説明

生分解性ポリマーを変性する方法

繰返し単位の1以上を表す以下の一般構造(1)


(この式で、nは整数であり、mは0〜6の範囲内の整数であり、Rは、水素、置換されたまたは非置換のC〜C20アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アリール、C〜C20アラルキル、およびC〜C20アルカリールであって、これらの基が直鎖のまたは分枝されたアルキル部分を含んでいてもよいものから選択され、該1以上の任意的な置換基はヒドロキシ、アルコキシ、直鎖のまたは分枝されたアルキルもしくはアルケニル、アリールオキシ、ハロゲン、カルボン酸、エステル、カルボキシ、ニトリル、およびアミドの基から成る群から選択される。)
を有するポリマーまたはコポリマーを変性する方法であって、該ポリマーまたはコポリマーを環式有機過酸化物と、当該過酸化物の少なくとも一部が分解される条件下に接触させることを含む、方法。この方法は、高度の分枝を有するがゲルを生成しないポリマーまたはコポリマーをもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰返し単位の1以上を表す以下の一般構造

を有するポリマーまたはコポリマーを変性する方法に関し、この式で、nは整数であり、mは0〜6の範囲内の整数であり、Rは、水素、置換されたまたは非置換のC〜C20アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アリール、C〜C20アラルキル、およびC〜C20アルカリールであって、これらの基が直鎖のまたは分枝されたアルキル部分を含んでいてもよいものから選択され、該1以上の任意的な置換基はヒドロキシ、アルコキシ、直鎖のまたは分枝されたアルキルもしくはアルケニル、アリールオキシ、ハロゲン、カルボン酸、エステル、カルボキシ、ニトリル、およびアミドの基から成る群から選択される。
【0002】
これらのポリマーは一般に生分解性であり、生分解性とは自然に存在する微生物、たとえば細菌、真菌、および藻の作用によってこれらのポリマーが分解することができることを意味する。
【背景技術】
【0003】
これらのポリマーまたはコポリマーの商業的可能性は、とりわけ石油化学的に生成されたポリマーと比較したその生分解性および/または自然再生可能性の故に、非常に高い。しかし、商業的に魅力のある製品へのこれらのポリマーまたはコポリマーの加工は、溶融加工の際のその不十分な溶融強度のような障害によって妨げられていた。これらの障害を解消するために、このようなポリマーまたはコポリマーを変性する方法を、いくつかの従来技術文献が開示している。
【0004】
特許文献1は、フリーラジカル開始剤、たとえば有機過酸化物を使用する、上記の一般構造を有することがあるポリヒドロキシアルカノエートの変性を開示している。この文献に開示された過酸化物は、本質において全て直鎖であり、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンおよびブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレートを包含する。
【0005】
特許文献2は、有機過酸化物を用いるポリ(ヒドロキシ酸)、たとえばポリ乳酸の反応押出による該ポリマーの変性を開示している。この文献に開示された過酸化物はジラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−ジエチルアセテート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、およびジベンゾイルパーオキシドであり、これらは全て直鎖の性質を有する。
【0006】
特許文献3は、直鎖有機過酸化物、たとえば2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンおよびジクミルパーオキシドを用いるポリ乳酸の変性を開示している。
【0007】
これらの従来技術の方法に従って変性されたポリマーは、小程度のみの分枝をもたらすか、あるいは架橋によるゲルの生成を被る。ゲルの生成は、透明フィルムもしくはコーティング中に「フィッシュアイ」の発生を、または成形物中に微粒子をもたらし、このことは明らかに望ましくない。
【特許文献1】米国特許第6,096,810号明細書
【特許文献2】国際公開第95/18169号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,594,095号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
驚いたことに、ポリマーまたはコポリマーを変性するために環式有機過酸化物が使用されるならば、高度の分枝およびゲルの生成がないことを兼ね備えるポリマーまたはコポリマーが調製されることができることが今発見された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、その繰返し単位の1以上を表す上記の一般構造に従うところのポリマーまたはコポリマーを変性する方法に関し、これは、該ポリマーまたはコポリマーを環式有機過酸化物と、当該過酸化物の少なくとも一部が分解される条件下に、接触させることを含む。
【発明の効果】
【0010】
加えて、ポリマーまたはコポリマーの広い分子量分布が得られ、それによってその溶融強度が改良される。
【0011】
本発明の方法のさらなる利点は、従来技術で使用される過酸化物と異なり、本発明の方法に使用される環式有機過酸化物は、t−ブタノールを分解生成物として放出しないことである。このt−ブタノールが存在しないこと(t−ブタノールはその毒性故に、食品関連の用途のためのポリマーまたはコポリマー中においては望ましくない。)は、食品との接触がかかわる用途に本発明に従って変性されたポリマーまたはコポリマーが使用されることを許す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に従う方法を使用して変性されるべきポリマーまたはコポリマーは、繰返し単位の1以上を表す以下の一般構造

を有し、この式で、nは整数であり、mは0〜6の範囲内の整数であり、Rは、水素、置換されたまたは非置換のC〜C20アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アリール、C〜C20アラルキル、およびC〜C20アルカリールであって、これらの基が直鎖のまたは分枝されたアルキル部分を含んでいてもよいものから選択され、該1以上の任意的な置換基はヒドロキシ、アルコキシ、直鎖のまたは分枝されたアルキルもしくはアルケニル、アリールオキシ、ハロゲン、カルボン酸、エステル、カルボキシ、ニトリル、およびアミドの基から成る群から選択される。
【0013】
好ましくは、ポリマーまたはコポリマー中の繰返し単位の全てが上記の一般構造を満たす。もっとも、これらの繰返し単位の全てが必ずしも同じである必要はない。たとえば、その中の繰返し単位の一部がm=1およびR=エチルである構造を有し、他方、該繰返し単位の他の一部がm=1およびR=メチルである構造を有するところのコポリマーが使用されることができる。
【0014】
好適なポリマーまたはコポリマーの例は、ポリ乳酸(PLA、上記の構造においてm=0、R=メチル)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(m=1、R=メチル)、ポリグリコール酸(m=0、R=H)、ポリヒドロキシ−ブチレート−コ−バレレート(m=1、R=エチル)、およびポリ(ε−カプロラクトン)(m=4、R=H)を含む。
【0015】
上記の構造に従うポリマーまたはコポリマーは、個々に、あるいは1以上の他のポリマーもしくはコポリマーまたは物質とのブレンド中に存在している間に、本発明の方法で変性されることができる。好適な他のポリマーまたはコポリマーはポリアクリレートおよびポリメタクリレート、Ecoflex(商標)(1,4−ブタンジオールとテレフタル酸/アジピン酸とのコポリマー)のようなコポリマー、デンプンまたはデンプン由来のポリマー、セルロースまたはセルロース由来のポリマー、ならびに他の天然のポリマーまたはコポリマーである。
【0016】
環式有機過酸化物とは、環式部分を有しかつ該環式部分が過酸化物基を有する有機分子と定義される。本発明の方法に使用するのに適している環式有機過酸化物は、環式ケトンパーオキシドおよび1,2,4−トリオキセパンを包含する。また1以上の環式有機過酸化物の混合物または1以上の環式有機過酸化物と1以上の非環式有機過酸化物との混合物が使用されてもよい。
【0017】
以下の実施例に示されるように、1,2,4−トリオキセパンの使用は、得られたポリマーまたはコポリマーのメルトフローインデックスを増加しさえする。これは、得られたポリマーまたはコポリマーの溶融加工特性が改良されることを意味し、該ポリマーが押出コーティング、紡糸、または射出成形によって加工されるべきときは、このことは重要である。
【0018】
好まれる環式ケトンパーオキシドは、式I〜III

によって提示される過酸化物から選択され、この式で、R〜Rは、水素、C〜C20アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アリール、C〜C20アラルキル、およびC〜C20アルカリールであって、これらの基が直鎖のまたは分枝されたアルキル部分を含んでいてもよいものから独立に選択され、かつ、R〜Rのそれぞれは、ヒドロキシ、アルコキシ、直鎖のまたは分枝されたアルキル、アリールオキシ、エステル、カルボキシ、ニトリル、およびアミドから選択された1以上の基によって任意的に置換されていてもよい。
【0019】
好ましくは、環式ケトンパーオキシドは酸素、炭素、および水素の原子から成る。より好ましくは、環式ケトンパーオキシドは、直鎖の、分枝された、または環式のC〜C13ケトン、最も好ましくはC〜Cケトン、またはより好ましくはC〜C20ジケトン、最も好ましくはC〜Cジケトンから誘導される。ケトンの使用は式IおよびIIの環式ケトンパーオキシドの生成をもたらし、他方、ジケトンの使用は式IIIの環式ケトンパーオキシドの生成をもたらす。
【0020】
本発明の方法に使用するのに適した環式ケトンパーオキシドの例は、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルヘキシルケトン、メチルヘプチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、エチルアミルケトン、メチルオクチルケトン、メチルノニルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−メチルシクロヘキサノン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、およびこれらの混合物から誘導された過酸化物を含む。
【0021】
国際公開第96/03397号に記載されたように、環式ケトンパーオキシドは調製されることができる。
【0022】
1,2,4−トリオキセパンは、以下の式

を有する過酸化物であり、この式で、R、R、Rは水素および置換されたまたは非置換のヒドロカルビル基から独立に選択され、任意的にR、R、およびRの基のうち2は連結されて環構造を形成する。
【0023】
好まれる1,2,4−トリオキセパンは、R1〜3が、水素ならびに置換されたまたは非置換のC〜C20アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アリール、C〜C20アラルキル、およびC〜C20アルカリールであって、これらの基が直鎖のまたは分枝されたアルキル部分を含んでいてもよいものから成る群から独立に選択され、さらにR1〜3の基のうち2が連結されて(置換された)シクロアルキル環を形成していてもよく、R〜Rのそれぞれ上の1以上の任意的な置換基がヒドロキシ、アルコキシ、直鎖のまたは分枝されたアルキルもしくはアルケニル、アリールオキシ、ハロゲン、カルボン酸、エステル、カルボキシ、ニトリル、およびアミドから成る群から選択されたものである。
【0024】
好ましくは、RおよびRは低級アルキル基から、より好ましくはC〜Cアルキル基、たとえばメチル、エチル、およびイソプロピルから選択され、メチルおよびエチルが最も好まれる。Rは好ましくは、水素、メチル、エチル、イソプロピル、イソブチル、t−ブチル、アミル、イソアミル、シクロヘキシル、フェニル、CHC(O)CH−、COC(O)CH−、HOC(CHCH−、および

から選択され、この式でRは、R1〜3について示された化合物の群のうちのいずれかから独立に選択される。他の好まれる1,2,4−トリオキセパンは、

である。
【0025】
ポリマーまたはコポリマーと環式有機過酸化物とは、変性方法の特定の目的に応じて種々の様式で接触されることができる。過酸化物は、ポリマーもしくはコポリマーの、溶融物、(粉体、フレーク、ペレット、フィルム、もしくはシートとしての)固形物、または溶液と混合されることができる。
【0026】
ポリマーまたはコポリマーと過酸化物との均一混合を達成するために、慣用の混合装置、たとえばニーダー、内部ミキサー、または押出機が使用されることができる。その高い融点の故に特定の物質について混合が問題になるようであれば、たとえばポリマーまたはコポリマーはまず固体状態にある間にその表面上で変性され、そしてその後に溶融され混合されることができる。あるいは、ポリマーまたはコポリマーはまず溶媒中に溶解されてもよく、そして過酸化物との反応が次に溶液中で実施されることができる。
【0027】
過酸化物とポリマーまたはコポリマーとが互いに接触される時点および過酸化物がポリマーまたはコポリマーと反応することになる時点は、他の通常の加工段階、たとえば添加剤の導入、成形等とは独立に選択されることができる。たとえば、添加剤がポリマーもしくはコポリマー中に導入される前または添加剤の導入後に、ポリマーまたはコポリマーは変性されてもよい。より重要なことは、ポリマーまたはコポリマーの成形段階、たとえば押出、押出コーティング、圧縮成形、熱成形、発泡、フィルムブロー製膜、ブロー成形、射出成形、または射出延伸ブロー成形の際に、本発明のポリマーまたはコポリマーの変性を達成することが可能であることである。本発明のポリマー変性方法は、最も好ましくは押出装置中で実施される。
【0028】
本発明の方法に使用される過酸化物の量は、ポリマーまたはコポリマーの有意の変性を達成するのに有効であるようなものでなければならない。好ましくは、ポリマーまたはコポリマーの重量当たり、少なくとも0.005重量%、より好ましくは少なくとも0.01重量%、最も好ましくは少なくとも0.05重量%の環式有機過酸化物が使用される。環式有機過酸化物の量はポリマーまたはコポリマーの重量当たり、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、最も好ましくは1重量%未満である。
【0029】
その下で過酸化物の少なくとも一部が分解されるところの好適な条件は、好ましくは少なくとも180℃、より好ましくは少なくとも190℃、なおもより好ましくは少なくとも200℃、さらにより好ましくは少なくとも215℃、最も好ましくは少なくとも220℃の温度である。本発明のプロセスの間、適用される温度は、好ましくは260℃以下、より好ましくは250℃以下、なおもより好ましくは240℃以下、さらにより好ましくは230℃以下、最も好ましくは225℃以下である。
【0030】
変性後、ポリマーまたはコポリマーは重合工業における標準的な技術を使用して冷却されおよび/または脱揮発分される。
【0031】
加工時間、すなわち過酸化物とポリマーまたはコポリマーとを接触させた時点から、変性されたポリマーもしくはコポリマーを冷却しまたは脱揮発分する時点までに及ぶ時間は、少なくとも5秒間、より好ましくは少なくとも10秒間、最も好ましくは少なくとも15秒間である。加工時間は好ましくは15分間以下、より好ましくは10分間以下、なおもより好ましくは5分間以下、さらにより好ましくは60秒間以下、最も好ましくは45秒間以下である。
【0032】
所望の加工時間および所望の温度の双方とも、過酸化物とポリマーまたはコポリマーとが互いに接触される様式に依存する。本発明の1の実施態様に従うと、環式有機過酸化物はポリマーまたはコポリマーの溶融物中へと、たとえば押出機の中で注入される。この手順を使用すると、加工時間は好ましくは5〜60秒間、より好ましくは5〜45秒間の範囲にある。注入の時点におけるポリマーまたはコポリマーの溶融物の温度は、好ましくは200〜240℃、より好ましくは215〜230℃、最も好ましくは220〜225℃の範囲内にある。
【0033】
他の実施態様に従うと、ポリマーまたはコポリマーと過酸化物とは予備混合され、それから混合装置、たとえばニーダー、内部ミキサー、または好ましくは押出機中へと導入される。この実施態様は、15分間までまたはそれ以上、好ましくは10分間まで、より好ましくは5分間までの加工時間を要求することがある。混合装置中に存在する間の混合物の所望の温度は、その中におけるそれの滞留時間に依存するだろう。滞留時間が長ければ長いほど、温度はそれだけ低くなることがある。
【0034】
変性の際、ポリマーまたはコポリマーは添加剤を含有していてもよい。好まれる添加剤は、触媒失活剤およびスリップ・ブロッキング防止剤、たとえば脂肪酸アミドである。所望であれば、さらに安定剤、たとえば酸化、熱、または紫外線による劣化の防止剤、潤滑剤、伸展油、pH調節物質、たとえば炭酸カルシウム、離型剤、着色剤、強化または非強化フィラー、たとえばシリカ、粘土、白亜、カーボンブラック、および繊維状物質、たとえばガラス繊維、天然繊維、木材由来の物質、核剤、可塑剤、ならびに促進剤が存在してもよい。
【0035】
本発明に従う変性されたポリマーまたはコポリマーは各種の用途、たとえば押出フィルムもしくはブローンフィルム、包装用の、特にコート紙もしくはコート厚紙用のコーティング、発泡品もしくは成形物品、たとえばボトル、ビーカー、もしくはトレー、たとえば電子レンジ調理可能もしくはオーブン調理可能食品用の発泡トレー、クラムシェルもしくは他の熱成形物品、または射出成形トレーに使用されることができる。
【0036】
方法
【0037】
メルトフローインデックス
【0038】
DIN 53735/ASTM 1238(190℃、荷重21.6N)に従ってGottfert(商標)メルトインデクサー型式MP−Dを用いて、メルトフローインデックス(MFI)は測定された。MFIはg/10分単位で表される。
【0039】
分子量の特性解析および分枝
【0040】
以下から成るサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)装置を使用して、変性されたポリマーまたはコポリマーの分子量は測定された。
ポンプ :Knauer HPLC−ポンプK501
溶離液 :1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール(HFI P)
流量 :0.6ml/分
注入 :Spark Holland Triathlonオートサンプル装 置、50μl
濃度 :約2mg/ml
溶媒 :1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール
カラム :2×PSS PFGリニアカラムXL 7μ、300×8mm
屈折率検出 :Waters 410示差屈折計
差圧粘度検出 :Viscotek粘度計検出器H502
光散乱検出 :Viscotek RALLS検出器
【0041】
サンプルの分子量、すなわち数平均(Mn)、重量平均(Mw)、およびz平均(Mz)分子量が光散乱(LS)検出から計算された。分散度(D)がMw/Mnとして計算された。固有粘度(IV)が粘度計検出器で測定された。
【0042】
マーク・ホーウィンク(Mark−Houwink)プロットから、分枝数(Bn、すなわち1分子当たりの枝の平均数)および頻度(λ、すなわち100モノマー単位当たりの分枝)が、ZimmおよびStockmayer、J.Chem.Phys.1949年、第17巻、1301ページの理論に従って計算された。ランダムに分枝されたポリマーを表す構造因子εは0.75とされた。
【0043】
ゲル分率の測定
【0044】
分析の前に、50℃の熱風循環オーブン中で一晩、サンプルは乾燥された。
【0045】
手順:1グラムのサンプルおよび50mlのジクロロメタンが50mlのクリンプキャップバイアルに加えられ、バイアルに蓋がされた。バイアルは室温で少なくとも10時間振盪された。
【0046】
ブフナー漏斗、ろ過用三角フラスコ、およびろ過工程を促進するための吸引を与える水流アスピレーターを使用して、5mlのジクロロメタン(DCM)で、ろ紙(Schleicher & Schuell No.597、45mm)が洗われた。洗浄されたろ紙がペトリ皿上に置かれ、130℃において1時間乾燥され、そしてデシケーター中で室温まで冷却された。乾燥されたろ紙を含むペトリ皿が秤量された。
【0047】
次に、ブフナー漏斗に真空がかけられ、サンプル溶液が該漏斗中へと注がれた。残留物を含むろ紙が同様にペトリ皿に置かれ、130℃において2時間乾燥され、そしてデシケーター中で室温まで冷却された。乾燥されたろ紙および残留物を含むペトリ皿が同様に秤量され、残留物の重量が計算された。
【0048】
ゲル含有量は、サンプルの当初重量(1グラム)に対する残留物の重量と定義される。0.2重量%未満のゲル分率は、ゲルの生成がないことを示す。
【0049】
低せん断粘度の測定
【0050】
以下の仕様を有するAR2000せん断動的レオメーター(TA Instruments社)を使用して180℃において、低せん断におけるレオロジー測定が実施された。
トルク範囲CS: 0.1μN・m〜200mN・m
速度範囲CS: 1E−8〜300ラジアン/秒
慣性: 約15μN・m
周波数範囲: 1.2E−7〜100Hz
速度におけるステップ変化: <30ミリ秒
ひずみにおけるステップ変化: <60ミリ秒
応力におけるステップ変化: <1ミリ秒
【0051】
揮発分の測定
【0052】
Hewlett Packard HP5890シリーズ2のGC、標準的な液体注入および静的ヘッドスペース注入が可能なCombi−Pal(スイス国、CTC Analytics社)自動サンプル注入器、ならびにデータシステムとしてのLabSystems社のAtlas 2000を使用して、GC静的ヘッドスペース分析法によって、変性されたポリマーのサンプル中の揮発分が測定された。
【0053】
以下の条件が使用された。
カラム :溶融石英、25m×0.32mm内径、CP−Sil 5C Bでコーティングされたもの、膜厚さ5μm、Chromp ack社から
キャリアガス :ヘリウム、メタン保持時間:40℃において62秒間
注入器 :スプリット注入
−温度 :150℃
−スプリット流量 :20ml/分
検出器 :水素炎イオン化検出器
−温度 :320℃
−検出器感度 :レンジ=2
オーブン温度 :当初 :3分間40℃
速度1 :80℃まで5℃/分
速度2 :12℃/分
最終 :1分間300℃
注入体積
ヘッドスペース(気体):1.0ml
【0054】
1グラムのポリマーサンプルが、20mlのクリンプキャップバイアル中で140℃において1時間加熱された。該バイアルから1mlのヘッドスペースが次にGCカラム中へと注入された。
【実施例1】
【0055】
処理量を測定するためのKTRON 1秤量器上に置かれたRetsch振動ガターを使用して、ポリ乳酸(PLA)顆粒(HM1010、Hycail社から、MFI=5.9g/10分)が、W&P ZSK30押出機(L/D=36)に加えられた。押出機のスクリュー速度は200rpmであり、スクリュー長は1,150mmであった。
【0056】
以下の温度プロファイルが押出機に使用された。すなわち、
200−240−240−240−240−240℃。
【0057】
439mmのスクリュー長において、ポリ乳酸溶融物中に純過酸化物が注入された。895mmのスクリュー長において、真空脱ガスが開始された。圧力の読み取りおよび高圧力制限を備えたKnauer(分離用)10ml配量ポンプを使用して、過酸化物の注入は実施された。配量ヘッドは水で冷却された。
【0058】
3の環式有機過酸化物が使用された。すなわち、
Trigonox(商標)301(3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリパーオキソノナン、Akzo Nobel社から)、
Trigonox(商標)311(3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン、Akzo Nobel社から)、および
MEK−TP(3−エチル−3,5,7,7−テトラメチル−1,2,4−トリオキセパン)。
【0059】
4の非環式有機過酸化物が使用された。すなわち、
Trigonox(商標)101(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、Akzo Nobel社から)、
Trigonox(商標)117(t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、Akzo Nobel社から)、
Trigonox(商標)17(ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート、Akzo Nobel社から)、および
Trigonox(商標)C(t−ブチルパーオキシベンゾエート、Akzo Nobel社から)。
【0060】
ポリ乳酸当たり0.25重量%および0.50重量%の2の量で、過酸化物は使用された。
【0061】
上記の手順に従って、得られた変性ポリ乳酸のMFI、分子量分布、分枝数および頻度、ならびにゲル分率が測定された。結果が表1および2に提示される(これらの表において「Tx」はTrigonox(商標)を表す。)。
【表1】

【表2】

【0062】
本発明に従う環式有機過酸化物の使用は、ゲルの生成がないこと、分子量分布の広幅化および分枝の増加を兼ね備えさせることを、これらの表は示す。加えて、Torigonox(商標)311はポリマーのメルトフローを増加する能力があった。
【実施例2】
【0063】
使用されたポリ乳酸がNatureWorks社からの商用銘柄(MFI=8.2g/10分)であること、押出機中の温度プロファイルが220/220/220/220/220/220℃であること、ならびに試験された過酸化物がTrigonox(商標)301、Trigonox(商標)311、Trigonox(商標)101、これらの過酸化物の混合物、およびMEK−TPであることを除いて、実施例1が繰り返された。
【0064】
結果が表3および4に示される。
【表3】

【表4】

【0065】
本実施例においても、本発明に従う環式有機過酸化物の使用は、ゲルの生成がないこと、分子量分布の広幅化および分枝の増加を兼ね備えさせることを、これらの表は示す。
【0066】
加えて、該過酸化物の分解によって生成されそして押出機における脱揮発分の後でさえもポリ乳酸中に残留する揮発分は、上記の方法に従って検出された。結果が表5に示される。
【表5】

【0067】
本発明に従う環式有機過酸化物を使用することによって、ポリマー中に残留する揮発分の量、特にアセトンおよびt−ブタノールの量は、直鎖過酸化物の使用後よりも有意に低いことを、このデータは示す。
【0068】
さらに、変性されていないポリマーならびに0.5重量%のTrigonox(商標)301を用いておよびTrigonox(商標)311を用いて変性されたポリマーの低せん断粘度が測定された。結果が図1にプロットされ、本発明に従う方法が、増加された低せん断粘度を有するポリマーをもたらすことを図1は示し、このことは長鎖分枝によって鎖の絡み合いが増加することを表している。
【実施例3】
【0069】
押出機中の温度プロファイルが210/210/210/210/210/210℃であることを除いて、実施例2が繰り返された。
【0070】
結果が表6および7に示される。
【表6】

【表7】

【0071】
本発明に従う環式有機過酸化物の使用は、ゲルの生成がないこと、分子量分布の広幅化および分枝の増加を兼ね備えさせることを、これらの表は裏付ける。
【実施例4】
【0072】
NatureWorks社からの別のポリ乳酸(MFI=13.8g/10分)が使用されたことを除いて、実施例2が繰り返された。試験された過酸化物は、(1.0重量%までの)より高濃度におけるTrigonox(商標)301であった。
【0073】
結果が表8に示される。
【表8】

【0074】
全てのサンプルについてゲル分率が測定され、それはゲルの生成がないことを示した。
【0075】
長鎖分枝の導入は、Mwの増加および高められたMzをもたらすことを表8の結果は示し、これは増加された溶融弾性をポリマーに付与する。
【0076】
振動周波数掃引における貯蔵弾性率(G')および損失弾性率(G'')の測定によって、変性されたポリマーの溶融弾性の増加が確認された。結果が図2にプロットされる。
【0077】
Trigonox(商標)301の重量%が高いほど、貯蔵弾性率(G')は増加し、溶融弾性が高められることを示す。
【0078】
さらに、変性されていないポリマーおよび変性されたポリマーの低せん断粘度が測定された。結果が表3にプロットされ、本発明に従う方法が、高められた溶融弾性に加えて、(より高いMwの結果としての)増加された低せん断粘度および(多分散度とも呼ばれる、より高いMz/Mwの結果としての)「せん断流動化(shear thinning)」挙動を有するポリマーをもたらすことを、この結果は示す。Trigonox(商標)301の重量%の増加とともに、これらの特性はさらに高められる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】変性されていないポリ乳酸(PLA)、ならびにTorigonox(商標)301(Tx 301)を使用しておよびTorigonox(商標)311(Tx 311)を使用して本発明に従って変性されたポリ乳酸についての、角周波数の関数としての粘度を示すグラフである。
【図2】実施例4の、変性されていないポリマーおよび変性されたポリマーの振動周波数掃引における貯蔵弾性率(G')および損失弾性率(G'')の測定を示すグラフである。
【図3】実施例4の、変性されていないポリマーおよび変性されたポリマーの低せん断粘度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰返し単位の1以上を表す以下の一般構造

(この式で、nは整数であり、mは0〜6の範囲内の整数であり、Rは、水素、置換されたまたは非置換のC〜C20アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アリール、C〜C20アラルキル、およびC〜C20アルカリールであって、これらの基が直鎖のまたは分枝されたアルキル部分を含んでいてもよいものから選択され、該1以上の任意的な置換基はヒドロキシ、アルコキシ、直鎖のまたは分枝されたアルキルもしくはアルケニル、アリールオキシ、ハロゲン、カルボン酸、エステル、カルボキシ、ニトリル、およびアミドの基から成る群から選択される。)
を有するポリマーまたはコポリマーを変性する方法であって、該ポリマーまたはコポリマーを環式有機過酸化物と、当該過酸化物の少なくとも一部が分解される条件下に、接触させることを含む、方法。
【請求項2】
ポリマーまたはコポリマーと環式過酸化物とが、180〜260℃の範囲内の温度において接触される、請求項1に従う方法。
【請求項3】
ポリマーまたはコポリマーと環式過酸化物とが、200〜240℃の範囲内の温度において接触される、請求項2に従う方法。
【請求項4】
環式過酸化物が、ポリマーまたはコポリマーの溶融物中へと注入される、請求項1〜3のいずれか1項に従う方法。
【請求項5】
環式過酸化物が、環式ケトンパーオキシドおよび1,2,4−トリオキセパンの群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に従う方法。
【請求項6】
ポリマーがポリ乳酸である、請求項1〜5のいずれか1項に従う方法。
【請求項7】
ポリマーまたはコポリマーが、1以上の他のポリマーもしくはコポリマーまたは物質とのブレンド中に存在している、請求項1〜6のいずれか1項に従う方法。
【請求項8】
繰返し単位の1以上を表す以下の一般構造

(この式で、nは整数であり、mは0〜6の範囲内の整数であり、Rは、水素、置換されたまたは非置換のC〜C20アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アリール、C〜C20アラルキル、およびC〜C20アルカリールであって、これらの基が直鎖のまたは分枝されたアルキル部分を含んでいてもよいものから選択され、該1以上の任意的な置換基はヒドロキシ、アルコキシ、直鎖のまたは分枝されたアルキルもしくはアルケニル、アリールオキシ、ハロゲン、カルボン酸、エステル、カルボキシ、ニトリル、およびアミド基から成る群から選択される。)
を有する変性されたポリマーまたはコポリマーであって、該変性された生分解性のポリマーまたはコポリマーが請求項1〜7のいずれか1項に従う方法によって得られることができるものである、変性されたポリマーまたはコポリマー。
【請求項9】
請求項7の変性されたポリマーまたはコポリマーから造られているフィルム、コーティング、または物品。
【請求項10】
(i)繰返し単位の1以上を表す以下の一般構造

(この式で、nは整数であり、mは0〜6の範囲内の整数であり、Rは、置換されたまたは非置換のC〜C20アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アリール、C〜C20アラルキル、およびC〜C20アルカリールであって、これらの基が直鎖のまたは分枝されたアルキル部分を含んでいてもよいものから選択され、該1以上の任意的な置換基はヒドロキシ、アルコキシ、直鎖のまたは分枝されたアルキルもしくはアルケニル、アリールオキシ、ハロゲン、カルボン酸、エステル、カルボキシ、ニトリル、およびアミドの基から成る群から選択される。)
を有するポリマーまたはコポリマー、および
(ii)環式有機過酸化物
を含んでいる組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−528416(P2009−528416A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556754(P2008−556754)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051716
【国際公開番号】WO2007/099056
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】