説明

生物付着防止被覆の調製のための組成物

【課題】 金属触媒を持たない生物付着防止被覆の調製のための組成物を提供する。
【解決手段】 この組成物は、ポリシロキサンから本質的になるポリマー画分、硬化剤、カーボンナノチューブ、及び有機酸からなる金属を含まない触媒を含むことを特徴とする。好ましくは、組成物中の触媒濃度は2〜10重量%であり、有機酸はフッ素化又は塩素化され、硬化剤はビニルトリイソプロペンオキシシランであり、カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブであり、ポリシロキサンはポリジメチルシロキサンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含むポリシロキサン系被覆の調製のための組成物に関する。
【0002】
本発明はまた、生物付着防止被覆の調製のためのかかる組成物の使用に関し、より詳細には海洋環境でのペイントのためのかかる被覆の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
生物付着として知られる海洋環境による生物汚染は、生物が微生物であろうと巨大生物であろうと、多量の海水を使用する陸地の設備に対してだけでなく、沖合の設備、一般的には海水と永続的に接触するか又は長期間接触する物体、例えば船体及び水産養殖ロープ、かご及び網に対しても、大きな問題である。実際に、藻類、貝類及び他の甲殻類のような海洋生物が露出表面に付着し、次いで露出表面で増殖し、それが適正な機能を損ない、前記設備又は物体を悪化させる。特に、それらは、例えば海水の取り込み弁の入口をブロックし、従って海水を使用する陸上の設備の水取り込み能力を低下したり、又はそれらは、前記船体に付着することによって船のスピードを低下させ、船の燃料消費を増加させたりする。
【0004】
海洋生物付着防止及び付着物剥離組成物は通常、海洋環境と永続的に接触する表面に付与され、かかる海洋生物の付着又は増殖を制御又は防止するか、又はそれらの除去を容易にする。かかる組成物は一般に、保護することが必要な水中の表面に付着する海洋生物に対して毒性を有する一種以上の化合物を含有する。これらの毒性化合物の欠点は、永続的に効果的であるために比較的長期間にわたって海洋生物付着防止被覆又は塗料によって海洋環境中に放出される必要があることである。結果として、かかる組成物は常に環境汚染していることになる。かかる組成物は一般に水銀、鉛、錫又はヒ素のような化合物を含むので、なお一層そうである。
【0005】
ある海洋生物付着防止被覆又は塗料は銅系化合物を含み、それは植物プランクトン及び他の海洋生物に対する毒性について長い間、知られている。銅は例えば酸化銅、二酸化銅、チオシアン酸銅、アクリル酸銅、フレーク状銅粉末又は水酸化銅の形であってもよく、銅イオンの形で海洋環境中に放出されてもよい。不幸にも、この解決策の欠点は長く続かないことである。特に、いったん被覆の銅含有量が消耗されると、被覆はもはや有効ではない。通常、組成物は、被覆に長い寿命を与えるために極めて多くの銅投与量を持つ。しかしながら、高濃度の銅の使用はまた、海洋環境の汚染を導くかもしれない。
【0006】
近年の環境規制に関する傾向は、環境に優しい代替被覆のために、前述のもののような海洋生物付着防止被覆の使用禁止だけでなく、酸化錫又はトリブチル錫(それらは全て環境的に毒性を有し危険である)のような錫(IV)誘導体を含むものの使用禁止もあるであろう。
【0007】
文献WO2008/046166は、通常の生物付着防止被覆に代えて、ポリシロキサンマトリックス中に分散されたカーボンナノチューブを使用することを開示する。同じように、ポリシロキサン樹脂を硬化するための多くの触媒が従来技術で知られているが、最も普通に使用されるのは有機錫系または白金系化合物のいずれかに基づいている。しかしながら、毒物学的問題及び費用考慮のため、かかる触媒の使用は、船体等の生物付着防止被覆でのそれらの適用のような大規模被覆用途では避けられるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来技術の欠点を持たない生物付着防止被覆の調製のための組成物を提供することを目的とする。
【0009】
より詳細には、本発明は、金属触媒を持たない生物付着防止被覆の調製のための組成物を提供することを目的とする。
【0010】
用語「生物付着防止組成物」は、生物付着防止特性、付着物剥離特性、またはそれらの組み合わせを持つ被覆の調製のための前駆体組成物を規定するために使用される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下のものを含むかまたはそれらからなる生物付着防止被覆の調製のための組成物に関する:
− ポリシロキサンから本質的になるポリマー画分;
− 硬化剤;
− カーボンナノチューブ;及び
− 有機酸からなる金属を含まない触媒。
【0012】
特に好適な実施態様によれば、本発明はさらに、以下の特徴の少なくとも一つまたは好適な組み合わせを開示する:
− 組成物中の触媒濃度は2〜10重量%、好ましくは4〜6重量%であり、より好ましくは組成物中の触媒濃度は約5重量%である;
− 有機酸はハロゲン化されている;
− 有機酸はフッ素化されている;
− 有機酸はトリフルオロ酢酸(TFA)を含むかまたはそれからなる;
− 有機酸は塩素化されている;
− 有機酸はトリクロロ酢酸(TCA)を含むかまたはそれからなる;
− 硬化剤はビニルトリイソプロペンオキシシランである;
− 触媒の量は全組成物の1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である;
− カーボンナノチューブの量は全組成物の0.05〜1重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%である;
− カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブ(MWCNT)である;
− ポリシロキサンはポリジメチルシロキサンである;
− ポリジメチルシロキサンの分子量は15000〜25000g/mol、好ましくは約20000g/molである;
− ポリジメチルシロキサンの多分散性は約1.85である;
− ポリシロキサンと硬化剤との間の重量比は約1:19である。
【0013】
本発明の第二態様は、海洋環境での物品の生物付着に対する保護のための方法であって、上述の特徴及び実施態様による組成物を前記物品上に付与する工程を含む方法に関する。
【0014】
本発明はまた、海洋環境での物品の生物付着に対する保護のための方法であって、ポリシロキサン、硬化剤、及びトリフルオロ酢酸を含む被覆組成物を前記物品上に付与する工程を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、カーボンナノチューブを含む被覆表面を示す。
【0016】
【図2】図2は、実施例に記載された種々の試料にコロニー形成した海洋藻Ulvaの胞子(バイオマス)の量を示す。
【0017】
【図3】図3は、実施例に記載された種々の試料上の海洋藻Ulvaの除去割合の変動を示す。
【0018】
【図4】図4は、実施例に記載された種々の試料を洗浄した後に残る全バイオマスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、以下のものを含む生物付着防止被覆の調製のための組成物を開示する:
− ポリシロキサンから本質的になるポリマー画分;
− 硬化剤;
− カーボンナノチューブ;及び
− 有機酸からなる金属を含まない触媒。
【0020】
本発明の第一目的は、環境的理由のためポリシロキサン被覆中の重金属触媒の使用を避けることである。驚くべきことに、利用可能な全ての有機触媒の中で、有機酸触媒の使用が海洋環境での金属触媒浸出の環境問題を解決するだけでなく、図2及び3に示されたようなMWCNTを含む被覆の付着特性を改善することが示された。好ましくは、有機酸触媒は、ハロゲン化された触媒、より好ましくはフッ素化された触媒または塩素化された触媒である。
【0021】
さらに良好なことには、カーボンナノチューブの存在なしであっても、付着された表面の浄化が有機酸触媒によるジブチル錫ジラウレートの置換により実質的に改善されることが図3において見ることができる。
【0022】
驚くべきことに、得られた被覆の付着特性への触媒濃度の影響は、約5重量%の最適相対触媒濃度を持つ非線形挙動を示す。これは図2に見ることができ、そこでは試料I,J及びKは、2〜10%で変わる触媒濃度を除いては同じ組成を持ち、最良の結果は5重量%触媒により得られている。カーボンナノチューブを持たない対応する組成物(試料M,N及びO)と比較すると、触媒濃度を変えることにより得られた相対的な改善はカーボンナノチューブの存在下でずっと高くなっていることが認識されるはずである。MWCNTの存在下では触媒濃度を2重量%から5重量%に増加するときに増殖の約17%の減少があり、MWCNTの不存在下では同じ変動に対し約8%である。
【0023】
硬化工程を簡易化するために、本発明のポリマー画分はポリシロキサン、好ましくはポリジメチルシロキサン(PDMS)から本質的になる。ポリシロキサンから本質的になることにより、得られた被覆の一般的な特性を実質的に変えることなく、少量のコポリマーを最終的に含めることができることを意味する。かかる追加のポリマー変性剤は、例えば得られた組成物の粘度を微調整するために含めることができる。
【0024】
被覆される物品上への組成物の付与を容易にするように組成物の粘度を最適化するために、ポリシロキサンの分子量は、好ましくは15000〜25000g/mol、より好ましくは約20000g/molである。
【0025】
多分散性(PDI)はまた、組成物の流動学的特性を微調整することを可能にする。好ましくは、ポリシロキサンの多分散性は約1.85である。計算されたPDIは、数平均分子量により割られた重量平均分子量である。それはポリマーのバッチ中の個々の分子塊の分布を示す。

全ての掲げられた材料は、受け入れたまま使用される。
【0026】
全ての実施例(以下の表参照)の調製のために、二つの部分(部分Aと部分B)が商業的に入手可能な二つの部分からなるPDMS系樹脂により配合された。典型的な実験では、部分Aはシラノール末端PDMS(ポリシロキサン1)、ヘキサメチレンジシラザン処理二酸化ケイ素(Si)及び硬化剤(VTiPOS)からなる。供給者の推奨によれば、ポリシロキサン/VTiPOS比は95/5(重量%/重量%)に固定される。Siの量は、粘度を調節するために最終配合物中で2重量%に固定される。
【0027】
二成分被覆調製のためにポリシロキサン2(0.5重量%MWCNT)が使用された場合、最終混合物に対するMWCNTの寄与は、前記MWCNTをポリシロキサン1で希釈することにより0.1重量%に調整された。
【0028】
全ての組成物に対し、全ての成分は1200rpmで30分間機械的に混合された。
【0029】
全ての実験で、部分Bは、表2から4に記録された最終組成に到達するために触媒の要求された量を添加したPDMS−CHからなる。
【0030】
全ての試料調製のために、室温での縮合反応を介して架橋されたPDMSを得るために部分AとBは10:1の重量比で一緒に混合される(48時間の反応時間後、それは研究された配合を比較するために選ばれた予め定められた時間である)。
【0031】
試料は、架橋前の二成分組成物の粘度(η,cP)、引張弾性率(E,MPa)、及び架橋された試料の膨潤平衡度(Gsw)及び抽出可能値(Esw)に関して特徴付けられた。
【0032】
組成物の粘度は、25±0.1℃でかつ1rpmの速度でBrookfield DV−II粘度計により決定された。
【0033】
試料の引張弾性率は、引張歪−掃引モードで作動する動的機械式分析器DMA(TA Instrument 2980)により室温で分析された。1Hzの周波数、0.1Nの前負荷、及び0.5から27mmの振幅が使用された。結果は少なくとも三つの測定値の平均である。
【0034】
膨潤試験のために、架橋された配合物の予め秤量された乾燥円筒状試料を室温で48時間100mlのヘプタン中に浸漬した。膨潤の平衡度(Gsw%)を決定するために、試料を規則正しい時間間隔で取り出し、試料表面に過剰に残るヘプタンを濾紙で優しく除去し、膨潤試料を秤量した。平衡に到達した後、試料を減圧下に50℃で16時間乾燥した。Gsw%及びEsw%は以下のように計算された。

式中wは、ヘプタンへの浸漬及び減圧下の乾燥前の、硬化後の試料の重量であり、wは、ヘプタンに48時間浸漬後の試料の重量であり、wは、減圧下に50℃で16時間乾燥後の試料の重量である。
swとEswの値は少なくとも三つの試料の平均である。カーボンナノチューブの存在下で有機酸により触媒された全ての試料は、それらがヘキサンによって溶解されず、かつ抽出可能な物質のレベルが低い値に限られていたので、ほとんど完全に架橋されたことを表3に見ることができる。無機酸に関しては、硫酸により触媒された試料のみがヘキサンにより完全に溶解されなかったが、抽出可能なレベル(約56%まで)が架橋の不十分なレベルを示した。
【0035】
カーボンナノチューブを含まない試料の場合(表2)、TCAは低レベルの触媒ではポリシロキサンを完全に架橋しないので、状況はより複雑である。
【0036】
かかる被覆の生物付着挙動は、以下に記載された評価試験で確認された。
【0037】
細胞コロニー形成の研究に関する評価試験手順は、Biological Workshop Manual(BWM,AMBIO Biological evaluation workshop,University of Birmingham UK 21−22 2005年4月;Ulva Sporeling Growth)の4.2節に従う。胞子は、海岸から集められた植物から放出される。胞子の濃度は、標準濃度、例えば1×10胞子/mlに調整される。各被覆試料(表4)は、一週間の間、30リットルの蒸留水中に浸漬され、次いで増殖媒地が添加される前にコロニー形成細胞(海洋藻Ulvaの胞子)の存在下に、暗所で1時間の間、人工海水中に浸漬される。試料は次いで照明されたインキュベーター中で6日間培養され、媒地は2日毎に新しくされる。各スライド上のバイオマスは、存在するクロロフィルの量を測定することにより定量される。これは、例えばプレートリーダーを用いてin situ蛍光によって直接定量される。
【0038】
6日の増殖後、表面に付着する細胞(またはバイオマス)の量が、試料表面上で増殖する藻細胞の葉緑体内に含まれた葉緑素を励起する430nmの波長の光を放射する蛍光リーダーによる光合成色素葉緑素の自動蛍光によってin situ蛍光測定により評価され(Biological Workshop Manualの4.2.1節、AMBIO Biological evaluation workshop,University of Birmingham,UK,21−22 2005年4月)、次いで色素が「静止状態」に戻るときに放射される630nm光を測定する。このバイオマス定量の方法は、比較的迅速でありかつ非破壊である利点を持つ。
【0039】
この手順は本発明の被覆に適用された。結果は図2にまとめられている。この結果を標準表面と比較するために、未被覆ガラス板と商業的な被覆IS 700(Akzo NobelからのIntersleek 700)により被覆されたガラス板が試験された。
【0040】
試料は次いで洗浄され、除去割合が測定される。得られた除去割合は図3に示されている。試料を洗浄した後の全残留バイオマスが図4に示されている。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物付着防止被覆の調製のための組成物であって、
− ポリシロキサンから本質的になるポリマー画分;
− 硬化剤;
− カーボンナノチューブ;及び
− 有機酸からなる金属を含まない触媒;
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
組成物中の触媒濃度が2〜10重量%であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
有機酸がハロゲン化されていることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
有機酸がフッ素化されていることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
有機酸がトリフルオロ酢酸(TFA)を含むことを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
有機酸が塩素化されていることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項7】
有機酸がトリクロロ酢酸(TCA)を含むことを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記硬化剤がビニルトリイソプロペンオキシシランであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
カーボンナノチューブの量が全組成物の0.05〜1重量%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
ポリシロキサンがポリジメチルシロキサンであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
ポリジメチルシロキサンの分子量が15000〜25000g/mol、好ましくは約20000g/molであることを特徴とする請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
ポリジメチルシロキサンの多分散性が約1.85であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
硬化剤とポリシロキサンの間の重量比が約1:19であり、多層カーボンナノチューブであるカーボンナノチューブが0.1〜0.5重量%の濃度であり、かつ触媒濃度が約5重量%であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の組成物から得られた生物付着防止被覆。
【請求項15】
海洋環境内の物品の生物付着に対する保護のための方法であって、請求項14に記載の生物付着防止被覆により前記物品を覆う工程を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−515114(P2013−515114A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545211(P2012−545211)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069345
【国際公開番号】WO2011/076587
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(507201223)ナノシル エス.エー. (8)
【Fターム(参考)】