説明

生理学的パラメータを求めるための装置及び方法

【課題】 患者の現在の呼吸状態の影響を正しく考慮して、該患者の生理学的パラメータを求める。
【解決手段】 圧力センサにより患者(6)の血圧の測定値を提供し、測定値は時間経過に従う少なくとも1つの圧力曲線として若しくは時間に関するその派生物として記憶される。評価手段(4)は、該圧力曲線若しくは派生物から、時間経過に従う心臓活動及び/又は時間経過に従う心臓活動の変化を表す少なくとも1つの心臓活動状態変数を求め、また、時間経過に従う心臓前負荷及び/又は時間経過に従う心臓前負荷の変化を表す少なくとも1つの心臓前負荷状態変数を求める。該評価手段(4)は、複数の和の項の合計として生理学的パラメータを求めるように構成されており、前記和の項の少なくとも1つが1つの前記心臓活動状態変数の単調関数であり、かつ、前記和の項の少なくとも1つが1つの前記心臓前負荷状態変数の単調関数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の少なくとも1つの生理学的パラメータを求めるための装置に関する。特に、本発明は、患者の血圧の測定値を提供するように構成された血圧センサ装置と、前記測定値を時間経過に従う少なくとも1つの血圧曲線として若しくは時間に関するその派生物として記憶するための記憶手段と、前記血圧曲線又は前記派生物に基づき、時間経過に従う心臓活動を示す及び/又は時間経過に従う心臓活動の変化を表す少なくとも1つの心臓活動状態変数を求める評価手段とを具備し、かつ、前記評価手段が更に時間経過に従う心臓前負荷(preload)を表す及び/又は時間経過に従う心臓前負荷の変化を表す少なくとも1つの心臓前負荷状態変数を決定するように構成された、患者の少なくとも1つの生理的パラメータを求めるための装置に関する。
【0002】
更に、本発明は、患者の少なくとも1つの生理学的パラメータを求めるための方法に関し、患者の血圧の測定値を読み取り、前記測定値を時間経過に従う少なくとも1つの血圧曲線として若しくは時間に関するその派生物として記憶し、前記血圧曲線又は前記派生物に基づき、時間経過に従う心臓活動を示す及び/又は時間経過に従う心臓活動の変化を示す少なくとも1つの心臓活動状態変数を決定し、そして、時間経過に従う心臓前負荷を示す及び/又は時間経過に従う心臓前負荷の変化を示す少なくとも1つの心臓前負荷状態変数を求めることからなる。
【背景技術】
【0003】
生命体の心臓の1回拍出量と前負荷の関係を研究するために、従来より多くの異なる技術が提案されてきている。
【0004】
下記の非特許文献1及び2は、患者の容量応答性(volume responsiveness)を求めるために、1回拍出量変化(stroke volume variation: SVV)と脈拍圧変化(pulse pressure variation:PPV)をパラメータとして使用することを開示している。しかし、このアプローチは、人工呼吸で制御された患者に限られるものであり、自発呼吸する患者に適用することができない。
【0005】
自発呼吸する患者の容量応答性を算定するために、下記非特許文献3は、前負荷を変化させるために患者の脚を持ち上げることを示唆している。しかし、モニターされる患者の傷害など特定の環境に依存して、所定のやり方で患者の脚を機械的に持ち上げることは、困難なことであり、事実上不可能である。
【0006】
下記特許文献1は、気道圧又は1回呼吸量の所定の変化の1セットに応答して連続的に測定された血行動態(hemodynamic)パラメータの変化を分析する方法を開示している。この方法は、一般に呼吸心臓収縮変化テスト(RSVT)と呼ばれる。気道圧手法などに応答する血行動態パラメータの変化の分析は、心臓血管状態、とりわけ患者の容量応答性、を算定するための非侵襲的又は最小限の侵襲的な手法である。
【0007】
下記特許文献2は、心臓血管のパラメータを求めるための装置に関し、特に、患者の左心室のポンプ動作を特徴づけるパラメータの連続的決定のための装置に関し、かつ、心臓容量応答性指示値の連続的決定のための装置に関する。しかし、心臓容量応答性をも決定するためには、患者の左心室ポンプ動作の数値を知ることが前提条件となっている。更に、測定用の第3のセンサ、例えばストレインゲージが必要とされる。
【0008】
下記特許文献3は、容量応答性を特徴づけるために使用可能なパラメータを求めるための技術を説明している。その他の生理学的パラメータ(心拍出量や1回呼吸量のような)もまた(若しくは代替的に)求めることができる。心臓のFrank-Starling法則に従い、前負荷(又は血液容量)に依存した、心拍出量の典型的なグラフが示されている。このグラフの局地的なスロープに従うと、追加的な容量は、心拍出量を大きく増大させるかもしれないし、または、心拍出量をまったく増大させないかもしれない。これは、臨床実務において容量応答性を算定する際の更なる手助けになるであろう。しかし、それは、1回拍出量が増大する範囲を求めることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5769082号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0249297号明細書
【特許文献3】ヨーロッパ特許第1884189号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Frederic Michard 及び Jean-Louis Teboulの "Predicting fluid responsiveness in ICU patients", Chest 121(2002), 2000-2008頁
【非特許文献2】DA Reuter その他の "Optimizing fluid therapy in mechanically ventilated patients after cardiac surgery by on-fine monitoring of left ventricular stroke volume variations. Comparison with aortic systolic pressure variations." Br. J. Anaesth. 88 (2002), 124-126頁
【非特許文献3】Monnet, X., Rienzo, M., Osman, D., Anguel, N., Richard, C., Pinsky, M. R. 及び Teboul, J.の "Passive leg raising predicts fluid responsiveness in the critically ill", Critical care medicine, 34 (2006), 1402-7頁
【発明の概要】
【0011】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、患者の現在の呼吸状態の影響を正しく考慮することができる、最初に述べたタイプの装置を提供することを目的とする。更に、最初に述べたタイプの装置を人工呼吸の患者にも自発呼吸の患者にも同様に適用することができるようにすることを目的とする。1つの観点では、最初に述べたタイプの装置において、人工呼吸か自発呼吸かに関わらず、患者の容量応答性の算定を改善することができる生理学的パラメータを求めることができるようにすることを特定の目的とする。
【0012】
本発明の1つの観点では、上述の目的は、請求項1に従う装置によって達成される。本発明の有利な実施例は、請求項2−18のいずれかに従って構築される。
【0013】
同様に、本発明は、患者の現在の呼吸状態の影響を正しく考慮することができる、最初に述べたタイプの方法を提供することを目的とする。更に、最初に述べたタイプの方法を人工呼吸の患者にも自発呼吸の患者にも同様に適用することができるようにすることを目的とする。1つの観点では、最初に述べたタイプの方法において、人工呼吸か自発呼吸かに関わらず、患者の容量応答性の算定を改善することができる生理学的パラメータを求めることができるようにすることを特定の目的とする。
【0014】
本発明の1つの観点では、上述の目的は、請求項19に従う方法によって達成される。
【0015】
本発明は、呼吸支援された患者若しくは完全に制御された人工呼吸患者は勿論のこと、自然呼吸する生命体にも適用可能である。更に、もし容量応答性が求められたならば、脚を持ち上げる策略や液体又は薬の摂取などのような追加的な骨折りが不要であり、ここに述べるアプローチの使用により液体応答性(fluid responsiveness)を臨床実務において求めることができる。
【0016】
更に、患者に対する外科的処置や手術も不要である。また、本発明は、1回拍出量及び/又は1回拍出量の変化を予め求める必要がない。特に、本発明は、応答性及び非応答性の循環系状態との間で、特に、異なるレベルの応答性の間で、区別化した容量応答性の判定ができるようにしたものである。
【0017】
動脈圧に対応して、肺容量及び肺呼吸圧が変化する。肺の状態を特徴づけるパラメータには、中心静脈圧や1回呼吸量、更に、人工呼吸装置(人工呼吸マスク、チューブ及び伝導チューブを含む)、(胸部及び生体の)障害測定、胸部内圧及びその他の呼吸圧などのような、種々の異なるタイプがある。状態(Z1,Z2,...)の少なくとも2つの変数が、心臓の変化量(例えば動脈圧)から、更には、心臓前負荷又は呼吸によってそれぞれ影響を受けるパラメータ(例えば、中心静脈圧又は動脈圧)から、生成されねばならない。上述の状態の変数の和又は差が液体の応答性指標を表す。
【0018】
更に、状態変数は、心臓及び呼吸器の活動、従って前負荷の変化、特に、有効な力、エネルギー、パワー、を特徴づけるのに適合される。状態の変数の和/差が容量応答性を指示するものである。更に、状態の変数は、血管系及び/又は胸部系の複数の異なる特性を考慮に入れることができる。
【0019】
もし、心臓変化量及び呼吸によってそれぞれ特定されるパラメータが適切にスケール(縮尺化)されるならば、この方法は予備的な較正なしに使用できる。液体応答指標に補足して、1回拍出量の絶対値測定が較正後に行われてもよい。
【0020】
更に、測定された信号は、血管内測定に起因している必要がない。心臓特性についての及び心臓前負荷(例えば呼吸活動を伴う)についての測定された信号は、同じ種類のものであってよい。更に、本発明は、相対的な容量応答性の較正の後に1回拍出量及び心拍出量の連続的な判定ができるようにしている。心拍出量の値は、心拍数と1回拍出量の乗算の結果得られる。1回拍出量と心拍出量を判定するために、患者の体重、身長及び体表面のパラメータが、どんな較正の使用に代えて、適応に使用できる。更に、測定された数値の代わりに少なくとも第1の派生物が使用できる。心拍出量の決定に関連して、血流は下記の式(5)において特定される血圧の計算dP/dtに直接的に比例する。
【0021】
一般に、ここに述べられたどんな実施例又は選択肢でも、実際の応用条件に依存する格別の利点を持つ。更に、一実施例の特徴は、技術的に可能である限り、それに反することが明示されていないのであれば、従来技術から本質的に知られた特徴と組み合わされてよいのは勿論のこと、別の実施例の特徴とも組み合わされてよい。
【0022】
以下、本発明を詳細に説明しよう。添付の図面は、概略的な図であり、本発明の特徴をより良く理解するために用意されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】前負荷における心拍出量の典型的なグラフを示すことにより、容量応答性の概念を図説する図。
【図2】本発明の第1の実施例に従う装置の全体的構成を示す図。
【図3】本発明の第2の実施例に従う装置の全体的構成を示す図。
【図4a】呼吸サイクルに伴って変化する動脈圧力測定値の典型的なプロットを示す図。
【図4b】呼吸サイクルに伴って変化する中央静脈圧力測定値の典型的なプロットを示す図。
【図5a】対数スケールにおける動脈血圧の測定値に基づく典型的なパワースペクトルを示す図。
【図5b】リニアスケールにおける動脈血圧の測定値に基づく典型的なパワースペクトルを示す図。
【図6a】対数スケールにおける中央静脈血圧の測定値に基づく典型的なパワースペクトルを示す図。
【図6b】リニアスケールにおける中央静脈血圧の測定値に基づく典型的なパワースペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図において、同一の参照番号が対応する特徴に使用される。
図1は、前負荷(又は血液量)における1回拍出量(SV)の典型的なグラフを示すことにより、容量応答性の概念を図説する図である。1回拍出量と血液量との関係は、心臓のFrank-Starling法則に従い、図1におけるA(実線)とB(点線)の2つで図示されている。こうして、患者に依存して、1回拍出量の1つの値が前負荷の2つの異なる値に対応し得る(逆も同様)。局部的なスロープに依存して、追加の液量が大きく増加する(図中で左側の部分)、若しくは1回拍出量が増加しない(図中で右側の部分;図中で右側の部分における殆ど水平の線)。図1に概略的に示された曲線の実際の行程は特定の条件における特定の患者について予め知られていないので、容量応答性を算定するのに使用するパラメータを取得することは臨床実務において決定的になされる。心臓のFrank-Starling法則に従う1回拍出量が高くなればなるほど、その値の感度は高くなる。換言すれば、1回拍出量が高ければ、1回拍出量のわずかな変化が前負荷のかなりの変化に対応する。或る1回拍出量より上では、d preload/d SV(前負荷の変化/1回拍出量の変化)は大きく増加する。
【0025】
図2は、本発明に従う装置の全体的構成を示す。動脈カテーテル1は、動脈血圧を測定する圧力センサを備えている。カテーテル1の圧力センサは、圧力変換器2を介して、患者監視装置4の入力チャンネル3に接続される。圧力信号を得るために使用される近位端ポート7に加えて、カテーテル1は、血液温度測定やその他の追加の機能を実行するためにその他の1以上の近位端ポート8を具備していてよい。患者監視装置4は、以下に述べるように種々の血行動態パラメータを求め、かつ、求めたパラメータを(数値又はグラフ又はその両方で)表示器5で表示するようにプログラムされている。この目的のために、患者監視装置4は、周辺機器を接続するための種々のインタフェースポートを具備していてよい。
【0026】
ここに述べる第1の実施例は、単一の動脈圧力センサのみを必要とする。このセンサは侵襲的であるように示されているが、非侵襲的な血圧センサをその代わりに用いてもよい。
【0027】
図3は、更に本発明の第2の実施例に従う装置の全体的構成を示すもので、2つの圧力センサが使用されている。上記第1の実施例に関連して説明されたような動脈圧測定に加えて、中央静脈カテーテル14内の圧力センサを使用して中央静脈圧CVPが測定される。中央静脈カテーテル14内の圧力センサは、圧力変換器10を介して、患者監視装置4の第2の入力チャンネル11に接続される。圧力信号を得るために使用される近位端ポート12に加えて、カテーテル14は、血液温度測定や注入その他の追加の機能を実行するためにその他の1以上の近位端ポート13を具備していてよい。中央静脈カテーテル14に代えて、肺動脈カテーテル(図示せず)を使用し、肺動脈圧の測定値を提供するようにしてもよい。概して、種々の測定箇所が第1及び第2の圧力測定値を提供するために適している。このシステムの最良の実施は、図3に示すような2つの侵襲的な圧力センサによって実現される。
【0028】
上述のとおり、侵襲的な圧力センサを様々に実装することが特に有利である。圧力は、液圧式に近位端カテーテルポートに伝達されて外部センサによって測定されてもよいし、あるいはカテーテルの先端にあるいはその近傍に装着されたセンサを使用してその場で直接的に測定されるようにしてもよい。静電容量センサ、ピエゾセンサ若しくは光学式センサ(例えばFabry-Perot干渉計)などを使用してよい。
【0029】
本発明の好ましい実施例において、上記第1の実施例で述べたように、少なくとも1つのセンサが非侵襲的なものであってもよい。
【0030】
上述したように、患者6において、心臓、血管及び肺の容量は互いに作用し合っている。特に、心臓の前負荷は、呼吸作用(自発的又は人工的呼吸のいずれでも)によって占められる容量に影響される。呼吸サイクルの循環のために、血圧及び血流の変調が生ずる。図4aは、呼吸サイクルに伴って時間的に変化する動脈圧力測定値の典型的なプロットにおける、この変調を示す。そのような変調は、図4bのように、中央静脈血圧又は1回拍出量においても観察される。
【0031】
患者監視装置4は、入力チャンネル3を通して読み込まれた圧力測定値を、時間経過に伴う血圧曲線として、一時的に記憶する。心拍数及び呼吸サイクルが周波数で異なるので、血圧曲線上の呼吸作用の影響は、心臓活動から分離することができる。こうして、患者監視装置4は、圧力信号から心拍数及び呼吸サイクルを判定することができる。
【0032】
一般に、容量応答性(volume-responsiveness)の判定は、生命体特に人間の特定の治療制御に導く。それは更に、患者に対する供給容量又は派生容量のどちらかを決定することに関係することになる。これらの容量の処置は、例えば、生理的食塩溶液、結晶又はコロイド液(例えばHES)、あるいは血液ボトル又はその他の液体の供給を用いて、緊急治療室、手術室、外科手術中など、多様な臨床現場の条件に従って、実行される。人工呼吸の次に、患者は、また、人工呼吸によらずに吸排気されていてもよい。動脈及び静脈の圧力[mm Hg]は20秒間の時間経過にわたって示されている。
【0033】
現今の最新の臨床実務の方法は、総合的に呼吸制御された患者に使用されるのに限られている。その方法の基礎となるものは、肺容量と心臓拡張容量は供給された同じ胸部容量を持つだけであるから、人工呼吸装置の呼吸圧及び同時的な心臓拡張容量の損失の結果としての肺容量のゲインである。図4a,4bに示されるように、機械的な呼吸の間中、肺内に空気を吸入するとき、1回拍出量はなくなる。従って、動脈拍圧と1回拍出量は、呼吸サイクルの間、変化する(図4a)。
【0034】
これに対応する変調は中央静脈の血圧又は1回拍出量においても観察される(図4b)。
【0035】
図5a,5bは、1分当たり105拍の心拍数での、対数スケール及びリニアスケールにおける動脈血圧の測定値に基づく典型的なパワースペクトルをそれぞれ示す。図6a,6bは、1分当たり22呼吸数(呼吸レート)での、対数スケール及びリニアスケールにおける中央静脈血圧の測定値に基づく典型的なパワースペクトルをそれぞれ示す図。
【0036】
圧力PAは、大動脈又は中央動脈において連続的に測定される。その結果である中間の血圧MAD及びその分散(標準偏差の2乗)σA2が更に計算される。更に、内部胸郭又は中央静脈の圧力CVPが測定される。その結果であるσCVP2が更に計算される。
【0037】
心臓状態は、MADとσA2を使用して、和(sum)Zk=a・MAD+b・σA2+...によって特徴づけられる。文字a,bは(そしてc,...,fも)、任意の正又は負の値である。
【0038】
呼吸状態は、σCVP2を使用して、和(sum)Zr=c・σCVP2+...によって特徴づけられる。更に該式中右辺の第1項はPA及び結果として生じる変数に由来するデータを持つかもしれない。
【0039】
それから、パラメータは、上記和から、かつ、差から、それぞれ発展され、下記のような相対的な心拍出量を示す。
相対的な心拍出量=e・Zk−f・Zr−.....(1)
【0040】
最も単純なアプローチの変形例において、肺血管系の影響(例えばコンプライアンス)と患者の身長、体重、表面積が適切な縮尺(スケール)を使用して除去されるようにしてよい。こうして、異なる患者間の相対的な心拍出量は、患者の体内の引き延ばされた時間にわたって互いに比較されるのと同様に、互いに比較されもする。特に、心臓活動を特徴付けるのに適したパラメータ(例えばMADとσA2)が、割算によってスケール(縮尺)されることができる。
【0041】
相対的な心拍出量は、更に、現在の1回拍出量が達成可能な最大の1回拍出量に比べてどのようなサイズを持つかを表明するであろう。正確なやり方で生理学的関係を再現するために、相対的な心拍出量は限界づけられるべきであり、そして更に状態又はそれらの和も同様である。
【0042】
シグモイド関数(sigmoid function)α(Z)は、生理学的関係を再現するために、下記のような極限としてふるまう。
【数1】

【0043】
時間的な平均値の次に、分散(標準偏差の2乗)及び更なる積算と積率(moment)及び変換されたパラメータもまた、その状態を特徴づけるために関係している。特に、患者監視装置4は、記憶した圧力曲線に対してフーリエ変換を行うために、高速フーリエ変換手段(FFT)9を有利に含んでいる。圧力のフーリエ変換
【数2】

がパワースペクトルSp(ω) と同様に更に関係しており、すなわちそれもまたFFTによって決定される自己相関関数のフーリエ変換であり、更なる評価のために、各周波数f=ω/2πの寄与を決定するために使用される。そのパワースペクトルすなわち自己相関関数のフーリエ変換器がその他の中から可能性を申し出て、相関する呼吸数(rate)及び呼吸数の倍数から、心拍数及び心拍数の倍数(2・HR,3・HR...)を持つ心臓活動に対応する信号の一部を分離する。
【0044】
特に、患者監視装置4は、圧力信号のスペクトル密度において、呼吸数及びその高次高調波のマグニチュードを決定し、それは呼吸パワースペクトルを導出する。同様に、心臓パワースペクトルは、心拍数及びその高次高調波でのスペクトル密度における振幅値から決定される。
【0045】
全周波数領域にわたるスペクトル密度の積分により、呼吸作用に対応する呼吸パワーと心臓活動に対応する心臓パワーの判定ができる。しかし、一部の周波数領域のみにわたる積分でも、多くの場合、十分な近似をもたらし、若しくは結果の品質を向上させさえする。積分は適切な範囲にわたって行われるべきである一方で、いくつかの周波数は信号混乱を減少若しくは除去するために抑制されるようにしてよい。
【0046】
図5a,5bに関して、心拍数(HR)及びその倍数に対するスペクトルパワーは上記パワースペクトルから得られるであろう。(*)でマークしたピークは、S・(2π・HR)=SP・(2π・HR)である。(+)でマークしたピークは、k∈{2,3,4,5,6}として、S=(2π・k・HR),SP=2π・k・HRである。更に、呼吸数(RR)及びその倍数すなわちS・(2π・RR)やS・(2π・2・RR)その他、特定のピークの領域及び幅、スペクトルのベースでの及びピークの先端にわたるスロープ、及びω_>0についての特定のスペクトルに対するスペクトルパワーは、上記パワースペクトルから得られるであろう。
【0047】
こうして、上述した状態のパラメータは下記のように特徴づけられる。
心臓状態は、適切な和Zk=a・σA2+b・σA2/MAD+c・S・(2π・k・HR)+...によって記述される。必要な成分は、σA2及びσA2/MADと、スペクトルS・(2π・k・HR)+...の少なくとも1つの成分である。ただし、kは適宜の数であり、k∈{0,1,2,3,...}である。
【0048】
図6a,6bに従う1回拍出量の変形は、概して、適切な和Zr=d・S・(2π・l・RR)+...によって記述される。よって、必要な成分は、スペクトルd・S・(2π・l・RR)+...の成分である。ただし、lは適宜の数であり、l∈{0,1,2,3,...}である。更に、式中の第1項は、PA及び結果として導き出された変数に由来するデータをも持つかもしれない。(*)でマークしたピークは、S・(2π・RR)=SCVP・(2π・RR)である。(+)でマークしたピークは、l=2,3として、S・(2π・l・RR)=SCVP・(2π・l・RR)である。
【0049】
こうして決定された呼吸と心臓のパワースペクトル値は、関心事である血行動態パラメータを算出し且つ求められたパラメータを表示器5で表示するために、患者監視装置4によって使用されることができる。
【0050】
従って、それから、パラメータは和と差のそれぞれから発展され、相対的な心拍出量を表わす。すなわち、
相対的な心拍出量=g・α(Zk)−h・α(Zr)−... (3)
【0051】
こうして、下記式のような液体応答性指標FRIの式を結果として生じる。
FRI=g・tanh(Zk)−h・tanh(Zr)+... (4)
ここで、Zkは好ましくはσA,SP,Sdp/dt,MADの関数であり、Zrは好ましくはσA,SCVP,Sdp/dt,CVPの関数である。
【0052】
前述の通り、図2は本発明の装置の全体構成を示し、動脈カテーテル1が動脈血圧を測定する圧力センサを具備している。図2に対して、図3は第2の実施例に従う装置の全体構成を示し、2つの圧力センサが使用される。第1のセンサは動脈圧測定用であり、第2のセンサは中央静脈圧測定用である。
【0053】
変化する肺容量及び肺内の呼吸圧は、図4a,4bに示すように、動脈圧と中央静脈圧の両方に影響する。上述したように、呼吸状態を特徴づけるために複数種類のパラメータがある。状態の少なくとも2つの変数(Z1,Z2,...)が、心臓の変化(例えば動脈圧)から、及び更なるパラメータ(例えば中央静脈圧又は動脈圧)から生成される。該パラメータは、心臓の前負荷の遷移(シフト)によって、又は呼吸によって、それぞれ影響される。液体応答性(fluid responsiveness)の指標は、それから、上述した状態変数の和(加算)及び/又は差(減算)によって表される。
【0054】
特に、図3に従う患者監視装置4は、圧力信号のスペクトル密度において、呼吸数及びその高次高調波についてのマグニチュードを決定し、呼吸パワースペクトルを導き出す。心臓パワースペクトルは、心拍数及びその高次高調波でのスペクトル密度における振幅値から決定される。
【0055】
患者監視装置4は、図3に従って、中央静脈の圧力信号から呼吸サイクルを決定する。高速フーリエ変換器9を使用して、患者監視装置4は、図6a,6bに従って、スペクトル密度を判定する。既に述べたように、スペクトル密度において、呼吸数及びその高次高調波についてのマグニチュードが決定され、呼吸パワースペクトルが導き出され、従って、呼吸パワーが導き出される。
【0056】
最後に、呼吸及び心臓パワーの比が、第1の実施例に関連して上述したように、容量応答性(volume responsiveness)の尺度として提供される。第2の実施例は、上記式(1)及び(3)に示すように、相対的な心拍出量のより精密な値を導き出す。更に、上記式(4)及びそれに続く式に示すように液体応答性(fluid responsiveness)の指標のより精密な値を得ることができる。
【0057】
液体応答性(fluid responsiveness)の指標FRIを求めることの代替として、若しくは追加として、1回拍出量予備指標(stroke volume reserve index)SVRIが求められるようにしてもよく、それは、SVRI=1−FRIと定義される。なお、前負荷の状態変数としては、中央静脈圧、動脈楔入圧、全体的拡張末期容量、肺毛細血管楔入圧、又は動脈圧などがある。
【符号の説明】
【0058】
1 動脈カテーテル
2 圧力変換器
3 入力チャンネル
4 患者監視装置
5 表示器
6 患者
7、8 近位端ポート
9 高速フーリエ変換器
10 圧力変換器
11 入力チャンネル
12、13 近位端ポート
14 中央静脈カテーテル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者(6)の少なくとも1つの生理学的パラメータを求める装置であって、
患者(6)の血圧の測定値を提供するように構成された圧力センサ装置と、
前記測定値を、時間経過に従う少なくとも1つの圧力曲線として若しくは時間に関するその派生物として記憶するための記憶手段と、
前記圧力曲線若しくは前記派生物から、時間経過に従う心臓活動及び/又は時間経過に従う心臓活動の変化を表す少なくとも1つの心臓活動状態変数を求めるように構成された評価手段(4)とを具備し、ここで、前記評価手段(4)は、更に、時間経過に従う心臓前負荷及び/又は時間経過に従う心臓前負荷の変化を表す少なくとも1つの心臓前負荷状態変数を求めるように構成されており、
前記評価手段(4)が、複数の和の項の合計として前記生理学的パラメータを求めるように構成されており、前記和の項の少なくとも1つが1つの前記心臓活動状態変数の単調関数であり、かつ、前記和の項の少なくとも1つが1つの前記心臓前負荷状態変数の単調関数であることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記時間経過に従う心臓前負荷の変化は、患者(6)の自発的呼吸状態又は機械的呼吸状態若しくは補助された呼吸状態の間で検出される該患者(6)の吸気と呼気から結果的に生じる心臓前負荷の変化である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記心臓活動状態変数の前記単調関数は、或る実数と前記心臓活動状態変数の積である、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記心臓活動状態変数の前記単調関数は、或る実数と前記心臓活動状態変数の正規化関数の積である、請求項1乃至3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記正規化関数はシグモイド関数である、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記心臓前負荷状態変数の前記単調関数は、或る実数と前記心臓前負荷状態変数の積である、請求項1乃至5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記心臓前負荷状態変数の前記単調関数は、或る実数と前記心臓前負荷状態変数の正規化関数の積である、請求項1乃至5のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記正規化関数はシグモイド関数である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記評価手段(4)は、更に、前記圧力曲線若しくは前記派生物から、少なくとも1つの心臓前負荷状態変数を求めるように構成されている、請求項1乃至8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
追加の測定値を提供する追加のセンサ装置を更に具備する、請求項1乃至9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記追加の測定値は、心臓前負荷に相関しており、前記記憶手段は、時間経過に従う前記追加の測定値の進展又は時間に関するその派生物を記憶するように構成されており、前記評価手段(4)は、更に、前記進展又はその派生物から少なくとも1つの心臓前負荷を求めるように構成されている、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記追加の測定値は、少なくとも心臓活動状態変数に相関している、請求項10又は11に記載の装置。
【請求項13】
前記前負荷状態変数は、中央静脈圧、動脈楔入圧、全体的拡張末期容量、肺毛細血管楔入圧、又は動脈圧である、請求項1乃至12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記追加のセンサ装置は、追加の圧力センサ装置である、請求項10に記載の装置。
【請求項15】
前記追加の圧力センサ装置は、中央静脈圧を測定するように構成されている、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記圧力センサ装置は、動脈圧を測定するように構成されている、請求項1乃至15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
前記圧力センサ装置は、非侵襲的測定に適するように構成されている、請求項1乃至16のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
前記少なくとも1つの生理学的パラメータは、1回拍出量予備又は液体応答性の指標を含む、請求項1乃至17のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
患者(6)の少なくとも1つの生理学的パラメータを求める方法であって、
患者(6)の血圧の測定値を読み取ることと、
前記測定値を、時間経過に従う少なくとも1つの圧力曲線として若しくは時間に関するその派生物として記憶することと、
前記圧力曲線若しくは前記派生物から、時間経過に従う心臓活動及び/又は時間経過に従う心臓活動の変化を表す少なくとも1つの心臓活動状態変数を求めることと、
時間経過に従う心臓前負荷及び/又は時間経過に従う心臓前負荷の変化を表す少なくとも1つの心臓前負荷状態変数を求めることと
を具備し、前記生理学的パラメータが複数の和の項の合計として求められ、前記和項の少なくとも1つが1つの前記心臓活動状態変数の単調関数であり、かつ、前記和の項の少なくとも1つが1つの前記心臓前負荷状態変数の単調関数であることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【公開番号】特開2010−119854(P2010−119854A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264282(P2009−264282)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(500180813)プウルジョン メデカル システムズ アクチエンゲゼルシャフト (14)
【氏名又は名称原語表記】PULSION Medical Systems AG
【Fターム(参考)】