説明

生鮮野菜、果物の変色防止方法及び変色防止剤

【課題】皮むき及びカットした生鮮野菜、果物の経時的な変色に伴う劣化を防止すること。
【解決手段】皮むき及びカットした生鮮野菜、果物を、α−リポ酸を含む溶液及びα−リポ酸とL−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩を併用した溶液と接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮むきやカットした野菜、果物の経時的変色に伴う劣化を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜や果物には、皮むきやカットした後の保存中に、カット面に変色が起こるものが多くある。野菜、果物の変色は、成分として含まれるポリフェノール類が、ポリフェノールオキシダーゼによって酸化されることで起こる。野菜、果物の経時的変色を防止する方法として、L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩の溶液に浸漬する方法が行われるが、時間が経過してL−アスコルビン酸が消費し尽くされると変色が起こることから、十分な効果が得られなかった。また、野菜の種類によっては、L−アスコルビン酸を添加すると余計に変色が増す結果となり、問題は残されたままである。
【0003】
野菜、果物の保存方法について、フラボノイドを含む抗酸化剤による保存溶液が提案されており、その中で利用できる抗酸化剤としてα−リポ酸が含まれている(特許文献1)。この技術は、野菜、果物の中でも皮を剥いたオレンジおよびグレープフルーツ等の柑橘類について、苦味の増加抑制等、風味の劣化を防止することが主な目的であり、フレーバーの酸化に伴う劣化を防止する手段であると解釈できる。また、リンゴ、ナシの保存については、α−リポ酸ではなく、エンゾジノール粉末またはプロアンソシアニジンとレモンジュース若しくはアスコルビン酸によって処理する方法が示されているだけである。とりわけ、同文献には、α−リポ酸による野菜、果物のポリフェノール成分の酵素的な酸化に伴う変色防止に関する説明および実施例の記述はなく、その具体的な効果についても明らかにされていない。
【0004】
【特許文献1】特表2003−524427
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、皮むきやカットした生鮮野菜、果物の保存中に起こる変色に伴う劣化を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、α−リポ酸を含ませた溶液及びα−リポ酸とL−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩を併用して含ませた溶液に、皮むきやカットした生鮮野菜、果物を接触させることで、その変色が抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、皮むき及び/又はカットした野菜、果物を、α−リポ酸を含む溶液に接触させることであり、また、皮むき及び/又はカットした野菜、果物を、α−リポ酸とL−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩を併用して含ませた溶液に接触させることを特徴とする。
【0008】
野菜、果物の変色は、皮むきやカットによる物理的障害によって細胞が破られ、その成分であるポリフェノール類がポルフェノールオキシダーゼにより酸化されてキノン型となり、さらに自動的に酸化・重合して褐色の色素を生じて起こることが知られている。
【0009】
L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩の阻害機構は、酸化されキノン型となったポリフェノール類の還元によるもので、自らは酸化されて参加型のデヒドロアスコルビン酸となる。このデヒドロアスコルビン酸には、還元作用がないことから、L−アスコルビン酸が消費し尽くされると、阻害作用が失われ反応が進行することになる。ポリフェノールの含有量とポリフェノールオキシダーゼの活性が高く、変色の早い野菜、果物において、L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩の単独で処理しても十分な抑制効果が得られないのはこのためである。
【0010】
α−リポ酸は高い抗酸化力を持ち、酸化されたポリフェノールを還元する作用を示す。また、酸化されたポリフェノールを還元する作用を持つL−アスコルビン酸に対して、α−リポ酸は、生態内で還元作用を発揮して、酸化型のL−アスコルビン酸を還元して再び活性化することが知られている。α−リポ酸とL−アスコルビン酸を含む溶液で野菜、果物を処理した場合、α−リポ酸は自らが酵素により酸化されたポリフェノール類を還元するとともに、酸化型となってしまったL−アスコルビン酸を還元して、再び還元作用を発揮させる働きを有すると考えられる。
【0011】
L−アスコルビン酸を単独で処理しても、ポリフェノール類を酸化する酵素であるポリフェノールオキシダーゼの活性が高いままであると、次々に酸化型であるキノンが生成し、時間が経過すると、L−アスコルビン酸が消費し尽くされてしまい、変色が起こることになる。ポルフェノールオキシダーゼの活性を阻害することは、キノンの生成量を減少させることから、L−アスコルビン酸の消費が抑制され、より長い間、変色を防止することに繋がる。ポリフェノールオキシダーゼ阻害剤と還元剤であるL−アスコルビン酸を併用することで、有効な相乗効果が得られるのである。α−リポ酸は、ポリフェノルオキシダーゼの一種であるチロシナーゼ(マッシュルーム由来)に対して、単独で活性を阻害する作用を持つことを実験で確認している。L−アスコルビン酸に対して、10分の1から100分の1の少量のα−リポ酸を併用すると、同濃度のL−アスコルビン酸を単独で使用した場合に比較して、顕著な変色防止効果の向上が認められる。
【0012】
α−リポ酸は、ヒトの体を構成する細胞内の呼吸やエネルギー生産の場であるミトコンドリアの中に存在している。細胞が活動するためのエネルギーであるATP(アデノシン3−リン酸)は、主にグルコースが解糖系、クエン酸回路、電子伝達系や酸化的リン酸化を経ることで生み出されるが、その過程で解糖系から生じたピルビン酸がピルビンデヒドロゲナーゼによってアセチルCoAとなる反応を活性化しているのがα−リポ酸である。α−リポ酸は、エネルギー生産に不可欠な栄養素となっている。
【0013】
また、α−リポ酸は、以前より海外では健康食品素材、サプリメントとして利用されており、日本でも平成16年3月31日付薬食発第0331009号厚生労働省医薬食品局長通知により、一般に食品として飲食に供されるものであって添加物として使用されるもの、という扱いで食品への使用が可能となった。α−リポ酸は、ヒトの体の中で生産され利用される成分であり、ブロッコリーやホウレンソウ、トマト等多くの食品に微量含まれている。α−リポ酸は、野菜、果物の変色を防止するために使用する場合において、人体への悪影響を与えることなく安全に利用できる成分であるといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に使用されるα−リポ酸は、食品添加物として食品に添加が認められているグレードのものであれば良く、特に限定されない。L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩についても同様である。α−リポ酸を製剤とする場合、粉末製剤とすることもできるが、α−リポ酸が水に溶け難い性質であることから、予めアルコールと水の混合溶媒に溶解した液体の製剤として、水で希釈して使用する方法が扱い易い。α−リポ酸とL−アスコルビン酸を混合して製剤とする場合は、L−アスコルビン酸が液体状態では不安定で保存性に問題があることから、粉末で混合した製剤とする方が好ましい。
【0015】
α−リポ酸を使用する濃度は、0.001〜3%の範囲、好ましくは0.01〜0.3%で処理する。野菜、果物の変色防止に対して、0.001%以下の濃度では変色防止効果が得られず、3%以上に濃度を高くしても効果の向上は認められない。
【0016】
α−リポ酸に併用するL−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩の濃度は、0.01〜20%、好ましくは0.1〜10%で処理する。L−アスコルビン酸の濃度は、変色を防止しようとする対象物の変色の早さや求められる鮮度の保持時間によって調整する。
【0017】
野菜、果物をカットすると、それまで細胞中で局在していたポリフェノール成分とポリフェノールオキシダーゼが、細胞が破られることで混ざり合い反応が開始される。そのため、皮むき及びカットをした後は、可能な限りすぐにα−リポ酸及びα−リポ酸とL−アスコルビン酸又はその塩を併用した溶液に漬けることが望ましい。浸漬する時間は、対象となる野菜、果物の食感や食味の低下等の影響が起こらない範囲で調整して行なう。
【発明の効果】
【0018】
本発明による皮むき及びカットした生鮮野菜、果物を、α−リポ酸を含む溶液、及びα−リポ酸とL−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩を併用した溶液と接触させ、保存する方法を用いることで、L−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩の添加で悪影響の起こる野菜や、これまでL−アスコルビン酸の単独溶液では十分に効果の得られなかった褐変の早い果物の変色を防止することができる。
【実施例1】
【0019】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによってその内容が限定されることはない。
レタスの外側の葉2〜3枚を取り除いてから、内側の柔らかい部分を取って良く洗浄し、3cm程度の大きさにカットしてサンプルとした。変色が観易いように葉の緑色の濃い部分は取り除き、白い部分を主に使用した。
洗浄、カットしたレタスを200ppmの次亜塩素酸Naの溶液に10分間浸漬して殺菌し、水で濯いだ後、予め用意した各試験区の溶液に5分間浸漬して液を切り、トレーに入れて10℃で保存し、変色度合いを比較した。
【0020】
L−アスコルビン酸Na0.5%溶液に浸漬した場合では、未処理対照と比較して変色がより多く認められた。レタスは、L−アスコルビン酸を含む溶液で処理すると余計に変色が増すため、変色を防止することが難しい。α−リポ酸の濃度を0.02〜0.1%として浸漬処理を行なうと、未処理対照に比較して変色が明確に抑制された。α−リポ酸の濃度は、高いほど変色が少なくなる傾向が認められ、0.1%で処理した試験区が最も変色が少なく、72時間まで変色のない状態を維持した。結果を表1に示す。なお、変色度合い評価は、−:変色のない状態、±:僅かに変色、+〜++++:変色の程度が進行(多いほど変色が顕著)とした。
【0021】
【表1】

【実施例2】
【0022】
良く洗浄したゴボウの皮を削ぎ、ささがき状にしたものをサンプルとした。ささがきゴボウを予め用意した各試験区の溶液に入れ、3分間浸漬した。溶液を切り、トレーに入れて10℃で72時間まで保存して変色の度合いを比較した。
【0023】
未処理対照では、24時間ですでに色濃い変色が観られたのに対し、L−アスコルビン酸Na及びα−リポ酸の各試験区では変色が顕著に抑制された。48時間以降になると、L−アスコルビン酸Na単独の試験区では、徐々に変色が起こるようになり、10%濃度の添加区でも明確に変色した状態となった。α−リポ酸の試験区では、L−アスコルビン酸Naの100分の1の添加量であるにも拘わらず、L−アスコルビン酸Naと比較して高い効果が認められた。α−リポ酸0.1%の試験区では、72時間では僅かに変色が認められたが、最も良好な色調を維持した。結果を表2に示す。変色の度合い評価は、実施例1に準じる。
【0024】
【表2】

【実施例3】
【0025】
ジャガイモ(メークィーン)の皮を剥き、2cm程度に乱切りしてサンプルとした。カットしてすぐに予め用意したL−アスコルビン酸Na単独、L−アスコルビン酸Naとα−リポ酸を併用した各0.5%溶液に5分間浸漬した。トレーに入れ10℃で72時間まで保存して色調を比較した。
【0026】
未処理対照では、24時間で明確な変色が認められたのに比較して、L−アスコルビン酸Na0.5〜1.0%、L−アスコルビン酸Naとα−リポ酸の併用溶液0.5〜1.0%に浸漬した試験区では、変色が起こらず添加効果が認められた。
L−アスコルビン酸Na単独では、48〜72時間になると変色が観られるようになったのに対し、α−リポ酸を併用した試験区では、全体として濃度が同じでありながら変色が顕著に少なく、効果が向上していることを示した。結果を表3に示す。変色の度合い評価は、実施例1に準じる。
【0027】
【表3】

【実施例4】
【0028】
アボカドを縦に4等分し、種を取ってから皮を剥き、2〜3cm程度のダイスカットにしてサンプルとした。予め用意したL−アスコルビン酸Na5〜10%溶液、L−アスコルビン酸Naとα−リポ酸を併用した5〜10%溶液にそれぞれカットしたアボカドを入れ、15分間浸漬処理した。溶液を切り、容器に入れて冷蔵10℃で72時間まで保存し、変色度合いを比較した。
【0029】
未処理対照では、24時間ですでに色濃い変色が起こり、その後の保存でさらに変色度合いが増した。アボカドはカットしてからの変色が早く、また変色の度合いも色濃く起こるため、L−アスコルビン酸Na単独の5%、10%の高濃度で処理しても24時間で変色が認められ、その後48時間〜72時間にかけて変色が色濃くなり、抑制することは難しかった。L−アスコルビン酸Naに対して100分の1の濃度でα−リポ酸を併用し、全体として5%、10%の同じ濃度で処理した試験区においては、24時間では変色が起こらず、48〜72時間での変色の度合いも軽減され、顕著な効果の向上が認められた。結果を表4に示す。なお、変色の度合い評価は、実施例1に準じる。
【0030】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮むき及び/又はカットした野菜、果物を、α−リポ酸を含む溶液に接触させることを特徴とする生鮮野菜、果物の変色防止方法。
【請求項2】
皮むき及び/又はカットした野菜、果物を、α−リポ酸とL−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩を併用して含ませた溶液に接触させることを特徴とする生鮮野菜、果物の変色防止方法。
【請求項3】
α−リポ酸を含む溶液により組成されていることを特徴とする生鮮野菜、果物の変色防止剤。
【請求項4】
α−リポ酸とL−アスコルビン酸又はL−アスコルビン酸塩を併用して含ませた溶液により組成されていることを特徴とする生鮮野菜、果物の変色防止剤。