説明

画像加熱装置、及びこれを備えた画像形成装置

【課題】電磁誘導加熱方式の画像加熱装置Aにおいて、画像加熱部材の長手方向の温度分布の変動を小さくする。消費電力の削減および装置の小型化を可能にしつつ、画像加熱部材を効率よく加熱する。
【解決手段】記録材の搬送路面内において記録材搬送方向aに直交する方向を幅方向としたとき、磁束調整手段6は、磁性流体12を収容した筐体6aと、筐体の幅方向に移動可能で、磁性流体の筐体内における存在領域幅を規制する磁性流体規制部材8L・8Rと、磁性流体規制部材を移動させる規制部材移動手段17と、を有し、制御回路部は装置に通紙される記録材の幅サイズに対応して前記磁性流体の筐体内における存在領域幅が磁性流体規制部材で規制されるように規制部材移動手段を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真・静電記録・磁気記録などの画像形成プロセスによって画像形成を行う複写機・プリンタ・ファクシミリ、それらの複合機能機等の画像形成装置に搭載される定着装置として用いて好適な電磁誘導加熱方式の画像加熱装置に関する。また、その画像加熱装置を搭載した画像形成装置に関する。
【0002】
画像加熱装置としては、記録材上の未定着画像を定着或いは仮定着する定着装置、記録材に定着された画像を加熱することにより画像の光沢を増大させる光沢増大化装置を挙げることができる。また、インクジェット方式などの、染料や顔料を含む液体により画像形成を行う画像形成装置においてインクを速く乾かすため画像加熱装置等を挙げることができる。
【背景技術】
【0003】
以下、定着装置を例にして説明する。従来、電子写真方式を採用した画像形成装置において、未定着トナー画像を加熱溶融定着する定着装置として、種々の方式のものが提案されている。このような定着装置の一つに、電磁誘導加熱方式の定着装置がある。
【0004】
この定着装置では、未定着トナー画像を加熱溶融定着する定着部材(画像加熱部材)を加熱する手段として、定着部材に導電性層を設け、電磁誘導加熱によって該導電性層を発熱させるものが知られている。電磁誘導加熱は、変動磁界を発生する励磁コイルを導電性層に対向配置し、導電性層に磁束を作用させる。これにより、導電性層に渦電流が生じ発熱するものである。電磁誘導加熱によれば、極めて短い時間で導電性層を発熱させることができ、定着部材を直接加熱することができる。
【0005】
このため、加熱源としてハロゲンランプ等の発熱体を用いる場合に比べ、効率良く装置のウォーミングアップを行うことができる。また、励磁コイルは導電性層と対向するように定着部材の内側または外側のいずれに配置することも可能であり、設計の自由度が増す。
【0006】
しかしながら、電磁誘導加熱方式の従来定着装置では以下の様な非通紙部昇温という問題が顕著である。非通紙部昇温は、装置に導入使用可能な最大通紙幅の記録材よりも通紙幅が小さい記録材を連続的に通紙して加熱定着を実行していくと、定着ニップ部を形成して記録材を挟持搬送する定着部材と加圧部材の非通紙部の温度が通紙部よりも昇温していく現象である。
【0007】
これは、定着部材と加圧部材における通紙部では記録材の加熱のために消費された熱が温調系によって補償されて所定温度に維持されるのに対して、非通紙部では記録材の加熱によって熱が消費されないので熱が蓄積されてしまう。そのため、非通紙部の温度が、所定温度に維持管理されている通紙部よりも昇温していくのである。この非通紙部昇温の温度上昇が著しい場合、定着部材表層、弾性層、加圧部材、その他昇温部周辺の構成部材に熱ダメージを与えやすい。
【0008】
また省エネのために定着部材の熱容量を小さくしていき、定着部材を、いわゆるフィルム状にすること、及び、通紙速度を増すことで、通紙時に、定着部材を所定の温度に維持するための電力が大きくなる。すると非通紙部の昇温がより顕著になっていく。従って、最大通紙幅の記録材を通紙したときに、すでに、その通紙域外での非通紙部昇温が問題になってしまうことがある。
【0009】
このような非通紙部昇温の対処策として、特許文献1で示される例がある。これは、励磁コイルの一方の屈曲部と重なり、かつ、延在部が上記励磁コイルの延在部の一部と略重なって、上記励磁コイルが発生した磁束をキャンセルする消磁コイルを備える定着装置である。また、特許文献2では、励磁コイルを中央部のセンターコイルと両端部のサイドコイルに分割させることより、非通紙部領域の昇温制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−321642号公報
【特許文献2】特開2008−258163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述の従来技術によると、次のような問題点がある。上記特許文献1および2に記載の消磁コイルおよび分割コイルは、長手方向長さが一定であるため、用紙サイズの多様性に対応することができない。つまり、消磁コイルの長手方向長さ以上の、もしくは以下の用紙サイズが通紙される場合は、通紙領域の長手温度分布を一定に保つことができず、端部ダレもしくは非通紙部昇温が生じる。
【0012】
用紙サイズ対応として用紙サイズそれぞれの非通紙部領域に対応する消磁コイルを配置するという対策も考えられる。しかし、上述の従来技術によると、上記消磁コイルの巻き数は、上記励磁コイルの巻き数の1/2以上であるとされており、多くの消磁コイルを配置することは、定着装置の大型化を招くという問題がある。
【0013】
更に、消磁コイルに印加する電力は、消磁コイルの巻き数に反比例するため、上記消磁コイルの巻き数による定着装置の大型化の問題と消費電力の増大はトレードオフの関係になっている。上記従来技術においては、上記消磁コイルの巻き数は、上記励磁コイルの巻き数の1/2以上であるとされており、このことから消磁コイルに印加する電力は励磁コイルに印加する電力と同等量が必要と考えられる。それにより、電磁誘導加熱装置で消費されるエネルギーが増大し、結果的に本来省エネルギーの為に採用している電磁誘導加熱装置が、省エネルギー性を損なうという矛盾した結果になりえる。
【0014】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、電磁誘導加熱方式の画像加熱装置において、画像を担持した記録材を加熱するための、電磁誘導発熱する画像加熱部材の長手方向の温度分布の変動を小さくすることである。また、本発明の目的は、同画像加熱装置において、消費電力の削減および装置の小型化を可能にしつつ、画像加熱部材を効率よく加熱することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するための本発明に係る画像加熱装置の代表的な構成は、磁束を生ずるコイルと、前記磁束の作用により熱を生じ、画像を担持して搬送される記録材に接して加熱する回転可能な画像加熱部材と、前記画像加熱部材に作用する磁束を調整する磁束調整手段と、制御手段と、を有する画像加熱装置において、記録材の搬送路面内において記録材搬送方向に直交する方向に並行な方向を幅方向としたとき、前記磁束調整手段は、磁性流体を収容した筐体と、前記筐体の幅方向に移動可能で、前記磁性流体の筐体内における存在領域幅を規制する磁性流体規制部材と、前記磁性流体規制部材を移動させる規制部材移動手段と、を有し、前記制御手段は画像加熱装置に通紙される記録材の幅サイズに対応して前記磁性流体の筐体内における存在領域幅が前記磁性流体規制部材で規制されるように前記規制部材移動手段を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電磁誘導加熱方式の画像加熱装置において、画像を担持した記録材を加熱するための、電磁誘導発熱する画像加熱部材の長手方向の温度分布の変動を小さくすることができる。また、消費電力の削減および装置の小型化を可能にしつつ、画像加熱部材を効率よく加熱するができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に従う電磁誘導加熱方式の画像加熱装置を画像定着装置として搭載した画像形成装置の一例の構成模型図
【図2】定着装置の要部の拡大横断側面図と制御系のブロック図
【図3】定着装置を構成する種々の部材の長手方向の寸法関係を示した模式図
【図4】定着ベルトの層構成を示す断面模式図
【図5】(a)は磁束調整ユニットの外観斜視図、(b)は内蔵機構部の外観斜視図
【図6】(a)は磁束調整ユニットの上面の模式図、(b)は下面の模式図
【図7】(a)と(b)は内蔵機構部の動作を説明する模式図
【図8A】通紙領域におけるコイルから発生する磁界分布図
【図8B】非通紙領域におけるコイルから発生する磁界分布図
【図9】実施例1における磁束調整ユニットの具体的な制御フロー例
【図10】実施例1における昇温抑制効果のSIM結果を示す図
【図11】実施例1における磁性流体領域の発熱変化を示す図
【図12】実施例2における磁束調整ユニットの構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、これら実施例は、本発明における最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0019】
[実施例1]
(1)画像形成装置例
図1は、本発明に従う電磁誘導加熱方式の画像加熱装置を定着装置(画像定着手段)Aとして搭載した画像形成装置の一例の構成模型図である。この画像形成装置は電子写真方式を用いたカラー画像形成装置である。
【0020】
Y・C・M・Kはそれぞれイエロー・シアン・マゼンタ・ブラックの色トナー画像を形成する4つの画像形成部であり、下から上に順に配列してある。各画像形成部Y・C・M・Kは、それぞれ、電子写真感光体ドラム21、帯電装置22、現像装置23、クリーニング装置24等を有している。各画像形成部Y・C・M・Kの現像装置23にはそれぞれ現像剤として、イエロー色(Y色)、シアン色(C色)、マゼンタ色(M色)、ブラック色(K色)のトナーが収容されている。
【0021】
各ドラム21は矢印の反時計方向に所定の速度で回転駆動される。その各ドラム21に露光を行うことにより静電潜像を形成する光学系25が上記4色の画像形成部Y・C・M・Kに対応して設けられている。光学系としては、レーザー走査露光光学系を用いている。各画像形成部Y・C・M・Kにおいて、帯電装置22により一様に帯電されたドラム21に対して光学系25より画像データに基づいた走査露光がなされることにより、ドラム表面に走査露光画像パターンに対応した静電潜像が形成される。
【0022】
それらの静電潜像が現像装置23によりトナー画像として現像される。すなわち、画像形成部Yのドラム21にはY色トナー画像が、画像形成部Cのドラム21にはC色トナー画像が、画像形成部Mのドラム21にはM色トナー画像が、画像形成部Kのドラム21にはK色トナー画像が、それぞれ形成される。各画像形成部Y・C・M・Kのドラム21上に形成された上記の色トナー画像は各ドラム21の回転と同期して、略等速で回転する中間転写体26上へ所定の位置合わせ状態で順に重畳されて一次転写される。これにより中間転写体26上に未定着のフルカラートナー画像が合成形成される。
【0023】
本実施例においては、中間転写体26として、エンドレスの中間転写ベルトを用いている。ベルト26は、駆動ローラ27、二次転写対向ローラ28、テンションローラ29の3本のローラに巻きかけて張架されている。そして、ベルト26は駆動ローラ27によって矢印の時計方向にドラム21の速度とほぼ同じ速度で循環移動駆動される。
【0024】
各画像形成部Y・C・M・Kのドラム21上からベルト26上へのトナー画像の一次転写手段としては、一次転写ローラ30を用いている。一次転写ローラ30に対して不図示のバイアス電源よりトナーと逆極性の一次転写バイアスを印加する。これにより、各画像形成部Y・C・M・Kのドラム21上からベルト26に対してトナー画像が一次転写される。各画像形成部Y・C・M・Kにおいてドラム21上からベルト26への一次転写後、ドラム21上に転写残として残留したトナーはクリーニング装置24により除去される。
【0025】
上記工程をベルト26の回転に同調して、Y色、C色、M色、K色の各色に対して行い、ベルト26上に、各色の一次転写トナー画像を順次重ねて形成していく。なお、単色のみの画像形成(単色モード)時には、上記工程は、目的の色についてのみ行われる。
【0026】
一方、記録材カセット31内の記録材Pは、給送ローラ32により一枚分離給送される。給送された記録材Pはレジストローラ33により所定のタイミングで、二次転写対向ローラ28に巻きかけられているベルト26部分と二次転写ローラ34との圧接部である二次転写ニップ部に搬送される。
【0027】
ベルト26上に形成された一次転写合成トナー画像は二次転写ローラ34に不図示のバイアス電源より印加されるトナーと逆極性のバイアスにより、二次転写ニップ部において記録材P上に一括転写される。二次転写後にベルト26上に残留した二次転写残トナーは中間転写ベルトクリーニング装置35により除去される。
【0028】
以上が記録材Pに未定着画像を形成する画像形成手段である。記録材Pに二次転写された未定着トナー画像は、画像加熱装置である定着装置Aにより記録材P上に固着画像として溶融混色定着(加熱定着)され、フルカラープリントとして排紙パス36を通って排紙トレイ37に送り出される。
【0029】
(2)定着装置A
以下の説明において、定着装置(画像定着手段)Aまたはこれを構成している部材の長手方向もしくは幅方向とは記録材の搬送路面内において記録材搬送方向aに直交する方向に並行な方向である。また短手方向とは記録材搬送方向に並行な方向である。定着装置に関し、正面とは装置を記録材入口側からみた面、背面とはその反対側の面(記録材出口側)、左右とは装置を正面から見て左または右である。上流側と下流側とは記録材搬送方向に関して上流側と下流側である。
【0030】
図2は本実施例における電磁誘導加熱方式の画像加熱装置としての定着装置Aの要部の拡大横断側面図と制御系のブロック図である。図3は定着装置Aを構成する種々の部材の長手方向(幅方向)の寸法関係を示した模式図である。
【0031】
電磁誘導加熱は、変動磁界を発生する励磁コイルを導電性層に対向配置し、導電性層に磁束を作用させることにより、導電性層に渦電流が生じ発熱するものである。電磁誘導加熱によれば、極めて短い時間で導電性層を発熱させることができ、定着部材を直接加熱することができる。このため、加熱源としてハロゲンランプ等の発熱体を用いる場合に比べ、効率良く装置のウォーミングアップを行うことができる。また、励磁コイルは導電性層と対向するように定着部材の内側または外側のいずれに配置することも可能であり、設計の自由度が増す。
【0032】
図2と図3を参照して、本実施例における定着装置Aは、不図示の定着装置枠体(装置フレーム、シャーシー)の左右の装置側板間に長手方向両端側を保持させて定着ベルトユニット(以下、ベルトユニットと記す)20が配設されている。ベルトユニット20の下側には左右の装置側板間に両端部を回転可能に軸受け保持させて加圧部材としての弾性加圧ローラ2が配設されている。ベルトユニット20の上側には左右の装置側板間に長手方向両端側を保持させて誘導加熱装置4が配設されている。
【0033】
1)ベルトユニット20
ベルトユニット20は、磁束の作用により電磁誘導発熱する画像加熱部材としての左右方向に長い円筒状の定着ベルト(無端状のベルト:以下、ベルトと記す)1と、ベルト1の内側に配設された左右方向に長い押圧部材3を有する。押圧部材3はベルト1を加圧ローラ2に向って加圧する部材であり、ニップ形成部材3aと、ニップ形成部材3aを支持するステー3bを有する。また、ステー3bの外側を覆わせて配設された内側磁性体コア6bを有する。
【0034】
本実施例において、ベルト1の長さL1は350mmである。図4はベルト1の層構成模型図である。ベルト1は電磁誘導発熱層としての、内径が30mmで電気鋳造法によって製造したニッケル基層(導電性層、誘電体、金属層:以下、金属層と記す)1aを有している。この金属層1aの厚みは40μmである。
【0035】
金属層1aにはニッケルのほかに鉄合金や銅、銀などを適宜選択可能である。また、樹脂基層にそれら金属を積層させるなどの構成でも良い。金属層1aの厚みは、後で説明する励磁コイルに流す高周波電流の周波数と金属層の透磁率・導電率に応じて調整して良く、5〜200μm程度の間で設定すると良い。
【0036】
金属層1aの外周には弾性層1bとして耐熱性シリコーンゴム層が設けられている。シリコーンゴム層の厚さは100〜1000μmの範囲内で設定するのが好ましい。本実施例では、ベルト1の熱容量を小さくしてウォーミングアップタイムを短縮し、かつカラー画像を定着するときに好適な定着画像を得ることを考慮して、シリコーンゴム層1bの厚みは300μmとされている。このシリコーンゴムは、JIS−A20度の硬度を持ち、熱伝導率は0.8W/mKである。
【0037】
更に、弾性層1bの外周には、表面離型層1cとしてフッ素樹脂層(例えばPFAやPTFE)が30μmの厚みで設けられている。基層1aの内面側には、ベルト内面に弾性的に接触させて配設される温度センサTH1・TH2との摺動摩擦を低下させるために、フッ素樹脂やポリイミドなどの樹脂層(滑性層)1dを10〜50μm設けても良い。本実施例では、この層1dとしてポリイミドを20μm設けた。
【0038】
ニップ形成部材3aは例えば耐熱樹脂成型品であり、横断面において下面をベルト1の内周面の曲率とほぼ同じ曲率の凸曲面とし上面を平面とした横断面弓型形状の部材である。ステー3bはニップ形成部材3aをベルト1を介して加圧ローラ2に対して加圧するために剛性が必要であるため金属製としている。本実施例ではステー3bは横断面下向きコ字型の鉄製部材であり、ニップ形成部材3aの上面に接合されてニップ形成部材3aを支持する。
【0039】
内側磁性体コア6bは横断面下向きC字型部材であり、ステー3bの外側にステー3bを覆って配設されている。内側磁性体コア6bはベルト1のほぼ上半部の内周面に沿って凸曲面が対面している。即ち、内側磁性体コア6bはベルト1の内周面に対して後述する誘導加熱装置4のコイル5に対応して周方向および長手方向に対向している。
【0040】
後述するように、ステー3bによる加圧力でニップ形成部材3aがベルト1を介して加圧ローラ2に圧接して定着ニップ部Nが形成される。定着ニップ部Nの長さは加圧ローラ2の長さL2と同じ320mmである。この定着ニップ部Nの長さは、本実施例における最大通紙領域幅Wmax=300mmよりも長い。
【0041】
ニップ形成部材3aの長さL3aは最大通紙領域幅Wmax=300mmよりも長く、加圧ローラ2の長さL2320mmよりも短い設定である。ステー3bの長さL3bは360mmである。内側磁性体コア6bの長さL6bは320mmで、定着ニップ部Nの長さと同じである。ベルト1は押圧部材3及びコア6bのアセンブリに対してルーズに外嵌されている。
【0042】
ここで、本実施例において、定着装置Aに対する記録材Pの通紙(搬送)は記録材幅中心の中央基準でなされる。即ち、装置に通紙可能な大中小各種幅サイズの記録材も幅方向中央部がベルト1の長手方向中央部を通過することになる。Oはその中央基準搬送線O(仮想線)である。記録材において幅サイズとは、記録材の搬送路面内において記録材搬送方向aに対して直交する方向の寸法である。
【0043】
Wmaxは定着装置Aに通紙使用可能な最大幅サイズの記録材(大サイズ記録材)の通紙領域(通紙部)の幅(最大通紙領域幅)である。Wminは定着装置Aに通紙使用可能な最小幅サイズの記録材(小サイズ記録材)の通紙領域(通紙部)の幅(最小通紙領域幅)である。従って、定着装置Aには、大サイズ記録材、小サイズ記録材、及び大サイズ記録材よりも幅が小さく小サイズ記録材よりも幅が大きい各種幅サイズの中サイズ記録材を通紙使用することが出来る。
【0044】
Bは小サイズ記録材または中サイズ記録材を通紙したときの通紙領域幅と最大通紙領域幅Wmaxとの差幅部である非通紙領域(非通紙部)の幅である。本実施例においては記録材通紙が中央基準搬送であるから、非通紙領域Bは小サイズ記録材または中サイズ記録材の通紙領域の左右両側部に生じる。非通紙領域Bの幅は小サイズ記録材の場合が最も大きく、中サイズ記録材の場合は通紙使用される中サイズ記録材の幅の大小により種々異なる。
【0045】
ニップ形成部材3aの長手中央部の位置と一方側の端部(右端部)の位置にはそれぞれ弾性支持部材14を介して例えばサーミスタ等の第1の温度センサ(温度検知素子)TH1と第2の温度センサTH2が配設されている。温度センサTH1・TH2はそれぞれ弾性支持部材14の弾性によりベルト1の内面に対して弾性的に接触してベルト1の長手中央部(幅方向中央部)の温度と端部の温度を検知する。
【0046】
第1の温度センサTH1は、大・中・小どの幅サイズの記録材についても通紙部となるベルト部分の温度を検知する。そのために、ベルト1の長手中央部(最小通紙領域幅Wmin内:本実施例では中央基準搬送線Oの位置にほぼ対応するベルト部分)に位置させている。第2の温度センサTH2は、小サイズ記録材または中サイズ記録材を通紙したときの非通紙部Bとなるベルト部分の温度を検知する。そのために、最大通紙領域幅Wmaxの一方側(右側)の境界線よりも少し内側となるベルト部分に位置させている。
【0047】
第1及び第2の温度センサTH1・TH2のそれぞれの検知温度情報(温度に関する電気的情報)が制御回路部100に入力する。第1及び第2の温度センサTH1・TH2はそれぞれ弾性支持部材14によりベルト1の内面に弾性的に接触して支持されているので、回転するベルト1の当接面が波打つなどの位置変動が生じたとしてもこれに追従して良好な接触状態が維持される。
【0048】
ステー3bの左右の両端部にはそれぞれ耐熱樹脂成型品である、フランジ部7aを有する端末部材7L・7Rが嵌着されている。左右の端末部材7L・7Rはそれぞれ左右の装置側板に対して上下方向にスライド移動可能に保持されている。左右の装置側板のそれぞれの外面側には端末部材7L・7Rに対する圧力付勢手段としての端末部材シフト機構19L・19Rが配設されている。
【0049】
シフト機構19L・19Rは、例えば、モータに連結されたカム機構等からなり、制御回路部100により制御され、端末部材7L・7Rを上方または下方に移動する機能を有する。端末部材7L・7Rが下方に移動することで、押圧部材3が押し下げられてニップ形成部材3aがベルト1を介して加圧ローラ2の上面に対して加圧ローラ2の弾性に抗して所定の加圧力、本実施例では490N(50kgf)で加圧される(着状態)。これにより、ベルト1と加圧ローラ2との間に記録材搬送方向aにおいて所定幅の定着ニップ部Nが形成される。
【0050】
また、端末部材7L・7Rが上方に移動することで、押圧部材3が持ち上げられてニップ形成部材3aが加圧ローラ2の上面から引き離される(脱状態)。これにより、ベルト1と加圧ローラ2との圧接が解除される。こうすることで加圧ローラ2の弾性層2bやベルト1が恒久的に変形してしまうのを防止することが出来る。
【0051】
2)加圧ローラ2
加圧ローラ2は、芯金2aに弾性層2bとしてシリコーンゴム層が設けた、外径が30mmの弾性ローラである。芯金2aは長手方向中央部の径が20mmで、両端部の径が19mmである鉄合金製のテーパー形状のクラウン型芯金である。弾性層2bの表面は離型層2cとしてフッ素樹脂層(例えばPFAやPTFE)が30μmの厚みで設けられる。加圧ローラ2の長手方向中央部における硬度は、ASK−C70度である。
【0052】
加圧ローラ2は、芯金2aの左右両端部をそれぞれ左右の装置側板に軸受部材(不図示)を介して回転可能に支持されて配設されている。加圧ローラ2は駆動装置(駆動手段:モータ)M1から駆動伝達手段(不図示)を介して駆動力が伝達されることにより図2において矢印R2の反時計方向に所定の周速度で回転駆動される。
【0053】
芯金2aにテーパー形状をつけているのは、押圧部材3をベルト1を介して加圧ローラ2に加圧した時に押圧部材3が撓んでもベルト1と加圧ローラ2で形成される定着ニップ部N内の圧力をニップ部長手方向にわたって均一にするためである。
【0054】
本実施例における加圧ローラ2の長さ(弾性層2bの長さ)L2は320mmである。また、シフト機構19L・19Rによりは押圧部材3が加圧ローラ2に対して所定の押圧力で加圧された状態において、ベルト1と加圧ローラ4との間に形成される定着ニップ部Nの記録材搬送方向aに関する幅は、長手方向両端部で約8mmである。中央部では約7.5mmである。これは記録材Pの幅方向の両端部での搬送速度が中央部と比べて速くなるので紙しわ(記録材しわ)が発生しにくくなるという利点がある。
【0055】
3)誘導加熱装置4
誘導加熱装置4はベルト1(金属層1a)を誘導加熱する加熱源(誘導加熱手段)であり、ベルトユニット20の上側において長手方向をベルトユニット20の長手方向にほぼ並行にして装置側板の間に位置を固定して配設されている。
【0056】
誘導加熱装置4は、ベルト1のほぼ上半部の外周面に対向するとともに、磁束を発生させて当該磁束によってベルト1を加熱する励磁コイル(以下、コイルと記す)5を有する。コイル5は、電線として例えばリッツ線を用い、これを横長・船底状にしてベルト1の周面と側面の一部に対向するように巻回してなる。コイル5の長L5は350mmである。
【0057】
また、コイル5の外側には発熱体外部磁束調整手段(外部磁性体コア)としての磁性流体12を用いた磁束調整ユニット6を有する。磁束調整ユニット6の長L6は350mmである。磁束調整ユニット6はベルト1の外周面に対してコイル5に対応して周方向および長手方向に対向している。この磁束調整ユニット6の詳細については(3)項で後述する。
【0058】
また、誘導加熱装置4は、第1と第2のサブ磁性体コア6eと6fを有する。第1のサブ磁性体コア6eは定着ニップ部Nの記録材入口側において、コイル5と磁束調整ユニット6との両者の前側縁部に近接させて前側縁部長手に沿って配設した横断面矩形の磁性体コアである。第2のサブ磁性体コア6fは定着ニップ部Nの記録材出口側において、コイル5と磁束調整ユニット6との両者の後側縁部に近接させて後側縁部長手に沿って配設した横断面矩形の磁性体コアである。
【0059】
上記のコイル5、磁束調整ユニット6、第1と第2のサブ磁性体コア6e・6fは電気的絶縁性の樹脂(モールド部材)6cによって一体にモールド成型してある。そして、このモールド成型物を、ベルト1の外周面に対向する内面側を除いて、磁束遮蔽ハウジング15で覆っている。磁束遮蔽ハウジング15はコイル5によって発生した磁界がベルト1の金属層(導電層)1a以外に実質漏れないようにしている。
【0060】
誘導加熱装置4はその内面側をベルト1の上面側の外周面に所定のギャップ(隙間)を存して対面させて配設されている。本実施例においてはベルト1と誘導加熱装置4のコイル5は0.5mmのモールドにより電気絶縁の状態を保ち、ベルト1とコイル5との間隔は1.5mm(モールド表面と定着ベルト表面の距離は1.0mm)で一定であり、ベルト1は均一に加熱される。
【0061】
4)定着動作
定着装置Aの定着動作を説明する。制御回路部100は、画像形成開始信号の入力に基づいて、少なくとも画像形成実行時には、シフト機構19L・19Rを脱状態から着状態に転換する。これにより、押圧部材3が押し下げられてニップ形成部材3aがベルト1を介して加圧ローラ2の上面に対して加圧ローラ2の弾性に抗して所定の加圧力で加圧される。そして、ベルト1と加圧ローラ2との間に記録材搬送方向aにおいて所定幅の定着ニップ部Nが形成される。
【0062】
また、制御回路部101は、駆動装置M1をオンにすると共に、電源装置(励磁回路)101をオンにする。駆動装置M1のオンにより加圧ローラ2が図2において矢印R2の反時計方向に所定の速度で回転駆動される。この加圧ローラ2の回転により、定着ニップ部Nにおける加圧ローラ2の表面とベルト1の表面との摩擦力でベルト1に回転力が作用する。ベルト1はその内面がニップ部Nにおいてニップ形成部材3aの下面に密着して摺動しながら押圧部材3と内側磁性体コア6bの外回りを矢印R1の時計方向に加圧ローラ2の回転速度とほぼ同じ速度で従動回転する。
【0063】
押圧部材3と内側磁性体コア6bはこの回転するベルト1のガイド部材の役目もしている。回転するベルト1は、基層1aが金属で構成されているので、回転状態にあっても長さ方向への寄り移動を規制するための手段としては、ベルト1の端部を単純に受け止めるだけのフランジ部材を設ければ十分である。本実施例においては、ステー3bの左右の両端部に嵌着した端末部材7L・7Rにそれぞれフランジ部7aを具備させてベルト1の左右の両端部を受け止めさせてベルト1の左方又は右方への寄り移動を規制している。これにより、定着装置Aの構成を簡略化できるという利点がある。
【0064】
また、電源装置101がオンにされることで、コイル5には20〜50kHzの高周波電流(交流電流)が印加されて、コイル5によって発生した磁界によりベルト1の金属層1aが誘導発熱する。この金属層1aの発熱により、回転するベルト1が昇温する。制御回路部100は、ベルト1の温度が所定の目標温度(定着温度)でほぼ一定になるように温度調節する。即ち、ベルト1の長手中央部の温度を検知する第1の温度センサTH1の検知温度に基づいて電源装置101からコイル5に入力する電力を制御して温度調節する。
【0065】
本実施例においてはベルト1の温度が180℃でほぼ一定になるように温度調節する。第1の温度センサTH1は記録材の通紙域となるベルト部分の温度を検知し、その検知温度情報が制御回路部100にフィードバックされる。制御回路部100はこの第1の温度センサTH1から入力する検知温度が所定の目標温度に維持されるように電源装置101からコイル5に入力する電力を制御している。すなわち、ベルト1の検知温度が所定温度に昇温した場合、コイル5への通電が遮断される。
【0066】
上記のようにして、加圧ローラ2が駆動され、また、ベルト1が所定の定着温度に立ち上がって温調される。そして、この状態において、定着ニップ部Nに、未定着トナー画像Tを有する記録材Pがそのトナー画像担持面側をベルト1側に向けてガイド部材16で案内されて導入される。記録材Pは定着ニップ部Nにおいてベルト1の外周面に密着し、ベルト1と一緒に定着ニップ部Nを挟持搬送されていく。これにより、記録材Pに主にベルト1の熱が付与され、また定着ニップ部Nの加圧力を受けて画像Tが記録材Pの表面に熱圧定着される。
【0067】
定着ニップ部Nを通った記録材Pはベルト1の表面が定着ニップ部Nの出口部分の変形によってベルト1の外周面から自己分離されて定着装置外へ搬送される。ベルト1は、駆動装置M1によって加圧ローラ2が回転駆動されることで、画像転写部側から搬送されてくる、画像Tを担持した記録材Pの搬送速度とほぼ同一の周速度で従動回転する。本実施例の場合、ベルト1の表面回転速度が、210mm/secで回転し、フルカラーの画像を1分間にA4サイズ(横送り)で50枚定着することが可能である。
【0068】
コイル5を含む誘導加熱装置4が、高温になるベルト1の内部ではなく外部に配置されているので、コイル5の温度が高温になりにくく、電気抵抗も上昇せず高周波電流を流してもジュール発熱による損失を軽減する事が可能となる。また、コイル5を外部に配置したことでベルト1の小径化(低熱容量化)にも寄与している。ひいては省エネルギー性にも優れていると言える。
【0069】
本実施例の定着装置Aのウォーミングアップタイムは、非常に熱容量が低い構成であるため、例えば励磁コイル5に1200W入力すると約15秒で目標温度である180℃に到達できる。そして、スタンバイ中の加熱動作が不要であるため、電力消費量を非常に低く抑える事が可能である。
【0070】
(3)磁束調整ユニット6とその制御
定着装置Aにおいては、装置に導入使用可能な最大通紙幅の大サイズ記録材よりも幅が小さい小サイズ記録材または中サイズ記録材を連続的に通紙して加熱定着を実行していくと非通紙部昇温が生じる。即ち、非通紙部Bの温度が、所定温度に維持管理されている通紙部よりも昇温していく。この非通紙部昇温の温度上昇が著しい場合、定着部材であるベルト1の表層や弾性層、加圧ローラ2、その他の昇温部周辺の構成部材に熱ダメージを与えやすい。そのため、この非通紙部昇温を緩和するための対策が必要とされる。
【0071】
本実施例では、第2の温度センサTH2により定着装置Aに小サイズ記録材または中サイズ記録材が通紙されたときのベルト1の非通紙部Bの昇温を検知する。制御回路部100はこの第2の温度センサTH2の検知温度情報に基づいて磁束調整ユニット6を制御して非通紙部昇温を緩和するための制御を行う。以下、磁束調整手段としての本実施例における磁性流体12を用いた磁束調整ユニット6とその制御について説明する。
【0072】
1)磁束調整ユニット6
図5の(a)は磁束調整ユニット6の外観斜視図、(b)は内蔵機構部の外観斜視図である。図6の(a)は磁束調整ユニット6の上面の模式図、(b)は下面の模式図である。図7の(a)と(b)は内蔵機構部の動作を説明する模式図である
磁束調整ユニット6は、磁性流体12を収容する筐体6aを有する。筐体6aは横断面においてコイル5の外側円弧面(ベルト1に対向する側とは反対側)に沿うように湾曲している下向き樋状の薄型中空体である。長さL6aは350mmである。即ち、筐体6aはコイル5の外側を覆う断面形状と長さを有している。
【0073】
筐体6aの上面板には磁性流体だまり6dとしての上方膨出部が上面板短手方向のほぼ中央部において上面板長手に沿って形成されている。この磁性流体だまり6dの長手方向中央部と左側端部と右側端部にはそれぞれ通気部としての細管部6h、6i、6jが上向きに設けられている。
【0074】
筐体6aの下面板には中央コア部としての下方膨出部6gが下面板短手方向のほぼ中央部において下面板長手に沿って形成されている。この下方膨出部6gは磁束調整ユニット6がコイル5の外側に所定に配設された状態において、図2のように、コイル5の捲き中心の空間部5aに嵌入して位置する。
【0075】
筐体6aの内部はシリンダ構造になっており、磁性流体規制部材としての左右一対のピストン8L・8Rを有する。ピストン8L・8Rの外形形状はそれぞれ筐体6aの内空部の横断面形状に対応しており、筐体内を左右方向(筐体の幅方向)にスライド移動可能である。
【0076】
左側のピストン8Lの内面側(ピストン8Rとの対向面側)には筐体6aの長手方向に並行にシャフト部10Lがガイド部材(不図示)に支持されて配設されている。また、右側のピストン8Rの内面側(ピストン8Lとの対向面側)には筐体6aの長手方向に並行にシャフト部10Rがガイド部材(不図示)に支持されて配設されている。各シャフト部10L・10Rには長手に沿ってラック歯10aが設けられている。
【0077】
筐体内部の長手方向中央部(幅方向中央部)には軸部11aを上下方向にして直径15mmのギア(ピニオンギア)11が軸受部(不図示)に保持されて回転可能に配設されている。上記2本のシャフト部10L・10Rはギア11を挟んで前後に位置しており、それぞれのシャフト部10L・10Rのラック歯10aがギア11に対して噛合している。
【0078】
ギア11の軸部11aは筐体6aの上面板を貫通させて上方に延長させてあり、制御回路部100で制御される駆動装置M2により正逆転駆動される。これにより、左右のピストン8L・8Rが連動して筐体内部において左右方向に中央基準にて互いに間隔を広げる方向或いは互いに間隔を狭める方向に左右対称の関係に移動する。即ち、左右のピストン8L・8Rを筐体内部において長手双方向に移動させることができる。
【0079】
上記において、ラック歯10aを有するシャフト部10L・10R、ギア11、軸部11a、駆動装置M2が、磁性流体規制部材である左右のピストン8L・8Rを移動させる規制部材移動手段17を構成している。筐体6aと内部機構は非磁性部材或いは磁性部材で構成される。
【0080】
本実施例においては、ギア11を正転駆動させて左右のピストン8L・8Rの間隔を最大で図7の(a)のようにほぼ最大通紙領域幅Wmaxに対応する間隔にすることができる。また、ギア11を逆転駆動させて左右のピストン8L・8Rの間隔を最小で図7の(b)のようにほぼ最小通紙領域幅Wmaxに対応する間隔にすることができる。また、ギア11の回転数を制御することで左右のピストン8L・8Rの間隔を最大通紙領域幅Wmaxと最小通紙領域幅Wmaxとの間における種々の中サイズ記録材の幅に対応した間隔にすることができる。
【0081】
筐体6aの内部の左右のピストン6L・6Rの間の空間部には磁性粉を含有するコロイド状にした磁性流体(磁性コロイド溶液)12が収容されている。本実施例で使用する磁性流体12は、25℃における初透磁率が2000μi、200℃における初透磁率が4500μiとなるソフトフェライトを直径10nmの微粒子にした磁性粉(軟磁性微粒子)を用いたものとする。
【0082】
磁性流体12は印加される磁界がゼロ(コイル5に対する交流電源オフ)の際は磁性のない単なる液体であるが、外部から磁界を作用させる(交流電源オン)ことで磁化し硬化する。しかし、再度外部磁界を取り除くと、磁性流体の磁化は再び消滅する。このような「超常磁性」と呼ばれる磁気的性質をもつ磁性流体は、残留磁化およびヒステリシスといった特性を持たない為、フェライトコアなどと比較しても、高い発熱効率を実現させることができる。
【0083】
以上のように、印加磁界のオン/オフによって液化/硬化と形質を変化させる磁性流体12の特性を活用する。本実施例では、コイル5によって発生した磁界が外部に漏れず、かつベルト1に効率よく磁界が流入するように、コイル5を覆わせて配置された磁束調整ユニット6に磁性流体12を内包させる。
【0084】
筐体6aの内部の左右のピストン8L・8Rの間の空間部に収容された磁性流体12がピストン8L・8Rの移動によってピストン8L・8Lの外側の筐体内部に漏れないようにする。そこで、例えば、ピストン8L・8Rの断面は密閉性が高いゴム材に永久磁石9を配置させることで、磁性流体12をピストン8L・8Rの間の筐体空間部から漏らすことなくピストン8L・8Rを移動させることができる。
【0085】
磁性流体12は外部磁界が印加されていない状態においてはその流動性により、筐体内部における磁性流体12の存在領域の幅が、広狭変更される左右のピストン8Lと8Rの間隔に対応して広狭変更される。
【0086】
即ち、図7の(a)のように、左右のピストン8L・8Rの間隔が最大通紙領域幅Wmaxに対応する間隔にされた場合には、筐体内部における磁性流体12の存在領域幅はその最大通紙領域幅Wmaxに対応した幅になる。また、図7の(b)のように、左右のピストン8L・8Rの間隔が最小通紙領域幅Wmaxに対応する間隔にされた場合には、筐体内部における磁性流体12の存在領域幅はその最小通紙領域幅Wmaxに対応した幅になる。
【0087】
そして、左右のピストン8L・8Rの間隔が最大通紙領域幅Wmaxと最小通紙領域幅Wmaxとの間における種々の中サイズ記録材の幅に対応した間隔された場合には、筐体内部における磁性流体12の存在領域幅はその中サイズ記録材の通紙領域幅になる。
【0088】
即ち、通紙される記録材が小サイズ記録材または中サイズ記録材である場合において、磁束調整ユニット6の筐体内部の通紙部に対応する部分には磁性流体12が配置されるが、非通紙部に対応する部分には磁性流体12は配置されない。
【0089】
そのため、通紙部においては、図8Aのように、コイル5から発生した磁界が、磁束調整ユニット6において通紙部に対応して存在している磁性流体12が外部磁性体コアとして機能することでベルト1に収束して流入する。これによりベルト1の通紙部に対応する部分が効率よく発熱する。
【0090】
一方、磁束調整ユニット6の非通紙部に対応する部分には磁性流体12が存在していない。そのため、図8Bのように、コイル5から発生した磁界がベルト1に収束されず、ベルト1に流入する磁界が減少する。これにより、ベルト1の非通紙部Bに対応する部分の発熱量を大幅に低下させることができる。即ち、非通紙部昇温が効果的に緩和される。非通紙部Bにおいてベルト1に収束されなかった磁界は誘導加熱装置4の磁束遮蔽ハウジング15で遮蔽される。
【0091】
上記の磁束調整手段である磁束調整ユニット6をまとめると次のとおりである。束調整ユニット6は、磁性流体12を収容した筐体6aを有する。この筐体6aの幅方向に移動可能で、磁性流体12の筐体内における存在領域幅を規制する磁性流体規制部材8L・8Rを有する。また、磁性流体規制部材を移動させる規制部材移動手段17を有する。そして、制御手段100は装置に通紙される記録材の幅サイズに対応して磁性流体12の筐体内における存在領域幅が磁性流体規制部材8L・8Rで規制されるように規制部材移動手段17を制御する。
【0092】
記録材Pが中央基準で搬送され、磁性流体12の筐体内における存在領域幅が定着装置Aに通紙される記録材の幅サイズに対応して中央基準で移動される磁性流体規制部材により規制される。
【0093】
図9は本実施例における磁束調整ユニット6の具体的な制御フロー例である。磁束調整ユニット6の左右のピストン8L・8Rは、常時は、図7の(a)のようにほぼ最大通紙領域幅Wmaxに対応する間隔にされている位置をホームポジションとして停止している。従って筐体内部における磁性流体12の存在領域の幅はほぼ最大通紙領域幅Wmaxに対応した幅になっている。
【0094】
制御回路部100には装置に通紙使用される記録材のサイズ情報が入力される。記録材のサイズ情報は使用者により操作部から入力される。あるいは装置に通紙された記録材のサイズを自動検知するサイズ検知手段から入力する。
【0095】
ステップS1:制御回路部100は記録材サイズ情報の入力を受けて、通紙される記録材の幅サイズに応じて次の演算をする。即ち、磁束調整ユニット6の左右のピストン8L・8Rを上記のホームポジションから通紙される記録材の幅サイズに対応した間隔の位置に移動するために必要なギア11の回転数を演算する(長手磁束制御幅選択)。
【0096】
ステップS2:次に、制御回路部100は、定着装置Aの駆動装置M1をオンにする。また、電源装置101をオンにしてコイル5に20〜50kHzの高周波電流を流す。これにより、コイル5によって発生した磁界により、回転しているベルト1の金属層(導電層)1aが誘導発熱する。即ちベルト1が昇温していく。
【0097】
この場合、磁束調整ユニット6の左右のピストン8L・8Rはほぼ最大通紙領域幅Wmaxに対応する間隔にされているホームポジションに位置しており、筐体内部における磁性流体12の存在領域の幅はその最大通紙領域幅Wmaxに対応した幅になっている。その磁性流体12は、コイル5から発生する磁界を受け、磁化し硬化することで、例えばソフトフェライトの場合と同等の磁路を形成させる。そして、ベルト1の最大通紙領域幅Wmaxに対応する全長域が均等に加熱される。
【0098】
制御回路部100には第1及び第2の温度センサTH1・TH2からそれぞれベルト1の検知温度上方が入力する。制御回路部100は、第1の温度センサTH1の検知温度情報に基づいて、ベルト1の温度が所定の目標温度(定着温度)、本実施例においては180℃に立ち上がってその温度に維持されるように温調する。
【0099】
この状態において記録材が通紙されてプリントが開始される。通紙される記録材が最大通紙領域幅Wmaxに対応する幅を有する大サイズ記録材である場合には非通紙部昇温は生じないので、第2の温度センサTH2で検知されるベルト1の温度が第1の温度センサTH1で検知されるベルト1の温度とほぼ同じである。
【0100】
従って、通紙される記録材が大サイズ記録材である場合には、左右のピストン8L・8Rの間隔が最大通紙領域幅Wmaxに対応する間隔に保持されたままにおいて、所定の設定枚数分の全プリント動作が実行されてプリント終了となる。
【0101】
ステップS3〜S5:通紙される記録材が小サイズ記録材または中サイズ記録材であり連続通紙される場合には装置Aの非通紙部Bにおいて非通紙部昇温が発生する。その非通紙部Bに対応するベルト部分の温度が第2の温度センサTH2で検知されて制御回路部100に入力する。制御回路部100は連続プリント実行中に第2の温度センサTH2から入力する検知温度(端部温度)がT>200℃になった際には(S3)、電源装置101からコイル5に印加されていた高周波電流をオフにする(S4)。これにより、磁束調整ユニット6に内包された磁性流体12は軟化し磁性のないコロイド状の液体となる。
【0102】
このステップS4と共に、ステップS1で演算した回転数だけギア11を逆回転させるように駆動装置M2を制御する。これにより、磁束調整ユニット6の左右のピストン8L・8Rが最大通紙領域幅Wmaxに対応する間隔にされているホームポジションから、通紙されている小サイズ記録材または中サイズ記録材の幅サイズに対応する間隔の位置に移動される。即ち、磁束調整ユニット6の非通紙部に対応する部分には磁性流体12が存在しなくなる。
【0103】
ステップS6:この状態において、制御回路部100は電源装置101をオンにしてプリントは続行させる。磁性流体12は、コイル5から発生する磁界を受け、磁化し硬化することで、例えばソフトフェライトの場合と同等の磁路を形成させる。そして、ベルト1の通紙部に対応する全長域が均等に加熱されて所定の定着温度に温調される。
【0104】
一方、磁束調整ユニット6の非通紙部に対応する部分には磁性流体12が存在していない。そのため、コイル5から発生した磁界がベルト1に収束されず、ベルト1に流入する磁界が減少して、ベルト1の非通紙部Bに対応する部分の発熱量を大幅に低下し、第2の温度センサTH2から制御回路部100に入力するベルト端部の検知温度が低下していく。
【0105】
ステップS7〜S9:制御回路部100は第2の温度センサTH2から入力する検知温度(端部温度)がT<180℃になった際には(S7)、電源装置101からコイル5に印加されていた高周波電流をオフにする(S8)。これにより、磁束調整ユニット6に内包された磁性流体12は軟化し磁性のないコロイド状の液体となる。
【0106】
このステップS8と共に、磁束調整ユニット6の左右のピストン8L・8Rが、再び、最大通紙領域幅Wmaxに対応する間隔のホームポジションに戻るように駆動装置M2を制御してギア11を正回転させる(S9)。これにより、筐体内部における磁性流体12の存在領域の幅は最大通紙領域幅Wmaxに対応した幅に戻される。
【0107】
ステップS10:この状態において、制御回路部100は電源装置101をオンにしてプリントは続行させる。磁性流体12は、コイル5から発生する磁界を受け、磁化し硬化することで、例えばソフトフェライトの場合と同等の磁路を形成させる。そして、ベルト1の最大通紙領域幅Wmaxに対応する全長域が均等に加熱され、非通紙部Bの温度が上昇する。
【0108】
ステップS11:上記のステップS2〜S10は、小サイズ記録材または中サイズ記録材の連続通紙において、第2の温度センサTH2から制御回路100に入力する検知温度が180℃<T<200℃の範囲で一定となるように、全プリント終了まで行われる。
【0109】
ステップS12:制御回路部100は全プリントが終了したら、磁束調整ユニット6の左右のピストン8L・8Rがホームポジションに位置していなければ、ホームポジションの戻すように駆動装置M2を制御して、次のプリント開始信号の入力待ちをする。
【0110】
図10は本実施例における昇温抑制効果のSIM結果を示す図である。図11は本実施例における磁性流体領域の発熱変化を示す図である。以上の制御により、小サイズ記録材または中サイズ記録材の連続通紙における非通紙部昇温を効果的に緩和することができる。また、上記の装置構成により、画像を担持した記録材を加熱するための、電磁誘導発熱する発熱回転体の長手方向の温度分布の変動を小さくすることができる。また、消費電力の削減および装置の小型化を可能にしつつ、発熱回転体を効率よく加熱することができる。
【0111】
磁束調整ユニット6において磁性流体12を収容する筐体6aには、磁性流体だまり6dを設けることで、小サイズ記録材の領域においても磁性流体12を配置させることができる。この磁性流体だまり6dは磁性流体12の「逃げ」としての効果だけでなく、この磁性流体だまり6dに磁性流体12が配置されることで、図11に示すように、ベルト回りの磁束密度を向上させる機能を有する。
【0112】
このように、通紙領域に磁性流体12が配置されることで、非通紙領域の昇温を抑制するとともに、通紙領域の発熱効率を大幅に向上させることができる。これにより、通紙領域および磁性流体だまり6dに磁性流体12が配置される場合においては、コイル5に印加させる高周波電流を下げることができ、消費電力を抑えることができる。
【0113】
なお、左右のピストン8L・8Rのホームポジションの設定は上記実施例のほぼ最大通紙領域幅Wmaxに対応した幅の位置に限られない。例えば、筐体6a内の左側終端位置と右側終端位置とに設定してもよい。最小通紙領域幅Wmaxに対応した幅の位置に設定してもよい。ホームポジションの設定をしないで、左右のピストン8L・8Rの現在位置を基点にする。そして、装置に通紙される記録材の幅サイズに記録材の幅サイズに対応して左右のピストン8L・8Rの移動方向と移動量を演算して左右のピストン8L・8Rを移動制御する構成にすることもできる。
【0114】
[実施例2]
内側磁性体コア6bを発熱体内部磁束調整手段として、発熱体外部磁束調整手段としての磁束調整ユニット6と同様に磁性流体12を用いたユニットにして、通紙部と非通紙部の磁束調整をすることで非通紙領域の昇温を抑制する装置構成にすることもできる。
【0115】
図12は内側磁性体コア6bを磁性流体12を用いた磁束調整ユニットにした場合の模式図である。中空筐体6bの内部に磁束調整ユニット6と同様の内部機構と磁性流体12が内包されている。動作と制御は磁束調整ユニット6と同様である。
【0116】
内側磁性体コア6bにおいては、コアを移動させるとベルト1の内側に触れてしまい、ベルトが破損してしまう恐れがあり、温度制御および耐久の観点から問題が生じてしまう。しかし、本実施例を用いれば、コアを移動させることなく、長手非通紙領域の磁束密度を制御できるという点で優位である。外部磁性体コアと内側磁性体コアの両方または何れか一方を磁性流体12を用いた磁束調整ユニットの構成にすることができる。
【0117】
[その他の事項]
1)加熱回転体1はローラ体に限られない。複数の張架部材間に懸回張設されて循環移動される可撓性を有するエンドレスベルト体とすることもできる。
【0118】
2)加熱回転体11とニップ部Nを形成する加圧部材2はローラ体に限られない。回転可能なエンドレスベルト体にすることもできる。また、表面(加熱回転体1や記録材Pとの当接面)の摩擦係数が小さい非回転部材(加圧パッドなど)の形態にすることもできる。加圧部材2も加熱する構成にすることもできる。
【0119】
3)装置に対する記録材Pの通紙(搬送)は中央基準に限られない。記録材の幅方向の一方側の側部を基準として通紙(搬送)する片側基準の装置構成とすることもできる。この場合は、磁束調整ユニットにおいて、磁性流体の筐体内における存在領域幅が画像加熱装置に通紙される記録材の幅サイズに対応して片側基準で移動される磁性流体規制部材により規制される。
【0120】
4)本発明の画像加熱装置は、実施例のような、記録材に形成された未定着画像を固着画像として加熱定着する定着装置としての使用に限られない。記録材に一旦定着された或いは仮定着された画像(定着済み画像又は半定着画像)を加熱加圧して光沢度を向上させるなどの画像の表面性状を調整する加熱処理装置としても有効である。
【0121】
5)画像形成装置の画像形成部は電子写真方式に限られない。静電記録方式や磁気記録方式の画像形成部であってもよい。また、転写方式に限られず、記録材に対して直接方式で未定着画像を形成する構成のものであってもよい。
【符号の説明】
【0122】
5・・コイル、t・・画像、P記録材、1・・画像加熱部材、6・・磁束調整手段、東京都千代田区・・制御手段、A・・画像加熱装置、a・・記録材搬送方向、12・・磁性流体、6a・・筐体、8L・8R・・磁性流体規制部材、17・・規制部材移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁束を生ずるコイルと、前記磁束の作用により熱を生じ、画像を担持して搬送される記録材に接して加熱する回転可能な画像加熱部材と、前記画像加熱部材に作用する磁束を調整する磁束調整手段と、制御手段と、を有する画像加熱装置において、
記録材の搬送路面内において記録材搬送方向に直交する方向に並行な方向を幅方向としたとき、前記磁束調整手段は、磁性流体を収容した筐体と、前記筐体の幅方向に移動可能で、前記磁性流体の筐体内における存在領域幅を規制する磁性流体規制部材と、前記磁性流体規制部材を移動させる規制部材移動手段と、を有し、前記制御手段は装置に通紙される記録材の幅サイズに対応して前記磁性流体の筐体内における存在領域幅が前記磁性流体規制部材で規制されるように前記規制部材移動手段を制御することを特徴とする画像加熱装置。
【請求項2】
前記磁性流体は直径10nmの軟磁性微粒子を含有する磁性コロイド溶液であることを特徴とする請求項1に記載の画像加熱装置。
【請求項3】
前記磁性流体規制部材は永久磁石を用いて構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像加熱装置。
【請求項4】
前記磁束調整手段は前記画像加熱部材の外部にあることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の画像加熱装置。
【請求項5】
前記磁束調整手段は前記画像加熱部材の内部にあることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の画像加熱装置。
【請求項6】
前記磁束調整手段は前記画像加熱部材の外部及び内部にあることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の画像加熱装置。
【請求項7】
前記記録材が中央基準で搬送され、前記磁性流体の筐体内における存在領域幅が画像加熱装置に通紙される記録材の幅サイズに対応して中央基準で移動される前記磁性流体規制部材により規制されることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の画像加熱装置。
【請求項8】
前記記録材が片側基準で搬送され、前記磁性流体の筐体内における存在領域幅が画像加熱装置に通紙される記録材の幅サイズに対応して片側基準で移動される前記磁性流体規制部材により規制されることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の画像加熱装置。
【請求項9】
搬送される記録材に未定着画像を形成する画像形成手段と、前記画像形成手段から搬送された前記記録材を加熱して前記未定着画像を定着する画像定着手段と、を有する画像形成装置であって、前記画像定着手段が請求項1から請求項8の何れか一項に記載の画像加熱装置であることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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