー溶液を添加し、該組織内のテロメラーゼ活性によってテロメアを延長させる工程
(c)前記組織切片を固定剤で固定化する工程
(d)延長されたテロメア部分をPCRにより増幅し、得られた増幅産物を顕微鏡観察する工程
【請求項2】
テロメア延長用オリゴDNAプライマー溶液と、テロメア延長部分のPCR用プライマーセットとを別個に独立して含む、生体組織切片を用いるテロメラーゼ活性の測定用キット。
【請求項3】
以下の工程を含む、テロメラーゼ阻害剤のスクリーニング方法。
(a)被験物質を動物に投与し、該動物から生体組織を摘出し、未固定の凍結組織切片を作成する工程
(b) 前記組織切片にテロメア延長用オリゴDNAプライマー溶液を添加し、該組織内のテロメラーゼ活性によってテロメアを延長させる工程
(c)前記組織切片を固定剤で固定する工程
(d)延長されたテロメア部分をPCRにより増幅し、得られた増幅産物を顕微鏡観察してテロメアの延長が抑制されるか否かを判定する工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−6169(P2006−6169A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186530(P2004−186530)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】