説明

生理活性物質水溶液の安定化剤及び生理活性物質水溶液

【課題】水溶液中の生理活性物質の失活を抑制し、生理活性物質の水溶液を長期的に安定化させることができ、かつ診断薬等に使用しても非特異反応が起きず十分な感度が得られる生理活性物質水溶液の安定化剤を提供すること。
【解決手段】生理活性物質及び水を含んでなる生理活性物質水溶液を保存する際に生理活性物質が変質することを防止するための安定化剤であって、α位のアミノ基が変性されたアルギニンエステル及び/又はこの塩並びにカチオン性高分子(A)を含有することを特徴とする生理活性物質水溶液の安定化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液に含まれる生理活性物質水溶液の安定化剤に関する。さらに詳しくは、酵素、組み換えタンパク質、抗体、ペプチド等の生理活性物質を含有する水溶液に含まれる生理活性物質の安定化剤及びこの安定化剤を共存させる生理活性物質水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素、抗体、ペプチド等のタンパク質は、診断・検査薬、医薬品として広く利用されており、これらの製品においては、製造工程及び保存期間中にタンパク質の生理活性(力価)が損なわれないことが重要である。
生理活性が安定なタンパク質を得るための一つの方法として、凍結乾燥が一般的に行われている。タンパク質の多くは熱によって失活しやすい性質を有するが、凍結乾燥法では、熱をかけずにタンパク質を精製し、安定なタンパク質を得ることができる。
しかしながら、凍結乾燥法は、脱水により変性するタンパク質には使用できないこと、凍結乾燥工程中に吸湿や酸化による変質が起こりやすいこと等の難点がある。また、凍結乾燥製剤は使用時に溶解液に溶解して用いられるため、凍結乾燥製剤と溶解液とを組み合わせて供給される場合、試薬を使用する際に、その都度、凍結乾燥製剤を溶解液に溶解し、必要量の試薬を調製しなければならないという煩雑さの問題がある。
このような理由からタンパク質を水溶液として安定化させる技術が開発されている。安定化させる技術として、たとえば、ウレアーゼ、パーオキシターゼの水溶液の安定化剤として、グリセリン等の多価アルコールを含有させたり(たとえば、特許文献1)、コレステロールオキシターゼを含む水溶液に、牛血清アルブミンやグルコース等の糖類あるいはリジン等のアミノ酸を添加する(たとえば、特許文献2)等が挙げられる。
しかし、これらはいずれも特定のタンパク質を安定化させるための方法であり汎用性があるとは言いがたく、タンパク質全般に適用して活性を長期間維持できる汎用的な安定化剤及び安定化方法はない。
さらに、これらの安定化剤を共存させたタンパク質溶液を診断薬用途に使用した場合、非特異反応が起こり十分な感度が得られないといった課題がある。
【0003】
【特許文献1】特開平6−70798公報
【特許文献2】特開平8−187095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、水溶液中のタンパク質の失活を抑制し、タンパク質の水溶液を長期的に安定化させることができ、かつ診断薬等に使用しても非特異反応が起きず十分な感度が得られるタンパク質水溶液の安定化剤を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、生理活性物質及び水を含んでなる生理活性物質水溶液を保存する際に生理活性物質が変質することを防止するための安定化剤であって、α位のアミノ基が変性されたアルギニンエステル及び/又はこの塩並びにカチオン性高分子(A)を含有することを特徴とする生理活性物質水溶液の安定化剤;この安定化剤と生理活性物質及び水を含む生理活性物質水溶液である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の生理活性物質水溶液の安定化剤は、水溶液中の生理活性物質を安定化し生理活性が低下しない。また、非特異反応を抑制することができるので、診断薬等に使用した際に十分な感度が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の生理活性物質水溶液の安定化剤は、生理活性物質を含む水溶液を製品化あるいは保存する過程において使用するものであり、α位のアミノ基が変性されたアルギニンエステル及び/又はこの塩並びにカチオン性高分子(A)を含有する。
【0008】
生理活性物質としては限定されないが、酵素、組み換えタンパク質、抗体及びペプチド等が含まれる。
【0009】
酵素としては、酸化還元酵素(コレステロールオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ等)、加水分解酵素(リゾチーム、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ及びグルコアミラーゼ等)、異性化酵素(グルコースイソメラーゼ等)、転移酵素(アシルトランスフェラーゼ及びスルホトランスフェラーゼ等)、合成酵素(脂肪酸シンターゼ、リン酸シンターゼ及びクエン酸シンターゼ等)及び脱離酵素(ペクチンリアーゼ等)等が挙げられる。
【0010】
組み換えタンパク質としては、タンパク製剤{インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1〜12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G−CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン及びカルシトニン等}及びワクチン(A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン及びC型肝炎ワクチン等)等が挙げられる。
【0011】
抗体としては、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体等が挙げられる。
【0012】
ペプチドとしては、特にアミノ酸組成を限定するものではなく、ジペプチド及びトリペプチド等が挙げられる。
【0013】
これらの生理活性物質のうち、生理活性維持の観点から、酵素及び組み換えタンパク質が好ましく、さらに好ましくは酵素、特に好ましくは酸化還元酵素及び加水分解酵素、最も好ましくは酸化還元酵素である。
また、これらの生理活性物質は、2種以上を併用してもよい。
【0014】
水としては、特に限定されない。水の電気伝導率(μS/cm;25℃)は、安全性の観点から、0.055〜1が好ましく、さらに好ましくは0.056〜0.1、特に好ましくは0.057〜0.08である。このような電気伝導率が小さい水としては、イオン交換水等が使用できる。
【0015】
本発明の安定化剤の第一の成分はα位のアミノ基が変性されたアルギニンエステルである。α位のアミノ基を変性することは、実施可能なpH領域が広がる点や、生理活性物質の活性を維持する上で有用である。
α位が変性されたアミノ基としては、アシルアミノ基、アルキルアミノ基等が挙げられ、安定化剤の毒性の観点から、一般式(1)で表されるアシルアミノ基が好ましい。
【0016】
−NHCOR (1)
【0017】
一般式(1)中、Rは水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜21の1価の炭化水素基を表す。
Rとして具体的に、水素原子、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ペンチル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、ヘプタデセニル基及びヘンイコシル基等)、アリール基(フェニル基、メトキシフェニル基及びメチルフェニル基等)が挙げられる。これらのうち、水溶性及び安定化剤の毒性の観点から、メチル基及びエチル基が好ましく、さらに好ましくはメチル基である。
【0018】
アルギニンエステルとしては、アルキル(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ラウリル、パルミチル、ステアリル、オレイル及びベヘニル等)エステル、アリール(フェニル、メトキシフェニル、ベンジル及びメチルフェニル等)エステル及び多価アルコール(グリセリン、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール及びトレハロース等)とのモノエステル等が挙げられる。これらのうち、生理活性維持の観点から、アルキルエステルが好ましく、さらに好ましくはメチルエステル及びエチルエステル、特に好ましくはエチルエステルである。
【0019】
α位のアミノ基が変性されたアルギニンエステルは、1種のみを使用してもよく、2種以上の混合物を使用してもよい。
【0020】
本発明においてアルギニンエステルは、このアルギニンエステルの塩であってもよい。たとえば、アルギニンエステルの塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、またはクエン酸塩、乳酸塩等の有機酸塩であっても良い。
【0021】
本発明の安定化剤の第二の成分はカチオン性高分子(A)である。本発明におけるカチオン性高分子(A)とは、分子内にカチオン性官能基を持つ高分子を指し、数平均分子量が2,000〜50,000のものが好ましく、非特異反応低減の観点から5,000〜30,000がさらに好ましい。カチオン性官能基は分子内の主鎖にあっても側鎖にあっても良い。
このようなカチオン性高分子として、カチオン化ポリエチレングリコール、カチオン化ポリアクリル酸及びカチオン化メタアクリル酸の数平均分子量がそれぞれ5,000〜30,000のものが挙げられ、安全性の観点からカチオン化ポリエチレングリコールの数平均分子量が5,000〜30,000のものが好ましい。
【0022】
カチオン化ポリエチレングリコールとしては、ポリエチレングリコールアミノ酸モノエステル、ポリエチレングリコールアミノ酸ジエステル及びポリエチレングリコールアミノアルキルエーテル等が挙げられる。
【0023】
ポリエチレングリコールアミノ酸モノエステル又はジエステルは、ポリエチレングリコールの水酸基の1つ又は2つをアミノ酸でエステル化した構造の化合物である。
これらは、ポリエチレングリコールとアミノ酸を酸触媒下でエステル化することで容易に得られる。
ポリエチレングリコールとしては、非特異反応抑制の観点から、数平均分子量が1,500〜49,000のものが好ましく、4,000〜29,000のものがさらに好ましい。
アミノ酸として特に限定するものではないが、アルギニン、リシン及びヒスチジン等の塩基性アミノ酸が非特異反応抑制の観点で好ましい。
【0024】
ポリエチレングリコールアミノアルキルエーテルは、ポリエチレングリコールの水酸基の1つ又は2つをアミノアルキルエーテルとした構造の化合物であり、ポリエチレングリコールモノアミノアルキルエーテル及びポリエチレングリコールジアミノアルキルエーテルが含まれる。
アミノアルキルとしては、1級アミノアルキル(アミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル、アミノブチル等)、2級アミノアルキル(メチルアミノメチル、メチルアミノエチル、メチルアミノプロピル、メチルアミノブチル、エチルアミノメチル、エチルアミノエチル、ヒドロキシメチルアミノメチル、ヒドロキシメチルアミノエチル、ヒドロキシエチルアミノメチル、ヒドロキシアミノエチル等)、3級アミノアルキル(ジメチルアミノメチル、ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノプロピル、ジメチルアミノブチル、ジエチルアミノメチル、ジエチルアミノエチル、メチルエチルアミノメチル、メチルエチルアミノエチル等)が含まれる。
【0025】
ポリエチレングリコールアミノアルキルエーテルは、ポリエチレングリコールとアミノアルキルハライドをアルカリ性条件下反応させる方法で、容易に得ることができる。
ポリエチレングリコールとしては、前記と同様のものが好ましい。
【0026】
アミノアルキルハライドとしては、炭素数が1〜10のアミノアルキルハライド及び炭素数が2〜10のアミノジアルキルハライドが好ましく、さらに好ましくは炭素数が2〜10のアミノジアルキルハライドであり、具体的には、ジエチルアミノエチルクロリド、ジエチルアミノエチルブロミド、ジエチルアミノメチルクロリド、ジエチルアミノメチルブロミド、ジメチルアミノエチルクロリド、ジメチルアミノエチルブロミド、ジメチルアミノメチルクロリド及びジメチルアミノメチルブロミド等が挙げられ、入手しやすさの観点でジエチルアミノエチルクロリドが好ましい。
【0027】
カチオン性高分子は、1種のみを使用してもよく、2種以上の混合物を使用してもよい。
【0028】
本発明の安定化剤において、α位のアミノ基が変性されたアルギニンエステル及びその塩の含有量(重量%)は、生理活性物質の安定性維持の観点から、アルギニンエステル及びその塩並びにカチオン高分子(A)の合計重量を基準として、0.3〜0.99が好ましく、さらに好ましくは0.4〜0.99、次にさらに好ましくは0.5〜0.99である。
【0029】
また、α位のアミノ基が変性されたアルギニンエステル及びその塩の使用量(重量%)は、生理活性の維持の観点から、生理活性物質水溶液(生理活性物質、水及び安定化剤の混合溶液)の重量を基準として、0.01〜20が好ましく、さらに好ましくは0.1〜15、次にさらに好ましくは0.5〜10である。
【0030】
本発明の安定化剤において、カチオン性高分子(A)の含有量(重量%)は、生理活性物質の安定性維持の観点から、アルギニンエステル及びその塩並びにカチオン高分子(A)の合計重量を基準として、0.01〜0.7が好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.6、次にさらに好ましくは0.01〜0.5である。
【0031】
また、カチオン性高分子(A)の使用量(重量%)は、非特異反応抑制の観点から、生理活性物質水溶液(生理活性物質、水及び安定化剤)の重量を基準として、0.01〜3が好ましく、さらに好ましくは0.03〜1、次にさらに好ましくは0.05〜0.5である。
【0032】
本発明の安定化剤中の、α位のアミノ基が変性されたアルギニンエステル及びその塩とカチオン性高分子(A)との重量比(アルギニンエステル及びその塩の重量/カチオン性高分子の重量)は、生理活性物質の安定性及び非特異反応の少なさの観点から、0.1〜400が好ましく、さらに好ましくは0.5〜200、最も好ましくは1〜100である。
【0033】
本発明の安定化剤には、水及び/又は水性溶媒を含んでもよい。水性溶媒としては、緩衝液(リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液及び硼酸緩衝液等)及び水混和性有機溶剤(メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド及びジメチルフォルムアミド等)等が挙げられる。
【0034】
安定化剤中に水及び/又は水性溶媒を含む場合、その含有量(重量%)は、ハンドリング性の観点から、アルギニンエステル及びその塩、カチオン高分子(A)、水及び水性溶媒の合計重量を基準として60〜99.9が好ましく、さらに好ましくは70〜99.0、次にさらに好ましくは79〜98.0である。
【0035】
安定化剤中に水性溶媒を含む場合の使用量は、生理活性の維持の観点から、生理活性物質、水及び安定化剤を合わせた重量100部に対して0〜10重量部が好ましく、さらに好ましくは0〜5重量部である。
【0036】
本発明の安定化剤は、α位のアミノ基が変性されたアルギニンエステル及び/又はその塩とカチオン性高分子(A)、並びに必要により水及び/又は水性溶媒とを均一混合することにより容易に得られる。
α位のアミノ基が変性されたアルギニンエステル又はその塩とカチオン性高分子、並びに必要により水及び/又は水性溶媒とを均一混合する方法としては、特に限定されないが、容易かつ短時間で均一に混合できるという観点等から、アルギニンエステル及び/又はその塩と、必要により添加する水及び/又は水性溶媒を混合した後、カチオン性高分子を混合する方法が好ましい。このとき、カチオン性高分子が水溶液であると、さらに混合性が優れる。
均一混合する際の温度及び時間には制限はなく、製造する規模や設備等に応じて適宜決めることができ、例えば、製造規模が数kg程度の場合、5〜40℃で0.1〜5時間程度が好ましい。
【0037】
混合装置としては、撹拌機又は分散機等が使用できる。
撹拌機としては、メカニカルスターラー及びマグネチックスターラー等が含まれる。
分散機としては、ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル及びビーズミル等が含まれる。
【0038】
本発明の安定化剤は、生理活性物質水溶液を製品化あるいは保存する際に使用するものであり、公知(特開平8−187095号公報等)の安定化方法において、公知の安定化剤に代えて使用する方法等で使用できる。
【0039】
本発明の別の実施態様は、上記の安定化剤、生理活性物質及び水を含む生理活性物質水溶液である。
【0040】
本発明の生理活性物質水溶液において、アルギニンエステル及び/又はその塩の含有量(重量%)は、生理活性物質の重量に基づいて、0.1〜1,000が好ましく、さらに好ましくは0.3〜500、次に好ましくは0.5〜100、特に好ましくは0.5〜20、最も好ましくは0.5〜10である。この範囲であると、生理活性(力価)の保持率がさらに良好となる。
【0041】
本発明の生理活性物質水溶液において、カチオン性高分子(A)の含有量(重量%)は、生理活性物質の重量に基づいて、0.01〜10が好ましく、さらに好ましくは0.02〜5、次に好ましくは0.03〜3、特に好ましくは0.04〜1、最も好ましくは0.05〜0.5である。この範囲であると、非特異反応の少なさがさらに良好となる。
【0042】
本発明の生理活性物質水溶液において、生理活性物質の含有量(重量%)は生理活性物質水溶液の重量の合計に基づいて、使用しやすさの観点から、0.01〜20が好ましく、さらに好ましくは0.05〜10、次に好ましくは0.1〜5、最も好ましくは0.2〜3である。
【0043】
本発明の生理活性物質水溶液には、緩衝剤、無機塩、キレート剤、界面活性剤及び公知の安定化剤を含んでも良い。
緩衝剤としては、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、及びHEPES緩衝液等が挙げられる。
無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム及び酢酸アンモニウム等が挙げられる。
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等が挙げられる。
界面活性剤としては、ソルビタンモノアルキルエステルエチレンオキサイド付加物及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。
公知の安定化剤としては、牛血清アルブミン(BSA)、グルコース、リシン及びシルクプロテイン等が挙げられる。
【0044】
緩衝剤の含有量(重量%)は生理活性物質、アルギニンエステル及びその塩、カチオン性高分子及び水の合計重量に基づき、生理活性物質水溶液の安定性を向上させる観点から0〜5が好ましい。
無機塩の含有量(重量%)は生理活性物質、アルギニンエステル及びその塩、カチオン性高分子及び水の合計重量に基づき、生理活性物質水溶液の安定性を向上させる観点から0〜10が好ましい。
キレート剤の含有量(重量%)は生理活性物質、アルギニンエステル及びその塩、カチオン性高分子及び水の合計重量に基づき、生理活性物質水溶液の安定性を向上させる観点から0〜1が好ましい。
界面活性剤の含有量(重量%)は生理活性物質、アルギニンエステル及びその塩、カチオン性高分子及び水の合計重量に基づき、生理活性物質水溶液の安定性を向上させる観点から0〜5が好ましい。
公知の安定化剤の含有量(重量%)は生理活性物質、アルギニンエステル及びその塩、カチオン性高分子及び水の合計重量に基づき、生理活性物質水溶液の安定性を向上させる観点から0〜10が好ましい。
【0045】
本発明の安定化剤と、生理活性物質、添加剤及び水は、製品化あるいは保存する直前に均一混合してもよいし、それより前の工程で均一混合してもよい。
【0046】
混合の条件(温度等)は制限がないが、公知(特開平8−187095号公報等)の方法が利用できる。
【0047】
本発明の生理活性物質水溶液の製造例を以下に説明するが、安定化剤をそのまま、あるいは水に溶かして生理活性物質水溶液に加えてもよいし、生理活性物質を安定化剤水溶液に加えてもよいし、生理活性物質と安定化剤と水を一緒に混ぜてもよい。
分離精製工程で分離された酵素の安定化水溶液を作成する場合の一例を以下に挙げる。
1.安定化剤を水に加え、水溶液を作製する。
2.分離精製後の酵素水溶液を上記水溶液に加える。
3.常温もしくは冷蔵庫で密封保存する。
【0048】
本発明の生理活性物質水溶液は、アルギニンエステル及び/又はその塩とカチオン性高分子(A)とを安定化剤として同時に加えても、別々に加えてもいずれでも良い。作業性の観点から、同時に加えることが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により、本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部を意味し、%は重量%を意味する。
【0050】
<製造例1>
N−α−アセチルアルギニン(エムピーバイオジャパン社製)12.6部(0.05モル部)、メタンスルホン酸1部及びエタノール92部(2モル部)を均一混合し、80℃で5時間還流しながら加熱撹拌し、エバポレーターで濃縮後、水から再結晶し、減圧乾燥(60℃、20Pa)して、{N−α−アセチルアルギニンエチルエステル}(1)を得た。
【0051】
<製造例2>
製造例1において、エタノール92部(2モル部)をメタノール64部(2モル部)に変更する以外は製造例1と同様におこない、{N−α−アセチルアルギニンメチルエステル}(2)を得た。
【0052】
<製造例3>
ポリエチレングリコール(数平均分子量10,000)10部をアセトン100部に溶解させ、メタンスルホン酸1部及びアルギニン10部を混合し、80℃で還流しながら3時間加熱撹拌した。その後吸引ろ過を行ない、ろ液にイオン水を加えて均一にかき混ぜた。この水溶液を透析チューブ(和光純薬工業製、ダイアライシス20)に注ぎ2時間透析し、透析チューブ内の水溶液をエバポレーターで処理して水を留去し、ポリエチレングリコールアルギニンジエステル(3)を得た。
【0053】
<製造例4>
ポリエチレングリコールモノメトキシレート(数平均分子量210,000)10部をアセトン100部に溶解させ、メタンスルホン酸1部及びアルギニン10部を混合し、80℃で還流しながら3時間加熱撹拌した。その後吸引ろ過を行ない、10%塩酸水溶液を5部加えて1時間撹拌し、その後、透析チューブ(和光純薬工業製、ダイアライシス20)に注ぎ、2時間透析した。透析チューブ内の水溶液をエバポレーターで処理して水を留去し、ポリエチレングリコールアルギニンモノエステル(4)を得た。
【0054】
<製造例5>
ポリエチレングリコール(分子量30,000)10gをイオン交換水200gに溶解させ、ジエチルアミノエチルクロライド(和光純薬製)10gを加え、60℃で3時間加熱撹拌した。その後、透析チューブ(和光純薬工業製、ダイアライシス20)に注ぎ、2時間透析し、透析チューブ内の水溶液をエバポレーターで処理し水を留去し、ポリエチレングリコールビス(ジエチルアミノエチル)エーテル(6)を得た。
【0055】
<実施例1〜9、比較例1〜5>
200mLのガラス製ビーカーに、アルギニンエステルを表1記載の量(g)、カチオン性高分子(A)を表1記載の量(g)、公知の安定化剤を表1記載の量(g)及びイオン交換水を表1記載の量(g)秤取し、十分に撹拌混合し、実施例1〜9及び比較例1〜5の安定化剤を得た。
【0056】
【表1】

【0057】
<実施例10〜18、比較例6〜10>
実施例1〜9及び比較例1〜5の安定化剤10mlに、20mg/mlコレステロールオキシターゼ(和光純薬製、20,000U/mg)水溶液10mlを添加し、20℃でマグネチックスターラーを用いて撹拌溶解させて実施例10〜18及び比較例6〜10の生理活性物質水溶液を調整した。これらの生理活性物質水溶液について、下記の方法でタンパク質の安定性及び非特異反応の起こりにくさを評価した結果を表2に示す。
【0058】
<タンパク質の安定性>
上記生理活性物質水溶液を4℃と37℃の恒温槽でそれぞれ1ヶ月間保存した後、コレステロールオキシターゼの安定性(%)を下記の方法で測定した。
コール酸ナトリウム78mg(0.18ミリモル、60ミリモル/L)、ノニルフェノールエチレンオキシド付加物{ユニオンカーバイドアンドプラスチック社製、商品名:トライトンX−100}9mg(0.3重量%)、アミノアンチピリン0.85mg(0.004ミリモル、1.4ミリモル/L)、フェノール5.9mg(0.063ミリモル、21ミリモル/L)、ペルオキシダーゼ{東洋紡社製}15units(5units/ml)、コレステロール1.0mg(0.0027ミリモル、0.9ミリモル/L)及び50ミリモル/Lのリン酸緩衝液(pH7.0)3mLを均一混合して、基質溶液を調製した。なお、カッコ内に記載した濃度は、リン酸緩衝液に対する濃度を表す。
ついで、4℃で保存した酵素水溶液10μlを基質溶液3mlに加えて、測定液を得た。直ちに、この測定液について、30℃で分光光度計(島津製作所、UV−2550)で500nmにおける吸光度(B40)を測定し、さらに30℃で5分間後にもう一度、30℃で吸光度(B45)を測定し、これらの差(B45−B40)(ΔB4)を算出した。
同様に37℃で保存した酵素水溶液も吸光度を測定し、(B375−B370)(ΔB37)を算出した。
コレステロールオキシターゼの安定性(%)を下記の式で計算した。
コレステロールオキシターゼの安定性(%)=100×(ΔB37)/(ΔB4
【0059】
タンパク質の安定性は、下記の基準で評価した。結果を表2に示す。
5:コレステロールオキシターゼの安定性が80以上
4:コレステロールオキシターゼの安定性が60以上80未満
3:コレステロールオキシターゼの安定性が40以上60未満
2:コレステロールオキシターゼの安定性が20以上40未満
1:コレステロールオキシターゼの安定性が20未満
【0060】
<非特異反応の起こりにくさ>
上記調製した生理活性物質水溶液について、生理活性物質水溶液を調整後、直ちに、上記と同様の方法で吸光度を測定し、測定直後の吸光度(B’0)と5分後の吸光度(B’5)から、(B’5−B’0)(ΔB’)を算出した。
一方、10mg/mlコレステロールオキシターゼ(和光純薬製、20,000U/mg)水溶液10mlを調製し、この安定化剤を含まない酵素溶液について、調整後直ちに上記と同様の方法で吸光度を測定した。測定直後の吸光度(B’’0)と5分後の吸光度(B’’5)から、(B’’5−B’’0)(ΔB’’)を算出した。
非特異反応の起こりにくさは以下の式で計算した。
非特異反応の起こりにくさ= (ΔB’)/(ΔB’’)×100
【0061】
非特異反応の起こりにくさは、下記の基準で評価した。結果を表2に示す。
5:非特異反応の起こりにくさが90以上
4:非特異反応の起こりにくさが80以上90未満
3:非特異反応の起こりにくさが70以上80未満
2:非特異反応の起こりにくさが60以上70未満
1:非特異反応の起こりにくさが60未満
【0062】
【表2】

【0063】
表2から、比較の安定化剤はタンパク質の安定性が低く、37℃で保存すると酵素活性が著しく低下する。また、非特異反応を抑えることが十分でない。一方、本発明の安定化剤はタンパク質の安定性に優れ、37℃で保存しても酵素活性の低下を抑制することができる。また、非特異反応を抑えることもできている。このことはアルギニンエステルとカチオン性高分子を併用して初めて得られたことであり、単独の使用では得ることのできない結果である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の生理活性物質の安定化剤は、タンパク質などの生理活性物質の水溶液を保存する過程において使用することができる。生理活性物質としては、酵素、組み換えタンパク質、抗体及びペプチドが挙げられる。また、本発明の生理活性物質溶液は、保存時に活性の低下が少なく、かつ非特異反応を抑えることができるため、特に診断薬等の医療の分野で使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性物質及び水を含んでなる生理活性物質水溶液を保存する際に生理活性物質が変質することを防止するための安定化剤であって、α位のアミノ基が変性されたアルギニンエステル及び/又はこの塩並びにカチオン性高分子(A)を含有することを特徴とする生理活性物質水溶液の安定化剤。
【請求項2】
生理活性物質が、酵素、組み換えタンパク質、抗体及びペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の生理活性物質水溶液の安定化剤。
【請求項3】
変性されたアミノ基が、一般式(1)で表されるアシルアミノ基である請求項1又は2に記載の生理活性物質水溶液の安定化剤。
−NHCOR (1)
[式中、Rは水素原子又はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜21の1価の炭化水素基を表す。]
【請求項4】
生理活性物質、水及び請求項1〜3のいずれかに記載の安定化剤を含んでなる生理活性物質水溶液。

【公開番号】特開2009−235034(P2009−235034A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85983(P2008−85983)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】