説明

生化学試験デバイスおよび生化学試験方法

【課題】マイクロ流体を利用した生化学試験デバイスにおいて、反応効率をより高めた生化学試験デバイスを提供する。
【解決手段】固液反応によって流路高さ方向で生化学物質AGの濃度分布が生じた試験液をそのまま微細流路MTを往復させるのではなく、試験液が復路に与えられる際には濃度の高い側が固液反応部近傍を通るように試験液を反転させて濃度分布を反転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生化学試験デバイスおよび生化学試験方法に関し、特に、マイクロ流体を利用した生化学試験デバイスおよび当該生化学試験デバイスを用いた試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細流路中に生化学物質との反応を行う反応物質が固定された反応部を設け、微細流路に検出対象となる生化学物質を含んだ試験液を流すことで、反応部で当該生化学物質を反応させて検出を行う方法が、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
この方法は、層流を利用することで、反応部と生化学物質との会合確率を高めて、測定時間の短縮を図ることができるという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−203158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、層流を利用することで効率的な反応を期待できるものの、反応部から遠い位置に存在する生化学物質は反応しにくいという問題がある。
【0006】
特許文献1では、流路内の対向する壁面にそれぞれ反応部を設けるなどして、反応効率を高める工夫が開示されている。
【0007】
本発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、マイクロ流体を利用した生化学試験デバイスにおいて、反応効率をより高めた生化学試験デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る生化学試験デバイスの第1の態様は、生化学物質が含まれた試験液を流す微細流路と、前記微細流路の内壁面近傍に設けられ、前記生化学物質との反応を行う反応物質が固定された反応部と、前記反応部との反応により前記微細流路の断面高さ方向において前記生化学物質の濃度分布が生じた状態の反応後試験液を、前記濃度分布を反転させた状態で再び前記反応部に導く反転手段とを備えている。
【0009】
本発明に係る生化学試験デバイスの第2の態様は、前記反転手段が、前記微細流路から前記断面高さ方向に分岐して設けられ、前記生化学物質の濃度分布が生じた状態の反応後試験液を前記微細流路から待避させる待避部を有し、前記微細流路が、前記反応後試験液を前記待避部から取り出して保持可能な保持部を有し、前記反応後試験液が、前記待避部から取り出されて前記保持部に一旦保持され、取り出した側とは反対側の前記反応後試験液の端部を先頭として前記反応部に導かれる。
【0010】
本発明に係る生化学試験デバイスの第3の態様は、前記反転手段が、前記微細流路に対して前記断面高さ方向に設けられ、前記微細流路から前記反応後試験液を受けて回転させ、前記微細流路に戻すループ経路を有している。
【0011】
本発明に係る生化学試験デバイスの第4の態様は、前記反転手段が、前記微細流路を幅方向に分岐して設けられた第1および第2の分岐微細流路と、前記第1および第2の分岐微細流路が合流する合流部とを有し、前記第2の分岐微細流路は、その経路中に、その断面高さ方向に分岐した後、上下を入れ替えて合流するように設けられた第1および第2の反転微細流路を有し、前記反応後試験液が、前記第1の分岐微細流路および前記合流部を介して前記第2の分岐微細流路に導かれ、前記第1および第2の反転微細流路を介して前記反応部に導かれる。
【0012】
本発明に係る生化学試験デバイスの第5の態様は、前記試験液が、その粘度および密度を固定した場合に、前記微細流路内で層流となるように流速および前記微細流路の断面高さが設定される。
【0013】
本発明に係る生化学試験デバイスの第6の態様は、前記生化学物質が血液中に存在する抗原であって、前記反応物質は抗原に対して特異的に反応する抗体であり、前記反応部での反応は、前記抗原と前記抗体との免疫反応である。
【0014】
本発明に係る生化学試験方法の第1の態様は、生化学物質が含まれた試験液を、前記生化学物質との反応を行う反応物質が固定された反応部が内壁面近傍に設けられた微細流路に流して、前記生化学物質を前記反応部と反応させて前記生化学物質を検出する生化学試験方法であって、前記試験液を前記微細流路中に流すことで前記反応部との反応により前記微細流路の断面高さ方向において前記生化学物質の濃度分布が生じた状態の反応後試験液を得た後、前記反応後試験液を前記濃度分布を反転させた状態で再び前記反応部に導く。
【0015】
本発明に係る生化学試験方法の第2の態様は、前記試験液が、その粘度および密度を固定した場合に、前記微細流路内で層流となるように流速および前記微細流路の断面高さが設定される。
【0016】
本発明に係る生化学試験方法の第3の態様は、前記生化学物質が血液中に存在する抗原であって、前記反応物質は抗原に対して特異的に反応する抗体であり、前記反応部での反応は、前記抗原と前記抗体との免疫反応である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る生化学試験デバイスの第1の態様によれば、反応部との反応により微細流路の断面高さ方向において生化学物質の濃度分布が生じた状態の反応後試験液を、濃度分布を反転させた状態で再び反応部に導くので、反応後試験液のうち、生化学物質の濃度が高い側を反応部と反応させることができ、反応部での反応効率を高めることができる。
【0018】
本発明に係る生化学試験デバイスの第2の態様によれば、比較的簡単な構成によって反転手段を実現することができる。
【0019】
本発明に係る生化学試験デバイスの第3の態様によれば、比較的簡単な構成によって反転手段を実現することができる。
【0020】
本発明に係る生化学試験デバイスの第4の態様によれば、第1および第2の反転微細流路によって反応後試験液の上下関係を反転させて濃度分布を反転させるので、デバイスの高さを軽減することができる。
【0021】
本発明に係る生化学試験デバイスの第5の態様によれば、試験液が層流となるので、一旦、生化学物質の濃度分布が生じると、その状態を維持するが、反転手段の存在により濃度分布を反転させた状態で再び反応部に導くことができるので、反応部での反応効率を高めることができる。
【0022】
本発明に係る生化学試験デバイスの第6の態様によれば、血液中に存在する抗原の免疫反応を調べることができる。
【0023】
本発明に係る生化学試験方法の第1の態様によれば、反応後試験液を得た後、反応後試験液を前記濃度分布を反転させた状態で再び前記反応部に導くので、反応後試験液のうち、生化学物質の濃度が高い側を反応部と反応させることができ、反応部での反応効率を高めることができる。
【0024】
本発明に係る生化学試験方法の第2の態様によれば、試験液が層流となるので、一旦、生化学物質の濃度分布が生じると、その状態を維持するが、反転手段の存在により濃度分布を反転させた状態で再び反応部に導くことができるので、反応部での反応効率を高めることができる。
【0025】
本発明に係る生化学試験方法の第3の態様によれば、血液中に存在する抗原の免疫反応を調べることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】層流を利用して反応効率を高める方法の問題点を説明する図である。
【図2】試験液を微細流路を往復させて反応効率を高める方法を模式的に示す図である。
【図3】本発明に係る生化学試験デバイスの技術的思想を模式的に示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスにおける試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスにおける試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図6】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスにおける試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスにおける試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図8】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスを上方から見た平面図である。
【図9】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスに外付けのバルブを取り付けた構成を示す図である。
【図10】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスの変形例における試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図11】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスの変形例における試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図12】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスの変形例における試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図13】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスの変形例における試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図14】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスの変形例における試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図15】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスの変形例における試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図16】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスの変形例における試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図17】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスの変形例における試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図18】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスの変形例における試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図19】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスの変形例における試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図20】本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスの変形例における試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図21】本発明に係る実施の形態2の生化学試験デバイスにおける試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図22】本発明に係る実施の形態2の生化学試験デバイスにおける試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図23】本発明に係る実施の形態2の生化学試験デバイスにおける試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図24】本発明に係る実施の形態2の生化学試験デバイスにおける流路中の逆止弁の構成を示す図である。
【図25】本発明に係る実施の形態3の生化学試験デバイスにおける試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図26】本発明に係る実施の形態3の生化学試験デバイスにおける試験液の反転動作を時系列に示す図である。
【図27】本発明に係る実施の形態3の生化学試験デバイスの断面図である。
【図28】本発明に係る実施の形態3の生化学試験デバイスの分岐部分の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<はじめに>
発明の理解を高めるために、まず、層流を利用して反応効率を高める方法の問題点について解説する。
【0028】
図1は、微細流路MT中に生化学物質(抗原)との反応を行う反応物質が固定された固液反応部RAを設け、微細流路MTに検出対象となる生化学物質AGを含んだ試験液を流した状態を示している。
【0029】
図1において、試験液の流れる方向を矢印で示しており、試験液中に拡散した生化学物質AGが試験液とともに微細流路MT中を流れ、固液反応部RA近傍に存在する生化学物質AGは固液反応部RAと反応して反応済み生化学物質RAGとなる。
【0030】
このように、生化学物質AGは固液反応部RAの固相化面近傍でしか反応しないので、微細流路MTの下部に固液反応部RAを設けた場合は、微細流路MTの上部を流れる生化学物質AGは、反応に寄与せず微細流路MT中を流れて行くだけとなり、反応効率が悪い。
【0031】
そこで、未反応の生化学物質AGを再度微細流路MT中に流すことで反応効率を高める方法が考えられるが、この場合も、以下のような問題を含んでいる。
【0032】
図2は、試験液を微細流路MTを往復させて反応効率を高める方法を模式的に示す図であり、往路の状態を上側に、復路の状態を下側に示している。図2においては、試験液の流れる方向を矢印で示している。
【0033】
一般に、このような装置では検出対象物質を反応部にできるだけ近づけて反応効率を上げるために、微細流路MTの深さ(高さ)は送液に支障を及ぼさない範囲でできるだけ浅いことが望ましく、概ね、1mm以下とされる。
【0034】
また、送液する試験液の流速は、流路内の送液圧力が過度に上昇するのを防ぐために、数十mm/sec以下に抑えられる。
【0035】
このような系においては、レイノルズ数が低いために、流れが層流となり、試験液を往復させても、液体が殆ど混合されないという特性を有している。従って、図2に示すように、微細流路MT中を試験液を往復させても、往路において流路の上部を流れる生化学物質AGは、復路においても流路の上部を流れることとなり、これは、何度往復させても同じこととなるので、流路の上部においては生化学物質AGの濃度が高い状態が維持される。同様に、流路の下部を流れる生化学物質AGは、復路においても流路の下部を流れるので、往復するごとに生化学物質AGが固液反応部RAと反応し、流路の下部では生化学物質AGの濃度が減少することとなり、なおさらに反応効率が低下する。
【0036】
レイノルズ数(Re)は、流体力学の分野では一般的な無次元の指標値であり、Re=ρ・v・d/ηで計算される。ここで、ρは流体の密度であり、vは流速、dは流路の断面寸法(直径や、流路高さ)、ηは流体の粘度である。
【0037】
レイノルズ数の値が2000を超えると乱流が発生し始めるが、それ以下では流体の流れは層流になることが知られている。例えば、溶媒が水であって、流路の断面寸法、流速が上述の範囲にある場合、レイノルズ数は100以下となり、試験液の流れは層流となり、特別な工夫を講じない限り、反応効率を高めることができないという問題があった。
【0038】
<発明の技術的思想>
図3は、本発明に係る生化学試験デバイスの技術的思想を模式的に示す図であり、試験液を微細流路MTを往復させるという点では、図2に示した方法と同様であるが、本発明では、固液反応によって流路高さ方向で生化学物質AGの濃度分布が生じた試験液をそのまま微細流路MTを往復させるのではなく、濃度分布を反転させて微細流路MTに与えるという技術的思想に基づいている。
【0039】
すなわち、図3に示すように、往路においては微細流路MTの上側の生化学物質AGは殆ど反応することなく固液反応部上を通過するが、試験液が復路に与えられる際には濃度の高い側が固液反応部近傍を通るように試験液を反転させて濃度分布を反転させる構成を採っている。
【0040】
このような構成を採ることで、固液反応部には、生化学物質AGの濃度が常に高い状態で接触することとなり、生化学物質AGの濃度分布を均一にした試験液を微細流路MTに与える場合より、反応効率をより高めることが可能となる。
【0041】
以上説明した技術的思想に基づく発明の実施の形態について以下に説明する。
【0042】
<実施の形態1>
本発明に係る実施の形態1の生化学試験デバイスの構成および動作について、図4〜図9を用いて説明する。
【0043】
図4〜図6は、実施の形態1に係る生化学試験デバイス100の微細流路に沿った方向の断面形状を表すとともに、試験液の反転動作を時系列に示している。
【0044】
図4に示すように生化学試験デバイス100は、ブロック状の本体部10内に設けられた直線状に延在する微細流路11と、微細流路11に流す試験液EXを貯留する貯留部12と、微細流路11に対して空気の注入および排出を行う注入排出口14および15と、微細流路11内にその反応面が露出するように設けられた固液反応部17と、検査後の試験液を貯留する廃液溜め13とを備えている。
【0045】
本体部10は、ポリカーボネートやポリプロピレン等の樹脂を用いて構成され、切削加工や射出成形によって形成することができる。
【0046】
なお、微細流路11は、幅1〜3mm、高さ数十μm〜1mm程度であるがこれに限定されるものではない。また、流路長には特に制限はないが、流路の条件(サイズ等)によって層流となる場合には、本発明がより有効に働き、大きな効果をもたらす。
【0047】
貯留部12は微細流路11の一方の端部に連通するように設けられ、注入排出口14は微細流路11の中央部付近に連通するように設けられ、微細流路11の他方の端部は廃液溜め13に連通し、注入排出口15は廃液溜め13に連通するように設けられている。固液反応部17は、微細流路11の貯留部12および注入排出口14がそれぞれ連通する部分の中間位置に設けられている。
【0048】
また、貯留部12、注入排出口14および15には、それぞれバルブ121、141および151によって空気の出入りが規制可能な構成となっている。
【0049】
貯留部12は、試験液EXの規定量以上の容積を有しており、試験に際しては、まず貯留部12に規定量の試験液EXを注入する。
【0050】
この段階では、バルブ141および151は閉じられており、注入排出口14および15を介しての空気の出入りが規制されているので、試験液EXを貯留部12に注入しても、試験液EXは貯留部12の近傍に留まっており、試験液EXが微細流路11の全体に広がることはない。
【0051】
次に、図5に示すようにバルブ141を開き、注入排出口14を介して微細流路11内の空気を吸引すると、貯留部12から試験液EXが吸い出され、微細流路11を通って注入排出口14(待避部)内に移動する。このとき、試験液EXが注入排出口14内に溜まるように吸引力の調整を行うことが必要である。なお、吸引は、生化学試験デバイス100外部に設けたポンプにバルブ141を接続して行えば良い。
【0052】
ここで、微細流路11内において固液反応部17の近傍を通った試験液EXの下側においては、その内部に拡散する生化学物質が固液反応部17と反応して、生化学物質の濃度が低くなる。これを試験液EX2と呼称する。なお、試験液EXの上側は、その内部に拡散する生化学物質の濃度が殆ど変化しない。これを試験液EX1と呼称する。試験液EX1およびEX2は、層流として送液され、層状態を維持して注入排出口14内に溜まっている。
【0053】
この状態で、図6に示すようにバルブ121を閉じ、バルブ151を開いて、注入排出口15を介して微細流路11内の空気を吸引すると、注入排出口14から試験液EX1およびEX2が吸い出され、注入排出口15側の微細流路11内に移動する。このとき、試験液EX1およびEX2が、廃液溜め13にまでは達しないように吸引力の調整を行うことが必要である。なお、吸引は、生化学試験デバイス100外部に設けたポンプにバルブ151を接続して行えば良い。
【0054】
ここで、注入排出口15側の微細流路11は試験液を保持できるだけの容積を有しており、試験液の一時的な保持部として機能する。
【0055】
この動作により、試験液EX1が微細流路11の下側に位置し、試験液EX2が微細流路11の上側に位置することとなり、微細流路11内での試験液EX1とEX2との上下関係が反転する。
【0056】
次に、図7に示すように、バルブ141を閉じ、バルブ121を開いて、バルブ151から空気を注入することで微細流路11内を試験液EX1およびEX2が貯留部12方向に移動し、貯留部12に逆流することとなる。なお、貯留部12の容量は試験液の規定量以上に設定されているので、逆流した試験液が貯留部12から溢れ出ることはない。
【0057】
このときに試験液EX1が固液反応部17の近傍を通ることとなる。この結果、試験液EX1中の生化学物質が固液反応部17と反応し、生化学物質の濃度が低くなる。
【0058】
このように、生化学試験デバイス100では、試験液EXを固液反応部17と反応させた後、一旦、注入排出口14内に収容し、その後、固液反応部17が設けられていない微細流路11に導入することで、生化学物質の濃度が低くなった試験液EX2と、生化学物質の濃度が維持されている試験液EX1との微細流路11内での上下関係を反転させ、再び、固液反応部17が設けられた微細流路11に導く構成を採っているので、結果として反応効率が高まることとなる。
【0059】
なお、上述した試験液EXは、例えば生体から採取された血液を遠心分離して得られた血漿であり、試験液EXに含まれる生化学物質は血液中に存在する各種の抗原である。また、固液反応部17を構成する反応物質は、上記抗原に対して特異的に反応し得る抗体である。
【0060】
試験液EXの往復送液処理が終了した後は、バルブ141を閉じた状態で、注入排出口15を介して微細流路11内の空気を吸引することで廃液溜め13に試験液EXを廃棄する。このとき、試験液EXが廃液溜め13に達するように吸引力の調整を行うことは言うまでもない。なお、廃液溜め13には試験液EXを吸収する吸収材19が配置されているので、廃棄された試験液EXが漏れることはない。
【0061】
なお、廃液溜め13は必須の構成ではなく、検査後の試験液EXは、外部から吸引する構成としても良い。
【0062】
また、検査済みの試験液EXを廃棄した後は、貯留部12に所定の洗浄液を溜め、試験液EXの廃棄処理の要領で微細流路11内に吸引送液し、固液反応部17に残った未反応の抗原を除去する。洗浄後は、洗浄液を廃液溜め13に廃棄する。
【0063】
その後、固液反応部17の固相化面の光学的特性の変化を外部から検出することで、抗原と抗体との免疫反応を測定する。このための検出には、光学機器を使っても良いし、肉眼による目視でも良い。本体部10の材質を透明な樹脂等で構成すれば、外部からの観察は容易である。
【0064】
また、光学機器を使用する場合は、生化学試験デバイス100を試験システムから取り外して専用の光学機器に取り付けて検出しても良いし、試験システムに当該光学機器を組み込んでも良い。
【0065】
また、光学的な検出を補助するためのレンズ、導波路およびプリズム等を生化学試験デバイス100内に組み込んだ構成としても良いし試験システムに設けても良い。
【0066】
また、検出効率を上げるために、蛍光体などの標識物質を用いても良いし、固定化された抗体(固相抗体)と抗原との免疫反応の場合は、別途、試験物質である抗原に対して特異的に反応し得る標識用の抗体(標識抗体)を蛍光体で予め修飾したものを用いても良い。この場合、固相抗体と反応して固液反応部17に補足された抗原に対して、上記標識抗体が含まれる溶液を送液することで、固液反応部17に補足された抗原に対して蛍光体で標識を付けることができる。
【0067】
また、予め蛍光体を修飾させた標識抗体を検出対象である抗原と反応させて蛍光標識とした複合体を生成し、当該複合体を生化学試験デバイス100中に流すことで、固相抗体と抗原との反応を検出しやすくすることもできる。
【0068】
<試験システム>
図4等に示した生化学試験デバイス100においては、バルブ121、141および151は本体部10内に組み込まれるように示したが、これに限定されるものではなく、それぞれ、貯留部12、注入排出口14および15に接続された導入パイプに取り付ける構成としても良い。
【0069】
図8は、生化学試験デバイス100を貯留部12、注入排出口14および15が設けられた側の上方から見た平面図であり、微細流路11に沿って貯留部12、注入排出口14および15が設けられている。なお、便宜的に廃液溜め13を設けない構成としている。
【0070】
生化学試験デバイス100には、微細流路11に連通する貯留部12、注入排出口14および15が形成されている。
【0071】
図9には、貯留部12、注入排出口14および15のそれぞれにパイプP12、14および15が接続され、パイプP12、14および15のそれぞれに、バルブ121、141および151が取り付けられた構成を示している。
【0072】
パイプP12、14および15は、貯留部12、注入排出口14および15と着脱可能に構成されており、少なくともパイプP14およびP15は、空気の注入、排気が可能なポンプ等に接続されている。
【0073】
このような、バルブ121、141および151を含むパイプP12、14および15や、空気の注入、排気のためのポンプ等を含めて試験システムが構成される。
【0074】
なお、当該試験システムには、先に説明した免疫反応を測定するための光学機器を備える場合もある。
【0075】
<変形例>
以上説明したように、生化学試験デバイス100は、試験液EXを固液反応部17と反応させた後、一旦、注入排出口14内に収容し、その後、固液反応部17が設けられていない微細流路11に導入することで、生化学物質の濃度が低くなった試験液EX2と、生化学物質の濃度が維持されている試験液EX1との微細流路11内での上下関係を反転させ、再び、固液反応部17が設けられた微細流路11に導く構成を採っている。このような試験液の動きをスイッチバックと呼称するが、スイッチバックを繰り返すことで、さらに、反応効率を高めることも可能である。
【0076】
図10にはスイッチバックを2回行うことが可能な生化学試験デバイス100Aの微細流路に沿った方向の断面形状を表している。
【0077】
図10に示すように生化学試験デバイス100Aは、ブロック状の本体部10内に設けられた直線状に延在する微細流路21と、微細流路21に流す試験液EXを貯留する貯留部22と、微細流路21に対して空気の注入および排出を行う注入排出口24、25および26(待避部)と、微細流路21内にその反応面が露出するように設けられた固液反応部27とを備えている。
【0078】
なお、微細流路21は、幅1〜3mm、高さ数十μm〜1mm程度であるがこれに限定されるものではない。また、流路長には特に制限はないが、流路の条件(サイズ等)によって層流となる場合には、本発明がより有効に働き、大きな効果をもたらす。
【0079】
貯留部22は微細流路21の一方の端部に連通するように設けられ、注入排出口24〜26は、ほぼ等間隔で微細流路21に連通するように設けられ、注入排出口26は、微細流路21の他方の端部に連通するように設けられている。
【0080】
固液反応部27は、微細流路21の注入排出口24および25がそれぞれ連通する部分の中間位置に設けられている。
【0081】
また、貯留部22、注入排出口24〜26には、それぞれバルブ221、241、251および261によって空気の出入りが規制可能な構成となっている。
【0082】
貯留部22は、試験液EXの規定量以上の容積を有しており、試験に際しては、まず貯留部22に規定量の試験液EXを注入する。
【0083】
この段階では、バルブ241〜261は閉じられており、注入排出口24〜26を介しての空気の出入りが規制されているので、試験液EXを貯留部22に注入しても、試験液EXは貯留部22の近傍に留まっており、試験液EXが微細流路21の全体に広がることはない。
【0084】
図11〜図17は、生化学試験デバイス100Aの微細流路に沿った方向の断面形状を表すとともに、試験液の反転動作を時系列に示している。
【0085】
図11に示すようにバルブ251を開き、注入排出口25を介して微細流路21内の空気を吸引すると、貯留部22から試験液EXが吸い出され、微細流路21を通って注入排出口25内に移動する。このとき、試験液EXが注入排出口25内に溜まるように吸引力の調整を行うことが必要である。なお、吸引は、生化学試験デバイス100A外部に設けたポンプにバルブ251を接続して行えば良い。
【0086】
ここで、微細流路21内において固液反応部27の近傍を通った試験液EXの下側は、その内部に拡散する生化学物質が固液反応部17と反応して、生化学物質の濃度が低くなる。これを試験液EX2と呼称する。なお、試験液EXの上側は、その内部に拡散する生化学物質の濃度が殆ど変化しない。これを試験液EX1と呼称する。試験液EX1およびEX2は層流として送液され、層状態を維持して注入排出口25内に溜まっている。
【0087】
この状態で、図12に示すようにバルブ221を閉じ、バルブ261を開いて、注入排出口26を介して微細流路21内の空気を吸引すると、注入排出口25から試験液EX1およびEX2が吸い出され、注入排出口26側の微細流路21を通って注入排出口26内に移動する(図13)。なお、吸引は、生化学試験デバイス100A外部に設けたポンプにバルブ261を接続して行えば良い。
【0088】
ここで、試験液を注入排出口26内に保持するのではなく、注入排出口25と26との間の微細流路21が試験液を保持できるだけの容積を有しているのであればそこに保持しても良く、試験液の一時的な保持部として機能する。
【0089】
この動作により、試験液EX1が微細流路21の下側に位置し、試験液EX2が微細流路21の上側に位置することとなり、微細流路21内での試験液EX1とEX2との上下関係が反転する。
【0090】
次に、図14に示すように、バルブ251を閉じ、バルブ241を開いて注入排出口24を介して微細流路21内の空気を吸引すると、注入排出口26から試験液EX1およびEX2が吸い出され、微細流路21を通って注入排出口24内に移動する。
【0091】
このときに試験液EX1が固液反応部27の近傍を通ることとなり、試験液EX1中の生化学物質が固液反応部17と反応して、生化学物質の濃度が低くなる。これを試験液EX3と呼称する。
【0092】
次に、図15に示すように、バルブ261を閉じ、バルブ221を開いて貯留部22を介して微細流路21内の空気を吸引すると、注入排出口24から試験液EX2およびEX3が吸い出され、貯留部22側の微細流路21に移動する。このとき、試験液EX2およびEX3が微細流路21内に溜まるように吸引力の調整を行うことが必要である。
【0093】
ここで、貯留部22側の微細流路21は試験液を保持できるだけの容積を有しており、試験液の一時的な保持部として機能する。
【0094】
この動作により、試験液EX2が微細流路21の下側に位置し、試験液EX3が微細流路21の上側に位置することとなり、微細流路21内での試験液EX2とEX3との上下関係が反転する。
【0095】
次に、図16に示すように、バルブ251を開き、注入排出口25を介して微細流路21内の空気を吸引すると、微細流路21内の試験液EX2およびEX3が吸い出され、注入排出口25内に移動する。
【0096】
このときに試験液EX2が固液反応部27の近傍を通ることとなり、試験液EX2中の生化学物質が固液反応部17と反応し、生化学物質の濃度がさらに低くなる。これを試験液EX4と呼称する。
【0097】
この状態で、図18に示すようにバルブ221を閉じ、バルブ261を開いて、注入排出口26を介して微細流路21内の空気を吸引すると、注入排出口25から試験液EX3およびEX4が吸い出され、注入排出口26側の微細流路21を通って注入排出口26内に移動する(図19)。
【0098】
この動作により、試験液EX3が微細流路21の下側に位置し、試験液EX4が微細流路21の上側に位置することとなり、微細流路21内での試験液EX3とEX4との上下関係が反転する。
【0099】
次に、図20に示すように、バルブ251を閉じ、バルブ241を開いて注入排出口24を介して微細流路21内の空気を吸引すると、注入排出口26から試験液EX3およびEX4が吸い出され、微細流路21を通って注入排出口24内に移動する。
【0100】
このときに試験液EX3が固液反応部27の近傍を通ることとなり、試験液EX3中の生化学物質が固液反応部17と反応して、生化学物質の濃度がさらに低くなる。これを試験液EX5と呼称する。
【0101】
以上説明したように、生化学試験デバイス100Aを用いることで、試験液のスイッチバックを2回繰り返すことが可能となり、反応効率をさらに高めることが可能となる。
【0102】
なお、注入排出口24内の試験液EX4およびEX5を注入排出口24から吸引して廃棄した後は、微細流路21内を洗浄し、固液反応部17の固相化面の光学的特性の変化を外部から検出する。
【0103】
<実施の形態2>
以上説明した実施の形態1の生化学試験デバイス100および100Aでは、試験液をスイッチバックさせることで、微細流路内での層流の上下関係を反転させる構成を有していたが、以下に説明する実施の形態2の生化学試験デバイス200では、試験液を回転させることで、微細流路内での層流の上下関係を反転させる構成を有している。
【0104】
本発明に係る実施の形態2の生化学試験デバイスの構成および動作について、図21〜図23を用いて説明する。
【0105】
図21〜図23は、実施の形態2に係る生化学試験デバイス200の微細流路に沿った方1向の断面形状を表すとともに、試験液の反転動作を時系列に示している。
【0106】
図21に示すように生化学試験デバイス200は、ブロック状の本体部30内に設けられた直線状に延在する微細流路31と、微細流路31に流す試験液EXを貯留するとともに、微細流路32に対して空気の注入および排出を行う貯留部32と、微細流路31に流れる試験液EXを回転させて微細流路31に戻すためのループを構成するループ経路33、34および35と、微細流路31内にその反応面が露出するように設けられた固液反応部37とを備えている。
【0107】
本体部30は、ポリカーボネートやポロプロピレン等の樹脂を用いて構成され、切削加工や射出成形によって形成することができる。
【0108】
なお、微細流路31は、幅1〜3mm、高さ数十μm〜1mm程度であるがこれに限定されるものではない。また、流路長には特に制限はないが、流路の条件(サイズ等)によって層流となる場合には、本発明がより有効に働き、大きな効果をもたらす。
【0109】
貯留部32は微細流路31の一方の端部に連通するように設けられ、ループ経路34は微細流路31の中央部付近に連通するように微細流路31に対して垂直に設けられたホール状の経路であり、ループ経路35は微細流路31の他方の端部に連通するように微細流路31に対して垂直に設けられたホール状の経路である。
【0110】
また、ループ経路33は、ループ経路34および35の端部間に渡り、両者に連通するように設けられた溝状の経路であり、ループ経路33の上部をカバーで覆うことで、微細流路31、ループ経路33〜35によってループが形成されることとなる。
【0111】
固液反応部37は、微細流路31の貯留部32およびループ経路34がそれぞれ連通する部分の中間位置に設けられている。
【0112】
また、ループ経路33と、微細流路31のうちループを構成する部分には、それぞれ逆止弁331および311が設けられている。
【0113】
試験に際しては、まず、貯留部32に規定量の試験液EXを注入し、図18に示すように貯留部32を介して空気を注入することで、試験液EXを微細流路31に移動させる。
【0114】
空気とともに微細流路31に送り込まれた試験液EXのうち、固液反応部37の近傍を通った試験液EXの下側は、その内部に拡散する生化学物質が固液反応部37と反応して、生化学物質の濃度が低くなる。これを試験液EX2と呼称する。なお、試験液EXの上側は、その内部に拡散する生化学物質の濃度が殆ど変化しない。これを試験液EX1と呼称する。
【0115】
試験液EX1およびEX2は、層流として送液され、層状態を維持して逆止弁311を通過し、図22に示すようにループ経路35内に移動する。逆止弁311は、貯留部32側からの送液の圧力によって開くように構成され、貯留部32側からの送液が止まった後は、試験液EX1およびEX2を逆流させることはない。
【0116】
なお、貯留部32にはバルブ(図示せず)を接続し、生化学試験デバイス200外部に設けたポンプから当該バルブを介して空気を送り込むようにすれば良い。
【0117】
次に、図23に示すように貯留部32を介して微細流路31内の空気を吸引すると、逆止弁331が開き、ループ経路35から試験液EX1およびEX2が吸い出され、ループ経路33および34を通って、再び微細流路31内に導かれる。逆止弁331は、貯留部32側からの吸引力によって開くように構成され、貯留部32側からの吸引が止まった後は、再び閉じる。
【0118】
この動作により、試験液EX1が微細流路31の下側に位置し、試験液EX2が微細流路31の上側に位置することとなり、微細流路31内での試験液EX1とEX2との上下関係が反転する。
【0119】
このときに試験液EX1が固液反応部37の近傍を通ることとなり、試験液EX1中の生化学物質が固液反応部37と反応して生化学物質の濃度が低くなる。
【0120】
以上説明したように、生化学試験デバイス200においては、一旦、固液反応部37に反応させた試験液をループ内で回転させて再び微細流路31に戻す構成を採るので、試験液EX1とEX2との上下関係を反転させて再び固液反応部37と反応させることができ、反応効率を高めることが可能となる。
【0121】
図24には、図21における領域Aを詳細に示しており、逆止弁311および331の構成を示している。逆止弁311および331は、一方向からの力を受けた場合にのみ開く可撓性を有する構成となっており、反対側からの力を受けた場合は、弁が壁面に接触して開かない構成となっている。
【0122】
<実施の形態3>
以上説明した実施の形態1および2においては、試験液をスイッチバックさせる、あるいはループさせることで、微細流路内での層流の上下関係を反転させる構成を有していたが、以下に説明する実施の形態3の生化学試験デバイス300では、試験液の層を分離して入れ替える構成を有している。
【0123】
本発明に係る実施の形態3の生化学試験デバイスの構成および動作について、図25〜図28を用いて説明する。
【0124】
図25および図26は、実施の形態3に係る生化学試験デバイス300を上方から見た場合の微細流路の形状を表すとともに、試験液の流れを示す図である。なお、図25および図26においては、簡略化のため上方から見て妨げになる構成は省略している。
【0125】
図25に示すように生化学試験デバイス300においては、ブロック状の本体部40内にループを有するループ状微細流路LTを有している。
【0126】
ループ状微細流路LTは、ループ状微細流路LTに流す試験液を貯留するとともに、ループ状微細流路LTに対して空気の注入および排出を行う貯留部45と、ループ状微細流路LTに対して空気の注入および排出を行う注入排出口46と、微細流路41内にその反応面が露出するように設けられた固液反応部47とを備えている。
【0127】
ループ状微細流路LTは、直線状の微細流路41と、微細流路41から分岐した微細流路42および43(第1および第2の微細流路)と、微細流路42および43が合流する直線状の微細流路44(合流部)とを有している。
【0128】
微細流路43は、その中央部から微細流路43aおよび43b(第1および第2の反転微細流路)が分岐し、再び微細流路43に合流する構成となっている。
【0129】
微細流路41の一方の端部には、貯留部45が連通するように設けられ、微細流路44の一方の端部には、注入排出口46が連通するように設けられている。
【0130】
また、微細流路42には微細流路44の近傍において逆止弁421が設けられ、微細流路43には微細流路41の近傍において逆止弁431が設けられている。
【0131】
試験に際しては、まず、貯留部45に規定量の試験液を注入し、図25に示すように貯留部45を介して空気を注入することで、試験液を微細流路41および42を介して、微細流路44に移動させる。
【0132】
空気とともに微細流路41に送り込まれた試験液のうち、固液反応部47の近傍を通った試験液の下側は、その内部に拡散する生化学物質が固液反応部47と反応して、生化学物質の濃度が低くなる。なお、試験液の上側は、その内部に拡散する生化学物質の濃度が殆ど変化しない。
【0133】
試験液は、層流として送液され、層状態を維持して逆止弁421を通過し、微細流路44内に移動する。逆止弁421は、貯留部45側からの送液の圧力によって開くように構成され、貯留部45側からの送液が止まった後は、試験液を逆流させることはない。
【0134】
なお、貯留部45にはバルブ(図示せず)を接続し、生化学試験デバイス300外部に設けたポンプから当該バルブを介して空気を送り込むようにすれば良い。
【0135】
次に、貯留部45を介してループ状微細流路LT内の空気を吸引すると、逆止弁431が開き、微細流路44から試験液が吸い出され、微細流路43を通って、再び微細流路41内に導かれる(図26)。逆止弁431は、貯留部45側からの吸引力によって開くように構成され、貯留部45側からの吸引が止まった後は、再び閉じる。
【0136】
図27には、図25に示すB−B線での生化学試験デバイス300の断面図を示す。
【0137】
次に、微細流路43aおよび43bの構成および機能について、図26に示す領域Cの側面図を示す図28を用いて説明する。なお、図28においては試験液の流れを矢印によって示しており、図に向かって左側から右側に向けて試験液が流れるものとして説明する。
【0138】
図28に示すように、微細流路43には、微細流路43aおよび43bとの分岐部分および合流部分において、層流状態の試験液を分離する仕切板DPが配置されている。
【0139】
仕切板DPは、微細流路43の高さ方向の中央部分に設けられ、試験液を上側の層流と下側の層流とに分割することができる。
【0140】
すなわち、固液反応部47との反応によって生化学物質の濃度が低くなった下側の層流と、生化学物質の濃度が高い状態の上側の層流とが仕切板DPによって分割され、下側の層流は微細流路43aに導かれ、上側の層流は微細流路43bに導かれる。
【0141】
そして、微細流路43aは微細流路43と合流する部分において微細流路43の上側に接続され、微細流路43bは微細流路43と合流する部分において微細流路43の下側に接続されているため、試験液の上側の層流と下側の層流との上下関係が反転する。
【0142】
この結果、試験液が再び微細流路41内に導かれて固液反応部47と反応する場合には、生化学物質の濃度が高い方の層流が固液反応部37の近傍を通ることとなり、その中の生化学物質が固液反応部37と反応して生化学物質の濃度が低くなる。
【0143】
以上説明したように、生化学試験デバイス300においては、一旦、固液反応部47に接触させた試験液を上下に分離して上下を反転させて再び固液反応部47に反応させるので、反応効率を高めることが可能となる。
【0144】
なお、以上説明した実施の形態1〜3では、固液反応部は、何れも微細流路の下側に設ける例を示したが、微細流路の上側に設けた場合であっても本発明は有効である。
【符号の説明】
【0145】
11,21,31,41 微細流路
17,27,37,47 固液反応部
14,24,25,26 注入排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生化学物質が含まれた試験液を流す微細流路と、
前記微細流路の内壁面近傍に設けられ、前記生化学物質との反応を行う反応物質が固定された反応部と、
前記反応部との反応により前記微細流路の断面高さ方向において前記生化学物質の濃度分布が生じた状態の反応後試験液を、前記濃度分布を反転させた状態で再び前記反応部に導く反転手段と、を備える、生化学試験デバイス。
【請求項2】
前記反転手段は、
前記微細流路から前記断面高さ方向に分岐して設けられ、前記生化学物質の濃度分布が生じた状態の反応後試験液を前記微細流路から待避させる待避部を有し、
前記微細流路は、
前記反応後試験液を前記待避部から取り出して保持可能な保持部を有し、
前記反応後試験液は、
前記待避部から取り出されて前記保持部に一旦保持され、取り出した側とは反対側の前記反応後試験液の端部を先頭として前記反応部に導かれる、請求項1記載の生化学試験デバイス。
【請求項3】
前記反転手段は、
前記微細流路に対して前記断面高さ方向に設けられ、前記微細流路から前記反応後試験液を受けて回転させ、前記微細流路に戻すループ経路を有する、請求項1記載の生化学試験デバイス。
【請求項4】
前記反転手段は、
前記微細流路を幅方向に分岐して設けられた第1および第2の分岐微細流路と、
前記第1および第2の分岐微細流路が合流する合流部とを有し、
前記第2の分岐微細流路は、その経路中に、その断面高さ方向において分岐され、上下を入れ替えて合流するように設けられた第1および第2の反転微細流路を有し、
前記反応後試験液は、
前記第1の分岐微細流路および前記合流部を介して前記第2の分岐微細流路に導かれ、前記第1および第2の反転微細流路を介して前記反応部に導かれる、請求項1記載の生化学試験デバイス。
【請求項5】
前記試験液は、
その粘度および密度を固定した場合に、前記微細流路内で層流となるように流速および前記微細流路の断面高さが設定される、請求項1記載の生化学試験デバイス。
【請求項6】
前記生化学物質は血液中に存在する抗原であって、
前記反応物質は抗原に対して特異的に反応する抗体であり、
前記反応部での反応は、前記抗原と前記抗体との免疫反応である、請求項1記載の生化学試験デバイス。
【請求項7】
生化学物質が含まれた試験液を、前記生化学物質との反応を行う反応物質が固定された反応部が内壁面近傍に設けられた微細流路に流して、前記生化学物質を前記反応部と反応させて前記生化学物質を検出する生化学試験方法であって、
前記試験液を前記微細流路中に流すことで前記反応部との反応により前記微細流路の断面高さ方向において前記生化学物質の濃度分布が生じた状態の反応後試験液を得た後、
前記反応後試験液を前記濃度分布を反転させた状態で再び前記反応部に導く、生化学試験方法。
【請求項8】
前記試験液は、
その粘度および密度を固定した場合に、前記微細流路内で層流となるように流速および前記微細流路の断面高さが設定される、請求項7記載の生化学試験方法。
【請求項9】
前記生化学物質は血液中に存在する抗原であって、
前記反応物質は抗原に対して特異的に反応する抗体であり、
前記反応部での反応は、前記抗原と前記抗体との免疫反応である、請求項7記載の生化学試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2011−17540(P2011−17540A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160362(P2009−160362)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】