説明

画像処理装置及びその制御方法、プログラム

【課題】 畳み込み演算にかかる演算量を低減しつつ、画像の高域成分に対してもぼけ補正が行う。
【解決手段】 入力画像を複数の帯域に分割して帯域分割画像を生成する。生成した複数の帯域の各帯域についての帯域分割画像に対して、ぼけ補正を行うための複数のフィルタを用いて畳み込み演算を実行する。生成した複数の各帯域についての画像を帯域合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像のぼけ補正を行う補正処理を実行する画像処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等の撮像装置では、被写体からの光をレンズ等で構成される撮像光学系によってCCDやCMOS等の撮像素子に導く。撮像素子は撮像光学系を通った光を電気信号に変換する。この電気信号に対し、AD変換やデモザイキング等の、電気信号を画像化するために必要な処理を施すことで、撮影画像を得ることができる。撮影画像の画質は、撮像光学系の影響を受ける。
【0003】
例えば、高性能なレンズを使用した場合は、ぼけの小さい、くっきりとした画像を得ることができる。逆に、安価な性能の低いレンズを使用した場合に得られる画像はぼけている。星空を撮影した場合、ぼけが小さいレンズを用いて撮影した画像は、星の一つ一つがくっきりとした点のようになる。逆に、ぼけが大きいレンズを用いて撮影した画像は、星が一点ではなくある程度の広がりをもってぼけている。また、人物を撮影した場合には、ぼけの小さいレンズを用いると、髪の毛の一本一本まで細やかに記録された画像を得ることができる。逆に、ぼけの大きいレンズでは髪の毛の一本一本がぼやけて撮影されるため、精細感に欠けた画像が得られてしまう。
【0004】
撮像光学系に起因する画像のぼけを補正する方法としては、撮影画像に画像処理を施すことで、撮像光学系に起因する画像のぼけを補正する方法が知られている。この方法では、予め撮像光学系のぼけの特性をぼけ特性データとしてデータ化しておき、このぼけ特性データに基づいて画像のぼけを補正する。
【0005】
撮像光学系のぼけ特性をデータ化する方法として、例えば、点像分布関数(PSF)によって、ぼけ特性を表す方法がある。PSFは被写体の一点がどの様にぼけるかを表すものである。例えば、暗黒下で体積が非常に小さい発光体を撮影した場合のセンサ面上での光の2次元的分布が、かかる撮像光学系のPSFにあたる。ぼけの小さい理想的な撮像光学系ではPSFはほぼ一点であり、ぼけの大きい撮像光学系ではPSFは一点ではなく、ある程度の広がりを持っている。実際に撮像光学系のPSFを特性データとして取得する際には、必ずしも点光源のような被写体を撮影する必要はない。例えば、白黒のエッジを有するチャートを撮影し、撮影画像からチャートに対応した計算方法によってPSFを計算する方法等が知られている。また、撮像光学系の設計データから計算によってPSFを得ることも可能である。
【0006】
PSFで表される特性データ(PSFデータ)を用いてぼけを補正する方法では、逆フィルタによる方法が良く知られている。具体的な逆フィルタの構成方法を数式を用いて説明する。ぼけのない理想的な撮像光学系を用いて撮影した撮影画像をf(x,y)とする。x,yは画像の二次元上の位置を示す符号であり、f(x,y)は位置x,yでの画素値を表している。一方で、ぼけのある撮像光学系で撮影した撮影画像をg(x,y)とする。また、ぼけのある撮像光学系のPSFをh(x、y)で表す。するとf,g,hには次の関係が成り立つ。
【0007】
g(x,y)=h(x,y)*f(x,y)
尚、*は畳み込み演算を意味している。ぼけを補正することは、ぼけのある撮像光学系で撮影した画像g(x,y)とかかる撮像光学系のPSFであるh(x,y)から、ぼけのない撮像光学系で取得したf(x,y)を推定することと言い換えることもできる。また、これをフーリエ変換して空間周波数面での表示形式に変換すると、以下の式のように周波数毎の積の形式になる。
【0008】
G(u,v)=H(u,v)・F(u,v)
H(u,v)はPSFをフーリエ変換したものであり、光学伝達関数(OTF)と呼ばれている。u(u,v),v(u,v)は2次元周波数面での座標、即ち、周波数を示す。G(u,v)はg(x,y)のフーリエ変換であり、F(u,v)はf(x,y)のフーリエ変換である。
【0009】
撮影されたぼけのある画像から、ぼけのない画像を得るためには、以下のように両辺をHで除算すればよい。
【0010】
G(u,v)/H(u,v)=F(u,v)
このF(u,v)を逆フーリエ変換して実面に戻すことで、ぼけのない画像f(x,y)が回復像として得られる。
【0011】
ここで、H-1を逆フーリエ変換したものをRとすると、以下の式のように実面での画像に対する畳み込み演算を行うことで同様にぼけのない画像が得られる。
【0012】
g(x,y)*R(x,y)=f(x,y)
このR(x,y)を逆フィルタと呼ぶ。実際にはH(u,v)が0になる周波数(u,v)では0での除算が発生するため、逆フィルタR(x,y)は多少の変形がなされる。また、通常、OTFは高周波ほど値が小さくなるため、その逆数である逆フィルタは高周波ほど値が大きくなる。従って、逆フィルタを用いて、ぼけのある撮影画像に畳み込み演算処理を行うと、撮影画像の高周波成分が強調される。しかし、実際の画像ではノイズも含まれており、ノイズは一般的に高周波であるため、逆フィルタではノイズを強調してしまう。このため、R(x,y)を式変形し、逆フィルタほど高周波を強調しない特性を持たせる方法が知られている。ノイズを考慮して高周波をあまり強調しないフィルタとしてウィナーフィルタが有名である。
【0013】
以上のように現実的には、撮影画像にノイズが混入したり、OTFが0になる周波数がある場合等の理想条件との乖離により、ぼけを充分に取り除くことはできないが、上記処理により画像のぼけを低減することができる。以降では、逆フィルタやウィナーフィルタ等のぼけ補正で用いるフィルタをまとめて回復フィルタと呼ぶ。前述したように、回復フィルタは撮像光学系のPSFを用いて計算することに特徴がある。
【0014】
回復フィルタは、ぼけが大きいほどタップ数(フィルタサイズ)が大きくなる傾向がある。そのため、大きなぼけを補正する場合、回復フィルタのタップ数が大きくなり、フィルタリングに要する回路規模が増大してコストが増えるという問題がある。
【0015】
特許文献1によれば、画像を低域成分と高域成分に帯域分割し、低域成分にのみ回復フィルタを畳み込み演算して高域成分と帯域合成する。高域成分には畳み込み演算を行わないため演算量を削減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007−72558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1の方法では画像の高域成分に対してぼけ補正がなされないため、細かなテクスチャなど画像の高域成分はぼけたままである。
【0018】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、撮像光学系に起因する画像のぼけを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するための本発明による画像処理装置は以下の構成を備える。即ち、
画像のぼけ補正を行う補正処理を実行する画像処理装置であって、
入力画像を複数の帯域に分割して帯域分割画像を生成する画像帯域分割手段と、
前記画像帯域分割手段が生成した前記複数の帯域の各帯域についての帯域分割画像に対して、前記ぼけ補正を行うための複数のフィルタを用いて畳み込み演算を実行する畳み込み演算手段と、
前記畳み込み演算手段によって生成した前記複数の各帯域についての画像を帯域合成する帯域合成手段と
を備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、畳み込み演算にかかる演算量を低減しつつ、画像の高域成分に対してもぼけ補正が行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態1の画像処理装置の構成を示す図である。
【図2】実施形態1の信号処理部の詳細構成を示す図である。
【図3】実施形態1の信号処理部の部分詳細構成を示す図である。
【図4】実施形態1の畳み込み演算部の詳細構成を示す図である。
【図5】実施形態2の信号処理部の部分詳細構成を示す図である。
【図6】実施形態1及び2の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0023】
<実施形態1>
<画像処理装置の全体構成>
図1は実施形態1の画像処理装置の構成を示す図である。
【0024】
撮像部101は、ズームレンズ、フォーカスレンズ、ぶれ補正レンズ、絞り、シャッター、光学ローパスフィルタ、iRカットフィルタ、カラーフィルタ、及びセンサ(CMOSやCCD等)等の撮像光学系から構成され、被写体の光量を検知する。
【0025】
A/D変換部102は、被写体の光量をデジタル値に変換する。信号処理部103は、デジタル値にホワイトバランス処理、ガンマ処理、ノイズ低減処理等の画像処理を行い、デジタル画像を生成する。D/A変換部104は、デジタル画像に対しアナログ変換を行う。エンコーダ部105は、デジタル画像をJPEGやMPEG等のファイルフォーマットに変換する処理を行う。
【0026】
メディアインターフェース106は、PC(パーソナルコンピュータ)、その他メディア(例えば、ハードディスク、メモリーカード、CFカード、SDカード、USBメモリ)に接続するためのインターフェースである。
【0027】
CPU107は、画像処理装置の各構成要素の処理全てに関わり、ROM108やRAM109に記憶された命令を順に読み込み、解釈し、その結果に従って処理を実行する。また、ROM108とRAM109は、その処理に必要なプログラム、データ、作業領域等をCPU107に提供する。
【0028】
撮像系制御部110は、フォーカスを合わせる、シャッターを開く、絞りを調節する等の、CPU107から指示された撮像系の制御を行う。操作部111は、ボタンやモードダイヤル等が該当し、これらを介して入力されたユーザ指示を受信する。キャラクタージェネレーション部112は、文字やグラフィック等の画像を生成する。
【0029】
表示部113は、一般的には液晶ディスプレイが広く用いられており、キャラクタージェネレーション部112やD/A変換部104から受信した撮影画像や文字の表示を行う。また、タッチスクリーン機能を有していても良く、その場合は、ユーザ指示を操作部111の入力として扱うことも可能である。
【0030】
尚、画像処理装置の構成要素は上記以外にも存在するが、本件発明の主眼ではないので、説明を省略する。
【0031】
また、本発明の構成要素は、複数の機器から構成されるシステムに適用しても、一つの機器からなる装置に適用しても良い。本件発明の目的は、前述の実施形態の機能を実現するプログラムをシステムのコンピュータ(またはCPUまたはMPU)が実行しても達成される。この場合、プログラム自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0032】
プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のデータ保存部、ROMなどを用いることができる。また、コンピュータが読み出したプログラムを実行することにより、前述した実施形態の機能が実現されるだけではない。そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS等が実際の処理の一部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。さらに、プログラムの指示内容をシステムの機能拡張ボードに備わるCPUなどが実行し、その処理で前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0033】
本発明のぼけ補正処理は、信号処理部103において実行されることが好適である。信号処理部103の詳細図を図2に示す。図2の信号処理部103では、入力のデジタル画像に対して、画質向上のための一連の処理が行われる。例えば、ノイズ低減、ホワイトバランス制御(ホワイトバランス制御部202)、ぼけ補正、色再現性を向上させるための色変換(色変換部203)、ガンマ補正等である。特に、ぼけ補正は、信号処理部103のぼけ補正部201によって実行され、画質向上を目的として行われる各種の処理の中の一つとして実施されることが好適である。
【0034】
<演算量削減の原理>
画像回復は画像に対して回復フィルタを畳み込む演算でなされる。画像をI(i,j)、回復フィルタをf(i,j)、回復後の画像をr(i,j)とすると、
【0035】
【数1】

【0036】
と表すことができる。
【0037】
ここで、(1)式を式変形して、(2a)〜(2d)式の4つの式を得る。
【0038】
【数2】

【0039】
ここで、
【0040】
【数3】

【0041】
である。説明の簡単のためNを偶数として以降の議論を進める。ここで、(2a)〜(2b)式は複雑であるため、次式で定義される省略記号を用いる。
【0042】
【数4】

【0043】
すると、(2)式は、
【0044】
【数5】

【0045】
と行列を用いて表すことができる。
【0046】
さて、ウェーブレット変換を次式のように定義する。
【0047】
【数6】

【0048】
ここで(6)式の左辺は帯域分割された帯域分割画像である。(6)式の変換によりLLは画像I(i,j)の縦の低周波成分と横の低周波成分に応じた画像となる。同様に、LH,HL,HHはそれぞれ画像I(i,j)の縦の低周波成分と横の高周波成分、縦の高周波成分と横の低周波成分、縦の高周波成分と横の高周波成分、に応じた画像である。
【0049】
LL〜HHの各成分の画像は帯域分割によりサイズが縦横半分になる。(6)式中の4x4の行列をTとおく。すなわち、
【0050】
【数7】

【0051】
である。行列Tがウェーブレット変換を行う役割を持つ。(5)式の両辺にTをかけ、単位行列であるT-1Tを挿入すると、
【0052】
【数8】

【0053】
を得る。ここで、(8)式の左辺は、ぼけ補正がなされた画像(以降、回復画像)をウェーブレット変換したものであるから、
【0054】
【数9】

【0055】
と表すことができる。ここで、rLL、rLH、rHL、rHHは回復後の画像のウェーブレット変換である。
【0056】
(8)式の右辺も同様に、
【0057】
【数10】

【0058】
と表すことができる。ここで、ILL、ILH、IHL、IHHは入力画像のウェーブレット変換である。
さらに、
【0059】
【数11】

【0060】
と定義すると、(1)式の畳み込み演算は、(8),(9),(10),(11)式を用いて、
【0061】
【数12】

【0062】
と表すことができる。
【0063】
さて、(1)式を変形して(12)式にした。(1)式では一回の畳み込み演算となり、(12)式では16回の畳み込み演算になっている。さらに、入力画像サイズは帯域分割により縦横約半分になっている。また、後述するように(4),(11)式で定義されるフィルタのサイズも縦横約半分となる。畳み込み演算の乗算回数は、画像サイズ(面積)、フィルタサイズ(面積)、畳み込み演算の回数におおよそ比例する。そのため、(1)式を(12)式のように変形することで乗算回数はおおよそ(1/4)×(1/4)×16=1で変わらない。このままでは、式が複雑になっただけでメリットが少ない。以下に明らかになるが、(12)式を詳細に計算すると演算量自体が削減できることが示される。
【0064】
本発明では、(11)式で定義される左辺の16個のフィルタを子フィルタと呼ぶ。これは、(11)式の左辺が、複数の帯域の分割前の入力画像についての回復フィルタf(i,j)から生成されていることからである。
【0065】
子フィルタは(4)、(7)、(11)式によって計算することができる。具体的な計算例は後述するが、すべての子フィルタは以下の形式により表すことができる。
【0066】
【数13】

【0067】
(13)式において、ID1,ID2は、LL,LH,HL,HHのいずれかを表す。wID1-ID2は、3×3の2次元帯域分割フィルタであり、子フィルタ16個のそれぞれに対応して16個存在する。また、↓は2次元の間引き処理を表す。例えば、
【0068】
【数14】

【0069】
のように、縦横一つおきに間引く処理である。この間引き処理によってサイズが縦横約半分になる。すると、(13)式から、子フィルタは回復フィルタに帯域分割フィルタをかけた後、縦横約半分に間引くことにより得られる。すると、子フィルタの大きさは回復フィルタのおおよそ縦横半分になる。帯域分割フィルタwID1-ID2は、(4),(7),(11)式によって計算することができる。計算の過程から帯域分割フィルタは、画像を帯域分割する変換行列に応じて計算されるという特徴をもち、回復フィルタには依存しないという特徴をもつ。(7)式の変換行列に対応する帯域分割フィルタを下記に表す。
【0070】
【数15a】

【0071】
【数15b】

【0072】
【数15c】

【0073】
【数15d】

【0074】
【数15e】

【0075】
【数15f】

【0076】
【数15g】

【0077】
【数15h】

【0078】
【数15i】

【0079】
【数15j】

【0080】
【数15k】

【0081】
【数15l】

【0082】
【数15m】

【0083】
【数15n】

【0084】
【数15o】

【0085】
【数15p】

【0086】
式(15a)から、wLL-LLは縦横方向ともにローパスフィルタになっている。式(15b)から、wLL-LHは縦方向にはローパス、横方向にはバンドパスフィルタとなっている。式(15c)から、wLL-HLは縦方向にはバンドパスフィルタ、横方向にはローパスフィルタである。式(15d)から、wLL-HHは縦横方向ともにバンドパスフィルタである。ID1=LLの場合以外の帯域分割フィルタwID1-ID2も同様に、縦か横方向にローパス・バンドパス・ハイパスのいずれかの特性を有するという特徴がある。そのため、(13)式から、子フィルタは回復フィルタの特定の帯域の特性から作られていることが分かる。本発明では、(13)式により回復フィルタを帯域分割していると言える。
【0087】
以上の方法で得られた帯域分割フィルタwID1-ID2には、次の特徴がある。すなわち、
【0088】
【数16】

【0089】
帯域分割フィルタwID1-ID2が(16)式の対称性を持つことから、(13)式を用いて子フィルタの対称性が次式のように決まる。
【0090】
【数17】

【0091】
(17)式はどのような回復フィルタであっても成立する恒等式である。さらには、回復フィルタに限らずとも、2次元のフィルタであれば(12)式の形式で畳み込みを表現したときに、常に成り立つ関係式である。次に、(17)式で表される子フィルタの対称性を利用して、畳み込みにかかる演算量を削減する。まず、(12)式を畳み込み演算の記号*を用いて表して次式を得る。
【0092】
【数18】

【0093】
次に、子フィルタの直交成分を次のように置き換える。
【0094】
【数19】

【0095】
(18)式を(19)式を用いて式変形すると、
【0096】
【数20】

【0097】
(20)式を得る。(20)式をみると、同じ畳み込み演算を行っている箇所が複数見られる。例えば、回復画像のLL成分rLLを計算する(20a)式の第2項と、rLHを計算する(20b)式の第一項は同じ畳み込み演算を行っている。(20)式では、独立した畳み込み演算は10項であり、残り6項の畳み込み演算は重複している。同じ畳み込み演算の項は1回だけ計算すれば良いので、畳み込み演算の回数は10回となる。先に述べたように、畳み込み演算にかかる乗算の回数はおよそ、フィルタのサイズ(面積)、画像のサイズ(面積)、畳み込み回数に比例する。
【0098】
然るに、(20)式では、フィルタサイズは縦横約半分、画像サイズも縦横約半分、畳み込み回数は10回であるから、乗算回数は(1/4)×(1/4)×10で0.625となる。つまり、(1)式の畳み込み演算を変形して(20)式を得たわけであるが、(20)式のようにすることで乗算回数が4割近く削減できることを本願発明者は発見した。これは何らかの近似を行ってかかる結果を得たわけでなく、あくまで式変形であるから(20)式の計算結果は(1)式の計算結果に一致する。つまり、畳み込みの結果は同じで演算量だけ削減することができるのである。この計算結果は、畳み込み演算の対象として画像、回復フィルタに限らず2次元の配列二つについて成立する。このことは、画像、回復フィルタ特有の前提を用いずに、(1)式から(20)式を導いたことから言うまでもないことである。また、子フィルタの生成方法は(11)式で表されるが、帯域分割の方法として(7)式で定義されるウェーブレット変換以外を用いても、それに応じて(11)式を計算すれば良い。そのため、本発明では帯域分割の方法を(7)式に限るものではない。
【0099】
<画像処理装置の各部の構成>
図3の信号処理部103の部分詳細構成を示すブロック図、及び図6のフローチャートを用いて、ぼけ補正部201の構成と動作を説明する。
【0100】
ステップS601において、画像帯域分割部301が、ホワイトバランス制御部202から入力画像を帯域分割して帯域分割画像を生成し、畳み込み演算部302に出力する。ステップS602において、フィルタ帯域分割部303が、ROM108から回復フィルタを読み出し、フィルタ帯域分割により子フィルタデータを生成して畳み込み演算部302に出力する。ステップS603において、畳み込み演算部302が、帯域分割画像と子フィルタデータの畳み込み演算を行い、帯域分割された回復画像を生成して帯域合成部304へ出力する。ステップS604において、帯域合成部304が、帯域分割された回復画像を帯域合成して色変換部203に出力する。
【0101】
画像帯域分割部301では、入力画像に対して(6)式の演算により、帯域分割した画像ILL,ILH,IHL,IHHを畳み込み演算部302に出力する。また、フィルタ帯域分割部303では、(13),(19)式の演算を行う。これにより、
LL-LL’、fLL-LH’、fHL-HL’、fHH-HH’、fLL-LH、fLL-HL、fLL-HH’、fLH-HL、fLH-HH、fHL-HH、からなる10個の子フィルタデータを生成する。そして、フィルタ帯域分割部303は、これらの子フィルタデータを、畳み込み演算部302に出力する。
【0102】
畳み込み演算部302では、(20)式の演算を行う。図4に畳み込み演算部302の構成を示す。*で示されたブロックは畳み込み演算を表す。ブロック図中の下段6つの畳み込み演算の結果は、補正後の帯域分割画像を計算するために2回ずつ使われていることが分かる。このことにより、本来16回の畳み込み演算が必要なところを、16回中6回の演算を共通化させることで、合計10回の畳み込み演算で代用できる。つまり、複数のフィルタデータの一部は、複数の帯域の帯域分割画像のうち、2つ以上の帯域分割画像に対する畳み込み演算に使用される。
【0103】
以上の動作により、ぼけ補正に必要な畳み込み演算の計算量を減らすことができ、しかも単純に畳み込み演算を行った結果と同様の演算結果を得ることができる。
【0104】
また、ぼけ補正では、画像の位置に応じて、ぼけの度合いが異なるため、画像の位置に応じて本手法を適用する必要があることは言うまでもない。また、画像の端等では畳み込み演算に必要な画素が存在しない場合が考えられるが、その際はダミーの画素値を用いる等の工夫がある。
【0105】
また、図6に示すフローチャートをプログラムとしてPCで実行しても、畳み込み演算にかかる計算量を減らすことができることは言うまでもない。
【0106】
<回復フィルタ、変換行列からの子フィルタを計算する手順>
子フィルタは、(4),(7),(11)式によって計算することができる。その計算過程は複雑であるため、ここではfLL-LLを例にとり計算過程を示す。他の子フィルタについても同様にして決定される。
【0107】
(11)式を計算すると
【0108】
【数21】

【0109】
が得られる。ここで省略されているインデックスを書き出して次式を得る。
【0110】
【数22】

【0111】
ここでi,j,α,βは、(12)式中の畳み込み演算に関わる指標である。今、知りたいのは、fLL-LLの中身なので、i−α=i’、j−β=j’と定義する。すると、
【0112】
【数23】

【0113】
を得る。上式から子フィルタfLL-LLは、回復フィルタfの各要素の加重平均であることが分かる。また、上式右辺のインデックスi’,j’には常に2倍されている。そこで、前述した間引き演算↓を用いて上式を変形すると
【0114】
【数24】

【0115】
を得る。上式は、回復フィルタf(i,j)に(15a)式のローパスフィルタをかけた後に間引き処理を行ったものがfLL-LLに等しいことを示す。同様にして、他の子フィルタも計算によって求めることができる。また、同様の計算過程により(7)式で定義されるウェーブレット変換行列T以外でも子フィルタを計算によって求めることができる。
【0116】
以上説明したように、実施形態1によれば、画像を低帯域と高帯域に帯域分割し、各帯域画像についてのフィルタの畳み込み演算の一部の演算を帯域間で共通化する。これにより、低帯域及び高帯域について画像回復を実現するとともに、その演算量を低減することができる。
【0117】
<実施形態2>
実施形態1では、子フィルタデータを生成する構成としているが、これに限定されない。実施形態2として、例えば、子フィルタデータを予め計算しておいて、ROM108に記憶しておき、これを利用して畳み込み演算を実行するようにしても良い。
【0118】
実施形態2のぼけ補正部を図5に示す。予め計算された子フィルタデータはROM108に記憶し、畳み込み演算部502はROM108から子フィルタデータを読み出し、この子フィルタデータを用いて画像帯域分割部501からの帯域分割画像に対して(20)式で表される畳み込み演算を行う。
【0119】
図6の処理においては、特に、ステップS602において、畳み込み演算部302が、ROM108から子フィルタデータを読み出す。そして、ステップS603において、畳み込み演算部302が、帯域分割画像と子フィルタデータの畳み込み演算を行い、帯域分割された画像を計算して帯域合成部304へ出力することになる。
【0120】
以上説明したように、実施形態2によれば、実施形態1で説明する効果に加えて、ROM108に予め子フィルタデータを記憶しておくことで、子フィルタデータ生成に必要な計算時間を短縮することができる。
【0121】
<実施形態3>
すでに述べている通り、本発明は、(7)式以外の変換行列に対しても成立する。その例として実施形態3では次式の変換行列を用いた実施形態を示す。
【0122】
【数25】

【0123】
計算の手順は実施形態1と同様なのでfLL-LLだけ計算例とその結果を示す。
【0124】
(24)式に対応して次式が導かれる。
【0125】
【数26】

【0126】
上式での実施形態1との違いは、回復フィルタfの各係数に付与する重みである。上式では回復フィルタに
【0127】
【数27】

【0128】
で示されるローパスフィルタをかけた後に間引き演算を行ったものが(25)式の変換行列に対応する子フィルタfLL-LLであることを示している。
【0129】
以上説明したように、様々な変換行列についても、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0130】
尚、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステムまたは装置に供給し、そのシステムまたは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像のぼけ補正を行う補正処理を実行する画像処理装置であって、
入力画像を複数の帯域に分割して帯域分割画像を生成する画像帯域分割手段と、
前記画像帯域分割手段が生成した前記複数の帯域の各帯域についての帯域分割画像に対して、前記ぼけ補正を行うための複数のフィルタを用いて畳み込み演算を実行する畳み込み演算手段と、
前記畳み込み演算手段によって生成した前記複数の各帯域についての画像を帯域合成する帯域合成手段と
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記複数の帯域の分割前の入力画像についてのぼけ補正を行うためのフィルタから、前記複数の帯域の各帯域に対するフィルタに分割することで、前記複数のフィルタを生成するフィルタ帯域分割手段を更に備える
ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記複数の帯域の分割前の入力画像についてのぼけ補正を行うためのフィルタから、前記複数の帯域の各帯域に対するフィルタに分割することで生成した前記複数のフィルタを記憶する記憶手段を更に備える
ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記複数のフィルタは、撮像光学系によるぼけ補正を行うためのフィルタである
ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記画像帯域分割手段は、ウェーブレット変換によって、前記入力画像を前記複数の帯域に分割する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記フィルタ帯域分割手段が生成する前記複数のフィルタのそれぞれは、前記複数の帯域の分割前の入力画像についてのぼけ補正を行うためのフィルタのサイズよりも小さい
ことを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記畳み込み演算手段において、前記フィルタ帯域分割手段が生成する前記複数のフィルタの一部は、前記画像帯域分割手段が生成する複数の帯域の帯域分割画像のうち、2つ以上の帯域分割画像に対する畳み込み演算に使用される
ことを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項8】
画像のぼけ補正を行う補正処理を実行する画像処理装置の制御方法であって、
入力画像を複数の帯域に分割して帯域分割画像を生成する画像帯域分割工程と、
前記画像帯域分割工程が生成した前記複数の帯域の各帯域についての帯域分割画像に対して、前記ぼけ補正を行うための複数のフィルタを用いて畳み込み演算を実行する畳み込み演算工程と、
前記畳み込み演算工程によって生成した前記複数の各帯域についての画像を帯域合成する帯域合成工程と
を備えることを特徴とする画像処理装置の制御方法。
【請求項9】
画像のぼけ補正を行う補正処理をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記コンピュータを、
入力画像を複数の帯域に分割して帯域分割画像を生成する画像帯域分割手段と、
前記画像帯域分割手段が生成した前記複数の帯域の各帯域についての帯域分割画像に対して、前記ぼけ補正を行うための複数のフィルタを用いて畳み込み演算を実行する畳み込み演算手段と、
前記畳み込み演算手段によって生成した前記複数の各帯域についての画像を帯域合成する帯域合成手段と
して機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−128529(P2012−128529A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277423(P2010−277423)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】