説明

生体関連分子の検出方法、検出用キット、及び検出システム

【課題】 DNAチップなどの担体を用いて、生体関連分子の自動検出を行う場合等に、担体の乾燥を防止して検出精度を向上させる。
【解決手段】 担体の少なくともプローブが固定化された部分を、乾燥防止液が収容された検出容器に浸漬し、励起光を、検出容器を介して乾燥防止液に浸漬している担体に照射し、この励起光の照射によって発光した生体関連分子からの光を、検出容器を介して検出する。このとき、生体関連分子を検出するためのプローブが固定化された担体を支持する支持部材と、担体を浸漬する乾燥防止液が収容される検出容器とを備えた検出用キットを使用する。担体が支持された支持部材と、乾燥防止液が収容された検出容器とが嵌合したときに、担体の少なくともプローブが固定化された部分が乾燥防止液に浸漬される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブを固定化した担体を用いて生体関連分子を検出する方法に関し、特に自動検出の精度を向上させるための検出方法、検出用キット、及び検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食に対する安全への意識が向上し、食品検査の重要性が高まってきている。
現在、食品検査には、食品衛生法にもとづく公定法検査と、各企業が品質管理のために自主的に行っている自主検査の二つがある。公定法検査では、一般に培地培養法による検査が行われ、検査結果の判定までに通常3〜5日程度が必要となっている。このため、消費までの期間が短い食品の場合、出荷前の判定を行うことができないという問題があった。
【0003】
そこで、食品メーカでは,例えば酵素基質法やイムノクロマト法など様々な方法を用いて、より早期に判定が可能な独自の食品検査を行っている。このような自主検査では、検査時間の短縮、簡易な操作、正確な検査結果、及び低い検査コストが求められているが、現在の検査方法では、それぞれ一長一短があり、これら全ての性能を備えた検査方法は存在していない。
このような状況において、DNAチップなどの担体を用いた遺伝子検査等を食品検査に適用することにより、特異性や再現性に優れ、迅速かつ簡易に複数の検査を同時に行い得る食品検査技術が注目されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、生体関連分子が固定化された担体を用いて、蛍光標識された生体関連分子を含む試料を分析する方法に関する発明が開示されている。
このような生体関連分子の検出方法によれば、迅速かつ簡易に複数の検査を同時に行うことが可能である。
【0005】
しかしながら、このようなDNAチップなどの担体を用いた遺伝子検査には、検査員による作業を多く必要とし、またマイクロレベルの極微少量の液体の操作が必要となる。このため、検査員の手作業による影響が大きく、検査結果のバラツキが生じやすいという問題があった。
そこで、検査員の介在を排除して、検査結果の信頼性を向上させるべく、自動検査装置の開発が行われてきた。
【0006】
例えば、特許文献2には、自動検査装置において好適に使用可能な担体の支持部材に関する発明が開示されている。
このように、DNAチップなどの担体を用いた遺伝子検査を、自動検査装置により行うことで、検査結果の信頼性を向上させることができると共に、一層迅速かつ簡易に複数の検査を行うことが可能となっている。
【0007】
【特許文献1】特開2009−229398号公報
【特許文献2】特開2010−14620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、DNAチップなどの担体から、プローブに結合した生体関連分子の検出結果を正確に読み取るためには、担体のプローブが固定化された側の表面の乾燥を防ぐ必要がある。一般的な生体関連分子の検出方法としては、励起光を集光させて検出するスキャナ方式があり、また、励起光を照射し、画像解析により検出する固定カメラ方式がある。後者の固定カメラ方式は、読み取りを一括して検出を行うことができるが、ハイブリダイゼーションなどのプローブと生体関連分子を結合させるための相互作用工程や、プローブと結合しなかった分子を洗浄するための洗浄工程などでは、塩が含まれる溶液が使用されるため、担体表面が乾燥すると、塩が析出して正確な検出が妨げられるためである。
そこで、特許文献1の担体では、洗浄工程の後に、ガラスカバーで担体を覆うことによって、乾燥を防止している。また、特許文献2では、洗浄工程において、潮解性を有する物質を含む洗浄液を用い、担体を乾燥させることなく検出に使用することが可能になっている。
【0009】
しかしながら、特許文献1の担体は、乾燥するまでの時間が比較的短く、またその形状が自動化に適するものではなかった。また、特許文献2の方法では、湿度や温度の影響が大きく、検出工程での湿度制御が必要であった。また、その担体の支持部材の形状は自動化に適しているが、担体表面の液量が多すぎると溶液がレンズ化して画像がゆがみ、少なすぎると乾燥が早く進むため、液量を適切に制御する必要があった。
【0010】
そこで、本発明者らは、担体の乾燥を十分に防止でき、かつ自動化に適した形状の支持部材や検出容器について鋭意研究し、乾燥防止液が収容された検出容器に、担体が取り付けられた支持部材を嵌合して、担体の少なくともプローブが固定化された部分を浸漬し、検出容器を介して励起光を照射して生体関連分子から発する光線を検出することで、わずかな量の乾燥防止液により担体を乾燥させることなく生体関連分子の検出を行えることを見いだし、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、担体の少なくともプローブが固定化された部分を、乾燥防止液が収容された検出容器に浸漬し、検出容器を介して担体に励起光を照射することで、担体を乾燥させることなく生体関連分子の検出を行うことが可能な生体関連分子の検出方法、検出用キット、及び検出システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の生体関連分子の検出方法は、担体に固定化されたプローブと結合する生体関連分子を検出する方法であって、担体の少なくともプローブが固定化された部分を、乾燥防止液が収容された検出容器に浸漬し、励起光を、検出容器を介して乾燥防止液に浸漬している担体に照射し、この励起光の照射によって発光した生体関連分子からの光を、検出容器を介して検出する方法としてある。
【0012】
また、本発明の生体関連分子の検出用キットは、生体関連分子を検出するためのプローブが固定化された担体を支持する支持部材と、担体を浸漬する乾燥防止液が収容される検出容器とを備えた構成としてある。
【0013】
また、本発明の生体関連分子の検出システムは、生体関連分子と結合するプローブが固定化された担体を支持する支持部材と、生体関連分子を含有する溶液が収容され、この溶液に担体を浸漬させて、生体関連分子とプローブとの結合反応を行う反応容器と、洗浄液が収容され、この洗浄液に担体を浸漬させて、プローブと結合しなかった生体関連分子を除去する洗浄容器と、乾燥防止液が収容され、担体が支持された支持部材と嵌合したときに、担体の少なくともプローブが固定化された部分が乾燥防止液に浸漬される検出容器と、乾燥防止液に浸漬している担体に対して検出容器を介して励起光を照射する励起光照射器と、励起光の照射によって発光した生体関連分子からの光を、検出容器を介して検出する読取り器と、励起光や不要な散乱光の透過を防ぎ蛍光のみを透過させる蛍光フィルター、支持部材を、反応容器、洗浄容器、検出容器、及び励起光照射器と読取り器に、順次搬送する搬送装置とを備えた構成としてある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、DNAチップなどの担体を用いて、生体関連分子の自動検出を行う場合等に、担体の乾燥を防止して検出精度を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の検出キットを示す図である。
【図2】本発明の実施形態の検出キットの斜視図である。
【図3】担体表面の乾燥の影響を示す図である。
【図4】本発明の実施形態の検出装置を示す図である。
【図5】検出容器の材料選定のための自家蛍光試験結果(一次スクリーニング)を示す図である。
【図6】検出容器の材料選定のための自家蛍光試験結果(二次スクリーニング)を示す図である。
【図7】検出容器の材料選定のための自家蛍光試験結果(厚さと蛍光強度の関係)を示す図である。
【図8】本発明の実施形態の検出システムを示す図である。
【図9】本発明の実施形態の検出システムにおける結合反応工程の状態を示す図である。
【図10】本発明の実施形態の検出システムにおける洗浄工程の状態を示す図である。
【図11】本発明の実施形態の検出システムにおける乾燥防止液浸漬工程の状態を示す図である。
【図12】本発明の実施形態の検出システムにおける検出工程の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の生体関連分子の検出方法、検出用キット、及び検出システムの実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0017】
[生体関連分子の検出用キット]
本実施形態の検出用キットは、本実施形態の検出システムによる生体関連分子の検出に用いることができ、担体表面の乾燥を防止して、プローブに結合した生体関連分子の検出精度を向上させることを可能とするものである。
この検出用キットは、図1に示すように、支持部材10、及び検出容器20を備えている。また、図2において、(a)は担体30を取り付けた支持部材10、(b)は検出容器20を示しており、(c)はこれらを嵌合させた状態を示している。
【0018】
支持部材10の具体的な形状は、特に限定されないが、例えば図2(a)に示すように、本体部11と、この本体部11の下面中央から突出する円柱状の担体支持部12、及び、担体支持部12の上周縁に形成された嵌合部13を有した構成とすることができる。支持部材10の担体支持部12は、担体30を支持し、嵌合部13は、検出容器20と嵌合する。また、担体支持部12の下端に担体取付け部を備えた構成にすることができる。
【0019】
支持部材10の担体支持部12への担体30の取り付け方法は、特に限定されないが、例えば図2(a)に示すように、担体支持部12の下端に形成された突出部の中央に嵌め込む方法、あるいは担体30を担体支持部12の下端に粘着剤により貼り付ける方法などを挙げることができる。
【0020】
支持部材10の材料は、担体30を支持できるとともに、検出容器20と嵌合でき、担体30を取り付けた担体支持部12の下端を乾燥防止液40に浸漬できるものであれば、特に限定されないが、検出装置50における不要な光りの発生(励起光の散乱など)を抑えるため、支持部材10の材料は自家蛍光がなるべく低い材料とすることが好ましい。自家蛍光が低い材料としては、カーボン、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、Co及びCuの酸化物、Si、Ti、Ta、Zr及びCrの炭化物等を例示することができる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、フェノール、メラミン、ユリア、不飽和ポリエステル、エポキシ、ポリウレタン、ジアリルフタレート、珪素、ポリイミド、ビニルエステル、塩化ビニル、ABS、フッ素、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミドなどの合成樹脂、合成ゴム、エラストマー、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン及びポリグリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上と混合しても良い。
【0021】
検出容器20の具体的な形状は、特に限定されないが、例えば図2(b)に示すように、底面部21を有し、上部が開口した円筒状の胴部22を備え、この胴部22の開口部内周縁に嵌合部22aを有し、開口部の外周縁に略四辺形のフランジを有する構成とすることができる。また、底面の厚さが均一で、フラットな面とすることが好ましい。
検出容器20は、所定量の乾燥防止液40を収容し、嵌合部22aにおいて支持部材10と嵌合させると、支持部材10の担体支持部12の下端に取り付けられた担体30を乾燥防止液40に浸漬させることができる。
【0022】
検出容器20の少なくとも底面部21の材料としては、励起光、及び励起光の照射により発光した生体関連分子からの光を透過するものが用いられる。したがって、励起光により容器材料自体が光ってしまうため、底面部21の材料としては、自家蛍光が低いものが好ましい。また、容器を介して画像撮影を行うため、透過性(ヘーズ)が高く、画像が歪まないように複屈折が少ないものが好ましい。また、検出容器20は、その嵌合部22aが支持部材10と好適に嵌合し得るように、柔軟な素材であることが好ましい。これらの条件を充たす材料としては、例えば、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、環状オレフィン・コポリマー(COC)、ポリ乳酸(PLA)などを挙げることができる。
【0023】
検出容器20の底面部21の厚さは、光を透過させる観点からは、理論上薄ければ薄い方が良く、また、フラットであることが好ましい。具体的には、0.1mm〜1.5mmであることが好ましい。検出容器20を射出成形により成形する場合は、0.3mm〜0.7mmなどのものを用いることができ、0.3〜0.5mmのものがより好ましい。
【0024】
担体30は、検出対象の生体関連分子と結合するプローブを固定化したものであり、例えばDNAチップやマイクロアレイなどが使用される。この担体30は、一般に使用されているものを用いることができる。
プローブには、例えば、核酸、ペプチド、タンパク質等を用いることができ、検出対象の生体関連分子と特異的に結合するものが用いられる。
検出対象の生体関連分子は、プローブと結合するものであれば、特に限定されないが、例えばDNAやRNA等の核酸、ペプチド、タンパク質、糖鎖、細胞、これらの複合体、及びこれらとその他の分子との複合体などを挙げることができる。
【0025】
乾燥防止液40は、担体30のプローブ側表面の乾燥を防止するために用いられる。担体30の表面が乾燥すると、表面に塩が析出し、図3に示すように、蛍光の検出が阻害されるためである。このような乾燥防止液40には、一般的な緩衝液などを用いることができ、例えば、リン酸、酢酸、クエン酸、ホウ酸等の緩衝液を用いることができる。
また、担体30と検出容器20内の底面部21との間における乾燥防止液40の液厚は、乾燥防止液がチップ表面に均一に接触していればよく、0.1mm〜3mmとすることが好ましい。
支持部材10の担体支持部12の幅は、検出容器20の内径より僅かに小さくすることが、乾燥防止液の量を少なくできるので好ましい。また、毛細管現象の影響で液の吸い上げがおこらないように、液厚、担体支持部12と検出容器内径を適宜変更することが好ましい。
【0026】
本実施形態の検出用キットを用いれば、支持部材10の担体支持部12に担体30を取り付け、検出容器20に乾燥防止液40を収容して、支持部材10と検出容器20を嵌合させることで、担体30を乾燥防止液40に浸漬させることができる。このため、担体30を乾燥させることなく、生体関連分子の検出を行うことが可能である。
また、本実施形態の検出用キットによれば、少量の乾燥防止液40により担体30の乾燥を防止することができる。例えば、底面積が22.9mmの検出容器20に、3mm角のDNAチップを浸漬して使用する場合、乾燥防止液40を約10μl、液厚を約0.1mmとして、好適に生体関連分子を検出することが可能である。これは、本実施形態の検出用キットによれば、検出容器20に乾燥防止液40を収容して、担体30を上方から乾燥防止液40に浸漬する形態で使用できるためである。
【0027】
なお、本実施形態の検出用キットによれば、乾燥防止液40を10μlよりもさらに少量にしても、担体30と検出容器20の間の毛細管現象により担体30表面を好適に浸漬させることができる。
【0028】
[生体関連分子の検出装置]
本実施形態の検出装置50は、図4に示すように、照射器51、読取り器52、及び制御装置53を備えている。照射器51から励起光54が検出容器20を介して乾燥防止液40に浸漬している担体30に照射される。これにより、生体関連分子に結合されている蛍光物質が発光し、この生体関連分子からの蛍光55が検出容器20を介して読取り器52に入力され、読み取られる。
【0029】
照射器51は、励起光54を照射する装置であり、例えば、UVランプや、キノセンランプにフィルターを用いた、レーザ発信器などを照射器51の光源として用いることができる。UVランプやキノセンランプを用いる場合には、フィルターを介して必要な波長の光のみを励起光とする。
読取り器52は、担体30のプローブに結合した生体関連分子からの光を読み取る装置である。この生体関連分子がCy5などの蛍光標識を有している場合、励起光54を照射することにより蛍光標識が発光し、蛍光55が検出容器20を介して読取り器52に入力される。
【0030】
制御装置53は、読取り器52から読み取り結果を入力して画像データを作成し、及び/又は読み取り結果から各スポットの位置を認識し、バックグランドを除去して各スポットの蛍光強度を出力する。
なお、検出装置50の画像データの読み取り方式としては、担体30のプローブが固定化されている側の表面全体の画像データを一括して読み取るカメラ固定方式と、担体30の表面を走査しながら読み取りを行うスキャナ方式等を挙げることができる。
【0031】
ここで、生体関連分子をこのように蛍光により検出する場合には、検出容器20の自家蛍光が問題となる。検出容器20の自家蛍光とは、検出容器20に励起光54を照射すると、検出容器20の材料自体が発する蛍光である。自家蛍光が大きくなると、生体関連分子からの蛍光が相対的に小さくなるため、バックグランドが大きくなり、検出される蛍光55の強度が小さくなってしまう。また、本来光っていないスポット上に材料による大きな自家蛍光が存在すると、結果としてスポットが光っているという誤検出をおこしてしまう可能性がある。すなわち、検出容器20の自家蛍光が大きいと、検出精度(再現性)が低下する。したがって、検出容器20の材料には、自家蛍光の少ない材料を選択することが望ましい。
【0032】
そこで、様々な材料のスクリーニング試験を行い、検出容器20の材料として好適なものを選定した。その結果を図5〜7に示す。
まず、図5に示すように、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、環状オレフィン・コポリマー(COC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリ乳酸(PLA)、ガラスのそれぞれについて、露光時間を5秒間として励起光を照射し、検出された蛍光の強度を測定した。なお、蛍光強度は、材料の厚みを薄くすることで、より小さくすることができる。図5の試験では、材料には様々な厚さのものが使用されている。同図の結果では、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィンポリマー(COP)が、ガラスと同程度の蛍光強度を示し、好適であることが示されている。
【0033】
次に、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ガラスについて、同一の成形方法を用いてほぼ同じ厚さ(約1.6mm)の試験プレートを作成し、露光時間を5秒間として蛍光強度を測定した。この結果、図6に示すように、ポリスチレン(PS)とシクロオレフィンポリマー(COP)が、ガラスと同程度の蛍光強度を示し、ポリプロピレン(PP)も比較的低い蛍光強度を示すことがわかった。
【0034】
次に、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、及びシクロオレフィンポリマー(COP)のそれぞれについて、厚さを0.3mm、0.5mm、0.7mmとした試験プレートを作成し、露光時間を5秒間として蛍光強度を測定した。この結果、図7に示すように、シクロオレフィンポリマー(COP)の蛍光強度が最も低く、次いでポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)の順に好ましいことがわかった。特に、シクロオレフィンポリマー(COP)とポリスチレン(PS)は、厚さが0.3mm〜0.7mmの全ての範囲でガラスとほぼ同様か、又は比較的低い自家蛍光強度しか示さず、検出容器20の材料として好適に使用できることが明らかとなった。また、ポリプロピレン(PP)も厚さが0.3mmの場合には、蛍光強度が比較的小さく、検出容器20の材料として好適に使用できることが明らかとなった。
【0035】
[生体関連分子の検出システム]
本実施形態の検出システムは、図8に示すように、検出装置50、搬送装置60、反応部70、洗浄部80、乾燥防止液浸漬部90、及び昇降装置100を有している。
検出システムにおける検出装置50には、上述した本実施形態の検出装置50を用いることができる。同図において制御装置53は図示していない。
【0036】
搬送装置60は、チャック61により支持部材10を掴み、図示しないモーターにより支持部材10を搬送路62に沿って左右へ移動させる装置である。この搬送装置60は、支持部材10を、反応部70における反応容器71、洗浄部80における洗浄容器81、乾燥防止液浸漬部90における検出容器20、及び検出装置50に、順次搬送する。なお、検出装置50は、励起光の照射器51と蛍光の読取り器52を備えるが、これらは一体であっても別体であってもよい。
【0037】
反応部70は、担体30に固定化されたプローブと、生体関連分子との結合反応を行う装置であり、反応液72を収容した反応容器71と、ヒーター73を備えている。反応液72は、検出対象の生体関連分子などの試料を含有する。検出対象の生体関連分子が、核酸である場合、この反応液72として、例えばPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の増幅産物などを用いることができ、反応容器71内でプローブと生体関連分子とのハイブリダイゼーションが行われる。ヒーター73は、反応液72の温度を、プローブと生体関連分子との結合に最適な温度に調節するための装置である。
【0038】
洗浄部80は、反応部70によるプローブと生体関連分子との結合反応において、プローブに結合しなかった物質を洗い流し、これを担体30の表面上から除去する装置である。洗浄部80は、それぞれ洗浄液82を収容した複数の洗浄容器81からなり、担体30を各洗浄容器の洗浄液82に順次浸漬して、搬送装置60と洗浄容器81の少なくともいずれか一方を揺動させることで、担体30を洗浄する。
なお、揺動装置は図示していないが、搬送装置60に、支持部材10を小さく上下動させたり、横方向に移動させるような駆動部を設けたもの、あるいは洗浄容器81を上下動させたり、横方向に移動させるような駆動部を設けたもの、洗浄部で温調を行うためにヒーターの取り付けを行ったもの等を採用することができる。
【0039】
洗浄液82は、洗浄容器81ごとに異なるものを用いても同じものを用いても良く、
例えばSSC/SDS、SSC、NaAC、MgCl等を用いることができる。
このように洗浄容器81を複数備えることにより、担体30に付着したプローブとの結合が行われなかった成分を確実に取り除くことができる。
【0040】
反応容器71と洗浄容器81の材料は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ素酸ビニル、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂フェノール、ポリアミド、ポリアセテート、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィンなどの合成樹脂、合成ゴム及びエラストマー、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸などを用いることができる。これらは単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0041】
乾燥防止液浸漬部90は、乾燥防止液40を収容した検出容器20を着脱自在に支持しており、検出容器20に支持部材10を嵌合させ、支持部材10に取り付けられた担体30を乾燥防止液40に浸漬するための装置である。
【0042】
昇降装置100は、昇降台101を備え、図示しないシリンダにより昇降台101を昇降する。昇降台101上には、反応部70、洗浄部80、及び乾燥防止液浸漬部90が載置されている。ここで、反応部70、洗浄部80、及び乾燥防止液浸漬部90の昇降は、それぞれに独立した昇降装置を設けて行ってもよい。なお、担体30を支持する支持部材10と、反応部70、洗浄部80、及び乾燥防止液浸漬部90の相対的な高さを制御できればよいことから、反応部70、洗浄部80、及び乾燥防止液浸漬部90を固定して、支持部材10を搬送する搬送装置60を昇降させるようにすることも可能である。
【0043】
[生体関連分子の検出方法]
本実施形態の生体関連分子の検出は、検出システムによって、図9〜図12に示す手順により行うことができる。
まず、図9に示すように、支持部材10を搬送装置60により掴み、水平方向に移動させ、反応部70の真上に位置させた状態で昇降台101を上昇させて、担体30を反応容器71内の反応液72に一定時間浸漬させる。反応液72の温度は、ヒーター73により、担体30上のプローブと検出対象の生体関連分子との結合に最適な温度に調整する。これによって、プローブと生体関連分子の結合反応が行われる。
結合反応工程が終了すると、昇降台101を下降させ、支持部材10を搬送装置60により洗浄部80における第一の洗浄容器81の真上に移動させる。
【0044】
次に、図10に示すように、支持部材10が洗浄部80における第一の洗浄容器の真上に位置している状態で、昇降台101を上昇させて、担体30を第一の洗浄容器内の洗浄液82に浸漬させる。そして、搬送装置60により支持部材10を揺動させることで、担体30を洗浄する。
同様にして、支持部材10を第一の洗浄容器から第五の洗浄容器まで順に移動させ、担体30を十分に洗浄する。
担体30の洗浄工程が完了すると、昇降台101を下降させて、支持部材10を搬送装置60により乾燥防止液浸漬部90の真上に移動させる。
【0045】
次に、図11に示すように、支持部材10が乾燥防止液浸漬部90の真上に位置している状態で、昇降台101を、支持部材10と検出容器20とが嵌合する位置まで上昇させる。そして、支持部材10と検出容器20とを嵌合させ、担体30を、検出容器20内の乾燥防止液40に浸漬する。次いで、昇降台101を下降させ、搬送装置60により、検出容器20を嵌合している支持部材10を、読取り器52の真上に移動させる。
【0046】
次に、図12に示すように、支持部材10が読取り器52の真上に位置している状態で、検出を行える位置まで昇降台101を上昇させ、位置決めを行う。
担体30の下面に、照射器51から励起光54を、検出容器20を介して照射し、担体30の下面から発光した蛍光55を、検出容器20を介して読取り器52で入力する。
この蛍光55は、担体30上のプローブに結合した生体関連分子に含まれる蛍光物質から発光する。
読取り器52に入力された蛍光55は、同図において図示しない制御装置53により一般的な手法による処理が行われて、画像データとして出力され、及び/又はバックグランドを除去して蛍光強度が算出されて出力される。
【0047】
このように本実施形態の生体関連分子の生体関連分子の検出方法、検出用キット、及び検出システムによれば、担体30を取り付けた支持部材10を、乾燥防止液40を収容した検出容器20に嵌合することで、担体30を乾燥防止液40に密閉環境下で浸漬することができる。
そして、この状態のまま、担体30に対して、励起光54を検出容器20を介して照射するとともに、担体30からの蛍光55を検出容器20を介して読取り器52に入力することができる。
このため、生体関連分子の検出を、検出システムによって全自動で行うにあたり、担体30の表面の乾燥を抑制することができ、蛍光検出が阻害(誤検出)されることを適切に防止することが可能となっている。また、本実施形態の検出用キットの構成によれば、担体30の表面に塩が析出することを防ぎ、それにより再現性の高い検出が可能になっている。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、DNAチップなどの担体を用いて生体関連分子を自動的に検出する場合に、好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 支持部材
11 本体部
12 担体支持部
13 嵌合部
20 検出容器
21 底面部
22 胴部
22a 嵌合部
30 担体
40 乾燥防止液
50 検出装置
51 照射器
52 読取り器
53 制御装置
54 励起光
55 蛍光
60 搬送装置
61 チャック
62 搬送路
70 反応装置
71 反応容器
72 反応液
73 ヒーター
80 洗浄装置
81 洗浄容器
82 洗浄液
90 乾燥防止液浸漬部
100 昇降装置
101 昇降台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に固定化されたプローブと結合する生体関連分子を検出する方法であって、
前記担体の少なくとも前記プローブが固定化された部分を、乾燥防止液が収容された検出容器に浸漬し、励起光を、前記検出容器を介して前記乾燥防止液に浸漬している担体に照射し、この励起光の照射によって発光した前記生体関連分子からの光を、前記検出容器を介して検出する
ことを特徴とする生体関連分子の検出方法。
【請求項2】
前記担体と前記検出容器内の底面との間における前記乾燥防止液の液厚を、0.1mm〜3mmとする
ことを特徴とする請求項1記載の生体関連分子の検出方法。
【請求項3】
生体関連分子を検出するためのプローブが固定化された担体を支持する支持部材と、前記担体を浸漬する乾燥防止液が収容される検出容器とを備えたことを特徴とする生体関連分子の検出用キット。
【請求項4】
前記担体が支持された支持部材と、前記乾燥防止液が収容された検出容器とが嵌合したときに、前記担体の少なくとも前記プローブが固定化された部分が前記乾燥防止液に浸漬されることを特徴とする請求項3記載の生体関連分子の検出用キット。
【請求項5】
前記検出容器における前記生体関連分子からの光を透過させる面がフラットであり、厚さが0.1mm〜1.5mmであることを特徴とする請求項3又は4記載の生体関連分子の検出用キット。
【請求項6】
前記検出容器が、少なくともシクロオレフィンポリマー、ポリスチレン、又はポリプロピレンのいずれかからなることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の生体関連分子の検出用キット。
【請求項7】
生体関連分子と結合するプローブが固定化された担体を支持する支持部材と、
生体関連分子を含有する溶液が収容され、この溶液に前記担体を浸漬させて、生体関連分子とプローブとの結合反応を行う反応容器と、
洗浄液が収容され、この洗浄液に前記担体を浸漬させて、前記プローブと結合しなかった生体関連分子を除去する洗浄容器と、
乾燥防止液が収容され、前記担体が支持された支持部材と嵌合したときに、前記担体の少なくとも前記プローブが固定化された部分が前記乾燥防止液に浸漬される検出容器と、
前記乾燥防止液に浸漬している前記担体に対して前記検出容器を介して励起光を照射する励起光照射器と、
前記励起光の照射によって発光した前記生体関連分子からの光を、前記検出容器を介して検出する読取り器と、
前記支持部材を、前記反応容器、前記洗浄容器、前記検出容器、及び前記励起光照射器と前記読取り器に、順次搬送する搬送装置と、を備えた
ことを特徴とする生体関連分子の検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−37363(P2012−37363A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177292(P2010−177292)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】