説明

甲殻類の生体防御能力増強剤

【課題】 安全で安価かつ簡便な手段で効率的に甲殻類の感染症を予防することができる生体防御能力増強剤、飼料、及びこれらを用いた感染症予防方法を提供する。
【解決手段】 本発明の甲殻類の感染症予防方法は、甲殻類に生体防御能力増強剤を投与することを特徴としている。前記生体防御能力増強剤は、炭素数2〜6の有機酸又はその塩を有効成分として含んでいる。前記有機酸又はその塩としては、プロピオン酸又はその塩が好ましく用いられる。本発明の他の甲殻類の感染症予防方法は、甲殻類に炭素数2〜6の有機酸又はその塩を有効量含む甲殻類の飼料を摂餌させることを特徴としている。前記飼料は、プロピオン酸を0.003〜0.03重量%含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸又はその塩を有効成分とする甲殻類の生体防御能力増強剤に関し、さらに該生体防御能力増強剤を含む甲殻類用飼料及び該飼料を摂餌させる感染症予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、甲殻類の養殖や、生存させた状態の流通が発展するに伴って、甲殻類の感染症が大きな問題となっている。感染症のうち細菌性疾病については、抗生物質や合成抗菌剤が治療薬として用いられているが、抗菌性物質に対する耐性菌が出現し、充分な治療効果が得られていない。また、使用した薬剤が甲殻類に残留している場合には公衆衛生上の問題がある。
一方、甲殻類のウィルス病については、甲殻類の免疫機能の増強と感染症の予防を目的として、スエヒロタケ由来のβ−1,3−グルカン(特公平6−65649号公報)などの多糖類、細菌の細胞壁成分から得られるペプチドグリカンとタイコ酸を含有する水棲動物用薬剤(特開2001−342141号公報)、ラクトコッカス属などの細菌の不活化死菌体と、グラム陽性細菌由来の細胞破砕物を含む魚類・甲殻類用薬剤及び飼料(特開2001−342140号公報)などを利用することが知られている。しかし、有効なワクチンや治療薬の開発には至っておらず、病気は依然として多発している状況にある。甲殻類の感染症による養殖や流通過程の経済的被害は甚大で、より安全で安価かつ簡便な手段で効率的に感染症予防が可能な方法の開発が強く望まれている。
【0003】
【特許文献1】特公平6−65649号公報
【特許文献2】特開2001−342141号公報
【特許文献3】特開2001−342140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、安全で安価かつ簡便な手段で効率的に甲殻類の感染症を予防することができる生体防御能力増強剤、飼料、及びこれらを用いた感染症予防方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、甲殻類に特定の有機酸又はその塩を投与することにより、甲殻類の生体防御能力を著しく増強できるため、細菌やウィルスを原因とする感染症に対して優れた予防効果を発揮しうることを見いだし、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、炭素数2〜6の有機酸又はその塩を有効成分として含む甲殻類の生体防御能力増強剤を提供する。前記有機酸又はその塩としては、プロピオン酸又はその塩が好ましい。
【0007】
また、本発明は、炭素数2〜6の有機酸又はその塩を有効量含む甲殻類の飼料を提供する。本発明の飼料は、プロピオン酸を0.003〜0.03重量%含んでいてもよい。
【0008】
さらに、本発明は、甲殻類に上記本発明の生体防御能力増強剤を投与することを特徴とする甲殻類の感染症予防方法を提供する。
【0009】
本発明は、また、甲殻類に上記本発明の飼料を摂餌させることを特徴とする甲殻類の感染症予防方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭素数2〜6の有機酸又はその塩の作用により、甲殻類の生体防御能力を増強しうるため、養殖や流通過程において甲殻類の感染症を効果的に予防することができる。しかも、有効成分である炭素数2〜6の有機酸又はその塩は汎用品であるため、容易且つ安価に入手可能であり、しかも安全性に優れている。また、炭素数2〜6の有機酸を有効量添加した飼料を用いることにより、簡便に効率よく甲殻類の感染症予防を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の生体防御能力増強剤は、甲殻類に投与する製剤であって、炭素数2〜6の有機酸又はその塩を有効成分として含んでいる。炭素数2〜6の有機酸又はその塩としては、酸性を示す炭素数2〜6の有機化合物及びその塩として公知のものから適宜選択でき、例えば、酢酸、プロピオン酸、乳酸、フマル酸、酪酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、ケトグルタル酸、酒石酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸などのカルボン酸;アスコルビン酸;フィチン酸などの有機リン酸;及びこれらの塩(ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩など)等が挙げられる。以下、炭素数2〜6の有機酸又はその塩を、「有機酸類」と称する場合がある。これらの有機酸類は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。本発明における有機酸類としては、安全性を考慮すると食品添加物として使用できるものが好ましく、具体的には、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等、特にプロピオン酸等が好ましく用いられる。これらの有機酸は公知であり、公知手法で製造でき、また購入できる。
【0012】
生体防御能力増強剤の剤形は、粉末状、顆粒状、シート状、ペースト状、液体状(溶液、懸濁液、混合液等)等の公知の剤形から投与方法に応じて適宜設定することができる。生体防御能力増強剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの経口投与製剤;注射用溶液又は懸濁液、吸入薬、軟膏剤、貼付剤、吸収剤などの非経口投与剤などが挙げられる。好ましくは、経口投与製剤又は注射用溶液(懸濁液を含む)などが用いられる。特に、錠剤や顆粒剤等は、飼料と混合した態様で経口投与しやすい点で好適に利用される。
【0013】
これらの製剤は、有機酸類からなる有効成分単独、又は該有効成分と補助成分との組み合わせで構成された液体製剤、固体製剤の何れであってもよい。補助成分としては、前記有機酸の生体防御能力増強効果を損なわない範囲および甲殻類への悪影響が現れない範囲で適宜選択して利用することができる。このような補助成分には、例えば、公知の担体;安定剤、結合剤、充填剤、崩壊剤、滑沢剤などの賦形剤;水、低級アルコール、ポリオール等の水溶性溶媒、高級脂肪酸エステル類、親油性アルコールなどの疎水性溶媒等の溶媒などを利用できる。
【0014】
固体製剤は、例えば、前記有効成分と、賦形剤とからなる組成物を、乾燥、造粒、圧縮、成型等の公知の方法で成形し、必要に応じてコーティング等の処理を施すことにより製剤化できる。液体製剤は、例えば、前記有効成分と、メチルセルロース等の懸濁化剤、レシチン等の乳化剤、保存剤等の添加物とを混合し、必要に応じて淡水、海水等により希釈することにより製造できる。
【0015】
生体防御能力増強剤中の有機酸類の含有量は、投与対象(甲殻類)、有機酸、製剤の種類や形状、投与条件(回数、方法等)等に応じて適宜選択されるが、通常0.003〜100重量%、好ましくは0.01〜0.1重量%程度である。
【0016】
本発明における甲殻類には、例えば、クルマエビ、ウシエビ、コウライエビ、バナナエビ等のクルマエビ類を含むエビ類;上海ガニ、ガザミ、モクズガニ等のカニ類;ロブスター、オマールエビ、アメリカザリガニ、ニホンザリガニ等のザリガニ類等の広範な種類の甲殻類が含まれる。なかでも、好ましくは食用される甲殻類、より好ましくはエビ類であり、特にクルマエビ類が好ましく用いられる。
【0017】
上記構成の生体防御能力増強剤の投与条件は、製剤の組成(有効成分の含有量、添加剤の種類等)、剤形(錠剤、顆粒剤、液体製剤等)、甲殻類の種類や大きさに応じて適宜設定することができる。生体防御能力増強剤は、非経口投与も可能であるが、経口投与が好ましく、通常の給餌と同様の方法で投与することが好ましい。投与回数は、1回又は複数回の何れでもよく、頻度は、使用態様に応じて数日に亘り連続的に又は所定の日数をおいて逐次的に投与することもできる。投与期間は、甲殻類の飼育期間中継続して投与することが好ましいが、例えば5〜7日間程度に短期的に投与してもよい。このように製剤を投与することにより、甲殻類の生体防御能を著しく増強することができる。
【0018】
本発明における「甲殻類の生体防御能力」とは、甲殻類の免疫機能の中でも、特に血球の貪食活性に反映される能力を意味している。血球の貪食活性は、Aquaculture vol. 164, No. 1-4, 277-288に記載の方法に従って評価することができる。
【0019】
本発明の生体防御能力増強剤によれば、同製剤を10日間投与した後の甲殻類の血球の貪食率及び貪食指数が、同製剤を投与しない場合と比較して例えば30%以上、好ましくは60%以上向上しうる。このため、水槽を用いた長期間の養殖時、生存状態下の搬送の際などに、甲殻類の感染症予防に優れた効果を発揮することができる。
【0020】
本発明の生体防御能力増強剤は、保管安定性、取扱性に優れているため、必要な時に必要な量利用することができる点で有利である。
【0021】
本発明の感染症予防方法は、甲殻類に上記本発明の生体防御能力増強剤を投与することを特徴としている。甲殻類の感染症としては、例えば、WSSV(White spot syndrome virus;クルマエビ急性ウィルス血症)等の急性ウィルス血症;Rod shapaed virus-Penaeus japonicus(RV-PJ)感染症;黄頭症;Baculovirus penaei(sp)、Monodon Baculovirus、Hepatopancreatic Parvo-like Virus等のウイルス感染症;ビブリオ病等の細菌感染症;Bpistylis sp.、Zoothamnium sp.等の寄生症;Lagenidium sp.,Siropidium sp.等の真菌症等が挙げられる。なかでも、急性ウイルス血症を予防する方法として好ましく用いられる。前記生体防御能力増強剤としては、上記に例示のものを用いることができる。なかでも、プロピオン酸又はその塩を有効成分として含む生体防御能力増強剤が好ましく用いられる。
【0022】
上記方法において、生体防御能力増強剤は甲殻類の生存環境下に投与される。投与条件は上記と同様である。甲殻類の生存環境としては、生体防御能力増強剤を投与できる環境であれば特に限定されない。具体的には、例えば養殖時など人工海水(又は天然海水)を入れた水槽を生存環境とする甲殻類には、人工海水に生体防御能力増強剤を散布することにより投与する。また、生存状態で流通過程におかれる甲殻類は、前記水槽の代わりに搬送用容器等を用いる点以外は上記と同様である。なお、複数の甲殻類に投与する場合には、生体防御能力増強剤を均一に分散させることが好ましく、例えば、顆粒剤等の拡散しやすい製剤を用いたり、撹拌等により対流させた海水に投与することができる。
【0023】
上記方法によれば、生体防御能力増強剤に含まれる炭素数2〜6の有機酸の作用により甲殻類の血球の貪食活性を向上でき、生体防御能力を増強できるため、甲殻類の感染症予防に優れた効果を得ることができる。このため、甲殻類の養殖時や、生存状態で流通させる過程など、複数の甲殻類を同じ水槽や容器で生育させた状態で、一部の甲殻類が感染症にかかった場合にも他の甲殻類に感染しにくく、感染症による大量死などの被害を回避でき、多大な経済的損害を免れることができる。また、抗生物質や抗菌剤などの感染症治療薬の使用量を著しく低減することができ、安全性及び経済性の両面で有利である。
【0024】
感染症予防の評価は、例えば、予め上記本発明の生体防御能力増強剤を投与しつつ飼育した甲殻類を、感染症にかかって死亡した甲殻類より抽出した抽出物を分散させた人工海水中に2時間程度置いた後(攻撃後)、取り出し、別の人工海水中で再び生体防御能力増強剤又は有機酸含有飼料を投与しつつ飼育させたときの甲殻類の生存率を指標に行うことができる。本発明の方法によれば、例えば、攻撃後6日間飼育したときの生存率が、例えば82%以上、好ましくは85%以上、また、攻撃後10日間飼育したときの生存率が、例えば50%より高く、好ましくは60%以上である。このように、ウィルスや細菌に曝された後も長期に亘り高い生存率を保つことができるため、多くの甲殻類を生きたまま遠隔地へ搬送することができる。
【0025】
本発明の他の感染症予防方法は、甲殻類に、炭素数2〜6の有機酸又はその塩を有効量含む甲殻類の飼料(以下、「有機酸含有飼料」と称する場合がある)を摂餌させることを特徴としている。前記甲殻類の飼料は、飼料成分と炭素数2〜6の有機酸又はその塩からなる有効成分とで構成されている。前記飼料成分は、甲殻類用飼料を構成する成分として公知の飼料成分を用いることができる。炭素数2〜6の有機酸又はその塩からなるが有効量配合されている。前記炭素数2〜6の有機酸又はその塩(有機酸類)は上記と同様のものを利用できる。なかでも、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等が好ましく、特にプロピオン酸等が好ましく用いられる。
【0026】
有機酸含有飼料は、飼料成分に、炭素数2〜6の有機酸又はその塩を添加し、慣用の甲殻類用飼料の製造方法と同様の方法で製造することができる。好ましくは、前記飼料成分としては甲殻類用飼料として慣用の飼料が用いられる。前記慣用の飼料には、例えば、粉末飼料、固形飼料、ドライペレット飼料、モイストペレット飼料、エクストルーダ調製飼料などが含まれ、これらを単独で、又は複数を組み合わせて用いることができる。有機酸含有飼料は、さらに他の成分として、慣用の飼料に添加される公知の添加物等を含んでいてもよく、例えば、補助栄養素(ビタミン、ミネラル等)、水、アルコールなどの溶媒、油脂、摂餌性向上剤などを含んでいてもよい。
【0027】
有機酸含有飼料の製造は、甲殻類用飼料を製造する方法として公知の方法を採用できる。本発明における有機酸含有飼料の製造方法としては、例えば、慣用の飼料成分等に有機酸類を添加した飼料組成物に成型加工を施す方法、慣用の飼料に有機酸類を吸着、含浸、コーティング等の方法で添加する方法等を用いることができる。特に後者の方法によれば、飼料の種類に限定されず市販の広範な飼料から選択でき、簡便な方法で有効成分を添加可能であり、しかも添加量を容易に調節することができる点で有利である。前記上記飼料の製造工程には、必要に応じて、構成成分の混合前又は後に、粉砕、分級等の粉砕工程を、混合後に乾燥、製粉、造粒、成形等の二次加工工程等の工程を設けてもよい。
【0028】
有機酸類の有効量は、有機酸類の種類及び飼料成分の組成に応じて適宜選択されるが、通常0.001〜0.1重量%程度、好ましくは0.001〜0.5%重量%、さらに好ましくは、0.003〜0.03重量%である。前記有効量が0.001重量%未満では、生体防御能力の向上効果が不十分となる傾向にあり、0.1重量%を超える場合には、甲殻類による摂餌行動が低下しやすく、しかも不経済である点で好ましくない。例えば、プロピオン酸の場合、0.01重量%前後で高い効果が得られる。
【0029】
甲殻類に摂餌させる有機酸含有飼料の使用量としては、通常、慣用の飼料を甲殻類に摂餌させる際と同程度であり、例えば甲殻類の体重の0.1〜10重量%程度、好ましくは0.2〜5重量%程度である。
【0030】
上記方法において、有機酸含有飼料は甲殻類の生存環境下に給餌される。有機酸含有飼料の給餌条件は、慣用の飼料を甲殻類に給餌する方法として公知の条件を用いることができ、例えば、上述した生体防御能力増強剤の投与条件を用いることができる。なお、有機酸含有飼料は、慣用の飼料に代えて甲殻類の飼育期間中継続して給餌することが好ましいが、例えば5〜7日間程度に短期的に用いてもよい。甲殻類の生存環境は、有機酸含有飼料を投与できる環境であれば特に限定されない。甲殻類の生存環境が、例えば養殖など人工海水(又は天然海水)を入れた水槽である場合は、人工海水に有機酸含有飼料を散布することにより投与する。また、生存状態で流通過程におかれる場合は、前記水槽の代わりに搬送用容器等を用いる点以外は上記と同様である。なお、複数の甲殻類に投与する場合には、有機酸含有飼料を均一に分散させることが好ましく、例えば、顆粒剤等の拡散しやすい形状の飼料を用いたり、撹拌等により対流させた海水に投与することができる。
【0031】
感染症予防の評価は、上述した方法において生体防御能力増強剤を投与する代わりに有機酸含有飼料を給餌する点以外は同様の方法で行うことができる。
【0032】
上記方法によれば、有機酸類の作用による血球の貪食活性向上効果により生体防御能力が向上し、複数の甲殻類を同じ水槽や容器で生育させた状態で、一部の甲殻類が感染症にかかった場合にも他の甲殻類に感染しにくく、感染症による大量死などの被害を回避でき、多大な経済的損害を免れることができる。また、有機酸含有飼料の使用により、甲殻類飼育時の給餌作業に加えて別途薬剤を投与する必要がないため、甲殻類に有機酸含有飼料を摂餌する工程と同時に有機酸類を投与できるため、別途薬剤を投与することなく簡便且つ効率よく特に多量の甲殻類の感染症予防に対して簡便且つ効率よく感染症予防を行うことができる。また、一般に、甲殻類に対する有効成分(有機酸類)の投与量は、給餌量と同様、甲殻類の体重に対する重量(給餌率)に対応して設定される。このため、飼料の給餌条件(給餌量や頻度等)を変更することにより、有機酸類の投与条件を調整でき、異なる種類や大きさの甲殻類に投与する場合にも容易に柔軟な対応を行うことができる点で有利である。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。これらの結果を表1に示す。なお、WSSV(White spot syndrome virus;クルマエビ急性ウィルス血症)の検出は、LAMP法(Kono, T. et al. J. Virological Methods vol. 115, 59-65, 2004)を用いて行った。感染しているか否かの判断は、体色変化の肉眼観察により行い、甲殻の白斑、赤変や退色が認められた場合にWSSVに感染していると判断した。
【0034】
実施例1
クルマエビに配合する飼料として、クルマエビ用ペレット飼料(商品名「ゴールドプローン」、ヒガシマル社製)の表面にプロピオン酸を噴霧により吸着させて、0.01重量%プロピオン酸含有飼料を製造した。
【0035】
実施例2
60x30x35cmの水槽に洗浄したプラスチック砂を約3cmの厚さに敷き、エアレーション、ヒーターおよび上面ろ過装置を設置し、約40リットルの人工海水(商品名「レッドシー ソルト」、Red Sea社製)を入れ、水層ごとに10〜14尾のクルマエビ(平均体重12〜15g)を飼育した。飼育期間中、水温を22〜23℃に保ち、各水槽ごとに実施例1の飼料を、毎日夕方に1回、給餌率をエビの体重の1%量の条件下、10日間連続で水槽に投与することにより飼育した。飼育期間中は、毎日、残餌や糞の掃除を行うとともに、全水量の三分の一を交換した。
【0036】
比較例1
実施例2において、実施例1のプロピオン酸含有飼料の代わりに、クルマエビ用飼料(商品名「ゴールドプローン」、ヒガシマル社製)を用いた点以外は実施例2と同様の方法でクルマエビを飼育した。
【0037】
比較例2〜4
実施例2において、実施例1のプロピオン酸含有飼料の代わりに、下記方法で製造したギ酸含有飼料を用いた点以外は実施例2と同様の方法でクルマエビを飼育した。
(ギ酸含有飼料の製造)
実施例1において、プロピオン酸を0.01重量%添加する代わりに、ギ酸を0.01重量%(比較例2)、0.1重量%(比較例3)、1重量%(比較例4)添加した点以外は実施例1と同様の方法によりギ酸含有飼料を製造し、クルマエビの飼育に用いた。
【0038】
(評価方法)
クルマエビの血球の貪食活性測定
実施例2及び比較例1において、クルマエビの飼育を開始し、飼料を投与する前(0日)、給餌を開始して3日、5日、10日経過後のクルマエビを用いて、Aquaculture vol. 164, No. 1-4, 277-288に記載の方法に従って血球の貪食活性を測定した。
具体的には、給餌前(0日)、給餌開始後3日、5日、10日経過した各クルマエビから血球を無菌的に採取し、人工海水(3.5%塩化ナトリウム水溶液)で洗浄した後、任意に選択した細胞500個とラテックスビーズ5000個を1mlのクルマエビ用生理食塩水に均一に分散させ、φ10cmシャーレに入れて25℃の条件下で1日間静置した後、ビーズを貪食した細胞数をカウントし、さらに貪食されずに残ったビーズの数から貪食されたビーズの数を算出し、下記式を用いて血球の貪食指数及び貪食率を求めた。
貪食率[%]=(ビーズを貪食した細胞数×100)/500
貪食指数[−]=(ビーズを貪食した細胞数/500)×
(貪食されたビーズ数/500)
実施例2及び比較例1について得られた貪食指数を表1に、貪食率を表2に示した。
【0039】
感染症予防効果
実施例2(プロピオン酸含有飼料を給餌した群)、比較例1(市販の飼料を給餌した群)、比較例2〜4(ギ酸含有飼料を給餌した群)と同様の方法で飼育したクルマエビのうち、各飼料を8日間連続投与したクルマエビ各10〜14尾をサンプルに用いて、下記の方法により評価した。
WSSVに感染して死亡した4尾のクルマエビ頭部から頭胸部甲皮および脚を除去し、30ミリリットルの人工海水を用いてホモジナイズした後、水槽に満たした2リットルの人工海水に懸濁した。このような水槽にサンプルのクルマエビを入れ、十分にエアレーションを施しつつ、2時間浸漬させてウィルスによる攻撃を行った。攻撃後、各水槽から取り出したサンプルのクルマエビを、それぞれ攻撃前の飼育方法と同様の条件で給餌、飼育し、攻撃後10日間、死亡したクルマエビの数から生存率を算出した。実施例2と比較例2〜4との2群に分け、それぞれ比較例1の条件で飼育した群を「対照区」に用いて評価を行った。これらの結果について、実施例2の生存率を表3に、比較例2〜4の生存率を表4にそれぞれ示す。表中、攻撃後からの経過した日数を「経過日」、比較例1の条件で飼育した群を「対照区」、実施例2の条件で飼育した群を「PA含有区」、比較例2〜4の条件で飼育した群を「FA含有区」の欄に記載した。0.01重量%プロピオン酸含有飼料を給餌した場合(PA含有区)には、市販の飼料を給餌した場合(対照区)と比較して生存率が著しく向上していた。また、ギ酸含有飼料は3段階の何れの含有量においても対照区と比べて生存率の改善効果は得られなかった。なお、LAMP法を用いてWSSVの感染を調べたところ、死亡した全てのクルマエビの心臓にWSSVの感染が検出された。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2〜6の有機酸又はその塩を有効成分として含む甲殻類の生体防御能力増強剤。
【請求項2】
有機酸がプロピオン酸又はその塩である請求項1記載の甲殻類の生体防御能力増強剤。
【請求項3】
炭素数2〜6の有機酸又はその塩を有効量含む甲殻類の飼料。
【請求項4】
プロピオン酸又はその塩を0.003〜0.03重量%含む請求項3記載の甲殻類の飼料。
【請求項5】
甲殻類に請求項1又は2記載の生体防御能力増強剤を投与することを特徴とする甲殻類の感染症予防方法。
【請求項6】
甲殻類に請求項3又は4記載の飼料を摂餌させることを特徴とする甲殻類の感染症予防方法。

【公開番号】特開2007−119358(P2007−119358A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309847(P2005−309847)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】