説明

生細胞の観察装置および生細胞の観察方法

【課題】生細胞の動態を、該生細胞の光毒性による影響を低減したまま観察および記録し得る装置および方法を提供すること。
【解決手段】本発明の装置は、ステージ上に配置された試料である生細胞の動態を、該生細胞の光毒性による影響を低減したまま観察するための装置である。この装置は、光源部と;該光源部から発せられた照射光を、該試料に対して間欠的に照射するための照射光制御手段と;該試料からの物体光が入射する対物レンズとを備え、該照射光が、350nmから700nmの波長領域において、2μW/cmから90μW/cmの放射強度を有し、350nm未満の波長領域が光学的にカットされている光である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生細胞の観察装置および生細胞の観察方法に関する。より詳細には、本発明は、生細胞の動態を、該生細胞の光毒性による影響を低減したまま観察し得る装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米国を中心としたヒトゲノムプロジェクトの成功によりヒトのゲノムが解析され、その明らかとなった遺伝情報をもとに医学・薬学を中心とした分野での応用研究が盛んになっている。さらに、ライフサイエンス分野においては、研究対象の中心はこれまでゲノムであったが、現在では最終生産物であるタンパク質の機能解析へとシフトしつつある。
【0003】
細胞内機能タンパク質の局在・動態を可視化して解析するには、従来さまざまな方法が用いられている。生きたままの細胞を用いてその内部構造の動態を観察することは困難であったが、近年、クラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)、そのシアン色変異体(CFP)やサンゴ由来の赤色蛍光タンパク質(DsRed)を用いた生体成分標識技術が開発され、コンピュータを用いた画像解析技術と相まって、「細胞内の特定の構造を任意の色に染め分け、しかも生きたままその動態を経時的に観察する」ことが可能となっている。GFPに代表される蛍光タンパク質を解析したい機能タンパク質のタグ分子として用いれば、細胞を固定化・透過化する必要がないので、細胞内の構造を保持したまま、生きている細胞内での機能タンパク質の局在・動態を蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡などを用いて解析することが可能となる。さらに、この方法には、特定の機能タンパク質の局在と動態、すなわち細胞内局在などの空間的情報と経時的情報が同時に得られるというこれまでの手法にはないメリットもあり、タンパク質の機能解析手法の一つとして大きな期待が寄せられている。
【0004】
細胞内機能タンパク質の局在・動態を詳細に解析するためには、観察装置(代表的には、顕微鏡)の観察ステージ上で生きたままの細胞を正常な状態のまま長時間にわたり保持しつつ、高倍率のレンズを用いて観察するシステムを構築する必要がある。しかし、従来の顕微鏡システムでは、試料細胞の損傷が大きく、顕微鏡システム内において試料細胞を正常な状態で長時間保持することが困難である。
【0005】
【特許文献1】特開2004−187530号公報
【特許文献2】特開平8−43741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、生細胞の動態を、該生細胞の光毒性による影響を低減したまま観察し得る装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の装置は、ステージ上に配置された試料である生細胞の動態を、該生細胞の光毒性による影響を低減したまま観察するための装置である。この装置は、光源部と;該光源部から発せられた照射光を、該試料に対して間欠的に照射するための照射光制御手段と;該試料からの物体光が入射する対物レンズと、を備え、該照射光が、350nmから700nmの波長領域において、2μW/cmから90μW/cmの放射強度を有し、350nm未満の波長領域が光学的にカットされている光である。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記装置は、上記対物レンズからの上記物体光を電子画像に変換するための撮像素子をさらに備える。好ましい実施形態においては、上記装置は、上記電子画像を記録するための画像記録手段をさらに備える。
【0009】
好ましい実施形態においては、上記対物レンズは、上記ステージを介して上記試料に対向配置されている。好ましい実施形態においては、上記対物レンズは油浸レンズである。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記照射光制御手段は、上記光源部から発せられた照射光を分光するための分光手段を備える。
【0011】
好ましい実施形態においては、上記分光手段は、光学フィルターおよび液晶チューナブルフィルターからなる群から選択される。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記装置は、前記対物レンズと前記撮像素子との間に配置され、該対物レンズからの上記物体光を分光するための分光手段をさらに備える。好ましい実施形態においては、上記分光手段は、光学フィルター、液晶チューナブルフィルターおよびフォトマルチメータからなる群から選択される。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記光源部はハロゲンランプである。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記ステージおよび上記対物レンズは、相対的に移動可能である。
【0015】
本発明の別の局面によれば、生細胞の動態を観察するための方法が提供される。この方法は、生細胞に蛍光色素分子を導入して試料細胞を調製すること;該試料細胞に、350nmから700nmの波長領域において2μW/cmから90μW/cmの放射強度を有し、350nm未満の波長領域が光学的にカットされている光を間欠的に照射すること;および、該試料細胞からの物体光を、対物レンズを通して電子画像として記録することを含む。
【0016】
好ましい実施形態においては、上記試料細胞に導入された蛍光色素分子は少なくとも3種の蛍光(E、E、・・・E)を発する色素分子であり、かつ、上記光の間欠的な照射は、該試料細胞に該少なくとも3種の蛍光に対応して励起する光(Ex、Ex、・・・Ex)を1つの組み合わせとした連続照射とその後の該連続照射の中断とで構成されるサイクルの繰り返しによって行われる。
【0017】
好ましい実施形態においては、上記サイクルの繰り返しは、上記連続照射の中断に連動した上記対物レンズの焦点位置の移動と共に行われる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生細胞試料を照射する照射光として、特定の放射強度を有し且つ特定の波長領域が光学的にカットされている光を用い、かつ、このような照射光を間欠的に照射することにより、該生細胞の光毒性による影響を低減したまま観察することができる。適切なエネルギー量を有する光を、目的に応じて適切に照射時間を制御しながら照射することにより、生細胞にダメージを与えるような照射量のしきい値より低い照射量を維持しながら長時間の照射が可能になると推察される。このような効果は、特定の光源と特定の照射光制御手段とを有する装置を実際に作製し、特定の照射光と特定の照射スキームとを用いて実際に生細胞を動的に観察することにより初めて得られた知見であり、予期せぬ優れた効果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態による生細胞の観察装置(本明細書においては、観察装置または単に装置と称することもある)について説明する。本明細書において「観察」とは、(1)看者が視覚を通じて直接的に対象物の状態を把握すること、(2)対象物の状態を記録手段および/または記録媒体に電子情報として保存(記録)すること、および(3)看者が記録手段および/または記録媒体に記録された電子情報を通じて間接的に対象物の状態を把握すること、を包含する。
【0020】
図1は、本発明の好ましい実施形態による観察装置を説明する模式図である。観察装置100は、照明光(励起光)を発生する光源部10と;光源部10から発せられた照射光を、試料20に対して間欠的に照射するための照射光制御手段30と;試料20からの物体光が入射する対物レンズ40とを備える。必要に応じて、観察装置100は、対物レンズ40からの物体光を電子画像に変換するための撮像素子50と;電子画像を記録するための画像記録手段60とをさらに備える。
【0021】
光源部10は、ハウジング11と、ハウジング11内に収納された光源12とを含む。本発明においては、光源部は、350nmから700nmの波長領域において2μW/cmから90μW/cmの放射強度を有し、特定の波長領域が光学的にカットされている光を発生させる。すなわち、本発明においては、光源部10は、1つの例としては、350nm未満の波長領域が光学的にカットされており、別の例としては、200nm以上350nm未満の波長領域が光学的にカットされている。本明細書において「光学的にカットする」とは、光を、波長領域ごとに、特定の透過率をもって透過する領域と当該透過領域と比較して透過率が劣る領域(非透過領域)とに分離することをいう。本発明においては、当該透過領域の平均透過率は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上である。さらに、当該非透過領域の平均透過率は、上記透過領域の平均透過率に対して、好ましくは1千万分の1から10億分の1であり、さらに好ましくは5千万分の1から1億分の1である。なお、本発明においては、観察時に無用なエネルギーを提供して生細胞そのものの活性を低下させないようにする観点から、光源部から発せられる光のうち、長波長側の波長領域もまた光学的にカットされていることがさらに好ましい。カットされ得る長波長側の波長領域は、好ましくは700nm〜1200nmである。本発明においては、光学的にカットされた光を得るためにバンドパスフィルタを使用することが好ましい。
【0022】
本発明において、上記光源部10から発せられる光の300nm以下の波長領域における放射強度は、目的、照射する細胞の種類、照射光制御手段、照射光の種類(例えば、照射光の波長領域)等に応じて変化し得る。放射強度は、1つの実施形態においては、420nmから450nmの照射光では好ましくは3μW/cmから12μW/cmであり、470nmから510nmの照射光では好ましくは15μW/cmから88μW/cmであり、570nmから600nmの照射光では好ましくは30μW/cmから85μW/cmである。別の実施形態においては、放射強度は、420nmから450nmの照射光では好ましくは3μW/cmから12μW/cmであり、470nmから500nmの照射光では好ましくは15μW/cmから60μW/cmであり、480nmから510nmの照射光では好ましくは22μW/cmから88μW/cmであり、570nmから600nmの照射光では好ましくは30μW/cmから85μW/cmである。このような光で試料(生細胞)を照射することにより、試料に与えるダメージを顕著に減少させることができる。その結果、生細胞の光毒性による影響を低減したまま観察および記録することができる。言い換えれば、生きた細胞を実質的に正常な状態のまま長時間にわたって観察することが可能となる。
【0023】
1つの実施形態においては、光源12自体が、上記のような放射強度を有する照明光を発生する(図1は、この実施形態を例示している)。このような光源の具体例としては、ハロゲンランプが挙げられる。別の実施形態においては、適切な光学フィルターを組み合わせて用いることにより、光源自体が所望の照明光を発生しない場合であっても、光源部10全体として上記のような放射強度を有する照明光を発生させることができる。この実施形態における光源の具体例としては、超高圧水銀ランプ、水銀ランプ、水銀キセノンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプが挙げられる。光学フィルターとしては、光源の種類に応じて任意の適切な光学フィルターが採用され得る。
【0024】
光源部10から出力された光13は、照射光制御手段30に入る。照射光制御手段30は、代表的には、シャッター31を含む。シャッター31は、その開閉がコンピューター(図示せず)により制御され、照射光の間欠的な照射が可能となる。例えば試料20が生細胞である場合には、シャッター31は、試料細胞20を照射光によって実質的に損傷せず、かつ、試料細胞20の分裂を動的に観察可能となるように、開放(照射)/遮断の切り替えが制御される。開放/遮断の制御形態(照射スキームとも称する)は、観察対象となる試料細胞の性質(例えば、光感受性、細胞分裂速度、大きさ)に応じて変化し得る。1つの実施形態においては、試料の観察は、一定時間の観察(試料への光照射)と一定時間休むこと(試料への光照射の中断)とを1つのサイクルとし、これを繰り返すことにより行われる。1サイクルに要する時間は、好ましくは2秒間〜10分間である。上記1サイクルのうち試料への光照射を中断する時間は、好ましくは1サイクルに要する時間の70%〜99%であり、より好ましくは80%〜90%である。1サイクルに要する時間をこのような範囲とし、かつ、1サイクル中の光照射時間と光照射の中断時間とを上記範囲の割合に設定することにより、照射光による試料細胞の損傷がさらに顕著に抑制され、かつ、試料のさらに適切な観察が可能となる。したがって、シャッター31は、上記のような好ましいサイクルが実現されるようにして、間欠的に(すなわち、適切な時間間隔をもって)開放/遮断が制御される。上記のような好ましいサイクルであれば、当該サイクルを繰り返すことにより、好ましくは5分間〜5日間、さらに好ましくは2時間〜2日にわたって試料の動的な観察が可能となる。なお、1サイクルの時間が短すぎると、結果として、観察のための一連操作における当該サイクルの繰り返し全体を通じた光照射の中断時間の合計(休止時間の合計)が短すぎることとなり、生細胞が損傷し、細胞分裂が停止してしまう場合が多い。例えば、連続的に(すなわち、休止時間なしで)光を照射すると、生細胞の種類によっては約5分で細胞分裂が停止してしまう場合がある。1サイクルの時間が長すぎると、結果として、観察のための一連操作における当該サイクルの繰り返し全体を通じた光照射の中断時間(休止時間)を確保して生細胞の損傷の抑制が期待できるものの、分裂速度の速い生細胞の観察などでは観察の適切なタイミングを逸してしまい、細胞分裂の各ステージを適切に観察できない場合がある。
【0025】
1つの実施形態においては、照射光制御手段30は、照射光を分光するための分光手段32を備える。分光手段32は、試料細胞に導入された蛍光色素分子の励起に必要とされる波長の光を抽出するために使用される。したがって、分光手段32としては、試料に導入された蛍光色素分子(代表的には、試料細胞に導入された蛍光蛋白質)の種類に応じて任意の適切な光学フィルター(例えば、バンドパスフィルター)または液晶チューナブルフィルターが採用され得る。1つの実施形態においては、分光手段32は、少なくとも3種の蛍光(E、E、・・・E)を発する蛍光色素分子を励起する光(Ex、Ex、・・・Ex)を、これらを1つの組み合わせとして順に抽出(連続照射)するよう構成される。例えば、赤色(570nm〜600nm)、緑色(470nm〜510nm)および青色(420nm〜450nm)の励起光を抽出する3種類のバンドパスフィルターを1つの組み合わせとしてフィルターホイールに組み込み、当該ホイールを所定の時間かけて1回転させることにより、赤色、緑色および青色の蛍光蛋白質を励起する光を順に抽出して試料細胞に連続照射し、かつ、その後照射光制御手段30を制御すること(例えば、シャッター31の遮断)により、当該連続照射を中断することができる。これにより、上記1サイクルを提供し、このような構成を通じて少なくとも3種の励起光を適切な間欠(すなわち休止時間)をもって繰り返し抽出することができる。このような構成によれば、照射光(励起光)による試料細胞の損傷が適切に抑えられ得る。なお、抽出すべき励起光の波長(色)は上記の赤色、緑色および青色に限定されず、目的に応じて任意の適切な波長の光が抽出され得る。抽出すべき励起光の数(種類)もまた、目的に応じて任意の適切な数(種類)が採用され得る。1つの実施形態においては、試料細胞に下記の蛍光蛋白質が導入され、分光手段32は、これらの3種の蛋白質を励起する光を抽出する:
赤色蛍光蛋白質(インポーチン、ヒストンH3、チューブリンなどの目的蛋白質を標識し得、かつ570nm〜700nmの蛍光極大波長を有するものであって、例えば、DsRed2、HcRed1、mPlum、mCherryなどの商品名で販売されている蛋白質);
緑色、黄色または橙色蛍光蛋白質(オーロラA、オーロラB、チューブリン、NF−κB、ラミンB2、CENPなどの目的蛋白質を標識し得、かつ500nm〜570nmの蛍光極大波長を有するものであって、例えば、EGFP、AcGFP1、EYFP、Venus、mOrange、mKO、mBananaなどの商品名で販売されている蛋白質);
青色蛍光蛋白質(インポーチン、ヒストンH2B、ヒストンH3、ラミンB2などの目的蛋白質を標識し得、かつ440nm〜500nmの蛍光極大波長を有するものであって、例えば、ECFP(EGFPのシアン色変異体)、AmCyan1などの商品名で販売されている蛋白質)。
【0026】
1つの実施形態においては、照射光制御手段30と試料20との間にダイクロイックミラー70が配置され得る。ダイクロイックミラー70は、励起フィルター32を通過した光(特定波長の励起光)を試料20に導き、かつ、試料からの光(物体光)を撮像素子50に導く。図示例においては、ダイクロイックミラー70は、励起フィルター32を通過した光(特定波長の励起光)を反射して進行方向を上方(試料方向)へ変更する。図示した形態においては、代表的には、ダイクロイックミラー70は、入射光(励起フィルターを通過した光)に対して45°の角度で配置される。ダイクロイックミラー70で反射された光は試料20に導かれ、当該試料を照射する。試料が照射されると、当該試料中に導入された所定の色の蛍光色素分子(代表的には、蛍光蛋白質)が励起され、蛍光が発せられる。試料から発せられた光(物体光)は、ダイクロイックミラー70を透過し、必要に応じて配置された分光手段80を通過して撮像素子50または観察者に向かう(詳細は後述する)。
【0027】
試料20が分裂可能な細胞である場合には、試料20は、代表的にはシャーレ21内に配置される。シャーレ21は、任意の適切な固定手段(図示せず)によりステージ22上の適切な位置に固定される。固定手段は、シャーレの上面および底面の中央部の開放を維持し、対物レンズ40の移動に伴うシャーレ(試料)の移動を防止し、かつ、対物レンズ40とシャーレ21との接触によるシャーレ(試料)の移動を防止し得るものであることが好ましい。このような固定手段の具体例としては、シャーレ21の外側面を挟み込むような固定具が挙げられる。
【0028】
好ましくは、上記観察装置100は、試料20を配置したステージ22を上下に移動させる手段23をさらに備える。このような上下移動手段を設けることにより、試料の3次元画像を取得することができる。さらに、試料が分裂可能な細胞である場合には、細胞分裂に伴う形態変化により対物レンズの焦点がずれた場合でも、そのずれを解消することが可能となる。ステージの上下移動は、できるかぎり微細に制御されることが好ましい。ステージの上下移動を微細に制御することにより、より精細な3次元画像を取得することができる。試料20が分裂可能な細胞である場合には、ステージ22の上下移動は、例えば0.5〜2μmのスケールで制御され得る。上下移動手段23の具体例としては、Z軸モーターが挙げられる。なお、本発明においては、試料20と対物レンズ40が相対的に移動可能であればよい。すなわち、3次元画像の取得および焦点のずれの解消が可能である限り、ステージが移動してもよく、対物レンズが移動してもよく、その両方が移動してもよい。
【0029】
好ましくは、試料20は、培養環境下に置かれる。言い換えれば、上記観察・記録装置100は、試料20およびステージ22を収容する培養チャンバー24をさらに備える。培養チャンバー24は、温度制御手段、湿度制御手段、炭酸ガス導入手段および炭酸ガス濃度制御手段(いずれも図示せず)を有する。これらは、業界における任意の適切な手段が採用され得る。1つの実施形態においては、培養チャンバー24の温度は好ましくは30℃〜42℃である。
【0030】
対物レンズ40は、ステージ22を介して試料20の下方に対向配置され、該試料からの物体光41が入射する。対物レンズ40は、代表的にはリボルバーに支持され、倍率の異なるレンズに切り替え可能な構成とされている。対物レンズ40は、好ましくは油浸レンズである。油浸レンズを用いる場合、高倍率のものを使用することが好ましく、60倍〜100倍の倍率を有する油浸レンズを使用することがさらに好ましい。また、油浸レンズに使用されるレンズの開口数は好ましくは1.2〜1.5である。油浸レンズに使用される液浸油(immersion oil)は、無蛍光かつ高屈折率のものが好ましい。液浸油の屈折率は、より好ましくは1.3〜1.6であり、さらに好ましくは1.4〜1.55である。このような屈折率を満足する液浸油は、例えばCargille Type DFという商品名でカーギル社より市販されている。油浸レンズを用いることにより、高分解能かつ高精度の生体試料観察が可能となる。対物レンズ40は、図1に示すように試料の下方に対向配置されてもよく、図2に示すように撮像素子50の上流に直線上に配置されてもよい。
【0031】
上記で簡単に説明したように、対物レンズ40を通して拡大された試料からの物体光41は、ダイクロイックミラー70を透過し、必要に応じて配置された分光手段(代表的には、吸収フィルター)80を通って撮像素子50または観察者に向かう。分光手段80は、物体光のみを透過し、その他の漏れ光の透過を阻止する機能を有する。分光手段80は、代表的には、物体光の進行方向から若干傾けて設置される。その結果、より良好な画像が得られ得る。分光手段80の具体例としては、光学フィルター(例えば、バンドパスフィルター、吸収フィルター)、液晶チューナブルフィルターおよびフォトマルチメータが挙げられる。撮像素子50は、物体光から画像データを入手し、電子画像に変換する。撮像素子50は、代表的にはCCDカメラである。撮像素子50で得られた電子画像は、任意の適切な画像記録手段(図示せず)に記録される。1つの実施形態においては、画像データの取得および解析は、市販のソフトウェアを用いて行うことができる。
【0032】
次に、このような観察装置を用いた生細胞の観察方法の一例について説明する。この方法は、生細胞に蛍光色素分子(例えば、蛍光蛋白質、蛍光標識試薬)を導入して試料細胞を調製すること;該試料細胞に、350nmから700nmの波長領域において2μW/cmから90μW/cmの放射強度を有し、350nm未満の波長領域が光学的にカットされている光を間欠的に照射すること;および、該試料細胞からの物体光を対物レンズを通して電子画像として記録することを含む。
【0033】
1つの実施形態においては、細胞分裂の状況を反映する細胞構造(例えば、核/染色体、核膜、中心体/紡錘体)を構成する蛋白質の遺伝子の3種以上と、それぞれ種類の異なる蛍光蛋白質の遺伝子とを融合して得られた3種以上の融合遺伝子を、宿主細胞に導入することにより、可視化細胞(試料細胞)を調製する。蛍光蛋白質の具体例としては、上記のとおり、赤色蛍光蛋白質(DsRed:例えばサンゴ由来のインポーチン)、緑色蛍光蛋白質(GFP:例えばクラゲ由来のオーロラA)および青色蛍光蛋白質(CFP:例えばGFPのシアン色変異体)が挙げられる。可視化細胞の調製方法については、特開2004−187530号公報に詳細が記載されている。
【0034】
得られた可視化細胞(試料細胞)を含むシャーレを、上記記録・観察装置のステージに配置する。好ましくは、シャーレ(試料細胞)は、所定の温度等が設定された培養チャンバー内に配置され得る。
【0035】
ステージに配置された試料細胞に照射光(励起光)を照射し、蛍光を発生させる。上記の通り、照射光は、350nmから700nmの波長領域において2μW/cmから90μW/cmの放射強度を有し、350nm未満の波長領域が光学的にカットされている。本発明においては、照射光(励起光)は間欠的に照射される。間欠的に照射することにより、試料細胞の損傷が防止され得る。間欠照射の照射スキームは、試料細胞の種類に応じて変化し得る。好ましくは、上記間欠的な照射は、生きた細胞を実質的に正常な状態のまま長時間かつ動的に観察可能なように制御される。具体的な照射スキームは、照射光制御手段に関して上記で説明したとおりである。
【0036】
好ましくは、上記照射は、蛍光色素分子として、少なくとも3種の蛍光(E、E、・・・E)を発する蛍光色素分子を導入し、該少なくとも3種の蛍光に対して励起する光(Ex、Ex、・・・Ex)を1つの組み合わせとして試料に連続照射し、その後該連続照射を中断し、当該組み合わせの連続照射と連続照射の中断とを1つのサイクルとして、該サイクルを組み合わせるようにして行われる。1つの実施形態においては、例えば、上記のような3種類の異なる波長領域を有する光(420nm〜450nm、470nm〜510nm、および570nm〜600nm)を1つの組み合わせとした連続照射と、該連続照射に続く照射中断とが1つのサイクルとなり、これを試料を所定の位置に配置した状態で3回〜15回(3サイクル〜15サイクル)繰り返される。
【0037】
1つの実施形態においては、上記サイクルの繰り返しは、上記連続照射の中断と連動した対物レンズの焦点位置と共に行われる。より具体的には、上記1つのサイクルにおける中断期間(上記連続照射後の照射を中断する期間)に、対物レンズの焦点位置を移動させ、移動後の焦点位置で次のサイクルにおける連続照射を行い、当該連続照射後の中断期間に焦点位置を移動させ、この手順を繰り返すことにより、サイクルの繰り返しが行われる。言い換えれば、1つの焦点位置で連続して2サイクルを繰り返すことなく、サイクルの繰り返しが行われる。目的等に応じて、焦点位置を移動しながら所定回数のサイクルの繰り返し(便宜上、1セットとする)を行った後、元の焦点位置に戻って次の1セットを行い、これを所定のセット数繰り返してもよい。このような実施形態によれば、試料に与えるダメージをきわめて良好に抑えることができる。別の実施形態においては、対物レンズの焦点位置を固定したまま、上記連続照射と連続照射の中断とを所定回数繰り返し、その後照射を中断したまま対物レンズの焦点位置を移動させ、移動後の焦点位置で同様に連続照射と連続照射の中断とを所定回数繰り返し、この手順を繰り返すことにより、サイクルの繰り返しが行われる。言い換えれば、1つの焦点位置で連続して2サイクル以上を繰り返しながら、サイクルの繰り返しが行われる。所定のサイクル数の繰り返しにより、1回目の測定(観察)が終了する。このような測定を同一の試料細胞に対して繰り返して行うことにより、当該試料細胞の動態についての立体的な動画を記録することができる。
【0038】
好ましくは、休止中に試料ステージの移動が行われ、2回目の測定は試料の異なる位置に焦点が当てられる。ステージ(試料)の移動距離は、試料細胞の種類や観察の目的に応じて変化し得る。1つの実施形態においては、試料の移動距離は0.5〜2μmである。2回目の測定も1回目の測定と同様の手順で行われ、1回目とは異なる位置の観察または画像取得が終了する。
【0039】
所定の位置に試料を配置して上記のような手順を繰り返すことにより、細胞分裂の動的な観察およびその3次元画像の取得が可能となる。全体の測定時間は、細胞の種類や細胞分裂の時間等に応じて変化し得る。代表的な測定時間は好ましくは1時間〜2日である。
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例には限定されない。
【0041】
(実施例1)
市販の倒立型蛍光顕微鏡をベースに改良し、図1に示すような観察・記録装置を構築した。装置の各部材は以下の通りである:
・倒立型蛍光顕微鏡(ニコン社製、Eclipse TE300)
・対物レンズ(高倍率および大開口数レンズ、開口数1.40、PlanApo 60x)
・フィルターホイールおよびZ軸モーター制御装置(Ludle社製、BioPoint MAC5000)
・赤色、緑色および青色励起フィルター用ホイール(シャッター付、注文品)
・吸収フィルター用ホイール(注文品)
・Z軸モーター(注文品)
・赤色、緑色および青色フィルターセット(Chroma社製、No.86006)
・COチャンバー付顕微鏡保温装置(光研社エンジニアリング社製)
チャンバーの改造(司技研)
・試料載置用シャーレ(35mm、旭テクノグラス社製、グラスボトムディッシュ)
・撮像素子(高感度CCDカメラ、浜松ホトニクス社製、ORCA-ER)
・画像取得および解析用ソフトウェア(三谷商事社製、LuminaVision)
【0042】
I.可視化細胞の作製と観察
(1)プラスミドDNAの作成
a) αチューブリン(GFP:緑)
ヒトαチューブリン−緑色蛍光蛋白質融合蛋白質の発現ベクターとして、緑色蛍光蛋白質(GFP)の遺伝子を含むベクターである哺乳動物細胞用発現ベクターpEGFP−C1(クロンテック社から購入)を使用した。そして、上記pEGFP−C1を制限酵素XhoIおよびBamHIで切断し、該切断部位にヒトαチューブリンのcDNAの1.4kbp断片を挿入することにより、αチューブリン−緑色蛍光蛋白質融合蛋白質を発現させるためのプラスミドDNA(pEGFP−αチューブリン)を作成した。
【0043】
b) インポーチンα(DsRed:赤)
インポーチンα−赤色蛍光蛋白質融合蛋白質の発現ベクターとして、赤色蛍光蛋白質(DsRed2)の遺伝子を含むベクターである哺乳動物細胞用発現ベクターpDsRed2−C1(クロンテック社から購入)を使用した。そして、上記pDsRed2−C1を制限酵素EcoRI及びSalIで切断し、該切断部位にヒトインポーチンαのcDNAの1.2kbp断片を挿入することにより、インポーチンα−赤色蛍光蛋白質融合蛋白質を発現させるためのプラスミドDNA(pDsRed2−インポーチンα)を得た。
【0044】
c) ヒストンH3(CFP:青)
ヒストンH3−シアン色蛍光蛋白質融合蛋白質の発現ベクターとして、シアン色蛍光蛋白質(CFP)の遺伝子を含むベクターである哺乳動物細胞用発現ベクターpECFP−C1(クロンテック社から購入)を使用した。そして、マウスヒストンH3発現プラスミドpZErO−histoneH3(Tatchibana et al., J.Biol.Chem., Vol.276,25309−25317,2001)を制限酵素EcoRI及びXhoIで切断し、得られた430bpのマウスヒストンH3cDNA断片を、同じ制限酵素で切断した上記pECFP−C1の切断部位に導入することにより、ヒストンH3−シアン色蛍光蛋白質融合蛋白質を発現させるためのプラスミドDNA(pECFP−ヒストンH3)を作成した。
【0045】
(2)プラスミドDNAの導入および安定形質転換細胞の取得
上記プラスミドDNAを導入する細胞として、ヒトMDA−MB−435細胞を用いた。そして、10%FCS含有D−MEM培地(日水製薬製)にて、上記ヒトMDA−MB−435細胞を37℃、5%炭酸ガス空気下で培養した。対数増殖期にある細胞を1×PBS(−)4mlで洗浄し、トリプシン1mlを加えて細胞をはがした。D−MEM培地4mlを添加してトリプシン作用を止めた後、細胞浮遊液を遠心チューブに移し、一部を取り出しヘマトメーターを用いて細胞数を計測した。残りを遠心分離(1000rpm/10分)し、回収された細胞を1×PBS(−)12mlに懸濁することで細胞を洗浄し、この操作を二回行った後、細胞数が1.2×10細胞/mlになるように1×K−PBSに懸濁した。
【0046】
この細胞懸濁液0.5ml分を1.5mlマイクロチューブに移して氷中で5分間静置後、上記プラスミドDNA(pEGFP−αチューブリン)50μl(約16μg分)を添加して軽く撹拌し、5分間氷中で静置した。静置後、パスツールピペットで細胞懸濁液を撹拌して予め冷却していたキュベット(BIO−RAD社製)に移しかえ、パルス発生装置(「Gene Pulser Xcell」;BIO−RAD社製)を用いてエレクトロポレーション法により、上記プラスミドDNA(pEGFP−αチューブリン)をMDA−MB−435細胞内へ導入し、直ちに氷中で10分間静置した。その後、無血清D−MEM培地0.5mlを加えて室温で10分間静置し、パスツールピペットで回収した細胞を4mlの培地に加え、予め培地9mlの入った90mmシャーレ4〜5枚に0.3〜0.5mlずつ播いた。
【0047】
培養2日後、G418(商品名「ゲネティシン」)を0.8〜1.2mg/mlとなるよう加えた培地に交換し、5日毎に培地を交換し、培養を継続した。2〜3週間経過後、形成されたコロニーを内径7mmのクローニングリング(岩城硝子社製)内で個々にトリプシン処理を行い、それぞれを12穴マイクロプレートに移して、2ml培地中でさらに5〜10日間培養した。次項に記載の操作により(形質転換細胞での目的とする構造の可視化の確認の方法)、目的蛋白質を目的とする細胞構造(紡錘体、核膜、核/染色体)のすべてで発現していることが確認された細胞を安定形質転換細胞株とし、さらに90mmシャーレにて継代し、保存した。
【0048】
次いで、同様の手順により、上記プラスミドDNA(pDsRed2−インポーチンα)および上記プラスミドDNA(pECFP−ヒストンH3)を導入した。上記プラスミドDNA(pDsRed2−インポーチンα)を導入する場合は、さらに、選択マーカー用プラスミドpTK−Hyg(ハイグロマイシン耐性プラスミド)7μgを添加し、細胞へのプラスミドDNAの導入を行ってから1〜2日後、選択用薬剤であるハイグロマイシンを0.075〜0.15μg/mlとなるよう添加した培地で培養し、同様の手順により、安定形質転換細胞株を得た。その後、上記プラスミドDNA(pECFP−ヒストンH3)を導入する場合は、選択マーカー用プラスミドpLC−puro(ピューロマイシン耐性プラスミド)7μgを添加し、細胞へのプラスミドDNAの導入を行ってから1〜2日後、選択用薬剤であるピューロマイシンを0.05〜0.5μg/mlとなるよう添加した培地で培養し、上記と同様の手順により、安定形質転換細胞株を得た。
【0049】
(3)形質転換細胞での目的とする構造の可視化の確認の方法
コロニーを形成した上記形質転換細胞の一部(1×10〜3×10)をカバーグラス上でさらに培養し、4%パラホルムアルデヒドで20分固定し、0.1%トリトンX−100で5分間処理した。そして、この固定化した上記形質転換細胞の核を、青色蛍光色素DAPI(1μg溶液)で対比染色した後、冷却CCDカメラ「MicroMAX 1300Y」(Princeton Instruments社製)、励起用フィルターホイールとZ軸モーターを制御するためのコントローラー「BioPoint MAC3000」(Ludl Electric Products社製)および対物レンズ「PlanApo 60x」(NA1.40,ニコン社製)を備えた蛍光顕微鏡「Eclipse E600」(ニコン社製)を用いて、上記形質転換細胞を観察した。それぞれの蛍光を観察するにあたっては、DAPI,CFP、GFP、DsRed2が観察可能なフィルターセット「Quad filter set No.84」(Chroma Technology社製)を使用した。画像取得、解析にあたっては、「LuminaVision バージョン1.40」(三谷商事社製)を使用し、目的とする細胞構造(紡錘体、核膜、核/染色体)がそれぞれの蛍光を放っていることを観察することにより、形質転換細胞が目的とする蛍光蛋白質を発現することを確認した。
【0050】
(4)細胞内構造の画像取得
上記のようにして構築した観察・記録装置を用いて、炭酸ガス濃度及び温度をコントロールした培養チャンバー(COチャンバー付顕微鏡保温装置)内のシャーレで上記形質転換細胞を培養した。そして、この装置を用いて画像を取得した。具体的には、画像取得(光照射)および休止を含む1サイクルを3分とし、当該1サイクルにおいて、各色の蛍光蛋白質ごとに別々の波長の光を順に照射し、かつ1〜2μmの間隔でステージの高さ(Z軸)を変化させ各色4〜10枚、計12〜30枚の画像を取得した。この観察を120〜180分間続け、併せて1440〜3600枚程度の画像を取得し、上記ソフトウェアを用いて画像のタイムラプス解析を行った。それらの結果を図3に示す。図3から明らかなように、正常な細胞分裂が観察され、当該細胞分裂が明瞭に画像化された。
【0051】
(5)光量の測定
上記画像取得における光量(放射強度)測定は、上述のChromaフィルターセットに加えてGFP用フィルター490/10x、CFP用フィルター436/10x、およびDsRed用フィルター580/13x(Chroma Technology社製)をそれぞれ用いて行った。光量測定器には、放射束測定機器1830-Cパワーメータ(Newport社製)を用いた。さらに、上記青色、緑色および赤色の照射光に対応する黄色の照射光の光量も、YFP用フィルター492/18xを用いて測定した。適正な画像取得が可能であった光量は、青色励起光(フィルターを通過する照射光の波長:431〜441nm)では2〜14μW/cm、緑色励起光(フィルターを通過する照射光の波長:485〜495nm)では10〜65μW/cm、赤色励起光(フィルターを通過する照射光の波長:573.5〜586.5nm)では25〜90μW/cm、黄色励起光(フィルターを通過する照射光の波長:483〜501nm)では20〜95μW/cmであった。
【0052】
(比較例1)
青色励起光の光量を14.5μW/cm、緑色励起光の光量を67μW/cm、赤色励起光の光量を102μW/cmとしたこと以外は実施例1と同様にして生細胞の分裂を観察し、その画像を取得した。結果を図4に示す。本比較例においては、細胞分裂が前中期で停止した。
【0053】
(比較例2)
青色励起光の光量を16μW/cm、緑色励起光の光量を74μW/cm、赤色励起光の光量を112μW/cmとしたこと以外は実施例1と同様にして生細胞の分裂を観察し、その画像を取得した。結果を図5に示す。本比較例においては、細胞分裂が中期で停止した。
【0054】
(比較例3)
青色励起光の光量を1.4μW/cm、緑色励起光の光量を8.7μW/cm、赤色励起光の光量を19.3μW/cmとしたこと以外は実施例1と同様にして生細胞の分裂を観察した。本比較例においては、画像が真っ黒であり、細胞分裂の様子を明瞭に把握することはできなかった。
【0055】
(比較例4)
休止時間を設けずに連続的に励起光を照射したこと以外は実施例1と同様にして生細胞の分裂を観察した。この場合、細胞分裂が前期または前中期で停止した。
【0056】
(比較例5)
1サイクルを1分としたこと(すなわち、休止時間を短くしたこと)以外は実施例1と同様にして生細胞の分裂を観察した。この場合、細胞分裂が前中期または中期で停止した。
【0057】
(比較例6)
1サイクルを10分としたこと(すなわち、休止時間を短くしたこと)以外は実施例1と同様にして生細胞の分裂を観察した。この場合、画像取得の間隔が長すぎて、適正な画像を取得することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の観察および記録装置ならびに生細胞の観察方法は、観察対象となる生体試料の生存状態を維持しながら細胞分裂などの動態変化を継続的に観察するような場合に、好適に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の好ましい実施形態による観察装置を説明する模式図である。
【図2】本発明の別の好ましい実施形態による観察装置を説明する模式図である。
【図3】本発明の実施例により得られた細胞分裂の画像である。
【図4】比較例により得られた細胞分裂の画像である。
【図5】別の比較例により得られた細胞分裂の画像である。
【符号の説明】
【0060】
100 観察装置
10 光源部
12 光源
20 試料
21 シャーレ
22 ステージ
23 上下移動手段
24 培養チャンバー
30 照射光制御手段
32 分光手段
40 対物レンズ
50 撮像素子
70 ダイクロイックミラー
80 分光手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージ上に配置された試料である生細胞の動態を、該生細胞の光毒性による影響を低減したまま観察するための装置であって、
光源部と、
該光源部から発せられた照射光を、該試料に対して間欠的に照射するための照射光制御手段と、
該試料からの物体光が入射する対物レンズと、
を備え、
該照射光が、350nmから700nmの波長領域において、2μW/cmから90μW/cmの放射強度を有し、350nm未満の波長領域が光学的にカットされている光である、装置。
【請求項2】
前記対物レンズからの前記物体光を電子画像に変換するための撮像素子をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記電子画像を記録するための画像記録手段をさらに備える、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記対物レンズが、前記ステージを介して前記試料に対向配置されている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記対物レンズが油浸レンズである、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記照射光制御手段が、前記光源部から発せられた照射光を分光するための分光手段を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記分光手段が、光学フィルターおよび液晶チューナブルフィルターからなる群から選択される、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記対物レンズと前記撮像素子との間に配置され、該対物レンズからの前記物体光を分光するための分光手段をさらに備える、請求項2に記載の装置。
【請求項9】
前記分光手段が、光学フィルター、液晶チューナブルフィルターおよびフォトマルチメータからなる群から選択される、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記光源部がハロゲンランプである、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記ステージおよび前記対物レンズが、相対的に移動可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
生細胞に蛍光色素分子を導入して試料細胞を調製すること、
該試料細胞に、350nmから700nmの波長領域において2μW/cmから90μW/cmの放射強度を有し、350nm未満の波長領域が光学的にカットされている光を間欠的に照射すること、および
該試料細胞からの物体光を、対物レンズを通して電子画像として記録すること
を含む、生細胞の動態を観察するための方法。
【請求項13】
前記試料細胞に導入された蛍光色素分子が少なくとも3種の蛍光(E、E、・・・E)を発する色素分子であり、かつ、前記光の間欠的な照射が、該試料細胞に該少なくとも3種の蛍光に対応して励起する光(Ex、Ex、・・・Ex)を1つの組み合わせとした連続照射とその後の該連続照射の中断とで構成されるサイクルの繰り返しによって行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記サイクルの繰り返しが、前記連続照射の中断に連動した前記対物レンズの焦点位置の移動と共に行われる、請求項13に記載の方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−38800(P2010−38800A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203728(P2008−203728)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】