説明

生体組織補填材とその製造方法

【課題】細胞を付着させるための十分に広い表面積を確保しながら取り扱い性を向上するとともに、薬剤等を含有させて徐放させる。
【解決手段】リン酸イオンを含む水溶液にハイドロゲル原料高分子を添加して調製した膨潤液を、カルシウムイオンを含む水溶液に滴下することにより製造された生体組織補填材1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織補填材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織欠損部等に補填されて、該生体組織欠損部における細胞の成長を促進し、生体組織欠損部を修復する生体組織補填材が知られている(例えば、特許文献1〜6参照)。
特許文献1および特許文献2に開示されている生体組織補填材は、球状のセラミックス粒子に係るものである。球状に形成されたセラミックス粒子によれば、細胞を播種させる表面積を最大限に確保することができる。
【0003】
また、特許文献3〜特許文献6に開示されている生体組織補填材は、ハイドロゲル等の生体高分子ゲルにサイトカイン等の薬剤やカルシウム化合物を含有させたものである。生体高分子ゲルによれば、含有されている薬剤を徐放させたり、細胞の成長に適したカルシウムを細胞に提供したりすることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2001−107585号公報
【特許文献2】特開2003−12383号公報
【特許文献3】特開2003−81866号公報
【特許文献4】特開2004−290586号公報
【特許文献5】特開2006−306787号公報
【特許文献6】特表2004−507472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されている球状のセラミックス粒子からなる生体組織補填材は、多孔質構造を構成することができないために、内部に薬剤等を含浸させることができず、専ら、その大きな表面に細胞を付着させるために使用されるに過ぎない。
また、特許文献3〜特許文献6に開示されている生体組織補填材は、ブロック状に形成されるために表面積を広く確保することができず、多くの細胞を播種することができないために、生体組織欠損部の効率的な修復を図ることができないという不都合がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞を付着させるための十分に広い表面積を確保しながら取り扱い性を向上するとともに、薬剤等を含有させて徐放させることができる生体組織補填材とその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、リン酸イオンを含む水溶液にハイドロゲル原料高分子を添加して調製した膨潤液を、カルシウムイオンを含む水溶液に滴下することにより製造された生体組織補填材を提供する。
本発明によれば、膨潤液をカルシウムイオンを含む水溶液に滴下すると、膨潤液に含まれるリン酸イオンとカルシウムイオンが化合してリン酸カルシウムが析出すると同時に、膨潤液に含まれるハイドロゲル原料高分子がカルシウムイオンによって架橋されてハイドロゲルが形成される。
【0008】
リン酸カルシウムの析出とハイドロゲルの形成は、膨潤液の液滴がカルシウムイオンを含む水溶液に接触した瞬間に生じるため、リン酸カルシウムが含有された球状のハイドロゲルからなる生体組織補填材となる。
このように構成された本発明に係る生体組織補填材によれば、球状に形成されることにより、表面積を最大限に確保することができるとともに、含有されるリン酸カルシウムにより表面への細胞の生着性を向上することができる。したがって、生体組織欠損部等に補填されたときに、細胞の効率的な成長を促進し、生体組織を迅速に修復することができる。また、リン酸カルシウム微粒子のみからなる生体組織補填材と比較して、ハイドロゲルにより構成された本発明に係る生体組織補填材は取り扱い性を向上することができる。
【0009】
上記発明においては、直径1〜1000μmの球状のハイドロゲル内にセラミックス微粒子が含有されていることとしてもよい。
また、上記発明においては、デキサメタゾン、アスコルビン酸またはβグリセロリン酸の少なくとも1種類からなる添加剤が含有されていることが好ましい。
このようにすることで、生体内におけるハイドロゲルの吸収に伴って、該ハイドロゲル内に含有されていた添加剤を放出させる徐放性を持たせることができ、細胞の成長を長時間にわたり促進することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記ハイドロゲル原料高分子が、アルギン酸、コラーゲン、アガロース、ヒアルロン酸、キトサンまたはゼラチンの少なくとも1種類からなることとしてもよい。
このようにすることで、いずれのハイドロゲル原料高分子を採用しても、生分解性のハイドロゲルを構成することができる。
【0011】
また、本発明は、リン酸イオンを含む水溶液にハイドロゲル原料高分子を添加して膨潤液を調製する調製ステップと、該調製ステップにおいて調製された膨潤液を、カルシウムイオンを含む水溶液に滴下する滴下ステップとを備える生体組織補填材の製造方法を提供する。
本発明によれば、調製ステップにおいて調製された膨潤液を、滴下ステップにおいてカルシウムイオンを含む水溶液に滴下するだけで、液滴がカルシウムイオンを含む水溶液に接触した瞬間に球状のハイドロゲルを形成し、かつ、該球状のハイドロゲル内にリン酸カルシウムを析出させることができる。これにより、リン酸カルシウムを含有する球状のハイドロゲルからなる生体組織補填材を簡易に製造することができる。
【0012】
上記発明においては、前記調製ステップが、リン酸イオンを含む水溶液と添加剤とを混合した混合液にハイドロゲル原料高分子を添加して膨潤液を調製することとしてもよい。
このようにすることで、球状のハイドロゲル内にリン酸カルシウムと添加剤とを含有した生体組織補填材を簡易に製造することができる。ハイドロゲルの消滅に伴って添加剤が放出される徐放性を有する生体組織補填材を提供することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記添加剤が、デキサメタゾン、アスコルビン酸またはβグリセロリン酸の少なくとも1種類からなることとしてもよい。
また。前記ハイドロゲル原料高分子が、アルギン酸、コラーゲン、アガロース、ヒアルロン酸、キトサンまたはゼラチンの少なくとも1種類からなることとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る生体組織補填材によれば、細胞を付着させるための十分に広い表面積を確保しながら取り扱い性を向上するとともに、薬剤等を含有させて徐放させることができるという効果を奏する。
また、本発明に係る生体組織補填材の製造方法によれば、リン酸カルシウムを含有する球状のハイドロゲルからなる生体組織補填材を簡易に製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る生体組織補填材とその製造方法について、図1および図2を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織補填材1は、図1に示されるように、直径約1〜1000μmの球状に形成されたハイドロゲル2の内部に、リン酸カルシウム3およびサイトカイン4を含有したものである。
【0016】
ハイドロゲル2は、例えば、アルギン酸ハイドロゲルであり、生体吸収性を有している。
リン酸カルシウム3は、例えば、ハイドロキシアパタイトである。また、サイトカイン4は、例えば、デキサメタゾン、アスコルビン酸またはβグリセロリン酸の少なくとも1つを含んでいる。
【0017】
このように構成された本実施形態に係る生体組織補填材1によれば、球状に形成されているので、表面積が大きく、生体組織欠損部に高い充填密度で補填することができる。その結果、表面に多数の細胞を生着させることができ、細胞の成長を促進して、効率的に生体組織欠損部を修復することができる。
【0018】
ハイドロゲル2のみからなる生体組織補填材の場合には、その表面への細胞の接着性は低いが、本実施形態に係る生体組織補填材1には、細胞の接着性の高いリン酸カルシウムが含有されているので、細胞を容易に生着させることができる。
【0019】
さらに、球状のハイドロゲル2により構成されているので、顆粒状のリン酸カルシウム3からなる生体組織補填材と比較すると、生体組織欠損部への補填の際の取り扱い性を向上することができる。すなわち、顆粒状のリン酸カルシウムからなる生体組織補填材の場合には、生体組織欠損部への入口周辺の表皮組織等に付着してしまうので、補填作業を慎重に行ったり、専用の器具を用いたりする必要があるが、本実施形態に係る生体組織補填材1によれば、そのような不都合はない。
【0020】
また、本実施形態に係る生体組織補填材1によれば、ハイドロゲル2内にサイトカイン4が含有されているので、生体組織欠損部等に補填されることによってハイドロゲル2が経時的に分解されて消滅していくと、これに応じて含有されているサイトカイン4が放出されていく。したがって、長期間にわたりサイトカイン4を徐放し続けることができ、細胞の成長を長期間にわたって促進し続けることができる。
【0021】
なお、本実施形態に係る生体組織補填材1においては、リン酸イオンを含む水溶液内のリン酸イオンの濃度を調節することにより、ハイドロゲル2内に含有されるリン酸カルシウム3の比率を20〜80%の範囲で調節することとすればよい。
【0022】
次に、本実施形態に係る生体組織補填材1の製造方法について、図2を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織補填材1の製造方法は、図2に示されるように、pH7以上のリン酸イオン水溶液と、サイトカイン4とを混合して混合液を調製する混合液調製ステップS1と、該混合液調製ステップS1において調製された混合液にアルギン酸を添加して膨潤液を調製する膨潤液調製ステップS2と、該膨潤液調製ステップS2において調製された膨潤液を塩化カルシウム水溶液に滴下する滴下ステップS3とを備えている。
【0023】
混合液調製ステップS1は、例えば、リン酸イオンを含む水溶液を水酸化ナトリウム等によりpH7以上に調製した後、得られたリン酸水溶液に、デキサメタゾン、アスコルビン酸またはβグリセロリン酸の少なくとも1つからなるサイトカイン4を添加して溶解させることにより混合液を得るようになっている。
膨潤液調製ステップS2は、得られた混合液にアルギン酸を1%加えて1昼夜放置することにより膨潤液を作成するようになっている。
【0024】
滴下ステップS3は、得られた膨潤液を分液ロートに入れ、準備しておいた0.2M塩化カルシウム水溶液に滴下するようになっている。塩化カルシウム水溶液に滴下された膨潤液の液滴は、塩化カルシウム水溶液に接触した瞬間に、膨潤液内に含まれているリン酸イオンおよびアルギン酸が、塩化カルシウム水溶液内に存在しているカルシウムイオンと反応するようになっている。
【0025】
すなわち、リン酸イオンとカルシウムイオンとが反応することにより、リン酸カルシウム3が析出される。一方、アルギン酸がカルシウムイオンによって架橋されることによりハイドロゲル化する。アルギン酸は、塩化カルシウム水溶液に滴下された膨潤液のほぼ液滴形状のままでハイドロゲル化させられることにより、略球状のハイドロゲル2が形成される。析出したリン酸カルシウム3および混合液に含まれていたサイトカイン4は球状のハイドロゲル2内に含有された状態で一体的に形成される。
【0026】
このように本実施形態に係る生体組織補填材1の製造方法によれば、リン酸イオンを含む水溶液、サイトカイン4およびアルギン酸を混合した膨潤液を塩化カルシウム水溶液に滴下するだけで、リン酸カルシウム3およびサイトカイン4を含有する球状のハイドロゲル2からなる生体組織補填材1を簡易に製造することができるという利点がある。
【0027】
ここで、本実施形態に係る生体組織補填材1の製造方法の一実施例について、説明する。
本実施例においては、共沈法によりアルギン酸/リン酸カルシウム複合体を合成した。
まず、0.12Mのリン酸水素アンモニウム(NHHPOを20mL準備した。次いで、この0.12Mリン酸水素アンモニウムにアルギン酸を2重量%となるように加え、室温で24時間放置して、リン酸イオンを含むアルギン酸膨潤液を得た。
【0028】
そして、このリン酸イオンを含むアルギン酸膨潤液をシリンジに注入し、これを0.2Mの塩化カルシウム水溶液中に滴下することにより、球状のアルギン酸/リン酸カルシウム複合体を合成した。得られた球状のアルギン酸/リン酸カルシウム複合体を150μmのナイロン製メッシュに通すことにより、塩化カルシウム水溶液から複合体を回収し、蒸留水を用いて洗浄した。これにより、本実施形態に係る生体組織補填材1を製造することができた。
【0029】
なお、本実施形態に係る生体組織補填材1とその製造方法においては、ハイドロゲル原料高分子としてアルギン酸を例示して説明したが、これに代えて、コラーゲン、アガロース、ヒアルロン酸、キトサンあるいはゼラチンの少なくとも1種類を採用してもよい。また、カルシウムイオンを含む水溶液として塩化カルシウム水溶液を採用したが、これに代えて、他のカルシウムイオンを含む水溶液を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織補填材を示す模式図である。
【図2】図1の生体組織補填材の製造方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0031】
S2 調製ステップ
S3 滴下ステップ
1 生体組織補填材
2 ハイドロゲル
3 リン酸カルシウム
4 添加剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸イオンを含む水溶液にハイドロゲル原料高分子を添加して調製した膨潤液を、カルシウムイオンを含む水溶液に滴下することにより製造された生体組織補填材。
【請求項2】
直径1〜1000μmの球状のハイドロゲル内にリン酸カルシウム微粒子が含有されている請求項1に記載の生体組織補填材。
【請求項3】
デキサメタゾン、アスコルビン酸またはβグリセロリン酸の少なくとも1種類からなる添加剤が含有されている請求項2に記載の生体組織補填材。
【請求項4】
前記ハイドロゲル原料高分子が、アルギン酸、コラーゲン、アガロース、ヒアルロン酸、キトサンまたはゼラチンの少なくとも1種類からなる請求項1から請求項3のいずれかに記載の生体組織補填材。
【請求項5】
リン酸イオンを含む水溶液にハイドロゲル原料高分子を添加して膨潤液を調製する調製ステップと、
該調製ステップにおいて調製された膨潤液を、カルシウムイオンを含む水溶液に滴下する滴下ステップとを備える生体組織補填材の製造方法。
【請求項6】
前記調製ステップが、リン酸イオンを含む水溶液と添加剤とを混合した混合液にハイドロゲル原料高分子を添加して膨潤液を調製する請求項1に記載の生体組織補填材の製造方法。
【請求項7】
前記添加剤が、デキサメタゾン、アスコルビン酸またはβグリセロリン酸の少なくとも1種類からなる請求項6に記載の生体組織補填材の製造方法。
【請求項8】
前記ハイドロゲル原料高分子が、アルギン酸、コラーゲン、アガロース、ヒアルロン酸、キトサンまたはゼラチンの少なくとも1種類からなる請求項5から請求項7のいずれかに記載の生体組織補填材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−279007(P2008−279007A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124828(P2007−124828)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】