生細胞を用いた外部刺激の影響評価方法およびその方法を行うためのキット、並びに外部刺激に対する影響評価システム
生細胞において複数遺伝子の転写活性をモニターすることによって、検討しようとする外部刺激の細胞に対する影響を評価する方法、および当該方法を行なうためのキット、並びに外部刺激に対する遺伝子発現量の影響を評価するシステムを提供する。例えば、本発明の評価システム(10)は、複数の評価遺伝子それぞれのプロモーターの下流に連結された発光関連遺伝子の発現によって発する異なる波長の生物発光量を、試料の細胞を破砕することなく検出する検出部(2)と、外部刺激前後のそれぞれで、異なる発光関連遺伝子間の生物発光量を同時に比較する同時比較部(3)と外部刺激前後の同一発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する前後比較部(5)とを備えている。検出部(2)では、発光関連遺伝子の発現による生物発光量を検出し、間接的に評価遺伝子の発現を検出している。このため、生きた試料の細胞を破砕する必要がないので、同一試料を用いて、複数の評価遺伝子の外部刺激に対する影響を評価できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生細胞を用いた外部刺激の影響評価方法およびその方法を行うためのキット、並びに外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価するシステムに関するものであり、より詳細には、例えば、異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素(以下適宜ルシフェラーゼと称す)遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる遺伝子構築物を、ホスト細胞に導入する工程と、当該ホスト細胞に外部刺激を与える工程と、当該ホスト細胞が発する複数波長の生物発光量を、細胞破砕することなく検出する工程と、外部刺激を与える前後における発光量の動態を比較する工程とを具備する外部刺激の影響評価方法、およびその方法を行なうためのキット、並びに異なるプロモーター制御下にある複数の評価遺伝子が、外部刺激によって、どのような影響を示すかを評価するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ダイオキシンをはじめとする環境ホルモン等の化学物質の生態系に及ぼす影響の評価、新規化学物質や新薬等の安全性評価、その他熱、紫外線、電磁波、放射能等の物理的刺激等、様々な外部刺激が生体に及ぼす影響を評価することの重要性がうたわれ、これらを評価する方法の開発が試みられている(例えば、特許文献1参照)。かかる影響評価の生命科学的アプローチの一つとして、細胞内で起こる遺伝子発現量(すなわち、遺伝子の転写活性)を測定するというものがある。また、細胞内における遺伝子発現量の測定を行うことは、細胞内情報伝達物質の伝播、あるいは個々のタンパク質群の発現解析等に用いることができ、学術的な意義のみならず医薬・薬学の発展に重要である。
【0003】
これまで、遺伝子発現量の測定は、ウエスタンブロット法等を用いて発現タンパク質量を直接的に測定する方法または、解析しようとするプロモーター領域の下流に発光酵素(ルシフェラーゼ)遺伝子をレポーター遺伝子として連結し、当該ルシフェラーゼに由来する生物発光量から間接的に測定する方法が知られている。しかしこれらの方法では、細胞を破砕して測定を行うため、生細胞の解析および連続測定は、不可能である。
【0004】
そこで近年、ホタル由来発光酵素(ルシフェラーゼ)やバクテリア由来発光酵素(ルシフェラーゼ)を用いて、当該ルシフェラーゼに由来する生物発光量から連続的に遺伝子発現量を定量化する方法および装置が開発された。(例えば特許文献2および特許文献3参照)。
【0005】
また、蛍光タンパク質(例えばgreen fluorescent protein(GFP),yellow fluorescent protein(YFP))遺伝子と目的遺伝子とを融合して発現させた融合タンパク質を検出する方法が知られている。蛍光タンパク質は、細胞内で発現するのと同時に、補因子を特に必要とすることなく、蛍光活性を有するという利点がある。よって、蛍光タンパク質は、細胞内での蛍光活性を指標に、タンパク質の局在性等に関するモニタータンパク質として利用することができる。さらに蛍光色の異なる蛍光タンパク質により、2種類以上の情報を検知することも可能である。しかし、本方法は、蛍光量を検出するため、定量性に欠け、定量分析には不適であるという欠点がある(例えば、非特許文献1参照)。また、検出には、励起光を照射する必要があるため、連続的な遺伝子発現量の測定のためのレポーターとしての利用も適さない。特に、光合成を行う生物群(例えばシアノバクテリア等)においては、光が生体に及ぼす影響が大きく不適である。
【0006】
ところで、生命現象は、細胞内において、複数の情報伝達により成り立っている場合が多く、これら細胞内における現象を精査し外部刺激に対する影響を評価するためには、複数の遺伝子発現量を定量的かつ連続的に測定する技術の構築が必要である。例えば、シアノバクテリア等の体内時計における概日リズムは、kai遺伝子群のKaiA、KaiB、KaiC遺伝子産物によって相互に制御されることによって成立する。また、ヒト体内時計についても、その24時間のリズムを発振するPer遺伝子は、Clock、BMAL遺伝子産物によって制御される。そのため、これらの体内時計を正確に測定するためには、複数の遺伝子発現量の測定を同時に行う必要がある(例えば、非特許文献2および非特許文献3参照)。
【0007】
これまで、個々の遺伝子発現量の測定は、ホタル由来発光酵素(ルシフェラーゼ)遺伝子を用いて行なわれているが、一つの遺伝子転写動態しかみておらず、体内時計関連遺伝子発現の相互関係は不明なままである。また、環境因子の影響を生細胞上で評価する場合においても、一つの遺伝子の動態変化から評価するだけで、データ相互間での評価は困難である。
【0008】
かかる事情に鑑みて、最近ホタル由来ルシフェラーゼ遺伝子に、発現量を測定すべき遺伝子(転写活性を測定する遺伝子)を挿入した遺伝子構築物と、ウミシイタケ由来ルシフェラーゼ遺伝子に、発現量を測定すべき別の遺伝子を挿入した遺伝子構築物とを、同じ細胞内に導入することによって、2つの遺伝子発現量を測定するシステム(デュアルアッセイシステム、Promega社)が開発され、市販されている(例えば、特許文献4および非特許文献6参照)。
【0009】
しかし、2種類のルシフェラーゼの酵素特性(例えば利用可能な発光基質、pH等)が全く異なることから、それぞれのルシフェラーゼに最適な条件下で反応させる必要がある。しかし細胞内条件が必ずしも一定にならない生細胞内で、2種類のルシフェラーゼの反応を同時に行うことは非常に困難である。そのため定量化には、細胞を破砕したあとの抽出物を用いてそれぞれのルシフェラーゼに最適の条件下で、発光酵素反応を行う必要がある。よって、前述のデュアルアッセイシステムにおいても、生細胞で連続的に遺伝子発現量を測定することは不可能である。
【0010】
また、赤色および緑色の2色発光を示すことで知られている鉄道虫から2種類のルシフェラーゼ遺伝子(PvGR,PhRE)がクローニングされた。これら2種類のルシフェラーゼは、同一の発光基質(ルシフェリン)を利用して最大波長550nm(緑色)、および622nm(赤色)の生物発光を触媒する。また、ホタル由来ルシフェラーゼは、pHによる影響を受け易いのに対して、鉄道虫由来ルシフェラーゼは、pH安定性が高く、安定的に生物発光を触媒するという点で優れている。かかる鉄道虫由来ルシフェラーゼによって、生きた大腸菌においても生物発光を触媒することが知られている(例えば特許文献5および非特許文献4参照)。
【0011】
一方、本発明者等は、2種類(赤色および緑色)の生物発光を触媒する鉄道虫由来ルシフェラーゼ遺伝子を導入したシアノバクテリアの系において、当該ルシフェラーゼによって発した光を、赤色または緑色のみを透過するバンドパスフィルターによって分光し、それぞれの光を検出することを可能とした(非特許文献5参照)。
【特許文献1】 日本国公開特許公報「特開2002−171996公報」(公開日:平成14(2002)年6月18日)
【特許文献2】 日本国公開特許公報「特開平6−153994号公報」(公開日:平成6(1994)年6月3日)
【特許文献3】 日本国公開特許公報「特開2002−310894号公報」(公開日:平成14(2002)年10月23日)
【特許文献4】 米国特許第5744320号明細書(公開日:1995年6月7日)
【特許文献5】 米国特許出願公開第2002/0119542 A1(公開日:2002年8月29日)
【非特許文献1】 Hakkila,K.,Maksimow,M.,Kaep,M.& Virta,M.Reporter genes,lucFF,luxCDABE,gfp,and dsred have different characteristics in whole−cell bacterial sensors..Anal.Biochem.301,235−242(2002).
【非特許文献2】 Ishiura,M.,Kutsuna,S.,Aoki,S.,Iwasaki,H.,Andersson,CR.,Tanabe,A.,Golden,SS.,Johnson,CH.,& Kondo,T.Expression of a gene cluster kaiABC as a circadian feedback process in cyanobacteria.Science 281,1519−1523(1998).
【非特許文献3】 D.P.King et al.:Cell,89,641(1997)
【非特許文献4】 Viviani,V.R.,Bechara,E.J.H.& Ohmiya,Y.Cloning,sequence analysis,and expression of active Phrixothrix railroad−worms luciferases:Relationship between bioluminescence spectra and primary structures.Biochemistry 38,8271−8279(1999).
【非特許文献5】 日本植物生理学会2003年度年会講演要旨集 p.104(発行日:2003年3月15日)
【非特許文献6】 Keith V,Wood,Promega Notes 65(1998)p14
このように、細胞内における遺伝子発現量を測定する方法は、種々開発されている。しかしながら、従来の方法では、使用した生細胞を破砕した細胞破砕物から、遺伝子を抽出して、その遺伝子の発現量を測定している。すなわち、従来の方法では、外部刺激前後で、評価する細胞が異なるため、細胞間での遺伝子発現量の誤差が生じる。このため、外部刺激に対する影響を正確に評価できないという大きな問題がある。
【0012】
また、従来の方法は、1つの遺伝子の発現量(転写活性)をモニターするのみであること、また、2種類のルシフェラーゼを用いて2種類の遺伝子の発現量をモニターする場合であっても、用いるルシフェラーゼの酵素特性が異なるため、細胞内条件の不安定な生細胞を用いると、2種類の遺伝子の発現量を正確に測定できないことなどの問題も生じる。
【0013】
以上のように、従来の方法は、外部刺激の影響を評価する方法としては満足のいくものとはなっていなかった。それゆえ、複数の遺伝子の発現量を連続的に検出するとともに、検出結果を用いた外部刺激に対する遺伝子の影響の評価も行う外部刺激の影響評価方法および評価システムを構築することが重要な課題となる。
【0014】
そこで、本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、生細胞において複数遺伝子の転写活性をモニターすることによって、検討しようとする外部刺激の細胞に対する影響を評価する方法、および当該方法を行なうためのキットを提供すること、並びに外部刺激前後で同一の生きた試料を用いて複数の遺伝子の発現量をモニターし、外部刺激に対する遺伝子発現量の影響を評価するシステムを提供することにある。
【発明の開示】
【0015】
本発明の評価システム(本システム)は、上記の課題を解決するために、異なるプロモーター制御下にある複数の評価遺伝子を含む生細胞に外部刺激を与え、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価する評価システムであって、複数の評価遺伝子それぞれのプロモーターの下流に連結された発光関連遺伝子の発現によって発する異なる波長の生物発光量を、未破砕試料から検出する検出手段と、試料に外部刺激を与える刺激手段と、外部刺激前後の同一発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する前後比較手段と、外部刺激前後のそれぞれで、異なる発光関連遺伝子間の生物発光量を同時に比較する同時比較手段とを備えていることを特徴としている。
【0016】
本システムは、刺激手段によって試料に外部刺激を与え、その外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価するシステムである。
【0017】
本システムでは、外部刺激に対する影響の評価対象となる評価遺伝子は、異なるプロモーター制御下にある複数の遺伝子である。また、各評価遺伝子のプロモーターの下流には、発光関連遺伝子が連結されている。この発光関連遺伝子は、試料中で発現すると、生物発光するものであり、発光関連遺伝子ごと(評価遺伝子ごと;プロモーターごと)に、最大波長が異なる生物発光を示すものである。すなわち、試料中には、評価遺伝子に加えて、複数の評価遺伝子の各プロモーターに対応した、複数の発光関連遺伝子も含まれる。これにより、試料中で、プロモーターが活性化されると、そのプロモーターに連結された発光関連遺伝子が発現し、生物発光を示す。
【0018】
そして、本システムでは、検出手段が、この試料から発した生物発光を、未破砕試料から検出する。プロモーターの下流には評価遺伝子も存在するため、発光関連遺伝子の発現は、評価遺伝子の発現を反映する。このため、検出手段で生物発光量を検出すると、評価遺伝子の発現を検出したことになる。また、検出手段は、外部刺激前後のそれぞれで、発光関連遺伝子の発現による生物発光量を検出する。
【0019】
また、本システムでは、同時比較手段が、外部刺激前後のそれぞれで、検出手段で検出された異なる発光関連遺伝子の発現による生物発光量を同時に比較する。これにより、同時比較手段では、外部刺激前、または、外部刺激後における、複数の評価遺伝子間の発現量の変動を観測できる。
【0020】
一方、前後比較手段は、外部刺激前後の同一発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する。これにより、前後比較手段では、外部刺激による評価遺伝子の発現量の変動を観測できる。
【0021】
このように、本システムでは、評価遺伝子の発現量を、発光関連遺伝子の生物発光量として検出しているので、試料を破砕する必要がない。このため、試料の細胞を破砕することなく、評価遺伝子の発現の検出が可能である。さらに、本システムは、試料の細胞を破砕しないため、外部刺激前後で、同一試料の生物発光量の検出が可能である。このため、試料の細胞の破砕による生物発光量の検出誤差が生じない。従って、複数の評価遺伝子の発現量を正確にモニターし、評価遺伝子の外部刺激に対する影響を評価することが可能である。
【0022】
また、本システムでは、上記検出手段は、複数の異なる波長の生物発光量を同時に検出する構成であってもよい。この構成では、検出手段が、各評価遺伝子に対応した、異なる波長の生物発光量を同時に検出する。すなわち、ある時点における複数の波長の生物発光量を、同時に検出する。これにより、1回の検出で複数波長の生物発光量の検出(複数の評価遺伝子の検出)が可能である。従って、リアルタイムに、正確な生物発光量を検出できる。
【0023】
また、本システムでは、上記検出手段が、特定の発光関連遺伝子による生物発光の波長を透過させる分光手段を備えている構成であってもよい。この構成では、生物発光のそれぞれに対応する分光手段を備えている。これにより、1つの分光手段からは、特定の1つの波長の生物発光のみを検出できる。従って、検出した生物発光量を、光量の損失なく検出できる。
【0024】
また、本システムでは、上記検出手段が、上記生物発光量の検出に加えて、上記試料の培養も行うものであることが好ましい。すなわち、上記検出手段は、上記試料を培養しながら生物発光量を検出することが好ましい。本システムでは、生きた試料(未破砕試料)を用いて生物発光量を検出している。このため、外部刺激を与えた後も、試料を培養することになる。この構成では、試料の培養とともに、試料の生物発光量も検出している。これにより、試料の培養条件下での生物発光量を検出し、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価できる。
【0025】
また、本システムでは、上記発光関連遺伝子は、発光基質の存在下、生物発光する遺伝子であって、上記検出手段は、発光基質が大過剰存在下での生物発光量を検出することが好ましい。この構成では、発光関連遺伝子の発現によって、発光基質を発光させ、この発光基質による生物発光を、検出手段で検出する。そして、発光基質は、大過剰に存在している。これにより、発光基質が不足することはないため、発光基質の生物発光量が、発光関連遺伝子の発現量に比例する。従って、発光関連遺伝子の発現による生物発光(発光基質の生物発光)を、定量的に検出できる。すなわち、評価遺伝子の発現量を定量的に検出できる。
【0026】
また、本システムでは、さらに、複数の試料を、順次、上記検出手段に運ぶための載置手段を備えていることが好ましい。このような構成は、例えば、複数の試料が載置可能であり、かつ、試料を検出手段に運ぶために、回転可能な載置手段を備えており、上記検出手段が、載置手段の回転によって移動した試料の生物発光量を検出することによって実現可能である。この構成では、載置手段を回転させると、生細胞と検出手段とが相対的に移動する。これにより、生細胞の生物発光量の検出終了後に、載置手段を回転させることによって、試料を順次検出手段に運んで、別の試料の生物発光量を検出できる。従って、このような構成では、載置手段が試料を順次検出手段に運ぶことが可能であるため、複数の試料の生物発光量を連続的に検出できる。
【0027】
また、本システムでは、上記刺激手段は、上記外部刺激として、化学物質による刺激、および/または、物理的刺激であることが好ましい。これにより、化学物質や物理的刺激、またはその両方による、評価遺伝子の影響を評価できる。
【0028】
また、本システムでは、さらに、上記検出手段で検出された生物発光量に基づいて、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を解析し、上記生物発光量を、評価遺伝子の発現量に変換する解析手段を備えていることが好ましい。この構成では、解析手段が、検出手段で得られた生物発光量を、評価遺伝子の発現量に変換している。従って、より正確に、外部刺激に対する複数の評価遺伝子の影響を評価できる。
【0029】
本発明の外部刺激の影響評価方法は、異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる複数の遺伝子構築物を、非哺乳類由来ホスト細胞に導入する工程と、当該ホスト細胞に外部刺激を与える工程と、当該ホスト細胞が発する複数波長の生物発光量を、細胞破砕することなく検出する工程と、外部刺激を与える前後における上記発光量の動態を比較する工程とを含むことを特徴としている。
【0030】
本発明の外部刺激の影響評価方法では、外部刺激に対する影響の評価対象となる評価遺伝子は、異なるプロモーター制御下にある複数の遺伝子である。
【0031】
そして、本発明の外部刺激の影響評価方法では、この試料から発した生物発光を、未破砕試料から検出する。また、発光関連遺伝子の発現による生物発光量は、外部刺激前後のそれぞれで検出される。
【0032】
また、本発明の外部刺激の影響評価方法では、外部刺激前後のそれぞれで検出された異なる発光関連遺伝子の発現による生物発光量を同時に比較する。これにより、外部刺激前、または、外部刺激後における、複数の評価遺伝子間の発現量の変動を観測できる。
【0033】
一方、本発明の外部刺激の影響評価方法では、外部刺激前後の同一発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する。これにより、外部刺激による評価遺伝子の発現量の変動を観測できる。
【0034】
このように、本発明の外部刺激の影響評価方法では、評価遺伝子の発現量を、発光関連遺伝子の生物発光量として検出しているので、試料を破砕する必要がない。このため、試料の細胞を破砕することなく、評価遺伝子の発現の検出が可能である。さらに、試料の細胞を破砕しないため、外部刺激前後で、同一試料の生物発光量の検出が可能である。このため、試料の細胞の破砕による生物発光量の検出誤差が生じない。従って、複数の評価遺伝子の発現量を正確にモニターし、評価遺伝子の外部刺激に対する影響を評価することが可能である。
【0035】
また、本発明の外部刺激の影響評価方法では、上記異なる波長の生物発光は、分光可能であることが好ましい。
【0036】
上記異なる波長の生物発光が分光可能であることにより、バンドパスフィルター等によって、発光酵素反応によって生じた光の構成成分を検出することができる。
【0037】
それゆえ、試料中のそれぞれの生物発光を波長ごとに正確に検出することができる。
【0038】
また、本発明の外部刺激の影響評価方法では、上記異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素のうち、少なくとも2つの発光酵素の発光基質が、同一であることが好ましい。
【0039】
上記構成によれば、細胞内条件が必ずしも一定にならない生細胞内で、少なくとも2つの発光酵素の反応を同時に行うことができる。
【0040】
それゆえ、細胞を破砕することなく、少なくとも2種類の遺伝子の発現量を測定することができる。
【0041】
また、本発明の外部刺激の影響評価方法では、上記複数の発光酵素遺伝子が、鉄道虫および/または細菌および/またはウミシイタケ由来であることが好ましい。
【0042】
上記複数の発光酵素遺伝子が、鉄道虫および/または細菌および/またはウミシイタケ由来であることにより、生物発光を安定的に行うことができる。
【0043】
それゆえ、これらのルシフェラーゼを組み合わせて使用することも可能となり、より複雑な系における外部刺激と評価遺伝子との関連性を解明することができる。
【0044】
また、本発明の外部刺激の影響評価方法では、外部刺激が、化学物質による刺激および/または物理的刺激であることが好ましい。
【0045】
上記構成によれば、生体が曝露される環境における種々の刺激が評価の対象となる。
【0046】
それゆえ、本発明の外部刺激の影響評価方法により、外部からホスト細胞に対して入力される様々な刺激の影響を評価することができる。
【0047】
本発明にかかるキットは、本発明の外部刺激の影響評価方法を行なうためのキットであることを特徴としている。
【0048】
また、本発明にかかるキットは、異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる遺伝子構築物が導入された非哺乳類由来ホスト細胞、および/または当該発光酵素が触媒する異なる波長の生物発光をモニターする検出器を備えていることが好ましい。
【0049】
本発明にかかるキットによれば、本発明の外部刺激の影響評価方法を実施することができる。それゆえ、複雑なシグナル伝達で成り立っている生体の生理活性を、同一の個体を用いかつ1回のトライアルで、観察することが可能となる。
【0050】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の一形態にかかる外部刺激に対する生細胞の影響評価システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の評価システムの評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図1の評価システムにおける試料部および検出部の構成を示す図である。
【図4】図1の評価システムにおける同時比較部の処理を示すフローチャートである。
【図5】図1の評価システムにおける前後比較部の処理を示すフローチャートである。
【図6】前後比較部が、同一の発光関連遺伝子の発現による生物発光量を、外部刺激前後のそれぞれで、経時的に比較する処理を示すフローチャートである。
【図7】図1の評価システムにおける検出部の原理を示す模式図である。
【図8】実施例において、各種ルシフェラーゼ遺伝子をkaiBCプロモーター下流に連結し、シアノバクテリアに導入した場合の生物発光を連続的に測定したチャート図である。
【図9】実施例において、kaiBCプロモーターの下流に鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ遺伝子を連結しシアノバクテリアに導入したPkaiRE株の生物発光を、連続的に測定したチャート図である。
【図10】実施例において、trcプロモーターの下流に鉄道虫由来緑色ルシフェラーゼ遺伝子を連結しシアノバクテリアに導入したPtrcGR株の生物発光を連続的に測定したチャート図である。
【図11A】実施例において、kaiBCプロモーターの下流に鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ遺伝子を連結しシアノバクテリアに導入したPkaiRE株の生物発光を、連続的に測定したチャート図である。
【図11B】trcプロモータ−の下流に鉄道虫由来緑色ルシフェラーゼ遺伝子を連結しシアノバクテリアに導入したPtrcGR株の生物発光を、同装置にて連続的に測定したチャート図である。
【図11C】PtrcGRPkaiRE株の生物発光を、同装置にて連続的に測定したチャート図であり、同左図は630nm近傍の光(赤色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示すチャート図であり、同右図は540nm近傍の光(緑色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示すチャート図である。
【図12A】実施例において、PtrcGRPkaiRE株に照射する光の照度を、34μmol/m2/sから8.4μmol/m2/sに変化させたとき(図中矢印)の生物発光を連続的に測定した結果を示すチャート図であり、同左図は630nm近傍の光(赤色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示すチャート図であり、同右図は540nm近傍の光(緑色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示すチャート図である。
【図12B】PkaiRE株に照射する光の照度を34μmol/m2/sから8.4μmol/m2/sに変化させたときの生物発光を連続的に測定した結果を示すチャート図である。
【図12C】PkaiRE株に照射する光の照度を34μmol/m2/sから8.4μmol/m2/sに変化させたときの生物発光を連続的に測定した結果を示すチャート図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施の一形態について、図1〜図12Cに基づいて説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
(A)本発明にかかる評価システム
本発明にかかる評価システム(本システム)は、生細胞に含まれた複数の評価遺伝子の影響を評価するものである。すなわち、本システムは、生細胞に外部刺激を与え、生細胞を破砕することなく、生きたままその生細胞の生物発光量を連続的に検出可能なシステムである。
【0054】
まず、本システムの全体構成について説明した後、各部の具体的構成を説明する。
【0055】
図1は、本システムの概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、評価システム10は、試料部1、検出部2、同時比較部3、メモリ4、出力部5、前後比較部6、解析部7、制御部8、および画像形成部9から構成されている。なお、図1では、試料に外部刺激を与える外部刺激部(刺激手段)を省略している。
【0056】
試料部(載置手段)1は、試料を載置するものである。評価システム10では、試料として評価遺伝子が含まれた、生きた試料(例えば生細胞など)を用いる。すなわち、試料部1には、評価遺伝子を含む生きた試料が載置される。なお、「評価遺伝子」とは、外部刺激に対する影響を評価する対象となる遺伝子(評価対象遺伝子)を示し、詳細は後述する。
【0057】
検出部(検出手段)2は、試料部1に載置された試料の生物発光量を、所定のタイミングで検出するものである。
【0058】
試料となる生細胞には、評価遺伝子とともに、各評価遺伝子のプロモーターの下流に連結された、発光関連遺伝子も含まれている。この発光関連遺伝子は、遺伝子の発現によって、生物発光を示すものである。すなわち、発光関連遺伝子が連結されたプロモーターが活性化されると、発光関連遺伝子が発現し、生物発光を示す。検出部2は、このような試料の生物発光量を検出するものである。検出部2の検出結果データは、後段の同時比較部3およびメモリ4の少なくともいずれかに送られる。
【0059】
なお、発光関連遺伝子が発現して発する生物発光は、発光関連遺伝子ごと(評価遺伝子ごと)に、最大波長が異なるものであり、検出部2は、異なる波長の生物発光を検出する。
【0060】
ここで、試料部1および検出部2の構成の具体例を説明する。図3は、試料部1および検出部2の概略構成を示す説明図である。
【0061】
この構成では、試料部1は、試料台11と載置部12とを備えている。また、検出部2は、生物発光量を検出する検出器2a・2bとしてバンドパスフィルター(例えば、干渉フィルターなど)と光電子倍増管を備えている。この載置部12は、複数の試料を、順次、検出部2に運べる構成となっている。
【0062】
試料台11は、モーターコントローラによって回転動作が制御されるスピンドルモータ44によって、回転可能となって円盤状の部材である。試料台11は、所定の厚みを有しており、その一方の表面には、円筒状の凹部からなる載置部12が、複数設けられている。また、試料台11には、その円盤面の中心を貫くように軸受け孔が設けられており、該軸受け孔にはスピンドルモータ44の回転軸45が挿入されて、試料台11は水平に支持されている。
【0063】
検出器2a・2bは、バンドパスフィルター(分光手段)を備えている。このバンドパスフィルターは、特定の発光関連遺伝子の発現によって発した、特定波長の生物発光のみを透過させるものである。すなわち、検出器2a・2bでは、バンドパスフィルターによって透過する波長が異なる。これにより、1つのバンドパスフィルターからは、特定の1つの波長の生物発光のみを検出できる。従って、各発光関連遺伝子の発現による生物発光の波長を透過させるバンドパスフィルターを準備すれば、試料中のそれぞれの生物発光を検出できる。バンドパスフィルターは、特定の波長のみを透過させるため、試料の生物発光量を正確に検出できる。
【0064】
また、検出器2a・2bは、試料の生物発光を検出するために光電子倍増管を備えている。光電子倍増管は、バンドパスフィルターを透過した光を増幅するものである。このため、微弱な光も検出可能である。従って、冷却CCDカメラなどによる検出よりも高感度の検出が可能である。
【0065】
なお、検出器2a・2bは、試料の生物発光量を検出するため、外部の光を遮断する構成となっている。
【0066】
また、検出器2a・2bには、特定波長のみの光を透過させるバンドパスフィルターが備えられている。これにより、検出器2a・2bは、試料から発した複数の発光関連遺伝子による生物発光のなかから、特定波長の生物発光の生物発光量のみを検出できるようになっている。
【0067】
また、この構成では、試料台11の回転によって、検出器2aおよび2bに検出される載置部12の試料を順次変えていくようになっている。これにより、試料台11上に配された複数の試料の生物発光量(ここでは、2つの波長の生物発光量)を、検出器2a・2bで検出可能となる。従って、多くの試料の生物発光量を、少ない数の検出器2a・2bで検出できる。このため、本システムを小型化し、省スペースのシステムとすることができる。
【0068】
なお、検出部2は、バンドパスフィルターおよび光電子倍増管を備える以外の構成でも、生物発光量を検出できれば、どのような構成であってもよい。例えば、検出部2を分光光度計から構成することも可能である。この場合、いったん試料から発するすべての生物発光量を検出した後、それぞれの生物発光の波長に分光することによって、それぞれの生物発光を検出できる。分光光度計を用いた場合、1回の検出で複数波長の生物発光量が同時に検出できる。従って、リアルタイムに、正確な生物発光量(すなわち複数の評価遺伝子の検出)を検出できる。
【0069】
また、検出部2にて生物発光量を検出する試料は、1つの生細胞であってもよいし、複数の生細胞の集団であってもよい。検出部2では、試料の生物発光量が小さい場合には、多くの生細胞集団の生物発光量を検出するか、生物発光量を増幅して検出すればよい。
【0070】
また、検出部2では、複数の異なる波長の生物発光量を同時に検出することが好ましい。これにより、リアルタイムに、複数の発光関連遺伝子の発現量(すなわち、複数の評価遺伝子の発現量)の検出が可能となる。従って、外部刺激に対する、複数の評価遺伝子間の関与を明らかにできる。
【0071】
また、検出部2では、生きた試料の生物発光量を検出しているため、外部刺激を与えた後も、試料を培養することになる。従って、検出部2は、試料の生物発光量の検出とともに、試料の培養を行えることが好ましい。これにより、試料の培養条件下での生物発光量を検出し、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価できる。
【0072】
また、後述のように、発光関連遺伝子の発現によって生物発光するために、発光基質を必要とする場合、検出部2はその発光基質を大過剰存在下で生物発光量を検出することが好ましい。言い換えると、発光基質が大過剰に存在する条件で、試料が培養され、その試料の生物発光量を検出することが好ましい。大過剰の発光基質存在下での生物発光量を検出することによって、発光関連遺伝子が発現すれば、確実に発光基質を発光させられる。従って、発光基質が不足することはないため、発光基質の生物発光量が、発光関連遺伝子の発現量を反映する。従って、発光関連遺伝子の発現による生物発光(発光基質の生物発光)を、定量的に検出できる。すなわち、評価遺伝子の発現量を定量的に検出できる。
【0073】
同時比較部3は、検出部2で検出された異なる波長の生物発光量を、比較するものである。より詳細には、検出部2では、評価遺伝子の数と同じ数の異なる波長の生物発光量が検出される。同時比較部3では、ある時点での複数の波長の生物発光量を比較する。すなわち、ある時点での複数の評価遺伝子の発現量を比較する。
【0074】
すなわち、同時比較部3は、外部刺激を与える前または与えた後に検出部2で検出された、異なる発光関連遺伝子に由来する生物発光量を、同時に比較する。また、同時比較部3は、同一の発光関連遺伝子に由来する生物発光量を、経時的にも比較する。
【0075】
これにより、同時比較部3は、異なる発光関連遺伝子の発現による生物発光量を、任意の時点で比較したり、経時的に連続的に比較したりすることによって、生物発光量の変化を観測できる。また、同一の発光関連遺伝子に由来する生物発光量の経時的な変化も観測できる。前述のように、発光関連遺伝子の発現による生物発光量は、評価遺伝子の発現量を反映する。したがって、同時比較部3では、外部刺激を与える前における複数の評価遺伝子の発現量の相関と、外部刺激を与えた後における複数の評価遺伝子の発現量の相関とが明らかとなる。
【0076】
また、同時比較部3は、同時比較部3での比較結果のデータを、メモリ4に送り、比較結果をメモリ4に記憶させる。また、同時比較部3は、上記比較結果のデータを、表示部5、前後比較部6、解析部7、画像形成部9にも送るようにもなっている。
【0077】
メモリ4は、外部刺激を与える前、および、外部刺激を与えた後の、検出部2、同時比較部3、および解析部7の結果(データ)を記憶する記憶手段である。メモリ4に記憶するデータは、これに限定されるものではなく、その他のデータを記憶してもよい。メモリ4に記憶したデータは、例えば、表示部5に表示する場合など、必要に応じて取り出すことができる。
【0078】
メモリ4は、評価システム10で利用される各種情報(生物発光量、制御情報、解析結果、その他情報等)を記憶する。具体的には、例えば、RAMやROM等の半導体メモリ、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD等の光ディスクのディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系等、従来公知の各種記憶手段を好適に用いることができる。
【0079】
前後比較部6は、同一の発光関連遺伝子に由来する生物発光量を、外部刺激を与える前後で比較する。すなわち、前後比較部6では、外部刺激を与える前後の、同一発光関連遺伝子に由来する生物発光量の差が、データとして得られる。
【0080】
前後比較部6は、同時比較部3と同様に、前後比較部6での比較結果のデータを、メモリ4に記憶する。また、そのデータを、表示部5、画像形成部9、解析部7にも送るようにもなっている。
【0081】
表示部5は、同時比較部3、前後比較部6、および解析部7のデータを、表示するものである。例えば、各部で得られたデータを、モニターなどの表示手段に出力することによって、発光関連遺伝子の発現による生物発光量や、評価遺伝子の発現量などを、表示手段に表示しながら、評価システム10を動作可能となっている。
【0082】
より詳細には、表示部5は、同時比較部3・前後比較部6からの生物発光量の比較結果の読み取りや、読み取った生物発光量の解析部7での解析等を含む、評価システム10の動作に関わる情報や解析結果等の各種情報を表示する。具体的には、表示部5は、公知のCRTディスプレイや、液晶ディスプレイ等といった各種表示装置を好適に用いることができるが特に限定されるものではない。表示部5によって各部で得られた結果を表示することにより、認識しにくい検出結果(解析結果)を、視覚的に認識しやすくすることが可能である。
【0083】
解析部(解析手段)7は、試料の生物発光量から、評価遺伝子の外部刺激に対する影響を評価する。解析部7では、同時比較部3および/または前後比較部4で得られる生物発光量のデータや、その生物発光量のデータを遺伝子発現量に変換したデータなどを利用して、外部刺激に対する試料の影響を評価する。例えば、外部刺激を与えることによる、試料の生物発光量の変動(すなわち、各評価遺伝子の発現量の変動)、複数の評価遺伝子間の発現量の相関、試料の生存の確認、などの解析(評価)を行う。
【0084】
解析部7では、発光関連遺伝子の発現による生物発光量を、評価遺伝子の発現量に変換することが好ましい。検出部2で得られた生物発光量は発光関連遺伝子の発現量を直接示すものであって、評価遺伝子の発現量を直接示すものではない。したがって、生物発光量を評価遺伝子の発現量に変換することによって、より正確に、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価できる。
【0085】
なお、生物発光量のデータは、メモリ4から取り出すこともできる。ここで、メモリ4におけるデータの格納状態およびそのデータの使用例について説明する。検出部2で、試料の生物発光量を検出すると、メモリ4は、検出を行うごとに検出結果にID番号を割り当て、外部刺激後の経過時間と対応するように、検出結果を格納する。そして、同時比較部3での比較の際に、同じタイミングで検出された同一発光関連遺伝子に由来する生物発光量を、メモリ4から呼び出して、各生物発光量を比較する。前後比較部6解析部7などの各部におけるデータの呼び出しも略同様であり、各部に必要となる適切なデータを、メモリ4から呼び出して、各部の処理が行われる。メモリ4のデータ格納状態やその使用例は、上記の例に限定されるものではなく、生物発光量を検出した時間、評価遺伝子の種類など、各部での比較・解析・表示等を適切に行うことができればよい。
【0086】
制御部8は、評価システム10の動作を制御する。具体的には、図1の破線の矢印で示すように、試料部1、検出部2、同時比較部3、メモリ4、表示部5、前後比較部6、解析部7、画像形成部9の各手段に対して、制御部8から制御情報が出力される。この制御情報に基づいて上記各手段が連携して動作することで、評価システム10全体が動作する。また、制御部8に対しては、図示しない入力部から評価システム10を動作させるための指示情報も入力可能である。
【0087】
画像形成部9は、表示部5で表示可能な各種情報をPPC用紙等の記録材に記録(印刷・画像形成)する。具体的には、公知のインクジェットプリンタやレーザープリンタ等の画像形成装置が好適に用いられるが特に限定されるものではない。
【0088】
なお、表示部5と画像形成部9とは、まとめて出力手段と表現することもできる。すなわち、表示部5は、各種情報をソフトコピーで出力する手段であり、画像形成部9は、各種情報をハードコピーで出力する手段である。なお、本システムで用いられる出力手段としては、表示部5や画像形成部9に限定されるものではなく、その他の出力手段を備えていても良い。
【0089】
次に、図1〜図2、図4〜図6に基づいて、本システムの動作(処理)について、各部の詳細な構成(動作)とともに説明する。図1は、本システムのブロック図であり、図2は、本システムの動作(処理)を示すフローチャートであり、図4、図5および図6は、それぞれ、同時比較部3、前後比較部4での処理を示すフローチャートである。
以下の説明では、2つの評価遺伝子(遺伝子aおよびb)の発現量を、それらの評価遺伝子のそれぞれのプロモーターの下流に発現可能に組み込まれた発光関連遺伝子(発光関連遺伝子AおよびB)の発現量として観測する場合について説明する。
【0090】
図2に示すように、本システム10の主な処理は、まず、外部刺激前の生物発光量を検出し(S1)、その検出結果をメモリ4に記憶する(S2)。同じ処理を外部刺激後にも行い(S3・S4)、その後、外部刺激前後に得られたデータの比較・解析(S5)、モニター(表示部5)への表示・画像形成などを行い、本システム10の動作が終了する。
【0091】
より詳細には、試料中で発光関連遺伝子AおよびBが発現すると、試料から生物発光AおよびBを発する。検出部2では、外部刺激前後のそれぞれで、この生物発光量AおよびB(最大波長の異なる生物発光)を検出し、検出結果をメモリ4に記憶させる。また、検出部2での検出結果は同時比較部3に送られる。
【0092】
すなわち、まず、検出部2では、外部刺激前の発光関連遺伝子AおよびBの生物発光量(ApreおよびBpre)、および、同じく外部刺激後の生物発光量(ApostおよびBpost)が検出される。そして、これらのデータが、同時比較部3に送られる。
【0093】
同時比較部3では、図4に示すように、検出部2で同じタイミングで検出された生物発光量どうしを比較する(S7〜S9)。つまり、外部刺激前後のそれぞれで、異なる発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する。すなわち、同時比較部3は、
1)外部刺激を与える前の発光関連遺伝子Aの発現による生物発光量(Apre)と発光関連遺伝子Bの発現による生物発光量(Bpre)との比較、および、
2)外部刺激を与えた後の発光関連遺伝子Aによる生物発光量(Apost)と発光関連遺伝子Bによる生物発光量(Bpost)との比較を行う。
これにより、同時比較部3では、異なる発光関連遺伝子の発現による生物発光量の差((Apre−Bpre)または(Apost−Bpost))が、データとして得られる。
【0094】
このように、同時比較部3では、外部刺激を与える前、または与えた後において、異なる評価遺伝子の発現量を、同時に比較することが可能である。
【0095】
一方、前後比較部5では、図5に示すように、検出部2で異なるタイミングで検出された生物発光量どうしを比較する(S10〜S16)。つまり、外部刺激前後の同一発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する。すなわち、前後比較部5は、
1)外部刺激を与える前の発光関連遺伝子Aの発現による生物発光量(Apre)と外部刺激を与えた後の発光関連遺伝子Aの発現による生物発光量(Apost)との比較、および、
2)外部刺激を与える前の発光関連遺伝子Bの発現による生物発光量(Bpre)と外部刺激を与えた後の発光関連遺伝子Bの発現による生物発光量(Bpost)との比較を行う。
【0096】
これにより、前後比較部5では、外部刺激を与えることによる同一発光関連遺伝子間の生物発光量の差((Apre−Apost)または(Bpre−Bpost))が、データとして得られる。
【0097】
このように、前後比較部6では、外部刺激を与える前後において、同一の評価遺伝子の発現量の変化を観測できる。
【0098】
また、前後比較部6は、図6に示すように、同一の発光関連遺伝子の発現による生物発光量を、外部刺激前後のそれぞれで、経時的に比較することもできる(S17〜S19)。具体的には、図6に示すように、前後比較部6では、時間(t0)における発光関連遺伝子AまたはBの発現による生物発光量(At0またはBt0)と時間(t1)における発光関連遺伝子AまたはBの発現による生物発光量(At1またはBt1)とを比較する。これにより、時間経過に伴う、同一発光関連遺伝子に由来する生物発光量の差((At0−At1)または(At0−At1))が、データとして得られる。
【0099】
このように、前後比較部6では、外部刺激に関係なく、同一評価遺伝子の発現量の変化を経時的に観測することもできる。
【0100】
なお、同時比較部3および前後比較部6における生物発光量のデータは、検出部2の検出結果を利用してもよいし、メモリ4から必要なデータを取り出して利用してもよい。
【0101】
以上のように、本システムでは、評価遺伝子の発現量を、発光関連遺伝子の発現による生物発光量として間接的に検出しているので、試料の細胞を破砕する必要がない。このため、試料の細胞を破砕することなく、評価遺伝子の発現の検出が可能である。さらに、本システムは、試料の細胞を破砕しないため、外部刺激前後で、同一試料の生物発光量の検出が可能である。このため、試料の細胞の破砕による生物発光量の検出誤差が生じない。従って、複数の評価遺伝子の発現量を正確にモニターし、評価遺伝子の外部刺激に対する影響を評価することが可能である。
【0102】
以下、本明細書における用語について説明する。
【0103】
本システムは、異なるプロモーター制御下にある評価遺伝子を含む生きた試料に、外部刺激を与え、そのプロモーターに連結された発光関連遺伝子の発現による生物発光量を検出して、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価するものである。
【0104】
本システムにおける「外部刺激」とは、外部刺激部(刺激手段;図示せず)によって試料に与える外部から入力される物理的または化学的な刺激等を意味する。また、その「影響」とは、その入力された外部刺激が、生体等の試料に及ぼす作用をしめし、有害な作用のみならず、有益な作用を含む意味である。
【0105】
化学物質による刺激としては、特に限定されるものではないが、ダイオキシン、ビスフェノールA等の環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)、新薬、農薬、食品添加物、遺伝子導入作物由来食品、その他の新規化学物質を、上述のホスト細胞に対して適当な条件で曝露すればよい。また、栄養成分や老廃物成分の濃度変化等も化学物質による刺激の一例として挙げられる。
【0106】
ここで、曝露する条件であるが、本システムは、生きた試料を用いることを特徴としているため、評価しようとする化学的刺激によって、試料が死滅するような条件であることは好ましくない。ただし、このように、評価対象である化学物質によって試料が死滅するような場合は、例えば、該化学物質が、試料に何らかの悪影響を及ぼすものと評価することができる。
【0107】
なお、評価遺伝子は、直接的な外部刺激の作用によって、発現量が変化(増加または減少)する場合と、間接的な外部刺激の作用(外部刺激が別の遺伝子の発現に作用した結果、評価遺伝子の発現量に影響する)によって、発現量が変化する場合とが考えられる。通常、ある遺伝子の発現量は、複数の遺伝子によって制御されていることが多い。すなわち、外部刺激による評価遺伝子への影響は、直接的なものより、間接的なものの方が多い。つまり、試料に外部刺激を与えると、複数の遺伝子がその刺激に応答し、試料に何らかの変化を与える。
【0108】
従って、本システムにおいて、外部刺激による評価遺伝子の影響を評価する際にも、評価遺伝子の発現量のみではなく、他の遺伝子やタンパク質の発現量の変化も検出して、その検出結果も考慮し、評価することが好ましい。これにより、外部刺激に対する評価遺伝子のみの評価ではなく、外部刺激が影響を及ぼす一連の遺伝子発現ネットワーク(外部刺激による複数の遺伝子の応答)としての評価(解析)が可能となる。その結果、本システムを、遺伝子発現プロファイル解析や、タンパク質プロファイル解析を組み合わせた、詳細な評価システムとして構築できる。
【0109】
このように、本システムでは、評価遺伝子に加えて、それ以外の遺伝子発現量や、タンパク質発現量を検出することが好ましい。これにより、外部刺激に対する評価遺伝子の影響(発現量の変化等)のみではなく、評価遺伝子の発現と、他の遺伝子やタンパク質発現との関連を明らかにできる。
【0110】
一方、物理的刺激の例としても特に限定されるものではないが、例えば、高温もしくは低温等の温度刺激、光による刺激、紫外線(UV)による刺激、電磁波による刺激、気圧の変化や接触等による圧力刺激、湿度による刺激、電気刺激、物理振動等が挙げられる。ここで、物理的刺激の入力条件であるが、前記と同様の理由で、評価しようとする物理的刺激によって、試料が死滅するような条件であることは好ましくない。ただし、このように、評価対象である物理的刺激によって試料が死滅するような場合は、該物理的刺激は、少なくとも試料に何らかの悪影響を及ぼすものと評価することができる。
【0111】
本システムにおける「試料」とは、複数の評価遺伝子を少なくとも含むものであって、生きた試料である。なお、試料としては、ある生物から評価遺伝子を取り出し、別の異なる生物にその評価遺伝子を導入したものであってもよい。すなわち、評価遺伝子を別のホスト細胞に導入してもよい。
【0112】
上記「試料」としては、生きているものであればよく、上記評価遺伝子を有する細胞・組織・器官のみならず、動物・植物個体などを適用できる。さらに、本システムでは、発光関連遺伝子の生物発光量を検出するので、「試料」を生きたままの状態で適用することによって、同一試料での外部刺激に対する影響を評価できる。
【0113】
上記「試料」の対象となる動物は、特に限定されるものではないが、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラットなどのヒトを含む哺乳動物が例示される。また、上記「試料」の対象となる植物には、完全な植物のみならず、その一部、例えば、葉、種子、塊茎、挿木等も含まれるものとする。さらに、上記植物には、予め形質転換された遺伝子組み換え植物やその子孫を起源とする植物組織、プロトプラスト、細胞、カルス、器官、植物種子、胚芽、花粉、卵細胞、接合子などの増殖可能な植物材料;花、茎、実、葉、根などを含む植物の一部;懸濁培養細胞;等も含まれるものとする。また、上記個体には、その子孫およびクローン、ならびに、その子孫およびクローンの繁殖材料が含まれる。
【0114】
特に、試料として、ヒトの細胞や組織を適用すれば、ヒトにおける外部刺激に対する影響を評価することが可能となる。その結果、例えば、各種疾患の病態を遺伝子レベルで解明することができ、新規医薬品や診断薬の開発をする上で重要な役割を担う。
【0115】
また、「評価遺伝子」とは、外部刺激に対する影響を評価する遺伝子であって、異なるプロモーター制御下にある遺伝子である。そして、本システムでは、複数の評価遺伝子の、外部刺激に対する影響を評価する。
【0116】
また、本システムでは、複数の評価遺伝子の発現量を観測するために、各々のプロモーターの下流に、発光関連遺伝子が発現可能に連結されている。これにより、プロモーターが活性化されると、評価遺伝子の発現に加えて、発光関連遺伝子も発現する。すなわち、発光関連遺伝子は、評価遺伝子のレポーター遺伝子である。そして、本システムでは、外部刺激による評価遺伝子の影響(例えば、外部刺激に対する評価遺伝子の発現量の差)を、発光関連遺伝子の発現量や、その発現量から算出した評価遺伝子の発現量などによって評価する。
【0117】
本システムでは、検出部2で、試料中の発光関連遺伝子の発現による生物発光量を検出する。発光関連遺伝子は、各評価遺伝子のプロモーターの下流に、発現可能に連結されている。また、各評価遺伝子は、異なるプロモーターに制御されるものである。従って、検出部2で検出された生物発光量(すなわち、発光関連遺伝子の発現量)は、評価遺伝子の発現量を反映する。
【0118】
ここで、「発光関連遺伝子」とは、発光関連遺伝子の発現によって、直接的または間接的に、異なる波長の光を発する(生物発光を示す)遺伝子であれば特に限定されるものではない。つまり、「発光関連遺伝子」としては、例えば、1)各種ルシフェラーゼ遺伝子のように、発光基質の存在下、生物発光する遺伝子であってもよいし、2)各種GFPをコードする遺伝子のように、励起により蛍光を発する遺伝子であってもよい。
【0119】
ここで、発光関連遺伝子に由来する生物発光量の変化を、経時的に観測する場合には、試料中(生体内または細胞内)で比較的速やかに分解される各種ルシフェラーゼをコードする遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)がより好適に使用される。また、発光関連遺伝子として各種ルシフェラーゼ遺伝子を使用する場合には、その種類に応じて、適切な発光基質(ルシフェリン・酵素反応基質)、高エネルギー物質(ATPやFMNH2)、酸素などを供給する必要がある。なお、発光観測時間などの条件にもよるが、試料に高エネルギー物質や酸素を有している場合、これらを外部から供給する必要がない。また、発光関連遺伝子として各種ルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、発光基質(ルシフェリン)を大過剰存在させればよい。これにより、発光基質が不足することによって、実際の発光関連遺伝子の発現量よりも生物発光量が低下することを回避できる。従って、発光関連遺伝子の生物発光量を経時的、かつ定量的に観測することができる。
【0120】
本システムでは、発光関連遺伝子として、ルシフェラーゼ遺伝子を用いることが非常に好ましい。
【0121】
ルシフェラーゼは、生物発光を触媒する酵素系(オキシゲナーゼ)のことである。生物発光とは、例えば、ホタルの尾部が黄緑色に光る現象や、チョウチンアンコウなどの夜行魚が光ること等をいう。生物発光は、ルシフェラーゼが基質となるルシフェリン(発光素)を酸化して光を放つことによって起こる。
【0122】
ルシフェラーゼの起源としては、ウミホタル、ホタル、土ホタル、ウミシイタケ、鉄道虫、発光細菌、発光ミミズ、オワンクラゲ、ゴニオラックス、発光性渦鞭毛藻、発光イカ(ホタルイカ)、ヒカリボヤ、発光魚(アポゴン)等が知られており、その遺伝子がクローニングされているものもある。また、ルシフェラーゼは、発光器官をもつ生物ごとに、構造や発光の作用機構も異なるため、ルシフェラーゼの違いによって発光色が異なる。表1にクローニングされたルシフェラーゼ遺伝子の一部について、起源、最大発光波長、基質、特徴をまとめた。
【表1】
【0123】
本システムでは、発光関連遺伝子として、その遺伝子の発現によって、異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光関連遺伝子を用いることを特徴としている。従って表1に例示したルシフェラーゼ遺伝子をはじめとして、異なる波長の生物発光を触媒する種々の発光関連遺伝子を適宜組み合わせてホスト細胞に導入すればよい。ただし本発明においては、ルシフェラーゼをレポーターとして様々な外部刺激に対して使用するため、用いるルシフェラーゼとしては、生物発光の波長等が外的環境(例えばpH、温度等)によって影響を受けにくく、安定であることが好ましい。例えば、ホタル由来ルシフェラーゼ(該遺伝子:luc遺伝子)は、pHによって発光する色が黄緑色から橙色に変化するため、2種類以上の生物発光を異なる波長に基づいて測定する場合、正確性に欠けることがある。
【0124】
また、発光細菌由来ルシフェラーゼ(該遺伝子:luxAB遺伝子)やウミシイタケ由来ルシフェラーゼによる生物発光は、安定的に青色を発する点で好ましい。しかし、これらのルシフェラーゼとホタルルシフェラーゼとを組み合わせて本システムに用いた場合は、2種類以上のルシフェリンを基質として加える必要がある。生細胞内の2種類の基質濃度を常に一定(比率)に保つことは検証できない。このため、このような系から得られた生物発光量を直接比較することは、正確性にかけ、定量的でない場合がある。また、操作も煩雑となる。
【0125】
一方、鉄道虫由来ルシフェラーゼによる生物発光は、緑色(最大発光波長550nm、該遺伝子:PvGR遺伝子)と赤色(最大発光波長622nm、該遺伝子:PhRE遺伝子)とを安定的に発することが知られている(特許文献5参照)。すなわち、鉄道虫由来ルシフェラーゼによる生物発光は、細胞の生息条件である中性付近から酸性側においても、pHの影響を受けることがない。
【0126】
また、発光の測定はルシフェリンを加える程度で行うことができるため、細胞に優しい条件で測定が可能である。
【0127】
なお、緑色ルシフェラーゼ遺伝子(PvGR遺伝子)の塩基配列を配列番号1に、該ルシフェラーゼのアミノ酸配列を配列番号2にそれぞれ示した。また、赤色ルシフェラーゼ遺伝子(PhRE遺伝子)の塩基配列を配列番号3に、該ルシフェラーゼのアミノ酸配列を配列番号4にそれぞれ示した。かかるルシフェラーゼを本システムに用いる場合には、それぞれの最大発光波長が70nm以上離れており、それぞれの発光スペクトル(波長ごとの発光量)の重なりが少ないため、後述する実施例において示すごとく、バンドパスフィルター等で容易に分光することが可能であり、それぞれの発光量を同時に測定することが可能であるため好ましい。また、発光基質であるルシフェリンが同一であること、および市販されているホタルルシフェリンが利用可能である点で利便性にもたけている。
【0128】
ここで、異なる波長の生物発光を分光して測定可能な条件は、生物発光を行う生物種および測定装置等によって異なるため限定することができないが、複数の生物発光の発光スペクトルの重なりが少ないことが重要である。例えば、鉄道虫由来の2種類のルシフェラーゼが触媒する生物発光は、発光スペクトルの重なりが少なく、分光し測定することが容易であるため、本発明に好適に利用が可能である。
【0129】
後述の実施例に示した鉄道虫由来のルシフェラーゼが触媒する生物発光を、検出部2によって分光して測定する場合は、最大波長の差が、60nm以上あれば分光可能である。しかし、より高い精度で生物発光を分光するためには、最大波長の差が、80nm以上であることが好ましく、100nm以上あることがさらに好ましく、120nm以上あることが最も好ましい。
【0130】
従って、本システム10では、分光可能な生物発光を触媒するルシフェラーゼを組み合わせて、発光関連遺伝子として使用すれば、それぞれの発光量をそれぞれ同時に測定することが可能である。
【0131】
また、本システムにおいては、2種類のルシフェラーゼに限られず、適宜組み合わせることによって、3種類以上のルシフェラーゼを組み合わせて使用することも可能である。これにより、3種類以上の評価遺伝子の転写活性を、同時に連続的にモニターすることができる。したがって、より複雑な系における、外部刺激と評価遺伝子との関連性を解明できる。このように、外部刺激に対する複数の評価遺伝子の影響評価の精度が増加するため、さらに好ましい。
【0132】
例えば、可能なルシフェラーゼの組合せとしては、鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ(触媒する生物発光の最大波長:622nm)と緑色ルシフェラーゼ(触媒する生物発光の最大波長:550nm)およびウミシイタケ由来青色ルシフェラーゼ(触媒する生物発光の最大波長:480nm)がある(JC Matthews,K Hori,MJ Comier,Purification and properties of Renilla reinformis Luciferase,Biochemistry,16,85−91.参照)。また鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ(触媒する生物発光の最大波長:622nm)と緑色ルシフェラーゼ(触媒する生物発光の最大波長:550nm)および発光細菌由来青色ルシフェラーゼ(触媒する生物発光の最大波長:490nm)の組合せもある。これらの組合せによれば、上述のごとく発する生物発光をバンドパスフィルターにて容易に分光することができ、それぞれの発光量を同時に測定することが可能である。ただし、前述のごとく、これらの青色ルシフェラーゼの酵素特性は、組み合わせる鉄道虫由来ルシフェラーゼと異なるため、測定系の慎重な検討が必要である。
【0133】
ここで、赤色を発するルシフェリン−ルシフェラーゼ反応を触媒する酵素のことを、便宜上赤色ルシフェラーゼと表示する。緑色ルシフェラーゼ、青色ルシフェラーゼについても、同様に表示する。
【0134】
本システムでは、検出部2が、試料に含まれる発光関連遺伝子の発現による複数波長の生物発光量を、試料を破砕することなく(生きた状態のまま)検出する。検出部2における検出手段、検出方法等は上記条件を満たすものであれば、特に限定されるものではない。
【0135】
例えば、発光関連遺伝子として、2種類の鉄道虫由来ルシフェラーゼ遺伝子(赤色ルシフェラーゼ遺伝子:PhRE遺伝子、および緑色ルシフェラーゼ遺伝子:PvGR遺伝子)を導入したシアノバクテリアの生細胞系に対して、当該発光酵素(ルシフェラーゼ)による生物発光を、赤色または緑色のみを透過するバンドパスフィルターによって、それぞれの光を連続的に検出することが可能である。図7は、検出部2の概略図である。
【0136】
より具体的には、図7に示すように、2種類のルシフェラーゼPhREおよびPvGRを発現するシアノバクテリアからの生物発光(Bioluminescence)を、630nm近傍の光を透過するバンドパスフィルター(Band pass filters)と540nm近傍の光を透過するバンドパスフィルターとによってそれぞれの波長の光に分光し、それぞれの光が光電子増倍管(Photomultiplier tubes)PM630およびPM540によって検出され、パルスカウンター(Plus counter)に入りモニターされていることを示している。なお、モニターされている生物発光の量は、発現するルシフェラーゼの量に依存している。また、この装置においては、バンドパスフィルターを透過した光を光電子増倍管によって検出しているが、これは微弱な生物発光を検出し易くするために行っている。よって発光条件等によっては、その他の検出手段を用いてもよい。なお、測定中の試料は、遮光板によって外光が入らないようにしているため、生物発光のみを検出することができる。また、評価システム全体を覆って、外光が入らないようにしてもよい。
【0137】
なお、本システムでは、検出部2によって、試料からの生物発光量を一定間隔で(間欠的に)連続的に測定することが可能であり、また回転可能な試料台11に複数の試料を載置することが可能であるため、複数の外部刺激の影響を評価することができ、新薬等のスクリーニング等には好適に利用可能である。
【0138】
なお、従来の評価方法では、同一細胞内の2種類のルシフェラーゼ活性をそれぞれ測定するために、発光基質の違いを利用していた。この方法では、細胞内の浸透性などの性質が異なる基質を用いるため、それぞれの最適条件下で測定する必要があった。つまり、一方のルシフェラーゼの発光基質による生物発光量を測定した後に、該発光基質あるいは該ルシフェラーゼを失活させ、他方のルシフェラーゼの基質を加えて生物発光量を測定することより、両ルシフェラーゼ活性を測定していた。しかしながら、これら複雑な処理を細胞活動に影響を与えずに生細胞に対して行う方法は無く、また生物発光の連続測定は原理的に不可能であった。そこで従来は、試料の細胞を破砕して生物発光を測定する必要があった。
【0139】
これに対し本システムでは、発光基質を同一にしたこと、および、異なる波長の生物発光量を分離して連続的に検出することによって、2種類のルシフェラーゼ活性を、生きた試料を用いて、連続的に測定することが可能になった。
【0140】
なお、本システムにおいて、プロモーターは、評価遺伝子を発現させるものであれば特に限定されるものではなく、評価しようとする外部刺激や、特定の外部刺激に対する活性を評価したいプロモーターを、適宜選択して発光関連遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)を、異なるプロモーターの下流に連結すればよい。発光関連遺伝子の連結位置は、評価遺伝子のプロモーターに制御され、評価遺伝子とともに発現する位置であればよい。
【0141】
また、本システムでは、評価遺伝子と発光関連遺伝子とを含む遺伝子構築物をホスト細胞に導入して、このホスト細胞を試料として用いることもできる。
【0142】
具体的には、複数の発光関連遺伝子を、それぞれ外部刺激に対する影響を評価しようとする別々のプロモーターの下流に連結して、遺伝子構築物(以下適宜発現ベクターと称する)を作製する。ここで選択するプロモーターは、導入するホスト細胞中で機能するものであれば、特に限定されるものではない。評価しようとする外部刺激や、特定の外部刺激に対する活性を評価したいプロモーターを、適宜選択してルシフェラーゼ遺伝子を連結すればよい。ただし、それぞれのルシフェラーゼ遺伝子は、別々のプロモーターに連結する必要がある。そうでなければ、一波長のルシフェラーゼによって、1つのプロモーター活性の動態を見ていることと何ら変わりがないからである。
【0143】
また上記発現ベクターには、プロモーター以外の種々のDNAセグメントが含まれていてもよい。DNAセグメントとしては、例えば、ターミネーターを挙げることができる。また、必要に応じて、キメラタンパク質を発現させるために、他のタンパク質をコードする遺伝子や、このような遺伝子を導入するための制限酵素認識部位(マルチクローニングサイト等)を含んでいてもよい。
【0144】
また発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどを用いることができるが、特に限定されるものではない。上記発現ベクターを構築する方法(作製方法)は具体的には特に限定されるものではなく、ルシフェラーゼ遺伝子およびプロモーター等のDNAセグメントと、上述したベースとなるベクターとを、公知の組換えDNA技術を用いてつなげればよい。また、構築された発現ベクターの増殖方法(生産方法)も特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。一般的には大腸菌をホストとして当該大腸菌細胞内で増殖させればよい。このときベクターの種類に応じて、好ましい大腸菌の種類を選択してもよい。
【0145】
前記遺伝子構築物を導入するホスト細胞は、該遺伝子構築物によってそれぞれのルシフェラーゼ遺伝子が導入可能なものであり、導入されたルシフェラーゼが機能するものであれば、特に限定されるものではない。ホスト細胞の由来は、特に限定されるものではないが、動物であっても、植物であってもよい。また微生物であってもよい。さらに微生物は、細菌、ラン藻類の原核生物または、酵母、糸状菌類をはじめとする真核生物のいずれであってもよい。より具体的には、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeや分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、メダカやゼブラフィッシュ等の魚類個体および卵胞細胞、アフリカツメガエル(Xenopas laevis)の卵母細胞、あるいは、キイロショウジョウバエ、カイコガ等の昆虫の培養細胞等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0146】
後述する実施例においては、鉄道虫由来の2種類のルシフェラーゼ遺伝子(PvGR遺伝子、PhRE遺伝子)をそれぞれ別々のプロモーターの下流に連結して作製した遺伝子構築物を、細菌類であるシアノバクテリア(Synechococcus elongatus PCC 7942株)に導入し、赤色および緑色の生物発光を得ることに成功している。
【0147】
上述の実施例に用いたシアノバクテリアは、藍色細菌またはラン藻とも呼ばれ、概日時計(概日リズム)を持つ生物である。概日時計(概日リズム)とは、時間に関係する外部刺激を除いた状態においても現れる約24時間の周期を持つ内因性の生体リズムのことであり、サーカディアンリズムともいう。例えば、植物の葉の運動、動物の代謝、ホルモン分泌、神経活動、睡眠−覚醒、摂食・摂水行動、生殖腺発育の光周性などの生理現象が挙げられる。
【0148】
シアノバクテリアにおいては、全ての遺伝子の発現がこの概日時計に制御されている。つまり、遺伝子発現に関与する全てのプロモーターは、概日時計に巧みに制御されている。かかる概日時計に制御されている複数のプロモーターの下流に、複数のルシフェラーゼ遺伝子をそれぞれ連結し、その生物発光を検出すれば、その概日リズムを連続的にモニターすることができる。そこで、評価しようとする外部刺激を入力する前後で、このリズムに変化があるかどうかを検討することによって、その影響を評価することが可能となる。よって、シアノバクテリアは、本システムに使用するホスト細胞として好適に用いることができる。
【0149】
この他、概日時計を有する生物であれば、本発明にかかる外部刺激の影響評価方法に使用するホスト細胞として、好適に使用することが可能である。例えば、シロイナズナ、イネ、ショウジョウバエ、アカパンカビ等が挙げられる。
【0150】
なお、遺伝子の導入方法は特に限定されるものではないが、アグロバクテリウム法、パーティクルガンによる方法、プロトプラスト/スフェロプラスト法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0151】
ルシフェラーゼ遺伝子(発光関連遺伝子;上記遺伝子構築物(発現ベクター))がホスト細胞に導入されたか否かを確認する方法は、特に限定されるものではなく、公知の各種の方法を用いることができる。具体的には、例えば、ホストから調製したゲノムDNAを鋳型とし、ルシフェラーゼ遺伝子全長を特異的に増幅するいわゆるジェノミックPCR法を挙げることができる。この方法によって、ルシフェラーゼ遺伝子が増幅されてくることを電気泳動法等によって確認できれば、ルシフェラーゼ遺伝子の導入を確認することができる。
【0152】
また、その他の方法としては、例えば、各種マーカーを用いてもよい。例えば、宿主細胞中で欠失している遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーとルシフェラーゼ遺伝子とを含むプラスミド等を発現ベクターとして宿主細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現からルシフェラーゼ遺伝子の導入を確認することができる。あるいは、ルシフェラーゼを融合タンパク質として発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質GFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、ルシフェラーゼをGFP融合タンパク質として発現させてもよい。さらに、発現ベクターには、形質転換植物体における発現部位を可視化してモニターするための遺伝子を導入することもできる。このような遺伝子の一例としては、β−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を挙げることができる。
【0153】
なお、多くの生命現象は、複数の遺伝子の関与により、複数の遺伝子の発現量を調節して成立している場合が多い。このため、生命現象を解明するためには、複数の遺伝子の相関を明らかにする必要がある。また、ゲノム解析の進行に伴い、塩基配列が明らかな機能不明の遺伝子が多く見出されている。したがって、この機能不明の遺伝子の機能を解明することは、生命現象を解明する上でも重要となる。
【0154】
本システムにおいて、複数の評価遺伝子の1つとして、ある外部刺激に対する影響が明らかな遺伝子(遺伝子X)を用い、その他の評価遺伝子として、その外部刺激に対する影響が不明な遺伝子(遺伝子Y)を用いれば、外部刺激に対する遺伝子Yの影響が明らかになるとともに、外部刺激に対する遺伝子Xと遺伝子Yとの相関も明らかとなる。それゆえ、本発明の評価システムは、機能未知遺伝子の機能解析を行う上でも有用である。
【0155】
(B)外部刺激の影響評価方法
本発明は、外部刺激の影響評価方法に関するものである。ここで、「外部刺激」とは、外部から入力される物理的または化学的な刺激等を意味する。またその「影響」とは、その入力された外部刺激が、生体等に及ぼす作用をしめし、有害な作用のみならず、有益な作用を含む意味である。本発明では、かかる外部刺激の影響を以下に挙げる各工程を経て評価するものである。
【0156】
本発明にかかる外部刺激の影響評価方法は、(I)異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる遺伝子構築物を、ホスト細胞に導入する工程(以下便宜上「遺伝子導入工程」と称す)と、(II)当該ホスト細胞に外部刺激を与える工程(以下便宜上「外部刺激入力工程」と称す)と、(III)当該ホスト細胞が発する複数波長の生物発光量を、細胞破砕することなく検出する工程(以下便宜上「検出工程」と称す)と、(IV)外部刺激を与える前後における上記発光量の動態を比較する工程(以下便宜上「比較工程」と称す)とからなっている。以下それぞれの工程ごとに本発明を説示する。
【0157】
(I)遺伝子導入工程
〈発光酵素および発光酵素遺伝子〉
本発明にかかる外部刺激評価方法は、ルシフェラーゼまたはルシフェラーゼ遺伝子を用いることが非常に好ましい。
【0158】
本発明にかかる外部刺激評価方法は、異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素遺伝子を用いることを特徴としている。従って表1に例示したルシフェラーゼ遺伝子をはじめとして、異なる波長の生物発光を触媒する種々の概遺伝子を適宜組み合わせてホスト細胞に導入すればよい。ただし本発明においては、ルシフェラーゼをレポーターとして様々な外部刺激に対して使用するため、用いるルシフェラーゼとしては、生物発光の波長等が外的環境(例えばpH、温度等)によって影響を受けにくく、安定であることが好ましい。例えば、上述のように、鉄道虫由来ルシフェラーゼによる生物発光を特に好適に用いることができる。
【0159】
分光し測定可能な条件としては、上述のように、複数の生物発光の発光スペクトルの重なりが少ないことが重要である。
【0160】
よって本発明においては、分光可能な生物発光を触媒するルシフェラーゼを組み合わせて使用すれば、それぞれの発光量をそれぞれ同時に測定することが可能である。
【0161】
また、本発明にかかる外部刺激評価方法においては、2種類のルシフェラーゼに限られず、適宜組み合わせることによって、3種類以上のルシフェラーゼを組み合わせて使用することも可能である。これにより、3種類以上の遺伝子の転写活性を同時に連続的にモニターすることができ、より複雑な系における外部刺激の影響評価が可能となる。よって外部刺激の影響評価の精度が増加することとなるため、さらに好ましい。
【0162】
<遺伝子構築物>
本工程においては、上述の複数の発光酵素遺伝子を、それぞれ外部刺激に対する応答を検討しようとする別々のプロモーターの下流に連結して、遺伝子構築物(以下適宜発現ベクターと称する)を作製する必要がある。ここで選択するプロモーターは、上述のように、導入するホスト細胞中で機能するものであれば、特に限定されるものではなく、評価しようとする外部刺激や、特定の外部刺激に対する活性を評価したいプロモーターを、適宜選択してルシフェラーゼ遺伝子を連結すればよい。ただし、それぞれのルシフェラーゼ遺伝子は、別々のプロモーターに連結する必要がある。そうでなければ、一波長のルシフェラーゼによって、1つのプロモーター活性の動態を見ていることと何ら変わりがないからである。
【0163】
また、上記発現ベクターには、上述のように、プロモーター以外の種々のDNAセグメントが含まれていてもよい。
【0164】
<ホスト細胞>
上記遺伝子構築物を導入する非哺乳類由来ホスト細胞は、上記遺伝子構築物によってそれぞれのルシフェラーゼ遺伝子が導入可能なものであり、導入されたルシフェラーゼが機能するものであれば、特に限定されるものではない。由来となる非哺乳類としては、特に限定されるものではないが、動物であっても、植物であってもよい。また微生物であってもよい。さらに微生物は、細菌、ラン藻類の原核生物または、酵母、糸状菌類をはじめとする真核生物のいずれであってもよい。より具体的には、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeや分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、メダカやゼブラフィッシュ等の魚類個体および卵胞細胞、アフリカツメガエル(Xenopas laevis)の卵母細胞、あるいは、キイロショウジョウバエ、カイコガ等の昆虫の培養細胞等を挙げることができる。
【0165】
<遺伝子導入方法>
遺伝子の導入方法は特に限定されるものではない。上述のように、アグロバクテリウム法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0166】
ルシフェラーゼ遺伝子(上記遺伝子構築物(発現ベクター))がホスト細胞に導入されたか否かを確認する方法も、特に限定されるものではなく、上述のように、公知の各種の方法を用いることができる。
【0167】
(II)外部刺激入力工程
本工程においては、上述の遺伝子導入工程にて複数のルシフェラーゼ遺伝子が導入されたホスト細胞に、影響を評価しようとする外部刺激を与える。外部刺激とは、外部からホスト細胞に対して入力されるものであって、その影響を評価しようとするものであれば特に限定されるものではなく、例えば化学物質による刺激(化学的刺激)であっても、物理的刺激であってもよい。また、化学的刺激と物理的刺激を同時に入力するものであってもよい。
【0168】
化学物質による刺激としては、上述のように、特に限定されるものではなく、上述のホスト細胞に対して適当な条件で曝露すればよい。
【0169】
ここで、曝露する条件であるが、本発明にかかる外部刺激の影響評価方法は、生細胞を用いることを特徴としているため、評価しようとする化学的刺激によって、ホスト細胞が死滅するような条件であることは好ましくない。
【0170】
一方、物理的刺激の例としても、上述のように特に限定されるものではない。
ここで、物理的刺激の入力条件であるが、前記と同様の理由で、評価しようとする物理的刺激によって、試料が死滅するような条件であることは好ましくない。
【0171】
(III)検出工程
本発明における検出工程では、ホスト細胞が発する複数波長の生物発光量を、細胞破砕することなく検出することを特徴としている。
【0172】
本工程における検出手段、検出方法等は上記条件を満たすものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、上述の本発明にかかる生細胞を用いた外部刺激に対する影響評価システムを用いて好適に行うことができる。
【0173】
上述の本発明にかかる生細胞を用いた外部刺激に対する影響評価システムを用いることによって、測定サンプルからの発光量を一定間隔で連続的に測定することが可能であり、またターンテーブルに複数のサンプルを設置することが可能であるため、複数の外部刺激の影響を評価することができ、新薬等のスクリーニング等には好適に利用可能である。
【0174】
(IV)比較工程
本工程は、上述した検出工程によって、外部刺激を入力する前後のプロモーター活性をモニターしておき、そのデータを比較することによって、その影響を評価するというものである。これまでは、ある一点における単一のプロモーター活性の変化を観察して影響を評価していたために、看過する可能性が非常に高かったのに対して、本発明にかかる外部刺激の影響評価方法においては、複数のプロモーター活性を連続的にモニターすることができるため、外部刺激の影響を看過する可能性が非常に少ないものといえる。
【0175】
さらに詳細に説明すると、本発明にかかる外部刺激の影響評価方法は、以下の点で優れている。
【0176】
(1)連続測定による生物発光の動態をとらえることで、外部刺激に対する応答反応の全容を一度に測定することが可能である。換言すれば、個々の応答反応に対する網羅性がある。より具体的に説示すれば、以下のとおりとなる。前述の概日時計をもつ生物の細胞をホスト細胞としている場合は、概日リズムを示すプロモーター活性は一定の周期で常に変化している。よって、一点の測定では外部刺激の影響によりその前後でプロモーター活性に何らかの変化があった場合でも、結果の評価が不可能である。しかし、外部刺激の入力前後のプロモーター活性を長期間連続的に測定し比較することで、その影響を評価することが可能になる。
【0177】
例えば、後述する実施例では、概日時計を持ち、かつ光合成するシアノバクテリアに対して、光の照度を変化させることを外部刺激として入力し、その前後に置けるプロモーター活性をモニターし比較した。なお、シアノバクテリアは、光合成を行う細菌であるため光の影響を受け易い性質を有している。その結果、図12A〜図12Cに示すごとく、2つのプロモーター活性における概日リズムの変化を観察することができた。また、モニターした2つのプロモーターそれぞれにおける、異なった応答パターンを捕らえることができた。
【0178】
(2)同種の外部刺激に応答する2種類のプロモーターを用いることで、少なくとも2つの観点から外部刺激に対する応答を、モニターすることが可能となり、看過する可能性が減少する。換言すれば、多数のサンプル(プロモーター)に対する網羅性がある。例えば、環境ホルモン毒性に関するマーカー遺伝子群(例えばチトクロームP450CY1A1,1B1および2A1当為の薬物誘導遺伝子、ダイオキシンの受容体であるアリルハイドロカーボン受容体等の薬物受容体関連遺伝子等)のプロモーターの下流に、複数のルシフェラーゼ遺伝子を連結し、そのプロモーター活性の変化をそれぞれのルシフェラーゼによる生物発光をモニターすることができる。このことにより、被検物質を曝露させる前後で比較することにより、被検物質中の環境ホルモン毒性を、1回のトライアルで看過することなく検出することが可能となる。
【0179】
(3)一方のルシフェラーゼ遺伝子を外部刺激に応答するプロモーター制御化に置き、他方のルシフェラーゼ遺伝子を別のプロモーター(例えば恒常的に発現するプロモーター)の制御下に置くことで、対照区として用いることができ、プロモーター活性の変化と刺激との相関を検証することが可能となる。換言すれば、測定結果の評価の妥当性を担保することができる。具体的に説示すれば以下のとおりである。入力する外部刺激によっては、細胞自身の活性・状態を大きく変化させる場合があり、このとき細胞内の転写活性化能全体に大きな影響を与えることがある。かかる場合に単一もしくは複数同種の刺激応答プロモーターの活性変化のみを測定しても、その変化の原因が刺激に応答したことに起因するのか、細胞自体が変化に起因するものかの評価ができない。そこでモニターする2つのプロモーターの一方を恒常的に発現するものとすることで(対照区とすることで)、評価の妥当性の判断が容易となる。
【0180】
よって本発明にかかる外部刺激の影響評価方法は、複雑なシグナル伝達で成り立っている生体の生理活性を、同一の個体を用い、かつ1回のトライアルで、観察することが可能であり、その有効性は明らかである。
(C)外部刺激の影響評価用キット
本発明では、前述の外部刺激の影響評価方法を実施するためのキット(以下適宜「本発明にかかるキット」と称す)を提供することができる。本発明にかかるキットを構成する試薬、器具、装置等は、該外部刺激の影響評価方法を実施することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、異なる波長の生物発光を触媒する複数のルシフェラーゼ遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる遺伝子構築物が導入されたホスト細胞、および/または当該ルシフェラーゼが触媒する異なる波長の生物発光をモニターする検出器が挙げられる。
【0181】
異なる波長の生物発光を触媒する複数のルシフェラーゼ遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる遺伝子構築物が導入されたホスト細胞としては、特に限定されるものではないが、例えば、鉄道虫由来の赤色および緑色ルシフェラーゼ遺伝子をそれぞれKaiBCプロモーターおよびtrcプロモーター制御下に組み込んだ遺伝子構築物が導入されたシアノバクテリアが挙げられる。この他、さらに別のプロモーター制御下のウミシイタケ由来青色ルシフェラーゼ遺伝子を同シアノバクテリアに導入したものでもよい。
【0182】
また本発明にかかるキットには、当該ルシフェラーゼが触媒する異なる波長の生物発光をモニターする検出器が含まれていてもよい。光の検出器は、特に限定されるものではなく、公知の光度計等を用いればよい。ただし生物発光は微弱であるため、適宜公知の光電子増倍管によって増幅させて検出することが好ましい。さらに、光度計によって得られたデータを記録するためにレコーダー、データを表示するためのモニター、データ処理をするためのソフトウエア、およびハードウエアが含まれていてもよい。
【0183】
また本発明にかかるキットには、上述のホスト細胞からの複数波長の生物発光をそれぞれ別々に検出するために、特定の波長のみを透過する干渉フィルターが含まれていてもよい。干渉フィルターは、導入されたルシフェラーゼの発光波長に応じて選択すればよく、例えば、鉄道虫由来の赤色ルシフェラーゼの発光を検出するためには、630nm近傍の光を透過する干渉フィルターを用いればよい。また同緑色ルシフェラーゼの発光を検出するためには、540nm近傍の光を透過する干渉フィルターを用いればよい。
【0184】
その他本発明にかかるキットに含まれるものは、外部刺激の影響を評価する方法、条件等に応じて適宜変更を加えてもよい。
【0185】
本発明にかかるキットによれば、前述の外部刺激の影響評価方法を実施することができ、複雑なシグナル伝達で成り立っている生体の生理活性を、同一の個体を用いかつ1回のトライアルで、観察することが可能となる。
【0186】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれに開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0187】
以下、本システムおよび本発明にかかる外部刺激の影響評価方法を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0188】
はじめに、本実施例において使用する材料、および試験方法について説明する。
【0189】
〔シアノバクテリア細胞株、培養条件、形質転換方法〕
ルシフェラーゼ遺伝子を導入するホスト細胞としてシアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC 7942株を用いた。培養条件や細胞への形質転換法は文献(Kutsuna,S.,Kondo,T.,Aoki,S.& Ishiura,M.A period−extender gene,pex,that extends the period of the circadian clock in the cyanobacterium Synechococcus sp.PCC 7942.J.Bacteriol.180,2167−2174(1998).)に従った。
【0190】
培養方法を簡単に説明すると、以下のとおりである。液体培養は、通気もしくは振盪しながらBG11培地にて30℃、約3000luxの白色蛍光灯下で行った。また生物発光の測定時等には、BG11寒天培地にて30℃、約3000luxの白色蛍光灯下で培養を行った。
【0191】
BG11培地の組成は、硝酸ナトリウム1.5g/l、塩化カルシウム2水和物36mg/l、クエン酸鉄アンモニウム12mg/l、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩1mg/l、リン酸水素2カリウム40mg/l、硫酸マグネシウム6水和物75mg/l、炭酸ナトリウム20mg/l、硼酸2.86mg/l、塩化マンガン4水和物1.81mg/l、硫酸亜鉛7水和物0.222mg/l、モリブデン酸ナトリウム2水和物0.39mg/l、硫酸銅5水和物0.079mg/l、および硫酸コバルト6水和物0.049mg/lである。なお、BG11寒天培地は、上記BG11培地に、寒天を15g/lとなるように添加してオートクレーブ後、シャーレ内で固化させたものを使用した。
【0192】
また、形質転換方法は自然形質転換法により行った。簡単に説明すると以下のとおりである。液体培養で730nmの吸光度が0.5程度まで増殖させ、遠心分離により集菌した。次に、10mMの食塩水で菌を洗浄し、再び遠心分離により集菌した。730nmの吸光度が2.5になるようにBG11培地で再懸濁し、菌懸濁液1mlあたり1μgの形質転換用のDNAコンストラクトを加えて、30℃暗所で一晩振盪培養を行った。適量の培養液をBG11寒天培地上に塗布し、約500luxの白色蛍光灯下で一日培養したのち、寒天培地に適当な抗生物質(カナマイシンは10mg/l,クロラムフェニコールは15mg/lの濃度)を添加し、前記通常の培養条件下で生育させ、形質転換コロニーを得た。
【0193】
〔生物発光測定条件および測定装置〕
生物発光測定には、30から50個のコロニーを一枚のプレート(直径40mm、アサヒテクノガラス社)で培養した細胞を使用した。培地は、ルシフェラーゼの発光基質として0.5mMのD−luciferin(ホタル由来、ナトリウム塩、Biosynth AG社)を含むように調製した。プレート上の細胞は、白色光下(34μmol/m2/s、30℃)で5日間培養後、12時間暗期処理をし、評価システムで連続発光測定を行った。
【0194】
生物発光の検出(検出部)には、二つの光電子倍増管(浜松ホトニクス、R329P)を使用し、一方には緑色光(540nm近傍)のみを透過するバンドパスフィルター(MY0540,朝日スペクトラ)を装着し、他方には赤色光(630nm近傍)のみを透過するバンドパスフィルター(MY0630,朝日スペクトラ)を装着した。円盤に配置したサンプルプレートを一定周期(30分/回転)で回転させることによって、それぞれのプレートからの生物発光を、一定間隔で連続的に測定した。
【0195】
〔シアノバクテリアに遺伝子導入する際に用いたプラスミドベクター〕
<緑色ルシフェラーゼ遺伝子をtrcプロモーター下で発現させる遺伝子構築物(NS2trcPvGR)の作製>
発現ベクターpTrc99A(アマシャムバイオサイエンス社)のtrcプロモーターの下流、rrnBターミネーター上流にPvGR遺伝子(配列番号1参照)のコード領域をクローニングした。
【0196】
シアノバクテリアへの外来遺伝子導入は、そのゲノムDNA内へ相同組み換えによって行われる。遺伝子導入をしてもシアノバクテリアに害を与えない「ニュートラルサイト」と呼ばれるゲノム上の座が知られている。かかるニュートラルサイト2(NS2)に挿入するためのプラスミドベクターpNS2KmTにtrcプロモーター、PvGR遺伝子とrrnBターミネーターを含む領域をクローニングした(Kutsuna,S.,Kondo,T.,Aoki,S.& Ishiura,M.A period−extender gene,pex,that extends the period of the circadian clock in the cyanobacterium Synechococcus sp.PCC 7942.J.Bacteriol.180,2167−2174(1998).参照)。
【0197】
この遺伝子構築物により、カナマイシン耐性を選抜マーカー遺伝子として、目的の遺伝子構築物をゲノム内にもつシアノバクテリアPtrcGR株を作製した。
【0198】
なお、trcプロモーターは、概日時計を持たない大腸菌由来のプロモーターであるが、シアノバクテリアに導入すると、その概日時計によって制御されることが知られている(Liu,Y.,Tsinoremas,N.F.,Johnson,C.H.,Levedeva,N.V.,Golden,S.S.,Ishiura,M.and Kondo,T.Circadian orchestration cf gene expression incyanobacteria.Genes Dev.,9,1496−1478(1995)参照)。
【0199】
<赤色ルシフェラーゼ遺伝子をkaiBCプロモーター下で発現させる遺伝子構築物(NS1kaiPhRE)>
発現ベクターptrc99a(アマシャムバイオサイエンス社)のtrcプロモーターの下流、rrnBターミネーター上流にPhRE遺伝子(配列番号3参照)のコード領域をクローニングした。この遺伝子構築物からtrcプロモーター領域を、kaiBCプロモーター領域に置換した。kaiBCプロモーター領域としては、kaiB遺伝子の上流にあるkaiA遺伝子の終止コドンからkaiB遺伝子の開始コドンまでを用いた(非特許文献2参照)。NS2trcPvGRと同様、ニュートラルサイトに挿入するため、プラスミドベクターpNS1CmにkaiBCプロモーター、PhRE遺伝子とrrnBターミネーターを含む領域をクローニングした(Kutsuna,S.,Kondo,T.,Aoki,S.& Ishiura,M.A period−extender gene,pex,that extends the period of the circadian clock in the cyanobacterium Synechococcus sp.PCC 7942.J.Bacteriol.180,2167−2174(1998).参照)。この構築物は、NS2trcPvGRと異なるニュートラルサイト1(NS1)に目的塩基配列を導入した。
【0200】
NS1kaiPhREにより、クロラムフェニコール耐性を選抜マーカー遺伝子として、目的の遺伝子構築物をゲノム内にもつシアノバクテリアPkaiRE株を作製した。
【0201】
また同様にして、上述の2つの遺伝子構築物をゲノム内に導入したシアノバクテリアPtrcGRPkaiRE株を作製した(図7)。
【0202】
〔発光細菌由来青色ルシフェラーゼ、鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ、鉄道虫由来緑色ルシフェラーゼの比較〕
シアノバクテリアの概日時計によって制御されているkaiBCプロモーターの下流に発光細菌由来の青色ルシフェラーゼ遺伝子、鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ遺伝子および鉄道虫由来緑色ルシフェラーゼ遺伝子を連結して、シアノバクテリアに導入したときの、生物発光を連続的に測定した。
【0203】
図8にその結果を示した。図8のAは、発光細菌由来ルシフェラーゼ遺伝子をkaiBCプロモーター下流に連結し、シアノバクテリアに導入した場合の生物発光を連続的に測定した結果を示す。また図8のBには、鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ遺伝子をkaiBCプロモーター下流に連結し、シアノバクテリアに導入した場合の生物発光を連続的に測定した結果を示す。また図8のCには、鉄道虫由来緑色ルシフェラーゼ遺伝子をkaiBCプロモーター下流に連結し、シアノバクテリアに導入した場合の生物発光を連続的に測定した結果を示す。
【0204】
図8のA〜Cの結果より、それぞれのルシフェラーゼ遺伝子を単独でシアノバクテリアの導入した場合においては、それぞれ同様に概日リズムを刻んでいるということがわかった。よって、それぞれのルシフェラーゼの発現が、概日時計によって制御されており、各ルシフェラーゼ遺伝子が、シアノバクテリアのプロモーター活性をモニターする手段として適切であるということがわかった。
【0205】
〔バンドパスフィルターを用いた生物発光の測定〕
kaiBCプロモーターの下流に鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ遺伝子を連結しシアノバクテリアに導入したPkaiRE株と、trcプロモーターの下流に鉄道虫由来緑色ルシフェラーゼ遺伝子を連結しシアノバクテリアに導入したPtrcGR株それぞれの生物発光を、検出部にて測定した。
【0206】
図9にPkaiRE株の測定結果を、図10にPtrcGR株の測定結果を示した。図3の結果では、赤色光のみを発しているPkaiRE株の生物発光を、630nm近傍の光(赤色)を透過するバンドパスフィルター、および540nm近傍の光(緑色)を透過するバンドパスフィルターを経由してそれぞれ検出すると、630nm近傍の光(赤色)を透過するバンドパスフィルターを経由して検出した結果のみに生物発光の概日リズムが観察され、540nm近傍の光(緑色)を透過するバンドパスフィルターを経由して検出した場合には生物発光がほとんど検出されなかった。
【0207】
一方、図10の結果では、逆に緑色光のみを発しているPtrcGR株の生物発光を、630nm近傍の光(赤色)を透過するバンドパスフィルター、および540nm近傍の光(緑色)を透過するバンドパスフィルターを経由して検出すると、540nm近傍の光(緑色)を透過するバンドパスフィルターを経由して検出した結果のみに生物発光の概日リズムが観察され、630nm近傍の光(赤色)を透過するバンドパスフィルターを経由して検出した場合には生物発光がほとんど検出されなかった。
【0208】
以上図9、図10の結果より、2種類のバンドパスフィルターによって、赤色光(630nm)および緑色光(540nm)をそれぞれ分別して測定できるということがわかった。
【0209】
〔生物発光の測定〕
赤色および緑色のルシフェラーゼをダブル導入したPtrcGRPkaiRE株の生物発光を、検出部にて測定した。
【0210】
図11Aおよび図11Bは、比較としてそれぞれのルシフェラーゼ遺伝子を単独で導入した株(それぞれPkaiRE株、PtrcGR株)の生物発光を、連続的に測定した結果を示す。また図11Cには、PtrcGRPkaiRE株の生物発光を測定した結果であり、同左図は630nm近傍の光(赤色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示し、同右図は540nm近傍の光(緑色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示した。
【0211】
図11Aの結果と、図11C左図の結果および図11Bの結果と、図11C右図の結果がほぼ一致したことより、本システムを用いることによって、2種類のルシフェラーゼを導入したシアノバクテリアの2種類のプロモーター活性を、細胞破砕することなく、連続的かつ同時に測定することが可能であるということがわかった。
【0212】
〔本システムによる外部刺激の影響評価〕
赤色および緑色のルシフェラーゼを導入したシアノバクテリアPtrcGRPkaiRE株に照射する光の照度を、34μmol/m2/sから8.4μmol/m2/sに変化させたときの生物発光を測定した。
【0213】
図12Aは、PtrcGRPkaiRE株の生物発光を測定した結果であり、左図は630nm近傍の光(赤色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示し、右図は540nm近傍の光(緑色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示した。図6BおよびCには、比較としてそれぞれのルシフェラーゼ遺伝子を単独で導入した株(それぞれPkaiRE株、PtrcGR株)の生物発光を連続的に測定した結果を示す。なお図中の矢印は、シアノバクテリアへの照射光の照度を34μmol/m2/sから8.4μmol/m2/sに変化させた時点を示す。
【0214】
なお、シアノバクテリアは、光合成を行う細菌であるため光の影響を受け易い性質を有している。よって本実施例では、光の照度を変化させることを外部刺激として入力し、その前後に置けるプロモーター活性をモニターし比較することとした。
【0215】
図12Aの結果によれば、照射光の照度を変化させる前後で、明らかに2色の生物発光のリズムがそれぞれ大きく変化したことが観察できる。つまり2種類のプロモーター活性の変化を、それぞれ分別してモニターすることができた。またかかる2種類のプロモーターは、照度変化に対してそれぞれ異なった応答パターンを示したにも関わらず、それぞれを捕らえることができた。また比較として検討した図12Bおよび図12Cの結果と、図12Aのそれぞれ結果とが一致していたことより、それぞれのプロモーター活性動態を同時にモニターすることができるということがわかった。
【0216】
よって、外部刺激を入力する前後の概日リズムを比較することによって、プロモーター活性への影響をリアルタイムで評価することができる。つまり、本システムによれば、複雑なシグナル伝達で成り立っている生体の生理活性の動態を、同一個体を用いた1回のトライアルで観察することが可能となるため、入力した外部刺激の生体への影響をより詳細かつ正確に捕らえることが可能となる。
【0217】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0218】
以上のように、本発明によれば、試料を破砕することなく評価遺伝子の発現量を検出することができるので、外部刺激を与える前後の評価遺伝子の発現量を、同一試料で比較することができる。それゆえ、より信頼性の高い解析ができるため、遺伝子レベルでの新規医薬品のスクリーニングや、各種疾患解析等を行うことが可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生細胞を用いた外部刺激の影響評価方法およびその方法を行うためのキット、並びに外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価するシステムに関するものであり、より詳細には、例えば、異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素(以下適宜ルシフェラーゼと称す)遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる遺伝子構築物を、ホスト細胞に導入する工程と、当該ホスト細胞に外部刺激を与える工程と、当該ホスト細胞が発する複数波長の生物発光量を、細胞破砕することなく検出する工程と、外部刺激を与える前後における発光量の動態を比較する工程とを具備する外部刺激の影響評価方法、およびその方法を行なうためのキット、並びに異なるプロモーター制御下にある複数の評価遺伝子が、外部刺激によって、どのような影響を示すかを評価するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ダイオキシンをはじめとする環境ホルモン等の化学物質の生態系に及ぼす影響の評価、新規化学物質や新薬等の安全性評価、その他熱、紫外線、電磁波、放射能等の物理的刺激等、様々な外部刺激が生体に及ぼす影響を評価することの重要性がうたわれ、これらを評価する方法の開発が試みられている(例えば、特許文献1参照)。かかる影響評価の生命科学的アプローチの一つとして、細胞内で起こる遺伝子発現量(すなわち、遺伝子の転写活性)を測定するというものがある。また、細胞内における遺伝子発現量の測定を行うことは、細胞内情報伝達物質の伝播、あるいは個々のタンパク質群の発現解析等に用いることができ、学術的な意義のみならず医薬・薬学の発展に重要である。
【0003】
これまで、遺伝子発現量の測定は、ウエスタンブロット法等を用いて発現タンパク質量を直接的に測定する方法または、解析しようとするプロモーター領域の下流に発光酵素(ルシフェラーゼ)遺伝子をレポーター遺伝子として連結し、当該ルシフェラーゼに由来する生物発光量から間接的に測定する方法が知られている。しかしこれらの方法では、細胞を破砕して測定を行うため、生細胞の解析および連続測定は、不可能である。
【0004】
そこで近年、ホタル由来発光酵素(ルシフェラーゼ)やバクテリア由来発光酵素(ルシフェラーゼ)を用いて、当該ルシフェラーゼに由来する生物発光量から連続的に遺伝子発現量を定量化する方法および装置が開発された。(例えば特許文献2および特許文献3参照)。
【0005】
また、蛍光タンパク質(例えばgreen fluorescent protein(GFP),yellow fluorescent protein(YFP))遺伝子と目的遺伝子とを融合して発現させた融合タンパク質を検出する方法が知られている。蛍光タンパク質は、細胞内で発現するのと同時に、補因子を特に必要とすることなく、蛍光活性を有するという利点がある。よって、蛍光タンパク質は、細胞内での蛍光活性を指標に、タンパク質の局在性等に関するモニタータンパク質として利用することができる。さらに蛍光色の異なる蛍光タンパク質により、2種類以上の情報を検知することも可能である。しかし、本方法は、蛍光量を検出するため、定量性に欠け、定量分析には不適であるという欠点がある(例えば、非特許文献1参照)。また、検出には、励起光を照射する必要があるため、連続的な遺伝子発現量の測定のためのレポーターとしての利用も適さない。特に、光合成を行う生物群(例えばシアノバクテリア等)においては、光が生体に及ぼす影響が大きく不適である。
【0006】
ところで、生命現象は、細胞内において、複数の情報伝達により成り立っている場合が多く、これら細胞内における現象を精査し外部刺激に対する影響を評価するためには、複数の遺伝子発現量を定量的かつ連続的に測定する技術の構築が必要である。例えば、シアノバクテリア等の体内時計における概日リズムは、kai遺伝子群のKaiA、KaiB、KaiC遺伝子産物によって相互に制御されることによって成立する。また、ヒト体内時計についても、その24時間のリズムを発振するPer遺伝子は、Clock、BMAL遺伝子産物によって制御される。そのため、これらの体内時計を正確に測定するためには、複数の遺伝子発現量の測定を同時に行う必要がある(例えば、非特許文献2および非特許文献3参照)。
【0007】
これまで、個々の遺伝子発現量の測定は、ホタル由来発光酵素(ルシフェラーゼ)遺伝子を用いて行なわれているが、一つの遺伝子転写動態しかみておらず、体内時計関連遺伝子発現の相互関係は不明なままである。また、環境因子の影響を生細胞上で評価する場合においても、一つの遺伝子の動態変化から評価するだけで、データ相互間での評価は困難である。
【0008】
かかる事情に鑑みて、最近ホタル由来ルシフェラーゼ遺伝子に、発現量を測定すべき遺伝子(転写活性を測定する遺伝子)を挿入した遺伝子構築物と、ウミシイタケ由来ルシフェラーゼ遺伝子に、発現量を測定すべき別の遺伝子を挿入した遺伝子構築物とを、同じ細胞内に導入することによって、2つの遺伝子発現量を測定するシステム(デュアルアッセイシステム、Promega社)が開発され、市販されている(例えば、特許文献4および非特許文献6参照)。
【0009】
しかし、2種類のルシフェラーゼの酵素特性(例えば利用可能な発光基質、pH等)が全く異なることから、それぞれのルシフェラーゼに最適な条件下で反応させる必要がある。しかし細胞内条件が必ずしも一定にならない生細胞内で、2種類のルシフェラーゼの反応を同時に行うことは非常に困難である。そのため定量化には、細胞を破砕したあとの抽出物を用いてそれぞれのルシフェラーゼに最適の条件下で、発光酵素反応を行う必要がある。よって、前述のデュアルアッセイシステムにおいても、生細胞で連続的に遺伝子発現量を測定することは不可能である。
【0010】
また、赤色および緑色の2色発光を示すことで知られている鉄道虫から2種類のルシフェラーゼ遺伝子(PvGR,PhRE)がクローニングされた。これら2種類のルシフェラーゼは、同一の発光基質(ルシフェリン)を利用して最大波長550nm(緑色)、および622nm(赤色)の生物発光を触媒する。また、ホタル由来ルシフェラーゼは、pHによる影響を受け易いのに対して、鉄道虫由来ルシフェラーゼは、pH安定性が高く、安定的に生物発光を触媒するという点で優れている。かかる鉄道虫由来ルシフェラーゼによって、生きた大腸菌においても生物発光を触媒することが知られている(例えば特許文献5および非特許文献4参照)。
【0011】
一方、本発明者等は、2種類(赤色および緑色)の生物発光を触媒する鉄道虫由来ルシフェラーゼ遺伝子を導入したシアノバクテリアの系において、当該ルシフェラーゼによって発した光を、赤色または緑色のみを透過するバンドパスフィルターによって分光し、それぞれの光を検出することを可能とした(非特許文献5参照)。
【特許文献1】 日本国公開特許公報「特開2002−171996公報」(公開日:平成14(2002)年6月18日)
【特許文献2】 日本国公開特許公報「特開平6−153994号公報」(公開日:平成6(1994)年6月3日)
【特許文献3】 日本国公開特許公報「特開2002−310894号公報」(公開日:平成14(2002)年10月23日)
【特許文献4】 米国特許第5744320号明細書(公開日:1995年6月7日)
【特許文献5】 米国特許出願公開第2002/0119542 A1(公開日:2002年8月29日)
【非特許文献1】 Hakkila,K.,Maksimow,M.,Kaep,M.& Virta,M.Reporter genes,lucFF,luxCDABE,gfp,and dsred have different characteristics in whole−cell bacterial sensors..Anal.Biochem.301,235−242(2002).
【非特許文献2】 Ishiura,M.,Kutsuna,S.,Aoki,S.,Iwasaki,H.,Andersson,CR.,Tanabe,A.,Golden,SS.,Johnson,CH.,& Kondo,T.Expression of a gene cluster kaiABC as a circadian feedback process in cyanobacteria.Science 281,1519−1523(1998).
【非特許文献3】 D.P.King et al.:Cell,89,641(1997)
【非特許文献4】 Viviani,V.R.,Bechara,E.J.H.& Ohmiya,Y.Cloning,sequence analysis,and expression of active Phrixothrix railroad−worms luciferases:Relationship between bioluminescence spectra and primary structures.Biochemistry 38,8271−8279(1999).
【非特許文献5】 日本植物生理学会2003年度年会講演要旨集 p.104(発行日:2003年3月15日)
【非特許文献6】 Keith V,Wood,Promega Notes 65(1998)p14
このように、細胞内における遺伝子発現量を測定する方法は、種々開発されている。しかしながら、従来の方法では、使用した生細胞を破砕した細胞破砕物から、遺伝子を抽出して、その遺伝子の発現量を測定している。すなわち、従来の方法では、外部刺激前後で、評価する細胞が異なるため、細胞間での遺伝子発現量の誤差が生じる。このため、外部刺激に対する影響を正確に評価できないという大きな問題がある。
【0012】
また、従来の方法は、1つの遺伝子の発現量(転写活性)をモニターするのみであること、また、2種類のルシフェラーゼを用いて2種類の遺伝子の発現量をモニターする場合であっても、用いるルシフェラーゼの酵素特性が異なるため、細胞内条件の不安定な生細胞を用いると、2種類の遺伝子の発現量を正確に測定できないことなどの問題も生じる。
【0013】
以上のように、従来の方法は、外部刺激の影響を評価する方法としては満足のいくものとはなっていなかった。それゆえ、複数の遺伝子の発現量を連続的に検出するとともに、検出結果を用いた外部刺激に対する遺伝子の影響の評価も行う外部刺激の影響評価方法および評価システムを構築することが重要な課題となる。
【0014】
そこで、本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、生細胞において複数遺伝子の転写活性をモニターすることによって、検討しようとする外部刺激の細胞に対する影響を評価する方法、および当該方法を行なうためのキットを提供すること、並びに外部刺激前後で同一の生きた試料を用いて複数の遺伝子の発現量をモニターし、外部刺激に対する遺伝子発現量の影響を評価するシステムを提供することにある。
【発明の開示】
【0015】
本発明の評価システム(本システム)は、上記の課題を解決するために、異なるプロモーター制御下にある複数の評価遺伝子を含む生細胞に外部刺激を与え、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価する評価システムであって、複数の評価遺伝子それぞれのプロモーターの下流に連結された発光関連遺伝子の発現によって発する異なる波長の生物発光量を、未破砕試料から検出する検出手段と、試料に外部刺激を与える刺激手段と、外部刺激前後の同一発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する前後比較手段と、外部刺激前後のそれぞれで、異なる発光関連遺伝子間の生物発光量を同時に比較する同時比較手段とを備えていることを特徴としている。
【0016】
本システムは、刺激手段によって試料に外部刺激を与え、その外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価するシステムである。
【0017】
本システムでは、外部刺激に対する影響の評価対象となる評価遺伝子は、異なるプロモーター制御下にある複数の遺伝子である。また、各評価遺伝子のプロモーターの下流には、発光関連遺伝子が連結されている。この発光関連遺伝子は、試料中で発現すると、生物発光するものであり、発光関連遺伝子ごと(評価遺伝子ごと;プロモーターごと)に、最大波長が異なる生物発光を示すものである。すなわち、試料中には、評価遺伝子に加えて、複数の評価遺伝子の各プロモーターに対応した、複数の発光関連遺伝子も含まれる。これにより、試料中で、プロモーターが活性化されると、そのプロモーターに連結された発光関連遺伝子が発現し、生物発光を示す。
【0018】
そして、本システムでは、検出手段が、この試料から発した生物発光を、未破砕試料から検出する。プロモーターの下流には評価遺伝子も存在するため、発光関連遺伝子の発現は、評価遺伝子の発現を反映する。このため、検出手段で生物発光量を検出すると、評価遺伝子の発現を検出したことになる。また、検出手段は、外部刺激前後のそれぞれで、発光関連遺伝子の発現による生物発光量を検出する。
【0019】
また、本システムでは、同時比較手段が、外部刺激前後のそれぞれで、検出手段で検出された異なる発光関連遺伝子の発現による生物発光量を同時に比較する。これにより、同時比較手段では、外部刺激前、または、外部刺激後における、複数の評価遺伝子間の発現量の変動を観測できる。
【0020】
一方、前後比較手段は、外部刺激前後の同一発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する。これにより、前後比較手段では、外部刺激による評価遺伝子の発現量の変動を観測できる。
【0021】
このように、本システムでは、評価遺伝子の発現量を、発光関連遺伝子の生物発光量として検出しているので、試料を破砕する必要がない。このため、試料の細胞を破砕することなく、評価遺伝子の発現の検出が可能である。さらに、本システムは、試料の細胞を破砕しないため、外部刺激前後で、同一試料の生物発光量の検出が可能である。このため、試料の細胞の破砕による生物発光量の検出誤差が生じない。従って、複数の評価遺伝子の発現量を正確にモニターし、評価遺伝子の外部刺激に対する影響を評価することが可能である。
【0022】
また、本システムでは、上記検出手段は、複数の異なる波長の生物発光量を同時に検出する構成であってもよい。この構成では、検出手段が、各評価遺伝子に対応した、異なる波長の生物発光量を同時に検出する。すなわち、ある時点における複数の波長の生物発光量を、同時に検出する。これにより、1回の検出で複数波長の生物発光量の検出(複数の評価遺伝子の検出)が可能である。従って、リアルタイムに、正確な生物発光量を検出できる。
【0023】
また、本システムでは、上記検出手段が、特定の発光関連遺伝子による生物発光の波長を透過させる分光手段を備えている構成であってもよい。この構成では、生物発光のそれぞれに対応する分光手段を備えている。これにより、1つの分光手段からは、特定の1つの波長の生物発光のみを検出できる。従って、検出した生物発光量を、光量の損失なく検出できる。
【0024】
また、本システムでは、上記検出手段が、上記生物発光量の検出に加えて、上記試料の培養も行うものであることが好ましい。すなわち、上記検出手段は、上記試料を培養しながら生物発光量を検出することが好ましい。本システムでは、生きた試料(未破砕試料)を用いて生物発光量を検出している。このため、外部刺激を与えた後も、試料を培養することになる。この構成では、試料の培養とともに、試料の生物発光量も検出している。これにより、試料の培養条件下での生物発光量を検出し、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価できる。
【0025】
また、本システムでは、上記発光関連遺伝子は、発光基質の存在下、生物発光する遺伝子であって、上記検出手段は、発光基質が大過剰存在下での生物発光量を検出することが好ましい。この構成では、発光関連遺伝子の発現によって、発光基質を発光させ、この発光基質による生物発光を、検出手段で検出する。そして、発光基質は、大過剰に存在している。これにより、発光基質が不足することはないため、発光基質の生物発光量が、発光関連遺伝子の発現量に比例する。従って、発光関連遺伝子の発現による生物発光(発光基質の生物発光)を、定量的に検出できる。すなわち、評価遺伝子の発現量を定量的に検出できる。
【0026】
また、本システムでは、さらに、複数の試料を、順次、上記検出手段に運ぶための載置手段を備えていることが好ましい。このような構成は、例えば、複数の試料が載置可能であり、かつ、試料を検出手段に運ぶために、回転可能な載置手段を備えており、上記検出手段が、載置手段の回転によって移動した試料の生物発光量を検出することによって実現可能である。この構成では、載置手段を回転させると、生細胞と検出手段とが相対的に移動する。これにより、生細胞の生物発光量の検出終了後に、載置手段を回転させることによって、試料を順次検出手段に運んで、別の試料の生物発光量を検出できる。従って、このような構成では、載置手段が試料を順次検出手段に運ぶことが可能であるため、複数の試料の生物発光量を連続的に検出できる。
【0027】
また、本システムでは、上記刺激手段は、上記外部刺激として、化学物質による刺激、および/または、物理的刺激であることが好ましい。これにより、化学物質や物理的刺激、またはその両方による、評価遺伝子の影響を評価できる。
【0028】
また、本システムでは、さらに、上記検出手段で検出された生物発光量に基づいて、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を解析し、上記生物発光量を、評価遺伝子の発現量に変換する解析手段を備えていることが好ましい。この構成では、解析手段が、検出手段で得られた生物発光量を、評価遺伝子の発現量に変換している。従って、より正確に、外部刺激に対する複数の評価遺伝子の影響を評価できる。
【0029】
本発明の外部刺激の影響評価方法は、異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる複数の遺伝子構築物を、非哺乳類由来ホスト細胞に導入する工程と、当該ホスト細胞に外部刺激を与える工程と、当該ホスト細胞が発する複数波長の生物発光量を、細胞破砕することなく検出する工程と、外部刺激を与える前後における上記発光量の動態を比較する工程とを含むことを特徴としている。
【0030】
本発明の外部刺激の影響評価方法では、外部刺激に対する影響の評価対象となる評価遺伝子は、異なるプロモーター制御下にある複数の遺伝子である。
【0031】
そして、本発明の外部刺激の影響評価方法では、この試料から発した生物発光を、未破砕試料から検出する。また、発光関連遺伝子の発現による生物発光量は、外部刺激前後のそれぞれで検出される。
【0032】
また、本発明の外部刺激の影響評価方法では、外部刺激前後のそれぞれで検出された異なる発光関連遺伝子の発現による生物発光量を同時に比較する。これにより、外部刺激前、または、外部刺激後における、複数の評価遺伝子間の発現量の変動を観測できる。
【0033】
一方、本発明の外部刺激の影響評価方法では、外部刺激前後の同一発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する。これにより、外部刺激による評価遺伝子の発現量の変動を観測できる。
【0034】
このように、本発明の外部刺激の影響評価方法では、評価遺伝子の発現量を、発光関連遺伝子の生物発光量として検出しているので、試料を破砕する必要がない。このため、試料の細胞を破砕することなく、評価遺伝子の発現の検出が可能である。さらに、試料の細胞を破砕しないため、外部刺激前後で、同一試料の生物発光量の検出が可能である。このため、試料の細胞の破砕による生物発光量の検出誤差が生じない。従って、複数の評価遺伝子の発現量を正確にモニターし、評価遺伝子の外部刺激に対する影響を評価することが可能である。
【0035】
また、本発明の外部刺激の影響評価方法では、上記異なる波長の生物発光は、分光可能であることが好ましい。
【0036】
上記異なる波長の生物発光が分光可能であることにより、バンドパスフィルター等によって、発光酵素反応によって生じた光の構成成分を検出することができる。
【0037】
それゆえ、試料中のそれぞれの生物発光を波長ごとに正確に検出することができる。
【0038】
また、本発明の外部刺激の影響評価方法では、上記異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素のうち、少なくとも2つの発光酵素の発光基質が、同一であることが好ましい。
【0039】
上記構成によれば、細胞内条件が必ずしも一定にならない生細胞内で、少なくとも2つの発光酵素の反応を同時に行うことができる。
【0040】
それゆえ、細胞を破砕することなく、少なくとも2種類の遺伝子の発現量を測定することができる。
【0041】
また、本発明の外部刺激の影響評価方法では、上記複数の発光酵素遺伝子が、鉄道虫および/または細菌および/またはウミシイタケ由来であることが好ましい。
【0042】
上記複数の発光酵素遺伝子が、鉄道虫および/または細菌および/またはウミシイタケ由来であることにより、生物発光を安定的に行うことができる。
【0043】
それゆえ、これらのルシフェラーゼを組み合わせて使用することも可能となり、より複雑な系における外部刺激と評価遺伝子との関連性を解明することができる。
【0044】
また、本発明の外部刺激の影響評価方法では、外部刺激が、化学物質による刺激および/または物理的刺激であることが好ましい。
【0045】
上記構成によれば、生体が曝露される環境における種々の刺激が評価の対象となる。
【0046】
それゆえ、本発明の外部刺激の影響評価方法により、外部からホスト細胞に対して入力される様々な刺激の影響を評価することができる。
【0047】
本発明にかかるキットは、本発明の外部刺激の影響評価方法を行なうためのキットであることを特徴としている。
【0048】
また、本発明にかかるキットは、異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる遺伝子構築物が導入された非哺乳類由来ホスト細胞、および/または当該発光酵素が触媒する異なる波長の生物発光をモニターする検出器を備えていることが好ましい。
【0049】
本発明にかかるキットによれば、本発明の外部刺激の影響評価方法を実施することができる。それゆえ、複雑なシグナル伝達で成り立っている生体の生理活性を、同一の個体を用いかつ1回のトライアルで、観察することが可能となる。
【0050】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の一形態にかかる外部刺激に対する生細胞の影響評価システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の評価システムの評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図1の評価システムにおける試料部および検出部の構成を示す図である。
【図4】図1の評価システムにおける同時比較部の処理を示すフローチャートである。
【図5】図1の評価システムにおける前後比較部の処理を示すフローチャートである。
【図6】前後比較部が、同一の発光関連遺伝子の発現による生物発光量を、外部刺激前後のそれぞれで、経時的に比較する処理を示すフローチャートである。
【図7】図1の評価システムにおける検出部の原理を示す模式図である。
【図8】実施例において、各種ルシフェラーゼ遺伝子をkaiBCプロモーター下流に連結し、シアノバクテリアに導入した場合の生物発光を連続的に測定したチャート図である。
【図9】実施例において、kaiBCプロモーターの下流に鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ遺伝子を連結しシアノバクテリアに導入したPkaiRE株の生物発光を、連続的に測定したチャート図である。
【図10】実施例において、trcプロモーターの下流に鉄道虫由来緑色ルシフェラーゼ遺伝子を連結しシアノバクテリアに導入したPtrcGR株の生物発光を連続的に測定したチャート図である。
【図11A】実施例において、kaiBCプロモーターの下流に鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ遺伝子を連結しシアノバクテリアに導入したPkaiRE株の生物発光を、連続的に測定したチャート図である。
【図11B】trcプロモータ−の下流に鉄道虫由来緑色ルシフェラーゼ遺伝子を連結しシアノバクテリアに導入したPtrcGR株の生物発光を、同装置にて連続的に測定したチャート図である。
【図11C】PtrcGRPkaiRE株の生物発光を、同装置にて連続的に測定したチャート図であり、同左図は630nm近傍の光(赤色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示すチャート図であり、同右図は540nm近傍の光(緑色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示すチャート図である。
【図12A】実施例において、PtrcGRPkaiRE株に照射する光の照度を、34μmol/m2/sから8.4μmol/m2/sに変化させたとき(図中矢印)の生物発光を連続的に測定した結果を示すチャート図であり、同左図は630nm近傍の光(赤色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示すチャート図であり、同右図は540nm近傍の光(緑色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示すチャート図である。
【図12B】PkaiRE株に照射する光の照度を34μmol/m2/sから8.4μmol/m2/sに変化させたときの生物発光を連続的に測定した結果を示すチャート図である。
【図12C】PkaiRE株に照射する光の照度を34μmol/m2/sから8.4μmol/m2/sに変化させたときの生物発光を連続的に測定した結果を示すチャート図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施の一形態について、図1〜図12Cに基づいて説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
(A)本発明にかかる評価システム
本発明にかかる評価システム(本システム)は、生細胞に含まれた複数の評価遺伝子の影響を評価するものである。すなわち、本システムは、生細胞に外部刺激を与え、生細胞を破砕することなく、生きたままその生細胞の生物発光量を連続的に検出可能なシステムである。
【0054】
まず、本システムの全体構成について説明した後、各部の具体的構成を説明する。
【0055】
図1は、本システムの概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、評価システム10は、試料部1、検出部2、同時比較部3、メモリ4、出力部5、前後比較部6、解析部7、制御部8、および画像形成部9から構成されている。なお、図1では、試料に外部刺激を与える外部刺激部(刺激手段)を省略している。
【0056】
試料部(載置手段)1は、試料を載置するものである。評価システム10では、試料として評価遺伝子が含まれた、生きた試料(例えば生細胞など)を用いる。すなわち、試料部1には、評価遺伝子を含む生きた試料が載置される。なお、「評価遺伝子」とは、外部刺激に対する影響を評価する対象となる遺伝子(評価対象遺伝子)を示し、詳細は後述する。
【0057】
検出部(検出手段)2は、試料部1に載置された試料の生物発光量を、所定のタイミングで検出するものである。
【0058】
試料となる生細胞には、評価遺伝子とともに、各評価遺伝子のプロモーターの下流に連結された、発光関連遺伝子も含まれている。この発光関連遺伝子は、遺伝子の発現によって、生物発光を示すものである。すなわち、発光関連遺伝子が連結されたプロモーターが活性化されると、発光関連遺伝子が発現し、生物発光を示す。検出部2は、このような試料の生物発光量を検出するものである。検出部2の検出結果データは、後段の同時比較部3およびメモリ4の少なくともいずれかに送られる。
【0059】
なお、発光関連遺伝子が発現して発する生物発光は、発光関連遺伝子ごと(評価遺伝子ごと)に、最大波長が異なるものであり、検出部2は、異なる波長の生物発光を検出する。
【0060】
ここで、試料部1および検出部2の構成の具体例を説明する。図3は、試料部1および検出部2の概略構成を示す説明図である。
【0061】
この構成では、試料部1は、試料台11と載置部12とを備えている。また、検出部2は、生物発光量を検出する検出器2a・2bとしてバンドパスフィルター(例えば、干渉フィルターなど)と光電子倍増管を備えている。この載置部12は、複数の試料を、順次、検出部2に運べる構成となっている。
【0062】
試料台11は、モーターコントローラによって回転動作が制御されるスピンドルモータ44によって、回転可能となって円盤状の部材である。試料台11は、所定の厚みを有しており、その一方の表面には、円筒状の凹部からなる載置部12が、複数設けられている。また、試料台11には、その円盤面の中心を貫くように軸受け孔が設けられており、該軸受け孔にはスピンドルモータ44の回転軸45が挿入されて、試料台11は水平に支持されている。
【0063】
検出器2a・2bは、バンドパスフィルター(分光手段)を備えている。このバンドパスフィルターは、特定の発光関連遺伝子の発現によって発した、特定波長の生物発光のみを透過させるものである。すなわち、検出器2a・2bでは、バンドパスフィルターによって透過する波長が異なる。これにより、1つのバンドパスフィルターからは、特定の1つの波長の生物発光のみを検出できる。従って、各発光関連遺伝子の発現による生物発光の波長を透過させるバンドパスフィルターを準備すれば、試料中のそれぞれの生物発光を検出できる。バンドパスフィルターは、特定の波長のみを透過させるため、試料の生物発光量を正確に検出できる。
【0064】
また、検出器2a・2bは、試料の生物発光を検出するために光電子倍増管を備えている。光電子倍増管は、バンドパスフィルターを透過した光を増幅するものである。このため、微弱な光も検出可能である。従って、冷却CCDカメラなどによる検出よりも高感度の検出が可能である。
【0065】
なお、検出器2a・2bは、試料の生物発光量を検出するため、外部の光を遮断する構成となっている。
【0066】
また、検出器2a・2bには、特定波長のみの光を透過させるバンドパスフィルターが備えられている。これにより、検出器2a・2bは、試料から発した複数の発光関連遺伝子による生物発光のなかから、特定波長の生物発光の生物発光量のみを検出できるようになっている。
【0067】
また、この構成では、試料台11の回転によって、検出器2aおよび2bに検出される載置部12の試料を順次変えていくようになっている。これにより、試料台11上に配された複数の試料の生物発光量(ここでは、2つの波長の生物発光量)を、検出器2a・2bで検出可能となる。従って、多くの試料の生物発光量を、少ない数の検出器2a・2bで検出できる。このため、本システムを小型化し、省スペースのシステムとすることができる。
【0068】
なお、検出部2は、バンドパスフィルターおよび光電子倍増管を備える以外の構成でも、生物発光量を検出できれば、どのような構成であってもよい。例えば、検出部2を分光光度計から構成することも可能である。この場合、いったん試料から発するすべての生物発光量を検出した後、それぞれの生物発光の波長に分光することによって、それぞれの生物発光を検出できる。分光光度計を用いた場合、1回の検出で複数波長の生物発光量が同時に検出できる。従って、リアルタイムに、正確な生物発光量(すなわち複数の評価遺伝子の検出)を検出できる。
【0069】
また、検出部2にて生物発光量を検出する試料は、1つの生細胞であってもよいし、複数の生細胞の集団であってもよい。検出部2では、試料の生物発光量が小さい場合には、多くの生細胞集団の生物発光量を検出するか、生物発光量を増幅して検出すればよい。
【0070】
また、検出部2では、複数の異なる波長の生物発光量を同時に検出することが好ましい。これにより、リアルタイムに、複数の発光関連遺伝子の発現量(すなわち、複数の評価遺伝子の発現量)の検出が可能となる。従って、外部刺激に対する、複数の評価遺伝子間の関与を明らかにできる。
【0071】
また、検出部2では、生きた試料の生物発光量を検出しているため、外部刺激を与えた後も、試料を培養することになる。従って、検出部2は、試料の生物発光量の検出とともに、試料の培養を行えることが好ましい。これにより、試料の培養条件下での生物発光量を検出し、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価できる。
【0072】
また、後述のように、発光関連遺伝子の発現によって生物発光するために、発光基質を必要とする場合、検出部2はその発光基質を大過剰存在下で生物発光量を検出することが好ましい。言い換えると、発光基質が大過剰に存在する条件で、試料が培養され、その試料の生物発光量を検出することが好ましい。大過剰の発光基質存在下での生物発光量を検出することによって、発光関連遺伝子が発現すれば、確実に発光基質を発光させられる。従って、発光基質が不足することはないため、発光基質の生物発光量が、発光関連遺伝子の発現量を反映する。従って、発光関連遺伝子の発現による生物発光(発光基質の生物発光)を、定量的に検出できる。すなわち、評価遺伝子の発現量を定量的に検出できる。
【0073】
同時比較部3は、検出部2で検出された異なる波長の生物発光量を、比較するものである。より詳細には、検出部2では、評価遺伝子の数と同じ数の異なる波長の生物発光量が検出される。同時比較部3では、ある時点での複数の波長の生物発光量を比較する。すなわち、ある時点での複数の評価遺伝子の発現量を比較する。
【0074】
すなわち、同時比較部3は、外部刺激を与える前または与えた後に検出部2で検出された、異なる発光関連遺伝子に由来する生物発光量を、同時に比較する。また、同時比較部3は、同一の発光関連遺伝子に由来する生物発光量を、経時的にも比較する。
【0075】
これにより、同時比較部3は、異なる発光関連遺伝子の発現による生物発光量を、任意の時点で比較したり、経時的に連続的に比較したりすることによって、生物発光量の変化を観測できる。また、同一の発光関連遺伝子に由来する生物発光量の経時的な変化も観測できる。前述のように、発光関連遺伝子の発現による生物発光量は、評価遺伝子の発現量を反映する。したがって、同時比較部3では、外部刺激を与える前における複数の評価遺伝子の発現量の相関と、外部刺激を与えた後における複数の評価遺伝子の発現量の相関とが明らかとなる。
【0076】
また、同時比較部3は、同時比較部3での比較結果のデータを、メモリ4に送り、比較結果をメモリ4に記憶させる。また、同時比較部3は、上記比較結果のデータを、表示部5、前後比較部6、解析部7、画像形成部9にも送るようにもなっている。
【0077】
メモリ4は、外部刺激を与える前、および、外部刺激を与えた後の、検出部2、同時比較部3、および解析部7の結果(データ)を記憶する記憶手段である。メモリ4に記憶するデータは、これに限定されるものではなく、その他のデータを記憶してもよい。メモリ4に記憶したデータは、例えば、表示部5に表示する場合など、必要に応じて取り出すことができる。
【0078】
メモリ4は、評価システム10で利用される各種情報(生物発光量、制御情報、解析結果、その他情報等)を記憶する。具体的には、例えば、RAMやROM等の半導体メモリ、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD等の光ディスクのディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系等、従来公知の各種記憶手段を好適に用いることができる。
【0079】
前後比較部6は、同一の発光関連遺伝子に由来する生物発光量を、外部刺激を与える前後で比較する。すなわち、前後比較部6では、外部刺激を与える前後の、同一発光関連遺伝子に由来する生物発光量の差が、データとして得られる。
【0080】
前後比較部6は、同時比較部3と同様に、前後比較部6での比較結果のデータを、メモリ4に記憶する。また、そのデータを、表示部5、画像形成部9、解析部7にも送るようにもなっている。
【0081】
表示部5は、同時比較部3、前後比較部6、および解析部7のデータを、表示するものである。例えば、各部で得られたデータを、モニターなどの表示手段に出力することによって、発光関連遺伝子の発現による生物発光量や、評価遺伝子の発現量などを、表示手段に表示しながら、評価システム10を動作可能となっている。
【0082】
より詳細には、表示部5は、同時比較部3・前後比較部6からの生物発光量の比較結果の読み取りや、読み取った生物発光量の解析部7での解析等を含む、評価システム10の動作に関わる情報や解析結果等の各種情報を表示する。具体的には、表示部5は、公知のCRTディスプレイや、液晶ディスプレイ等といった各種表示装置を好適に用いることができるが特に限定されるものではない。表示部5によって各部で得られた結果を表示することにより、認識しにくい検出結果(解析結果)を、視覚的に認識しやすくすることが可能である。
【0083】
解析部(解析手段)7は、試料の生物発光量から、評価遺伝子の外部刺激に対する影響を評価する。解析部7では、同時比較部3および/または前後比較部4で得られる生物発光量のデータや、その生物発光量のデータを遺伝子発現量に変換したデータなどを利用して、外部刺激に対する試料の影響を評価する。例えば、外部刺激を与えることによる、試料の生物発光量の変動(すなわち、各評価遺伝子の発現量の変動)、複数の評価遺伝子間の発現量の相関、試料の生存の確認、などの解析(評価)を行う。
【0084】
解析部7では、発光関連遺伝子の発現による生物発光量を、評価遺伝子の発現量に変換することが好ましい。検出部2で得られた生物発光量は発光関連遺伝子の発現量を直接示すものであって、評価遺伝子の発現量を直接示すものではない。したがって、生物発光量を評価遺伝子の発現量に変換することによって、より正確に、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価できる。
【0085】
なお、生物発光量のデータは、メモリ4から取り出すこともできる。ここで、メモリ4におけるデータの格納状態およびそのデータの使用例について説明する。検出部2で、試料の生物発光量を検出すると、メモリ4は、検出を行うごとに検出結果にID番号を割り当て、外部刺激後の経過時間と対応するように、検出結果を格納する。そして、同時比較部3での比較の際に、同じタイミングで検出された同一発光関連遺伝子に由来する生物発光量を、メモリ4から呼び出して、各生物発光量を比較する。前後比較部6解析部7などの各部におけるデータの呼び出しも略同様であり、各部に必要となる適切なデータを、メモリ4から呼び出して、各部の処理が行われる。メモリ4のデータ格納状態やその使用例は、上記の例に限定されるものではなく、生物発光量を検出した時間、評価遺伝子の種類など、各部での比較・解析・表示等を適切に行うことができればよい。
【0086】
制御部8は、評価システム10の動作を制御する。具体的には、図1の破線の矢印で示すように、試料部1、検出部2、同時比較部3、メモリ4、表示部5、前後比較部6、解析部7、画像形成部9の各手段に対して、制御部8から制御情報が出力される。この制御情報に基づいて上記各手段が連携して動作することで、評価システム10全体が動作する。また、制御部8に対しては、図示しない入力部から評価システム10を動作させるための指示情報も入力可能である。
【0087】
画像形成部9は、表示部5で表示可能な各種情報をPPC用紙等の記録材に記録(印刷・画像形成)する。具体的には、公知のインクジェットプリンタやレーザープリンタ等の画像形成装置が好適に用いられるが特に限定されるものではない。
【0088】
なお、表示部5と画像形成部9とは、まとめて出力手段と表現することもできる。すなわち、表示部5は、各種情報をソフトコピーで出力する手段であり、画像形成部9は、各種情報をハードコピーで出力する手段である。なお、本システムで用いられる出力手段としては、表示部5や画像形成部9に限定されるものではなく、その他の出力手段を備えていても良い。
【0089】
次に、図1〜図2、図4〜図6に基づいて、本システムの動作(処理)について、各部の詳細な構成(動作)とともに説明する。図1は、本システムのブロック図であり、図2は、本システムの動作(処理)を示すフローチャートであり、図4、図5および図6は、それぞれ、同時比較部3、前後比較部4での処理を示すフローチャートである。
以下の説明では、2つの評価遺伝子(遺伝子aおよびb)の発現量を、それらの評価遺伝子のそれぞれのプロモーターの下流に発現可能に組み込まれた発光関連遺伝子(発光関連遺伝子AおよびB)の発現量として観測する場合について説明する。
【0090】
図2に示すように、本システム10の主な処理は、まず、外部刺激前の生物発光量を検出し(S1)、その検出結果をメモリ4に記憶する(S2)。同じ処理を外部刺激後にも行い(S3・S4)、その後、外部刺激前後に得られたデータの比較・解析(S5)、モニター(表示部5)への表示・画像形成などを行い、本システム10の動作が終了する。
【0091】
より詳細には、試料中で発光関連遺伝子AおよびBが発現すると、試料から生物発光AおよびBを発する。検出部2では、外部刺激前後のそれぞれで、この生物発光量AおよびB(最大波長の異なる生物発光)を検出し、検出結果をメモリ4に記憶させる。また、検出部2での検出結果は同時比較部3に送られる。
【0092】
すなわち、まず、検出部2では、外部刺激前の発光関連遺伝子AおよびBの生物発光量(ApreおよびBpre)、および、同じく外部刺激後の生物発光量(ApostおよびBpost)が検出される。そして、これらのデータが、同時比較部3に送られる。
【0093】
同時比較部3では、図4に示すように、検出部2で同じタイミングで検出された生物発光量どうしを比較する(S7〜S9)。つまり、外部刺激前後のそれぞれで、異なる発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する。すなわち、同時比較部3は、
1)外部刺激を与える前の発光関連遺伝子Aの発現による生物発光量(Apre)と発光関連遺伝子Bの発現による生物発光量(Bpre)との比較、および、
2)外部刺激を与えた後の発光関連遺伝子Aによる生物発光量(Apost)と発光関連遺伝子Bによる生物発光量(Bpost)との比較を行う。
これにより、同時比較部3では、異なる発光関連遺伝子の発現による生物発光量の差((Apre−Bpre)または(Apost−Bpost))が、データとして得られる。
【0094】
このように、同時比較部3では、外部刺激を与える前、または与えた後において、異なる評価遺伝子の発現量を、同時に比較することが可能である。
【0095】
一方、前後比較部5では、図5に示すように、検出部2で異なるタイミングで検出された生物発光量どうしを比較する(S10〜S16)。つまり、外部刺激前後の同一発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する。すなわち、前後比較部5は、
1)外部刺激を与える前の発光関連遺伝子Aの発現による生物発光量(Apre)と外部刺激を与えた後の発光関連遺伝子Aの発現による生物発光量(Apost)との比較、および、
2)外部刺激を与える前の発光関連遺伝子Bの発現による生物発光量(Bpre)と外部刺激を与えた後の発光関連遺伝子Bの発現による生物発光量(Bpost)との比較を行う。
【0096】
これにより、前後比較部5では、外部刺激を与えることによる同一発光関連遺伝子間の生物発光量の差((Apre−Apost)または(Bpre−Bpost))が、データとして得られる。
【0097】
このように、前後比較部6では、外部刺激を与える前後において、同一の評価遺伝子の発現量の変化を観測できる。
【0098】
また、前後比較部6は、図6に示すように、同一の発光関連遺伝子の発現による生物発光量を、外部刺激前後のそれぞれで、経時的に比較することもできる(S17〜S19)。具体的には、図6に示すように、前後比較部6では、時間(t0)における発光関連遺伝子AまたはBの発現による生物発光量(At0またはBt0)と時間(t1)における発光関連遺伝子AまたはBの発現による生物発光量(At1またはBt1)とを比較する。これにより、時間経過に伴う、同一発光関連遺伝子に由来する生物発光量の差((At0−At1)または(At0−At1))が、データとして得られる。
【0099】
このように、前後比較部6では、外部刺激に関係なく、同一評価遺伝子の発現量の変化を経時的に観測することもできる。
【0100】
なお、同時比較部3および前後比較部6における生物発光量のデータは、検出部2の検出結果を利用してもよいし、メモリ4から必要なデータを取り出して利用してもよい。
【0101】
以上のように、本システムでは、評価遺伝子の発現量を、発光関連遺伝子の発現による生物発光量として間接的に検出しているので、試料の細胞を破砕する必要がない。このため、試料の細胞を破砕することなく、評価遺伝子の発現の検出が可能である。さらに、本システムは、試料の細胞を破砕しないため、外部刺激前後で、同一試料の生物発光量の検出が可能である。このため、試料の細胞の破砕による生物発光量の検出誤差が生じない。従って、複数の評価遺伝子の発現量を正確にモニターし、評価遺伝子の外部刺激に対する影響を評価することが可能である。
【0102】
以下、本明細書における用語について説明する。
【0103】
本システムは、異なるプロモーター制御下にある評価遺伝子を含む生きた試料に、外部刺激を与え、そのプロモーターに連結された発光関連遺伝子の発現による生物発光量を検出して、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価するものである。
【0104】
本システムにおける「外部刺激」とは、外部刺激部(刺激手段;図示せず)によって試料に与える外部から入力される物理的または化学的な刺激等を意味する。また、その「影響」とは、その入力された外部刺激が、生体等の試料に及ぼす作用をしめし、有害な作用のみならず、有益な作用を含む意味である。
【0105】
化学物質による刺激としては、特に限定されるものではないが、ダイオキシン、ビスフェノールA等の環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)、新薬、農薬、食品添加物、遺伝子導入作物由来食品、その他の新規化学物質を、上述のホスト細胞に対して適当な条件で曝露すればよい。また、栄養成分や老廃物成分の濃度変化等も化学物質による刺激の一例として挙げられる。
【0106】
ここで、曝露する条件であるが、本システムは、生きた試料を用いることを特徴としているため、評価しようとする化学的刺激によって、試料が死滅するような条件であることは好ましくない。ただし、このように、評価対象である化学物質によって試料が死滅するような場合は、例えば、該化学物質が、試料に何らかの悪影響を及ぼすものと評価することができる。
【0107】
なお、評価遺伝子は、直接的な外部刺激の作用によって、発現量が変化(増加または減少)する場合と、間接的な外部刺激の作用(外部刺激が別の遺伝子の発現に作用した結果、評価遺伝子の発現量に影響する)によって、発現量が変化する場合とが考えられる。通常、ある遺伝子の発現量は、複数の遺伝子によって制御されていることが多い。すなわち、外部刺激による評価遺伝子への影響は、直接的なものより、間接的なものの方が多い。つまり、試料に外部刺激を与えると、複数の遺伝子がその刺激に応答し、試料に何らかの変化を与える。
【0108】
従って、本システムにおいて、外部刺激による評価遺伝子の影響を評価する際にも、評価遺伝子の発現量のみではなく、他の遺伝子やタンパク質の発現量の変化も検出して、その検出結果も考慮し、評価することが好ましい。これにより、外部刺激に対する評価遺伝子のみの評価ではなく、外部刺激が影響を及ぼす一連の遺伝子発現ネットワーク(外部刺激による複数の遺伝子の応答)としての評価(解析)が可能となる。その結果、本システムを、遺伝子発現プロファイル解析や、タンパク質プロファイル解析を組み合わせた、詳細な評価システムとして構築できる。
【0109】
このように、本システムでは、評価遺伝子に加えて、それ以外の遺伝子発現量や、タンパク質発現量を検出することが好ましい。これにより、外部刺激に対する評価遺伝子の影響(発現量の変化等)のみではなく、評価遺伝子の発現と、他の遺伝子やタンパク質発現との関連を明らかにできる。
【0110】
一方、物理的刺激の例としても特に限定されるものではないが、例えば、高温もしくは低温等の温度刺激、光による刺激、紫外線(UV)による刺激、電磁波による刺激、気圧の変化や接触等による圧力刺激、湿度による刺激、電気刺激、物理振動等が挙げられる。ここで、物理的刺激の入力条件であるが、前記と同様の理由で、評価しようとする物理的刺激によって、試料が死滅するような条件であることは好ましくない。ただし、このように、評価対象である物理的刺激によって試料が死滅するような場合は、該物理的刺激は、少なくとも試料に何らかの悪影響を及ぼすものと評価することができる。
【0111】
本システムにおける「試料」とは、複数の評価遺伝子を少なくとも含むものであって、生きた試料である。なお、試料としては、ある生物から評価遺伝子を取り出し、別の異なる生物にその評価遺伝子を導入したものであってもよい。すなわち、評価遺伝子を別のホスト細胞に導入してもよい。
【0112】
上記「試料」としては、生きているものであればよく、上記評価遺伝子を有する細胞・組織・器官のみならず、動物・植物個体などを適用できる。さらに、本システムでは、発光関連遺伝子の生物発光量を検出するので、「試料」を生きたままの状態で適用することによって、同一試料での外部刺激に対する影響を評価できる。
【0113】
上記「試料」の対象となる動物は、特に限定されるものではないが、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラットなどのヒトを含む哺乳動物が例示される。また、上記「試料」の対象となる植物には、完全な植物のみならず、その一部、例えば、葉、種子、塊茎、挿木等も含まれるものとする。さらに、上記植物には、予め形質転換された遺伝子組み換え植物やその子孫を起源とする植物組織、プロトプラスト、細胞、カルス、器官、植物種子、胚芽、花粉、卵細胞、接合子などの増殖可能な植物材料;花、茎、実、葉、根などを含む植物の一部;懸濁培養細胞;等も含まれるものとする。また、上記個体には、その子孫およびクローン、ならびに、その子孫およびクローンの繁殖材料が含まれる。
【0114】
特に、試料として、ヒトの細胞や組織を適用すれば、ヒトにおける外部刺激に対する影響を評価することが可能となる。その結果、例えば、各種疾患の病態を遺伝子レベルで解明することができ、新規医薬品や診断薬の開発をする上で重要な役割を担う。
【0115】
また、「評価遺伝子」とは、外部刺激に対する影響を評価する遺伝子であって、異なるプロモーター制御下にある遺伝子である。そして、本システムでは、複数の評価遺伝子の、外部刺激に対する影響を評価する。
【0116】
また、本システムでは、複数の評価遺伝子の発現量を観測するために、各々のプロモーターの下流に、発光関連遺伝子が発現可能に連結されている。これにより、プロモーターが活性化されると、評価遺伝子の発現に加えて、発光関連遺伝子も発現する。すなわち、発光関連遺伝子は、評価遺伝子のレポーター遺伝子である。そして、本システムでは、外部刺激による評価遺伝子の影響(例えば、外部刺激に対する評価遺伝子の発現量の差)を、発光関連遺伝子の発現量や、その発現量から算出した評価遺伝子の発現量などによって評価する。
【0117】
本システムでは、検出部2で、試料中の発光関連遺伝子の発現による生物発光量を検出する。発光関連遺伝子は、各評価遺伝子のプロモーターの下流に、発現可能に連結されている。また、各評価遺伝子は、異なるプロモーターに制御されるものである。従って、検出部2で検出された生物発光量(すなわち、発光関連遺伝子の発現量)は、評価遺伝子の発現量を反映する。
【0118】
ここで、「発光関連遺伝子」とは、発光関連遺伝子の発現によって、直接的または間接的に、異なる波長の光を発する(生物発光を示す)遺伝子であれば特に限定されるものではない。つまり、「発光関連遺伝子」としては、例えば、1)各種ルシフェラーゼ遺伝子のように、発光基質の存在下、生物発光する遺伝子であってもよいし、2)各種GFPをコードする遺伝子のように、励起により蛍光を発する遺伝子であってもよい。
【0119】
ここで、発光関連遺伝子に由来する生物発光量の変化を、経時的に観測する場合には、試料中(生体内または細胞内)で比較的速やかに分解される各種ルシフェラーゼをコードする遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)がより好適に使用される。また、発光関連遺伝子として各種ルシフェラーゼ遺伝子を使用する場合には、その種類に応じて、適切な発光基質(ルシフェリン・酵素反応基質)、高エネルギー物質(ATPやFMNH2)、酸素などを供給する必要がある。なお、発光観測時間などの条件にもよるが、試料に高エネルギー物質や酸素を有している場合、これらを外部から供給する必要がない。また、発光関連遺伝子として各種ルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、発光基質(ルシフェリン)を大過剰存在させればよい。これにより、発光基質が不足することによって、実際の発光関連遺伝子の発現量よりも生物発光量が低下することを回避できる。従って、発光関連遺伝子の生物発光量を経時的、かつ定量的に観測することができる。
【0120】
本システムでは、発光関連遺伝子として、ルシフェラーゼ遺伝子を用いることが非常に好ましい。
【0121】
ルシフェラーゼは、生物発光を触媒する酵素系(オキシゲナーゼ)のことである。生物発光とは、例えば、ホタルの尾部が黄緑色に光る現象や、チョウチンアンコウなどの夜行魚が光ること等をいう。生物発光は、ルシフェラーゼが基質となるルシフェリン(発光素)を酸化して光を放つことによって起こる。
【0122】
ルシフェラーゼの起源としては、ウミホタル、ホタル、土ホタル、ウミシイタケ、鉄道虫、発光細菌、発光ミミズ、オワンクラゲ、ゴニオラックス、発光性渦鞭毛藻、発光イカ(ホタルイカ)、ヒカリボヤ、発光魚(アポゴン)等が知られており、その遺伝子がクローニングされているものもある。また、ルシフェラーゼは、発光器官をもつ生物ごとに、構造や発光の作用機構も異なるため、ルシフェラーゼの違いによって発光色が異なる。表1にクローニングされたルシフェラーゼ遺伝子の一部について、起源、最大発光波長、基質、特徴をまとめた。
【表1】
【0123】
本システムでは、発光関連遺伝子として、その遺伝子の発現によって、異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光関連遺伝子を用いることを特徴としている。従って表1に例示したルシフェラーゼ遺伝子をはじめとして、異なる波長の生物発光を触媒する種々の発光関連遺伝子を適宜組み合わせてホスト細胞に導入すればよい。ただし本発明においては、ルシフェラーゼをレポーターとして様々な外部刺激に対して使用するため、用いるルシフェラーゼとしては、生物発光の波長等が外的環境(例えばpH、温度等)によって影響を受けにくく、安定であることが好ましい。例えば、ホタル由来ルシフェラーゼ(該遺伝子:luc遺伝子)は、pHによって発光する色が黄緑色から橙色に変化するため、2種類以上の生物発光を異なる波長に基づいて測定する場合、正確性に欠けることがある。
【0124】
また、発光細菌由来ルシフェラーゼ(該遺伝子:luxAB遺伝子)やウミシイタケ由来ルシフェラーゼによる生物発光は、安定的に青色を発する点で好ましい。しかし、これらのルシフェラーゼとホタルルシフェラーゼとを組み合わせて本システムに用いた場合は、2種類以上のルシフェリンを基質として加える必要がある。生細胞内の2種類の基質濃度を常に一定(比率)に保つことは検証できない。このため、このような系から得られた生物発光量を直接比較することは、正確性にかけ、定量的でない場合がある。また、操作も煩雑となる。
【0125】
一方、鉄道虫由来ルシフェラーゼによる生物発光は、緑色(最大発光波長550nm、該遺伝子:PvGR遺伝子)と赤色(最大発光波長622nm、該遺伝子:PhRE遺伝子)とを安定的に発することが知られている(特許文献5参照)。すなわち、鉄道虫由来ルシフェラーゼによる生物発光は、細胞の生息条件である中性付近から酸性側においても、pHの影響を受けることがない。
【0126】
また、発光の測定はルシフェリンを加える程度で行うことができるため、細胞に優しい条件で測定が可能である。
【0127】
なお、緑色ルシフェラーゼ遺伝子(PvGR遺伝子)の塩基配列を配列番号1に、該ルシフェラーゼのアミノ酸配列を配列番号2にそれぞれ示した。また、赤色ルシフェラーゼ遺伝子(PhRE遺伝子)の塩基配列を配列番号3に、該ルシフェラーゼのアミノ酸配列を配列番号4にそれぞれ示した。かかるルシフェラーゼを本システムに用いる場合には、それぞれの最大発光波長が70nm以上離れており、それぞれの発光スペクトル(波長ごとの発光量)の重なりが少ないため、後述する実施例において示すごとく、バンドパスフィルター等で容易に分光することが可能であり、それぞれの発光量を同時に測定することが可能であるため好ましい。また、発光基質であるルシフェリンが同一であること、および市販されているホタルルシフェリンが利用可能である点で利便性にもたけている。
【0128】
ここで、異なる波長の生物発光を分光して測定可能な条件は、生物発光を行う生物種および測定装置等によって異なるため限定することができないが、複数の生物発光の発光スペクトルの重なりが少ないことが重要である。例えば、鉄道虫由来の2種類のルシフェラーゼが触媒する生物発光は、発光スペクトルの重なりが少なく、分光し測定することが容易であるため、本発明に好適に利用が可能である。
【0129】
後述の実施例に示した鉄道虫由来のルシフェラーゼが触媒する生物発光を、検出部2によって分光して測定する場合は、最大波長の差が、60nm以上あれば分光可能である。しかし、より高い精度で生物発光を分光するためには、最大波長の差が、80nm以上であることが好ましく、100nm以上あることがさらに好ましく、120nm以上あることが最も好ましい。
【0130】
従って、本システム10では、分光可能な生物発光を触媒するルシフェラーゼを組み合わせて、発光関連遺伝子として使用すれば、それぞれの発光量をそれぞれ同時に測定することが可能である。
【0131】
また、本システムにおいては、2種類のルシフェラーゼに限られず、適宜組み合わせることによって、3種類以上のルシフェラーゼを組み合わせて使用することも可能である。これにより、3種類以上の評価遺伝子の転写活性を、同時に連続的にモニターすることができる。したがって、より複雑な系における、外部刺激と評価遺伝子との関連性を解明できる。このように、外部刺激に対する複数の評価遺伝子の影響評価の精度が増加するため、さらに好ましい。
【0132】
例えば、可能なルシフェラーゼの組合せとしては、鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ(触媒する生物発光の最大波長:622nm)と緑色ルシフェラーゼ(触媒する生物発光の最大波長:550nm)およびウミシイタケ由来青色ルシフェラーゼ(触媒する生物発光の最大波長:480nm)がある(JC Matthews,K Hori,MJ Comier,Purification and properties of Renilla reinformis Luciferase,Biochemistry,16,85−91.参照)。また鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ(触媒する生物発光の最大波長:622nm)と緑色ルシフェラーゼ(触媒する生物発光の最大波長:550nm)および発光細菌由来青色ルシフェラーゼ(触媒する生物発光の最大波長:490nm)の組合せもある。これらの組合せによれば、上述のごとく発する生物発光をバンドパスフィルターにて容易に分光することができ、それぞれの発光量を同時に測定することが可能である。ただし、前述のごとく、これらの青色ルシフェラーゼの酵素特性は、組み合わせる鉄道虫由来ルシフェラーゼと異なるため、測定系の慎重な検討が必要である。
【0133】
ここで、赤色を発するルシフェリン−ルシフェラーゼ反応を触媒する酵素のことを、便宜上赤色ルシフェラーゼと表示する。緑色ルシフェラーゼ、青色ルシフェラーゼについても、同様に表示する。
【0134】
本システムでは、検出部2が、試料に含まれる発光関連遺伝子の発現による複数波長の生物発光量を、試料を破砕することなく(生きた状態のまま)検出する。検出部2における検出手段、検出方法等は上記条件を満たすものであれば、特に限定されるものではない。
【0135】
例えば、発光関連遺伝子として、2種類の鉄道虫由来ルシフェラーゼ遺伝子(赤色ルシフェラーゼ遺伝子:PhRE遺伝子、および緑色ルシフェラーゼ遺伝子:PvGR遺伝子)を導入したシアノバクテリアの生細胞系に対して、当該発光酵素(ルシフェラーゼ)による生物発光を、赤色または緑色のみを透過するバンドパスフィルターによって、それぞれの光を連続的に検出することが可能である。図7は、検出部2の概略図である。
【0136】
より具体的には、図7に示すように、2種類のルシフェラーゼPhREおよびPvGRを発現するシアノバクテリアからの生物発光(Bioluminescence)を、630nm近傍の光を透過するバンドパスフィルター(Band pass filters)と540nm近傍の光を透過するバンドパスフィルターとによってそれぞれの波長の光に分光し、それぞれの光が光電子増倍管(Photomultiplier tubes)PM630およびPM540によって検出され、パルスカウンター(Plus counter)に入りモニターされていることを示している。なお、モニターされている生物発光の量は、発現するルシフェラーゼの量に依存している。また、この装置においては、バンドパスフィルターを透過した光を光電子増倍管によって検出しているが、これは微弱な生物発光を検出し易くするために行っている。よって発光条件等によっては、その他の検出手段を用いてもよい。なお、測定中の試料は、遮光板によって外光が入らないようにしているため、生物発光のみを検出することができる。また、評価システム全体を覆って、外光が入らないようにしてもよい。
【0137】
なお、本システムでは、検出部2によって、試料からの生物発光量を一定間隔で(間欠的に)連続的に測定することが可能であり、また回転可能な試料台11に複数の試料を載置することが可能であるため、複数の外部刺激の影響を評価することができ、新薬等のスクリーニング等には好適に利用可能である。
【0138】
なお、従来の評価方法では、同一細胞内の2種類のルシフェラーゼ活性をそれぞれ測定するために、発光基質の違いを利用していた。この方法では、細胞内の浸透性などの性質が異なる基質を用いるため、それぞれの最適条件下で測定する必要があった。つまり、一方のルシフェラーゼの発光基質による生物発光量を測定した後に、該発光基質あるいは該ルシフェラーゼを失活させ、他方のルシフェラーゼの基質を加えて生物発光量を測定することより、両ルシフェラーゼ活性を測定していた。しかしながら、これら複雑な処理を細胞活動に影響を与えずに生細胞に対して行う方法は無く、また生物発光の連続測定は原理的に不可能であった。そこで従来は、試料の細胞を破砕して生物発光を測定する必要があった。
【0139】
これに対し本システムでは、発光基質を同一にしたこと、および、異なる波長の生物発光量を分離して連続的に検出することによって、2種類のルシフェラーゼ活性を、生きた試料を用いて、連続的に測定することが可能になった。
【0140】
なお、本システムにおいて、プロモーターは、評価遺伝子を発現させるものであれば特に限定されるものではなく、評価しようとする外部刺激や、特定の外部刺激に対する活性を評価したいプロモーターを、適宜選択して発光関連遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)を、異なるプロモーターの下流に連結すればよい。発光関連遺伝子の連結位置は、評価遺伝子のプロモーターに制御され、評価遺伝子とともに発現する位置であればよい。
【0141】
また、本システムでは、評価遺伝子と発光関連遺伝子とを含む遺伝子構築物をホスト細胞に導入して、このホスト細胞を試料として用いることもできる。
【0142】
具体的には、複数の発光関連遺伝子を、それぞれ外部刺激に対する影響を評価しようとする別々のプロモーターの下流に連結して、遺伝子構築物(以下適宜発現ベクターと称する)を作製する。ここで選択するプロモーターは、導入するホスト細胞中で機能するものであれば、特に限定されるものではない。評価しようとする外部刺激や、特定の外部刺激に対する活性を評価したいプロモーターを、適宜選択してルシフェラーゼ遺伝子を連結すればよい。ただし、それぞれのルシフェラーゼ遺伝子は、別々のプロモーターに連結する必要がある。そうでなければ、一波長のルシフェラーゼによって、1つのプロモーター活性の動態を見ていることと何ら変わりがないからである。
【0143】
また上記発現ベクターには、プロモーター以外の種々のDNAセグメントが含まれていてもよい。DNAセグメントとしては、例えば、ターミネーターを挙げることができる。また、必要に応じて、キメラタンパク質を発現させるために、他のタンパク質をコードする遺伝子や、このような遺伝子を導入するための制限酵素認識部位(マルチクローニングサイト等)を含んでいてもよい。
【0144】
また発現ベクターの作製には、プラスミド、ファージ、又はコスミドなどを用いることができるが、特に限定されるものではない。上記発現ベクターを構築する方法(作製方法)は具体的には特に限定されるものではなく、ルシフェラーゼ遺伝子およびプロモーター等のDNAセグメントと、上述したベースとなるベクターとを、公知の組換えDNA技術を用いてつなげればよい。また、構築された発現ベクターの増殖方法(生産方法)も特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。一般的には大腸菌をホストとして当該大腸菌細胞内で増殖させればよい。このときベクターの種類に応じて、好ましい大腸菌の種類を選択してもよい。
【0145】
前記遺伝子構築物を導入するホスト細胞は、該遺伝子構築物によってそれぞれのルシフェラーゼ遺伝子が導入可能なものであり、導入されたルシフェラーゼが機能するものであれば、特に限定されるものではない。ホスト細胞の由来は、特に限定されるものではないが、動物であっても、植物であってもよい。また微生物であってもよい。さらに微生物は、細菌、ラン藻類の原核生物または、酵母、糸状菌類をはじめとする真核生物のいずれであってもよい。より具体的には、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeや分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、メダカやゼブラフィッシュ等の魚類個体および卵胞細胞、アフリカツメガエル(Xenopas laevis)の卵母細胞、あるいは、キイロショウジョウバエ、カイコガ等の昆虫の培養細胞等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0146】
後述する実施例においては、鉄道虫由来の2種類のルシフェラーゼ遺伝子(PvGR遺伝子、PhRE遺伝子)をそれぞれ別々のプロモーターの下流に連結して作製した遺伝子構築物を、細菌類であるシアノバクテリア(Synechococcus elongatus PCC 7942株)に導入し、赤色および緑色の生物発光を得ることに成功している。
【0147】
上述の実施例に用いたシアノバクテリアは、藍色細菌またはラン藻とも呼ばれ、概日時計(概日リズム)を持つ生物である。概日時計(概日リズム)とは、時間に関係する外部刺激を除いた状態においても現れる約24時間の周期を持つ内因性の生体リズムのことであり、サーカディアンリズムともいう。例えば、植物の葉の運動、動物の代謝、ホルモン分泌、神経活動、睡眠−覚醒、摂食・摂水行動、生殖腺発育の光周性などの生理現象が挙げられる。
【0148】
シアノバクテリアにおいては、全ての遺伝子の発現がこの概日時計に制御されている。つまり、遺伝子発現に関与する全てのプロモーターは、概日時計に巧みに制御されている。かかる概日時計に制御されている複数のプロモーターの下流に、複数のルシフェラーゼ遺伝子をそれぞれ連結し、その生物発光を検出すれば、その概日リズムを連続的にモニターすることができる。そこで、評価しようとする外部刺激を入力する前後で、このリズムに変化があるかどうかを検討することによって、その影響を評価することが可能となる。よって、シアノバクテリアは、本システムに使用するホスト細胞として好適に用いることができる。
【0149】
この他、概日時計を有する生物であれば、本発明にかかる外部刺激の影響評価方法に使用するホスト細胞として、好適に使用することが可能である。例えば、シロイナズナ、イネ、ショウジョウバエ、アカパンカビ等が挙げられる。
【0150】
なお、遺伝子の導入方法は特に限定されるものではないが、アグロバクテリウム法、パーティクルガンによる方法、プロトプラスト/スフェロプラスト法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0151】
ルシフェラーゼ遺伝子(発光関連遺伝子;上記遺伝子構築物(発現ベクター))がホスト細胞に導入されたか否かを確認する方法は、特に限定されるものではなく、公知の各種の方法を用いることができる。具体的には、例えば、ホストから調製したゲノムDNAを鋳型とし、ルシフェラーゼ遺伝子全長を特異的に増幅するいわゆるジェノミックPCR法を挙げることができる。この方法によって、ルシフェラーゼ遺伝子が増幅されてくることを電気泳動法等によって確認できれば、ルシフェラーゼ遺伝子の導入を確認することができる。
【0152】
また、その他の方法としては、例えば、各種マーカーを用いてもよい。例えば、宿主細胞中で欠失している遺伝子をマーカーとして用い、このマーカーとルシフェラーゼ遺伝子とを含むプラスミド等を発現ベクターとして宿主細胞に導入する。これによってマーカー遺伝子の発現からルシフェラーゼ遺伝子の導入を確認することができる。あるいは、ルシフェラーゼを融合タンパク質として発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質GFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、ルシフェラーゼをGFP融合タンパク質として発現させてもよい。さらに、発現ベクターには、形質転換植物体における発現部位を可視化してモニターするための遺伝子を導入することもできる。このような遺伝子の一例としては、β−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を挙げることができる。
【0153】
なお、多くの生命現象は、複数の遺伝子の関与により、複数の遺伝子の発現量を調節して成立している場合が多い。このため、生命現象を解明するためには、複数の遺伝子の相関を明らかにする必要がある。また、ゲノム解析の進行に伴い、塩基配列が明らかな機能不明の遺伝子が多く見出されている。したがって、この機能不明の遺伝子の機能を解明することは、生命現象を解明する上でも重要となる。
【0154】
本システムにおいて、複数の評価遺伝子の1つとして、ある外部刺激に対する影響が明らかな遺伝子(遺伝子X)を用い、その他の評価遺伝子として、その外部刺激に対する影響が不明な遺伝子(遺伝子Y)を用いれば、外部刺激に対する遺伝子Yの影響が明らかになるとともに、外部刺激に対する遺伝子Xと遺伝子Yとの相関も明らかとなる。それゆえ、本発明の評価システムは、機能未知遺伝子の機能解析を行う上でも有用である。
【0155】
(B)外部刺激の影響評価方法
本発明は、外部刺激の影響評価方法に関するものである。ここで、「外部刺激」とは、外部から入力される物理的または化学的な刺激等を意味する。またその「影響」とは、その入力された外部刺激が、生体等に及ぼす作用をしめし、有害な作用のみならず、有益な作用を含む意味である。本発明では、かかる外部刺激の影響を以下に挙げる各工程を経て評価するものである。
【0156】
本発明にかかる外部刺激の影響評価方法は、(I)異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる遺伝子構築物を、ホスト細胞に導入する工程(以下便宜上「遺伝子導入工程」と称す)と、(II)当該ホスト細胞に外部刺激を与える工程(以下便宜上「外部刺激入力工程」と称す)と、(III)当該ホスト細胞が発する複数波長の生物発光量を、細胞破砕することなく検出する工程(以下便宜上「検出工程」と称す)と、(IV)外部刺激を与える前後における上記発光量の動態を比較する工程(以下便宜上「比較工程」と称す)とからなっている。以下それぞれの工程ごとに本発明を説示する。
【0157】
(I)遺伝子導入工程
〈発光酵素および発光酵素遺伝子〉
本発明にかかる外部刺激評価方法は、ルシフェラーゼまたはルシフェラーゼ遺伝子を用いることが非常に好ましい。
【0158】
本発明にかかる外部刺激評価方法は、異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素遺伝子を用いることを特徴としている。従って表1に例示したルシフェラーゼ遺伝子をはじめとして、異なる波長の生物発光を触媒する種々の概遺伝子を適宜組み合わせてホスト細胞に導入すればよい。ただし本発明においては、ルシフェラーゼをレポーターとして様々な外部刺激に対して使用するため、用いるルシフェラーゼとしては、生物発光の波長等が外的環境(例えばpH、温度等)によって影響を受けにくく、安定であることが好ましい。例えば、上述のように、鉄道虫由来ルシフェラーゼによる生物発光を特に好適に用いることができる。
【0159】
分光し測定可能な条件としては、上述のように、複数の生物発光の発光スペクトルの重なりが少ないことが重要である。
【0160】
よって本発明においては、分光可能な生物発光を触媒するルシフェラーゼを組み合わせて使用すれば、それぞれの発光量をそれぞれ同時に測定することが可能である。
【0161】
また、本発明にかかる外部刺激評価方法においては、2種類のルシフェラーゼに限られず、適宜組み合わせることによって、3種類以上のルシフェラーゼを組み合わせて使用することも可能である。これにより、3種類以上の遺伝子の転写活性を同時に連続的にモニターすることができ、より複雑な系における外部刺激の影響評価が可能となる。よって外部刺激の影響評価の精度が増加することとなるため、さらに好ましい。
【0162】
<遺伝子構築物>
本工程においては、上述の複数の発光酵素遺伝子を、それぞれ外部刺激に対する応答を検討しようとする別々のプロモーターの下流に連結して、遺伝子構築物(以下適宜発現ベクターと称する)を作製する必要がある。ここで選択するプロモーターは、上述のように、導入するホスト細胞中で機能するものであれば、特に限定されるものではなく、評価しようとする外部刺激や、特定の外部刺激に対する活性を評価したいプロモーターを、適宜選択してルシフェラーゼ遺伝子を連結すればよい。ただし、それぞれのルシフェラーゼ遺伝子は、別々のプロモーターに連結する必要がある。そうでなければ、一波長のルシフェラーゼによって、1つのプロモーター活性の動態を見ていることと何ら変わりがないからである。
【0163】
また、上記発現ベクターには、上述のように、プロモーター以外の種々のDNAセグメントが含まれていてもよい。
【0164】
<ホスト細胞>
上記遺伝子構築物を導入する非哺乳類由来ホスト細胞は、上記遺伝子構築物によってそれぞれのルシフェラーゼ遺伝子が導入可能なものであり、導入されたルシフェラーゼが機能するものであれば、特に限定されるものではない。由来となる非哺乳類としては、特に限定されるものではないが、動物であっても、植物であってもよい。また微生物であってもよい。さらに微生物は、細菌、ラン藻類の原核生物または、酵母、糸状菌類をはじめとする真核生物のいずれであってもよい。より具体的には、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeや分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、メダカやゼブラフィッシュ等の魚類個体および卵胞細胞、アフリカツメガエル(Xenopas laevis)の卵母細胞、あるいは、キイロショウジョウバエ、カイコガ等の昆虫の培養細胞等を挙げることができる。
【0165】
<遺伝子導入方法>
遺伝子の導入方法は特に限定されるものではない。上述のように、アグロバクテリウム法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0166】
ルシフェラーゼ遺伝子(上記遺伝子構築物(発現ベクター))がホスト細胞に導入されたか否かを確認する方法も、特に限定されるものではなく、上述のように、公知の各種の方法を用いることができる。
【0167】
(II)外部刺激入力工程
本工程においては、上述の遺伝子導入工程にて複数のルシフェラーゼ遺伝子が導入されたホスト細胞に、影響を評価しようとする外部刺激を与える。外部刺激とは、外部からホスト細胞に対して入力されるものであって、その影響を評価しようとするものであれば特に限定されるものではなく、例えば化学物質による刺激(化学的刺激)であっても、物理的刺激であってもよい。また、化学的刺激と物理的刺激を同時に入力するものであってもよい。
【0168】
化学物質による刺激としては、上述のように、特に限定されるものではなく、上述のホスト細胞に対して適当な条件で曝露すればよい。
【0169】
ここで、曝露する条件であるが、本発明にかかる外部刺激の影響評価方法は、生細胞を用いることを特徴としているため、評価しようとする化学的刺激によって、ホスト細胞が死滅するような条件であることは好ましくない。
【0170】
一方、物理的刺激の例としても、上述のように特に限定されるものではない。
ここで、物理的刺激の入力条件であるが、前記と同様の理由で、評価しようとする物理的刺激によって、試料が死滅するような条件であることは好ましくない。
【0171】
(III)検出工程
本発明における検出工程では、ホスト細胞が発する複数波長の生物発光量を、細胞破砕することなく検出することを特徴としている。
【0172】
本工程における検出手段、検出方法等は上記条件を満たすものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、上述の本発明にかかる生細胞を用いた外部刺激に対する影響評価システムを用いて好適に行うことができる。
【0173】
上述の本発明にかかる生細胞を用いた外部刺激に対する影響評価システムを用いることによって、測定サンプルからの発光量を一定間隔で連続的に測定することが可能であり、またターンテーブルに複数のサンプルを設置することが可能であるため、複数の外部刺激の影響を評価することができ、新薬等のスクリーニング等には好適に利用可能である。
【0174】
(IV)比較工程
本工程は、上述した検出工程によって、外部刺激を入力する前後のプロモーター活性をモニターしておき、そのデータを比較することによって、その影響を評価するというものである。これまでは、ある一点における単一のプロモーター活性の変化を観察して影響を評価していたために、看過する可能性が非常に高かったのに対して、本発明にかかる外部刺激の影響評価方法においては、複数のプロモーター活性を連続的にモニターすることができるため、外部刺激の影響を看過する可能性が非常に少ないものといえる。
【0175】
さらに詳細に説明すると、本発明にかかる外部刺激の影響評価方法は、以下の点で優れている。
【0176】
(1)連続測定による生物発光の動態をとらえることで、外部刺激に対する応答反応の全容を一度に測定することが可能である。換言すれば、個々の応答反応に対する網羅性がある。より具体的に説示すれば、以下のとおりとなる。前述の概日時計をもつ生物の細胞をホスト細胞としている場合は、概日リズムを示すプロモーター活性は一定の周期で常に変化している。よって、一点の測定では外部刺激の影響によりその前後でプロモーター活性に何らかの変化があった場合でも、結果の評価が不可能である。しかし、外部刺激の入力前後のプロモーター活性を長期間連続的に測定し比較することで、その影響を評価することが可能になる。
【0177】
例えば、後述する実施例では、概日時計を持ち、かつ光合成するシアノバクテリアに対して、光の照度を変化させることを外部刺激として入力し、その前後に置けるプロモーター活性をモニターし比較した。なお、シアノバクテリアは、光合成を行う細菌であるため光の影響を受け易い性質を有している。その結果、図12A〜図12Cに示すごとく、2つのプロモーター活性における概日リズムの変化を観察することができた。また、モニターした2つのプロモーターそれぞれにおける、異なった応答パターンを捕らえることができた。
【0178】
(2)同種の外部刺激に応答する2種類のプロモーターを用いることで、少なくとも2つの観点から外部刺激に対する応答を、モニターすることが可能となり、看過する可能性が減少する。換言すれば、多数のサンプル(プロモーター)に対する網羅性がある。例えば、環境ホルモン毒性に関するマーカー遺伝子群(例えばチトクロームP450CY1A1,1B1および2A1当為の薬物誘導遺伝子、ダイオキシンの受容体であるアリルハイドロカーボン受容体等の薬物受容体関連遺伝子等)のプロモーターの下流に、複数のルシフェラーゼ遺伝子を連結し、そのプロモーター活性の変化をそれぞれのルシフェラーゼによる生物発光をモニターすることができる。このことにより、被検物質を曝露させる前後で比較することにより、被検物質中の環境ホルモン毒性を、1回のトライアルで看過することなく検出することが可能となる。
【0179】
(3)一方のルシフェラーゼ遺伝子を外部刺激に応答するプロモーター制御化に置き、他方のルシフェラーゼ遺伝子を別のプロモーター(例えば恒常的に発現するプロモーター)の制御下に置くことで、対照区として用いることができ、プロモーター活性の変化と刺激との相関を検証することが可能となる。換言すれば、測定結果の評価の妥当性を担保することができる。具体的に説示すれば以下のとおりである。入力する外部刺激によっては、細胞自身の活性・状態を大きく変化させる場合があり、このとき細胞内の転写活性化能全体に大きな影響を与えることがある。かかる場合に単一もしくは複数同種の刺激応答プロモーターの活性変化のみを測定しても、その変化の原因が刺激に応答したことに起因するのか、細胞自体が変化に起因するものかの評価ができない。そこでモニターする2つのプロモーターの一方を恒常的に発現するものとすることで(対照区とすることで)、評価の妥当性の判断が容易となる。
【0180】
よって本発明にかかる外部刺激の影響評価方法は、複雑なシグナル伝達で成り立っている生体の生理活性を、同一の個体を用い、かつ1回のトライアルで、観察することが可能であり、その有効性は明らかである。
(C)外部刺激の影響評価用キット
本発明では、前述の外部刺激の影響評価方法を実施するためのキット(以下適宜「本発明にかかるキット」と称す)を提供することができる。本発明にかかるキットを構成する試薬、器具、装置等は、該外部刺激の影響評価方法を実施することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、異なる波長の生物発光を触媒する複数のルシフェラーゼ遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる遺伝子構築物が導入されたホスト細胞、および/または当該ルシフェラーゼが触媒する異なる波長の生物発光をモニターする検出器が挙げられる。
【0181】
異なる波長の生物発光を触媒する複数のルシフェラーゼ遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる遺伝子構築物が導入されたホスト細胞としては、特に限定されるものではないが、例えば、鉄道虫由来の赤色および緑色ルシフェラーゼ遺伝子をそれぞれKaiBCプロモーターおよびtrcプロモーター制御下に組み込んだ遺伝子構築物が導入されたシアノバクテリアが挙げられる。この他、さらに別のプロモーター制御下のウミシイタケ由来青色ルシフェラーゼ遺伝子を同シアノバクテリアに導入したものでもよい。
【0182】
また本発明にかかるキットには、当該ルシフェラーゼが触媒する異なる波長の生物発光をモニターする検出器が含まれていてもよい。光の検出器は、特に限定されるものではなく、公知の光度計等を用いればよい。ただし生物発光は微弱であるため、適宜公知の光電子増倍管によって増幅させて検出することが好ましい。さらに、光度計によって得られたデータを記録するためにレコーダー、データを表示するためのモニター、データ処理をするためのソフトウエア、およびハードウエアが含まれていてもよい。
【0183】
また本発明にかかるキットには、上述のホスト細胞からの複数波長の生物発光をそれぞれ別々に検出するために、特定の波長のみを透過する干渉フィルターが含まれていてもよい。干渉フィルターは、導入されたルシフェラーゼの発光波長に応じて選択すればよく、例えば、鉄道虫由来の赤色ルシフェラーゼの発光を検出するためには、630nm近傍の光を透過する干渉フィルターを用いればよい。また同緑色ルシフェラーゼの発光を検出するためには、540nm近傍の光を透過する干渉フィルターを用いればよい。
【0184】
その他本発明にかかるキットに含まれるものは、外部刺激の影響を評価する方法、条件等に応じて適宜変更を加えてもよい。
【0185】
本発明にかかるキットによれば、前述の外部刺激の影響評価方法を実施することができ、複雑なシグナル伝達で成り立っている生体の生理活性を、同一の個体を用いかつ1回のトライアルで、観察することが可能となる。
【0186】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれに開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0187】
以下、本システムおよび本発明にかかる外部刺激の影響評価方法を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0188】
はじめに、本実施例において使用する材料、および試験方法について説明する。
【0189】
〔シアノバクテリア細胞株、培養条件、形質転換方法〕
ルシフェラーゼ遺伝子を導入するホスト細胞としてシアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC 7942株を用いた。培養条件や細胞への形質転換法は文献(Kutsuna,S.,Kondo,T.,Aoki,S.& Ishiura,M.A period−extender gene,pex,that extends the period of the circadian clock in the cyanobacterium Synechococcus sp.PCC 7942.J.Bacteriol.180,2167−2174(1998).)に従った。
【0190】
培養方法を簡単に説明すると、以下のとおりである。液体培養は、通気もしくは振盪しながらBG11培地にて30℃、約3000luxの白色蛍光灯下で行った。また生物発光の測定時等には、BG11寒天培地にて30℃、約3000luxの白色蛍光灯下で培養を行った。
【0191】
BG11培地の組成は、硝酸ナトリウム1.5g/l、塩化カルシウム2水和物36mg/l、クエン酸鉄アンモニウム12mg/l、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム塩1mg/l、リン酸水素2カリウム40mg/l、硫酸マグネシウム6水和物75mg/l、炭酸ナトリウム20mg/l、硼酸2.86mg/l、塩化マンガン4水和物1.81mg/l、硫酸亜鉛7水和物0.222mg/l、モリブデン酸ナトリウム2水和物0.39mg/l、硫酸銅5水和物0.079mg/l、および硫酸コバルト6水和物0.049mg/lである。なお、BG11寒天培地は、上記BG11培地に、寒天を15g/lとなるように添加してオートクレーブ後、シャーレ内で固化させたものを使用した。
【0192】
また、形質転換方法は自然形質転換法により行った。簡単に説明すると以下のとおりである。液体培養で730nmの吸光度が0.5程度まで増殖させ、遠心分離により集菌した。次に、10mMの食塩水で菌を洗浄し、再び遠心分離により集菌した。730nmの吸光度が2.5になるようにBG11培地で再懸濁し、菌懸濁液1mlあたり1μgの形質転換用のDNAコンストラクトを加えて、30℃暗所で一晩振盪培養を行った。適量の培養液をBG11寒天培地上に塗布し、約500luxの白色蛍光灯下で一日培養したのち、寒天培地に適当な抗生物質(カナマイシンは10mg/l,クロラムフェニコールは15mg/lの濃度)を添加し、前記通常の培養条件下で生育させ、形質転換コロニーを得た。
【0193】
〔生物発光測定条件および測定装置〕
生物発光測定には、30から50個のコロニーを一枚のプレート(直径40mm、アサヒテクノガラス社)で培養した細胞を使用した。培地は、ルシフェラーゼの発光基質として0.5mMのD−luciferin(ホタル由来、ナトリウム塩、Biosynth AG社)を含むように調製した。プレート上の細胞は、白色光下(34μmol/m2/s、30℃)で5日間培養後、12時間暗期処理をし、評価システムで連続発光測定を行った。
【0194】
生物発光の検出(検出部)には、二つの光電子倍増管(浜松ホトニクス、R329P)を使用し、一方には緑色光(540nm近傍)のみを透過するバンドパスフィルター(MY0540,朝日スペクトラ)を装着し、他方には赤色光(630nm近傍)のみを透過するバンドパスフィルター(MY0630,朝日スペクトラ)を装着した。円盤に配置したサンプルプレートを一定周期(30分/回転)で回転させることによって、それぞれのプレートからの生物発光を、一定間隔で連続的に測定した。
【0195】
〔シアノバクテリアに遺伝子導入する際に用いたプラスミドベクター〕
<緑色ルシフェラーゼ遺伝子をtrcプロモーター下で発現させる遺伝子構築物(NS2trcPvGR)の作製>
発現ベクターpTrc99A(アマシャムバイオサイエンス社)のtrcプロモーターの下流、rrnBターミネーター上流にPvGR遺伝子(配列番号1参照)のコード領域をクローニングした。
【0196】
シアノバクテリアへの外来遺伝子導入は、そのゲノムDNA内へ相同組み換えによって行われる。遺伝子導入をしてもシアノバクテリアに害を与えない「ニュートラルサイト」と呼ばれるゲノム上の座が知られている。かかるニュートラルサイト2(NS2)に挿入するためのプラスミドベクターpNS2KmTにtrcプロモーター、PvGR遺伝子とrrnBターミネーターを含む領域をクローニングした(Kutsuna,S.,Kondo,T.,Aoki,S.& Ishiura,M.A period−extender gene,pex,that extends the period of the circadian clock in the cyanobacterium Synechococcus sp.PCC 7942.J.Bacteriol.180,2167−2174(1998).参照)。
【0197】
この遺伝子構築物により、カナマイシン耐性を選抜マーカー遺伝子として、目的の遺伝子構築物をゲノム内にもつシアノバクテリアPtrcGR株を作製した。
【0198】
なお、trcプロモーターは、概日時計を持たない大腸菌由来のプロモーターであるが、シアノバクテリアに導入すると、その概日時計によって制御されることが知られている(Liu,Y.,Tsinoremas,N.F.,Johnson,C.H.,Levedeva,N.V.,Golden,S.S.,Ishiura,M.and Kondo,T.Circadian orchestration cf gene expression incyanobacteria.Genes Dev.,9,1496−1478(1995)参照)。
【0199】
<赤色ルシフェラーゼ遺伝子をkaiBCプロモーター下で発現させる遺伝子構築物(NS1kaiPhRE)>
発現ベクターptrc99a(アマシャムバイオサイエンス社)のtrcプロモーターの下流、rrnBターミネーター上流にPhRE遺伝子(配列番号3参照)のコード領域をクローニングした。この遺伝子構築物からtrcプロモーター領域を、kaiBCプロモーター領域に置換した。kaiBCプロモーター領域としては、kaiB遺伝子の上流にあるkaiA遺伝子の終止コドンからkaiB遺伝子の開始コドンまでを用いた(非特許文献2参照)。NS2trcPvGRと同様、ニュートラルサイトに挿入するため、プラスミドベクターpNS1CmにkaiBCプロモーター、PhRE遺伝子とrrnBターミネーターを含む領域をクローニングした(Kutsuna,S.,Kondo,T.,Aoki,S.& Ishiura,M.A period−extender gene,pex,that extends the period of the circadian clock in the cyanobacterium Synechococcus sp.PCC 7942.J.Bacteriol.180,2167−2174(1998).参照)。この構築物は、NS2trcPvGRと異なるニュートラルサイト1(NS1)に目的塩基配列を導入した。
【0200】
NS1kaiPhREにより、クロラムフェニコール耐性を選抜マーカー遺伝子として、目的の遺伝子構築物をゲノム内にもつシアノバクテリアPkaiRE株を作製した。
【0201】
また同様にして、上述の2つの遺伝子構築物をゲノム内に導入したシアノバクテリアPtrcGRPkaiRE株を作製した(図7)。
【0202】
〔発光細菌由来青色ルシフェラーゼ、鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ、鉄道虫由来緑色ルシフェラーゼの比較〕
シアノバクテリアの概日時計によって制御されているkaiBCプロモーターの下流に発光細菌由来の青色ルシフェラーゼ遺伝子、鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ遺伝子および鉄道虫由来緑色ルシフェラーゼ遺伝子を連結して、シアノバクテリアに導入したときの、生物発光を連続的に測定した。
【0203】
図8にその結果を示した。図8のAは、発光細菌由来ルシフェラーゼ遺伝子をkaiBCプロモーター下流に連結し、シアノバクテリアに導入した場合の生物発光を連続的に測定した結果を示す。また図8のBには、鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ遺伝子をkaiBCプロモーター下流に連結し、シアノバクテリアに導入した場合の生物発光を連続的に測定した結果を示す。また図8のCには、鉄道虫由来緑色ルシフェラーゼ遺伝子をkaiBCプロモーター下流に連結し、シアノバクテリアに導入した場合の生物発光を連続的に測定した結果を示す。
【0204】
図8のA〜Cの結果より、それぞれのルシフェラーゼ遺伝子を単独でシアノバクテリアの導入した場合においては、それぞれ同様に概日リズムを刻んでいるということがわかった。よって、それぞれのルシフェラーゼの発現が、概日時計によって制御されており、各ルシフェラーゼ遺伝子が、シアノバクテリアのプロモーター活性をモニターする手段として適切であるということがわかった。
【0205】
〔バンドパスフィルターを用いた生物発光の測定〕
kaiBCプロモーターの下流に鉄道虫由来赤色ルシフェラーゼ遺伝子を連結しシアノバクテリアに導入したPkaiRE株と、trcプロモーターの下流に鉄道虫由来緑色ルシフェラーゼ遺伝子を連結しシアノバクテリアに導入したPtrcGR株それぞれの生物発光を、検出部にて測定した。
【0206】
図9にPkaiRE株の測定結果を、図10にPtrcGR株の測定結果を示した。図3の結果では、赤色光のみを発しているPkaiRE株の生物発光を、630nm近傍の光(赤色)を透過するバンドパスフィルター、および540nm近傍の光(緑色)を透過するバンドパスフィルターを経由してそれぞれ検出すると、630nm近傍の光(赤色)を透過するバンドパスフィルターを経由して検出した結果のみに生物発光の概日リズムが観察され、540nm近傍の光(緑色)を透過するバンドパスフィルターを経由して検出した場合には生物発光がほとんど検出されなかった。
【0207】
一方、図10の結果では、逆に緑色光のみを発しているPtrcGR株の生物発光を、630nm近傍の光(赤色)を透過するバンドパスフィルター、および540nm近傍の光(緑色)を透過するバンドパスフィルターを経由して検出すると、540nm近傍の光(緑色)を透過するバンドパスフィルターを経由して検出した結果のみに生物発光の概日リズムが観察され、630nm近傍の光(赤色)を透過するバンドパスフィルターを経由して検出した場合には生物発光がほとんど検出されなかった。
【0208】
以上図9、図10の結果より、2種類のバンドパスフィルターによって、赤色光(630nm)および緑色光(540nm)をそれぞれ分別して測定できるということがわかった。
【0209】
〔生物発光の測定〕
赤色および緑色のルシフェラーゼをダブル導入したPtrcGRPkaiRE株の生物発光を、検出部にて測定した。
【0210】
図11Aおよび図11Bは、比較としてそれぞれのルシフェラーゼ遺伝子を単独で導入した株(それぞれPkaiRE株、PtrcGR株)の生物発光を、連続的に測定した結果を示す。また図11Cには、PtrcGRPkaiRE株の生物発光を測定した結果であり、同左図は630nm近傍の光(赤色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示し、同右図は540nm近傍の光(緑色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示した。
【0211】
図11Aの結果と、図11C左図の結果および図11Bの結果と、図11C右図の結果がほぼ一致したことより、本システムを用いることによって、2種類のルシフェラーゼを導入したシアノバクテリアの2種類のプロモーター活性を、細胞破砕することなく、連続的かつ同時に測定することが可能であるということがわかった。
【0212】
〔本システムによる外部刺激の影響評価〕
赤色および緑色のルシフェラーゼを導入したシアノバクテリアPtrcGRPkaiRE株に照射する光の照度を、34μmol/m2/sから8.4μmol/m2/sに変化させたときの生物発光を測定した。
【0213】
図12Aは、PtrcGRPkaiRE株の生物発光を測定した結果であり、左図は630nm近傍の光(赤色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示し、右図は540nm近傍の光(緑色)のみを透過するバンドパスフィルターからの検出結果を示した。図6BおよびCには、比較としてそれぞれのルシフェラーゼ遺伝子を単独で導入した株(それぞれPkaiRE株、PtrcGR株)の生物発光を連続的に測定した結果を示す。なお図中の矢印は、シアノバクテリアへの照射光の照度を34μmol/m2/sから8.4μmol/m2/sに変化させた時点を示す。
【0214】
なお、シアノバクテリアは、光合成を行う細菌であるため光の影響を受け易い性質を有している。よって本実施例では、光の照度を変化させることを外部刺激として入力し、その前後に置けるプロモーター活性をモニターし比較することとした。
【0215】
図12Aの結果によれば、照射光の照度を変化させる前後で、明らかに2色の生物発光のリズムがそれぞれ大きく変化したことが観察できる。つまり2種類のプロモーター活性の変化を、それぞれ分別してモニターすることができた。またかかる2種類のプロモーターは、照度変化に対してそれぞれ異なった応答パターンを示したにも関わらず、それぞれを捕らえることができた。また比較として検討した図12Bおよび図12Cの結果と、図12Aのそれぞれ結果とが一致していたことより、それぞれのプロモーター活性動態を同時にモニターすることができるということがわかった。
【0216】
よって、外部刺激を入力する前後の概日リズムを比較することによって、プロモーター活性への影響をリアルタイムで評価することができる。つまり、本システムによれば、複雑なシグナル伝達で成り立っている生体の生理活性の動態を、同一個体を用いた1回のトライアルで観察することが可能となるため、入力した外部刺激の生体への影響をより詳細かつ正確に捕らえることが可能となる。
【0217】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0218】
以上のように、本発明によれば、試料を破砕することなく評価遺伝子の発現量を検出することができるので、外部刺激を与える前後の評価遺伝子の発現量を、同一試料で比較することができる。それゆえ、より信頼性の高い解析ができるため、遺伝子レベルでの新規医薬品のスクリーニングや、各種疾患解析等を行うことが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なるプロモーター制御下にある複数の評価遺伝子を含む生きた試料に外部刺激を与え、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価する評価システムであって、
複数の評価遺伝子それぞれのプロモーターの下流に連結された発光関連遺伝子の発現によって発する異なる波長の生物発光量を、未破砕試料から検出する検出手段と、
試料に外部刺激を与える刺激手段と、
外部刺激前後の同一発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する前後比較手段と、
外部刺激前後のそれぞれで、異なる発光関連遺伝子間の生物発光量を同時に比較する同時比較手段とを備えていることを特徴とする評価システム。
【請求項2】
上記検出手段が、複数の異なる波長の生物発光量を同時に検出するものであることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の評価システム。
【請求項3】
上記検出手段が、特定の発光関連遺伝子による生物発光の波長を透過させる分光手段を備えていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の評価システム。
【請求項4】
上記検出手段が、上記生物発光量の検出に加えて、上記試料の培養も行うものであることを特徴とする請求の範囲第1項、第2項、または第3項に記載の評価システム。
【請求項5】
上記発光関連遺伝子は、発光基質の存在下、生物発光する遺伝子であって、
上記検出手段が、発光基質が大過剰存在下での生物発光量を検出することを特徴とする請求の範囲第1項〜第4項のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項6】
さらに、複数の試料を、順次、上記検出手段に運ぶための載置手段を備えていることを特徴とする請求の範囲第1項〜第5項のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項7】
上記刺激手段は、上記外部刺激として、化学物質による刺激、および/または、物理的刺激を与えるものであることを特徴とする請求の範囲第1項〜第6項のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項8】
さらに、上記検出手段で検出された生物発光量に基づいて、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を解析し、上記生物発光量を、評価遺伝子の発現量に変換する解析手段を備えていることを特徴とする請求の範囲第1項〜第7項のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項9】
上記解析手段は、概日リズムを指標として、評価遺伝子の影響を解析することを特徴とする請求の範囲第8項に記載の評価システム。
【請求項10】
異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる複数の遺伝子構築物を、非哺乳類由来ホスト細胞に導入する工程と、
当該ホスト細胞に外部刺激を与える工程と、
当該ホスト細胞が発する複数波長の生物発光量を、細胞破砕することなく検出する工程と、
外部刺激を与える前後における上記発光量の動態を比較する工程とを含むことを特徴とする外部刺激の影響評価方法。
【請求項11】
上記異なる波長の生物発光が、分光可能であることを特徴とする請求の範囲第10項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項12】
上記ホスト細胞が、概日時計を有する細胞であることを特徴とする請求の範囲第10項または第11項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項13】
上記ホスト細胞が、細菌類であることを特徴とする請求の範囲第10項〜第12項のいずれか1項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項14】
上記細菌類が、シアノバクテリアであることを特徴とする請求の範囲第13項に記載の外部刺激評価方法。
【請求項15】
上記異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素のうち、少なくとも2つの発光酵素の発光基質が、同一であることを特徴とする請求の範囲第10項〜第14項のいずれか1項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項16】
上記複数の発光酵素遺伝子が、鉄道虫および/または細菌および/またはウミシイタケ由来であることを特徴とする請求の範囲第10項〜第15項のいずれか1項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項17】
上記外部刺激が、化学物質による刺激および/または物理的刺激であることを特徴とする請求の範囲第10項〜第16項のいずれか1項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項18】
外部刺激を与える前後における発光量の動態を比較する工程は、外部刺激を与える前後の概日リズムを指標として、当該発光量の動態を比較評価することを特徴とする請求の範囲第10項〜第17項のいずれか1項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項19】
請求の範囲第10項〜第18項のいずれか1項に記載の外部刺激の影響評価方法を行なうためのキット。
【請求項20】
請求の範囲第19項に記載の外部刺激の影響評価方法を行なうためのキットであって、
異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる遺伝子構築物が導入された非哺乳類由来ホスト細胞、
および/または当該発光酵素が触媒する異なる波長の生物発光をモニターする検出器を備えるキット。
【請求項1】
異なるプロモーター制御下にある複数の評価遺伝子を含む生きた試料に外部刺激を与え、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を評価する評価システムであって、
複数の評価遺伝子それぞれのプロモーターの下流に連結された発光関連遺伝子の発現によって発する異なる波長の生物発光量を、未破砕試料から検出する検出手段と、
試料に外部刺激を与える刺激手段と、
外部刺激前後の同一発光関連遺伝子間の生物発光量を比較する前後比較手段と、
外部刺激前後のそれぞれで、異なる発光関連遺伝子間の生物発光量を同時に比較する同時比較手段とを備えていることを特徴とする評価システム。
【請求項2】
上記検出手段が、複数の異なる波長の生物発光量を同時に検出するものであることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の評価システム。
【請求項3】
上記検出手段が、特定の発光関連遺伝子による生物発光の波長を透過させる分光手段を備えていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の評価システム。
【請求項4】
上記検出手段が、上記生物発光量の検出に加えて、上記試料の培養も行うものであることを特徴とする請求の範囲第1項、第2項、または第3項に記載の評価システム。
【請求項5】
上記発光関連遺伝子は、発光基質の存在下、生物発光する遺伝子であって、
上記検出手段が、発光基質が大過剰存在下での生物発光量を検出することを特徴とする請求の範囲第1項〜第4項のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項6】
さらに、複数の試料を、順次、上記検出手段に運ぶための載置手段を備えていることを特徴とする請求の範囲第1項〜第5項のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項7】
上記刺激手段は、上記外部刺激として、化学物質による刺激、および/または、物理的刺激を与えるものであることを特徴とする請求の範囲第1項〜第6項のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項8】
さらに、上記検出手段で検出された生物発光量に基づいて、外部刺激に対する評価遺伝子の影響を解析し、上記生物発光量を、評価遺伝子の発現量に変換する解析手段を備えていることを特徴とする請求の範囲第1項〜第7項のいずれか1項に記載の評価システム。
【請求項9】
上記解析手段は、概日リズムを指標として、評価遺伝子の影響を解析することを特徴とする請求の範囲第8項に記載の評価システム。
【請求項10】
異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる複数の遺伝子構築物を、非哺乳類由来ホスト細胞に導入する工程と、
当該ホスト細胞に外部刺激を与える工程と、
当該ホスト細胞が発する複数波長の生物発光量を、細胞破砕することなく検出する工程と、
外部刺激を与える前後における上記発光量の動態を比較する工程とを含むことを特徴とする外部刺激の影響評価方法。
【請求項11】
上記異なる波長の生物発光が、分光可能であることを特徴とする請求の範囲第10項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項12】
上記ホスト細胞が、概日時計を有する細胞であることを特徴とする請求の範囲第10項または第11項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項13】
上記ホスト細胞が、細菌類であることを特徴とする請求の範囲第10項〜第12項のいずれか1項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項14】
上記細菌類が、シアノバクテリアであることを特徴とする請求の範囲第13項に記載の外部刺激評価方法。
【請求項15】
上記異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素のうち、少なくとも2つの発光酵素の発光基質が、同一であることを特徴とする請求の範囲第10項〜第14項のいずれか1項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項16】
上記複数の発光酵素遺伝子が、鉄道虫および/または細菌および/またはウミシイタケ由来であることを特徴とする請求の範囲第10項〜第15項のいずれか1項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項17】
上記外部刺激が、化学物質による刺激および/または物理的刺激であることを特徴とする請求の範囲第10項〜第16項のいずれか1項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項18】
外部刺激を与える前後における発光量の動態を比較する工程は、外部刺激を与える前後の概日リズムを指標として、当該発光量の動態を比較評価することを特徴とする請求の範囲第10項〜第17項のいずれか1項に記載の外部刺激の影響評価方法。
【請求項19】
請求の範囲第10項〜第18項のいずれか1項に記載の外部刺激の影響評価方法を行なうためのキット。
【請求項20】
請求の範囲第19項に記載の外部刺激の影響評価方法を行なうためのキットであって、
異なる波長の生物発光を触媒する複数の発光酵素遺伝子をそれぞれ別々のプロモーター制御下に組み込んでなる遺伝子構築物が導入された非哺乳類由来ホスト細胞、
および/または当該発光酵素が触媒する異なる波長の生物発光をモニターする検出器を備えるキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【国際公開番号】WO2005/021791
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513487(P2005−513487)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012403
【国際出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/012403
【国際出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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