説明

生分解性水性印刷インキ組成物

【課題】インキの印刷時の機上安定性、印刷適性に優れ、印刷品質も良好で、なおかつ生分解性を有する水性の印刷インキ組成物を提供する
【解決手段】着色剤、バインダー樹脂、水を含む水性媒体からなる生分解性水性印刷インキ組成物において、前記バインダー樹脂として、重量平均分子量5000〜50000、HLB11〜20のポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーの存在下で、ポリ乳酸樹脂を水性媒体中に分散させてなるポリ乳酸樹脂水性分散液を用いることを特徴とする生分解性水性印刷インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキの顔料分散性および印刷時の印刷適性に優れた生分解性水性印刷インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、食品用途などで利用される容器や包装袋では、インキや塗工剤を用いて表面に多彩な装飾などが施されるようになっている。
【0003】
例えば、スーパーマーケットや大型店舗では、ビールなどの飲料缶は、箱詰のままで販売されることがごく当たり前になっており、消費者にビールのうまさや爽快感を強くアピールできる印刷が施されていれば、一気に購買意欲を高めることができる。このとき、段ボール容器は、内容物のイメージを高めるためのディスプレイとしての機能を果たすこととなり、印刷如何によって商品の売れ行きが左右されることも決して少なくない。さらにプラスチックの包装容器の場合は、一層の美粧印刷が可能であるため、印刷物の見栄えが消費者の購買意欲に大きな影響を与えることになる。
【0004】
最近の流通や販売形態の変化に伴って、プラスチック容器はもとより、段ボールの印刷においてもディスプレイとしての機能が強く求められ、印刷の美粧化は非常に重要な課題となっている。
【0005】
一方、環境問題への対応は、業種を問わず、企業の取り組まねばならない最重要テーマとなりつつあり、上記の容器や包装袋などの廃棄物の処理もその一つである。
【0006】
プラスチックは、各種成形方法で簡単に多様な形状に加工でき、また、軽量で丈夫であるといった利便性とは裏腹に、いったん廃棄されると、その処理は困難で深刻な環境問題を引き起こすことになる。とりわけ、生活に密着して利用される食品等の容器や包装袋は毎日のように廃棄され、プラスチック廃棄物としての占める割合は高いことから、その処理の方法が課題となっている。
【0007】
プラスチック廃棄物を処理する方法として、現在、焼却と埋め立ての二つが主であり、焼却処理は限られた施設で大量の廃棄物の処理を可能とするという利点がある。しかし、焼却する際に排出される高い熱量やCO2、有害物質が、焼却施設の建設や維持にかかる経済的負担の他、地球温暖化や大気汚染などの環境問題の原因にもなっている。それに対して、埋め立て処理ではCO2は発生せず、また、環境ホルモンなどの懸念は残るものの、焼却処理と比較して有害物質の排出は抑制できる。従って、埋め立て処理は環境面からみて優れた処理方法といえるが、廃棄物の量だけ埋め立てる土地も必要となり、将来、廃棄される分を含めて、全てのプラスチック廃棄物をこの方法で処理するのは、到底、不可能である。
【0008】
そこで、最近では、土中のバクテリアなどで分解される天然素材または生分解性合成素材を利用した商品の開発が盛んに行われている。例えば、植物由来のでんぷんやセルロースといった天然高分子のほか、発酵の産物である乳酸をポリマー化させたポリ乳酸系樹脂などを利用して、容器やフィルムに加工する技術が開発されている。この様な生分解性の材料は、埋め立て処理により、自然に水とCO2に分解されるため、限られた土地でより多くの廃棄物が処理できるようになる。また、このときに発生するCO2は、もともと、植物が大気から取り込んだCO2と同量(カーボンニュートラル)で、大気中のCO2の濃度を増加させないという利点があり、生分解性樹脂は、今後、ますます需要が高くなると考えられる。
【0009】
ところが、上記のような表面に多彩な装飾などが施された容器や包装袋では、インキや塗工剤が生分解性を阻害する原因となっている。現状では、インキで使用されているバインダー樹脂としては、ウレタン系、アクリル系、芳香族ポリエステル系樹脂などであり、これらは生分解性を持たない。従って、生分解性フィルム等の、本来、生分解するはずの基材に、上記のバインダー樹脂を含むインキやニスなどが印刷されると、生分解が起こらなかったり、分解速度が著しく低下するという問題が生じている。そのため、生分解性フィルムを基材とした印刷物においては、生分解性インキの使用が必要となってくる。
【0010】
他方、段ボールなどの紙製の容器では、焼却でもあまり高い熱量が発生しないが、植物由来材料を利用したインキや塗工剤は、カーボンニュートラルという点で環境に配慮された印刷材料といえる。また、紙製の容器はもともと材質が生分解性のセルロースであるため、そのまま土中で分解されるものと考えられてきたが、やはり、生分解性のインキ等を使用しなければ、生分解が起こらなかったり、分解速度が著しく低下するという問題は同様に発生する。
【0011】
そこで、バインダー樹脂として、ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂などの生分解性樹脂を使用することにより、生分解性を持たせたインキなどが開発されている。
【0012】
ところで、上記に挙げたバインダー樹脂は水性化が困難なため、これらを使用した生分解性印刷インキは、溶剤タイプのものがほとんどであるが、環境問題、省資源、労働安全性ならびに災害などの観点からすると、印刷インキなどの分野では、やはり、有機溶剤の使用を極力抑えた水性タイプの生分解性インキの開発が望まれている。
【0013】
この要望にこたえるために、インキに適用可能とされるポリ乳酸樹脂をバインダー樹脂として、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーおよび有機アミン化合物を用いて該ポリ乳酸樹脂を水性分散化したポリ乳酸樹脂水性分散体が提案されている(特許文献1)。
【0014】
【特許文献1】特開2005−8733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記従来技術によりポリ乳酸樹脂をバインダー樹脂として水性印刷インキ組成物を製造しようとする場合、安定的にポリ乳酸樹脂を水中に分散させるためには、有機アミン化合物を必須とする。
【0016】
ところが、実際に印刷に使用すると、印刷時間の経過に伴ってインキから徐々に有機アミン化合物が蒸発することから、インキの系中での安定性が崩れ、機上安定性や印刷適性(特にレベリング性など)が著しく低下し、また、従来の水性印刷インキよりも印刷品質(発色や光沢など)が劣ってしまうという問題が生じる。
【0017】
そこで、本発明の目的は、インキの印刷時の機上安定性、印刷適性に優れ、印刷品質も良好で、なおかつ生分解性を有する水性の印刷インキ組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ある特定の分子量とHLBのポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーを乳化剤として使用することにより、アミン化合物がなくても、安定なポリ乳酸樹脂水性分散液が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0019】
すなわち、本発明は、下記の生分解性水性印刷インキ組成物を提供する。
【0020】
(1)着色剤、バインダー樹脂、水を含む水性媒体からなる生分解性水性印刷インキ組成物において、前記バインダー樹脂として、重量平均分子量5000〜50000、HLB11〜20のポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーの存在下で、ポリ乳酸樹脂を水性媒体中に分散させてなるポリ乳酸樹脂水性分散液を用いることを特徴とする生分解性水性印刷インキ組成物。
【0021】
(2)前記ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量が10000〜100000である前記(1)項記載の生分解性水性印刷インキ組成物。
【0022】
(3)前記ポリ乳酸樹脂/ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーの質量比率が70/30〜85/15である前記(1)または(2)項記載の生分解性水性印刷インキ組成物。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ポリ乳酸樹脂をバインダー樹脂とするが、有機アミン化合物を用いることなく安定なポリ乳酸樹脂水性分散液を得ることができ、もってインキの印刷時の機上安定性、印刷適性に優れ、印刷品質も良好である生分解性を有する水性印刷インキ組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の生分解性水性印刷インキ組成物について詳細に説明する。
【0025】
本発明で利用可能な顔料としては、通常、水性印刷インキで使用されるものがそのまま利用できる。具体的には、無機顔料として、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛などの有色顔料(体質顔料との対比において黒色顔料も有色顔料に含める);炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルクなどの体質顔料などを挙げることができる。また、有機顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料などを挙げることができる。上記顔料は1種でも2種以上でも用いることができる。顔料の水性印刷インキ組成物中における含有量は、好ましくは1〜40質量%である。
【0026】
本発明の生分解性水性印刷インキ組成物においては、バインダー樹脂として、有機アミンなどの塩基性化合物を用いずに、乳化剤としてポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーのみを用いて調製したポリ乳酸樹脂水性分散液を用いる。
【0027】
本発明で利用可能なポリ乳酸樹脂は、トウモロコシ等から抽出されるデンプンを発酵させて得られる乳酸またはラクチド(乳酸の環状二量体)を重合させて得られる疎水性のポリマーである。
【0028】
本発明において利用可能なポリ乳酸樹脂はL−乳酸単位とD−乳酸単位のランダム重合体であるが、ポリ乳酸樹脂中に占めるD−乳酸の割合が、15〜50モル%であるものが好ましい。D−乳酸の含有量が15モル%未満であると、水性分散化が非常に難しくなり、バインダー樹脂として使用できなくなる傾向がある。一方、D−乳酸の含有量が50モル%を超えると、原料コストが高くなる傾向がある。なお、本発明で使用できるポリ乳酸樹脂の市販品としては、例えば東洋紡績(株)製のバイロエコールシリーズ、三井化学(株)製のレイシアシリーズなどが挙げられる。
【0029】
また、ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量は10000〜100000であることが好ましい。ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量が前記未満では、印刷物の発色が低下する傾向があり、一方前記範囲を超えると、水性分散液の調製が非常に難しくなり、印刷物の光沢や発色が低下する傾向がある。
【0030】
ここで、ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量とは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定し、標準ポリスチレンに換算したときの重量平均分子量である。
【0031】
本発明でポリ乳酸樹脂を水性分散化する際に利用可能な乳化剤であるポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーとしては、2以上のブロックを含み、それぞれのブロックは、ポリエチレンオキサイド単位またはポリプロピレンオキサイド単位で構成されている。当該ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーは、公知の方法で合成することができる。例えば、ポリエチレンオキサイドポリマーにプロピレンオキサイドを反応させて、ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーを形成できる。別の方法としては、ポリプロピレンオキサイドポリマーにエチレンオキサイドを反応させて、ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーを形成することができる。
【0032】
なお、ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーは、ポリ乳酸樹脂の水性媒体中での安定性の面から、重量平均分子量が5000〜50000、HLBが11〜20であることが好ましい。さらに、重量平均分子量が10000〜40000、HLBが15〜20であることが好ましい。ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーの重量平均分子量が前記範囲より小さくなると水性分散化が困難になり、一方、前記範囲より大きくなると水への溶解性が低下して乳化剤としての機能が低下するため好ましくない。また、HLBが前記の範囲より小さくなると、水性分散化が困難になる傾向があり、好ましくない。
【0033】
ここで、ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーの重量平均分子量とは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定し、標準ポリスチレンに換算したときの重量平均分子量である。また、HLBとは、界面活性剤の分野で利用されている、分子の親水性部分と親油性部分とのバランス(hydrophile−lipophile balance)を表すものであり、上記HLBは、下記に示すグリフィン式(一定の油に対する乳化効率の測定から求めた実験値と親水部の重量分率に基づく式)を適用して求めることができる。
[グリフィンの式]HLB=(100/5)×親水基重量/(親水基重量+疎水基重量)
本発明で使用できるポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーの市販品としては、旭電化工業(株)製のアデカプルロニックシリーズ、三洋化成工業(株)製のニューポールシリーズ、BASF社製のPLURONICシリーズなどが挙げられる。
【0034】
本発明においては、さらに、乳化助剤としてHLBが6〜10、重量平均分子量が1000〜4000であるポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーを併用することができる。この場合、乳化剤と乳化助剤の比率としては、(乳化剤)/(乳化助剤)=75/25〜80/20(重量比率)であることが好ましい。この範囲を外れると、併用効果が乏しくなる。
【0035】
本発明において、ポリ乳酸樹脂と乳化剤との比率は、(ポリ乳酸樹脂)/(乳化剤)=70/30〜85/15(質量比率)であることが好ましい。乳化剤の比率が前記範囲より小さい[(85/15)>]と、ポリ乳酸樹脂の分散安定性が低下する傾向があり、一方乳化剤の比率が前記範囲より大きい[(70/30)<]と、耐水性が低下する傾向があり、好ましくない。
【0036】
本発明において、前記乳化剤と乳化助剤を併用する場合、(ポリ乳酸樹脂)と(乳化剤+乳化助剤)との比率は、(ポリ乳酸樹脂)/(乳化剤+乳化助剤)=70/30〜85/15(質量比率)であることが好ましい。(乳化剤+乳化助剤)の比率が前記範囲より小さい[(85/15)>]と、ポリ乳酸樹脂の分散安定性が低下する傾向があり、一方(乳化剤+乳化助剤)の比率が前記範囲より大きい[(70/30)<]と、耐水性が低下する傾向があり、好ましくない。
【0037】
本発明で利用可能なポリ乳酸樹脂水性分散液の調製方法としては、まず、ポリ乳酸を有機溶剤に溶解し、さらにそこに乳化剤、必要に応じて乳化助剤、水を添加する。その後、高圧乳化機にて強制乳化させることにより、有機層から水層へ層転移した後、攪拌しながら50℃以下にて有機溶剤を減圧蒸留して除去することにより、ポリ乳酸樹脂水性分散液を得ることができる。前記水性分散化する際に利用可能な有機溶剤としては、トルエンなどの芳香族炭化水素類、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類などを挙げることができる。
【0038】
このようにして得られるポリ乳酸樹脂水性分散液の平均粒子径は、0.2〜0.4μmの範囲が好ましい。水性分散液の平均粒子径が前記範囲を超えると、印刷物の光沢や発色が低下する傾向がある。
【0039】
本発明の水性印刷インキ組成物における上記ポリ乳酸樹脂水性分散液の含有量は、分散安定性、インキ粘度や流動性の観点から、水性印刷インキ組成物中に15〜40質量%であるのが好ましい。ポリ乳酸樹脂水性分散液の含有量が15質量%未満の場合、光沢などが低下し、一方40質量%を超えると流動性が低下する傾向がある。また、ポリ乳酸樹脂水性分散液における固型分濃度(ポリ乳酸と乳化剤の合計量の濃度)は30〜40質量%であるのが好ましい。
【0040】
本発明で利用可能な水性媒体は、水単独、または水と水混和性溶剤との混合物である。水混和性溶剤としては、例えば、低級アルコール類、多価アルコール類、およびそれらのアルキルエーテル類、低級脂肪酸エステル類などが挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジブチルジグリコール、グリセリンなどの多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの前記低級アルコール類、多価アルコール類のアルキルエーテル類;エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテートなど低級アルコール類、多価アルコール類の低級脂肪酸エステル類が挙げられる。
【0041】
さらに、本発明の水性印刷インキ組成物には、前記成分以外に、必要に応じて、顔料分散剤、ワックス、ブロッキング防止剤、湿潤剤、粘度調整剤、pH調整剤、消泡剤、界面活性剤など、種々の添加剤を適宜選択して使用することができる。
【0042】
これら各種材料を使用して、水性印刷インキ組成物を製造する方法としては、一例として、顔料と顔料分散用材料と、水、水混和性溶剤などの水性媒体とを混合したあと、各種練肉機、例えば、ビースミル、パールミル、サンドミル、ボールミル、アトライター、ロールミルなどを利用して練肉し、さらにポリ乳酸樹脂水性分散液、所定の材料の残りを添加、混合する方法などが挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0043】
以上の方法により得られた水性印刷インキ組成物は、フレキソ印刷方式、グラビア印刷方式などを利用して、紙や生分解性プラスチックフィルムなどの印刷基材に印刷することが可能である。
【0044】
ここで、印刷に利用可能な紙としては、通常の板紙や段ボールに用いるものであれば特に限定されるものではないが、代表的なものとして、クラフトライナー、ジュートライナー、各種コートライナーなどを挙げることができる。また、生分解性プラスチックフィルムとしても、通常、利用できるものであれば特に限定されるものではないが、代表的なものとして、ポリ乳酸フィルムとその改質フィルム、ポリビニルアルコールフィルムとその改質フィルム、ポリカプロラクトンフィルムとその改質フィルム、でんぷんフィルムとその改質フィルム、酢酸セルロースフィルム、ポリブチレンサクシネート・アジペートフィルム、ポリエチレンサクシネートフィルム等を挙げることができる。
【0045】
このような水性印刷インキ組成物と印刷基材からなる印刷物は、美粧性と高い生分解性を備えた印刷物である。そして、特に紙を基材とした場合は、カーボンニュートラルで生分解性が維持され、焼却処理と埋め立て処理のどちらにおいても環境対応に適した印刷物を得ることができる。また、生分解性フィルムを基材とした場合は、より環境に適した廃棄物処理方法である埋め立て処理を、限られたスペースで可能にし、さらにカーボンニュートラルという点でも環境に適した印刷物を得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1〜2および比較例1〜2
実施例1〜2および比較例1〜2において使用した材料は次の通りである。ここでMwは重量平均分子量を意味する。
【0048】
1)ポリ乳酸樹脂
東洋紡績(株)製バイロエコールBE−410、Mw=25000、D−乳酸含有量=20モル%
【0049】
2)乳化剤A
三洋化成工業(株)製ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマー、ニューポールPE−128、HLB=17、Mw=20000
【0050】
3)乳化剤B(乳化助剤)
旭電化工業(株)製ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマー、アデカプルロニックL−44、HLB=8、Mw=2000
【0051】
4)顔料
大日精化工業(株)製フタロシアニンブルー−15:3、350EP
【0052】
5)体質顔料
白石化学(株)製炭酸カルシウム、白艶華DD
【0053】
6)シェラックワニス
日本シェラック(株)製乳状白ラック、不揮発分=35質量%
【0054】
7)界面活性剤
三洋化成工業(株)製ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマー、ニューポールPE−128、HLB=17、Mw=20000
【0055】
8)ポリエチレンワックス
三井化学(株)製ケミパールW−100
【0056】
9)消泡剤
日信化学(株)製サーフィノール104
【0057】
(1)ポリ乳酸樹脂水性分散液の調製
ポリ乳酸26.3質量部を酢酸エチルに溶解し、さらに乳化剤(必要に応じて乳化助剤)8.7質量部、水65.0質量部を添加した。その後、高圧乳化機(PANDA2K型ホモジナイザー)にて強制乳化させることにより、有機層から水層へ層転移させた後、攪拌しながら50℃以下にて酢酸エチルを減圧蒸留して除去することにより、ポリ乳酸樹脂水性分散液(固形分35質量%)を調製した。使用した乳化剤の種類、乳化剤の比率、ポリ乳酸/乳化剤の比率については表4参照。
【0058】
得られたポリ乳酸樹脂水性分散液について平均粒子径を下記の方法で測定した。結果を表4に示す。なお、比較例2においては、ポリ乳酸樹脂水性分散液自体が得られなかったので、生分解性水性印刷インキ組成物の調製は行わなかった。
【0059】
(2)ベースインキの調製
表1ならびに表2の配合に従って、色ベースおよび体質顔料ベースを調製した。
【0060】
(3)生分解性水性印刷インキ組成物の調製
表3の配合に従って、実施例1〜2および比較例1の各生分解性水性印刷インキ組成物を調製した。
【0061】
上記実施例1〜2および比較例1で得られた各生分解性水性印刷インキ組成物について、インキの光沢および発色性を下記の方法により、評価した。さらに、各生分解製水性印刷インキ組成物を、フレキソ印刷機(東谷製作所(株)製、東谷フレキソ機)を用いて、Kライナー(王子製紙(株)製またはレンゴー(株)製)に印刷を行い、得られた印刷物の性能(レベリング性)を下記に示す方法で評価した。これらの評価結果を表4に示す。
【0062】
[平均粒子径]
ポリ乳酸樹脂水性分散液を100倍希釈し、マイクロトラック超微粒子粒度分析計(日機装(株)製UPA−150)にて測定した。
【0063】
[光沢]
165lineのハンドプルファーにてKライナーに展色後、光沢を光沢値計(BYK製マイクログロス60°)にて測定し、下記基準にて評価した。
○:5ポイント以上
×:5ポイント未満
【0064】
[発色]
165lineのハンドプルファーにてKライナーに展色後、その濃度をマクベス濃度計(マクベス社製RD−918)にて測定し、下記基準にて評価した。
○:OD値1.0以上
×:OD値1.0未満
【0065】
[レベリング性]
各印刷物の泳ぎ(すじムラ)、かすれの程度を目視にて評価した。
○:全くすじムラ、かすれが認められない
×:すじムラ、かすれが激しいもの
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、バインダー樹脂、水を含む水性媒体からなる生分解性水性印刷インキ組成物において、前記バインダー樹脂として、重量平均分子量5000〜50000、HLB11〜20のポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーの存在下で、ポリ乳酸樹脂を水性媒体中に分散させてなるポリ乳酸樹脂水性分散液を用いることを特徴とする生分解性水性印刷インキ組成物。
【請求項2】
前記ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量が10000〜100000である請求項1記載の生分解性水性印刷インキ組成物。
【請求項3】
前記ポリ乳酸樹脂/ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーの質量比率が70/30〜85/15である請求項1または2記載の生分解性水性印刷インキ組成物。

【公開番号】特開2008−13657(P2008−13657A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185972(P2006−185972)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】