説明

生物由来の生理活性物質の測定方法及び測定装置

【課題】光散乱法(AL結合ビーズ法を含む)によって試料中の生物由来の生理活性物質の濃度を測定する場合に、AL試薬と試料の混和液の攪拌に起因する、前記生理活性物質に由来しない凝集またはゲル化を生じさせることなく測定を行い、これにより、上記測定の測定精度を向上させる。
【解決手段】AL試薬と生物由来の生理活性物質を含む試料とを混和させ、混和液に光を入射させてその散乱光または透過光の強度に基づいて、該混和液におけるALと生物由来の生理活性物質との反応に起因する蛋白質の凝集またはゲル化を検出する。混和液7を攪拌する代わりに、入射光の入射位置をガルバノミラー装置5などを用いて移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシンやβ−D−グルカンなど、カブトガニの血球抽出物(以下、「AL :Amoebocyte lysate」ともいう。)との反応によってゲル化する特性を有する生
物由来の生理活性物質を含有する試料中の該生理活性物質を検出しまたはその濃度を測定するための測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁に存在するリポ多糖であり、最も代表的な発熱性物質である。このエンドトキシンに汚染された輸液、注射薬剤、血液などが人体に入ると、発熱やショックなどの重篤な副作用を惹起するおそれがある。このため、上記の薬剤などは、エンドトキシンにより汚染されることが無いように管理することが義務付けられている。一方で、敗血症患者血液中のエンドトキシンを測定することにより、重篤なエンドトキシンショックの予防や治療に寄与することもある。
【0003】
注射薬などのエンドトキシン汚染を検出するための半定量的試験法として、従前は以下のような方法がとられることがあった。すなわち、体重1.5kg以上の健康なウサギの耳静脈に、37℃に加温した試料を注射し、注射後3時間まで30分以下の間隔で体温を測定する。注射の40分前から注射までの間に30分間隔で2回測定したウサギの体温の平均値を対象体温とし、対象体温と最高体温との差を体温上昇とする。
【0004】
3匹のウサギを用いて上記の体温上昇を測定し、3匹の体温上昇の合計によって次のような判定が行われる。まず、3匹の体温上昇の合計が1.3℃以下の場合は発熱性物質陰性とし、2.5℃以上の場合は発熱性物質陽性とする。そして、3匹の体温上昇の合計が1.3℃より大きく2.5℃未満である場合にはさらに3匹による試験を追加し、計6匹の体温上昇の合計が3.0℃以下の場合は発熱性物質陰性とし、4.2℃以上の場合は発熱性物質陽性とする。その際の温度上昇の合計が3.0℃より大きく4.2℃未満である場合には、さらに3匹による試験を追加し、計9匹の体温上昇が5.0℃未満であれば発熱性物質陰性とし、5.0℃以上であれば発熱性物質陽性とする。
【0005】
また、β−D−グルカンは真菌に特徴的な細胞膜を構成しているポリサッカライド(多糖体)である。β−D−グルカンを測定することによりカンジダやアスペルギルス、クリプトコッカスのような一般の臨床でよく見られる真菌のみならず、稀な真菌も含む広範囲で真菌感染症のスクリーニングなどに有効である。
【0006】
ところで、ALの中には、エンドトキシンやβ−D−グルカンなどによって活性化されるセリンプロテアーゼが存在する。そして、ALとエンドトキシンやβ−D−グルカンとが反応する際には、それらの量に応じて活性化されたセリンプロテアーゼによる酵素カスケードによって、AL中に存在するコアギュロゲンがコアギュリンへと加水分解されて会合し、不溶性のゲルが生成される。このALの特性を用いて、エンドトキシンやβ−D−グルカンを高感度に検出することが可能である。近年、このことを利用して、エンドトキシンなどの検出または濃度測定にALを用いる方法が考案されている。
【0007】
このエンドトキシンやβ−D−グルカンなどの、ALによって検出可能な生物由来の生理活性物質(以下、所定生理活性物質ともいう)の検出または濃度測定を行う方法としては、所定生理活性物質の検出または濃度測定(以下、単純に「所定生理活性物質の測定」ともいう。)をすべき試料とALを元に製造された試薬(AL試薬)とを混和した混和液を静置し、一定時間後に容器を転倒させて、試料の垂れ落ちの有無によりゲル化したかど
うかを判定し、試料に一定濃度以上のエンドトキシンが含まれるか否かを調べる半定量的なゲル化法がある。
【0008】
あるいは、所定生理活性物質の測定をすべき試料とALとを混和した混和液を37℃が維持された状態で静置し、ALと所定生理活性物質との反応によるゲルの生成に伴う試料の濁りを経時的に計測して解析する比濁法がある。この比濁法においては、測定開始後、透過率がある一定値以下に低下した時点をゲル化時間とする。定量は,ゲル化時間が検体中のエンドトキシン量と相関があることを利用する。すなわち、予め既知量のエンドトキシンが混入している複数の標準試料を測定して作成した検量線と、測定によって得られたゲル化時間とから、検体中のエンドトキシン量を算出する。
【0009】
上記の比濁法によって所定生理活性物質の測定を行う場合には、乾熱滅菌処理されたガラス製測定セルに測定試料とALとの混和液を生成させる。そして、混和液を静置してそのゲル化を外部から光学的に測定する。これに対し、AL試薬と混和した検体を攪拌しながら上記比濁法で測定する攪拌比濁法もある。この攪拌比濁法では、ガラス製測定セル内に入っている攪拌子を回転させることによって測定中も試料が攪拌される。そして、上記比濁法と同様、検量線法によって検体中のエンドトキシン量が算出される。攪拌比濁法では、測定中に試料を攪拌することによって上記の比濁法よりも迅速かつ安定に測定が可能である。
【0010】
また、試薬中に添加した凝固酵素に対する合成基質を予め入れておき、凝固酵素によって分解された合成基質が発色、あるいは、蛍光、さらには発光する現象を測定する方法があり、発色を利用した方法は比色法と呼ばれ、所定生理活性物質の重要な測定法の一つとして広く利用されている。比色法には、所定生理活性物質の濃度と、一定反応時間後における発色基の遊離量との間に相関関係があることを利用するエンドポイント−比色法や、所定生理活性物質の濃度と、混和液の収光度あるいは透過率がある一定の値に達するのに要する時間,または発色の経時変化率との間に相関関係があることを利用するカイネティック−比色法がある。
【0011】
さらに、測定試料とALと共に、表面にALが結合した微粒子(以下、AL結合ビーズともいう。)を含んだ混和液を生成させ、上記攪拌比濁法で測定するAL結合ビーズ法もある。このAL結合ビーズ法では、試料とAL及びAL結合ビーズの反応によって生じるAL結合ビーズの凝集に伴う試料の濁りを経時的に計測して解析する。このAL結合ビーズ法においては、測定開始後、透過率がある一定値以上に上昇した時点をゲル化時間とする。そして、上記攪拌比濁法と同様、検量線法によって検体中のエンドトキシン量が算出される。AL結合ビーズ法は、上記の比濁法や攪拌比濁法よりも迅速に測定をすることができる。これは主にAL結合ビーズ法では、コアギュリンより10から100倍以上大きいAL結合ビーズが凝集するため、透過率の変化が鋭敏となるためである。
【0012】
一方、測定試料とALとの混和液を例えば磁性攪拌子を用いて攪拌することにより、ゲル微粒子を生成せしめ、ゲル粒子により散乱されるレーザー光の強度から、試料中の所定生理活性物質の存在を短時間で測定できるレーザー光散乱粒子計測法(以下、単に光散乱法ともいう。)も提案されている。試料とALとの反応によってゲル粒子が生成され、反応が進行してそれらが互いに凝集すると、散乱光においてスパイク状のピーク信号が検出される。光散乱法においては、これらのピーク信号がある一定の頻度以上で検出した時点を凝集開始時間とする。上記ゲル化時間と同様、凝集開始時間は検体中のエンドトキシン量と相関があるので、これを利用して検量線法によって検体中のエンドトキシン量を算出する。光散乱法は,上記の比濁法や攪拌比濁法よりも迅速,高感度に測定をすることができる。これは主に光散乱法が、ゲル化の初期段階、すなわち、小さなゲル粒子が生成された時点でこれを検出することができることが要因である。光散乱法には、例えば、散乱光
の強度の増加率からエンドトキシン等の生理活性物質を検出し、また濃度を測定する方法などが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0013】
光散乱法では、ガラス製試料セル内に入っている攪拌子を回転させることによって,測定中も試料が攪拌されるが、攪拌の目的が攪拌比濁法とは異なる。光散乱法において攪拌が必要な理由は、生成されたゲル粒子がレーザービームを横切りピーク信号として検出されることが必要だからである。すなわち、光散乱法において攪拌をしない場合には、たとえばビーム上に目的の粒子が同じ位置に長い時間とどまってしまった場合に、見かけの散乱光が非常に高く出るだけでピーク信号として検出することができず、ゲル粒子の数を正確に測定できなくなるおそれがある。攪拌することでゲル粒子がビーム上に留まることなく、速やかに光軸から移動させ、粒子がビームを横切るときに散乱光ピーク信号を作り、はじめてゲル粒子数の測定が可能となるのである。
【0014】
ここで、上記した光散乱法のように、ガラス製試料セル内でAL試薬と試料の混和液を攪拌子によって攪拌する場合、反応曲線(ゲル粒子数(光散乱法))の形状が変化してしまい、測定によって得られるゲル化時間、あるいは凝集開始時間の精度が低下してしまう不都合が生じている(例えば、非特許文献1を参照。)。これらの不都合を回避するため、各測定法では、ゲル化時間、あるいは凝集開始時間を決定するアルゴリズムに工夫をこらし,多少の反応曲線の変化が生じても,測定結果に影響が及ばないようにしている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0015】
しかしながら、特に希薄な血漿製剤中のエンドトキシンや注射用水そのものを測定する場合などでは、上記の回避策が完全に機能せず、誤った結果が得られる場合があった。攪拌によって反応曲線の形状が変化する原因が特定できておらず,直接的な対策がされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2010−32436号公報
【特許文献2】特開2010−216878号公報
【特許文献3】国際公開第WO2008/038329号パンフレット
【特許文献4】特開2009−150723号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】高橋ら、「エンドトキシン散乱測光法を用いたエンドトキシン測定法の臨床応用における課題」、第14回エンドトキシン血症救命治療研究会プログラム・抄録集、p.29、2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的とするところは、カブトガニの血球抽出物であるALと生物由来の生理活性物質との反応に起因する凝集あるいはゲル化を(試料を攪拌することなく、)光学的に測定する、生物由来の生理活性物質の測定法において、より高い測定精度を得るための技術を提供することである。
【0019】
より詳しくは、光散乱法(AL結合ビーズ法を含む)によって試料中の生物由来の生理活性物質の濃度を測定する場合に、AL試薬と試料の混和液の攪拌に起因する、前記生理活性物質に由来しない凝集またはゲル化を生じさせることなく測定を行い、これにより、上記測定の測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、AL試薬と生物由来の生理活性物質を含む試料とを混和させ、混和液に光を入射させてその散乱光または透過光の強度に基づいて、該混和液におけるALと生物由来の生理活性物質との反応に起因する蛋白質の凝集またはゲル化を検出するものである。そして、混和液を攪拌する代わりに、入射光の入射位置を移動させることを最大の特徴とする。
【0021】
より詳しくは、カブトガニの血球抽出物であるALと所定の生物由来の生理活性物質を含む試料を混和し、生成された混和液におけるALと前記生理活性物質との反応に起因する蛋白質の凝集またはゲル化を検出することで、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは前記生理活性物質の濃度を測定する、生物由来の生理活性物質の測定方法であって、
前記試料とALとの混和液に光を入射するとともに該入射に係る入射位置を移動させ、
前記混和液からの散乱光または透過光の強度に基づいて、
前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定することを特徴とする。
【0022】
ここで、混和液の攪拌によって試料とAL試薬との反応曲線が変化する現象の原因が以下のものであることが明確になってきた。すなわち、生物由来の生理活性物質の含有量が非常に少ない試料を測定する場合は、攪拌によって、(1)AL試薬および/または試料
中に含まれる蛋白質同士が凝集し、あるいは、(2)攪拌に伴うずり応力(物理的刺激)によってプロクロッティング・エンザイムが切断・活性化され、クロッティング・エンザイムに変化し、生物由来の生理活性物質に由来しない凝集物が生成されることが見出された。
【0023】
この生物由来の生理活性物質に由来しない凝集は、光散乱法においてゲル粒子の発生と同様の信号として検出されてしまうため、反応曲線(タイムコース)の形状に影響を及ぼし、測定精度が低下し、誤計測をもたらす危険性があった。これに対し、攪拌をしないようにすれば良いかというと、そうではない。攪拌を止めてしまった場合には、先述のとおり、生成されたゲル粒子が試料に入射したレーザービームを横切って、散乱光信号がピーク形状を示すという測定原理が成立しなくなってしまい、結局従来の測定法に戻ることになってしまう。
【0024】
これに対し本発明者らは、測定精度を下げる原因となっている混和液の攪拌を行わず、ただし攪拌することの作用を失うことなく、散乱光または透過光の強度を測定する手法を発明した。すなわち本発明は、試料とAL試薬との混和液中に測定用の光を入射するとともに前記入射光の入射位置を移動させつつ、その散乱光または透過光の強度を取得することとした。そして、取得された散乱光または透過光の強度変化に基づいて、試料中の生理活性物質を検出しまたは濃度を測定することとした。
【0025】
これによれば、生物由来の生理活性物質の検出あるいは濃度測定を行う場合に、攪拌によって、(1)AL試薬および/または試料中に含まれる蛋白質同士が凝集し、あるいは
、(2)攪拌に伴うずり応力(物理的刺激)によってプロクロッティング・エンザイムが切断・活性化され、クロッティング・エンザイムに変化し、生物由来の生理活性物質に由来しない凝集物が生成されることを防止することができる。また、ビーム上に目的のゲル粒子が存在した場合、同じ位置に長い時間とどまってしまい、見かけの散乱光が非常に高く出るだけでピーク信号を形成しないという不都合も抑制することができる。その結果、ALと生物由来の生理活性物質との反応に起因する凝集あるいはゲル化を光学的に測定する、生物由来の生理活性物質の測定法において、より高い測定精度を得ることが可能となる。なお、入射光の入射位置を移動させる方法としては、ガルバノミラーやニポウディスク、MEMSによる共振ミラー等を用いて、入射光の入射方向を変化させることが例示で
きる。
【0026】
また、本発明においては、前記試料とALとの混和液に光を入射するとともに走査させることで前記入射位置を移動させるようにしてもよい。これによれば、入射位置を連続的に移動させながら、混和液からの散乱光または透過光を取得することができ、より確実に、ゲル粒子の滞在により、見かけの散乱光が非常に高く出るだけでピーク信号を形成しないという不都合を抑制することが可能となる。
【0027】
また、本発明においては、ALと前記試料との混和時または該混和から所定時間経過後における前記散乱光または透過光の強度に対する、前記散乱光または透過光の強度の変化が所定の閾値を越えるまでの時間から、
前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定するようにしてもよい。
【0028】
すなわち、混和液における前記生理活性物質とALとの反応が進み微粒子の数及び大きさが増加してきた場合には、入射位置を移動させつつ取得した散乱光または透過光の平均的な強度が変化する。従って、ALと前記試料との混和時または所定時間経過後における散乱光または透過光の強度に対する、その後の散乱光または透過光の強度の変化が所定の閾値を越えるまでの時間から、試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定することが可能である。これによって、より確実に、試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定することができる。なお、ここにおいて所定の閾値とは、ALと前記試料との混和時または所定時間経過後における散乱光または透過光の強度に対する、散乱光または透過光の強度の変化がこの値を越えた場合には、混和液における前記生理活性物質とALとの反応が進み微粒子の数及び大きさが増加した(凝集開始時間)と判断できる光強度の変化の値であり、予め実験などにより定めておいてもよい。
【0029】
また、本発明においては、前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであってもよい。
【0030】
そうすれば、最も代表的な発熱性物質であるエンドトキシンの検出または濃度測定がより正確に行なえ、エンドトキシンに汚染された輸液、注射薬剤、血液などが人体に入り、副作用が惹起されることを抑制できる。同様に、β−D−グルカンの検出または濃度測定がより正確に行なえ、カンジダやスペルギルス、クリプトコッカスのような一般の臨床でよく見られる真菌のみならず、稀な真菌も含む広範囲で真菌感染症のスクリーニングをより正確に行なうことが可能となる。
【0031】
また、本発明は、カブトガニの血球抽出物であるALと所定の生物由来の生理活性物質を含む試料を混和し、生成された混和液におけるALと前記生理活性物質との反応に起因する蛋白質の凝集またはゲル化を検出することで、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは前記生理活性物質の濃度を測定する、生物由来の生理活性物質の測定装置であって、
前記試料とALとの混和後において、前記試料とALとの混和液に光を入射するとともに該入射に係る入射位置を移動させる光入射手段と、
前記混和液からの散乱光または透過光を受光し、電気信号に変換する受光手段と、
前記電気信号から得られる、前記散乱光または透過光の強度に基づいて、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を導出する導出手段と、
を備えることを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定装置であってもよい。
【0032】
また、その場合、光入射手段は、試料とALとの混和液に光を入射するとともに走査させることで入射位置を移動させるようにしてもよい。また、前記導出手段は、ALと前記試料との混和時または該混和から所定時間経過後における前記散乱光または透過光の強度
に対する、前記散乱光または透過光の強度の変化が所定の閾値を越えるまでの時間から、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を導出するようにしてもよい。また、前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであってもよい。
【0033】
なお、上記した本発明の課題を解決する手段については、可能なかぎり組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明にあっては、比濁法、光散乱法、あるいはAL結合ビーズ法によって試料中の生物由来の生理活性物質の濃度を測定する場合に、AL試薬と試料の混和液の攪拌に起因する、前記生理活性物質に由来しない凝集またはゲル化を生じさせることなく測定を行い、これにより、上記測定の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例1における光散乱粒子計測装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1における光散乱粒子計測装置における、ガルバノミラー装置の作動について説明するための図である。
【図3】本発明の実施例1における光散乱粒子計測装置によって得られる散乱光強度情報について説明するための図である。
【図4】本発明の実施例2における光散乱粒子計測装置の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例3における光散乱粒子計測装置の概略構成を示す図である。
【図6】本発明の実施例4における光散乱粒子計測装置の概略構成を示す図である。
【図7】エンドトキシンまたはβ―D−グルカンにより、ALがゲル化する過程及び、その検出方法について説明するための概略図である。
【図8】従来の光散乱粒子計測装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いつつ説明する。なお、以下の説明においては、所定生理活性物質としてエンドトキシンを例にとって説明するが、以下の説明はβ−D−グルカンなど他の生理活性物質にも適用可能である。
【0037】
〔実施例1〕
ALとエンドトキシンとが反応してゲルが生成される過程(以下、リムルス反応ともいう。)はよく調べられている。すなわち、図7に示すように、エンドトキシンがAL中のセリンプロテアーゼであるC因子に結合すると、C因子は活性化して活性型C因子となり、活性型C因子はAL中の別のセリンプロテアーゼであるB因子を加水分解して活性化させ活性化B因子とする。この活性化B因子は直ちにAL中の凝固酵素の前駆体を加水分解して凝固酵素とし、さらに、この凝固酵素がAL中のコアギュロゲンを加水分解してコアギュリンを生成する。そして、生成したコアギュリンが互いに会合して不溶性のゲルをさらに生成し、AL全体がこれに巻き込まれてゲル化すると考えられている。
【0038】
また、同様にβ−D−グルカンがAL中のG因子に結合すると、G因子は活性化して活性型G因子となる、活性型G因子はAL中の凝固酵素の前駆体を加水分解して凝固酵素とする。その結果、エンドトキシンとALとの反応と同様、コアギュリンが生成され、生成したコアギュリンが互いに会合して不溶性のゲルをさらに生成する。
【0039】
この一連の反応は哺乳動物に見られるクリスマス因子やトロンビンなどのセリンプロテアーゼを介したフィブリンゲルの生成過程に類似している。このような酵素カスケード反応はごく少量の活性化因子であっても、その後のカスケードを連鎖して活性化していくた
めに非常に強い増幅作用を有する。従って、ALを用いた所定生理活性物質の測定法によれば、サブピコグラム/mLオーダーのきわめて微量の所定生理活性物質を検出することが可能になっている。
【0040】
エンドトキシンならびにβ―D−グルカンを定量するための試薬としては、カブトガニの血球抽出物(AL:Amoebocyte lysate)を原料としたリムルス試薬、ならびに、リムルス試薬に凝固酵素により加水分解され着色強度、蛍光強度、または化学発光強度のいずれかが増加する合成基質を添加した試薬が使用される。また、リムルス試薬中のC因子の組換え体(リコンビナントC因子)とその合成基質(着色、蛍光、化学発光かの手段は問わない)の混合試薬などが使用される場合もある。さらに、リムルス試薬中のG因子の組換え体(リコンビナントG因子)とその合成基質(着色、蛍光、化学発光かの手段は問わない)の混合試薬などを使用することも可能である。
【0041】
エンドトキシンやβ−D−グルカンなどの所定生理活性物質とALとの反応に起因して変化する物理量は、試薬の種類に応じて選択すればよい。試料の光透過率または、濁度、散乱光強度、光散乱粒子数、吸光度、蛍光強度、化学発光強度などの光学的な物理量の変化を検出するか、試料のゲル化に伴う試料の粘性、電気伝導度などの物理量の変化を検出すればよい。これらの物理量の検出には、濁度計、吸光光度計、光散乱光度計、レーザー光散乱粒子計測計、蛍光光度計、フォトンカウンターなどの光学機器、ならびに、これらを応用した専用の測定装置を使用することができる。また、粘度計、電気伝導率計やこれらを応用した専用の測定装置を使用しても構わない。
【0042】
所定生理活性物質を定量する測定法としては前述のように攪拌比濁法ならびに光散乱法が挙げられる。図7に示すように、これらの測定法はALの酵素カスケード反応によって生成されるコアギュリンの会合物を前者は試料の濁りとして、後者は系内に生成されるゲル粒子の数として検出することで、高感度な測定を可能にしている。
【0043】
次に、図8を用いて、従来用いられている光散乱粒子計測装置について簡単に説明する。従来の光散乱粒子計測装置101においては、光源102から照射された光は、入射光学系103で絞られ、試料セル104に入射する。この試料セル104にはエンドトキシンの測定をすべき試料とAL試薬の混和液が保持されている。試料セル104に入射した光は、混和液によって散乱される。
【0044】
試料セル104の、入射光軸の側方には出射光学系105が配置されている。また、出射光学系105の光軸の延長上には、試料セル104内の混和液中の粒子で散乱され出射光学系105で絞られた散乱光を受光し電気信号に変換する受光素子106が配置されている。受光素子106には、受光素子106で光電変換された電気信号を増幅する増幅回路107、増幅回路107によって増幅された電気信号からノイズを除去するためのフィルタ108、ノイズが除去された後の電気信号のピーク数からゲル粒子数を演算し、さらにゲル化検出時間を判定してエンドトキシンの濃度を導出する演算装置109及び、結果を表示する表示器110が電気的に接続されている。
【0045】
また、試料セル104には、外部から電磁力を及ぼすことで回転し、試料としての混和液を攪拌する攪拌子111が備えられており、試料セル104の外部には、攪拌器112が備えられている。これらにより、攪拌の有無及び攪拌速度の調整が可能となっている。
【0046】
上記の光散乱粒子計測装置101においては、リムルス反応の最終段階であるコアギュリンゲル粒子の出現時間(ゲル化検出時間=ゲル化時間)を測定し、エンドトキシン濃度とゲル化検出時間の間に成立する検量関係を用いて検体中のエンドトキシン濃度を算出する。しかしながら、実際には、低濃度に調製したエンドトキシン溶液または注射用水を測
定した場合など、低濃度の領域において測定結果が検量線から外れる傾向があった。そして、上記の検量線を用いてそのまま判定を行うと、エンドトキシン濃度の測定値は本来の濃度よりも高めとなり、偽陽性判定が生じるおそれがあった。
【0047】
発明者らは、上記の低濃度の領域において測定結果が検量線から外れるのは、試料とAL試薬との混和液の攪拌によって非エンドトキシン由来の凝集物が生成され、リムルス反応の反応曲線が変化することが原因であることを発見した。また、発明者らは、試料とAL試薬との混和液の攪拌によって非エンドトキシン由来の凝集物が生成される理由が以下の点であるという知見を得た。
【0048】
すなわち、上記の理由は、(1)エンドトキシン濃度が非常に低い試料を測定する場合、攪拌によってAL試薬内の蛋白質どうし、試料中に含まれるタンパク質どうし、または、AL試薬内の蛋白質と試料中に含まれるタンパク質とが凝集すること。(2)攪拌に伴うずり応力(物理的刺激)によってプロクロッティング・エンザイムが切断されて擬似的に活性化され、クロッティング・エンザイムに変化すること。あるいは、(1)、(2)の両方の現象であることが判ってきた。また、この非エンドトキシン由来の凝集は、攪拌比濁法及び光散乱法においてゲル粒子と同様の信号として検出されてしまうため、反応曲線(タイムコース)の形状に影響を及ぼし、計測結果の精度を低下させる原因となることが実験によって確認された。
【0049】
上記の不都合を解決するために、本実施例においては、試料とAL試薬との混和液の攪拌を行わず、その代わりに、試料セルに入射する入射光の方を走査して入射位置(測定ポイント)を変化させ、移動する入射位置(測定ポイント)からの散乱光の強度を取得し、当該散乱光の強度の時間的変化により、試料中のエンドトキシンを検出しまたはエンドトキシンの濃度を測定することとした。
【0050】
図1には、本実施例における光散乱粒子計測装置1の概略構成を示す。光散乱粒子計測装置1において、光源2にはレーザー光源が用いられているが、他に、超高輝度LEDなどを用いてもよい。光源2から出た入射光はレンズ系3で絞られ、次にガルバノミラー装置5のミラー5bに入射する。このガルバノミラー装置5は、モータ5a及びモータ5aの出力軸5cに固定されたミラー5bを含んで構成されている。
【0051】
入射光は、ミラー5bによって反射されるが、図2に示すように、モータ5aが駆動されることによってミラー5bの角度θ1が変化するため、ミラー5bにより反射された後の入射光の角度θ2は、モータ5aを制御することによって変化する。本実施例においては、モータ5aの出力軸5cは水平方向に配置されており、モータ5aはミラー5bを揺動運動させるように制御されるので、ミラー5bにより反射された後の入射光は、垂直方向(図中紙面に垂直方向)に往復運動する。入射光はエンドトキシンの測定をすべき試料とAL試薬の混和液7が保持されている試料セル6に入射されるので、結果として、入射光は試料セル6内の混和液7中を高さ方向(紙面に垂直方向)に走査するよう制御される。
【0052】
入射光は試料セル6内の混和液7中に入射され、混和液中の微粒子(コアギュロゲンモノマー、ならびに、コアギュロゲンオリゴマーなどの測定対象)により散乱される。その散乱光はレンズ系8、マスク9、レンズ系10を経て受光素子11にて受光される。この受光素子11は例えばフォトダイオード(PD)により構成されている。受光素子11には信号処理回路12が電気的に接続されており、受光素子11において電気信号に変換された散乱光強度は、信号処理回路12にて増幅、フィルタリングなどされた上で演算装置13に入力される。演算装置13においては、散乱光強度信号に基づき、エンドトキシンの存在の有無あるいはエンドトキシンの濃度が演算される。また、散乱光強度の値及び演
算結果が記録される。この演算装置13はパーソナルコンピュータによって構成されてもよい。演算装置13で記録された散乱光強度の値及び演算結果は、表示装置16において適宜表示される。
【0053】
なお、上記において、光入射手段は、光源2、レンズ系3、ガルバノミラー装置5を含んで構成される。また、受光手段は、受光素子11を含んで構成される。導出手段は演算装置13を含んで構成される。
【0054】
次に、図3を用いて、入射光の一回の走査によって得られる散乱光強度のデータについて説明する。図3(a)に示すように、光路中に設けられたマスク9により、走査範囲の周辺部の光は遮断され、走査時に受光素子11が散乱光を受光する範囲が規制される。受光素子11で得られるデータは例えば図3(b)、(c)のようになる。図3(b)に示したのは、試料にAL試薬を混和した際(混和し、試料セル6を図示しない試料セルホルダにセットした時点)の散乱光強度信号である。図3(c)に示したのは、試料とAL試薬との混和後、ある程度の時間が経過した後に得られた散乱光強度信号である。マスク部分に該当する散乱光強度はバックグラウンドレベルAであり、バックグラウンドレベルAと混和液7からの散乱光強度BまたはCとの差が実際の散乱光強度となる。
【0055】
本実施例においては、試料にAL試薬を混和した時点(混和し、試料セル6を図示しない試料セルホルダにセットした時点)を測定開始時とする。ガルバノミラー装置5による入射光の走査は測定開始以降連続して行われ、その都度散乱光強度のデータが演算装置13において蓄積される。エンドトキシンを含む試料とAL試薬とを混和すると、エンドトキシンとALとの反応によりコアギュリンモノマーが形成され、やがてそれが凝集し、それらが互いに架橋することによってゲルのネットワークを形成してゲル化していく。
【0056】
従って本実施例では、測定開始時から図3(b)の段階から時間が経過すると図3(c)に示すような状態となる。図3(b)及び図3(c)で示した波形中のピークは、凝集によって大きくなった凝集塊からの散乱光信号を示している。図3(b)及び図3(c)における実際の散乱光強度の値(図3(b)中の散乱光強度BからバックグラウンドレベルAを差し引いた値あるいは、図3(c)中の散乱光強度CからバックグラウンドレベルAを差し引いた値)は、コアギュリンモノマー凝集による散乱光の強度を示しており、時間が経過することによって増加していく。
【0057】
なお、図3(b)及び図3(c)に示す段階ではモノマー凝集の大きさは光の波長よりも小さいため、凝集はまだ粒子としては認識されず散乱光はレイリー散乱によるものと考えられる。従って、この段階ではピークの数及び高さが増加するというよりは、散乱光強度が時間の経過とともに平均的に増加する。本実施例においては、図3(b)で得られた測定開始時における散乱光強度Bと、図5(c)で得られたその後の散乱光強度Cとの差分が閾値を越えるまでに要した時間(凝集開始時間)から、エンドトキシン濃度の判定を行う。
【0058】
より具体的には、凝集開始時間とエンドトキシン濃度との関連を求めて予め検量線を作成しておき、実際に測定した試料における凝集開始時間と検量線とによって、エンドトキシンの濃度(存在の有無を含めて)を測定する。
【0059】
以上のように、本発明においては、試料とAL試薬とを混和して測定を開始した後に、混和液を攪拌する代わりに、測定のための入射光を走査させて入射位置(測定ポイント)を移動させることとした。従って、目的のゲル粒子がビーム上に長い時間とどまってしまい、見かけの散乱光が非常に高く出てしまうだけでピーク信号を形成しないという不都合を抑制することができ、測定精度を向上させることができる。また、同時に、混和液の攪
拌に起因する非エンドトキシン由来の凝集の発生を防止でき、反応曲線(タイムコース)の形状の変化により測定精度が低下することを抑制することができる。
【0060】
また、従来の光散乱法では、ゲル粒子が数十μm程度の大きさになった際の、当該粒子からの散乱光を取得していたため、測定開始から粒子からの散乱光にピークが観察され始めるまでにある程度の時間が必要という不都合があった。これに対し、本発明においては、数nm程度のコアギュリンモノマーが凝集して数十〜数百nm程度の大きさ(波長よりも短い長さ)になったときの散乱光の変化の度合いを測定しているので、従来よりも早い段階で試料検体中のエンドトキシン濃度を測定することが可能となる。
【0061】
なお、上記の実施例においては、試料にAL試薬を混和した時点(混和し、試料セル6を図示しない試料セルホルダにセットした時点)を測定開始時としたが、この測定開始時は上記に限られない。試料にAL試薬を混和した時点から所定時間(例えば10秒、1分など)経過した後の時間を測定開始時としても構わない。これについては測定の遂行上好都合な時間を定義することが可能である。
【0062】
〔実施例2〕
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例においては、二個のガルバノミラー装置により、入射光を二次元的に走査する例について説明する。なお、本実施例においては、他の実施例との相違点についてのみ説明し、他の実施例と同等の構成については同じ符号を付するとともに説明は省略する。
【0063】
図4には、本実施例における光散乱粒子計測装置20の概略構成を示す。光散乱粒子計測装置20と、実施例1で示した光散乱粒子計測装置1との相違点は、光散乱粒子計測装置20では、ガルバノミラー装置5の他に、ガルバノミラー装置15を備え、合計2つのガルバノミラーを2つ備えている点である。
【0064】
ガルバノミラー装置5は、実施例1と同様試料セル6の高さ方向(紙面に垂直方向)に入射光を走査させる機能を有する。一方、ガルバノミラー装置15は、試料セル6の幅方向(紙面に平行方向)に入射光を走査させる機能を有している。従って、ガルバノミラー装置5とガルバノミラー装置15とを同期させて制御することで、入射光を試料セル6の幅方向と高さ方向に対して2次元的に走査することが可能となる。これにより、試料セル6内の混和液7の全体に対して入射光を走査でき、入射位置(測定ポイント)をより広い範囲で移動させることが可能である。その結果、より広い範囲からの平均的な散乱光強度の情報を得ることができ、測定精度を向上させることが可能となる。
【0065】
〔実施例3〕
次に、本発明の実施例3について説明する。本実施例においては、入射光を走査させるためにニポウディスクを用いた例について説明する。本実施例における光散乱粒子計測装置30の概略構成を図7に示す。本実施例における光散乱粒子計測装置30では、入射光を走査させるための機構として、ガルバノミラー装置ではなくニポウディスク装置25が用いられている。なお、本実施例においても、他の実施例との相違点についてのみ説明し、他の実施例と同等の構成については同じ符号を付するとともに説明は省略する。
【0066】
ニポウディスク装置25において、モータ25aは、螺旋状に分布したピンホール(不図示)が設けられたニポウディスク25bを回転させる。ニポウディスク25bには、螺旋状に複数のピンホールが設けられているため、これを回転させることにより、試料セル6において測定ポイントを二次元的に走査することができる。なお、ニポウディスク装置25の駆動制御は演算装置13からの指令に基づいて行われる。また、ニポウディスク25bの回転角度情報はロータリエンコーダ(不図示)などのセンサによって検出され、演
算装置13に入力される。
【0067】
本実施例では、光源2から出射された光はレンズ系3を通過して絞られ、光ファイバ21の入射端面21a上に集光される。入射光は光ファイバ21内を伝搬して光ファイバ21の出射端面21bから出射される。光ファイバ21から出射された光はレンズ系22で絞られる。そして、絞り23を通過した後、さらにレンズ系24で平行光にされることでビーム径が拡大される。この拡大された入射光によってニポウディスク25bにおけるピンホール分布領域が照射される。ニポウディスク25b上のピンホールを通過した入射光は、レンズ系27によって試料セル6内の混和液7中に集光される。ニポウディスク25bの回転に伴い、拡大された入射光で照射されるピンホールの位置が見掛け上移動するので、混和液7中で入射光が集光される入射位置(測定ポイント)も移動することになる。混和液7において散乱された散乱光の処理については実施例1と同等であるので、ここでは説明を省略する。
【0068】
以上、説明したとおり本実施例では、入射光を試料セル6内の混和液7中で走査させるために、ニポウディスク装置25を用いた。従って、より簡単な機構と簡単な制御によって、入射光を2次元的に走査させることができ、入射位置(測定ポイント)を混和液7中で二次元的に変化させることが可能となる。
【0069】
〔実施例4〕
次に、本発明の実施例4について説明する。本実施例は、入射光を試料セル6内の混和液7中で走査させるために、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)による2次元走査装置を用いた例について説明する。なお、本実施例においても、他の実施例との相違点についてのみ説明し、他の実施例と同等の構成については同じ符号を付するとともに説明は省略する。
【0070】
図6には、本実施例における光散乱粒子計測装置40の概略構成を示す。光散乱粒子計測装置40においては、光ファイバ21から出射した入射光は、レンズ系31で絞られてMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の一例としてのDMD(Digital Micromirror Device)32のミラー32a上に照射される。このミラー32aは、ベース32bに対して水平ヒンジ32c、垂直ヒンジ32dによって結合されており、外部からの電圧印加によって生じる静電引力により、水平方向及び垂直方向に傾斜が可能になっている。
【0071】
このDMD32を演算装置13からの指令信号に基づいて駆動することによりミラー32aの傾斜を制御し、ミラー32aから反射される光の方向を制御する。ミラー32aから反射された光はレンズ系33により絞られ、試料セル6内の混和液7中に集光される。そして、その集光点である入射位置(測定ポイント)はミラー32aの制御により、2次元的に変化させることが可能であり、入射光を2次元的に走査することが可能になっている。
【0072】
以上のとおり本実施例では、入射光を試料セル6内の混和液7中で走査させるために、DMD32を用いた。このDMD32は非常に高速な動きが可能であるので、簡単な機構と簡単な制御によって非常に高速に、入射光を2次元的に走査させることが可能となる。
【0073】
また、図6では、ミラー32aが単独で存在する例について説明したが、複数のミラー32aがベース32b上に配列されたDMD32を用いても構わない。この場合、複数のミラー32aを独立に制御することで、多チャンネルで、複数の入射光を一度に混和液7中で走査させることが可能となる。これにより、より多くの散乱光強度情報を一度に取得可能となり、測定の迅速化を図ることが可能となる。
【0074】
上記の実施例においては、試料セル6内の混和液7による散乱光の強度に基づいて、エンドトキシンの検出または濃度測定を行う例について説明したが、散乱光の強度の代わりに透過光の強度に基づいて、エンドトキシンの検出または濃度測定を行っても構わない。すなわち、この場合には、エンドトキシンとALとの反応が進むにつれて、散乱光が増加することに伴い透過光が減少することを検出し、この透過光の減少量が所定の閾値を越えるまでの時間に基づいて、エンドトキシンを検出あるいは濃度測定を行うようにすればよい。上記の実施例の全ては、透過光の強度に基づいてエンドトキシンの検出または濃度測定を行う場合に適用可能である。
【0075】
また、上記の実施例においては、入射光を走査することにより入射位置を移動させる例について説明したが、入射光の入射位置を移動させる方法は走査に限られない。例えば、断続的に、ランダムな位置に入射光を入射しても構わない。このような方法、装置においても、上記実施例と同様な効果を得ることは可能である。
【符号の説明】
【0076】
1・・・光散乱粒子計測装置
2・・・光源
3・・・レンズ系
5・・・ガルバノミラー装置
6・・・試料セル
7・・・混和液
8・・・レンズ系
9・・・マスク
10・・・レンズ系
11・・・受光素子
12・・・信号処理回路
13・・・演算装置
15・・・ガルバノミラー装置
16・・・表示装置
20・・・光散乱粒子計測装置
21・・・光ファイバ
22・・・レンズ系
23・・・絞り
24・・・レンズ系
25・・・ニポウディスク装置
27・・・レンズ系
30・・・光散乱粒子計測装置
31・・・レンズ系
32・・・DMD
33・・・レンズ系
40・・・光散乱粒子計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カブトガニの血球抽出物であるALと所定の生物由来の生理活性物質を含む試料を混和し、生成された混和液におけるALと前記生理活性物質との反応に起因する蛋白質の凝集またはゲル化を検出することで、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは前記生理活性物質の濃度を測定する、生物由来の生理活性物質の測定方法であって、
前記試料とALとの混和液に光を入射するとともに該入射に係る入射位置を移動させ、
前記混和液からの散乱光または透過光の強度に基づいて、
前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定することを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項2】
前記試料とALとの混和液に光を入射するとともに走査させることで前記入射位置を移動させることを特徴とする請求項1に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項3】
ALと前記試料との混和時または該混和から所定時間経過後における前記散乱光または透過光の強度に対する、前記散乱光または透過光の強度の変化が所定の閾値を越えるまでの時間から、
前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定することを特徴とする請求項2に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項4】
前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項5】
カブトガニの血球抽出物であるALと所定の生物由来の生理活性物質を含む試料を混和し、生成された混和液におけるALと前記生理活性物質との反応に起因する蛋白質の凝集またはゲル化を検出することで、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは前記生理活性物質の濃度を測定する、生物由来の生理活性物質の測定装置であって、
前記試料とALとの混和後において、前記試料とALとの混和液に光を入射するとともに該入射に係る入射位置を移動させる光入射手段と、
前記混和液からの散乱光または透過光を受光し、電気信号に変換する受光手段と、
前記電気信号から得られる、前記散乱光または透過光の強度に基づいて、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を導出する導出手段と、
を備えることを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項6】
前記光入射手段は、前記試料とALとの混和液に光を入射するとともに走査させることで前記入射位置を移動させることを特徴とする請求項5に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項7】
前記導出手段は、ALと前記試料との混和時または該混和から所定時間経過後における前記散乱光または透過光の強度に対する、前記散乱光または透過光の強度の変化が所定の閾値を越えるまでの時間から、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を導出することを特徴とする請求項6に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項8】
前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであることを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−255679(P2012−255679A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127980(P2011−127980)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】