説明

生酸性麹菌を利用した食品廃棄物の処理方法

【課題】従来の生ゴミ養豚の持つ課題を解決し、食品廃棄物を飼料に利用する方法を提供する。また、食品廃棄物を腐敗させることなく保存する方法を提供する。さらに、食品廃棄物の処理物を含む飼料を提供する。
【解決手段】食品廃棄物を含有する原料を麹菌により発酵させて液状物を得ることを含む方法によって、食品廃棄物を処理する。前記麹菌を、クエン酸生成能を有するアスペルギルス属の麹菌とする。前記液状物は、麹菌由来のクエン酸を含有しpH5.5以下のものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生酸性麹菌を利用した食品廃棄物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昭和30年代から40年代初頭にかけて、生ゴミ養豚は養豚業者において一般的に行われてきた。しかし、生活レベルの向上に従って豚肉品質に対する要求が厳しくなり、現在では殆ど行われていない。この理由には、以下の3点が挙げられる。
第1に、生ゴミに含まれる油分の影響によって、豚肉の脂肪分が半透明もしくは黄色味がかる現象が生じる。これが主たる要因である。
第2に、より短期間で豚を肥育する配合飼料が開発されたため、栄養成分の安定しない生ゴミによる養豚は肥育期間も長くかかり敬遠されている。
第3に、生ゴミは一般に水分が80%前後と高いので腐敗しやすく保存性に難点がある。
【0003】
一方、将来の飼料不足に備えて食品リサイクル法が施行され、再度、生ゴミの再利用が模索されている。そして、上記の問題を解決するために下記2つの方法が試されている。
・乳酸発酵
これは生ゴミに乳酸菌を加えて嫌気発酵させることによりpHを4以下に抑えて腐敗を防ぎそのまま豚に給餌させる方法であり、処理コストが安価である事を利点とする。従来のリキッドフィーディング技術では殆ど全てこの乳酸発酵が中心となっている。
しかしながら、この方法には以下の問題点がある。
1.嫌気状態では攪拌が十分でない場合が多く、不十分な場合には一部メタン発酵となり飼料として適さない。
2.乳酸菌では油分の分解が容易ではないので肉質が低下する傾向が高い。
3.成分にぶれが多いので既存飼料で栄養補填する必要があり作業が面倒である。
【0004】
・加熱乾燥
これは生ゴミを加熱して水分15%以下に乾燥させ、貯蔵性の高い飼料として使用する方法である。
しかしながら、この方法には以下の問題点がある。
1.水分の高い生ゴミを加熱により乾燥するので、1トンの生ゴミ処理に1万円以上といったような非常に高い処理コストを強いられる。
2.加熱工程中に生ゴミに含まれる油分が酸化され品質が低下する。
3.油分が大量に含まれる(通常20%程度)ので配合飼料に10%以上添加出来ない。
上記のような問題点のために、なかなか経済性の高い生ゴミの給餌法はこれまで開発されていない。
【0005】
また、麹菌を用いて食品廃棄物を発酵処理する方法も提案されている(特許文献1〜3)。従来提案されている方法では、発酵処理工程中の有機物の腐敗を乾燥によって防止している。即ち、従来法では、原料の水分は低く調節され(例えば水分60%以下)、発酵処理中の水分も低く維持される。従って、生ゴミのような高水分の原料を使用する場合には、乾燥した他の原料を添加するなどして水分を低くしてから発酵処理することが必要であった。
さらに、従来法で得られる最終生成物は、保存性を確保するために水分が非常に低く、例えば水分20%以下で、固体又は粒状である。従って、輸送には手作業での積み下ろしが必要であるなどの困難があった。
【特許文献1】国際公開第00/67588号
【特許文献2】特開2002−142688号公報
【特許文献3】特開2002−336822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、従来の生ゴミ養豚の持つ課題を解決し、食品廃棄物を飼料に利用する方法を提供する。
また、本発明は、食品廃棄物を腐敗させることなく保存する方法を提供する。
さらに、食品廃棄物の処理物を含む飼料を提供する。
本発明で得られる食品廃棄物の処理物はクエン酸を含んでいるため、水分と有機物を多量に含む食品廃棄物を腐敗させることなく保存する形態として適している。また、クエン酸は麹菌が発酵工程で産生するため酸性化剤を添加する必要がなく、クエン酸が食品廃棄物と一体となって全体に満遍なく行き渡るという利点がある。
また、生ゴミは通常、液状ではなく、例えば10000mPa・s以上の粘度があるため、その輸送には手作業での積み下ろしが必要である。本発明によれば、このような生ゴミを液状にすることができる。従って、本発明で得られる生ゴミ処理物は、ポンプ輸送も可能であるため、輸送が簡便である。
さらに、液状となることにより生ゴミに含まれる異物の分離も容易となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、食品廃棄物を含有する原料を麹菌により発酵させて液状物を得ることを含む、食品廃棄物の処理方法を提供する。麹菌は、クエン酸生成能を有するアスペルギルス属の麹菌である。高クエン酸産生麹菌を用いることにより、クエン酸の防腐効果によって安全な発酵処理が可能となる。本発明の発酵に使用されるクエン酸生成能を有する麹菌としては、例えば、Aspergillus.awamori、Aspergillus.inuii、Aspergillus.ryukyuensis及びAspergillus.saitoiが挙げられる。本発明では、好ましくは、Asp.awamori.kawachii(株式会社河内源一郎商店)を用いる。この麹菌は菌体外酵素を大量に分泌するが、酸性下でその機能を発揮する為、耐酸性も非常に強いという利点を有する。
【0008】
また、本発明は、食品廃棄物をアスペルギルス属麹菌によって発酵させて、前記麹菌由来のクエン酸を含有するpH5.5以下の液状物を得ることを含む、食品廃棄物の処理方法における、クエン酸生成能を有するアスペルギルス属麹菌の使用に関する。
さらに、本発明は、食品廃棄物をアスペルギルス属麹菌によって発酵させて、前記麹菌由来のクエン酸を含有するpH5.5以下の液状物と得るための、クエン酸生成能を有するアスペルギルス属麹菌を含有する食品廃棄物処理剤にも関する。
【0009】
本発明の他の実施態様では、食品廃棄物とクエン酸生成能を有するアスペルギルス属麹菌とを混合する工程、前記混合物の水分を調節する工程、前記混合物を好気的に発酵させて、前記麹菌由来のクエン酸を含有するpH5.5以下の液状物とする工程を含む、食品廃棄物の処理方法を提供する。
さらに本発明の他の実施態様では、食品廃棄物を含有する原料とクエン酸生成能を有するアスペルギルス属麹菌とを混合する工程、前記混合物の水分を調節する工程、前記混合物を好気的に発酵させて、前記麹菌由来のクエン酸を含有するpH5.5以下の液状物とする工程を含む食品廃棄物の処理方法であって、前記発酵のための微生物として麹菌、特にアスペルギルス属の麹菌のみを使用する方法を提供する。
好ましくは、混合物の水分は75%以上、より好ましくは80%以上に調節される。
【0010】
腐敗菌はpH5.5以下では殆ど生育できず、pH4以下になると大腸菌を含む多くの微生物が生育できないが、本発明で使用される麹菌は比較的強い酸性下で生育が可能である。従って、本発明で得られる液状物は、好ましくはpH5.5以下、より好ましくはpH4.5以下、さらに好ましくはpH4以下である。
好適には、食品廃棄物を含有する原料の水分は、70%以上、好ましくは75%以上、最も好ましくは80%以上である。食品廃棄物は、通常、多量の水分を含んでいるが、これをそのまま使用することが可能である。また、食品廃棄物は、通常、高い粘度、例えば10000mPa・s以上の粘度を有している。しかし、本発明の方法によれば、原料の粘度を低下させることができ、処理生成物の粘度を例えば5000mPa・s以下、特に4000mPa・s以下にすることができる。
本発明で使用される食品廃棄物は、好ましくは生ゴミである。
【0011】
発酵は、好ましくは通気によって好気的に行われる。所望のpHを得るのに十分な量のクエン酸を産生させるように発酵条件を設定する。発酵処理中、麹菌、特にクエン酸生成能のある麹菌を優勢に増殖させることが好ましい。好適には、培地を4℃以上とし、通気量を、好ましくは原料1Kgあたり0.08リットル/分以上、より好ましくは0.8リットル/分以上とする。
本発明に従って提供される食品廃棄物の処理物は、好ましくは澱粉質飼料を添加して、家畜に給餌することができる。好ましくは、養豚用の飼料に利用される。特に、リキッドフィーディングが可能である。本発明に係る畜産方法は、食肉用豚を生産する方法を含む。
さらに、本発明では、アスペルギルス属麹菌由来のクエン酸と食品廃棄物の麹菌発酵物とを含有し、2000mPa・s〜5000mPa・s、好ましくは3000mPa・s〜4000mPa・sの粘度を有する、pH5.5以下の飼料用液状物も提供される。好ましくは、麹菌発酵物は麹菌が優性に増殖したものである。
【0012】
本発明に係る方法における各工程の好適な例を記載する。
1.調理くず、食べ残し、オカラ、茶粕、賞味期限切れの弁当、米のとぎ汁等の生ゴミを原料として使用する。
2.原料生ゴミに1Kgあたり10個以上の生酸性麹菌の胞子を加える。
3.水分が少ない場合には水を追加して80%以上に調整する。
4.麹菌を加えた生ゴミに通気を行い麹菌を増殖させる。麹菌の生産する諸酵素により生ゴミを液状化させる。また、麹菌の生産するクエン酸により生ゴミのpHを4以下とする。このpH低下により腐敗が防止される。さらに、麹菌により生ゴミに含まれる油分を分解低減させる。
5.麹菌の増殖した発酵生ゴミに水分が好ましくは60%から90%、更に好ましくは75%程度になるように澱粉質を多く含む飼料を添加する。
6.この飼料を液状のまま豚に給餌する。
【0013】
本発酵飼料により豚の免疫抵抗力を促進し病死率を低下させることができる。
上記の本発明に係る方法によって、従来の生ゴミ養豚の持つ課題をすべて解消することができる。すなわち、下記の効果が得られる。
1.水分の多い生ゴミの腐敗を低コストで防止する。
2.生ゴミ由来の油分を原因とする肉質の低下を防止する。
3.成分不安定を原因とする発育の低下を防止する。
さらに、以下の効果も有している。
4.従来の配合飼料給餌による豚肉を遥かに超える上質の肉質を実現する。
5.免疫抵抗力を増加して病死による歩留まり低下を防止する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好適な実施の形態を説明する。
例えば、調理くず並びに食べ残しの生ゴミに生酸性麹菌の胞子を1gあたり10以上の濃度になるように散布する。この場合、混和をより完全に行うために生ゴミを粉砕して用いてもよい。
麹菌を散布後通気を行い麹菌の生育を促す。
24時間後には生酸性麹菌の分泌する酵素により生ゴミの殆どは液状となる。更に生酸性麹菌の生育によりクエン酸が分泌される一方、通気によって全体が攪拌されるので生ゴミ全体が均等にpH4以下となり腐敗から免れる。
また、この麹菌生育の過程で生ゴミに含まれる油分が分解される。
全体量が輸送に適する経済重量になるまで上記の行為を適宜繰り返す。タンクローリー容量に達した時点で出荷とする。
得られた処理物は在来の異物分離装置にて異物分離を行っても良い。この場合には生ゴミが既に液状になっているので処理前に異物分離を行うよりも遥かに効果的に異物分離を行うことができる。
【0015】
経済重量になった発酵生ゴミに澱粉質飼料(トウモロコシ等)を加えて水分を好ましくは70〜80%、より好ましくは75%に調整する。
これを、好ましくは体重30Kgを超えた子豚に給餌する。基本的にはこの飼料のみで出荷体重である100Kg前後まで肥育する。また、この間栄養補填のために在来の飼料を加えても良いし、出荷1ヶ月まえから従来の配合飼料に変えても良い。
【0016】
この結果豚は麹菌の生育促進作用により栄養成分の調整をしていないにもかかわらず、栄養調整給餌における標準と変わらない生後6から8ヶ月で出荷が可能となる。
また、ここで生産された豚肉は従来の生ゴミ養豚でありがちな脂肪分の黄変や軟脂は生じない。
更に麹菌の作用により肉の細胞膜が強化されドリップが少ない旨みの多い豚肉となる。
【実施例1】
【0017】
レストラン20店舗から排出される調理残渣ならびに食べ残し日量350Kgに生酸性麹菌(Asp.awamori)の種麹を3.5Kg加えて1gあたりの胞子数を5×10に調整し通気を開始した。原料の水分は80%とした。
24時間後にはこの生ゴミはほとんど液状化しており、pHも3.9に低下していた。粘度は、処理前の生ゴミ11000mPa・sから、処理後3200mPa・sに低下していた(B型粘度計、株式会社東京計器)。
この発酵液に4日間にわたり1日あたり350Kgの生ゴミと350gの種麹を加えて通気培養を継続したが、常時pHは4以下であり腐敗は全く見られなかった。
この発酵液1400Kgに115Kgのコーンを加えて水分を75%に調整して生後4ヶ月目の黒豚15頭に給餌を開始した。
また、対象区として同様に生後4ヶ月の黒豚15頭に通常の配合飼料を給餌した。
その後同様の操作を体重が100Kgを超えるまで継続した後、屠殺し肉質の評価を行った。
【0018】
そのときの体重変化を図1に示す。試験区は、本発明飼料を給餌した豚の平均体重変化である。対象区は、通常の配合飼料を給餌した豚の平均体重変化である。
この間豚には無制限給餌を行ったが、結果的には体重の20%の重量の飼料を摂取していた。
また、このグラフで明らかなように、発酵生ゴミとコーン以外には飼料を給餌していないにもかかわらず、豚は従来の配合飼料による養豚となんら変わりなく成長している。
【0019】
一方、この間の飼料の成分変化を図2に示す。なお、成分%は乾物比である。
このように、本発明飼料の成分には大きなバラつきがあるが、図1で明らかなように本試験においては豚は従来の配合飼料給餌の場合と大差なく8ヶ月で出荷標準体重の110Kgに到達している。これは明らかに、本発明飼料における麹菌処理による効果、即ち生育促進効果であると考えられる。
またこの間、疾病による豚の死亡はなかった。
【実施例2】
【0020】
本飼料の免疫抵抗力増加効果をみるためにマウスでの試験を行った。
12匹のマウスを6匹ずつ2群に分け、試験区は実施例1の生ゴミ発酵飼料を無制限に与え、一方、対照区は以下の混合飼料を与えた。
カゼイン 11.0%
大麦フスマ 15.6%
小麦フスマ 6.0%
小麦グルテン 8.4%
ロイシン 0.2%
リジン 0.2%
フェニルアラニン 0.3%
コーンスターチ 26.2%
コーンオイル 15.0%
セルロースパウダー 1.5%
ショ糖 10.0%
ミネラル混合 3.5%
ビタミン混合 2.0%
【0021】
試験は3日間上記の混合飼料を給餌した後、sarcoma180のウィルスを皮下注射し、更に対照区、試験区のマウス12匹を14日間に渡って飼育し分析に供した。
以下にその結果を示す。
【表1】

この表から明らかなように、対照区に比較して試験区では明らかに癌の重量が減少する一方肝臓の重量は増大していないことから、本生ゴミ発酵飼料は毒性はなく免疫抵抗力を増進する効果があることが確認された。
【実施例3】
【0022】
次に、実施例1の試験で肥育した豚の食味テストを行った結果を以下に示す。
食味試験参加者数
男性 20名
女性 24名
食前の香り、肉色、脂肪色、柔らかさ、味、食後の香り、及び総合的嗜好について判定した結果を図3〜9にそれぞれ示す。
図3〜9のグラフから明らかなように、この生ゴミ発酵飼料を給餌した豚肉の評価が従来の配合飼料を給餌した豚肉よりも圧倒的に高い評価を得た。
これまでの生ゴミ養豚においては、いかに配合飼料養豚の豚肉の品質に近づけるかが課題であったが本給餌法においては逆転して従来の養豚を遥かに超える品質の豚肉を生産する画期的な方法であることがわかる。
【実施例4】
【0023】
更に実施例1の飼料を給餌して生産された豚肉のドリップの違いについて検討した。
試験方法
試験区:本技術にて生産された豚肉(ロース)60gを10枚
対照区:通常の配合飼料にて生産された豚肉(ロース)60g10枚
91℃から93℃に湯温を維持した湯槽中に上記豚肉を投入し、15秒後その重量変化を観察した。
【表2】

この表から明らかなように、本技術にて生産した豚肉は従来の配合飼料で生産した豚よりも10%もドリップが少ないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施例1における平均体重変化を示す。
【図2】図2は、実施例1における飼料成分の変化を示す。
【図3】図3は、実施例3における食前の香りの判定結果を示す。
【図4】図4は、実施例3における肉色の判定結果を示す。
【図5】図5は、実施例3における脂肪色の判定結果を示す。
【図6】図6は、実施例3における柔らかさの判定結果を示す。
【図7】図7は、実施例3における味の判定結果を示す。
【図8】図8は、実施例3における食後の香りの判定結果を示す。
【図9】図9は、実施例3における総合的嗜好の判定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分75%以上の食品廃棄物をアスペルギルス属麹菌によって、酸性化剤を添加することなく発酵させて、前記麹菌由来のクエン酸を含有するpH5.5以下の5000mPa・s以下の粘度を有する液状物を得るための、クエン酸生成能を有するアスペルギルス属麹菌を含有する、水分75%以上の食品廃棄物の処理剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−92189(P2011−92189A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254022(P2010−254022)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【分割の表示】特願2007−13408(P2007−13408)の分割
【原出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(500220245)霧島高原ビール株式会社 (3)
【出願人】(596045926)
【Fターム(参考)】