説明

生物学的診断用蛍光微粒子および生物学的診断材料

【課題】長時間の観察に耐える耐光性を有した生物学的診断用蛍光微粒子を提供すること。
【解決手段】不飽和脂肪酸で表面修飾された蛍光微粒子を含有することを特徴とする生物学的診断用蛍光微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物学的診断用蛍光微粒子およびそれを用いた生物学的診断材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生命現象を可視化する蛍光バイオイメージングは、細胞工学をはじめとするバイオテクノロジー、医療分野における予防・診断・治療のための重要技術となっている。
【0003】
蛍光バイオイメージングは、観察したい生体分子に蛍光標識を付けることによって、分子の分布や動きを可視化する技術である。
【0004】
しかし、生体分子の標識体としてよく用いられる蛍光有機色素は、励起照射光によって短時間で退色してしまうことが問題となっている。これらを解決するため、耐光性向上を狙った蛍光有機色素の開発が盛んに行われていたが、発光効率と耐久性の両方を満たした実用的な有機分子は得られていない。そこで最近は、単独の蛍光色素に代わって、蛍光粒子をもちいた技術が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1により、半導体量子ドットと呼ばれる無機系半導体のナノ粒子をポリエチレングリコールで修飾することにより分散安定化した生物学的診断用蛍光粒子が開発され、退色の問題がある程度解決され、数十分の観察が可能となったが、水環境中におけるそれ以上の長い観察は難しいという問題がある。特許文献2により、蛍光色素を含有したコロイドシリカからなる蛍光シリカ粒子が提案されており、やはり退色の問題がある程度解決され、数十分の観察が可能となったが、水環境中におけるそれ以上の長い観察は難しいという問題が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−300253号公報
【特許文献2】国際公開07/074722号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、長時間の観察に耐える耐光性を有した生物学的診断用蛍光微粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は以下の手段により達成された。
【0009】
1.不飽和脂肪酸で表面修飾された蛍光微粒子を含有することを特徴とする生物学的診断用蛍光微粒子。
【0010】
本発明では、蛍光微粒子の表面を不飽和脂肪酸で修飾することにより耐光性が向上することを見出した。一般的に蛍光体の退色は、励起光エネルギーによる構造破壊や、水系溶媒中で発生する活性酸素による構造破壊が知られている。蛍光微粒子表面に不飽和脂肪酸が存在することにより、活性酸素が蛍光微粒子に到達する前に活性酸素が不飽和脂肪酸と反応し、結果的に蛍光分子の退色が抑制されているものと考えられる。
【0011】
2.前記蛍光微粒子がシリカを含有する粒子に、蛍光化合物が化学的に結合または吸着してなることを特徴とする前記1に記載の生物学的診断用蛍光微粒子。
【0012】
3.更に、前記蛍光微粒子がポリエチレングリコールで表面修飾されたことを特徴とする前記1または2に記載の生物学的診断用蛍光微粒子。
【0013】
4.前記不飽和脂肪酸がモノ不飽和脂肪酸(クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルガ酸、ネルボン酸)、ジ不飽和脂肪酸(リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸)、トリ不飽和脂肪酸(リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、ジホモ−g−リノレン酸、エイコサトリエン酸)、テトラ不飽和脂肪酸(ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸)、ペンタ不飽和脂肪酸(ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、オズボンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸)、およびヘキサ不飽和脂肪酸(ドコサヘキサエン酸、ニシン酸)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の生物学的診断用蛍光微粒子。
【0014】
5.前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が300〜30000であることを特徴とする前記3または4に記載の生物学的診断用蛍光微粒子。
【0015】
6.前記蛍光微粒子に表面修飾された前記ポリエチレングリコール対する前記不飽和脂肪酸のモル比が1〜100であることを特徴とする前記3〜5のいずれか1項に記載の生物学的診断用蛍光微粒子。
【0016】
7.前記蛍光微粒子に表面修飾された前記ポリエチレングリコールの末端に特異的認識能を有する認識分子が結合していることを特徴とする前記3〜6のいずれか1項に記載の生物学的診断用蛍光微粒子。
【0017】
8.前記1〜7のいずれか1項に記載の生物学的診断用蛍光微粒子を有することを特徴とする生物学的診断材料。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、長時間光を照射しても、蛍光強度の低下が小さく、長時間の観察に耐える生物学的診断用蛍光微粒子を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(生物学的診断材料)
前記生物学的診断材料とは、検体(例えば、任意の細胞抽出液、溶菌液、培地・培養液、溶液、バッファー)中に含まれる定量したい標的生体分子(生理活性物質)を検出または定量することにより、生物学的な診断をするための材料である。
【0020】
(生物学的診断用蛍光微粒子)
前記生物学的診断用蛍光微粒子は、蛍光微粒子の表面が認識分子により修飾されており、且つ、不飽和脂肪酸で表面修飾されている構造を有し、前記生物学的診断材料に用いることが出来る。表面の認識分子は検体中に含まれる特定の標的生体分子と特異的に吸着または結合することができる。
【0021】
前記標的生体分子としては、任意の、抗原、抗体、DNA、RNA、糖、糖鎖、リガンド、受容体、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、ペプチド、化学物質等が挙げられる。該リガンドとはタンパク質と特異的に結合する物質をいい、例えば、酵素に結合する基質、補酵素、調節因子、あるいはホルモン、神経伝達物質などをいい、低分子量の分子やイオンばかりでなく、高分子量の物質も含む。該化学物質とは天然有機化合物に限らず、人工的に合成された生理活性を有する化合物や環境ホルモン等を含む。
【0022】
(蛍光微粒子)
前記蛍光微粒子は蛍光性の半導体微粒子であっても良いし、非蛍光性の微粒子に蛍光化合物を化学結合または吸着させて作製してもよいし、蛍光化合物が化学結合または吸着した粒子を非蛍光性の材料で被覆したコアシェル構造を有することも出来る。蛍光性の半導体微粒子は直接遷移型半導体に特有の元素毒性を有するものが多いことから、非蛍光性の微粒子に蛍光化合物を化学結合または吸着させて作製された蛍光微粒子が好ましい。
【0023】
本発明において、「蛍光」とは、ある波長の光を照射したときに、蛍光微粒子ないしは蛍光化合物が発する固有の波長の発光をいう。したがって、蛍光微粒子によって標的生体分子を定量ないしは検出する場合の測定機構等の測定系が異なる。
【0024】
(非蛍光性微粒子)
前記非蛍光性微粒子としては、シリカ粒子、ポリスチレン粒子などが挙げられる。水媒体に分散させやすいこと、および光散乱が小さいことが、蛍光化合物に効率的に光吸収させることが可能なことから好ましい。
【0025】
シリカ粒子は、親水性が高く、純水や緩衝液に分散させやすいことが特徴である。ポリスチレン等の高分子ビーズの多くは疎水性であり、純水や緩衝液に分散させるために特別な処理が必要となるのに対し、前記シリカ粒子はそういった特別な処理は必要ない。
【0026】
またシリカの消衰係数が小さいため、蛍光シリカ粒子(蛍光化合物を含有するシリカ粒子)は、シリカによる光の散乱が起こりにくく、蛍光化合物が効率的に光を吸収することができる。したがって、前記蛍光シリカ粒子は、高いモル吸光係数が実現できることから好ましい。
【0027】
(シリカ粒子による蛍光微粒子)
シリカ粒子による蛍光微粒子(蛍光シリカ粒子ともいう)は、蛍光化合物をシリカ粒子成分と化学的に結合ないしは吸着して形成する。
【0028】
次に、「蛍光シリカ粒子の調製」について説明する。
【0029】
蛍光シリカ粒子は、(a)シリカ粒子に蛍光化合物を化学結合または吸着させる方法、または(b)有機シラン化合物、シランカップリング剤および蛍光化合物を水媒体中で反応させることにより、作製することが出来るが、退色性などの点から(b)が好ましい。
【0030】
(b)の方法において、有機シラン化合物は、加水分解によりシラノールを形成し、縮合することによりコロイドシリカを形成する。前記加水分解、縮合の過程でシランカップリング剤が存在すると、該コロイドシリカはシランカップリング剤の活性基を表面に有し、該活性基に蛍光化合物が反応して化学結合する。
【0031】
前記有機シラン化合物としては、テトラアルコキシシランが好ましく具体的には、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシシランなどが挙げられる。
【0032】
前記シランカップリング剤としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル−トリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられるが、好ましくはγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)である。
【0033】
前記蛍光化合物はシランカップリング剤の活性基と反応するために、例えば、蛍光色素のカルボン酸と縮合して形成されたNHSエステル(N−ヒドロキシスクシンイミドとのエステル)などの基を有する。
【0034】
これらの基の内、生体適合性や簡便性の点からN−ヒドロキシサクシミジルエステルなどの活性エステル基が好ましい。前記蛍光化合物として、例えば、Alexa Fluor488−NHSエステルが挙げられる。
【0035】
以下に例を挙げて、前記蛍光シリカ粒子の作製方法を示す。
【0036】
工程で用いるNHSエステル基を有する蛍光化合物は、蛍光性を有する任意のカルボン酸化合物とN−ヒドロキシスクシンイミドとのエステル化反応により調製することができる。但し、市販のものを入手することも可能である。
【0037】
前記NHSエステル基を有する蛍光化合物として具体的には、Alexa Fluor405−NHSエステル、Alexa Fluor488−NHSエステル、Alexa Fluor568−NHSエステル、Alexa Fluor660−NHSエステル(いずれも商品名、Invitrogen社製)等を挙げることができる。中でも、Alexa Fluor488−NHSエステルが好ましい。
【0038】
一例として、活性エステル基を有する蛍光化合物としてAlexa−Fluor488−NHSエステル、シランカップリング剤としてアミノ基を有するシランカップリング剤、シラン化合物としてTEOSを用いたときのものを下記に示す。
【0039】
前記アミノ基を有するシランカップリング剤としては、特に制限されないが、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピル−トリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシランを挙げることができる。中でも、APSが好ましい。
【0040】
前記NHSエステル基を有する蛍光化合物と前記アミノ基を有するシランカップリング剤との反応は、DMSOや水等の溶媒に溶解した後、室温(例えば、25℃)条件下で攪拌しながら反応することによって行うことができる。斯くして、蛍光化合物のカルボニル基と、アミノ基を有するシランカップリング剤のアミノ基とが、アミド結合(−NHCO−)して、蛍光化合物/シランカップリング剤複合化合物が得られる。すなわち、前記蛍光化合物/シランカップリング剤複合化合物は、アミド結合を介して蛍光化合物とシリカ成分が結合している。
【0041】
次に、前記蛍光化合物/シランカップリング剤複合化合物をシラン化合物と反応させる。該シラン化合物としては、特に制限はないが、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメトキシシラン(TMOS)、テトライソプロポキシシランを挙げることができる。中でも、前記蛍光化合物含有コロイドシリカ粒子中に、ポリケイ酸部分を構築できる観点からテトラエトキシシラン(TEOS)が特に好ましい。
【0042】
蛍光化合物/シランカップリング剤複合化合物とシラン化合物の割合は、特に制限はないが、蛍光化合物/シランカップリング剤複合化合物1モルに対するシラン化合物のモル比として、50〜40000が好ましく、100〜2000がより好ましく、150〜1000がさらに好ましい。この反応は、アルコール、水及びアンモニアの存在下で行うのが好ましい。ここでアルコールとしてはメタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の低級アルコールを挙げることができる。かかる反応系における水とアルコールの割合は、特に制限されないが、好ましくは水1容量部に対してアルコールを0.5〜20容量部、より好ましくは2〜16容量部、さらに好ましくは4〜10容量部の範囲である。アンモニアの量も特に制限されないが、アンモニアの濃度が30〜1000mMが好ましく、60〜500mMがより好ましく、80〜200mMがさらに好ましい。この反応は室温で行うことができ、また攪拌しながら行うことが好ましい。通常、数十分〜数十時間の反応で、前記蛍光化合物含有コロイドシリカ粒子を調製することができる。このようにして得られる蛍光化合物含有コロイドシリカ粒子群は、必要に応じて、限外ろ過膜などの常法を利用して共存イオンや共存する不要物を除いて精製してもよい。上述のように調製すると、球状、もしくは、球状に近いシリカ粒子群が製造できる。前記蛍光コロイドシリカ粒子の数平均粒径は、任意の検出手段により検出できる限り特に制限はないが、検出感度の観点から、50〜2000nmが好ましく、100〜2000nmがより好ましく、200〜2000nmがさらに好ましく、200〜400nmが特に好ましい。
【0043】
粒度分布の変動係数いわゆるCV値は特に制限はないが、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましい。
【0044】
本発明において、単分散とはCV値15%以下の粒子群をいう。
【0045】
(認識分子による表面修飾)
前記生物学的診断用蛍光微粒子は、特定の標的生体分子と結合するアクセプター基を有し、該標的生体分子を蛍光標識付けする。
【0046】
蛍光シリカ粒子に認識分子を結合しアクセプター基を形成する例を以下に示す。
【0047】
前記蛍光シリカ粒子は、表面に有するアクセプター基の種類に応じて所望の認識分子〔例えば、抗原、抗体、抗アクチン抗体、DNA、RNA、糖、糖鎖、リガンド、受容体、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、ペプチド、化学物質等〕を表面に結合もしくは吸着させ、修飾させることができる。前記蛍光シリカ粒子の表面を所望の認識分子で修飾させる方法を下記に示す。
【0048】
APS等を用いて調製したアミノ基を表面に有する蛍光シリカ粒子は、前述と同様に、このアミノ基と所望の認識分子が有するチオール基とをSMCC(SUCCINIMIDYL TRANS−4−(MALEIMIDYLMETHYL)CYCLOHEXANE)、EMCS(N−(6−Maleimidocaproyloxy)succinimide)等の架橋剤を用いて結合することができる。
【0049】
認識分子にチオール基を導入する方法としては、DTT(ジチオトレイトール)により該認識分子のヒンジ部分を還元し、チオール基を生成する方法がある。
【0050】
例えば、抗アクチン抗体として、Anti beta−Actin,C−term,Rabbit−poly,#54590,(Anaspec社製)が市販されている。
【0051】
(不飽和脂肪酸による表面修飾)
前記不飽和脂肪酸としては、モノ不飽和脂肪酸(クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルガ酸、ネルボン酸)、ジ不飽和脂肪酸(リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸)、トリ不飽和脂肪酸(リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、ジホモ−g−リノレン酸、エイコサトリエン酸)、テトラ不飽和脂肪酸(ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸)、ペンタ不飽和脂肪酸(ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、オズボンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸)、およびヘキサ不飽和脂肪酸(ドコサヘキサエン酸、ニシン酸)が挙げられる。
【0052】
前記APS等を用いて調製した蛍光シリカ粒子のアミノ基と所望のカルボキシル基(不飽和脂肪酸等)をEDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)等の架橋剤を用いて結合することができる。
【0053】
前記蛍光微粒子がシリカ粒子を含有する場合、シリカ粒子に対する前記不飽和脂肪酸の含有量は0.01〜100質量%が本発明の効果の点で好ましい。
【0054】
(ポリエチレングリコール)
前記ポリエチレングリコールの一端は蛍光微粒子との間に結合基Xを介して結合している。他端は認識分子と結合基Yを介して結合することが好ましい。
【0055】
結合基X,Yとしてはエステル基、アミド基、イミド基、チオ基などが挙げられるが、X,Yとしては、合成が容易な点から、アミド基が好ましい。
【0056】
前記ポリエチレングリコールの数平均分子量は300〜3000が好ましい。300以上であれば、非特異的吸着抑制性能が高く、3000以下であれば、PEGの蛍光微粒子への結合反応が速やかに進む。
【0057】
ポリエチレングリコールは端部に活性基を有するポリエチレングリコール誘導体が、蛍光微粒子および認識分子の活性基と反応し結合基XおよびYを形成することが好ましい。
【0058】
前記ポリエチレングリコールの数平均分子量とは、前記ポリエチレングリコール誘導体の前記活性基および結合基形成部分を除いた−CHCH(OCHCH−の部分の分子量を表わす。
【0059】
該ポリエチレングリコール誘導体としては、例えば、Thermo Scientific社製のSM(PEG)n NHS−PEG−Maleimide Crosslinkersシリーズで、NHS−PEGn−Maleimide(n=2、4、6、8、12、24)が市販されており、n=2、4、6、8、12、24のポリエチレングリコールの分子量はそれぞれ、116、204、292、380、556、1084である。
【0060】
前記蛍光微粒子がシリカ粒子を含有する場合、シリカ粒子に対する前記ポリエチレングリコールの含有量は0.01〜100質量%が本発明の効果が顕著である点で好ましい。
【0061】
また、前記不飽和脂肪酸:前記ポリエチレングリコールの含有量のモル比は、1:1〜100:1が本発明の効果が顕著である点で好ましい。
【0062】
(蛍光化合物)
本発明に用いる蛍光化合物が有するモル吸光係数εについては特に制限はないが、吸光スペクトルの極大波長において、εが1×10−1cm−1以上であることが好ましく、εが5×10−1cm−1〜8×10−1cm−1であることがより好ましい。前記蛍光化合物としては、所定の光源による光を吸光し、固有の発光を発する物質であり、プレートリーダー等の汎用の検出器(例えば、ThermoScientific社 フルオロスキャンアセントFL)により蛍光を検出しうるものであることが好ましい。なかでも、蛍光スペクトルにおける最大波長が400〜800nmの範囲内にある蛍光化合物が好ましい。ここで、「蛍光最大波長」とは、蛍光スペクトルにおいて、蛍光量が最大であるものの波長をいう。
【0063】
上記のとおり、蛍光スペクトルにおける蛍光最大波長が400〜800nmの範囲内に存在する蛍光化合物を用いることが好ましく、そのような蛍光化合物として具体的には、Alexa Fluor405、Alexa Fluor488、Alexa Fluor568、Alexa Fluor660(いずれも商品名、Invitrogen社製)等が挙げられ、好ましく用いることが出来る。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
[実施例1]
(蛍光シリカ粒子の準備)
まず、数平均粒径200nm以下の複数個の蛍光色素化合物含有コロイドシリカ粒子の調製法について説明する。Alexa488−NHSエステル(Alexa Fluor488のNHSエステル、Invitrogen社製)5.6mgを1mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。ここに1.3μlのAPSを加え、室温(25℃)で1時間反応を行った。得られた反応液50μlにエタノール3.95ml、TEOS20μl、蒸留水1ml、28質量%アンモニア水100μlを加え室温で24時間反応を行った。反応液をYM−100(商品名、ミリポア社製)で限外ろ過した。フィルターを透過した蛍光シリカ粒子分散液を回収し、今度はYM−1(商品名、ミリポア社製)で限外ろ過を行い、全量の10分の1量になるまで蛍光シリカ粒子分散液を濃縮した。濃縮した液を蒸留水で希釈して再度YM−1で限外ろ過を行った。濃縮後蒸留水で希釈し限外ろ過を行う操作を4回繰り返して行い、蛍光シリカ粒子分散液に含まれる未反応試薬やアンモニア等を除去し、数平均粒径200nmの蛍光シリカ粒子の分散液で、前記蛍光色素化合物の濃度が10nMの分散液を得た。
【0066】
(蛍光シリカ粒子の表面化学修飾)
次に、水を加えて前記蛍光色素化合物の濃度が1nMになるように調整した蛍光シリカ粒子の分散液1mlを用意する。そこにAPSを1μl加え、室温(25℃)で1時間反応を行った。得られた反応混合物を遠心分離(加速度:10000×g、15分)し、沈殿した蛍光シリカ粒子を回収、純水を1ml加え超音波破砕機(BRANSON社製 SONIFIER model150)にて蛍光シリカ粒子を再分散させ、洗浄を行った。この洗浄操作を3回繰り返した。最後に、純水1mlに懸濁し、アミノシランカップリング処理された蛍光シリカ粒子を得た。
【0067】
(蛍光シリカ粒子1の作製)
オレイン酸(日油株式会社製、EXTRA OLEIN−80)0.1ml(1w/v%クロロホルム溶液)、EDC(PIERCE社製、#22980)0.4mg、Sμlfo−NHS(ThermoFisher社製,#24510)1.1mgをクロロホルム1mlに混合し、活性化されたオレイン酸を作製する。ただし、1w/v%とは、溶液100ml中に1gの溶質を含有することを意味する。
【0068】
PEGの一端にNHS基を有し他端にマレイミド基を有するPEG架橋剤Cross−Linker(NHS−PEG12−Maleimide,Thermo Scientific社,#22112)20μl(濃度250mM)と前記活性化されたオレイン酸200μlを前記アミノシランカップリング処理された蛍光シリカ粒子800μlに混合し、表面にオレイン酸とマレイミド−PEGが結合した蛍光シリカ粒子を作製した。該蛍光シリカ粒子1の表面はPEGに結合したマレイミド基により覆われている。
【0069】
さらに、前記表面にオレイン酸とマレイミド−PEGが結合した蛍光シリカ粒子を遠心分離(加速度:10000×g、15分)し、沈殿した蛍光シリカ粒子を回収し、PBS(pH7.2の燐酸緩衝液;invitrogen社製)を1ml加え超音波破砕処理(BRANSON社製、SONIFIER model150)を行い、PBS溶媒に分散した蛍光シリカ粒子1を得た。
【0070】
(蛍光シリカ粒子2の作製)
蛍光シリカ粒子1の作製において、前記活性化されたオレイン酸を用いず、前記PEG架橋剤のみを前記蛍光シリカ粒子に加えた他は同様にして、表面にPEGが結合しPBS溶媒に分散した蛍光シリカ粒子2を作製した。
【0071】
(蛍光シリカ粒子3の作製)
前記蛍光シリカ粒子1の作製において、オレイン酸(日油株式会社製、EXTRA OLEIN−80)に代えてリノール酸(東京化成工業株式会社製,L0124)を用いた他は同様にして、PBS溶媒に分散した蛍光シリカ粒子3を得た。
【0072】
(蛍光シリカ粒子4の作製)
前記蛍光シリカ粒子1の作製において、オレイン酸(日油株式会社製、EXTRA OLEIN−80)に代えてγ−リノレン酸(東京化成工業株式会社製,L0152)を用いた他は同様にして、PBS溶媒に分散した蛍光シリカ粒子4を得た。
【0073】
(生物学的診断用蛍光微粒子の作製)
抗アクチン抗体(Anti beta−Actin, C−term, Rabbit−poly, #54590, Anaspec社製)をPBS(pH7.2の燐酸緩衝液;invitrogen社製)に溶解し、濃度1mg/mlに調整する。その抗体溶液にDTT(ジチオトレイトール)を最終濃度10mMになるように加え、室温で30分混合させる。その後ゲルろ過カラムを用いて、反応試薬を除去し、PBSに溶解された抗アクチン抗体変性物を得る。得られた抗アクチン抗体変性物200μlと前記蛍光シリカ粒子1の500μl量を混合し、室温(25度)で1時間混合することにより、前記蛍光シリカ粒子1のマレイミド基と該抗アクチン抗体変性物を結合反応させた。得られた反応混合物を遠心分離(加速度:10000×g、15分)し、沈殿した蛍光シリカ粒子を回収、PBSを1ml加え超音波破砕機(BRANSON社製 SONIFIER model150)にて蛍光シリカ粒子を再分散させ、洗浄を行った。この洗浄操作を3回繰り返した。最後に、PBS1mlに懸濁し、オレイン酸、PEGで修飾され、該PEGの端部のマレイミド基に抗アクチン抗体が結合した生物学的診断用蛍光微粒子1を得た。
【0074】
同様に前記抗アクチン抗体変性物と前記蛍光シリカ粒子2、3、4をそれぞれ混合し、室温で1時間混合し、PEGで修飾され、該PEGの端部にマレイミド基により抗アクチン抗体が結合した生物学的診断用蛍光微粒子2、3、4を得た。
【0075】
[実施例2]
(励起光照射による退色性試験)
実施例1で作製した前記生物学的診断用蛍光微粒子1〜4について、蛍光顕微鏡(Carl Zweiss社製 Axio Observer)を用いて、光照射密度1×10W/mmで励起光を照射し、照射時間による蛍光強度の変化を測定した。
【0076】
前記生物学的診断用蛍光微粒子1〜4(何れも最終濃度10nM)5μlをスライドガラス(松波社製)に滴下、その上にカバーガラスにて測定サンプルを作製した。測定には対物レンズは40倍、励起・蛍光フィルターは(640nm/690nm)を使用した。蛍光シリカ粒子1〜4の初期に測定した蛍光強度を100として、それぞれの蛍光強度を相対値で表1に記した。
【0077】
照射時間による蛍光強度の変化を測定し、生物学的診断用蛍光微粒子1〜4それぞれの即の蛍光強度を100として、蛍光強度を相対値で下記の表1に記した。
【0078】
【表1】

【0079】
表1より、本発明の生物学的診断用蛍光微粒子は励起光による蛍光強度の低下が小さいことが分かる。
【0080】
[実施例3]
(標的生体分子との結合)
標的生体分子としてのホルマリン固定されたHeLa細胞(6.0×10cells/cm;ATCC社製)のシート1cmに、常法により、実施例1で作製した生物学的診断用蛍光微粒子1を希釈して100μl(濃度10pM)を染み込ませ、免疫染色を実施した。
【0081】
光照射密度1×10W/mmで蛍光顕微鏡下(Carl Zweiss社製 Axio Observer)で染色された細胞を観察した。測定には対物レンズは40倍、励起フィルター/蛍光フィルターは(640nm/690nm)を使用した。0、2、10、30分ごとに蛍光観察を行い、蛍光強度の測定を実施した。
【0082】
即の蛍光強度を100として、蛍光強度を相対値で表2に記した。
【0083】
同様に生物学的診断用蛍光微粒子2〜4についても測定を実施し、即の蛍光強度を100として、蛍光強度を相対値で表2に記した。
【0084】
【表2】

【0085】
表2より、本発明の生物学的診断用蛍光微粒子は標的生体分子と結合した状態で、蛍光強度の低下が小さいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和脂肪酸で表面修飾された蛍光微粒子を含有することを特徴とする生物学的診断用蛍光微粒子。
【請求項2】
前記蛍光微粒子がシリカを含有する粒子に、蛍光化合物が化学的に結合または吸着してなることを特徴とする請求項1に記載の生物学的診断用蛍光微粒子。
【請求項3】
更に、前記蛍光微粒子がポリエチレングリコールで表面修飾されたことを特徴とする請求項1または2に記載の生物学的診断用蛍光微粒子。
【請求項4】
前記不飽和脂肪酸がモノ不飽和脂肪酸(クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルガ酸、ネルボン酸)、ジ不飽和脂肪酸(リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸)、トリ不飽和脂肪酸(リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、ジホモ−g−リノレン酸、エイコサトリエン酸)、テトラ不飽和脂肪酸(ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸)、ペンタ不飽和脂肪酸(ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、オズボンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸)、およびヘキサ不飽和脂肪酸(ドコサヘキサエン酸、ニシン酸)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生物学的診断用蛍光微粒子。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が300〜30000であることを特徴とする請求項3または4に記載の生物学的診断用蛍光微粒子。
【請求項6】
前記蛍光微粒子に表面修飾された前記ポリエチレングリコール対する前記不飽和脂肪酸のモル比が1〜100であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の生物学的診断用蛍光微粒子。
【請求項7】
前記蛍光微粒子に表面修飾された前記ポリエチレングリコールの末端に特異的認識能を有する認識分子が結合していることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の生物学的診断用蛍光微粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の生物学的診断用蛍光微粒子を有することを特徴とする生物学的診断材料。

【公開番号】特開2012−107922(P2012−107922A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255618(P2010−255618)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】