説明

生物試料保存容器

【課題】 核酸、遺伝子、微生物、蛋白質、体液などの生物試料を常温下で安定に保存することができ、かつ、廃棄にあたって焼却処分が可能な材料で構成され、複数の収納部を持つ容器シートから任意の個数の個別容器を切り離して使用することが可能な容器を提供する。
【解決手段】 表被覆シート、生物試料収納部となる貫通口を有する紙製中シート及び裏当てシートからなる三つのシートを貼り合わせて構成されている積層シート構造体からなる生物試料保存容器であって、前記表被覆シートは前記紙製中シートの一方の面に再剥離可能に接着され、前記裏当てシートは前記紙製中シートの他方の面に永久的に接着された状態で前記貫通口を封鎖している構造を有することを特徴とする生物試料保存容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ関連産業、ライフサイエンス産業、ならびに医療産業等において、核酸、遺伝子、微生物、蛋白質、体液、組織などの生物試料の保存及び輸送に使用される容器に関する。より詳しくは、生物試料を乾燥状態及び/又は常温下で安定に保存するための容器に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸、遺伝子、微生物、蛋白質、体液、組織などの生物試料を安定に保存する方法としては、これらの物質を含む液を冷蔵もしくは冷凍する方法がある。特に、−20℃や−80℃、さらには液体窒素温度で生物試料を凍結させて保存する方法は広く行われている。これらの方法によれば試料を長期間安定に保存することが可能であるが、液体窒素温度での保管においては常に液体窒素中に試料を置く必要があるために、専用の液体窒素容器が必要であり、かつ、液体窒素の補充を行う必要がある。また、輸送に際しては、ドライアイスを添加あるいは液体窒素容器ごと輸送する必要があり、著しく利便性を欠くという問題がある。
【0003】
生物試料の中には、適当な支持体に試料液体を吸収させ乾燥させることにより、長期間安定に保存可能なものがある。特許文献1には、表裏面を貫通して形成される格納部を備える基板と、前記格納部に脱着可能な状態で収容される、微生物、又は生物分子を保存可能な可撓性の支持体と、前記格納部の開口部を覆うように前記基板の表裏面に剥離可能に貼着される第一シート及び第二シートとを備えた、微生物又は生体分子を収容可能な容器が開示されている。
【0004】
この容器は、生物試料を乾燥状態かつ常温下で保存及び輸送することが可能であるが、生物試料を吸収固定する支持体を、容器の構成部品で挟むための複雑な構造を有することを特徴とするため、基材に関する限定はないものの、実施例で、基材としてポリスチレンが使用されているように熱可塑性樹脂による製造を前提とした技術であり、紙で製造することは困難な構造である。また、生物試料は、廃棄にあたって焼却処理を行うことが望ましいが、樹脂製の容器は焼却処理に難点がある。
【0005】
また、特許文献1には、一枚の基材に複数の格納部を持つマルチウエル構造を持つことが開示されているが、個々の格納部を切り離して使用する方法については技術の開示がない。この容器にウエルの数以下の試料を収納して、輸送する場合、未使用のウエルを残したまま、輸送することになり、資源のむだや利便性の低下を招くという問題がある。特許文献1記載のものと同様に、収納部の構造が複雑で、樹脂製のスペーサー部材を使用しなければならないマルチウエルプレートは、特許文献2〜5等にも開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−325536号公報
【特許文献2】特開2005−185272号公報
【特許文献3】特開2006−42810号公報
【特許文献4】特開2008−29244号公報
【特許文献5】特開2002−199874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、核酸、遺伝子、微生物、蛋白質、体液などの生物試料を常温下で安定に保存することができ、かつ、廃棄にあたって焼却処分が可能な材料で構成されている生物試料保存容器を提供するものである。また、多数の収納部を持つ容器シートから任意の個数の容器を含む区画を切り離して使用することが可能な積層シート構造の生物試料保存容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の各技術事項から選択される事項によって構成される生物試料保存容器の発明である。
【0009】
(1)表被覆シート、生物試料収納部となる貫通口を有する紙製中シート及び裏当てシートからなる三つのシートを貼り合わせて構成されている積層シート構造体からなる生物試料保存容器。
(2)前記表被覆シートは前記紙製中シートの一方の面に再剥離可能に接着され、前記裏当てシートは前記紙製中シートの他方の面に永久的に接着された状態で前記貫通口を封鎖している構造を有する。
【0010】
(3)前記積層シート構造体は、生物試料収納部となる多数の貫通口を有する中シートを有しており、前記紙製中シートにおける1個又は複数個の貫通口をそれぞれが含む複数の区画に切り離し可能境界部を介して分割されている。
(4)前記紙製中シートの複数の貫通口内に、液体試料を吸収可能な担体材料が収納されて生物試料収納部が形成されている。
【0011】
(5)前記紙製中シートが、コッブ吸水度(JIS P 8140:接触時間1分)20g/m〜150g/mで、厚さは0.1mm〜5.0mmの紙製シートである。
(6)前記紙製中シートの層間強度(JAPAN TAPPI No.18−1)が150kPa以上である。
(7)前記積層シート構造体は、全質量の51%以上が紙成分からなる。
(8)前記表被覆シート及び/又は裏当てシートが透明な材料からなる。
【0012】
(9)前記表被覆シート及び/又は紙製中シートの外面が、油性及び/又は水性のインクによる筆記及び/又は印刷が可能な表面である。
(10)前記表被覆シートの一端側を引き剥がして前記紙製中シートの貫通口を開封した際に、剥離された表被覆シート部分を紙製中シート面上に剥離した状態にホールドするための手段を前記表被覆シートの他端側に設ける。
(11)前記剥離された表被覆シート部分を紙製中シート面上に剥離した状態にホールドするための手段が、前記他端側の表被覆シート部分に形成された折り曲げ線である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、これまでの技術では困難であった 多数の収納部を持つ容器シートから任意の個数の収納部を有する容器シート部分を切り離して使用することが可能であり、かつ、使用後は容易に焼却処分することが可能である生物試料保存容器が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の生物試料保存容器における中シートは紙製である。また、表被覆シート及び/又は裏当てシートにも紙を使用することが可能である。
紙製中シートの好適な厚さは0.1mmから5.0mmであり、0.5mmから2.0mmがより好適である。厚さが0.1mmに満たないと貫通口内の空間部が小さくなり、液体試料を十分に吸収できる収納部を形成することができない。また、厚さが5.0mmを越すと、1個もしくは複数個の貫通口(収納部)を含む区画された領域を切り離して個別に生物試料保存容器として使用するために分割することが困難になる。
【0015】
中シートに使用される紙の種類に特に限定はないが、クラフトパルプやサルファイトパルプなどの化学パルプ、グラウンドウッドやサーモメカニカルパルプなどの機械パルプ、古紙パルプ、脱墨古紙パルプ、非木材パルプなどを原料に抄造された紙及び板紙を使用することができる。これらのパルプは、必要に応じて漂白及び未漂白のものを用いることができる。また、これらのパルプを適宜配合して抄造することができる。
【0016】
紙の抄造時には、収納保存する生物試料に悪影響を与えるものでない限り、上記のパルプと共に各種の填料や薬品を添加することも差し支えない。填料としては、炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、カオリン、シリカなど通常、紙の製造に用いる填料を使用することが出来る。薬品は、サイズ剤、pH調節剤、紙力増強剤、でんぷん、硫酸ばん土などを使用することができる。
紙は、酸性、中性のいずれの抄造方法で製造したものでも使用可能であるが、保存性が優れることから中性抄紙法で抄造したものが望ましい。
【0017】
中シートには、内添サイズ処理を施すことが好ましい。適当なコッブ吸水度(JIS P 8140:接触時間1分)は20g/mから150g/mである。150g/mよりコッブ吸水度が大きいと、貫通口内収納部に配置される担体に生物試料を含む液を滴下した際に、中シートに液が浸み込み、担体から液体試料が失われてしまう。また、20g/mよりコッブ吸水度が小さいとサイズ剤が生物試料に影響を及ぼして保存性が低下する可能性がある。好適なサイズ剤はアルキルケテンダイマー(AKD)又はアルケニルコハク酸エステル(ASA)である。
【0018】
中シートの表被覆シートと接する面の表面強度はワックスピック(JAPAN TAPPI No.1)で8A以上であることが望ましい。表面強度が8Aより小さいと、表被覆シートと中シートの間で剥離と再貼着を繰り返した際に、中シートの表面が剥離してしまい、容器の密閉性が失われてしまう。
【0019】
中シートの層間強度(JAPAN TAPPI No.18−1)は150kPa以上であることが望ましい。層間強度が150kPaより小さいと、表被覆シートと中シートの間で剥離と再貼着を繰り返した際に、中シートの層間が剥離してしまい、容器の密閉性が失われてしまう。
【0020】
本発明の生物試料保存容器において、表被覆シートと中シートとの接着には、一般の粘着剤が使用できる。使用できる粘着剤としては、ゴム系、アクリル系、ホットメルト系、シリコーン系が挙げられ、剥離と再貼着が可能となるように、表被覆シートと中シートの材質に応じて適宜選択され、再剥離可能な接着強度に調整される。
【0021】
表被覆シートの材質に特に制限はないが、紙もしくはプラスチックが好適に用いられる。表被覆シートは、収納部が外から確認できるように透明性が高い材料であることが望ましい。紙としては、グラシン紙、ワックス紙、硫酸紙などが透明性が高く好適である。また、紙に樹脂などを含浸させて透明性を付与した加工紙を用いることも差し支えない。プラスチックとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのフィルムやセロファンなどが好適に用いられる。
【0022】
表被覆シートの厚さは10μmから500μmが好適である。表被覆シートの厚さが10μmに満たないと、中シートから剥離する際にシートが薄すぎてハンドリング性が悪くなる。また、表被覆シートの厚さが500μmを超えると、透明性が低下して内部の視認性が悪くなると共に、可撓性が低下してハンドリング性が悪くなる。
【0023】
裏当てシートの材質にも特に制限はなく、紙、プラスチック、あるいは金属が好適に用いられる。裏当てシートは、収納部の底を形成しており、透明もしくは不透明の材質のものを使用することができる。紙としては、グラシン紙、ワックス紙、硫酸紙、板紙など耐水性を有する紙が好適に用いられる。また、紙に樹脂などを含浸させて透明性を付与した加工紙を用いることも差し支えない。プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのフィルムやセロファンなどが好適に用いられる。プラスチックに不透明性を付与するか、もしくは着色する場合には、各種の填料や顔料が使用される。好適な填料は、二酸化チタン、カオリン、炭酸カルシウムなどである。収納部内の試料の有無を判別するためには、不透明のものが好ましい場合もある。また、白色の試料が収納部にあることを視認しやすくするために、着色された材質のものを用いることも可能である。裏当てシートの厚さに特に限定はない。
【0024】
中シートと裏当てシートの間では、再剥離操作を行わないため、両シート間の接着には永久接着剤が使用される。中シートと裏当てシート間の接着に好適な接着剤は、液状の接着剤もしくは感圧接着剤である。液状の接着剤として好適なものは、紙加工用接着剤で、通常は酢酸ビニルエマルジョン接着剤が使用される。感圧接着剤として好適なものはポリアクリル系樹脂である。
【0025】
中シートと裏当てシートは再剥離操作を行なわないので、最初から中シートとなる部分と裏当てシートとなる部分を同一紙シートから一体的に形成したものを使用することも可能である。この場合、試料を収納するための収納部は、適当な厚さの紙シートの片面側にエンボス加工又は深絞り加工によって所定深さの凹部を設ける方法や、紙シートの片面側から所定深さの凹部が形成されるように切削加工する方法などによって形成することができる。
【0026】
本発明の生物試料保存容器は、全体の質量の51%以上が紙成分であることが好ましい。紙製の部材の質量が全体の51%に満たない場合、廃棄に際して焼却処分が困難になるため、有害な廃棄物量の増加につながる。
【0027】
中シートには、試料を格納するために、貫通口をあける。多数の収納部を持つ容器シートから任意の個数の収納部を有する容器シート部分を切り離して分割利用される区画されている容器シート1個あたりの貫通口の数は一つもしくは複数で、1から50穴が好適で、6から30穴が特に好適である。穴の数が50を超えると試料容器の寸法が過大になり、取り扱いが不便になる。
【0028】
中シートにあける穴の大きさは、3mmから15mm径が望ましく、さらに望ましくは、5mmから10mm径である。穴の大きさが3mm以下であると、収納できる試料の担体が小さくなりすぎてしまい、結果として必要な量の試料が保存できない。また、15mmを超えるとハンドリング性が悪くなる。穴の形状は円形もしくは矩形が望ましい。
【0029】
本発明の多数の収納部(貫通口)を有する積層シートからなる生物試料保存容器は、中シートの貫通口からなる収納部の周囲に、表被覆シート及び裏当てシートが中シートに固定されたままの状態で該収納部を有する区画を切り離すことが可能な加工を、表被覆シート、中シート、裏当てシートにそれらを一体化した状態で施している。この加工により、複数の収納部を持つ積層シート構造体からなる生物試料保存容器から、必要に応じて、一つもしくは複数の収納部を有するシート部分を切り離して分割利用することが可能になり、使用上の利便性が向上する。
表被覆シート、中シート、裏当てシートに切り離しが可能な加工を施すには、積層シートにミシン目あるいはフルカット加工を行うことで実施することができる。
【0030】
本発明の生物試料保存容器は、多数の収納部(貫通口)を有する積層シートから分割して使用することができる区画の形状が矩形である場合、各区画は、4辺の長さの合計が100mmから800mmが好適であり、200mmから500mmがさらに好適である。4辺の長さの合計が100mmより小さいと試料の出し入れに際してハンドリング性が悪く、800mmより大きいと携帯性と収納性に劣る。
【0031】
本発明の生物試料保存容器には、核酸、遺伝子、微生物、蛋白質、体液などの生物試料を保存することができる。また、この容器は、植物の種子の保管・輸送にも使用できる。試料が水などの溶媒に分散あるいは溶解された液状である場合、担体(支持体、吸収体)に液体を吸収させ、これを乾燥させて収納することができる。担体の材質は特に限定されるものではないが、親水性で空隙を多く含む材料が好適に用いられる。このような担体材料の例としては、紙類や各種の布帛、樹脂微粒子の焼結体、無機微粒子の凝結体などがある。紙の例としては、和紙、ろ紙、吸水紙、ティッシュ、不織布などの天然の植物繊維、あるいは合成繊維を原料に製造した紙を用いることができる。また、ガラス繊維や炭素繊維などの無機繊維を原料に製造した紙を用いることも可能である。また、担体の形状は、前記貫通口からなる収納部に適合するような形状であればよい。
【0032】
担体を使用して生物試料を保存する場合、予め生物試料容器の収納部に担体を入れておき、そこに液体試料を滴下して、乾燥後、密閉保存する方法、あるいは容器外で担体に試料を滴下、乾燥させたものを生物試料容器に収納し、密閉保存する方法、のいずれをとっても差し支えない。さらに、中シートのコッブ吸水度が150g/mの上限に近い場合には、液体試料を滴下して、直ちに表被覆シートを被せて密閉することができる。保存している間に液体試料中の水分が中シートを通して試料容器の外部に放出・乾燥されることになる。
本発明の容器は、粉体、ゲル、生体組織などを担体を用いずに直接収納することも可能である。さらに、本発明の容器は、生物試料に限らず、医者から処方された薬の持ち運び用容器としても利用できる。
【0033】
本発明の生物試料容器は、微生物を通さない包装を行った後に、滅菌処理を行い、使用時まで無菌状態を保つことが可能である。プラスチック(例えば、ポリ袋)、紙、不織布などで容器を包装し、滅菌ガスや放射線などにより、滅菌することが可能である。
【0034】
本発明の生物試料容器には、試料を識別するために、表被覆シート及び/又は中シートの表面に、油性及び/又は水性のインクで筆記及び/又は印刷を施すことが可能である。中シートの表面に筆記又は印刷を施す場合、表被覆シートは透明であることが視認性の上から必要である。
同じく、試料を識別する目的で、容器にバーコードなどの識別のための符牒を印刷することも可能である。
【0035】
また、試料を識別する目的で、容器にRFID(ICタグ)を装着することが可能である。RFIDの種類に特に制限は無いが、リーダーライターとの通信に用いるアンテナをチップに内蔵するもの、あるいはチップの外部にアンテナを接続したもののいずれも使用可能である。RFIDは、紙層内に収納、シート間に収納、あるいは表面に貼り付けるなどの方法で容器に装着することが可能である。RFIDは読み取り専用のもの、あるいは読み取りと書き替えが可能なもの、のいずれも使用可能である。RFIDは、容器全体に対して1個装着することも、あるいは、個々の収納部に対応するように複数個装着することも可能である。
【実施例】
【0036】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明は図面に示されているものに限定されるものではない。
図1に本発明の生物試料容器の構成の概略を示す。図1において、表被覆シート1は、厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレートフィルムで、中シート2は、晒クラフトパルプ(BKP)100%からなる、坪量730g/mで、表面のコッブ吸水度35g/mであり、厚さ0.9mmの板紙であり、裏受けシート3は、坪量250g/mで、表面のコップ吸水度105g/mであり、厚さが0.2mmである耐酸コップ原紙からなる。
表被覆シート1、中シート2、及び裏当てシート3は、それぞれが接着剤層(図示せず)を介して積層されている。表被覆シート1と貫通口(収納部)4が形成されている中シート2の間の接着剤層は、再剥離と再貼着が可能な接着強度に調整されている。中シート2と裏当てシート3の間の接着剤層は、再剥離の必要が無く、恒久的に接着されている層である。
【0037】
図2に生物試料容器の収納部の配置を示す概略図である。図2において、収納部(貫通口)4は、図1に示す中シート2に8mm径の貫通口をあけることで形成されている。図中の破線10は、図1の積層構造体に施されているミシン目加工部であり、必要に応じて切り離すことができる部分である。図中の実線11はフルカット加工が施されている部分であり、切り離されている。また、図中の一点鎖線7は、表被覆シート1に半切りミシン目加工が施されていて、図3に示す折り曲げ線7を形成している部分である。上記ミシン目加工及びフルカット加工は、表被覆シート1、中シート2、及び裏当てシート3を積層した状態で、すべてのシートに対して行なうことができる。
【0038】
図3は生物試料保存容器の収納部を有する区画の一つを切り離した状態を示す。
表被覆シート1、中シート2及び裏当てシート3が一体化された積層シート構造体から切り離された矩形の一区画からなる生物試料保存容器Aにおいて、表被覆シート1の一部であって、貫通口(収納部)4を再剥離可能に覆っている収納部密閉用表被覆シート片5が、中シート2の面に塗られた再剥離可能な接着剤層9を介して中シート面に接着されている状態から剥離され、上方に持ち上げられ、折り曲げ線7で折り曲げられた状態にホールドされている。試料の担体8は収納部(貫通口)4に収納されていて、表被覆シート部分5で貫通口(収納部)4を覆うように再び中シート面9に貼着することで再び密封される。図3において、図2に示したように、ミシン目加工10と折り曲げ線7を施すことにより、個々の生物試料保存容器Aに持ち手部6が形成され、表被覆シートの一部5を剥離して収納部を開放した状態にホールドすることができる。このホールド機能を有することにより、5を剥離して収納部に試料を入れ、再び密閉する作業において大幅に作業性が改善される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の生物試料容器は、核酸、遺伝子、微生物、蛋白質、体液、組織などの生物試料の保存及び輸送に使用することができる。また、この容器は、植物の種子の保管・輸送にも使用できる。さらには、生物試料を乾燥状態及び又は常温下で安定に保存することができ、複数の収納部をもつ容器シートから任意の個数の個別容器を切り離して使用することができる。かつ、廃棄にあたって焼却処分が可能であり、バイオ関連産業、ライフサイエンス産業、ならびに医療産業等において、汚染防止に優れた容器である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の生物試料保存容器の積層シート構造の概略を示す図である。
【図2】分割可能な積層シート構造の生物試料保存容器の配置状態の一例を示す図である。
【図3】収納部が一箇所である生物試料保存容器の使用状態を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
A:生物試料保存容器
1:表被覆シート
2:紙製中シート
3:裏当てシート
4:収納部(貫通口)
5:収納部密閉用表被覆シート片
6:持ち手部
7:折り曲げ線(半切りミシン目加工部)
8:担体
9:再剥離性接着剤層
10:ミシン目加工部
11:フルカット加工部






































【特許請求の範囲】
【請求項1】
表被覆シート、生物試料収納部となる貫通口を有する紙製中シート及び裏当てシートからなる三つのシートを貼り合わせて構成されている積層シート構造体からなる生物試料保存容器であって、前記表被覆シートは前記紙製中シートの一方の面に再剥離可能に接着され、前記裏当てシートは前記紙製中シートの他方の面に永久的に接着された状態で前記貫通口を封鎖している構造を有することを特徴とする生物試料保存容器。
【請求項2】
前記積層シート構造体は、生物試料収納部となる多数の貫通口を有する紙製中シートを有しており、前記紙製中シートにおける1個又は複数個の貫通口をそれぞれが含む複数の区画に切り離し可能境界部を介して分割されていることを特徴とする請求項1記載の生物試料保存容器。
【請求項3】
前記紙製中シートの複数の貫通口内に、液体試料を吸収可能な担体材料が収納されて生物試料収納部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の生物試料保存容器。
【請求項4】
前記紙製中シートが、コッブ吸水度(JIS P 8140:接触時間1分)20g/m〜150g/mで、厚さは0.1mm〜5.0mmの紙製シートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生物試料保存容器。
【請求項5】
前記紙製中シートの層間強度(JAPAN TAPPI No.18−1)が150kPa以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生物試料保存容器。
【請求項6】
前記積層シート構造体は、全質量の51%以上が紙成分からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の生物試料保存用容器。
【請求項7】
前記表被覆シート及び/又は裏当てシートが透明な材料からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の生物試料保存容器。
【請求項8】
前記表被覆シート及び/又は紙製中シートの外面が、油性及び/又は水性のインクによる筆記及び/又は印刷が可能な表面であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の生物試料保存容器。
【請求項9】
前記表被覆シートの一端側を引き剥がして前記紙製中シートの貫通口を開封した際に、剥離された表被覆シート部分を紙製中シート面上に剥離した状態にホールドするための手段を前記表被覆シートの他端側に有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の生物試料保存容器。
【請求項10】
前記剥離された表被覆シート部分を紙製中シート面上に剥離した状態にホールドするための手段が、前記他端側の表被覆シート部分に形成された折り曲げ線であることを特徴とする請求項9記載の生物試料保存容器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−124806(P2010−124806A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305868(P2008−305868)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】