説明

生分解性複合体用のヒドロキシアパタイトグラフトフマレート系マクロマー

(i)炭素−炭素二重結合を有する不飽和二酸と飽和二酸とを反応させることによって調製されるマクロマーと、(ii)このマクロマーにグラフトされる生体活性セラミック、を含む組成物を開示する。一実施態様において、炭素−炭素二重結合を有する不飽和二酸はフマル酸である。飽和二酸はフマル酸およびポリ(プロピレンフマレート)と適合性があり、たとえば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸およびこれらの混合物である。生体活性セラミックはヒドロキシアパタイトである。別の実施態様において、ヒドロキシアパタイトは、フマレート単位とアジペート単位とを交互に有するシラン単位を含む生分解性かつ架橋性のマクロマーでグラフトされる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2003年7月1日付けで出願された米国仮出願第60/484,215号により優先権を主張する。
【連邦政府により援助を受けた研究に関する記述】
【0002】
本研究は、助成金番号R01−AR45871−02号で国立衛生研究所により援助を受けた。
【発明の背景】
【0003】
1.発明の分野
本発明は、生分解性複合体中の充填剤として有用なセラミックグラフトマクロマーに関する。特に、生分解性複合体中の充填剤として使用するためのフマレート系分解性かつ架橋性のマクロマーでグラフトされたヒドロキシアパタイトの合成に関する。
【0004】
2.関連技術の説明
ヒドロキシアパタイト等の生体活性セラミックは、骨固定装置及びインプラントコーティングを含む様々な用途に使用されている。特に、合成ヒドロキシアパタイトは、生分解性ポリマー−セラミック複合体用の充填材料として機能することが魅力的である(たとえば、Lu et al.,Synthetic bone substitutes,Curr. Opin.,Orthop.,11(2000) 383-390参照)。利点としては、骨ミネラルとの組成における類似性、細胞機能の生体活性および促進、並びに骨伝導性が挙げられる。これまでの研究で、ヒドロキシアパタイト表面とマトリックスとの間の界面結合が、ポリマー−セラミック複合体の機械的性質を著しく改善することが示されている(たとえば、Porter et al.,Mechanical properties of a biodegradable bone regeneration scaffold,J. Biomech. Eng. 122 (2000) 286-288; Zhu et al.,Mechanical properties of biodegradable poly(propylene fumarate)/bone fiber composites,Trans. Soc. Biomater.,25(2002) 260;およびDeb et al.,Hydroxyapatite-polyethylene composites; effect of grafting and surface treatment of hydroxyapatite,J. Mater,Sci.; Mater. Med.,7(1996) 191-193参照)。
【0005】
このように、ヒドロキシアパタイトを生分解性ポリマー−セラミック複合体中に組み入れる方法を改善することが引き続き必要とされている。特に、生分解性ポリマー−ヒドロキシアパタイト複合体のヒドロキシアパタイトとマトリックスとの間の界面結合の改善を達成する方法が必要とされている。
【発明の開示】
【発明の概要】
【0006】
本発明は、生分解性マトリックスと化学結合し得る、セラミックグラフト分解性かつ架橋性のマクロマーの合成を提供する。たとえば、フマレート系分解性かつ架橋性のマクロマーでグラフトされたヒドロキシアパタイトは、生分解性複合体中で充填剤として使用され得る。結果として、機械的性質が改善された生分解性および生体活性複合体を、整形用途のために開発することができる。
【0007】
一態様において、本発明は、生体活性セラミック、すなわちヒドロキシアパタイトは、フマレート単位と飽和二酸(diacid)(たとえば、アジペート)単位とを交互に有する(alternating)置換または無置換のシラン単位を含む、生分解性マクロマーおよび架橋性マクロマーにグラフトされる組成物の合成を提供する。飽和二酸単位は、剛性(rigid)フマレート単位間の柔軟なスペーサとして機能する。
【0008】
別の態様において、本発明は、高分子マトリックスおよびマトリックスに架橋されるヒドロキシアパタイトグラフト化マクロマーを含む生分解性複合体を提供する。マトリックスは、炭素−炭素二重結合を有し、一つの実施の態様において、マトリックスはポリ(プロピレンフマレート)である。複合体は、骨再生等の組織再生用の足場材(scaffold)として好適である。
【0009】
さらに別の態様において、本発明は、炭素−炭素二重結合を有するポリマー、ヒドロキシアパタイトグラフト化マクロマー、およびポリマーとヒドロキシアパタイトグラフト化マクロマーとを架橋する架橋剤を含む、架橋性生分解性材料を提供する。架橋性生分解性材料は、代用骨または骨セメントとして使用されてもよい。好ましくは、ポリマーはポリ(プロピレンフマレート)であり、架橋剤は過酸化ベンゾイル等のフリーラジカル開始剤である。
【0010】
本発明のこれらのおよび他の特徴、態様および利点は、下記の詳細な説明、図面および添付の特許請求の範囲を考慮して、より理解されるであろう。
【発明の詳細な説明】
【0011】
本発明において、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))粉末等の生体活性セラミックスは、炭素−炭素二重結合を有する不飽和二酸由来の単位(たとえば、フマレート単位)を含有するマクロマーでグラフトされる。充填剤として使用される場合、グラフト化マクロマーを、不飽和二重結合を含有するマトリックスに、不飽和二酸(たとえば、フマレート基)由来の単位中に見られる不飽和二重結合によって共有結合的に架橋することができる。さらに、不飽和二酸(たとえば、フマレート基)中のエステル結合は、加水分解しやすく、これによりマクロマーの分解を促進する。
【0012】
マクロマーは、様々な成分を反応させることにより調製される。マクロマーを合成するのに用いられる反応混合物中の主成分は、不飽和二重結合および2つの加水分解性エステル基を含有する不飽和二酸(たとえば、フマル酸)である。生体活性セラミック(たとえば、ヒドロキシアパタイト)をマクロマーにグラフトし、グラフト化マクロマーをポリ(プロピレンフマレート)等の炭素−炭素二重結合を有する生分解性ポリマーマトリックスと混合した後、マトリックス相におけるポリ(プロピレンフマレート)のフマレート基の不飽和炭素−炭素二重結合は、グラフトヒドロキシアパタイトにおけるマクロマーの不飽和炭素−炭素二重結合と相互に架橋することができる。生体活性セラミック(たとえば、ヒドロキシアパタイト)グラフトマクロマーとマトリックス相との間のこの相互の架橋は、特にねじりモードおよび屈曲モードにおいて、この生分解性および生体活性複合体の機械的強度を著しく改善する。
【0013】
マクロマーの第2の成分は、柔軟性をマクロマーに付与し、マトリックスのフマレート基とマクロマーの不飽和二酸(たとえば、フマレート基)の反応性が高める、スペーサーである。マクロマー当たりのフマレート基の数、またはグラフト上のフマレート基の密度は、フマレート基に対するスペーサ基の比率を変えることにより制御できる。好ましくは、スペーサは、フマル酸およびポリ(プロピレンフマレート)と適合性がある飽和二酸モノマーであり、このスペーサは、限定はされないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸およびセバシン酸等を含む飽和二酸有機化合物から選択される。「適合性」とは、本発明者等は、飽和二酸は、フマル酸とポリ(プロピレンフマレート)との反応を妨げず、かつ飽和二酸は、フマル酸またはポリ(プロピレンフマレート)を分解しないことを意味する。
【0014】
マクロマーの第3の成分は、主成分をスペーサと結合させ、マクロマーを形成するシランカップリング剤である。シランカップリング剤としては、フマレートモノマーとスペーサモノマーとの間に置換または無置換のシラン結合を形成し、マクロマーを形成する、ジクロロジメチルシラン等の置換または非置換のシランが挙げられる。
【0015】
マクロマーの第4の成分は、マクロマー鎖の1端へのグラフトを制限するキャッピング剤である。一実施態様において、第4の成分は、スペーサモノマーのアルキルエステル類(たとえば、モノメチルエステル)から選択される。
【0016】
生体活性セラミックは、ナノメータからマイクロメータまでの範囲の粒径を有する生体活性セラミック粉末であってもよい。これらの大きさは、本発明におけるグラフトに対して好適である。生体活性とは、本発明者等は、身体の構造または機能に影響を与えるか、または所定の生理的環境に置かれた後、生物学的に活性となるか若しくはより活性化する物質を意味する。ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))粉末は、好ましい生体活性セラミックであり、好ましくは、10,000ナノメータより小さい粒径を有する。生体活性セラミックは、マクロマーへのグラフトを容易にするように処理されてもよい。一実施態様において、ヒドロキシアパタイトは、ケイ素化され、マクロマーへのグラフトを容易にする。
【0017】
マクロマーの調製、並びに主成分であるフマル酸、スペーサとしてのアジピン酸、およびキャッピング剤としてのアジピン酸モノメチルエステルでグラフトする典型的な手順は、下記のとおりである。第1に、ヒドロキシアパタイトウイスカはメタケイ酸ナトリウムでケイ素化される。
【0018】
第2に、エンドキャップされたマクロマーを合成する。マクロマーを調製するために、フマル酸、アジピン酸およびアジピン酸モノメチルエステルをジメチルクロロシランに添加する。次に、ビス(ジメチルクロロシリル)フマレート、ビス(ジメチルクロロシリル)アジペートおよびジメチルクロロシリルアジペートモノメチルエステルの重縮合を実行する。それにより、一端がアジピン酸モノメチルエステルでキャップされ、かつもう一端に反応性クロロシランを有するフマレート−アジペートマクロマーを得る。重縮合反応の完了後、マクロマー鎖の反応性クロロシラン末端を、過剰量のメタノールで失活させ、アジピン酸モノメチルエステルおよびメトキシシランでキャップされたマクロマーを得る。
【0019】
第3に、マクロマーをヒドロキシアパタイトナノ粒子の表面にグラフトする。マクロマーをアセトン−水混合物中に溶解し、ケイ素化ヒドロキシアパタイトをこの混合物に添加する。アセトンおよび水を除去した後、マクロマーおよびケイ素化ヒドロキシアパタイトを縮合し、グラフトヒドロキシアパタイトを有するマクロマーを生成する。
【実施例】
【0020】
本発明をさらに例示するために、次の実施例を示すが、これらは決して本発明を限定するものと意図するものではない。
【0021】
A.実験
最大界面相互作用およびグラフトの程度に関して、50nmの平均粒径を有するヒドロキシアパタイトナノ粒子を本研究に使用した。100および20nmの長軸および短軸をそれぞれ有するヒドロキシアパタイト(HA)ウイスカ(Berkely Advanced Biomaterials (San Leandro,CA))をグラフトに使用した(図1a参照)。HAを、Krorasani et al.,Modified hydroxyapatite reinforced PEMA bone cement,およびBone Ceramics,Yamamura,Kokubo and Nakamura,Eds.,Kobunshi Kankokai,Kyoto,Japan,1992,pp. 225-232に記載される方法に従ってケイ素化した。要するに、1グラムのメタケイ酸ナトリウム(SMS)(Aldrich(Milwaukee,WI))を50mlの蒸留脱イオン水(DDW)に溶解し、1グラムのHAを添加し、混合物を3時間攪拌した。塩酸でpHを6.8に調整し、混合物を一晩攪拌した。混合物を遠心し、固形ケイ素化HA(SiHA)産物を真空中150°で2時間乾燥した。
【0022】
エンドキャップジメチルジクロロシラン交互フマル酸/アジピン酸(SFA)マクロマーを調製するために、Najafi et al.,Preparation of biodegradable poly[(dimethyldichlorosilane)-alt-(fumaric acid/sebasic acid)]-co-PEG block copolymer,Polymer,43 (2002) 6363-6368における手順を改良し、メトキシシランおよびアジピン酸モノメチルエステル(mAA)でそれぞれマクロマーの鎖末端をキャップした。すべての反応物は、Aldrichから得られ、かつそれらの反応物は、与えられた状態で使用された。典型的な手順では、0.2モルのフマル酸(FA)、0.2モルのアジピン酸(AA)、および0.045モルのmAAを、1.335モルのジメチルクロロシラン(DMCS)を含有する三口反応フラスコに乾燥窒素雰囲気中、攪拌下で加えた。シリル化反応を還流下で12時間実行し、発生したHClをNaOH水溶液中に取り込んだ。次に、ビス(ジメチルクロロシリル)フマレート、ビス(ジメチルクロロシリル)アジペートおよびジメチルクロロシリルアジペートモノメチルエステルの重縮合を10mmHgの真空下、120℃で、4時間実行し、一端がmAAでキャップされ、かつもう一端に反応性クロロシランを有するSFAマクロマーを得た。重縮合反応中に生成されたDMCS副生成物を真空中で連続的に除去した。重縮合反応の完了後、SFA鎖の反応性クロロシラン末端を、過剰量のメタノールで失活させ、mAAでキャップされたSFAマクロマーおよびメトキシシラン(mSi)を得た。過剰量のメタノールをロータリーエバポレーション(rotovaporation)により除去した。マクロマーを塩化メチレン中に再溶解し、冷却エーテル中に2回析出した。マクロマーを真空下で少なくとも12時間乾燥し、グラフト前に−20℃で貯蔵した。比較のために、3−アクリロイルプロピルトリメトキシシラン(AcHA)もSiHAに同様の手順でグラフトした。
【0023】
次の手順を使用し、マクロマーをSiHAの表面にグラフトした。SFAマクロマーを反応フラスコ内で50mlの70/30アセトン−水混合物中に溶解した。SiHAをこの溶液に窒素雰囲気中、激しく混合しながら添加した。100℃でアセトンおよび水を除去した後、マクロマーおよびSiHAを120℃で2時間縮合し、反応副生成物であるメタノールを反応中に連続的に除去した。グラフト化HAをTHFで少なくとも3回洗浄し、遠心し、かつ真空下で乾燥した。生成物は、使用まで−20℃で貯蔵された。
【0024】
H−NMRを使用し、マクロマー中のフマレート基およびアジペート基の存在を確認した。H−NMRスペクトルを外界温度でBruker Avance500MHzシステム(Bruker Analytik GmbH(Rheinstetten,Germany))を用いて記録した。パルス角、パルス幅、遅延時間、捕捉時間、解像度、およびスキャン数はそれぞれ、90°、6μsec、7s.、3s.、0.17Hzおよび32であった。マクロマー溶液を、1%v/vトリメチルシラン(TMS)を内標準物質として含有する重水素化クロロホルム(重水素化99.8原子%、Aldrich)を用いて、50mg/mlの濃度で調製した。
【0025】
FTIR、熱重量分析器(TGA)およびエネルギー分散X線分光分析(EDS)を使用して、グラフト化ヒドロキシアパタイトを固定した。FTS−40FTIR(Bio−Rad(Hercules,CA))を使用して、乾燥窒素雰囲気中、200の平均スキャンおよび2cm−1の解像度でスペクトルを収集した。グラフト化HAを音波処理によりパーフルオロデカリン(Aldrich)中にけん濁し、2つのCaFディスク(Wilmad Glass(Buena,NJ))間の10μm×3mm空隙中に注入した。2つのCaFディスク間のパーフルオロデカリンを対照セルとして使用した。
【0026】
TGA2050熱重量分析器(TA Instruments(New Castle,DE))を使用し、グラフトの程度を測定した。およそ5mgのグラフト化ヒドロキシアパタイトを空気雰囲気中で20℃/分の速度で加熱した。重量減少を時間の関数として記録した。TGAを100mgのM級標準物質およびニッケルのキュリー温度をそれぞれ用いて、重量および温度について校正した。
【0027】
エネルギー分散X線分光分析の場合、グラフト化ヒドロキシアパタイト粉末をプラスチックBEEMカプセル(Electron Microscopy Sciences(Fort Washington,PA))内のSpurr樹脂中に包埋し、熱対流炉内で一晩重合した。塊をUltraSクライオウルトラミクロト−ム(Leica(Deerfield,IL))で80nmの厚さに切片化した。無染色切片を銅グリッド上に置き、元素の発光されたX線エネルギーをPhilips CM12 STEM PW6030透過電子顕微鏡(Philips(Eindhoven,Netherlands))を有するNoran Vantage X−ray Microanalysis System(Noran Instruments(Middleton,WI))を用いて収集した。
【0028】
B.結果と考察
図1bにSFAマクロマーのH−NMRスペクトルを示す。6.9ppmにピーク位置を有するシフトは、FAのフマレート基の水素に起因する。3.7ppmおよび3.8ppmで中心を示すピークを有するシフトは、2つのメチレン基に結合するAAおよびmAAのメチレンの水素に起因する。2.4ppmおよび1.7ppmで中心を示すピークを有するシフトは、メチレン基およびカルボキシル基に結合するAAおよびmAAのメチレン基の水素に起因する。0.1ppmにピーク位置を有するシフトは、mAAのメトキシ基のメチルの水素に起因する。NMRスペクトルによると、マクロマー中のFA:AA:mAAの比は、1:2:1であり、供給比の2:2:0.45とは異なる。これは、AAおおびmAAが、FAに比べてマクロマー中に優位に組み込まれることを示す。
【0029】
図2は、AcHAおよびSFAグラフト化HAに対する、HAのFTIRを示す。AcHAのスペクトルにおいて2,900および2,950cm−1で中心を示すピーク位置を有する吸収バンドは、HAのスペクトル中には存在しない、3−アクリルオキシプロピルのCH基およびCH基のCH伸縮振動に起因する。同様に、SFA−HAのスペクトルにおいて2,885および2,985cm−1で中心を示すピークを有するバンドは、HAのスペクトル中には存在しない、アジペートのCH基のCH伸縮振動に起因する。AcHAおよびSFA−HAのスペクトルにおいて、1,720cm−1で中心を示すピークを有するバンドは、HAのスペクトル中には存在しない、カルボキシル基のC=O伸縮振動に起因する。AcHAのスペクトルにおいて、1,635cm−1で中心を示すピークを有する弱い吸収バンドは、HAおよびSFA−HAのスペクトル中には存在しない、AcのCH=CHCOO−ビニル基のC=C伸縮振動に起因する。SFA−HAのスペクトルにおいて、1,660cm−1で中心を示すピークを有する弱い吸収バンドは、HAおよびAcHAのスペクトル中には存在しない、SFAのフマレート基のC=C伸縮振動に起因する。
【0030】
図3において、HAのエネルギー分散X線分光分析スペクトルをSFA−HAと比較する。両スペクトルは、HA中の亜リン酸に起因して2.0KeVに、HA中のカルシウムに起因して3.7および4.0KeVに、かつ包埋樹脂中の塩素に起因して2.6KeVに発光バンドを示す。さらに、HAのスペクトル中には存在しないグラフトのシリケート基およびジメチルシラン基のために、ケイ素に起因する1.7KeVで中心を示すピークがSFA−HAのスペクトル中に存在する。EDSおよびFTIRのスペクトルは、SFAマクロマーがHA表面にうまくグラフトされたことを示す。SFA−HAのFTIRスペクトル中のC=C吸収バンドの存在は、グラフト化HAが分子内および分子間架橋に関与し得ることを示す。
【0031】
HA、AcHAおよびSFA−HAの温度に対する重量減少を図4に示す。温度が上昇するにつれて、AcHAおよびSFA−HAの空気中におけるグラフトの分解が350℃で開始したが、600℃および700℃でそれぞれ終了した。AcHAのグラフトでは、350°〜600℃の温度で連続的な重量減少があった。しかしながら、SFA−HAでは、重量減少は段階的に、それぞれ350°、500°および700℃で中心を示す3段階で起こった。SFA−HAのグラフトの段階的な分解は、フマレート基、アジペート基およびジメチルシラン基を含む、グラフトの構成成分の異なる分解温度が原因であった。図4における熱重量分析データによると、AcAおよびSFA−HAのグラフトの程度はそれぞれ、12重量%および15重量%であった。
【0032】
それゆえ、フマレート単位とアジペート単位とを交互に有するジメチルシラン単位を含むマクロマーの一例が合成された。マクロマーのアジペート単位とフマレート単位は分解性であり、フマレート基は架橋され得る。マクロマーは、ケイ素化ヒドロキシアパタイトへのグラフトのために、メトキシシラン基を用いて一端でキャップした。マクロマーをケイ素化ヒドロキシアパタイトにグラフトし、FTIR、エネルギー分散X線分光分析および熱重量分析器によって確認した。FTIRにより、フマレート基およびアジペート基がヒドロキシアパタイト表面上に存在するのを確認した。エネルギー分散X線分光分析により、ケイ素がヒドロキシアパタイト表面上に存在するのを確認した。熱重量分析の結果より、グラフトの程度は15重量%であった。ヒドロキシアパタイトにグラフトされたこれらの生分解性かつ架橋性のマクロマーは、整形組織工学用途における複合生体材料の開発に対して有用であり得る。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、生分解性複合体中の充填剤として使用される、フマレート系分解性かつ架橋性のマクロマーでグラフトされたヒドロキシアパタイト粉末の合成に関する。
【0034】
本発明を、特定の実施態様を参照してかなり詳細に説明した。それゆえ、記載された実施態様以外のものによっても本発明が実行可能であることを当業者は理解するであろう。これらの実施態様は、限定ではなく例示の目的のために提示した。よって、添付の特許請求の範囲は、本明細書中に含まれる実施態様の説明に限定されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1a】1つのヒドロキシアパタイトナノ粒子のTEM顕微鏡写真である。
【図1b】フマル酸/アジピン酸マクロマーのH−NMRスペクトルである。
【図2】ヒドロキシアパタイト(HA)、3−アクリロイルプロピルトリメトキシシラングラフトヒドロキシアパタイト(AcHA)およびフマル酸/アジピン酸グラフト化ヒドロキシアパタイト(SFA−HA)のFTIRスペクトルである。
【図3】ヒドロキシアパタイト(左)およびフマル酸/アジピン酸グラフト化ヒドロキシアパタイト(右)のエネルギー分散X線分光分析スペクトルである。
【図4】ヒドロキシアパタイト(HA)、3−アクリロイルプロピルトリメトキシシラングラフト化ヒドロキシアパタイト(AcHA)およびフマル酸/アジピン酸グラフト化ヒドロキシアパタイト(SFA−HA)の温度に対する重量減少のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素−炭素二重結合を有する不飽和二酸と飽和二酸とを反応させることによって調製されるマクロマーと、
前記マクロマーにグラフトされる生体活性セラミックと
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記炭素−炭素二重結合を有する不飽和二酸は、フマル酸であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記飽和二酸は、フマル酸およびポリ(プロピレンフマレート)と適合性がある二酸類から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記飽和二酸は、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸およびこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記生体活性セラミックはヒドロキシアパタイトであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記ヒドロキシアパタイトは、シリケート基によってマクロマーにグラフトされることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記マクロマーは、前記炭素−炭素二重結合を有する不飽和二酸と、前記飽和二酸と、シランカップリング剤とを反応させることによって調製されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記炭素−炭素二重結合を有する不飽和二酸は、フマル酸であり、
前記飽和二酸は、フマル酸およびポリ(プロピレンフマレート)と適合性がある二酸類から選択され、かつ
前記シランカップリング剤は、ジハロジアルキルシランである、
ことを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記飽和二酸は、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸およびこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記マクロマーは、前記炭素−炭素二重結合を有する不飽和二酸と、前記飽和二酸と、前記シランカップリング剤と、前記飽和二酸のエステルとを反応させることによって調製されることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記飽和二酸は、アジピン酸であり、
前記シランカップリング剤は、ジクロロジメチルシランであり、かつ
前記エステルは、アジピン酸のモノメチルエステルである、
ことを特徴とする請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記生体活性セラミックは、10,000ナノメータより小さい粒径を有するヒドロキシアパタイト粒子を含むことを特徴とする、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
シラン単位、炭素−炭素二重結合を有する不飽和二酸由来の単位、および飽和二酸由来の単位を含むマクロマーと、
前記マクロマーにグラフトされる生体活性セラミックと
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項14】
前記マクロマーは、シラン単位、フマレート単位、および飽和二酸由来の単位を含み、かつ
前記生体活性セラミックは、ヒドロキシアパタイトである、
ことを特徴とする請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記マクロマーは、シラン単位、フマレート単位、およびアジペート単位を含み、かつ
前記生体活性セラミックは、ヒドロキシアパタイトである、
ことを特徴とする請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記生体活性セラミックは、ヒドロキシアパタイトであることを特徴とする、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
前記ヒドロキシアパタイトは、シリケート基によって前記マクロマーにグラフトされることを特徴とする、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
(a)高分子マトリックスと
(b)前記マトリックスに架橋される、請求項1〜17のいずれか1項に記載の前記組成物
を含むことを特徴とする生分解性複合体。
【請求項19】
前記マトリックスは、炭素−炭素二重結合を有することを特徴とする、請求項18に記載の複合体。
【請求項20】
前記マトリックスは、ポリ(プロピレンフマレート)を含むことを特徴とする、請求項19に記載の複合体。
【請求項21】
前記複合体は、組織再生用の足場材として好適であることを特徴とする、請求項18に記載の複合体。
【請求項22】
前記組織は骨であることを特徴とする、請求項21に記載の複合体。
【請求項23】
炭素−炭素二重結合を有するポリマーと、
請求項1〜17のいずれか1項に記載の前記組成物と、
前記ポリマーと前記組成物とを架橋する架橋剤
を含むことを特徴とする架橋性生分解性材料。
【請求項24】
前記ポリマーは、ポリ(プロピレンフマレート)を含むことを特徴とする、請求項23に記載の材料。
【請求項25】
前記架橋剤は、フリーラジカル開始剤であることを特徴とする、請求項24に記載の材料。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−528908(P2007−528908A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517768(P2006−517768)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/020842
【国際公開番号】WO2005/019313
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(500480919)メイヨ フオンデーシヨン フオー メデイカル エジユケーシヨン アンド リサーチ (18)
【Fターム(参考)】