説明

生物由来サンプルの選択的処理のためのフルオラス標識化

本発明は、プロテオミクスおよびメタボロミクスサンプルなどの生物由来サンプルの複合体の調製、分離、および分析のためのフルオラスベースの方法および組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2003年11月14日出願の米国仮特許出願第60/520,736号明細書および2004年9月22日出願の同第60/612,345号明細書に関する。本特許出願は、35U.S.C.第119条(e)および他の適用可能な法律または規則に従ってこれらの出願の優先権、および利益を請求する。
【0002】
技術分野
本発明は、プロテオミクスおよびメタボロミクスサンプルなど複合サンプルの分析のためのフルオラスベースの方法、および関連フルオラス組成物に関する。
【0003】
著作権通知
37C.F.R.1.71(e)に従い、出願人は、本開示の一部が著作権保護対象である材料を含むことに言及する。著作権所有者は、特許商標庁の特許ファイルまたは記録に現れているように、特許文献または特許開示のいずれかによる複製に異議はないが、そのほかの点では、すべての著作権を何であれ留保する。
【背景技術】
【0004】
プロテオミクスは、「さらに生物過程を解明する異なる条件下のプロテオーム(すなわち、ゲノム補完するタンパク質)の質的および量的比較」として定義される(例えば、the proteomics_ def.html at us.expasy.orgを参照)。したがって、プロテオミクス研究は、いかにタンパク質が互いに、その環境、および他の分子と相互作用するかの検査を含む。同じように、メタボロミクスは、栄養素、ビタミン、抗酸化剤、および他のレドックス成分、シグナル変換、および調節に関与するさまざまな分子(例えば、ヌクレオチド、ホルモン、神経伝達物質など)、代謝の副産物、廃棄物、非内因性成分(例えば、医薬品およびその誘導体)などを含むが、これらに限定されない細胞(または組織もしくは臓器など多細胞構成物)の小分子成分/目録の検査および分析である。細胞タンパク質および/または代謝産物構成要素のプロファイリングから生成される情報は、多くの目的ために使用されうるが、その多くは疾患および健康の基礎をなす特徴の理解の発展に焦点が当てられる。
【0005】
1990年代初期における生物質量分析(MS)の導入およびその迅速なその後の発展は、細胞組成物およびそれらが関与する過程を特徴づける研究者の能力を大幅に増大させた(例えば、カラス(Karas)とヒレンカンプ(Hillenkamp)(1988年)、Anal.Chem.60:2299−2301頁、およびフェン(Fenn)ら(1989年)Science 246:64−71頁を参照。しかし、所定時間で生物によって発現されたタンパク質のすべての徹底的な分析(すなわち、プロテオーム)、または無数の代謝中間物、シグナル変換、および所定の時点で細胞に存在する他の小分子の状態(メタボローム)は理解しにくいままである。RNAプロセッシング、タンパク質分解活性化、および無数の(しばしば半化学量論的)翻訳後修飾(PTM)などの過程は、結果として限られた数の遺伝子からの独自の構造および機能の無数のタンパク質の生成をもたらし、さらに、無数の生化学経路がさまざまな細胞代謝産物の生成およびプロセッシングに関与しうる。また、検出感度の問題がある。すなわち、例えば、複雑な生体は、酵母では推定値10〜血漿で10〜1012のタンパク質発現レベルのきわめてダイナミックレンジを示す(フッチャー(Futcher)ら(1999年)Mol.Cell Biol.19:7357−7368頁、コールタールス(Corthals )ら(2000年)Electrophoresis 21:1104−1115頁)こうして生物サンプルにおいて固有の極端な複雑性により、プロテオミクスおよびメタボロミクス研究は、その代わりに全体的なタンパク質または代謝産物補完物のサブセットのみに焦点を当てる。
【0006】
サンプル単純化のための無数の方法が積極的に使用されている。例えば、異なる可溶性などその物理特性に基づくタンパク質サンプルの初期画分(ヌーェンス(Nouwens)ら(2000年)Electrophoresis 21:3797−3809頁、テイラー(Taylor)ら(2000年)Electrophoresis 21:3441−3459頁)、等電点(ヘルベルト(Herbert)とリゲッティ(Righetti)(2000年)Electrophoresis 21:3639−3648頁)、または細胞内部位(テイラー(Taylor)ら(2003年)Trends Biotechnol.21:82−88頁)が記載されている。同様に、複合サンプルにおける化学成分によって示される特定の化学官能価に基づく画分スキームも記載されており、一般に2つのクラスに分類される。一部の方法においては、特定の化学官能基と直接相互作用するエンティティは、サンプルの残りからこの官能基を含有するサンプル成分の直接の富化/単離をももたらす。この画分法の実施形態は、リン酸化種の固定化金属親和性クロマトグラフィー(IMAC)富化(フィカロ(Ficarro)ら(2002年)Nature Biotechnol.20:301−305頁)、無数の官能価の捕捉試薬ベースの富化(パンデイ(Pandey)ら(2000年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:179−184頁、ニコフ(Nikov)ら(2003年)Anal.Biochem.320:214−222頁)、または対応するレクチンを使用するさまざまなグリコシル化種の富化(ゲング(Geng)ら(2001年)J.Chromatogr.B Biomed.Sci.Appl.、752:293−306頁)を含む。きわめて有効ではあるが、これらの方法は各特定の官能基に対する個別の富化および単離試薬の開発を必要とする。
【0007】
あるいは、サンプルを化学的に変更し、分析処置を支援することができる。例えば、タンパク質分解サンプルにおけるN末端ペプチドの分析は、試薬2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸を使用する内部ペプチドの疎水性を変更することによって着手されうる(例えば、ゲバルト(Gevaert)ら「Exploring proteomes and analyzing protein processing by mass spectrometric identification of sorted N−terminal peptides」(2003年)J.Nat.Biotechnol.21:566−569頁に記載)。同じように、2,4−ジニトロフルオロベンゼンを使用し、架橋ペプチドを識別するために加水分解されたリシン保護タンパク質のN末端をタギングすることができる(例えば、チェン(Chen)ら(1999年)「Protein cross−links: universal isolation and characterization by isotopic derivatization and electrospray ionization mass spectrometry」Anal.Biochem.273:192−203頁を参照)。別の方法においては、選択された親和性部分に結合された異なる化学反応性部分を有し、一般的な単離(例えば、親和性ベースの)方法を使用する特定のサンプル画分の容易な富化を可能にする一連の二重官能基試薬が使用される。この方法を使用することにより、特定のアミノ酸を含有する画分の富化(ギジ(Gygi)ら(1999年)Nature Biotechnol.17:994−999頁)、翻訳後修飾(ゴーシュ(Goshe )ら(2001年)Anal.Chem.73:2578−2586頁)、化学架橋(トレスター・ツェードリッツ(Trester−Zedlitz)ら(2003年)J.Am.Chem.Soc.125:2416−2425頁)、または特定の酵素活性(キャンベル(Campbell)とサンデニングス(Szardenings)(2003年)Curr.Opin.Chem.Biol.7:296−303頁)が記載されている。圧倒的多数のプロテオミクスの場合、ビオチン−ストレプトアビジンなど伝統的な生化学親和性ペアが使用され、標準種の単離をもたらす。有効ではあるが、使用されるカスタム試薬は比較的高価であり、生物由来サンプルの使用におけるすべての典型的な制限を受ける。
【0008】
ビーズ結合化学官能価に基づく追加の単離法が当該技術で周知である。これらには特定の化学官能価、アミノ酸残基など成分要素に特異的な反応、および特定の翻訳後修飾が含まれる。非結合種の除去後、固相で捕捉されるペプチドは捕捉試薬へ化学的にデザインされた特殊放出機構を使用して選択的に回収される。当該技術に記載された開裂法の例としては、光化学開裂(チョウ(Zhou)ら(2002年)Nat.Biotechnol.20:512−515頁、チエン(Qien)ら(2003年)Anal.Chem.75:5441−5450頁)、酸に不安定な開裂(チエン(Qien)ら(2002年)Anal.Chem.74:4969−4979)、または化学試薬誘発開裂(ワング(Wang)ら(2002年)J.Chromatogr.A 949: 153−162、シェン(Shen)ら(2003年)Mol.Cell.Proteomics 2:315−324頁)が挙げられる。きわめて有効であるが、これらの方法は各特定の官能基に対する個別の固相試薬の開発を必要とする。
【0009】
フルオラス二相触媒法の導入以来(ホルバス(Horvath)とラバイ(Rabai)(1994年)Science 266:72−75頁)、フルオラス化学の分野が急速に拡大した。「フルオラス」という語は、「水性」が水性系を示すのと類似のやり方で高度フッ素化(またはペルフルオロ化)種を示すように創り出された。その最初の出願は、液液分配に基づく触媒からの反応生成物の即座の分離であった。具体的には、1つもしくはそれ以上の高度フッ素化リガンドを有する金属複合体がフルオラス溶媒中で溶解され、有機溶媒中で溶解された反応物質と混合される。室温下に非混合性である2相は加熱とともに混和性となり、均一条件下で生じる反応を可能にする。冷却とともに、相分離が再び起こり、かつ、理想的な条件下、有機相は反応生成物のみを含有するが、フルオラス相は触媒を含有し、これは次いで容易に除去され、かつ再利用される。この概念は迅速にフルオラス合成方法に拡大されたが、ここで反応基質自体は触媒または試薬ではなくフルオラスにされている(スターダー(Studer)ら(1997年)Science 275:823−826頁)。
【0010】
有効であるが、これらの液液抽出方法は、きわめて高いフッ素含量を有する化合物の使用を必要とする。例えば、150ドルトン未満の分子量を有する「フルオラス」小有機分子を有効に与えるには39のフッ素分子の存在が必要である(クラン(Curran)Synlett.2001、1488−1496頁)。対照的に、液体フルオラス相を固体フルオラス相と置換することによりフルオラス方法の実用性が劇的に拡大される。例えば、フルオラス逆相シリカゲルが適切に標識された過剰な試薬または生成物のフルオラス固相抽出をもたらすために使用されている(例えば、チャン(Zhang)ら(2002年)Tetrahedron 58:3871−3875頁、マルコビッツ(Markowicz)とデンビンスキー(Dembinski)(2002年)Org.Lett.4:3785−3787頁を参照。あるいは、フルオラスクロマトグラフィーが、反応順序中に導入されるタグの主にフッ素に基づく溶液相コンビナトリアルライブラリーのメンバーを分離するために使用されている(チャン(Zhang)ら(2002年)J.Am. Chem.Soc.124:10443−10450頁)。さまざまな伝統的な有機合成に加えて(例えば、ドブス(Dobbs)とキンバリー(Kimberley)(2002年)Journal of Fluorine Chemistry 118:3−17頁を参照)、フルオラス方法も最近、小ペプチドおよびオリゴ糖の合成に適用されている(パルマッチ(Palmacci)ら(2001年)Angew.Chem.Int.Ed. 40:4433−4437頁、フィリポフ(Filippov)ら(2002年)Tetrahedron Letters 43:7809−7812頁、ミウラ(Miura)ら(2003年)Angew.Chem.Int.Ed.42:2047−2051頁、およびミズノ(Mizuno)ら(2003年)Chem.Commun.(Camb.)972−973頁)。フルオラス方法は、乾燥疎水性溶媒におけるその触媒活性を維持するリパーゼを使用するラセミカルボン酸およびアルコールの速度論的分割においても使用されている(バイヤー(Beier)とオーハーガン(O’Hagan)(2002年)Chem.Commun.(Camb.)1680−1681頁)。
【0011】
したがって、本発明は、フルオラスプロテオミクスおよびメタボロミクス研究の新規の組成物および方法、例えば、フルオラス方法論を使用するプロテオミクスまたはメタボロミクスサンプルの分析を提供することによって当技術分野における必要を満たす。本発明の方法および組成物を使用し、具体的にプロトン性溶媒における生物由来サンプルの複合混合物を高度に標識化し、操作することができる。標識種が、しばしばその最初の分子量よりも相当に小さいフルオラスタグを有するという事実にもかかわらず、標識種は依然として非標識種から、かつ本発明の一部の実施形態においては、異なるフルオラスタグを有する種から容易に分離されうる。本発明のこれらおよび他の利点は、以下の開示の完全な検討により明らかであろう。
【非特許文献1】カラス(Karas)とヒレンカンプ(Hillenkamp)(1988年)、Anal.Chem.60:2299−2301頁
【非特許文献2】フェン(Fenn)ら(1989年)Science 246:64−71頁
【非特許文献3】フッチャー(Futcher)ら(1999年)Mol.Cell Biol.19:7357−7368頁
【非特許文献4】コールタールス(Corthals )ら(2000年)Electrophoresis 21:1104−1115頁
【非特許文献5】ヌーェンス(Nouwens)ら(2000年)Electrophoresis 21:3797−3809頁
【非特許文献6】テイラー(Taylor)ら(2000年)Electrophoresis 21:3441−3459頁
【非特許文献7】ヘルベルト(Herbert)とリゲッティ(Righetti)(2000年)Electrophoresis 21:3639−3648頁
【非特許文献8】テイラー(Taylor)ら(2003年)Trends Biotechnol.21:82−88頁
【非特許文献9】フィカロ(Ficarro)ら(2002年)Nature Biotechnol.20:301−305頁
【非特許文献10】パンデイ(Pandey)ら(2000年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:179−184頁
【非特許文献11】ニコフ(Nikov)ら(2003年)Anal.Biochem.320:214−222頁
【非特許文献12】ゲング(Geng)ら(2001年)J.Chromatogr.B Biomed.Sci.Appl.、752:293−306頁
【非特許文献13】ゲバルト(Gevaert)ら「Exploring proteomes and analyzing protein processing by mass spectrometric identification of sorted N−terminal peptides」(2003年)J.Nat.Biotechnol.21:566−569頁
【非特許文献14】チェン(Chen)ら(1999年)「Protein cross−links: universal isolation and characterization by isotopic derivatization and electrospray ionization mass spectrometry」Anal.Biochem.273:192−203頁
【非特許文献15】ギジ(Gygi)ら(1999年)Nature Biotechnol.17:994−999頁
【非特許文献16】ゴーシュ(Goshe )ら(2001年)Anal.Chem.73:2578−2586頁
【非特許文献17】トレスター・ツェードリッツ(Trester−Zedlitz)ら(2003年)J.Am.Chem.Soc.125:2416−2425頁
【非特許文献18】キャンベル(Campbell)とサンデニングス(Szardenings)(2003年)Curr.Opin.Chem.Biol.7:296−303頁
【非特許文献19】チョウ(Zhou)ら(2002年)Nat.Biotechnol.20:512−515頁
【非特許文献20】チエン(Qien)ら(2003年)Anal.Chem.75:5441−5450頁
【非特許文献21】チエン(Qien)ら(2002年)Anal.Chem.74:4969−4979
【非特許文献22】ワング(Wang)ら(2002年)J.Chromatogr.A 949: 153−162
【非特許文献23】シェン(Shen)ら(2003年)Mol.Cell.Proteomics 2:315−324頁
【非特許文献24】ホルバス(Horvath)とラバイ(Rabai)(1994年)Science 266:72−75頁
【非特許文献25】スターダー(Studer)ら(1997年)Science 275:823−826頁
【非特許文献26】クラン(Curran)Synlett.2001、1488−1496頁
【非特許文献27】チャン(Zhang)ら(2002年)Tetrahedron 58:3871−3875頁
【非特許文献28】マルコビッツ(Markowicz)とデンビンスキー(Dembinski)(2002年)Org.Lett.4:3785−3787頁
【非特許文献29】チャン(Zhang)ら(2002年)J.Am. Chem.Soc.124:10443−10450頁
【非特許文献30】ドブス(Dobbs)とキンバリー(Kimberley)(2002年)Journal of Fluorine Chemistry 118:3−17頁
【非特許文献31】パルマッチ(Palmacci)ら(2001年)Angew.Chem.Int.Ed. 40:4433−4437頁
【非特許文献32】フィリポフ(Filippov)ら(2002年)Tetrahedron Letters 43:7809−7812頁
【非特許文献33】ミウラ(Miura)ら(2003年)Angew.Chem.Int.Ed.42:2047−2051頁
【非特許文献34】ミズノ(Mizuno)ら(2003年)Chem.Commun.(Camb.)972−973頁
【非特許文献35】バイヤー(Beier)とオーハーガン(O’Hagan)(2002年)Chem.Commun.(Camb.)1680−1681頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、プロテオミクスおよびメタボロミクスサンプルなど生物由来サンプルの複合体の調製、分離、および分析のためのフルオラスベースの方法および組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様において、本発明は、分析のために生物由来サンプルにおいて1つもしくはそれ以上の化合物を調製するための方法を提供する。この方法は、a)5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオラス部分に結合された化学反応性官能基を含んでなるフルオラス標識試薬を提供するステップと、b)前記フルオラス標識試薬を生物由来サンプル中の1つもしくはそれ以上のメンバーの化合物に前記化学反応性官能基を介して結合させ、フルオラス標識サンプルメンバーを産生し、それによって分析のための前記生物由来サンプルを調製するステップとを含む。生物由来サンプルは、例えば、プロテオミクスサンプルまたはメタボロミクスサンプルでありうる、例となるサンプル源としては、細胞溶解物、細胞分泌物、組織サンプル、血液、尿、または唾液などの体液が挙げられるが、これらに限定されない。場合により、生物由来サンプルは(例えば、ゲル電気泳動またはカラムクロマトグラフィーによって)プレ画分されている。
【0014】
場合により、本発明の方法は、フルオラス標識試薬に対する親和性を有する分離組成物を使用する非標識メンバーからフルオラス標識サンプルを分離するステップをさらに含む。例えば、一部の実施形態において、フルオラス標識サンプルメンバーは、固相抽出ステップによって「バッチ溶出」される。別の実施形態においては、フルオラス標識サンプルメンバーは、フルオラスシリカゲルなどフルオラス親和性基質を使用するフルオラスカラムクロマトグラフィーを実行し、かつ目的とするカラム流出物(例えば、非結合種またはフルオラス標識種のいずれか、または両方)を収集することによって非標識メンバーから分離される。場合により、結合画分を溶出するステップは、単一標識サンプルメンバーを多重標識サンプルメンバーから分離するステップをも含みうる。別の実施形態においては、フルオラス親和性基質は、MALDIプレートまたはDIOSプレートの表面など2次元表面と結合され、フルオラス標識サンプルメンバーを分離するステップが、親和性基質を含有する表面にサンプルを塗布し、かつ非結合サンプルメンバーを洗い流すステップを含むようになっている。
【0015】
場合により、本発明の方法は、例えば、生物由来サンプルの分離された(標識または非標識)画分上で質量分析を実行することによって生物由来サンプルを分析するステップをさらに含む。一部の実施形態においては、分析するステップは、分離された画分のMSデータを生物由来サンプルの非反応アリコートのMSデータと比較するステップを含む。
【0016】
場合により、フルオラス標識試薬は、選択された分析処置中に安定している組成物、例えば、質量分析のための標準イオン化および/または断片化条件下で最小に断片化される組成物である。
【0017】
マレイミド、ハロゲンβ−ケトン、ジスルフィド交換試薬、フェニルグリオキサル、無水物、アクリレート、アジド、チオール、ジヒドロキシ−ボラン、ボロン酸、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホN−ヒドロキシスクシンイミドエステル、ジアルキルピロカーボネート、マイケルドナー、アミノオキシ化合物、またはヒドラジン含有化合物を含むが、これらに限定されないさまざまな化学反応性官能基を本発明のフルオラス標識試薬へ組込むことができる。一部の実施形態においては、化学反応性官能基は、フルオラス標識試薬がアミノ酸コンジュゲーション剤であるように選択される。
【0018】
フルオラス標識試薬のフルオラス部分は通常、5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなる。多くの実施形態においては、このフルオラス部分は、式CF(CFを有するフルオロアルキル基であるが、式中nは2〜10、または場合により3〜10の整数である。一部の実施形態においては、フルオラス部分は分岐鎖フルオロアルキル部分、または限定された数のフッ素原子が、水素、ジュウテリウム、または他のハロゲンなど他の原子で置換されるフルオロアルキル構造である。場合により、本発明のフルオラス標識試薬は、フルオラス部分(例えば、フルオロアルキルリンカー)によって互いに結合された第1および第2の化学反応性官能基を含む。
【0019】
場合により、フルオラス標識試薬は試薬の混合物を含んでなる。例えば、標識試薬は、第1のフルオラス部分に結合された第1の化学反応性官能基を有する第1のメンバー、および第2のフルオラス部分に結合された第2の化学反応性官能基を含んでなる第2のメンバーを含みうる。場合により、第1および第2のフルオラス部分は、分離組成物に対するその親和性の点で異なる。
【0020】
選択サンプルにおける天然由来の化学部分の標的化に加えて、反応官能基を生物由来サンプルへ導入し、フルオラス標識を促進することができる。例えば、本発明の一部の実施形態においては、過ヨウ素酸化を生物由来サンプルで実行し、1つもしくはそれ以上のアルデヒド基を有するサンプル成分を生成させることができる。これは、分析のためのグリコシル化サンプルメンバーを調製するために特に有用である。グリコシル化サンプルメンバーで1つもしくはそれ以上の糖が酸化され、反応混合物中で1つもしくはそれ以上のアルデヒド部分を生成し、これにはヒドラジン型またはアミノオキシ型フルオラス標識試薬が添加される(例えば、ここで化学反応性官能基はヒドラジンまたはアミノオキシ部分である)。アルデヒド部分は、例えば、ヒドラジンと反応し、(フルオラス)ヒドラジド産物を形成し、それによってグリコシル化サンプルメンバーを標識する。あるいは、アルデヒドのアミノオキシ試薬との反応によりフルオラス標識オキシム生成物が生じる。
【0021】
一部の実施形態において、標識のために選択されるサンプルメンバーはリン酸化アミノ酸含有成分(例えば、リン酸化セリン残基、リン酸化トレオニン残基、および/またはリン酸化チロシン残基)である。リン酸化セリンおよびトレオニンメンバーは、反応混合物を塩基性にし、リン酸化アミノ酸含有成分でβ−脱離反応を実行し、フルオラス標識試薬を反応混合物に添加した後、β−脱離反応の生成物でマイケル付加反応を実行し、それによってリン酸化の以前の部位でフルオラス標識試薬からフルオラス標識を結合させることによって標識されうる。多数の試薬を使用し、β−脱離反応の脱リン酸化生成物と相互作用させることができるが、CF(CFCHCHSHなどのフルオラス修飾チオール試薬が特に容易に使用される。
【0022】
あるいは、3つのリン酸化アミノ酸残基すべてを酸性条件下でサンプルにカルボン酸メチル化を実行した後、リン酸基へのシスタミンのEDC介在結合を実行し、ホスホラミデート種を産生することによって標識されうる。シスタミンは削減され、遊離チオールを形成し、それによってフルオラス標識試薬を結合させることができ、それによってリン酸化サンプルメンバーを標識する。標識種のフルオロ固相抽出(FSPE)後、この方法は場合によりメチル化ホスホペプチドからのフルオラス標識の酸放出を含む。この方法は、ホスホチロシン含有ならびにホスホセリンおよびホスホトレオニン含有サンプル成分の単離および/または富化を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、生物由来サンプルの1つもしくはそれ以上のメンバーを分離するための方法を提供する。この方法は、a)5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオラス部分に結合された化学反応性官能基を含んでなる少なくとも1つのフルオラス標識試薬と生物由来サンプルを反応させ、それによってフルオラス標識を1つもしくはそれ以上のサンプルメンバーに付着させ、標識サンプルメンバーを形成するステップと、b)フルオラス標識に対する親和性を有する組成物を使用する非標識サンプルメンバーからフルオラス標識サンプルメンバーを分離するステップとを含む。場合により、標識および非標識サンプルメンバーを分離するステップは、固相(例えば、バッチ)溶出によって実行されうる。あるいは、分離ステップは、例えば、フルオラスシリカゲルなどフルオラス親和性基質を使用し、カラム溶出物を収集するフルオラスカラムクロマトグラフィーによって実行されうる。別の実施形態においては、フルオラス標識に対する親和性を有する組成物は基質(MALDIまたはDIOSプレートなど)の表面に結合され、フルオラス標識サンプルメンバーを非標識サンプルメンバーから分離するステップは、生物由来サンプルを基質のフルオラス表面に塗布し、例えば、洗浄によって非標識サンプルメンバーを除去することによって達成されうる。
【0024】
本発明は、複数のアミノ酸含有成分(例えば、タンパク質、タンパク質分解ペプチドなど)を有するプロテオミクスサンプルまたはメタボロミクスサンプルなど、複数の生物由来成分を含んでなる複合組成物を分析するための方法も提供する。この方法は、a)化学反応性官能基に結合された(5個もしくはそれ以上のフッ素原子を有する)フルオラス部分を含んでなるフルオラス標識試薬を提供するステップと、b)複合組成物の1つもしくはそれ以上のメンバーをフルオラス標識試薬で修飾し、フルオラス標識成分および非標識成分を含んでなる修飾組成物を形成するステップと、c)フルオラス標識試薬のフルオラス部分に対する親和性を有する組成物を使用する修飾組成物を画分または分離するステップと、d)分離サンプル画分の質量分析を実行し、質量スペクトルデータを生成し、それによって複合組成物を分析するステップとを含む。
【0025】
別の実施形態においては、本発明は、a)5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオロアルキル部分に結合された化学反応性官能基を含んでなるフルオラス標識試薬と生物由来サンプルを反応させ、処理サンプルを形成し、それによってフルオラス標識を生物由来サンプルの1つもしくはそれ以上のメンバー成分へ組込み、かつフルオラス修飾成分を形成するステップと、b)質量分析によって処理プロテオミクスサンプルの第1の部分を分析し、第1の一連の質量スペクトルデータを形成するステップと、c)質量分析によって処理プロテオミクスサンプルの第2の部分を分析し、第2の一連の質量スペクトルデータを形成し、ここで第2の部分のフルオラス修飾成分が分析前にフルオラス親和性基質を使用するフルオラスベースの分離法によって除去されているステップと、d)第1および第2の一連の質量スペクトルデータを比較し、第1の部分に存在し、第2の部分に存在しない1つもしくはそれ以上の質量スペクトルピークを測定し、それによって生物由来サンプルを分析するステップと、によって生物由来サンプルを分析するための方法を提供する。場合により、データ比較ステップは、第1の部分に存在し、かつ/または第2の部分に存在しない質量スペクトルピークを識別するステップをさらに含む。
【0026】
別の態様において、本発明は、フルオラスベースの分離法を使用する、プロテオミクスサンプルまたはメタボロミクスサンプルなど生物由来サンプルにおける区別をつけて標識された成分の分離のための方法を提供する。この方法は、複数のアミノ酸含有成分を有する生物由来サンプル提供するステップと、b)生物由来サンプルをフルオラス標識試薬を処理し、1つもしくはそれ以上のメンバー成分を標識し、ここでフルオラス標識試薬が5個もしくはそれ以上のフッ素原子を有するフルオラス部分に結合された化学反応性官能基を含んでなるステップと、c)処理サンプルをフルオラス親和性基質と混合するステップと、d)結合された単一標識成分を別々に結合された多重標識成分から選択的に溶出するステップとを含む。
【0027】
フルオラス標識試薬の化学反応性官能基(一部の実施形態においては、ペプチド末端コンジュゲーション剤)は、一級アミン遮断試薬(例えば、N末端標識試薬)またはカルボキシル遮断試薬(例えば、C末端標識試薬)でありうる。フルオラスシリカゲルを使用し、標識または非標識タンパク質(またはタンパク質断片)を分離し、次いでこれを例えば質量分析によって分析することができる。
【0028】
ユビキチン化成分の分析を含む実施形態において、サンプルはしばしばさらに(フルオラス標識試薬との相互作用の前に)処理される。通常、非標識(すなわち非ユビキチン化)リシン残基のイプシロンアミノ基は遮断される。サンプルメンバーは場合により(例えば、トリプシンまたは別のタンパク質分解酵素で)開裂され、複数のタンパク質分解断片を生成させる。これはリシンアミノ基遮断ステップの前後のいずれにかに実行されうる。ペプチドのN末端はフルオラス標識試薬で標識される。ユビキチン部分の存在により、タンパク質分解断片のプールは、単一ペプチドN末端を有するタンパク質分解断片の第1の部分と、2つのN末端(第1のペプチド由来N末端および第2のユビキチン由来N末端)を有するタンパク質分解断片の第2の部分とを含む。タンパク質分解断片の第1および第2のN末端はフルオラス標識試薬で標識され、単一標識タンパク質分解断片の第1の部分および多重タンパク質分解断片の第2の部分を産生する。
【0029】
同じように、本発明の方法を使用し、プロテオミクスサンプルにおける分子間ジスフィルド架橋含有成分を検査することができる。プロテオミクスサンプルを処理するステップは、場合によりプロテイナーゼによるプロテオミクスサンプルのジスルフィド架橋含有成分を開裂し、それによって2つのN末端を有する1つもしくはそれ以上のジスルフィド連結タンパク質分解断片を生成し、かつジスルフィド連結タンパク質分解断片の両方のN末端を標識するステップを含みうる。
【0030】
別の態様において、本発明は、フルオラスベースの分離法を使用する、一連のプロテオミクスまたはメタボロミクスサンプルなど一連の生物由来サンプルの成分を分離する方法を提供する。この分離法は、a)一連の生物由来サンプルを提供し、各メンバーサンプルが複数の成分(例えばアミノ酸含有成分)を含んでなるステップと、b)それの中に組込まれたフッ素原子の数が異なる2つもしくはそれ以上のフルオラス標識試薬を提供するステップと、c)一連のサンプルの第1のメンバーを第1のフルオラス標識試薬で処理し、それによって第1のサンプルの1つもしくはそれ以上の成分を標識するステップと、d)一連のサンプルの第2のメンバーを第2のフルオラス標識試薬で処理し、それによって第2のサンプルの1つもしくはそれ以上の成分を標識するステップと、e)第1および第2のサンプルを混合し、混合サンプルを形成するステップと、f)混合サンプルにおけるフルオラス親和性基質を使用するフルオラスベースの分離法(フルオラス固相抽出またはフルオラスカラムクロマトグラフィーなど)を実行し、それによって一連の生物由来サンプルの成分を分離するステップとを含む。
【0031】
場合により、サンプルセットの追加のメンバーは追加のフルオラス標識試薬を使用しても処理されうるが、その試薬は互いに、かつ第1および第2のフルオラス標識試薬とそれの中に組込まれたフッ素原子の数で異なる。これら追加の標識サンプルは、フルオラスベースの分離ステップにおける分離前に第1および第2のサンプルと混合される。
【0032】
一部の実施形態において、この方法は非標識成分をフルオラス標識成分から分離するために使用される。場合により、第1のフルオラス標識試薬で標識された成分は、第2のフルオラス標識試薬で標識された成分からも分離されうる。この方法は場合により、質量分析によって(混合または画分された)非標識成分またはフルオラス標識成分を分析するステップをさらに含む。
【0033】
本発明は、化学反応性官能基に結合された1つもしくはそれ以上のフルオラス部分を有する、新規のフルオラス標識試薬をも提供する(例えば、標的サンプルメンバーにおける化学官能基、例えば、アミノ酸結合基の誘導体化、または翻訳後修飾のためのフルオラスバイオコンジュゲーション剤を形成する)。通常、標識試薬へ組込まれるフルオラス部分は、隣接拡張して、または分子の2つもしくはそれ以上の領域へクラスタ化されて、5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなる。一部の実施形態において、フルオラス標識試薬は多重フルオラス部分(例えば、フルオラス標識試薬内の第1の位置で結合された第1のフルオラス部分と、フルオラス標識試薬における第2の位置で結合された第2のフルオラス部分)を有する。追加の実施形態においては、フルオラス標識試薬は多重化学反応性官能基を有する。
【0034】
本発明の組成物はしばしばプロテオミクスおよび/またはメタボロミクスサンプルとともに使用されるため、本発明のフルオラス標識試薬の多くの実施形態は水性反応条件と適合性である。さらに、質量分析は一般的にかかるサンプルの分析において使用されるため、フルオラス標識試薬は場合により、質量分析において使用する標準イオン化および/または断片化条件下(例えば、タンデムMSにおいて使用される低エネルギー衝突)に不活性である。
【0035】
本発明の一部の実施形態において、フルオラス部分はリンカー領域によって化学反応性官能基に結合されている。通常、リンカー領域は、長さが2〜20個の炭素のアルキル鎖である。一部の実施形態においては、標識試薬および/またはリンカー領域のフルオラス部分は、1つもしくはそれ以上のH、13C、15N、または18O原子など同位体標識を含む。場合により、リンカー領域(またはバイオコンジュゲーション剤の別の部分)は放出可能な要素を含み、例えば、標識サンプルメンバーのフルオラス親和性基質または他の分離組成物からの標識サンプルメンバーの解離を促進する。例えば、酵素開裂、化学開裂、光分解、および/または熱変性に感受性の化学部分を本発明の組成物および方法における放出可能な要素として使用されうる。
【0036】
スルフヒドリル基、チオエーテル基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、イミダゾール基、グアニジノ基、またはインドール部分を含むが、これらに限定されない多くの反応性基のいずれかを本発明のフルオラス標識試薬を使用して標的化されうる。しばしば、標的化学官能基は、アミノ酸(例えば、側鎖)と結合される。一部の実施形態において、アミノ酸結合官能基は、翻訳後修飾(PME)要素、例えば、リン酸部分またはサッカリド部分である。化学修飾PTM要素、および翻訳後修飾の除去に由来する生成物も含まれる。
【0037】
したがって、本発明の組成物における化学反応性官能基として使用されうる化学官能価としては、マレイミド、ハロゲンβ−ケトン、ジスルフィド交換試薬、フェニルグリオキサル誘導体、無水物、NHSエステルおよびNHSスルホエステル、ジアルキルピロカーボネート、アルキルアミノオキシ基、ヒドラジン含有化合物などアミノ酸反応性基と反応することが周知の多くの化学種が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明の例となるフルオラス標識試薬としては、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデカン−l−チオール(la)、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクタン−1−チオール(lb),1H,1H,2H,2H−ペルフルオロヘキサン−l−チオール(If)、N−(3−(ペルフルオロオクチル))プロピルマレイミド(2a)、N−(3−(ペルフルオロヘキシル))プロピルマレイミド(2b)、2−ピリジル−2’−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデカンジスルフィド(3)、(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)アクリレート(4a)、(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシル)アクリレート(4b)、N−スクシンイミジル−2H,2H,3H,3H−ペルフルオロヘプタノエート(5aN−スルホスクシンイミジル−2H,2H,3H,3H−ペルフルオロヘプタノエート(5b)、N−スクシンイミジル−2H,2H,3H,3H−ペルフルオロウンデカネエート(5c)、N−スルホスクシンイミジル−2H,2H,3H,3H−ペルフルオロウンデカネエート(5d)、N−ヨードアセチル−3−(ペルフルオロオクチル)プロピルアミン(6a)、N−ヨードアセチル−3−(ペルフルオロヘキシル)プロピルアミン(6c)、3−(ペルフルオロオクチル)グルタル酸無水物(7)、4−[3−(ペルフルオロオクチル)プロピル−l−オキシ]フェニルグリオキシル(8)、2−ニトロ−4−(N−(3−(ペルフルオロオクチル)プロピル)カルボキサミド)ベンゼンスルホニルクロリド(9)、2H,2H,3H,3H−ペルフルオノナン酸ヒドラジド(10)、ビス(スルホスクシンイミジル)−2H,2H,3H,3H,10H,10H,11H,11H−ペルフルオロドデカンジオネート(11)、スルホスクシンイミジル−12−[(ヨードアセチル)アミノ]2H,2H,3H,3H,10H,10H,11H,11H,12H,12H−ペルフルオロドデカノエート(12)、1−(1H,1H,2H,2H,3H,3H−ペルフルオロノニル)−ピロール−2,5−ジオン(13)、2−アミノオキシ−N−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)−アセトアミド(14)、1−アジド−(1H,1H,2H,2H,3H,3H−ペルフルオロノナン(15a)、1−アジド−(1H,1H,2H,2H,3H,3H−ペルフルオロウンデカン(15b)、2−アミノオキシ−N−(4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル)アセトアミド,(16a)、2−アミノオキシ−N−(4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロ−ウンデシル)アセトアミド(16b)、4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロ−ヘプタン酸N’−(2−アミノオキシ−アセチル)ヒドラジド(16c)、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロウンデカン酸N’−(2−アミノオキシ−アセチル)ヒドラジド(16d)、1−アミノ−(1H,1H,2H,2H,3H,3H−ペルフルオロノナン(17)、p−(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシル)−フェニルボロン酸(18)、1−アミノオキシ−5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12−ヘプタデカフルオロ−ドデカン−2−オン(19)、1−(フルオロエトキシホスフィニル)−3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロ−デカン(20)、リン酸モノ−{4−[フルオロ−(4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロ−ウンデシルカルバモイル)−メチル]−フェニル}エステル(21)、および6−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ−ヘキシルジスルファニル)−プロピオニルアミノ]−ヘキサン酸2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イルエステル(25)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
場合により、本発明のフルオラス標識試薬は、追加のアミノ酸結合官能基を誘導体化するための追加の化学反応性官能基をさらに含んでなりうる。多重化学反応性官能基を有する実施形態において、バイオコンジュゲーション要素は、同じ構造である必要はなく、または同じ標的もしくは型のアミノ酸残基に対する親和性を有する(すなわち、二又のフルオラス標識試薬を使用して異種化学エンティティを結合しうる)。
【0040】
本発明は、2次元表面で直接、フルオラス標識サンプルのフルオラスおよび非フルオラス成分を画分するための方法も提供する。これらの方法は、フルオラス標識に対する親和性を有する組成物を提供し、その組成物が基質の表面の第1の部分に結合されるステップと、フルオラス成分および非フルオラス成分を含んでなるフルオラス標識サンプルを基質の表面上へ装填し、かつサンプルのフルオラス成分をフルオラス標識に対する親和性を有する組成物と結合させるステップと、非フルオラス成分を除去し、それによって基質表面上でフルオラス標識サンプルを画分するステップとを含む。例となる実施形態において、非フルオラス成分を除去するステップは、基質の表面を洗浄し、それによってフルオラス成分を非フルオラス成分から分離することによって実行される。一部の実施形態において、基質は、基質表面の洗浄により質量分析によるさらなる分析のために適切にフルオラス成分を残すように、MALDIプレートまたはDIOSプレートなどのMS基質である。場合により、基質表面の第1の部分は、表面の大部分(または全部)を含む。あるいは、表面の第1の部分は、基質表面上の1つもしくはそれ以上の特定の位置(例えば、マイクロタイターウェルなど、サンプルが得られる配列位置と相関する位置)を含んでなりうる。
【0041】
別の態様として、本発明は、例えば、プロテオミクスサンプルの分別定量化のために使用されうる一連のフルオラス標識試薬をも提供する。通常、一連のフルオラス標識試薬は、2つもしくはそれ以上の本発明のフルオラス標識試薬を含むが、これらの試薬は1つもしくはそれ以上の安定したアイソトープ(例えば、ジュウテリウムまたは13C)で区別をつけて標識される。
【0042】
本発明のこれらおよび他の目的と特徴は、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて読むとさらに十分に明らかになるであろう。
【0043】
定義
本発明を詳細に説明する前に、本発明が、もちろん変化しうる特定のデバイスまたは生物系に限定されないことが理解されなければならない。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明する目的のためであり、限定することが意図されていないことも理解すべきである。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されているように、単数形の「a」、「an」、および「the」は、内容が明らかに別段に規定していない限り複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「フルオラス部分(a fluorous moiety)」への言及は、2つもしくはそれ以上のフルオラス部分の組合せを含み、「生物由来サンプル」への言及は、サンプルなどの混合物を含む。
【0044】
別段に規定されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、発明が関係する当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと同様または同等の方法および材料は本発明を試験するための実施に際して使用されうるが、好ましい材料および方法は本明細書に記載されている。本発明の説明および請求に際して、以下の用語を以下に記載された定義に従って使用する。
【0045】
本明細書で使用される「生物由来サンプル」という語は、真核または原核細胞など生物源から単離、または別の方法で得られる複数の成分を指し、生物からの細胞溶解物および体液(例えば、血液、尿など)または他の細胞分泌物(例えば、細胞または組織に曝露されている培養培地)を含む。例となる実施形態としては、プロテオミクスサンプル、メタボロミクスサンプル、およびグリコミクスサンプルが挙げられるが、これらに限定されない。プロテオミクスサンプルは通常、対応する細胞ゲノム由来の一連のタンパク質組成物を含んでなる。プロテオミクスサンプルは、細胞が生成可能である完全な一連のタンパク質、またはサブセットのタンパク質(例えば、発現パターンまたは画分法に基づき選択)でありうる。同じように、メタボロミクスサンプルは、細胞または他の生物由来サンプルに存在する小分子成分の対応する集団を含んでなるが、グリコミクスサンプルはさまざまな炭水化物を基材とした成分(例えば、単糖、複合体炭水化物、プロテオグリカン、糖タンパク質、糖脂質など)を含有する。
【0046】
本明細書で使用される「フルオラス」という語はフッ素含有化学部分を指し、かつ部分的および完全にフルオラス(例えば、ペルフルオロ)組成物を含む。
【0047】
本明細書で使用される「バイオコンジュゲーション剤」という語は、本発明のフルオラス標識試薬において使用するための化学反応性官能基を含んでなる化学部分を指す。例えば、「アミノ酸結合官能基を誘導体化するためのバイオコンジュゲーション剤」(「アミノ酸コンジュゲーション剤」とも呼ばれる)は、アミノ酸における官能基と可逆的または非可逆的に相互作用が可能である反応性剤を指す。反応性官能基は、アミノ酸自体の一部、または翻訳後修飾または化学修飾(例えば、β−脱離反応)などアミノ酸結合官能基のいずれかでありうる。
【0048】
「アミノ酸含有成分」という語は、生物由来サンプルに存在し、かつペプチド結合によって連結された天然または非天然アミノ酸(例えば、アミノ酸類似体、模倣体など)のいずれかを有する多くの成分のいずれかを含む。本発明のアミノ酸含有成分としては、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、タンパク質複合体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
「プロトン性溶媒」は反応性プロトンを有する溶媒であるが、「非プロトン性溶媒」は反応性プロトンを有することがない溶媒である。
【0050】
フルオラス標識試薬に関して本明細書で使用される「水性適合性」および「水性耐性」という語は、溶媒系によって(例えば、サンプルと相互作用する機会を有する前に)迅速に消費または別の方法で非活性化されない組成物を指す。通常、フルオラス標識試薬は、プロトン性溶媒(例えば、HO)の濃度が実質的に標識される標的種(例えば、生物由来サンプルのメンバー)の濃度よりも実質的に大きい反応条件下で使用される。好ましくは、標識されるサンプルの存在下に新たに調製される場合、水性適合性フルオラス標識試薬における大半(例えば、50%以上)の化学反応性官能基は、生物由来サンプルのメンバーと相互作用が可能である(すなわち、反応動態は、溶媒分子と比べ生物由来サンプルメンバーとのフルオラス標識試薬の相互作用に有利である)。言い換えれば、水分子はフルオラス試薬との反応に対する標的種を打ち負かすことがない。
【0051】
水性反応条件および/または溶媒系としては、体積比でわずかに少なくとも10%、または場合により25%、50%もしくはそれ以上のプロトン性溶媒(例えば、水、メタノールなど)を含んでなる。場合により、水性溶媒系は、体積比で75%もしくはそれ以上のプロトン性溶媒、または90%もしくはそれ以上のプロトン性溶媒、あるいは一部の実施形態においては100%のプロトン性溶媒を含んでなる。
【0052】
本明細書で使用される「フルオラスベースの分離」という語は、液相および固相抽出法(例えば、バルク抽出)のほか、フルオラスクロマトグラフィー(例えば、別々の画分の溶出)を含むが、これらに限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
本発明は、プロテオミクスおよびメタボロミクスサンプルのほか、フルオラス用途において使用するためのフルオラス標識試薬など複合体生物サンプルの分析用の新規の方法を提供する。本発明の方法および組成物は、現在使用されている他のかかる方法に対してきわめて直角のやり方でプロテオミクスおよび/またはメタボロミクス成分の分析を可能にする。本発明の方法は、フルオラス部分の独自の自己結合相互作用を利用し、標識および非標識種の分離を促進し、かつ区別をつけて標識される種の多重分離を可能にする。さらに、当該技術に記載されている他の標識試薬とは異なり、本明細書に提供されているフルオラス標識は通常、処理および分析中に化学的に不活性および/または安定している。
【0054】
フルオラス部分の特徴
フルオラスベースの分離法の独自の選択性は、複合混合物から標準種の選択的単離のための新規の方法を提供し、生物学的ベースの親和性方法に典型的な非特異的相互作用の多くを削減する。ペルフルオロアルキル基などのフルオラス部分は、主に「似た」または同様の組成物(例えば、それ自体、または他のフルオラス含有組成物)と結合する傾向がある。この特性は、化学合成中、およびフルオラスクロマトグラフィーにおいて、液液および液固抽出のために当業者によって利用されている。フルオラス含有組成物と非フルオラス含有組成物との間の材料分離は、フルオラス標識に付着された化学エンティティの性質(例えば、分子量)と無関係に達成されうる。また、異なる鎖長さのフルオラス標識を有する化学種が互いに分離され、結合種の性質にかかわらず持続する保持特性を証明しうる。
【0055】
フルオラス方法は、従来の固体および溶液相の方法の代替としてコンビナトリアル合成において使用されている(例えば、チャン(Zhang)ら(2002年)「Solution Phase Preparation of a 560−compound library of individual pure mappine analogues by fluorous mixture synthesis」J.Am.Chem.Soc.124:10443−10450頁、および米国特許第5,777,121号明細書、米国特許第5,859,247号明細書、および米国特許第6,156,896号明細書(クラン(Curran)ら)を参照)。また、フルオラス種は、試薬、スカベンジャー、および有機合成における触媒として使用されている(例えば、リンズレイ(Lindsley)ら(2002年)Tetrahedron Letters43:6319−6323頁、チャン(Zhang)ら(2003年)Tetrahedron Letters 44:2065−2068頁、チャン(Zhang)ら(2000年)J.Org. Chem. 65:8866−8873頁、およびチャン(Zhang)(2003年)Tetrahedron 59:4475−4489頁を参照)。しかし、すべての場合に、これらの方法は、より複雑に実行される混合(例えば、細胞抽出物または他の生物由来サンプルなど)の特定の副画分の単離ではなく、特定の有機分子の標的合成および精製中に使用されている。これらの方法で使用されるフルオラス種は通常、それらが結合され、非プロトン性溶媒とともにのみ使用される化学合成中間体よりも大きい、または同様の分子量を有する。
【0056】
本発明は、有機反応混合物における低分子量中間体へのフルオラス部分の組込みに限定されないフルオラスベースの方法および組成物を提供する。もっと正確に言えば、本発明の方法および組成物は、生成物が有機または水性(または他のプロトン)溶液に存在しうる、一連のサイズに及ぶ生物学的製剤により使用されうる。例えば、通常、プロテオミクスサンプルに存在するようなペプチドおよび/またはタンパク質のきわめて複雑な混合物が、本発明の1つもしくはそれ以上のフルオラス標識試薬で標識され、その試薬はサンプルに存在する特定の官能基と反応するように選択され、またはデザインされている。フルオラスタグは場合により標識される種よりも相当に小さいが(すなわち、標識は結合種の分子量を劇的に変更しえない)、標識種は依然として、例えば、容易に利用可能なフルオラス固定相を使用して非標識種から容易に分離されうる。多くの実施形態においては、標識試薬はプロトン性溶媒と適合性であり、それらを生物由来サンプルの分析にきわめて適切なものにする。標識種のフルオラス特性に基づく分離法が実行され、これは現在利用可能な伝統的な分離方法に対してきわめて直角である方法であり(例えば、(ストレプト)アビジンとビオチンのそれなど、生物学的ベースの相互作用)、したがって、生物学的ベースの分離法に関連した非特異的相互作用(および莫大な費用)を受けやすくない。また、異なって標識された種はしばしば互いに分離され、特定の分析の多重化、または異なる数のタグを有するフルオラス標識種の分離の可能性につながりうる。
【0057】
プロテオミクスおよびメタボロミクス分析のフルオラス方法は、当該技術で現在利用可能な方法に対していくつかの追加の利点を有する。例えば、本発明の方法において使用されるフルオラス標識は通常、タンデムMSで使用される低エネルギー(例えば、衝突誘発解離)条件下で不活性である。標識断片イオンと非標識断片イオンとの間の質量差は、タンパク質内の修飾部位の決定を補助しうる。また、フッ素の質量欠損およびモノアイソトピック性質により標識ペプチド、またはその正確な質量測定にのみ基づく他の小分子の存在が確認されうる。本明細書に記載されたフルオラス標識サンプルメンバーは通常、エレクトロスプレーイオン化と適合性の移動相において可溶性である。場合により、開裂可能な標識も、それの中に組込まれた安定したアイソトープを有するフルオラス標識試薬として本明細書では提供される。本発明のこれらおよび他の利点は本明細書でさらに詳細に提供される。
【0058】
本発明は、フルオラス標識試薬を使用する分析のために生物由来サンプルにおける1つもしくはそれ以上の化合物を調製するためのさまざまな方法を提供する。全体として、本発明の方法は、サンプルをフルオラス標識試薬と反応させ、それによってフルオラス標識を組込むことによってサンプル成分を修飾するステップを含む。場合により、これらの方法は、修飾サンプル成分を非標識成分から分離し、例えば、質量分析によって1つもしくはそれ以上の分離された画分を分析するステップをさらに含む。
【0059】
一態様において、本発明は、分析のために生物由来サンプルにおける1つもしくはそれ以上の化合物を調製するための方法を提供する。これらの方法は、5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオラス部分に結合された化学反応性官能基を含んでなるフルオラス標識試薬を提供し、かつフルオラス標識試薬を化学反応性官能基によって生物由来サンプルにおける1つもしくはそれ以上のメンバー化合物に結合させ、フルオラス標識サンプル成分を産生し、それによってさらに分析のための生物由来サンプルを調製するステップを含む。一部の実施形態において、これらの方法は、フルオラス標識試薬に対する親和性を有する組成物を使用する非標識成分からフルオラス標識サンプル成分を分離するステップをさらに含む。
【0060】
別の態様において、本発明は、5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオラス部分に結合されたバイオコンジュゲーション剤など化学反応性官能基を含んでなる少なくとも1つのフルオラス標識試薬と生物由来サンプルを反応させ、それによってフルオラス標識を1つもしくはそれ以上のサンプルメンバーに付着させ、修飾サンプルメンバーを形成し、かつフルオラス標識に対する親和性を有する組成物を使用する修飾サンプルメンバーを非標識サンプルメンバーから分離するステップを含む、生物由来サンプルの1つもしくはそれ以上のメンバーを分離するための方法を提供する。
【0061】
別の実施形態において、複数のアミノ酸含有成分(例えば、プロテオミクスサンプル)を有する生物由来サンプルの成分が、5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオラス部分に結合されたアミノ酸コンジュゲーション剤を含んでなる少なくとも1つのフルオラス標識試薬と複数のアミノ酸含有成分を反応させ、それによってフルオラス標識試薬を1つもしくはそれ以上のアミノ酸含有成分に付着させ、修飾アミノ酸含有成分を形成し、かつフルオラス標識試薬に対する親和性を有する組成物を使用する修飾アミノ酸含有成分を非標識成分から分離することによって分析のために調製されうる。
【0062】
場合により、生物由来サンプルの成分を調製および/または分離するためのこれら方法の拡充として、複合組成物(またはそれの画分)のメンバーを、例えば、質量分析によってさらに分析されうる。
【0063】
別の態様において、本発明は、複数の生物由来成分を含んでなる複合組成物を分析するための方法を提供する。これらの分析方法は、a)5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオラス部分に結合された化学反応性官能基を含んでなるフルオラス標識試薬を提供するステップと、b)フルオラス標識試薬で複合組成物の1つもしくはそれ以上のメンバーを修飾し、フルオラス標識成分および非標識成分を含んでなる修飾組成物を形成するステップと、c)フルオラス標識試薬のフルオラス部分に対する親和性を有する分離組成物を使用する修飾組成物を画分するステップと、d)分離サンプル画分の質量分析を実行し、質量スペクトルデータを生成し、それによって複合組成物を分析するステップとを含む。
【0064】
生物由来サンプル
本発明の方法は、プロテオミクスおよびメタボロミクスサンプルを含むが、これらに限定されない1つもしくはそれ以上の生物由来サンプルで実行される。これらのサンプルは、化学合成中間体の有機反応混合物と異なり、複数の成分を有する複合組成物である。かかるものとして、本発明の方法は、複数のサンプルメンバーを有するサンプル、例えば、少なくとも25の成分、または少なくとも50の成分、または少なくとも100の成分、または少なくとも1,000の成分、またはさらに何万もの成分(例えば、少なくとも10,000の成分、100,000の成分、100万の成分、もしくはそれ以上)の複合集団を有する生物由来製剤により使用されうる。
【0065】
本発明において使用される生物由来サンプルは、原核または真核由来のいずれかでありうる。サンプルの供給源はほぼ無限であり、動物または植物細胞、酵母、真菌、細菌、ウイルス、および/またはウイルスに感染した細胞、細胞培養、組織培養、または生検サンプル、全細胞または細胞溶解物、未処理細胞、または化学組成物(医薬品)で処理され、または1つもしくはそれ以上の環境因子(熱、光、pHの変化など)に曝露された細胞/生物である。本発明において使用される生物由来サンプルの追加の例となる実施形態としては、細胞/組織/生物に曝露されている細胞培養培地、さまざまな体液、廃棄物、および/または分泌物(例えば、血液、血清、尿、唾液、脳脊髄液、間質液など)に曝露されている細胞培養培地が挙げられるが、これらに限定されない。場合により、サンプルは、化合物ライブラリーの1つもしくはそれ以上のメンバーで処理されている細胞(または生物)から収集されうる。本発明が特定の生物または細胞型からの生物由来サンプルに限定されることは意図されていない。
【0066】
多くの実施形態において、細胞溶解物が使用され、生物由来サンプルとして使用するためのプロテオミクスまたはメタボロミクスサンプルを提供する。場合により、サンプルは、タンパク質分解酵素または化学開裂試薬を使用して処理され、ペプチド断片を生成し、または化学官能基を分析される種へ導入する。
【0067】
本発明の一部の実施形態において、生物由来サンプルは、フルオラス標識をサンプルメンバーに結合させる前に1つもしくはそれ以上のプロテイナーゼ処理される。あるいは、プロテイナーゼ処理は、サンプルのフルオラス標識後に実行されうる。本方法において使用するための例となるタンパク質酵素としては、トリプシン、キモトリプシン、エンドプロテアーゼArgC、aspN、gluC、およびlysCが挙げられるが、これらに限定されない。場合により、これらのプロテイナーゼ(および具体的に示されていない追加の酵素)を組合せて使用し、サンプルタンパク質のタンパク質分解断片を生成させることができる。
【0068】
あるいは、生物由来サンプルのメンバーは、臭化シアン、ギ酸、トリフルオロ酢酸、またはS−エチルトリフルオロチオアセテートなど化学開裂試薬を使用して断片化されうる。なお、ペプチド結合の化学開裂は当該技術で周知の方法であり、記載されている(例えば、ハント(Hunt)ら、(1986年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:6233−6237頁、およびツギタ(Tsugita)ら、(2001年)Proteomics1:1082−1091頁)。
【0069】
本発明の一部の実施形態において、生物由来サンプルのメンバーは、特定の化学官能基を組込み、サンプルメンバーのフルオラス標識への結合を補助するように修飾される。例えば、サンプル成分の翻訳後修飾の程度および型、特にリン酸化およびグリコシル化は、プロテオームおよびメタボロームサンプルの分析において重要である。選択された翻訳後修飾要素(例えば、リン酸部分またはサッカリド部分)を含有するサンプルメンバーを特異的に標識するために、生物由来サンプルは、翻訳後修飾(またはそれの一部)を、次いでフルオラス標識試薬の化学反応性官能基と反応されうる特定の化学官能基に変換する反応条件に曝露されうる。
【0070】
場合により、本発明の方法において使用されるプロテオミクスサンプルは、フルオラス標識試薬と結合させる前にプレ画分される。例となるプレ画分サンプルとしては、ゲル電気泳動バンド、カラムクロマトグラフィー画分などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
フルオラス標識試薬
本発明の方法では1つもしくはそれ以上のフルオラス標識試薬が使用される。これらのフルオラス組成物は通常、化学反応性官能基および5個もしくはそれ以上のフッ素原子を有するフルオラス部分を含む。場合により、化学反応性官能基は、それにフルオラス部分が付着されるバイオコンジュゲーション剤の一部である。例えば、生物由来サンプルのペプチド成分の標識のための実施形態において、フルオラス標識試薬はしばしばアミノ酸コンジュゲーション剤のフルオラス誘導体である。本発明は新規のフルオラス標識試薬、特に水性適合性フルオラス標識試薬を提供するが、本発明の方法はこれらの薬剤に限定されず、かかるものとして多くの周知のフッ素含有試薬(ルオ(Luo)ら(2001年)Science 291:1766−1769頁に記載されているフッ素結合チオール試薬など)のいずれかで実行されうる。
【0072】
本発明は、さらに分析のためのプロテオミクスおよび/またはメタボロミクスサンプルの調製を簡単にする端的なさらに新規の方法である。フルオラスタグの結合特性は標的サンプル成分の物理特性(例えば、分子量)によって比較的左右されないため、異なるフルオラス標識試薬で同じように処理(例えば、分離、画分、および/または分析)されうる。追加の特徴として、異なるペルフルオロアルキル鎖は、それらに付着されることによって比較的左右されない異なる保持力を有し、この特性は多重標識反応を実行するために使用され、それによって、他の方法を使用することによって実行できな複合組成物分析の独自の方法を提供することができる。本発明のフルオラス標識試薬は、サンプル分析に関して、フルオラス標識が通常、質量分析において使用される標準イオン化および/または断片化条件下で不活性であり、それによって、標識種の分析中に生成されるデータを簡略化する(例えば、標識断片化によるシグナルの損失がほとんどない)という点で追加の利点を提供する。さらに、フルオラスクロマトグラフィーにおいて使用される移動相(通常MeOH/水)は、ESIなどの分析法と適合性である。
【0073】
フルオラス部分
通常、本発明のフルオラス標識試薬は、5個もしくはそれ以上のフッ素原子を有する少なくとも1つのフルオラス部分を含有する。本発明において使用するための例となるフルオラス部分が表1に示されている。場合により、本発明の組成物は少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、15、17、20個のもしくはそれ以上のフッ素原子を有する。一部の組成物実施形態において、フッ素原子は隣接炭素原子(例えば、ペルフルオロアルキル鎖)に結合されている。あるいは、フルオラス部分は、非フルオラス化学領域によって分離された炭素結合フッ素原子の2つもしくはそれ以上の「クラスタ」として提供されうる。例えば、本発明のフルオラス部分としては、−CF−、−CFCH−、および−CFH−要素、直鎖または分岐鎖のいずれか、および場合により、非フルオラスCH−要素がちりばめられているさまざまな組合せが挙げられるが、これらに限定されない。場合により、他のハロゲンも(フッ素原子に加えて)本発明の組成物に組込まれうる。
【0074】
【表1】

ここでnは2〜20の整数である。
【0075】
一部の実施形態において、フルオラス標識試薬は、標準バイオコンジュゲーション剤のフルオラス類似体である(すなわち、ここでは試薬に通常存在する多くの炭素−水素結合原子が少なくとも1つの5個のフッ素原子で置換されている)。本発明の他の実施形態において、標識試薬のフルオラス部分の一部は、バイオコンジュゲーション剤(または化学反応性官能基を有するそれの一部)に結合された追加の成分である。場合により、フルオラス部分はリンカー領域によって化学反応性官能基に結合され、フルオラス標識試薬を形成する。通常、リンカー領域は、長さが少なくとも2個、場合により2〜20個の炭素のアルキル鎖である。直鎖アルキル鎖が例となる実施形態において提供されているが、分岐鎖アルキル鎖および/または芳香族リンカー要素も場合により使用されうる。
【0076】
さらに、一部の実施形態においては、標識試薬および/または随意的なリンカー領域のフルオラス部分は同位体標識を含む。本発明の組成物における同位体標識として使用するための例となる同位体としては、ジュウテリウム(H)、13C、15N、および/または18O原子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
別の実施形態においては、本発明の組成物において使用されるリンカー領域は、修飾サンプルメンバーまたは成分が処理中(例えば、分離または画分ステップ中)の選択時点でフルオラス部分から分離されうるように、放出可能な要素を含みうる。酵素開裂部位を有する生化学構造を本発明の組成物および方法におけるリンカー要素として使用されうる。例えば、例えば、プロテアーゼ認識部位を表すオリゴペプチド、または制限部位を有するオリゴヌクレオチドをコンジュゲーション剤とフルオラス部分との間のリンカーとして使用されうる。あるいは、化学開裂、光分解、または熱変性に感受性である放出可能な要素を使用し、フルオラス部分をフルオラス標識試薬の残りから放出させることができる。
【0078】
本発明の一部の実施形態において、(付随するリンカー要素の有無による)多重フルオラス部分がフルオラス標識試薬へ組込まれる。例えば、本発明のフルオラス標識試薬は、バイオコンジュゲーション剤における第1の位置(例えば、化学反応性官能基に対する第1の位置)で結合された第1のフルオラス部分、およびバイオコンジュゲーション剤における第2の位置で結合された第2のフルオラス部分を含みうる。
【0079】
好ましい実施形態において、本発明のフルオラス標識試薬は水性反応条件と適合性である(例えば、標識の反応性は、標識との反応に対する標的種を打ち負かすことがないようになっており、したがって標識試薬をHOの等モル(もしくはそれ以上の)濃度の存在下に使用されうる)。
【0080】
場合により、フルオラス標識試薬の親水性は、対応する非フルオラスバイオコンジュゲーション剤と比べさらに調節される。これは、例えば、親水性基のフルオラス部分、またはフルオラス部分をバイオコンジュゲーション剤に結合させる随意的なリンカーへの付加によって達成されうる。場合によっては、バイオコンジュゲーション剤自体に修飾を行い、フルオラス標識試薬の水適合性を増大させることができる。例えば、塩基の存在は活性水素種を除去し、β−脱離反応において使用されるフルオラスチオールなど一部の試薬の水適合性を増大させることができる。また、さまざまなモノおよびジカルボン酸含有フルオラス試薬のN−ヒドロキシスルホンサクシニミジルエステルを使用し、これらアミン反応性試薬の水適合性を増大させうる。一般に、フルオラス試薬によるペプチド標識は完全に水適合性のままである。
【0081】
化学反応性官能基
上記の1つもしくはそれ以上のフルオラス部分に加えて、本発明のフルオラス標識試薬は少なくとも1つの化学反応性官能基(一部の実施形態においては、「バイオコンジュゲーション剤」の一部のみを表す)を含む。化学反応性官能基は、フルオラス標識を生物由来サンプルにおける標的種に結合させるために使用される。
【0082】
生物由来サンプル内の標的種は通常、その構造内に一般的な官能基(「標的化学官能基」または「反応性基」)を含有する。例えば、アミノ酸含有種では、標的化学官能基はアミノ酸自体の一部(例えば、アミノ酸側鎖)、または翻訳後修飾などアミノ酸と連結または別の方法で結合させた官能基のいずれかでありうる。一部の実施形態においては、標的化される官能基は通常、ネイティブ分子の一部であるが、フルオラス標識試薬によるタギングのためのサンプルメンバーの誘導化によって生成される。
【0083】
本発明のフルオラス標識試薬と反応される標的化学官能基(生物由来サンプルのサンプルメンバー内に存在する一般的な官能基)としては、スルフヒドリル基、チオエーテル基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ケトンまたはアルデヒド、イミダゾール基、グアニジノ基、インドール部分が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の一部の実施形態において、フルオラス標識試薬の化学反応性官能基部分は、アミノ酸の非標識側鎖と反応するように選択される。他の実施形態において、化学反応性官能基は、フルオラス標識を翻訳後修飾要素(例えば、リン酸部分またはサッカリド部分)、または翻訳後修飾の除去または他の化学転換に由来する生成物に標的化する。
【0084】
これらおよび他のフルオラス標識試薬の例となる実施形態が表2および実施例において示されている。本明細書で例示されている実施形態は実施例としてのみ役立つように意図されており、本発明が本明細書に例示されている特定のフルオラス部分に限定されることは意図されていない。本発明の説明を読んだ後、当業者には、そのすべてが請求された発明の範囲によって包含されているさまざまな実施形態が明らかとなろう。
【0085】
【表2−1】


【表2−2】


【表2−3】


【表2−4】


【表2−5】


【表2−6】


【表2−7】

【0086】
スルフヒドリル基のフルオラス標識
生体分子に存在する最も高い反応性官能価の中にはスルフヒドリル基がある。アルキル化またはジスルフィド交換反応は通常、スルフヒドリル含有分子(例えば、システイン側鎖)のバイオコンジュゲーションに使用される。例えば、マレイミドおよびアクリレートマイケル受容体は、安定したチオエーテル結合を形成することによってスルフヒドリル基を不可逆的にアルキル化するために使用されうる(例えば、図32Bに示されているホモシステインのフルオラス標識を参照)。かかるものとして、これらの化学反応性官能基は本発明の方法および組成物における使用に適している。本発明において使用するための例となるマレイミド型フルオラス標識試薬としては、N−(3−(ペルフルオロオクチル))プロピルマレイミド2a、およびN−(3−(ペルフルオロヘキシル))プロピルマレイミド2bが挙げられるが、これらに限定されない。標識スルフヒドラル部分の他のマイケル受容体型フルオラス標識試薬としては、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチルアクリレート4a、および1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデシルアクリレート4bが挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
別の実施形態において、ハロアセタル、ベンジルハライド、およびアルキルハライド(例えば、ハロゲンβ−ケトン)など活性化ハロゲン誘導体は、本発明の組成物における化学反応性官能基として使用される。本発明において使用するための例となるハロゲンβ−ケトン型フルオラス標識試薬は、N−ヨードアセチル−3−(ペルフルオロオクチル)プロピルアミン6aである。
【0088】
さらに別の実施形態において、ジスルフィド交換試薬は、本発明の組成物における化学反応性官能基として使用される。ジスルフィド交換/相互交換反応は、それの中に組込まれたジスルフィド結合を有するバイオコンジュゲート剤を含み、サンプルメンバーに存在するスルフヒドリル部分は、次いでフルオラス標識試薬のジスルフィド部分を攻撃し、結合を破壊し、かつ標識試薬とサンプルメンバーとの間に新しい、可逆性の(開裂可能な)結合を形成することが可能である。本発明の例となるジスルフィド交換試薬型フルオラス標識試薬は、2−ピリジル−2’−1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデカンジスルフィド3である。
【0089】
直鎖および分岐鎖チオール種も本発明におけるフルオラス標識試薬として使用されうる。フルオラス生物物理学的パラメータ(総フッ素含量、フッ素原子の3次元配向、および保持特性間の関係など)の調査におけるその有用性に加えて、表1に示されているもの(例えば、化合物1bと1c、および化合物1dと1e)などチオール型フルオラス組成物は、「質量コード化親和性タグ」として使用されうる。フルオラス部分内のフッ素原子に対する水素の置換により異なって標識された類似体間の相対保持時間における有意差が生じないとして、区別をつけてのフッ素化標識試薬の使用は、安定した同位体の組込みを必要としない相対定量スキームを可能にし、ここでMSピークのペアが18Daシフトされることになる(すなわち、FとHとの間の質量における差)。
【0090】
アミノ基および/またはグアニジノ基のフルオラス標識
アミノ基およびグアニジノ基などの窒素含有部分も生物由来(例えば、プロテオミクスまたはメタボロミクス)サンプル内の修飾に対して標的されうる反応性官能価である。
【0091】
例えば、適切に管理された条件下でのアシル化反応は、アミン含有分子(例えば、リシン側鎖、さらにN末端アミノ基)のバイオコンジュゲーションに有効であることが証明されている。N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)誘導体、さらに特に親水性スルホ−NHS誘導体を使用し、ペプチドまたはタンパク質配列でアミノ基をアシル化することができる。これらのアシル化試薬の例となるフルオラス誘導体としては、スクシンイミジル−2H,2H,3H,3H−ペルフルオロヘプタノエート5a、およびスルホスクシンイミジル−2H,2H,3H,3H−ペルフルオロヘプタノエート5bのほか、対応するノナノエートおよびウンデカノエート誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
あるいは、3−(ペルフルオロオクチル)グルタル酸無水物7などフルオラス無水物誘導体も本発明におけるアミノ標的フルオラス標識試薬として使用されうる。
【0093】
サンプルにおけるグアニジノ型窒素部分を標識するために、4−[3−(ペルフルオロオクチル)プロピル−1−オキシ]フェニルグリオキシル8などフルオラス1,2−ジカルボニル試薬が使用されうる。これらの反応物質は標的グアニジノ部分(アルギニンのグアニジノ側鎖)との縮合反応を受ける。
【0094】
ケトおよび/またはアルデヒド部分のフルオラス標識
ケトおよび/またはアルデヒド部分は、目的とする一部の生体分子(例えば、ステロイド誘導体、さまざまな医薬中間体、または分解生成物におけるケトン基)に天然に存在するさらに別の反応性官能基であり、または多くの処理によって目的とする選択サンプルメンバーへ導入されうる。これらの化学官能価は、例えば、ヒドラジンの誘導体(フルオラス標識ヒドラジンを形成する)またはアミノオキシ化合物(フルオラス標識オキシムを形成する)を使用することにより、フルオラス標識に対して標的されうる。
【0095】
例えば、生物由来サンプルにおける炭水化物修飾ペプチドを選択的に標識する1つの方法は、化学酸化(例えば、過ヨウ素ナトリウムを使用)を実行し、または特定の糖オキシダーゼを使用することによって反応性アルデヒド部分を生成させることである。次いで、アルデヒドは、10(ビオチン−ヒドラジン複合体を使用するのとは対照的に、非特異的相互作用の影響をよい受けやすいより高価な方法)などヒドラジン型フルオラス標識試薬で標識される。別の方法は、アルデヒドをアミノオキシ型フルオラス標識試薬と反応させ、オキシムを形成することである。次いで、フルオラス標識試薬は単離され、さらに分析されうる。
【0096】
本発明の方法の別の実施形態において、フルオロアミン(すなわち、3−(ペルフルオロオクチル)プロピルアミン17)またはフルオロアルコール(すなわち、3−(ペルフルオロヘプチル)プロパン−1−オル)と組合せカルボジイミジ誘導体が、生物由来サンプルにおけるカルボキシル部分のフルオラス標識のために使用される。これらの方法において、サンプルメンバーのカルボン酸部分(例えば、アミノ酸含有サンプルメンバー)は、対応するフルオラスアミドまたはエステルへ変換される。
【0097】
メチオニン側鎖のバイオコンジュゲーション
メチオニン残基を有するアミノ酸配列もフルオラス標識されうる。メチオニン側鎖は、メチオニン標識反応が通常、酸性(2−3)pHで実行されることを除き、システイン残基について記載されたのと同じようにハロゲンβ−ケトンと反応する。場合により、結果として生じる結合は開裂され、β−メルカプトエタノールなどチオールとの反応とともにメチオニン含有ペプチドを元に戻すことができる。メチオニン残基と使用するための例となるフルオラス標識試薬は、N−ヨードアセチル−3−(ペルフルオロオクチル)プロピルアミン6aである。
【0098】
インドール基のバイオコンジュゲーション
トリプトファン残基のインドール部分は、さまざまなスルフェニルハライドと反応され、インドール環における2位でスルフェニル基を導入することができる。本発明のトリプトファン標識フルオラス標識試薬としては、2−ニトロ−4−(N−(3−(ペルフルオロオクチル)プロピル)カルボキサミド)ベンゼンスルホニルクロリド9などフルオラススルフェニルハライドが挙げられるが、これに限定されない。
【0099】
他の化学ライゲーション法
追加のフルオラス標識試薬をさまざまな選択的化学ライゲーション反応に基づき調製し、こうしてシス−ジエン、アルキン、および隣接ジオールを含むがこれらに限定されないサンプル集団内の多くの他の(天然または導入)化学官能価を標的しうる。例えば、フルオラス試薬を調製することができる2つのきわめて直角の化学ライゲーション法は「シュタウディンンガー(Staudinger)ライゲーション」(ホスパン支持種、検討のために、ケーン(Koehn)ブライバウアー(Breibauer)(2004年)Ang.Chem.Int.Ed.43:3106−3116頁を参照)またはフイスゲン(Huisgen)1,3−双極子環状付加型ライゲーション反応(アルキン支持基質を標的するための「クリック」化学、ロストフセフ(Rostovtsev)ら(2002年) Angew Chem Int Ed 41:2596−2599頁、および本明細書で引用された文献を参照)。これらの方法は、複合混合物からの特定の種の単離から標的種の順序配置までのさまざまなプロテオミクス用途においてどんどん普及している。アルキン含有生物由来サンプル成分の標的において使用するための例となるフルオラスアジドが表2に示されている。
【0100】
本発明の別の実施形態においては、化学反応性官能基として「自殺型阻害剤」を含むフルオラス標識試薬が提供されている。これらのフルオラス試薬を使用して生物由来サンプルにおける活性酵素種を選択的に標的することができる(例えば、活性ベースのプロテオミクス研究)。
【0101】
自殺型フルオラス標識試薬において使用される化学反応性官能基は通常、2つの一般的カテゴリー、すなわち、小さなペプチド構造と、例えば合理的な医薬品設計によって調製される単純であるが、きわめて直角の小さな分子の1つに分類される。例えば、生物由来サンプルにおけるセリン加水分解酵素は、20およびさまざまなスルホネートエステル類似体などフルオラス試薬を使用して標的されうる。フルオラス標識試薬21を使用し、チロシン加水分解酵素を特に標的し、またはシステインプロテアーゼの標的のためにフルオラス標識試薬22または23を使用することができる(グリーンバウム(Greenbaum)ら、(2000年)Chemistry and Biology 569頁、ウィンシンガー(Winssinger)ら(2001年)Ans.Chem.Int.Ed.40: 3152頁を参照)。追加の「自殺型」フルオラス標識試薬のデザインおよび調製において使用するための追加の例となる試薬が、例えば、リュー(Liu)ら(1999年)「Activity− based タンパク質 profiling:the serine hydrolases」Proc.Natl.Acad.Sci USA 96:14694−14699頁によって提供されている。
【0102】
多機能標識試薬
場合により、本発明のフルオラス標識試薬は、追加のアミノ酸結合官能基を誘導体化するための追加の化学反応性官能基をさらに含みうる。これらの実施形態において、フルオラス部分は2つの化学反応性官能基間のリンカーとして作用する。同様のまたは異なる官能基のいずれかが第1および第2の官能価によって標的されうる。したがって、多重化学反応性官能基を有する組成物実施形態のために、バイオコンジュゲーション要素は同じ構造であること、またはアミノ酸残基の同じ型に対する親和性を有する必要はない(すなわち、二又フルオラス標識試薬を使用して異種の化学エンティティを結合させることができる)。
【0103】
同様の標的特異性を有する例となる同種官能架橋フルオラス標識試薬(すなわち、フルオラス標識試薬における両方の化学反応性官能基が同じ官能基と反応する能力がある)はビス(スルホスクシンイミジル)−2H,2H,3H,3H,10H,10H,l1H,l1H−ペルフルオロドデカンジオネート11、アミン標的組成物である。
【0104】
サンプルにおける異なる官能基と反応する例となる異種官能架橋フルオラス標識試薬はスルホスクシンイミジル−12−[(ヨードアセチル)アミノ]2H,2H,3H,3H,10H,10H,11H,11H,12H,12H−ペルフルオロドデカノエート12(その化合物はアミンおよびチオール反応性である)。
【0105】
プロテオミクスサンプル成分の修飾および分離
プロテオミクスサンプルおよびフルオラス標識試薬を提供した後、本発明の分析方法における次のステップは、プロテオミクスサンプルの1つもしくはそれ以上の成分(例えば、複数のアミノ酸含有成分のメンバー)を修飾するステップを含む。1つもしくはそれ以上のフルオラス標識をプロテオミクスサンプルの標的サンプルへ組込み、かつ修飾プロテオミクスサンプル成分を形成することによって、フルオラス含有化合物の自己結合特性を本明細書で提供されている方法の分離するステップにおいて使用することができる。
【0106】
上述したように、多くの一般的なアミノ酸コンジュゲーション剤(例えば、標識試薬)のフルオラスバージョンを合成し、非標識ペプチドの残りのバルクから標識ペプチドを単離するために使用されうる。フルオラス含有アミノ酸コンユゲーション剤は、フルオラス標識を有する薬剤の一部が修飾ペプチドと結合させるようにペプチド成分と相互作用する。本発明の方法の一部の実施形態において、フルオラス標識試薬は複数のフルオラス標識試薬から成る。例えば、標識試薬は、第1のフルオラス部分と結合した第1のアミノ酸コンジュゲーション剤と、別個の化学エンティティとして、第2のフルオラス部分に結合した第2のアミノ酸コンジュゲーションとを有する。複数のフルオラス標識剤を含むかかる実施形態において、好ましくは、第1および第2のフルオラス部分は分離組成物に対する親和性において異なる。
【0107】
別の実施形態において、これらの方法において使用されるフルオラス標識試薬は、フルオロアルカンリンカーによって結合された2つのアミノ酸コンジュゲーション剤(例えば、第1のアミノ酸コンジュゲーション剤および第2のアミノ酸コンジュゲーション剤)を有する。例となるフルオロアルカンリンカーは、式
−CHCH(CFCHCH
[式中、nは3〜20の整数である。]によって表される。
【0108】
フルオラス部分は主に「似た」または同様の組成物と結合する傾向があるため、この特性は本発明の方法の分離するステップにおいて利用される。フルオラス含有と非フルオラス含有組成物間の材料分離は、標識に付着された種の性質(例えば、サイズ)と無関係に適正に生じる。追加の特徴として、異なるフルオラス組成物のフルオラス標識を有する化学種は、結合種の性質と無関係に持続する特定の保持特性で互いに分離されうる。
【0109】
本発明の方法における別のステップは、フルオラス標識に対する親和性を有する組成物を使用する非標識成分から修飾(例えば、フルオラス標識)プロテオミクスサンプル成分を分離するステップを含む。フルオラス分離は通常、最小のバックグラウンドできわめて選択的であり、比較的に簡単に実行される。注目すべきは、非標識種からフルオラス標識種を区別する能力も固定相の選択によっても影響されうることである(例えば、図26−28を参照)。
【0110】
多くの親フルオロ性組成物を使用してフルオラス標識および非標識(非修飾)プロテオミクスサンプル成分を分離することができる。例えば、多くのフルオラス固定相またはフルオラス親和性マトリクスは、フルオラス部分をシリカゲルまたはポリマー基質(例えば、ポリスチレン)に結合させることによって、またはフルオラスモノマーを重合することによって調製されうる。好ましい実施形態において、フルオラス標識に対する親和性を有する組成物はフルオラスシリカゲルである(例えば、フルオロフラッシュ(FluoroFlash)(登録商標)シリカゲル(フルオラス・テクノロジーズ社(Fluorous Technologies Inc.)、Pittsburgh、ペンシルベニア州(PA))。あるいは、FC−720(登録商標)(3M(Maplewood、ミネソタ州(MN))などのフルオラス溶媒を液体:液体または液体:固体抽出法で使用されうる。
【0111】
場合により、修飾プロテオミクスサンプル成分を非修飾成分から分離するステップは、フルオラス親和性基質を使用するフルオラスベースの分離法(例えば、フルオラス官能化固定相、またはフルオラスカラムクロマトグラフィーを使用するバッチスタイルの固相抽出)を実行し、さらに分析されるカラム流出物を収集することによって達成されうる。カラム流出物は、プロテオミクスサンプルの非結合(例えば、非フルオラス)部分またはフルオラス含有画分のいずれかでありうる。
【0112】
別の態様において、本発明は、基質(例えば、サンプルプレート上で直接サンプルクリーンアップのためのMALDIまたはDIOS)の表面上で直接フルオラス標識サンプルのフルオラスおよび非フルオラス成分を画分するための方法も提供する。フルオラス標識に対する親和性を有する組成物は、基質の表面の第1の部分に結合され、表面上にフルオラス2次元表面を形成する。フルオラス親和性組成物は、基質の全表面、または表面の選択部分(例えば、基質の表面上に広がる数々の位置)のいずれかを覆いうる。別の実施例として、フルオラス修飾多孔性シリコン表面は、ワイ(Wei)ら「Desorption/Ionization Mass Spectrometry on Porous Silicon」(1999年)Nature 399:243−246頁によって記載されたDIOS(シリコン上での脱離イオン化)方法による使用に調製されうる。
【0113】
次いで(非画分)フルオラス標識サンプルは基質表面上に直接配置され、その後、フルオラス成分および非フルオラス成分はフルオラス親和性性組成物に対するその親和性に基づき分離されうる。例えば、フルオラス標識成分を非フルオラス成分から分離するステップは、フルオラス標識に対する親和性を有する組成物とサンプルのフルオラス成分を結合させ、それによってフルオラス成分を表面に配置した後、例えば、洗浄によって任意の非フルオラス成分を除去するステップを含みうる。
【0114】
質量分析
本発明の方法は、分離された成分で質量分析を実行し、それによってプロテオミクスサンプルを分析するステップをさらに含む。多くの質量分析法が本発明において使用されうるが、タンデムMSが特に有用である。好ましくは、本発明の方法において使用されるフルオラス標識試薬は化学的に安定した組成物であり、フルオラス部分が低エネルギー衝突に対する質量分析条件(例えば、衝突活性化解離(CAD)条件)下に不活性であるようになっている。
【0115】
本発明の多くの実施形態において、フルオラスベースの分離ステップにおいて使用される移動相は水とメタノールの混合物である。この溶媒系はESI法と適合性であり、フルオラスカラムの質量分析計への種の直接溶出の可能性を生じさせる。
【0116】
一実施形態において、分析は、プロテオミクスサンプルの分離された画分およびサンプルの未処理部分に対する質量スペクトルデータを収集することによって実行される。次いで、MSデータは比較される。分離された画分はプロテオミクスサンプルの非保持(例えば、非標識)部分、または保持(フルオラス標識)画分である。分離された成分が非修飾プロテオミクスサンプル成分(例えば、フルオラスカラム流入画分)である実施形態では、MSデータを比較するステップは、MSピークが最初の未処理プロテオミクスサンプルに存在するが、非修飾プロテオミクスサンプル成分には存在しない(すなわち、そのピークはフルオラス親和性基質によって保持されている)測定するステップを含みうる。分離された画分がフルオラス含有画分である実施形態では、これらの方法は場合により、多重標識メンバー成分から単一標識メンバー成分を分離するステップをさらに含む。
【0117】
本発明の方法の一部の実施形態は、Bruker Biflex III MALDI TOF器具またはMicromass ESI Q−TOF−2器具を使用して実行された。場合により、ブロック(Brock)らのPCT公報国際公開第03/054772号パンフレット(「プロテオミクスデータ複雑性削減のための方法およびデバイス(Methods and Devices for Proteomics Data Complexity Reduction)」)に記載されたものなど高質量精度質量分析を使用するタンパク質の識別のための方法および系が、本明細書で提供された方法の分析ステップにおいて使用されうる。高質量精度(標識種のシフト同位体分布の分析など)を含む実験は、ホームビルドMALDI源、新しいオープン円筒型電池、および四極子質量分析計(ABB Extrel)を装備した改良型7.0T Bruker Apex II FT−ICR器具を使用して実行された。高質量精度測定はタンパク質識別割当における大きな信頼性を提供し、少ない配列範囲(例えば、少ないペプチド)および少ない追加のタンデムMS実験でタンパク質を識別可能にする。
【0118】
確認されたペプチドの正確な質量測定を利用して分析法に役立てることもできる。フッ素は18.9984amuの質量を有する。正確に測定された場合は、フッ素部分含有誘導体の質量はその計算された見掛けの質量よりも少なくなる。対照的に、同じ見掛けの質量を有する非フルオラス標識化合物の正確な質量は、計算された見掛けの質量よりもわずかに高くなる。したがって、正確な質量測定値は、一連の理論的組成物の計算された見掛けの質量値と比べると、所定のMSピークがフルオラス標識種を示すかどうか判定するために使用されうる。正確な質量測定の方法が、例えば、ブロック(Brock)らによる、「プロテオミクスデータ複雑性削減のための方法およびデバイス(Methods and Devices for Proteomics Data Complexity Reduction)」という名称のPCT公報国際公開第03/054,772号パンフレットに示されている。
【0119】
図29および30は、タンデムMSにおけるフルオラスタグの不活性の2つの比較例を示し、ネイティブシステイン含有ペプチドおよびそのアクリレート標識対照物のタンデムMSパターンを比較している。両方の場合、タグの分解による特徴的なピークは確認されなかった(別のネイティブ標識試薬、ICAT試薬とは対照的)。同様に、図7および8は、タンデムMS条件下(異なる標識による質量によりシフトすることを除き同一であるスペクトルを出す異なるサイズのタグを有する2つの同一の種)にフルオラスタグの不活性を示す。
【0120】
翻訳後修飾の分析
本発明の方法は、例えば、プロテオミクスまたはメタボロミクスサンプル成分の翻訳後修飾の変化を検査するために使用されうる。翻訳後修飾(PTM)としては、グリコシル化、リン酸化、硫酸化、脂肪酸付着などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
一部の実施形態において、本発明の方法は、少なくとも1つのリン酸化成分を有する複数のアミノ酸含有成分のメンバーを分析するために使用される。リン酸化成分は、1つもしくはそれ以上のリン酸化セリン残基、1つもしくはそれ以上のリン酸化トレオニン残基、またはそれらの組合せを含みうる。複数のアミノ酸含有成分のリン酸化メンバーの修飾は、例えば、a)塩基を複数のアミノ酸含有成分に添加し、反応混合物を形成するステップと、b)リン酸化成分においてβ−脱離反応を実行するステップと、c)フルオラス標識試薬を反応混合物に添加するステップと、d)β−脱離反応の生成物でマイケル付加反応を実行するステップとによって実行されうる。この処置は結果として、リン酸化の(以前の)部位でのフルオラス標識の結合をもたらし、フルオラス標識プロテオミクスサンプル成分を生成させる。上記の用途の例となるフルオラス標識試薬は、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデカン−1−チオールである。
【0122】
本発明の他の実施形態において、これらの方法は1つもしくはそれ以上のグリコシル化プロテオミクス成分を分析するために使用される。例えば、糖ヒドロキシル官能価が、フルオラス含有試薬を使用してアシル化またはアルキル化されうる。一実施形態においては、プロテオミクスサンプルのグリコシル化メンバーを修飾するステップは、a)グリコシル化成分における1つもしくはそれ以上の糖を酸化させ、反応混合物において1つもしくはそれ以上のアルデヒド部分を生成させるステップと、b)フルオラス標識試薬を反応混合物に添加し、ここでアミノ酸コンジュゲーション剤がヒドラジド含有化合物を含んでなるステップと、c)アルデヒド部分をヒドラゾン結合によりヒドラジドと結合させるステップとを含む。場合により、ヒドラゾン結合は削減され、それによってフルオラス標識アミノ酸含有成分を生成させる。
【0123】
グリコシル化プロテオミクス成分における1つもしくはそれ以上の糖を酸化するステップは、当該技術で周知の多くの方法によって実行されうる。例えば、過ヨウ素酸化反応を使用し、2つの隣接したヒドロキシル基を有する糖においてアルデヒド官能基を導入することができる。上記の用途のための例となるフルオラス標識試薬は、2H,2H,3H,3H−ペルフルオノナン酸ヒドラジドである。
【0124】
データセット比較
別の態様において、本発明は、a)複数のアミノ酸含有成分(タンパク質、ペプチドなど)を有するプロテオミクスサンプルを提供するステップと、b)5個もしくはそれ以上のフッ素原子を有するフルオラス部分に結合されたアミノ酸コンジュゲーション剤を有するフルオラス標識試薬を提供するステップと、c)プロテオミクスサンプルをフルオラス標識試薬と反応させ、処理プロテオミクスサンプルを形成し、それによってフルオラス標識をプロテオミクスサンプルの1つもしくはそれ以上のメンバー成分へ組込み、かつフルオラス修飾(すなわち標識)成分を形成するステップと、d)処理プロテオミクスサンプルの第1の部分を質量分析によって分析し、第1の一連の質量スペクトルデータを生成させるステップと、e)処理プロテオミクスサンプルの第2の部分を質量分析によって分析し、第2の一連の質量スペクトルデータを生成し、ここで第2の部分のフルオラス修飾成分は分析する前にフルオラス親和性基質を使用するフルオラスベースの分離法によって除去されているステップと、f)第1および第2の一連の質量スペクトルデータを比較し、第1の部分には存在し、第2の部分には存在しない1つもしくはそれ以上の質量スペクトルピークを測定し、それによってプロテオミクスサンプルを分析するステップとを含むプロテオミクスサンプルを分析するための方法を提供する。
【0125】
生物由来サンプルのメンバーの分別標識および定量化
例えば、ベースタンパク質またはPTMの量的分別ディスプレイを評価するための化学標識に基づくペアのサンプルの分析のためのさまざまな方法が当該技術において記載されている。これらの方法において使用される化学標識は通常、別々の独立した機能(分別定量化の場合には3つ)を実行する2つの異なる成分から調製される。第1の部分は目的とするペプチドにおける官能基の化学標識を方向づけるが、第2の部分は標識ペプチドの選択的単離を可能にする。かかる化学標識の例としては、同位体コード化親和性タギング(ICAT)方法において使用されるものが挙げられる(ギジ(Gygi)ら「Quantitative analysis of complex protein mixtures using isotope−coded affinity tags」(1999年)Nature Biotechnology 10:994−999頁)、および、セリンおよびトレオニンリン酸化分析のために使用されるチオール型マイケル付加試薬(例えば、ゴーシュ(Goshe)ら、上記を参照)が挙げられる。
【0126】
複合混合物および/または目的とする特定のタンパク質クラスの濃度の簡略化のためのこれらの方法は、標的分子の徹底的な分析において重要であることが証明された。しかし、これらの一般に使用される方法は、a)非特異的相互作用の存在、b)目的とする種の高特異性結合系からの完全な回収の困難、およびc)タンデムMSなど分析過程中の、それによってタンデムMS法の有効性を低下させる、標識の望ましくない断片化を含む、いくつかの操作上の問題を有する。
【0127】
本発明は、フルオラス特性の利用する新しい方法および組成物を提供することによって、当該技術におけるこれらおよび他の問題を克服する。分別標識能もこれらの系に容易に組込まれうる。例えば、表2に示されているフルオラス標識試薬の多くは、短いリンカー要素、例えば、フルオラス部分と化学反応性官能基との間に、−CHCH−または−CHCHCH−を含む。チオール型フルオラス標識試薬などの試薬では、このリンカー要素は、その求核性を保持するのを補助する。分別標識実施形態では、アルキル鎖の重水素化および正常バージョンが使用され、分別定量化を可能にする(例えば、ヨードアセトアミド型フルオラス標識試薬6a〜6dを参照)。
【0128】
注目すべきは、アルキルおよびペルフルオロアルキル鎖の長さを所望通りに変化されうることである。異なる鎖の長さのペルフルオロアルキル鎖を有する種は、結合種の性質と無関係に持続する特定の保持特性で互いに分離されうる。理論上、この特性は、異なるサンプルから同時に多重分離に使用されるが、これは他の方法によって行うにはきわめて困難である方法である。さらに、(異なるアミノ酸/官能基を標識しうる)異なる標識試薬に付着した(明らかに異なる質量を有する)異なる長さの鎖を有することから生じるデータは、タンデムMS分析前にアミノ酸組成物を解明するために使用されうる。場合により、これらのパラメータはタンデムMSソフトウェア分析プログラムへのプログラムも可能であり、ペプチド同定のさらなる信頼性が生じる。
【0129】
本発明は、本明細書に開示された化合物および誘導体を使用する分別定量化の方法を提供する。この態様において、比較されるサンプルは、同じ試薬の異なる同位体バージョンと反応され、かつ2つの誘導体化サンプルが混合される。この結果は一連の同位体標識ポリペプチドぺアであり、所定のペアの各メンバーの相対濃度はそのシグナル強度と直接比例している。同位体置換は、13C原子の形でフルオラス部分自体内に存在しうるが、リンカー領域内ではさまざまな安定した同位体、またはアミノ酸コンジュゲーション剤自体の一部として存在しうる。あるいは、同位体置換は、それらが開裂可能な試薬が使用される場合には単離ペプチドとともに残存するように組込まれうる。有利には、本発明の方法は分別定量化を提供すると同時に、標識の他の所望の特性を維持する。
【0130】
例となる同位体試薬のペアとしては、トリデカフルオロオクチルアクリレートとその3,4,5,6,7,8−l3トリデカフルオロオクチル類似体が挙げられるが、これらに限定されない。比較されるタンパク質サンプル(1mg)はTCEPで削減され、トリプシンで消化される。消化物は、200μLジメチルホルムアミド(DMF)、および2.5μL 100mM炭酸ナトリウム、pH8.0中で脱塩、乾燥、および再構成される。1μLのトリデカトリデカフルオロオクチルアクリレートまたはそのl3を各サンプルに個別に添加し、反応を一夜、室温下に進行させる。サンプルは混合され、非反応アクリテートを、N−2−メルカプトエチルアミノメチルポリスチレンビーズ(ノバ・バイオケム(Nova Biochem)4mgで室温下に2時間のインキュベーションによって混合物から除去される。FSPEは、フルオラス標識(およびシステイン含有)ペプチドのみを単離するために実行され、その各々はシステイン部分当たり6ドルトンで分離された同位体ペアとして存在し、2つのサンプル間の相対濃度はペアのシグナル強度で示される。
【0131】
フルオラス含量による分離
別の態様において、本発明は、標識種のフルオラス含量に基づく生物由来サンプル(例えば、プロテオミクスまたはメタボロミクス)サンプルの成分の分離のための方法を提供する。複数のアミノ酸含有成分(タンパク質、ペプチドなど)を有するプロテオミクスまたはメタボロミクスサンプルなど生物由来サンプルは、本明細書に記載された(例えば、5個もしくはそれ以上のフッ素原子を有するフルオラス部分に結合された化学反応性官能基を有する)フルオラス標識試薬で処理される。サンプルのメンバー成分はフルオラス標識試薬で標識され、一部のメンバー成分は単一フルオラス標識に結合されるが、他のメンバー成分は1つ以上のフルオラス標識に結合されるようになっている。次いで、サンプルメンバーはフルオラス含量に従って画分されうるが、処理サンプルはフルオラス分離組成物(例えば、フルオラス親和性基質)と結合しており、結合単一標識成分の結合多重標識成分から別個に選択的溶出を可能にする。
【0132】
例えば、本発明の方法を使用し、ユビキチン化成分を有するプロテオミクスまたはメタボロミクスサンプルの分析のために使用されうる。ユビキチンは、(リシン残基によって)細胞タンパク質に結合されると、分解のためにそのタンパク質をタギングする高度保存ポリペプチドである。かかるものとして、ユビキチン化タンパク質は2つのN末端を有し、1つはタンパク質自体の一次配列からのものであり、もう1つは結合したユビキチン部分からのものである。この特性はサンプル含有ユビキチン化成分の分析に使用されうる。
【0133】
このサンプルは、2つの部分、すなわち、単一N末端残基を有するタンパク質から成る第1の部分、および少なくとも2つのN末端残基を有するユビキチン化タンパク質(付着ユビキチン配列由来)を含む第2の部分を有するとみなされうる。したがって、サンプルメンバーの断片への(トリプシンによる)適切な開裂は、ペプチドの2つの集団、すなわち、単一N末端を有する1つの部分、および2つのN末端を有する第2の部分(すなわち、ユビキチン化リシン残基を含有するペプチド)を生成させる。これらの方法の好ましい実施形態において、任意の非修飾リシン残基のイプシロン−アミノ基は、アミノ基を標的するフルオラス標識試薬でサンプルを処理する前に(例えば、グアニジン化によって)遮断される。
【0134】
非末端アミノ基が遮断されると、フルオラス標識試薬によるタンパク質断片の第1および第2のN末端の標識により、単一標識タンパク質分解断片の第1の部分および多重標識(例えば、二重標識)タンパク質分解断片の第2の部分が生じる。
【0135】
同じように、分子間ジスルフィド連結ペプチドも有効に2つのN末端、各ペプチドからのものを有する。本発明の方法は、分子間ジスルフィド連結成分を有するプロテオミクスサンプルの分析のために使用されうる。1つもしくはそれ以上のジスルフィド結合成分を有するプロテオミクスサンプルを処理するステップは、ジスルフィド架橋含有成分をトリプシンで開裂し、それによって2つのN末端を有する1つもしくはそれ以上のジスルフィド連結タンパク質断片を生成し、かつタンパク質分解断片のN末端を標識するステップを含む。
【0136】
多重フルオラスタグを使用する多重化
さらに別の態様において、本発明は、フルオラスベースの分離法を使用するプロテオミクスサンプルの多重分離の追加の方法を提供する。多重分離は、2つもしくはそれ以上のフルオラス標識試薬を使用する、一連の生物由来サンプル(すなわち、各メンバーサンプルが複数の成分を有する2つもしくはそれ以上のプロテオミクスまたはメタボロミクスサンプル)で実行される。通常、フルオラス標識試薬は、5個もしくはそれ以上のフッ素原子を有するフルオラス部分に結合されたアミノ酸コンジュゲーション試薬である。一連のサンプルの第1のメンバー(すなわち、第1の複数の成分)は第1のフルオラス標識試薬で処理され、それによって第1のサンプルにおける1つもしくはそれ以上の成分(例えば、タンパク質、ペプチドなど)を標識する。同じように、一連の第2のメンバーが第2の(異なる)フルオラス標識試薬で処理され、それによって第2のサンプルの1つもしくはそれ以上の成分を標識する。場合により、追加のサンプルセットが、追加のフルオラス標識試薬を使用して標識されうる。場合によりこれらの方法で使用される第1、第2、および追加のフルオラス標識試薬は異なる化学構造を有し、好ましくは、フルオラス標識試薬は、それの中に組込まれたフッ素原子の数において異なる。
【0137】
処理された第1および第2のサンプルは混合され、混合サンプルを形成する。次いで、フルオラスベースの分離法は、混合サンプルにおける標識および非標識成分を分離するために使用される。一部の実施形態においては、フルオラス固相抽出が実行され、標識および非標識種を分離する。区別をつけて標識された種は場合によりさらに画分され、またはそれらはいっしょに分析されうる。あるいは、親和性基質を使用するフルオラスカラムクロマトグラフィーを使用し、標識および非標識成分を分離し、第1のフルオラス標識試薬で標識された成分を第2のフルオラス標識試薬で標識された成分から分離する。場合により、この方法は、例えば、質量分析によって、非標識成分またはフルオラス標識成分を分析するステップをさらに含む。
【0138】
上述したように、一連のプロテオミクスサンプルの1つもしくはそれ以上の追加のメンバーは、場合により、追加のフルオラス標識試薬で処理されうるが、追加の試薬は、互いに、かつ第1および第2のフルオラス標識試薬と(例えば、それに組込まれたフッ素原子の数において)異なる。これらの追加の処理サンプルも分離するステップ前に第1および第2のサンプルと混合されうる。分析は、例えば、以前の方法で言及されているように、質量分析によって実行されうる。
【0139】
分別定量化試薬
本発明は、プロテオミクスまたはメタボロミクスサンプルの分別定量化のための一連のフルオラス標識試薬も提供する。一連のフルオラス標識試薬は通常、本明細書に記載されているように2つもしくはそれ以上のフルオラス標識試薬を含み、これらは1つもしくはそれ以上の安定した同位体で区別をつけて標識される。さまざまな安定した同位体が使用されうるが、一連のフルオラス標識試薬においてより一般的に使用される同位体は、ジュウテリウム(H)、炭素−13(13C)、窒素−15(15N)、および酸素−18(18O)である。ペアのフルオラス標識試薬間の同位体の差異は、例えば、フルオラス部分(例えば、13C−ペルフルオロアルキル基)、化学反応性官能基の保持部分、またはフルオラスおよびコンジュゲーション部分を結合させる随意的なリンカー領域において配置されうる。分別定量化分析において使用されうる例となるペアのフルオラス標識試薬は、化合物6aと6b、および6cと6dである。
【0140】
キット
追加の態様において、本発明は、本明細書に示された組成物および/または方法を具体化するキットを提供する。本発明のキットは、場合により、以下の1つもしくはそれ以上を含んでなる。すなわち(1)本明細書に記載された1つもしくはそれ以上のフルオラス標識試薬、(2)フルオラス固相抽出を実行するためのフルオラス基質または他の材料、(3)本明細書に記載された方法を実施するための、および/または本明細書に記載されたフルオラス標識試薬を使用するための説明書、(4)1つもしくはそれ以上の生物由来サンプル成分(例えば、分析中の対象として使用)、(5)成分または組成物を保持するための容器、および(6)包装材料。
【実施例1】
【0141】
本発明は、以前に記載されていない独自の試薬の説明を含む、プロテオミクスおよびメタボロミクスサンプル成分のフルオラス標識のさまざまな態様、およびさらに複合混合物からのさまざまな機能的種の調製および単離におけるその用法の実施例を提供する。以下の実施例は、請求された発明を例示するため提供されているが、限定するためではない。例えば、唯一のフルオラス標識試薬が所定の反応スキームまたは実施例で特定されうるが、その型の試薬の同様の標識試薬(例えば、鎖の長さまたは組込まれたフッ素の数が異なる)が暗示されている。本明細書に記載された実施例および実施形態は例示目的だけのためであり、かつそれに照らしてさまざまな修正または変更が当業者には示されるとともに、本出願の精神および範囲および添付の請求項の範囲に含まれることが理解される。
【実施例2】
【0142】
実施例1:フルオロ固相抽出(FSPE)
図1に示されているものなど、フルオラス固相抽出処置において使用されるフルオラスカラムは、以下のように調製されうる。溶融シリカキャピラリー(360/200μmO.D./L.D.、長さ約15cm)を最初に「カシール(Kasil)」フリットし、次いで高圧下(500〜1000psi、社内ビルド圧力容器を使用)、フルオロフラッシュ(Fluoroflash)(商標)フルオラス逆相シリカゲル(FRPSG、ペルフルオロオクタン結合相、5μm粒子、フルオラス・テクノロジーズ社(Fluorous Technologies,Inc.)から入手可能、Pittsburgh、ペンシルベニア州(PA))のスラリーでパックし、約5〜8cmの総床長さを得た。FRPSGのへら先端を500μL MeOHに磁気攪拌で添加することによって調製した。「カシール(Kasil)」材料を450μL Kasil No.1ケイ酸カリウム(ザ・PQ社(The PQ Corp.)、Valley Forge、ペンシルベニア(PA))を88μLホルムアミドと混合した後、ボルテックス混合によって調製した。混合物を1分間(〜5000rpm)遠心分離し、上部200μLを除去し、保存した。次いで、溶融シリカキャピラリーを迅速に保存溶液へ浸漬し、1〜2cmの金属をキャピラリーの一端へ入れた。「浸漬」キャピラリーを100℃で1時間乾燥させ、冷却させ、セラミックカッターで約1〜2mmのKasilフリット長さに切断し、キャピラリーの全長を約10cmとした。最後に、フリットしたキャピラリーを上記のFRPSGスラリーで充填し、20〜50カラム体積(CV)の99%メタノール/10mMギ酸アンモニウムで活性化した。
【0143】
20−50CVの60%メタノール/10mMギ酸アンモニウムによる平衡後、サンプルを平衡バッファー中のFRPSGカラムへ装填した。その後、使用されたフルオラスタグ(C13タグ=洗浄A、C17または2×Cタグ=洗浄B)によって、20−50CVの洗浄A(60%メタノール/10mMギ酸アンモニウム)または洗浄B(水中50%アセトニトリル(v/v))のいずれかで洗浄ステップを実行した。フルオラス標識ペプチドを20−50CVの99%メタノール/10mMギ酸アンモニウムを使用して溶出した。画分を0.5mL微小遠心管へ収集し、その後に真空で乾燥させた。乾燥FSPE溶出液(99%メタノール/10mMギ酸アンモニウム画分)を、例えば、MALDI−TOP MSまたはキャピラリーLC/MSによって、さらに分析するために25%メタノール/0.5%酢酸(v/v)中で再構成した。
【0144】
実施例2:トリプシンペプチド混合物のグアニジン化およびα−フルオラス誘導体化
O−メチルイソウレアまたは2−メトキシ−4,5−ジヒドロ−1H−イミダゾールを使用するリシンε−アミノ基の選択的反応が図3Aに示されている。通常、リシン残基を本明細書に記載されたμC18Ziptips(商標)で捕捉後に修飾した。先端をそれぞれの溶液で数回吸引し、先端床を完全に反応溶液に浸漬して50℃オーブン中でインキュベートした。
【0145】
ホモアルギニンへのリシン転換を37℃下、2時間のインキュベーション中に、0.5M O−メチルイソウレア硫酸水素(2μL)と0.25M炭酸ナトリウム、pH11.7(8μl)の1:4溶液を使用し、あるいはO−メチルイソウレアヘミ硫酸塩(O−MIU、0.25M炭酸ナトリウム中約1.1M pH10.5を使用して実行した。次いで、修飾ペプチドを脱塩し、真空で乾燥させた。
【0146】
リシンε−アミノ基の4,5−ジヒドロ−1H−イミダゾイル誘導体への転換を、2−メトキシ−4,5−ジヒドロ−1H−イミダゾール(環状−OMe、水中約0.8M)、および4〜5時間のインキュベーション(またはアジレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies)、Wilmington、デラフェア州(DE)から入手可能なLys Tag 4H試薬キットにおいて上記の通り)を使用して実行した。
【0147】
N末端基(リシン遮断または未処理サンプルのいずれかで)を同等量の0.25M炭酸ナトリウムバッファーを添加してフルオラス標識し、THF中250mM N−スクシンイミジル 3−ペルフルオロブチルプロピオン酸塩(化合物5a)で新たに調製し、最終総量を40μLとした。標識反応を2時間、室温下に進行させた後、4μL50%ヒドロキシルアミン水溶液を添加した(チロシンおよびヒスチジン残基の望ましくないエステル化を逆行させる)。反応溶液を10分間放置させ、その後、5%TFAを5μL添加し、反応を終了させた。最後に、反応溶液は真空で乾燥させ、次いで60%メタノール/10mM ギ酸アンモニウム中で再構成した。
【0148】
実施例3:β−脱離およびチオールマイケル付加によるリン酸化またはグリコシル化ペプチドのフルオラス標識
チオール型フルオラス標識試薬を使用するマイケル付加によるリン酸化および/またはグリコシル化セリンまたはトレオニン残基のβ−脱離およびその後の標識を示す例となる反応スキームが図2Aおよび2Bに示されている。
【0149】
ウシα−カゼインおよびチキンオボアルブミンをシグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich)(St.Louis、モンタナ州(MO))から購入した。別に言及されていない限り、タンパク質サンプル(約40μM)を50mM炭酸アンモニウム(pH7.5)中5mMジチオトレイトール(DTT)の添加によって低減した。配列グレード修飾トリプシン(Tp)(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))によるタンパク質分解を一夜、37℃下、基質/酵素比50:1(w/w)を使用して行った。
【0150】
サンプル(5μL、≦250pmol)を同等量の3:1のDMSO/エタノール(v/v)(5μL)と混合した後、4.6μL飽和Ba(OH)および1μL 500mM NaOHを添加した。最後に、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデカン−1−チオール(フルオラス標識試薬1a)0.7μLを添加し、溶液を37℃下に1時間反応させた。5%TFA 5μL(v/v)の添加によって反応を停止し、反応生成物をその後に反応混合物を調節することによって酸化させ、最終濃度を3%H(v/v)とし、反応を30分間、室温(RT)下に起こさせた。この結果、以前のホスホセリン(pS)またはホスホトレオニン(pT)残基の代わりにβ−連結フルオラススルホキシド側鎖を有するフルオラス標識サンプルメンバーが生じる。最後に、サンプルを60%メタノール(v/v)10mMギ酸アンモニウムで100μLに希釈し、−80℃下に保存した。
【0151】
別の小規模β−脱離/マイケル付加反応(≦100pmolペプチド)において、水性ペプチド溶液11.35μLをエタノール5.11μL、5M NaOH 1.84μL、およびジメチルホルムアミド中で1.18M 1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデカン−1−チオール(フルオラス標識試薬1a)1.7μLと混合した。反応を室温下、2〜3時間進行させた。
【0152】
さらに、場合により、酸化過程の延長により、標識ペプチドのβ−連結フルオラススルホキシド側鎖はそのフルオラススルホン類似体へ変換し、これは改善されたタンデム質量分析断片化特性を示す。
【0153】
この反応スキームを使用し、生物由来サンプル由来の多くのβ−脱離生成物を標識することができる。図6〜11は、α−カゼイン消化(フルオラス標識試薬CF(CFCHCHSH、および1H,1H,2H,2H−ペルフルオロヘキサン−1−チオール)のフルオラス標識時に生成された実験データを示す。図6の上パネルは、β−脱離反応およびフルオラス標識を受けた前(第1のパネル)および後(第2のパネル)の(非標識)消化カゼインサンプルに対して生成されたMSデータを示す。下パネルは、フルオラス親和性基質による分離時に保持された(第4のパネル)または保持されなかった(第3のパネル)サンプル含量を示す。図7〜10は、さまざまな識別されたペプチド断片に対して生成されたタンデムMSデータを示す。スペクトもタンデムMS条件下のフルオラス標識試薬の不活性の実施例を示し、異なるサイズのタグを有する2つの同一種は、異なる標識による質量シフトを除き同一であるスペクトルを生じる。
【0154】
図12〜15は、タンパク質オボアルブミンを使用して実行された類似の実験から得られた結果を示し、トリプシン消化およびホスホペプチドのフルオラス標識後のMSピーク位置の変化を示すMSデータ、および対応するタンデムMSデータを含む。別の一連の実験において、O−GlcNAcペプチドは、図16〜18に示されているように、同様のβ−脱離/マイケル付加反応でフルオラス標識された。
【0155】
関連実施形態において、フルオラス標識ホスホペプチドは同様のβ−脱離/マイケル付加反応によって調製され、次いで非標識カゼインのトリプシン消化物を「スパイク」するために使用された(図11に図示)。図19もβ−脱離標識ホスホペプチドの全酵母トリプシン消化物へのスパイクによって調製されたサンプルに対して生成されたデータを示す。両方の実験は、非標識種と比べフルオラス標識のきわめて特異的な保持特徴を示す。
【0156】
実施例4:アクリレートマイケル付加によるシステイニルペプチドのフルオラス標識
BSAからのシステイニルペプチドのアクリレートフルオラス標識試薬へのマイケル付加を示す例となる反応スキームが図4Aに示されている。この反応スキームを使用して生成された例となるデータは、図20に示されている比較MSプロフィールを含み、かつ標識ペプチドのタンデムMSデータは図21および図22に示されている。
【0157】
ウシ血清アルブミン(BSA、1mg)を4M尿素、0.1M炭酸アンモニウム、pH8.0、100μL中に溶解した。水中トリスカルボキシエチルホスフィン(TCEP)を添加し、最終濃度を10mMとして混合物を10分間、室温下に放置した。Tp(20μg)を添加し、混合物を37℃下に8時間インキュベートした。1nmolトリプシンペプチドに対応するアリコートをペプチド・マクロトラップ(Peptide Macrotrap)(マイクローム・バイオリソーシス(Michrom Bioresources)、Auburn、カリフォルニア州(CA))ヘ装填した。脱塩カラムを0.1%酢酸(v/v)1mLで洗浄し、ペプチドを70%アセトニトリル/0.1%酢酸(v/v)で溶出した。この混合物を真空で蒸発乾固した。
【0158】
トリプシンペプチドをジメチルホルムアミド(DMF)200μL、100mM炭酸ナトリウム2.5μL、pH8.0、および3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルアクリレート4a(TDFOA、3.7μmol)1μLで再構成した。反応を一夜、室温(RT)下に進行させ、その間にシステインの遊離チオール基をTDFOAとマイケル型付加によって結合した。未反応TDFOAをN−2−メルカプトエチルアミノメチルポリスチレンビーズ(ノババイオケム(Novabiochem)2mgを室温下に2時間のインキュベーションによって除去した。反応期間後、上清を除去し、別の処理および/または分析のために希釈した。
【0159】
同様の反応をTDFOAのC17類似体を使用して実行した。C13種は直接のLC/MS分析の影響をより受けやすいが、C17バージョンは標識種の単離(「オン−オフ」捕捉)およびMALDI分析に関して良好に実行された。
【0160】
実施例5:アルキル化によるシステイニルペプチドのフルオラス標識
代替として、フルオロヨードアセトアミドアルキル化剤(N−[(3−ペルフルオロオクチル)−プロピル]−ヨードアセトアミド(化合物6a)をチオール標的フルオラス標識試薬として使用した。BSAを固定化TCEPで低減し、Tpで8時間、37℃下に消化し、以前に既述したように脱塩した。水20μL中トリプシン消化物100pmolを1M炭酸アンモニウム5μL、THF 20μL、および500mM N−[(3−ペルフルオロオクチル)−プロピル]ヨードアセトアミド5μL(500mM THF中保存溶液)と混合し、30分間、37℃下に暗所で反応させた。冷却させた後、50%メタノール/50 mM重炭酸アンモニウム450μLを添加し、混合した。過剰なフルオラスヨードアセトアミドを数mgの3−メルカプトプロピル官能化シリカゲル(アルドリッチ(Aldrich)、Milwaukee、ウィスコンシン州(WI))の添加した後、数時間、暗所において室温下に攪拌して除去した。次いで、スラリーを3Kセルロース分子量カットオフフィルタによりろ過した後、ろ過シリカゲルのメタノール洗浄(100μL)を行った。次いで、混合されたろ液および洗浄液を真空で乾燥させ、60%メタノール/10mMギ酸アンモニウム中で再構成した。
【0161】
本明細書に記載された本実施例および他の実施例は、場合により、固相捕捉剤を使用し、過剰な試薬を除去する。当業者は、樹脂の性質(ポリマー対シリカ)、および使用される洗浄条件70が、この方法の有効性に影響を及ぼし、かつ必要以上の実験なしにこれらのパラメータの最適化が可能であることを認識するであろう。あるいは、固相捕捉を必要としない試薬除去スキームも適用されうる。
【0162】
実施例6:一級アミンのNHS−エステルアミド化
NHS−エステル型フルオラス標識試薬の合成(およびこの試薬を使用する一級アミンのアミド化)を示す例となる反応スキームが図3Bに示されている。ペプチドの単一標識(例えば、「直鎖」ペプチドのN末端標識)に加えて、本発明の一部の実施形態においては、この標識反応スキームはプロテオミクスサンプルメンバーの二重標識のために使用される(例えば、ユビキチン化または分子間ジスルフィド反応によって形成されるものなど「分岐鎖」ペプチドの場合)。直鎖および分岐鎖標識ペプチドの概略図が図3Cに示されているが、比較MSプロフィール(パネルA:未処理、B:フルオラス標識、C:非保持、およびD:フルオラス親和性基質によって保持された種)が図25に示されている。これらの実験においては、ポリユビキチン鎖(アフィニチ・リサーチ・プロダクツ(Affiniti Research Products)、Exeter、英国(UK))を100mM重炭酸アンモニウム、4M尿素、pH8.0の溶液中トリプシンで消化した。
【0163】
N−ヒドロキシスクシンイミジル−2H,2H,3H,3H−ペルフルオロヘプタノエートをホール(Hall)ら(2003年、J.Mass Spec.38:809)の方法と同様に、2H,2H,3H,3Hペルフルオロヘプタン酸17.2mg、N−ヒドロキシスクシンイミド14.6mg、およびエチルジエチルアミノプロピルカルボジイミド(EDC)をDMF 500μLに添加することによって合成した。70%アセトニトリル、0.1%TFA中脱塩ペプチド(約6μL)をNaHPO、pH8.0 10μL、DMF 10μL、およびPFHA NHSエステル1μL(約100nmol)の混合物に添加した。
【0164】
この反応スキームは、単一アミン標識、および(例えば、分岐鎖ペプチドの)多重アミン標識のために使用されうる。さらに、本明細書で言及されているように、異なる鎖の長さを有するかかる試薬の構造的に関連性のファミリーが使用されうる。また、表2に示されているものなど二官能性架橋剤も使用されうる。長い鎖種は、対応するスルホ‐NHSエステル誘導体を作ることによって、より水適合性に維持されうる。
【0165】
実施例7:アルカリβ−脱離/フルオラスマイケル付加のための酵母およびジャーカット全細胞タンパク質画分の調製:
固形イースト(S.cerevisiae)をベーカリー用品店から購入し、その後に液体N下に粉砕し、−80℃下に保存した。細胞タンパク質をトリゾール(Trizole)(商標)試薬(インビトロジェン(Invitrogen)、Carlsbad、カリフォルニア州(CA))を使用して単離し、その後に酸化溶液(例えば、最初に室温(RT)下に2時間放置し、次いで4℃下に保存された88%ギ酸4.5mLおよび30%H溶液0.5mL)50μL中4℃下に一夜のインキュベーションによって酸化した。最後に、酸化タンパク質画分を100mM重炭酸アンモニウムへ透析し、上述したようにTpで消化した。
【0166】
ジャーカットT細胞(クローンE6−1、ATCCTIB−152)を当該技術に記載されているように(例えば、ブリル(Brill)ら(2004年)Anal.Chem.76:2763−2772頁を参照)成長させて回収した。細胞タンパク質を上述したように単離し、その後に一夜、37℃下にシークエンシンググレード修飾トリプシン(Tp)(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))で、100mM炭酸アンモニウム、4M尿素、pH8.0の溶液中50:1の比の基質/酵素(w/w)を使用して消化した。タンパク質分解消化を予備的にC18逆相カートリッジ(ハイシル(Haisil)、ヒギンズ・アナリティカル(Higgins Analytical)、Mountain View、カリフォリニア州(CA))で脱塩し、スピードバック(speed vac)で乾燥させた。
【0167】
最初に室温下に2時間放置した30%H 100μLと88%ギ酸1mLを混合することによって過ギ酸酸化溶液を調製した。次いで、この溶液300μLを乾燥トリプシンペプチド(7.5mg)に添加し、酸化を室温下に1時間進行させた後、真空で蒸発させた。最後に、トリプシンペプチドを0.1%酢酸(v/v)500μL中で再構成し、予備的にC18逆相カートリッジで画分し、5、15、25、および40%アセトニトリル−0.1%酢酸(v/v)画分ヘ連続的に入れた。次いで、フルオラス標識試薬を使用するアルカリβ−脱離およびマイケル付加を本明細書に記載されているように実行されうる。
【0168】
実施例8:ヒト血漿からのオキソステロイドの誘導体化および富化
テストステロン、アンドロステロン、およびプロゲステロンなど中性ステロイド化合物は、骨格筋成長の刺激や生殖および関連組織の維持など多くの代謝的役割を果たす。本発明は、遊離(すなわち、非コンジュゲート)ケトン部分を有するオキソステロイドのフルオラス標識の方法および組成物を提供し、それによって生物由来サンプルにおける複数の代謝産物からの化合物の部分的な精製の機序を提供する。分析されるメタボロミクスサンプルの複雑性の削減に加えて、ステロイドケトン部分の、例えば、アミノオキシ型フルオラス標識試薬との反応により、しばしば開始代謝産物よりも大きなプラスのエレクトロスプレーイオン化効率を有する標識分子が得られ、潜在的に質量分析による分析中の標識種の検出特性を増強(かつこれらの感度を改善)する。
【0169】
オキソステロイド化合物、および他の比較的疎水性の代謝産物含有ケトンまたはアルデヒド基は、以下のようにフルオラス標識されうる。生体サンプル(ヒト血漿の場合)を同等量のアセトニトリルに添加し、約30秒間ボルテックス混合し、10分間、4℃下に1500gで遠心分離した。上清を除去し、水で(例えば、10倍に)希釈し、オアシス(Oasis)(商標)HLB固相抽出樹脂(ウォーターズ・コーポレーション(Waters Corporation)、Milford,マサチューセッツ州(MA))の前処置床上に装填した。装填樹脂を3ベッド同等物の各々水とメタノール:水(70:30)で洗浄し、保持された成分を3ベッドボリュームの酢酸エチルで溶出した。溶媒を蒸発させ、残留物をメタノール約50μL中に溶解した。
【0170】
トリクロロ酢酸0.5mgを含有するメタノール50μL中に溶解した少量(例えば、5μg)のアミノオキシ型フルオラス標識試薬(化合物10または14、表2を参照)を溶出代謝産物に添加し、混合物を50℃下に2時間維持する。反応混合物を冷却し、同等量の水で希釈する。図31Aは、中性ステロイドテストステロンおよびフルオラス標識試薬14で証明された例となるフルオラス標識反応を示す。
【0171】
場合により、過剰なフルオラス試薬が、4−ベンジルオキシベンズアルデヒドポリスチレン樹脂(ノババイオケム(Novabiochem)、Darmstadt、ドイツ)で反応混合物を処理することによって除去される。フルオラス標識サンプル成分は、フルオラス固相抽出カートリッジなどのフルオラス分離組成物を使用して非標識種から分離される。カートリッジの装填後、標識代謝産物はメタノール:水(80:20)で完全に洗い流され、フルオラス誘導体化種は100%メタノール中で溶出される。あるいは、希釈反応混合物はフルオラスHPLCカラム上へ直接装填され、メタノール:水(80:20)で完全に洗い流され、直接LC/MS ESI分析(例えば、80〜100%メタノールの浅い溶出勾配を使用)にかけることができる。
【0172】
ケトンまたはアルデヒド基を含有する他の比較的疎水性の代謝産物(例えば、インドールアルカロイド)も同じように標識され、かつ分析される。例えば、リュー(Liu)ら「Use of oxime derivatives to enhance ionization of neutral ketone−containing species(metabolite analysi)」(2000年)Rapid Comm Mass Spec 14:390頁 、およびルミュー(Lemieux)ら(1998年)Trends in Biotech 16:506頁を参照。
【0173】
実施例9:ラット脳からの1,2ジオール含有ステロイドの誘導体化および富化
同様の反応スキームが、隣接したヒドロキシル部分を標的する多くの周知の化学のいずれかを使用する、隣接ジオールを有する代謝産物種のフルオラス標識のためにデザインされうる。例えば、ヒガシ(Higashi)ら(2002年、Analytical Sci.18:1301−1307頁)によって記載されているものなどのボロン酸含有試薬がフルオラス部分で置換またはさらに修飾され、本発明において使用するためのフルオラス標識試薬を得ることができる。1つの例となる実施形態において、フルオラスボロン酸含有試薬18が、4−ヒドロキシエストラジオールを誘導体化するために使用される(図31B参照)。
【0174】
この処置を使用し、メタボロミクスサンプルにおけるさまざまなクラスの1−2−ジオール含有種を標識することができるが、この官能基(すなわち、糖)を有する最も豊富な代謝産物は、場合により、例えば、オアシス(Oasis)(商標)カートリッジを使用する固相抽出ステップによって、標識反応を実行する前にサンプルから除去されうる。
【0175】
全ラット脳などの組織サンプルをメタノール:酢酸(100:1)中で超音波ホモゲナイザーを使用して均質化し、ホモジネートの濃度を100mg組織/mL溶液に調節する。約0.5mLのホモジネートを1500gで10分間、4℃下に遠心分離し、その後に結果として生じる上清を除去し、水2mLで希釈する。この溶液をオアシス(Oasis)HLB固相抽出樹脂の前処置床上へ装填する。装填樹脂を3ベッド同等物の各々水とメタノール:水(70:30)で洗浄し、保持された成分を3ベッドボリュームの酢酸エチルで溶出する。
【0176】
溶媒を蒸発させ、フルオラスボロン酸18 0.5mgを含有するピリジン50μL中に残留物を溶解する。1時間、50℃下での反応後、溶媒を蒸発させ、残留物をメタノール:水の50:50の溶液中に溶解する。場合により、過剰なフルオラス試薬は最初に混合物を1−グリセロールポリスチレン樹脂(製品番号01−64−0408ノババイオケム(Novabiochem))で、チオールを有する樹脂で過剰なアクリレート試薬を除去するための当該技術で周知のものと同じようにインキュベートすることにより除去される。
【0177】
この混合物をフルオラス固相抽出カートリッジへ装填し、メタノール:水(80:20)で完全に洗い流し、フルオラス誘導体化種を100%メタノール中で溶出する。あるいは、希釈反応混合物はフルオラスHPLCカラム上へ直接装填され、メタノール:水(80:20)で完全に洗い流され、80〜100%メタノールの浅い勾配を実行する直接LC/MS ESI分析にかけられる。
【0178】
あるいは、目的とする代謝産物の過ヨウ素酸化を使用して、2つのアルデヒド基を生じさせ、これは炭水化物含有サンプルメンバーについて以前に本明細書に記載されたフルオラスアミノオキシ部分でライゲートされうる。場合により、二重標識代謝産物種は分析前(または最中)に単一標識種から分離されうる。
【0179】
実施例10:フルオラス修飾クックソン型試薬によるシス−ジエン含有分子の選択的反応および単離
同じように、ビタミンDなどシス−ジエン部分を含有する分子を、フルオラス標識に置換または別の方法で結合されているクックソン(Cookson)型試薬(例えば、マレイミド)を使用して標識することができる。例となる実施形態として、フルオラスクックソン型試薬13が、シス−ジエン含有分子ビタミンD2を誘導体化するために使用される(図31Cを参照)。アミノオキシ型フルオラス標識試薬による中性ステロイド種の標識についても確認されるように、フルオラス標識の添加はエレクトロスプレーイオン化効率を変化させる追加の利点を有する(例えば、標識試薬が荷電能を有さないと仮定して、非標識代謝産物よりも大きなプラスのESイオン化効率を提供する)。例えば、ヤン(Yeung)ら「Cookson−type derivatization to enhance MS efficiency」(1995年)Biochem. Pharmacol. 49:1099頁、およびウェルナー(Werner)ら「Use of fluorous dienophiles as scavengers」(2003年)Org.Letters 5:3293頁を参照。
【0180】
実施例11:アジド型フルオラス標識試薬による末端アルキン含有分子の選択的反応および単離
「クリック化学」ライゲーションと呼ばれることもある、ユイスゲン(Huisgen)1,3−双極子環化付加型ライゲーション反応は、末端アルキン部分を有する(または組込むように修飾されている)生物由来サンプル成分を標的するためにも使用されうる。これらの反応において、アジド型フルオラス標識試薬は、通常、トリアゾールを形成するエクセロゲン(exerogenic)過程であるサンプル中のアルキン含有標的種と反応する(例えば、ロストフセフ(Rostovtsev)ら(2002年)Angew Chem Int Ed 41:2596−2599頁、および本明細書に引用された文献を参照)。追加の利点が、水性および有機反応条件下でのアジド試薬の安定性であり、こうして非水性環境で生物由来サンプルを生成または調製する必要を削減する。
【0181】
図31Dは、ステロイドノルゲストレルの修飾のための反応スキームを示す。ロストフセフ(Rostovtsev)ら、上記によって言及されているように、生成物の1,4−対1,5−位置選択性は部分的に銅触媒の選択により制御されうる。生物由来サンプルにおけるアルキン含有成分の標的における使用の例となるフルオラスアジドとしては、アジド組成物15aおよび15bが挙げられる。一部の以前に記載された標識反応でのように、サンプルメンバーへのフルオラス標識の添加は、開始代謝産物よりも大きなプラスのエレクトロスプレーイオン化効率を有する修飾サンプル成分を産生する追加の利点を有する。
【0182】
実施例12:一級アミン含有分子の選択的反応および単離
二級、三級、および四級アミンとは対照的に一級アミンを含有する生物由来サンプルは、チオール型フルオラス標識試薬およびo−フタルアルデヒドを使用してフルオラス標識に選択的に標的されうる(図32A)。チオールの存在下のo−フタルアルデヒドとの一級アミンの反応は、例えば、蛍光誘導体を得るポリペプチド溶解物の誘導体化のために使用される公知の反応である(例えば、ジョーンズ(Jones)とギリガン(Gilligan)(1983年)J.Chromatogr.266:471−482頁を参照)。
【0183】
実施例13:遊離チオール含有サンプルメンバーの選択的反応および単離
遊離チオール部分を含有する生物由来サンプルメンバーは、例えば、本明細書に記載された多くのマレイミド型フルオラス標識試薬のいずれかを使用してフルオラス標識されうる。図32Bは、代謝産物ホモシステインがフルオラス標識試薬2Bと反応される例となる反応を示す。
【0184】
実施例14:分別標識および定量
例となるペアの同位体試薬としては、トリデカフルオロオクチルアクリレート(化合物4a)およびその3,4,5,6,7,8−13トリデカフルオロオクチル類似体が挙げられるが、これらに限定されない。比較されるタンパク質サンプル(1mg)をTCEPで低減し、トリプシンで消化する。消化物をジメチルホルムアミド(DMF)200μL、および100mM炭酸ナトリウム2.5μL、pH8.0中で脱塩、乾燥、および再構成する。トリデカフルオロオクチルアクリレート4aまたは13類似体を各サンプルに個別に添加し、反応を一夜、室温で進行させる。サンプルを混合し、未反応アクリレートを、N−2−メルカプトエチルアミノメチルポリスチレンビーズ(ノバ・バイオケム(Nova Biochem)4mgで室温下に2時間のインキュベーションによって混合物から除去する。フルオラス固相抽出(FSPE)を実施例1に記載されているように実行し、フルオラス標識(およびシステイン含有)ペプチドを単離するが、その各々はシステイン部分当たり6ドルトンで分離された同位体ペアとして存在する。2つのサンプル間の相対濃度はペアのシグナル強度で示される。
【0185】
13C置換試薬に加えて、ジュウテリウム、フルオラス標識試薬の18Oおよび/または15N類似体も本発明の方法において利用されうる(例えば、化合物6bを参照)。追加の利点としては、区別をつけて標識されたサンプル成分は通常、同様のイオン化特性を有し、逆相保持時間における最小の変化を示す(H標識の場合を除く)。
【0186】
実施例15:3D構造研究のための架橋試薬
本発明は、同じタンパク質内、またはタンパク質複合体の一部として存在する異なるタンパク質間の2つもしくはそれ以上の化学部分の相対的な3次元配向(例えば、3Dマッピング)を測定するための方法も提供する。この態様において、異種または同種多官能性フルオラス標識試薬は、タンパク質における2つの特定の化学部分(アミノ酸官能価)と選択的に反応するために必要な適切な化学反応性官能基を含む。フルオラス標識試薬による架橋に標的される2つの特定の化学官能価は、フルオラス標識試薬における化学反応性官能基によって架けられたものと同等もしくはそれ以下の距離内に存在しなければならない。次いで、異種または同種多官能性フルオラス標識試薬のフルオラス部分は、これら架橋種を選択的に単離するために使用される。
【0187】
かかるフルオラス架橋試薬の例としては、同種官能性試薬ビス(スルホスクシンイミジル)−2H,2H,3H,3H,10H,10H,11H,11H−ペルフルオロドデカンジオネート11が挙げられるが、これに限定されない。このフルオラス標識試薬は選択的に一級アミン(すなわち、リシン残基)と反応し、かつ約12個の炭素鎖の長さよりも短い距離で(例えば、リンカーおよびフルオラス部分の長さ)位置しているかかる2つの官能価間に架橋を有効に形成しうる。例となる実施形態において、NaHPO、pH8.0中で溶解された精製タンパク質複合体は、DMF中で溶解された過剰なフルオラス架橋薬に添加され、反応は室温下に約30分間進行される。次いで、反応混合物は消化され、内容物がFSPEにかけられる。フルオラスタグを含有するペプチドが非標識種から分離され、架橋部位を測定する質量分析にかけられる。
【0188】
関連態様において、本発明の二官能性フルオラス標識試薬は、場合により、(同一または異なる)サンプルメンバー官能基の架橋以外の目的に使用されうる。例えば、フルオラス鎖に直接隣接して位置したカルボン酸部分、およびフッ素原子の誘導効果から保護された第2の化学反応性官能基を有するフルオラス標識試薬は、例えば、タンデムMSによる分析のための荷電部分を提供することにおける潜在的な用途を有する。カルボン酸は完全に脱プロトン化され、したがって負電荷をフルオラス標識サンプル成分に提供する。カルボキシレート含有フルオラス標識試薬の例となる実施形態が化合物5eとして提供されている。
【0189】
別の例として、ペータース(Peters)らの国際PCT公報国際公開第03/056299号パンフレットに記載されたリシン特異的標識試薬に結合されたフルオラス部分は、きわめて塩基性であるが、永久には荷電されないアミン標的フルオラス標識サンプル成分を産生し、これは追加の利点として、イオン化効率の増大も示しうる。
【0190】
実施例16:分析の多重化
本明細書で開示された化合物および誘導体を使用するさらに別の実施形態において、本発明は多重サンプルの同時分析のための方法を提供する。この態様において、同じ化学反応性官能基を有するが、異なるフルオラス部分を有する一連の試薬が個別に一連のサンプルを標識するために使用され、各サンプルが異なるフルオラスタグと反応されるようになっている。結果として生じるサンプルはプールされ、かつフルオラス標識種はFSPEを使用して非表紙機種から分離される。次いで、保持種はバッチ溶出され、同時に(すなわち、MALDI TOF MSによって)分析され、分析物間の質量の差を有し、これはタグの性質とともにそれから生じるサンプルの同一性を示すと同時に、標識種の相対強度がそれぞれの濃度と比例することを示す。あるいは、プールされ、保持されたサンプルはフルオラスクロマトグラフィーにかけられ、標識サンプルがそのフッ素含量と比例した順序でカラムから溶出するようになっている。また、異なるタグがもっぱら異なる反応条件で使用され、所定のペプチドが、アミノ酸官能価および/またはPTMのどの組合せが存在したかを示す異なる長さのいくつかのタグを有しうるようになっている。
【0191】
かかる多重分析の例としては、所定の生物由来サンプルメンバーのセリン/トレオニンリン酸化の発見および相対評価が挙げられるが、これらに限定されない。標的基質の3種類のサンプル(例えば、異なる条件下で調製)がβ−脱離反応にかけられ、次いで、各々が個別に1H,1H,2H,2H−ペルフルオロデカン−l−チオール(la)、1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクタン−1−チオール(1b)、または1H,1H,2H,2H−ペルフルオロヘキサン−1−チオール(1f)で標識される。
【0192】
サンプルは混合され、FSPEにかけられ、すべてのフルオラス標識種が保持されるようになっている。保持種がバッチ溶出され、MALDI分析にかけられた場合は、100ドルトンで質量が異なる一連の3つのピークが各標識ペプチドで出現し、ペプチド自体の質量は容易に計算されうる。フルオラスクロマトグラフィーにかけられた場合は、Cタグで標識された個別の分析物は、C17で標識されたものより前にカラムから溶出するC13で標識されたものより前にカラムから溶出し、個別の分析ウィンドウを提供する。
【0193】
実施例17:リン酸化種のフルオラス標識の代替方法
図5は、チョウ(Zhou)ら(2000年)Nature Biotechnol.19:375−378頁によって記載された方法と同様に、リン酸化ペプチドのフルオラス標識の例となる多重ステップ反応スキームを示す。この反応は、酸性条件下のカルボン酸メチル化、ホスホラミデートを示すシスタミンのEDC介在結合、フルオラスマイケル受容体によるアルキル化、およびFSPE後のメチル化ホスホペプチドの酸放出を含み、ホスホセリン、ホスホトレオニン、およびホスホチロシン含有種の単離および/または富化を提供する。
【0194】
ペプチドマクロトラップカートリッジ(マイクローム・バイオリソーシス(Michrom Bioresources)、Auburn、カリフォルニア州(CA))を使用してトリプシンペプチドを脱塩し、ブリル(Brill)ら(2004年)Anal.Chem.76:2763−2772頁に従ってメチル化した。乾燥したメチル化ペプチドを1Mイミダゾール50μL中で再構成した。この溶液をEDC 4mgに添加し(最終濃度約0.5M)、混合物を室温下に2時間インキュベートした。混合物をC18カラム(12cm POROS 10R2でパックした溶融シリカ360/200μm O.D/L.D.)へ装填し、水20μLで洗浄した。次いで、カラムを以下で洗浄した。1Mシスタミン、56℃下に2時間、2μL/分でpH8.0、水20μL、3μL/分流量で50℃下に1時間10mM DTTおよび水20μL。ペプチドを70%アセトニトリルでカラムから溶出し、蒸発乾固した。
【0195】
乾燥ペプチドをDMF中20mMトリデカフルオロオクチルアクリレート20μL中で再構成し、50mM炭酸ナトリウムpH8 0.75μlを添加し、混合物を2時間、室温下にインキュベートした。過剰な試薬をN−2−メルカプトエチルアミノメチルポリスチレンビーズ(ノバ・バイオケム(Nova Biochem)0.5mgを添加し、室温下に1時間のインキュベーションにより除去した。結果として生じるペプチド混合物を60%MeOH含有10mMギ酸アンモニウムで5倍希釈し、上記のようにFSPEによって富化した。保持されたフルオラス標識画分を乾燥させ、95%TFA中で30分間、再構成し、ホスホラミデート結合を開裂した。TFAを真空遠心分離によって除去し、そこでフルオラスを含まないメチル化ホスホペプチドをMS分析のために再構成した。
【0196】
実施例18:無傷タンパク質のフルオラス標識
以下の実施例は、無傷タンパク質がフルオラス標識され、1Dゲルおよびゲル中消化など代表的なタンパク質操作において容易に処理されうることを示す。
【0197】
ウシ血清アルブミン(約40μM)を6Mグアニジン塩素塩、20mM トリス、pH8.0バッファー中10mM TCEPで10分間、室温下で低減し、同等量のフルオラスヨードアセトアミドのTHF溶液の添加によって、20mM N−(1H,1H,2H,2H−ペルフルオロオクチル)ヨードアセトアミドと1時間暗所で反応させた。バイオゲル(Biogel)P6ビーズ(マイクロ・バイオスピンP6、バイオ・ラード(Bio−Rad)、Hercules、カリフォルニア州(CA))でパックした使い捨てゲルろ過スピンカラムを使用して過剰な試薬を除去した。脱塩フルオラス標識タンパク質を遠心分離で適切なろ過画分の収集によって回収した。
【0198】
脱塩フルオラス標識タンパク質画分をスピードバックで一時的に乾燥させ、テトラヒドロフランを除去し、同等量のゲルローディングバッファー(100mM トリス、pH6.8、50%グリセロール、0.1%ブロモフェノールブルー、1%SDS)と混合した。数マイクログラムの誘導体化タンパク質を12ウェル、1mm×8cm×8cm 10−20%トリス−グリシンポリアクリルアミドゲル(インビトロジェン(Invitrogen)、Carlsbad、カリフォルニア州(CA))の各ウェルへ装填後、150V定電圧を使用してSDS−PAGEを実行した。ゲル電気泳動後、ゲルスラブをコロイドクーマシーブルー(インビトロジェン(Invitrogen)、Carlsbad、カリフォルニア州(CA))で4時間染色した後、水中で一夜、脱色した。
【0199】
ゲル中トリプシン消化を以下のように実行した。切除タンパク質ゲルバンドを新しいかみそりの刃でさいの目(2−3mm)に切断し、0.5mL微小遠心管に添加した。ゲル立方体を数回の洗浄および脱水サイクルにかけた(100mM炭酸アンモニウム50μLで10分間インキュベーションおよび液体の除去、アセトニトリル25μLで10分間のインキュベーションおよび液体の除去。脱水ゲル立方体を5分間真空乾燥させ、10ng/μlトリプシン(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))を含有する50mM重炭酸アンモニウム溶液20μL中で再水和し、37℃下に一夜インキュベートした。トリプシンペプチドを80%アセトニトリル/0.2%TFA(v/v)で反復抽出(3回)によって回収した。ペプチド抽出物を混合し、真空で乾燥させた。サンプルをフルオラス固相抽出(他の箇所に記載)の調製として10mMギ酸アンモニウム含有60%メタノール中に再構成した。
【0200】
図23Aは、上述したように、TCEPによる削減およびN−[(3−ペルフルオロオクチル)−プロピル]ヨードアセトアミドとの反応後のBSAのトリプシン消化物に対して生成されたMALDIスペクトルを示す。次いで、サンプルをFSPEにかけ、保持され、その後に溶出されたペプチドをMALDI MSにかけた(図23B)。「」記号で示されたピークはフルオラス標識システイン含有ペプチドである。図24は、フルオラス標識ペプチドGACLLPK(配列番号35)の2+荷電状態のタンデムMSデータを示す。ピーク標識Cは修飾システイン残基のイモニウムイオンである。
【0201】
実施例19:開裂試薬
本発明のフルオラス標識試薬は、フルオラス標識は開裂または別の方法で結合生物由来サンプル成分から放出され、例えば、富化または単離過程中に生物由来成分の回収を促進しうる実施形態も含む。
【0202】
本発明の開裂可能なフルオラス標識試薬の例となる実施形態は化合物25、6−[3−(3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ−ヘキシルジスルファニル)−プロピオニルアミノ]−ヘキサン酸2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イルエステルである。開裂可能な試薬25は、LC−SPDP(スクシンイミジル 6[3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド]ヘキサノエート、59μmol、パース(Pierce)、Rockford、イリノイ州(IL)から購入)50mgを90%THF/10%50mM NaHPO、pH7.2中1H,1H,2H,2Hペルフルオロヘキサンチオール32.9mgに添加することによって合成された。1時間後、溶媒を減圧下に除去した。
【0203】
ペプチド修飾を以下のように実行した。100mM酢酸ナトリウムpH7.7(10μL)中1nmolブラジキニンをDMF 110μL中フルオラス標識試薬25 110nmolに添加した。2時間後、未反応標識をアミノプロピル官能化ポリスチレンビーズ(ノババイオケム(Novabiochem))で2時間のインキュベーションによって除去した。結果として生じる単離修飾ペプチドは、MALDI TOF MSによって1539.6のm/zを有することがわかった。次いで、修飾ペプチドを100mM TCEPでインキュベートし、ジスルフィド結合を開裂した。結果として生じるペプチドは、MALDI TOF MSによって1261.6のm/zを有し、フルオラスタグの損失を示すことがわかった。
【0204】
一般の材料と方法
ペプチド捕捉および脱塩
μC18ジップチップス(Ziptips)(商標)(ミリポア(Millipore)、Bedford、マサチューセッツ州(MA))を使用し、標識前のペプチドを捕捉し、濃縮し、脱塩した。80%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)(v/v)5×10μLアリコートを吸引することによって活性化を実行した。チップを同様に0.1%TFAを使用することによって平衡化した。ペプチドサンプルを0.1〜0.5%TFA(v/v)中で調製し、反復吸引によってロードした。フルオラス誘導体化ペプチドのローディングは、好ましくは、ローディング溶液中で最小20〜25%メタノールの添加により実行され、沈殿を低減した。次いで、チップを0.1%TFA(v/v)のアリコートで洗浄し、80%アセトニトリル/0.1%TFA(v/v)の4〜5μLアリコート中で反復吸引によってペプチド溶出した。
【0205】
「フルオラス」HPLC
フルオロフラッシュ(Fluoroflash)、トリデカフルオロシリカ(TDF)&ペンタフルオロフェニルシリカ(PFP)(シリサイクル(Silicycle)、Montreal、ケベック州(QC)、カナダ)180Å孔径、3μm粒子をフリット溶融シリカ(360/200または360/100μm O.D./I.D.)へ圧力パックし、約12cmの長さにした。勾配溶出をギ酸アンモニウム修飾移動相を使用して実行し、ESIによってQqTOF質量分析計に接続した。
【0206】
質量分析およびデータ分析
MALDI−TOF MSを遅延抽出/リフレクターモードでBruker Biflex IIIを使用して実行した。最初にサンプルを2,5−ジヒドロキシ安息香酸基質の保存溶液(DHB、50%アセトニトリル/0.2%トリフルオロ酢酸v/v中10mg/mL)と混合することによって乾燥液滴法を使用してMALDI標的上にペプチドを沈殿させた。レーザー減衰を40〜45で設定し、平均数百ショットとした。加速電圧を19kV(IS/1)&15.2kV(IS/2)に設定し、レフレクトロン電圧を18.7kVで設定した。
【0207】
キャピラリーLC−ESI MSおよびタンデムMSを、サーベイスキャンモードで操作するハイブリッド四極子飛行時間(QqTOF)質量分析計(マイクロマス(Micromass)Q−TOF2、WATERS、Milford、マサチューセッツ州(MA))に接続したモニターC18パックキャピラリーカラム(3μm粒子、100Å、75μmまたは300μm L.D.、長さ8〜15cm、カラム・エンジニアリング社(Column Engineering Inc.)、Ontario、カリフォルニア州(CA)から購入)で実行した。15cmカラムは通常、0.5M酢酸(A)および0.5M酢酸を含むアセトニトリル(B)を使用して生成された勾配を使用する3μL/分で実行した。ESIは衝突ガス(アルゴン)における4kVのスプレー電圧および30Vのコーン電圧を使用して実行した。450〜1800の質量(m/z)範囲を強度閾値MS/MSトリガリングについて分析した(LM Res、HM Res=5約5Da単離ウィンドウに対応)。衝突解離エネルギーを所定の親質量および荷電状態に従って自動的に調節した。
【0208】
アルカリβ−脱離/フルオラスマイケル付加によって調製され、キャピラリーLC−MS/MS(cLC−MS/MS)によって分析されたサンプルからのデータ分析をシステインのシステイン酸への可能な転換(残基質量=150.9939Daの正確な質量、151.1411Daの平均質量)、およびメチオニンのメチオニンスルホンへの可能な転換(残基質量=163.0303、163.1949)のほか、以前のpS(残基質量=465.0068、465.2352)およびpT残基(残基質量=479.0224、479.2621)への可能なC13スルホキシド側鎖修飾を含めることによって検索した。後者の修飾は、その独自の残基質量、およびタンデムMSパターンにおける特徴的な中性損失断片生成物、デヒドロアラニン(pS)またはβ−メチルデヒドロアラニン(pT)の存在に基づき確認された。β−連結フルオラススルホンへの酸化を可能にしたフルオラス標識ホスホペプチド誘導体は、はるかに少ない側鎖タンデムMS断片を示し、無傷残基質量の認識によって特徴づけられ、中性損失生成物断片によっては特徴づけられなかった。
【0209】
システイニルペプチドのフルオラス誘導体のcLC−MS/MSデータ分析は、TDFOA(残基質量=521.0330、521.2994)またはフルオロヨードアセトアミド(残基質量=620.0426、620.3303)のいずれかによるシステイン残基のそれぞれの反応によって形成された独自の残留質量の認識によるその確認を可能にした。
【0210】
ヨードアセトアミド誘導体化ペプチドのタンデムMSスペクトルは、誘導体化システイン残基のイモニウムイオンに対応する593のm/zで特徴的なシグナルイオンを示す。このシグナルは、一部の中性損失種(すなわち、pS/pT含有ペプチド)に似たスペクトルを示さず、強度が十分に大きく、かつ質量が十分に高く、その存在は標準条件下で操作するイオントラップでも「診断」シグナルとして役立ちうる。アクリレート官能化種は同様のイモニウムイオンシグナルを示す。
【0211】
ε−アミノ「グアニジン化」/α−アミノフルオロ誘導体化によって調製されるサンプル分析には、使用される試薬に左右されるリシンの可変修飾、N末端(Δ質量=275.011, 275.0937)のフルオロアシル化、およびポリユビキチンの場合、グリシン−グリシンイソペプチド修飾リシン側鎖(残基質量=516.1419、516.3639)のフルオロアミド化の検索が含まれた。
【0212】
上述の発明は、明確さおよび理解を目的に少し詳しく説明されているが、本開示を読むことから、形態および細部のさまざまな変更が本発明の真の範囲を逸脱することなく行われうることが当業者には明らかであろう。例えば、上述された方法および装置のすべてをさまざまな組合せで使用することができる。本出願において引用されたすべての刊行物、特許、特許出願、および/または他の文書は、それぞれの刊行物、特許、特許出願、および/または他の文書が、すべての目的のために参照することにより援用されることが個別に示されるように、ある程度、すべての目的のためにその全体が参照することにより援用される。
【0213】
【表3−1】


【表3−2】

【表3−3】

【図面の簡単な説明】
【0214】
【図1】複合体ペプチド混合物からのフルオラス標識ペプチドの単離のフルオラス固相抽出(FSPE)方法を示す概略図である。
【図2】図2Aおよび図2Bは塩基性条件下のβ−脱離の後、選択的反応およびその後のホスホセリン(pS)/ホスホトレオニン(pT)修飾またはO−GlcNac修飾(S(OGlcNAc)およびT(OGlcNAc)ペプチドの単離のためのフルオラスチオールのマイケル付加を含む例となる2つのステップの反応スキームを示す図である。
【図3A】リシンのε−アミン官能基がホモアルギニンまたはイミダゾイル部分への転換によって遮断されうる2つの例となる反応を示す図である。
【図3B】リシンのホモアルギニン(O−メチルイソウレアを使用)のε−アミノ基の転換後、ペプチドN末端アミノ基のフルオラス標識を示す例となる反応スキームを示す図である。
【図3C】同様のフルオラス画分スキームによって分岐鎖ペプチドから直鎖を分離するための処置を示す概略図である(ここでRは、標識試薬、例えば、Cのフルオラス部分の一部である)。
【図4】図4Aは選択的反応およびその後のシステイン含有ペプチドの単離のためのフルオラスマイケル受容体へのチオール単位のマイケル付加を含む例となる反応スキームを示す図である。図4Bはヨードアセトアミド型フルオラス標識試薬とのチオールの反応を示す例となる反応スキームを示す図である。
【図5】フルオラス標識が標識種の単離/富化後に除去されうるホスホチロシン種を含む、ホスホペプチドの単離および/または富化の別の反応スキームを示す図である。
【図6】図6A〜図6Dはβ−脱離の前(図6A)および後のα−カゼイントリプシン消化物、およびその後の1H、1H、2H、2H−ペルフルオロデカン−1−チオール(図6B)との反応から生成されたサンプルのほか、結果として生じるFSPE画分ペプチド(図6C=非保持の部分、図6D=保持および溶出画分、u=修飾残基)のMALDIスペクトルを示す図である。
【図7】図6に記載されているFSPE後の保持およびその後に溶出された画分に存在するペプチドVPQLEIVPNuAEER(配列番号7)の+2荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である(u=1H、1H、2H、2H−ペルフルオロデカン−1−チオールで修飾された残基)。
【図8】図7におけるのと同じように標識されているが、フルオラス標識試薬として1H、1H、2H、2H−ペルフルオロヘキサン−1−チオールを使用する同様のペプチドVPQLEIVPNuAEER(配列番号10)の+2荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である(u=修飾残基)。
【図9】1H、1H、2H、2H−ペルフルオロヘキサン−1−チオールでフルオラス標識され、その後にFSPE中に溶出されたペプチドDIGuEuTEDQAMEDIK(配列番号11)の+2荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である(u=修飾残基)。
【図10】1H、1H、2H、2H−ペルフルオロヘキサン−1−チオールで標識され、その後にFSPE中に溶出されたペプチドTVDMEuTEVFTK(配列番号12)の+2荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である(u=修飾残基)。
【図11】図11Aは最初にβ−脱離にかけられ、その後に1H、1H、2H、2H−ペルフルオロデカン−1−チオールとの反応にかけられ、次いで非修飾ペプチドのトリプシン消化へスパイクされた2つの合成ホスホセリン(pS)含有ペプチド(qLuSGVSEIR、配列番号13、およびQLuSGVSEIR、配列番号14)の混合物のMALDIスペクトルを示す図である。図11BはFSPEでの非保持部分のデータを示す図である。図11CはFSPE後に保持され、その後に溶出された画分のデータを示し、スパイクされたペプチドの回収を示す図である。
【図12】図12A〜12Dはβ−脱離の前(図12A)および後のオボアルブミンのトリプシン消化物、およびその後の1H、1H、2H、2H−ペルフルオロデカン−1−チオールとの反応(図12B)のほか、FSPE(図12C=非保持部分、図12D=保持され、その後に溶出された画分)でのMALDIスペクトルを示す図である。
【図13】図12に記載されているように生成され、FSPE後に保持され、その後に溶出された画分に存在するペプチドEVVGuAEAGVDAASVSEEFR(配列番号16)の+2荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である(u=修飾残基)。
【図14】図12に記載されているようにFSPE後に保持され、その後に溶出された画分に存在するペプチドLPGFGDuIEAQcGTSVNVHSSLR(配列番号17)の+3荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である(u=修飾残基、c=システイン酸)。
【図15】FSPE後に保持され、その後に溶出された画分に存在するペプチドFDKLPGFGDuIEAQcGTSVNVHSSLR(配列番号18)の+3荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である(u=修飾残基、c=システイン酸)。
【図16】2つの合成O−G1cNAc含有ペプチド(図16A)およびFSPE後に保持されたペプチドおよびその後に溶出された画分(図16B)の混合物でスパイクされた非修飾ペプチドのトリプシン消化物のMALDIスペクトルを示し、最初にスパイクされたトリプシン消化物をβ−脱離にかけ、その後の1H、1H、2H、2H−ペルフルオロデカン−1−チオールとの反応後のスパイクされたペプチドの回収を示す図である。
【図17】図16Bに示され、FSPE後に保持され、その後に溶出された画分に存在するペプチド PSVPVuGSAPGR(配列番号19)の+2荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である(u=修飾残基)。
【図18】β−脱離およびその後の1H、1H、2H、2H−ペルフルオロデカン−1−チオールとの反応前のペプチドPSVPVSGSAPGR(配列番号25)の+2荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である(S=セリン−O−glcNAc)。
【図19】図19Aは最初にβ−脱離にかけられ、その後に1H、1H、2H、2H−ペルフルオロデカン−1−チオールとの反応にかけられ、次いで過バナジウム酸塩処理ジャーカット細胞からの全可溶性タンパク質画分のトリプシン消化物へスパイクされた2つの合成pS含有ペプチドの混合物のMALDIスペクトルを示す図である。図19BはFSPEでの非保持部分のMALDIスペクトルを示す。図19CはFSPE後に保持され、その後に溶出された画分を示し、スパイクされたペプチドの回収を示す(配列番号13および14、u=修飾残基)。
【図20】図20A〜20CはTCEPによる還元およびトリデカフルオロオクチルアクリレートとのシステイン残基の反応後のウシ血清アルブミンのトリプシン消化物(図20A)、FSPEでの非保持部分(図20B)、およびFSPE後に保持され、その後に溶出された画分(図20C)に対して生成されたMALDIスペクトルを示す図である。
【図21】図20によるFSPE後に保持され、その後に溶出された画分において存在するペプチドDDPHAcYSTVFDK(配列番号33)の+2荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である(c=修飾残基)。
【図22】図20によるFSPE後に保持され、その後に溶出された画分において存在するペプチドYIcDNQTISSK(配列番号34)の+2荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である(c=修飾残基)。
【図23】図23Aおよび図23BはTCEPによる還元およびN−[(3−ペルフルオロオクチル)−プロピル]ヨードアセトアミドとの反応後のウシ血清アルブミンのトリプシン消化物(図23A)、およびFSPE後に保持され、その後に溶出された画分(図23B、=ペプチド含有修飾システイン残基)に対して生成されたMALDIスペクトルを示す図である。
【図24】図23Bに示されているようにFSPE後に保持され、その後に溶出された画分において存在するペプチドGACLLPK(配列番号35)の2+荷電状態のタンデムMSを示す図である(C=修飾残基、C=修飾システイン残基のイモニウムイオン、CLおよびCLLは内部断片である)。
【図25】25A〜25Dはリシン残基を選択的に遮断するO−メチルイソウレアとの反応の前(図25A)および後(図25B)のポリユビキチンのトリプシン消化物のMALDIスペクトルを示す図である。N−ヒドロキシスクシンイミジル−2H、2H、3H、3H−ペルフルオロヘプタノエートとの反応後(図25C、充実円=フルオラス部分)、単一標識および二重標識種が生成される。FSPEは、1つのフルオラスタグを有する種は保持されないが、2つのタグを有する種は保持され、その後に溶出されるような条件下で実行される(図25D)。
【図26】CI7修飾シリカで分解された、N−ヒドロキシスクシンイミジル−2H、2H、3H、3H−ペルフルオロヘプタノエート、および4つのウシ血清アルブミントリプシンペプチドによるN末端で標識された合成ペプチドLIFAGQKLEDGR(配列番号37)のLC/MSクロマトグラフ溶出プロフィールを示す図である。
【図27】Cl3修飾シリカで分解された、N−ヒドロキシスクシンイミジル−2H、2H、3H、3H−ペルフルオロヘプタノエート、および4つのウシ血清アルブミントリプシンペプチドによるN末端で標識された合成ペプチドLIFAGQKLEDGR(配列番号37)のLC/MSクロマトグラフ溶出プロフィールを示す図である。
【図28】Cペンタフルオロフェニル修飾シリカで分解された、N−ヒドロキシスクシンイミジル−2H、2H、3H、3H−ペルフルオロヘプタノエート、および4つのウシ血清アルブミントリプシンペプチドによるN末端で標識された合成ペプチドLIFAGQKLEDGR(配列番号37)のLC/MSクロマトグラフ溶出プロフィールを示す図である。
【図29】図29Aはトリデカフルオロオクチルアクリレート(c=修飾残基)とのシステイン残基の反応後、低減ウシ血清アルブミンからのトリプシンペプチドMPcTEDYLSLILNR(配列番号45)の+2荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である。図29BはネイティブペプチドMPcTEDYLSLILNR(c=カルバミドメチル化システインである、配列番号38)のスペクトルを示す図である。
【図30】図30Aおよび図30Bはトリデカフルオロオクチルアクリレート(c=修飾残基)とのシステイン残基の反応後の低減ウシ血清アルブミンからのペプチドYIcDNQTISSK(配列番号46)、およびネイティブペプチドYIcDNQTISSK(c=カルバミドメチル化システインである、配列番号47)の+2荷電状態のタンデムMSスペクトルを示す図である。
【図31A】本発明のフルオラス標識試薬を使用する追加の例示的な反応スキームを示す図である。
【図31B】本発明のフルオラス標識試薬を使用する追加の例示的な反応スキームを示す図である。
【図31C】本発明のフルオラス標識試薬を使用する追加の例示的な反応スキームを示す図である。
【図31D】本発明のフルオラス標識試薬を使用する追加の例示的な反応スキームを示す図である。
【図32】図32Aおよび図32Bは本発明のフルオラス標識試薬を使用する追加の例示的な反応スキームを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析のために生物由来サンプルにおいて1つもしくはそれ以上の化合物を調製するための方法であって、前記方法が、
5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオラス部分に結合された化学反応性官能基を含んでなるフルオラス標識試薬を提供するステップと、
前記フルオラス標識試薬を生物由来サンプル中の1つもしくはそれ以上のメンバーの化合物に前記化学反応性官能基を介して結合させ、フルオラス標識サンプルメンバーを産生し、それによって分析のための前記生物由来サンプルを調製するステップ
とを含んでなる方法。
【請求項2】
前記生物由来サンプルがプロテオミクスサンプルを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物由来サンプルがメタボロミクスサンプルを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生物由来サンプルが細胞溶解物を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記生物由来サンプルが血液、尿、唾液、または組織サンプルを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記生物由来サンプルが1つもしくはそれ以上のプレ画分されたサンプルを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記1つもしくはそれ以上のプレ画分されたサンプルが、1つもしくはそれ以上のゲル電気泳動バンドを含んでなる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記1つもしくはそれ以上のプレ画分されたサンプルが、1つもしくはそれ以上のカラムクロマトグラフィー画分を含んでなる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記フルオラス標識サンプルメンバーを、前記フルオラス標識試薬に対する親和性を有する分離組成物を使用して非修飾メンバーから分離するステップをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記分離組成物がフルオラス液相を含んでなる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記分離組成物がフルオラス部分で官能化された基質の2次元表面を含んでなる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記分離組成物がフルオラス親和性基質を含んでなり、かつ前記フルオラス標識サンプルメンバーを前記非修飾メンバーから分離するステップが、固相抽出またはフルオラスカラムクロマトグラフィーを実行するステップと、カラム流出物を収集するステップとを含んでなる、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記フルオラス親和性基質がフルオラスシリカゲルを含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記フルオラス親和性基質がフルオロ有機ポリマーを含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記カラム流出物を収集するステップが、前記生物由来サンプルの非結合画分を収集するステップを含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記カラム流出物を収集するステップが、前記生物由来サンプルの結合画分を溶出するステップを含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記結合画分を溶出するステップが、単一標識サンプルメンバーを多重標識サンプルメンバーから分離するステップを含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記生物由来サンプルの1つもしくはそれ以上のメンバーを分析するステップをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記生物由来サンプルを分析するステップが、前記生物由来サンプルの分離された画分で質量分析を実行するステップを含んでなる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記分離されたサンプル画分が、フルオラス標識サンプルメンバーを含んでなる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記分離されたサンプル画分が、非フルオラス標識サンプルメンバーを含んでなる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記生物由来サンプルを分析するステップが、前記分離された画分のMSデータを前記生物由来サンプルの非反応アリコートのMSデータと比較するステップを含んでなる、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記質量分析がタンデムMSを含んでなる、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記質量分析がレーザー脱離イオン化TOF MSを含んでなる、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記フルオラス標識試薬が、質量分析のための標準イオン化または画分条件下で画分されない、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記化学反応性官能基が、マレイミド、ハロゲンβ−ケトン、ジスルフィド交換試薬、フェニルグリオキサル、無水物、アクリレート、アジド、チオール、ジヒドロキシ−ボラン、ボロン酸、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホN−ヒドロキシスクシンイミドエステル、ジアルキルピロカーボネート、マイケルドナー、アミノオキシ化合物、またはヒドラジン含有化合物を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記フルオラス標識試薬がアミノ酸コンジュゲーション剤を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記フルオラス部分が、式CF(CF[式中nは2〜10の整数である]を有するフルオロアルキル部分を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記フルオラス部分が、式CF(CF[式中nは3〜7の整数である]を有するフルオロアルキル部分を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記フルオラス部分が分岐鎖フルオロアルキル部分を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記フルオラス標識試薬が、フルオロアルキルリンカーによって結合された第1および第2の化学反応性官能基を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記フルオラス標識試薬が、2つもしくはそれ以上の試薬を含んでなり、第1のフルオラス標識試薬および第2のフルオラス標識試薬が分離組成物のその親和性において異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記フルオラス標識試薬が、
CF(CFCHCHSH、
CF(CFCHCHSH、
CFH(CFCHCHSH、
(CFCFCF(CFCHCHSH、
(CFCFCH(CFCHCHSH、
【化1】



【化2】



【化3】



【化4】



【化5】



【化6】



【化7】



【化8】



【化9】



【化10】



【化11】



【化12】



【化13】



【化14】



【化15】



【化16】



【化17】



【化18】



【化19】



【化20】



【化21】



【化22】



CF(CFCHCHCH
CF(CFCHCHCH
【化23】



【化24】



【化25】



【化26】



CF(CFCHCHCHNH
【化27】



CF(CFCHCH(C=O)CHONH
CF(CFCHCH(C=O)CHONH
CF(CFCHCH(C=O)CHONH
NCHCHCH(CFCHCHSH、
【化28】



【化29】



【化30】



【化31】


、および
【化32】


[式中Aはアミノ酸である。]からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記生物由来サンプルに過ヨウ素酸酸化を実行し、かつ前記フルオラス標識試薬を結合させる前に1つもしくはそれ以上のアルデヒド基を有するサンプル成分を生成させるステップをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記生物由来サンプルにおける1つもしくはそれ以上のメンバーの化合物がリン酸化アミノ酸含有成分を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
前記リン酸化アミノ酸含有成分が、1つもしくはそれ以上のリン酸化セリン残基、1つもしくはそれ以上のリン酸化トレオニン残基、1つもしくはそれ以上のリン酸化チロシン残基、またはそれの組合せを含んでなる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記リン酸化アミノ酸含有成分が少なくとも1つのリン酸化セリン残基またはリン酸化トレオニン残基を含んでなり、かつ
前記フルオラス標識試薬を前記生物由来サンプルにおける1つもしくはそれ以上のリン酸化アミノ酸含有成分に結合させるステップが、
a)塩基を前記生物由来サンプルに添加し、塩基性反応混合物を形成するステップと、
b)前記塩基性反応混合物における1つもしくはそれ以上のリン酸化アミノ酸含有成分でβ−脱離反応を実行するステップと、
c)前記フルオラス標識試薬を前記反応混合物に添加し、ここで前記フルオラス標識試薬の化学反応性官能基がチオールを含んでなるステップと、
d)前記β−脱離反応の生成物でマイケル付加反応を実行し、それによってフルオラス部分をリン酸化の以前の部分で結合させるステップと
を含んでなる請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記フルオラス標識試薬が、CF(CFCHCHSH、またはCF(CFCHCHSHを含んでなる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記フルオラス標識試薬を前記生物由来サンプルにおける1つもしくはそれ以上のリン酸化アミノ酸含有成分に結合させるステップが、
a)酸性条件下でサンプルメンバーにカルボン酸メチル化を実行するステップと、
b)リン酸化サンプルメンバーのリン酸基にシスタミンを結合させ、それによってホスホラミデート標識メンバーを産生するステップと、
c)前記シスタミンを低減し、前記ホスホラミデート標識メンバーに遊離チオールを生成させるステップと、
d)前記フルオラス標識試薬により前記ホスホラミデート標識メンバーに遊離チオールをアルキル化し、それによってフルオラス標識メンバーを生成させるステップと
を含んでなる、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記フルオラス標識メンバーを酸で処理するステップと、
前記フルオラス標識を開裂し、こうしてメチル化ホスホペプチドを再生するステップと
をさらに含んでなる、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
フルオラス標識サンプルメンバーを前記メチル化ホスホペプチドから放出させる前に前記フルオラス標識サンプルメンバーを非標識サンプルメンバーから分離するステップを含んでなる、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記生物由来サンプルにおける1つもしくはそれ以上のメンバーの化合物が、グリコシル化サンプルメンバーを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項43】
前記生物由来サンプルにおける1つもしくはそれ以上のグリコシル化サンプルメンバーに前記フルオラス標識試薬を結合させるステップが、
a)前記グリコシル化サンプルメンバーに1つもしくはそれ以上の糖を酸化させ、反応混合物において1つもしくはそれ以上のアルデヒド部分を生成させるステップと、
b)前記フルオラス標識試薬を前記反応混合物に添加し、ここで前記化学反応性官能基がヒドラジンまたはアミノオキシ部分を含んでなるステップと、
c)前記アルデヒド部分を前記ヒドラジンまたは前記アミノオキシ部分と結合させ、それによって前記グリコシル化サンプルメンバーをフルオラス標識するステップと
を含んでなる、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記1つもしくはそれ以上の糖を酸化するステップが、過ヨウ素酸化反応を実行するステップを含んでなる、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
生物由来サンプルの1つもしくはそれ以上のメンバーを分離するための方法であって、前記方法が、
5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオラス部分に結合された化学反応性官能基を含んでなる少なくとも1つのフルオラス標識試薬と前記生物由来サンプルを反応させ、それによってフルオラス標識を1つもしくはそれ以上のサンプルメンバーに付着させ、標識サンプルメンバーを形成するステップと、
前記フルオラス標識に対する親和性を有する組成物と使用することにより、前記フルオラス標識サンプルメンバーを非標識サンプルメンバーから分離するステップと
を含んでなる方法。
【請求項46】
前記フルオラス標識に対する親和性を有する組成物がフルオラス親和性基質を含んでなり、かつ前記フルオラス標識サンプルメンバーを前記非修飾メンバーから分離するステップが、固相抽出またはフルオラスカラムクロマトグラフィーを実行するステップと、カラム流出物を収集するステップとを含んでなる、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記フルオラス親和性基質がフルオラスシリカゲルを含んでなる、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記フルオラス標識に対する親和性を有する組成物が基質の表面に結合されており、かつ前記フルオラス標識サンプルメンバーを前記非標識サンプルメンバーから分離するステップが、前記生物由来サンプルを前記表面に塗布するとともに、前記非標識サンプルメンバーを洗浄によって前記表面から除去するステップを含んでなる、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
前記基質がMALDIプレートまたはDIOSプレートを含んでなる、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記生物由来サンプルが複数のアミノ酸含有成分を含んでなる、請求項45に記載の方法。
【請求項51】
前記複数のアミノ酸含有成分がタンパク質分解ペプチドを含んでなる、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
フルオラスベースの分離法を使用する生物由来サンプルの成分の分離のための方法であって、前記方法が、
複数のアミノ酸含有成分を含んでなる生物由来サンプルを提供するステップと、
前記生物由来サンプルをフルオラス標識試薬で処理し、1つもしくはそれ以上のフルオラス標識で前記サンプルの1つもしくはそれ以上のメンバー成分を標識し、ここで前記フルオラス標識試薬が、5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオラス部分に結合された化学反応性官能基を含んでなるステップと、
前記処理されたサンプルをフルオラス親和性基質と組合わせるステップと、
結合単一標識成分を別々に結合多重標識成分から選択的に溶出し、それによって生物由来サンプルの成分を分離するステップと
を含んでなる方法。
【請求項53】
1つもしくはそれ以上のメンバー成分を標識するステップが、前記メンバー成分の末端残基を標識するステップを含んでなる、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記生物由来サンプルが1つもしくはそれ以上のユビキチン化成分を含んでなり、かつ前記サンプルを処理するステップが、
前記生物由来サンプルをトリプシンで開裂し、それによって第1の部分と第2の部分を含んでなる複数のタンパク質分解断片を生成し、ここでタンパク質分解断片の第1の部分のメンバーが第1のペプチドN末端を有し、かつタンパク質分解断片の第2の部分のメンバーが第1のペプチドN末端と第2のユビキチン由来N末端を有するステップを有するステップと、
前記タンパク質分解断片のリシン残基のイプシロンアミノ基を遮断するステップと、
前記タンパク質分解断片の第1および第2のN末端を前記フルオラス標識試薬で標識し、それによって単一標識タンパク質分解断片の第1の部分と多重標識タンパク質分解断片の第2の部分を産生するステップと
をさらに含んでなる請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記遮断するステップが前記リシン残基のグアニジン化を含んでなる、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記生物由来サンプルが1つもしくはそれ以上のジスルフィド架橋含有成分を含んでなり、かつ前記サンプルを処理するステップが、
前記ジスルフィド架橋含有成分をトリプシンで開裂し、それによって2つのN末端を有する1つもしくはそれ以上のジスルフィド連結タンパク質分解断片を生成させるステップと、
ジスルフィド連結タンパク質分解断片の前記2つのN末端を標識するステップと
を含んでなる、請求項52に記載の方法。
【請求項57】
前記フルオラス親和性基質がフルオラスシリカゲルを含んでなる、請求項52に記載の方法。
【請求項58】
質量分析によって溶出フルオラス標識成分を分析するステップをさらに含んでなる、請求項52に記載の方法。
【請求項59】
フルオラスベースの分離法を使用する一連の生物由来サンプルの成分の多重分離のための方法であって、前記方法が、
一連の生物由来サンプルを提供し、各メンバーサンプルが複数の成分を含んでなるステップと、
5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオロアルキル部分に結合された化学反応性官能基を含んでなる2つもしくはそれ以上のフルオラス標識試薬を提供するステップと、
第1のサンプルを第1のフルオラス標識試薬で処理し、第1のサンプルの1つもしくはそれ以上の成分を標識するステップと、
第2のサンプルを第2のフルオラス標識試薬で処理し、それによって第2のサンプルの1つもしくはそれ以上の成分を標識し、ここで前記第1および第2のフルオラス標識試薬がそれに組込まれた多くのフッ素原子の点で異なるステップと、
第1および第2のサンプルを混合し、混合サンプルを形成するステップと、
前記混合サンプル上でフルオラスベースの分離を実行し、それによって前記一連の生物由来サンプルの成分を分離するステップと
を含んでなる方法。
【請求項60】
前記一連のサンプルの1つもしくはそれ以上の追加のメンバーを1つもしくはそれ以上の追加のフルオラス標識試薬で処理し、前記試薬が互いに、かつ前記第1および第2のフルオラス標識試薬とそれに組込まれたフッ素原子の数で異なるステップと、
前記追加の処理サンプルを前記フルオラスベースの分離を実行する前に前記第1および第2のサンプルと混合するステップと
をさらに含んでなる、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記フルオラスベースの分離法を実行するステップが、前記フルオラス標識成分のフルオラス固相抽出を実行し、それによって非標識成分をフルオラス標識成分から分離するステップを含んでなる、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記フルオラスベースの分離法を実行するステップが、フルオラス親和性基質を使用するメンバー成分を画分するステップを含んでなる、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記メンバー成分を画分するステップが、前記第1のフルオラス標識試薬で標識された成分を前記第2のフルオラス標識試薬で標識された成分から分離するステップを含む、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記非標識成分または前記フルオラス標識成分を質量分析によって分析するステップをさらに含んでなる、請求項59に記載の方法。
【請求項65】
複数の生物由来成分を含んでなる複合組成物を分析するための方法であって、前記方法が、
そのフルオラス部分が化学反応性官能基に結合されている、5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオラス部分を含んでなるフルオラス標識試薬を提供するステップと、
前記複合組成物の1つもしくはそれ以上のメンバーを前記フルオラス標識試薬で修飾し、フルオラス標識成分および非標識成分を含んでなる修飾組成物を形成するステップと、
前記フルオラス標識試薬の前記フルオラス部分に対する親和性を有する分離組成物を使用する前記修飾組成物を画分するステップと、
分離サンプル画分で質量分析を実行し、かつ質量スペクトルデータを生成し、それによって前記複合組成物を分析するステップと
を含んでなる方法。
【請求項66】
生物由来サンプルを分析するための方法であって、
5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなるフルオロアルキル部分に結合された化学反応性官能基を含んでなるフルオラス標識試薬と前記生物由来サンプルを反応させ、それによってフルオラス標識を前記生物由来サンプルの1つもしくはそれ以上のメンバー成分に組込み、フルオラス修飾成分を形成するステップと、
前記処理サンプルの第1の部分を質量分析によって分析し、第1の一連の質量スペクトルデータを生成させるステップと、
前記処理サンプルの第2の部分を質量分析によって分析し、第2の一連の質量スペクトルデータを生成し、ここで前記第2の部分の前記フルオラス修飾成分が分析前にフルオラス親和性基質を使用して除去されているステップと、
前記第1および第2の一連の質量スペクトルデータを比較し、前記第1の部分に存在し、かつ前記第2の部分に存在しない1つもしくはそれ以上の質量スペクトルピークを測定し、それによって前記生物由来サンプルを分析するステップと
を含んでなる方法。
【請求項67】
前記第1の部分に存在し、かつ前記第2の部分に存在しない質量スペクトルピークを識別するステップをさらに含んでなる、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記生物由来サンプルがプロテオミクスまたはメタボロミクスサンプルを含んでなる、請求項66に記載の方法。
【請求項69】
前記プロテオミクスまたはメタボロミクスサンプルが複数のアミノ酸含有成分を含んでなり、かつ前記フルオラス標識試薬の前記化学反応性官能基がアミノ酸コンジュゲーション剤を含んでなる、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
化学反応性官能基を含んでなるバイオコンジュゲーション剤に結合されたフルオラス部分を含んでなるフルオラス標識試薬であって、前記フルオラス標識試薬が5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなる、フルオラス標識試薬。
【請求項71】
前記フルオラス部分が隣接炭素原子に結合された5個もしくはそれ以上のフッ素原子を含んでなる、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項72】
前記フルオラス部分が、非フルオラスリンカー領域によって分離された炭素結合フッ素原子の2つもしくはそれ以上のクラスタを含んでなる、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項73】
前記標識試薬が前記バイオコンジュゲーション剤における第1の位置で結合された第1のフルオラス部分と、前記バイオコンジュゲーション剤における第2の位置で結合された第2のフルオラス部分とを含んでなる、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項74】
前記標識試薬が水性適合試薬を含んでなる、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項75】
前記フルオラス部分が、1つもしくはそれ以上の13C原子、15N、18O原子、またはジュウテリウム原子を含んでなる、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項76】
前記化学反応性官能基が同位体標識を含んでなる、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項77】
前記フルオラス標識試薬が、前記バイオコンジュゲーション剤と1つもしくはそれ以上の前記フッ素部分との間に位置した非フルオラスリンカーヨウ素をさらに含んでなる、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項78】
前記リンカー要素が、長さが2〜20個の炭素のアルキル鎖を含んでなる、請求項77に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項79】
前記リンカー要素が、1つもしくはそれ以上の13C原子、15N、18O原子、またはジュウテリウム原子を含んでなる、請求項77に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項80】
前記リンカー要素が放出可能な要素を含んでなる、請求項77に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項81】
前記放出可能な要素がペプチド開裂部位を含んでなる、請求項80に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項82】
前記放出可能な要素がジスルフィド結合を含んでなる、請求項80に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項83】
前記試薬が、
【化33】


である、請求項82に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項84】
前記試薬が、
【化34】


である、請求項82に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項85】
前記化学反応性官能基が、マレイミド、ハロゲンβ−ケトン、ジスルフィド交換試薬、フェニルグリオキサル誘導体、無水物、アクリレート、NHSエステル、チオール、ジアルキルピロカーボネート、アミノオキシ基、またはヒドラジンを含んでなる、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項86】
前記化学反応官能基が同位体標識を含んでなる、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項87】
前記フルオラス標識試薬が、フルオラスアルキルチオール、フルオラスアルコキサミン、フルオラスNHSエステル、フルオラススルホ‐NHSエステル、またはフルオラスアジドを含んでなる、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項88】
前記フルオラス標識試薬が、第2のバイオコンジュゲーション剤をさらに含んでなる、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項89】
前記フルオラス標識試薬が、第1および第2のアミノ酸結合官能基を誘導体化するための第1および第2のバイオコンジュゲーション剤を含んでなり、かつ前記第1および第2のアミノ酸結合官能基が同様の官能基である、請求項88に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項90】
前記フルオラス標識試薬が、
【化35】


である、請求項89に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項91】
前記フルオラス標識試薬が、第1および第2のアミノ酸結合官能基を誘導体化するための第1および第2のバイオコンジュゲーション剤を含んでなり、ここで前記第1および第2のアミノ酸結合官能基が異なる官能基である、請求項88に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項92】
前記フルオラス標識試薬が質量分析のための標準イオン化および/または断片化条件下で不活性である、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項93】
前記フルオラス標識試薬が、
CFH(CFCHCHSH、
(CFCFCF(CFCHCHSH、
(CFCFCH(CFCHCHSH、
【化36】



【化37】



【化38】



【化39】



【化40】



【化41】



【化42】



【化43】



【化44】



【化45】



【化46】



【化47】



【化48】



【化49】



【化50】



【化51】



【化52】



CFH(CFCHCHCH
CFH(CFCHCHCH
【化53】



【化54】



【化55】



【化56】



【化57】



CF(CFCHCH(C=O)CHONH
CF(CFCHCH(C=O)CHONH
CF(CFCHCH(C=O)CHONH
NCHCHCH(CFCHCHSH、
【化58】



【化59】



【化60】


、および
【化61】


[式中Aはアミノ酸である。]からなる群から選択される、請求項70に記載のフルオラス標識試薬。
【請求項94】
生物由来サンプルの分別定量化のための一連のフルオラス標識試薬であって、前記一連が請求項70に記載の2つもしくはそれ以上のフルオラス標識試薬を含んでなり、前記フルオラス標識試薬が1つもしくはそれ以上の安定したアイソトープで区別をつけて標識される一連のフルオラス標識試薬。
【請求項95】
前記安定したアイソトープがジュウテリウムを含んでなる、請求項94に記載の一連のフルオラス標識試薬。
【請求項96】
前記安定したアイソトープが13Cを含んでなる、請求項94に記載の一連のフルオラス標識試薬。
【請求項97】
前記安定したアイソトープが15Nを含んでなる、請求項94に記載の一連のフルオラス標識試薬。
【請求項98】
前記安定したアイソトープが18Oを含んでなる、請求項94に記載の一連のフルオラス標識試薬。
【請求項99】
基質の表面上でフルオラス標識サンプルのフルオラスおよび非フルオラス成分を画分するための方法であって、前記方法が、
フルオラス標識に対する親和性を有する組成物を提供し、前記組成物が前記基質の表面の第1の部分に結合されるステップと、
フルオラス成分および非フルオラス成分を含んでなるフルオラス標識サンプルを前記基質の表面上へ装填し、かつ前記サンプルの前記フルオラス成分をフルオラス標識に対する親和性を有する前記組成物と結合させるステップと、
前記非フルオラス成分を除去し、それによって前記基質表面上でフルオラス標識サンプルを画分するステップと
を含んでなる方法。
【請求項100】
前記基質がMALDIプレートまたはDIOSプレートを含んでなる、請求項99に記載の方法。
【請求項101】
前記非フルオラス成分を除去するステップが前記基質の表面を洗浄するステップを含んでなる、請求項99に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31A】
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【図31B】
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【図31C】
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【図31D】
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【図32】
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【公表番号】特表2007−515625(P2007−515625A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539907(P2006−539907)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/037821
【国際公開番号】WO2005/050226
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(503287649)アイアールエム エルエルシー (7)
【Fターム(参考)】