生体組織用刺激回路
【課題】 双極性パルスの刺激条件の設定範囲を広くでき、より好適に電気刺激を行うことのできる生体組織用刺激回路を提供する。
【解決手段】 生体組織用刺激回路は、電源側に接続される第1半導体スイッチと接地側に接続される第3半導体スイッチを直列接続してなる第1直列部と,電源側に接続される第2半導体スイッチと接地側に接続される第4半導体スイッチを直列接続してなる第2直列部とが並列接続されてなるHブリッジ回路と、第1直列部の第1半導体スイッチと第3半導体スイッチとの間の第1接続点に接続される刺激電極と、第2直列部の第2半導体スイッチと第4半導体スイッチとの間の第2接続点に接続される対向電極と、接続点における電位を調節するための電位補償回路とを備える。
【解決手段】 生体組織用刺激回路は、電源側に接続される第1半導体スイッチと接地側に接続される第3半導体スイッチを直列接続してなる第1直列部と,電源側に接続される第2半導体スイッチと接地側に接続される第4半導体スイッチを直列接続してなる第2直列部とが並列接続されてなるHブリッジ回路と、第1直列部の第1半導体スイッチと第3半導体スイッチとの間の第1接続点に接続される刺激電極と、第2直列部の第2半導体スイッチと第4半導体スイッチとの間の第2接続点に接続される対向電極と、接続点における電位を調節するための電位補償回路とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の一部に電気刺激を与えるための生体組織用刺激回路に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の耳小骨へ音の振動を伝達するための人工中耳、患者の胸部に埋植されて心臓に電気刺激を与えることで不整脈の発生を抑制する心臓ペースメーカ等、刺激電極(以下、電極)を体内に埋植し、生体組織の一部を電気刺激することで生体の機能を調節する電気刺激装置の研究がされている。また、近年このような電気刺激装置として、電極から電気刺激パルス信号(電荷)を出力して網膜を構成する細胞を電気刺激することにより、視覚の再生を試みる視覚再生補助装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような電気刺激装置を用いた生体組織の電気刺激では、電極から所定量の電荷が注入されることで細胞に必要な刺激が与えられる。この時、電極から出力される1刺激分の電気刺激パルス信号は、複数の半導体スイッチによる切換によって正負方向にそれぞれ振幅を持つ双極性のパルスとされる。このような双極性パルスが用いられることで、電気刺激される部位での電荷の偏りが低減されてバランスを保つことができ、好適に電気刺激がされるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010‐187747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術の生体組織用刺激回路では、双極性パルスの刺激条件によっては、双極性パルスの極性を切換えたときに、半導体スイッチの寄生PN接合が順バイアスされることで、不要な電流が流れ、正負の電荷のバランスが崩れてしまうことで、電荷に偏りが生じる場合があることが分かった。この場合、余った電荷が生体内に残ることで、患者の生体組織に悪影響が生じることが懸念される。そのため、従来の電気刺激装置で用いられる双極性パルス信号は、オフとされるべき半導体スイッチの寄生PN接合が順バイアスされずに、正負の電荷バランスを保つことができる刺激条件に制限されなければならなかった。
【0006】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、双極性パルスの刺激条件の設定範囲を広くする事ができ、より好適に電気刺激を行うことのできる生体組織用刺激回路を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
(1) 電源側に接続される第1半導体スイッチと接地側に接続される第3半導体スイッチを直列接続してなる第1直列部と,電源側に接続される第2半導体スイッチと接地側に接続される第4半導体スイッチを直列接続してなる第2直列部とが並列接続されてなるHブリッジ回路と、前記第1直列部の第1半導体スイッチと第3半導体スイッチとの間の第1接続点に接続される刺激電極と、前記第2直列部の第2半導体スイッチと第4半導体スイッチとの間の第2接続点に接続される対向電極と、前記接続点における電位を調節するための電位補償回路と、を備えることを特徴とする。
(2) (1)の生体組織用刺激回路において、前記電位補償回路はオフとされた前記半導体スイッチの寄生PN接合が順バイアスにされない電圧範囲内となるように前記第1接続点又は前記第2接続点における電位を調節することを特徴とする。
(3) (2)の生体組織用刺激回路において、前記電位補償回路は前記第1接続点,及び第2接続点の少なくとも一方の電位を検出する検出回路を有することを特徴とする。
(4) (3)の生体組織用刺激回路において、前記検出回路が前記第1接続点及び第2接続点の両方に接続されている場合には、前記検出回路は、前記第1接続点及び第2接続点の平均電位もしくは前記第1接続点及び第2接続点のうち高い方又は低い方の電位を検出することを特徴とする。
(5) (1)の生体組織用刺激回路において、前記電位補償回路は、ブートストラップ回路であることを特徴とする。
(6) (5)の生体組織用刺激回路の前記電位補償回路は、前記電源側に接続される整流回路と、該整流回路に接続されると共に前記電源側の第1半導体スイッチ又は第2半導体スイッチに接続されて双極性パルスの一方向の電位で充電されるコンデンサと、からなり、前記双極性パルスの極性の反転により前記コンデンサの充電電位が前記電源の電位よりも高くなることで、前記第1接続点及び前記第2接続点の電位によって前記第1半導体スイッチ又は前記第2半導体スイッチが順バイアスされることが抑えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、双極性パルスの刺激条件の設定範囲を広くする事ができ、より好適に電気刺激を行うことのできる生体組織用刺激回路を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を図面を用いて説明する。図1は生体組織用刺激回路(以下、刺激回路)100の回路ブロック図である。刺激回路100は、半導体スイッチとしてn−MOS(又はp−MOS)からなる4つのMOSトランジスタスイッチ(以下、スイッチ)SW1〜SW4からなるHブリッジ回路と、Hブリッジ回路の片側の出力端子となる接続点Aに接続される電極10と、もう一方の出力端子となる接続点Bに接続される対向電極20と、電位補償回路200とから構成される。
【0011】
なお、ここでの電位補償回路200は、生体組織用刺激回路の接続点A,接続点Bの少なくとも一方の電位を検出する検出回路210と、接続点A,Bの電位を調節するための電圧調整回路220を含む。電圧調整回路220は、検出回路210の検出結果に基づき、他方の接続点(又は、接続点A及びBの両方)の電位を調節することで、スイッチSW1〜SW4の切り換え時に、オフとされたスイッチの寄生PN接合が順バイアスされることを抑制する(なお、図20に半導体スイッチに含まれる寄生PN接合D1、D2を示す)。
【0012】
Hブリッジ回路(極性切換回路)は、スイッチSW1とスイッチSW2の一端が電源(ライン)Vhに並列接続され、スイッチSW3とスイッチSW4の一端が接地側(グランド)に設けられた直流電流源DSに並列接続される。また、スイッチSW1とスイッチSW3の他端は直列接続され、スイッチの接続間には接続点Aが形成される。また、スイッチSW2とスイッチSW4の他端も同様に直列接続され、その接続間に接続点Bが形成される。また、接続点Aには患者の生体組織を電気刺激するための電極10が接続されており、接続点Bには対向電極20が接続される。
【0013】
以上のような構成のHブリッジ回路は、対向するスイッチ(SW1とSW4、SW2とSW3)の組み合わせが対になり同じ動作をする(異なる組み合わせのスイッチは逆の動作をする)。そして、対向するスイッチの組み合わせのON(オン)とOFF(オフ)とが交互に切換えられることで、単一の電源Vhからの供給電圧に基づき電流電流源DSが駆動し、電極10から出力される電流の正負の極性が交互に反転されるようになる。また、電極10から出力された双極性パルス信号によって生体組織が電気刺激されるようになる。
【0014】
また、電極10と対向電極20の間に位置される生体組織(図示を略す)は、固有の抵抗成分及び(電気二重層により発生する)コンデンサ成分を有する。また、ここでの図示は省略するが、接続点Aと電極10、接続点Bと対向電極20の間には、有効電圧範囲を定めると共に直流成分を好適にカットするために直列接続された抵抗とコンデンサが接続されている。なお、図1では、以上のような抵抗とコンデンサ成分を、等価抵抗R、等価コンデンサCとして示している。
【0015】
次に、以上のような構成を備える生体組織用刺激回路の動作を説明する。なお、ここでは、双極性パルスとして、最初に(1stパルスに)対向電極20から生体を通して刺激電極10に電流(負電流)を流した後に、極性を切換えて(2ndパルスに)刺激電極10から生体を通して対向電極20へ電流(正電流)が流される場合を例に挙げて説明する。
【0016】
はじめに、刺激回路100に接続されている図示なき制御部からの指令信号により、スイッチSW2とスイッチSW3の組み合わせがONとされ、スイッチSW1とスイッチSW4の組み合わせがOFFとされる。この場合、接続点B側が電源Vhの電位となり、接続点A側は直流電流源DSに引かれて接地電位側となる。これによって電極10からは負の刺激パルス電流(負電流)が出力される(1stパルス)。一方、負電流によってコンデンサCが充電されて、所定の電位を持つようになる。
【0017】
次に、図示を略す制御部は、負電流と同じ電荷量の逆極性の正電流を流すために、スイッチSW2とスイッチSW3の組み合わせをOFFに、スイッチSW1とスイッチSW4の組み合わせをONに切換える。これにより、接続点A側が電源Vhの電位とされ、接続点B側が直流電流源DSにより接地電位側となるように切り換えられる。これにより、電極10からは正の刺激パルス電流(正電流)が出力される(2ndパルス)。
【0018】
一方、電極10から出力される電流の極性が反転されるときに、1stパルスで充電されたコンデンサCの電位が残っていることにより、コンデンサCのプラス電位側の接続点B側(1stパルスの出力時に電源Vhに接続されていた側)の電位が電源Vhの電位よりも高くなってしまう場合がある。その場合、オフとされているスイッチの寄生PN接合が順バイアスされることにより電流が流れてしまう可能性がある。このような意図しない順バイアスは、生体組織に与える電流の電荷バランスを崩してしまう。
【0019】
ここで、図16から図18は電位補償回路を持たない刺激回路を用いて、双極性パルスの種々の刺激条件を生体組織に加えたときの、各点(接続点A,B、生体組織T)の電位変化を模式的に示したものである。なお、ここでの電源Vhの電位は10Vである。
ここで、図16は双極性パルスの極性の切換によって意図しない順バイアスが生じていない場合の刺激条件である。図17,図18は双極性パルスの極性の切換時に半導体スイッチの寄生PN接合に意図しない順バイアスが発生したときの刺激条件である。図16の双極性パルスの刺激条件では、各点(A,B,T)の電位は常に電源Vhの電位(10V)以下に抑えられている事が分かる。一方、図17、図18の双極性パルスの刺激条件では、双極性パルスの正負の極性が切換えられたときに、出力端子Bの電位が電源Vhの電位(10V)よりも高くなっていることが分かる(図中で該当箇所を丸印で示している)。これは、双極性パルスの1stパルスの電流によってコンデンサCが充電電位を持つことに起因する。
【0020】
このように、接続点Bの電位が電源Vhの電位を超えてしまうと、オフとされる半導体スイッチ(例えばスイッチSW2)の寄生PN接合が順バイアスされてしまい、意図しない電流が流れてしまうこととなる。この場合、双極性パルス信号の正負の電荷バランスが崩れてしまい、余った電荷が(電気二重層)により発生するコンデンサ成分に残り、これが蓄積していくといずれ体液の電気分解が発生して、患者の生体組織に悪影響が及ぼす可能性がある。
【0021】
特に、生体組織用刺激回路において複数の電極10が使用される場合には、装置を小型化にするために、一つの刺激回路に対して複数の電極10が切り換え接続される構成とされる。この場合には、一つの電極10からの双極性パルスの出力後に、その電極は刺激回路から切り離されてしまうので、電気二重層により発生するコンデンサ成分に蓄えられた電荷が放電する経路が断たれてしまうので、電荷が残り易くなる。
【0022】
また、電気二重層により発生するコンデンサ成分は電極毎にばらつきがある。このため、従来の刺激装置では、電極毎にばらつくコンデンサ成分の容量を考慮して、対象とする電極全てにおいて正負の電荷バランスを保つためには、双極性パルスの刺激条件の自由度が制限されなければならなかった。
【0023】
そこで、本実施形態では、少なくとも電源Vhの電位を越える可能性のある接続点(1stパルスの出力時に電源Vh側に接続されていた側の接続点)側に検出回路210を接続して、接続点の電位のモニタ(検出)を行う。そして、検出結果に基づき、電圧調整回路220を用いて、接続点の電位を調節して電源Vhの電位を越えないようにする。
【0024】
なお、上記では1stパルスとして負電流を流し、2ndパルスとして正電流を流す場合を例にあげて説明したが、1stパルスに正電流,2ndパルスに負電流を流す場合にも、少なくとも1stパルスの出力時に電源Vhに接続されている側(コンデンサCのプラス電位側)の接続点の電位を検出回路210で検出して、検出結果に基づき電圧調整回路220にて各接続点の電位が電圧Vhを越えないように調節する。これにより、双極性パルスの正電荷と負電荷の印加の順番に関わらず、双極性パルスの刺激条件範囲を広くすることができるようになる。
【0025】
以下、刺激回路100の具体的な構成を説明する。図2は刺激回路100の第1実施形態である。検出回路210は、2組のバッファ201及び抵抗202と、基準となる電位を定めるための基準電源Veと、接続点A及びBの電位の平均値と基準電源Veの電位とを比較するためのオペアンプOPとから構成される。具体的には、各接続点A及びBにバッファ201と抵抗202とが直列接続され、2つの抵抗202の他端同士が接続され、その接点からの出力がオペアンプOPに入力されると共に、基準電源Veの出力もオペアンプOPに入力される。
【0026】
なお、バッファ201は2つの抵抗202を介して接続点A,B間で電流が流れるのを抑制し、電圧を好適に抽出する役割を有する。また、ここでは、抵抗202の抵抗値を同じにすることで、オペアンプOPに接続点A、Bの平均電圧値が入力されるようにしている。なお、電圧調整回路220には、周知のMOSトランジスタやバイポーラ・トランジスタ、スイッチング制御回路などの周知の電圧調整回路が使用される。
【0027】
ここで、図3〜図5に第1実施形態の刺激回路100を用いて、異なる刺激条件を印加した場合の、双極性パルス電流とそれに対応する接続点A及びBの電位変化のシミュレーション結果を示す(なお、参考として生体内の電位Tも示されている)。なお、ここでは、電源Vhの電圧は10V、基準電源Veの電圧は5Vに設定されている。
【0028】
刺激回路100の動作により、時間t1から時間t2の間で、電極10から負電流が出力されると、次第にコンデンサCが充電電位を持つようになる。そして、時間t2で、上述した刺激回路100のスイッチング動作にて電極10から出力される電流の極性が正電流に反転される。これらの動作中、オペアンプOPによる接続点A、B間の平均電圧Vと基準電源Veとの比較が行われている。
この時、オペアンプOPによって、平均電圧Vが基準電源Veの電位よりも高いことが検出されると、電圧調整回路220は、接続点A、Bの電位が低くなるように電源Vhからの電圧を調節して、接続点Aと接続点Bの平均電圧を基準電源Veに近づける。
【0029】
なお、平均電圧Vが基準電源Veの電位よりも低い場合は、平均電位Vが基準電源Veの電位に近づくように、電圧調整回路220によって、接続点A及びBの電圧が高くなるように調節される。このようにすると、端子Aと端子Bの電位が基準電源Veを中心に変化されるので、コンデンサCの充電電位が残っていることにより接続点の電位が電源Vhの電位を越えることが抑制されるようになる。また、接続点AとBの有効電圧範囲を広く取ることができるようになる。
【0030】
以上のように、刺激回路100にフィードバック回路からなる電位補償回路200を設けることで、双極性パルスの刺激条件に関わらず、極性の切換え時に、接続点の電位が電源Vhの電位よりも高くなることが抑えられるので、Hブリッジ回路を構成する各スイッチがオフとされるときに、寄生PN接合が順バイアスされることにより流れる電流によって、電気二重層により生じるコンデンサ成分に電荷が蓄積されてしまうことが抑えられる。これにより、双極性パルスの刺激条件のバリエーションを増やすことが出来るようになる。
なお、以上では基準電圧Veを5Vとしているが、基準電位Veの値は、2つの抵抗202の抵抗値との組合せによって、接続点の電位が電源Vhの電位を越えないように設定すれば良い。
【0031】
また、電位補償回路200は以上の構成に限られるものではない。例えば、検出回路210を周知の最大電位検出回路で構成しても良い。例えば、最大電位検出回路はソースフォロア回路等で構成される。この場合の検出回路(最大電位検出回路)210は、接続点AとBの電位のうち高いほうの電位を検出して、オペアンプOPに入力する。一方、オペアンプOPは前述と同様に、検出回路210からの入力電圧と基準電源Veの電位との比較を開始する。
【0032】
この時、検出回路210の出力が基準電源Veよりも高い場合は、電圧調整回路220は、接続点A,Bのうち高いほうの電位が基準電源Veを超えないように、電源Vhから供給される電位を低く調節する。このようにすると、端子A及びBの電位が常に基準電源Ve以下となるように調節される。
【0033】
ここで、図6〜図8に検出回路210の構成を最大電位検出回路とした場合に、異なる刺激条件を印加した場合の双極性パルス電流とそれに対応する接続点A及びBの出力電位変化のシミュレーション結果を示す。なお、ここでの電源Vhの電圧は10V、基準電圧Veは9Vに設定されている。この場合、接続点A及びBの電位が、常に基準電圧Ve(9V)以下に制限されて、双極性パルスの極性の切換え時に、接続点A又はBの電位が電源Vhの電位よりも高くなることが抑制されている。これにより、双極性パルスの印加による電荷バランスを保つことができるようになり、双極性パルスの刺激条件のバリエーションを増やすことができるようになる。
【0034】
なお、上述の2種類の電位補償回路200は、双極性パルスの極性が正電流から負電流に切換えられる場合と、負電流から正電流に切換えられる場合の両方に対応することができる。その為、正負の極性の順番を利用することで、より多くの刺激条件の双極性パルスを使用することができるようになる。
【0035】
また、電位補償回路200がフィードバック回路から構成される場合において、双極性パルスの刺激条件が正電流から負電流、又は負電流から正電流のいずれか一方向のみに決定される場合には以下に示すような構成にすることができる。この場合、生体組織用刺激回路100の構成をより簡単にすることができる。
【0036】
図9に生体組織用刺激回路の第2実施形態を示す。なお、以降の説明において第1実施形態と同じ構成には同じ図番号を付して説明する。この場合の検出回路210はオペアンプ(差動増幅回路)OP2と、基準電源Veで構成される。また、本実施形態ではオペアンプOP2が電位調節回路220の役割を有する。また、電極10からは1stパルスで負電流、2ndパルスで正電流の双極性パルスが出力されるとする。
【0037】
この場合、オペアンプOP2の負入力側(図9の「−」側)には、1stパルスの印加時に電源Vhに接続される側(充電されたコンデンサCのプラス電位側)の接続点Bが、正入力側(図9の「+」側)には基準電位Veの出力が接続されている。1stパルスの印加中は、オペアンプOP2の負入力側には正入力側の電位Veよりも高い電位Vhが印加されているので、オペアンプOP2の出力は駆動可能な最高電位をスイッチSW1へ出力する。そして、双極性パルスの電流の極性が反転されると、オペアンプOP2は、接続点Bの電位と基準電位Veとの差分を抽出(増幅)して、これらの電位が等電位となるように接続点A側の入力電圧を制御する。このようにすると、接続点Bの電位が基準電位Veを超えて電源電位Vhとの差が小さい場合(電源Vhを越える可能性が高い場合)には、接続点Aの入力電圧が低くなるので、これによって接続点Bの電位が基準電圧Veの電位に近づけられるようになる。
【0038】
一方、接続点Bの電位が基準電位Veよりも低い場合には、接続点Aの入力電圧がオペアンプOP2の駆動可能な範囲で高くなることで、出力電圧Bの電位が基準電源Veの電位に近づけられるようになる。このようにすると、電源Vhの電位よりも高くなる可能性のある側の接続点Bの電位が、一定値となる(基準電位Veに近づく)ように調節されるようになる。
【0039】
ここで、図10〜図12に第2実施形態の生体組織用刺激回路において、異なる刺激条件を印加した場合の、双極性パルスとそれに対応する接続点A及びBの電位変化のシミュレーション結果を示す。なお、ここでの基準電位Veは9Vに設定されているとする。
結果から、いずれの場合にも電流の極性の反転時に、接続点の電位が電源Vhの電位を越えていないことが分かる。従って、以上のような構成のフィードバック回路を設けることで、双極性パルスの極性が正電流から負電流、又は負電流から正電流のいずれか一方に決定される場合において、双極性パルスの刺激条件のバリエーションを増やすことができるようになる。
【0040】
ただし、この場合には、電圧調整回路220(オペアンプOP2)で調節される側の接続点Aの電位の上限がオペアンプOP2の駆動可能な範囲(電源Vhの電位)までとされるので、検出回路210で電位が検出される側の接続点Bの電位が基準電位Veに至らない場合がある。しかしながら、電源Vhの電位を越えることは抑えられるので、様々な双極性パルスを用いた好適な電気刺激を行うことができるようになる。
【0041】
次に、図13に第3実施形態の生体組織用刺激回路の構成を示す。この場合も、第2実施形態の場合と同様に、検出回路210はオペアンプOP2と基準電圧Veにて構成される。また、スイッチSW1が電位調節回路220の役割を兼ねる。また、本実施形態では、双極性パルスの極性の反転のタイミングに対応して、(トランジスタ)スイッチSW1のゲート端子Gの接続位置が電源Vh側の端子Eと、オペアンプOP2の出力側である端子Fとで切換えられるようになっている。
【0042】
具体的には、負電流を流す1stパルスでは、スイッチSW2とSW3がONにされ、スイッチSW1のゲート端子Gは端子E側に接続される。これにより、ソースSとドレインD間の抵抗値が高くなることでスイッチSW1はOFFにされる。そして、電極10から負電流が出力されることで、コンデンサCが充電されて所定の電位を有するようになる。そして、双極性パルスの極性が反転されるタイミングで、スイッチSW1のゲート端子Gが端子F側に切換えられる。そして、オペアンプOP2による接続点Bと基準電源Veの電位との比較結果がスイッチSW1を構成するトランジスタに与えられて、接続点Bと基準電位Veとの差分に基づく電圧がゲート端子Gに加えられるようになる。
【0043】
つまり、この時に、接続点Bの電位が基準電源Veの電位より高い場合(接続点Bの電位が電源Vhの電位に近い場合)には、ゲート端子Gの電位が上がる。これにより、スイッチSW1のソースS-ドレインD間の抵抗値が高くなり、接続点Aの電位が下がることで、これに伴い接続点Bの端子の電位も下がるようになる。これにより、双極性パルスの反転時に各スイッチの寄生PN接合が順バイアスされることが防止される。
【0044】
なお、上記では、電位補償回路200としてフィードバック回路を設けることで、接続点の電位が電源Vhの電位を越えないように調節する場合を説明したが、これに限られるものではない。例えば、刺激回路100の動作に連動させて、各スイッチの寄生PN接合が順バイアスされないようにすることもできる。
【0045】
図14に生体組織用刺激回路の第4実施形態を示す。この場合は、電位補償回路200として、刺激回路100にブートストラップ回路を組み込むことによって、刺激回路100の動作に連動させて、各スイッチの寄生PN接合が順バイアスされることを抑制する。
この場合、電源Vhに整流回路301(例えば、ダイオードが使用される)が接続され、整流回路301の他端にはブートストラップコンデンサ(以下、コンデンサ)302が接続される。また、整流回路301とコンデンサ302の接続点の電位は、スイッチSW2を構成するトランジスタのバックゲートに接続されると共に、スイッチSW2のゲートを駆動するドライバ305の電源端子に接続される。一方、コンデンサ302の他端には電流の流入を防ぐためのバッファ304の出力が接続され、バッファ304の入力は接続点Aに接続される。なお、バッファ304には、例えば、NMOSとPMOSトランジスタのソースフォロア回路等が使用される。また、ここでは、寄生PN接合D1,D2を含むスイッチSW2の構成を詳細に示している。
【0046】
以上のような構成を刺激回路100に組み込むことで、コンデンサ302の充電電圧を利用して、電源Vhの電位よりも高い電位を作ることができ、これによって、オフとされる半導体スイッチの寄生PN接合が意図せずに順バイアスされてしまうことを抑制できるようになる。
【0047】
ここで、第4実施形態の刺激回路100の動作を説明する。はじめに、スイッチSW2とSW3がON(スイッチSW1とSW4はOFF)にされることで、電極10からは負電流が出力される。直流電流源DSによってコンデンサCが充電されると共に抵抗Rに発生する電圧降下によりA点の電位が下がる。これにより、電源Vhに接続された整流回路301を介して流れる電流によって、コンデンサ302が充電されて所定の電位(例えば、電位Vbとする)を有するようになる。なお、この時、バッファ303によってコンデンサ302の充電電流が刺激電流経路に流れることが抑えられている。
【0048】
次に、スイッチSW1とSW4がON(スイッチSW2,SW3がOFF)に切換えられると、電極10からは正電流が流れると共に、スイッチの切換によって接続点Aの電位が電源Vh側となることで、スイッチSW2のバックゲート電位がVb+Vhに持ち上げられる。これによって、仮に接続点Bの電位が電源Vhの電位よりも高くなったとしても、コンデンサ302に接続されたスイッチSW2のバックゲート電位の方が十分に高くなるので、スイッチSW2の寄生PN接合が意図せずに順バイアスされることが抑制されるようになる。
【0049】
以上のようにすることで、刺激回路100の駆動動作を利用して、双極性パルスの正負の電荷バランスが保たれるようになり、様々な刺激条件の双極性パルスを利用して好適に生体の電気刺激を行う事が出来るようになる。
【0050】
なお、電位補償回路200として用いられるブートストラップ回路は、以上のような構成に限られるものではない。例えば、図14の整流回路(ダイオード)301の代わりに、スイッチSW2の寄生PN接合(ダイオード)D2を使用してコンデンサ302が充電されるようにしてもよい。また、図14ではスイッチSW2を1つのPMOSトランジスタで構成しているが、スイッチSW2を2つのPMOSトランジスタの直列回路で構成すると、スイッチSW2(PMOSトランジスタ)の各寄生PN接合に流れる電流の経路を互いに遮断することができるようになる。このようにすると、回路が固有のバイポーラトランジスタを有する場合にも外部に電流が流れ出ることが抑えられて、双極性パルスの電荷バランスを好適に保つことができるようになる。
【0051】
なお、上記では刺激回路100は4つのスイッチSW1からSW4からなるHブリッジ回路をベースに構成されているが、これに限られるものではない。つまり、刺激回路100に用意された複数のスイッチのONとOFFとが切換えられることにより、電極10から双極性パルスが出力される構成であればよい。
【0052】
例えば、図19の生体組織用刺激回路の第5実施形態に示すように、電源Vh側にスイッチSW1を接続し、接地側にスイッチSW3を接続する。そして、スイッチSW1とSW3の接続位置(接続点A)に電極10を接続する。一方、対向電極20が接続される接続点B側に双極性直流電流源DSを接続する。この場合、スイッチSW1とSW3の切換動作に同期して、双極性直流電流源DSの電流の向きが交互に切換えられることにより、電極10から双極性パルスが出力されるようになる。
【0053】
はじめに、1stパルスでスイッチSW3がON、スイッチSW1をOFFとして電極10から負電流を出力する。次に、2ndパルスでスイッチSW1をOFF、スイッチSW3をONとして正電流を電極10から出力する。この時、検出回路210で検出された接続点Bの電位によってスイッチSW1の電圧を電圧調整回路220で調整することで、接続点Bの電位が電源Vhの電位を超えないように出来る。次に、以上のように形成された刺激回路10を、電気刺激装置として患者の視覚の一部又は全部を再生する視覚再生補助装置に使用する場合を例に挙げて説明する。図15に視覚再生補助装置の制御系のブロック図を示す。
【0054】
視覚再生補助装置1は、外界を撮影するための体外装置1aと、網膜を構成する細胞に電気刺激を与え視覚の再生を促す体内装置1bとからなる。体外装置1aは、患者が掛ける眼鏡形状のバイザ(図示を略す)と、バイザに取り付けられるCCDカメラ等からなる撮影装置3と、撮影装置3で撮影された被写体像を画像データに変換すると共に視覚再生補助装置1に電力供給を行うための外部デバイス4と、体外装置1aで生成された画像データ及び電力を体内装置1bに送信するための一次コイルからなる送信手段5等にて構成されている。なお、送信手段5の中心には図示なき磁石が取り付けられており、後述する体内装置1b側の受信手段6との位置固定に使用される。
【0055】
体内装置1bは、体外装置1aから送信される画像データや電力を電磁波で受信する受信手段6と体内装置1bの制御を行うための制御部7aを備える受信ユニット7と、網膜を構成する細胞を電気刺激する刺激部(刺激ユニット)8と、複数の電極10とから構成されている。なお、刺激部8は上述した刺激回路100を有し、刺激回路100は制御部7aによる制御信号に基づき、電極10から双極性パルス信号を出力させる。
【0056】
以上の構成を備える視覚再生補助装置1の動作を説明する。撮影装置3で撮影された被写体像は外部デバイス4で画像データに変換されて、送信手段5から電磁波として体内装置1b側に送信される。体内装置1b側では、体外装置1aから供給され、受信手段6で受信された画像データ及び電力が制御部7aに送信される。制御部7aでは受信信号に基づき、刺激回路100を動作させて、各電極10から双極性パルス(電気刺激パルス)を出力させる。これにより、患者眼の網膜E1を構成する細胞が刺激されて、患者は視覚を得るようになる。
【0057】
この時、本実施形態では、双極性パルスの刺激条件に関わらず、刺激回路100の接続点の電位が電源Vhの電位よりも高くならないようにされているので、電極10からは様々なバリエーションの電気刺激パルスが出力させることができ、患者に多様な視覚を与えることができるようになる。
【0058】
なお、本発明の生体組織用刺激回路100は、これ以外にも、生体内の様々な部位の生体組織の刺激に用いられることで、長期間安定した生体の電気刺激を行う事が出来るようになる。例えば、患者に聴覚を与えるための人工内耳、不整脈の発生を抑制するための心臓ペースメーカ等、患者の体内に長期間埋植して生体に所定の電気刺激を与えるための刺激回路に本発明の構成が適用されることで、双極性パルスの刺激条件の設定範囲を広くする事ができると共に、生体組織の電気刺激を長期間安定して行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】生体組織用刺激回路の回路ブロック図である。
【図2】刺激回路の第1実施形態である。
【図3】第1実施形態の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図4】第1実施形態の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図5】第1実施形態の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図6】最大電位検出回路を用いた場合の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図7】最大電位検出回路を用いた場合の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図8】最大電位検出回路を用いた場合の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図9】生体組織用刺激回路の第2実施形態である。
【図10】第2実施形態の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図11】第2実施形態の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図12】第2実施形態の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図13】生体組織用刺激回路の第3実施形態である。
【図14】生体組織用刺激回路の第4実施形態である。
【図15】視覚再生補助装置の制御系のブロック図を示す。
【図16】従来技術の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図17】従来技術の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図18】従来技術の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図19】生体組織用刺激回路の第5実施形態である。
【図20】寄生PN接合の説明図である。
【符号の説明】
【0060】
SW1、SW2、SW3、SW4 半導体スイッチ
A、B 接続点
10 電極
20 対向電極
100 生体組織用刺激回路
200 電位補償回路
210 検出回路
220 電圧調整回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の一部に電気刺激を与えるための生体組織用刺激回路に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の耳小骨へ音の振動を伝達するための人工中耳、患者の胸部に埋植されて心臓に電気刺激を与えることで不整脈の発生を抑制する心臓ペースメーカ等、刺激電極(以下、電極)を体内に埋植し、生体組織の一部を電気刺激することで生体の機能を調節する電気刺激装置の研究がされている。また、近年このような電気刺激装置として、電極から電気刺激パルス信号(電荷)を出力して網膜を構成する細胞を電気刺激することにより、視覚の再生を試みる視覚再生補助装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような電気刺激装置を用いた生体組織の電気刺激では、電極から所定量の電荷が注入されることで細胞に必要な刺激が与えられる。この時、電極から出力される1刺激分の電気刺激パルス信号は、複数の半導体スイッチによる切換によって正負方向にそれぞれ振幅を持つ双極性のパルスとされる。このような双極性パルスが用いられることで、電気刺激される部位での電荷の偏りが低減されてバランスを保つことができ、好適に電気刺激がされるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010‐187747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術の生体組織用刺激回路では、双極性パルスの刺激条件によっては、双極性パルスの極性を切換えたときに、半導体スイッチの寄生PN接合が順バイアスされることで、不要な電流が流れ、正負の電荷のバランスが崩れてしまうことで、電荷に偏りが生じる場合があることが分かった。この場合、余った電荷が生体内に残ることで、患者の生体組織に悪影響が生じることが懸念される。そのため、従来の電気刺激装置で用いられる双極性パルス信号は、オフとされるべき半導体スイッチの寄生PN接合が順バイアスされずに、正負の電荷バランスを保つことができる刺激条件に制限されなければならなかった。
【0006】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、双極性パルスの刺激条件の設定範囲を広くする事ができ、より好適に電気刺激を行うことのできる生体組織用刺激回路を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0008】
(1) 電源側に接続される第1半導体スイッチと接地側に接続される第3半導体スイッチを直列接続してなる第1直列部と,電源側に接続される第2半導体スイッチと接地側に接続される第4半導体スイッチを直列接続してなる第2直列部とが並列接続されてなるHブリッジ回路と、前記第1直列部の第1半導体スイッチと第3半導体スイッチとの間の第1接続点に接続される刺激電極と、前記第2直列部の第2半導体スイッチと第4半導体スイッチとの間の第2接続点に接続される対向電極と、前記接続点における電位を調節するための電位補償回路と、を備えることを特徴とする。
(2) (1)の生体組織用刺激回路において、前記電位補償回路はオフとされた前記半導体スイッチの寄生PN接合が順バイアスにされない電圧範囲内となるように前記第1接続点又は前記第2接続点における電位を調節することを特徴とする。
(3) (2)の生体組織用刺激回路において、前記電位補償回路は前記第1接続点,及び第2接続点の少なくとも一方の電位を検出する検出回路を有することを特徴とする。
(4) (3)の生体組織用刺激回路において、前記検出回路が前記第1接続点及び第2接続点の両方に接続されている場合には、前記検出回路は、前記第1接続点及び第2接続点の平均電位もしくは前記第1接続点及び第2接続点のうち高い方又は低い方の電位を検出することを特徴とする。
(5) (1)の生体組織用刺激回路において、前記電位補償回路は、ブートストラップ回路であることを特徴とする。
(6) (5)の生体組織用刺激回路の前記電位補償回路は、前記電源側に接続される整流回路と、該整流回路に接続されると共に前記電源側の第1半導体スイッチ又は第2半導体スイッチに接続されて双極性パルスの一方向の電位で充電されるコンデンサと、からなり、前記双極性パルスの極性の反転により前記コンデンサの充電電位が前記電源の電位よりも高くなることで、前記第1接続点及び前記第2接続点の電位によって前記第1半導体スイッチ又は前記第2半導体スイッチが順バイアスされることが抑えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、双極性パルスの刺激条件の設定範囲を広くする事ができ、より好適に電気刺激を行うことのできる生体組織用刺激回路を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を図面を用いて説明する。図1は生体組織用刺激回路(以下、刺激回路)100の回路ブロック図である。刺激回路100は、半導体スイッチとしてn−MOS(又はp−MOS)からなる4つのMOSトランジスタスイッチ(以下、スイッチ)SW1〜SW4からなるHブリッジ回路と、Hブリッジ回路の片側の出力端子となる接続点Aに接続される電極10と、もう一方の出力端子となる接続点Bに接続される対向電極20と、電位補償回路200とから構成される。
【0011】
なお、ここでの電位補償回路200は、生体組織用刺激回路の接続点A,接続点Bの少なくとも一方の電位を検出する検出回路210と、接続点A,Bの電位を調節するための電圧調整回路220を含む。電圧調整回路220は、検出回路210の検出結果に基づき、他方の接続点(又は、接続点A及びBの両方)の電位を調節することで、スイッチSW1〜SW4の切り換え時に、オフとされたスイッチの寄生PN接合が順バイアスされることを抑制する(なお、図20に半導体スイッチに含まれる寄生PN接合D1、D2を示す)。
【0012】
Hブリッジ回路(極性切換回路)は、スイッチSW1とスイッチSW2の一端が電源(ライン)Vhに並列接続され、スイッチSW3とスイッチSW4の一端が接地側(グランド)に設けられた直流電流源DSに並列接続される。また、スイッチSW1とスイッチSW3の他端は直列接続され、スイッチの接続間には接続点Aが形成される。また、スイッチSW2とスイッチSW4の他端も同様に直列接続され、その接続間に接続点Bが形成される。また、接続点Aには患者の生体組織を電気刺激するための電極10が接続されており、接続点Bには対向電極20が接続される。
【0013】
以上のような構成のHブリッジ回路は、対向するスイッチ(SW1とSW4、SW2とSW3)の組み合わせが対になり同じ動作をする(異なる組み合わせのスイッチは逆の動作をする)。そして、対向するスイッチの組み合わせのON(オン)とOFF(オフ)とが交互に切換えられることで、単一の電源Vhからの供給電圧に基づき電流電流源DSが駆動し、電極10から出力される電流の正負の極性が交互に反転されるようになる。また、電極10から出力された双極性パルス信号によって生体組織が電気刺激されるようになる。
【0014】
また、電極10と対向電極20の間に位置される生体組織(図示を略す)は、固有の抵抗成分及び(電気二重層により発生する)コンデンサ成分を有する。また、ここでの図示は省略するが、接続点Aと電極10、接続点Bと対向電極20の間には、有効電圧範囲を定めると共に直流成分を好適にカットするために直列接続された抵抗とコンデンサが接続されている。なお、図1では、以上のような抵抗とコンデンサ成分を、等価抵抗R、等価コンデンサCとして示している。
【0015】
次に、以上のような構成を備える生体組織用刺激回路の動作を説明する。なお、ここでは、双極性パルスとして、最初に(1stパルスに)対向電極20から生体を通して刺激電極10に電流(負電流)を流した後に、極性を切換えて(2ndパルスに)刺激電極10から生体を通して対向電極20へ電流(正電流)が流される場合を例に挙げて説明する。
【0016】
はじめに、刺激回路100に接続されている図示なき制御部からの指令信号により、スイッチSW2とスイッチSW3の組み合わせがONとされ、スイッチSW1とスイッチSW4の組み合わせがOFFとされる。この場合、接続点B側が電源Vhの電位となり、接続点A側は直流電流源DSに引かれて接地電位側となる。これによって電極10からは負の刺激パルス電流(負電流)が出力される(1stパルス)。一方、負電流によってコンデンサCが充電されて、所定の電位を持つようになる。
【0017】
次に、図示を略す制御部は、負電流と同じ電荷量の逆極性の正電流を流すために、スイッチSW2とスイッチSW3の組み合わせをOFFに、スイッチSW1とスイッチSW4の組み合わせをONに切換える。これにより、接続点A側が電源Vhの電位とされ、接続点B側が直流電流源DSにより接地電位側となるように切り換えられる。これにより、電極10からは正の刺激パルス電流(正電流)が出力される(2ndパルス)。
【0018】
一方、電極10から出力される電流の極性が反転されるときに、1stパルスで充電されたコンデンサCの電位が残っていることにより、コンデンサCのプラス電位側の接続点B側(1stパルスの出力時に電源Vhに接続されていた側)の電位が電源Vhの電位よりも高くなってしまう場合がある。その場合、オフとされているスイッチの寄生PN接合が順バイアスされることにより電流が流れてしまう可能性がある。このような意図しない順バイアスは、生体組織に与える電流の電荷バランスを崩してしまう。
【0019】
ここで、図16から図18は電位補償回路を持たない刺激回路を用いて、双極性パルスの種々の刺激条件を生体組織に加えたときの、各点(接続点A,B、生体組織T)の電位変化を模式的に示したものである。なお、ここでの電源Vhの電位は10Vである。
ここで、図16は双極性パルスの極性の切換によって意図しない順バイアスが生じていない場合の刺激条件である。図17,図18は双極性パルスの極性の切換時に半導体スイッチの寄生PN接合に意図しない順バイアスが発生したときの刺激条件である。図16の双極性パルスの刺激条件では、各点(A,B,T)の電位は常に電源Vhの電位(10V)以下に抑えられている事が分かる。一方、図17、図18の双極性パルスの刺激条件では、双極性パルスの正負の極性が切換えられたときに、出力端子Bの電位が電源Vhの電位(10V)よりも高くなっていることが分かる(図中で該当箇所を丸印で示している)。これは、双極性パルスの1stパルスの電流によってコンデンサCが充電電位を持つことに起因する。
【0020】
このように、接続点Bの電位が電源Vhの電位を超えてしまうと、オフとされる半導体スイッチ(例えばスイッチSW2)の寄生PN接合が順バイアスされてしまい、意図しない電流が流れてしまうこととなる。この場合、双極性パルス信号の正負の電荷バランスが崩れてしまい、余った電荷が(電気二重層)により発生するコンデンサ成分に残り、これが蓄積していくといずれ体液の電気分解が発生して、患者の生体組織に悪影響が及ぼす可能性がある。
【0021】
特に、生体組織用刺激回路において複数の電極10が使用される場合には、装置を小型化にするために、一つの刺激回路に対して複数の電極10が切り換え接続される構成とされる。この場合には、一つの電極10からの双極性パルスの出力後に、その電極は刺激回路から切り離されてしまうので、電気二重層により発生するコンデンサ成分に蓄えられた電荷が放電する経路が断たれてしまうので、電荷が残り易くなる。
【0022】
また、電気二重層により発生するコンデンサ成分は電極毎にばらつきがある。このため、従来の刺激装置では、電極毎にばらつくコンデンサ成分の容量を考慮して、対象とする電極全てにおいて正負の電荷バランスを保つためには、双極性パルスの刺激条件の自由度が制限されなければならなかった。
【0023】
そこで、本実施形態では、少なくとも電源Vhの電位を越える可能性のある接続点(1stパルスの出力時に電源Vh側に接続されていた側の接続点)側に検出回路210を接続して、接続点の電位のモニタ(検出)を行う。そして、検出結果に基づき、電圧調整回路220を用いて、接続点の電位を調節して電源Vhの電位を越えないようにする。
【0024】
なお、上記では1stパルスとして負電流を流し、2ndパルスとして正電流を流す場合を例にあげて説明したが、1stパルスに正電流,2ndパルスに負電流を流す場合にも、少なくとも1stパルスの出力時に電源Vhに接続されている側(コンデンサCのプラス電位側)の接続点の電位を検出回路210で検出して、検出結果に基づき電圧調整回路220にて各接続点の電位が電圧Vhを越えないように調節する。これにより、双極性パルスの正電荷と負電荷の印加の順番に関わらず、双極性パルスの刺激条件範囲を広くすることができるようになる。
【0025】
以下、刺激回路100の具体的な構成を説明する。図2は刺激回路100の第1実施形態である。検出回路210は、2組のバッファ201及び抵抗202と、基準となる電位を定めるための基準電源Veと、接続点A及びBの電位の平均値と基準電源Veの電位とを比較するためのオペアンプOPとから構成される。具体的には、各接続点A及びBにバッファ201と抵抗202とが直列接続され、2つの抵抗202の他端同士が接続され、その接点からの出力がオペアンプOPに入力されると共に、基準電源Veの出力もオペアンプOPに入力される。
【0026】
なお、バッファ201は2つの抵抗202を介して接続点A,B間で電流が流れるのを抑制し、電圧を好適に抽出する役割を有する。また、ここでは、抵抗202の抵抗値を同じにすることで、オペアンプOPに接続点A、Bの平均電圧値が入力されるようにしている。なお、電圧調整回路220には、周知のMOSトランジスタやバイポーラ・トランジスタ、スイッチング制御回路などの周知の電圧調整回路が使用される。
【0027】
ここで、図3〜図5に第1実施形態の刺激回路100を用いて、異なる刺激条件を印加した場合の、双極性パルス電流とそれに対応する接続点A及びBの電位変化のシミュレーション結果を示す(なお、参考として生体内の電位Tも示されている)。なお、ここでは、電源Vhの電圧は10V、基準電源Veの電圧は5Vに設定されている。
【0028】
刺激回路100の動作により、時間t1から時間t2の間で、電極10から負電流が出力されると、次第にコンデンサCが充電電位を持つようになる。そして、時間t2で、上述した刺激回路100のスイッチング動作にて電極10から出力される電流の極性が正電流に反転される。これらの動作中、オペアンプOPによる接続点A、B間の平均電圧Vと基準電源Veとの比較が行われている。
この時、オペアンプOPによって、平均電圧Vが基準電源Veの電位よりも高いことが検出されると、電圧調整回路220は、接続点A、Bの電位が低くなるように電源Vhからの電圧を調節して、接続点Aと接続点Bの平均電圧を基準電源Veに近づける。
【0029】
なお、平均電圧Vが基準電源Veの電位よりも低い場合は、平均電位Vが基準電源Veの電位に近づくように、電圧調整回路220によって、接続点A及びBの電圧が高くなるように調節される。このようにすると、端子Aと端子Bの電位が基準電源Veを中心に変化されるので、コンデンサCの充電電位が残っていることにより接続点の電位が電源Vhの電位を越えることが抑制されるようになる。また、接続点AとBの有効電圧範囲を広く取ることができるようになる。
【0030】
以上のように、刺激回路100にフィードバック回路からなる電位補償回路200を設けることで、双極性パルスの刺激条件に関わらず、極性の切換え時に、接続点の電位が電源Vhの電位よりも高くなることが抑えられるので、Hブリッジ回路を構成する各スイッチがオフとされるときに、寄生PN接合が順バイアスされることにより流れる電流によって、電気二重層により生じるコンデンサ成分に電荷が蓄積されてしまうことが抑えられる。これにより、双極性パルスの刺激条件のバリエーションを増やすことが出来るようになる。
なお、以上では基準電圧Veを5Vとしているが、基準電位Veの値は、2つの抵抗202の抵抗値との組合せによって、接続点の電位が電源Vhの電位を越えないように設定すれば良い。
【0031】
また、電位補償回路200は以上の構成に限られるものではない。例えば、検出回路210を周知の最大電位検出回路で構成しても良い。例えば、最大電位検出回路はソースフォロア回路等で構成される。この場合の検出回路(最大電位検出回路)210は、接続点AとBの電位のうち高いほうの電位を検出して、オペアンプOPに入力する。一方、オペアンプOPは前述と同様に、検出回路210からの入力電圧と基準電源Veの電位との比較を開始する。
【0032】
この時、検出回路210の出力が基準電源Veよりも高い場合は、電圧調整回路220は、接続点A,Bのうち高いほうの電位が基準電源Veを超えないように、電源Vhから供給される電位を低く調節する。このようにすると、端子A及びBの電位が常に基準電源Ve以下となるように調節される。
【0033】
ここで、図6〜図8に検出回路210の構成を最大電位検出回路とした場合に、異なる刺激条件を印加した場合の双極性パルス電流とそれに対応する接続点A及びBの出力電位変化のシミュレーション結果を示す。なお、ここでの電源Vhの電圧は10V、基準電圧Veは9Vに設定されている。この場合、接続点A及びBの電位が、常に基準電圧Ve(9V)以下に制限されて、双極性パルスの極性の切換え時に、接続点A又はBの電位が電源Vhの電位よりも高くなることが抑制されている。これにより、双極性パルスの印加による電荷バランスを保つことができるようになり、双極性パルスの刺激条件のバリエーションを増やすことができるようになる。
【0034】
なお、上述の2種類の電位補償回路200は、双極性パルスの極性が正電流から負電流に切換えられる場合と、負電流から正電流に切換えられる場合の両方に対応することができる。その為、正負の極性の順番を利用することで、より多くの刺激条件の双極性パルスを使用することができるようになる。
【0035】
また、電位補償回路200がフィードバック回路から構成される場合において、双極性パルスの刺激条件が正電流から負電流、又は負電流から正電流のいずれか一方向のみに決定される場合には以下に示すような構成にすることができる。この場合、生体組織用刺激回路100の構成をより簡単にすることができる。
【0036】
図9に生体組織用刺激回路の第2実施形態を示す。なお、以降の説明において第1実施形態と同じ構成には同じ図番号を付して説明する。この場合の検出回路210はオペアンプ(差動増幅回路)OP2と、基準電源Veで構成される。また、本実施形態ではオペアンプOP2が電位調節回路220の役割を有する。また、電極10からは1stパルスで負電流、2ndパルスで正電流の双極性パルスが出力されるとする。
【0037】
この場合、オペアンプOP2の負入力側(図9の「−」側)には、1stパルスの印加時に電源Vhに接続される側(充電されたコンデンサCのプラス電位側)の接続点Bが、正入力側(図9の「+」側)には基準電位Veの出力が接続されている。1stパルスの印加中は、オペアンプOP2の負入力側には正入力側の電位Veよりも高い電位Vhが印加されているので、オペアンプOP2の出力は駆動可能な最高電位をスイッチSW1へ出力する。そして、双極性パルスの電流の極性が反転されると、オペアンプOP2は、接続点Bの電位と基準電位Veとの差分を抽出(増幅)して、これらの電位が等電位となるように接続点A側の入力電圧を制御する。このようにすると、接続点Bの電位が基準電位Veを超えて電源電位Vhとの差が小さい場合(電源Vhを越える可能性が高い場合)には、接続点Aの入力電圧が低くなるので、これによって接続点Bの電位が基準電圧Veの電位に近づけられるようになる。
【0038】
一方、接続点Bの電位が基準電位Veよりも低い場合には、接続点Aの入力電圧がオペアンプOP2の駆動可能な範囲で高くなることで、出力電圧Bの電位が基準電源Veの電位に近づけられるようになる。このようにすると、電源Vhの電位よりも高くなる可能性のある側の接続点Bの電位が、一定値となる(基準電位Veに近づく)ように調節されるようになる。
【0039】
ここで、図10〜図12に第2実施形態の生体組織用刺激回路において、異なる刺激条件を印加した場合の、双極性パルスとそれに対応する接続点A及びBの電位変化のシミュレーション結果を示す。なお、ここでの基準電位Veは9Vに設定されているとする。
結果から、いずれの場合にも電流の極性の反転時に、接続点の電位が電源Vhの電位を越えていないことが分かる。従って、以上のような構成のフィードバック回路を設けることで、双極性パルスの極性が正電流から負電流、又は負電流から正電流のいずれか一方に決定される場合において、双極性パルスの刺激条件のバリエーションを増やすことができるようになる。
【0040】
ただし、この場合には、電圧調整回路220(オペアンプOP2)で調節される側の接続点Aの電位の上限がオペアンプOP2の駆動可能な範囲(電源Vhの電位)までとされるので、検出回路210で電位が検出される側の接続点Bの電位が基準電位Veに至らない場合がある。しかしながら、電源Vhの電位を越えることは抑えられるので、様々な双極性パルスを用いた好適な電気刺激を行うことができるようになる。
【0041】
次に、図13に第3実施形態の生体組織用刺激回路の構成を示す。この場合も、第2実施形態の場合と同様に、検出回路210はオペアンプOP2と基準電圧Veにて構成される。また、スイッチSW1が電位調節回路220の役割を兼ねる。また、本実施形態では、双極性パルスの極性の反転のタイミングに対応して、(トランジスタ)スイッチSW1のゲート端子Gの接続位置が電源Vh側の端子Eと、オペアンプOP2の出力側である端子Fとで切換えられるようになっている。
【0042】
具体的には、負電流を流す1stパルスでは、スイッチSW2とSW3がONにされ、スイッチSW1のゲート端子Gは端子E側に接続される。これにより、ソースSとドレインD間の抵抗値が高くなることでスイッチSW1はOFFにされる。そして、電極10から負電流が出力されることで、コンデンサCが充電されて所定の電位を有するようになる。そして、双極性パルスの極性が反転されるタイミングで、スイッチSW1のゲート端子Gが端子F側に切換えられる。そして、オペアンプOP2による接続点Bと基準電源Veの電位との比較結果がスイッチSW1を構成するトランジスタに与えられて、接続点Bと基準電位Veとの差分に基づく電圧がゲート端子Gに加えられるようになる。
【0043】
つまり、この時に、接続点Bの電位が基準電源Veの電位より高い場合(接続点Bの電位が電源Vhの電位に近い場合)には、ゲート端子Gの電位が上がる。これにより、スイッチSW1のソースS-ドレインD間の抵抗値が高くなり、接続点Aの電位が下がることで、これに伴い接続点Bの端子の電位も下がるようになる。これにより、双極性パルスの反転時に各スイッチの寄生PN接合が順バイアスされることが防止される。
【0044】
なお、上記では、電位補償回路200としてフィードバック回路を設けることで、接続点の電位が電源Vhの電位を越えないように調節する場合を説明したが、これに限られるものではない。例えば、刺激回路100の動作に連動させて、各スイッチの寄生PN接合が順バイアスされないようにすることもできる。
【0045】
図14に生体組織用刺激回路の第4実施形態を示す。この場合は、電位補償回路200として、刺激回路100にブートストラップ回路を組み込むことによって、刺激回路100の動作に連動させて、各スイッチの寄生PN接合が順バイアスされることを抑制する。
この場合、電源Vhに整流回路301(例えば、ダイオードが使用される)が接続され、整流回路301の他端にはブートストラップコンデンサ(以下、コンデンサ)302が接続される。また、整流回路301とコンデンサ302の接続点の電位は、スイッチSW2を構成するトランジスタのバックゲートに接続されると共に、スイッチSW2のゲートを駆動するドライバ305の電源端子に接続される。一方、コンデンサ302の他端には電流の流入を防ぐためのバッファ304の出力が接続され、バッファ304の入力は接続点Aに接続される。なお、バッファ304には、例えば、NMOSとPMOSトランジスタのソースフォロア回路等が使用される。また、ここでは、寄生PN接合D1,D2を含むスイッチSW2の構成を詳細に示している。
【0046】
以上のような構成を刺激回路100に組み込むことで、コンデンサ302の充電電圧を利用して、電源Vhの電位よりも高い電位を作ることができ、これによって、オフとされる半導体スイッチの寄生PN接合が意図せずに順バイアスされてしまうことを抑制できるようになる。
【0047】
ここで、第4実施形態の刺激回路100の動作を説明する。はじめに、スイッチSW2とSW3がON(スイッチSW1とSW4はOFF)にされることで、電極10からは負電流が出力される。直流電流源DSによってコンデンサCが充電されると共に抵抗Rに発生する電圧降下によりA点の電位が下がる。これにより、電源Vhに接続された整流回路301を介して流れる電流によって、コンデンサ302が充電されて所定の電位(例えば、電位Vbとする)を有するようになる。なお、この時、バッファ303によってコンデンサ302の充電電流が刺激電流経路に流れることが抑えられている。
【0048】
次に、スイッチSW1とSW4がON(スイッチSW2,SW3がOFF)に切換えられると、電極10からは正電流が流れると共に、スイッチの切換によって接続点Aの電位が電源Vh側となることで、スイッチSW2のバックゲート電位がVb+Vhに持ち上げられる。これによって、仮に接続点Bの電位が電源Vhの電位よりも高くなったとしても、コンデンサ302に接続されたスイッチSW2のバックゲート電位の方が十分に高くなるので、スイッチSW2の寄生PN接合が意図せずに順バイアスされることが抑制されるようになる。
【0049】
以上のようにすることで、刺激回路100の駆動動作を利用して、双極性パルスの正負の電荷バランスが保たれるようになり、様々な刺激条件の双極性パルスを利用して好適に生体の電気刺激を行う事が出来るようになる。
【0050】
なお、電位補償回路200として用いられるブートストラップ回路は、以上のような構成に限られるものではない。例えば、図14の整流回路(ダイオード)301の代わりに、スイッチSW2の寄生PN接合(ダイオード)D2を使用してコンデンサ302が充電されるようにしてもよい。また、図14ではスイッチSW2を1つのPMOSトランジスタで構成しているが、スイッチSW2を2つのPMOSトランジスタの直列回路で構成すると、スイッチSW2(PMOSトランジスタ)の各寄生PN接合に流れる電流の経路を互いに遮断することができるようになる。このようにすると、回路が固有のバイポーラトランジスタを有する場合にも外部に電流が流れ出ることが抑えられて、双極性パルスの電荷バランスを好適に保つことができるようになる。
【0051】
なお、上記では刺激回路100は4つのスイッチSW1からSW4からなるHブリッジ回路をベースに構成されているが、これに限られるものではない。つまり、刺激回路100に用意された複数のスイッチのONとOFFとが切換えられることにより、電極10から双極性パルスが出力される構成であればよい。
【0052】
例えば、図19の生体組織用刺激回路の第5実施形態に示すように、電源Vh側にスイッチSW1を接続し、接地側にスイッチSW3を接続する。そして、スイッチSW1とSW3の接続位置(接続点A)に電極10を接続する。一方、対向電極20が接続される接続点B側に双極性直流電流源DSを接続する。この場合、スイッチSW1とSW3の切換動作に同期して、双極性直流電流源DSの電流の向きが交互に切換えられることにより、電極10から双極性パルスが出力されるようになる。
【0053】
はじめに、1stパルスでスイッチSW3がON、スイッチSW1をOFFとして電極10から負電流を出力する。次に、2ndパルスでスイッチSW1をOFF、スイッチSW3をONとして正電流を電極10から出力する。この時、検出回路210で検出された接続点Bの電位によってスイッチSW1の電圧を電圧調整回路220で調整することで、接続点Bの電位が電源Vhの電位を超えないように出来る。次に、以上のように形成された刺激回路10を、電気刺激装置として患者の視覚の一部又は全部を再生する視覚再生補助装置に使用する場合を例に挙げて説明する。図15に視覚再生補助装置の制御系のブロック図を示す。
【0054】
視覚再生補助装置1は、外界を撮影するための体外装置1aと、網膜を構成する細胞に電気刺激を与え視覚の再生を促す体内装置1bとからなる。体外装置1aは、患者が掛ける眼鏡形状のバイザ(図示を略す)と、バイザに取り付けられるCCDカメラ等からなる撮影装置3と、撮影装置3で撮影された被写体像を画像データに変換すると共に視覚再生補助装置1に電力供給を行うための外部デバイス4と、体外装置1aで生成された画像データ及び電力を体内装置1bに送信するための一次コイルからなる送信手段5等にて構成されている。なお、送信手段5の中心には図示なき磁石が取り付けられており、後述する体内装置1b側の受信手段6との位置固定に使用される。
【0055】
体内装置1bは、体外装置1aから送信される画像データや電力を電磁波で受信する受信手段6と体内装置1bの制御を行うための制御部7aを備える受信ユニット7と、網膜を構成する細胞を電気刺激する刺激部(刺激ユニット)8と、複数の電極10とから構成されている。なお、刺激部8は上述した刺激回路100を有し、刺激回路100は制御部7aによる制御信号に基づき、電極10から双極性パルス信号を出力させる。
【0056】
以上の構成を備える視覚再生補助装置1の動作を説明する。撮影装置3で撮影された被写体像は外部デバイス4で画像データに変換されて、送信手段5から電磁波として体内装置1b側に送信される。体内装置1b側では、体外装置1aから供給され、受信手段6で受信された画像データ及び電力が制御部7aに送信される。制御部7aでは受信信号に基づき、刺激回路100を動作させて、各電極10から双極性パルス(電気刺激パルス)を出力させる。これにより、患者眼の網膜E1を構成する細胞が刺激されて、患者は視覚を得るようになる。
【0057】
この時、本実施形態では、双極性パルスの刺激条件に関わらず、刺激回路100の接続点の電位が電源Vhの電位よりも高くならないようにされているので、電極10からは様々なバリエーションの電気刺激パルスが出力させることができ、患者に多様な視覚を与えることができるようになる。
【0058】
なお、本発明の生体組織用刺激回路100は、これ以外にも、生体内の様々な部位の生体組織の刺激に用いられることで、長期間安定した生体の電気刺激を行う事が出来るようになる。例えば、患者に聴覚を与えるための人工内耳、不整脈の発生を抑制するための心臓ペースメーカ等、患者の体内に長期間埋植して生体に所定の電気刺激を与えるための刺激回路に本発明の構成が適用されることで、双極性パルスの刺激条件の設定範囲を広くする事ができると共に、生体組織の電気刺激を長期間安定して行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】生体組織用刺激回路の回路ブロック図である。
【図2】刺激回路の第1実施形態である。
【図3】第1実施形態の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図4】第1実施形態の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図5】第1実施形態の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図6】最大電位検出回路を用いた場合の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図7】最大電位検出回路を用いた場合の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図8】最大電位検出回路を用いた場合の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図9】生体組織用刺激回路の第2実施形態である。
【図10】第2実施形態の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図11】第2実施形態の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図12】第2実施形態の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図13】生体組織用刺激回路の第3実施形態である。
【図14】生体組織用刺激回路の第4実施形態である。
【図15】視覚再生補助装置の制御系のブロック図を示す。
【図16】従来技術の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図17】従来技術の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図18】従来技術の刺激回路の双極性パルス電流と接続点電位との関係の説明図である。
【図19】生体組織用刺激回路の第5実施形態である。
【図20】寄生PN接合の説明図である。
【符号の説明】
【0060】
SW1、SW2、SW3、SW4 半導体スイッチ
A、B 接続点
10 電極
20 対向電極
100 生体組織用刺激回路
200 電位補償回路
210 検出回路
220 電圧調整回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源側に接続される第1半導体スイッチと接地側に接続される第3半導体スイッチを直列接続してなる第1直列部と,電源側に接続される第2半導体スイッチと接地側に接続される第4半導体スイッチを直列接続してなる第2直列部とが並列接続されてなるHブリッジ回路と、
前記第1直列部の第1半導体スイッチと第3半導体スイッチとの間の第1接続点に接続される刺激電極と、
前記第2直列部の第2半導体スイッチと第4半導体スイッチとの間の第2接続点に接続される対向電極と、
前記接続点における電位を調節するための電位補償回路と、
を備えることを特徴とする生体組織用刺激回路。
【請求項2】
請求項1の生体組織用刺激回路において、前記電位補償回路はオフとされた前記半導体スイッチの寄生PN接合が順バイアスにされない電圧範囲内となるように前記第1接続点又は前記第2接続点における電位を調節することを特徴とする生体組織用刺激回路。
【請求項3】
請求項2の生体組織用刺激回路において、前記電位補償回路は前記第1接続点,及び第2接続点の少なくとも一方の電位を検出する検出回路を有することを特徴とする生体組織用刺激回路。
【請求項4】
請求項3の生体組織用刺激回路において、
前記検出回路が前記第1接続点及び第2接続点の両方に接続されている場合には、前記検出回路は、前記第1接続点及び第2接続点の平均電位もしくは前記第1接続点及び第2接続点のうち高い方又は低い方の電位を検出することを特徴とする生体組織用刺激回路。
【請求項5】
請求項1の生体組織用刺激回路において、
前記電位補償回路は、ブートストラップ回路であることを特徴とする生体組織用刺激回路。
【請求項6】
請求項5の生体組織用刺激回路の前記電位補償回路は、
前記電源側に接続される整流回路と、
該整流回路に接続されると共に前記電源側の第1半導体スイッチ又は第2半導体スイッチに接続されて双極性パルスの一方向の電位で充電されるコンデンサと、からなり
前記双極性パルスの極性の反転により前記コンデンサの充電電位が前記電源の電位よりも高くなることで、前記第1接続点及び前記第2接続点の電位によって前記第1半導体スイッチ又は前記第2半導体スイッチが順バイアスされることが抑えられることを特徴とする神経組織用刺激回路。
【請求項1】
電源側に接続される第1半導体スイッチと接地側に接続される第3半導体スイッチを直列接続してなる第1直列部と,電源側に接続される第2半導体スイッチと接地側に接続される第4半導体スイッチを直列接続してなる第2直列部とが並列接続されてなるHブリッジ回路と、
前記第1直列部の第1半導体スイッチと第3半導体スイッチとの間の第1接続点に接続される刺激電極と、
前記第2直列部の第2半導体スイッチと第4半導体スイッチとの間の第2接続点に接続される対向電極と、
前記接続点における電位を調節するための電位補償回路と、
を備えることを特徴とする生体組織用刺激回路。
【請求項2】
請求項1の生体組織用刺激回路において、前記電位補償回路はオフとされた前記半導体スイッチの寄生PN接合が順バイアスにされない電圧範囲内となるように前記第1接続点又は前記第2接続点における電位を調節することを特徴とする生体組織用刺激回路。
【請求項3】
請求項2の生体組織用刺激回路において、前記電位補償回路は前記第1接続点,及び第2接続点の少なくとも一方の電位を検出する検出回路を有することを特徴とする生体組織用刺激回路。
【請求項4】
請求項3の生体組織用刺激回路において、
前記検出回路が前記第1接続点及び第2接続点の両方に接続されている場合には、前記検出回路は、前記第1接続点及び第2接続点の平均電位もしくは前記第1接続点及び第2接続点のうち高い方又は低い方の電位を検出することを特徴とする生体組織用刺激回路。
【請求項5】
請求項1の生体組織用刺激回路において、
前記電位補償回路は、ブートストラップ回路であることを特徴とする生体組織用刺激回路。
【請求項6】
請求項5の生体組織用刺激回路の前記電位補償回路は、
前記電源側に接続される整流回路と、
該整流回路に接続されると共に前記電源側の第1半導体スイッチ又は第2半導体スイッチに接続されて双極性パルスの一方向の電位で充電されるコンデンサと、からなり
前記双極性パルスの極性の反転により前記コンデンサの充電電位が前記電源の電位よりも高くなることで、前記第1接続点及び前記第2接続点の電位によって前記第1半導体スイッチ又は前記第2半導体スイッチが順バイアスされることが抑えられることを特徴とする神経組織用刺激回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−100708(P2012−100708A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249173(P2010−249173)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】
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