説明

生体試料反応用チップ、生体試料反応装置、および生体試料反応方法

【課題】微量な反応液を簡易な方法で反応容器に供給し、一度に多くの検体の処理を効率よく行う。
【解決手段】マイクロリアクターアレイ10は、複数の反応容器103と、反応容器103と同一平面上に、各々の反応容器103と微細流路105を介して接続された反応液導入用流路104が設けられている。反応液導入用流路104の始点部Sに接続して設けられた反応液収容部106に反応液を供給し、反応液導入用流路104の始点部Sから終端部Gに向かう方向に遠心力がかかるようにマイクロリアクターアレイ10を回転させることにより、反応液を各々の反応容器103に充填する。この時、反応液導入用流路104の終端部Gに接続して設けられたU字型の流路109の毛管力と上記遠心力が均衡することによって、反応液がU字型の流路109の頂点の手前で移動を停止し、反応液が廃液収容部110へ流出するのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅などの生体試料反応を行うための、生体試料反応用チップ、生体試料反応装置、および生体試料反応方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板等に微細流路が設けられたマイクロ流体チップを使用して、化学分析や化学合成、あるいはバイオ関連の分析などを行う方法が注目されている。マイクロ流体チップは、マイクロTotal Analytical System (マイクロTAS)や、Lab-on-a-chip等とも呼ばれ、従来の装置に比較して試料や試薬の必要量が少ない、反応時間が短い、廃棄物が少ないなどのメリットがあり、医療診断、環境や食品のオンサイト分析、医薬品や化学品などの生産等、広い分野での利用が期待されている。試薬の量が少なくてよいことから、検査のコストを下げることが可能となり、また、試料および試薬の量が少ないことにより、反応時間も大幅に短縮されて検査の効率化が図れる。特に、医療診断に使用する場合には、試料となる血液など検体を少なくすることができるため、患者の負担を軽減できるというメリットもある。
【0003】
試薬や試料として用いるDNAやRNAなどの遺伝子を増幅する方法として、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法がよく知られている。PCR法は、ターゲットのDNAと試薬を混合したものをチューブに入れて、サーマルサイクラーという温度制御装置で、55℃、72℃、94℃の3段階の温度変化を数分の周期で繰り返し反応させるもので、ポリメラーゼという酵素の作用により温度サイクル1回あたり、約2倍にターゲットDNAだけを増幅することができる。
【0004】
近年、特殊な蛍光プローブを用いたリアルタイムPCRという方法が実用化され、増幅反応を行いながらDNAの定量ができるようになった。リアルタイムPCRは、測定の感度、信頼性が高いことから、研究用、臨床検査用に広く使われている。
【0005】
しかし、従来の装置では、PCRに必要な反応液の量は数十μlが標準的であり、また、1つの反応系では基本的に1つの遺伝子の測定しかできないという問題があった。蛍光プローブを複数入れてその色で区別することにより4種類程度の遺伝子を同時に測定する方法もあるが、それ以上の遺伝子を同時に測定するためには反応系の数を増やすしかなかった。検体から抽出されるDNAの量は一般に少量であり、また試薬も高価なため同時に多数の反応系を測定することは困難であった。
【0006】
特許文献1や2には、回転駆動装置を使用して、PCR反応溶液や血液などの液状の検体試料を複数のチャンバに正確に流し込む発明が開示されている。
また、特許文献3には、半導体基板上に集積化されたマイクロウェルを作製して、当該ウェルの中でPCRを行うことにより、微量のサンプルで、多数のDNA試料を一度に増幅して解析を行う方法が開示されている。
【特許文献1】特開2006−126010号公報
【特許文献2】特開2006−126011号公報
【特許文献3】特開2000−236876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、1μl以下の微量な反応液を簡易な方法で反応容器に供給し、一度に多くの検体の処理を効率よく行うことが可能な、生体試料反応用チップ、生体試料反応装置、および生体試料反応方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る生体試料反応用チップは、同一平面上に配置された複数の反応容器と、各々の前記反応容器と微細流路を介して接続された反応液導入用流路と、前記反応液導入用流路の終端部に接続され、反応液の移動の制御が可能な反応液移動停止手段とを備え、前記反応容器と前記微細流路との接続面が、前記反応液導入用流路の送液方向に垂直であるように構成されているものである。
【0009】
本発明によれば、生体試料反応用チップに反応液導入用流路の始点部から終端部に向かう方向の遠心力をかけて、反応容器内に反応液を充填するのに適しており、ピペットで定量することが難しい非常に少量の反応液でも、所定量反応容器内に供給することができる。このように、少ない反応液を簡易な方法で反応容器に供給し、効率よく反応処理を行うことが可能となる。また、反応液の量が少量でよいため、コストを下げることが可能となり、また、反応時間も大幅に短縮されて処理の効率化が図れる。また、一度に多数の反応容器内で処理を行うことができるため、多種類の検査等を少ない試薬の量で効率よく行うことができる。
【0010】
また、前記反応液導入用流路の始点部に接続された反応液収容部をさらに備えることが望ましい。これにより、反応液収容部に予め反応液を供給しておき、遠心力をかけることによって反応液導入用流路に反応液が導入されるようにできるので、簡易な仕組みで、遠心力を用いて反応容器内に反応液を充填することができる。
【0011】
また、前記反応液移動停止手段に接続された廃液収容部をさらに備えることが望ましい。これにより、反応容器内に供給されなかった反応液を、遠心力を用いて効率よく回収することができる。
【0012】
また、各々の前記反応容器には、反応に必要な試薬を塗布しておくことができる。
これにより、使用者は、反応液を充填するだけで簡易に検査等を行うことができる。
【0013】
本発明に係る生体試料反応装置は、上記の生体試料反応用チップを用いて生体試料反応処理を行うための生体試料反応装置であって、前記生体試料反応用チップを回転中心の周りに固定する固定部を備え、前記反応液導入用流路の始点部から終端部に向かう方向に遠心力がかかるように、前記生体試料反応用チップを回転させる遠心装置を備えている。
【0014】
本発明によれば、非常に少量の反応液でも、所定量を反応容器内に供給することができる。このように、少ない反応液を簡易な方法で反応容器に供給し、効率よく反応処理を行うことが可能となる。また、反応液の量が少量でよいため、コストを下げることが可能となり、また、反応時間も大幅に短縮されて処理の効率化が図れる。また、一度に多数の反応容器内で処理を行うことができるため、多種類の検査等を少ない試薬の量で効率よく行うことができる。
【0015】
また、前記生体試料反応用チップは、前記反応液移動停止手段がU字型の流路であって、前記U字型の流路の一方の端部が前記反応液導入用流路の終端部に接続され、前記U字型の流路の頂点の前記回転中心からの距離が、前記反応液導入用流路の前記始点部の前記回転中心からの距離よりも短くなるようにすることができる。
【0016】
これにより、簡易な仕組みで、遠心力を用いて反応容器内に反応液を充填するのに適した反応液移動停止手段を得ることができる。なお、生体試料反応用チップに遠心力がかかっている際に、U字型の流路内を進行する反応液が受ける毛管力と遠心力が均衡することにより反応液の移動が停止するときの先端の位置が、U字型の頂点よりも手前となるようにする必要がある。これにより、反応液が前記反応液導入用流路から流れ出てしまうのを防止することができる。
【0017】
前記廃液収容部は前記U字型の流路の他方の端部に接続され、その接続部の前記回転中心からの距離が、前記反応液導入用流路の終端部の前記回転中心からの距離よりも長いことが望ましい。
【0018】
これにより、U字型の流路が毛管力により反応液で満たされた後に、生体試料反応用チップを回転させた際、廃液収容部が反応液導入用流路の終端部よりも回転中心から遠い位置にあるため、サイフォン効果により、反応液導入用流路内にある反応液をすべて排出することができる。
【0019】
本発明に係る生体試料反応方法は、上記の生体試料反応装置を用いた生体試料反応方法であって、前記生体試料反応用チップに前記反応液を供給する工程と、前記反応液導入用流路の始点部から終端部に向かう方向に遠心力がかかるように、前記生体試料反応用チップを回転させ、前記反応液を各々の前記反応容器に充填する工程と、生体試料反応処理を実行する工程と、を有し、前記反応液を各々の前記反応容器に充填する工程では、前記反応液移動停止手段によって、前記反応液の移動が停止されることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、非常に少量の反応液でも、所定量を反応容器内に供給することができる。このように、少ない反応液を簡易な方法で反応容器に供給し、効率よく反応処理を行うことが可能となる。また、反応液の量が少量でよいため、コストを下げることが可能となり、また、反応時間も大幅に短縮されて処理の効率化が図れる。また、一度に多数の反応容器内で処理を行うことができるため、多種類の検査等を少ない試薬の量で効率よく行うことができる。
【0021】
また、前記反応液を各々の前記反応容器に充填する工程と前記生体試料反応処理を実行する工程の間に、前記反応液導入用流路の始点部から終端部に向かう方向に遠心力がかかるように、前記生体試料反応用チップを回転させ、前記反応液導入用流路内の前記反応液を排出する工程と、前記反応液導入用流路に、前記反応液と混和せず前記反応液よりも蒸発しにくい液体を充填する工程と、を有することが望ましい。
【0022】
反応液導入用流路に、反応液と混和せず反応液よりも蒸発しにくい液体を充填することにより、各々の反応容器を分離して、反応容器間でのコンタミネーションを防止することができる。また、反応処理中に、反応液が蒸発するのを防止することもできる。
【0023】
また、生体試料反応用チップの反応液移動停止手段としてU字型の流路を用い、前記生体試料反応用チップに前記反応液を供給する工程と、前記反応液導入用流路の始点部から終端部に向かう方向に遠心力がかかるように、前記生体試料反応用チップを回転させ、前記反応液を各々の前記反応容器に充填する工程と、回転を停止して、前記反応液が毛管力により前記U字型の流路内を進行し、前記廃液収容部に到達する工程と、前記反応液導入用流路の始点部から終端部に向かう方向に遠心力がかかるように、前記生体試料反応用チップを回転させ、前記反応液導入用流路内の前記反応液を排出する工程と、前記反応液導入用流路に、前記反応液と混和せず前記反応液よりも蒸発しにくい液体を充填する工程と、生体試料反応処理を実行する工程と、を備え、前記反応液を各々の前記反応容器に充填する工程では、前記U字型の流路の毛管力と前記遠心力が均衡することによって、前記反応液が前記U字型の流路の頂点の手前で移動を停止することが望ましい。
【0024】
これにより、簡易な仕組みで、遠心力を用いて反応容器内に反応液を充填するのに適した反応液移動停止手段を得ることができる。また、反応液を各々の反応容器に充填する工程では、U字型の流路の毛管力と前記遠心力が均衡することによって、前記反応液が前記U字型の流路の頂点の手前で移動を停止するようにしたので、反応液が前記反応液導入用流路内から流れ出てしまうのを防止することができる。
【0025】
また、前記生体試料反応処理は核酸増幅を含む処理であり、前記反応液には、ターゲット核酸、核酸を増幅するための酵素、及びヌクレオチドが所定の濃度で含まれており、前記反応容器には、予めプライマーが塗布されていることとすることができる。
また、リアルタイムPCR処理を行う場合には、反応装置内に予め蛍光プローブを塗布しておいてもよい。
【0026】
反応液移動停止手段としては、U字型の流路の他に、チップ上でバルブとして機能するものから様々な手段を選択できる。例えば、PDMSのように外部からの力により変形しやすい材料で流路を形成する場合、機械的に流路を閉鎖することができる。また、多孔質のフィルター、流路幅のくびれ、流路内壁の撥水処理などの方法も選択可能である。このような液体の表面張力を利用する場合には、遠心装置の回転速度により、反応液の移動および停止を制御することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1(A)は、本発明の実施の形態1によるマイクロリアクターアレイ(生体試料反応用チップ)10の概略構成を示す上面図、図1(B)は図1(A)のB−B断面図である。図に示すように、マイクロリアクターアレイ10は、透明基板101,102、反応容器103、反応液導入用流路104、微細流路105、反応液収容部106、反応液供給口107、反応液収容部106と反応液導入用流路104を繋ぐ流路108、U字型の流路(反応液移動停止手段)109、廃液収容部110、廃液収容部110に設けられた排気口111を備えている。
【0028】
図1に示すように、マイクロリアクターアレイ10は、透明基板101,102を貼り合わせて構成されている。透明基板101には、反応液供給口107および排気口111が形成されている。透明基板102には、反応容器103、反応液導入用流路104、微細流路105、反応液収容部106、流路108、U字型の流路109、廃液収容部110が形成されている。透明基板101,102は例えばガラス基板とすることができ、その場合には、上記の各構成はエッチングやサンドブラスト法によって形成することができる。
反応液導入用流路104、微細流路105、及びU字型の流路109は、反応液の流れる方向に垂直な断面が、幅200μm、深さ100μmに形成されている。流路108は、幅100μm、深さ100μmに形成されている。
【0029】
図2(A)は、反応容器103と微細流路105の構成を詳しく説明する図である。反応容器103は、例えば直径500μmの円形状で、深さ100μmに形成されている。反応容器103は、微細流路105を介して反応液導入用流路104と連通している。隣り合う反応容器103間の距離は、反応容器103間での反応液の混合を防止できるように十分に確保されている。
【0030】
また、反応容器103と微細流路105の接続面Pは、反応液導入用流路104の送液方向に垂直になるように構成されている。仮に図2(B)に示すように、接続面Pが反応液導入用流路104の送液方向に垂直に構成されていない場合、斜線部分に溜まった気泡が接続面Pを通って外部へ排出されず、反応容器103にうまく反応液を充填することができなくなる。
【0031】
なお、反応容器103、反応液導入用流路104、及び微細流路105の内壁面は、気泡の吸着を防止するため親液性となるように表面処理を施しておくことが望ましい。また、反応容器103、反応液導入用流路104、及び微細流路105の内壁面にはタンパク質などの生体分子の非特異吸着を抑制する表面処理が施されていることが望ましい。
【0032】
図3を用いて、マイクロリアクターアレイ10に反応液を供給する方法を説明する。PCRを行う場合、反応液には、ターゲット核酸、ポリメラーゼ、及びヌクレオチド(dNTP)が反応に適した所定の濃度で含まれている。
ターゲット核酸は、例えば血液、尿、唾液、髄液のような生体サンプルから抽出したDNA、または抽出したRNAから逆転写したcDNAなどを用いることができる。
プライマーは反応液に含まれていてもよいが、本実施例のマイクロリアクターアレイでは、各反応容器103内に、予め塗付され乾燥状態で収容されている。それぞれの反応容器103には、異なるプライマーが塗付されており、同時に多数のPCRが行えるようになっている。
【0033】
まず、図3(A)に示すように、反応液供給口107から、ピペット等を用いて反応液収容部106に反応液を供給する。このとき、反応液は、流路108と反応液導入用流路104の接続部分で停止し、反応液導入用流路104内へは浸入していかない。これは、流路108が反応液導入用流路104よりも細くなっており、流路108と反応液導入用流路104の接続部分の毛管力P1が反応液導入用流路104の毛管力P2よりも大きいためである。
【0034】
一般に、液体が微細な流路内に進入する際には、以下の式で表される毛管力Pが作用する。
P=(lγcosθ)/S
ここで、lは流路の流れに垂直な断面の周長、Sはその面積、γは表面張力、θは接触角、である。ここでは各流路におけるγ、θは一定とすると、l/Sの値により各流路の毛管力の大小関係が決まる。
【0035】
次に、マイクロリアクターアレイ10を図4に示す遠心装置(生体試料反応装置)20を用いて回転させる。
図4に示すように、遠心装置20は、回転テーブル21の上に、マイクロリアクターアレイ10を設置する固定部22が回転軸Oの周りに設けられている。遠心装置20を回転させることにより、マイクロリアクターアレイ10には、反応液導入用流路104の始点部Sから終端部Gに向かう方向に遠心力がかかる。
【0036】
図3(B)に示すように、マイクロリアクターアレイ10に遠心力がかかることにより、反応液は反応液導入用流路104を充填しながら進み、さらに、微細流路105を通って、反応容器103を充填する。図2(A)で示したとおり、反応容器103は微細流路105との接続部分よりも回転中心から遠い位置に形成されているため、反応液よりも比重の軽い空気が微細流路105を通って反応液導入用流路104内へ押し出され、反応液と入れ替わることにより、反応容器103が反応液で満たされる。
【0037】
反応液は反応液導入用流路104の終端部Gまで達すると、毛管力によりU字型の流路109内を進行する。ただし、マイクロリアクターアレイ10には遠心力がかかっているため、U字型の流路109内を進行する反応液は毛管力と遠心力が均衡する位置で停止する。すなわち、U字型の流路109内における液面の先端と回転中心との距離と、反応液収容部106内、或いは反応液導入用流路104内における液面の先端と回転中心との距離とが等しくなる位置で反応液は停止する。このように、U字型の流路109が反応液の移動停止手段として作用するので、回転を続けても反応液は廃液収容部110の方へ流れず、反応容器103内に浸入し、反応容器103に反応液を充填させることができる。
【0038】
なお、このときのU字型の流路109内の液面の先端は、U字型の頂点Tよりも手前となるよう反応液量の上限を越えないようにする必要がある。これは、反応液がU字型の頂点Tを通過すると、反応液はU字型の流路109を回転中心から離れる方向に容易に進行するので、U字型の流路109が反応液で満たされてしまい、サイフォン効果によって反応液が廃液収容部110に流れてしまうためである。逆に、反応液量の下限を下回る場合には、すべての反応容器を充填できない恐れがある。
【0039】
次に、回転を停止すると、図3(C)に示すように、反応液は毛管力によりU字型の流路109内を進行するが、U字型の流路109の毛管力P3よりも廃液収容部110の毛管力P4が小さいため、反応液は廃液収容部110の入り口に到達して停止する。
【0040】
さらに再び遠心装置20にてマイクロリアクターアレイ10を回転させると、廃液収容部110が反応液導入用流路104及びU字型の流路109よりも回転中心から遠い位置にあるため、図3(D)に示すように、遠心力とサイフォン効果により、反応液導入用流路104及びU字型の流路109内にある反応液は廃液収容部110に流出して収容される。このとき、反応容器103に収容された反応液は、反応容器103から外へは排出されない。
【0041】
次に、回転を停止し、図3(E)に示すように、反応液供給口107から、ピペット等を用いて反応液収容部106にミネラルオイルを供給する。
【0042】
さらに、遠心装置20でマイクロリアクターアレイ10を回転させることにより、図3(F)に示すように、反応液導入用流路104にミネラルオイルを充填する。この時、反応液の比重がミネラルオイルよりも重いので、微細流路105及び反応容器103内の反応液はミネラルオイルと入れ替わらない。これにより、個々の反応容器103を分離して、反応容器103間でのコンタミネーションを防止することができる。また、反応処理中に、反応容器103内が乾燥することを防止することもできる。なお、ミネラルオイルの代わりに反応液よりも比重が軽く、反応液と混和せず反応液よりも蒸発しにくい液体であれば用いることができる。
【0043】
以上のような手順でマイクロリアクターアレイ10に反応液を供給したら、マイクロリアクターアレイ10をサーマルサイクラーに設置しPCR処理を行う。一般的には、まず、94℃で2本鎖DNAを解離させる工程を実行し、次に、プライマーを約55℃でアニーリングする工程を実行し、次に耐熱性のDNAポリメラーゼを使用して約72℃で相補鎖の複製を行う工程を含むサイクルを繰り返す。
【0044】
次に、マイクロリアクターアレイ10を用いた、リアルタイムPCRの実施方法について説明する。
マイクロリアクターアレイ10をリアルタイムPCR反応用の反応装置として用いる場合、反応容器104の内壁にはPCR反応に用いるプライマーと蛍光プローブが予め塗布されており、1サイクル毎にCCDセンサ等を用いて蛍光強度を測定する。特定の蛍光強度に到達したサイクル数から、初期のターゲット核酸の量を算出測定する。なお、リアルタイムPCRの実施方法は上記のものに限られない。例えば、SYBR(登録商標) Greenのような二本鎖結合蛍光色素を用いる場合には、蛍光プローブは不要である。
【0045】
以上のように、実施の形態1によれば、マイクロリアクターアレイ10に反応液導入用流路104の始点部Sから終端部Gに向かう方向の遠心力をかけて、反応容器103内に反応液を充填するようにしたので、非常に少量の反応液でも、所定量を反応容器103内に供給することができる。反応液の量が少なくなると、熱容量が小さくなるので、PCRのサイクルタイムが短縮でき反応時間が短縮されて処理の効率化が図れる。また、一度に多数の反応容器103内で処理を行うことができるため、多種類の検査等を少ない試薬の量で効率よく行うことができる。また、各々の反応容器103に、ターゲット核酸の増幅と定量に必要なプライマー及び蛍光プローブを塗布しておくことにより、使用者は、反応液を充填するだけで簡易にPCR処理を行うことができる。
【0046】
なお、本実施形態では反応液収容部106を設け、マイクロリアクターアレイ10を回転させることによって流路108を介して反応液導入用流路104に反応液が導入されるようにしたが、反応液収容部106を設けず、反応液導入用流路104に直接反応液を供給するようにしてもよい。ただし、この場合、マイクロリアクターアレイ10に遠心力がかかる前に反応液が反応液導入用流路104の終端部Gを通過しないように制御する手段を設ける必要がある。これは、遠心力がかかる前に反応液がU字型の流路109内に入ってしまうと、毛管力によりU字型の流路109が反応液で満たされ、さらにサイフォン効果によって、反応液が廃液収容部110に流出してしまうからである。
【0047】
なお、実施の形態1では、マイクロリアクターアレイ10をリアルタイムPCR反応用の反応装置として用いたが、遺伝子や生体試料を用いた様々な反応に利用することができる。例えば、特定のタンパク質を特異的に捕捉(例えば、吸着、結合等)する抗原、抗体、レセプター、酵素等のタンパク質、ペプチド(オリゴペプチド)等を反応容器103内に塗布しておき、反応液からターゲットのタンパク質を検出する処理等に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1(A)は、本発明の実施の形態1によるマイクロリアクターアレイの概略構成を示す上面図、図1(B)は、図1(A)のB−B断面図である。
【図2】図2(A)は、反応容器と微細流路の構成を説明する図、図2(B)は、比較例による反応容器と微細流路の構成を説明する図である。
【図3】実施の形態1によるマイクロリアクターアレイに反応液を供給する方法を説明する図である。
【図4】実施の形態1による、遠心装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10 マイクロリアクターアレイ、101,102 透明基板、103 反応容器、104 反応液導入用流路、105 微細流路、106 反応液収容部、107 反応液供給口、108 流路、109 U字型の流路、110 廃液収容部、111 排気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一平面上に配置された複数の反応容器と、
各々の前記反応容器と微細流路を介して接続された反応液導入用流路と、
前記反応液導入用流路の終端部に接続され、反応液の移動の制御が可能な反応液移動停止手段と、を備え、
前記反応容器と前記微細流路との接続面が、前記反応液導入用流路の送液方向に垂直であることを特徴とする生体試料反応用チップ。
【請求項2】
前記反応液導入用流路の始点部に接続された反応液収容部をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の生体試料反応用チップ。
【請求項3】
前記反応液移動停止手段に接続された廃液収容部をさらに備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の生体試料反応用チップ。
【請求項4】
各々の前記反応容器には、反応に必要な試薬が塗布されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の生体試料反応用チップ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の生体試料反応用チップを用いて生体試料反応処理を行うための生体試料反応装置であって、
前記生体試料反応用チップを回転中心の周りに固定する固定部を備え、
前記反応液導入用流路の始点部から終端部に向かう方向に遠心力がかかるように、前記生体試料反応用チップを回転させる遠心装置を備えたことを特徴とする生体試料反応装置。
【請求項6】
前記生体試料反応用チップは、
前記反応液移動停止手段がU字型の流路であって、
前記U字型の流路の一方の端部が前記反応液導入用流路の終端部に接続され、
前記U字型の流路の頂点の前記回転中心からの距離が、前記反応液導入用流路の前記始点部の前記回転中心からの距離よりも短いことを特徴とする請求項5に記載の生体試料反応装置。
【請求項7】
前記廃液収容部は前記U字型の流路の他方の端部に接続され、その接続部の前記回転中心からの距離が、前記反応液導入用流路の終端部の前記回転中心からの距離よりも長いことを特徴とする請求項6に記載の生体試料反応装置。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれかに記載の生体試料反応装置を用いた生体試料反応方法であって、
前記生体試料反応用チップに前記反応液を供給する工程と、
前記反応液導入用流路の始点部から終端部に向かう方向に遠心力がかかるように、前記生体試料反応用チップを回転させ、前記反応液を各々の前記反応容器に充填する工程と、
生体試料反応処理を実行する工程と、を有し、
前記反応液を各々の前記反応容器に充填する工程では、前記反応液移動停止手段によって、前記反応液の移動が停止されることを特徴とする生体試料反応方法。
【請求項9】
前記反応液を各々の前記反応容器に充填する工程と前記生体試料反応処理を実行する工程の間に、
前記反応液導入用流路の始点部から終端部に向かう方向に遠心力がかかるように、前記生体試料反応用チップを回転させ、前記反応液導入用流路内の前記反応液を排出する工程と、
前記反応液導入用流路に、前記反応液と混和せず前記反応液よりも蒸発しにくい液体を充填する工程と、を有することを特徴とする請求項8に記載の生体試料反応方法。
【請求項10】
請求項6または請求項7に記載の生体試料反応装置を用いた生体試料反応方法であって、
前記生体試料反応用チップに前記反応液を供給する工程と、
前記反応液導入用流路の始点部から終端部に向かう方向に遠心力がかかるように、前記生体試料反応用チップを回転させ、前記反応液を各々の前記反応容器に充填する工程と、
回転を停止して、前記反応液が毛管力により前記U字型の流路内を進行し、前記廃液収容部に到達する工程と、
前記反応液導入用流路の始点部から終端部に向かう方向に遠心力がかかるように、前記生体試料反応用チップを回転させ、前記反応液導入用流路内の前記反応液を排出する工程と、
前記反応液導入用流路に、前記反応液と混和せず前記反応液よりも蒸発しにくい液体を充填する工程と、
生体試料反応処理を実行する工程と、を備え、
前記反応液を各々の前記反応容器に充填する工程では、前記U字型の流路の毛管力と前記遠心力が均衡することによって、前記反応液が前記U字型の流路の頂点の手前で移動を停止することを特徴とする生体試料反応方法。
【請求項11】
前記生体試料反応処理は核酸増幅を含む処理であり、前記反応液には、ターゲット核酸、核酸を増幅するための酵素、及びヌクレオチドが所定の濃度で含まれており、
前記反応容器には、予めプライマーが塗布されていることを特徴とする請求項8から請求項10のいずれかに記載の生体試料反応方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−150754(P2009−150754A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328429(P2007−328429)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】