画像処理装置及び磁気共鳴イメージング装置
【課題】診断対象の領域を詳細に検査することが可能な拡散テンソルトラクトグラフィ画像を得る。
【解決手段】実施形態の画像処理装置及び磁気共鳴イメージング装置は、計算開始領域設定手段と、画像生成手段とを備える。計算開始領域設定手段は、被検体の部位が撮像された医用画像上に連続する複数の計算開始領域を設定する。画像生成手段は、前記複数の計算開始領域ごとに神経束を描出した拡散テンソルトラクトグラフィ画像を生成する。
【解決手段】実施形態の画像処理装置及び磁気共鳴イメージング装置は、計算開始領域設定手段と、画像生成手段とを備える。計算開始領域設定手段は、被検体の部位が撮像された医用画像上に連続する複数の計算開始領域を設定する。画像生成手段は、前記複数の計算開始領域ごとに神経束を描出した拡散テンソルトラクトグラフィ画像を生成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、画像処理装置及び磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置によるイメージング手法として、拡散イメージングが知られている。拡散イメージングは、水分子などの粒子が熱によるブラウン運動により散らばっていく拡散効果を強調した拡散強調画像を撮像する手法である。かかる拡散イメージングは、主に脳の診断で用いられている。
【0003】
また、拡散イメージングにより得られる拡散強調画像を用いて神経線維の走行解析を行う拡散テンソルイメージングが知られている。拡散テンソルイメージングは、MPG(Motion Probing Gradient)の方向を変えた複数の拡散強調画像をもとに、テンソル解析を利用して、水分子の不等方拡散(anisotropy)の方向を表す拡散テンソル画像を生成する手法である。
【0004】
また、拡散テンソルイメージングにより得られる拡散テンソル画像を用いて神経束を描出する拡散テンソルトラクトグライフィも知られている。拡散テンソルトラクトグラフィは、拡散テンソル画像に含まれる任意のピクセルでの最大拡散方向を追跡し、その軌跡を神経束として描出した拡散テンソルトラクトグラフィ画像を生成する手法である。この拡散テンソルトラクトグラフィでは、通常、医師や技師などの操作者によって拡散テンソルトラクトグラフィ画像上に計算開始領域が設定される。ここで、計算開始領域とは、最大拡散方向の追跡を開始するピクセルの位置を指定するために設定される領域である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Susumu Mori and Jiangyang Zhang, "Principles of Diffusion Tensor Imaging and Its Applications to Basic Neuroscience Research", Neuron 51, p.527-539, September 7, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の拡散テンソルトラクトグラフィでは、診断対象の領域を詳細に検査することができない場合があった。例えば、脳梁を詳細に検査する場合には、解剖学的な知見に基づいて脳梁を複数の領域に分け、各領域を通る神経束を領域ごとに観察することが行われる。しかし、従来の拡散テンソルグラフィでは、手動で計算開始領域が設定されるため、複数の領域それぞれに正確に計算開始領域を設定することは困難であった。このことから、脳梁を詳細に検査することができない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の画像処理装置及び磁気共鳴イメージング装置は、計算開始領域設定手段と、画像生成手段とを備える。計算開始領域設定手段は、被検体の部位が撮像された医用画像上に連続する複数の計算開始領域を設定する。画像生成手段は、前記複数の計算開始領域ごとに神経束を描出した拡散テンソルトラクトグラフィ画像を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、第1の実施形態に係るMRIシステムの全体構成を示す図である。
【図2】図2は、第1の実施形態に係る記憶部、データ処理部、画像処理部及び制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、第1の実施形態に係るトラクトグラフィ生成部によるDTT画像の生成を説明するための図である。
【図4】図4は、第1の実施形態に係る表示制御部により表示されるDTT画像の一例を示す図(1)である。
【図5】図5は、第1の実施形態に係る表示制御部により表示されるDTT画像の一例を示す図(2)である。
【図6】図6は、第1の実施形態に係るMRI装置100によるDTT画像の作成の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は、第1の実施例に係る関心領域設定部による関心領域の設定の一例を示す図である。
【図8】図8は、第1の実施形態に係る計算開始領域設定部による計算開始領域の設定の一例を示す図である。
【図9】図9は、本実施例に係る計算開始領域設定部によって用いられるアルゴリズムの一例を示す図(1)である。
【図10】図10は、本実施例に係る計算開始領域設定部によって用いられるアルゴリズムの一例を示す図(2)である。
【図11】図11は、表示制御部77aによるDTT画像の表示の一例を示す図(1)である。
【図12】図12は、表示制御部77aによるDTT画像の表示の一例を示す図(2)である。
【図13】図13は、第2の実施形態に係る計算開始領域設定部により表示されるGUIの一例を示す図(1)である。
【図14】図14は、第2の実施形態に係る計算開始領域設定部により表示されるGUIの一例を示す図(2)である。
【図15】図15は、第2の実施形態に係る計算開始領域設定部により表示されるGUIの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、画像処理装置及びMRI装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態では、拡散イメージングをDWI(Diffusion Weighted Imaging)と呼び、DWIにより生成される画像をDWI画像と呼ぶ。また、拡散テンソルイメージングをDTI(Diffusion Tensor Imaging)と呼び、DTIにより生成される画像をDTI画像と呼ぶ。また、拡散テンソルトラクトグラフィをDTT(Diffusion Tensor Tractography)と呼び、DTTにより生成される画像をDTT画像と呼ぶ。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態1について説明する。図1は、第1の実施形態に係るMRIシステムの全体構成を示す図である。図1に示すように、MRI装置100は、架台部10と、傾斜磁場電源20と、RF送信部30と、RF受信部40と、シーケンス制御部50と、寝台部60と、計算機システム70とを有する。
【0011】
架台部10は、静磁場中に置かれた被検体Pに高周波磁場を照射し、それにより被検体Pから発せられるMR信号を検出する。この架台部10は、静磁場磁石11と、傾斜磁場コイル12と、送信用RF(Radio Frequency)コイル13と、受信用RFコイル14とを有する。
【0012】
静磁場磁石11は、中空の円筒形状に形成され、円筒内の空間に一様な静磁場を発生する。この静磁場磁石11としては、例えば、永久磁石や超伝導磁石などが用いられる。
【0013】
傾斜磁場コイル12は、中空の円筒形状に形成され、静磁場磁石11の内側に配置される。この傾斜磁場コイル12は、互いに直交するX,Y,Zの各軸に対応する3つのコイルを有する。各コイルは、それぞれ後述する傾斜磁場電源20から電流供給を受けて、X,Y,Zの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生させる。なお、Z軸方向は、静磁場と同方向とされる。
【0014】
また、傾斜磁場コイル12によって発生するX,Y,Z各軸の傾斜磁場は、例えば、スライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Ge及びリードアウト用傾斜磁場Grにそれぞれ対応する。スライス選択用傾斜磁場Gsは、任意に撮像断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場Geは、空間的位置に応じて磁気共鳴(MR:Magnetic Resonance)信号の位相を変化させるために利用される。リードアウト用傾斜磁場Grは、空間的位置に応じてMR信号の周波数を変化させるために利用される。
【0015】
送信用RFコイル13は、傾斜磁場コイル12の内側に配置され、RF送信部30から高周波パルスの供給を受けて高周波磁場を発生する。
【0016】
受信用RFコイル14は、傾斜磁場コイル12の内側に配置され、送信用RFコイル13により発生した高周波磁場の影響によって被検体Pから発せられるMR信号を受信する。そして、受信用RFコイル14は、受信したMR信号をRF受信部40へ出力する。
【0017】
傾斜磁場電源20は、傾斜磁場コイル12に電流を供給する。RF送信部30は、ラーモア周波数に対応する高周波パルスを送信用RFコイル13に送信する。RF受信部40は、受信用RFコイル14から出力されるMR信号をデジタル化することによって生データを生成し、生成した生データをシーケンス制御部50へ送信する。
【0018】
シーケンス制御部50は、計算機システム70から送信されるシーケンス情報に基づいて、傾斜磁場電源20、RF送信部30及びRF受信部40を駆動することによって、被検体Pのスキャンを行う。また、シーケンス制御部50は、被検体Pのスキャンを行った結果、RF受信部40から生が送信されると、その生データを計算機システム70へ転送する。
【0019】
なお、ここでいうシーケンス情報とは、シーケンス制御部50が傾斜磁場コイル12に供給する電源の強さや電源を供給するタイミング、RF送信部30が送信用RFコイル13に送信するRF信号の強さやRF信号を送信するタイミング、RF受信部40がMR信号を検出するタイミングなど、スキャンを行うための手順を定義した情報である。
【0020】
寝台部60は、被検体Pが載置される天板を有し、その天板を移動させることで、撮影時に被検体Pを架台部10の開口部へ挿入する。
【0021】
計算機システム70は、MRI装置100の全体制御や、データ収集、画像再構成などを行う装置であり、インタフェース部71と、入力部72と、表示部73と、記憶部74と、データ処理部75と、画像処理部76と、制御部77とを有している。
【0022】
インタフェース部71は、シーケンス制御部50との間でやり取りされる各種信号の入出力を制御する。例えば、インタフェース部71は、シーケンス制御部50に対してシーケンス情報を送信し、シーケンス制御部50から生データを受信する。また、インタフェース部71は、生データを受信すると、受信した生データを被検体Pごとに記憶部74に記憶させる。
【0023】
入力部72は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける。この入力部72としては、例えば、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスが用いられる。
【0024】
表示部73は、操作者により参照される各種画像や、操作者から各種操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示する。この表示部73としては、例えば、液晶モニタやCRTモニタなどの表示デバイスが用いられる。
【0025】
記憶部74は、シーケンス制御部50から送信された生データや、後述するデータ処理部75及び画像処理部76により生成された各種画像データを被検体Pごとに記憶する。
【0026】
データ処理部75は、記憶部74により記憶された生データから画像を再構成する。また、データ処理部75は、被検体Pの体内の形態情報を示す磁気共鳴画像やDWI画像などを生成する。
【0027】
画像処理部76は、記憶部74により記憶された画像データに対して各種の画像処理を施すことにより、各種医用画像を生成する。
【0028】
制御部77は、上述した機能部間での制御の移動や、機能部と記憶部との間のデータの受け渡しなどを行うことで、MRI装置100の全体制御を行う。具体的には、制御部77は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリを有し、それらを用いて各種プログラムを実行させることで、MRI装置100が有する各部を制御する。例えば、制御部77は、操作者によって設定された撮像条件に基づいてシーケンス情報を生成し、生成したシーケンス情報をシーケンス制御部50に送信することで各種の撮像シーケンスを実行する。
【0029】
次に、第1の実施形態に係る記憶部74、データ処理部75、画像処理部76及び制御部77の構成について詳細に説明する。図2は、第1の実施形態に係る記憶部74、データ処理部75、画像処理部76及び制御部77の構成を示す機能ブロック図である。
【0030】
図2に示すように、記憶部74は、生データ記憶部74aと、再構成画像記憶部74bと、解析画像記憶部74cとを有する。
【0031】
生データ記憶部74aは、シーケンス制御部50から送信された生データを被検体ごとに記憶する。再構成画像記憶部74bは、後述する画像再構成部75aにより生成された再構成画像を被検体ごとに記憶する。解析画像記憶部74cは、後述する解析画像生成部75bにより生成された各種の解析画像を被検体ごとに記憶する。
【0032】
また、図2に示すように、データ処理部75は、画像再構成部75aと、解析画像生成部75bとを有する。
【0033】
画像再構成部75aは、生データ記憶部74aにより記憶された生データに対して後処理、すなわちフーリエ変換処理などの再構成処理を施すことで再構成画像を生成する。そして、画像再構成部75aは、生成した再構成画像を再構成画像記憶部74bに格納する。例えば、また、画像再構成部75aは、T1強調画像(T1 Weighted Image)やT2強調画像(T2 Weighted Image)などの形態画像を生成する。画像再構成部75aは、DWI画像を生成する。
【0034】
ここで、DWIについて説明する。DWIでは、拡散によるMR信号の減衰を強調するMPG(Motion Probing Gradient)パルスの印加をともなうパルスシーケンスが用いられる。なお、拡散による信号強度Sは、最も簡単には、以下に示す式(1)のように表される。
【0035】
S=PD(1−exp(−TR/T1)*exp(−TE/T2))
*exp(−bD) ・・・(1)
【0036】
この式(1)において、TEはecho timeであり、TRはrepetition timeであり、PDはproton densityである。また、T1及びT2は信号緩和時間であり、Dはdiffusion coefficient(拡散の程度を表す拡散係数)である。また、b[s/mm2]は拡散による信号減衰の程度を表す傾斜磁場因子であり、S0は傾斜磁場因子bがゼロであるときの信号強度である。
【0037】
そして、
S0=PD(1−exp(−TR/T1)*exp(−TE/T2))
とし、
Experiment 1: S1=S0*exp(−b1D)
Experiment 2: S2=S0*exp(−b2D)
とすると、以下に示す式(2)が成り立つ。
【0038】
S2/S1=exp(−(b2−b1)D) ・・・(2)
【0039】
また、式(2)より、以下に示す式(3)が得られる。
【0040】
D=−ln(S2/S1)/(b2−b1) ・・・(3)
【0041】
この式(3)から分かるように、2つの異なるb値を用いることで、拡散係数Dを算出することができる。このため、DWIの一般的な臨床応用では、簡便な方法として、一方向のMPGパルスを印加し、b=1000程度として撮像されたDWIとb=0として撮像された画像とを用いて診断されることが多い。また、通常は、TE>60[ms]となるように撮像条件が設定されるため、b=0の画像は、T2の違いを強調したコントラストを有するT2強調画像になる。
【0042】
ここで、b値について詳細に説明する。b値を理解するために、まず、傾斜磁場パルスについて説明する。MRI装置では、ボアに沿って線形に変化する強い傾斜磁場が印加される。この傾斜磁場はB0 fieldと呼ばれる。MRI装置は、一般的に、X,Y,Z方向の傾斜磁場ユニットを備えており、各傾斜磁場ユニットを組み合わせることによって、任意の方向に沿った磁場を印加することができる。そして、MR信号の周波数ωと磁場強度B0との関係は、以下に示す式(4)のように単純な関係式で表される。
【0043】
ω=γB0 ・・・(4)
【0044】
ここで、γは原子核固有の比例定数である。
【0045】
DWIでは、拡散エンコーディングに用いられるMPGパルスの大きさ及び方向によって拡散データが決定される。このMPGパルスの大きさがb値である。例えば、拡散エンコーディングでは、高周波の180°リフォーカスパルスの前後に対照的に配置された2つのMPGパルスが用いられる。180°リフォーカスパルスの前に配置された第1のMPGパルスは、全てのスピンに対して位相シフトを生じさせる。
【0046】
また、180°リフォーカスパルスの後に配置された第2のMPGパルスは、第1のMPGパルスにより生じた位相シフトを反転させる。これにより、固定の分子(医用画像化においてはプロトン)については、位相シフトが打ち消される。しかしながら、ブラウン運動によって第2のMPGパルスの作用時に第1のMPGパルスの作用時とは異なる位置に移動していた分子については、位相シフトが完全に相殺されない。したがって、そのような分子については、信号の減弱をもたらす残留位相シフトがとどまることになる。このように、拡散イメージングでは、MPGパルスの大きさを示すb値及び傾斜磁場パルスの方向によって拡散エンコーディングが制御される。
【0047】
画像再構成部75aは、例えば、上述したDWIを行うことで、水分子などの粒子が熱によるブラウン運動によって散らばっていく拡散効果を強調したDWI画像を生成する。
【0048】
解析画像生成部75bは、画像再構成部75aにより生成された再構成画像を用いて各種の解析画像を生成する。そして、解析画像生成部75bは、生成した解析画像を解析画像記憶部74cに格納する。例えば、解析画像生成部75bは、画像再構成部75aにより生成されたDWI画像を再構成画像記憶部74bから読み出し、読み出したDWI画像を用いて、被検体内における分子拡散の異方性を表すDTI画像を生成する。
【0049】
ここで、DTIについて詳細に説明する。DTIでは、拡散データに基づいて、6つのテンソル係数又はテンソルパラメータ、すなわち、3×3の対称テンソル行列の独立要素又は成分がボクセルごとに算出される。対称テンソル行列は、以下に示す式(5)で表される。
【0050】
【数1】
【0051】
この式(5)において、Dxx〜Dzzにおける最初の添え字(x,y,z)は、細胞又は組織の本来の方向を表す。また、2番目の添え字(x,y,z)は、傾斜磁場の方向を表す。また、いわゆる対角成分であるDxx,Dyy,Dzzは、通常、臨床用に用いられるMRI装置が有する3軸の装置座標系で計測される拡散係数の成分である。
【0052】
典型的には、テンソルパラメータは、診断に重要なパラメータマップを算出するために使用される。例えば、拡散テンソルの等方性成分又は拡散テンソルの異方性成分が相応のパラメータマップに示される。ここでいうパラメータマップとは、例えば、平均見かけ拡散係数マップ又はADC(Apparent Diffusion Coefficient)マップ、もしくは、部分異方性マップ又はFA(Fractional Anisotropy)マップである。なお、ADCマップとは、式(2)をピクセルごとに解くことで算出される拡散係数のマップである。
【0053】
ここで、DTIで用いられる拡散データは多数であるため、ボクセルごとに拡散テンソルが算出される際には、平均化により未知パラメータが決定される。この未知パラメータを決定する方法としては、多変量の線形回帰により知られた方法、例えば、擬似逆行列を形成する方法や特異値分析を行う方法などが用いられる。
【0054】
例えば、Basser, P. J., J. Mattiello, and D. LeBihan. "MR diffusion tensor spectroscopy and imaging" Biophys. J., 66, p.259-267, 1994に記載された方法によれば、DWI画像におけるボクセルごとの分子拡散の異方性は、例えば、楕円体のモデルで表される。この方法では、楕円体の3軸の固有値をλ1、λ2、λ3とし、固有ベクトルをv1、v2、v3とすることで、拡散パラメータの6つのパラメータが定義される。
【0055】
例えば、解析画像生成部75bは、上記の楕円体モデルを用いて、DWI画像に含まれるボクセルごとに分子拡散の異方性を定義する。そして、解析画像生成部75bは、定義した楕円体モデルにおける最長軸の方向に応じて、DTI画像におけるボクセルの色を決める。例えば、解析画像生成部75bは、装置座標系におけるX軸の方向を赤色、Y軸の方向を黄色、Z軸の方向を青色とし、これらX,Y,Z軸と楕円体モデルにおける最長軸の方向との位置関係に応じてボクセルの色を決める。解析画像生成部75bは、かかる処理をDWI画像に含まれるボクセルごとに行うことで、被検体内における分子拡散の異方性を表すDTI画像を生成する。
【0056】
また、図2に示すように、画像処理部76は、関心領域設定部76aと、計算開始領域設定部76bと、トラクトグラフィ生成部76cとを有する。
【0057】
関心領域設定部76aは、解析画像生成部75bによって生成された解析画像上に関心領域を設定する。例えば、関心領域設定部76aは、解析画像生成部75bによって生成されたDTI画像を解析画像記憶部74cから読み出し、読み出したDTI画像上に関心領域を設定する。
【0058】
計算開始領域設定部76bは、解析画像生成部75bによって生成された解析画像上に計算開始領域を設定する。ここでいう計算開始領域とは、後述するトラクトグラフィ生成部76cによって行われるDTTにおいて、最大拡散方向の追跡を開始するピクセルの位置を指定するために設定される領域である。
【0059】
トラクトグラフィ生成部76cは、計算開始領域設定部76bによって設定された計算開始領域に基づいて、神経束を描出したDTT画像を生成する。図3は、第1の実施形態に係るトラクトグラフィ生成部76cによるDTT画像の生成を説明するための図である。図3は、解析画像生成部75bによって生成されたDTI画像の一部を示している。なお、ここでは説明の便宜上、2次元のDTI画像を用いた場合について説明する。
【0060】
図3において、格子状に分割された複数の四角い領域は、それぞれDTI画像に含まれるピクセルを示している。また、各ピクセル内にある楕円は、それぞれ前述した分子拡散の異方性を表す楕円体モデルを示している。また、各ピクセルに付けられた色は、異方性の大きさに応じて付けられており、色が濃いほど異方性が低いことを示している。
【0061】
図3に示すように、トラクトグラフィ生成部76cは、計算開始領域設定部76bによって設定された計算開始領域をDTI画像上に計算開始領域Cとして設定する。また、トラクトグラフィ生成部76cは、DTI画像に含まれるピクセルのうち異方性が高いピクセル(図3に示す白色のピクセル)について平均的な方向を算出する。
【0062】
その後、トラクトグラフィ生成部76cは、計算開始領域Cに含まれるピクセルP1及びP2それぞれを基点として、算出された平均的な方向に沿う曲線F1及びF2を生成する。ここで生成される曲線F1及びF2は、各ピクセルにおける最大拡散方向の軌跡となり、神経束の流れを表すことになる。このように、トラクトグラフィ生成部76cは、神経束の流れを示す画像をDTT画像として生成する。
【0063】
図2の説明にもどって、制御部77は、表示制御部77aを有する。表示制御部77aは、表示部73への各種情報の表示を制御する。例えば、表示制御部77aは、トラクトグラフィ生成部76cにより生成されたDTT画像を表示部73に表示させる。
【0064】
図4及び5は、第1の実施形態に係る表示制御部77aにより表示されるDTT画像の一例を示す図である。表示制御部77aは、例えば、図4に示すように、2次元のDTT画像を2次元のDWI画像に重畳させて表示する。図4において、曲線Foは、計算開始領域Coに基づいてDTTにより生成されたものであり、曲線Fmは、計算開始領域Coと左右に対称な計算開始領域Cmに基づいてDTTにより生成されたものである。このようにDTTの曲線Fo及びFmを表示することにより、神経束の様子を平面的に観察することができる。
【0065】
または、表示制御部77aは、例えば、図5に示すように、3次元のDTT画像を2次元のDWI画像に合成して表示する。図5において、曲線Foは、計算開始領域Coに基づいてDTTにより生成されたものであり、曲線Fmは、計算開始領域Coと左右に対称な計算開始領域Cmに基づいてDTTにより生成されたものである。このようにDTTの曲線Fo及びFmを表示することにより、神経束の様子を立体的に観察することができる。
【0066】
以上、第1の実施形態に係るMRI装置100の構成について説明した。このような構成のもと、第1の実施形態では、MRI装置100は、被検体の部位が撮像された医用画像上に連続する複数の計算開始領域を設定し、それらの計算開始領域ごとに神経束を描出したDTT画像を生成する。これにより、診断対象の領域を複数の領域に分け、それぞれの領域ごとに神経束を観察することができるようになるので、診断対象の領域を詳細に検査することが可能になる。
【0067】
次に、第1の実施形態に係るMRI装置100によるDTT画像の作成の流れについて説明する。図6は、第1の実施形態に係るMRI装置100によるDTT画像の作成の流れを示すフローチャートである。
【0068】
図6に示すように、第1の実施形態に係るMRI装置100では、まず、制御部77が、操作者によって設定された撮像条件に基づいてシーケンス制御部50などの各部を制御することで、DWIのシーケンスを実行する(ステップS101)。その後、画像再構成部75aが、DWIのシーケンスにより収集された生データからDWI画像を生成する(ステップS102)。
【0069】
続いて、解析画像生成部75bが、画像再構成部75aによって生成されたDWI画像を用いてDTI画像を生成する(ステップS103)。また、関心領域設定部76aが、解析画像生成部75bによって生成されたDTI画像上に関心領域を設定する(ステップS104)。
【0070】
図7は、第1の実施例に係る関心領域設定部76aによる関心領域の設定の一例を示す図である。なお、ここでは、頭部のDTI画像において脳梁が占める範囲に関心領域を設定する場合を一例として説明する。この場合には、例えば、関心領域設定部76aは、入力部72を介して、脳梁内の任意の位置にシード点を設定する操作を操作者から受け付ける。その後、関心領域設定部76aは、操作者によって設定されたシード点を基準にしてリージョングローイングを行うことで、脳梁が占める範囲を抽出する。そして、関心領域設定部76aは、図7に示すように、抽出した脳梁の範囲をDTI画像1上で関心領域2として設定する。
【0071】
なお、関心領域を設定する方法としては、ここで説明したリージョングローイングに限られず、各種の方法を用いることができる。例えば、入力部72を介して、DTI画像上に所望の形状及び大きさの範囲を指定する操作を操作者から受け付け、受け付けた範囲を関心領域として設定する。または、例えば、閾値処理などの画像処理を用いて、関心領域を自動的に抽出してもよい。
【0072】
図6の説明に戻って、続いて、計算開始領域設定部76bが、解析画像生成部75bによって生成された解析画像上に、連続する複数の計算開始領域を設定する。具体的には、計算開始領域設定部76bは、関心領域設定部76aによって設定された関心領域を複数の領域に分割し、それら複数の領域をそれぞれ計算開始領域として設定する(ステップS105)。
【0073】
図8は、第1の実施形態に係る計算開始領域設定部76bによる計算開始領域の設定の一例を示す図である。図8に示すように、例えば、計算開始領域設定部76bは、あらかじめ決められたアルゴリズムにしたがって、解析画像生成部75bによって設定された関心領域2を6つの領域に分割し、それぞれを計算開始領域2a〜2fとして設定する。
【0074】
ここで、関心領域を分割するアルゴリズムとしては、各種のアルゴリズムを用いることができる。例えば、計算開始領域設定部76bは、診断対象の部位の解剖学的な特徴に基づいて関心領域を分割する。例えば、診断対象が脳梁の場合には、Witelson Schemeを利用してもよい。Witelson Schemeは、脳梁を機能ごとに分割するためのテンプレートである(例えば、WitelsonSF, Kigar DL. Anatomical development of corpus callosum in humans: a review with reference to sex and cognition. In: Molefese DL, Segalowitz SJ, eds. Brain lateralization in children: development implications. New York, NY: Guilford, 1988; 35-37. 等を参照)。
【0075】
図9及び10は、本実施例に係る計算開始領域設定部76bによって用いられるアルゴリズムの一例を示す図である。図9及び10は、Witelson Schemeのテンプレートを示している。図9及び10に示すように、Witelson Schemeは、脳梁の両端(ACC及びPCC)を通る直線を基準にして、脳梁を機能ごとに7つに区分けするテンプレートである。例えば、計算開始領域設定部76bは、このようなWitelson Schemeのテンプレートに基づいて、脳梁の領域を7つに分割する。
【0076】
図6の説明に戻って、続いて、トラクトグラフィ生成部76cが、計算開始領域設定部76bによって設定された複数の計算開始領域ごとに神経束を描出したDTT画像を生成する(ステップS106)。
【0077】
そして、表示制御部77aが、トラクトグラフィ生成部76cにより生成されたDTT画像を表示部73に表示させる(ステップS107)。このとき、計算開始領域設定部76bは、例えば、隣接する計算開始領域に描出された神経束の表示色を変えて、DTT画像を表示部73に表示させる。
【0078】
図11及び12は、表示制御部77aによるDTT画像の表示の一例を示す図である。図11に示すように、例えば、計算開始領域設定部76bは、DTI画像1上で脳梁の領域に6つの計算開始領域A〜Fが設定されていた場合には、各領域を通る神経束の表示色を領域ごとに変えたDTT画像3を表示部73に表示させる。このとき、計算開始領域設定部76bは、例えば、各領域を通る神経束を全て異なる色で表示させる。または、計算開始領域設定部76bは、図12に示すように、少なくとも2種類の表示色を用いて、神経束の色を領域ごとに交互に変えたDTT画像3を表示部73に表示させてもよい。または、計算開始領域設定部76bは、分割された領域ごとに神経束を表示するか否かを変えてもよい。
【0079】
上述したように、第1の実施形態では、計算開始領域設定部76bが、被検体の部位が撮像された医用画像上に連続する複数の計算開始領域を設定する。また、トラクトグラフィ生成部76cが、計算開始領域設定部76bによって設定された複数の計算開始領域ごとに神経束を描出したDTT画像を生成する。これにより、診断対象の領域を複数の領域に分け、それぞれの領域ごとに神経束を観察することが可能にできるようになるので、診断対象の領域を詳細に検査することが可能になる。すなわち、本実施形態によれば、診断対象の領域を詳細に検査することが可能なDTT画像を得ることができる。
【0080】
また、第1の実施形態では、関心領域設定部76aが、被検体の部位が撮像された医用画像上に関心領域を設定する。また、計算開始領域設定部76bが、関心領域設定部76aによって設定された関心領域を複数の領域に分割し、それら複数の領域をそれぞれ計算開始領域として設定する。したがって、本実施形態によれば、診断対象の領域を関心領域とすることで、診断対象の領域を詳細に検査することが可能になる。
【0081】
また、第1の実施形態では、計算開始領域設定部76bが、被検体の部位の解剖学的な特徴に基づいて関心領域を分割する。したがって、本実施形態によれば、解剖学的な知見に基づいて分けられた複数の領域ごとに神経束を観察することが可能になる。
【0082】
また、第1の実施形態では、トラクトグラフィ生成部76cが、隣接する計算開始領域に描出された神経束の表示色を変えて、DTT画像を表示部73に表示させる。したがって、本実施形態によれば、領域ごとの神経束をより容易に識別することが可能になる。
【0083】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態で説明したMRI装置100において、複数の計算開始領域ごとに領域の大きさを変えることができるようにした例を説明する。
【0084】
具体的には、本実施形態では、計算開始領域設定部76bは、医用画像上に連続する複数の計算開始領域を設定した後に、操作者からの指示に基づいて、各計算開始領域の大きさを変更する。例えば、計算開始領域設定部76bは、複数の計算開始領域を設定した後に、各計算開始領域の大きさを変更する操作を操作者から受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示部73に表示させる。
【0085】
図13及び14は、第2の実施形態に係る計算開始領域設定部76bにより表示されるGUIの一例を示す図である。図13に示すように、例えば、計算開始領域設定部76bは、第1の調節つまみ4と、複数の第2の調節つまみ5a〜5fと、複数の分割線6a〜6fとを有するGUIをインジケータとして用いる。ここで、分割線6a〜6fは、第1の調節つまみ4と第2の調節つまみ5a〜5fそれぞれとを接続する直線である。この場合には、計算開始領域設定部76bは、各調節つまみを所望の位置に移動する操作を操作者から受け付け、各調節つまみの移動にともなって、各分割線の位置を決定する。そして、図14に示すように、計算開始領域設定部76bは、位置決めした各分割線を基準にして、関心領域2に設定された複数の計算開始領域2a〜2fの位置、形状、及び大きさを設定する。これにより、操作者は、各調節つまみを移動させることで、個々の計算開始領域の大きさや形状を容易に調整することができる。
【0086】
なお、各計算開始領域の大きさを変更する操作を操作者から受け付けるためのGUIは、図13及び14に示したものに限られない。図15は、第2の実施形態に係る計算開始領域設定部76bにより表示されるGUIの他の例を示す図である。図15に示すように、例えば、計算開始領域設定部76bは、複数の表示色で構成されたカラーバー状のGUIをインジケータとして用いてもよい。このインジケータでは、カラーバー7の両端の位置は、DTT画像3における関心領域の両端の位置に対応している。また、カラーバー7は表示色ごとに仕切られており、仕切り部分に調節つまみ7a〜7eが設けられている。そして、各調節つまみの位置は、関心領域に設定された各計算開始領域の境界の位置に対応している。この場合には、計算開始領域設定部76bは、各調節つまみをカラーバー7に沿って所望の位置に移動する操作を操作者から受け付け、各調節つまみの移動にともなって、計算開始領域の境界を移動させる。この例でも、操作者は、各調節つまみを移動させることで、個々の計算開始領域の大きさや形状を容易に調整することができる。
【0087】
そして、本実施形態では、トラクトグラフィ生成部76cが、計算開始領域設定部76bによって計算開始領域の大きさが変更された場合に、変更された領域の神経束を描出し直す。これにより、操作者は、神経束を確認しながら、各計算開始領域の大きさや形状をより適切に変更することができる。
【0088】
このように、第2の実施形態では、計算開始領域設定部76bが、複数の計算開始領域を設定した後に、操作者からの指示に基づいて計算開始領域の大きさを変更する。また、トラクトグラフィ生成部76cが、計算開始領域設定部76bによって計算開始領域の大きさが変更された場合に、変更された領域の神経束を描出し直す。したがって、本実施形態によれば、操作者が各計算領域の大きさや形状を容易かつ適切に調整できるので、診断対象の領域を効率よく観察することが可能になる。
【0089】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0090】
100 MRI装置(磁気共鳴イメージング装置)
70 計算機システム
76 画像処理部
76b 計算開始領域設定部
76c トラクトグラフィ生成部
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、画像処理装置及び磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置によるイメージング手法として、拡散イメージングが知られている。拡散イメージングは、水分子などの粒子が熱によるブラウン運動により散らばっていく拡散効果を強調した拡散強調画像を撮像する手法である。かかる拡散イメージングは、主に脳の診断で用いられている。
【0003】
また、拡散イメージングにより得られる拡散強調画像を用いて神経線維の走行解析を行う拡散テンソルイメージングが知られている。拡散テンソルイメージングは、MPG(Motion Probing Gradient)の方向を変えた複数の拡散強調画像をもとに、テンソル解析を利用して、水分子の不等方拡散(anisotropy)の方向を表す拡散テンソル画像を生成する手法である。
【0004】
また、拡散テンソルイメージングにより得られる拡散テンソル画像を用いて神経束を描出する拡散テンソルトラクトグライフィも知られている。拡散テンソルトラクトグラフィは、拡散テンソル画像に含まれる任意のピクセルでの最大拡散方向を追跡し、その軌跡を神経束として描出した拡散テンソルトラクトグラフィ画像を生成する手法である。この拡散テンソルトラクトグラフィでは、通常、医師や技師などの操作者によって拡散テンソルトラクトグラフィ画像上に計算開始領域が設定される。ここで、計算開始領域とは、最大拡散方向の追跡を開始するピクセルの位置を指定するために設定される領域である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Susumu Mori and Jiangyang Zhang, "Principles of Diffusion Tensor Imaging and Its Applications to Basic Neuroscience Research", Neuron 51, p.527-539, September 7, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の拡散テンソルトラクトグラフィでは、診断対象の領域を詳細に検査することができない場合があった。例えば、脳梁を詳細に検査する場合には、解剖学的な知見に基づいて脳梁を複数の領域に分け、各領域を通る神経束を領域ごとに観察することが行われる。しかし、従来の拡散テンソルグラフィでは、手動で計算開始領域が設定されるため、複数の領域それぞれに正確に計算開始領域を設定することは困難であった。このことから、脳梁を詳細に検査することができない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の画像処理装置及び磁気共鳴イメージング装置は、計算開始領域設定手段と、画像生成手段とを備える。計算開始領域設定手段は、被検体の部位が撮像された医用画像上に連続する複数の計算開始領域を設定する。画像生成手段は、前記複数の計算開始領域ごとに神経束を描出した拡散テンソルトラクトグラフィ画像を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、第1の実施形態に係るMRIシステムの全体構成を示す図である。
【図2】図2は、第1の実施形態に係る記憶部、データ処理部、画像処理部及び制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、第1の実施形態に係るトラクトグラフィ生成部によるDTT画像の生成を説明するための図である。
【図4】図4は、第1の実施形態に係る表示制御部により表示されるDTT画像の一例を示す図(1)である。
【図5】図5は、第1の実施形態に係る表示制御部により表示されるDTT画像の一例を示す図(2)である。
【図6】図6は、第1の実施形態に係るMRI装置100によるDTT画像の作成の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は、第1の実施例に係る関心領域設定部による関心領域の設定の一例を示す図である。
【図8】図8は、第1の実施形態に係る計算開始領域設定部による計算開始領域の設定の一例を示す図である。
【図9】図9は、本実施例に係る計算開始領域設定部によって用いられるアルゴリズムの一例を示す図(1)である。
【図10】図10は、本実施例に係る計算開始領域設定部によって用いられるアルゴリズムの一例を示す図(2)である。
【図11】図11は、表示制御部77aによるDTT画像の表示の一例を示す図(1)である。
【図12】図12は、表示制御部77aによるDTT画像の表示の一例を示す図(2)である。
【図13】図13は、第2の実施形態に係る計算開始領域設定部により表示されるGUIの一例を示す図(1)である。
【図14】図14は、第2の実施形態に係る計算開始領域設定部により表示されるGUIの一例を示す図(2)である。
【図15】図15は、第2の実施形態に係る計算開始領域設定部により表示されるGUIの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、画像処理装置及びMRI装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態では、拡散イメージングをDWI(Diffusion Weighted Imaging)と呼び、DWIにより生成される画像をDWI画像と呼ぶ。また、拡散テンソルイメージングをDTI(Diffusion Tensor Imaging)と呼び、DTIにより生成される画像をDTI画像と呼ぶ。また、拡散テンソルトラクトグラフィをDTT(Diffusion Tensor Tractography)と呼び、DTTにより生成される画像をDTT画像と呼ぶ。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態1について説明する。図1は、第1の実施形態に係るMRIシステムの全体構成を示す図である。図1に示すように、MRI装置100は、架台部10と、傾斜磁場電源20と、RF送信部30と、RF受信部40と、シーケンス制御部50と、寝台部60と、計算機システム70とを有する。
【0011】
架台部10は、静磁場中に置かれた被検体Pに高周波磁場を照射し、それにより被検体Pから発せられるMR信号を検出する。この架台部10は、静磁場磁石11と、傾斜磁場コイル12と、送信用RF(Radio Frequency)コイル13と、受信用RFコイル14とを有する。
【0012】
静磁場磁石11は、中空の円筒形状に形成され、円筒内の空間に一様な静磁場を発生する。この静磁場磁石11としては、例えば、永久磁石や超伝導磁石などが用いられる。
【0013】
傾斜磁場コイル12は、中空の円筒形状に形成され、静磁場磁石11の内側に配置される。この傾斜磁場コイル12は、互いに直交するX,Y,Zの各軸に対応する3つのコイルを有する。各コイルは、それぞれ後述する傾斜磁場電源20から電流供給を受けて、X,Y,Zの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生させる。なお、Z軸方向は、静磁場と同方向とされる。
【0014】
また、傾斜磁場コイル12によって発生するX,Y,Z各軸の傾斜磁場は、例えば、スライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Ge及びリードアウト用傾斜磁場Grにそれぞれ対応する。スライス選択用傾斜磁場Gsは、任意に撮像断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場Geは、空間的位置に応じて磁気共鳴(MR:Magnetic Resonance)信号の位相を変化させるために利用される。リードアウト用傾斜磁場Grは、空間的位置に応じてMR信号の周波数を変化させるために利用される。
【0015】
送信用RFコイル13は、傾斜磁場コイル12の内側に配置され、RF送信部30から高周波パルスの供給を受けて高周波磁場を発生する。
【0016】
受信用RFコイル14は、傾斜磁場コイル12の内側に配置され、送信用RFコイル13により発生した高周波磁場の影響によって被検体Pから発せられるMR信号を受信する。そして、受信用RFコイル14は、受信したMR信号をRF受信部40へ出力する。
【0017】
傾斜磁場電源20は、傾斜磁場コイル12に電流を供給する。RF送信部30は、ラーモア周波数に対応する高周波パルスを送信用RFコイル13に送信する。RF受信部40は、受信用RFコイル14から出力されるMR信号をデジタル化することによって生データを生成し、生成した生データをシーケンス制御部50へ送信する。
【0018】
シーケンス制御部50は、計算機システム70から送信されるシーケンス情報に基づいて、傾斜磁場電源20、RF送信部30及びRF受信部40を駆動することによって、被検体Pのスキャンを行う。また、シーケンス制御部50は、被検体Pのスキャンを行った結果、RF受信部40から生が送信されると、その生データを計算機システム70へ転送する。
【0019】
なお、ここでいうシーケンス情報とは、シーケンス制御部50が傾斜磁場コイル12に供給する電源の強さや電源を供給するタイミング、RF送信部30が送信用RFコイル13に送信するRF信号の強さやRF信号を送信するタイミング、RF受信部40がMR信号を検出するタイミングなど、スキャンを行うための手順を定義した情報である。
【0020】
寝台部60は、被検体Pが載置される天板を有し、その天板を移動させることで、撮影時に被検体Pを架台部10の開口部へ挿入する。
【0021】
計算機システム70は、MRI装置100の全体制御や、データ収集、画像再構成などを行う装置であり、インタフェース部71と、入力部72と、表示部73と、記憶部74と、データ処理部75と、画像処理部76と、制御部77とを有している。
【0022】
インタフェース部71は、シーケンス制御部50との間でやり取りされる各種信号の入出力を制御する。例えば、インタフェース部71は、シーケンス制御部50に対してシーケンス情報を送信し、シーケンス制御部50から生データを受信する。また、インタフェース部71は、生データを受信すると、受信した生データを被検体Pごとに記憶部74に記憶させる。
【0023】
入力部72は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける。この入力部72としては、例えば、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスが用いられる。
【0024】
表示部73は、操作者により参照される各種画像や、操作者から各種操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示する。この表示部73としては、例えば、液晶モニタやCRTモニタなどの表示デバイスが用いられる。
【0025】
記憶部74は、シーケンス制御部50から送信された生データや、後述するデータ処理部75及び画像処理部76により生成された各種画像データを被検体Pごとに記憶する。
【0026】
データ処理部75は、記憶部74により記憶された生データから画像を再構成する。また、データ処理部75は、被検体Pの体内の形態情報を示す磁気共鳴画像やDWI画像などを生成する。
【0027】
画像処理部76は、記憶部74により記憶された画像データに対して各種の画像処理を施すことにより、各種医用画像を生成する。
【0028】
制御部77は、上述した機能部間での制御の移動や、機能部と記憶部との間のデータの受け渡しなどを行うことで、MRI装置100の全体制御を行う。具体的には、制御部77は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリを有し、それらを用いて各種プログラムを実行させることで、MRI装置100が有する各部を制御する。例えば、制御部77は、操作者によって設定された撮像条件に基づいてシーケンス情報を生成し、生成したシーケンス情報をシーケンス制御部50に送信することで各種の撮像シーケンスを実行する。
【0029】
次に、第1の実施形態に係る記憶部74、データ処理部75、画像処理部76及び制御部77の構成について詳細に説明する。図2は、第1の実施形態に係る記憶部74、データ処理部75、画像処理部76及び制御部77の構成を示す機能ブロック図である。
【0030】
図2に示すように、記憶部74は、生データ記憶部74aと、再構成画像記憶部74bと、解析画像記憶部74cとを有する。
【0031】
生データ記憶部74aは、シーケンス制御部50から送信された生データを被検体ごとに記憶する。再構成画像記憶部74bは、後述する画像再構成部75aにより生成された再構成画像を被検体ごとに記憶する。解析画像記憶部74cは、後述する解析画像生成部75bにより生成された各種の解析画像を被検体ごとに記憶する。
【0032】
また、図2に示すように、データ処理部75は、画像再構成部75aと、解析画像生成部75bとを有する。
【0033】
画像再構成部75aは、生データ記憶部74aにより記憶された生データに対して後処理、すなわちフーリエ変換処理などの再構成処理を施すことで再構成画像を生成する。そして、画像再構成部75aは、生成した再構成画像を再構成画像記憶部74bに格納する。例えば、また、画像再構成部75aは、T1強調画像(T1 Weighted Image)やT2強調画像(T2 Weighted Image)などの形態画像を生成する。画像再構成部75aは、DWI画像を生成する。
【0034】
ここで、DWIについて説明する。DWIでは、拡散によるMR信号の減衰を強調するMPG(Motion Probing Gradient)パルスの印加をともなうパルスシーケンスが用いられる。なお、拡散による信号強度Sは、最も簡単には、以下に示す式(1)のように表される。
【0035】
S=PD(1−exp(−TR/T1)*exp(−TE/T2))
*exp(−bD) ・・・(1)
【0036】
この式(1)において、TEはecho timeであり、TRはrepetition timeであり、PDはproton densityである。また、T1及びT2は信号緩和時間であり、Dはdiffusion coefficient(拡散の程度を表す拡散係数)である。また、b[s/mm2]は拡散による信号減衰の程度を表す傾斜磁場因子であり、S0は傾斜磁場因子bがゼロであるときの信号強度である。
【0037】
そして、
S0=PD(1−exp(−TR/T1)*exp(−TE/T2))
とし、
Experiment 1: S1=S0*exp(−b1D)
Experiment 2: S2=S0*exp(−b2D)
とすると、以下に示す式(2)が成り立つ。
【0038】
S2/S1=exp(−(b2−b1)D) ・・・(2)
【0039】
また、式(2)より、以下に示す式(3)が得られる。
【0040】
D=−ln(S2/S1)/(b2−b1) ・・・(3)
【0041】
この式(3)から分かるように、2つの異なるb値を用いることで、拡散係数Dを算出することができる。このため、DWIの一般的な臨床応用では、簡便な方法として、一方向のMPGパルスを印加し、b=1000程度として撮像されたDWIとb=0として撮像された画像とを用いて診断されることが多い。また、通常は、TE>60[ms]となるように撮像条件が設定されるため、b=0の画像は、T2の違いを強調したコントラストを有するT2強調画像になる。
【0042】
ここで、b値について詳細に説明する。b値を理解するために、まず、傾斜磁場パルスについて説明する。MRI装置では、ボアに沿って線形に変化する強い傾斜磁場が印加される。この傾斜磁場はB0 fieldと呼ばれる。MRI装置は、一般的に、X,Y,Z方向の傾斜磁場ユニットを備えており、各傾斜磁場ユニットを組み合わせることによって、任意の方向に沿った磁場を印加することができる。そして、MR信号の周波数ωと磁場強度B0との関係は、以下に示す式(4)のように単純な関係式で表される。
【0043】
ω=γB0 ・・・(4)
【0044】
ここで、γは原子核固有の比例定数である。
【0045】
DWIでは、拡散エンコーディングに用いられるMPGパルスの大きさ及び方向によって拡散データが決定される。このMPGパルスの大きさがb値である。例えば、拡散エンコーディングでは、高周波の180°リフォーカスパルスの前後に対照的に配置された2つのMPGパルスが用いられる。180°リフォーカスパルスの前に配置された第1のMPGパルスは、全てのスピンに対して位相シフトを生じさせる。
【0046】
また、180°リフォーカスパルスの後に配置された第2のMPGパルスは、第1のMPGパルスにより生じた位相シフトを反転させる。これにより、固定の分子(医用画像化においてはプロトン)については、位相シフトが打ち消される。しかしながら、ブラウン運動によって第2のMPGパルスの作用時に第1のMPGパルスの作用時とは異なる位置に移動していた分子については、位相シフトが完全に相殺されない。したがって、そのような分子については、信号の減弱をもたらす残留位相シフトがとどまることになる。このように、拡散イメージングでは、MPGパルスの大きさを示すb値及び傾斜磁場パルスの方向によって拡散エンコーディングが制御される。
【0047】
画像再構成部75aは、例えば、上述したDWIを行うことで、水分子などの粒子が熱によるブラウン運動によって散らばっていく拡散効果を強調したDWI画像を生成する。
【0048】
解析画像生成部75bは、画像再構成部75aにより生成された再構成画像を用いて各種の解析画像を生成する。そして、解析画像生成部75bは、生成した解析画像を解析画像記憶部74cに格納する。例えば、解析画像生成部75bは、画像再構成部75aにより生成されたDWI画像を再構成画像記憶部74bから読み出し、読み出したDWI画像を用いて、被検体内における分子拡散の異方性を表すDTI画像を生成する。
【0049】
ここで、DTIについて詳細に説明する。DTIでは、拡散データに基づいて、6つのテンソル係数又はテンソルパラメータ、すなわち、3×3の対称テンソル行列の独立要素又は成分がボクセルごとに算出される。対称テンソル行列は、以下に示す式(5)で表される。
【0050】
【数1】
【0051】
この式(5)において、Dxx〜Dzzにおける最初の添え字(x,y,z)は、細胞又は組織の本来の方向を表す。また、2番目の添え字(x,y,z)は、傾斜磁場の方向を表す。また、いわゆる対角成分であるDxx,Dyy,Dzzは、通常、臨床用に用いられるMRI装置が有する3軸の装置座標系で計測される拡散係数の成分である。
【0052】
典型的には、テンソルパラメータは、診断に重要なパラメータマップを算出するために使用される。例えば、拡散テンソルの等方性成分又は拡散テンソルの異方性成分が相応のパラメータマップに示される。ここでいうパラメータマップとは、例えば、平均見かけ拡散係数マップ又はADC(Apparent Diffusion Coefficient)マップ、もしくは、部分異方性マップ又はFA(Fractional Anisotropy)マップである。なお、ADCマップとは、式(2)をピクセルごとに解くことで算出される拡散係数のマップである。
【0053】
ここで、DTIで用いられる拡散データは多数であるため、ボクセルごとに拡散テンソルが算出される際には、平均化により未知パラメータが決定される。この未知パラメータを決定する方法としては、多変量の線形回帰により知られた方法、例えば、擬似逆行列を形成する方法や特異値分析を行う方法などが用いられる。
【0054】
例えば、Basser, P. J., J. Mattiello, and D. LeBihan. "MR diffusion tensor spectroscopy and imaging" Biophys. J., 66, p.259-267, 1994に記載された方法によれば、DWI画像におけるボクセルごとの分子拡散の異方性は、例えば、楕円体のモデルで表される。この方法では、楕円体の3軸の固有値をλ1、λ2、λ3とし、固有ベクトルをv1、v2、v3とすることで、拡散パラメータの6つのパラメータが定義される。
【0055】
例えば、解析画像生成部75bは、上記の楕円体モデルを用いて、DWI画像に含まれるボクセルごとに分子拡散の異方性を定義する。そして、解析画像生成部75bは、定義した楕円体モデルにおける最長軸の方向に応じて、DTI画像におけるボクセルの色を決める。例えば、解析画像生成部75bは、装置座標系におけるX軸の方向を赤色、Y軸の方向を黄色、Z軸の方向を青色とし、これらX,Y,Z軸と楕円体モデルにおける最長軸の方向との位置関係に応じてボクセルの色を決める。解析画像生成部75bは、かかる処理をDWI画像に含まれるボクセルごとに行うことで、被検体内における分子拡散の異方性を表すDTI画像を生成する。
【0056】
また、図2に示すように、画像処理部76は、関心領域設定部76aと、計算開始領域設定部76bと、トラクトグラフィ生成部76cとを有する。
【0057】
関心領域設定部76aは、解析画像生成部75bによって生成された解析画像上に関心領域を設定する。例えば、関心領域設定部76aは、解析画像生成部75bによって生成されたDTI画像を解析画像記憶部74cから読み出し、読み出したDTI画像上に関心領域を設定する。
【0058】
計算開始領域設定部76bは、解析画像生成部75bによって生成された解析画像上に計算開始領域を設定する。ここでいう計算開始領域とは、後述するトラクトグラフィ生成部76cによって行われるDTTにおいて、最大拡散方向の追跡を開始するピクセルの位置を指定するために設定される領域である。
【0059】
トラクトグラフィ生成部76cは、計算開始領域設定部76bによって設定された計算開始領域に基づいて、神経束を描出したDTT画像を生成する。図3は、第1の実施形態に係るトラクトグラフィ生成部76cによるDTT画像の生成を説明するための図である。図3は、解析画像生成部75bによって生成されたDTI画像の一部を示している。なお、ここでは説明の便宜上、2次元のDTI画像を用いた場合について説明する。
【0060】
図3において、格子状に分割された複数の四角い領域は、それぞれDTI画像に含まれるピクセルを示している。また、各ピクセル内にある楕円は、それぞれ前述した分子拡散の異方性を表す楕円体モデルを示している。また、各ピクセルに付けられた色は、異方性の大きさに応じて付けられており、色が濃いほど異方性が低いことを示している。
【0061】
図3に示すように、トラクトグラフィ生成部76cは、計算開始領域設定部76bによって設定された計算開始領域をDTI画像上に計算開始領域Cとして設定する。また、トラクトグラフィ生成部76cは、DTI画像に含まれるピクセルのうち異方性が高いピクセル(図3に示す白色のピクセル)について平均的な方向を算出する。
【0062】
その後、トラクトグラフィ生成部76cは、計算開始領域Cに含まれるピクセルP1及びP2それぞれを基点として、算出された平均的な方向に沿う曲線F1及びF2を生成する。ここで生成される曲線F1及びF2は、各ピクセルにおける最大拡散方向の軌跡となり、神経束の流れを表すことになる。このように、トラクトグラフィ生成部76cは、神経束の流れを示す画像をDTT画像として生成する。
【0063】
図2の説明にもどって、制御部77は、表示制御部77aを有する。表示制御部77aは、表示部73への各種情報の表示を制御する。例えば、表示制御部77aは、トラクトグラフィ生成部76cにより生成されたDTT画像を表示部73に表示させる。
【0064】
図4及び5は、第1の実施形態に係る表示制御部77aにより表示されるDTT画像の一例を示す図である。表示制御部77aは、例えば、図4に示すように、2次元のDTT画像を2次元のDWI画像に重畳させて表示する。図4において、曲線Foは、計算開始領域Coに基づいてDTTにより生成されたものであり、曲線Fmは、計算開始領域Coと左右に対称な計算開始領域Cmに基づいてDTTにより生成されたものである。このようにDTTの曲線Fo及びFmを表示することにより、神経束の様子を平面的に観察することができる。
【0065】
または、表示制御部77aは、例えば、図5に示すように、3次元のDTT画像を2次元のDWI画像に合成して表示する。図5において、曲線Foは、計算開始領域Coに基づいてDTTにより生成されたものであり、曲線Fmは、計算開始領域Coと左右に対称な計算開始領域Cmに基づいてDTTにより生成されたものである。このようにDTTの曲線Fo及びFmを表示することにより、神経束の様子を立体的に観察することができる。
【0066】
以上、第1の実施形態に係るMRI装置100の構成について説明した。このような構成のもと、第1の実施形態では、MRI装置100は、被検体の部位が撮像された医用画像上に連続する複数の計算開始領域を設定し、それらの計算開始領域ごとに神経束を描出したDTT画像を生成する。これにより、診断対象の領域を複数の領域に分け、それぞれの領域ごとに神経束を観察することができるようになるので、診断対象の領域を詳細に検査することが可能になる。
【0067】
次に、第1の実施形態に係るMRI装置100によるDTT画像の作成の流れについて説明する。図6は、第1の実施形態に係るMRI装置100によるDTT画像の作成の流れを示すフローチャートである。
【0068】
図6に示すように、第1の実施形態に係るMRI装置100では、まず、制御部77が、操作者によって設定された撮像条件に基づいてシーケンス制御部50などの各部を制御することで、DWIのシーケンスを実行する(ステップS101)。その後、画像再構成部75aが、DWIのシーケンスにより収集された生データからDWI画像を生成する(ステップS102)。
【0069】
続いて、解析画像生成部75bが、画像再構成部75aによって生成されたDWI画像を用いてDTI画像を生成する(ステップS103)。また、関心領域設定部76aが、解析画像生成部75bによって生成されたDTI画像上に関心領域を設定する(ステップS104)。
【0070】
図7は、第1の実施例に係る関心領域設定部76aによる関心領域の設定の一例を示す図である。なお、ここでは、頭部のDTI画像において脳梁が占める範囲に関心領域を設定する場合を一例として説明する。この場合には、例えば、関心領域設定部76aは、入力部72を介して、脳梁内の任意の位置にシード点を設定する操作を操作者から受け付ける。その後、関心領域設定部76aは、操作者によって設定されたシード点を基準にしてリージョングローイングを行うことで、脳梁が占める範囲を抽出する。そして、関心領域設定部76aは、図7に示すように、抽出した脳梁の範囲をDTI画像1上で関心領域2として設定する。
【0071】
なお、関心領域を設定する方法としては、ここで説明したリージョングローイングに限られず、各種の方法を用いることができる。例えば、入力部72を介して、DTI画像上に所望の形状及び大きさの範囲を指定する操作を操作者から受け付け、受け付けた範囲を関心領域として設定する。または、例えば、閾値処理などの画像処理を用いて、関心領域を自動的に抽出してもよい。
【0072】
図6の説明に戻って、続いて、計算開始領域設定部76bが、解析画像生成部75bによって生成された解析画像上に、連続する複数の計算開始領域を設定する。具体的には、計算開始領域設定部76bは、関心領域設定部76aによって設定された関心領域を複数の領域に分割し、それら複数の領域をそれぞれ計算開始領域として設定する(ステップS105)。
【0073】
図8は、第1の実施形態に係る計算開始領域設定部76bによる計算開始領域の設定の一例を示す図である。図8に示すように、例えば、計算開始領域設定部76bは、あらかじめ決められたアルゴリズムにしたがって、解析画像生成部75bによって設定された関心領域2を6つの領域に分割し、それぞれを計算開始領域2a〜2fとして設定する。
【0074】
ここで、関心領域を分割するアルゴリズムとしては、各種のアルゴリズムを用いることができる。例えば、計算開始領域設定部76bは、診断対象の部位の解剖学的な特徴に基づいて関心領域を分割する。例えば、診断対象が脳梁の場合には、Witelson Schemeを利用してもよい。Witelson Schemeは、脳梁を機能ごとに分割するためのテンプレートである(例えば、WitelsonSF, Kigar DL. Anatomical development of corpus callosum in humans: a review with reference to sex and cognition. In: Molefese DL, Segalowitz SJ, eds. Brain lateralization in children: development implications. New York, NY: Guilford, 1988; 35-37. 等を参照)。
【0075】
図9及び10は、本実施例に係る計算開始領域設定部76bによって用いられるアルゴリズムの一例を示す図である。図9及び10は、Witelson Schemeのテンプレートを示している。図9及び10に示すように、Witelson Schemeは、脳梁の両端(ACC及びPCC)を通る直線を基準にして、脳梁を機能ごとに7つに区分けするテンプレートである。例えば、計算開始領域設定部76bは、このようなWitelson Schemeのテンプレートに基づいて、脳梁の領域を7つに分割する。
【0076】
図6の説明に戻って、続いて、トラクトグラフィ生成部76cが、計算開始領域設定部76bによって設定された複数の計算開始領域ごとに神経束を描出したDTT画像を生成する(ステップS106)。
【0077】
そして、表示制御部77aが、トラクトグラフィ生成部76cにより生成されたDTT画像を表示部73に表示させる(ステップS107)。このとき、計算開始領域設定部76bは、例えば、隣接する計算開始領域に描出された神経束の表示色を変えて、DTT画像を表示部73に表示させる。
【0078】
図11及び12は、表示制御部77aによるDTT画像の表示の一例を示す図である。図11に示すように、例えば、計算開始領域設定部76bは、DTI画像1上で脳梁の領域に6つの計算開始領域A〜Fが設定されていた場合には、各領域を通る神経束の表示色を領域ごとに変えたDTT画像3を表示部73に表示させる。このとき、計算開始領域設定部76bは、例えば、各領域を通る神経束を全て異なる色で表示させる。または、計算開始領域設定部76bは、図12に示すように、少なくとも2種類の表示色を用いて、神経束の色を領域ごとに交互に変えたDTT画像3を表示部73に表示させてもよい。または、計算開始領域設定部76bは、分割された領域ごとに神経束を表示するか否かを変えてもよい。
【0079】
上述したように、第1の実施形態では、計算開始領域設定部76bが、被検体の部位が撮像された医用画像上に連続する複数の計算開始領域を設定する。また、トラクトグラフィ生成部76cが、計算開始領域設定部76bによって設定された複数の計算開始領域ごとに神経束を描出したDTT画像を生成する。これにより、診断対象の領域を複数の領域に分け、それぞれの領域ごとに神経束を観察することが可能にできるようになるので、診断対象の領域を詳細に検査することが可能になる。すなわち、本実施形態によれば、診断対象の領域を詳細に検査することが可能なDTT画像を得ることができる。
【0080】
また、第1の実施形態では、関心領域設定部76aが、被検体の部位が撮像された医用画像上に関心領域を設定する。また、計算開始領域設定部76bが、関心領域設定部76aによって設定された関心領域を複数の領域に分割し、それら複数の領域をそれぞれ計算開始領域として設定する。したがって、本実施形態によれば、診断対象の領域を関心領域とすることで、診断対象の領域を詳細に検査することが可能になる。
【0081】
また、第1の実施形態では、計算開始領域設定部76bが、被検体の部位の解剖学的な特徴に基づいて関心領域を分割する。したがって、本実施形態によれば、解剖学的な知見に基づいて分けられた複数の領域ごとに神経束を観察することが可能になる。
【0082】
また、第1の実施形態では、トラクトグラフィ生成部76cが、隣接する計算開始領域に描出された神経束の表示色を変えて、DTT画像を表示部73に表示させる。したがって、本実施形態によれば、領域ごとの神経束をより容易に識別することが可能になる。
【0083】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態で説明したMRI装置100において、複数の計算開始領域ごとに領域の大きさを変えることができるようにした例を説明する。
【0084】
具体的には、本実施形態では、計算開始領域設定部76bは、医用画像上に連続する複数の計算開始領域を設定した後に、操作者からの指示に基づいて、各計算開始領域の大きさを変更する。例えば、計算開始領域設定部76bは、複数の計算開始領域を設定した後に、各計算開始領域の大きさを変更する操作を操作者から受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示部73に表示させる。
【0085】
図13及び14は、第2の実施形態に係る計算開始領域設定部76bにより表示されるGUIの一例を示す図である。図13に示すように、例えば、計算開始領域設定部76bは、第1の調節つまみ4と、複数の第2の調節つまみ5a〜5fと、複数の分割線6a〜6fとを有するGUIをインジケータとして用いる。ここで、分割線6a〜6fは、第1の調節つまみ4と第2の調節つまみ5a〜5fそれぞれとを接続する直線である。この場合には、計算開始領域設定部76bは、各調節つまみを所望の位置に移動する操作を操作者から受け付け、各調節つまみの移動にともなって、各分割線の位置を決定する。そして、図14に示すように、計算開始領域設定部76bは、位置決めした各分割線を基準にして、関心領域2に設定された複数の計算開始領域2a〜2fの位置、形状、及び大きさを設定する。これにより、操作者は、各調節つまみを移動させることで、個々の計算開始領域の大きさや形状を容易に調整することができる。
【0086】
なお、各計算開始領域の大きさを変更する操作を操作者から受け付けるためのGUIは、図13及び14に示したものに限られない。図15は、第2の実施形態に係る計算開始領域設定部76bにより表示されるGUIの他の例を示す図である。図15に示すように、例えば、計算開始領域設定部76bは、複数の表示色で構成されたカラーバー状のGUIをインジケータとして用いてもよい。このインジケータでは、カラーバー7の両端の位置は、DTT画像3における関心領域の両端の位置に対応している。また、カラーバー7は表示色ごとに仕切られており、仕切り部分に調節つまみ7a〜7eが設けられている。そして、各調節つまみの位置は、関心領域に設定された各計算開始領域の境界の位置に対応している。この場合には、計算開始領域設定部76bは、各調節つまみをカラーバー7に沿って所望の位置に移動する操作を操作者から受け付け、各調節つまみの移動にともなって、計算開始領域の境界を移動させる。この例でも、操作者は、各調節つまみを移動させることで、個々の計算開始領域の大きさや形状を容易に調整することができる。
【0087】
そして、本実施形態では、トラクトグラフィ生成部76cが、計算開始領域設定部76bによって計算開始領域の大きさが変更された場合に、変更された領域の神経束を描出し直す。これにより、操作者は、神経束を確認しながら、各計算開始領域の大きさや形状をより適切に変更することができる。
【0088】
このように、第2の実施形態では、計算開始領域設定部76bが、複数の計算開始領域を設定した後に、操作者からの指示に基づいて計算開始領域の大きさを変更する。また、トラクトグラフィ生成部76cが、計算開始領域設定部76bによって計算開始領域の大きさが変更された場合に、変更された領域の神経束を描出し直す。したがって、本実施形態によれば、操作者が各計算領域の大きさや形状を容易かつ適切に調整できるので、診断対象の領域を効率よく観察することが可能になる。
【0089】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0090】
100 MRI装置(磁気共鳴イメージング装置)
70 計算機システム
76 画像処理部
76b 計算開始領域設定部
76c トラクトグラフィ生成部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の部位が撮像された医用画像上に連続する複数の計算開始領域を設定する計算開始領域設定手段と、
前記複数の計算開始領域ごとに神経束を描出した拡散テンソルトラクトグラフィ画像を生成する画像生成手段と、
を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記医用画像上に関心領域を設定する関心領域設定手段をさらに備え、
前記計算開始領域設定手段は、前記関心領域を複数の領域に分割し、当該複数の領域をそれぞれ前記計算開始領域として設定することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記計算開始領域設定手段は、前記部位の解剖学的な特徴に基づいて前記関心領域を分割することを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記計算開始領域設定手段は、前記複数の計算開始領域を設定した後に、操作者からの指示に基づいて各計算開始領域の大きさを変更し、
前記画像生成手段は、前記計算開始領域の大きさが変更された場合に、変更された領域の神経束を描出し直すことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
隣接する計算開始領域に描出された神経束の表示色を変えて、前記テンソルトラクトグラフィ画像を表示部に表示させる表示制御部をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の画像処理装置。
【請求項6】
磁気共鳴現象を利用して収集されたデータから被検体内における分子拡散の異方性を表す拡散テンソル画像を生成する第1の画像生成手段と、
前記拡散テンソル画像上に連続する複数の計算開始領域を設定する計算開始領域設定手段と、
前記複数の計算開始領域ごとに神経束を描出した拡散テンソルトラクトグラフィ画像を生成する画像生成手段と、
を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項1】
被検体の部位が撮像された医用画像上に連続する複数の計算開始領域を設定する計算開始領域設定手段と、
前記複数の計算開始領域ごとに神経束を描出した拡散テンソルトラクトグラフィ画像を生成する画像生成手段と、
を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記医用画像上に関心領域を設定する関心領域設定手段をさらに備え、
前記計算開始領域設定手段は、前記関心領域を複数の領域に分割し、当該複数の領域をそれぞれ前記計算開始領域として設定することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記計算開始領域設定手段は、前記部位の解剖学的な特徴に基づいて前記関心領域を分割することを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記計算開始領域設定手段は、前記複数の計算開始領域を設定した後に、操作者からの指示に基づいて各計算開始領域の大きさを変更し、
前記画像生成手段は、前記計算開始領域の大きさが変更された場合に、変更された領域の神経束を描出し直すことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
隣接する計算開始領域に描出された神経束の表示色を変えて、前記テンソルトラクトグラフィ画像を表示部に表示させる表示制御部をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の画像処理装置。
【請求項6】
磁気共鳴現象を利用して収集されたデータから被検体内における分子拡散の異方性を表す拡散テンソル画像を生成する第1の画像生成手段と、
前記拡散テンソル画像上に連続する複数の計算開始領域を設定する計算開始領域設定手段と、
前記複数の計算開始領域ごとに神経束を描出した拡散テンソルトラクトグラフィ画像を生成する画像生成手段と、
を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図5】
【図6】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−71000(P2012−71000A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219144(P2010−219144)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
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