説明

生分解性複合短繊維とその製造方法、及びこれを用いた熱接着不織布

【課題】加熱収縮性が小さく生分解性を有し、嵩高で、風合いの柔軟な生分解性複合短繊維、不織布、熱接着不織布及びその製造方法を提供する。
【解決手段】融点が180〜250℃の範囲内にある生分解性を有する芳香族脂肪族ポリエステル成分を第1成分とし、融点が80℃〜150℃の範囲内にある生分解性を有する熱可塑性ポリエステル成分を第2成分とし、前記第二成分の少なくとも一部が繊維表面に露出した複合短繊維であって、下記(1)及び(2)の物性値を満たす。(1)JIS−L−1015(乾熱収縮率)に準じ、温度100℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)における単繊維乾熱収縮率が3%以下。(2)JIS−L−1015(乾熱収縮率)に準じ、温度140℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)における単繊維乾熱収縮率が8%以下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おむつ、ナプキン部材等の衛生材料、フィルター、ワイパー、農業用資材、食品包材、ゴミ袋等に用いることができる生分解性複合短繊維とその製造方法、及びこれを用いた熱接着不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から生分解性ポリエステルは様々なものが提案されている。例えば下記特許文献1〜3には、複合短繊維を使用した自己熱接着不織布の提案がされている。しかし、これらの提案は、熱加工時の熱収縮性が高く、比容積は低く、熱処理したときに粗硬になる問題があった。
【0003】
また、下記特許文献4〜7には、ポリ乳酸系樹脂を用いた生分解性複合繊維及び不織布が提案されている。しかし、一般にポリ乳酸系樹脂を使用すると、熱収縮率が大きく、熱処理したときに風合いが粗硬になるという問題があった。
【特許文献1】特表平5−507109号公報
【特許文献2】特表平6−505513号公報
【特許文献3】特表平6−505040号公報
【特許文献4】特開平7−133511号公報
【特許文献5】特開2001−49533号公報
【特許文献6】特開平7−118922号公報
【特許文献7】特開2000−226733号号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、熱が加えられたときの収縮性の小さい生分解性を有する繊維を得ること、及び熱処理をしたときに収縮を伴うことなく、嵩高で、風合いの柔軟な生分解性複合短繊維とその製造方法、及びこれを用いた熱接着不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の生分解性複合短繊維の第1の発明は、融点が180℃以上250℃以下の範囲内にある生分解性を有する芳香族脂肪族ポリエステル成分を含む第1成分と、融点が80℃以上150℃以下の範囲内にある生分解性を有する熱可塑性ポリエステル成分を含む第2成分とし、前記第2成分の少なくとも一部が繊維表面に露出した複合短繊維であって、下記(1)及び(2)の物性値を満たすことを特徴とする。
(1)JIS−L−1015(乾熱収縮率)に準じ、温度100℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)における単繊維乾熱収縮率が3%以下
(2)JIS−L−1015(乾熱収縮率)に準じ、温度140℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)における単繊維乾熱収縮率が8%以下
本発明の生分解性複合短繊維の第2の発明は、融点が180℃以上250℃以下の範囲内にある生分解性を有する芳香族脂肪族ポリエステル成分を含む第1成分と、融点が80℃以上150℃以下の範囲内にある生分解性を有する熱可塑性ポリエステル成分を含む第2成分とし、前記第2成分の少なくとも一部が繊維表面に露出した複合短繊維であって、下記の方法により得られるウェブ収縮率が3%以下を満たすことを特徴とする。
[ウェブ収縮率]
前記複合短繊維で目付30g/m2のパラレルカードウェブを形成し、これを熱風貫通式熱処理機を用いて、第2成分の融点+5℃の温度で、風速1.5m/分、処理時間12秒にて熱処理したときの面積収縮率をいう。
【0006】
前記生分解性複合短繊維は、前記単繊維乾熱収縮率及び前記ウェブ収縮率の両方を満たす繊維であることが好ましい。
【0007】
本発明の生分解性複合短繊維の製造方法は、融点が180℃以上250℃以下の範囲内にある生分解性を有する芳香族脂肪族ポリエステル成分を含む第1成分と、融点が80℃以上150℃以下の範囲内にある生分解性を有する熱可塑性ポリエステル成分を含む第2成分とを準備し、前記第2成分の少なくとも一部が繊維表面に露出するように複合溶融紡糸し、延伸し、その後必要により延伸フィラメントを緊張状態で熱処理(以下、緊張熱処理という)し、前記延伸及び緊張熱処理から選ばれる少なくとも一つの工程の温度を前記芳香族脂肪族ポリエステル成分のガラス転移温度以上とし、カットして短繊維とすることを特徴とする。
【0008】
本発明の熱接着不織布は、前記の生分解性複合短繊維を10mass%以上含み、前記生分解性複合短繊維の第2成分により構成する繊維を熱接着したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、前記構成を有することにより、熱が加えられたときの収縮性の小さい生分解性を有する繊維を得ることができ、熱処理をしたときに収縮を伴うことなく、嵩高で、風合いの柔軟な生分解性複合短繊維とその製造方法、及びこれを用いた熱接着不織布を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、融点が180℃以上250℃以下の範囲内にある生分解性を有する芳香族脂肪族ポリエステル成分を含む第1成分とし、融点が80℃以上150℃以下の範囲内にある生分解性を有する熱可塑性ポリエステル成分を含む第2成分とし、前記第2成分の少なくとも一部が繊維表面に露出した複合短繊維である。前記第2成分の少なくとも一部が繊維表面に露出したとは、芯鞘型の鞘成分、サイドバイサイド型の1成分、放射状分割型の1成分など、どのように配置してもよい。なかでも複合形態としては、芯鞘型であることが好ましい。
【0011】
前記生分解性複合短繊維は、JIS−L−1015に準じて測定される単繊維乾熱収縮率が、温度100℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)の条件で、3%以下である。好ましい単繊維乾熱収縮率(100℃)の上限は、2%である。より好ましい単繊維乾熱収縮率(100℃)の上限は、1.5%である。一方、JIS−L−1015に準じて測定される単繊維乾熱収縮率が、温度140℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)の条件で、8%以下である。好ましい単繊維乾熱収縮率(140℃)の上限は、7%である。より好ましい単繊維乾熱収縮率(140℃)の上限は、6%である。単繊維乾熱収縮率(100℃)及び(140℃)は、値が小さいほどウェブを熱処理したときの収縮を抑制できるので、その下限は特に限定されるものではない。収縮を伴うのではなく、反対に伸びを示すことがあるからである。
【0012】
また、前記生分解性複合短繊維は、下記の方法により得られるウェブ収縮率が3%以下である。
[ウェブ収縮率]
前記複合短繊維で目付30g/m2のパラレルカードウェブを形成し、これを熱風貫通式熱処理機を用いて、第2成分の融点+5℃の温度で、風速1.5m/分、処理時間12秒にて熱処理したときの面積収縮率をいう。
【0013】
生分解性複合短繊維のウェブ収縮率の好ましい上限は、2%である。ウェブ収縮率のより好ましい上限は、1.5%である。前記ウェブ収縮率は、値が小さいほどウェブを熱処理したときの収縮を抑制できるので、その下限は特に限定されるものではない。熱風の風圧等でウェブの面積が拡大する場合があるからである。
【0014】
本発明において、第1成分の生分解性を有する芳香族脂肪族ポリエステル成分の融点は、180℃以上250℃以下の範囲内である。好ましい芳香族脂肪族ポリエステル成分の融点の下限は、185℃である。より好ましい芳香族脂肪族ポリエステル成分の融点の下限は、190℃である。好ましい芳香族脂肪族ポリエステル成分の融点の上限は、245℃である。より好ましい芳香族脂肪族ポリエステル成分の融点の上限は、240℃である。芳香族脂肪族ポリエステル成分の融点が180℃未満であると、結晶化が難しいため熱安定性が低下する可能性がある。融点が250℃を超えると、生分解性が著しく低下する傾向にあるからである。
【0015】
本発明において、第1成分の芳香族脂肪族ポリエステル成分は、テレフタル酸、スルホン酸金属塩、及び脂肪族ジカルボン酸を含む酸成分と、エチレングリコール、及びジエチレングリコールを含むグリコール成分からなることが好ましい。このような芳香族脂肪族ポリエステルは、生分解性が高く、かつ熱収縮性が小さいからである。
【0016】
前記芳香族脂肪族ポリエステル成分における酸成分としては、テレフタル酸が50モル%以上90モル%以下の範囲内にあり、スルホン酸金属塩が0.2モル%以上6モル%以下の範囲内にあり、脂肪族ジカルボン酸が4モル%以上49.8モル%以下の範囲内にあることが好ましい。一方、グリコール成分としては、エチレングリコールが50モル%以上99.9モル%以下の範囲内にあり、ジエチレングリコールが0.1モル%以上50モル%以下の範囲内にあることが好ましい。より好ましい芳香族脂肪族ポリエステル成分としては、酸成分がテレフタル酸を84モル%以上90モル%以下の範囲内とし、スルホン酸金属塩を0.2モル%以上1モル%以下の範囲内とし、脂肪族ジカルボン酸を4モル%以上15モル%以下の範囲内とするものであり、グリコール成分がエチレングリコールを50モル%以上99.9モル%以下の範囲内とし、ジエチレングリコールを0.1モル%以上50モル%以下の範囲内とするものである。
【0017】
前記芳香族脂肪族ポリエステル成分のガラス転移温度は、40℃以上70℃以下の範囲内にあることが好ましい。より好ましいガラス転移温度の下限は、42℃である。さらにより好ましいガラス転移温度の下限は、44℃である。より好ましいガラス転移温度の上限は、68℃である。さらにより好ましいガラス転移温度の上限は、65℃である。芳香族脂肪族ポリエステル成分のガラス転移温度が40℃未満であると、前記芳香族脂肪族ポリエステル成分の結晶化が困難となり、熱安定性が低下する可能性がある。芳香族脂肪族ポリエステル成分のガラス転移温度が70℃を超えると、生分解性を著しく低下する可能性がある。
【0018】
前記芳香族脂肪族ポリエステルは、グリコール成分として本質的にエチレングリコールとジエチレングリコールとを用い、酸成分として本質的にテレフタル酸とスルホン酸金属塩と脂肪族ジカルボン酸を用いて、従来の重縮合法により製造することができる。
【0019】
酸成分中のテレフタル酸は、50モル%以上90モル%以下であることが好ましい。より好ましくは、84モル%以上90モル%以下である。テレフタル酸の量が多い程、機械的強度は高くなる傾向にある。
【0020】
前記スルホン酸金属塩は、5−スルホイソフタル酸の金属塩、4−スルホイソフタル酸の金属塩、4−スルホフタル酸の金属塩などを挙げることができ、5−スルホイソフタル酸の金属塩が好ましい。金属イオンは、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属、およびマグネシウムなどのアルカリ土類金属が好ましい。最も好ましいスルホン酸金属塩は、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩である。
【0021】
酸成分中のスルホン酸金属塩は、0.2モル%以上6モル%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.2モル%以上1モル%以下である。この成分は比較的高価であるばかりでなく、過剰量で用いるとポリエステルを水溶性とし、さらにはフィルムの収縮などの物理的性質に影響を及ぼす可能性がある。スルホン酸金属塩は、0.2モル%という少量でさえも生分解特性に有意に寄与する。
【0022】
前記脂肪族ジカルボン酸は、炭素数2〜18の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。より好ましくは、炭素数2〜10の脂肪族ジカルボン酸である。具体的には、アゼラン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸などを挙げることができる。
【0023】
プラスチックの分解による典型的な堆肥化は、高温高湿条件下でなされる。通常は、約70℃以下の温度条件下でなされるため、ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は70℃以下であることが重要であり、好ましくは約65℃以下である。上記ガラス転移温度を70℃以下にするためには、脂肪族ジカルボン酸を用いるのがよい。脂肪族ジカルボン酸の含有量が生分解特性向上に寄与するからである。
【0024】
酸成分中の脂肪族ジカルボン酸成分単位は、4モル%以上49.8モル%以下、好ましくは4モル%以上15モル%以下である。脂肪族ジカルボン酸成分が4モル%未満であると、ガラス転移温度を有効に下げることができない。一方、脂肪族ジカルボン酸成分が49.8モル%を超えると、ガラス転移温度の低下を招き、適当な剛性を失ってしまう恐れがある。なお、ジカルボン酸の代わりに、酸のジメチルエステルなどのエステル形成誘導体を使用することもできる。
【0025】
グリコール成分中のエチレングリコールは50モル%以上99.9モル%以下、およびジエチレングリコールは0.1モル%以上50モル%以下であることが好ましい。ジエチレングリコール単位が50モル%を超えると、引張強度等の機械的特性に悪影響を及ぼし、一方、0.1モル%を未満であると、分解性が不十分となるからである。なお、20モル%までのエチレングリコールをトリエチレングリコールなどの他のグリコールで置換することによって、さらにガラス転移温度を下げてもよい。
【0026】
本発明の複合短繊維を形成するために用いられる第1成分の芳香族ポリエステル重合体は、一般に良く知られている重合方法により調製される。例えば、上記のすべてのモノマー成分をアンチモンまたは他の触媒と共に重合容器に装填し、適当な重縮合条件下で重縮合することにより、分子鎖に沿ってモノマー単位が無作為に分布する直鎖ポリエステルを製造することができる。他の方法としては、最初に2種、あるいは2種以上のモノマー成分を反応させてプレポリマーを調製し、その後、残りのモノマー成分を加えて重合する方法を挙げることができる。
【0027】
前記芳香族脂肪族ポリエステル成分を主体として第1成分を構成すると、第1成分の結晶化が可能となり、カード通過性に優れ、熱処理時の収縮が小さい生分解性複合短繊維を得ることができる。特に、酸成分がテレフタル酸を84モル%以上90モル%以下の範囲内とし、スルホン酸金属塩を0.2モル%以上1モル%以下の範囲内とし、脂肪族ジカルボン酸を4モル%以上15モル%以下の範囲内とし、グリコール成分がエチレングリコールを50モル%以上99.9モル%以下の範囲内とし、ジエチレングリコールを0.1モル%以上50モル%以下の範囲内とする、ガラス転移温度が55℃以上70℃以下の範囲にある芳香族脂肪族ポリエステル成分(以下、高テレフタレートポリエステル成分)を主体とすることによって、熱処理したときに嵩高性に優れ、風合いの柔軟な熱接着不織布を得ることができる。
【0028】
必要に応じて、第1成分には前記芳香族脂肪族ポリエステル成分以外の生分解性を有する樹脂成分を含んでもよい。この場合、芳香族脂肪族ポリエステル成分は40mass%以上含有するのが好ましい。より好ましい芳香族脂肪族ポリエステル成分の含有量の下限は、50mass%以上である。さらにより好ましい芳香族脂肪族ポリエステル成分の含有量の下限は、60mass%以上である。前記芳香族脂肪族ポリエステル成分以外の樹脂成分としては、前記芳香族脂肪族ポリエステル以外の芳香族脂肪族ポリエステル等が挙げられる。具体例としては、前記芳香族脂肪族ポリエステルとポリアルキレングリコールの共重合体等が挙げられる。
【0029】
第2成分に用いられる生分解性を有する熱可塑性ポリエステル成分(以下、生分解性ポリエステル成分という)の融点は、80℃以上150℃以下の範囲内である。好ましい生分解性ポリエステル成分の融点は、90℃以上である。より好ましい生分解性ポリエステル成分の融点は、100℃以上である。一方、好ましい生分解性ポリエステル成分の融点は、140℃以下である。より好ましい生分解性ポリエステル成分の融点は、130℃未満である。生分解性ポリエステル成分の融点が80℃未満であると、繊維生産性に劣り、単繊維同士の融着が発生しやすい傾向にある。また、延伸工程での処理温度を前記芳香族脂肪族ポリエステル成分のガラス転移温度より高くすることが困難となるため、第1成分の結晶化が困難となり、熱安定性が悪くなるからである。生分解性ポリエステル成分の融点が150℃を超えると、不織布にするときの熱処理温度を上げる必要があり、熱処理したときに不織布の嵩高性が低下する可能性がある。
【0030】
第2成分に用いられる生分解性を有する熱可塑性ポリエステル成分としては、グリコール酸とジカルボン酸の縮合体からなるものとして、例えば、ポリエチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリブチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリネオペンチルオキサレートやこれらの共重合体が挙げられる。また、ポリ(α−ヒドロキシ酸)のようなポリグリコール酸やポリ乳酸からなる重合体又はこれらの共重合体、また、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−プロピオラクトン)のようなポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)が、さらに、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシカプロレート、ポリ−3−ヒドロキシヘプタノエート、ポリ−3−ヒドロキシオクタノエート、及びこれらとポリ−3−ヒドロキシバリレートや、ポリ−4−ヒドロキシブチレートとの共重合体のようなポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)が挙げられる。さらに、前記脂肪族ポリエステルと、ポリカプラミド(ナイロン6)ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ラリラウロラクタミド(ナイロン12)のような脂肪族ポリアミドとの共縮重合体である脂肪族ポリエステルアミド系共重合体が挙げられる。また、更に前記脂肪族ポリエステルとテレフタル酸やのような芳香族成分との共重合体である脂肪族芳香族ポリエステル系共重合体が挙げられる。上記熱可塑性ポリエステル成分を1または2以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
前記熱可塑性ポリエステル成分のうち、コハク酸、アジピン酸、シュウ酸から選ばれる少なくとも一つの脂肪族ジカルボン酸成分と、エチレングリコール、ブタンジオール、プロピレングリコールから選ばれる少なくとも一つのグリコール成分とから成る繰り返し単位を含む脂肪族ポリエステルであることが好ましい。前記脂肪族ポリエステルは、熱接着性が高く、バインダー特性が高いとともに、生分解性が高く、かつ熱収縮性が小さいからである。上記範囲を満たす生分解性ポリエステル成分としては、例えば、昭和高分子社製商品名ビオノーレ#1020などが挙げられる。
【0032】
必要に応じて、第2成分には前記熱可塑性ポリエステル成分以外の生分解性を有する樹脂成分を含んでもよい。この場合、前記熱可塑性ポリエステル成分は、50mass%以上含有するのが好ましい。前記熱可塑性ポリエステル成分のより好ましい含有量は、65mass%以上である。さらにより好ましい含有量は、80mass%以上である。
【0033】
次に生分解性複合短繊維の製造方法について説明する。まず、第1成分として、融点が180〜250℃の範囲にある芳香族脂肪族ポリエステルを用意する。
【0034】
第2成分として、融点が80〜150℃の範囲にある生分解性を有する熱可塑性樹脂を用意する。具体的には、前記第2成分のポリエステル成分が、コハク酸、アジピン酸、シュウ酸から選ばれる少なくとも一つの脂肪族ジカルボン酸成分と、エチレングリコール、ブタンジオール、プロピレングリコールから選ばれる少なくとも一つのグリコール成分とから成る繰り返し単位を備えた脂肪族ポリエステルを一種又は複数種用意する。
【0035】
前記第1成分及び第2成分を公知の溶融紡糸機を用いて溶融紡糸し、繊度1dtex以上、100dtex以下の範囲内にある紡糸フィラメントを作製する。例えば、溶融温度は、各成分の融点+20℃以上、分解温度以下の範囲で溶融させ、第1成分の融点+10℃以上、第2成分の融点+170℃以下の範囲に設定したノズルから溶融樹脂を吐出し、引取速度100m/min以上、2000m/min以下の範囲で溶融紡糸することができる。各成分の溶融温度が、各成分の融点+20℃未満であると、溶融した樹脂の溶融粘度が高いため糸切れが発生しやすい。各成分の溶融温度が、各成分の分解温度を超えると、樹脂分解を引き起こし糸切れが発生しやすい。好ましい溶融温度は、各成分の融点+50℃以上、各成分の分解温度−20℃以下の範囲である。ノズル温度が、第1成分の融点+10℃未満であると、溶融した樹脂の溶融粘度が高い、あるいはノズル表面が冷えた場合にノズル孔からの樹脂の吐出が不安定になるため、糸切れが発生しやすい。ノズル温度が第2成分の融点+170℃を超えると、第2成分の溶融粘度が低いために紡糸フィラメント同士が融着しやすくなる。好ましいノズル温度は、第1成分の融点+20℃以上、第2成分の融点+150℃以下の範囲である。
【0036】
次いで、溶融紡糸して得られた紡糸フィラメントは、公知の延伸処理機を用いて延伸処理されて延伸フィラメントをなす。このとき延伸処理は、1段または2段以上に延伸処理する、または前記延伸処理し、得られた延伸フィラメントを緊張状態で熱処理(以下、緊張熱処理という)するいずれかの延伸工程が採られ、そのうち少なくとも1つの処理における処理温度を前記芳香族脂肪族ポリエステル成分のガラス転移温度以上とすることが重要である。具体的には、延伸工程が延伸処理のみでなされる場合、処理温度の下限をガラス転移温度とすることが好ましい。延伸処理と緊張熱処理を組み合わせる場合、延伸温度を30℃以上95℃以下の範囲内とし、ガラス転移温度以上で緊張熱処理することが好ましい。特に、芳香族脂肪族ポリエステルは、ガラス転移点以下の延伸性が良好であるため、ガラス転移点以下の温度で延伸した後、ガラス転移点以上の温度で緊張状態で延伸すると、得られる延伸フィラメントのコシが大きくなり、得られる熱接着不織布の嵩がより大きくなる。
【0037】
延伸処理は、延伸温度を30℃以上95℃以下の範囲内とし、延伸倍率を1.5倍以上で実施することが好ましい。延伸温度が30℃未満であると、各成分の樹脂が軟化しにくいため、延伸倍率が低下しやすい。延伸温度が95℃を超えると、紡糸フィラメントにおいて、第1成分の芳香族脂肪族ポリエステル成分が結晶化していないため溶融する、いわゆるフロー状態になり得られる繊維自体にコシが無く、カード通過性が低下する可能性がある。さらに、得られる熱接着不織布の嵩が低下する可能性がある。延伸倍率が1.5倍未満であると、第1成分が結晶化しにくくなり、得られる延伸フィラメントの熱収縮率が大きくなるだけではなく、得られる熱接着不織布の嵩が低下する可能性がある。より好ましい延伸倍率の下限は、2倍である。延伸方法は、温水、又は熱水中で実施する湿式延伸法、又は乾式延伸法のいずれであっても良い。
【0038】
本発明の生分解性複合短繊維の延伸工程においては、前記延伸フィラメントを第1成分のガラス転移温度以上、第2成分の融点未満の温度範囲において、緊張状態で熱処理を施すことが好ましい。ここでいう緊張状態とは、倍率にして0.9〜1.2倍の範囲内のことをいう。緊張状態での熱処理は、乾熱、湿熱、又は蒸熱のいずれであってもよい。延伸フィラメントを緊張状態での熱処理することよって、第1成分の結晶化が促進され、得られる延伸フィラメントの熱収縮率を小さくすることができる。さらに、得られる熱接着不織布の嵩を大きくすることができる。
【0039】
得られた延伸フィラメントは、必要に応じて、所定量の繊維処理剤を付着され、クリンパー(捲縮付与装置)で捲縮が与えられる。必要に応じて、捲縮付与後のフィラメントには、60℃以上、第2成分の融点未満の範囲内の温度で数秒から約30分間、弛緩状態でアニーリング処理を施すことができる。また、前記アニーリング処理と同時に繊維処理剤を乾燥させてもよい。そして、得られたフィラメントは、所望の長さに切断されて、カードウェブ用のステープル繊維、あるいはエアレイウェブ用または湿式抄紙用の短繊維が得られる。
【0040】
このようにして得られる生分解性複合短繊維は、不織布、織編物などに加工することができる。不織布とする場合、繊維ウェブの形態としては、パラレルウェブ、セミランダムウェブ、ランダムウェブ、クロスレイウェブ、クリスクロスウェブ等のカードウェブ、エアレイウェブ、湿式抄紙ウェブ等が挙げられる。
【0041】
本発明の生分解性複合短繊維は、熱処理して当該繊維を熱接着させた熱接着不織布としたときにその特性を有用に発揮することができる。熱処理方法としては、熱風処理、蒸熱処理、熱ロール処理、熱プレス処理等が挙げられる。本発明の熱接着不織布においては、特に熱風処理においてその効果を十分に発揮することができる。
【0042】
また、熱接着不織布の比容積は、30cm3/g以上であることが好ましい。より好ましい比容積の下限は、35cm3/gである。さらにより好ましい比容積の下限は、40cm3/gである。熱接着不織布の比容積が30cm3/g未満であると、嵩高性を目的とした不織布として嵩高感を感じず、柔軟性に劣る傾向にある。一方、熱接着不織布の比容積の上限は、用途などに応じて適宜設定されるものであり、不織布に実用強度を備えていれば特に限定されるものではない。例えば、おむつの用途であれば、熱接着不織布の比容積は、30cm3/g以上100cm3/g以下の範囲内にあることが好ましい。
【0043】
本発明の生分解性複合短繊維を用いて熱風処理した熱接着不織布は、比容積が大きく、風合いの柔軟な不織布が得られる。また、第1成分及び第2成分の融点差が大きいため、熱処理時の熱処理温度域が広く、有用である。
【実施例】
【0044】
[樹脂]
樹脂A:テレフタル酸、スルホン酸金属塩、脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、およびジエチレングリコールから成る繰り返し単位を備え、酸成分中、テレフタル酸が約84モル%〜約90モル%、スルホン酸が約0.2モル%〜約1モル%、および脂肪族ジカルボン酸が約4モル%〜約15モル%であり、グリコール成分中、エチレングリコールが約50モル%〜約99.9モル%、およびエチレングリコールが約0.1モル%〜約50モル%である芳香族脂肪族ポリエステル共重合体(融点235℃、ガラス転移温度62℃)。
樹脂B:下記樹脂Cにポリアルキレングリコールを共重合した芳香族脂肪族ポリエステル共重合体(融点200℃、ガラス転移温度27℃)。
樹脂C:テレフタル酸、スルホン酸金属塩、脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、およびジエチレングリコールから成る繰り返し単位を備え、酸成分中、テレフタル酸が約50モル%〜約90モル%、スルホン酸金属塩が約0.2モル%〜約6モル%、および脂肪族ジカルボン酸が約4モル%〜約49.8モル%であり、グリコール成分中、エチレングリコールが約50モル%〜約99.9モル%、およびジエチレングリコールが約0.1モル%〜約50モル%である芳香族脂肪族ポリエステル共重合体(融点200℃、ガラス転移温度45℃)。
樹脂D:昭和高分子社製“ビオノーレ#1020”(融点110℃、ガラス転移温度−30℃)。
[融点及びガラス転移温度]
上記融点及びガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、以下の方法で測定した。
(1)−20℃から250℃(樹脂A)または220℃(樹脂B〜D)まで昇温速度10℃/minで昇温し、250℃または220℃で10分間保持する。
(2)次に、250℃または220℃から−20℃まで降温速度10℃/minで降温し、−20℃で10分間保持する。
(3)そして、−20℃から250℃(樹脂A)または220℃(樹脂B〜D)まで昇温速度10℃/minで昇温したときのガラス転移温度及び融解ピーク温度(融点)を求める。
[繊維の製造]
(1)溶融紡糸
表1のポリマーの組み合わせを用いた。芯成分のポリマーを280℃に溶融し、鞘成分のポリマーを210℃に溶融した樹脂を、同心円芯鞘型複合ノズルを用いて235℃で溶融樹脂を吐出して、引取速度500m/minにて引き取り、繊度11dtexの紡糸フィラメントを作製した。
(2)延伸
前記紡糸フィラメントを表1の条件の温水中で延伸した。次いで延伸フィラメントを必要により所定の温水中に緊張状態(約1倍)で浸漬し熱処理を行った。さらに繊維処理剤、捲縮を付与し、90℃で乾燥して、生分解性複合短繊維を得た。
(3)繊維の評価方法
[カード通過性]
幅30cmのパラレルカードに所定の繊維を70g(幅30cm×長さ50cm)投入した時のカード通過性を下記の基準で判断した。
【0045】
優:ネップ0個
良:ネップ5個以下
可:ネップ10個以下
不可:シリンダーに巻き付き排出性が著しく悪い。
[単繊維強度]
JIS L 1015に準じ、引張試験機を用い試料のつかみ間隔を20mmとしたときの繊維切断時の荷重値を測定し、単繊維強度とした。
[捲縮数、捲縮率、及び残留捲縮率]
JIS L−1015に準じて測定した。
[単繊維乾熱収縮率]
JIS−L−1015(乾熱収縮率)に準じ、100℃及び140℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)における単繊維乾熱収縮率を測定した。
(4)不織布の製造
第2成分の融点+5℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて、目付30g/m2のパラレルカードウェブを風速1.5m/min、処理時間12秒にて熱処理して熱接着不織布を作製した。
(5)不織布の評価方法
[厚み]
ミツトヨ(株)製、ID−C1012Cの厚み測定器を用い、印可加重2.94cN/cm2の条件下で5秒経過時点の厚みを測定した。
[比容積]
厚みに1000を乗じた値を目付で除して算出した。
[引張強さ]
JIS L−1096ストリップ法に準じて、試料幅5cm、試料長15cmの試料片を10個準備し、定速伸張型引張試験機(テンシロンUCT−IT、オリエンテック製)を用いて、把持間隔10cm、引張速度10cm/minの条件下で伸張して破断したときの荷重値を引張強さとした。
[ウェブ収縮率]
熱処理前のウェブに縦(T)20cm、横(W)20cmの印をつけて前記熱処理条件で熱処理をし、熱加工後の縦(TA)横(WA)それぞれの印の長さを測定して、下記式で面積収縮率を算出し、ウェブ収縮率とした。
【0046】
ウェブ収縮率(%)={(T×W−TA×WA)/T×W}×100
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示す延伸条件は、
A 温水40℃で延伸後、温水80℃で緊張状態(約1倍)で熱処理
B 温水80℃で延伸
C 温水40℃で延伸
なお、参考例として芯成分の融点が170℃、鞘成分の融点が130℃である生分解性複合短繊維(ユニチカ(株)製、商品名テラマックPL80)を用意した。
【0049】
表1から明らかなとおり、実施例品はいずれも100℃及び140℃における単繊維乾熱収縮率が低く、熱接着不織布にしたときの比容積が高く、ウェブ収縮率も1.5%未満と低かった。また、風合いも柔らかく、肌に接触する用途に用いるのに適していた。これに対して比較例品は、140℃における単繊維乾熱収縮率が高く、熱接着不織布にしたときの比容積が低く、ウェブ収縮率は高かった。また、風合いは粗硬であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の生分解性複合短繊維および熱接着不織布は、おむつやナプキンなどの衛生材料、農業用資材、食品包材、水切り袋、ごみ袋、産業用資材、フィルター、ワイパー等の用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が180℃以上250℃以下の範囲内にある生分解性を有する芳香族脂肪族ポリエステル成分を含む第1成分と、融点が80℃以上150℃以下の範囲内にある生分解性を有する熱可塑性ポリエステル成分を含む第2成分とし、前記第2成分の少なくとも一部が繊維表面に露出した複合短繊維であって、JIS−L−1015に準じて測定される単繊維乾熱収縮率が下記(1)及び(2)の物性値を満たすことを特徴とする生分解性複合短繊維。
[単繊維乾熱収縮率]
(1)温度100℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)における単繊維乾熱収縮率が3%以下
(2)温度140℃、時間15分間、初荷重0.018mN/dtex(2mg/d)における単繊維乾熱収縮率が8%以下
【請求項2】
前記芳香族脂肪族ポリエステル成分が、下記に示す酸成分およびグリコール成分とから成る繰り返し単位を具え、芳香族脂肪族ポリエステル成分のガラス転移温度が40℃以上70℃以下の範囲内にある請求項1に記載の生分解性複合短繊維。
[酸成分]
(1)テレフタル酸が50モル%以上90モル%以下
(2)スルホン酸金属塩が0.2モル%以上6モル%以下
(3)脂肪族ジカルボン酸が4モル%以上49.8モル%以下
[グリコール成分]
(1)エチレングリコールが50モル%以上99.9モル%以下
(2)ジエチレングリコールが0.1モル%以上50モル%以下
【請求項3】
前記第2成分のポリエステル成分が、コハク酸、アジピン酸、シュウ酸から選ばれる少なくとも一つの脂肪族ジカルボン酸成分と、エチレングリコール、ブタンジオール、プロピレングリコールから選ばれる少なくとも一つのグリコール成分とから成る繰り返し単位を含む脂肪族ポリエステルである請求項1に記載の生分解性複合短繊維。
【請求項4】
融点が180℃以上250℃以下の範囲内にある生分解性を有する芳香族脂肪族ポリエステル成分を含む第1成分と、融点が80℃以上150℃以下の範囲内にある生分解性を有する熱可塑性ポリエステル成分を含む第2成分とし、前記第2成分の少なくとも一部が繊維表面に露出した複合短繊維であって、下記の方法により得られるウェブ収縮率が3%以下を満たす生分解性複合短繊維。
[ウェブ収縮率]
前記複合短繊維で目付30g/m2のパラレルカードウェブを形成し、これを熱風貫通式熱処理機を用いて、第2成分の融点+5℃の温度で、風速1.5m/分、処理時間12秒にて熱処理したときの面積収縮率をいう。
【請求項5】
融点が180℃以上250℃以下の範囲内にある生分解性を有する芳香族脂肪族ポリエステル成分を含む第1成分と、融点が80℃以上150℃以下の範囲内にある生分解性を有する熱可塑性ポリエステル成分を含む第2成分とを準備し、前記第2成分の少なくとも一部が繊維表面に露出するように複合溶融紡糸し、
延伸し、その後必要により延伸フィラメントを緊張状態で熱処理(以下、緊張熱処理という)し、前記延伸及び緊張熱処理から選ばれる少なくとも一つの工程の温度を前記芳香族脂肪族ポリエステル成分のガラス転移温度以上とし、
カットして短繊維とすることを特徴とする生分解性複合短繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の生分解性複合短繊維を10mass%以上含み、前記生分解性複合短繊維の第2成分により構成する繊維を熱接着した熱接着不織布。
【請求項7】
前記熱接着が、熱風処理によるものである請求項6に記載の熱接着不織布。
【請求項8】
前記不織布の比容積が、30cm3/g以上である請求項6又は7に記載の熱接着不織布。

【公開番号】特開2006−249582(P2006−249582A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−435108(P2003−435108)
【出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】