説明

生体高分子分析チップ

【課題】簡易に製造できかつ被験者の識別が可能な生体高分子分析チップを提供する。
【解決手段】複数の受光素子20が形成された第1の撮像装置10及び第2の撮像装置110と、第1の撮像装置10及び第2の撮像装置110により撮像された画像データを記憶する記憶装置4と、を備え、第1の撮像装置10の受光面には特定の生体高分子と結合するプローブ61が設けられている生体高分子分析チップ1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体高分子分析チップに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子の発現解析や一塩基多型の診断を行うためにDNAチップ等の生体高分子分析チップやその読取装置が開発されている。生体高分子分析チップは、プローブとなる既知の塩基配列のcDNA等をスライドガラス等の固体担体上にマトリックス状に整列固定させたものである。例えば、DNAチップ及びその読取装置を用いた遺伝子の解析は次のようにして行う。
【0003】
まず、既知の塩基配列を有した複数種類のcDNA(以下、プローブDNAという)をスライドガラス等の固体担体に整列固定させたDNAチップを準備する。次に、検体からmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、標識物質で標識したものを用意する(以下、標識DNAという)。ここで、標識物質には蛍光物質や化学発光基質、あるいは化学発光基質を発光させる酵素等を用いることができる。
次に、標識DNAをDNAチップ上に添加すると、標識DNAが相補的なプローブDNAとハイブリダイズすることによりDNAチップ上に固定される。
【0004】
次いで、DNAチップを読取装置にセッティングし、読取装置にて分析する。読取装置は、DNAチップに対して二次元的に移動する集光レンズ及びフォトマルチプライヤーによってDNAチップを走査する標識物質により発した光を集光レンズで集光させ、光強度をフォトマルチプライヤーで計測することで、DNAチップの面内の光強度分布を計測し、これにより、DNAチップ上の光強度分布が二次元の画像として出力される。出力された画像内で光強度が大きい部分には、プローブDNAの塩基配列と相補的な塩基配列を有した標識DNAが含まれていることを表している。従って、二次元画像中のどの部分の蛍光強度が大きいかによって検体で発現しているmRNAを同定することができる。
【0005】
また、DNAチップに滴下されるDNAの種類、濃度、反応時間等を表す解析情報を表示するバーコードシールをDNAチップに貼り付けて、識別する発明も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001―133464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のDNAチップにバーコードシールを貼る方法では、DNAをスポットする工程とは別に、バーコードを配置する工程が必要となり、製造工程が煩雑になるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の問題を解決し、簡易に製造できかつ被験者の識別が可能な生体高分子分析チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、生体高分子分析チップであって、複数の受光素子が形成された第1の撮像装置及び第2の撮像装置と、前記第1の撮像装置及び前記第2の撮像装置により撮像された画像データを記憶する記憶装置と、を備え、前記第1の撮像装置の受光面には特定の生体高分子と結合するプローブが設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の生体高分子分析チップであって、前記プローブは既知の塩基配列の一本鎖DNAであることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の生体高分子分析チップであって、前記第1の撮像装置はDNAの検出に用いられることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の生体高分子分析チップであって、前記第2の撮像装置はDNA以外の生体認証に用いられることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップであって、前記記憶装置には、センサー値を補正するためのデータが記憶されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易に製造できかつ被験者の識別が可能な生体高分子分析チップを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0015】
[第1実施形態]
〔1〕生体高分子分析チップの全体構成
図1は、本発明の実施形態に係る生体高分子分析チップ1の概略平面図である。この生体高分子分析チップ1は、DNAを検出するDNAチップであり、DNA検出領域2と、生体認証領域3と、内蔵記憶装置4とを備える。DNA検出領域2及び生体認証領域3は、それぞれ固体撮像デバイス10,110の受光面である。
【0016】
〔2〕DNA検出領域
DNA検出領域2には、複数のスポット60が形成されている。
図2は、図1における1つのスポット60を拡大した図である。固体撮像デバイス10には、光電変換素子として複数のダブルゲート型磁界効果トランジスタ等のフォトセンサ(以下、フォトセンサという。)20が縦横に配列されている。なお、図2では、スポット60の大きさは直径0.5mmであり、縦横50μmピッチでフォトセンサ20が配列されている。
【0017】
ここで、図2〜図4を用いて固体撮像デバイス10について説明する。図3は1つのフォトセンサ20を示す平面図であり、図4は図3のIV−IV矢視断面図である。
【0018】
〔2−1〕固体撮像デバイス
図4に示すように、固体撮像デバイス10は、透明基板11と、ボトムゲート絶縁膜13と、トップゲート絶縁膜21と、保護絶縁膜23と、光学フィルター24と、スポット固定層25とを積層してなる。これらの層間に、複数のボトムゲートライン12a、ソースライン18a、ドレインライン19a、トップゲートライン22a、及び、フォトセンサ20を形成するボトムゲート電極12、半導体膜14、チャネル保護膜15、不純物半導体膜16,17、ソース電極18、ドレイン電極19、トップゲート電極22、が設けられている。
【0019】
透明基板11は、後述する蛍光体が発する光を透過する性質(以下、光透過性という。)を有するとともに絶縁性を有し、例えば、石英ガラス等といったガラス基板、ポリカーボネート、PMMA等といったプラスチック基板等である。
【0020】
この固体撮像デバイス10においては、光電変換素子としてフォトセンサ20が利用され、複数のフォトセンサ20,20,…が透明基板11上において二次元アレイ状に特にマトリクス状に配列され、これらフォトセンサ20,20,…が窒化シリコン(SiN)等の保護絶縁膜23によってまとめて被覆されている。
なお、図2では10行×10列の100個のフォトセンサ20,20,…が示されている。
【0021】
図3、図4に示すように、フォトセンサ20,20,…は何れも、受光部である半導体膜14と、半導体膜14上に形成されたチャネル保護膜15と、ボトムゲート絶縁膜13を挟んで半導体膜14の下に形成されたボトムゲート電極12と、トップゲート絶縁膜21を挟んで半導体膜14の上に形成されたトップゲート電極22と、半導体膜14の一部に重なるよう形成された不純物半導体膜16と、半導体膜14の別の部分に重なるよう形成された不純物半導体膜17と、不純物半導体膜16に重なったソース電極18と、不純物半導体膜17に重なったドレイン電極19と、を備え、半導体膜14において受光した光量に従ったレベルの電気信号を出力するものである。
【0022】
ボトムゲート電極12は、フォトセンサ20ごとに透明基板11上に形成されている。また、透明基板11上には横方向に延在する複数本のボトムゲートライン12a,12aが形成されており、横方向に配列された同一の行のフォトセンサ20,20,…のそれぞれのボトムゲート電極12が共通のボトムゲートライン12aと一体となって形成されている。ボトムゲート電極12及びボトムゲートライン12aは、導電性及び遮光性を有し、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0023】
フォトセンサ20,20,…のボトムゲート電極12及びボトムゲートライン12a,12a,…はボトムゲート絶縁膜13によってまとめて被覆されている。すなわち、ボトムゲート絶縁膜13は全てのフォトセンサ20,20,…に共通して形成された膜である。ボトムゲート絶縁膜13は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン(SiN)又は酸化シリコン(SiO2)からなる。
【0024】
ボトムゲート絶縁膜13上には、複数の半導体膜14がマトリクス状に配列するよう形成されている。半導体膜14は、フォトセンサ20ごとに独立して形成されており、それぞれのフォトセンサ20においてボトムゲート電極12に対して対向配置され、ボトムゲート電極12との間にボトムゲート絶縁膜13を挟んでいる。半導体膜14は、平面視して略矩形状を呈しており、受光した蛍光の光量に応じた量の電子−正孔対を生成するアモルファスシリコン又はポリシリコンで形成された層である。
【0025】
半導体膜14上には、チャネル保護膜15が形成されている。チャネル保護膜15は、フォトセンサ20ごとに独立してパターニングされており、それぞれのフォトセンサ20において半導体膜14の中央部上に形成されている。チャネル保護膜15は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。チャネル保護膜15は、パターニングに用いられるエッチャントから半導体膜14の界面を保護するものである。半導体膜14に光が入射すると、入射した光量に従った量の電子−正孔対がチャネル保護膜15と半導体膜14との界面付近を中心に発生するようになっている。この場合、半導体膜14側にはキャリアとして正孔が発生し、チャネル保護膜15側には電子が発生する。
【0026】
半導体膜14の一端部上には、不純物半導体膜16が一部、チャネル保護膜15に重なるようにして形成されており、半導体膜14の他端部上には、不純物半導体膜17が一部、チャネル保護膜15に重なるようにして形成されている。不純物半導体膜16,17は、フォトセンサ20ごとに独立してパターニングされている。不純物半導体膜16,17は、n型の不純物イオンを含むアモルファスシリコン(n+シリコン)からなる。
【0027】
不純物半導体膜16上には、ソース電極18が形成され、不純物半導体膜17上には、ドレイン電極19が形成されている。ソース電極18及びドレイン電極19はフォトセンサ20ごとに形成されている。縦方向に延在する複数本のソースライン18a,18a及びドレインライン19a,19aがボトムゲート絶縁膜13上に形成されている。縦方向に配列された同一の列のフォトセンサ20,20,…のソース電極18は共通のソースライン18aと一体に形成されており、縦方向に配列された同一の列のフォトセンサ20,20,…のドレイン電極19は共通のドレインライン19aと一体に形成されている。ソース電極18、ドレイン電極19、ソースライン18a及びドレインライン19aは、導電性及び遮光性を有しており、例えばクロム、クロム合金、アルミ若しくはアルミ合金又はこれらの合金からなる。
【0028】
フォトセンサ20,20,…のソース電極18及びドレイン電極19並びにソースライン18a,18a及びドレインライン19a,19aは、トップゲート絶縁膜21によってまとめて被覆されている。トップゲート絶縁膜21は全てのフォトセンサ20,20,…に共通して形成された膜である。トップゲート絶縁膜21は、絶縁性及び光透過性を有し、例えば窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0029】
トップゲート絶縁膜21上には、複数のトップゲート電極22がフォトセンサ20ごとに形成されている。トップゲート電極22は、それぞれのフォトセンサ20において半導体膜14に対して対向配置され、半導体膜14との間にトップゲート絶縁膜21及びチャネル保護膜15を挟んでいる。また、トップゲート絶縁膜21上には横方向に延在する複数本のトップゲートライン22a,22aが形成されており、横方向に配列された同一の行のフォトセンサ20,20のトップゲート電極22が共通のトップゲートライン22aと一体に形成されている。トップゲート電極22及びトップゲートライン22aは、導電性及び光透過性を有し、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛若しくは酸化スズ又はこれらのうちの少なくとも一つを含む混合物(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム)で形成されている。
【0030】
フォトセンサ20,20,…のトップゲート電極22及びトップゲートライン22a,22aは保護絶縁膜23によってまとめて被覆され、保護絶縁膜23は全てのフォトセンサ20,20,…に共通して形成された膜である。保護絶縁膜23は、絶縁性及び光透過性を有し、窒化シリコン又は酸化シリコンからなる。
【0031】
DNA検出領域2においては、保護絶縁膜23の上面に、励起光フィルター24が設けられている。励起光フィルター24は後述する蛍光体から放射される蛍光波長を透過させるが、励起光波長を透過させないローパスフィルターまたはバンドパスフィルターである。
【0032】
このような励起光フィルターは、例えば、蒸着法、スパッタ法、PVD法、CVD法等の気相堆積法により保護絶縁膜23の表面に誘電体多層膜を市松模様状にパターニングすることで作成することができる。
【0033】
励起光フィルター24の表面には、スポット固定層25が設けられている。スポット固定層25は、スポット60となる後述するプローブと共有結合または静電結合することで、スポットを固定する。
【0034】
以上のように構成された固体撮像デバイス10は、スポット固定層25の表面を受光面としており、フォトセンサ20の半導体膜14において受光した光量を電気信号に変換するように設けられている。
【0035】
〔2−2〕スポット
図1、図2に示すように、固体撮像デバイス10の撮像面にはスポット60が形成されている。各スポット60は、プローブとなる既知の塩基配列のcDNA(プローブDNA61)の溶液をDNA検出領域2に滴下し、乾燥して形成される。
【0036】
図5は図2のV−V矢視断面図である。1つのスポット60では同じ塩基配列の一本鎖のプローブDNA61が多数集まった群集が固定化され、スポット60ごとにプローブDNA61は異なる塩基配列となっている。プローブDNA61としては、既知のmRNAの塩基配列、またはその一部と同一の、あるいは相補的な塩基配列のDNAが用いられる。具体的には、例えば、後述する蛍光標識DNAで用いるのと同じ細胞検体から作成したcDNAライブラリを用いることができる。
図2に示すように、1つのスポット60は複数のフォトセンサ20上に重なるように形成されている。
【0037】
〔3〕生体認証領域
図6は生体認証領域3における固体撮像デバイス110を示す断面図である。固体撮像デバイス110は、励起光フィルター24及びスポット固定層25の代わりに、静電保護層26が設けられている点が固体撮像デバイス10と異なるが、透明基板11、ボトムゲート絶縁膜13、トップゲート絶縁膜21、保護絶縁膜23、フォトセンサ20については、固体撮像デバイス10と同じ基板に同時に作ることもできるため、製造プロセスを容易にすることができる。なお、固体撮像デバイス110の静電保護層26以外の構成については固体撮像デバイス10と同様であるので説明を割愛する。
【0038】
静電保護膜22は、保護絶縁膜21を覆うように形成されており、フォトセンサ3を静電気から保護する。静電保護膜22は、透光性を有した金属酸化物等といった透明導電体であり、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛若しくは酸化スズ又はこれらのうちの少なくとも一つを含む混合物(例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、亜鉛ドープ酸化インジウム)で形成されている。
固体撮像デバイス10,110は、ソースライン18a、ドレインライン19aを共通としてもよい。あるいは、ボトムゲートライン12a、トップゲートライン22aを共通としてもよい。
【0039】
〔4〕ドライバ
生体高分子分析チップ1は、さらに、固体撮像デバイス10,110を駆動するトップゲートドライバ41、ボトムゲートドライバ42、ドレインドライバ43を備える。図7は生体高分子分析チップ1が接続された分析装置70(後述)の構成を示すブロック図である。
トップゲートドライバ41、ボトムゲートドライバ42及びドレインドライバ43は、協同して固体撮像デバイス10を駆動するものである。固体撮像デバイス10,110のトップゲートライン22a,22a,…がトップゲートドライバ41の端子に、ボトムゲートライン12a,12a,…がボトムゲートドライバ42の端子に、ドレインライン19a,19a,…がドレインドライバ43の端子に、それぞれ接続されている。
トップゲートドライバ41、ボトムゲートドライバ42、ドレインドライバ43は後述する分析装置70に接続されたときにコンピュータ71の信号線に接続されるようになっている。
なお、固体撮像デバイス10,110のソースライン18a,18a,…は、後述する分析装置70に接続されたときに一定電圧源に接続されるようになっている。
【0040】
〔5〕内蔵記憶装置
内蔵記憶装置4には、内部にフラッシュメモリー等のメモリーセル51や、メモリー制御回路52が設けられている。メモリーセル51やメモリー制御回路52は固体撮像デバイス10,100と同時に形成することができる。
【0041】
図8(a)は記憶装置に記憶されたデータの構成を示す模式図である。記憶装置に記憶されたデータには、生体高分子分析チップ1のID(4バイト)、生体高分子分析チップ1が製造された年(2バイト)、月(1バイト)、日(1バイト)、時(1バイト)、分(1バイト)、秒(1バイト)、生体高分子分析チップ1を製造したマシンのナンバー(2バイト)、製造場所コード(2バイト)、後述する診断済みフラグ(1バイト)、センサー値を補正するためのデータ(128バイト)、検出用固定DNAデータ、及び指紋・静脈・虹彩等のいずれか1つを含む生体認証データが記憶される。
なお、さらに、固体撮像デバイス110の受光面に沿った光強度分布を二次元の画像データとして記憶してもよい。
【0042】
図8(b)は検出用固定DNAデータの構成を示す模式図である。検出用固定DNAデータは、検出用固定DNAデータ全体のバイト数とともに、スポット60毎に固定された各プローブDNA61を識別するための簡易的なコード、構成塩基数、塩基配列データがそれぞれ記憶されている。なお、塩基配列データにおいては、4種類の塩基を2ビットのデータで区別する。
【0043】
〔5〕製造時データ書き込みフロー
図9は生体高分子分析チップ1の製造時に行われる内蔵記憶装置4へのデータ書き込みフローである。なお、データの書き込みはプローブDNA61を滴下するスポッター(図示せず)により行われる。
【0044】
まず、スポッターに生体高分子分析チップ1となるチップを装着する。すると、スポッターは生体高分子分析チップ1を製造する年、月、日、時、分、秒をメモリーセル51に書き込む(ステップS1)。さらに、スポッターは、スポッター自身を識別するスポッター番号(ステップS2)、製造場所コード(ステップS3)、センサー値補正用データ(ステップS4)をメモリーセル51に書き込む。その後、スポッターはDNA固定位置の初期化を行う(ステップS5)。
【0045】
次に、スポッターはDNA検出領域2にある塩基配列のプローブDNA61を含む溶液を滴下し、スポット60を1つ形成する(ステップS6)。そして、スポッターは滴下した溶液に含まれるプローブDNA61の識別コード(ステップS7)、構成塩基数(ステップS8)、塩基配列データ(ステップS9)をメモリーセル51に書き込む。
【0046】
次に、スポッターは全てのスポット60の形成が終了したか判断し(ステップS10)、終了していない場合には(ステップS10→No)、DNA固定位置を1つ進め、異なる塩基配列のプローブDNA61を含む溶液を滴下し、スポット60を1つ形成し(ステップS6)、プローブDNA61の識別コード(ステップS7)、構成塩基数(ステップS8)、塩基配列データ(ステップS9)をメモリーセル51に書き込む。以後、全てのスポット60の形成が終了するまでステップS6〜S10を繰り返す。
【0047】
全てのスポット60の形成が終了した場合には(ステップS10→Yes)、スポッターは全てのDNA情報データのバイト数を書き込み(ステップS11)、生体高分子分析チップ1の製造を終了する。
【0048】
〔6〕分析装置
次に、生体高分子分析チップ1が装着される分析装置70について図7を用いて説明する。
分析装置70は、生体高分子分析チップ1と接続され、生体高分子分析チップ1及び分析装置70全体を制御するコンピュータ71と、記憶装置72と、コンピュータ71により制御される励起光照射装置73と、コンピュータ71から出力された信号により出力(プリント)を行う出力装置77と、コンピュータ71から出力された信号により表示を行う表示装置78と、照明装置79とを備える。
【0049】
コンピュータ71は、トップゲートドライバ41、ボトムゲートドライバ42及びドレインドライバ43に制御信号を出力することによって、トップゲートドライバ41、ボトムゲートドライバ42及びドレインドライバ43に固体撮像デバイス10,110の駆動動作を行わせる機能を有する。
また、コンピュータ71は内蔵記憶装置4や記憶装置72に記憶された二次元の画像データに従った画像を出力装置77に出力させる機能を有する。出力装置77は、例えばプロッタ、プリンタ又はディスプレイである。表示装置78は、例えば液晶ディスプレイ等の表示装置である。
【0050】
また、コンピュータ71はドレインドライバ43から入力した電気信号をA/D変換することで、固体撮像デバイス10の受光面に沿った光強度分布を二次元の画像データとして記憶装置72に取得する機能を有する。なお、内蔵記憶装置4に記憶してもよい。
また、コンピュータ71はドレインドライバ43から入力した電気信号をA/D変換することで、固体撮像デバイス110の受光面に沿った光強度分布を二次元の画像データとして内蔵記憶装置4に取得する機能を有する。
【0051】
記憶装置72には、ドレインドライバ43からコンピュータ71に入力され、A/D変換された固体撮像デバイス10,110の受光面に沿った光強度分布が二次元の画像データとして記憶される。
励起光照射装置73は、蛍光体を励起する励起光を生体高分子分析チップ1に照射する。例えば、蛍光体としてCy2、Cy3、Cy5を用いる場合には、これらの吸収波長(Cy2:491nm、Cy3:553nm、Cy5:645nm)を含む励起光を生体高分子分析チップ1に照射する。
照明装置79は、近赤外光を放射し、固体撮像デバイス110上に配置された指80に照射する。照明装置79の光源としては、LED等を用いることができる。照明装置79は、固体撮像デバイス110の下部に配置される。
【0052】
分析装置70は指紋・静脈・虹彩等のいずれか1つを含む生体認証データの取得、及びDNAの検出に用いられる。以下、これらの操作における分析装置70の動作について説明する。
【0053】
〔7〕生体認証データの取得
図10は固体撮像デバイス110による指紋データの取得方法を示す模式図である。まず、生体高分子分析チップ1を、分析装置70にセッティングし、トップゲートドライバ41、ボトムゲートドライバ42及びドレインドライバ43をそれぞれトップゲートライン22a,22a,…、ボトムゲートライン12a,12a,…、ドレインライン19a,19a,…に接続する。また、ソースライン18a,18a,…を一定電圧源に接続する。その後、コンピュータ71を起動する。
【0054】
次に、図10に示すように、固体撮像デバイス110の上部に指80を置く。その後、コンピュータ71により光源79を点灯させ、固体撮像デバイス110の裏面から近赤外光を指80に照射しながら、コンピュータ71によりトップゲートドライバ41、ボトムゲートドライバ42及びドレインドライバ43を協働させて固体撮像デバイス110を駆動し、画像データを取得する。
【0055】
ここで、フォトセンサ20の半導体膜14に入射する光は、光源79より指80に照射され、指80内で散乱し、指80の表面から放射される光である。よって、指80の隆線81が上部に配置されたフォトセンサ3の半導体膜14では、指80の表面と半導体膜14との距離が近いため、より多くのキャリアが生成し、取得された画像データでは高輝度となる。
【0056】
一方、指の谷線82が上部に配置されたフォトセンサ20の半導体膜14では指80の表面と半導体膜14との距離が遠いため、生成するキャリアが少なく、取得された画像データでは低輝度となる。
コンピュータ71により、固体撮像デバイス110の各フォトセンサ20の輝度分布が二次元の画像データとして内蔵記憶装置4に記憶される。以上により、指紋データが取得される。
【0057】
〔8〕DNAの検出
〔8−1〕蛍光標識DNAの作成
上記生体高分子分析チップ1で分析する試料としては、DNAを用いることができる。試料となるDNAとしては、例えば血液中の白血球から抽出したゲノムDNAよりPCR反応により得られたDNA(以下、サンプルDNAという)を用いることができる。サンプルDNAは蛍光体で標識する。蛍光体は、分析装置の励起光照射装置から出射される励起光で励起されるものであってその励起光によって蛍光を発するものを選択するが、蛍光体としては、例えばGEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製のCy2(吸収波長491nm、蛍光波長509nm)、Cy3(吸収波長553nm、蛍光波長569nm)、Cy5(吸収波長645nm、蛍光波長664nm)等を用いることができる。
【0058】
サンプルDNAを蛍光体で標識するには、例えば、蛍光体で標識されたオリゴdTプライマや、標識されたdNTPミックスを用いてRT−PCR反応を実施すればよい。以下では、この標識されたサンプルDNAを蛍光標識DNAという。
【0059】
〔8−2〕ハイブリダイゼーション
以下、蛍光標識DNAをプローブDNA61とハイブリダイゼーションさせる方法について図11、図12を用いて説明する。
【0060】
図11は生体高分子分析チップ1のDNA検出領域2に蛍光標識DNA62,63を含有した溶液(以下、蛍光標識DNA溶液という)を滴下した状態を示す模式図である。なお、蛍光標識DNA62,63はそれぞれ異なる塩基配列とする。
まず、図11に示すように、作業者が、蛍光標識DNA溶液を生体高分子分析チップ1のDNA検出領域2に滴下する。なお、蛍光標識DNA溶液を各スポット60,60,…に順次又は同時に滴下してもよい。このとき、DNAが一本鎖となるように蛍光標識DNA溶液は加熱されている。
【0061】
次いで、生体高分子分析チップ1をDNAが二本鎖を形成する所定の温度に冷却する。すると、図12に示すように、蛍光標識DNA溶液内の蛍光標識DNAのうち、スポット60のプローブDNA61と相補的な蛍光標識DNA62は、プローブDNA61とハイブリダイズする。一方、プローブDNA61と相補的ではない蛍光標識DNA63は、このスポット60には結合しない。
【0062】
その後、生体高分子分析チップ1上の蛍光標識DNA溶液を洗浄用バッファー溶液で洗い流し、蛍光標識DNAのうちハイブリダイズしなかったものを生体高分子分析チップ1上から除去する。
【0063】
〔8−3〕蛍光標識DNAの検出
次に、蛍光標識DNA62の検出方法について図13を用いて説明する。
上記処理を行った後、生体高分子分析チップ1を、分析装置70にセッティングし、トップゲートドライバ41、ボトムゲートドライバ42及びドレインドライバ43をそれぞれトップゲートライン22a,22a,…、ボトムゲートライン12a,12a,…、ドレインライン19a,19a,…に接続する。また、ソースライン18a,18a,…を一定電圧源に接続する。その後、コンピュータ71を起動する。
【0064】
次に、コンピュータ71により励起光照射装置73を制御し、生体高分子分析チップ1に蛍光体64の励起光Lを照射する。なお、励起光照射装置73は生体高分子分析チップ1の上面から励起光Lを照射してもよいし、下面から励起光Lを照射してもよい。
【0065】
蛍光標識DNA62がプローブDNA61に結合したスポット60からは、励起光により励起された蛍光体64が励起状態から基底状態に遷移するときに蛍光F(主に可視光波長域)が放出される。
【0066】
図13に示すように、放出された蛍光Fは励起光フィルター24を透過してフォトセンサ20に入射する。
蛍光が入射したフォトセンサ20では電子−正孔対が発生する。なお、励起光Lは励起光フィルターを透過しないため、フォトセンサ20に励起光Lが入射して電子−正孔対を発生させることはなく、励起光Lによるノイズを低減することができる。
【0067】
次に、コンピュータ71は、上述の撮像動作を行い、固体撮像デバイス10の各フォトセンサ20,20,…のそれぞれの光量データを取得する。その後、コンピュータ71は、各フォトセンサ20が取得した光量データを、内蔵記憶装置4から読み出したセンサー値補正用データに応じて調整した後、記憶装置72に記憶する。
【0068】
コンピュータ71は、作業者の操作に応じて記憶装置72に記憶された各フォトセンサ20,20,…のそれぞれの光量データを表示装置78に表示させる。
【0069】
蛍光標識DNAがプローブDNAとハイブリダイズしたスポット60と対応する部分が画面上で明るく表示される。一方、蛍光標識DNAがハイブリダイズしなかったスポット60と対応する部分は画面上で暗色に表示される。
【0070】
このように、各スポット60,60,…の明度を見ることで、プローブDNAと相補的なDNAが検体内のゲノムDNAに存在するか否かを判定することができる。
【0071】
なお、表示装置78に表示された画像データを画像出力装置77により出力し、これを見ることで各スポット60,60,…におけるハイブリダイゼーションの有無を確認してもよい。
【0072】
〔9〕診断フロー
次に、生体高分子分析チップ1を使用した遺伝子診断について説明する。
図14は生体高分子分析チップ1を診断に用いる際に分析装置70により行われる動作フローである。
まず、生体高分子分析チップ1が装着された分析装置70では、コンピュータ71が内蔵記憶装置4から生体高分子分析チップ1が製造された年、月、日、時、分、秒を読み出す(ステップS21)。次に、コンピュータ71は、生体高分子分析チップ1が使用期限内であるか否かを判断する(ステップS22)。例えば、読み出した年、月、日、時、分、秒に、予め定められた使用期限を加算した値と、現在の年、月、日、時、分、秒とを対比することにより使用期限内か否かを判断することができる。使用期限を越えていると判断した場合(ステップS22→No)、ERROR表示をする。
【0073】
使用期限内と判断した場合(ステップS22→Yes)、コンピュータ71は、内蔵記憶装置4から生体高分子分析チップ1を製造したスポッター番号(ステップS23)、製造場所コード(ステップS24)を読み出す。そして、スポッター番号及び製造場所が適切か否かを判断する(ステップS25)。適切でないと判断した場合(ステップS25→No)、ERROR表示をする。
【0074】
スポッター番号及び製造場所が適切であると判断した場合(ステップS25→Yes)、コンピュータ71は、内蔵記憶装置4からDNA識別コードを読み出し(ステップS26)、遺伝子診断に用いるDNAの識別コードが含まれている適切なチップか否かを判断する(ステップS27)。適切でないと判断した場合(ステップS27→No)、ERROR表示をする。
【0075】
チップが適切であると判断した場合(ステップS27→Yes)、コンピュータ71は、診断済みフラグに1を書き込む(ステップS28)。
その後、診断済みの生体高分子分析チップ1を用いて、生体認証データ(指紋データ)の取得(ステップS29)、DNAデータの取得(ステップS30)が行われる。生体認証データとして、例えば患者から採血を行う時に指紋データの取得を行うことができ、その後、抽出し増幅したDNAの分析をしてDNAデータを取得することができる。採血時に指紋データを取得して生体高分子分析チップ1内に格納しているため、指紋データを確認することで生体高分子分析チップ1の取り違えを防ぐことができ、さらに個人情報の漏洩を防止することができる。さらに、DNAデータ及び指紋データを生体高分子分析チップ1の内蔵記憶装置4内に記憶して一元管理してもよい。
なお、採血を行い、DNAデータを取得した後、患者から指紋データを取得してもよい。
また、生体認証データとして、本実施形態においては指紋データを取得したが、静脈データ、虹彩データ等のいずれか1つを含む生体認証データを取得してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施形態に係る生体高分子分析チップ1の概略平面図である。
【図2】図1における1つのスポット60を拡大した図である。
【図3】1つのフォトセンサ20を示す平面図である。
【図4】図3のIV−IV矢視断面図である。
【図5】図2のV−V矢視断面図である。
【図6】生体認証領域3における固体撮像デバイス110を示す断面図である。
【図7】分析装置70の構成を示すブロック図である。
【図8】(a)は記憶装置に記憶されたデータの構成を示す模式図であり、(b)は検出用固定DNAデータの構成を示す模式図である。
【図9】生体高分子分析チップ1の製造時に行われる内蔵記憶装置4へのデータ書き込みフローである。
【図10】固体撮像デバイス110による指紋データの取得方法を示す模式図である。
【図11】生体高分子分析チップ1のDNA検出領域2に蛍光標識DNA溶液を滴下した状態を示す模式図である。
【図12】蛍光標識DNA62のみがプローブDNA61とハイブリダイズした状態を示す模式図である。
【図13】蛍光標識DNA62の検出方法を示す模式図である。
【図14】生体高分子分析チップ1を診断に用いる際に分析装置70により行われる動作フローである。
【符号の説明】
【0077】
1 生体高分子分析チップ
4 内蔵記憶装置
10,110 固体撮像デバイス(撮像装置)
20 フォトセンサ(受光素子)
61 プローブDNA(プローブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受光素子が形成された第1の撮像装置及び第2の撮像装置と、
前記第1の撮像装置及び前記第2の撮像装置により撮像された画像データを記憶する記憶装置と、を備え、
前記第1の撮像装置の受光面には特定の生体高分子と結合するプローブが設けられていることを特徴とする生体高分子分析チップ。
【請求項2】
前記プローブは既知の塩基配列の一本鎖DNAであることを特徴とする請求項1に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項3】
前記第1の撮像装置はDNAの検出に用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項4】
前記第2の撮像装置はDNA以外の生体認証に用いられることを特徴とする請求項3に記載の生体高分子分析チップ。
【請求項5】
前記記憶装置には、センサー値を補正するためのデータが記憶されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の生体高分子分析チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−204499(P2009−204499A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47931(P2008−47931)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】