説明

生分解性モノフィラメントおよび釣糸

【課題】優れた力学的特性と適度な生分解速度を兼ね備えた生分解性モノフィラメント、およびこの生分解モノフィラメントを素材とする釣糸の提供。
【解決手段】(A)融点が70℃以上のポリアルキレンジカルボキシレート類と、(B)芳香族ジカルボン酸/脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなる融点が190℃以上の共重合ポリエステルとの樹脂組成物からなることを特徴とする生分解性モノフィラメントおよびこの生分解性モノフィラメントを素材とする釣糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた力学的特性と適度な生分解速度を兼ね備えた生分解性モノフィラメント、およびこの生分解モノフィラメントを素材とする釣糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、釣糸などに使用されているモノフィラメントの素材としては、その力学的な要求特性から、主としてポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンおよびポリ弗化ビニリデンなどからなる合成樹脂が使用されてきた。しかし、これらの合成樹脂からなるモノフィラメントは、自然環境下ではほとんど分解しないため、使用後に捨てられたり、放置されたりした場合には、そのまま半永久的に自然界に残存するため、環境衛生上大きな問題となっていた。
【0003】
例えば、捨てられた廃棄釣糸が海底に林立して魚類の繁殖を妨害したり、また、これらの廃棄釣糸が鳥や海洋生物に絡み付いて死傷したりする事態が頻発しており、環境保護および自然保護の両面からその改善が強く望まれていた。
【0004】
そこで、近年では、使用後に自然界の菌類や微生物によって自然消滅するモノフィラメント、つまり生分解性モノフィラメントおよびそれを素材とする釣糸の開発が盛んになっている。
【0005】
そして、生分解性モノフィラメントおよび釣糸に関する従来技術としては、例えばアルカンカルボン酸またはアルカンカルボン酸のエステル形成誘導体からなる化合物と、芳香族カルボン酸または芳香族カルボン酸のエステル形成誘導体からなる化合物と、さらにアルカンジオール化合物とからなるモノフィラメントおよび釣糸(例えば、特許文献1参照)、
ポリアルキレンジカルボキシレート類、ポリ乳酸およびポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)類から選ばれた少なくとも1種からなり、JIS L1013の規定に準じて測定した引張強度が500MPa以上、結節強度が350MPa以上、さらに屈曲回復率が60%以上である生分解性釣糸(例えば、特許文献2参照)などが既に知られている。
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載のモノフィラメントおよび釣糸は、釣糸として使用する際のへたり率などの改善を目的としたものではあるが、ヤング率が低いために魚信に対する感度に欠け、結節強度が低く、さらには生分解速度が遅いなどの問題を有していた。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の生分解性釣糸は、糸ぐせなどの改善を目的としたものではあるが、耐熱性が低いために竿先ガイドとの摩擦によりチヂレが発生しやすいなどの不具合を有することから、釣糸として十分満足して使用できるものではなく、これらの改善が強く望まれているのが実状であった。
【特許文献1】特開2002−173827号公報
【特許文献2】特開2003−27345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を目的として検討した結果達成されたものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、優れた力学的特性と適度な生分解速度を兼ね備えた生分解性モノフィラメントおよび釣糸、より具体的には、引張強度、結節強度およびヤング率が高く、また耐熱性が高いために竿先ガイドとの摩擦によるチヂレが発生しにくく、且つ適度な生分解速度をも兼ね備えた生分解性モノフィラメントおよび釣糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の生分解性モノフィラメントは、(A)融点が70℃以上のポリアルキレンジカルボキシレート類と、(B)芳香族ジカルボン酸/脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなる融点が190℃以上の共重合ポリエステルとの樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0011】
なお、本発明の生分解性モノフィラメントにおいては、
前記(A)ポリアルキレンジカルボキシレート類95〜55重量%と、前記(B)共重合ポリエステル5〜45重量%との樹脂組成物からなること、
前記(A)ポリアルキレンジカルボキシレート類が、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートまたはポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)から選ばれた少なくとも1種であること、
前記(B)共重合ポリエステルが、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)、ポリ(エチレンテレフタレート/アジペート)またはポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート/アジペート)から選ばれた少なくとも1種であること、
引張強度が500MPa以上、結節強度が400MPa以上、且つヤング率が3〜15GPaの範囲にあること、
がいずれも好ましい条件であり、これらの条件を満たすことによって一層優れた効果を取得することができる。
【0012】
また、本発明の釣糸は、上記の生分解性モノフィラメントを素材とすることを特徴とし、本発明が目的とする効果を如何なく発揮するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の生分解性モノフィラメントは、引張強度、結節強度、ヤング率および耐熱性が高く、且つ適度な生分解速度を兼ね備えたものであるため、この生分解性モノフィラメントを釣糸として使用した場合には、優れた力学的特性を発揮し、魚信に対する感度に優れ、竿先ガイドなどとの摩擦によるチヂレが発生しにくく、また自然環境下で分解しやすいため、環境保護および自然保護の両面での優れた効果を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明の生分解性モノフィラメントは、(A)融点が70℃以上のポリアルキレンジカルボキシレート類と、(B)芳香族ジカルボン酸/脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなる融点が190℃以上の共重合ポリエステルとの樹脂組成物からなることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の生分解性モノフィラメントを構成する(A)ポリアルキレンジカルボキシレート類は、その融点が70℃以上であることが必要であり、さらには90℃以上であることがより好ましい。融点が70℃より下回ると、耐熱性に欠けた生分解性モノフィラメントが得られやすく、この生分解性モノフィラメントを釣糸として使用した場合には、竿先ガイドなどとの摩擦によるチヂレが発生しやすくなる。
【0017】
一方、本発明の生分解性モノフィラメントを構成する(B)芳香族ジカルボン酸/脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなる表重合ポリエステルは、その融点が190℃以上であることが必要であり、さらには200℃以上であることがより好ましい。融点が190℃より下回ると、耐熱性に欠けた生分解性モノフィラメントが得られやすく、この生分解性モノフィラメントを釣糸として使用した場合には、竿先ガイドなどとの摩擦によるチヂレが発生しやすくなる。
【0018】
また、前記(A)ポリアルキレンジカルボキシレート類のみからなる生分解性モノフィラメントは、ヤング率が低いために、この生分解性モノフィラメントを釣糸として使用した場合には、魚信に対する感度の低い釣糸となる。
【0019】
逆に、前記(B)共重合ポリエステルのみからなる生分解性モノフィラメントは、結節強度が低く、生分解速度が遅いために、この生分解性モノフィラメントを釣糸として使用した場合には、糸の結び目が弱く、自然環境下では分解しにくい釣糸となる。
【0020】
以上の条件を満たすことにより、本発明の生分解性モノフィラメントは、引張強度、結節強度、ヤング率および耐熱性が高く、且つ適度な生分解速度を兼ね備えたものとなるため、この生分解性モノフィラメントを釣糸として使用した場合には、優れた力学的特性を発揮し、魚信に対する感度に優れ、竿先ガイドなどとの摩擦によるチヂレが発生しにくく、また自然環境下で分解しやすく、環境保護および自然保護の両面で優れた効果を発現するのである。
【0021】
さらに、本発明の生分解性モノフィラメントにおいては、以下の条件を満たすことにより一層優れた効果を取得することができる。
【0022】
すなわち、本発明の生分解性モノフィラメントにおいては、前記(A)ポリアルキレンジカルボキシレート類95〜55重量%と、前記(B)共重合ポリエステル5〜45重量%との樹脂組成物からなることが好ましく、さらには前記(A)ポリアルキレンジカルボキシレート類90〜60重量%と、前記(B)共重合ポリエステル10〜40重量%との樹脂組成物からなることがより好ましい。
【0023】
(A)ポリアルキレンジカルボキシレート類の重量比率が上記範囲を上回る場合は、ヤング率の低い生分解性モノフィラメントとなりやすく、この生分解性モノフィラメントを釣糸として使用した場合には、魚信に対し感度に欠けた釣糸となりやすい。また、(B)共重合ポリエステルの重量比率が上記範囲を上回る場合は、生分解速度の遅い生分解性モノフィラメントとなりやすく、この生分解性モノフィラメントを釣糸として使用した場合には、自然環境下で分解しにくい釣糸となる。
【0024】
また、本発明において、(A)ポリアルキレンジカルボキシレート類としては、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートまたはポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)などの使用が好ましく、具体的には、昭和高分子(株)製のビオノーレ#1001や#3001などの市販品を挙げることができる。
【0025】
さらに、(B)共重合ポリエステルとしては、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)、ポリ(エチレンテレフタレート/アジペート)またはポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート/アジペート)から選ばれた少なくとも少なくとも1種の使用が好ましく、エチレンテレフタレート成分が70%以上共重合した共重合ポリエステルは、その融点が190℃以上となることから特に好ましく、具体的には、Dupont製のBiomax−4044や4027などの市販品を挙げることができる。
【0026】
なお、本発明において、(A)ポリアルキレンジカルボキシレート類にビオノーレ#1001を、(B)共重合ポリエステルにBiomax−4044や4027を使用する際には、生分解性モノフィラメントの強度を発現し、両方の樹脂の溶融粘性を合わせることを目的に、共重合ポリエステルを固相重合し、高重合化しておくことが好ましい。
【0027】
また、ポリブチレンサクシネートなどの融点の低い脂肪族ポリエステルは、特開平8−34843号公報によれば、5〜7日間の固相重合時間が必要であるとされているが、融点が190℃以上の共重合ポリエステルを使用すれば1日程度で固相重合が可能である。
【0028】
さらにまた、本発明の生分解性モノフィラメントは、引張強度が500MPa以上、結節強度が400MPa以上、且つヤング率が3〜15GPa、さらには引張強度が530MPa以上、結節強度が430MPa以上、ヤング率が3.5〜10GPaの範囲にあることがより好ましい。
【0029】
引張強度および結節強度が上記範囲を下回る場合は、その生分解性モノフィラメントを釣糸として使用した際には、十分な強度を有する釣糸となりにくくなる。
【0030】
また、ヤング率が上記範囲を下回る場合は、その生分解性モノフィラメントを釣糸として使用した際に、魚信に対し感度に欠けた釣糸となりやすく、逆に、上記範囲を上回る場合は、その生分解性モノフィラメントを釣糸として使用した際に、硬くて扱いにくい釣糸となりやすい。
【0031】
次に、本発明の生分解性モノフィラメントの製造方法について説明する。
【0032】
本発明の生分解性モノフィラメントは、何ら特殊な方法を採用する必要はなく、押出紡糸機を使用した公知の条件で製造することができ、溶融温度200〜350℃、押出圧力1〜50MPa、口金孔径0.1〜20mm、紡糸速度0.3〜100m/分などの条件を適宜採用することができる。
【0033】
例えば、上記(A)ポリアルキレンジカルボキシレート樹脂と、上記(B)共重合ポリエステル樹脂とを所定の重量比率となるようにブレンドし、その混合物を押出紡糸機に供給して溶融混練した後、紡糸口金の口金孔から紡出する。
【0034】
なお、両方の樹脂の供給方法には、上記の方法のほか、予め両方の樹脂を所定重量比含有するマスターバッチ作成し、それを使用する方法も採用することができる。
【0035】
また、本発明においては、必要に応じて、顔料、染料、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤および可塑剤などの添加を、本発明の目的を阻害しない範囲で、ポリマーの重合行程、重合後あるいは溶融紡糸する直前に添加することもできる。
【0036】
そして、押出紡糸機から溶融状態で紡出された樹脂組成物は、短い気体ゾーンを通過した後、冷却媒体中で冷却固化される。ここで、冷却媒体としては、水などの樹脂組成物に対して不活性な液体が使用され、また、紡出された樹脂組成物が十分に固化していない状態で延伸工程に移ると、延伸性が阻害される可能性があるため、冷却温度は60℃以下であることが必要である。
【0037】
次に、冷却固化された未延伸糸は、温水、ポリエチレングリコール、グリセリンまたはシリコーンオイルなどを加熱した熱媒体浴、熱気体浴または水蒸気浴中で延伸される。
【0038】
この延伸においては、1段乃至多段延伸などを適宜選んで行うことができるが、本発明の生分解性モノフィラメントが、釣糸として使用された場合に十分な力学的特性を発揮するためには、延伸倍率は5.0倍以上、さらには5.5倍以上がより好ましい。
【0039】
さらに、1段延伸乃至多段延伸後は、必要に応じて延伸歪みを除去することなどを目的に、適宜定長および/または弛緩熱処理を行ってもよい。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の生分解性モノフィラメントを実施例に基づいて詳しく説明する。なお、実施例における生分解性モノフィラメントおよび釣糸の評価は以下の方法に準じて行った。
【0041】
[樹脂素材の評価]
A.融点
PERKIN−ELMER社製 DSC7を使用し、JIS 7121に準じて昇温速度10℃/分の条件で測定し、2nd−runのピーク温度を融点とした(単位:℃)。
【0042】
[生分解性モノフィラメントの物性評価]
A.引張強度、結節強度
JIS L1013の規定に準じて測定した(単位:MPa)。
B.ヤング率
JIS L1013の規定に準じて測定した(単位:GPa)。
C.生分解速度
JIS K−6953に準じて行い、コンポスト中に3ヶ月間埋設した生分解性モノフィラメント試料の表面状態の観察と、埋設処理前の強力に対する残存強力を測定することにより、以下の基準で評価を行った。
○:表面が凸凹状態となり、残存強力もほとんど無くなった、
△:表面の一部に凸凹状態が確認され、残存強力は30%程度に低下した、
×:表面が滑らかな状態であり、残存強力も50%以上維持していた。
【0043】
[釣糸特性の評価]
A.チヂレ
実施例で得られた生分解性モノフィラメントを道糸として実際に使用し、掛かった魚とやり取りを行った後、竿先ガイドにおけるチヂレの発生について観察し、次の基準で評価を行った。
○:チヂレは発生しなかった、
×:チヂレが発生していた。
B.魚信に対する感度
長さ32mの生分解性モノフィラメントの一端を島津製作所社製のロードセルに固定し、ロードセルは荷重−時間の関係を自己記録するように設定した。そして、生分解性モノフィラメントを水平に30m伸ばした箇所でガイドを介して残り2mを垂直に垂らし、その他端に初荷重100gの分銅を吊り下げた。さらに200gの分銅を、100gの分銅に引っ掛けて30cmの高さから落下するように設置した。
【0044】
この状態で、200gの分銅を落下させ、ロードセルが落下の衝撃を感知し始めた時点から最大衝撃荷重に達するまでの時間(秒)を求め、この時間を魚信に対する感度とした。この時間(秒)が短いほど感度が良いことを示す。
【0045】
[樹脂の選定]
実施例および比較例においては、下記のポリアルキレンジカルボキシレート類(A−1、A−2)と、共重合ポリエステル樹脂(B−1、B−2、C)を使用した。
A−1:ポリブチレンサクシネート
(昭和高分子製 ビオノーレ#1001、融点:114℃)
A−2:ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)
(昭和高分子製 ビオノーレ#3001、融点:95℃)
B−1:ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)共重合ポリエステル
(Dupont製 Biomax−4044、融点:200℃)
B−2:ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)共重合ポリエステル
(Dupont製 Biomax−4027、融点:238℃)
C:ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)共重合ポリエステル
(BASF製 Ecoflex、融点:120℃)
なお、B−2については予め温度160℃、真空度0.5Tollの条件下で20時間の固相重合を行い、MFR(250℃、2.15Kg)が35g/10分から16g/10分まで高重合化させた。また、A−1、A−2、B−1のMFRはいずれも16g/10分に近似したものを使用した。
【0046】
[実施例1]
A−1樹脂70重量%と、B−1樹脂30重量%との混合物を、エクストルーダー型の押出紡糸機に供給して230℃で溶融混練し、孔径1.0mmの口金孔から樹脂組成物を紡出した後、20℃の水中で冷却固化した。
【0047】
次に、冷却固化した未延伸糸を80℃の温水延伸浴中で3.6倍に一段目延伸を行い、さらに100℃の乾熱浴中で2.11倍に二段目延伸(全延伸倍率7.6倍)を行った後、引き続いて100℃の乾熱浴中で処理倍率0.90倍に熱処理を行い、直径0.20mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0048】
[実施例2]
A−1樹脂70重量%と、B−2樹脂30重量%との混合物を、エクストルーダー型の押出紡糸機に供給して240℃で溶融混練し、孔径1.0mmの口金孔から樹脂組成物を紡出した後、20℃の水中で冷却固化した。
【0049】
次に、冷却固化した未延伸糸を80℃の温水延伸浴中で3.6倍に一段目延伸を行い、さらに100℃の乾熱浴中で2.06倍に二段目延伸(全延伸倍率7.4倍)を行った後、引き続いて100℃の乾熱浴中で処理倍率0.90倍に熱処理を行い、直径0.20mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0050】
[実施例3]
A−2樹脂70重量%と、B−1樹脂30重量%との混合物を、エクストルーダー型の押出紡糸機に供給して230℃で溶融混練し、孔径1.0mmの口金孔から樹脂組成物を紡出した後、20℃の水中で冷却固化した。
【0051】
次に、冷却固化した未延伸糸を70℃の温水延伸浴中で3.6倍に一段目延伸を行い、さらに80℃の乾熱浴中で2.28倍に二段目延伸(全延伸倍率8.2倍)を行った後、引き続いて80℃の乾熱浴中で処理倍率0.90倍に熱処理を行い、直径0.20mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0052】
[実施例4]
A−2樹脂55重量%と、B−2樹脂45重量%との混合物を、エクストルーダー型の押出紡糸機に供給して240℃で溶融混練し、孔径1.0mmの口金孔から樹脂組成物を紡出した後、20℃の水中で冷却固化した。
【0053】
次に、冷却固化した未延伸糸を70℃の温水延伸浴中で3.6倍に一段目延伸を行い、さらに80℃の乾熱浴中で2.22倍に二段目延伸(全延伸倍率8.0倍)を行った後、引き続いて80℃の乾熱浴中で処理倍率0.90倍に熱処理を行い、直径0.20mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0054】
[実施例5]
A−1樹脂90重量%と、B−1樹脂10重量%との混合物を使用したこと以外は、実施例1と同じ製造方法で直径0.20mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0055】
[実施例6]
A−2樹脂30重量%と、B−2樹脂70重量%との混合物を使用したこと以外は、実施例4と同じ製造方法で直径0.20mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0056】
[比較例1]
A−1樹脂のみを使用したこと以外は、実施例1と同じ製造方法で直径0.20mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0057】
[比較例2]
A−2樹脂のみを使用したこと以外は、実施例3と同じ製造方法で直径0.20mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0058】
[比較例3]
B−1樹脂のみを使用したこと以外は、実施例1と同じ製造方法で直径0.20mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0059】
[比較例4]
B−2樹脂のみを使用したこと以外は、実施例2と同じ製造方法で直径0.20mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0060】
[比較例5]
C樹脂のみを、エクストルーダー型の押出紡糸機に供給して230℃で溶融混練し、孔径1.0mmの口金孔から樹脂組成物を紡出した後、20℃の水中で冷却固化した。
【0061】
次に、冷却固化した未延伸糸を80℃の温水延伸浴中で3.6倍に一段目延伸を行い、さらに100℃の乾熱浴中で2.22倍に二段目延伸(全延伸倍率8.0倍)を行った後、引き続いて100℃の乾熱浴中で処理倍率0.90倍に熱処理を行い、直径0.20mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0062】
[比較例6]
A−1樹脂70重量%と、C樹脂30重量%との混合物を使用したこと以外は、実施例1と同じ製造方法で直径0.20mmの生分解性モノフィラメントを得た。
【0063】
上記実施例1〜6および比較例1〜6で得られた生分解性モノフィラメントについて、その物性と釣糸としての特性を評価した結果を表1に併せて示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1の結果から明らかなように、本発明の生分解性モノフィラメント(実施例1〜6)は、高い引張強度と結節強度に加えて、適度なヤング率と生分解速度を有することが分かる。また釣糸として使用した場合には、従来の生分解性釣糸では得られなかった魚信に対する優れた感度を有し、竿先ガイドとの摩擦によるチヂレが発生しにくいという優れた性能を発揮する。
【0066】
一方、融点が70℃以上のポリアルキレンジカルボキシレート樹脂のみからなる生分解性モノフィラメント(比較例1、2)は、高い引張強度と結節強度を有し、適度な生分解速度も有するものの、ヤング率が低いために魚信に対する感度に欠け、また竿先ガイドとの摩擦によるチヂレが発生しやすく、本発明が目的とする効果を十分に発揮するものではなかった。
【0067】
また、芳香族ジカルボン酸/脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの共重合ポリエステルのみからなる生分解性モノフィラメント(比較例3、4)は、ヤング率が高いために魚信に対する感度が良く、またチヂレが発生しにくいなどの効果が得られるものの、引張強度と結節強度が低く、生分解速度も遅いため、本発明が目的とする効果を十分に発揮するものではなかった。
【0068】
さらに、融点が190℃を下回る共重合ポリエステルのみからなる生分解性モノフィラメント(比較例5)および融点が70℃以上のポリアルキレンジカルボキシレート類と、融点が190℃を下回る共重合ポリエステルとの樹脂組成物からなる生分解性モノフィラメント(比較例6)は、引張強度が高いものの、結節強度が低く、ヤング率も低いために魚信に対する感度に欠け、また竿先ガイドとの摩擦によるチヂレが発生しやすいなど、本発明が目的とする効果を十分に発揮するものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明の生分解性モノフィラメントは、引張強度、結節強度、ヤング率および耐熱性が高く、且つ適度な生分解速度を兼ね備えたものであるため、この生分解性モノフィラメントを釣糸として使用した場合には、優れた力学的特性を発揮し、魚信に対する感度に優れ、竿先ガイドなどとの摩擦によるチヂレが発生しにくく、また自然環境下で分解しやすいため、環境保護および自然保護の両面で優れた効果を発現する。
【0070】
また、本発明の生分解性モノフィラメントは、釣糸のみならず、環境を配慮した各種水産用途および産業用途にも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)融点が70℃以上のポリアルキレンジカルボキシレート類と、(B)芳香族ジカルボン酸/脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなる融点が190℃以上の共重合ポリエステルとの樹脂組成物からなることを特徴とする生分解性モノフィラメント。
【請求項2】
前記(A)ポリアルキレンジカルボキシレート類95〜55重量%と、前記(B)共重合ポリエステル5〜45重量%との樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項3】
前記(A)ポリアルキレンジカルボキシレート類が、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートまたはポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項4】
前記(B)共重合ポリエステルが、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)、ポリ(エチレンテレフタレート/アジペート)またはポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート/アジペート)から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項5】
引張強度が500MPa以上、結節強度が400MPa以上、且つヤング率が3〜15GPaの範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生分解性モノフィラメント。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の生分解性モノフィラメントを素材とすることを特徴とする釣糸。

【公開番号】特開2006−257567(P2006−257567A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74700(P2005−74700)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】