説明

産業廃液の処理方法

【課題】廃棄物焼却炉から生じる排ガス中の酸性ガスを除去する際に生じる廃消石灰を、最終的に無害化されて埋立て可能とすることは勿論、工場廃液処理に利用することで、廃消石灰を埋立て処理する際に用いられていた薬剤の使用量の低減、それに伴う埋立てる廃消石灰の減容化、工場廃液処理に使用する薬剤の使用量の低減を同時に達成し得る技術の提供。
【解決手段】産業廃液の中和処理及び/又は凝集沈殿処理に、廃棄物焼却炉から生じる排ガス中の酸性ガスを除去する際に生じる廃消石灰をそのまま使用することを特徴とする産業廃液の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キルン炉、ストーカ炉等の廃棄物焼却炉からの排煙ガス処理によって生じる廃消石灰(廃棄物)の有効利用を図る技術に関する。より詳細には、廃消石灰を産業廃液の浄化処理に利用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、廃棄物焼却炉から生じる排ガス中の酸性ガスを除去することを目的として、特別に調製された消石灰粉を煙道中に直接噴霧して、消石灰(固体)とガスとの固体−気体反応により酸性ガスを除去する方法が多用されている。この方式で生じる反応後の廃消石灰は、通常、バグフィルター等で捕集されて、最終的には埋立てによる廃棄処理がされるが、廃棄するに当たっては、下記のような課題がある。廃消石灰中には、未反応の消石灰と共に、重金属(Pb、Cd、Cr6+、Hg、As等)化合物や、ダイオキシン(以下、DXNと略す)が含まれていることから、通常は、これらの物質(以下、有害物とも呼ぶ)の溶出を防止するための薬剤(キレート剤)を混合した後、埋立て処理されている。このため、キレート剤などの重金属溶出防止剤を混練したものを廃消石灰と呼ぶ場合も多い。キレート剤を混合した上で埋立てる方法に関しては、これまでにも多くの課題が指摘されている。例えば、非特許文献1などに、以下のような指摘がある。
1)埋立て後にキレートの分解や廃棄物中の重金属塩化物の溶出が発生する。
2)全ての有害物に効果的な薬剤がない。例えば、多用されているジチオカルバミン酸系薬剤は、Cr6+やAS等には殆んど効果がない。
3)薬剤の添加量の制御が難しく、廃棄物は常に一様ではなく焼却物に悪化変動が生じることがあり、溶出基準をクリアーできない場合が発生する。
4)薬剤は、所謂ファインケミカル剤であるので高価であり、また、埋立地も管理が必要であることから、用地の確保や設備や処理に費用がかかる。
5)薬剤の長期安定性や効果への疑問が残っている。
6)重金属を多く含む多量の廃棄物が発生するのに対して、埋立用地の確保は難しく、埋立量の低減化(減容化)が待望されている。
【0003】
上記したような多くの問題を抱える状況下、全ての課題を解決できる画期的な提案はないが、処理薬剤についての新規提案、廃消石灰の再利用や再資源化による埋立量の低減等についての部分的な改善に関する提案はある。例えば、特許文献1では、煤塵を硼素含有排水に混合することで、硼素の吸着処理に利用することを提案している。しかし、この方法では、利用できる煤塵が、PbやHg等の有害金属を含有しないものか、或いは、薬剤によってこれらが安定化されたものであることを前提としており、しかも、処理できる排水は硼素排水に限られており、全てに対して有効な方法とはならない。また、特許文献2では、回収した飛灰中に含まれる塩化カルシウムを水洗し、この液に苛性ソーダを添加して消石灰を再生させる方法を提案している。しかし、この方法は、消石灰よりも高価な苛性ソーダ薬剤を使用し、さらに、エネルギーを投入して安価な消石灰を再生するという反経済的なプロセスであり、工業的に有用な方法とは言えない。また、特許文献3、特許文献4及び特許文献5等では、飛灰を水洗し、洗浄後セメント原料化する方法を提案している。しかし、いずれの方法も、水洗された際に排出される多量の洗浄水を2次処理しなければならず、さらに、特許文献6に記載されているように、水洗の際に溶出した水銀処理も必要になってくる。
【0004】
ところで、薬剤の消石灰は、下記に挙げるように産業廃液処理に多用されている。また、重金属(Pb、Cd、Cr6+、Hg、As等)を含んだ廃液処理では、安価な無機硫化剤[硫化ナトリウム(別称:硫化ソーダ)、硫化水素ナトリウム(別称:水硫化ソーダ等)]が多用されている。これらの処理技術も公知であり、例えば、非特許文献2では、産業廃液(廃水)処理に関し、除去すべき成分ごとに処理方法が解説されている。薬剤の消石灰を使用するパターンとしては、強酸ベースの廃水処理で、廃水を中和するためのアルカリとして、特に安価な消石灰が多用されている。また、酸性フッ素を含んだ廃水処理では、処理水中のフッ素に厳しい規制値が課せられているため(海域放流排水にあっては15ppm、河川域放流排水では8ppm)、消石灰をスラリー状態で使用し、カルシウムイオンを過飽和域まで添加し、フッ素を除去することを行っている。一方、廃液中に重金属(Pb、Cd、Cr6+、Hg、As)が含まれている場合は、硫化ソーダ等の硫化物によって沈殿物を形成することで不溶化している。Cr6+を含む廃液の場合は、F2+等の還元剤を添加することで、Cr3+の水酸化物として、また、Asを含む場合は、砒酸として鉄等の水酸化物と凝集沈殿させることで不溶化している。これらの重金属の不溶化のメカニズムは明快であり、安定性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4203576号公報
【特許文献2】特開平11−137949号公報
【特許文献3】特開2009−61365号公報
【特許文献4】特開2008−264768号公報
【特許文献5】特開2008−55395号公報
【特許文献6】特開2007−326750号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】三井造船技報(No185.2005−6、15頁〜21頁)
【非特許文献2】「無機排水処理技術」第3章、恵藤良弘・中原敏次著、工業調査会発行、栗田工業監修)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記した現状に鑑み、先に列挙した課題の殆どを解決することができる、廃棄物焼却炉から生じる排ガス中の酸性ガスを除去する際に生じる廃消石灰を、最終的に無害化されて埋立て可能とすることは勿論、工場廃液処理に利用することで、廃消石灰を埋立て処理する際に用いられていた薬剤の使用量の低減、それに伴う埋立てる廃消石灰の減容化、工場廃液処理に使用する薬剤の使用量の低減を同時に達成し得る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、産業廃液の中和処理及び/又は凝集沈殿処理に、廃棄物焼却炉から生じる排ガス中の酸性ガスを除去する際に生じる廃消石灰をそのまま使用することを特徴とする産業廃液の処理方法である。ここで、廃消石灰をそのままとは、キレート剤などの薬剤を混合したものではないことを意味する。
【0009】
本発明の好ましい形態としては、さらに、廃液処理の工程中に、処理後の廃消石灰を含む残留物からの重金属の溶出防止を目的として重金属不溶化薬剤の添加処理を行うことが挙げられる。重金属不溶化薬剤としては、硫化ソーダなどの無機硫化剤やキレート剤などを用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、廃液処理に使用される薬剤としての消石灰の量や、廃消石灰の埋立て処理に必要となるキレート剤などの重金属不溶化薬剤の量を低減でき、しかも、廃消石灰中に含まれ、埋立てた場合に溶出するおそれのある重金属を廃液の処理工程で、最適な量のキレート剤などの重金属不溶化薬剤で除去或いは安定に固定することができ、廃消石灰の埋立量の減容化と、埋立て後における廃消石灰からの溶出物の発生の防止を同時に達成することができる。下記に列挙するように、本発明によれば、先に列挙した課題の殆どが解決可能になる。
1)焼却炉からの廃消石灰を埋立てる場合に従来必要としていた、重金属溶出防止のためのキレート剤などの薬剤の添加、混練、及びそれに伴う管理が不要となる。
2)焼却炉から発生する廃消石灰を直接埋立てる量を低減できる。廃消石灰を廃液処理に利用することで生じる増加分を考慮しても、廃消石灰のトータル埋立量は削減されるので、埋立て地への負荷が軽減する。
3)従来より懸念されて、キレート剤などの薬剤を添加することで解決を図っている埋立て処理後における廃消石灰の脱水ケーキからの重金属等の溶出の問題は、廃水処理過程における処理で溶出金属が安定化されるので解消する。
4)廃消石灰の埋立てに伴って生じる、薬剤にかかる費用、薬剤を水溶液として添加することによって生じる増量に伴い輸送経費、用地の確保、2次環境汚染等の社会的負荷の軽減が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明における、廃消石灰を産業廃液処理に利用する一例の処理フロー図である。
【図2】本発明で、Hg含有の産業廃液を処理する場合に廃消石灰に添加する薬剤量と溶出量の関係を示すグラフである。
【図3】廃消石灰を産業廃液処理に利用した一例の処理試験フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、上記した従来技術の課題について鋭意検討の結果、下記のことを見出して本発明に至った。すなわち、廃棄物焼却炉からの排ガス中の酸性ガス除去処理の際に発生する廃消石灰を、産業廃液処理の際に用いる消石灰薬剤の代替品として使用したところ、特に、産業廃液処理の中和処理又は凝集沈殿処理の際に添加する薬剤の代替品として有効に機能することがわかった。また、従来の廃消石灰処理では、埋立て時にキレート剤などの薬剤を添加混練することで、埋立て後に生じる廃消石灰からの金属成分の溶出を防止していたのに対し、廃消石灰をそのまま産業廃液処理に利用したとしても、産業廃液処理の過程で廃消石灰中の金属成分が不溶化されるため、産業廃液処理後に得られる廃消石灰は、キレート剤などの薬剤を添加混合することなく埋立て処理することが可能であることを見出した。本発明によれば、特に下記の顕著な効果が得られる。
1)トータル的に、埋立てする廃消石灰の量を低減することができる。
2)埋立て後に廃消石灰中から溶出する金属成分は、産業廃液処理の際に行われる無機硫化剤やキレート剤などの薬剤の添加によって不溶化されるが、この不溶化に至る混合や反応は、産業廃液処理中において確実に行われるので、廃消石灰を埋立てた場合に生じるおそれのあった重金属類の溶出の問題を確実に防止できる。
3)従来、廃消石灰を埋立てる際に必要であったキレート剤などの薬剤の添加が不要になり、これに伴う薬剤費の削減、さらに、薬剤を添加することに付随して廃消石灰に10〜20%添加されることになっていた水分によって増大していた廃消石灰の廃棄量が低減される。
【0013】
下記に開発の経緯を述べる。本発明者らは、まず、廃消石灰の構成成分について詳細な検討を行った。その結果、下記のことがわかった。焼却炉の煙道中に噴霧することで添加された消石灰微粉は、焼却炉から発生する酸性ガスと反応するが、基本的には表層反応であり、また、酸性ガスに対して消石灰微粉を過剰に添加しているので、廃消石灰中には、未反応の、所謂、生きた(処理に寄与できる)消石灰が存在している。また、廃消石灰中には、煙道中のガスとの反応の結果物として、塩化カルシウム、亜硫酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム等の反応生成物が混在している。
【0014】
本発明者らは、上記した事実に鑑み、従来、廃棄処理をしており、その処理に苦慮していた焼却炉で発生する廃消石灰を産業廃液処理に使用できるのではないかと考え、この観点から詳細な検討を行って本発明に至った。この結果、廃消石灰中の生きたアルカリ分や炭酸カルシウムは、産業廃液中に含まれる廃酸を中和するに十分な機能を有することを確認した。さらに、本発明者らの検討によれば、廃消石灰を構成している主要成分である塩化カルシウムや硫酸カルシウムは、先に述べたフッ素除去や燐酸除去において、条件によっては薬剤の消石灰と同等以上に処理機能を発揮することがわかった。例えば、強いアルカリ性のフッ素含有廃液処理においては消石灰ではカルシウムの溶解が阻害され、除去性が低下するが、塩化カルシウムを加えることで除去性が向上する等が期待でき、有効な処理剤である。
【0015】
廃消石灰を、産業廃液を処理する際の中和剤又は凝集沈殿剤に使用した場合、廃液の処理と同時に、液処理後の残留物(脱水ケーキ)も安定埋立てできるように処理する必要がある。前述したように、廃棄物焼却炉から生じる廃消石灰には、鉛、水銀、カドミウム等の重金属が含まれていることがある。このため、廃消石灰を埋立て処理する場合には、埋立て後に、これらの重金属の溶出を防止するため、従来は、重金属の溶出防止剤を添加混合した後、埋立て処理している。この際に用いる重金属の溶出防止剤としては、水溶性キレート剤が用いられており、水溶液として添加して混練するのが通常である。そして、この際の水溶性キレート剤の添加量は、より確実な重金属の溶出防止を考慮して廃消石灰に含まれる重金属の含有量の数倍程度とされ、大過剰が添加されている。これに対し、より経済的な処理を行うためには、下記のように対応することが必要となる。まず、適量の水溶性キレート剤を添加して最適な状態にすることが望まれるが、そのためには、廃消石灰に含まれる重金属の含有量のみならず、液処理使用前に廃消石灰の重金属の溶出分析を行い、廃液処理時にこの分析に従い、溶出金属を適当な薬剤により不溶化処置することが、液処理として必要となる。さらに、廃液処理後に生成した脱水ケーキは、埋立て可能かどうかを判定する13号溶出試験をクリアーしたものでなければならない。
【0016】
また、産業廃液処理に廃消石灰を使用した場合、焼却炉から発生する焼却飛灰中に存在するDXNがどのように移行するかに関しては、明確な情報はない。一般的に、飛灰中のDXNは化学的に不溶解であり、液中への移行程度は少ないと言われている。一方、例えば、廃消石灰が、DXNを埋立て規制値(3ng/g)まで含有していると仮定した場合、廃液1Lに対して廃消石灰を1kg程度添加するとすれば、廃液中にDXNが仮に1%溶解したとしても30ng/Lとなり、排水基準値(10pg/L)を3桁以上オーバーすることとなる。したがって、廃消石灰中に含有されるDXNの廃液中への移行の度合いを明確にしない限り、廃消石灰を産業廃液処理に利用することはできないと言える。
【0017】
上記した背景及び課題の下、本発明者らは鋭意検討の結果、廃棄物焼却炉から生じた廃消石灰は、そのまま産業廃液処理の際に使用するアルカリ薬剤の代替品として、また、フッ素、燐等の除去剤として十分に利用し得ることを見出した。さらに、産業廃液処理後の廃消石灰を含む残留物は、大過剰のキレート剤などの重金属溶出防止剤を添加しなくても、埋立てた場合に殆どの重金属の溶出が有効に抑制されることを確認した。さらに、廃消石灰中のDXNが処理液中に移行する度合いは極めて少なく、排出基準を満たすことを確認した。
【0018】
表1は、薬剤を添加していないそのままの状態の廃消石灰(薬剤添加前)の成分分析値(含有分析)と、その場合の13号溶出試験値を示した。また、表1中に、従来の埋立ての際に行われている方法の、廃消石灰へ重金属溶出防止剤としてキレート剤を添加したものについての13号溶出試験値を示した。試験に使用した廃消石灰は、廃棄物の焼却炉からの排ガスを処理するために一般に行われている方法で発生したものである。すなわち、焼却炉の煙道中に消石灰微粉を噴霧し、その後、バグフィルターで捕集したものを用いた。表1に示した分析結果からわかるように、そのままの廃消石灰中にはPb含有量が高く、薬剤未添加のそのままの廃消石灰についての溶出試験ではPbの溶出が認められた。表1の最下段に示したものは、重金属溶出防止剤としてジチオカルバミン酸系キレート剤を、廃消石灰に対して1%添加混合した場合の溶出試験結果である。表1から明らかなように、キレート剤の添加混合によってPbの溶出は防止されることがわかる。また、他の重金属については、キレート剤の添加の有無によらず、そのままの廃消石灰の場合も、溶出値は埋立基準値を満たすものであった。
【0019】

【0020】
さらに、上記のことが一般的であることを確認するため、別の廃棄物焼却炉から同様にしてサンプリングした廃消石灰について、含有される金属の測定を行って、表2に結果を示した。なお、この廃消石灰は、埋立て処理されるものであったため、キレート剤を添加混合したものであるが、キレート剤からの重金属の混入はないと考えられるため、重金属の含有量は、薬剤を添加していないそのままの状態の廃消石灰と同じとみなすことができる。表1及び表2からわかるように、Zn、Cu及びCa等の含有量に多少の違いはあるものの、基本的には同様の傾向があるとみなすことができた。
【0021】

【0022】
表3は、表1の化学分析値から想定される廃消石灰中に存在する化合物の構成と、これら化合物が産業廃液処理の際に発揮し得ると考えられる効果を示した。すなわち、表1に示した分析値から、廃消石灰の主要成分は、消石灰(アルカリ度より算出)、塩化カルシウム(塩素をNaClとCaCl2で按分)、石膏成分(S分より算出)と想定され、また、これら3成分の合計値が約半分程度であることがわかった。さらに、表3の下段に、これらの成分が産業廃液処理において機能し、効果を発揮すると考えられる反応式を記載した。また、非溶解成分としては、排ガス中のDXN処理用として添加された活性炭や食塩等の無機分も存在する。このような成分を含む廃消石灰を産業廃液処理に使用すると、これら成分の中のいくつかは廃液中の特定成分に作用すると考えられる。例えば、硫酸カルシウムはフッ素廃液に有効であり、また、炭酸カルシウムは強酸廃液に有効であるが、その他の成分には不活性である。
【0023】

【0024】
図1は、産業廃液処理に、そのままの廃消石灰を利用、導入する場合の具体的な方法を記載したものである。まず、産業廃液処理に使用する廃消石灰は、表1に示したような成分について、含有量の測定と、溶出試験を使用前に行って、この溶出成分と量の結果から、廃液処理時に溶出防止のためにキレート剤等の薬剤の添加が必要か、さらに、必要な場合には、薬剤の種類と添加量を決定するように構成することが好ましい。また、廃液処理時に、廃液のpHを監視することで、廃消石灰の使用量を最適にコントロールすることが可能である。本発明の廃液処理方法は、そのままの廃消石灰から重金属が溶出する可能性のある場合に、キレート剤等の重金属の不溶化剤を添加すること以外、通常の薬剤の消石灰を用いる方法と何ら変わりがない。また、廃液処理後において、処理後に得られる液中の重金属等の水質を検査し、不合格の場合はその成分に対応するための薬剤を添加し、再処理する等の処置を行うことで、液側の処理を完結させることができる。また、廃液処理後に得られる残留物(脱水ケーキ)は、13号溶出試験にて埋立可否判断を行った後、埋立てを行うようにする。通常、処理液が合格とされた場合の脱水ケーキは、溶出試験にも合格するのが一般的であるので、処理液の検査を行えば十分であると言える。しかし、脱水ケーキについても試験を行うことがより好ましい。そして、万が一、不合格の場合は、汚泥混練器にて金属不溶化剤との混練にて処理することもできる。
【0025】
表4に、各種金属を含む、pH6.0の中性のK廃液、pH12.7のアルカリ性のY廃液、pH1.4の酸性のYG廃液の3種の廃液処理に、それぞれ廃消石灰を、中和剤及び凝集剤として使用した場合の処理結果を示した。具体的には、各廃液0.3Lを、それぞれ下記のように処理した。
(1)K廃液:廃消石灰でpHを10程度に調整し、これを1hr攪拌後、濾過した。
(2)Y廃液:塩酸でpH3程度に調整し、炭酸除去後に、廃消石灰でpHを10程度に調整し、これを1hr攪拌後、濾過した。
(3)YG廃液:廃消石灰でpHを10程度に調整し、これを1hr攪拌後、濾過した。
【0026】
比較のために、3種の廃液の処理を、薬剤の消石灰を用いる以外は同様にして行った。その結果、表4に示したように、実施例及び比較例のいずれの方法でも得られる処理液の性状に差異はなかった。このことから、廃消石灰を使用した場合も、薬剤の消石灰を用いて処理したと同様に、廃液中の各種金属成分の処理が可能であることがわかった。また、廃消石灰の使用については、処理対象とする廃液の種類の差による大きな制限はなかった。
【0027】

【0028】
図2は、重金属を含む廃液処理に廃消石灰を使用した場合に、従来から多用されている硫化ソーダを添加することについて検討した結果である。この結果、硫化ソーダの添加によってHg量を低減できることが確認できた。しかし、図2中に■で示したように、処理時に過剰な硫化ソーダを添加すると、処理後の脱水ケーキからHgが溶出する傾向があることがわかった。したがって、Hg量を低減するために硫化ソーダを添加する場合は、過剰添加を避ける必要がある。具体的には、この場合は、廃液1,000Lに対して、硫化ソーダの添加は0.3kg以下の範囲とすることが必要であることがわかった。また、その他の添加剤についても検討した結果、脱水ケーキからのHg溶出防止を考慮すると、添加し過ぎが懸念される硫化ソーダよりも、ジチオカルバミン酸系等のキレート剤を使用する方が好ましいこともわかった。
【0029】
表5に、廃液処理に、そのままの廃消石灰を使用することによって達成される埋立て処理される脱水ケーキ(残留物)量の削減率を示した。廃消石灰を廃液処理に使用した場合、薬剤の消石灰を使用する従来の方法で処理した場合よりも残留する脱水ケーキ量は多くなる。しかし、直接、埋立てる場合に、水溶性の薬剤を添加混合した状態にする必要があったことを考慮し、埋立てられていた薬剤が混入した状態の廃消石灰量と、廃液処理に薬剤の消石灰を使用した場合に廃棄される残留物とのトータル量と、焼却炉から出たそのままの状態で廃消石灰を廃液処理に使用し、その後に廃棄処分される廃消石灰を含む残留物とを比較すると、従来の方法と本発明の方法とでは、明らかに埋立量は大幅に削減する。また、本発明者らの検討によれば、その削減率は、対象とする廃液により変わり、−5〜−36%程度の範囲で削減できることがわかった。今回試験に使用した表5に示した廃液では、算術平均値で24%の削減率を示した。このことは、廃消石灰をそのまま廃液処理に使用することで、廃棄物の埋立処分量が軽減できたことを意味し、その社会的意義は非常に大きい。
【0030】

【0031】
図3に示した手順で、亜鉛メッキ廃液を原水とし、廃消石灰を使用して該原水処理を行って、金属成分除去、脱水ケーキの性状を調べた。その際、廃消石灰中のPbとHgの溶出防止を目的として、廃消石灰の中和後に、ジチオカルバミン酸系キレート剤水溶液(0.2質量%)を添加した。表6に、この際に使用した廃液(原水)、処理水、脱水ケーキの含有分析及び溶出試験液、のそれぞれについての分析結果を記載した。この結果、処理水中のZn濃度が排水基準値(3ppm)に未達であったが、その他の金属成分は全て排水基準を満たしていた。比較のため、薬剤の消石灰を使用して同様の試験を行ったところ、処理水中のZnの値は上記と同様であった。このことは、処理水中のZnの値が高くなったのは、原水中に高濃度のZnが含有されていたことに起因することを示しており、薬剤の消石灰の代替品として廃消石灰を使用した場合に、廃液(原水)中の金属成分除去が可能であることが確認できた。さらに、亜鉛メッキ廃液処理に廃消石灰を使用した場合における脱水ケーキは、13号溶出試験において、Hg及びPbを含め、全ての成分で埋立基準を合格しており、この点からも、薬剤の消石灰の代替品として廃消石灰を使用することが有効であることが確認できた。
【0032】

【0033】
表7に、上記で行った亜鉛メッキ廃液を原水とし、廃消石灰を使用した場合におけるDXNの挙動を調べた結果を示した。表7に、INPUT側として、原水中と廃消石灰中のDXN量を示し、及び、OUTPUT側として、処理水中と脱水ケーキ中のDXN量を記した。表7に示したように、INPUT側のDXNの殆んど全ては廃消石灰に由来するが、両者の分析値の差は分析誤差内であり、このことは、廃消石灰から処理水中に移行するDXNは全く認められなかったことを意味している。これらの結果から、廃消石灰中のDXNを含む有害成分を処理水に移行させることなく、廃液処理に使用することが可能であることが確認できた。
【0034】

【0035】
本発明者らは、従来の埋立て処理用の、キレート剤などの重金属不溶化薬剤を添加混練させた状態の廃消石灰を廃液処理に使用した場合と、本発明の、キレート剤などを添加することなく廃消石灰をそのまま使用した場合の、処理液に対する影響について検討を行った。その結果、廃液処理における中和処理及び/又は凝集沈殿処理に、キレート剤が混練された廃消石灰を使用した場合も有効に機能するが、処理水のCOD値が上昇することがわかった。本発明者らは、この原因を、使用した廃消石灰に混練させた過剰量のキレート剤による影響と考えている。本発明方法では、キレート剤などの薬剤を添加しない、そのままの状態の廃消石灰を使用するが、残留物を埋立てた場合の重金属の溶出の問題に対しては、前記したように、処理液中の重金属量を測定するという簡単な方法によって、キレート剤などの薬剤の添加量を最適に制御することができるので、廃液処理時に投入する薬剤の添加量を、従来の埋立て処理用のものに比べて格段に減量することができる、という経済的なメリットもある。これらのことから、廃液処理において使用する廃消石灰は、キレート剤などの薬剤を添加しないで、本発明方法のように、そのままの状態で使用した方が、処理水のCOD値の上昇を抑制できることに加え、キレート剤などの薬剤費低減、水分低減(すなわち、埋立量低減)の観点から、本発明方法は、工業上、多大なメリットがあり、非常に有用であるとの確信をもった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業廃液の中和処理及び/又は凝集沈殿処理に、廃棄物焼却炉から生じる排ガス中の酸性ガスを除去する際に生じる廃消石灰をそのまま使用することを特徴とする産業廃液の処理方法。
【請求項2】
さらに、廃液処理の工程中に、処理後の廃消石灰を含む残留物からの重金属の溶出防止を目的として重金属不溶化薬剤の添加処理を行う請求項1に記載の産業廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−136275(P2011−136275A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297121(P2009−297121)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(500570427)JFE環境株式会社 (21)
【Fターム(参考)】