説明

生物試料からPrPresを精製する方法とその応用

【課題】生物試料に含まれるPrPresを定性的測定や定量的測定に使用するために、その試料からPrPresを精製する方法を提供する。
【解決手段】(1)生物試料を、所定量の少なくとも1種類の界面活性剤を含むバッファAやプロテアーゼを用いてインキュベーションして、懸濁液S1を得る工程、(2)この得られた懸濁液S1に、相分離を生じさせるに適した量において、PrPresを可溶化することなく相分離を形成し得る、所定のアルコール若しくは混合物からなるバッファBを加える工程、(3)(2)の工程で得られた懸濁液を遠心分離する工程、(4)界面に存在する薄膜を回収する工程、(5)バッファAで薄膜を再可溶化する工程、(6)得られた懸濁液を遠心分離する工程、(7)得られた残渣を(1)の工程の界面活性剤、カオトロピック剤、それらの混合物を含むバッファCに可溶化させる工程、を必須的に含む方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物試料に含まれるPrPresの定性的及び/又は定量的検出に使用するために、その試料からPrPresを精製する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝播性亜急性海綿状脳症(transmissible subacute spongiform encephalopathies:TSSE)は、その詳細な性質が今日なお未解明のままである、非通常伝播性エージェント( non-conventional transmissible agents :NCTA) −所謂プリオン−によって惹き起こされる。TSSEには、主として、ヒトにおけるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、ヒツジやヤギにおけるスクレーピ、ウシにおけるウシ海綿状脳症(BSE)が含まれ、他の脳症が、ミンクや、アカシカ、エラジカ等の一定の種類の野生動物において確認されている。
これらの疾病の結果は常に死であり、現在、有効な治療法はない。
【0003】
伝播性亜急性海綿状脳症においては、主として中枢神経系において、宿主タンパク質:PrP( Prion protein:プリオンタンパク質)の異常な形態(PrPres)における蓄積が見られる。PrPresは精製によっても感染性を失うことはなく、その蓄積は、組織学的な病変に先行して現れる。インビトロにおいて、PrPresは、神経細胞カルチャーに対して毒性を示す。
【0004】
PrPresと正常PrPとは、通常、2つの生化学的特徴によって区別される。PrPresは、プロテアーゼに対して部分的な耐性を有し、また陰イオン性界面活性剤に不溶性を示す。
ある試料中に存在するPrPresを検出可能とするためには、その試料から正常PrPを除く一方、PrPresを豊富に含むものとするために、その試料に対して複数の操作を行なうことが必要であり、そのようにして、初めて、
・正常PrP又は他の不純物の存在によって、擬陽性( false positives)を示すこと や、
・最終的な生物試料に含まれるPrPresの濃度が不充分であるために、擬陰性( f alse nagatives)を示すこと
を惹起することなく、何れの適当な特異的方法によっても検出され得るようになる。
【0005】
上記の目的のために、PrPresを分離及び/又は精製するための多くの方法が提案されている。それらの方法は、本質的に、ヒルマート(Hilmert )とディリンジャー(Diringer)( Nature 、1983、306、476‐478)によって開発された方法に基づいており、一般に、洗浄剤による抽出と、分画超遠心分離と、タンパク質分解酵素による処理とを含む[マルトープ( Multhaup G. )ら、EMBO J.、1985、4、6、1495−1501;タカハシ( Takahashi K. )ら、Microbiol. Immunol. 、1986、30、2、123−131;ホープ( Hope J.)ら、EMBO J. 、1986、5、10、2591−2597;グラスボール( Grathwohl K.U.D. )ら、Arch. Virol.、1996、141、1863−1874;カスチャク( Kascsak R.J. )ら、Immunol. Investig.、1997、26、259−268;レイス( R.E. Race)ら、J. Gen. Virol.、1992、73、3319−3323;ドイ( Doi)ら、J. Gen. Virol.、1988、69、955−960;ムラモト( T. Muramoto)ら、Am. J. Pathol.、1993、143、5、1470−1479;ファルクハル( Farquhar C.F.)ら、 Gen. Virol.、1994、75、495−504及び J. Gen. Virol.、1996、77、1941−1946]。それらの方法は、複数回の超遠心分離を含む多数の工程からなり、そのために、実施することが面倒であって、なお且つPrPresの累積的な損失につながるという問題点を有する。その結果、感度が不充分となって、PrPresの高い精度での検出閾値や定量を得ることが困難となる。
【0006】
上記の諸々の方法は、研究実験設備と相当な実施時間を必要とすることから、堵殺場等の現場で使用することが困難である。
このように、動物の堵殺に際して伝播性亜急性海綿状脳症の存在/不存在を迅速に証明する必要性が存在する。
【0007】
【非特許文献1】Nature 、1983、306、476‐478
【非特許文献2】EMBO J.、1985、4、6、1495−1501
【非特許文献3】Microbiol. Immunol. 、1986、30、2、123−131
【非特許文献4】EMBO J. 、1986、5、10、2591−2597
【非特許文献5】Arch. Virol.、1996、141、1863−1874
【非特許文献6】Immunol. Investig.、1997、26、259−268
【非特許文献7】J. Gen. Virol.、1992、73、3319−3323
【非特許文献8】J. Gen. Virol.、1988、69、955−960
【非特許文献9】Am. J. Pathol.、1993、143、5、1470−1479
【非特許文献10】Gen. Virol.、1994、75、495−504
【非特許文献11】J. Gen. Virol.、1996、77、1941−1946
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者は、生物試料を精製して、それをPrPresの迅速且つ信頼性の高い検出のために使用する方法を提供することを企図した。この方法は、実施が容易で、堵殺場等の現場においても使用することが可能であり、そのために、従来の方法よりも実際上の必要性をより良く満足させるものである。
【0009】
事実、本発明に係る方法は、
−実施が容易であり、
−信頼性が高く、
−解釈が容易である。即ち、擬陽性(正常PrP及び他の不純物)をなくすことによって、PrPresの検出感度閾値を高め、また、大量の生物試料を、80%を超える精製歩留まりで処理することが出来るので、絶対的な意味での実質的な量のPrPresの取得を可能とすることによって、擬陰性をなくことが出来る。このことは、堵殺場において特に価値あることであり、簡易な診断テストで、PrPresが容易に検出され得る試料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、生物試料からPrPresを精製する方法であって、
(1)前記生物試料を、30秒から2時間の間、好ましくは30秒から10分の間、80℃よりも低い温度において、その生物試料の重量の1/4〜4倍の間の量の、好ましくは1/4倍〜1.5倍の間の量の少なくとも1種類の界面活性剤を含むバッファ( buffer )Aを用いてインキュベーションし、また場合により、それに先立ち、その後に、またはそれと同時に、プロテアーゼを用いてインキュベーションすることによって、オパール様乃至は濁った状態のミセル状又は層状(ラメラ)の懸濁液S1を得る工程と;上記の温度及び量的条件の下では、如何なる界面活性剤又は界面活性剤混合物であっても、それは殆どPrPresを可溶化せず、PrPresは懸濁液中に留まるが、他方、正常PrPは可溶化され、プロテアーゼが添加されれば、破壊されさえする;本インキュベーションは、前記生物試料の重量の1/4倍と1.5倍との間の量の界面活性剤の存在下では、50℃より低い温度で行なわれる;本発明によれば、前記プロテアーゼは、前記界面活性剤よりも前、若しくは後、またはそれと同時に添加される、
(2)上記の(1)で得られたミセル状又は層状の懸濁液S1に、その懸濁液S1を清澄化させる[例えば、マイクロエマルジョン( microemulsion)又はマイクロサスペンション( microsuspension)とすることによって]ために適当な量の、前記PrPresを可溶化せず且つ誘電率が10〜25の溶媒又は溶媒混合物からなるバッファBを加える工程と;これにより、肉眼には透明な懸濁液S2が得られる、
(3)かかる(2) の工程で得られた懸濁液S2を遠心分離する工程と;この遠心分離は、例えば2分間〜10分間、20,000gより低い速度、好ましくは3,500gと17,500gの間の速度で行なわれる;その結果得られる遠心分離残渣に含まれるPrPresの精製歩留まりは、驚くべきことに、80〜100%に達する;この遠心分離の時間と速度は、同じ結果、即ち、精製歩留まり80〜100%のPrPresを得ることが出来るように、調整され得る、
(4)得られた残渣を、0.1%と5%との間の濃度、好ましくは0.25%と1%との間の濃度[バッファCの体積に基づく(w/v)]の、前記(1) で定義された少なくとも1種類の界面活性剤、及び/又は0.1Mと8Mの間の濃度の少なくとも1種類のカオトロピック剤( chaotropic agent )を含むバッファCに、室温と100℃の間の温度、好ましくは80℃以上の温度において、可溶化させる工程と;それらの温度条件下においては、前記界面活性剤、好ましくはイオン性界面活性剤及び/又は前記カオトロピック剤がPrPresを可溶化する、
を必須的に含むことを特徴とする方法に関する。
上記の工程(1)と工程(2)は、同時に行なってもよく、あるいは、連続的に行なってもよいが、連続的に行なうほうが好ましい。
【0011】
上記方法を実施するための好ましい態様においては、前記生物試料が組織又は器官である場合に、その試料が、水等の中性バッファと5%グルコース等の等張性バッファからなる群から選択された均質化バッファ中において、工程(1)の前に、例えば機械的なすり潰しによって、均質化される。
【0012】
上記方法を実施するための好ましい態様においては、工程(1)で採用される温度が、室温と50℃の間の温度であり、好ましくは37℃である。
【0013】
前記バッファAは、好ましくは、
−SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、サルコシル(ラウロイルサルコシン)、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤と、
−SB3−10(デシルスルホベタイン)、SB3−12(ドデシルスルホベタイン)、SB3−14、SB3−16(ヘキサデシルスルホベタイン)、CHAPS、デオキシ(deoxy )CHAPS等の両性界面活性剤A、
−C12E8(ドデシルオクタエチレングリコール)、トリトン(Triton)X100、トリトンX114、トイーン(Tween )20、トイーン80、MEGA9(ノナノイルメチルグルカミン)、オクチルグリコシド、LDAO(酸化ドデシルジメチルアミン)、NP40等の非イオン性界面活性剤と、
−SDS/トイーン80混合物、サルコシル/トリトンX100混合物等のイオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤との混合物、SDS/デオキシコール酸塩混合物等の2種類のイオン性界面活性剤の混合物、イオン性界面活性剤と両性( zwitterionic )界面活性剤との混合物等の界面活性剤混合物と、
からなる群から選択された界面活性剤を含む。
【0014】
上記方法を実施するための好ましい態様においては、前記バッファBが、好ましくは、C3 −C6 アルコールと平均理論誘電率が10と25の間であるアルコール混合物とからなる群から選択される。前記アルコール又はアルコール混合物としては、ブタン−1−オール、ブタン−2−オール、2−メチルプロパン−1−オール、イソプロパノール、(イソプロパノール+ペンタノール)、(エタノール+ヘキサノール)、(ブタノール+ペンタノール)が、特に好ましい。
【0015】
本発明の用語において、誘電率とは、静的な乃至比較的低周波数の場において測定される静的誘電率εを意味するものと理解され、この誘電率は、電界が293.15Kと298.15Kの間の温度において溶液に適用される時の、電気移動( electric displacement)Dの電界強度( electric field strength)Eに対する比率に相当する。
このように定義された液体の誘電率は、『化学と物理学のCRCハンドブック』( David R. Lide 著、75版、1994、CRC出版)に詳細に記述されている。
溶媒混合物の場合、平均理論誘電率とは、複数の溶媒のそれぞれの誘電率を混合物中のそれぞれの割合で重み付けして得られる平均値を意味する。
【0016】
驚くべきことに、工程(2)においてバッファBを添加することによって、低速遠心分離条件下において、90%を超える精製歩留まりを得ることが出来る。即ち、バッファBは、高い精製歩留まりを維持しつつ、最終残渣の量を有意に減少させる。有利なことに、最終残渣の量は、生物試料の最初の重量の10%を超えない量とすることが出来、それにより、その残渣を免疫検定に有効に使用することが出来る。バッファAのみが添加される場合に得られる条件は、従来技術の条件であり、PrPresの検出のために充分な精製度を得るためには、超遠心分離を行なう必要がある。
【0017】
80%を超える精製歩留まりは、遠心分離の時間と速度を変更しても得られることが、留意されてよい。即ち、20,000gより低い速度での2分間から10分間の遠心分離でもよいし、『g』の数値の増加に比例して、『時間』を減少させてもよい。
有利なことに、前記懸濁液S2の遠心分離の後に回収される残渣の量に対する、その固体相に含まれるPrPresの精製歩留まりの比率は、最初の試料が100mgの脳に相当する場合に、10より大きくすることが出来る。
【0018】
他の有利な態様においては、工程(4)において使用される前記バッファCが、尿素及びグアニジン又はその混合物からなる群の中から選択されたカオトロピック剤( chaotropic agent )を含む。尤も、他の何れのカオトロピック剤を使用してもよい。
尿素の濃度は、好ましくは、0.25Mと8Mの間であり、グアニジンの濃度は、好ましくは、0.1Mと6Mの間である。
【0019】
バッファCが少なくとも1種類の界面活性剤と少なくとも1種類のカオトロピック剤との混合物である場合は、バッファCは、好ましくは、SDSと尿素の混合物、サルコシルと尿素の混合物、デオキシコール酸塩( deoxycholate )と尿素の混合物、サルコシルとグアニジンの混合物、サルコシルとグアニジンと尿素の混合物からなる群から選択される。SDSと尿素の混合物が選択される場合に、SDSの濃度は、好ましくは、0.25〜1%であり、尿素の濃度は、好ましくは、0.25〜6Mである。サルコシルと尿素の混合物が選択される場合に、サルコシルの濃度は、好ましくは、0.25%と1%の間であり、尿素の濃度は、好ましくは、0.25Mと8Mの間である。サルコシルとグアニジンの混合物が選択される場合に、サルコシルの濃度は、好ましくは、0.25%と1%の間であり、グアニジンの濃度は、好ましくは、0.5Mと3Mの間である。サルコシルとグアニジンと尿素の混合物が選択される場合に、サルコシルの濃度は、好ましくは、0.25%と1%の間であり、グアニジンの濃度は、好ましくは、0.5Mと3Mの間であり、尿素の濃度は、好ましくは、0.25Mと6Mの間である。
【0020】
特に、ウェスタン・ブロッティング法のためには、レムリ( Laemmli)・バッファ[4%SDS、0.1Mトリス(Tris)−HClpH8、5%ショ糖、及び2%β−メルカプトエタノール]を使用することが出来る。
【0021】
本発明は、また、生物試料においてPrPresを検出する方法であって、
−上記のように定義された前記試料を処理する工程と、
−得られた試料を、必要に応じて、希釈する工程と、
−前記PrPresを、特異的な信号を発生させる、免疫検定法(ELISA法、ウェ スタン・ブロッティング法等)等の何れかの適当な分析法を用いて検出する工程と
を含むことを特徴とする方法に関する。
上記の希釈工程は、ELISA法によるPrPresの検出を可能にするためのバッファCの中和を可能にする。この希釈は、例えば、最終アルブミン濃度が2%と10%(w/v)の間の値となるようなアルブミンを含むバッファ、または、1%デオキシコール酸等に基づくバッファを用いて、実施される。
【0022】
このように処理された生物試料は、有効な濃度のPrPresを含むので、そのPrPresは、免疫学的方法等の何れの分析法によっても、その試料中において直接検出され得る。
【0023】
派生例として、本発明は、また、生物試料からPrPresを精製する方法であって、
(1)前記生物試料を、30秒から2時間の間、好ましくは30秒から10分の間、80℃よりも低い温度において、その生物試料の重量の1/4倍と4倍との間の量の、好ましくは1/4倍と1.5倍の間の量の、少なくとも1種類の界面活性剤を含むバッファAを用いてインキュベーションし、また場合により、それに先立ち、その後に、またはそれと同時に、プロテアーゼを用いてインキュベーションすることによって、オパール様乃至は濁った状態のミセル状又は層状の懸濁液S1を得る工程と;本発明によれば、前記プロテアーゼは、実際には、前記界面活性剤よりも前、若しくは後、またはそれと同時に添加される、
(2)かかる(1)の工程で得られたミセル状又は層状の懸濁液S1に、相分離を生じさせるために適当な量の、前記PrPresを可溶化せず且つ誘電率が10〜25の溶媒又は溶媒混合物からなるバッファBを加える工程と、
(3)この(2) の工程で得られた懸濁液を遠心分離する工程と;この遠心分離は、例えば2分間〜10分間、20,000gより低い速度、好ましくは3,500gと17,500gの間の速度で行なわれる;前記PrPresは、最終的に界面に現れる、
(4)その界面に存在する薄膜を回収する工程と、
(5)プロテアーゼを加えないバッファAで、前記薄膜を再可溶化させる工程と、
(6)該工程(5) で得られた懸濁液を遠心分離する工程と;この遠心分離は、例えば2分間〜10分間、20,000gより低い速度、好ましくは3,500gと17,500gの間の速度で行なわれる;その結果、得られる遠心分離残渣に含まれるPrPresの精製歩留まりは、驚くべきことに、70〜100%となる;この遠心分離の時間と速度は、同じ結果、即ち、精製歩留まり70〜100%のPrPresを得ることが出来るように、調整され得る、
(7)得られた残渣を、0.1%と5%の間の濃度、好ましくは0.25%と1%の間の濃度[バッファCの体積に基づく(w/v)]の、前記(1) で定義された少なくとも1種類の界面活性剤及び/又は0.1Mと8Mの間の濃度の少なくとも1種類のカオトロピック剤を含むバッファCに、室温と100℃の間の温度、好ましくは80℃以上の温度において、可溶化させる工程と;それらの温度条件下においては、前記界面活性剤、好ましくはイオン性界面活性剤及び/又は前記カオトロピック剤がPrPresを可溶化する、
を必須的に含むことを特徴とする方法に関する。
【0024】
マイクロエマルジョン、マイクロサスペンション、または、相分離を形成するために加えられるべきバッファBの量は、図1にブタン−1−オールについて示されたバッファBの範囲に基づいて確定される。それらの量は、バッファAとバッファBのために選択された成分との関数として変化し得る。
【0025】
派生例として、前記バッファC中における前記可溶化工程[前記第1方法の工程(4)又は前記第2方法の工程(7)]は、5分間〜10分間、80℃以上の温度で加熱し、その後、例えば、2分間〜10分間、20,000gより低い速度、好ましくは3,500gと17,500gの間の速度での遠心分離を行なうものである。この場合には、PrPresは再可溶化され、最終的に上澄み中に現れる。この条件下で得られた試料は、特に、ELISA法によるPrPresの検定に適している。
【0026】
本発明は、更に、生物試料を処理するためのキットであって、その試料を均質化するためのバッファに加えて、上記のように定義された、それぞれ適当な量のバッファA、バッファB、及びバッファCを含むことを特徴とするキットに関する。
【0027】
本発明は、更に、PrPresを検出するためのキットであって、PrPresが検出されるべき生物試料を均質化するための適当な量のバッファと、上記のように定義された、それぞれ適当な量のバッファA、バッファB、及びバッファCと、少なくとも1種類の抗PrPres抗体( anti-PrPres antibody )とを含むことを特徴とするキットに関する。
【0028】
以上に記載された態様に加え、本発明は、その主題を構成する方法の実施に関する具体例及び添付の図面についての以下の記載から明らかとなる他の態様をも含むものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の具体例を図面を参照しながら説明するが、それらの具体例は、本発明の主題を説明するための例示に過ぎず、本発明が、以下の記載に何ら限定されるものではないことが、理解されるべきである。
【0030】
実施例1:現場においてPrPresを検定するためのウシの脳の試料の処理: バッファBの適当な量の選択
−ウシの脳500mgの試料をすり潰し、5%グルコース溶液中の濃度が25%(w/v)となるように均質化する。
この均質化を行なうために、先ず、脳試料(500mg)とグルコース1mlとをセラミック・ビーズを入れた試験管に投入して、攪拌する。その上澄み(約1.5ml)を回収した後、ビーズを500μlのグルコースに懸濁させて濯ぎ、攪拌する。この得られた上澄みを回収し、先に得られた上澄みと混合する(2ml)。
【0031】
−こうして得られたホモジネートの400μl(脳100mgに対応する)を、25%(w/v)SDSと25%(v/v)トイーン80とをそれぞれ等部づつ1対1の比率(v/v)で含む混合物と、プロテアーゼK(0.1mg/mlバッファA、即ち、0.4mg/g組織)とを含むバッファAの400μlを用いて、10分間(5分間を2回)、37℃の温度で、インキュベートする[工程(1)]。ある変更例においては、バッファAとして、10%サルコシルと10%トリトンX100とを含むものが、有利に使用される。後者のバッファAは、SDSを含まないものであり、ELISA型の方法を使用し、特異的な抗体によってPrPresを検出する場合に動揺を起こさないので、より有利である。
−0〜1000μlのブタノール(バッファB)を添加せしめる[工程(2)]。
【0032】
図1は、ウェスタン・ブロッティング法によって定量化されたPrPresの精製歩留まり(%)と、添加されたバッファBの量の関数としての残渣の量(mg)とを示す。
この図によれば、ブタノールが10%と53%の間では、PrPresは懸濁状態に維持され、30%と50%の間では、100%に近い精製歩留まりと10mgより少ない残渣が得られる。
【0033】
−3,800g(4,000rpm、JOUAN 遠心分離機)での遠心分離を10分間行なった後[工程(3)]、上澄みを捨て、PrPresを含む残渣を回収し、その残渣を、
・0.5%SDSと0.5M尿素、若しくは、
・レムリ・バッファ、若しくは、
・0.5%サルコシルと6M尿素
を含むバッファCの80〜100μlに、5分間、100℃において、溶解させる[工程(4)]。
【0034】
PrPresは、この処理によって、溶解される。この試料は、ELISA法やウェスタン・ブロッティング法等の免疫学的検定法にすぐに使用することが出来る。
【0035】
ELISA法を行なうためには、先ず、残渣を、サルコシル(0.25〜1%)と尿素(0.25〜8M)、若しくは、SDS(0.25〜1%)と尿素(0.25〜1M)を含むバッファCに溶解させる。加熱の後、得られた試料を、最終的なアルブミン濃度が2%と10%の間(w/v)となる量のアルブミンを含むバッファ、または、1%のデオキシコール酸塩を含むバッファで希釈する(4分の1又は2分の1に)。
【0036】
ある変更例において、希釈された試料は、100℃において、5〜10分間の間、加熱され、その後、20,000gより低い速度、好ましくは3,500gと17,500gの間の速度で、2〜10分間、遠心分離される。得られた上澄みを、ELISAバッファを用いて、4分の1〜2分の1に希釈する。
【0037】
本例では、PrPresは、ウェスタン・ブロッティング法によって定量される。そこでは、先ず、同体積のレムリ・バッファと混合される。その後、希釈試料を、ウェスタン・ブロッティング法による検出のためにゲル上に置く。検出されたPrPresの量が、BSEに冒されて疾病の最終段階にあるウシの脳から得た一つのホモジネートから、上記の条件と同一の条件下で精製されたPrPresの希釈物の線形範囲(正のコントロール)と比較される。
【0038】
本発明に従う方法によって処理された試料は、バックグランドの影響を受けず、PrPresの、信頼性に富み、特異性の高い、定量的な検定を可能にする。
【0039】
本発明に従う方法は、PrPresの精製歩留まりの有意の増加を可能にする:
・実際に、バッファAのみが加えられた場合には、PrPresの歩留まりは40%程度に過ぎず、固体相と液体相との分離等の理由によって、PrPresの60%程度の損失が観察される。また、実質的な量の残渣が観察される。このことは、従来技術に記載されたプロトコールがサルコシルを使用する理由となっている。サルコシルは、残渣の量を減少させるが、充分な歩留まりを得るためには、面倒な超遠心分離を必要とする。
・工程(2)によって、固体相中のPrPresの歩留まりが増加する。上記の如く、懸濁液S2の固体相において、80〜100%程度の歩留まりが得られると同時に、残渣の量が減少する。
【0040】
実施例2:現場においてPrPresを検定するためのウシの脳の試料の処理: 工程(1)と工程(2)の変更例
−均質化工程は、実施例1で記載された工程と同じである。
−その後、500mgのウシの脳から得られたホモジネートの2mlを、実施例1で記載された条件と同一の条件下で、バッファAの2mlを用いてインキュベートする[工程(1)]。
−さらに、実施例1で記載された条件と同一の条件下でバッファBの3mlを添加する[工程(2)]。
−残りの工程は、実施例1と同じである。
【0041】
実施例3:現場においてPrPresを検定するためのウシの脳の試料の処理: 均質化工程の変更例
−ウシの脳の250mgの試料をすり潰し、5%グルコース溶液中の濃度が25%(w/v)となるように均質化する。
【0042】
この均質化を行なうために、先ず、脳試料(250mg)と750μlのグルコースとをセラミック・ビーズを入れた試験管に投入し、40秒間、攪拌する(RIBOLYSER−HYBAID装置)。400μlの上澄み(約1.5ml)を回収する。残りの工程は、実施例1と同じである。
【0043】
実施例4:PrPresの精製歩留まりと残渣の量との比率に対する異なるバッファBの 影響の比較:
試料は、バッファBの量が600μlであることを除いて、実施例1で記載された条件と同一の条件下で処理される。
【0044】
図2は、異なるバッファBを用いて、ウェスタン・ブロッティング法によって得られた比率を示す。異なるバッファBは、ペンタノール、ブタノール、イソプロパノール/ペンタノール混合物、エタノール/ヘキサノール混合物、イソプロパノール、及びエタノールであり、混合物は体積に基づいて調製されている。
【0045】
実施例5:異なる混合物のそれぞれの誘電率の比較とそれらのPrPresの精製歩留ま りと残渣の量とに対する影響:
本方法は、実施例4に記載された条件下で行なわれる。
【0046】
図3は、得られた結果を示す。バッファBが複数のアルコールの混合物の場合、各アルコールの体積は、その誘電率と混合物に要求される理論的誘電率(例えば、17)の関数として、アルコールの全体の体積である600μlに基づいて計算される。例えば、ヘキサノール/エタノール混合物の場合には、以下の式が得られる。
13y+25(1−y)=17
但し、yはヘキサノールの百分率であり、13はヘキサノールの誘電率であり、25はエタノールの誘電率である。
【0047】
平均理論誘電率が15以下の場合は、相分離が観察される。
【0048】
実施例6:ウェスタン・ブロッティング法によるPrPresの検出:
プロトコル
1)ウシの脳の25%(重量/体積)ホモジネートの400mgを、25%(w/v)SDSと25%(v/v)トイーン80の等部(50/50)づつ(v/v)の混合物の400μlと、プロテアーゼK(PK:濃度−0.1mg/mlバッファA)とを含むバッファAの400μlを用いて、5分間を2回、37℃で、インキュベートする。
2)ブタノール−1−オールからなるバッファBの600μl(レーン7と8の試料についてのみバッファBの1、000μl)を、添加する。
3)この混合物を、15,000rpm(約17,000g)で、5分間、遠心分離する。
4)遠心分離によって得られる残渣を、4%のSDSを含むレムリ・バッファの100μlに取り、100℃で、5分間、加熱する。
【0049】
ウェスタン・ブロッティング法
得られた試料は、SDS−PAGEを行なうために使用され、トービン(Towbin)ら( Proc. Natl. Acad. Sci. 、USA、1979,76,4350−4354)又は C.I. ラスメサス( Lasmeszas)ら(J. Gen. Virol.、1996、前掲)によって記載された条件下で、ニトロセルロース膜に移される。
【0050】
健康なウシのホモジネートから、実施例1で記載された条件と同じ条件下で得られた負のコントロールにおいて、試料は、信号の強度の理由から、電気泳動ゲル上に置かれる前に、20分の1に希釈される[9.5mgの健康なウシの脳と0.5mgの感染したウシの脳に対応する10mg(10μl)の脳の等価物で負荷された12%ポリアクリルアミド]。
【0051】
PrPresの免疫検出を、抗血清JB007[R.デマイメイ( Demaimay)ら、J. Virol.、1997、71、12、9685−9689] (1/5000)とペルオキシダーゼに結合させた抗ウサギヤギIg(1/2500)で行なった。免疫活性は、図4に示されるように、ケミルミネッセンス[ECL,アマーシャム(Amersham)]によって検出され、定量化され、オートラジオグラフ・フィルム上に視覚化される。
【0052】
図4は、得られた結果を示し、図3Aのプロパノール/ヘキサノール曲線に対応する。
図4において、レーン1〜6は、バッファBとして異なるプロパノール/ヘキサノール混合物を使用して処理された試料に対応し、異なる平均理論誘電率に対応する。レーン8と9は、バッファBとして1000μlのブタノールを使用する方法に従った生物試料に対応する(図1の横軸上の53%)。この場合には、すべてのPrPresが最終的に界面に現れることが、観察される。レーン9と10は、バッファBとして600μlのブタノールを使用する方法に従った生物試料に対応する(図1の横軸上の43%)。この場合には、すべてのPrPresが最終的に残渣に現れることが、観察される(レーン10)が、他方、同じ条件下で処理された負のコントロールでは、如何なる信号も検出されなかった(レーン9)。
【0053】
実施例7:本発明に従って得られた試料からのPrPresのELISA法:
以下の条件下で、試料が調製される:
−実施例1に記載された条件と同じ条件下において、ウシの脳400mgの試料をすり潰し、5%グルコース溶液(1.6ml)中の濃度が20%となるように均質化する。
−こうして得られたホモジネートの500μlを、10%のサルコシルと10%のトリトンX100及びプロテナーゼK(80μg/ml)を含むバッファAの500μlを用いて、37℃で、10分間(5分間を2回行ない、その中間に攪拌を行なう)、インキュベートする。
−500μlのバッファB(ブタノール)を添加する。
−この混合物を、17,608gを適用することが可能なロータを用いて、15,000rpmで5分間、遠心分離する。20,627gで、4分間遠心分離することによっても、同じ結果が得られる。
−上澄みを捨て、PrPresを含む残渣を回収し、その残渣を、6M尿素と0.5%サルコシルを含むバッファCの100μlに、5分間、100℃において、溶解させる。
−この混合物を、17,608gを適用することが可能なロータを用いて、15,000rpmで5分間、遠心分離する。20,627gで4分間遠心分離することによっても、同じ結果が得られる。この上澄みを、EIAバッファ(0.5%デオキシコール酸塩を含む燐酸塩バッファ)を用いて、3分の1に希釈する。
【0054】
ELISA法を行なうために、得られた試料は、1ウェルあたり100μlの割合で、2ウェルずつ、第1抗PrP抗体[8G8、クレースマン(Kraseman)ら、Molecular Medicine、1996、参照]で覆われたプレート上に置かれる。インキュベーションと洗浄の後、アセチルコリンエステラーゼ[グラッシ(Grassi)ら、J. Immunol. Methods 、1989、参照]に結合させた第2抗PrP抗体(12F10、クレースマンら、1996、参照)に反応させる。アセチルコリンエステラーゼのための基質を用いてインキュベーションし、基質[エルマン(Ellmann )の試薬]の添加後、15分又は30分の時点で、415nmで、その結果を読む。
【0055】
図5に示された結果は、BSEに臨床的に冒されたウシの脳の20%(重量/体積)ホモジネートであって、健康なウシの脳の20%(重量/体積)ホモジネート中に、10分の1、100分の1、1,000分の1、及び10,000分の1に希釈されたものに関する。
【0056】
その後、試料は、前記の条件下で処理され、補足抗体としての8G8と検出抗体としての12F10とを用いたEIA法によって、検査される。
検査される試料は、EIAデポー(depot )バッファ中に希釈される(3分の1の希釈であり、因数3である)。
【0057】
図5は、得られた結果を示す(ホモジネートの最終希釈度、即ち、負のホモジネートによる希釈度xEIAバッファによる希釈度の関数としての信号の吸光度)。半対数曲線は、EIA法のすべての検定において従来観察されてきたシグモイド型を有する。また、10分の1、100分の1、1,000分の1に希釈されたホモジネートから得られた曲線に良好な重なり合いがあることが注目される。最後に、本試験の感度のレベルは、10,000分の1に希釈された陽性の脳の検出を可能にするものである。
【0058】
図6においては、100分の1に希釈された他のホモジネートが、400ng/mgの濃度のPKによる前記の処理の後に、又は、異なる濃度のPKによるホモジネートの直接的な処理の後に、EIA法によって試験された。その結果、精製されていないホモジネートのPKによる直接的な処理では、低いPK濃度(PrPcの不完全な破壊)の負のコントロールについては高い信号を示すか、または、高いPK濃度では陽性のウシについて低い信号を示すことが見出される。従って、本例は、PrPresを正しく検出しようとすれば、前記の方法でホモジネートを処理することが、必須の要件であることを示している。
【0059】
実施例8:異なるバッファCの比較:
採用された試料処理プロトコルは、実施例7のものと同じである。
図7は、得られた結果を示す。
【0060】
グアニジンが有効のように思われ、また、(尿素がELISA法についてより寛容であることから)尿素/グアニジンの組合わせが最も価値が高いように思われる。
【0061】
上記の記載から明らかなように、本発明は、本明細書中で明示的に記載された実施の態様、具体例、適用の態様に何ら限定されず、本発明の枠組み又は範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者に自明なすべての変更を包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】バッファB(ブタノール)の量の、PrPresの精製歩留まり(%)と遠心分離後に得られる残渣の量に対する影響を示す図である。
【図2】異なるバッファBの、PrPresの精製歩留まり(%)と遠心分離後に得られる残渣の量に対する影響を示すグラフである。
【図3】バッファBとして使用される異なるアルコール混合物の比較による、上記記載において定義された平均理論誘電率の役割を示す図である。
【図4】ウェスタン・ブロッティング法によってPrPresを検出する具体例を示す図である。
【図5】本発明に従う処理試料の異なる希釈物に関する、ELISA法の感度と精製歩留まりを示す図である。
【図6】ホモジネート上で直接行なわれるELISA法を示す図である。
【図7】異なるバッファCの比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物試料から異常な形態のプリオンタンパク質(PrPres)を精製する方法であって、
(1)前記生物試料を、30秒から2時間の間、80℃よりも低い温度において、該生物 試料の重量の1/4〜4倍の量で少なくとも1種類の界面活性剤を含むバッファA を用いてインキュベーションし、更にそれに先立ち、その後に、またはそれと同時 に、プロテアーゼを用いてインキュベーションすることによって、懸濁液S1を得 る工程と、
(2)かかる(1)の工程で得られた懸濁液S1に対して、相分離を生じさせるに適した 量において、前記PrPresを可溶化することなく、相分離を形成し得る、(i) ブタン−1−オール、ブタン−2−オール、2−メチルプロパン−1−オール、イ ソプロパノール、及びペンタノールからなる群より選択されたC3 〜C6 アルコー ル、又は(ii)(a)イソプロパノールとペンタノール、(b)エタノールとヘキ サノール、(c)ブタノールとペンタノール、(d)プロパノールとヘキサノール 、及び(e)プロパノールとペンタノールの各組合せからなる群より選択されたア ルコール混合物からなるバッファBを、加える工程と、
(3)該(2) の工程で得られた懸濁液を遠心分離する工程と、
(4)その界面に存在する薄膜を回収する工程と、
(5)懸濁液を形成するために、プロテアーゼを加えることなくバッファAで前記薄膜を 再可溶化させる工程と、
(6)かかる工程(5)で得られた懸濁液を遠心分離する工程と、
(7)得られた残渣を、(i)0.1%〜5%の間の濃度[バッファCの体積に基づく(w /v)]の、前記(1)で定義された界面活性剤、(ii)0.1M〜8Mの間の濃 度のカオトロピック剤、及び(iii)該(i)で定められる化合物と該(ii)で定め られる化合物との混合物からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物を含 むバッファCに、室温〜100℃の間の温度において、可溶化させる工程と、
を必須的に含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
生物試料から異常な形態のプリオンタンパク質(PrPres)を精製する方法であって、
(1)前記生物試料を、30秒から2時間の間、80℃よりも低い温度において、少なく とも1種類の界面活性剤を含むバッファAを用いてインキュベーションし、そして それに先立ち、その後に、またはそれと同時に、プロテアーゼを用いてインキュベ ーションすることによって、懸濁液S1を得る工程と、
(2)かかる(1)の工程で得られた懸濁液S1に対して、相分離を生じさせるに適した 量において、前記PrPresを可溶化することなく、相分離を形成し得る、(i) ブタン−1−オール、ブタン−2−オール、2−メチルプロパン−1−オール、イ ソプロパノール、及びペンタノールからなる群より選択されたC3 〜C6 アルコー ル、又は(ii)(a)イソプロパノールとペンタノール、(b)エタノールとヘキ サノール、(c)ブタノールとペンタノール、(d)プロパノールとヘキサノール 、及び(e)プロパノールとペンタノールの各組合せからなる群より選択されたア ルコール混合物からなるバッファBを加える工程と
(3)該(2) の工程で得られた懸濁液を遠心分離する工程と、
(4)その界面に存在する薄膜を回収する工程と、
(5)懸濁液を形成するために、プロテアーゼを加えることなく、バッファAを用いて前 記薄膜を再可溶化させる工程と、
(6)かかる工程(5)で得られた懸濁液を遠心分離する工程と、
(7)得られた残渣を、(i)0.1%〜5%の間の濃度[バッファCの体積に基づく(w /v)]の、前記(1)で定義された界面活性剤、(ii)0.1M〜8Mの間の濃 度のカオトロピック剤、及び(iii)該(i)で定められる化合物と該(ii)で定め られる化合物との混合物からなる群より選択される少なくとも1種類の化合物を含 むバッファCに、室温〜100℃の間の温度において、可溶化させる工程と、
を必須的に含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
前記生物試料が組織又は器官である場合に、かかる試料が、中性バッファと等張性バッファからなる群から選択された均質化バッファ中において、前記工程(1)の前に、均質化されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(1)のインキュベーションの時間が、30秒〜10分の間であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記バッファA及び/又は前記バッファCが、
−SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、サルコシル(ラウロイルサルコシン)、コール 酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム等の陰イオ ン性界面活性剤と、
−SB3−10(デシルスルホベタイン)、SB3−12(ドデシルスルホベタイン) 、SB3−14、SB3−16(ヘキサデシルスルホベタイン)、CHAPS、デオ キシCHAPS等の両性界面活性剤と、
−C12E8(ドデシルオクタエチレングリコール)、トリトンX100、トリトンX 114、トイーン20、トイーン80、MEGA9(ノナノイルメチルグルカミン) 、オクチルグリコシド、LDAO(ドデシルジメチルアミンオキシド)、NP40等 の非イオン性界面活性剤と、
−イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤の混合物、2種類のイオン性界面活性剤 の混合物、イオン性界面活性剤と両性界面活性剤の混合物等の界面活性剤混合物と、からなる群から選択された少なくとも1種の界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記工程(1)で採用される温度が、室温〜50℃の間の温度であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記工程(1)で採用される温度が、37℃であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(1)において、バッファA中に存在する界面活性剤の量が、前記生物試料の重量の1/4〜1.5倍の間であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記工程(7)の可溶化において、バッファCの濃度が、0.25%〜1%の間の濃度[バッファCの体積を基準にして(w/v)]であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(7)の可溶化が、80℃或いはそれ以上の温度で行なわれることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(3)と前記工程(6)の遠心分離が、2分間〜10分間、20,000g以下の速度で行なわれることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記工程(3)及び工程(6)の遠心分離が、3,500g〜17,500gの間の速度で行なわれることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記バッファCが、尿素及びグアニジン又はそれらの混合物からなる群の中から選択されたカオトロピック剤を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記バッファCにおける前記工程(7)の可溶化が、5分間〜10分間、80℃或いはそれ以上の温度で加熱し、その後、遠心分離を行なうことを特徴とする請求項1乃至13の何れか1つに記載の方法。
【請求項15】
生物試料中のPrPresを検出する方法であって、
−前記請求項1乃至14の何れか1つに従って前記試料を処理する工程と、
−得られた試料を、必要に応じて、希釈する工程と、
−前記PrPresを所定の分析法を用いて検出する工程と
を含むことを特徴とする方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−321819(P2006−321819A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231597(P2006−231597)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【分割の表示】特願2000−531471(P2000−531471)の分割
【原出願日】平成11年2月16日(1999.2.16)
【出願人】(500039360)
【Fターム(参考)】