説明

画像の評価方法および評価装置

【課題】白色インクによって形成された画像に、ひび割れが生じているかどうかを、簡便かつ正確に評価することのできる評価方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかる評価方法は、光透過性を有する記録媒体上に形成され、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像を評価する方法であって、前記記録媒体に前記光を透過させて第1透過率を測定する第1測定工程と、前記記録媒体上の前記画像が形成された領域の範囲内の領域で前記光を透過させて第2透過率を測定する第2測定工程と、前記第1透過率に対する前記第2透過率の割合である透過率分率に基づいて前記画像のひび割れの有無を判定する判定工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像の評価方法および評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色インクを用いて、白色以外の記録媒体(光透過性の記録媒体を含む)に画像を形成して白色の層を形成することが検討されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ところで、ラベル印刷などと称され、各種の商品の容器や包装に対して印刷を施すことが盛んに行われている。ラベル印刷は、光透過性のフィルムに施されることも多く、このような場合には、印刷面にあらかじめ下地層などと称して白色のインクを塗装することが多い。下地層を形成することで、フィルムの裏側の遮蔽性が高まり、下地層の上に形成される画像の質を高めることができる。
【0004】
このような印刷は、インクジェット法によって行うことができるようになってきた。インクジェット法は、従来の印刷方法に比較して小規模に装置を構成でき、また、版を作成する必要がないため、多種類で少量の印刷を行う場合に特に効率がよいため期待されている。
【0005】
各種の商品の容器や包装に対して情報を記録する場合には、インクジェット法においても下地層を形成することが一般的であり、これを形成するために白色のインクが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−020362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光透過性の媒体に対して情報を記録する場合、白色インクを用いて形成される下地層には、少なくとも背景の遮蔽性や白色の良好さが求められる。また、白色インクを用いて下地層を形成する場合には、白色インクの成分や、媒体(フィルム等)の材質、および白色インクの乾燥条件などによって、ひび割れが生じる場合があった。このようなひび割れが生じると、例えば、背景の遮蔽性が損なわれる場合がある。したがって、下地層とした場合にひび割れを生じにくい白色インク、フィルムと白色インクの組み合わせ、および乾燥条件などの検討が必要となっている。
【0008】
下地層は形成される際の、温度、湿度などの環境が変化したり、白色インクやフィルムの組成にばらつきが有る場合には、ひび割れを生じるおそれがあるため、オンタイムで品質の確認が行われることが望ましい。
【0009】
しかしながら、下地層は白色であるので、品質の確認においては、例えば、輝度を評価する方法を適用した場合、輝度のみに基づいてひび割れを判定することは困難であった。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、その幾つかの態様にかかる目的の一つは、白色インクによって形成された画像に、ひび割れが生じているかどうかを、簡便かつ正確に評価することのできる評価方法、および評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0012】
[適用例1]
本発明にかかる評価方法の一態様は、光透過性を有する記録媒体上に形成され、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像を評価する方法であって、前記記録媒体に前記光を透過させて第1透過率を測定する第1測定工程と、前記記録媒体上の前記画像が形成された領域の範囲内の領域で前記光を透過させて第2透過率を測定する第2測定工程と、前記第1透過率に対する前記第2透過率の割合である透過率分率に基づいて前記画像のひび割れの有無を判定する判定工程と、を有する。
【0013】
本適用例の評価方法によれば、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像のひび割れを、簡便かつ正確に評価することができる。すなわち、本適用例の評価方法は、一般的な光透過率測定によって行うことができ、透過率分率に基づいて画像のひび割れの有無を判定するので、画像に対する測定の感度が向上し、正確にひび割れの有無を評価することができる。
【0014】
[適用例2]
適用例1において、前記第1測定工程および前記第2測定工程では、前記光の350nm以上450nm以下の波長領域において、前記第1透過率および前記第2透過率を測定してもよい。
【0015】
本適用例の評価方法によれば、さらに画像のひび割れに対して感度の高い評価を行うことができる。
【0016】
[適用例3]
適用例1または適用例2において、前記第1測定工程および前記第2測定工程では、複数の波長において前記第1透過率および前記第2透過率を測定し、前記判定工程では、前記複数の波長におけるそれぞれの前記透過率分率の少なくとも1つが0.01を超えた場合に、ひび割れが有ると判定してもよい。
【0017】
[適用例4]
適用例1または適用例2において、前記第1測定工程および前記第2測定工程では、前記光の350nm以上450nm以下の波長領域における強度の積分値によって前記第1透過率および前記第2透過率を測定してもよい。
【0018】
本適用例の評価方法によれば、さらに画像のひび割れに対して感度の高い評価を行うことができる。
【0019】
[適用例5]
適用例1または適用例2において、前記第1測定工程および前記第2測定工程では、前記光の380nmの波長における強度によって前記第1透過率および前記第2透過率を測定してもよい。
【0020】
本適用例の評価方法によれば、さらに画像のひび割れに対して感度の高い評価を行うことができる。
【0021】
[適用例6]
適用例4または適用例5において、前記判定工程では、前記透過率分率が0.01を超えた場合に、ひび割れが有ると判定してもよい。
【0022】
[適用例7]
本発明に係る評価装置の一態様は、適用例1ないし適用例6のいずれか1例に記載の評価方法を利用して、ひび割れの有無を判定する。
【0023】
本適用例の評価装置によれば、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像のひび割れを、簡便かつ正確に評価することができる。
【0024】
[適用例8]
本発明にかかる評価装置の一態様は、光透過性を有する記録媒体上に、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像が形成された記録物における当該画像のひび割れの有無を評価する装置であって、光源と、前記光源から出射された光を検出する検出手段と、前記光源から出射された光が前記記録物を透過するように前記光源と前記検出手段の間に前記記録物を保持する保持手段と、前記光が前記画像を透過しない第1配置と、前記光が前記画像を透過する第2配置とに、前記保持手段を移動させる移動手段と、前記第1配置および前記第2配置において、それぞれ前記検出手段からの信号に基づいて第1透過率および第2透過率を求め、前記第1透過率に対する前記第2透過率の割合である透過率分率に基づいて前記画像のひび割れの有無を判定する判定手段と、を備え、前記判定手段は、前記透過率分率が0.01を超えた場合に、前記画像にひび割れが有ると判定する。
【0025】
本適用例の評価装置によれば、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像のひび割れを、簡便かつ正確に評価することができる。
【0026】
本適用例の評価装置によれば、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像のひび割れを、簡便かつ正確に評価することができる。すなわち、本適用例の評価方法は、一般的な光透過率測定によって行うことができ、透過率分率に基づいて画像のひび割れの有無を判定するので、画像に対する測定の感度が向上し、正確にひび割れの有無を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態に係る評価方法の一例を示すフローチャート。
【図2】実施形態に係る評価方法の判定工程の一例を示すフローチャート。
【図3】実施形態に係る評価装置の一例を模式的に示す図。
【図4】各実験例の第2透過率のスペクトル。
【図5】各実験例の透過率分率をプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は、以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。なお以下の実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0029】
1.評価方法
本実施形態の評価方法は、画像を評価する方法であって、第1測定工程と、第2測定工程と、判定工程と、を有する。以下各工程の説明の前に、本実施形態の評価方法によって評価される対象について説明する。図1は、それぞれ本実施形態の評価方法の一例を示すフローチャートである。図2は、それぞれ本実施形態の評価方法の判定工程の一例を示すフローチャートである。
【0030】
1.1.評価方法の適用対象
本実施形態の評価方法によって評価される対象は、光透過性を有する記録媒体上に形成され、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像である。
【0031】
1.1.1.記録媒体
評価の対象となる画像が形成された記録媒体は、光透過性を有する。光透過性とは、例えば、紫外線、可視光線等の電磁波を透過する性質をいう。したがって、光透過性の記録媒体としては、記録媒体がフィルム状やシート状である場合は、厚み方向に光を透過するものが挙げられる。また、記録媒体を透過する光は、散乱されない状態で透過しても散乱された状態で透過してもよい。
【0032】
記録媒体としては、その表面にインク組成物を用いて画像を形成できる形状を有する。記録媒体の形状は、例えば、フィルム状、シート状であってもよい。記録媒体としては、例えば、紙、厚紙、プラスチックフィルム、布、プラスチックシート、ガラス板などが挙げられる。また、記録媒体は、グロス系、マット系、ダル系のいずれであってもよい。記録媒体の具体例としては、例えば、コート紙、アート紙、キャストコート紙等の表面加工紙、および、インク受容層などが形成された塩化ビニルシートやPETフィルム等のプラスチックフィルムなどを挙げることができる。
【0033】
1.1.2.画像
本実施形態の評価方法で評価される画像は、上述の記録媒体の上に形成されている。記録媒体上に形成された画像は、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である。
【0034】
CIELAB色空間とは、国際照明委員会(Commission Internationale de l’Eclairage:略称CIE)が1976年に推奨した近似的な均等色空間のことであり、同委員会では、これをCIE1976(L*a*b*)と呼ぶものである。また、L*とは、CIELAB色空間における明度のことを指し、日本工業規格(JIS)Z8105:2000の番号2064に定義されている。
【0035】
記録媒体上に形成された画像のCIELAB色空間におけるL*値は、例えば、日本工業規格(JIS)Z8722:2000に記載された測色方法および計算式に基づいた市販の装置によって測定することができる。このような装置としては、X−rite製分光測光器:i1Pro測定器や、i1iSis等を挙げることができる。
【0036】
本実施形態の評価方法では、評価対象となる画像のL*値は70以上とする。評価対象となる画像のL*値は70未満であっても、本実施形態の評価方法で評価することは可能であるが、画像のひび割れに対する感度はL*値が小さくなるにつれて徐々に低下する。
【0037】
本実施形態では、評価対象は、白色インクで形成された下地層を想定しているが、これに限定されず、評価対象とするのは、単に白色の画像であってもよい。
【0038】
評価対象の画像は、記録媒体上に形成されるが、その形成方法に関しては何ら限定されない。記録媒体上に画像を形成する方法としては、一般的な印刷法、塗布法、インクジェット法などによることができる。評価対象の画像が、記録媒体上にインクジェット法で形成される場合には、例えば、白色顔料とバインダーとして機能する樹脂等が配合された白色のインク組成物を記録媒体に付着させることによって形成される。この場合においては、画像のL*値は、例えば、インク組成物の吐出量や、インク組成物における白色顔料の種類、含有量などにより調節することができる。
【0039】
1.2.第1測定工程
本実施形態の評価方法は、第1測定工程S1を有する。第1測定工程S1は、記録媒体に光を透過させて第1透過率を測定する工程である。本工程で使用される光は、350nm以上500nm以下の波長領域に強度を有する電磁波であれば、何ら限定されない。このような光としては、紫外線、可視光線などが挙げられ、白色光のような波長が連続している光線でも、レーザー光などの波長分布の狭い光線でもよく、さらに、偏光性や干渉性の有無も制限されない。
【0040】
上述したように記録媒体は、光透過性を有するため、第1透過率は、例えば、光を発生する光源と、これを受ける検出器との間に、記録媒体を配置して測定されうる。第1透過率は、記録媒体に対する入射光Iの強度に対する、記録媒体を透過した透過光Iの強度の比(I/I)である(図3参照)。また、検出器または光源が分光機能を有している場合には、所定の波長の光に対する第1透過率を測定することができる。さらに、検出器または光源が分光機能を有している場合には、所定の波長範囲の光の第1透過率を測定することができる。所定の波長範囲の光の第1透過率は、当該範囲における入射光の強度の積分値と、透過光の強度の積分値として表される。
【0041】
さらに、第1測定工程S1では、光の350nm以上450nm以下の波長領域における複数の波長において、それぞれ、該波長に対応する第1透過率を測定してもよい。
【0042】
第1測定工程S1は、例えば、市販の分光装置や測色装置を用いて行うことができる。具体的な市販の装置としては、日本分光株式会社製、偏角測色計(V550 UV/VIS Spectrophotometer)、日本電色工業株式会社製、変角光度計(GC5000L)などを挙げることができる。
【0043】
第1測定工程S1では、記録媒体の光の透過率を測定するが、当該記録媒体は、評価対象である画像が形成される記録媒体である。しかし、第1測定工程S1で使用する試料としては、画像が記録された記録媒体と同質であれば、画像が記録されていない記録媒体であってもよい。また、第1測定工程S1で使用する試料としては、測定対象である画像が形成された記録媒体で、画像が形成されていない部分であってもよい。また、本工程で記録媒体に入射される入射光のスポットサイズは、第2測定工程S2で第2透過率を測定する際の入射光のスポットサイズと同じであることが好ましい。
【0044】
図1のフローチャートでは、第1測定工程S1が第2測定工程S2に先んじて行われる例を示しているが、第1測定工程S1は、後述の判定工程S3よりも先に行われれば、第1測定工程S1と第2測定工程S2の順序はどちらが先でもよい。
【0045】
1.3.第2測定工程
本実施形態の評価方法は、第2測定工程S2を有する。第2測定工程S2は、記録媒体上の画像が形成された領域の範囲内の領域で光を透過させて第2透過率を測定する工程である。
【0046】
本工程で使用される光は、350nm以上500nm以下の波長領域に強度を有する電磁波であれば、何ら限定されないが、上述の第1測定工程S1で用いられる光と同じであることが望ましい。
【0047】
第2測定工程S2では、光は、記録媒体と、記録媒体上に形成された画像とを透過して第2透過率が測定される。光の透過される順序は、記録媒体、画像の順でも、画像、記録媒体の順でも支障がない。記録媒体は、光透過性を有するため、第2透過率は、例えば、光を発生する光源と、これを受ける検出器との間に、画像が形成された記録媒体を配置して測定されうる。第1透過率と同様に、第2透過率は、画像が形成された記録媒体に対する入射光Iの強度と、画像が形成された記録媒体を透過した透過光Iの強度の比(I/I)である。また、検出器または光源が分光機能を有している場合には、所定の波長の光に対する第2透過率を測定することができる。さらに、検出器または光源が分光機能を有している場合には、所定の波長範囲の光の第2透過率を測定することができる。所定の波長範囲の光の第2透過率は、当該範囲における入射光の強度の積分値と、透過光の強度の積分値として表される。
【0048】
さらに、第2測定工程S2では、光の350nm以上450nm以下の波長領域における複数の波長において、それぞれ、該波長に対応する第2透過率を測定してもよい。
【0049】
第2測定工程S2は、例えば、市販の分光装置や測色装置を用いて行うことができる。具体的な市販の装置としては、第1測定工程S1の項で述べたと同様である。第2測定工程S2で用いる装置は、第1測定工程S1で用いるものと同じであることが好ましい。
【0050】
第2測定工程S2では、記録媒体上に形成された画像の領域の範囲内の領域に光を入射させて第2透過率を測定する。したがって、記録媒体上に形成された画像の領域において、画像の領域の面積よりも小さいスポットサイズの入射光の透過を測定する。したがって、第2測定工程S2で使用する試料としては、測定対象である画像が形成された記録媒体であって、測定装置のスポットサイズよりも大きい面積の画像が形成されたものを用いる。
【0051】
1.4.測定波長
第1測定工程S1および第2測定工程S2で測定される第1透過率および第2透過率は、光の波長または波長範囲が同じであることが好ましい。また、第1透過率および第2透過率が、350nm以上450nm以下の波長で測定される場合には、評価対象である画像のひび割れの有無について、評価の感度を高めることができる。さらに、画像が酸化チタンを含む材質である場合には、第1透過率および第2透過率が、380nmの波長、あるいは380nm近傍の波長で測定すると、ひび割れの有無についての評価の感度を高めることができるとともに、画像の厚み等の均一性も評価することができる。この場合の画像の厚み等の均一性の評価は、酸化チタンの紫外線の吸収能を利用して行われ、酸化チタンの平均粒子径が1μm以下である場合に特に正確な評価ができる。
【0052】
1.5.判定工程
本実施形態の評価方法は、判定工程S3を有する。判定工程S3は、第1透過率に対する第2透過率の割合である透過率分率に基づいて画像のひび割れの有無を判定する工程である。
【0053】
判定工程S3では、図2に示すように、第2測定工程S2で測定した第2透過率を、第1測定工程S1で測定した第1透過率で除した透過率分率を求める(ステップS31)。透過率分率は、記録媒体上に形成された画像の透過率を抽出したものに相当し、透過率分率の値は、例えば、第2透過率の値に比較して、評価対象の画像のひび割れに対して、より敏感に変化する値である。透過率分率の導出に用いられる第1透過率および第2透過率は、これらを測定する際の波長や他の条件が同じであることが好ましい。なお、第1透過率および第2透過率は、いずれも百分率(%)の単位で表され、透過率分率は無次元数である。
【0054】
発明者の検討によれば、透過率分率は、画像のひび割れによく対応する値であることがわかっている。そのため、透過率分率を用いれば、画像のひび割れの有無または多寡をきわめて簡便に知ることができる。
【0055】
次に、判定工程S3では、図2に示すように、透過率分率の値によって、評価対象の画像にひび割れが有るかどうかを判定する(ステップS32)。判定工程S3では、透過率分率を指標としているため、白色の画像であっても、ひび割れを判定することができる。
【0056】
判定工程S3では、光の全波長における透過率に基づく透過率分率によって判定が行われてもよいし、所定の波長や所定の波長領域における透過率に基づく透過率分率によって判定が行われてもよい。
【0057】
判定工程S3では、透過率分率の閾値を設定してもよい。例えば、判定工程3において、透過率分率が0.01以上であれば、画像にひび割れが生じていると判定してもよい。ひび割れが有ると判定される透過率分率の値(閾値)は、画像の種類等によって適宜設計することができる。
【0058】
また、判定工程S3では、複数の波長において、上記各測定工程で述べたように、それぞれ、透過率分率が求められた場合には、その少なくとも1つが0.01を超えた場合に、ひび割れが有ると判定してもよい。このようにすれば、ひび割れの有無の判定の精度をより高めることができる。
【0059】
判定工程S3は、例えば、透過率を測定する装置に付属する制御機器等を用いて行うことができる。また、判定工程において判定された結果は、適宜、エラー信号などに基づいて、測定者などに発報させるなどして、画像の品質の管理のために利用することができる(図2のステップS33を参照)。なお判定工程S3は、作業者が行ってもよい。
【0060】
1.6.作用効果
本実施形態の評価方法によれば、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像のひび割れを、簡便かつ正確に評価することができる。すなわち、本実施形態の評価方法は、透過率分率に基づいて画像のひび割れの有無を判定するので、画像に対する測定の感度が向上し、正確にひび割れの有無を評価することができる。
【0061】
2.評価装置
以下に、上述の評価方法を実現するための評価装置の一態様について記述する。図3は、本実施形態の評価装置の一例を模式的に示す図である。
【0062】
2.1.構成
本実施形態の評価装置100は、光透過性を有する記録媒体上に、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像が形成された記録物Pにおける当該画像のひび割れの有無を評価する装置であって、光源10と、検出手段20と、保持手段30と、移動手段40と、判定手段50と、を備える。
【0063】
2.1.1.光源
光源10は、記録媒体または画像が形成された記録物Pに光を照射することができる。光源10によって発生される光は、上記第1測定工程の項で述べたと同様である。光源10の具体的な構成としては、例えばハロゲンランプ、キセノンランプ、発光ダイオード、ガスレーザー、半導体レーザーなどが挙げられる。光源10から発生された光は、少なくとも記録媒体を透過することができる。光源10は、光を収束または発散させるためのレンズやスリット等を有していてもよい。
【0064】
2.1.2.検出手段
検出手段20は、光源10から出射された光を検出できる位置に配置される。検出手段20は、光源10から直接または測定対象を介して到達する光の強度を検出することができる。検出手段20は、例えば、光を電気信号に変換する光電変換素子であってもよい。検出手段20の具体例としては、フォトダイオード、フォトマルチプライヤーなどが挙げられる。また、検出手段20は、分光機能を有するものであってもよい。検出手段20が分光機能を有すれば、所定の波長における透過率や、所定の波長領域における強度の積分値に基づく透過率を測定することができる。検出手段20は、光を集光または選別するためのレンズやスリット等を有していてもよい。
【0065】
2.1.3.保持手段
保持手段30は、記録物Pを保持することができる。保持手段30は、記録物Pを着脱することができる。保持手段30に保持された記録物Pは、保持手段30によって、光源10から出射された光が記録物Pを透過する位置に配置されることができる。具体的には、図3に示すように、保持手段30は、光源10から検出器20までの光路に記録物Pを配置することができる。
【0066】
2.1.4.移動手段
移動手段40は、保持手段30を、光が記録物Pに形成された画像を透過しない第1配置と、光が記録物Pに形成された画像を透過する第2配置とに、保持手段30を移動させることができる。移動手段40は、例えば、一般的なXYステージを用いて構成することができ、モーター等によって駆動させてもよい。
【0067】
移動手段40によって記録物Pが第1配置に移動された場合には、上述の第1測定工程を行うことができる。また、移動手段40によって記録物Pが第2配置に移動された場合には、上述の第2測定工程を行うことができる。
【0068】
なお、評価装置100は、移動手段40を有する例であるが、記録媒体や記録物Pを例えば測定者が変更すれば、第1測定工程および第2測定工程を行うことができるため、移動手段40は、必須の構成ではない。評価装置100は、移動手段40を有するため、例えば、記録媒体や記録物Pを保持手段30に装着したままで、第1測定工程および第2測定工程を行うことが容易である。
【0069】
2.1.5.判定手段
判定手段50は、第1配置および第2配置において、それぞれ検出手段40からの信号に基づいて第1透過率および第2透過率を求め、第1透過率に対する第2透過率の割合である透過率分率に基づいて画像のひび割れの有無を判定する。
【0070】
判定手段50は、例えば、電子計算機等によって構成される。判定手段50は、透過率分率が0.01を超えた場合に、画像にひび割れが有ると判定することができる。また、判定手段50は、画像にひび割れが有ると判定した場合に、外部に信号を送出するように構成されてもよい。なお、判定手段50は、光源10、検出器30、および、移動手段40を制御する機能を有してもよい。
【0071】
2.2.作用効果
本実施形態の評価装置100によれば、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像のひび割れを、簡便かつ正確に評価することができる。また、評価装置100によれば、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像のひび割れを、透過率分率に基づいて簡便かつ正確に評価することができる。そして、判定手段は、透過率分率が0.01を超えた場合に、画像にひび割れが有ると判定することができる。
【0072】
3.実験例
以下、実験例によって本発明をより具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0073】
3.1.評価試料
各実験例の評価試料は、光透過性を有する記録媒体上に、白色インクをインクジェット記録装置を用いて、記録媒体の一部にベタ画像を形成したものとした。
【0074】
各実験例に用いた記録媒体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製、ルミラーS10 100μm)、およびCPF(セイコーエプソン株式会社製、クリアプルーフフィルムWXCPFT27R)を準備し、表1に記載した。
【0075】
実験例で用いた白色インクは、二酸化チタン粒子、樹脂、有機溶媒、糖、界面活性剤およびイオン交換水を混合撹拌し、孔径5μmの金属フィルターにてろ過、真空ポンプを用いて脱気処理をしたものを用いた。各実験例のインク組成物において使用した樹脂は、D1060(大日精化工業株式会社製)、JONCRYL61J(BASF製)、ノプコート PEM−17(サンノプコ株式会社製)およびモビニール742A(日本合成化学株式会社製)であり、配合量(質量%)、およびその種類をそれぞれ表1に記載した。
【0076】
各実験例で用いた二酸化チタン粒子は、市販品「NanoTek(R) Slurry」(シーアイ化成株式会社製)である。NanoTek(R) Slurryは、体積基準の平均粒子径300nmの二酸化チタン粒子を固形分濃度15%の割合で含むスラリーである。各実験例における二酸化チタン粒子の配合量は、白色インク組成物全量に対して8質量%となるように調製した。
【0077】
有機溶媒としては、1,2−ヘキサンジオールを5質量%、プロピレングリコールを4質量%、糖としてはHS500を7質量%(林原株式会社製)、界面活性剤としては、ポリシロキサン系界面活性剤である「BYK−348」(ビックケミー・ジャパン株式会社製)を5質量%で各実験例のインク組成物ともに配合した。
【0078】
各実験例の記録物を作成するために用いたインクジェット記録装置は、インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、商品名「PX−G930」)を用い、その専用カートリッジのインク室に、インク組成物を充填し、これを記録媒体に対して吐出して、解像度1440×1440dpiで、ベタパターン画像をduty100%で付着させた。各実験例において、このようにして得られた記録物を60℃、湿度20%RHの状態で2時間乾燥させて試料を作成した。
【0079】
【表1】

【0080】
ひび割れの有無については、各実験例の試料に形成された画像について、目視によってひび割れの有無を確認した。そして、ひび割れが認められなかったものを○とし、ひび割れが認められたものを×として表1に記載した。
【0081】
3.2.測定
各実験例の試料のL*値および第1透過率および第2透過率は、日本分光株式会社製、偏角測色計(V550 UV/VIS)を用いて測定した。各試料のL*値、第1透過率および第2透過率は、表1に併記した。なお、第1透過率は、各試料のベタ画像の形成されていない部分で測定し、第2透過率は、各試料の白色の画像が形成された部分で測定した。
【0082】
第1透過率および第2透過率の測定条件は、測定プログラムとして、日本分光株式会社製、Spectra Manager for windows95/NT(ver.1.53.01)を用い、測定モード:透過モード(%T)、偏光データ:N偏光、繰り返し回数:1、レスポンス:Fast、バンド幅:10.0nm、走査速度:2000nm/min、データ取り込み間隔:1.0nmとした。
【0083】
各試料につき、350nm、400nm、450nm、および500nmの波長における透過率分率を、装置に付属する電子計算機を用いて計算した結果を表1に記載した。この値につき、閾値を0.01として、ひび割れの有無を判定し、450nmおよび500nmにおける判定結果をそれぞれ表1に記載した。
【0084】
なお、実験例1ないし実験例8において測定された第2透過率のスペクトルを図4に示し、各実験例の試料の透過率分率をプロットしたグラフを図5に示す。
【0085】
3.3.評価結果
表1をみると、透過率分率の閾値を0.01に設定した場合の判定結果は、ひび割れの有無と極めてよく一致することが判明した。すなわち、目視によってひび割れが認められた実験例2、3、4の記録物につき、透過率分率の350nm、400nmおよび450nmにおける値は、0.01を有意に超えており、各実験例の画像のひび割れの評価に、透過率分率の値を指標とすることが極めて有効であることが判明した。各実験例の試料の透過率分率をプロットしたグラフをみると、特に光の波長領域の350nm以上450nm以下の領域において、画像のひび割れの有無に対する透過率分率の値の変化が顕著であることが判明した。
【0086】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0087】
10…光源、20…検出手段、30…保持手段、40…移動手段、50…判定手段、100…評価装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する記録媒体上に形成され、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像を評価する方法であって、
前記記録媒体に前記光を透過させて第1透過率を測定する第1測定工程と、
前記記録媒体上の前記画像が形成された領域の範囲内の領域で前記光を透過させて第2透過率を測定する第2測定工程と、
前記第1透過率に対する前記第2透過率の割合である透過率分率に基づいて前記画像のひび割れの有無を判定する判定工程と、
を有する、前記画像の評価方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1測定工程および前記第2測定工程では、前記光の350nm以上450nm以下の波長領域において、前記第1透過率および前記第2透過率を測定する、評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記第1測定工程および前記第2測定工程では、複数の波長において前記第1透過率および前記第2透過率を測定し、
前記判定工程では、前記複数の波長におけるそれぞれの前記透過率分率の少なくとも1つが0.01を超えた場合に、ひび割れが有ると判定する、評価方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、
前記第1測定工程および前記第2測定工程では、前記光の350nm以上450nm以下の波長領域における強度の積分値によって前記第1透過率および前記第2透過率を測定する、評価方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、
前記第1測定工程および前記第2測定工程では、前記光の380nmの波長における強度によって前記第1透過率および前記第2透過率を測定する、評価方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5において、
前記判定工程では、前記透過率分率が0.01を超えた場合に、ひび割れが有ると判定する、評価方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の評価方法を利用して、ひび割れの有無を判定する評価装置。
【請求項8】
光透過性を有する記録媒体上に、CIELAB色空間におけるL*値が70以上である画像が形成された記録物における当該画像のひび割れの有無を評価する装置であって、
光源と、
前記光源から出射された光を検出する検出手段と、
前記光源から出射された光が前記記録物を透過するように前記光源と前記検出手段の間に前記記録物を保持する保持手段と、
前記光が前記画像を透過しない第1配置と、前記光が前記画像を透過する第2配置とに、前記保持手段を移動させる移動手段と、
前記第1配置および前記第2配置において、それぞれ前記検出手段からの信号に基づいて第1透過率および第2透過率を求め、前記第1透過率に対する前記第2透過率の割合である透過率分率に基づいて前記画像のひび割れの有無を判定する判定手段と、
を備え、
前記判定手段は、前記透過率分率が0.01を超えた場合に、前記画像にひび割れが有ると判定する、前記画像の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−194116(P2012−194116A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59600(P2011−59600)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】