説明

画像処理装置、画像再構成システム、画像処理方法およびプログラム

【課題】画像再構成処理を効率的に実行し得、計算速度を大幅に向上させ得る画像処理装置を提供する。
【解決手段】画像処理装置3では、前方投影算出部33は、システムマトリクス要素と当該システムマトリクス要素に対応する濃度との積和演算を実行して投影線毎に前方投影値を算出する。濃度算出部35は、前方投影値と実測投影値を用いて新たな濃度を算出する。投影線の配列とシステムマトリクス要素の値とは、複数種の幾何学的対称性を共有し、前記投影線は、前記複数種の幾何学的対称性に基づいた複数のグループに分類される。前方投影算出部33は、積和演算をこれら複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割し、当該複数のスレッドを並列に実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物から放出された光を検出し、その検出結果に基づいて被測定物の内部の2次元画像または3次元画像を再構成するための画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人体などの被測定物を透過したX線、あるいは被測定物から放出されたγ線といった放射線を検出し、その検出結果に基づいて被測定物の内部構造の2次元画像または3次元画像を再構成するための画像処理技術の研究開発が進められている。このような画像処理技術は、X線CT装置(X線コンピュータ断層撮影装置)や陽電子放射断層撮像装置(PET:Positron Emission Tomography)装置で使用されている。
【0003】
画像再構成のアルゴリズムとしては、ML−EM(最尤推定−期待値最大化:Maximum Likelihood - Expectation Maximization)法やOS−EM(Ordered Subsets - Expectation Maximization)法などの統計的画像再構成法が広く知られており、OS−EM法は、ML−EM法の一種である。ML−EM法は、たとえば、非特許文献1や非特許文献2に開示されており、OS−EM法は、たとえば、非特許文献3に開示されている。
【0004】
統計的画像再構成法は、逐次近似的なアルゴリズムであり、多大な計算時間を要するという問題がある。計算時間を短縮化してスループットを向上させる高速演算アルゴリズムとしては種々のものが提案されている。たとえば、非特許文献4は、検出器系の幾何学的対称性を利用した高速演算アルゴリズムを提案している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L. A. Shepp and Y. Vardi, "Maximum likelihood reconstruction for emission tomography," IEEE Trans. Med. Imaging, 1982, Vol. MI-1, No. 2, pp. 113-122.
【非特許文献2】K. Lange and R. Carson, "EM reconstruction algorithms for emission and transmission tomography," J. Comput. Assist. Tomogra., 1984, Vol. 8, No. 2, pp. 306-316.
【非特許文献3】H. M. Hudson and R. S. Larkin, "Accelerated image reconstruction using ordered subsets of projection data," IEEE Trans. Med. Imaging, 1994, Vol. 13, pp. 601-609.
【非特許文献4】A. Motta et al., "Fast 3D-EM reconstruction using Planograms for stationary planar positron emission mammography camera," Computerized Medical Imaging and Graphics, 2005, Vol. 29, pp. 587-596.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、たとえ従来の高速演算アルゴリズムを用いたとしても、計算量が膨大であるので、その計算速度は臨床上実用的であるとはいい難いという問題がある。たとえば、画像を再構成するまでの計算時間が長大であると、診断に要する時間が長くなるので、臨床上実用的であるとはいい難い。
【0007】
上記に鑑みて本発明の目的は、画像再構成処理を効率的に実行し得、計算速度を大幅に向上させ得る画像処理装置、画像処理方法およびプログラムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、被測定物が配置されるべき領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用し、前記領域を挟み込む複数の検出器要素対による光子対の検出結果に基づいて前記被測定物の内部構造を表す画像を生成する画像処理装置が提供される。この画像処理装置は、前記検出器要素対の一方から他方を結ぶ投影線上における前記ボクセルから放出され当該検出器要素対で検出された光子対の計数結果に基づいて、前記投影線毎に実測投影値を算出する投影データ生成部と、前記各ボクセルから放出された光子を前記複数の検出器要素対がそれぞれ検出する確率がシステムマトリクス要素として記憶されているパラメータ格納部と、画像再構成法に従って、前記システムマトリクス要素と前記実測投影値とを使用して前記ボクセル毎の濃度を算出する処理を反復的に実行する濃度推定部と、を備える。前記濃度推定部は、前記パラメータ格納部から読み出された当該システムマトリクス要素と当該システムマトリクス要素に対応する当該濃度との第1の積和演算を実行して前記投影線毎に前方投影値を算出する前方投影算出部と、前記前方投影値および前記実測投影値を用いて新たな濃度を算出する濃度算出部と、を含み、前記投影線の配列と前記システムマトリクス要素の値とは、複数種の幾何学的対称性を共有し、前記投影線は、前記複数種の幾何学的対称性に基づいた複数のグループに分類されており、前記前方投影算出部は、前記第1の積和演算を前記複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割するとともに当該複数のスレッドを並列に実行する。
【0009】
また、本発明によれば、被測定物が配置されるべき領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用して前記被測定物の内部構造を表す画像を生成する画像再構成システムが提供される。この画像再構成システムは、前記領域を挟み込む複数の検出器要素対を有する検出装置と、前記検出器要素対の一方から他方を結ぶ投影線上における前記ボクセルから放出され当該検出器要素対で検出された光子対の計数結果に基づいて、前記投影線毎に実測投影値を算出する投影データ生成部と、前記各ボクセルから放出された光子を前記複数の検出器要素対がそれぞれ検出する確率がシステムマトリクス要素として記憶されているパラメータ格納部と、画像再構成法に従って、前記システムマトリクス要素と前記実測投影値とを使用して前記ボクセル毎の濃度を算出する処理を反復的に実行する濃度推定部と、を備える。また、この画像再構成システムの濃度推定部は、前記パラメータ格納部から読み出された当該システムマトリクス要素と当該システムマトリクス要素に対応する当該濃度との第1の積和演算を実行して前記投影線毎に前方投影値を算出する前方投影算出部と、前記前方投影値および前記実測投影値を用いて新たな濃度を算出する濃度算出部と、を含み、前記投影線の配列と前記システムマトリクス要素の値とは、複数種の幾何学的対称性を共有し、前記投影線は、前記複数種の幾何学的対称性に基づいた複数のグループに分類されており、前記前方投影算出部は、前記第1の積和演算を前記複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割するとともに当該複数のスレッドを並列に実行する。
【0010】
また、本発明によれば、被測定物が配置されるべき領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用し、前記領域を挟み込む複数の検出器要素対による光子対の検出結果に基づいて前記被測定物の内部構造を表す画像を生成する画像処理方法が提供される。この画像処理方法は、(a)前記検出器要素対の一方から他方を結ぶ投影線上における前記ボクセルから放出され当該検出器要素対で検出された光子対の計数結果に基づいて、前記投影線毎に実測投影値を算出するステップと、(b)前記各ボクセルから放出された光子を前記複数の検出器要素対がそれぞれ検出する確率であるシステムマトリクス要素をデータ記憶部から読み出し、画像再構成法に従って、当該読み出されたシステムマトリクス要素と前記実測投影値とを使用して前記ボクセル毎の濃度を算出する処理を反復的に実行するステップと、を備え、前記ステップ(b)は、(b−1)前記データ記憶部から読み出された当該システムマトリクス要素と当該システムマトリクス要素に対応する当該濃度との第1の積和演算を実行して前記投影線毎に前方投影値を算出するステップと、(b−2)前記前方投影値および前記実測投影値を用いて新たな濃度を算出するステップと、を含み、前記投影線の配列と前記システムマトリクス要素の値とは、複数種の幾何学的対称性を共有し、前記投影線は、前記複数種の幾何学的対称性に基づいた複数のグループに分類されており、前記ステップ(b−1)では、前記第1の積和演算は前記複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割され、前記複数のスレッドが並列に実行される。
【0011】
そして、本発明によれば、コンピュータ読み取り可能な記録媒体から読み出されてプロセッサに画像再構成処理を実行させるプログラムが提供される。前記画像再構成処理は、前記検出器要素対の一方から他方を結ぶ投影線上における前記ボクセルから放出され当該検出器要素対で検出された光子対の計数結果に基づいて、前記投影線毎に実測投影値を算出する投影データ生成処理と、前記各ボクセルから放出された光子を前記複数の検出器要素対がそれぞれ検出する確率であるシステムマトリクス要素をデータ記憶部から読み出し、画像再構成法に従って、当該読み出されたシステムマトリクス要素と前記実測投影値とを使用して前記ボクセル毎の濃度を算出する処理を反復的に実行する濃度推定処理と、を備える。前記濃度推定処理は、前記データ記憶部から読み出された当該システムマトリクス要素と当該システムマトリクス要素に対応する当該濃度との第1の積和演算を実行して前記投影線毎に前方投影値を算出する前方投影算出処理と、前記前方投影値および前記実測投影値を用いて新たな濃度を算出する濃度算出処理と、を含み、前記投影線の配列と前記システムマトリクス要素の値とは、複数種の幾何学的対称性を共有し、前記投影線は、前記複数種の幾何学的対称性に基づいた複数のグループに分類されており、前記前方投影算出処理では、前記第1の積和演算は前記複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割され、前記複数のスレッドが並列に実行される。
【発明の効果】
【0012】
上述の通り、本発明による画像処理装置、画像再構成システム、画像処理方法および画像再構成処理では、いずれも、投影線は、複数種の幾何学的対称性に基づいた複数のグループに分類される。第1の積和演算は、当該第1の積和演算をこれら複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割し、当該複数のスレッドを並列に実行することにより実行される。これにより、前方投影値を短時間で算出し、各ボクセルの濃度を短時間で算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る一実施形態の画像再構成システムの概略構成を示す機能ブロック図である。
【図2】投影線を説明するための模式図である。
【図3】画像処理装置による画像生成処理の手順を概略的に示すフローチャートである。
【図4】図3の画像再構成処理の手順を概略的に示すフローチャートである。
【図5】図3の前方投影算出処理の手順を概略的に示すフローチャートである。
【図6】図3の後方投影算出処理の手順を概略的に示すフローチャートである。
【図7】ボクセルの配列パターンを概略的に例示する図である。
【図8】投影線の配列の幾何学的対称性を説明するための概略図である。
【図9】(A)は、傾きdx=3を有する検出器要素対(結晶対)と投影線(ハッチ部分)とを概略的に示す図であり、(B)は、傾きdx=−3を有する検出器要素対(結晶対)と投影線(ハッチ部分)とを概略的に示す図である。
【図10】回転対称性を説明するための図である。
【図11】dx−dy平面を概略的に示す図である。
【図12】並進対称性を有する複数のシステムマトリクス要素を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同一符号を付し、その詳細な説明は重複しないように適宜省略される。
【0015】
図1は、本発明に係る一実施形態の画像再構成システム1の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0016】
この画像再構成システム1は、図1に示すように被測定物20が配置されるべき領域内に複数のボクセル(図示せず)を立体的に配列した解析モデルを使用して被測定物20の内部構造を表す断層画像または3次元画像を生成(再構成)するものである。画像再構成システム1は、対向型PET装置(光検出装置)2および画像処理装置3を有する。
【0017】
対向型PET装置2は、被測定物20が配置された領域を挟み込む一対の検出プレート10A,10Bを有し、これら検出プレート10A,10Bは、それぞれ、検出器要素11A,11Bを含む。後述するように、被測定物20から放出された光子対の一方は検出プレート10Aで検出され、当該光子対の他方は検出プレート10Bで検出される。よって、被測定物20から放出された光子対は、検出器要素11A,11Bの対(検出器要素対)で検出される。検出プレート10A,10Bは、光子対の検出結果を電気信号として画像処理装置3に供給する。画像処理装置3は、その検出結果に基づいて、被測定物20の内部構造を表す断層画像または3次元画像を再構成する機能を有する。
【0018】
図1に示されるように、対向型PET装置2は、互いに対向する検出面を有する一対の検出プレート10A,10Bと、これら検出プレート10A,10Bを並進移動または回転移動させる駆動機構41とを有している。人体などの被測定物20は、これら検出プレート10A,10Bによって挟み込まれる。
【0019】
検出プレート10A,10Bは、被測定物20から放出された光子対をそれぞれ受光する検出面を有している。一方の検出プレート10Aは、格子状に配列された検出器要素11A,…,11Aを有しており、これら検出器要素11A,…,11Aは、X−Y平面に沿ってマトリクス状に配列されている。他方の検出プレート10Bも、格子状に配列された検出器要素11B,…,11Bを有しており、これら検出器要素11B,…,11Bは、X−Y平面に沿ってマトリクス状に配列されている。検出器要素群11A,…,11Aの配列と検出器要素11B,…,11Bの配列とは、X−Y平面に関して互いに対称である。また、検出器要素群11A,…,11Aの配列は、X軸方向とY軸方向に沿ってそれぞれ並進対称性を有する。すなわち、検出器要素群11A,…,11Aは、X−Y平面に沿って格子状に配列されているので、或る検出器要素11AをX軸方向またはY軸方向に格子間距離の整数倍だけ移動させたとき、この検出器要素11Aと同じ構造を有する検出器要素11Aがその移動先に存在する。
【0020】
駆動機構41は、画像処理装置3に組み込まれた制御部40からの制御信号に従って、一対の検出プレート10A,10Bを駆動する機能を有する。本実施形態では、駆動機構41は、検出プレート10A,10Bの間の間隔を狭めたり、一対の検出プレート10A,10BをX軸の周りに回転させたり、一対の検出プレート10A,10BをX軸方向に移動させたりすることができる。ユーザは、キーボードやポインティングデバイスなどの入力操作部51を操作して制御部40に指示を入力することにより、駆動機構41に検出プレート10A,10Bを駆動させることができる。
【0021】
被測定物20の内部には、陽電子を発生させる放射性同位元素(RI:Radioactive Isotope)が分布している。たとえば、被測定物20が人体や動物などの被検体であれば、この被検体に放射性同位元素を投与することで放射線同位元素を被測定物20内に分布させることができる。陽電子は、放射性同位元素の崩壊過程で発生する。陽電子が被測定物20内の電子と相互作用して消滅すると、約511keVのエネルギーを持つ2本のガンマ線(光子対)が発生し、運動量保存則とエネルギー保存則とにより、これらガンマ線は互いに反対方向に放出される。よって、陽電子が消滅した地点に関して点対称性を有する一対の検出器要素11A,11Bが、それぞれ、当該2本のガンマ線をほぼ同時に検出することとなる。よって、光子対をそれぞれ検出した一対の検出器要素11A,11Bを結ぶ線上に、陽電子が消滅した地点が存在する。
【0022】
検出器要素11A,11Bとしては、入射光に応じた蛍光出力を与えるシンチレータが使用される。シンチレータは、X線やガンマ線などの高エネルギー放射線の光子を、よりエネルギーの低い多数の光子(蛍光)に変換する結晶体である。この種の結晶体としては、たとえば、BGO(BiGe12)やLSO(Lu(SiO)O:Ce)などの公知の結晶体を使用すればよい。検出プレート10A,10Bは、それぞれ、検出器要素11A,11Bで生成された蛍光出力を増幅し、電気信号に変換する。その電気信号は、ケーブルなどの転送手段(図示せず)を介して、光子を検出した検出器要素11A,11Bの番地情報とともに、画像処理装置3の投影データ生成部31に転送される。
【0023】
投影データ生成部31は、検出プレート10A,10Bから転送された電気信号に基づいて、検出器要素11A,11Bが検出した光子対を計数し、この計数結果に基づいて投影線毎の実測投影データの値(実測投影値)を算出する。実測投影データは、メモリ37内のデータ記憶部38に格納される。図2は、投影線を説明するための模式図である。図2に示されるように、被測定物20内の或る投影線PL上の陽電子消滅地点(線源)から放出された光子対が、検出プレート10A,10Bの一対の検出器要素11A,11Bで検出される。
【0024】
投影データ生成部31は、投影線PL上で放出された光子対を計数し、この計数結果に基づいて投影線PLの投影値yを算出する。ここで、添え字iは、投影線を一意に表す番号である。投影線PLは、一方の検出プレート10Aの検出器要素11Aと他方の検出プレート10Bの検出器要素11Bとを結ぶラインであるから、検出器要素11A,11Bの組み合わせの数だけ投影線が存在することとなる。本実施形態では、n個(nは正整数)の投影線PL(すなわち、検出器要素11A,11Bのn個の組み合わせ)が存在するものとする(i=1〜n)。たとえば、癌細胞のように活性の高い部位には線源が高密度で集中する傾向にあるので、投影線PL上に癌細胞が存在すると、この投影線PLに対応する投影値yは比較的大きな値を示すこととなる。
【0025】
濃度推定部32は、被測定物20が配置されている領域内に複数のボクセルB〜B(mは正整数)が立体的に配列された解析モデルを利用して画像再構成処理を実行する。ここで、ボクセルBは、立方形状または直方形状を有する微少な六面体要素からなる。
【0026】
濃度推定部32は、データ記憶部38から実測投影値の集合{y}を読み出し、統計的画像再構成法に従ってこれら実測投影値{y}を用いてボクセル毎の放射能濃度(以下、単に「濃度」と呼ぶ。)を推定する処理を反復的に実行することにより、被測定物20の内部構造の断層画像または3次元画像を再構成する機能を有している。本実施形態では、統計的画像再構成法として典型的なML−EM法が使用されるが、これに限定されるものではない。
【0027】
図1に示されるように、濃度推定部32は、前方投影算出部33、後方投影算出部34および濃度算出部35という機能ブロックを有する。これら機能ブロック33〜35は、ML−EM法に従って、ボクセルの濃度を推定する処理を反復的に実行する。ML−EM法では、以下の推定式(1)が使用される。
【0028】
【数1】

【0029】
ただし、推定式(1)中のCは、次式(1A)で与えられる。
【0030】
【数2】

【0031】
上記推定式(1)中、kは、反復回数であり、x(k−1)は、k−1回目の処理におけるj番目のボクセルBの濃度であり、yは、i番目の検出器要素対(検出器要素11A,11Bの対のうちi番目の対)による検出結果に基づいて得られた実測投影値である。また、x(k)は、(k)回目の処理におけるj番目のボクセルBの濃度である。上式(1)によれば、k−1回目の濃度x(k−1)から、k回目の濃度x(k)が算出される。初期値x(k=0)は正の実数であれば、どのような値に設定されてもよい。
【0032】
推定式(1)において、Cijは、j番目のボクセルBから放出された光子対がi番目の検出器要素対で検出される確率である。この確率Cijは、検出確率と呼ばれており、この確率Cijの集合はシステムマトリクスと呼ばれている行列である。確率Cijは、システムマトリクスのi行j列目の要素(以下、「システムマトリクス要素」と呼ぶ。)である。j番目のボクセルBから放出された光子対がi番目の検出器要素対に入射する数は、システムマトリクス要素Cijに依存することが知られている。システムマトリクス要素CijとCの値は、予め算出されたうえでパラメータ格納部39に格納されている。
【0033】
なお、システムマトリクス要素Cijの値には、散乱や減衰などの物理的要因を組み込むことが可能であるが、本実施形態では、システムマトリクス要素Cijの値は、i番目の検出器要素対に対するj番目のボクセルBの幾何学的位置のみにより定められる。たとえば、i番目の検出器要素対の一方から他方を結ぶ投影線PLと、j番目のボクセルBとが重複する領域の体積またはこれに比例する値に、システムマトリクス要素Cijの値を設定することができる。
【0034】
次に、図3〜図6を参照しつつ、画像処理装置3の動作を以下に説明する。図3は、画像処理装置3による画像生成処理の手順を概略的に示すフローチャートであり、図4は、図3の画像再構成処理の手順を概略的に示すフローチャートである。また、図5は、図3の前方投影算出処理の手順を概略的に示すフローチャートであり、図6は、図3の後方投影算出処理の手順を概略的に示すフローチャートである。
【0035】
図3を参照すると、先ず、ステップS10では、濃度推定部32は、パラメータ格納部39から、システムマトリクス{Cij}と係数{C}とを読み出す。続けて、濃度推定部32は、データ記憶部38から実測投影値{y}を読み出す(ステップS11)。なお、本実施形態では、システムマトリクス{Cij}、係数{C}および実測投影値{y}が最初に一括して読み出されるが、これに限定されず、必要なときに読み出されてもよい。
【0036】
続けて、濃度推定部32は、放射能濃度{x}の値を初期化し(ステップS12)、その後、画像再構成処理(ステップS13)を実行する。
【0037】
図4は、ステップS13の画像再構成処理の手順を示すフローチャートである。図4を参照すると、先ず、濃度推定部32は、反復回数kの上限を適切な値に設定する(ステップS130)。次に、反復回数kの値が1に初期化される(ステップS131)。その後、図1の前方投影算出部33は、次式(2)に従い、検出確率Cirと推定濃度x(k−1)との積和演算を実行して前方投影データの値(前方投影値){p}(={p,p,…})を算出する(ステップS132)。
【0038】
【数3】

【0039】
上記ステップS132の処理が終了した後、図1の後方投影算出部34は、次式(3)に従い、投影値yと前方投影値pの逆数との積qを算出するとともに、検出確率Cijと当該積qとの第2の積和演算を実行して後方投影データの値(後方投影値){D}={D,D,…,D}を算出する(ステップS133)。
【0040】
【数4】

【0041】
そして、濃度算出部35は、j=1〜mについて、後方投影値Dを用いて、k回目の推定濃度{x}={x(k)}={D・x(k−1)/C}を算出する(ステップS134)。
【0042】
その後、濃度算出部35は、濃度{x}が収束したか否かを判定する(ステップS135)。具体的には、対数尤度関数(または尤度関数)を用いて濃度{x}の収束の有無を判定することが可能である。非特許文献1(L. A. Shepp and Y. Vardi, "Maximum likelihood reconstruction for emission tomography," IEEE Trans. Med. Imaging, 1982, v. 1, pp. 113-122.)によれば、上式(1)は、ポアッソン分布の式により与えられる対数尤度関数L({x})に基づいて導出される。濃度算出部35は、ステップS134で算出された濃度{x}を入力としたときの対数尤度関数L({x})の出力値が飽和し略一定に達した場合に、濃度{x}が収束したと判定することができる(ステップS135のYES)。その後、処理は図3のステップS14に移行する。そして、濃度{x}が出力される(ステップS14)。
【0043】
一方、濃度{x}が収束しないと判定された場合(ステップS135のNO)、濃度算出部35は、さらに、反復回数kが上限に達したか否かを判定する(ステップS136)。反復回数kが上限に達しない場合(ステップS136のNO)は、反復回数kがインクリメントされ(ステップS137)、ステップS132の処理が反復される。濃度{x}が収束しないまま、最終的に反復回数kが上限に達したとき(ステップS136のYES)は、処理は図3のステップS14に移行する。そして、濃度{x}が出力される(ステップS14)。
【0044】
その後、表示制御部36は、濃度算出部35から出力された推定放射能濃度{x}から2次元または3次元の再構成画像を生成し、この再構成画像をディスプレイ50に表示させることができる。あるいは、濃度算出部35から出力された推定濃度値{x}は、メモリ37に記憶されてもよい。
【0045】
上記推定式(1)中で演算量の多大な部分が、前方投影値pの計算(式(2))と後方投影値Dの計算(式(3))である。以下、前方投影値pの計算方法と後方投影値Dの計算方法について説明する。
【0046】
本実施形態では、図7に例示されるように、複数のボクセルBが検出器要素対11A,11Bの間の領域に設けられている。また、検出器要素対11A,11Bの一方から他方を結ぶ領域である投影線PLが設けられている。検出器要素対11A,11Bの組み合わせに応じて無数の投影線PLが存在する。なお、これらボクセルBや投影線PLは現実に当該領域に設けられているのではなく、画像再構成処理のために仮想的に設けられたものである。このような投影線PLの配列とシステムマトリクス要素{Cij}とは、複数種の幾何学的対称性を共有している。本実施形態では、後述するように、投影線PLの配列とシステムマトリクス要素{Cij}とは、反転対称性および回転対称性を共有する。また、投影線PLやシステムマトリクス要素{Cij}は、これら幾何学的対称性に基づいて複数のグループに分類される。
【0047】
図8(A),(B)および図9(A),(B)は、投影線PLの配列の幾何学的対称性を説明するための概略図である。図8(A)には、X軸方向への傾きを有する投影線PLが示されており、図8(B)には、Y軸方向への傾きを有する投影線PLが示されている。図8(A)に示されるように、投影線PLのX軸方向への傾きは、検出器要素11AのX軸上の位置xと、検出器要素11BのX軸上の位置xとの差分dx=x−xで表現することができる。また、図8(B)に示されるように、投影線PLのY軸方向への傾きは、検出器要素11BのY軸上の位置yと、検出器要素11BのY軸上の位置yとの差分dy=y−yで表現することができる。したがって、投影線PLの傾きは、dx−dy平面上の点(dx,dy)で表現することが可能である。言い換えれば、dx−dy平面上の点(dx,dy)は、当該点に対応する傾きを有する投影線PLの集合を示すものである。
【0048】
投影線PLの配列とシステムマトリクス要素{Cij}とは、複数種の反転対称性を共有する。たとえば、図9(A)には、傾きdx=+3を有する投影線PL,PL,…が示されており、図9(B)には、傾きdx=−3を有する投影線PL,PL,…が示されている。図9(A)の投影線PLと図9(B)の投影線PLとは、Y−Z平面に対する反転対称の関係にある。ボクセルBと投影線PLとが重複する領域の体積またはこれに比例する値にシステムマトリクス要素Cijの値を設定することができる。この場合、システムマトリクス要素Cijの値は、投影線PLの配列と共通する反転対称性を有する。また、投影線PLの配列とシステムマトリクス要素{Cij}とは、X軸方向の並進対称性を共有するとともに、Y軸方向の並進対称性を共有することが分かる。
【0049】
さらに、投影線PLの配列とシステムマトリクス要素{Cij}とは、図1の原点Oを基準としたときのZ軸に関する回転対称性をも共有している。たとえば、図10は、傾きdx=+3とdy=0を有する投影線PLと、傾きdx=0とdy=+3を有する投影線PLとを示す図である。図10に示される一方の投影線PLは、Z軸の周りに回転されれば、他方の投影線PLと一致する。
【0050】
図11は、dx−dy平面を概略的に示す図である。前述したように、図11のdx−dy平面上の各点が投影線PLの傾きに対応する。図11に示されるように、2点P1,P2は、dy軸に関して反転対称の関係にあり、2点P1,P3は、dx軸に関して反転対称の関係にあり、2点P1,P4は、dx−dy平面の原点Oに関して反転対称の関係にあり、2点P1,P5は、π/4(45度)の回転対称の関係にあり、2点P2,P6は、π/4(45度)の回転対称の関係にあり、2点P3,P7は、π/4(45度)の回転対称の関係にあり、2点P4,P8は、π/4(45度)の回転対称の関係にある。
【0051】
よって、反転対称性と回転対称性との組み合わせにより、図11に示されるように、dx−dy平面は、以下の8つの領域A1〜A8に区分けすることができる。領域A1に対応するシステムマトリクス要素{Cij}が独立な成分であり、他の領域A2〜A8に対応するシステムマトリクス要素は、領域A1に対応するシステムマトリクス要素{Cij}のコピーとみなすことができる。
【0052】
・領域A1:dx≧0、dy≧0、かつ、dx≧dy
・領域A2:dx<0、dy≧0、かつ、|dx|≧dy(領域A1のx反転)
・領域A3:dx≧0、dy<0、かつ、dx≧|dy|(領域A1のy反転)
・領域A4:dx<0、dy<0、かつ、|dx|≧|dy|(領域A1のx反転およびy反転)
・領域A5:dx≧0、dy≧0、かつ、dx≦dy(領域A1のπ/4回転)
・領域A6:dx<0、dy≧0、かつ、|dx|≦dy(領域A2のπ/4回転)
・領域A7:dx≧0、dy<0、かつ、dx≦|dy|(領域A3のπ/4回転)
・領域A8:dx<0、dy<0、かつ、|dx|≦|dy|(領域A4のπ/4回転)
【0053】
したがって、投影線PLは、領域A1〜A8にそれぞれ対応する8つのグループG1〜G8に分類できる。前方投影算出部33は、上式(2)の第1の積和演算を投影線のグループG1〜G8にそれぞれ対応する8つのスレッドTP1〜TP8に分割し、これらスレッドTP1〜TP8を並列に実行することができる。
【0054】
図5は、図3の前方投影算出処理の手順を概略的に示すフローチャートである。図5に示されるように、前方投影算出処理の手順は、8つのスレッドに分割される。ステップS200A〜S200Bのループ処理はスレッドTP1に相当し、ステップS210A〜S210Bのループ処理はスレッドTP2に相当し、ステップS220A〜S220Bのループ処理はスレッドTP3に相当し、ステップS230A〜S230Bのループ処理はスレッドTP4に相当し、ステップS240A〜S240Bのループ処理はスレッドTP5に相当し、ステップS250A〜S250Bのループ処理はスレッドTP6に相当し、 ステップS260A〜S260Bのループ処理はスレッドTP7に相当し、ステップS270A〜S270Bのループ処理はスレッドTP8に相当する。
【0055】
スレッドTP1〜TP7では、dx,dyの値がそれぞれインクリメントにより指定される(ステップS200A,S210A,S220A,S230A,S240A,S250A,S260A,S270A)。ただし、当該ステップの最初の処理では、インクリメントが実行される代わりに、dx,dyの値として初期値が与えられる。
【0056】
次いで、dx,dyの組により、システムマトリクス要素の値C=Cij(dx,dy)が指定され、読み出される(ステップS201,S211,S221,S231,S241,S251,S261,S271)。
【0057】
次に、前方投影算出部33は、システムマトリクス要素の共通の値Cを用いたベクトル演算により第1の積和演算を実行する(ステップS202,S212,S222,S232,S242,S252,S262,S272)。上述したように、投影線PLの配列とシステムマトリクス要素{Cij}とは、X軸方向の並進対称性とY軸方向の並進対称性とを共有している。よって、これら並進対称性に基づいて、同一値Cを共有する複数のシステムマトリクス要素が必ず存在する。前方投影算出部33は、この共通の値Cを用いたベクトル演算を実行することができる。
【0058】
たとえば、図12に示されるように、X軸方向またはY軸方向への同一の傾きを有する複数の投影線PL,PL,…上におけるボクセルB1,B3,B5,B7,B9,B11,B13,B15に対応するシステムマトリクス要素は、X軸方向またはY軸方向の並進対称性を有する。よって、これらボクセルB1,B3,B5,B7,B9,B11,B13,B15に対応するシステムマトリクス要素は共通の値を有している。同様に、複数の投影線PL,PL,…上におけるボクセルB2,B4,B6,B8,B10,B12,B14,B16に対応するシステムマトリクス要素も、共通の値を有している。
【0059】
たとえば、前方投影値p,p,p,pが、システムマトリクス要素の共通の値C,C,…,Cを用いて以下のように計算されるものとする。
【0060】
=C・x+C・x+…
=C・x+C・xj+1+…
=C・x+C・xj+2+…
=C・x+C・xj+3+…
【0061】
このとき、前方投影算出部33は、上式の右辺第1項の計算を、(x、x、x、x)をベクトルとし、このベクトルに係数Cを乗算することで行うことができる。続けて、前方投影算出部33は、上式の右辺第2項の計算を、(x、xj+1、xj+2、xj+3)をベクトルとし、このベクトルに係数Cを乗算することで行うことができる。なお、ベクトルの要素の個数は、4個に限らず、n個(nは5以上)であってよい。
【0062】
スレッドTP1〜TP8のループ処理は、dx,dyの値の全ての組み合わせについて実行された後に終了する。その後、図4のステップS133に処理が移行する。
【0063】
また、後方投影算出部34も、上式(3)の第2の積和演算を8つのグループG1〜G8にそれぞれ対応する8つのスレッドTB1〜TB8に分割し、これらスレッドTB1〜TB8を並列に実行することができる。
【0064】
図6は、図3の後方投影算出処理の手順を概略的に示すフローチャートである。図6に示されるように、後方投影算出処理の手順は、8つのスレッドに分割される。ステップS300A〜S300Bのループ処理はスレッドTB1に相当し、ステップS310A〜S310Bのループ処理はスレッドTB2に相当し、ステップS320A〜S320Bのループ処理はスレッドTB3に相当し、ステップS330A〜S330Bのループ処理はスレッドTB4に相当し、ステップS340A〜S340Bのループ処理はスレッドTB5に相当し、ステップS350A〜S350Bのループ処理はスレッドTB6に相当し、ステップS360A〜S360Bのループ処理はスレッドTB7に相当し、ステップS370A〜S370Bのループ処理はスレッドTB8に相当する。
【0065】
スレッドTB1〜TB8では、dx,dyの値がそれぞれインクリメントにより指定される(ステップS300A,S310A,S320A,S330A,S340A,S350A,S360A,S370A)。ただし、当該ステップの最初の処理では、インクリメントが実行される代わりに、dx,dyの値として初期値が与えられる。
【0066】
次いで、dx,dyの組により、システムマトリクス要素の値C=Cij(dx,dy)が読み出される(ステップS301,S311,S321,S331,S341,S351,S361,S371)。
【0067】
次に、後方投影算出部34は、システムマトリクス要素の共通の値Cを用いたベクトル演算により第1の積和演算を実行する(ステップS302,S312,S322,S332,S342,S352,S362,S372)。前述したように、投影線PLの配列とシステムマトリクス要素{Cij}とが共有する並進対称性に基づいて、システムマトリクス要素の値Cを共有する複数のシステムマトリクス要素が必ず存在する。後方投影算出部34は、この共通の値Cを用いたベクトル演算を実行することができる。
【0068】
たとえば、後方投影値D,D,D,Dが、システムマトリクス要素の共通の値C,C,…,Cを用いて以下のように計算されるものとする。
【0069】
=C・q+C・q+…
=C・q+C・qi+1+…
=C・q+C・qi+2+…
=C・q+C・qi+3+…
【0070】
このとき、後方投影算出部34は、上式の右辺第1項の計算を、(q、q、q、q)をベクトルとし、このベクトルに係数Cを乗算することで行うことができる。続けて、後方投影算出部34は、上式の右辺第2項の計算を、(q、qi+1、qi+2、qi+3)をベクトルとし、このベクトルに係数Cを乗算することで行うことができる。なお、ベクトルの要素の個数は、4個に限らず、m個(mは5以上)であってもよい。
【0071】
スレッドTB1〜TB8のループ処理は、dx,dyの値の全ての組み合わせについて実行された後に終了する。その後、図4のステップS134に処理が移行する。
【0072】
上述した通り、画像再構成システム1は、投影線PLを、投影線の配列とシステムマトリクス要素の値とが共有する複数種の幾何学的対称性に基づいて複数のグループに分類する。前方投影算出部33は、第1の積和演算をこれら複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割し、当該複数のスレッドを並列に実行することができる。これにより、前方投影値を短時間で算出することができるので、各ボクセルの濃度を短時間で算出することが可能となる。同様に、後方投影算出部34は、第2の積和演算を複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割し、当該複数のスレッドを並列に実行することができる。これにより、後方投影値を短時間で算出することができるので、各ボクセルの濃度を短時間で算出することが可能となる。
【0073】
さらに、投影線PLの配列とシステムマトリクス要素の値とは同一方向の並進対称性を共有するので、この並進対称性に基づいた同一値を有する複数のシステムマトリクス要素が存在する。前方投影算出部33と後方投影算出部34は、このシステムマトリクス要素を用いたベクトル演算を実行して前方投影値と後方投影値を短時間で算出することができる。
【0074】
ところで、図1の画像処理装置3の機能ブロック31〜36の全部または一部は、半導体集積回路などのハードウェアで実現されてもよいし、あるいは、不揮発性メモリや光ディスクなどの記録媒体に記録されたプログラムまたはプログラムコードで実現されてもよい。このようなプログラムまたはプログラムコードは、機能ブロック31〜36の全部または一部の処理を、CPUなどのプロセッサを有するコンピュータに実行させるものである。ここで、プロセッサは、上記ベクトル演算を実行するためのベクトル演算機能を有する。
【0075】
また、データ記憶部38やパラメータ格納部39は、揮発性メモリまたは不揮発性メモリなどの記録媒体(たとえば、半導体メモリや磁気記録媒体)と、この記録媒体に対してデータの書込と読出を行うための回路やプログラムとで構成することができる。データ記憶部38やパラメータ格納部39は、予め記録媒体の所定の記憶領域上に構成されていてもよいし、あるいは、画像処理装置3の動作時に割り当てられた適当な記憶領域上に構成されてもよい。
【0076】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0077】
たとえば、上記実施形態では、一対の検出プレート10A,10Bを使用し、これら検出プレート10A,10Bの検出面は平面であったが、これらに限定されるものではない。図1の対向型PET装置2に代えて、連続的に分布する単一の検出面あるいは3個以上の検出面を有する検出装置を使用してもよい。また、検出面の形状は平面に限定されるものではなく曲面であってもよい。
【0078】
上記実施形態では、画像処理装置3は対向型PET装置2に適用されたが、これに限定されるものではない。画像処理装置3は、X線CT装置などの他の検出装置にも適用することが可能である。
【0079】
上記実施形態では、統計的画像再構成法としてML−EM法が使用されているが、システムマトリクス要素(検出確率)を用いた画像再構成法を使用すればよく、ML−EM法に限定されるものではない。たとえば、OS−EM法やMAP−EM(Maximum A Posteriori - Expectation Maximization)法などのML−EM法の改良版を使用することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 画像再構成システム
2 対向型PET装置
3 画像処理装置
10A,10B 検出プレート
11A,11B 検出器要素
20 被測定物
31 投影データ生成部
32 濃度推定部
33 前方投影算出部
34 後方投影算出部
35 濃度算出部
36 表示制御部
37 メモリ
38 データ記憶部
39 パラメータ格納部
40 制御部
41 駆動機構
50 ディスプレイ
51 入力操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物が配置されるべき領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用し、前記領域を挟み込む複数の検出器要素対による光子対の検出結果に基づいて前記被測定物の内部構造を表す画像を生成する画像処理装置であって、
前記検出器要素対の一方から他方を結ぶ投影線上における前記ボクセルから放出され当該検出器要素対で検出された光子対の計数結果に基づいて、前記投影線毎に実測投影値を算出する投影データ生成部と、
前記各ボクセルから放出された光子を前記複数の検出器要素対がそれぞれ検出する確率がシステムマトリクス要素として記憶されているパラメータ格納部と、
画像再構成法に従って、前記システムマトリクス要素と前記実測投影値とを使用して前記ボクセル毎の濃度を算出する処理を反復的に実行する濃度推定部と、
を備え、
前記濃度推定部は、
前記パラメータ格納部から読み出された当該システムマトリクス要素と当該システムマトリクス要素に対応する当該濃度との第1の積和演算を実行して前記投影線毎に前方投影値を算出する前方投影算出部と、
前記前方投影値および前記実測投影値を用いて新たな濃度を算出する濃度算出部と、
を含み、
前記投影線の配列と前記システムマトリクス要素の値とは、複数種の幾何学的対称性を共有し、前記投影線は、前記複数種の幾何学的対称性に基づいた複数のグループに分類されており、
前記前方投影算出部は、前記第1の積和演算を前記複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割するとともに当該複数のスレッドを並列に実行する、画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置であって、前記複数種の幾何学的対称性は、反転対称性と回転対称性とを含む、画像処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の画像処理装置であって、
前記投影線の配列と前記システムマトリクス要素の値とは、さらに同一方向の並進対称性を共有しており、
前記前方投影算出部は、前記複数のシステムマトリクス要素のうち前記並進対称性に基づいた同一値を有するn個(nは2以上の整数)のシステムマトリクス要素に対応するn個の前方投影値を、当該システムマトリクス要素を用いたベクトル演算により算出する、画像処理装置。
【請求項4】
請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の画像処理装置であって、
前記濃度推定部は、
前記実測投影値と当該実測投影値に対応する当該前方投影値の逆数との積を算出するとともに前記パラメータ格納部から読み出された当該システムマトリクス要素と当該システムマトリクス要素に対応する当該積との第2の積和演算を実行して前記投影線毎に後方投影値を算出する後方投影算出部、
をさらに含み、
前記後方投影算出部は、前記第2の積和演算を前記複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割するとともに当該複数のスレッドを並列に実行し、
前記濃度算出部は、前記後方投影値を用いて当該新たな濃度を算出する、
画像処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の画像処理装置であって、
前記投影線の配列と前記システムマトリクス要素の値とは、同一方向の並進対称性を有しており、
前記後方投影算出部は、前記複数のシステムマトリクス要素のうち前記並進対称性に基づいた同一値を有するm個(mは2以上の整数)のシステムマトリクス要素に対応するm個の後方投影値を、当該システムマトリクス要素を用いたベクトル演算により実行する、画像処理装置。
【請求項6】
請求項1から5のうちのいずれか1項に記載の画像処理装置であって、前記複数の検出器要素対は、前記被測定物を挟み込む一対の検出プレートを構成する、画像処理装置。
【請求項7】
請求項1から6のうちのいずれか1項に記載の画像処理装置であって、前記各検出器要素は、当該各検出器要素への入射光に応じた蛍光出力を前記検出結果として与えるシンチレータを含む、画像処理装置。
【請求項8】
請求項1から7のうちのいずれか1項に記載の画像処理装置であって、前記画像再構成法は、ML−EL(Maximum Likelihood - Expectation Maximization)法である、画像処理装置。
【請求項9】
被測定物が配置されるべき領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用して前記被測定物の内部構造を表す画像を生成する画像再構成システムであって、
前記領域を挟み込む複数の検出器要素対を有する検出装置と、
前記検出器要素対の一方から他方を結ぶ投影線上における前記ボクセルから放出され当該検出器要素対で検出された光子対の計数結果に基づいて、前記投影線毎に実測投影値を算出する投影データ生成部と、
前記各ボクセルから放出された光子を前記複数の検出器要素対がそれぞれ検出する確率がシステムマトリクス要素として記憶されているパラメータ格納部と、
画像再構成法に従って、前記システムマトリクス要素と前記実測投影値とを使用して前記ボクセル毎の濃度を算出する処理を反復的に実行する濃度推定部と、
を備え、
前記濃度推定部は、
前記パラメータ格納部から読み出された当該システムマトリクス要素と当該システムマトリクス要素に対応する当該濃度との第1の積和演算を実行して前記投影線毎に前方投影値を算出する前方投影算出部と、
前記前方投影値および前記実測投影値を用いて新たな濃度を算出する濃度算出部と、
を含み、
前記投影線の配列と前記システムマトリクス要素の値とは、複数種の幾何学的対称性を共有し、前記投影線は、前記複数種の幾何学的対称性に基づいた複数のグループに分類されており、
前記前方投影算出部は、前記第1の積和演算を前記複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割するとともに当該複数のスレッドを並列に実行する、画像再構成システム。
【請求項10】
請求項9に記載の画像再構成システムであって、
前記投影線の配列と前記システムマトリクス要素の値とは、さらに同一方向の並進対称性を共有しており、
前記前方投影算出部は、前記複数のシステムマトリクス要素のうち前記並進対称性に基づいた同一値を有するn個(nは2以上の整数)のシステムマトリクス要素に対応するn個の前方投影値を、当該システムマトリクス要素を用いたベクトル演算により算出する、画像再構成システム。
【請求項11】
被測定物が配置されるべき領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用し、前記領域を挟み込む複数の検出器要素対による光子対の検出結果に基づいて前記被測定物の内部構造を表す画像を生成する画像処理方法であって、
(a)前記検出器要素対の一方から他方を結ぶ投影線上における前記ボクセルから放出され当該検出器要素対で検出された光子対の計数結果に基づいて、前記投影線毎に実測投影値を算出するステップと、
(b)前記各ボクセルから放出された光子を前記複数の検出器要素対がそれぞれ検出する確率であるシステムマトリクス要素をデータ記憶部から読み出し、画像再構成法に従って、当該読み出されたシステムマトリクス要素と前記実測投影値とを使用して前記ボクセル毎の濃度を算出する処理を反復的に実行するステップと、
を備え、
前記ステップ(b)は、
(b−1)前記データ記憶部から読み出された当該システムマトリクス要素と当該システムマトリクス要素に対応する当該濃度との第1の積和演算を実行して前記投影線毎に前方投影値を算出するステップと、
(b−2)前記前方投影値および前記実測投影値を用いて新たな濃度を算出するステップと、
を含み、
前記投影線の配列と前記システムマトリクス要素の値とは、複数種の幾何学的対称性を共有し、前記投影線は、前記複数種の幾何学的対称性に基づいた複数のグループに分類されており、
前記ステップ(b−1)では、前記第1の積和演算は前記複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割され、前記複数のスレッドが並列に実行される、画像処理方法。
【請求項12】
コンピュータ読み取り可能な記録媒体から読み出されてプロセッサに画像再構成処理を実行させるプログラムであって、
前記画像再構成処理は、
前記検出器要素対の一方から他方を結ぶ投影線上における前記ボクセルから放出され当該検出器要素対で検出された光子対の計数結果に基づいて、前記投影線毎に実測投影値を算出する投影データ生成処理と、
前記各ボクセルから放出された光子を前記複数の検出器要素対がそれぞれ検出する確率であるシステムマトリクス要素をデータ記憶部から読み出し、画像再構成法に従って、当該読み出されたシステムマトリクス要素と前記実測投影値とを使用して前記ボクセル毎の濃度を算出する処理を反復的に実行する濃度推定処理と、
を備え、
前記濃度推定処理は、
前記データ記憶部から読み出された当該システムマトリクス要素と当該システムマトリクス要素に対応する当該濃度との第1の積和演算を実行して前記投影線毎に前方投影値を算出する前方投影算出処理と、
前記前方投影値および前記実測投影値を用いて新たな濃度を算出する濃度算出処理と、
を含み、
前記投影線の配列と前記システムマトリクス要素の値とは、複数種の幾何学的対称性を共有し、前記投影線は、前記複数種の幾何学的対称性に基づいた複数のグループに分類されており、
前記前方投影算出処理では、前記第1の積和演算は前記複数のグループにそれぞれ対応する複数のスレッドに分割され、前記複数のスレッドが並列に実行される、プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のプログラムであって、
前記投影線の配列と前記システムマトリクス要素の値とは、さらに同一方向の並進対称性を有しており、
前記前方投影算出処理では、前記複数のシステムマトリクス要素のうち前記並進対称性に基づいた同一値を有するn個(nは2以上の整数)のシステムマトリクス要素に対応するn個の前方投影値が、当該システムマトリクス要素を用いたベクトル演算により算出される、プログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のプログラムであって、前記プロセッサはベクトル演算機能を有する、プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−203806(P2010−203806A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47175(P2009−47175)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(509023137)医療法人みやぎクリニック (4)
【Fターム(参考)】