説明

生分解性農業用シート

【課題】適度な貫通抵抗、遮光率、反射率を有するため、雑草等の繁殖を抑制するのに優れた防草効果を発揮し、糖度アップ機能および果実等の外観を良くする効果に優れ、さらに使用後、生分解により回収する手間のいらない自然にやさしい生分解性農業用シートを提供する。
【解決手段】繊維径が1〜20μmの生分解性繊維から構成される不織布Aと繊維径が5〜40μmの生分解性繊維から構成される不織布Bとを積層した複合不織布からなるシートであって、貫通抵抗が5〜50N、遮光率が95〜100%、および少なくとも片面の反射率が5〜65%であることを特徴とする生分解性農業用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生分解性を有し使用後の廃棄処理が容易な、果樹園などの農業分野に使用される生分解性農業用シートであり、雑草等の繁殖を抑制するのに優れた防草効果を発揮し、果実の糖度アップ機能および果実の色つやを向上させる機能を兼ね備えながら、さらに優れた敷設作業性を有する生分解性農業用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の糖度アップシートには、麻シートなどが使用されていたが耐水性が低く、果実を水不足状態にすることで糖度アップさせる機能は不十分であった。また、雑草などに対する防草としては、除草剤を散布させる方法が多く採られているが、除草剤は生物にとって有毒物を含んでいるため、環境に対して負荷がかかるなどの問題もあった。そのため、最近では、ポリプロピレンやポリエステル樹脂を用いた合成繊維シートが使用され(例えば、特許文献1)、それらを地表に敷設することにより糖度アップ及び防草効果を得ていたが、耐候劣化によりボロボロになると再び回収して産廃物として廃棄する必要があり、回収作業に非常に手間の掛かるという問題が生じていた。また、廃棄の方法として、埋め立てや焼却処分があるが、埋め立てによる自然環境破壊や、焼却の際に有毒ガスが多く発生し、地球環境破壊の問題も生じていた。
【0003】
また、今までは果実や葉などに直接的な被害をもたらす病害虫の問題があり、従来の技術(例えば、特許文献2参照)では、病害虫が好まない特定領域の波長を持つ太陽光を全反射させ、施設(ハウス)周囲を覆うことによって特定領域の波長(忌避波長)を含む光が施設内に侵入することを制限させ、農作物から病害虫を直接的な手法によって遠ざけることが知られていたが、同時に、農作物の根に到達する水分をコントロールすることによって糖度アップさせる機能はなかった。
【特許文献1】特開2003−319722号公報
【特許文献2】特開2006−312790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、高い貫通抵抗と遮光性を有するため優れた防草効果を発揮し、また適度な耐水性、透湿性、反射率を有するため、果実の糖度アップ機能及び色つやを良くする効果に優れ、さらに使用後、生分解により回収する手間のいらない自然にやさしい生分解性農業用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
【0006】
(1)繊維径が1〜20μmの生分解性繊維から構成される不織布Aと、繊維径が5〜40μmの生分解性繊維から構成される不織布Bとを積層した複合不織布からなるシートであって、貫通抵抗が5〜50N、遮光率が95〜100%、および少なくとも片面の反射率が5〜65%であることを特徴とする生分解性農業用シート。
【0007】
(2)透湿度が2500〜9000g/m(24hr)であり、耐水度が500〜2500mmであることを特徴とする上記(1)に記載の生分解性農業用シート。
【0008】
(3)前記不織布Aがメルトブロー不織布またはスパンボンド不織布であり、不織布Bがスパンボンド不織布であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の生分解性農業用シート。
【0009】
(4)前記不織布Aおよび/または不織布Bを構成する生分解性繊維が芯鞘型構造繊維であって、該芯鞘型構造繊維の芯成分に少なくとも1種以上の着色剤を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の生分解性農業用シート。
【0010】
(5)前記不織布Aまたは不織布Bいずれか一方の貼り合わせ面に水系接着剤を塗布し、もう一方の不織布を貼り合わせた後に、80〜120℃の温度で乾燥し一体化することを特徴とする生分解性農業用シートの製造方法。
【0011】
(6)80〜120℃の温度のエンボスロールまたはカレンダーロールでそれぞれ仮圧着した前記不織布Aと前記不織布Bを積層した後に、エンボスロールにより部分的に熱圧着し一体化することを特徴とする生分解性農業用シートの製造方法。
【0012】
(7)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の生分解性農業用シートを、前記不織布Aが上面になるように地面に敷設することを特徴とする果実の栽培方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、農業用シートを構成する不織布が、いずれも生分解性繊維から構成されているため、使用中のシートが耐候劣化して新しいシートを敷設する際に、劣化シートは回収せずにそのまま放置しても土中のバクテリア(微生物)により分解消失させることができる。したがって、劣化シートの回収作業が必要でなくなり、しかも公害問題も発生しないため敷設作業性を大幅に向上することができる。
【0014】
また、不織布Aは繊維径1〜20μmの極細合成繊維からなるため、繊維間の緻密化により耐水機能と透湿性を増大し、高い反射率を有するため、糖度アップ機能及びつや等の外観良くする機能を具備することができる。また、極細繊維からなる不織布だけであると可撓性が大きいため、敷設作業がしにくくなるが、剛性の高い繊維からなる不織布Bを積層することにより、作業性を向上することができる。
【0015】
また、本発明は、茎径が太く、出芽力が強い雑草に対しても十分な防草効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の生分解性農業用シートは、不織布Aと不織布Bとの複合不織布からなるシートである。
【0017】
本発明の複合不織布を構成する不織布Aは、繊維径1〜20μmの生分解性繊維から構成されることが重要であり、繊維径は1〜15μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。繊維径が1μm以上であれば、不織布Aの生産性が著しく悪化したり、不織布Aが極端に緻密化し通気性が低下したりすることを防ぐことができる。一方、繊維径が20μm以下であれば、生分解性農業用シートとして使用した場合十分な耐水性を得ることができる。なお、本発明の繊維径は、後記実施例(1)に記載の方法により測定することができる。
【0018】
本発明の複合不織布を構成する不織布Bは、繊維径5〜40μmの生分解性繊維から構成されることが重要であり、繊維径は10〜35μmであることが好ましく、15〜30μmであることがより好ましい。繊維径が5μm以上であれば、不織布Bが過度に緻密化し複合不織布の透湿度が低下することを防ぐことができる。一方、繊維径が40μm以下であれば、不織布Bの空隙が極端に大きくなり貫通抵抗や遮光率が低下することを防ぐことができる。
【0019】
本発明の複合不織布は、貫通抵抗が5〜50Nであることが重要であり、10〜45Nであることが好ましく、15〜40Nであることがより好ましい。貫通抵抗が5N以上であれば、出芽力の強い雑草でもシートを突き破ることが困難であり、貫通抵抗が50N以下であれば、シートの風合いが極端に硬くなることがなく、敷設時に優れた作業性を得ることができる。なお、本発明の貫通抵抗は、後記実施例(2)に記載の方法により測定することができる。
【0020】
ここで貫通抵抗が5〜50Nである複合不織布を得るには、複合不織布を構成する不織布Bを、スパンボンド不織布とすることが好ましい。また、複合不織布の目付を、100〜300g/mとすることも貫通抵抗が5〜50Nである複合不織布を得るために好ましい態様である。
【0021】
本発明の複合不織布は、遮光率が95〜100%であることが重要であり、97〜100%であることが好ましく、99〜100%であることがより好ましい。遮光率が95〜100%であれば、雑草は十分な太陽光が得られないため、出芽力を極力抑えることができる。なお、本発明の遮光率は、後記実施例(3)に記載の方法により測定することができる。
【0022】
ここで遮光率が95〜100%である複合不織布を得るには、不織布Aまたは不織布Bのいずれかが、黒色系の着色剤を含有することが好ましい。また、複合不織布の目付を、100〜300g/mとすることも貫通抵抗が5〜50Nである複合不織布を得るために好ましい態様である。
【0023】
本発明の複合不織布は、紫外光領域波長200〜400nmにおいて少なくとも片面の反射率が5〜65%であることが重要であり、10〜60%であることが好ましく、15〜55%であることがより好ましい。少なくとも片面の反射率が5%以上であれば、その面を上にして敷設することにより、日光を反射させ果実の下面(直射日光の当たらない面)へも届かせることができ、果実の育成を促進させたり色つやを良くしたりすることができる。一方、反射率が65%以下であれば、その面を上にして敷設しても、作業者や農業従事者が反射した太陽光が眩しくて作業性が低下することがない。なお、本発明の反射率は、後記実施例(4)に記載の方法により測定することができる。
【0024】
ここで反射率が5〜65%である複合不織布を得るには、より繊維径の小さい不織布Aを反射面とし、不織布Aが着色剤を含まないか、白色系の着色剤を含むことが好ましい。また、不織布Aをメルトブロー不織布とすることも反射率が5〜65%である複合不織布を得るために好ましい態様である。
【0025】
本発明の複合不織布は、透湿度が2500〜9000g/m(24hr)であることが好ましく、3000〜8500g/mであることがより好ましく、3500〜8000g/mであることがさらに好ましい。透湿度を2500〜9000g/mとすることにより、土中の微生物を健全に保つことができ、果樹に対して有害な微生物を抑制することができる。なお、本発明の透湿度は、後記実施例(5)に記載の方法により測定することができる。
【0026】
ここで透湿度が2500〜9000g/mである複合不織布を得るには、不織布Bの繊維径を10〜35μmとすることが好ましい。不織布Bをスパンボンド不織布とすることも透湿度が2500〜9000g/mである複合不織布を得るために好ましい態様である。
【0027】
本発明の複合不織布は、耐水度が500〜2500mmであることが好ましく、700〜2300mmであることがより好ましく、900〜2100mmであることがさらに好ましい。耐水度を500〜2500mmとすることにより雨水の浸透を適度に抑制し果実の糖度アップさせることができる。なお、本発明の耐水度は、後記実施例(6)に記載の方法により測定することができる。
【0028】
ここで耐水度が500〜2500mmである複合不織布を得るには、不織布Aの繊維径を1〜15μmとすることが好ましい。不織布Aをメルトブロー不織布とすることも耐水度が500〜2500mmである複合不織布を得るために好ましい態様である。
【0029】
本発明の不織布Aおよび不織布Bを構成する繊維は、生分解性繊維であることから、以下の原料が好ましく用いられる。
【0030】
すなわち、不織布を構成する繊維の生分解性樹脂については、ポリ乳酸樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリヒドロキシブチレート系樹脂などがあげられる。中でもポリ乳酸樹脂は植物を原料とした非石油系原料であることから、好ましく用いられる。
【0031】
ここでポリ乳酸樹脂は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有する他の成分を共重合した共重合ポリ乳酸樹脂であってもよい。共重合可能な成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類のほか、エカチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物またはそれらの誘導体、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体があげられる。
【0032】
また、ポリ乳酸樹脂の製法としては、乳酸を原料として一旦環状2量体であるラクチドを生成し、その後、開環重合を行う二段階のラクチド法や、乳酸を原料として溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法など、何ら限定されない。ラクチド法によって得られたポリマーの場合、ポリマー中に含有される環状2量体が溶融紡糸時に気化して紡糸性悪化などの原因となるおそれがあるため、溶融紡糸以前にポリマー中に含有する環状2量体の含有量を極力減少させておくことが望ましく、該含有量は0.1wt%以下にすることが好ましい。一方、直接重合法の場合には、環状2量体に起因する問題が実質的にないため、紡糸性の観点からみてより好ましいと言える。
【0033】
さらにポリ乳酸樹脂の分子量は、スパンボンド不織布を製造する場合は重量平均分子量が10万〜30万であることが好ましく、10万〜20万であることがより好ましい。重量平均分子量が10万以上であれば、極端な繊維強度の低下、ひいては不織布強度の低下を抑制することができ、また重量平均分子量が30万以下であれば、口金から紡出したフィラメントをエアサッカー等で牽引した際に良好な曵糸性を得ることができ、高速紡糸が可能となる。一方、メルトブロー不織布を製造する場合は重量平均分子量が5万〜20万であることが好ましく、7万〜20万であることがより好ましい。重量平均分子量が5万以上であれば、良好な紡糸性が得られ、また重量平均分子量が20万以下であれば、メルトブロー不織布の繊維径を1〜20μmの範囲で容易に制御することができる。
【0034】
本発明の複合不織布を構成する不織布Aは、メルトブロー不織布またはスパンボンド不織布であることが好ましく、メルトブロー不織布であることがより好ましい。一方、不織布Bは、スパンボンド不織布であることが好ましい。
【0035】
メルトブロー不織布の場合は、溶融し紡糸口金から押し出された熱可塑性樹脂に加熱高速ガス流体を吹き当てることにより、その熱可塑性樹脂を引き伸ばして繊維状に細化し、移動コンベア上に捕集してシート状の不織布となす、いわゆるメルトブロー法によって製造することができる。
【0036】
スパンボンド不織布の場合は、溶融し紡糸口金から押し出された熱可塑性樹脂を、高速吸引ガスにより吸引延伸して紡糸した後、移動コンベア上に繊維を捕集して繊維ウエブとし、さらに連続的に熱圧着、絡合等を施すことにより一体化してシート状の不織布となす、いわゆるスパンボンド法によって製造することができる。スパンボンド法の場合、構成する繊維をより高度に配向結晶化させるため、紡糸速度は2000m/分以上であることが好ましく、3000m/分以上であることがより好ましく、4000m/分以上であることがさらに好ましい。またスパンボンド不織布の一体化方法としては、より優れた防草効果が得られることから、熱エンボスロールや、エンボスロールと超音波発振装置などの、エンボスロールを用いた部分的な熱圧着による方法を好ましく用いることができる。ここで部分的熱圧着の際の圧着面積は、不織布全体の面積に対して5〜50%であることが好ましく、7〜45%であることがより好ましく、10〜40%であることがさらに好ましい。
【0037】
本発明の複合不織布を構成する不織布Aおよび/または不織布Bを構成する生分解性繊維は、芯鞘型構造繊維であって、該芯鞘型構造繊維の芯成分に少なくとも1種以上の着色剤を含有することが好ましい。ここで不織布Aに含有される着色剤としては、複合不織布の反射率を向上させる効果があることから、酸化チタンなどの白色系顔料が好ましく用いられる。一方、不織布Bに含有される着色剤としては、複合不織布の遮光率を向上させる効果があることから、カーボンブラックなどの黒色系顔料が好ましく用いられる。さらに芯鞘型構造にした繊維の芯成分のみにこれらの着色剤が含有されることで、繊維表面の特性を大きく変化させることがないため、不織布Aと不織布Bを貼り合わせる際、安定的に一体化することが可能となる。
【0038】
本発明の複合不織布を製造する際の不織布Aと不織布Bの一体化の方法としては、別々に製造した不織布Aと不織布Bを積層しエンボスロールにより部分的に熱圧着する方法や、別々に製造した不織布Aと不織布Bを接着剤により貼り合わせる方法、不織布Bの上に不織布Aを構成する繊維を捕集し連続してエンボスロールにより部分的に熱圧着する方法、不織布Bと不織布Aを連続して移動コンベア上に捕集し積層した後に連続してエンボスロールにより部分的に熱圧着する方法などが挙げられる。この中でも特に、ポリ乳酸樹脂を原料とする場合は、一般的な不織布の原料として使用されるポリエステル樹脂などに比べて耐熱性が低く、熱圧着の回数は少ないことが望まれるため、別々に製造した不織布Aと不織布Bを接着剤により貼り合わせる方法や、不織布Bと不織布Aを連続して移動コンベア上に捕集し積層した後に連続してエンボスロールにより部分的に熱圧着する方法、さらには低温のエンボスロールまたはカレンダーロールでそれぞれ仮圧着した不織布Aと不織布Bを積層し、エンボスロールにより部分的に熱圧着する方法がより好ましく用いられる。なお仮圧着する際のエンボスロールまたはカレンダーロールの温度としては、80〜120℃であることが好ましく、90〜110℃であることがより好ましい。
【0039】
別々に製造した不織布Aと不織布Bを接着剤により貼り合わせる方法を用いる場合の接着剤としては、ホットメルト樹脂や、水溶性樹脂などが挙げられるが、ホットメルト樹脂の場合は溶融させるために比較的高い温度が必要であり、また水溶性樹脂の場合は農業用シートとして用いた際に降雨などにより接着性が低下する恐れがあることから、接着剤樹脂成分を水中に分散させたエマルジョン系接着剤が好ましく用いられる。
【0040】
該エマルジョン系接着剤を用いた不織布Aと不織布Bの具体的な貼り合わせ方法は、不織布Aまたは不織布Bいずれか一方の貼り合わせ面に接着剤を塗布し、もう一方の不織布を貼り合わせた後に、80〜120℃の温度で乾燥し一体化することが好ましい。乾燥温度は、85〜115℃であることがより好ましく、90〜110℃であることがさらに好ましい。乾燥温度が80℃以上であれば、生産性を著しく低下させることなく十分に乾燥することが可能であり、乾燥温度が120℃以下であれば、複合不織布の風合いの硬化や変形を抑制し乾燥することが可能である。
【0041】
ここで不織布Aと不織布Bを貼り合わせるのに好ましく用いることができるエマルジョン系接着剤の接着成分としては、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂などが挙げられる。
【0042】
本発明の農業用シートを用いて果実を栽培する際は、前記不織布Aが上面になるように地面に敷設することが好ましい。構成する生分解性繊維の繊維径が1〜20μmである不織布Aが上面になるように地面に敷設することで、日光を反射させ果実の下面(直射日光の当たらない面)へも届かせることができ、果実の育成を促進させたり色つやを良くしたりすることができる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例に基づき本発明について説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。前記した不織布の各特性値、および下記実施例における各特性値は、次の方法で測定したものである。
(1)繊維径(μm)
それぞれの不織布からランダムに5枚ずつサンプルを採取し、各サンプルのシート表面を走査型電子顕微鏡を用いることにより、不織布Aは1000〜3000倍に、不織布Bは200〜300倍にそれぞれ拡大撮影し、それぞれ20本〔合計100本=20本×n(=5))の繊維径をノギスで測定し、その平均値を算出した。
(2)貫通抵抗(N)
周囲を固定した直径が5cmの円形のサンプルに対し、直径0.5mmの鋼棒を速度10cm/分で垂直に貫入し、貫通するまでの最大強度を測定し、貫通抵抗とした。
(3)遮光率(%)
JIS L1055 A法に基づき、試験片装置前照度を100,000ルクスで測定した。
(4)反射率(%)
サンプルを3cm×3cmに切断したものをHITACHI社製分光光度計U−3410に、不織布A側の面が反射面となるようにセットし、波長は350nmから400nmの反射率を波長1nmごとに測定し、それらの平均値を求め、小数点以下第2位を四捨五入したものを反射率とした。
(5)透湿度(g/m ・24hr)
JIS Z0208に準じ、以下の方法で測定した。温度30℃において防湿包装材料を境界面とし、一方の側の空気を相対湿度90%、他の側の空気を吸湿材によって乾燥状態に保ったとき、24時間にこの境界面を通過する水蒸気の質量(g)を、その材料1m当たりに換算した値をその材料の透湿度と定めた。
(6)耐水度(mm)
JIS L1902の低水圧法により測定した。
(7)目付(g/m
不織布から25cm×25cmのサンプルを3枚採取し、それぞれについて測定した重量の平均値を1m当たりの質量に換算した。
(8)敷設後の破れ状態
農業用シートを地面に敷設し、1年後のシートの破れ状態を、まったく破れが見られないものを5点、ボロボロに破れているものを1点と評価し、3点以上を合格とした。
(9)色つやおよび糖度
農業用シートを使用した果実と、使用しなかった果実とについて、15人のパネラーが外観を観察、また試食して比較した。果実の色つやと糖度について、農業用シートを使用した果実の方が向上したと判定したパネラーの人数を測定し、10人以上となったものを効果ありと判断した。
【0044】
(実施例1)
不織布Aの製造:重量平均分子量11万で融点が168℃であるポリ乳酸樹脂を230℃で溶融した後、口金孔数1000孔/mのメルトブロー口金を用い、口金温度235℃で細孔より紡出した後、温度250℃熱風で細化し、移動するネットコンベア上に捕集して繊維径6μmの繊維からなる目付30g/mの不織布Aを製造した。
【0045】
不織布Bの製造:重量平均分子量15万で融点が168℃であるポリ乳酸樹脂を鞘成分原料、前記ポリ乳酸樹脂にカーボンブラックを0.2wt%添加したものを芯成分原料とし、230℃でそれぞれ溶融した後、口金温度235℃で細孔より芯鞘比80/20の丸形断面同心円形の芯鞘型複合繊維として紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベア上に繊維ウエブとして捕集した。捕集された繊維ウエブを連続して、水玉柄彫刻ロールとフラットロールからなる、圧着面積率16%のエンボスロールを用い、温度130℃、線圧50kg/cmの各条件で熱圧着し、繊維径13μmの繊維からなる目付100g/mの不織布Bを製造した。
【0046】
上記のようにして得られた不織布Aと不織布Bを積層し、不織布Bの製造に用いたものと同様のエンボスロールを用い、温度140℃、線圧60kg/cmの各条件で熱圧着することで一体化し、農業用シートを製造した。
【0047】
次に、上記のようにして得られた農業用シートを、りんご果樹園の収穫直後の1本のりんごの木の下に、木の根元を中心に10m四方の範囲で、不織布A側の面が上になるように敷設した。敷設後約1年間使用し、りんごを収穫した。結果を、表1に示す。
【0048】
(実施例2)
実施例1と同様にして製造した不織布Bを連続して巻き出し、巻き出した不織布Bの上に、実施例1と同様にして目付のみを20g/mとした不織布Aを捕集した。次に、不織布Bの製造に用いたものと同様のエンボスロールを用い、温度140℃、線圧60kg/cmの各条件で熱圧着することで一体化し、農業用シートを製造した。
【0049】
次に、上記のようにして得られた農業用シートを、実施例1と同様の方法でりんご果樹園の収穫直後の1本のりんごの木の下に敷設し、約1年後にりんごを収穫した。結果を、表1に示す。
【0050】
(実施例3)
不織布Aの製造:重量平均分子量15万で融点が168℃であるポリ乳酸樹脂を鞘成分原料、前記ポリ乳酸樹脂に二酸化チタンを0.6wt%添加したものを芯成分原料とし、230℃でそれぞれ溶融した後、口金温度235℃で細孔より芯鞘比80/20の丸形断面同心円形の芯鞘型複合繊維として紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベア上に繊維ウエブとして捕集した。捕集された繊維ウエブを連続して、水玉柄彫刻ロールとフラットロールからなる、圧着面積率16%のエンボスロールを用い、温度130℃、線圧50kg/cmの各条件で熱圧着し、繊維径13μmの繊維からなる目付100g/mの不織布Aを製造した。
【0051】
不織布Bの製造:実施例1と同様にして不織布Bを製造した。
【0052】
上記のようにして得られた不織布Bを巻き出しながら不織布Bの一方の面に樹脂濃度40wt%のウレタンエマルジョン接着剤を塗布し、接着剤を塗布した面に不織布Aを貼り合わせ、連続して110℃の温度で乾燥することで一体化し、農業用シートを製造した。
【0053】
次に、上記のようにして得られた農業用シートを、実施例1と同様の方法でりんご果樹園の収穫直後の1本のりんごの木の下に敷設し、約1年後にりんごを収穫した。結果を、表1に示す。
【0054】
(実施例4)
不織布Aの製造:重量平均分子量15万で融点が168℃であるポリ乳酸樹脂を230℃で溶融した後、口金温度235℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベア上に繊維ウエブとして捕集した。捕集された繊維ウエブを連続して、1対のフラットロールからなるカレンダーロールを用い、温度100℃、線圧25kg/cmの各条件で仮圧着し、繊維径13μmの繊維からなる目付100g/mの不織布Aを製造した。
【0055】
不織布Bの製造:重量平均分子量15万で融点が168℃であるポリ乳酸樹脂を鞘成分原料、前記ポリ乳酸樹脂にカーボンブラックを0.2wt%添加したものを芯成分原料とし、230℃でそれぞれ溶融した後、口金温度235℃で細孔より芯鞘比80/20の丸形断面同心円形の芯鞘型複合繊維として紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベア上に繊維ウエブとして捕集した。捕集された繊維ウエブを連続して、1対のフラットロールからなるカレンダーロールを用い、温度100℃、線圧25kg/cmの各条件で仮圧着し、繊維径13μmの繊維からなる目付70g/mの不織布Bを製造した。
【0056】
上記のようにして得られた不織布Aと不織布Bを積層し、実施例1と同様の方法で熱圧着することで一体化し、農業用シートを製造した。
【0057】
次に、上記のようにして得られた農業用シートを、実施例1と同様の方法でりんご果樹園の収穫直後の1本のりんごの木の下に敷設し、約1年後にりんごを収穫した。結果を、表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
得られた農業用シートの特性は、表1に示したとおりであるが、実施例1〜4の農業用シートはいずれも、敷設後の破れ状態は良好であり、また、実施例1〜4の農業用シートを木の下に敷設したりんごの木から収穫されたりんごはいずれも農業用シートを用いなかったりんごに比べて色つや、糖度ともに向上していた。
【0060】
(比較例1)
不織布Aの製造:重量平均分子量15万で融点が168℃であるポリ乳酸樹脂を230℃で溶融した後、口金温度235℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度3800m/分で紡糸し、移動するネットコンベア上に繊維ウエブとして捕集した。捕集された繊維ウエブを連続して、1対のフラットロールからなるカレンダーロールを用い、温度130℃、線圧50kg/cmの各条件で仮圧着し、繊維径25μmの繊維からなる目付30g/mの不織布Aを製造した。
【0061】
不織布Bの製造:実施例1と同様にして不織布Bを製造した。
【0062】
上記のようにして得られた不織布Aと不織布Bを積層し、不織布Bの製造に用いたものと同様のエンボスロールを用い、温度140℃、線圧60kg/cmの各条件で熱圧着することで一体化した。
【0063】
次に、上記のようにして得られたシートを、りんご果樹園の収穫直後の1本のりんごの木の下に、木の根元を中心に10m四方の範囲で、不織布A側の面が上になるように敷設した。敷設後約1年間使用し、りんごを収穫した。結果を、表1に示す。
【0064】
(比較例2)
不織布Aの製造:実施例1と同様にして不織布Aを製造した。
【0065】
不織布Bの製造:実施例1と同様の方法で、目付のみを20g/mに変更して不織布Bを製造した。
【0066】
上記のようにして得られた不織布Aと不織布Bを積層し、不織布Bの製造に用いたものと同様のエンボスロールを用い、温度140℃、線圧60kg/cmの各条件で熱圧着することで一体化した。
【0067】
次に、上記のようにして得られたシートを、りんご果樹園の収穫直後の1本のりんごの木の下に、木の根元を中心に10m四方の範囲で、不織布A側の面が上になるように敷設した。敷設後約1年間使用し、りんごを収穫した。結果を、表1に示す。
【0068】
得られたシートの特性は、表1に示したとおりであるが、比較例1のシートは、敷設後の破れ状態は良好であったものの、比較例2のシートは破れ箇所が多く見られた。また、比較例1、2のシートを木の下に敷設したりんごの木から収穫されたりんごはいずれも、シートを用いなかったりんごに比べて色つや、糖度ともにあまり向上しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が1〜20μmの生分解性繊維から構成される不織布Aと、繊維径が5〜40μmの生分解性繊維から構成される不織布Bとを積層した複合不織布からなるシートであって、貫通抵抗が5〜50N、遮光率が95〜100%、および少なくとも片面の反射率が5〜65%であることを特徴とする生分解性農業用シート。
【請求項2】
透湿度が2500〜9000g/m(24hr)であり、耐水度が500〜2500mmであることを特徴とする請求項1に記載の生分解性農業用シート。
【請求項3】
前記不織布Aがメルトブロー不織布またはスパンボンド不織布であり、不織布Bがスパンボンド不織布であることを特徴とする請求項1または2に記載の生分解性農業用シート。
【請求項4】
前記不織布Aおよび/または不織布Bを構成する生分解性繊維が芯鞘型構造繊維であって、該芯鞘型構造繊維の芯成分に少なくとも1種以上の着色剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性農業用シート。
【請求項5】
前記不織布Aまたは不織布Bいずれか一方の貼り合わせ面に接着剤を塗布し、もう一方の不織布を貼り合わせた後に、80〜120℃の温度で乾燥し一体化することを特徴とする生分解性農業用シートの製造方法。
【請求項6】
80〜120℃の温度のエンボスロールまたはカレンダーロールでそれぞれ仮圧着した前記不織布Aと前記不織布Bを積層した後に、エンボスロールにより部分的に熱圧着し一体化することを特徴とする生分解性農業用シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の生分解性農業用シートを、前記不織布Aが上面になるように地面に敷設することを特徴とする果実の栽培方法。

【公開番号】特開2010−46009(P2010−46009A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212509(P2008−212509)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】