説明

生体試料標本の作製方法

【課題】簡便な操作で、多数の抗原を標的とする免疫反応を行うことができ、しかも、同時実験で結果を比較することができる生体試料標本の作製方法を提供すること。
【解決手段】パラフィンブロック2に通孔4を形成する工程、パラフィンブロック2の通孔4内に組織8を充填する工程、パラフィンブロック2にて組織8が包埋された固形試料10を切断刃によって薄切し、組織8の周囲にパラフィンが配置された薄切片12を得る工程、複数の薄切片12をスライドガラス24上に乗せる工程、薄切片12のパラフィンを除去する工程、および組織8を染色する工程、を包含する生体試料標本の作製方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組織、細胞などの生体試料標本の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料(例えば組織切片、タッチスメア、細胞等)に存在する特定の標的物質(例えば抗原)の存在を判別する手法として、該標的物質をシグナルとして可視化し検出する免疫染色法が従来から用いられている。例えば、蛍光抗体法、酵素抗体法、重金属標識抗体法および放射性同位元素標識抗体法がある。
【0003】
蛍光抗体法は、標的抗原に対する抗体、通常はモノクローナル抗体を蛍光色素で標識し、組織切片上の抗原の分布を判別する手法で、直説法と間接法の2つの二重染色法に分類することができる。前者では、予め蛍光色素標識された抗体を抗原−抗体反応に用いて標的抗原を直接可視化し、後者では、最初に標的抗原に特異的な一次抗体を抗原との反応に供し、次いで該一次抗体に特異的な標識二次抗体を反応させ、いわば間接的に標的抗原を可視化する。
【0004】
酵素抗体法は、同様に抗原−抗体反応という特異反応を利用する手法である。抗体を酵素で標識し、抗原−抗体反応後に該酵素によって発色基質の沈着を生じさせて抗体の局在を示す点に特徴がある。標識酵素としては、西洋わさびペルオキシダーゼ(Horseradish peroxidase;HRP)、アルカリホスファターゼ(Alkaline phosphatase;ALP)、グルコースオキシダーゼ(Glucoseoxidase;GO)等が代表的である。
【0005】
酵素抗体法には、酵素標識抗体法である直説法、間接法およびアビジン・ビオチン化ペルオキシダーゼ複合体(Avidin−biotinylated peroxidase complex;ABC)法と、非標識抗体法としてのペルオキシダーゼ・抗ペルオキシダーゼ(Peroxidase−antiperoxidase;PAP)法とがあり、卵白の塩基性蛋白質であるアビジンに代わり、中性に荷電した、即ち中性化処理が不要なストレプトアビジン(Streptavidin)を用いるストレプトアビジン・ビオチン化抗体(Labeled streptavidin−biotinylated antibody;SABまたはLSAB)法が主流となっている。
【0006】
対象生体試料を上記免疫染色法に供する場合、通常、凍結切片やパラフィン切片として固相のマトリクス上に固定したものを調製して反応に付する。
【0007】
このように免疫的染色法を用いることにより、組織または細胞に存在する種々ペプチド性抗原(組織抗原、腫瘍抗原、免疫担当細胞亜型抗原、酵素、ホルモン等)、非ペプチド性の抗原、その他組織に沈着する免疫複合体等の検出が可能であり、各種疾患の診断マーカーの分布を判別することによる病理診断(例えば腫瘍マーカーの判別による腫瘍診断)も行われている。
【0008】
しかしながら、従来の免疫染色法では、作成した組織標本または細胞標本一つにつき、一種類の免疫反応しか行えないため、多数の抗原を標的とする免疫反応を行う場合にはそれに応じた多数の標本を調製する必要があり、資源と手間が要求される。
【0009】
特表2000−505431号公報(特許文献1)には、固形のパラフィンブロックに複数の穴を形成し(段落0050)、その穴内にドナー腫瘍ブロックから採取した組織生検を配列し、そのブロックから組織標本用切片を得ることが記載されている(段落0051−0053)。
【0010】
特開2004−258017号公報(特許文献2)には、臓器の目的とする部分から複数の組織を切り抜き、これをパラフィンに包埋してアレイブロックを作製する方法が提案されている。
【0011】
しかし、これらに記載の方法では、染色実験に供する試料が異なるので、たとえ同一の抗体を用いたとしても、結果が異なる可能性がある。実際の病理学的試験においても、結果のばらつきのために、正確な診断ができないという問題がある。このような結果のばらつきは、免疫染色法の信頼性を損なうこととなり、それゆえ、免疫染色法による病理学的試験の障害となっている。それゆえ、免疫染色法ための、多数の均一な組織片を調製する手法および装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2000−505431号公報
【特許文献2】特開2004−258017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、簡便な操作で、多数の組織片(抗原)を標的とする免疫反応を行うことができ、しかも、染色実験に供する試料が同じものであるので、同時実験で適切なコントロールや他の試料の結果を参照することも可能となり、それゆえ、結果を正確に比較することができる生体試料標本の作製方法を提供することを目的とする。
【0014】
本発明の他の目的は、上記方法を用いた疾患の病理診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の生体試料標本の作製には、包埋剤を用いる。なお、本明細書において包埋剤とは、組織片などを薄切しやすい状態にする試薬をいい、非親水性または非水溶性のパラフィン、セロイジン、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂や、親水性または水溶性のカーボワックス、ゼラチン等が用いられる。中でも上記パラフィン包埋法が最も一般的且つ常用されている。
【0016】
本発明の組織観察用薄切片の作製方法は、包埋剤(例えば、パラフィンブロック)に通孔を形成する工程、該パラフィンブロックの通孔内に組織を充填する工程、該パラフィンブロックにて組織が包埋された固形試料を切断刃によって薄切し、該組織の周囲にパラフィンが配置された薄切片を得る工程、複数の該薄切片をスライドガラス上に乗せる工程、該薄切片のパラフィンを溶融させる工程、および該組織を染色する工程、を包含し、そのことにより上記目的が達成される。
【0017】
一つの実施形態では、前記スライドガラス上に、シランコート又はリジンコートが施されている。
【0018】
本発明の疾患の病理診断方法は、上記方法を用いることを含む。
【0019】
本発明の他の生体試料標本の作製方法は、ブロック状の包埋剤に孔部を形成する工程、該包埋剤の孔部内に生体試料を充填する工程、該包埋剤にて生体試料が包埋された固形試料を切断刃によって薄切し、該生体試料の周囲に包埋剤が配置された薄切片を得る工程、複数の該薄切片を固相マトリクス上に乗せる工程、該薄切片の周囲に形成された包埋剤を溶融させる工程、および該生体試料を染色する工程、を包含する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、パラフィンブロックにて組織が包埋された固形試料を切断刃によって薄切し、組織の周囲にパラフィンが配置された薄切片を得、複数の該薄切片をスライドガラス上に乗せることにより、一度の操作で標的分析物質−特異的結合物質の結合反応を多数同時に行え、多数の標的物質(抗原)の同時染色が可能になり、また、標的分析物質に対する特異的結合物質の所要量も従来法に比べて微量で済む。しかも、染色実験に供する試料が同じものであるので、同時実験で結果を比較することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に係わる生体試料標本の作製方法に使用するパラフィンブロックの通孔に組織を充填し、スライスした工程を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す薄切片を切断具にて切断している状態の断面図である。
【図3】図3は、切断具の刃部に付着した切断片をスライドガラス上へ移動する状態を示す説明図である。
【図4】図4は、スライドガラス上に抗体投入用器具を配置する状態の分解斜視図である。
【図5】図5は、スライドガラス上に抗体投入用器具を配置して抗体溶液を充填する状態の断面である。
【図6】図6は、ガラス基板上に弾性層を設けた状態の断面図である。
【図7】図7は、本発明の生体試料標本の作製方法の他の実施形態の作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明にかかる方法には、当該技術分野における当業者によって従来から通常用いられる各種染色法の原理を適用することができ、通常はこれらの各種染色法を用いることで検出可能なシグナルを生成させ、標的とする分析物質を判別することができる。
【0023】
例として、蛍光抗体法、酵素抗体法、重金属標識抗体法、放射性同位元素標識抗体法等の原理の適用が可能である他、核酸分子を特異的結合物質として用い、核酸分子どうしのハイブリダイゼーションを利用して標的核酸分子(DNA、RNA、mRNA)を判別することも可能である(例えばFISH法:Fluorescence in situ hybridization法)。また、前記各種抗体法は、目的に応じて直説法、即ち、予め蛍光色素標識された抗体を抗原−抗体反応に用いて標的抗原を直接可視化し、検出する手法でも、間接法、即ち、最初に標的抗原に特異的な一次抗体を抗原との反応に供し、次いで該一次抗体に特異的な標識二次抗体を反応させて、間接的に標的抗原を可視化し、検出する手法でもよい。特異的結合物質を標識するための標識物質・標識の仕方は適宜選択される。
【0024】
本発明において用いる「被検生体試料」とは、主に生物の組織検体、組織片、生物の液状検体または細胞の検体を含んだ試料を意味する。生物種は特に限定されず哺乳動物、両生類、爬虫類等いずれの種であってもよいが、標的分析物質に対応する抗体蛋白質や核酸分子が最もよく知られている種である哺乳動物が好適であり、より好適なのはヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター、イヌ、ウマ、サル等で、更に好適なのはヒト、マウス、ラットで、最も好適なのはヒトである。用いられる組織、生物の液状検体、細胞は、通常、組織であれば切片またはタッチスメアとして調製し使用することができ、液状検体であればスメア標本として調製し使用することができ、また、細胞であればやはりスメア標本にして使用することができる。
【0025】
前記標本は自体公知の方法により容易に調整することができる。用いられる組織、液状検体、細胞は特に限定されずいずれの種類であっても使用可能で、(1)組織の例としては脳組織、肺、胃、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、腸管組織(小腸、大腸、直腸、結腸など)、皮膚組織、神経組織、血管組織、骨格筋(筋肉)・軟骨組織等があげられ、(2)液状検体の例としては胸水、腹水、尿、等があげられ、(3)細胞としては、接着性で塊を形成している細胞、浮遊性の細胞、等限定されず、例えば、前記組織を構成する細胞(脳細胞、肝細胞、上皮細胞、内皮細胞、神経細胞、筋肉細胞、軟骨細胞等)、血球系細胞(赤血球、血小板細胞、各種白血球・リンパ球(たとえば単球、好中球、好塩基球、好酸球、貪食細胞、肥満細胞、T細胞、B細胞))、体腔液(胸腔液、腹腔液、心膜腔液)中の細胞(マクロファージ、リンパ球(例えばT細胞、B細胞等)、好中球、好酸球、中皮細胞、等)があげられる。
【0026】
標的分析物質としては、生物の組織、細胞等に存在する物質のうち、抗原性を示す物質であれば特に限定されず、いかなる物質であっても本発明により染色可能である。抗原性を示す物質の例としては、蛋白質、核酸分子、糖、その他各種非ペプチド性物質があげられる。(1)蛋白質としては、各種膜蛋白質、各種可溶性蛋白質があり、組織や細胞等に特異的に発現する蛋白質(例えばマーカー蛋白質)、酵素、受容体や、中間フィラメント、間質成分、その他の組織・細胞特異抗原、その他各種の疾患のマーカーとなる蛋白質(例えば癌細胞・腫瘍に特異的な腫瘍マーカー、等)ならどれでも分析可能である。例えば、ACTH(adrenocorticotropic hormone:副腎皮質刺激ホルモン)、Actin、α−heavychain、Androgen受容体、bcl−2、Calcitonin、各種CD(Cluster of differentiation)抗原、CEA(Carcino embryonic antigen:癌胎児性抗原)、c−erbB−2、ChromograninA、コラーゲン、Cytokeratin、Desmin、Epithelial membrane抗原、Epithelial glycoprotein、エストロゲン受容体、FSH(Focal segment hyalinosis:巣状分節状硝子化)、γ−heavy chain、Gastrin、GCDFP−15(Gross cystic disease fluid protein−15)、Gross cystic disease fluid protein15、成長ホルモン、GAFP(Glial fibrillary acidic protein)、Hepatitis C、Human chronic gonadotropin、インスリン、κ−light chain、Ki−67抗原、λ−light chain、Lewis抗原、Luteinizing hormone、メラノーマ抗原、μ−heavy chain、Neutrophil elastase、神経特異的エノラーゼ、p53、胎盤アルカリホスファターゼ、プロゲステロン受容体、プロラクチン(Prolactin)、Prostatic acid phosphatase、Prostatic specific antigen、Retinoblastoma geneproduct(網膜芽細胞腫遺伝子産物)、S100protein、ソマトスタチン(Somatostatin)、Synaptophysin、Thyroglobulin、TSH(Thyroid stimulating hormone;甲状腺刺激ホルモン)、Villin、Vimentin、VIP(Vasoactive intestinal polypeptide:血管作動性小腸ペプチド)、ステロイド受容体、インテグリン、カルレティキュリン、各種サイトカイン受容体、をその一例としてあげることができる。(2)核酸分子にはDNA、RNAおよびmRNAが含まれる。(3)非ペプチド性物質としては、例えば脂質(中性脂質、チン脂質、等)、糖鎖、金属(Fe2+、Fe3+、Mg2+、Zn2+、Na、K、Ca2+等内因性のものや、Cd、Hg等外因性のもの)等があげられる。
【0027】
本願明細書において用いる「結合反応」とは、前記標的分析物質とそれに対する特異的結合物質との結合反応(例えば抗原−抗体反応、核酸分子どうしのハイブリダイゼーション反応、等)を意味する。
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1に示すように、パラフィンブロック2に通孔4を形成し、該パラフィンブロック2の通孔4内に組織を充填する。
【0030】
パラフィンブロック2は、通常は直方体状である。パラフィンブロック2に、通孔4を1個形成するのがよく、その断面形状は限定されるものではないが、円形、矩形などであり得る。好ましくは円筒状の通孔4である。該通孔4は、機械加工によって、例えば、パンチなどによってパラフィンブロック2に形成することができる。
【0031】
他方、生体試料(以下、組織ともいう)に円筒状の針部材を刺し込み、針部材内に組織を取り込んだのち、該針部材から組織を押し出して、上記パラフィンブロック2の通孔4内に充填する。
【0032】
具体的には、腫瘍などの生体試料標本から針部材を用いて細長い組織試料を採取する。組織試料は、生体試料標本の関心対象の領域から採取することができる。試料は円筒形の試料がよく、円筒形の試料は長さ約1〜4mmで、直径約0.1〜4mmとすることができる。採取した試料は、例えば、核酸の分析を妨害しないように(エタノール固定などの方法で)保存することができる。
【0033】
このようにして、パラフィンブロック2にて組織8が包埋された固形試料10が得られる。
【0034】
次に、この固形試料10を切断刃によって薄切する。
【0035】
この工程は、従来より使用されているミクロトームを使用することができる。固形試料10をミクロトームにかけて薄切を行い、通常、2〜4μmの厚さの薄切片12が得られる。図1に示すように、薄切片12は、パラフィン片のほぼ中央に薄い組織8が配置された状態である。
【0036】
次に、図3に示すように、複数の切断片18をスライドガラス24上に乗せる。
【0037】
通常は、薄切片12を水槽の水面に移動させ、スライドガラス24に乗せることで行われる。図3に示すような切断具14を用いて、該切断片18をスライドガラス24上に配置してもよい。
【0038】
この切断具14は、ペン型に構成された切断具本体15を有し、その先端部に筒状の刃部16が設けられている。該刃部16は、円筒状に形成され、その直径は薄切片12における組織8の外径より大きく設定されている。切断具本体15には、刃部16を通じて切断片18のパラフィンに静電気を付与できる電荷付与部20およびスイッチなどの制御部22が設けられている。この制御部22を操作することにより、切断片18のパラフィンに静電気を付与し、あるいはパラフィンの静電気をアースし、又は上記とは逆の電荷を付与できるように構成されている。
【0039】
切断具14は手動で取り扱いできるように構成してもよく、あるいは自動昇降装置等に取り付け、自動的に上下駆動できるように構成してもよい。この場合には、切断具14を水平方向へも自動的に駆動できるように構成するのがよい。
【0040】
切断具14を用いて薄切片12を切断し、およびスライドガラス24へ移動するには次のように行う。
【0041】
図2に示すように、切断具14の下方位置において該薄切片12の下側にゴムシートなどの柔軟性シート26を配置する。
【0042】
切断具14を薄切片12に押し付け、パラフィンの略中央に組織8が配置された切断片18を得る。ここで、切断具14の刃部16は組織8を切断しないようにする。切断片18の周囲にはパラフィンが組織8から延出している。
【0043】
次に、切断具14の制御部22を操作することにより、切断片18のパラフィンに静電気を付与し、切断片18を切断具14の先端に付着した状態で切断片18をスライドガラス24上へ移動する(図3)。
【0044】
切断片18がスライドガラス24上に乗ったときに、切断具14の制御部を操作し、パラフィンに付与した静電気を開放(アースし、又は逆電荷を付与)して切断片18をスライドガラス24上へ載置する。
【0045】
スライドガラス24上には、切断片18との付着性を高めるために、シランコート又はリジンコートが施されているのが良い。また、スライドガラス24上に水を付着させておくのが好ましい。
【0046】
次に、定法に従って、切断片18のパラフィンを除去し(脱パラフィン工程)、次いで組織8を染色する(染色工程)。
【0047】
すなわち、キシレン,アルコール,および/または、水の入った槽に、切断片18が付着したスライドガラス24を順次浸漬し、脱パラフィンが行われる。その後、所定の染色液で染色を行い、封入剤を滴下した後、カバーガラスをかぶせる封入工程を経て、組織観察用の薄切片試料が作製される。
【0048】
なお、染色工程は、図4に示す抗体投入用器具28を用いて行ってもよい。
【0049】
この抗体投入用器具28は、矩形状の基板27に、上記スライドガラス24上の各組織8に対応する位置に通孔30を設けて構成されている。通孔の数は複数であり、少なくとも2つ、少なくとも4、少なくとも16、少なくとも48、少なくとも96、あるいは、それ以上である。基板27の両側部には留め具31が回動可能に取り付けられている。図5に示すように、この抗体投入用器具28をスライドガラス24上に配置した後、留め具31を回動してスライドガラス24に固定することで、器具28の各通孔30によってスライドガラス24上に凹部32が形成される。この凹部32内に各種の抗体溶液を投入することにより、組織8が反応する。
【0050】
図6に示すように、スライドガラス24上には弾性層26を形成しておくのが良く、凹部32の下面が弾性層26でシールされるので、各凹部32内の抗体溶液が漏れ出したり、隣接する凹部32内の抗体溶液が混合することがない。
【0051】
染色後に顕微鏡などを用いて、標的分析物質を決定することにより、それに対する特異的結合物質も決定される。
【0052】
なお、図7は、他の実施形態を示したものである。
【0053】
上記実施形態では、針部材を組織に刺し込み、針部材内に組織を取り込んだのち、該針部材から組織を押し出すようにしたが、図7に示すように薄切りした組織をロール状に巻いて、このロール状の組織をパラフィンブロックの通孔に充填してもよい。
【0054】
すなわち、パラフィンブロックに通孔を形成し、その通孔内に組織を充填してパラフィンブロックにて組織が包埋された固形試料40を作成する。次に、この固形試料40を図7に示すように、切断刃44によって薄切し該組織の周囲にパラフィンが配置された薄切片41を得る。この薄切片41をロール状に巻き、この長尺なロール42を適宜寸法に切断して所定寸法の組織の筒状体45が得られる。
【0055】
この組織の筒状体45を、上記したようにパラフィンブロック2の通孔4内に配置する。この実施形態では、パラフィンブロック2に複数の通孔4が形成されている。その後、上記のようにスライスして組織観察用薄切片が作成される。
【0056】
なお、本明細書において包埋剤とは、組織片などを薄切しやすい状態にする試薬をいい、非親水性または非水溶性のパラフィン、セロイジン、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂や、親水性または水溶性のカーボワックス、ゼラチン等が用いられる。中でも上記パラフィン包埋法が最も一般的且つ常用されている。
【0057】
また、本発明で使用する固相マトリクスは、標的分析物質とそれの特異的結合物質との結合反応が起きるマトリクスであり、且つ、生成したシグナルを検出する際の基板となるものであり、前記結合反応及びシグナル検出を阻害しない限りにおいてマトリクス素材は特に限定されないが、好適には顕微鏡のスライドグラスである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、次のような特異的結合物質に対して、組織、細胞などの生体試料を染色するための生体試料標本を提供できる。
【0059】
例えば、(1)標的分析物質が蛋白質(各種細胞蛋白質、酵素、受容体、疾患マーカー等)である場合、該蛋白質に結合性を有する各種Counterpart・リガンド(例えば該蛋白質を抗原とする抗体、小分子)が用いられるが、好適には抗体であり、最も好適なのはその特異性と抗体価が確認されたモノクローナル抗体である。
【0060】
(2)標的分析物質が核酸である場合、それに対する特異的結合物質として相補的核酸分子(例えばDNA、RNA、mRNA)、抗体等が用いられるが、好適には相補的核酸分子であり、かかる核酸分子どうしのハイブリダイゼーションを利用して標的核酸分子(DNA、RNA、mRNA)を判別することが可能である(例えばFISH法)。
【0061】
(3)標的分析物質が非ペプチド性物質(例えば脂質、糖鎖、金属等)である場合、該物質に対する特異的結合物質としては該物質に対する特異的抗体を用いるのが好適である。また、糖鎖の検出においては、例えばレクチンを特異的結合物質として使用すれば検出が容易である。
【符号の説明】
【0062】
2 バラフィンブロック
4 通孔
8 組織
10 固形試料
12 薄切片
14 切断具
18 切断片
20 電荷付与部
22 制御部
24 スライドガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフィンブロックに通孔を形成する工程、該パラフィンブロックの通孔内に組織を充填する工程、該パラフィンブロックにて組織が包埋された固形試料を切断刃によって薄切し、該組織の周囲にパラフィンが配置された薄切片を得る工程、複数の該薄切片をスライドガラス上に配置する工程、および該薄切片のパラフィンを除去する工程、を包含する組織観察用薄切片の作製方法。
【請求項2】
さらに、組織を染色する工程、を包含する請求項1に記載の生体試料標本の作製方法。
【請求項3】
さらに、複数の組織が配置されたスライドガラス上に抗体投入用器具を配置する工程であって、該抗体投入用器具は基板の各組織に対応する位置に通孔を有する工程、および
該抗体投入用器具該スライドガラス上に配置した後、該通孔に抗体溶液を投入する工程、を包含する請求項1に記載の生体試料標本の作製方法。
【請求項4】
前記スライドガラス上に、シランコート又はリジンコートが施されている請求項1に記載の生体試料標本の作製方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法を用いることを含む、疾患の病理診断方法。
【請求項6】
ブロック状の包埋剤に孔部を形成する工程、該包埋剤の孔部内に生体試料を充填する工程、該包埋剤にて生体試料が包埋された固形試料を切断刃によって薄切し、該生体試料の周囲に包埋剤が配置された薄切片を得る工程、複数の該薄切片を固相マトリクス上に配置する工程、および該薄切片の周囲に形成された包埋剤を除去する工程、を包含する生体試料標本の作製方法。
【請求項7】
さらに、生体試料を染色する工程、を包含する請求項6に記載の生体試料標本の作製方法。
【請求項8】
さらに、複数の組織が配置されたスライドガラス上に抗体投入用器具を配置する工程であって、該抗体投入用器具は基板の各組織に対応する位置に通孔を有する工程、および
該抗体投入用器具該スライドガラス上に配置した後、該通孔に抗体溶液を投入する工程、を包含する請求項6に記載の生体試料標本の作製方法。
【請求項9】
請求項1または6に記載の方法によって作製された、組織観察用薄切片。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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