説明

用具の柄

【課題】鋏の柄に改良を加え、より使い勝手のよい鋏を提供する。
【解決手段】硬質の芯材4と、芯材4よりも軟らかく、使用者の手指が接触する接触面部51、接触面部51に隣接し周囲よりも薄肉となる有底凹穴部52、並びに有底凹穴部52に連なる貫通孔部を有している軟質材5とを具備してなる鋏の柄22を構成した。使用者が指掛環に手指を抜き差し等する際、接触面部51が貫通孔部を圧縮しながら退避する作用、有底凹穴部52を支点として傾動する作用が営まれる。また、有底凹穴部52と貫通孔部とを連ねて成形したことで、接触面部51の弾性変形性と保形性とが両立し、接触面部51を含む軟質材5の耐久性の確保にも奏効する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者が把持して使用する用具の柄、特に、鋏やその他の手工具の柄に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な鋏の柄は、金属製または硬質樹脂製の硬い剛体であり、使用者の手指が挿入される指掛環が変形することはない。それ故、手指の大きさや形にフィットしなかったり、力を込めて使用したときに指が痛く感じられたりすることがある。
【0003】
これに対し、下記特許文献に開示されている鋏では、指掛環の内周側に軟質樹脂層を設けることで指掛環を変形可能とし、上記の問題の解消を図っている。
【0004】
しかし、単純に軟質樹脂層を設けるだけでは、その効果が必ずしも充分でなく、依然として指掛環に硬さが残るきらいがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−311041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に鑑みてなされた本発明は、使用者が把持して使用する用具の柄に改良を加え、より使い勝手のよい用具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る用具の柄は、硬質の芯材と、前記芯材よりも軟らかく、使用者の手指が接触する接触面部、及び接触面部に隣接し周囲よりも薄肉となる有底凹穴部を有している軟質材とを具備してなる。
【0008】
ここで、用具とは、鋏の他、スプーン、フォーク、ナイフ、包丁、箸、筆記具、ペンチ、ドライバ等の手工具や、ドア、松葉杖等をも包括した概念である。ドアの場合にはそのドアの取手が、松葉杖の場合には使用者の手のひら(掌底)が接触する握りが、本発明の柄に該当する。
【0009】
本発明では、有底凹穴部によって接触面部の変位ないし変形を促し、接触面部に適度な軟らかさを付与し、この接触面部が使用者の手指の大きさや形にフィットするようにしている。
【0010】
また、軟質材は、使用者の手指が接触する接触面部、接触面部に隣接し周囲よりも薄肉となる有底凹穴部、並びに有底凹穴部に連なる貫通孔部を有しているものとすることが望ましい。接触面部に隣接する貫通孔部を設けるだけでは接触面部が軟弱になり過ぎてしまうが、有底凹穴部と貫通孔部とを連ねて成形することで、接触面部の弾性変形性と保形性とを両立させることができる。接触面部を含む軟質材の耐久性の確保にも奏効する。
【0011】
使用者の手指が挿入される指掛を備えており、その指掛の内周の少なくとも一部に前記接触面部を配しているものとすれば、指掛に手指を抜き差し等する際に、接触面部が貫通孔部を圧縮しながら退避する作用、または接触面部が有底凹穴部を支点として傾動する作用が営まれ、用具の使用感の向上に資する。
【0012】
前記指掛の内周に略沿って前記有底凹穴部及び前記貫通孔部が略弧状に形成されていれば、指掛の内周の広い範囲を軟らかく変形可能とすることができる。
【0013】
そして、前記貫通孔部の側縁に前記有底凹穴部を設けているならば、接触面部を適度な軟らかさに調整しながら、接触面部の保形性をも確保できる。
【0014】
本発明は、鋏の柄への適用に好適である。支軸回りに相対回動する一対の鋏身のそれぞれの柄において、使用者の手指が挿入される指掛を備え、前記指掛の内周における、柄の基端と支軸とを結ぶ直線方向に対向した部位に前記接触面部を配すれば、この鋏を使用した切り作業時に手指が擦れる箇所に軟らかい接触面部が存在することとなり、鋏としての使い勝手が良化する。
【0015】
また、前記指掛の内周における、相手方の鋏身の指掛に臨む内側方の部位に前記芯材を配し、その他の部位に前記接触面部を配すれば、切り作業時に前記芯材を介して鋏身に握力を加えやすく、好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、使用者が把持して使用する用具の柄が改良され、より使い勝手のよい用具の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の柄を採用した鋏を示す斜視図。
【図2】同実施形態の鋏の平面図。
【図3】同実施形態の鋏の刃を示すA−A線断面図。
【図4】同実施形態の鋏の柄を示すB−B線断面図。
【図5】同実施形態の鋏の柄を示すC−C線断面図。
【図6】同実施形態の鋏の使用状態を示す図4に対応した側断面図。
【図7】同実施形態の鋏の使用状態を示す図5に対応した側断面図。
【図8】同実施形態の鋏の使用状態を示す側断面図。
【図9】本発明の変形例の一である鋏を示す平面図。
【図10】本発明の変形例の一であるスプーンを示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1及び図2に示す本実施形態の用具は、鋏Hである。この鋏Hは、既知の鋏Hと同様、動刃11に柄12を取り付けた第一の鋏身1と、静刃21に柄22を取り付けた第二の鋏身2とを、支軸3を介して相対回動可能に連結してなるものである。
【0019】
動刃11、静刃21とも、例えばステンレス鋼板等の金属板を素材とし、全体を一体的にプレス成形することにより作製する。
【0020】
図3に示すように、動刃11及び静刃21はそれぞれ、相手方の刃21、11(の刃裏面)と摺動する平坦な刃裏面を有する刃線部111、211と、刃線部111、211に隣接した凹陥部112、212とを備えている。凹陥部112、212は、刃線部111、211との間に段差をなして相手方の刃の刃裏面から厚み方向に離間するとともに、刃裏面に対して平行な底面を有する。この凹陥部112、212は、粘着テープやクラフトテープ等の、裏面に粘着剤等を塗布したテープ類またはシート類を切断したときに、その粘着剤等が動刃11と静刃21との両刃裏面間に粘着して鋏身1、2の動きを悪くする不具合を避けるために存在している。一旦刃裏面に付着した粘着剤等は、相手方の刃によりこそぎ落とされ、凹陥部112、212内に押し出される。
【0021】
動刃11及び静刃21に取り付けた柄12、22は、硬質の芯材4と、芯材4よりも軟らかい軟質材5とを組み合わせて構成している。なお、図1及び図2(並びに、図9、図10)において、芯材4を網点にて表す。芯材4は、例えばポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンやABS樹脂、アクリル酸系樹脂等の熱可塑性樹脂材である。軟質材5は、例えばラバー素材等の弾性のある合成樹脂材である。柄12、22は、これら芯材4及び軟質材5を一体的に成形(特に、二色成形)することにより作製する。
【0022】
動刃11に取り付ける柄12は、使用者の親指が挿入される指掛環121を備える。また、静刃21に取り付ける柄22は、使用者の人差し指、中指または薬指が挿入される指掛環221を備える。柄12、22の本体、即ち刃に取り付く先端部及び指掛環121、221の外周は、芯材4により形成する。加えて、指掛環121、221の内周における、相手方の柄22、12の指掛環221、121に臨む内側方の部位も芯材4により形成し、芯材4が表出して使用者の指に触れるようにする。
【0023】
他方、指掛環121、221の内周におけるその他の部位は、軟質材5により形成しており、軟質材5が平面視略C字型をなしている。この軟質材5は、使用者の手指が接触する接触面部51、接触面部51に隣接し周囲よりも薄肉となる有底凹穴部52、並びに有底凹穴部52に連なる貫通孔部53を有している。
【0024】
接触面部51は、指掛環121、221の内周における、柄12、22の基端と支軸3とを結ぶ直線L方向に対向した部位に位置する。有底凹穴部52及び貫通孔部53は、各接触面部51の外周側に隣接している。有底凹穴部52及び貫通孔部53は、指掛環121、221の内周に略沿って拡張している。即ち、有底凹穴部52及び貫通孔部53はそれぞれ、略部分円弧状または略部分楕円弧状に形成される。
【0025】
有底凹穴部52は、軟質材5の肉厚を周囲よりも薄肉とする有底穴または有底溝である。図4に示すように、本実施形態では、鋏身1、2の表側、裏側からそれぞれ肉盗んで有底凹穴部52を形成しており、厚み方向の略中間に底521がある。
【0026】
図5に示すように、貫通孔部53は、ちょうど有底凹穴部52の底521を貫いたような孔または溝である。本実施形態では、貫通孔部53の拡張方向の両側に有底凹穴部52が連接している。有底凹穴部52及び貫通孔部53の組は、全体として平面視略三日月型をなす。
【0027】
これら有底凹穴部52及び貫通孔部53は、接触面部51の変位ないし変形を促し、接触面部51に適度な軟らかさを付与する。使用者の手指によって接触面部51が外周側に圧迫されるとき、図6に示すように有底凹穴部52の底521が圧縮し、及び/または、図7に示すように貫通孔部53が圧縮して、接触面部51を外周側へ退避させることができる。
【0028】
また、図8に示すように、使用者の手指は、厚み方向、換言すれば指掛環121、221の連通する方向に対して傾斜した向きで指掛環121、221に差し入れられることが多い。その際には、接触面部51が有底凹穴部52の底521を支点として斜めに傾くことができる。いわば、指掛環121、221が傾斜して(または、捻れ)、使用者の手指の抜き差しを容易にする。
【0029】
本実施形態によれば、硬質の芯材4と、前記芯材4よりも軟らかく、使用者の手指が接触する接触面部51、接触面部51に隣接し周囲よりも薄肉となる有底凹穴部52、並びに有底凹穴部52に連なる貫通孔部53を有している軟質材5とを具備する鋏Hの柄12、22を構成したため、有底凹穴部52及び貫通孔部53によって接触面部51の変位ないし変形を促し、接触面部51に軟らかさを付与し、この接触面部51が使用者の手指の大きさや形にフィットする好適なものとなる。
【0030】
また、接触面部51に隣接する貫通孔部53を設けるだけでは接触面部51が軟弱になり過ぎてしまうが、有底凹穴部52と貫通孔部53とを連ねて成形しているため、接触面部51の弾性変形性と保形性とを両立させることができる。接触面部51を含む軟質材5の耐久性の確保にも奏効する。
【0031】
使用者の手指が挿入される指掛121、221を備えており、その指掛121、221の内周の少なくとも一部に前記接触面部51を配しているため、指掛121、221に手指を抜き差し等する際に、接触面部51が貫通孔部53を圧縮しながら退避する作用、または接触面部51が有底凹穴部52を支点として傾動する作用が営まれ、鋏Hの使用感の向上に資する。
【0032】
前記指掛121、221の内周に略沿って前記有底凹穴部52及び前記貫通孔部53が拡張しているため、指掛121、221の内周の広い範囲を軟らかく変形可能とすることができる。
【0033】
そして、前記貫通孔部53の拡張方向即ち周方向の両側縁に前記有底凹穴部52を設けているため、接触面部51を適度な軟らかさに調整しながら、接触面部51の保形性をも確保できる。
【0034】
支軸3回りに相対回動する一対の鋏身1、2のそれぞれの柄12、22において、使用者の手指が挿入される指掛121、221を備え、前記指掛121、221の内周における、柄12、22の基端と支軸3とを結ぶ直線L方向に対向した部位に前記接触面部51を配しているため、この鋏Hを使用した切り作業時に手指が擦れる箇所に軟らかい接触面部51が存在することとなり、鋏Hとしての使い勝手が良化する。
【0035】
また、前記指掛121、221の内周における、相手方の鋏身2、1の指掛221、121に臨む内側方の部位に前記芯材4を配し、その他の部位に前記接触面部51を配しているため、切り作業時に前記芯材4を介して鋏身1、2に握力を加えやすく、好ましい。
【0036】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態の鋏の柄は、周縁の閉じた環状の指掛を備えていたが、周縁が一部欠損して開放した非環状の指掛を備えるものとしてもよい。
【0037】
有底凹穴部と貫通孔部との位置関係も、上記実施形態の態様に限定されない。例えば、有底凹穴部を貫通孔部の拡張方向の両側縁に設けず一方の側縁にのみ設けてもよい。有底凹穴部を貫通孔部の両側縁に設けるのとは逆に、有底凹穴部の両側縁に貫通孔部を設けてもよい。
【0038】
あるいは、接触面部の外周側に有底凹穴部を隣接させて設けた上、その有底凹穴部の外周側に貫通孔部を隣接させて設けるようにすることも考えられる。
【0039】
上記実施形態では、軟質部5に有底凹穴部52及び貫通孔部53の両方を設けていたが、図9に示すように、軟質部5に貫通孔部53を設けず有底凹穴部52のみを設けるようにしても、良好な結果を得られる。
【0040】
さらに、本発明の適用対象となる用具は鋏には限られず、スプーン、フォーク、ナイフ、包丁、箸、筆記具、ペンチ、ドライバ等の手工具や、ドアの取手、松葉杖の握り等に本発明の柄を採用することも可能である。図10に、本発明の柄6をスプーンSに適用した例を示す。
【0041】
その他各部の具体的な構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、例えば鋏等の手工具の柄として用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
H…用具(鋏)
1、2…鋏身
12、22…柄
121、221…指掛(指掛環)
4…芯材
5…軟質材
51…接触面部
52…有底凹穴部
53…貫通孔部
S…用具(スプーン)
6…柄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が把持して使用する用具の柄であって、
硬質の芯材と、
前記芯材よりも軟らかく、使用者の手指が接触する接触面部、及び接触面部に隣接し周囲よりも薄肉となる有底凹穴部を有している軟質材と
を具備する柄。
【請求項2】
使用者が把持して使用する用具の柄であって、
硬質の芯材と、
前記芯材よりも軟らかく、使用者の手指が接触する接触面部、接触面部に隣接し周囲よりも薄肉となる有底凹穴部、並びに有底凹穴部に連なる貫通孔部を有している軟質材と
を具備する柄。
【請求項3】
使用者の手指が挿入される指掛を備えており、その指掛の内周の少なくとも一部に前記接触面部を配している請求項1または2記載の柄。
【請求項4】
前記指掛の内周に略沿って前記有底凹穴部及び前記貫通孔部が略弧状に形成されている請求項3記載の柄。
【請求項5】
前記貫通孔部の側縁に前記有底凹穴部を設けている請求項4記載の柄。
【請求項6】
前記用具が鋏である請求項1、2、3、4または5記載の柄。
【請求項7】
支軸回りに相対回動する一対の鋏身のそれぞれの柄であり、
使用者の手指が挿入される指掛を備え、
前記指掛の内周における、柄の基端と支軸とを結ぶ直線方向に対向した部位に前記接触面部を配している請求項6記載の柄。
【請求項8】
支軸回りに相対回動する一対の鋏身のそれぞれの柄であり、
使用者の手指が挿入される指掛を備え、
前記指掛の内周における、相手方の鋏身の指掛に臨む内側方の部位に前記芯材を配しており、その他の部位に前記接触面部を配している請求項6または7記載の柄。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の柄を備えてなる用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−247293(P2010−247293A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100640(P2009−100640)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【Fターム(参考)】