説明

画像処理装置及び画像処理システム

【課題】 網膜の黄斑部付近または視神経乳頭部付近における毛細血管の血流の状態を正確に把握する。
【解決手段】 構造特定部130はSLO画像取得部100が取得したSLO画像に基づいて網膜の血管を特定する。計測データ取得部140はSLO画像に基づいて血管の血流速または血流量を計測する。表示制御部170は特定された血管の深さ別または血管径別に前記計測された血流速または血流量を表示部190に表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼部の血流に関する情報を表示させる画像処理装置及び画像処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病や失明原因の上位を占める疾病の早期診療を目的として、眼部の検査が広く行われている。共焦点レーザー顕微鏡の原理を利用した眼科装置である走査型レーザー検眼鏡(SLO:Scanning Laser Ophthalmoscope、以下SLO撮影装置)は、測定光であるレーザーを眼底に対してラスター走査し、その戻り光の強度から網膜の画像を高分解能かつ高速に得る装置である。
【0003】
近年、被検眼の収差を波面センサでリアルタイムに測定し、被検眼にて発生する測定光やその戻り光の収差を波面補正デバイスで補正する補償光学系(AO:Adaptive Optics)を有するAO−SLO撮影装置が開発されている。かかるAO−SLO撮影装置により高横分解能な画像の取得が可能であり、網膜の毛細血管や視細胞を検出することができる。
【0004】
眼部のSLO画像から血管に関する計測結果を比較表示する方法としては、中心窩周囲の毛細血管抽出結果に関して、中心窩を中心として上下左右の4領域に分け、各領域内の毛細血管の分布密度(領域内の総血管経路長を面積で割った値)を表示する技術が非特許文献1に開示されている。
【0005】
また非特許文献2には、健常眼の視細胞付近にフォーカスしたSLO画像から血球の移動範囲を血管領域として認識し、血球の移動速度をはじめとする血流動態を計測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Johnny Tam, Joy A. Martin, Austin Roorda, ’Noninvasive visualization and analysis of parafoveal capillaries in humans’, Investigative Ophthalmology and Visual Science, Vol.51 No.3, pp.1691−1698, March 2010.
【非特許文献2】Johnny Tam and Austin Roorda, “Enhanced Detection of Cell Paths in Spatiotemporal Plots for Noninvasive Microscopy of the Human Retina”, Proceedings of 2010 IEEE International Symposium on Biomedical Imaging, pp.584−587, April 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前眼方向から見て同一の位置に存在しているように見える血管でも、深さ方向の位置が異なる場合があり、単純にSLO画像を部分領域毎に分けて表示するだけでは、血流の状態を正確に把握することができない。
また別の課題として、血管の血管径は場所によって異なるため、単純にSLO画像を部分領域に分けて血流に関する情報を表示するだけでは血流の状態を正確に把握することができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明の一態様に係る画像処理装置は網膜の画像に基づいて網膜の血管を特定する特定手段と、網膜の画像に基づいて前記血管の血流速を計測する計測手段と、前記特定された血管の深さ別に前記測定された血流速を表示させる表示制御手段と、を有することを特徴とする。
また、本発明の別の一態様に係る画像処理装置は、網膜の画像に基づいて網膜の血管を特定する特定手段と、網膜の画像に基づいて前記血管の血流速を計測する計測手段と、前記特定された血管径の大きさ別に前記測定された血流速を表示させる表示制御手段と、 を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係る画像処理装置によれば、深さ別に血流状態が表示されるため、ユーザは深さ方向の位置で分けて血流の状態を把握することができる。これにより例えば血流に異常がある場合には、ユーザはいずれの深さ位置の血管に異常があるかを見つけることができる。
また本発明の別の一態様に係る画像処理装置によれば、血管径別に血流状態が表示されるため、ユーザは網膜の広範囲に影響がある径の大きい血管での異常が起きているか、局所的に影響がある径の小さい血管での異常が起きているかを見つけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例に係る画像処理装置10の機能構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例に係る画像処理装置10を含む撮影システムシステムの構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例における眼部撮像装置20の全体の構成について説明する図である。
【図4】本発明の実施例における眼部撮像装置20の画像の取得方法を説明する図である。
【図5】本発明の実施例に係る画像処理装置10が実行する処理のフローチャートである。
【図6】本発明の実施例での画像処理内容を説明する図である。
【図7】本発明の実施例での血流の解析処理を説明する図である。
【図8】本発明の実施例に係るS530で実行される処理の詳細を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例に係るS540で実行される処理の詳細を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施例に係る血流の変動を計測する処理を説明する図である。
【図11】表示制御部170によって表示される計測データの表示内容を示す図である。
【図12】表示制御部170によって表示されるその他の計測データの表示内容を示す図である。
【図13】画像処理装置10をソフトウェアとハードウェアとの協働で実現するためのハードウェア構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に従って本発明に係る画像処理装置及び方法の好ましい実施例について詳説する。ただし本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
本実施例に係る画像処理装置は、中心窩周囲の毛細血管を撮像したSLO動画像から血流動態を計測し、毛細血管の血管径や拍動周期数、深度位置を考慮した上で血流動態に関する統計量を局所領域ごとに比較表示するように構成したものである。
【0013】
具体的には、血流動態として(i)血流速度を計測し、黄斑周囲の各局所領域間で比較表示する(ii)血流動態として血流量を計測し、血流量を深度位置の異なる層間で比較表示する場合について説明する。
【0014】
(全体構成)
次に、図1を用いて本実施例に係る画像処理装置10の機能構成を説明する。図1は画像処理装置10の機能構成を示すブロック図であり、画像処理装置10はSLO画像取得部100、ボリューム画像取得部110、記憶部120、構造特定部130、計測データ取得部140、決定部160、表示制御部170、指示取得部180を有する。また画像処理装置10には操作部150、表示部190が接続している。
【0015】
また、決定部160は血管特徴決定部1601、脈波同期設定部1602、血管深度位置決定部1603、統計量決定部1604、比較対象決定部1605を有する。
図2は本実施例に係る画像処理装置10を含む撮影システム1の構成図である。図2に示すように画像処理装置10は、眼部撮像装置20やデータサーバ40と、光ファイバ、USBやIEEE1394等で構成されるローカル・エリア・ネットワーク(LAN)30を介して接続されている。なおこれらの機器との接続は、インターネット等の外部ネットワークを介して接続される構成であってもよい。
【0016】
眼部撮像装置20は、眼底部の平面画像(SLO画像)を撮像するSLO撮像部及びボリューム画像(OCT画像)を撮像するOCT撮像部から構成される装置である。眼部撮像装置20は、SLO画像として静止画像もしくは動画像を撮像し、撮像したSLO画像を画像処理装置10、データサーバ40へ送信する。また、OCT撮像部に関しては例えばタイムドメイン方式もしくはフーリエドメイン方式で構成され、不図示の操作者による操作に応じ、被検眼の断層像を3次元的に撮像する。得られたボリューム画像は、画像処理装置10、データサーバ40へ送信される。なお、眼部撮像装置20においてOCT撮像部は必須ではなく、SLO撮像部のみを備える構成でも良い。
【0017】
画像処理装置10は、眼部撮像装置20によって取得されたSLO画像やOCT画像から眼部の画像特徴(以下、眼部特徴)を取得したり、該眼部特徴から血流速などの細胞の動態に関する計測処理を行う。得られた眼部特徴や計測データは画像処理装置10やデータサーバ40へ送信される。
【0018】
データサーバ40は被検眼のSLO画像やボリューム画像、後述する眼部特徴、脈波やSLO画像撮像時の固視標位置のデータなどを保持するサーバである。データサーバ40は眼部撮像装置20が出力する被検眼のSLO画像やボリューム画像、画像処理装置10が出力する眼部特徴を保存する。また画像処理装置10からの要求に応じ、被検眼に関するデータ(SLO画像、ボリューム画像、眼部特徴)や眼部特徴の正常値データ、被検眼の脈波や撮影時の固視標位置の値を画像処理装置10に送信する。
【0019】
なお、眼部撮像装置20がSLO撮像部のみを備えOCT撮像部を持たない構成の場合には、画像処理装置10にボリューム画像取得部110を持つ必要はない。本実施例では毛細血管の深度位置を決定する際に必要となる関係でボリューム画像取得部110を持つが、もし毛細血管の深度位置を区別しない場合はボリューム画像取得部110を持たない。
【0020】
眼部撮像装置20は、図3に示すような概略構成であり、以下に概要を説明する。
【0021】
<全体>
光源201から出射した光は光カプラー231によって参照光205と測定光206とに分割される。測定光206は、シングルモードファイバー230−4、空間光変調器259、XYスキャナ219、Xスキャナ221、球面ミラー260−1〜9等を介して、観察対象である被検眼207に導かれる。測定光206は、被検眼207によって反射あるいは散乱された戻り光208となり、ディテクター238あるいはラインセンサ239に入射される。ディテクター238は戻り光208の光強度を電圧に変換し、その信号を用いて、被検眼207の平面画像が構成される。
【0022】
また、ラインセンサ239には参照光205と戻り光208とが合波されて入射され、被検眼207の断層画像が構成される。ここでは、波面収差を補正できればよく、可変形状ミラー等を用いることもできる。
【0023】
<光源>
光源201は代表的な低コヒーレント光源であるSLD(Super Luminescent Diode)である。波長は830nm、バンド幅50nmである。ここでは、スペックルノイズの少ない平面画像を取得するために、低コヒーレント光源を選択している。また、光源の種類は、ここではSLDを選択したが、低コヒーレント光が出射できればよく、ASE(Amplified Spontaneous Emission)等も用いることができる。
【0024】
また、波長は眼を測定することを鑑みると、近赤外光が適する。さらに波長は、得られる平面画像の横方向の分解能に影響するため、なるべく短波長であることが望ましく、ここでは830nmとする。観察対象の測定部位によっては、他の波長を選んでも良い。また、低コヒーレント光源であるSLDは断層画像の撮像にも適する。
【0025】
<参照光路>
つぎに、参照光205の光路について説明する。
光カプラー231にて分割sあれた参照光205はシングルモードファイバー230−2を通して、レンズ235−1に導かれ、ビーム径4mmの平行光になるよう、調整される。
次に、参照光205は、ミラー257−1〜4によって、参照ミラーであるミラー214に導かれる。参照光205の光路長は、測定光206の光路長と略同一に調整されているため、参照光205と測定光206とを干渉させることができる。
【0026】
次に、ミラー214にて反射され、再び光カプラー231に導かれる。ここで、参照光205が通過した分散補償用ガラス215は被検眼207に測定光206が往復した時の分散を、参照光205に対して補償するものである。
ここでは、日本人の平均的な眼球の直径として代表的な値を想定し、L1=23mmとする。
さらに、217−1は電動ステージであり、矢印で図示している方向に移動することができ、参照光205の光路長を、調整・制御することができる。
【0027】
また、電動ステージ217−1はパソコン225からドライバ部281内の電動ステージ駆動ドライバ283を介して制御される。
【0028】
<測定光路>
つぎに、測定光206の光路について説明する。
光カプラー231によって分割された測定光206はシングルモードファイバー230−4を介して、レンズ235−4に導かれ、ビーム径4mmの平行光になるよう調整される。また、偏光コントローラ253−1又は2は、測定光206の偏光状態を調整することができる。ここでは、測定光206の偏光状態は紙面に平行な方向の直線偏光に調整されている。
【0029】
測定光206は、ビームスプリッタ258、可動式ビームスプリッタ261を通過し、球面ミラー260−1、260−2を介し、空間光変調器259にて入射・変調される。ここで、空間光変調器259は、液晶の配向性を利用して変調を行う変調器であり、紙面に平行な方向の直線偏光(P偏光)の位相を変調する向きに配置され、測定光206の偏光の向きと合わせている。
【0030】
さらに、測定光206は偏光板273を通過し、球面ミラー260−3、260−4を介し、Xスキャナ221のミラーに入射される。ここで、偏光板273は戻り光208のうち紙面に平行な方向の直線偏光のみを空間光変調器259に導く役割がある。また、ここで、Xスキャナ221は測定光206を紙面に平行な方向に走査するXスキャナであり、ここでは共振型スキャナを用いている。駆動周波数は約7.9kHzである。
【0031】
さらに、測定光206は球面ミラー260−5〜6を介し、XYスキャナ219のミラーに入射される。ここで、XYスキャナ219は一つのミラーとして記したが、実際にはXスキャン用ミラーとYスキャン用ミラーとの2枚のミラーが近接して配置されるものである。また、測定光206の中心はXYスキャナ219のミラーの回転中心と一致するように調整されている。XYスキャナ219の駆動周波数は〜500Hzの範囲で可変にできる。
【0032】
球面ミラー260−7〜9は網膜227を走査するための光学系であり、測定光206を角膜226の付近を支点として、網膜227をスキャンする役割がある。
ここで、測定光206のビーム径は4mmであるが、より高分解能な断層画像を取得するために、ビーム径はより大径化してもよい。
【0033】
また、217−2は電動ステージであり、矢印で図示している方向に移動することができ、付随する球面ミラーである球面ミラー260−8の位置を、調整・制御することができる。電動ステージ217−2は電動ステージ217−1と同様に、電動ステージ駆動ドライバ283によって制御される。
【0034】
球面ミラー260−8の位置を調整することで、被検眼207の網膜227の所定の層に測定光206を合焦し、観察することが可能になる。初期状態では、測定光206は平行光の状態で、角膜226に入射するように、球面ミラー260−8の位置が調整されている。
また、被検眼207が屈折異常を有している場合にも対応できる。
【0035】
測定光206は被検眼207に入射すると、網膜227からの反射や散乱により戻り光208となり、再び光カプラー231に導かれ、ラインセンサ239に到達する。
【0036】
また、戻り光208の一部は可動式ビームスプリッタ261で反射され、レンズ235−5を介して、ディテクター238に導かれる。ここで、272はピンホールを有する遮光板であり、戻り光208のうち、網膜227に合焦していない不要な光を遮断する役割がある。また、遮光板272はレンズ235−5の合焦位置に共役に配置される。また、遮光板272のピンホールの直径は例えば50μmである。ディテクター238は例えば高速・高感度な光センサであるAPD(Avalanche Photo Diode)が用いられる。
【0037】
また、ビームスプリッタ258にて分割される戻り光108の一部は、波面センサ255に入射される。波面センサ255はシャックハルトマン方式の波面センサである。
【0038】
ここで、XYスキャナ219、Xスキャナ221、角膜226、波面センサ255、空間光変調器259は光学的に共役になるよう、球面ミラー260−1〜9が配置されている。そのため、波面センサ255は被検眼207の収差を測定することが可能になっている。また、空間光変調器259は被検眼207の収差を補正することが可能になっている。さらに、得られた収差に基づいて、空間光変調器259をリアルタイムに制御することで、被検眼207で発生する収差を補正し、より高横分解能な断層画像の取得を可能にしている。
【0039】
<測定系の構成>
つぎに、測定系の構成について説明する。
眼部撮像装置20は、断層画像(OCT像)及び平面画像(SLO像)を取得することができる。
まず、断層画像の測定系について説明する。
【0040】
戻り光208は光カプラー231によって合波される。合波された光242は、シングルモードファイバー230−3、レンズ235−2を介して、透過型グレーティング241に導かれ、波長毎に分光され、レンズ235−3を介してラインセンサ239に入射される。
【0041】
ラインセンサ239は位置(波長)毎に光強度を電圧に変換し、その電圧信号はフレームグラバー240にてデジタル値に変換されて、パソコン225にて、被検眼207の断層画像が構成される。
【0042】
ここでは、ラインセンサ239は1024画素を有し、合波された光242の波長毎(1024分割)の強度を得ることができる。
つぎに、平面画像の測定系について説明する。
【0043】
戻り光208の一部は、可動式ビームスプリッタ261で反射される。反射された光は遮光板272によって不要な光が遮断された後、ディテクター238に到達し、光の強度が電気信号に変換される。
【0044】
得られた電気信号に対して、パソコン225にてXスキャナ221とXYスキャナ219との走査信号と同期したデータ処理が行われ、平面画像が形成される。
【0045】
ビームスプリッタ258にて分割される戻り光208の一部は、波面センサ255に入射され、戻り光208の収差が測定される。
【0046】
波面センサ255にて得られた画像信号は、パソコン225に取り込まれ、収差が算出される。得られた収差はツェルニケ多項式を用いて表現され、これは被検眼207の収差を示している。
【0047】
ツェルニケ多項式は、チルト(傾き)の項、デフォーカス(defocus)の項、アスティグマ(非点収差)の項、コマの項、トリフォイルの項等からなる。
【0048】
<OCT像の取得方法>
つぎに、眼部撮像装置20を用いた断層画像(OCT像)の取得方法について図4(a)〜(c)を用いて説明する。
【0049】
眼部撮像装置20は、XYスキャナ219を制御し、Xスキャナ221を固定ミラーとして用いて、ラインセンサ239で干渉縞を取得することで、網膜227の断層画像を取得することができる。戻り光208がディテクター238に導光されないように可動式ビームスプリッタ261を制御する。また、Xスキャナ221、XYスキャナ219は、パソコン225からドライバ部281内の光スキャナ駆動ドライバ282を介して制御される。ここでは、網膜227の断層画像(光軸に平行な面)の取得方法について説明する。
【0050】
図4(a)は被検眼207の模式図であり、眼部撮像装置20によって観察されている様子を示している。
図4(a)に示すように、測定光206は角膜226を通して、網膜227に入射すると様々な位置における反射や散乱により戻り光208となり、それぞれの位置での時間遅延を伴って、ラインセンサ239に到達する。
【0051】
ここでは、光源201のバンド幅が広く、コヒーレンス長が短いために、参照光路の光路長と測定光路の光路長とが略等しい場合に、ラインセンサ239にて、干渉縞が検出できる。
【0052】
上述のように、ラインセンサ239で取得されるのは波長軸上のスペクトル領域の干渉縞となる。
【0053】
次に、波長軸上の情報である干渉縞を、ラインセンサ239と透過型グレーティング241との特性を考慮して、光周波数軸の干渉縞に変換する。
【0054】
さらに、変換された光周波数軸の干渉縞を逆フーリエ変換することで、深さ方向の情報が得られる。
【0055】
さらに、図4(b)に示すように、XYスキャナ219を駆動しながら、干渉縞を検知すれば、各X軸の位置毎に干渉縞が得られ、つまり、各X軸の位置毎の深さ方向の情報を得ることができる。
【0056】
結果として、XZ面での戻り光208の強度の2次元分布が得られ、それはすなわち断層画像232である(図4(c))。
【0057】
本来は、断層画像232は上記説明したように、該戻り光208の強度をアレイ状に並べたものであり、例えば該強度をグレースケールに当てはめて、表示されるものである。X方向の長さは700μmである。
【0058】
ここでは得られた断層画像の境界のみ強調して表示している。ここで、246は網膜色素上皮層、247は神経線維層である。278は血管である。
【0059】
<SLO像の取得方法>
つぎに、眼部撮像装置20を用いた平面画像(SLO像)の取得方法について説明する。
【0060】
眼部撮像装置20は、XYスキャナ219のY軸方向のみとXスキャナ221とを動作・制御し、XYスキャナ219のX軸方向を固定し、ディテクター238で戻り光208の強度を取得することで、網膜227の平面画像を取得することができる。Xスキャナ221とXYスキャナ219は、パソコン225からドライバ部281内の光スキャナ駆動ドライバ282を介して制御される。また、眼部撮像装置20は、波面センサ255で測定した被検眼207の収差を用いて空間光変調器259を制御し、被検眼207等にて生じる収差を補正しながら平面画像を取得することができる。また、空間光変調器259をリアルタイムに制御しながら平面画像を取得することができる。
【0061】
また上述の通り、補償光学系を用いたSLOは従来型のフーリエドメインOCTや眼底カメラが撮影対象としている血管よりも微小な黄斑または視神経乳頭周辺部の毛細血管や、神経線維、視細胞などの画像を得ることができる。
【0062】
画像処理装置10を構成する各ブロックの機能について、図5のフローチャートに示す画像処理装置10の具体的な実行手順と関連付けて説明する。
【0063】
<ステップS510>
SLO画像取得部100は、眼部撮像装置20に対してSLO画像(静止画像もしくは動画像)の取得を要求する。また、必要に応じてボリューム画像取得部110が、眼部撮像装置20に対して眼部ボリューム画像の取得を要求する。本実施例では、入力画像は図7(a)に示すようなSLO動画像M1(フレーム番号i=1,2,...,N)および図6(a)に示すような眼部ボリューム画像とする。SLO動画像M1については図6(a)に示すように視細胞内節外節境界付近のフォーカス位置F1を設定する。
【0064】
ここで、図6について説明する。(a)は本実施例で設定するフォーカス位置を説明する図であり、(b)は眼底の網膜血管、毛細血管を構成する表層毛細血管SC及び深層毛細血管DCを示す。(c)は網膜の断層像における表層毛細血管SC及び深層毛細血管DCの深度位置を示している。(d)は眼底内における放射状乳頭周囲毛細血管(Radial Peripapillary Capillaries;RPC)や表層毛細血管、深層毛細血管の存在範囲を示している。図7(a)はフォーカス位置を視細胞内節外節境界付近に設定した場合に得られるAO−SLO動画像の例である。図7(b)はSLO動画像M1を血管上の経路Pで切り出して得られる時空間画像の例であり、図7(c)は血流速度のグラフの例を示している。
【0065】
眼部撮像装置20は該取得要求に応じて対応するSLO動画像及び眼部ボリューム画像を取得して送信するので、SLO画像取得部100は眼部撮像装置20からLAN30を介して当該SLO動画像M1を受信する。SLO画像取得部100は受信したSLO動画像M1を記憶部120に格納する。
【0066】
<ステップS520>
構造特定部130は、S510で取得された画像から眼部特徴として網膜の血管を特定する。本実施例ではSLO動画像M1及び眼部ボリューム画像を取得しており、眼部特徴としては図7(a)に示すようにSLO動画像M1から取得された網膜血管影SH、高輝度血球成分W1のデータを取得する。また眼部ボリューム画像からは眼部特徴として内境界膜B1、神経線維層境界B2、内網状層境界B4、視細胞内節外節境界B5、網膜色素上皮の外側境界B6、表層毛細血管SC及び深層毛細血管DCを抽出する。さらに構造特定部130は取得した各々の眼部特徴データを記憶部120に格納し、必要に応じてデータサーバ40へ送信する。
【0067】
具体的な眼部特徴の取得手順を説明する。
【0068】
眼部ボリューム画像については、処理対象であるボリューム画像を2次元断層画像(Bスキャン像)の集合と考え、各2次元断層画像に対して以下の処理を行う。
【0069】
まず着目する2次元断層画像に平滑化処理を行い、ノイズ成分を除去する。次に2次元断層画像からエッジ成分を検出し、その連結性に基づいて何本かの線分を層境界の候補として抽出する。そして該候補から一番上の線分を内境界膜B1、上から二番目の線分を神経線維層境界B2、上から三番目の線分を内網状層境界B4とする。また内境界膜B1よりも外層側(図6(a)において、z座標が大きい側)にあるコントラスト最大の線分を視細胞内節外節境界B5として選択する。さらに、該層境界候補群のうち一番下の線分を網膜色素上皮層境界B6として選択する。
【0070】
さらに、これらの線分を初期値としてSnakesやレベルセット法等の可変形状モデルを適用し、精密抽出を行っても良い。またグラフカット法により層の境界を検出しても良い。なお可変形状モデルやグラフカットを用いた境界検出はボリューム画像に対し3次元的に実行してもよいし、各々の2次元断層画像に対し2次元的に適用しても良い。なお層の境界を検出する方法は、眼部の断層像から層の境界を検出可能な方法であればいずれの方法を用いてもよい。
【0071】
次に、構造特定部130は眼部ボリューム画像から表層毛細血管領域SC及び深層毛細血管領域DCを検出する。具体的には、神経線維層境界B2から内網状層境界B4の範囲に限定して深度方向に投影像を生成し、該投影像上で公知の線検出フィルタにより表層毛細血管領域を検出する。同様に、内網状層境界から視細胞内節外節境界の範囲に限定して深度方向に投影像を生成し、該投影像上で公知の線検出フィルタにより深層毛細血管領域を検出する。
【0072】
続いて、SLO動画像M1から網膜血管影領域SHを検出する。具体的にはSLO動画像M1の隣接各フレーム間で差分処理を行い、各x−y位置においてフレーム方向に画素値を調べ、画素値の標準偏差を求める。該標準偏差の値が閾値T1以上の領域を血管影SHとして検出する。
【0073】
さらに、SLO動画像M1から任意の公知の画像処理手法を用いて高輝度血球成分を検出する。本実施例では、
(i)時空間画像の生成
(ii)時空間画像上での線状領域検出
という手順で高輝度血球成分W1の移動軌跡を取得する。
【0074】
(i)網膜血管が存在する領域、すなわち網膜血管影領域SHと同じx−y座標を持つ領域を細線化することにより得られる血管中心線Pにおいて、図7(a)に示すように位置rを横軸、時間tを縦軸として持つような時空間画像を生成する。なお、時空間画像はSLO動画像M1を経路Pで切り出した曲断面画像に相当する。また、時間tはSLO動画像M1のフレーム番号iをフレームレートk[1/sec]で割ることにより得られる。時空間画像には血球成分の移動距離を示す高輝度な線状成分LCiが複数含まれる。
(ii)時空間画像上で高輝度な線状領域LCiを検出する。ここでは任意の公知な線強調フィルタを用いて線強調した上で、閾値Ttで2値化することにより検出する。
【0075】
<ステップS530>
計測データ取得部140はSLO動画像M1及び眼部ボリューム画像、S520で取得した眼部特徴に基づいて血流動態の計測を行う。なお、計測を行う具体的処理の内容に関しては後に詳しく説明する。
【0076】
なお、本実施例では画像処理装置10が直接計測処理を行っているが、これに限らない。例えば、別途画像処理装置を備える構成とし、該画像処理装置が計測したデータを計測データ取得部140が受信して利用してもよい。
【0077】
<ステップS540>
決定部160は、SLO動画像M1、眼部ボリューム画像、眼部特徴、及びS530で得られた計測データに基づき、表示に関する以下のパラメータを決定する。
【0078】
(i)計測値に関する統計を取る際に、同じグループとして扱う血管径のサイズ
(ii)計測結果の統計処理や比較時に用いる動画像フレームの範囲(心拍何周期分か、もしくはどの位相からどの位相までか)
(iii)毛細血管の深度位置の区別をするか否か、する場合は深度位置
(iv)統計量の種類
(v)比較する際に用いる局所領域の区分け
なお、各設定パラメータの具体的な設定に関しては後に詳しく説明する。
【0079】
<ステップS550>
表示制御部170は、決定部160が設定した表示に関するパラメータに基づいてS510で取得された眼部の画像及びS530で計測データ取得部140により取得された計測データを表示するための画像データを作成し、表示部190に表示させる。各表示内容については後に詳しく説明する。
【0080】
<ステップS560>
指示取得部180は、S550において表示制御部170より出力された計測データの表示内容をデータサーバ40へ保存するか否かの指示を外部から取得する。この指示は例えば操作部150を介して操作者により入力される。保存が指示された場合はS570へ、保存が指示されなかった場合はS580へと処理を進める。
【0081】
<ステップS570>
表示制御部170は、検査日時、被検眼を同定する情報、計測結果を関連付けてデータサーバ40へ送信する。
【0082】
<ステップS580>
指示取得部180は、画像処理装置10によるSLO画像計測データの表示処理を終了するか否かの指示を外部から取得する。この指示は操作部150を介して操作者により入力される。処理終了の指示を取得した場合は表示処理を終了する。一方、処理継続の指示を取得した場合にはS510に処理を戻し、次の被検眼に対する処理(または同一被検眼に対する再処理を)行う。
【0083】
次に図8を参照して、S530で実行される処理の詳細について説明する。
【0084】
<ステップ810>
計測データ取得部140は、S520で取得された眼部特徴を取得する。具体的には、SLO動画像M1上の網膜血管影領域SH,高輝度血球成分W1、眼部ボリューム画像から取得された内境界膜B1、神経線維層境界B2、内網状層境界B4、視細胞内節外節境界B5、網膜色素上皮層境界B6、表層毛細血管SC、深層毛細血管DCを取得する。
【0085】
<ステップ820>
計測データ取得部140は、撮像関連のデータとして、脈波のデータやSLO動画像M1の撮影時に用いた固視標位置のデータをデータサーバ40より取得する。脈波のデータはSLO動画像M1の撮影時に同時に取得されているものとする。また、脈波のデータはSLO動画像M1の各フレームと心拍の位相との対応付けを行う際に用いられる。
【0086】
<ステップ830>
計測データ取得部140は、S510で取得された眼部の画像やS520で取得された眼部特徴、S830で取得された撮像関連データを用いて血流動態に関する計測データを取得する。本実施例では、血流動態として血流速(血球成分の移動速度)と、血流量(血管断面積と血流速との積)を取得する。
【0087】
次に、図8(b)を参照して、S830で実行される処理の詳細について説明する。
【0088】
<ステップ831>
計測データ取得部140は、構造特定部130によって取得された網膜血管影領域SHにおける血管径を計測する。具体的には、網膜血管領域SHを細線化することにより得られる血管中心線Pの各位置Piにおいて図7(a)に示すように血管中心線Pに直交する方向で輝度値を調べ、輝度値が閾値T3以上となる範囲の距離を血管径D1とする。
【0089】
<ステップ832>
計測データ取得部140は、時空間画像上で検出された線状領域LCiに基づき血流速度vを算出する。具体的には、ハフ変換を用いてLCiを直線として検出し、その角度と座標原点からの距離を用いて血流速度vを算出する。線検出手法はこれに限らず、任意の公知な手法を用いてよい。
【0090】
なお、時空間画像の横軸が血管上の位置r[mm]表し、縦軸が血球成分が位置rを通過した時間t[sec]を表すことから、例えばr=0の場合に横軸に時間t、縦軸に血流速度vをプロットすると、図7(c)のように血流速度のグラフが得られる。
【0091】
<ステップ833>
計測データ取得部140は、S831で算出された血管径やS832で算出された血流速度vの値に基づき、血流動態に関する指標を算出する。本実施例では、血流動態指標として血流量(Flow:FL)を以下の式を用いて算出する。
血流量FL[ml/min]
= 0.06×血流速度[mm/sec]×血管断面積[mm2]
ここで、血管断面積は血管径の値を基に(血管の断面形状が円形であると仮定して)算出した値を用いる。これにより、測定位置における単位時間当たりの血液供給量を定量的に評価することができる。
【0092】
なお、血流動態指標はこれに限らない。例えば、拍動係数(Pulsatility Index:PI)や抵抗係数(Resistance Index:RI)を以下の式により算出してもよい。
拍動係数PI = (PSV−EDV)/Va
抵抗係数RI = (PSV−EDV)/PSV
ここで、PSV = (収縮期における最大血流速度)、
EDV = (拡張末期における血流速度)、
Va = (血流速度の平均値)
であり、拍動の周期、収縮期、拡張末期の位置は脈波のデータを下に決定する。
【0093】
この指標により、測定位置における血液の流れやすさを定量的に評価することができる。
【0094】
次に図9を参照して、S540で実行される処理の詳細について説明する。
【0095】
<ステップ910>
血管特徴決定部1601は、計測値に関する統計を取る際に区別する血管特徴の種類及びその値の範囲を決定する。本実施例では、計測値に関する統計を取る際に用いる血管特徴を血管径とし、区別する血管径の値の範囲を5〜10μm、10〜15μm、15μm〜20μmの3種類に分類する。
【0096】
なお、区別する血管径の値の範囲はこれに限らず、任意の値に設定してよい。
【0097】
<ステップ920>
脈波同期設定部1602は、一定期間に渡って繰り返し撮像することで得られたSLO動画像M1の動態計測データに関する統計処理の際に用いるフレームの範囲(フレーム番号リスト)を決定する。
【0098】
SLO動画像上で視認される白血球が血液中に占める割合は約1%とされており、撮影時間内に検出できる白血球の数は限られている(血液の構成は血漿成分が約55%、血球成分が45%であり、血球成分の約3%が白血球とされている)。従って時空間画像上で検出できる白血球の移動軌跡を示す直線LCiの本数も限られており、血流速度変化を詳細に分析したい場合には図7(a)のような血流速度グラフにおける構成点数が不足してしまう。
【0099】
そこで、脈波のデータを用いて動画像の各フレームが心拍周期中のどの位相に対応するか求め、該位相の値に応じて複数心拍周期分の血流速度データを図10に示すような1心拍周期分の血流速波形にまとめて表示することが行われる。なお位相は連続値でもよいし離散値でもよいが、位相を離散値にする場合には量子化レベル(1周期を何区間に分けるか)を指定する必要がある。なお、位相を離散値とした場合には計測値が局所区間内で平均化されるため滑らかな血流速度波形となる。
【0100】
本実施例では、脈波同期設定部1602が
(i)1心拍周期を何区間に分けるか(区間数IN)
(ii)表示対象のSLO動画像から何心拍周期分のフレームを統計処理や該統計値
比較に用いるか(心拍周期数PN)を決定する。
【0101】
(i)についてはあらかじめユーザが望む波形の詳細さに合わせて指示取得部180より入力しておく。
(ii)については、脈波同期設定部1602が表示対象のSLO動画像の各フレームを参照し、
(ii−a)各フレームで画質評価指標(本実施例ではS/N比とする)を算出し、
(ii−b)各フレーム間で公知の手法で位置合わせを行い、各フレーム間での画像全体の並進移動パラメータを算出する。
【0102】
(ii−a)及び(ii−b)の処理により、瞬目等の理由で画質指標値が閾値Tq未満のフレームや、固視微動等によりフレーム間の位置ずれが閾値Ts以上のフレームが検出され、それらを含まない最大のフレーム範囲FRが持つ心拍周期数PfrをPNに設定する。
【0103】
ただし比較対象となるSLO動画像間でPfrの値が異なる場合には、比較対象領域間でのPfrの最小値をPNに設定する。
【0104】
<ステップ930>
血管深度位置決定部1603は、
(i)深度位置を区別して表示するか否か
(ii)区別する場合の各深度位置
を指定する。
【0105】
なお、図6(d)に示すように、眼底内では放射状乳頭周囲毛細血管(RPC)・表層毛細血管・深層毛細血管の3種類が存在する領域(RPで囲まれる領域内)と、表層毛細血管及び深層毛細血管が存在する領域(DCで囲まれる領域内)、表層毛細血管のみが存在する領域(SC領域からDC領域を引いた範囲)が存在する。
【0106】
本実施例では観察部位が黄斑部であり、網膜を構成する層(神経線維層や神経節細胞層、内顆粒層及び外網状層)に供給される血流量を比較表示するため
(i)区別する
(ii)表層毛細血管SCの位置(神経線維層境界B2のやや外層側)と深層毛細血管DCの位置(内顆粒層(非図示)のやや外層側)
を指定する。
【0107】
なお、本実施例では眼部ボリューム画像とSLO動画像M1の位置の対応関係を求める方法として、あらかじめデータサーバ40から取得されたSLO動画像M1撮影時の固視標位置の情報を用いる。
【0108】
<ステップ940>
統計量決定部1604は、計測データの統計処理に用いる統計量の種類を決定する。本実施例では局所領域内での計測値の平均や最大値、最小値を求める。なお統計量としてはこれに限らず、任意のものを用いてよい。
【0109】
<ステップ950>
比較対象決定部1605は、統計量の比較を行う際の比較対象領域を決定する。
【0110】
比較対象としては以下の種類がある。
【0111】
(i)同一眼の複数の局所領域
(ii)左右眼の同一領域
(iii)同一眼・同一領域で異なる撮影日時
(iv)同一眼・同一領域で異なる被験者
本実施例では、(i)同一眼の複数の局所領域間での比較を行う。
【0112】
局所領域の設定方法としては任意の領域設定が可能であるが、例えば図11(a)に示すように、中心窩を中心にしてSLO画像を上下左右に領域分割しかつぞれぞれの領域をさらに中心に近い領域と遠い領域に分けたチャートを用いる。なお、中心窩の直下の局所領域は無血管野であるため、本実施例では本局所領域に対する計測値は入力されない。
【0113】
最後に、次に図11を参照して、S550で実行される処理の詳細について説明する。
【0114】
まず、黄斑周囲の局所領域間での血流速度を比較表示する。図11(a)に示すように、血管径ごとに上述のチャートを用意してチャート上の各局所領域での平均血流速の値を表示する。なお、必ずしも血管径ごとに別のマップに分ける必要はなく、例えば図11(b)に示すように同一のマップ内に色分けして表示してもよい。
【0115】
次に、図11(c)に示すように、黄斑部の表層毛細血管付近の層(神経線維層及び神経節細胞層)に供給される単位時間当たりの血液量と、深層毛細血管付近の層(内顆粒層及び外網状層)に供給される単位時間当たりの血液量を区別して表示する。さらに、図11(c)の両マップ間の差分マップを表示してもよい。これにより、両毛細血管により供給される単位時間当たりの血液量を比較表示することができる。
【0116】
以上述べた構成によれば、画像処理装置10は、中心窩周囲の毛細血管を撮像したSLO動画像から血流動態として血流速度や血流量を計測し、毛細血管の血管径や拍動周期、深度位置を考慮した上で血流動態に関する統計量を局所領域ごとに比較表示する。
【0117】
血流速などの血流動態の場合には、血管径によって正常な血流速の範囲が異なるので血管径ごとに統計処理を行う必要がある。また血流速は拍動の影響を受けるため、統計量を算出したり比較する際には拍動周期中の同位相のものを選ぶ必要がある。さらに、毛細血管は図7(b)に示すように表層毛細血管と深層毛細血管とに別れており、毛細血管の血流分布を正確に把握するには、両者を区別して統計をとる必要がある。
【0118】
上述の構成により、眼部細胞の移動速度の正常値や拍動周期、血管が存在する深度位置を反映した、より正確な眼部細胞の動態を表示できる。
【実施例2】
【0119】
本実施例は、第1実施例のように黄斑周囲の局所領域間における血流動態の計測データを比較表示するのではなく、視神経乳頭周囲における血流動態の計測データを左右眼もしくは経時データ間で比較表示するように構成したものである。
【0120】
次に、本実施例に係る画像処理装置10の機能ブロック図は図1と同様であり、本実施例での画像処理フローは図5に示す通りである。S520、S540、S550以外は第1実施例の場合と同様である。そこで、本実施例ではS510、S530、S560、S570、S580における処理の説明は省略する。
【0121】
<ステップS520>
構造特定部130は、S510で取得された画像から眼部特徴を取得する。本実施例ではSLO動画像M1及び眼部ボリューム画像を取得しており、眼部特徴としては図7(a)に示すようにSLO動画像M1から取得された網膜血管影SH、高輝度血球成分W1のデータを取得する。また眼部ボリューム画像からは眼部特徴として内境界膜B1、神経線維層境界B2、内網状層境界B4、視細胞内節外節境界B5、網膜色素上皮の外側境界B6、放射状乳頭周囲毛細血管RPC、表層毛細血管SC及び深層毛細血管DCを抽出する。さらに構造特定部130は取得した各々の眼部特徴データを記憶部120に格納し、必要に応じてデータサーバ40へ送信する。
【0122】
具体的な眼部特徴の取得手順を説明する。
【0123】
なお、眼部ボリューム画像からの層境界、表層毛細血管領域SC及び深層毛細血管領域DCの検出、SLO動画像M1からの網膜血管影領域SHの検出方法は第1実施例の場合と同様であるので説明は省略する。
【0124】
次に、眼部ボリューム画像から放射状乳頭周囲毛細血管RPCを検出する。具体的には、内境界膜B1から神経線維層境界B2の範囲に限定して深度方向に投影像を生成し、該投影像上で公知の線検出フィルタにより放射状乳頭周囲毛細血管RPC領域を検出する。
【0125】
なお、眼部特徴の取得方法はこれに限らず、例えば指示取得部180から指示された種類の眼部特徴を取得してもよい。
【0126】
さらに構造特定部130は検出した各々の眼部特徴データを記憶部120に格納し、必要に応じてデータサーバ40へ送信する。
【0127】
<ステップS540>
決定部160は、SLO動画像M1、眼部ボリューム画像、眼部特徴、及びS530で得られた計測データに基づき、表示に関する以下のパラメータを決定する。
【0128】
(i)計測値に関する統計を取る際に、同じグループとして扱う血管径のサイズ
(ii)計測結果の統計処理や比較時に用いる動画像フレームの範囲(心拍何周期分か、もしくはどの位相からどの位相までか)
(iii)毛細血管の深度位置の区別をするか否か、する場合は深度位置
(iv)統計量の種類
(v)比較する際に用いる局所領域の区分け
次に図6及び図9を参照して、S540で実行される処理の詳細について説明する。
【0129】
<ステップ910>
血管特徴決定部1601は、計測値に関する統計を取る際に区別する血管特徴の種類及びその値の範囲を決定する。本実施例では、計測値に関する統計を取る際に用いる血管特徴を血管径とし、区別する血管径の値の範囲を5〜10μm、10〜20μm、50μm〜の3種類に分類する。
【0130】
なお、区別する血管径の値の範囲はこれに限らず、任意の値に設定してよい。
【0131】
<ステップ920>
脈波同期設定部1602は、SLO動画像M1の動態計測データに関する統計処理の際に用いるフレームの範囲(フレーム番号リスト)を決定する。
【0132】
本実施例では、脈波同期設定部1602が
(i)1心拍周期を何区間に分けるか(区間数IN)
(ii)表示対象のSLO動画像から何心拍周期分のフレームを統計処理や該統計値の比較に用いるか(心拍周期数PN)
を決定する。
【0133】
これについては、第1実施例の場合と同様であるので、説明を省略する。
【0134】
<ステップ930>
血管深度位置決定部1603は、
(i)深度位置を区別して表示するか否か
(ii)区別する場合の各深度位置
を指定する。
【0135】
なお、図6(d)に示すように、眼底内では放射状乳頭周囲毛細血管(RPC)・表層毛細血管・深層毛細血管の3種類が存在する領域(RPで囲まれる領域内)と、表層毛細血管及び深層毛細血管が存在する領域(DCで囲まれる領域内)、表層毛細血管のみが存在する領域(SC領域からDC領域を引いた範囲)が存在する。
【0136】
本実施例では観察部位が視神経乳頭部であり、網膜を構成する層(神経線維層や神経節細胞層、内顆粒層及び外網状層)に供給される血流量を比較表示するため
(i)区別する
(ii)放射状乳頭周囲毛細血管RPCの位置(内境界膜B1のやや外層側)、表層毛細血管SCの位置(神経線維層境界B2のやや外層側)と深層毛細血管DCの位置(内顆粒層(非図示)のやや外層側)
を指定する。
【0137】
なお、本実施例では眼部ボリューム画像とSLO動画像M1の位置の対応関係を求める方法として、あらかじめデータサーバ40から取得されたSLO動画像M1撮影時の固視標位置の情報を用いる。
【0138】
<ステップ940>
統計量決定部1604は、計測データの統計処理に用いる統計量の種類を決定する。本実施例では局所領域毎の計測値の平均、最大値、最小値、正常値との偏差であるDeviation及び同一箇所を異なる被験者間で計測した場合の計測値の特異度を示すSignificanceを選択する。
【0139】
<ステップ950>
比較対象決定部1605は、統計量の比較を行う際の比較対象領域を決定する。本実施例では、
(i)同一眼の複数の局所領域
(ii)左右眼の同一領域
(iii)同一眼・同一領域で異なる撮影日時
の比較を行う。局所領域の設定方法としては、本実施例では(i)同一眼の複数の局所領域、及び(ii)左右眼の同一局所領域として図12(a)に示すような設定を用いる。また、(iii)同一眼・同一領域で異なる撮影日時の場合の局所領域設定としては、過去に撮影したSLO動画像中から構造特定部130によって血管病変(狭窄、瘤)が検出された領域とする。血管病変の検出は任意の公知の画像処理手法を用いることができるが、本実施例では血管抽出の後、血管の中心線に沿って血管径を計測した場合の血管径が一定値未満の領域を狭窄、一定値以上の領域を瘤として検出するものとする。
【0140】
なお、局所領域の設定法はこれに限らない。例えば上半円と下半円の2局所領域に分割して設定してもよい。
【0141】
<ステップS550>
表示制御部170は、決定部160が設定した表示に関するパラメータに基づいてS510で取得された眼部の画像及びS530で計測データ取得部140により取得された計測データに関する表示内容を制御する。
【0142】
具体的には、まず、左右眼の(視神経乳頭周囲の)同一局所領域間での血流速度の差分表示を行う。血管径ごとに図12(a)に示すようなチャートを用意して各局所領域での平均血流速の左右眼間の差分値を表示する。なお、必ずしも血管径ごとに別のマップに分ける必要はなく、同一のマップ内に色分けして表示してもよい。
【0143】
次に、図12(b)に示すように、乳頭部の放射状乳頭周囲毛細血管RPC付近の層(神経線維層)に供給される単位時間当たりの血液量と、表層毛細血管付近の層(神経節細胞層)に供給される単位時間当たりの血液量と、深層毛細血管付近の層(内顆粒層及び外網状層)に供給される単位時間当たりの血液量を区別して表示する。さらに、図12(b)の3種類のマップ間の任意の2マップ間での差分マップを表示してもよい。これにより、乳頭周囲の3種類の毛細血管により供給される単位時間当たりの血液量を比較表示することができる。
【0144】
さらに、図12(c)に示すように、S950で設定された乳頭部の局所領域(もしくは測定点)において血流動態の計測値(血流速度)を異なる撮影日時で取得した経時データを表示する。本実施例では血流速度に関する経時データを図12(c)に示すようにグラフ表示する。また、被験者の過去の血流速度値の平均値(図12(c)実線)を正常値とした場合の、該正常値より一定割合(本実施例では5%)低い値(図12(c)点線)未満の血流速度を持つ経時データANを異常値として警告表示(赤字で表示)する。なお経時データ表示の方法はこれに限らず、任意の表示法を用いて良い。また、警告表示の方法もこれに限らず、任意の公知の表示法を用いてよい。
【0145】
以上述べた構成によれば、画像処理装置10は、視神経乳頭周囲の毛細血管を撮像したSLO動画像から血流動態として血流速度や血流量を計測する。また毛細血管の血管径や拍動周期、深度位置を考慮した上で血流動態に関する統計量を左右眼もしくは時系列データごとに比較表示する。
【0146】
これにより、眼部細胞の移動速度の正常値や拍動周期、血管が存在する深度位置を反映した、より正確な眼部細胞の動態を表示できる。
【実施例3】
【0147】
本実施例では、表示制御部144が血流マップを表示する際に、特定の血管径または特定の深さの血管において血流に異常があると判定された場合に、当該異常のある血流を示す値を強調して表示させる。ハードウェア構成及び処理の流れは先述の実施例と同様であるため説明を省略する。
【0148】
画像処理装置10とともに用いられるデータサーバ40には、画像処理装置10の計測データ取得部140により計測された計測値や表示制御部170で作成された画像データが画像の撮影条件や患者情報と関連付けて記憶されている。また係る情報については、医師等により深さや血管径毎に異常であるか否かの情報が付されている。決定部150は、表示対象とする被検者の血流情報と、データサーバ40に記憶された血流情報と比較して、正常値から所定の閾値よりも離れた値がある場合に、異常であると判定する。
【0149】
表示制御部144はかかる値を他の情報よりも強調して表示させる。例えば先述の局所領域毎に、特定の深さの血流速や血流量に異常がある場合、かかる値を他の値よりも文字を大きくする、色を変える、点滅させる、当該領域の色を変えるなど表示形態を変更した画像データを作成する。表示制御部144は作成した画像データを表示部160に表示させる。また別の例では、表示制御部144は異常な値と判定された値を含む血流マップを他の血管マップよりも優先させて表示させる。例えば、血流マップが深さ別に作成される場合、異常値を含む血流マップを他のマップよりも大きく表示させる、異常値を含む血流マップのみを画面に表示させ、他のマップはユーザの選択に応じて表示させる。
【0150】
かかる表示により、医師等の検査者は異常をいち早く操作負担を減らして確認することができるため、効率的な診断を行うことができる。
【0151】
[その他の実施例]
上述の実施例では本発明を回路により実現したが、例えばコンピュータのCPUにより実行されるソフトウェアとして実現しても良い。また、本ソフトウェアを記憶した記憶媒体も本発明を構成することは言うまでもない。
【0152】
図13に基づき、上述の画像処理装置10をソフトウェアとハードウェアの協働によって実現する場合のハードウェア構成について説明する。図3において、画像処理装置10は中央演算処理装置(CPU)1301、メモリ(RAM)1302、制御メモリ(ROM)1303、外部記憶装置1304を有し、それぞれバス1309で接続されている。また、画像処理装置10にはモニタ1305、キーボード1306、マウス1307、インターフェース1308が接続されている。上述の本実施例に係る画像処理機能を実現するため、図5、図8または図9のフローチャートに記載の処理を実行するための制御プログラムや、当該制御プログラムが実行される際に用いられるデータは、外部記憶装置1304に記憶されている。これらの制御プログラムやデータは、CPU1301による制御のもと、バス1309を通じて適宜RAM1302に取り込まれ、CPU1301によって実行され、以下に説明する各部として機能する。例えば、モニタ1305、キーボード1306やマウス1307は操作部150として機能する。モニタ1305は表示部190として、インターフェース1308はSLO画像取得部100やボリューム画像取得部110として機能する。CPU1301は構造特定部130、計測データ取得部140、決定部160、表示制御部170、指示取得部180などとして機能する。
【0153】
上述の画像処理装置10はCPUを含む電子計算機(コンピュータ)とソフトウェアとの協働によって実現されるが、画像処理装置10の各機能ブロックをそれぞれ回路として実装してもよい。回路のまとまりは機能ブロック単位に限定されることはなく、機能の一部のみを回路として実装することとしてもよい。
【0154】
また、画像処理装置10を複数の装置で構成されている画像処理システムとすることも可能である。
【0155】
上述の実施例はあくまで実施形態を例示したものであり、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0156】
1 撮影システム
10 画像処理装置
100 SLO画像取得部
130 構造特定部
140 計測データ取得部
160 決定部
170 表示制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜の画像に基づいて網膜の血管を特定する特定手段と、
網膜の画像に基づいて前記血管の血流速を計測する計測手段と、
前記特定された血管の深さ別に前記計測された血流速を表示させる表示制御手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
網膜の画像に基づいて網膜の血管を特定する特定手段と、
網膜の画像から計測された血流速と前記特定された血管とに基づいて該血管の血流量を計測する計測手段と、
前記特定された血管の深さ別に前記計測された血流量を表示させる表示制御手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
網膜の画像に基づいて網膜の血管を特定する特定手段と、
網膜の画像に基づいて前記血管の血流速を計測する計測手段と、
前記特定された血管径の大きさ別に前記計測された血流速を表示させる表示制御手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項4】
網膜の画像に基づいて網膜の血管を特定する特定手段と、
網膜の画像から計測された血流速と前記特定された血管とに基づいて該血管の血流量を計測する計測手段と、
前記特定された血管径の大きさ別に前記計測された血流量を表示させる表示制御手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】
前記網膜の画像はSLO撮影部により撮像されたSLO画像であり、
前記表示制御手段は、前記SLO画像を複数の領域に分け、該領域毎に前記血流速を表示させることを特徴とする請求項1または3に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記網膜の画像はSLO撮影部により撮像されたSLO画像であり、
前記表示制御手段は、前記SLO画像を複数の領域に分け、該領域毎に前記血流量を表示させることを特徴とする請求項2または4に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記計測手段は、一定期間に渡って繰り返し撮像された複数の網膜の画像に基づいて血流速を計測することを特徴とする請求項1または3に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記計測手段は、前記複数の網膜の画像から、画質が所定の閾値未満である画像を除いて前記血流速の計測を行う
請求項7に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記網膜の画像は収差測定手段と補償光学系とを有するSLO撮影部により撮像されたSLO画像であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記特定手段は、黄斑部または視神経乳頭部付近の毛細血管を特定することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の画像処理装置と、
前記表示制御手段による制御に応じて情報を表示する表示部と、
を有することを特徴とする画像処理システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate