説明

田植機

【課題】摺動板ガードに特に大きな外力が作用した場合には、摺動板の保護機能に優先して苗植付け装置の昇降操作機構が損傷することを回避できるようにする。
【解決手段】摺動板の左右方向での端部よりも外側に位置して、その摺動板に他物が衝突することを回避させるように保護するための摺動板ガード5を備え、摺動板ガード5に対して所定以上の外力が作用したときに、予め設定された特定位置で変形又は破断するように構成した脆弱部55を、摺動板ガード5に設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の後部に昇降操作自在な苗植付け装置を備え、この苗植付け装置の苗のせ台の下部における左右方向での横送り移動を案内する摺動板を備えるとともに、その摺動板に他物が衝突することを回避させるように保護するための摺動板ガードを備えた田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように、摺動板に他物が衝突することを回避させるように保護するための摺動板ガードを備えた田植機としては、従来より下記[1]に記載のものが知られている。
[1] 苗植付け装置が備える左右方向に長いフロート支持軸の両端部を固定保持部として、その固定保持部に対して摺動板ガードの基端側を左右方向の横軸心回りで回動可能に連結し、かつ、その摺動板ガードの遊端側が、水平方向に沿う姿勢で摺動板の端部の外側に位置して摺動板を保護するガード姿勢と、遊端側が下方に向くスタンド姿勢とに姿勢切換可能に構成したもの(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−84839号公報(段落番号「0042」、図2乃至図5、及び図21,22)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示された構造のものでは、摺動板の端部の外側に位置して摺動板を保護する摺動板ガードを備えることによって、摺動板が他物と接触して損傷する可能性を低減できる点で有用なものである。しかしながら、苗植付け装置は、昇降操作機構を介して走行機体の後部に昇降可能に連結されているものであるため、例えば走行機体が畦際で旋回する場合などに、苗植付け装置の摺動板ガードが他物に接当すると、摺動板自体は頑強な摺動板ガードで保護されていても、苗植付け装置を昇降可能に支持する昇降操作機構の部位に大きな曲げモーメントが作用して、昇降操作機構が損傷してしまう虞がある。
【0005】
本発明の目的は、摺動板ガードを備えて摺動板に対する他物の接触や引っ掛かりなどを回避するための保護機能を有しながら、その摺動板ガードに特に大きな外力が作用した場合には、摺動板の保護機能に優先して苗植付け装置の昇降操作機構が損傷することを回避できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明による田植機では、下記の技術手段を講じたものである。
〔解決手段1〕
本発明は、走行機体の後部に昇降操作自在な苗植付け装置を備え、この苗植付け装置の苗のせ台の下部における左右方向での横送り移動を案内する摺動板を備えるとともに、前記摺動板の左右方向での端部よりも外側に位置して、その摺動板に他物が衝突することを回避させるように保護するための摺動板ガードを備えた田植機であって、
前記摺動板ガードに対して所定以上の外力が作用したときに、予め設定された特定位置で変形又は破断するように構成した脆弱部を、前記摺動板ガードに設けてあることを特徴とする。
【0007】
〔解決手段1にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段によれば、摺動板ガードに、予め設定された特定位置で変形又は破断するように構成した脆弱部を備えさせたものであるから、苗植付け装置を用いての通常の作業状態では摺動板ガードによる摺動板の保護機能を果たしながら、機体旋回中に苗植え付け装置が畦や立木などの障害物に接当して摺動板ガードに所定以上の外力が作用したときには、前記脆弱部が変形又は破断することになる。
このように脆弱部が変形又は破断することによって、摺動板ガードに所定以上の外力が作用しても、その外力が緩衝されて苗植付け装置側に伝わるので、前記所定以上の外力が直接的に苗植付け装置に作用する場合に比べて、苗植付け装置を支持する昇降操作機構が損傷するような事態を招くことを回避し易くなる利点がある。
【0008】
〔解決手段2〕
解決手段2にかかる発明では、前記脆弱部は、前記苗植付け装置に備えられた固定保持部に対して連結される前記摺動板ガードの基端側の一部における断面積が、その摺動板ガードの遊端側の部位における断面積よりも小さくなるように形成された部位によって構成されていることを特徴とする。
【0009】
〔解決手段2にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段によれば、摺動板ガードの基端側の一部における断面積を、遊端側の部位における断面積よりも小さくなるように形成するだけの簡単な構造によって脆弱部を構成することができる。したがって、脆弱部を構成するための製作加工の煩雑さや構造の複雑化を招くことなく低コストで脆弱部を構成し得る利点がある。
【0010】
〔解決手段3〕
解決手段3にかかる発明では、前記脆弱部は、前記摺動板ガードの基端側が左右方向に延出する部位に設けてあり、前記左右方向に垂直な断面における前記脆弱部の断面二次モーメントが、特定方向において最小となるように構成してあることを特徴とする。
【0011】
〔解決手段3にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段によれば、所定以上の外力が作用したときにおける摺動板ガードの変形方向を断面二次モーメントが小さい特定方向へ向け易くなる。したがって、その外力によって変形した摺動板ガードが苗植付け装置の摺動板などに接当して苗受付装置を損傷するというような事態が発生する可能性を少なくした状態で変形させ易いという利点がある。
【0012】
〔解決手段4〕
解決手段4にかかる発明では、前記摺動板ガードは、前記苗植付け装置に備えられた固定保持部に対して基端側が左右方向の横軸心回りで回動可能に連結されていて、前記横軸心位置から遊端側への延出方向が、水平方向に沿うガード姿勢と、上下方向に沿うスタンド姿勢とに姿勢切換可能に構成してあるとともに、前記摺動板ガードを前記ガード姿勢と前記スタンド姿勢とのそれぞれの姿勢位置で姿勢維持するための位置保持機構を備え、
前記位置保持機構は、前記基端側を前記固定保持部側へ押し付けるように弾性付勢する付勢具と、前記基端側の前記固定保持部側への押し付け状態で前記横軸心回りでの前記遊端側の回動に抵抗を与える回動抵抗部とを備えてあることを特徴とする。
【0013】
〔解決手段4にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段によれば、摺動板ガードを、水平方向に沿うガード姿勢と、上下方向に沿うスタンド姿勢とのそれぞれの姿勢位置で姿勢維持するための位置保持機構を備えたので、非作業時の苗植付け装置を支えるための接地スタンドとしても前記摺動板ガードを用いることができる。
そして、この摺動板ガードが接地スタンドとして用いられている状態で、摺動板ガードの遊端側に左右方向の横軸心回りで所定以上の外力が作用すると、基端側を固定保持部側へ押し付けるように弾性付勢する付勢具の弾性付勢力や回動抵抗部の回動抵抗に抗して、摺動板ガードの基端側が固定保持部に対して横軸心回りで相対回動することを許容する。したがって、接地スタンドとして用いられていた摺動板ガードを戻し忘れて機体が走行し始めても、摺動板ガードが損傷することを回避できる利点がある。
【0014】
〔解決手段5〕
解決手段5にかかる発明では、前記回動抵抗部は、前記固定保持部と前記摺動板ガードの基端側との間で、一方側に設けられたピンと、そのピンに係合可能であるように他方側に設けられたピン孔とによって構成してあることを特徴とする。
【0015】
〔解決手段5にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段によれば、回動抵抗部として、固定保持部と摺動板ガードの基端側との間におけるピンとピン孔とを用いた簡単な構造によって得られるので、製作加工の煩雑さや構造の複雑化を招くことなく低コストで回動抵抗部を構成し得る利点がある。
【0016】
〔解決手段6〕
解決手段6にかかる発明では、前記摺動板ガードには、前記苗植付け装置による苗の植え始め位置の指標となる条合わせマーク部を設けてあることに特徴がある。
【0017】
〔解決手段6にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段によれば、摺動板ガードを苗植付け装置による苗の植え始め位置の指標となる条合わせマーク部に兼用することができ、部品の兼用化による構造の簡素化を図り得る利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】乗用型田植機を示す全体側面図である。
【図2】乗用型田植機を示す全体平面図である。
【図3】苗植付け装置及び施肥装置を示す側面図である。
【図4】摺動板ガード部分を示す斜視図である。
【図5】摺動板ガードを示し、(a)は正面図、(b)は(a)におけるVb-Vb線矢視図である。
【図6】摺動板ガードに外力が作用した場合を説明する斜視図である。
【図7】摺動板ガードの使用例を示す平面視での説明図と拡大図である。
【図8】他の実施形態における摺動板ガードを示し、(a)は正面図、(b)は(a)におけるVIIIb-VIIIb線矢視図である。
【図9】他の実施形態における摺動板ガードを示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は部分断面図である。
【図10】他の実施形態におけるマーカを示す説明図である。
【図11】他の実施形態におけるマーカの使用形態を説明する説明図である。
【図12】他の実施形態における隣接マーカを示し、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【図13】目印マーカの使用形態を説明する説明図である。
【図14】薬剤散布装置の支持状態を示す背面図である。
【図15】ユニバーサルジョイントを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
〔田植機の全体構成〕
図1及び図2は、本発明を適用した田植機の一例である乗用型田植機を示している。
図1には乗用型田植機の全体側面が示されており、この田植機は、走行機体1の後部に、油圧シリンダ19の作動で上下方向に揺動駆動されるリンク機構2を介して、4条植え用の苗植付け装置3を駆動昇降可能に連結してある。また、その苗植付け装置3の後方上部に、除草剤等の薬剤を散布する薬剤散布装置4が備えられている。
【0020】
走行機体1は、車体フレーム10の前部に搭載したエンジン6からの動力を、ベルトテンション式の主クラッチ(図示せず)、主変速装置として備えた静油圧式の無段変速装置(図示せず)、及び、副変速装置としてミッションケース9に内装したギヤ式の変速装置(図示せず)などを介して、左右一対の前輪11及び後輪12に伝達するように構成された4輪駆動型のものである。
【0021】
前記車体フレーム10の上側には、エンジン6などを上方から覆う前部カバー13が設けてあり、その前部カバー13の左右両外側に機体前方側から昇降可能な乗降用ステップ16Aを設けてある。そして、前記前部カバー13の後方側に前記乗降用ステップ16Aに連なる状態で運転部ステップ16Bを設けてある。
前記前部カバー13の上方位置には、左右の前輪11に対してステアリング操作系を介して連係されたステアリングホイール14が配備され、そのステアリングホイール14を把持する運転者が搭座するための運転座席15が、前記運転部ステップ16Bの後部側に配備されている。
【0022】
前記乗降用ステップ16Aの横外側には予備苗を搭載するための予備苗台20を設けてある。この予備苗台20には、車体フレーム10に固定された支柱21の上部に上下二段の苗載置部22が備えられ、乗用型田植機の前方側の畦から苗載置部22へ予備苗を供給可能で、かつ、運転座席15に搭座する運転者が苗載置部22の後方側から予備苗を後方側へ引き出して、機体後方側の苗植付け装置3の苗のせ台36に対して苗補給することが可能であるように構成されている。
前記予備苗台20の支柱21には、横外側に向けて隣接マーカ23の支持腕23aを取り付けてあり、支持腕23aを図2、及び図12に示すように横外側に向けて延出した状態で、支持腕23aの先端に対して上下位置変更可能に支持された指示棒23bによって、隣接苗の位置を目視で確認し易くしてある。
【0023】
車体フレーム10の前端側には、左右方向の横軸心x回りで起伏揺動可能な操作アーム24を設けてある。この操作アーム24は、乗用型田植機を圃場から畦に脱出させる際などに、前記横軸心x回りで前方側へ倒伏させた姿勢に切り換えて、後傾姿勢となる機体の前部側を押さえ込むことによって、機体前部の浮き上がりを避けられるようにするためのものであり、通常の苗植付け作業中には、図1及び図2に示すように起立した格納姿勢となるように付勢されている。
この操作アーム24は、門形のアーム本体部分24aと、図1,2に示す起立姿勢で、その上端側の左右中央部から上方へ突出させたセンターマスコット24bとから構成され、さらにセンターマスコット24bの上端部に、前後方向にスライド操作可能に装着されたセンター指示棒25を備えている。
このように操作アーム24が起立した格納姿勢であれば、ステアリングホイール14の直前方に起立したセンターマスコット24bが存在し、かつ、センターマスコット24bの上端に前後向きのセンター指示棒25が存在しているので、運転座席15に搭座してステアリングホイール14を把持する運転者が、センターマスコット24bやセンター指示棒25を、直進走行の際の指針として目視し易くなる。
【0024】
前記ミッションケース9から苗植付け装置3への動力伝達系に介装した伝動軸17は、図15に示すようなユニバーサルジョイント18を介して屈折可能に連結されている。
すなわち、ミッションケース9に近い側の出力側伝動軸17aに対して、苗植付け装置3に近い側の入力側伝動軸17bを屈折可能に連結するためのユニバーサルジョイント18が、出力側伝動軸17aに一体に連設された腕部18aと、入力側伝動軸17bに一体に形成された腕部18bとを、L字状の連結体18cで連結して構成されている。
そして、前記連結体18cと前記各腕部18a,18bとを相対回動自在に連結することで、前記出力側伝動軸17aの軸芯線p1と入力側伝動軸17bの軸芯線p2とが相対姿勢を変化させるように角度変化しても、支承なく動力伝達を行えるように構成してある。
【0025】
〔苗植付け装置〕
図1〜3に示すように、前記苗植付け装置3は、1個のフィードケース30に連結された機体左右方向に延びる支持フレーム31に、後部側の植付け爪34に対する駆動力伝達機構(図示せず)を内装するための2個の植付け伝動ケース32が後向きに片持ち状に連結されている。植付け伝動ケース32の後部の左右両側部には、爪駆動アーム33が回転自在に支持され、爪駆動アーム33に植付け爪34が備えられており、苗植付け装置3の下部には接地フロート35が支持されている。
又、苗植付け装置3には、苗のせ台36が下端側を摺動板37に案内されて左右に一定ストロークで往復横送り駆動自在に備えられており、苗のせ台36がストロークエンドに達する毎に、載置された苗を所定量だけ下方に送るベルト式の縦送り装置38が苗のせ台36に備えられている。
【0026】
そして、フィードケース30に伝達される動力が植付け伝動ケース32に伝達されて、爪駆動アーム33が駆動される一方、フィードケース30に伝達される動力により苗のせ台36が往復横送り駆動されて、苗のせ台36の下部から上下に揺動運動する爪駆動アーム33が、その先端部に備えられた植付け爪34により1株ずつ苗を取り出して田面に植え付けるのであり、苗のせ台36が往復横送りのストロークエンドに達すると、フィードケース30に伝達される動力により縦送り装置38が駆動されて、苗のせ台36に載置された苗が下方に送られる構成となっている。
【0027】
接地フロート35は、二枚の樹脂板の間に圧縮空気を吹き込むブロー成形によって一体形成されたものであり、左右一対のサイドフロート35bと、その中間に位置するセンターフロート35aとで構成され、中央のセンターフロート35aが植付制御に使用されるセンサフロートとしての機能を有している。左右のサイドフロート35bは、それぞれ左右の前輪11及び後輪12の後方側に位置するように設けられていて、前輪11及び後輪12の通過跡を均すように、前輪11及び後輪12のラグ幅よりも幅広に形成されている。
【0028】
〔薬剤散布装置〕
前記苗植付け装置3の後部側には、散布装置支持フレーム43を介して薬剤散布装置4が支持されている。
この薬剤散布装置4は、図1乃至図3、及び図14に示されるように、薬剤を貯留する貯留タンク40、貯留タンク40内の薬剤を所定量づつ繰り出し供給する繰出し装置41、及び繰り出された薬剤を駆動回転される回転羽根で水平方向に飛散させて散布する飛散装置42を備え、これらが一体化されている。
この薬剤散布装置4は散布装置支持フレーム43を介して苗植付け装置3の左右の植付け伝動ケース32に支持されている。前記散布装置支持フレーム43には、苗植付け装置3の植付け爪34の上方側を覆うように合成樹脂製の泥除けカバー47を取り付けてあり、植付け爪34によって跳ね上げられる泥が上方の薬剤散布装置4に対して飛散することを回避できるようにしてある。
【0029】
前記散布装置支持フレーム43は、図2及び図14に示されるように、左右の植付け伝動ケース32同士を連結するように、左右の各植付け伝動ケース32に下端側を連結された背面視門形の横向きフレーム44と、その横向きフレーム44の左右方向での中間位置から上方へ向けて立設されたパイプ材からなる棒状の縦向きフレーム45とを備えて構成されている。
前記泥除けカバー47は、前記横向きフレーム44の左右両端側から後方へ向けて延出された左右一対の支持杆46によって支持されている。
前記縦向きフレーム45は横向きフレーム44に対して着脱可能に構成してあり、横向きフレーム44も左右の植付け伝動ケース32に対して着脱可能に構成されている。
【0030】
〔摺動板ガード〕
図3乃至図5に示すように、前記苗植付け装置3の摺動板37の前方側に位置する支持フレーム31の端部側箇所に、前記摺動板37の左右方向での端部よりも外側に位置して、その摺動板37に他物が衝突することを回避させるように保護するための摺動板ガード5を設けてある。
この摺動板ガード5は、図5に示すように、L字状に屈曲形成された金属製パイプで構成してある。そして、前記支持フレーム31の端部側箇所で、支持フレーム31の下面側にチャンネル状の取付部材を溶接して構成した固定保持部50に対して、基端側を差し込んで、かつ、その固定保持部50に形成した連結孔51と、摺動板ガード5に設けてある連結孔52とを合致させた状態で貫通する連結ピン53によって連結固定されるように構成してあり、連結ピン53を抜くことによって取り外し可能に構成してある。
【0031】
この摺動板ガード5には、前記連結孔51の他に、スタンド用連結孔54と、脆弱部55を構成する貫通孔55aとを穿設してある。
スタンド用連結孔54は、この摺動板ガード5を、図3に仮想線で示すように、及び図4(b)に示すように、摺動板ガード5の遊端側が下向きとなるスタンド姿勢で固定保持部50に固定する際に、前記連結ピン53を挿通するためのものであり、前記摺動板ガード5の連結孔52に対して90度位相が異なる方向に向けてある。
したがって、前記連結孔52に連結ピン53が挿通された取付状態では、摺動板ガード5の遊端側が水平方向に向いて摺動板37の左右方向での端部よりも外側に位置して、摺動板37が他物と接触することを回避させるための摺動板ガード5としての機能を果たすように構成され、前記スタンド用連結孔54に連結ピン53が挿通された取付状態では、摺動板ガード5をスタンドとして利用することができるように構成してある。
【0032】
前記脆弱部55を構成する貫通孔55aは、前記連結孔52と平行な方向に向けて穿設してあり、かつ、その連結孔52、及び前記スタンド用連結孔54よりも径の大きい孔に形成されている。
したがって、摺動板ガード5が、その遊端側を水平方向に向けた摺動板ガード5としての役割を果たすガード姿勢で、この摺動板ガード5に他物が接触したとき、その接触に伴って摺動板ガード5に作用する外力が、予め設定した所定の大きさ未満であれば、摺動板37に対して他物が衝突することを回避させるように保護する機能を発揮する。
しかし、摺動板ガード5に他物が接触したとき、その接触に伴って摺動板ガード5に作用する外力が、予め設定した所定の大きさ以上であれば、図6に仮想線で示すように、脆弱部55の存在箇所から下方側へ屈曲するように変形する、もしくは、脆弱部55の存在箇所から後方側へ屈曲する、あるいは、図示はされていないが上方側へ向けて屈曲する、もしくは前方側へ向けて屈曲変形する可能性もある。
【0033】
上記のように摺動板ガード5が脆弱部55の存在箇所から屈曲変形する際の基準となる所定の外力とは、摺動板ガード5が変形しない状態で、その外力の作用によって苗植付け装置3が左右揺動されたとき、その苗植付け装置3を支持するリンク機構2が変形するなどの損傷を受ける可能性があると予測される程度の大きさの外力である。
したがって、摺動板ガード5に他物が接触したとき、その接触に伴って摺動板ガード5に作用する外力が、予め設定した所定の大きさ以上であれば、摺動板ガード5自体が変形することで、この摺動板ガード5の変形に要したエネルギー分だけ外力が弱められることになる。このように脆弱部55を備えた摺動板ガード5が緩衝機構としての役割をも果たすことになり、苗植付け装置3を支持するリンク機構2が変形してしまう虞を極力回避させ易くなるという利点がある。
【0034】
前記摺動板ガード5の遊端部近くには、図3乃至図5に示すように、条合わせマーク部56が形成されている。この条合わせマーク部56は、図3及び図7に示すように、摺動板ガード5のガード姿勢で、側面視で植付け爪34による苗植付け箇所の直上に位置し、平面視で植え付け開始位置の既植苗と一致する前後方向位置に存在するように設けられたものである。
したがって、図1及び図9に示すように、乗用型田植機の運転座席15に搭座する運転者が、畦際までの苗植付け作業を行ったのち、機体進行方向を反転させて既植苗に隣接する箇所で苗植付け作業を再開する際に、後方を振り返って摺動板ガード5の条合わせマーク部56が既植苗の植え付け開始位置と合致するように機体の位置を定め、この箇所から苗植付け作業を開始することによって、苗植付け開始箇所が整然と揃った状態に苗植え付けを行うことができる。
【0035】
〔別実施形態の1〕
実施の形態では、摺動板ガード5に形成する脆弱部55を、図4(a)及び図5に示すように、摺動板ガード5のガード姿勢で前後方向に貫通し、連結孔52やスタンド用連結孔54よりも径の大きい一つの大きな貫通孔55aによって構成したが、これに限らず、例えば、貫通孔55aの孔中心線が上下方向に向く貫通孔55a、あるいは上下前後の中間に位置する斜め方向に向く貫通孔55aなど、任意の方向に向けた貫通孔55aによって構成してもよい。
また、貫通孔55aとして、連結孔52やスタンド用連結孔54よりも径の大きい一つの貫通孔55aであるに限らず、連結孔52やスタンド用連結孔54と同程度、あるいはそれよりも小さい複数の貫通孔55aによって脆弱部55を構成し、脆弱部55として構成される貫通孔55aを除く残りの断面積が、前記連結孔52やスタンド用連結孔54が存在する箇所の断面積よりも小さくなるように形成してもよい。さらに、脆弱部55は貫通孔55aに限らず、摺動板ガード5を貫通しない一個、又は複数の孔によって形成されたものであってもよい。
この場合、貫通孔55aや貫通しない孔の位置や大きさ、あるいはその個数や深さなどによって、所定以上の外力が作用したときにおける摺動板ガード5の変形方向が異なってくるので、摺動板ガード5の遊端側が変形しても摺動板37と接触しない下方側や上方側、あるいは、前方側へ向けて摺動板ガード5が変形するように、摺動板ガード5の径方向における特定方向での曲げに対する剛性が、その特定方向以外の方向での曲げに対する剛性よりも小さくなるように形成してもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0036】
〔別実施形態の2〕
脆弱部55としては、摺動板ガード5に形成する貫通孔55aもしくはその他の孔に限らず、例えば図8に示すように、中実の棒状部材からなる摺動板ガード5の外周に外周溝55bを形成して、この外周溝55bの形成によって小径となった部分を脆弱部55としてもよい。
また、図示はしないが、上述のような摺動板ガード5の全周に亘る外周溝55bではなく、ガード姿勢にある摺動板ガード5の前部側と後部側の一部、もしくは、前部側か後部側の何れ一方側の周部に部分的な周溝や切り欠き部分を形成することによって脆弱部55を形成してもよい。さらに、その部分的な周溝や切り欠き部分は、上記のようなガード姿勢にある摺動板ガード5の前部側と後部側の一部、もしくは、前部側か後部側の何れ一方側に限らず、例えば上部側や下部側など、適宜の方向を選択して設けることができる。
この場合、周溝や切り欠き部分を設ける箇所やその深さなどによって、その周溝や切り欠き部分を設けることによって形成される脆弱部55の存在箇所での断面二次モーメントが、摺動板ガード5の径方向における特定の方向では小さく、他の方向では大きくなるように異なるように形成される。
したがって、所定以上の外力が作用したときにおける摺動板ガード5の変形し易い方向を、予め脆弱部55における断面二次モーメントの大きさで設定することができるので、摺動板ガード5の遊端側が変形しても摺動板37と接触しない下方側や上方側、あるいは、前方側へ向けて摺動板ガード5が変形するように、摺動板ガード5の径方向における特定方向での曲げに対する剛性が、その特定方向以外の方向での曲げに対する剛性よりも小さくなるように形成すればよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0037】
〔別実施形態の3〕
実施の形態では、摺動板ガード5としてL字状に屈曲形成された形状のものを示したが、これに限らず、例えば、図9に示すように、前後方向視でコの字状に屈曲形成されたものであってもよい。
この構造では、摺動板ガード5が支持フレーム31の端部に設けた取付板によって構成される固定保持部50に対して、横軸心p3回りで回動操作可能に支持されており、図9(a),(b)に実線で示すように遊端側を下方に向けて起立したスタンド姿勢と、遊端側を水平方向に向けたガード姿勢とに姿勢切換可能に構成されている。この摺動板ガード5の基端部近くに貫通孔55aで構成された脆弱部55が形成されている。
【0038】
図9(c)に示すように、摺動板ガード5は、前記固定保持部50に装着された取付軸57と圧縮スプリング58(付勢具に相当する)とによって摺動板ガード5の基板5Aが前記固定保持部50に圧接する方向に付勢された状態で取り付けられている。この状態で、摺動板ガード5側に装着された位置決めピン5B(ピン、及び回動抵抗部に相当する)は、固定保持部50のスタンド用連結孔54(ピン孔、及び回動抵抗部に相当する)に係入しているが、その位置決めピン5Bの先端部が比較的大きく面取りされたテーパー面に形成され、スタンド用連結孔54の対向周面にも、比較的大きく挫ぐりによるテーパー面が形成されている。
つまり、前記圧縮スプリング58と、スタンド用連結孔54に係入した状態の位置決めピン5Bとが摺動板ガード5を前記スタンド姿勢で姿勢維持するための位置保持機構を構成している。また、位置決めピン5Bは前記固定保持部50に形成された連結孔52にも係入するが、連結孔52にはスタンド用連結孔54に形成されたような大きく挫ぐりされたテーパー面は形成されていないので、このガード姿勢では摺動板ガード5の位置保持はスタンド姿勢であるときよりも強固に係合して姿勢維持される。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0039】
〔別実施形態の4〕
図10は、苗植付け装置3に装備するマーカ60を、この乗用型田植機の植付け条数である4条分の植付け幅に相当する長さと、その倍の8条分に相当する長さとに長さ変更可能に構成したものを示している。
このマーカ60は、棒状の基端部60aに対して筒状の遊端部60bが外嵌する状態(図10で仮想線で示す状態)と、基端部60aに対して遊端部60bが機体から離れる側へ延出された状態(図10で実線で示す状態)とに、伸縮切換可能に構成してある。このように構成されたマーカ60は、変形田での苗植付け作業を行う際に便利に用いることができる。
つまり、変形田では、図11(a)に示すように、まず畦に沿って機体を走行させながら、畦から離れた側に目安となる線を引くように左側のマーカ60を伸長させて作用状態とする。このとき、マーカ60は機体を往復走行させることが可能であるように8条分の長さに相当する範囲を線引きするが、苗植付け作業は行われていない。
【0040】
次に、図11(b)に示すように、マーカ60で線引きされた範囲内で機体を直線的に往復走行させながら苗植付け作業を行う。この植付け作業の際には、マーカ60を4条分の長さに相当する範囲を線引きする長さに戻して、機体の操向に伴ない次行程での走行の目安となる線引きを同時に行う。
次に、図11(c)では、苗植え付けが行われていなかった、変形田の外周側で、畦に沿って機体を走行させながら畦に近い側の4条分の苗植付け作業を行う。次に、図11(d)では、苗植え付けが行われていなかった、変形田の外周側で、畦に沿って機体を走行させながら畦から遠い側の4条分の苗植付け作業を行う。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0041】
〔別実施形態の5〕
図12は、乗用型田植機の前部側に設けられた隣接マーカ23の構造を示す。
この構造では、予備苗台20の支柱21に隣接マーカ23のパイプ状の支持腕23aを縦軸26回りで揺動可能に支持させてあり、前記支柱21には、前記支持腕23aを上下で挟み込む状態に支持する上下一対の支持ブラケット27を一体に形成してある。
また、支持ブラケット27には、前記支持腕23aに装備された係止突起28aを、複数位置(3箇所)で係止可能な係合孔27aが形成されている。
前記係止突起28aは、前記支持腕23aの内部に挿入されたバネ板材28の端部に形成してあり、かつ、バネ板材28は前記係止突起28aが形成された側とは反対側の端部に挿通された係止ピン29によって支持腕23aの長さ方向での位置決めが行われている。
【0042】
したがって、この構造では、前記支持腕23aの縦軸26回りでの位置を変更する際に、位置決め操作のためにピンの抜き差しを行うような操作が必要ではなく、単に支持腕23aを把持して少し強く回動操作すると、前記バネ板材28の付勢力に抗して係止突起28aが係合孔27aから外れるので、その係止突起28aを別の係合孔27aの位置に移行させることが簡単に行える。。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0043】
〔別実施形態の6〕
図13は、乗用型田植機の前端部に、機体前方側へ向けて延出可能な目印マーカ61を付設した構造のものである。
この目印マーカ61は、前記摺動板ガード5の条合わせマーク部56が既植苗の植え付け開始位置と合致するように機体を位置させた状態で圃場端部と合致する位置に先端が位置するように、つまり、目印マーカ61の先端と前記条合わせマーク部56との間の距離Lが、この乗用型田植機による往復での植付け作業幅と一致する8条分の長さに設定されている。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本願発明は、走行機体1の後方側に備えた苗植付け装置3を装備させたリヤマウントタイプの田植機に適用した例を示したが、これに限らず、苗植付け装置3を走行機体の前方側に装備させたフロントマウントタイプの田植機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 走行機体
3 苗植付け装置
5 摺動板ガード
5B ピン
5B,54 回動抵抗部
36 苗のせ台
37 摺動板
50 固定保持部
54 ピン孔
55 脆弱部
56 条合わせマーク部
58 付勢具
p3 横軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の後部に昇降操作自在な苗植付け装置を備え、この苗植付け装置の苗のせ台の下部における左右方向での横送り移動を案内する摺動板を備えるとともに、前記摺動板の左右方向での端部よりも外側に位置して、その摺動板に他物が衝突することを回避させるように保護するための摺動板ガードを備えた田植機であって、
前記摺動板ガードに対して所定以上の外力が作用したときに、予め設定された特定位置で変形又は破断するように構成した脆弱部を、前記摺動板ガードに設けてあることを特徴とする田植機。
【請求項2】
前記脆弱部は、前記苗植付け装置に備えられた固定保持部に対して連結される前記摺動板ガードの基端側の一部における断面積が、その摺動板ガードの遊端側の部位における断面積よりも小さくなるように形成された部位によって構成されている請求項1記載の田植機。
【請求項3】
前記脆弱部は、前記摺動板ガードの基端側が左右方向に延出する部位に設けてあり、前記左右方向に垂直な断面における前記脆弱部の断面二次モーメントが、特定方向において最小となるように構成してある請求項1又は2記載の田植機。
【請求項4】
前記摺動板ガードは、前記苗植付け装置に備えられた固定保持部に対して基端側が左右方向の横軸心回りで回動可能に連結されていて、前記横軸心位置から遊端側への延出方向が、水平方向に沿うガード姿勢と、上下方向に沿うスタンド姿勢とに姿勢切換可能に構成してあるとともに、前記摺動板ガードを前記ガード姿勢と前記スタンド姿勢とのそれぞれの姿勢位置で姿勢維持するための位置保持機構を備え、
前記位置保持機構は、前記基端側を前記固定保持部側へ押し付けるように弾性付勢する付勢具と、前記基端側の前記固定保持部側への押し付け状態で前記横軸心回りでの前記遊端側の回動に抵抗を与える回動抵抗部とを備えてある請求項1〜3の何れか一項記載の田植機。
【請求項5】
前記回動抵抗部は、前記固定保持部と前記摺動板ガードの基端側との間で、一方側に設けられたピンと、そのピンに係合可能であるように他方側に設けられたピン孔とによって構成してある請求項4記載の田植機。
【請求項6】
前記摺動板ガードには、前記苗植付け装置による苗の植え始め位置の指標となる条合わせマーク部を設けてある請求項1〜5の何れか一項記載の田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−254025(P2012−254025A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127549(P2011−127549)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】