説明

画像処理装置および画像処理方法

【課題】MTF補正後の画像データが出力画像データ範囲を超える値となる場合、クリッピング等の処理が必要となり、十分な補正を行うことができない。
【解決手段】補正量算出部106で、画像出力装置103のMTFデータに基づいて各周波数成分ごとの補正量を算出する。各補正量を用いてMTF補正を行った補正後の画像データが画像出力データ範囲を超える場合、補正量制限部108で該周波数成分の補正量を制限して補正制限量を算出する。そして、該補正制限量を、当該周波数成分とは異なる他の周波数成分で補償するように、補償用周波数成分選択部109で他の周波数成分を選択し、補正制限量補償部110でそれぞれに対する補償用の補正量を算出する。そして周波数変換部112では、以上のように算出された各補正量に基づき、各周波数成分を変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像出力装置に出力する画像データに対し、該画像出力装置に応じたMTF補正を施す画像処理装置および画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ等の普及に伴い、デジタル画像データが広く普及し、プリンタ等の画像出力装置でデジタル画像データを出力する機会が増えている。一般に画像出力装置においては、その周波数特性であるMTF(Modulation Transfer Function)によって、出力する画像の周波数特性に変調が生じてしまう。この変調により、文字や画像エッジ部の細り、かすれ、切れ等、先鋭度に関する画質劣化が発生する。そこで、画像出力装置のMTFによる画質劣化に対応するために、画像処理によるMTF補正(エッジ強調等)が行われる。一般にMTF補正としては、畳み込み積分による実空間でのフィルタリングによって画像信号を補正する。例えば、注目画素とその前後画素とのレベル差からMTF補正の程度の強弱を制御し、注目画素に対してMTF補正演算を行うことで、空間周波数の高い領域における再生画像の画質劣化を低減する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記フィルタリングによるMTF補正方法では、例えば8ビット画像を処理した場合、補正後の画像データが0未満、または255を越える値となった場合に、クリッピング等によってこれを0〜255の出力データ範囲内に収める必要がある。したがって、特に画像出力機器のMTFによって生じる最大濃度、最小濃度の劣化量を十分に補償することができない。
【0004】
このような、補正後の画像データが出力データ範囲を超えてしまう場合の処理として、以下のような方法が知られている。例えば、エッジ強調処理に伴うクリッピングによって画像の濃度変化が生じるため、クリッピング後の上限値または下限値との差分を周囲の画素に反映させることで、濃度を保存する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。また、MTFによる画質劣化である、文字や画像エッジ部の細り、かすれ、切れ等を低減させるために、画像データとその遅延データ、または、注目画素と隣接画素との最大濃度データを注目画素データとする方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。この方法によれば、エッジ強調を行わないため濃度変化が生じず、したがってクリッピングを行うことなく、エッジ部の画像を膨張させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−075859号公報
【特許文献2】特開平05−344339号公報
【特許文献3】特開平06−152932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、画像出力機器のMTFによる画質劣化の程度は画像の周波数成分によって異なるため、その劣化量に応じてMTF補正量も変化し、該MTF補正の際に生じるクリッピングの程度も、周波数成分と画像データに依存して変化してしまう。このように、クリッピングの程度が周波数成分と画像データに依存して変化する場合、上記従来のクリッピングに対する補正方法では、画像出力時に生じる周波数成分ごとの画質劣化を補償することはできないという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献2に記載された上限または下限値との差分を周囲の画素に反映させる方法においても、画像の局所領域内における濃度を保存することはできるものの、画像劣化後の最大濃度や最小濃度を補償することは考慮されていなかった。
【0008】
また、上記特許文献3に記載されたエッジ部の画像を膨張させる方法では、文字や画像エッジ等の高周波成分における画質劣化を低減させることはできるものの、画像出力機器のMTFによって生じる全周波数帯域での画質劣化については考慮されていなかった。また、画像劣化後の最大濃度や最小濃度を補償することも考慮されていなかった。
【0009】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、以下の機能を有する画像処理装置および画像処理方法を提供することを目的とする。すなわち、MTF補正時に制限が必要となる周波数成分の補正量を、他の周波数成分によって補償することで、適切なMTF補正を可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための一手段として、本発明の画像処理装置は以下の構成を備える。
【0011】
すなわち、画像出力装置に出力する画像データに対し、該画像出力装置に応じたMTF補正を施す画像処理装置であって、前記画像出力装置のMTF特性を取得するMTF取得手段と、前記画像データの周波数成分を取得する周波数成分取得手段と、前記周波数成分取得手段で取得された各周波数成分について、前記MTF取得手段で取得されたMTF特性に基づいて、前記MTF補正を施す際の補正量を算出する補正量算出手段と、前記各周波数成分のうち、前記補正量の制限が必要となる第1の周波数成分について、該補正量を制限した制限後補正量と、該制限による該補正量の変化分である補正制限量を算出する補正量制限手段と、前記補正制限量を、前記第1の周波数成分とは異なる第2の周波数成分で補償するように、該第2の周波数成分に対する補償用補正量を算出し、該第2の周波数成分についての前記補正量に該補償用補正量を合成して補償後補正量を算出する補正制限量補償手段と、前記補正量、前記制限後補正量、および前記補償後補正量に基づいて、前記MTF補正を行うMTF補正手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構成からなる本発明によれば、MTF補正時に制限が必要となる周波数成分の補正量を、他の周波数成分によって補償することで、適切なMTF補正が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る一実施形態における画像処理装置の構成を示すブロック図、
【図2】本実施形態におけるMTF補正処理を示すフローチャート、
【図3】本実施形態における補正量の補償処理を示すフローチャート、
【図4】第2実施形態における画像処理装置の構成を示すブロック図、
【図5】第2実施形態におけるMTF補正処理を示すフローチャート、
【図6】本実施形態の補正量補償処理における周波数成分例を示すグラフ、
【図7】本実施形態の補正量補償処理における各周波数成分の輝度プロフィール例を示すグラフ、
【図8】本実施形態における補正量補償前後の輝度プロフィール例を示すグラフ、
【図9】本実施形態における補正量補償前後の正弦波画像例を示す図、
【図10】第2実施形態におけるMTF特性の取得処理を示すフローチャート、である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態において示す構成は一例に過ぎず、本発明は図示された構成に限定されるものではない。
【0015】
<第1実施形態>
●システム構成
本実施形態に係る画像処理装置の構成について、図1のブロック図を参照して説明する。まず101が本実施形態の画像処理装置であり、102はMTF補正処理の対象となる画像データを保持する画像保持部、103は画像データを印刷するための、インクジェットプリンタあるいは電子写真プリンタ等の画像出力装置である。
【0016】
画像処理装置101において、104は画像出力装置103のMTF特性を保持する、MTF保持部である。105は画像保持部102に保持されている画像データを、周波数空間のデータへと変換する周波数成分取得部である。106は、MTF保持部104に保持されているMTF特性に基づいて、各周波数成分のMTF補正量を算出する補正量算出部である。107は、画像出力装置103における出力可能な画像データ範囲に基づいて、補正量算出部106で算出された補正量に対して制限を行う必要があるか否かを判別する制限判別部である。
【0017】
108は、制限判別部107によって補正量に制限を行う必要があると判別された場合に、該当する周波数成分について、その補正量を制限した制限後補正量と、該制限による補正量の変化分である補正制限量を算出する補正量制限部である。109は、補正量が制限された場合に、該補正制限量を補償するために用いる、他の周波数成分を選択する補償用周波数成分選択部である。110は、補償用周波数成分選択部109によって選択された周波数成分の補償用補正量を、補正量制限部108で算出された補正制限量に基づいて算出する補正制限量補償部である。ここで算出された補償用補正量は、補正量算出部106で算出された、同周波数成分の補正量と合成されることによって、補償後補正量が算出される。
【0018】
111は、補正量算出部106で算出された補正量、補正量制限部108で算出された制限後補正量、及び補正制限量補償部110によって算出された補償後補正量を用いてMTF補正を行うMTF補正部である。112は、MTF補正部111によってMTF補正が施された周波数空間のデータを、画像出力装置103で出力する際の実空間画像データに変換する、出力画像データ算出部である。
【0019】
●MTF補正全体処理
以下、上記構成からなる本実施形態の画像処理装置101におけるMTF補正処理について、図2のフローチャートを用いて説明する。
【0020】
まずS201で、画像保持部102に保持されている処理対象の画像データを取得する。次にS202では周波数成分取得部105において、S201で取得した実空間上の画像データを、フーリエ変換等の処理を施すことによって周波数空間データへと変換する。次にS203では、MTF保持部104に保持されている画像出力装置103のMTF特性から、補正対象となる全ての周波数成分のMTFデータを取得する。次にS204では補正量算出部106において、S203で取得したMTFデータに基づき、画像のMTF補正に用いる補正量を、補正対象となる全ての周波数成分について算出する。ここでの補正量は、MTF補正によって、画像の周波数特性が画像出力装置103のMTFによる劣化前と等しくなるように、算出される。この補正量算出処理の詳細については後述する。
【0021】
次にS205では制限判別部107において、S204で算出したそれぞれの補正量について、該補正量を用いてMTF補正を行った場合に、該補正量に対して制限が必要となるか否かを判断する。この判断は、それぞれの補正量による周波数変換、すなわちMTF補正によって得られるであろう補正後画像データが、画像出力装置103で出力可能な画像データ範囲内にあるか否かに基づいて行わる。すなわち、MTF補正後の画像データが出力可能な画像データ範囲外であれば、クリッピングにより十分な補正が行えない可能性があるため、そのような周波数成分については補正量に制限が必要であると判断される。ここで制限が必要であると判断された場合にはS206に移行し、制限が必要でないと判断された場合にはS208へと移行する。
【0022】
S206では補正量制限部108において、S204で算出した補正量を、MTF補正後の画像データが画像出力装置103において出力可能な範囲内に収まるように制限した制限後補正量と、該制限による補正量の変化分である補正制限量を算出する。そしてS207で補償用周波数成分選択部109および補正制限量補償部110において、S206で算出された補正制限量を、他の周波数成分を用いて補償する。この補償処理の詳細については後述する。
【0023】
S208ではMTF補正部111において、S204で算出された補正量、S206で算出された補正制限量によって制限された補正量、およびS207で補償された補正量を用いて、周波数成分ごとのMTF補正を行う。なお、このMTF補正処理の詳細については後述する。
【0024】
次にS209では出力画像データ算出部112において、S208でMTF補正が施された周波数空間データを、逆フーリエ変換等の処理を施すことによって実空間データへ変換し、画像出力装置103に該実空間データを出力画像データとして送信する。そしてS210では画像出力装置103において、S209で送信された出力画像データを出力(プリントアウト)し、処理を終了する。
【0025】
●補正量の算出処理
以下、上記S204における、MTFデータに基づいて補正量を算出する処理について、詳細に説明する。
【0026】
画像出力装置103のMTFによる画質劣化は、周波数空間において、出力する画像データと劣化を表すMTFとの乗算値として、以下に示す式(1)のように表現される。
【0027】
G(u,v)=F(u,v)×H(u,v) ・・・(1)
式(1)において、F(u,v)は画像出力装置103に入力される出力対象の画像データを表し、H(u,v)は画像出力装置103のMTF特性、即ち劣化関数を表す。そしてG(u,v)は、画像出力装置103より、MTFによる劣化を伴って出力された画像を表す。
【0028】
式(1)で示される画像の劣化に対し、MTF補正を行う方法として、画像復元フィルタを用いた画像復元方法が知られている。MTF補正に用いられる画像復元フィルタとしては、逆フィルタやウィナーフィルタが一般的である。例えば逆フィルタは、以下の式(2)に示すように、劣化関数であるH(u,v)の逆関数を用いたI(u,v)によって表される。
【0029】
I(u,v)=1/H(u,v) ・・・(2)
しかしながら、逆フィルタは、ノイズ成分を考慮した設計がなされていないため、劣化画像にノイズがのっている場合には、ノイズ成分まで強調してしまうことがある。そこで、ノイズ成分を制御した画像復元フィルタとして、以下の式(3)で示されるウィナーフィルタが知られている。
【0030】
W(u,v)=Hc(u,v)/(|H(u,v)|2+Γ) ・・・(3)
式(3)において、W(u,v)がウィナーフィルタであり、H(u,v)は劣化関数、Hc(u,v)はH(u,v)の複素共役、Гはノイズ成分を制御するパラメータ、を表す。
【0031】
本実施形態における補正量は、MTF補正フィルタのフィルタ係数に相当し、上記いずれかの画像復元フィルタにおいて、劣化関数H(u,v)として画像出力装置103のMTF特性を用いることで算出される。ただし、使用する画像復元フィルタとしては、画像の劣化を復元できるものであれば、その形式は上記2種類のフィルタに限定されない。
【0032】
また、1次元のMTF補正フィルタ係数を用いて、2次元のMTF補正フィルタを作成することも可能である。この作成方法としては、1次元のMTF補正フィルタ係数を原点中心に回転させる方法や、2方向のMTF補正フィルタ係数を用いて、その間を補間する方法、また、複数方向のMTF補正フィルタ係数を用いてその間を補間する方法、等がある。ただし、2次元フィルタの作成方法は、これら方法に限定されるものではない。
【0033】
●補正量の補償処理
以下、上記S207における、S206で算出された補正制限量を他の周波数成分を用いて補償する処理について、図3のフローチャートを用いて詳細に説明する。以下、補正制限量が算出された周波数成分を注目周波数成分(第1の周波数成分)とし、該注目周波数成分の補正制限量の補償に用いられる他の周波数成分を補償用周波数成分(第2の周波数成分)と称する。
【0034】
まずS301で補償用周波数成分選択部109において、注目周波数成分における補正制限量の補償に用いられる他の周波数成分を、補償用周波数成分として選択する。
【0035】
次にS302では補正制限量補償部110において、S206で算出された補正制限量に基づいて、S301で選択された補償用周波数成分のそれぞれに割り当てる補償用補正量を算出する。
【0036】
ここで決定される補償用周波数成分とそれぞれの補償用補正量は、注目周波数成分と、その補償前の補正量によるMTF補正後の画像データにおける出力可能な画像データ範囲との差分に基づき、適応的に調整される。例えば、実験等に基づいて最適な周波数成分およびその補正量を設定すればよい。
【0037】
そしてS303では補正制限量補償部110において、S204で取得した各周波数成分の補正量のうち、補償用周波数成分に対応する補正量に対し、S302で算出した補償用補正量を合成する。これにより、補償用周波数成分について、本実施形態のMTF補正に用いられる補償後補正量が算出される。
【0038】
このように本実施形態においては、注目周波数成分に対する補正制限量を、補償用周波数成分によって補償する。このとき、ある周波数成分における補正量は、以下の式(4)に示すようにモデル化される。
【0039】
C(f)={k(f,f)+k(f,f2)+k(f,f3)+…}×D(f) ・・・(4)
式(4)において、D(f)はMTF補正前の周波数成分fを示し、C(f)はMTF補正後の周波数成分fを示す。そして、k(f,f)はS206で算出された周波数成分fの制限後補正量を示し、k(f,f2),k(f,f3)はそれぞれ、周波数成分f2,f3においてその補正制限量を補償するために周波数成分fを用いた際の、周波数成分fの補償用補正量を示す。
【0040】
ここで図6に、上記式(4)に対して具体的な数値を適用して、注目周波数成分の補正制限量を他の周波数成分(補償用周波数成分)を用いて補償したグラフを示す。すなわち図6は、本実施形態によるMTF補正前後の画像における周波数スペクトル例を示し、補償用周波数成分として、注目周波数の1/3周期の高周波成分を用いた例を示している。図6において、601が注目周波数成分、602がその補償処理に用いられる補償用周波数成分であり、注目周波数成分601をMTF補正する際に、補償用周波数成分についても補正量が発生している例を示している。すなわちこの場合、注目周波数成分601については補正制限量によって制限された補正量(制限後補正量)までの補正が施され、この補正制限量分が、補償用周波数成分602の補正量(補償後補正量)によって補償されていることが分かる。
【0041】
ここで図7に、図6に示したMTF補正を正弦波データに適用した際の、各周波数成分の輝度プロフィールを示す。図7において、701がMTF補正前の注目周波数成分の正弦波データを示す。702は注目周波数成分における制限後補正量を示し、この例では、正弦波データ701の振幅の1/xに相当する。703は、補償用周波数成分の補正量(補償用補正量)を示す。この例では、注目周波数成分の1/3周期の高周波成分を、補償用周波数成分として用いている。この補償用周波数成分の補正量は、注目周波数成分の補正制限量等に応じて決定されるが、ここでは補償用補正量すなわち振幅を、注目周波数成分の制限後補正量702と等しくした例を示す。
【0042】
上述したように本実施形態の補償処理によれば、703に示す補償用周波数成分の補正量は、S204で取得した同じ周波数成分の補正量と合成され、MTF補正に用いられる。すると、このMTF処理による注目周波数fについての最終的な補正量は、704に示すように、702と703の正弦波を足し合わせたものに相当し、オリジナルの正弦波データ701に対してMTF補正後の正弦波データ705が得られる。705によれば、注目周波数成分の正弦波ピーク部の値、および正弦波の中心を変化させることなく、ピーク周辺部の濃度がピークの濃度に近い値に変換されていることが分かる。なお、本実施形態のMTF補正によれば、正弦波ピーク部の変化量は補正制限量に応じて低減するものであり、必ずしもゼロとはならない。
【0043】
例えば、インクジェットプリンタの場合、ハイライト部における濃度は、周辺画素のドットゲインの影響で濃度増加が生じてしまい、結果としてMTFの劣化が生じてしまう。したがって図7に示すように、ピーク周辺部の濃度をピークの濃度に近づけることによって、周辺画素のドットゲインの影響を低減し、結果として、補正制限量を補償することが可能である。
【0044】
図8は、本実施形態におけるMTF補正前後の輝度プロフィール例を示したグラフである。図8によれば上述したように、輝度の上限値および下限値について、それぞれの周辺部が該上限値および下限値に近づくように、MTF補正が行われていることが分かる。そして図9に、同じくMTF補正前後の正弦波画像例を示す。図9によれば、図8に示すように輝度の上限値および下限値にそれぞれの周辺部が近づくように補正されることによって、コントラストが強調され、MTFによる劣化が低減されていることが分かる。
【0045】
ただし、本発明において注目周波数成分の補正制限量を補償する方法は、上記補償方法に限定されるものではない。
【0046】
●MTF補正処理
以下、上記S208におけるMTF補正処理について詳細に説明する。本実施形態のMTF補正処理としては、一般的な画像復元フィルタを用いた画像復元を行うとする。
【0047】
周波数空間でのフィルタリングは、MTF補正処理の対象画像と、実空間でのMTF補正フィルタとの乗算値として、以下の式(5)のように表現される。
【0048】
Q(u,v)=P(u,v)×I(u,v) ・・・(5)
式(5)において、P(u,v)はMTF補正処理の対象画像データを表し、I(u,v)はMTF補正フィルタとしての逆フィルタを表し、Q(u,v)はMTF補正後の画像データを表す。ただし本実施形態における周波数変換処理はこの方法に限定されるものではない。
【0049】
以上説明したように本実施形態によれば、補正対象の画像データにおいて、通常のMTF補正では出力可能範囲を超えるために十分な補正が行えないと予想される周波数成分に対し、他の周波数成分を調整することによって、当該周波数成分の劣化量を補償する。これにより、画像出力装置において出力可能な画像データ範囲の上限または下限に近い周波数成分に対しても、適切なMTF補正を行うことが可能となる。
【0050】
<第2実施形態>
以下、本発明に係る第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、注目周波数成分に対するMTF補正後の画像データが画像出力データ範囲を超えてしまう場合に、他の周波数成分による補償を行う例を示した。すなわち、該補償が必要か否かの判定を行う際には、全ての周波数成分に対するMTF補正後の値に基づき、実空間データへの変換を行って、画像出力データの値を得る必要があった。第2実施形態では、画像出力装置のMTFに基づいて、予め全ての周波数成分について、MTF補正による周波数変換後の上限値を設定しておき、周波数成分ごとに、他の周波数成分による補償が必要か否かを判定することを特徴とする。第2実施形態ではまた、画像出力装置のMTF特性を、測定によって取得する例を示す。
【0051】
●システム構成
第2実施形態に係る画像処理装置の構成について、図4のブロック図を参照して説明する。まず401が本実施形態の画像処理装置であり、402はMTF補正処理の対象となる画像データを保持する画像保持部、403は画像データを印刷するための、インクジェットプリンタあるいは電子写真プリンタ等の画像出力装置である。
【0052】
画像処理装置401において、404は画像出力装置403のMTF特性を保持する、MTF保持部である。405は画像保持部402に保持されている画像データを、周波数空間のデータへと変換する周波数成分取得部である。406は、MTF保持部404に保持されているMTF特性に基づいて、各周波数成分のMTF補正量を算出する補正量算出部、である。
【0053】
407は、MTF保持部404に保持されているMTF特性に基づいて、周波数成分ごとに周波数変換後の上限値を算出し、該上限値を用いて補正量に対する制限を行って、制限後補正量と、その変化分である補正制限量を算出する補正量制限部である。408は、注目周波数成分に対する補正制限量を補償するために用いる補償用周波数成分を選択する補償用周波数成分選択部である。409は、補償用周波数成分選択部408によって選択された補償用周波数成分の補正量(補償用補正量)を、補正量制限部407で算出された補正制限量に基づいて算出する補正制限量補償部である。ここで算出された補償用補正量は、補正量算出部406で算出された、同周波数成分の補正量と合成されることによって、補償後補正量が算出される。410は、補正量算出部406で算出された補正量、補正量制限部407で算出された制限後補正量、及び補正制限量補償部409で算出された補償後補正量を用いてMTF補正を行うMTF補正部である。411は、MTF補正部410によってMTF補正が施された周波数空間のデータを、画像出力装置403で出力する際の実空間画像データに変換する、出力画像データ算出部である。
【0054】
そして412は、画像出力装置403を用いて出力した周波数チャートから、画像出力装置103のMTF特性を測定するための、スキャナや顕微鏡等のチャート測定装置である。チャート測定装置412で測定されたMTF特性は、MTF保持部404に格納される。
【0055】
●MTF補正全体処理
以下、上記構成からなる第2実施形態の画像処理装置401におけるMTF補正処理について、図5のフローチャートを用いて説明する。
【0056】
まずS501において、チャート測定装置413を用いて、画像出力装置403のMTF特性を取得し、MTF保持部に格納する。なお、このMTF特性取得処理の詳細については後述する。
【0057】
そしてS502で、画像保持部402に保持されている画像データを取得する。次にS503では、S502で取得した実空間上の画像データを、フーリエ変換等の処理を施すことによって周波数空間データへと変換する。次にS504では、MTF保持部404に保持されている画像出力装置403のMTF特性から、補正対象となる全ての周波数成分のMTFデータを取得する。次にS505では補正量算出部406において、S504で取得したMTFデータに基づき、画像のMTF補正に用いる補正量を、補正対象となる全ての周波数成分について算出する。この補正量は、上述した第1実施形態におけるS204と同様に、MTF補正によって画像の周波数特性が画像出力装置403のMTFによる劣化前と等しくなるように、算出される。
【0058】
次にS506では補正量制限部407において、MTF保持部404に保持された、画像出力装置403のMTF特性に基づいて、周波数成分ごとに周波数変換後の上限値(補正上限値)を算出する。
【0059】
そしてS507では補正量制限部407において、S505で算出した補正量を、S506で算出した補正上限値に基づいて制限し、制限後補正量および補正制限量を算出する。すなわち、該補正量による周波数変換結果が補正上限値を超えるような注目周波数成分について、該周波数変換結果が該補正上限値を超えないように、補正制限量を算出する。
【0060】
そしてS508で補償用周波数成分選択部408および補正制限量補償部409において、S507で算出された補正制限量を、他の周波数成分(補償用周波数成分)によって補償する。ここでの補正量の補償処理は、上述した第1実施形態におけるS207と同様である。
【0061】
S509ではMTF補正部410において、S508までに算出された各補正量を用いて、周波数成分ごとのMTF補正を行う。次にS510では出力画像データ算出部411において、S509で変換された周波数空間データを、逆フーリエ変換等の処理を施すことによって実空間データへ変換し、画像出力装置403に該実空間データを出力画像データとして送信する。そしてS511では画像出力装置403において、S510で送信された出力画像データを出力(プリントアウト)し、処理を終了する。
【0062】
●MTF特性の取得処理
以下、上記S501における、画像出力装置403のMTF特性の取得処理について、図10のフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0063】
まずS101で画像出力装置403を用いて、MTF測定用の周波数チャートを出力する。次にS102で、S101で出力した周波数チャートをチャート測定装置413にて測定する。そしてS103において、S102でのチャート測定値に基づいて画像出力装置403のMTF特性を算出し、これをMTF保持部404に格納する。
【0064】
第2実施形態においては、画像出力装置403のMTFを測定する方法として、以下の方法が考えられる。まず、MTF測定用の周波数チャートとして正弦波チャートを用い、該正弦波チャートの最大濃度値と最小濃度値からMTF特性を算出する方法がある。また、MTF測定用の周波数チャートとして矩形波チャートを用い、該矩形波チャートの最大濃度値と最小濃度値からCTF(Contrast Transfer Function)を算出する。そして、該CTFをColtmanの補正式を用いてMTF特性に変換する方法がある。ただし、第2実施形態におけるMTF特性の測定方法は上記方法に限定されず、MTF特性を測定することが可能な方法であれば適用可能である。
【0065】
また、画像出力装置403を用いて出力したMTF測定用の周波数チャートを画像データ化して、MTF特性を算出する方法も考えらえる。例えば、まずスキャナや顕微鏡等の画像入力機器を用いて出力チャートのデータ化を行い、チャートの濃度分布を測定する。そしてチャートの最大濃度値と最小濃度値からMTF特性を算出し、該算出したMTF特性から画像入力機器のMTF特性をキャンセルすることによって、画像出力装置403単体のMTF特性を算出することができる。ただし、チャートの画像データ化方法、及び、該画像データからMTF特性を算出する方法についても、上記方法に限定されない。
【0066】
第2実施形態においては、以上のようなMTF測定方法を実行することによって、画像出力装置403のMTF測定を行う。
【0067】
以上説明したように第2実施形態によれば、補正対象の画像データにおいて、通常のMTF補正では、周波数変換後に予め定められた上限値を超えてしまう周波数成分に対し、上述した第1実施形態と同様に、他の周波数成分を調整して劣化量を補償する。第2実施形態においては、ある周波数成分に対して補正量の制限が必要であるか否かを、周波数変換後の上限値に基づいて判定するため、上述した第1実施形態のように実空間上の画像データまで再現する必要がなく、より高速な判定が可能となる。
【0068】
なお、上述した第1および第2実施形態においては、画像出力装置のMTF特性に基づいて各周波数成分の補正量を算出する例を示したが、MTF特性は出力媒体に応じて異なるため、出力媒体ごとのMTF特性を考慮することが望ましい。
【0069】
<その他の実施形態>
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像出力装置に出力する画像データに対し、該画像出力装置に応じたMTF補正を施す画像処理装置であって、
前記画像出力装置のMTF特性を取得するMTF取得手段と、
前記画像データの周波数成分を取得する周波数成分取得手段と、
前記周波数成分取得手段で取得された各周波数成分について、前記MTF取得手段で取得されたMTF特性に基づいて、前記MTF補正を施す際の補正量を算出する補正量算出手段と、
前記各周波数成分のうち、前記補正量の制限が必要となる第1の周波数成分について、該補正量を制限した制限後補正量と、該制限による該補正量の変化分である補正制限量を算出する補正量制限手段と、
前記補正制限量を、前記第1の周波数成分とは異なる第2の周波数成分で補償するように、該第2の周波数成分に対する補償用補正量を算出し、該第2の周波数成分についての前記補正量に該補償用補正量を合成して補償後補正量を算出する補正制限量補償手段と、
前記補正量、前記制限後補正量、および前記補償後補正量に基づいて、前記MTF補正を行うMTF補正手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記補正量制限手段は、前記各周波数成分のうち、前記補正量によるMTF補正後の画像データが前記画像出力装置で出力可能な画像データ範囲を超える周波数成分について、該MTF補正後の画像データが該出力可能な画像データ範囲内に収まるように、前記制限後補正量と前記補正制限量を算出することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記補正量制限手段は、前記各周波数成分について、前記MTF補正による周波数変換後の上限値を算出し、前記補正量算出手段で算出された補正量による周波数変換結果が該上限値を超える周波数成分について、該周波数変換結果が該上限値を超えないように、前記制限後補正量と前記補正制限量を算出することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記補正制限量補償手段は、前記第1の周波数成分に対応する正弦波のピーク部の変化量が低減するように、前記補償用補正量を算出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記補正制限量補償手段は、前記第1の周波数成分に対応する正弦波の中心が変化しないように、前記補償用補正量を算出することを特徴とする請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
さらに、複数のMTF特性を保持するMTF保持手段を有し、
前記MTF取得手段は、前記画像出力装置に対応するMTF特性を前記MTF保持手段から取得することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
さらに、前記画像出力装置のMTF特性を測定する測定手段を有し、
前記測定手段で測定されたMTF特性を、前記MTF保持手段で保持することを特徴とする請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
画像出力装置に出力する画像データに対し、該画像出力装置に応じたMTF補正を施す画像処理方法であって、
前記画像出力装置のMTF特性を取得するMTF取得ステップと、
前記画像データの周波数成分を取得する周波数成分取得ステップと、
前記周波数成分取得ステップにおいて取得された各周波数成分について、前記MTF取得ステップにおいて取得されたMTF特性に基づいて、前記MTF補正を施す際の補正量を算出する補正量算出ステップと、
前記各周波数成分のうち、前記補正量の制限が必要となる第1の周波数成分について、該補正量を制限した制限後補正量と、該制限による該補正量の変化分である補正制限量を算出する補正量制限ステップと、
前記補正制限量を、前記第1の周波数成分とは異なる第2の周波数成分で補償するように、該第2の周波数成分に対する補償用補正量を算出し、該第2の周波数成分についての前記補正量に該補償用補正量を合成して補償後補正量を算出する補正制限量補償ステップと、
前記補正量、前記制限後補正量、および前記補償後補正量に基づいて、前記MTF補正を行うMTF補正ステップと、
を有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項9】
コンピュータで実行されることにより、該コンピュータを請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−24050(P2011−24050A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168277(P2009−168277)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】