説明

画像形成装置及びインクジェット記録装置

【課題】メディア上の液体を除去する液体除去媒体やメディア上のインクを押圧する押圧媒体など、メディアやメディア上の画像に接触する媒体へのインク色材など画像形成体の付着を抑制し、画像故障などの画像品質の劣化を防止する画像形成装置及びインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】印字部の後段には、記録媒体上の液体を除去する3つの吸収ロール300,302,304を有する液体除去部25’が備えられている。3つの吸収ロールは異なる表面自由エネルギーを有し、3つの吸収ロールを選択的に切り換える選択機構308を備え、記録媒体の種類に応じて3つの吸収ロールが選択的に切り換えられるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像形成装置及びインクジェット記録装置に係り、特に、インクなどの画像形成体を用いてメディア上に画像を形成するインクジェット記録装置その他の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置などの画像形成装置では、水やアルコールなどの溶媒に色材や添加剤を混合した液体インクを用いてメディア上に画像を形成する。画像が形成されたメディアの表面には液体(インク溶媒)が残り、このメディア上に残留する液体は、画像劣化(画像故障)、裏移り、コックリングの発生などの原因となる。インクジェット記録装置では、このようなメディア上に残る液体を速やかに取り除く必要があり、そのために様々な工夫がなされている。特に、メディア上で処理液とインクを反応させてインクに含まれる色材を不溶化する、或いは、色材を凝集させてインクの定着を促進させる方式では、メディア上に付着する液体量が多くなり、液体除去の必要性が高くなっている。
【0003】
また、主としてメディアの表面にインク色材を定着させる場合、メディア上に形成されたドットの立体形状(高さ)によってはメディア上に形成された画像にレリーフ感が生じてしまうことがある。該画像を構成するドットを平坦化(平滑化)することで画像に生じるレリーフ間を解消することができる。
【0004】
特許文献1に記載されたインク吸収体及び該インク吸収体を用いた画像形成装置・方法では、液体溶媒吸収体と、その表面の少なくとも一部を覆い、インク着色剤との離型性を持ちインク溶媒を透過する離型部材と、を備えたインク吸収体を備え、インクがシート上に付着するとその部分に離型部材を挟んで液体溶媒吸収体を近接させ、離型部材を介して液体溶媒を液体溶媒吸収体に吸収させ、液体インクはシート上において着色剤と液体溶媒とが分離した状態となるように構成されている。また、高分子吸収体内の液量を検出する液量センサを配設し、センサ値が所定値に達したところで絞り機構を作動させるように構成されている。
【0005】
特許文献2に記載された余剰現像液除去装置では、静電潜像を湿式現像した後にドラム上に付着している余剰現像液を除去する吸液体は、最外層に表面自由エネルギーが25mJ/m2 以下の材料からなる通気性を有する表面層と、その表面層の下層側に形成される弾性多孔質と、を持つように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−179959号公報
【特許文献2】特開平9−15981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、液体除去に用いる吸収媒体やドットの平坦化に用いる押圧媒体をメディア(メディア表面のインク色材)に接触させたり所定の圧力で押し付けたりすると、インク色材がメディア表面から吸収媒体や押圧媒体に移ってしまうことがあり、画像の品質を著しく低下させてしまう恐れがある。また、吸収媒体や押圧媒体にインク色材が付着すると、吸収媒体や押圧媒体のクリーニングや交換などのメンテナンスが必要となり、生産効率の低下、吸収媒体や押圧媒体の耐久性の低下が懸念される。
【0008】
特許文献1に記載されたインク吸収体及び該インク吸収体を用いた画像形成装置・方法では、インク吸収体に用いられる離型性を持った材料が具体的に開示されているが、これらの物性値を定量化していないので、メディアの種類によっては吸収体にインクが付着しやすい場合も考えられる。特に、吸収体の汚れや劣化などによりメディア上に液体除去が不十分であると色材と吸収体との間に水分が残ってしまい、このような状態では吸収体とインクの付着力に影響を及ぼす恐れがある。
【0009】
また、特許文献2に記載された余剰現像液除去装置では、吸液体の表面自由エネルギーについて規定されているが、吸液体の表面粗さなど他の条件について規定されておらず、メディアの種類によっては吸液体にインク色材が付着してしまう恐れがある。
【0010】
更に、特許文献1及び特許文献2に開示された発明では、インク色材のメディアに対する付着力と吸収体(吸液体)に対する付着力との相対的な大小関係が開示されていないので、メディアの種類や表面性によってはメディア上のインク色材が吸収体(吸液体)に付着してしまう恐れがあり、メディアの選択範囲が狭くなることが予想される。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、メディア上の液体を除去する液体除去媒体やメディア上のインクを押圧する押圧媒体など、メディアやメディア上の画像に接触する媒体へのインク色材など画像形成体の付着を抑制し、画像故障などの画像品質の劣化を防止する画像形成装置及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る画像形成装置は、記録媒体に色材を含む液体を吐出させて所望の画像を形成する吐出ヘッドと、前記液体と反応して、前記液体を色材と溶媒に分離させる処理液を前記記録媒体に付与する処理液付与手段と、前記記録媒体と前記吐出ヘッドとを相対的に搬送させる搬送手段と、前記吐出ヘッドを基準とする前記記録媒体の搬送方向下流側に設けられ、表面に穴が設けられた構造を有し、前記記録媒体上において色材と溶媒に分離させた前記液体に表面を接触させて、前記穴を介して前記溶媒を除去し、表面の表面自由エネルギーが前記記録媒体の表面自由エネルギーよりも小さい条件を満たし、かつ、前記表面の表面自由エネルギーが異なる複数の液体除去部材を具備する液体除去手段と、前記複数の液体除去部材のうち、前記記録媒体上の液体に接触させる液体除去部材を選択的に切り換える切換手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る画像形成装置は、前記記録媒体の種類を判断する記録媒体判断手段と、前記記録媒体判断手段の判断結果に基づいて前記切換手段を制御する切換制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明の他の態様に係る画像形成装置は、前記液体除去部材の表面に設けられる穴は、前記溶媒を通過させつつ前記色材を通過させない大きさを有する貫通穴であり、前記液体除去部材は、前記貫通穴を介して前記溶媒を吸収することを特徴とする。
【0015】
本発明の他の態様に係る画像形成装置は、前記液体除去部材は、表面が金属又は多孔質体により構成されることを特徴とする。
【0016】
本発明の他の態様に係る画像形成装置は、前記液体除去部材は、中空構造を有し、前記液体除去部材の表面から中空部へ液体を吸引する吸引手段を備えたことを特徴とする。
【0017】
上記目的を達成するために、本発明に係るインクジェット記録装置は、記録媒体に色材を含むインクを吐出させて所望の画像を形成する吐出ヘッドと、前記記録媒体と前記吐出ヘッドとを相対的に搬送させる搬送手段と、前記吐出ヘッドを基準とする前記記録媒体の搬送方向下流側に設けられ、表面に穴が設けられた構造を有し、前記記録媒体上において色材と溶媒に分離させた前記インクに表面を接触させて、前記穴を介して前記溶媒を除去し、表面の表面自由エネルギーが前記記録媒体の表面自由エネルギーよりも小さい条件を満たし、かつ、前記表面の表面自由エネルギーが異なる複数の液体除去部材を具備する液体除去手段と、前記複数の液体除去部材のうち、前記記録媒体上のインクに接触させる液体除去部材を選択的に切り換える切換手段と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係るインクジェット記録装置は、前記記録媒体の種類を判断する記録媒体判断手段と、前記記録媒体判断手段の判断結果に基づいて前記切換手段を制御する切換制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
本発明の他の態様に係るインクジェット記録装置は、前記処理液付与手段は、前記処理液を吐出させる処理液吐出ヘッドを備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明の他の態様に係るインクジェット記録装置は、前記液体除去部材の表面に設けられる穴は、前記溶媒を通過させつつ前記色材を通過させない大きさを有する貫通穴であり、前記液体除去部材は、前記貫通穴を介して前記溶媒を吸収することを特徴とする。
【0021】
本発明の他の態様に係るインクジェット記録装置は、前記液体除去部材は、表面が金属又は多孔質体により構成されることを特徴とする。
【0022】
本発明の他の態様に係るインクジェット記録装置は、前記液体除去部材は、中空構造を有し、前記液体除去部材の表面から中空部へ液体を吸引する吸引手段を備えたことを特徴とする。
【0023】
また、本明細書は以下の発明を開示する。
【0024】
記録媒体に液体を吐出させて所望の画像を形成する吐出ヘッドと、前記記録媒体と前記吐出ヘッドとを相対的に搬送させる搬送手段と、前記吐出ヘッドを基準とする前記記録媒体の搬送方向下流側に設けられ、前記記録媒体上の液体と接触する接触手段と、を備え、前記接触手段は、その表面性として表面粗さが前記記録媒体の表面粗さよりも大きい条件、表面自由エネルギーが前記記録媒体の表面自由エネルギーよりも小さい条件及び、接触角が前記記録媒体の接触角よりも小さい条件のうち少なくとも何れか1つの条件を満たすことを特徴とする画像形成装置。
【0025】
かかる発明によれば、記録媒体上の液体に接触する接触手段の表面性が表面粗さ、表面自由エネルギー、接触する液体の接触角により規定され、表面粗さが記録媒体よりも大きい条件、表面自由エネルギーが記録媒体よりも小さい条件、接触角が記録媒体よりも小さい条件のうち少なくとも何れか1つの条件を満たすので、記録媒体上の液体に接触手段を接触させても、接触手段側の接触面には該液体が付着又は残留せず、記録媒体上には接触手段からの液体の付着がないので、好ましい画像が形成される。
【0026】
接触手段には、液体(液体に含有する画像形成体)を押圧して平滑化(平坦化)する押圧手段や、記録媒体上の液体 (溶媒)を除去する液体除去手段がある。液体(画像形成体)を平坦化させると記録画像のレリーフ感が抑制される。また、記録媒体上の液体が除去されると記録媒体にコックリングが発生することを防止できる。
【0027】
また、吐出ヘッドから吐出される液体には、画像形成体たるインク色材を含有するインクや、レジスト等のマスキング材料などがある。
【0028】
吐出ヘッドには、記録媒体の全幅(記録媒体の画像形成可能幅)に対応した長さの吐出孔列を有するライン型ヘッドや、記録媒体の全幅に満たない長さの吐出孔列を有する短尺ヘッドを記録媒体の幅の方向へ走査させるシリアル型ヘッドがある。
【0029】
ライン型の吐出ヘッドには、記録媒体の全幅に対応する長さに満たない短尺の吐出孔列を有する短尺ヘッドを千鳥状に配列して繋ぎ合わせて、記録媒体の全幅に対応する長さとしてもよい。
【0030】
記録媒体は吐出ヘッドによって画像形成体の吐出を受ける媒体(メディア)であり、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フイルム、布、その他材料や形状を問わず、様々な媒体を含む。
【0031】
また、前記画像形成装置において、前記接触手段は、前記記録媒体上の液体と接触して該液体を除去する液体除去手段を含むことを特徴とする。
【0032】
液体除去手段による液体除去には、液体と接触する部分に多孔質部材やポリマーなどの吸収部材を用いて液体を吸収除去する態様や、液体と接触する部分に多数の小孔が設けられた樹脂や金属の部材を用いてその小孔を介して吸引装置(ポンプ)等により液体を吸引除去する態様がある。
【0033】
また、前記画像形成装置において、前記接触手段は、前記記録媒体の表面粗さに対して2倍以上の表面粗さ、前記記録媒体の表面自由エネルギーに対して1/2以下の表面自由エネルギー、前記記録媒体の接触角に対して1/2以下の接触角のうち少なくとも何れか1つを有することを特徴とする。
【0034】
接触手段の表面粗さ、表面自由エネルギー、接触角をそれぞれ記録媒体の表面粗さの2倍以上、記録媒体の表面自由エネルギーの1/2以下、記録媒体の接触角の1/2以下とすることで、接触手段の表面性には十分なマージンが得られる。このようにして接触手段の表面性に十分なマージンが得られると、接触手段の接触圧(押圧)適正範囲が広くなり、処理の効率アップが期待できる。
【0035】
また、前記画像形成装置において、表面粗さ、表面自由エネルギー及び接触角のうち少なくとも1つの物性が異なる複数の前記接触手段と、前記複数の接触手段のうち前記記録媒体上の液体に接触させる接触手段を選択的に切り換える切換手段と、を備えたことを特徴とする。
【0036】
物性値(表面性)の異なる複数の接触手段を選択的に切り換え可能に構成することで、最適な表面性を持つ接触手段を用いることができる。
【0037】
また、前記画像形成装置において、前記記録媒体の種類を判断する記録媒体判断手段と、前記記録媒体判断手段の判断結果に基づいて前記切換手段を制御する切換制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0038】
記録媒体の種類に応じて接触手段を選択的に切り換えるように構成されるので、記録媒体に応じた好ましい接触手段が用いられる。
【0039】
記録媒体の種類を判断する態様には、ユーザインターフェイスを介してユーザが記録媒体情報を入力するように構成してもよいし、センサや撮像素子などの検出手段を用いて記録媒体を直接的に読み取り、この読取結果から記録媒体の種類を判断してもよい。また、記録媒体を供給する供給手段に記録媒体の種類を含む情報を記憶させる情報記録体(メモリ、ICタグ等)を備え、この情報記録体から記録媒体の種類(メディア種)を読み取るように構成してもよい。
【0040】
記録媒体にインクを吐出させて所望の画像を形成する吐出ヘッドと、前記記録媒体と前記吐出ヘッドとを相対的に搬送させる搬送手段と、前記吐出ヘッドを基準とする前記記録媒体の搬送方向下流側に設けられ、前記記録媒体上のインクと接触する接触手段と、を備え、前記接触手段は、その表面性として表面粗さが前記記録媒体の表面粗さよりも大きい条件、表面自由エネルギーが前記記録媒体の表面自由エネルギーよりも小さい条件及び、接触角が前記記録媒体の接触角よりも小さい条件のうち少なくとも何れか1つの条件を満たすことを特徴とするインクジェット記録装置。
【0041】
顔料系インクを用いて画像形成を行う場合、インク溶媒とインク色材とを分離させて、インク色材を記録媒体上に定着させるとともにインク溶媒は記録媒体上から除去される。インク溶媒の除去には、多孔質部材などの吸収部材をインク溶媒に接触させる方法がよく用いられ、この吸収部材に本発明を適用すると、吸収部材とインク(インク色材)が接触しても吸収部材へのインク色材の付着を防止できる。また、記録媒体上のインク色材を押圧してインク色材を平坦化させる際に、インク色材を押圧する押圧手段に本発明を適用すると、該押圧手段へのインク色材の付着を防止できる。したがって、本発明は、特に、記録媒体の表面にインク色材を定着させる顔料系インクを用いる場合に大きな効果を得ることができる。
【0042】
また、前記インクジェット記録装置において、前記インクと反応させて前記インクに含まれる色材を前記記録媒体に定着させる処理液を吐出させる処理液吐出ヘッドを備えたことを特徴とする。
【0043】
処理液とインクとを反応させて、インクの定着を促進させる2液系のインクジェット記録装置では、未反応のインク(インク溶媒)及び余剰な処理液が効率よく除去されるとともにインク色材を除去することなく、好ましい液体除去が行われる。特に、記録媒体上に多量の液体(溶媒)が吐出される2液系のインクジェット記録装置では、大きな効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、表面エネルギーが異なる複数の液体除去部材を選択的に切り換え可能に構成することで、記録媒体に対して最適な表面性を持つ液体除去部材を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の全体構成図
【図2】図1に示したインクジェット記録装置の印字部周辺の要部平面図
【図3】図1に示すインクジェット記録装置の液体除去部の要部構成図
【図4】印字ヘッドの構造例を示す平面透視図
【図5】図4(a) 、(b) 中5−5線に沿う断面図
【図6】図1に示したインクジェット記録装置の供給系の構成を示す要部ブロック図
【図7】図1に示したインクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図
【図8】記録媒体と吸収ロールとの表面粗さの関係を説明する図
【図9】記録媒体と吸収ロールとの表面自由エネルギーの関係を説明する図
【図10】記録媒体と吸収ロールとの接触角の関係を説明する図
【図11】記録媒体と吸収ロールとの表面性の関係を求める実験を説明する図
【図12】本発明の応用例に係るインクジェット記録装置の全体構成図
【図13】図12に示すインクジェット記録装置の液体除去部の要部構成図
【図14】図12に示すインクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0047】
〔第1実施形態、インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示したように、このインクジェット記録装置10は、黒(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の各インクに対応して設けられた複数の印字ヘッド12K,12C,12M,12Y及び、これらのインクと反応させてインクの定着を促進させる処理液吐出ヘッド12S(以下、印字ヘッド12K,12C,12M,12Y及び処理液吐出ヘッド12Sを総称してヘッド12S,12K,12C,12M,12Yと記載することがある。)を有する印字部12と、各色インクに対応する印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応するインク及び処理液吐出ヘッド12Sに対応する処理液を貯蔵する貯蔵/装填部14と、記録媒体16を供給する給紙部18と、記録媒体 (メディア)16の種類を検出するメディア検出部19と、記録媒体16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のインク吐出面に対向して配置され、記録媒体16の平面性を保持しながら記録媒体16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印字検出部24の後段に設けられ記録媒体16上の液体(溶媒)を除去する液体除去部25と、印画済みの記録媒体16(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
【0048】
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0049】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録媒体16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置される。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0050】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判定し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0051】
また、インクジェット記録装置10は、印字部12の前段側に記録媒体16の種類を検出するメディア検出部19を備えている。詳細は後述するが(図3参照)、メディア検出部19は、記録媒体16の厚みを検出する厚みセンサと、記録媒体16の表面性(平滑性)を検出する表面性センサと、を含んで構成されている。図1には図示しない厚みセンサ及び表面性センサはそれぞれ図3に符号120、122として記載されている。なお、上述した情報記録体に記録媒体16の厚み情報や表面性情報などメディア検出部19によって得られる情報が記憶されている場合にはメディア検出部19は省略可能である。
【0052】
給紙部18から送り出される記録媒体16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録媒体16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0053】
デカール処理後、カットされた記録媒体16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のインク (処理液)吐出面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
【0054】
ベルト33は、記録媒体16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録媒体16が吸着保持される。
【0055】
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図1中不図示,図7等に符号88として記載)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録媒体16は図1の左から右へと搬送される。
【0056】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0057】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、ヘッド12S,12K,12C,12M,12Yと記録媒体16が対向し、記録媒体16が処理液及びインクの打滴を受ける印字領域 (吐出領域)では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0058】
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録媒体16に加熱空気を吹き付け、記録媒体16を加熱する。印字直前に記録媒体16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0059】
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図2参照)。詳細な構造例は後述するが、各ヘッド12S,12K,12C,12M,12Yは、図2に示したように、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録媒体16の少なくとも一辺を超える長さにわたってノズルが複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
【0060】
記録媒体16の送り方向(以下、紙送り方向という。)に沿って上流側から処理液(S)に対応した処理液吐出ヘッド12S、黒(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K,12C,12M,12Yが配置されている。記録媒体16を搬送しつつ処理液吐出ヘッド12Sから処理液を吐出させ、該処理液が付着した記録媒体16上に(該処理液上に)各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ色インクを吐出させることにより記録媒体16にはカラー画像を形成し得る。
【0061】
このようにして紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドが処理液及び各色インクごとに設けられてなる印字部12によれば、副走査方向について記録媒体16と印字部12とを相対的に移動させる動作を一回行うだけで(即ち、1回の副走査で)、記録媒体16の全面に画像を形成することができる。これにより、ヘッドが主走査方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0062】
なお、本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
【0063】
図1に示すように、貯蔵/装填部14は処理液吐出ヘッド12Sに対応する処理液タンク14S及び、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するインク供給タンク14K,14C,14M,14Yを有している。各タンクは所要の管路(不図示)を介して各ヘッド12S,12K,12C,12M,12Yと連通されている。
【0064】
また、貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、各色インク間、インク−処理液間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0065】
印字検出部24は、印字部12の印字結果を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
【0066】
本例の印字検出部24は、少なくとも各ヘッド12S,12K,12C,12M,12Yによる処理液及びインクの吐出幅(印字可能幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列と、からなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0067】
印字検出部24は、各ヘッド12S,12K,12C,12M,12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッド12S,12K,12C,12M,12Yの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定などで構成される。
【0068】
印字検出部24の後段(紙送り方向下流側)には、記録媒体16上に残留する(反応せずに残っている)処理液及び、記録媒体16上に残留するインク溶媒を除去する液体除去部25が配置されている。なお、液体除去部25の詳細は後述する。
【0069】
液体除去部25の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、記録媒体16を乾燥させると共に画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0070】
多孔質のペーパーに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパーの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
【0071】
こうして生成されたプリント物は排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り替える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成される。
【0072】
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
【0073】
〔液体除去部の説明〕
次に、図3を用いて、液体除去部25について詳述する。図3は、液体除去部25の構成を示す要部構成図である。
【0074】
図3に示すように、液体除去部25は、紙送り方向と略直交する方向に記録媒体16の幅方向に対応する長さ(記録媒体16の全幅と略同一長さ又はそれ以上の長さ)を有する吸収ロール100と、吸収ロール100の両端部に連結される支持部材101を介して吸収ロール100を支持し、吸収ロール100と記録媒体16との距離を可変させるよう(吸収ロール100を記録媒体16の記録面と略垂直方向に移動させるように)に駆動源102によって駆動される押圧アーム104と、吸収ロール100に吸収(吸収ロール内に収容)されている液体をチューブ106を介して吸引する吸引装置(ポンプ)108と、吸引装置108によって吸収ロール100から吸引された液体を受容する液体受け110と、吸収ロール100に当接して吸収ロール100の表面に付着するインク色材や異物、吸収ロール100の表面に付着した液体や固形物(異物)を除去するクリーニングロール112と、を備えている。
【0075】
吸収ロール100は、記録媒体16上の液体と接触する接液部100Aがφ100μmの多数の穴(吸引孔)を持つ金属パイプで構成され、吸引装置108から負圧を発生させることで記録媒体16上の液体が吸引除去される。このようにして記録媒体16上の液体を吸引除去する態様では、吸引装置108によって発生される負圧を可変させて吸水能力(例えば、単位時間あたりに吸収ロール100によって除去される液体の量)が制御される。なお、接液部100Aを親水性多孔質部材、不織布、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン系材料などの液体吸収性に優れた部材によって構成し、記録媒体16上の液体(主としてインク溶媒と処理液溶媒)を毛細管力によって接液部100Aに吸収除去する態様もある。但し、吸収ロール100の接液部100Aに親水性多孔質部材などを適用する場合には、吸水能力(吸引力)に留意する必要がある。吸水能力の大きいものを選択すると、この吸水能力に負けて、液の流れによって記録媒体16からインク色材がはがれてしまい、吸収ロール100の接液部100Aに付着してしまう懸念がある。したがって、吸収ロール100の接液部100Aは、非吸水性部材或いは弱吸水性部材とし、外部に接続されたポンプ等により吸収能力を細かくコントロールできることが好ましい。
【0076】
また、吸収ロール100は中空構造を有し、該中空部分はチューブ106を介して吸引装置108につながれる。この吸引装置108を動作させて該中空部分に所定の負圧を発生させることで吸収ロール100によって記録媒体16上から吸収除去された液体が液体受け110に排出される。
【0077】
更に、吸収ロール100は、不図示の回動機構により支持部材101を回動軸として回動自在に構成されている。即ち、液体除去実行時には、吸収ロール100を記録媒体16上の液体(或いは記録媒体16)に接触させるとともに、吸収ロール100を回動させる。
【0078】
吸収ロール100の記録媒体16の厚み方向の位置を可変させる押圧アーム104を駆動する駆動源102には、ステッピングモータやサーボモータなどの位置制御(回転量制御)可能なモータ(モーションアクチュエータ)が好適に用いられる。この駆動源102に与える駆動信号を管理して押圧アーム104の移動量を制御し、吸収ロール100と記録媒体16との距離(クリアランス)を可変させることができる。例えば、記録媒体16の厚みが変わると、押圧アーム104を動作させて吸収ロール100を記録媒体16の厚み方向に移動させる。このようにして、吸収ロール100と記録媒体16の画像形成面との距離(又は、吸収ロール100の記録媒体16に対する押圧)を一定に保つように押圧アーム104が制御される。
【0079】
クリーニングロール112は、記録媒体16の幅方向に吸収ロール100と略同一長さを有し、その両端部は支持部材114を介して押圧アーム104に支持される。吸収ロール100の接液部100Aに多孔質部材などを用いる場合には、クリーニングロール112は接液部100Aよりも浸透性のよい部材(吸水能力が高い部材)が用いられる。
【0080】
クリーニングロール112は不図示の移動機構によって、吸収ロール100と接触するクリーニング位置と、吸収ロール100に接触しない非接触状態となる退避位置と、の間を移動可能に構成されている。吸収ロール100のクリーニング実行時にはクリーニングロール112をクリーニング位置に移動させ、吸収ロール100のクリーニング非実行時には、クリーニングロール112を退避位置に移動させる。また、クリーニングロール112は支持部材114を回動軸として回動 (従動)可能に構成されている。
【0081】
なお、クリーニングロールに代わりブレード状の部材を用い、該ブレードを接液部100Aに摺動させて接液部100Aの表面に付着した液体やインク色材などの固体を除去してもよい。また、吸収ロール100の接液部100Aを吸収部材で構成する態様では、吸収ロール100(特に、接液部100A)に含まれる水分量を検出する水分計を備える態様が好ましい。この水分計により検出された水分量をメモリなどの記憶媒体に記憶するように構成し、該メモリに記憶されている水分量に基づいて、吸収ロール100のクリーニング時期や交換時期を予測することができる。
【0082】
また、吸収ロール100の紙送り方向上流側には、記録媒体16の厚みを検出する厚みセンサ120と、記録媒体16の表面性を検出する表面性センサ122と、を備えている。この厚みセンサ120及び表面性センサ122は、図1のメディア検出部19に含まれる。厚みセンサ120及び表面性センサ122によって記録媒体16の厚みや表面性(記録媒体16表面の平滑性)を検出する方法には公知の技術を適用することができる。例えば、記録媒体16の表面性の判断では、記録媒体16に光を照射する発光部と、この反射光を受光する受光部と、を有するセンサを用い、受光部で検出された光量や波長などの情報から記録媒体16の表面性を判断する態様がある。
【0083】
〔ヘッドの構造〕
次に、ヘッド12S,12K,12C,12M,12Yの構造について説明する。ヘッド12S,12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
【0084】
図4(a) はヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図4(b) はその一部の拡大図である。また、図4(c) はヘッド50の他の構造例を示す平面透視図、図4はインク室ユニットの立体的構成を示す断面図(図4(a),(b) 中の5−5線に沿う断面図)である。記録紙面上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド50は、図4(a) 〜(c) 及び図4に示したように、インク滴が吐出するノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット53を千鳥でマトリックス状に配置させた構造を有し、これにより見かけ上のノズルピッチの高密度化を達成している。
【0085】
即ち、本実施形態におけるヘッド50は、図4(a),(b) に示すように、インクを吐出する複数のノズル51が紙送り方向と略直交する方向に記録媒体16の全幅(印字可能幅)に対応する長さにわたって配列された1列以上のノズル列を有するフルラインヘッドである。
【0086】
また、図4(c) に示すように、短尺の2次元に配列されたヘッド50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせて、被記録媒体の全幅に対応する長さとしてもよい。
【0087】
なお、処理液は、記録媒体16上においてインクが打滴される領域に略一様(略均一)に付着させればよいため、インクに比べると高密度ドット形成は要求されない。したがって、処理液吐出ヘッド12Sはインク吐出用のヘッド50(12K,12C,12M,12Y)に比べて、ノズル数を少なく(ノズル密度を低く)した構成も可能である。また、処理液吐出ヘッド12Sのノズル径をインク吐出用のヘッド50のノズル径よりも大きくする構成も可能である。
【0088】
図5に示すように、各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル51と供給口54が設けられている。各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。
【0089】
圧力室52の天面を構成している加圧板(振動板)56には個別電極57を備えた圧電素子(圧電アクチュエータ)58が接合されている。加圧板56と兼用される共通電極と個別電極57との間に駆動信号を印加することによって圧電素子58が変形して圧力室52の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル51からインクが吐出される。インク吐出後、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。また、図5に示すインク室ユニット53の構造はあくまでも一例であり、もちろん他の構造を適用してもよい。
【0090】
かかる構造を有するインク室ユニット53は、図4(a),(b) に示す如く、ヘッド50の長手方向である主走査方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜め方向に沿って一定の配列パターンで格子状に配列させた構造になっている。主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd×cosθとなる。
【0091】
即ち、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ、2400dpi)におよぶ高密度のノズルを実現することが可能になる。以下、説明の便宜上、主走査方向に沿って各ノズル51が一定の間隔(ピッチP)で直線状に配列しているものとして説明する。ここで、図4(a),(b) に示す主走査方向は、図3に示すセンサ走査方向と略平行方向となっており、図4(a) に示す副走査方向は、図3に示す紙送り方向と略平行方向となっている。
【0092】
なお、本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。また、本実施形態ではピエゾ素子に代表される圧電素子58の変形によってインク滴を飛ばす方法が採用されているが、本発明の実施に際してインクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインクを飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。
【0093】
〔インク供給系及び処理液供給系 (供給系)の説明〕
次に、本インクジェット記録装置10の処理液供給系及びインク供給系について説明する。なお、本例では、処理液供給系とインク供給系は同一の基本構成を有しており、図6に示すインク供給系を用いて説明する。以降、処理液供給系とインク供給系とを総称して供給系と記載することがある。
【0094】
図6には、本インクジェット記録装置10に備えられるインク供給系の構成を示す。なお、図6に示すインク供給系は、図1で説明した貯蔵/装填部14に相当する。
【0095】
図6に示すインク供給系には、インク (処理液)を供給するための基タンクであるインク供給タンク (処理液供給タンク)60が設置される。インク供給タンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に、不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。
【0096】
また、インク供給タンク60のインクは、異物や気泡を除去するためにフィルタ62、所定の管路 (不図示)を介してヘッド50に供給される。フィルタ62のフィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。
【0097】
なお、図6には示さないが、ヘッド50の近傍又はヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクはヘッド50の内圧変動を防止するダンパ効果及びリフィルを改善する機能を有する。
【0098】
また、インクジェット記録装置10には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク及び処理液の粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64と、ノズル面の清掃手段としてのクリーニングブレード66とが設けられている。
【0099】
これらキャップ64及びクリーニングブレード66を含むメンテナンスユニットは、不図示の移動機構によってヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置からヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
【0100】
該キャップは、図示せぬ昇降機構によってヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、ヘッド50に密着させることにより、ノズル面をキャップで覆う。
【0101】
印字中又は待機中において、特定のノズル51の使用頻度が低くなり、ある時間以上インク及び処理液が吐出されない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒及び処理液溶媒が蒸発してインク粘度及び処理液粘度が高くなってしまう。このような状態になると、圧電素子58が動作してもノズル51からインク及び処理液を吐出できなくなってしまう。
【0102】
このような状態になる前に(即ち、圧電素子58の動作により吐出が可能な粘度の範囲内で)圧電素子58を動作させ、その劣化インク及び劣化処理液(粘度が上昇したノズル近傍のインク、処理液)を排出すべくキャップに向かって予備吐出(パージ、空吐出、つば吐き、ダミー吐出)が行われる。
【0103】
また、ヘッド50内のインク(圧力室52内)に気泡が混入した場合、圧電素子58が動作してもノズルからインクを吐出させることができなくなる。このような場合にはヘッド50に前記キャップを当て、吸引ポンプ67で圧力室52内のインクS(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク68へ送液する。
【0104】
この吸引動作は、初期のインクのヘッドへの装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。なお、吸引動作は圧力室52内のインク及び処理液全体に対して行われるので、インク消費量が大きくなる。したがって、インクの粘度上昇が小さい場合には予備吐出を行う態様が好ましい。
【0105】
クリーニングブレード66は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構(ワイパー)によりヘッド50のインク吐出面(ノズル板表面)に摺動可能である。ノズル板にインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード66をノズ
ル板に摺動させることでノズル板表面を拭き取り、ノズル板表面を清浄する。なお、該ブレード機構によりインク吐出面の汚れを清掃した際に、該ブレードによってノズル51内に異物が混入することを防止するために予備吐出が行われる。
【0106】
〔制御系の説明〕
図7はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェイス70、システムコントローラ72、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84、押圧制御部85、吸引制御部87等を備えている。
【0107】
通信インターフェイス70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェイス部である。通信インターフェイス70にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェイスやセントロニクスなどのパラレルインターフェイスを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェイス70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦メモリ74に記憶される。
【0108】
メモリ74は、通信インターフェイス70を介して入力された画像を一旦記憶する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0109】
システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システムコントローラ72は、通信インターフェイス70、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、押圧制御部85等の各部を制御し、ホストコンピュータ86との間の通信制御、メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89及びを制御する制御信号を生成する。
【0110】
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示にしたがってモータ88を駆動するドライバである。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって加熱ファン40等のヒータ89を駆動するドライバである。
【0111】
なお、図7にはモータ88を1つだけ図示したが、実際には、吸着ベルト搬送部22の駆動モータ(不図示)や吸収ロール100の回動機構、移動機構のモータ(不図示)など、複数のモータ (モーションアクチュエータ)が含まれている。また、複数のモータ88を制御するモータドライバ76は各モータに対応して複数設けられる。もちろん、複数のモータドライバの一部又は全部を集積化して構成してもよい。
【0112】
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データをヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、ヘッドドライバ84を介してヘッド50のインク液滴及び処理液の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。
【0113】
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図7において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0114】
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて駆動信号を生成し、この駆動信号によって各ヘッド12S,12K,12C,12M,12Yの圧電素子を駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0115】
また、押圧制御部85は、システムコントローラ72から送られる指令信号に基づいて駆動信号(パルス信号)を生成し、この駆動信号によって押圧アーム104の駆動源102を駆動する。即ち、駆動源102にステッピングモータやサーボモータなどの位置制御型モータを適用し、押圧アーム104の移動量は該パルス信号のパルス数(駆動信号の移動量情報)で管理される。
【0116】
印刷すべき画像のデータは、通信インターフェイス70を介して外部(例えば、ホストコンピュータ86)から入力され、メモリ74に蓄えられる。この段階では、RGBの画像データがメモリ74に記憶される。
【0117】
メモリ74に蓄えられた画像データは、システムコントローラ72を介してプリント制御部80に送られ、該プリント制御部80においてインク色ごとのドットデータに変換される。即ち、プリント制御部80は、入力されたRGB画像データをKCMYの4色のドットデータに変換する処理を行う。プリント制御部80で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ82に蓄えられる。
【0118】
本例では、システムコントローラ72に付随する記憶部としてメモリ74を示したが、メモリ74は複数のメモリ(記憶媒体)から構成されていてもよい。また、システムコントローラ72にメモリが内蔵されていてもよい。なお、メモリ74に記憶される情報には、上述したRGB画像データ以外にも、各種設定情報、システムパラメータ、条件判断に用いられるしきい値テーブル、各種データテーブルや各種補正に用いられる補正係数などが含まれていてもよい。
【0119】
吸引制御部87は、システムコントローラ72の制御信号に基づいて、吸引装置108のオンオフ、回転数、回転周波数などの制御を行う。吸引制御部87を介して吸引装置108の駆動力を制御して、図3に示す吸収ロール100の吸水能力を可変させる。
【0120】
プログラム格納部90には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ72の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。プログラム格納部90はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェイスを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの記録媒体のうち複数の記録媒体を備えてもよい。
【0121】
なお、プログラム格納部90は動作パラメータ(システムパラメータ)等の不図示の記録手段(メモリ)と兼用してもよい。
【0122】
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録媒体16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って吐出状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。
【0123】
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいてヘッド50に対する各種補正を行う。
【0124】
本インクジェット記録装置10は、ヘッド50や印字領域にある記録媒体16の周囲温度及び周囲湿度を検出する温度検出部92、湿度検出部94を備えており、温度検出部92によって検出された温度(温度情報)を表す温度信号及び湿度検出部94によって検出された湿度 (湿度情報)を表す湿度信号は、システムコントローラ72に送られる。システムコントローラ72では、この温度信号及び湿度信号に基づいて所望の(設定された)温度及び湿度が維持されるようにヒータ89に示すヒータ類(加熱媒体)や不図示の冷却ファン(冷却媒体)などの温度可変手段を制御する。
【0125】
また、本インクジェット記録装置10は、使用するメディアの種類を判定するメディア判定部96を備え、メディア判定部96で判定されたメディアの種類に応じて、吸収ロール100と記録媒体16との距離、吸引装置108の吸引力、処理液及びインクの吐出制御、ヘッド50の温度制御、湿度制御などの各種制御が行われる。即ち、メディア判定部96によって判定されたメディア種類情報がシステムコントローラ72に送られると、システムコントローラ72ではこのメディア種類情報に基づいて各部を制御するように構成されている。
【0126】
メディア判定部96によってメディアの種類を判定する態様は、キーボードやタッチパネルなどのユーザインターフェイス(マンマシンインターフェイス)を介してオペレータが所望の記録媒体の種類を入力してもよいし、記録媒体16のマガジンやトレイに取り付けられた紙の種類情報が記録されたバーコード或いは無線タグなどの情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別してもよい。
【0127】
一方、インクジェット記録装置10は、メディア検出部19を用いて使用する記録媒体16の種類を直接検出し、その検出結果からメディア種を判定することが可能である。メディア検出部19に含まれる厚みセンサ120及び表面性センサから得られた記録媒体16の厚み情報や記録媒体16の表面性情報はシステムコントローラ72に送られる。システムコントローラ72では、この記録媒体16の厚み情報や表面性情報に基づいて、例えば、図3に示す吸収ロール100と記録媒体16との距離などが制御される。
【0128】
〔吸収ロールの表面性の説明〕
次に、インクジェット記録装置10の液体除去部25に用いられる吸収ロール100の表面性について説明する。本例に示す2液系のインクジェット記録装置では、記録媒体16上においてインクと処理液とを反応させて、インクに含まれるインク色材を不溶化或いは凝集し、記録媒体16上にインク色材を定着させてドットが形成される。
【0129】
また、記録媒体上に残留するインク溶媒のうち所定量以上のインク溶媒が記録媒体16に浸透すると記録媒体16にコックリングが発生する恐れがあるので、記録媒体16上のインク溶媒は液体除去部25によって所定の時間内に除去される。
【0130】
このインク溶媒を除去する際にインク色材が吸収ロール100に接触すると吸収ロール100の表面にインク色材が付着してしまうことがあり、記録媒体16上に形成された画像からインク色材の一部を取り除いてしまうことで、濃度の低下などの画像品質を低下させてしまう恐れがある。また、吸収ロール100に付着したインク色材が他の画像 (他の画像が形成される記録媒体)に付着すると、該他の画像の品質低下や該他の画像が形成される記録媒体を汚すなどの不具合が生じてしまう。
【0131】
本例に示すインクジェット記録装置10では、吸収ロール100と記録媒体16が接触しても吸収ロール100にインク色材が付着しないように(吸収ロール100にインク色材が付着してもその付着量が許容できる範囲であるように)、吸収ロール100と記録媒体16の相対的な表面性が規定されている。なお、本例では、上述した表面性として、表面粗さ、表面自由エネルギー、接触するインクの接触角(以後、単に接触角と記載)が規定されている。
【0132】
図8には、吸収ロール100と記録媒体16 (メディア) の表面粗さと、関係を示し、図9及び図10には、それぞれ吸収ロール100記録媒体16との表面自由エネルギー、接触角の関係を示す。図8〜図10に示す吸収ロール100と記録媒体16との表面性の関係は以下のような実験にて求められたものである。その、実験の概要を図11に示す。
【0133】
図11(a) に示すように、金属板(SUS)200の表面性を規定したインク付着面202の予め処理液を付着させた範囲に所定量のインク204を付着させる。その後、図11(b) に示すように、インク204を付着させた金属板200のインク付着面202に、金属板(SUS)210の表面性を規定した面212を接触させて、所定の圧力で加圧する。なお、図11(a) には処理液を付着させた範囲を図示しないが、この範囲は金属板200のインク付着面202の全面でもよいし、その一部でもよい。
【0134】
所定時間経過後、図11(c) に示すように、金属板200と金属板210とをはく離して、金属板200のインク付着面202及び金属板210の面212へのインク204が付着する様子を目視で確認する。図11(c) に破線で示す符号214は、金属板210の面212へ付着したインクを示す。
【0135】
金属板200,210に規定される表面性には、表面粗さ、表面自由エネルギー、接触角が適用される。各面の表面粗さを変える態様には、サンドブラスト等により金属板200のインク付着面202及び金属板210の面212をあらしてそれぞれの面の表面粗さを変える方法が用いられる。
【0136】
また、表面自由エネルギーは物質の組成や物質の表面性、温度や湿度などの環境条件によって変わり、各面の接触角を変える態様には、各面への撥液剤の塗布(撥水処理)及び酸素プラズマ等による各面への酸化膜の形成(親水処理)が適用される。
【0137】
ここで、本実験における金属板200は記録媒体16に相当し、金属板200のインク付着面202は記録媒体16の画像形成面に相当する。また、金属板210の面212は吸収ロール100の接液部100Aに相当する。
【0138】
図8には、金属板200のインク付着面202及び金属板210の面212の表面粗さ(単位、μm)を4段階(3.00, 1.73,0.99,0.09)に変えた場合の実験結果を示す。図8中、○は金属板210に付着するインク214が視認できない、或いは金属板210にインク214がわずかに(許容できる範囲のインク214が)視認できることを示し、△は、金属板200に付着するインク204の量と金属板210に付着するインク214の量が略同一であることを示す。また、×は金属板200に付着するインク204の量よりも金属板210に付着するインク214の量の方が多いことを示している。
【0139】
図8に示すように、例えば、金属板200の表面粗さが1.73μm、金属板210の表面粗さが3.00μmの場合(即ち、金属板200の表面粗さが金属板210の表面粗さよりも小さい場合)には、金属板210にインクが付着していないか或いは金属板210に付着するインク214の量は微量(許容される範囲のインク量)であることがわかる。
【0140】
例えば、金属板200及び金属板210の表面粗さが3.00μmの場合(即ち、金属板200及び金属板210の表面粗さが略同一の場合)には、金属板200に付着するインク204の量と金属板210に付着するインク214の量は略同一であることがわかり、例えば、金属板200の表面粗さが3.00μm、金属板210の表面粗さが0.99μmの場合(即ち、金属板200の表面粗さが金属板210の表面粗さよりも大きい場合)には、金属板200に付着するインク204の量よりも金属板210に付着するインク214の量の方が多いことがわかる。
【0141】
上述した実験結果より、金属板200の表面粗さが金属板210の表面粗さに比べて小さい場合には、金属板200に付着したインクが金属板210に付着することがない或いは、付着しても許容可能なごく微量であり、これは、(記録媒体の表面粗さ)<(吸収ロールの表面粗さ)の関係を満たす記録媒体16及び吸収ロール100を用いると、吸収ロール100が記録媒体16上のインクに接触しても吸収ロール100にはインクが付着しないこと或いは、吸収ロール100に付着するインク量が微量であり、問題にならないことを示している。
【0142】
更に好ましくは、例えば、金属板200の表面粗さが0.99、金属板210の表面粗さが3.00のように、(記録媒体の表面粗さ)×2<(吸収ロールの表面粗さ)の関係を満たす記録媒体16及び吸収ロール100を用いる態様である。
【0143】
また、図9には、金属板200のインク付着面202及び金属板210の面212の表面自由エネルギー(単位、mJ/m)を変えた場合の実験結果を示す。図9中、判定欄の記号○、△、×は図8と同じ意味を表している。なお、図9には、Owens-Wendt の方法で測定した単位面積当たりの表面自由エネルギーを示し、図9には、4種類(3.00, 1.73,0.99,0.09)の表面粗さのそれぞれについての実験結果を示す。
【0144】
図9に示すように、表面粗さにかかわらず、金属板200の表面自由エネルギーが金属板210の表面自由エネルギーに比べて小さい場合(金属板200の表面自由エネルギーが37.6、金属板210の表面自由エネルギーが16.4の場合)には、金属板200に付着したインクが金属板210に付着することがなく、これは、(記録媒体の表面自由エネルギー)>(吸収ロール100の表面自由エネルギー)の関係を満たす記録媒体16及び吸収ロール100を用いると、吸収ロール100が記録媒体16上のインクに接触しても吸収ロール100にはインクが付着しないこと或いは、吸収ロール100に付着するインク量が微量であり、問題にならないことを示している。
【0145】
更に好ましくは、(記録媒体の表面自由エネルギー)/2>(吸収ロールの表面自由エネルギー)の関係を満たす記録媒体16及び吸収ロール100を用いる態様である。
【0146】
図10には、金属板200のインク付着面202及び金属板210の面212の接触角 (単位、度)を変えた場合の実験結果を示す。なお、図10中、判定欄の記号○、△、×は図8と同じ意味を表している。
【0147】
図10に示すように、金属板200接触角が略70度から略90度(中)、金属板210の接触角が略100度から略120度(大)の場合及び、金属板200接触角が略10度から略40度(小)、金属板210の接触角が略100度から略120度(大)の場合には、金属板200に付着するインク204の量よりも金属板210に付着するインク214の量が多くなっている。また、金属板200の接触角が略10度から略40度(小)、金属板210の接触角が略70度から略90度(中)の場合には、金属板200に付着するインク204の量と金属板210に付着するインク214の量は略同一である。
【0148】
更に、金属板200の接触角が略70度から略90度(中)、金属板210の接触角が略10度から略40度(小)の場合には、金属板210に付着するインク214がないか或いは、金属板210に付着するインク214の量は微量(許容される範囲のインク量)である。即ち、金属板200の接触角に比べて金属板210の接触角が大きい場合には、金属板200に付着したインクが金属板210に付着することがない或いは、付着しても許容されるごく微量であり、これは、(記録媒体の接触角)>(吸収ロールの接触角)の関係を満たす記録媒体16及び吸収ロール100を用いると、吸収ロール100が記録媒体16上のインクに接触しても吸収ロール100にはインクが付着しない或いは、吸収ロール100に付着するインク量が微量であり、問題にならないことを示している。このような条件を満たす記録媒体16と吸収ロール100の接触角の一例を挙げると、アート紙(接触角80度)に対しては、吸収ロール100の接触角を15〜60度にすると特に効果があることが実験により判明している。
【0149】
更に好ましくは、(記録媒体の接触角)/2>(吸収ロールの接触角)の関係を満たす記録媒体16及び吸収ロール100を用いる態様である。
【0150】
上述した実験結果をまとめると、吸収ロール100の接液部100Aの表面性として、「表面粗さが記録媒体よりも粗い」、「表面自由エネルギーが記録媒体よりも小さい」、「接触角が記録媒体よりも小さい」、「上記の条件のうち何れかの組み合わせ」の特性を有している。このような特性を吸収ロール100に持たせることで、記録媒体16にインク色材が付着しやすく、且つ、吸収ロール100にはインク色材が付着しにくくなるので、記録媒体16上に形成されるインク (画像)に吸収ロール100が接触しても、記録媒体16上に形成される画像には品質低下が起こらない。
【0151】
なお、実際のインクジェット記録装置10では、吸収ロール100の吸水能力は図3に示す吸引装置108の吸引力により制御される。上述した実験では、該吸引装置108の吸引力に相当する外力は付加していないが、この吸引装置108の吸引力は記録媒体16上のインク色材のはく離を起こさない条件を満たすように適宜設定されればよい。
【0152】
また、上述した実験には1種類のインクを用いたが、記録媒体16に対する吸収ロール100の表面性の条件はインクの種類に依存しないので、インクの種類が変わったとしても上述した記録媒体16に対する吸収ロール100の表面性の条件を満たせばよい。
【0153】
上記の如く構成されたインクジェット記録装置10では、吸収ロール100の表面性が記録媒体16の表面性との相対関係で規定されるので、吸収ロール100へのインク色材の付着を軽減し、記録媒体16上の液体除去の効率向上、液体除去部25のメンテナンス低減を図ることができる。また、表面性の異なるメディアへの対応が可能になる。なお、ここでいう表面性とは、表面粗さ、表面自由エネルギー、接触角のうち少なくとも1つが含まれる。
【0154】
〔応用例〕
図12乃至図14を用いて、上述したインクジェット記録装置10の応用例を説明する。図12は、本応用例に係るインクジェット記録装置の概略構成図であり、図13は、図12に示すインクジェット記録装置の液体除去部25’の詳細を示す構成図である。また、図14はインクジェット記録装置の制御系の要部構成を示すブロック図(図7に対応する図)である。
【0155】
図12に示すインクジェット記録装置の概略構成は、図1に示すインクジェット記録装置10の概略構成と同一であり、ここでは、その説明を省略し、インクジェット記録装置10と図12に示すインクジェット記録装置との相違点について説明する。即ち、図12に示すインクジェット記録装置が有する液体除去部25’(図13に図示)は、インクジェット記録装置10が有する液体除去部25と異なる構成を有している。
【0156】
図13に、図12に示すインクジェット記録装置が有する液体除去部25’の構成を示す。図13に示すように、液体除去部25’は、表面性が異なる3つの吸収ロール300、302、304を有し、これらの吸収ロール300,302,304は選択機構308を用いて選択的に切り換えられる。ここでいう表面性とは、表面粗さ、表面自由エネルギー、接触角のうち少なくとも1つが含まれている。また、吸収ロール300,302,304はそれぞれ使用頻度の高い記録媒体に対応している。
【0157】
図13には、駆動源(モータ)310によって3つの吸収ロール300,302,304の一方の端部を支持する支持板312を回動させることで、各吸収ロール300,302,304を選択する選択機構308を示したが、選択機構308の構成はこれに限定されず、他の構成を適用してもよい。
【0158】
また、液体除去部25’は吸収ロール300,302,304を上下させる上下機構314を備えている。この上下機構314は、偏心カム316と、偏心カム316の駆動源たるモータ318と、偏心カム316の回動に応じてレール320に摺動して上下に移動するガイド部材322と、を備え、該上下機構314は付勢部材324によって図13の上方向(記録媒体16が置かれる方向と反対方向)に付勢されている。即ち、図13に示す構成によれば、モータ318を回動させて偏心カム316を回動させ、ガイド部材322を押し下げることで吸収ロール300,302,304のうち選択された吸収ロールがオンの状態となる。
【0159】
図14に示すシステムコントローラ72は、吸収ロール選択制御部400へ吸収ロール300,302,304の選択信号を送り、吸収ロール選択制御部400は吸収ロール300,302,304の中から記録媒体16の種類に応じた吸収ロールを選択するように駆動源310を制御する。
【0160】
このようにして、記録媒体16の種類に応じた吸収ロールが選択されると、システムコントローラ72は押圧制御部85を介してモータ318を制御して、吸収ロールのオンオフが制御される。なお、記録媒体16の種類を検出する態様には、メディア判定部96によりプリセットされたメディア情報を用いてもよいし、表面性センサ122の検出結果に応じて記録媒体16の種類を判断してもよい。
【0161】
なお、本例では、該記録媒体16及び記録媒体16上のインクに接触する吸収ロール100の表面性について説明したが、本発明は、吸収ロール100以外の部材にも適用可能である。例えば、図1に示すベルト清掃部36において、ベルト33に付着したインクを接触除去する清掃部材の表面性とベルト33の表面性との相対関係を、該清掃部材にインクが付着しやすいように規定してもよい。
【0162】
また、図3に示すクリーニングロール112の表面性と吸収ロール100の表面性との相対関係を、クリーニングロール112にインク(汚れ)が付着しやすいように規定してもよい。
【0163】
〔他の実施形態〕
上述した実施形態では、印字部12の最上流に1つの処理液吐出ヘッド12Sを配置したが(図1参照)、本発明の実施に際して、処理液吐出ヘッドの配置はこの例に限定されず、印字部12における各色ヘッド間の少なくとも1箇所に処理液吐出ヘッドを付加する構成も可能である。
【0164】
また、上述した実施形態では、処理液を付与する手段としてインクジェット方式による吐出ヘッドを用いたが、これに代えて、又はこれと併用して、ローラ、刷毛、ブレードなどの部材を用いて記録媒体16上に処理液を塗布する手段を用いることも可能である。
【0165】
上記実施形態では、1種類の処理液を吐出させる処理液吐出ヘッド12Sを示したが、処理液吐出ヘッド12Sを複数のヘッドから構成してもよいし、2種類以上の処理液を選択的に吐出可能な構成を有していてもよい。
【0166】
上記実施形態では、記録媒体16の全幅に対応する長さのノズル列を有するページワイドのフルライン型ヘッドを用いたインクジェット記録装置を説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、短尺の記録ヘッドを往復移動させながら画像記録を行うシャトルヘッドを用いるインクジェット記録装置についても本発明を適用可能である。
【0167】
上記実施形態では、長手方向に記録媒体16の幅に対応する長さを有する吸収ロール100(300,302,304)を示したが、吸収ロール100(300,302,304)はその長手方向に分割される構造を有し、分割された吸収ロール100(300,302,304)ごとに独立して溶媒除去を可能に構成してもよい。記録媒体16上の溶媒分布に応じて吸収ロール100(300,302,304)を細かく制御可能であると共に、吸収ロール100(300,302,304)のメンテナンス性の向上が見込まれる。
【0168】
上記実施形態では印字ヘッドに備えられるノズルからインクを吐出させて、記録媒体16上に画像を形成するインクジェット記録装置を示したが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、レジストなどインク以外の液体で画像(立体形状)を形成する画像形成装置や、ノズル(吐出孔)から薬液、水などを吐出されるディスペンサ等の液体吐出装置などにも広く適用可能である。
【符号の説明】
【0169】
10…インクジェット記録装置、16…記録媒体、22…吸着ベルト搬送部、25…液体除去部、72…システムコントローラ、74…メモリ、80…プリント制御部、85…押圧制御部、87…吸引制御部、90…プログラム格納部、96…メディア判定部、100,300,302,304…吸収ロール、104…押圧アーム、108…吸引装置、308…選択機構、314…上下機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に色材を含む液体を吐出させて所望の画像を形成する吐出ヘッドと、
前記液体と反応して、前記液体を色材と溶媒に分離させる処理液を前記記録媒体に付与する処理液付与手段と、
前記記録媒体と前記吐出ヘッドとを相対的に搬送させる搬送手段と、
前記吐出ヘッドを基準とする前記記録媒体の搬送方向下流側に設けられ、表面に穴が設けられた構造を有し、前記記録媒体上において色材と溶媒に分離させた前記液体に表面を接触させて、前記穴を介して前記溶媒を除去し、表面の表面自由エネルギーが前記記録媒体の表面自由エネルギーよりも小さい条件を満たし、かつ、前記表面の表面自由エネルギーが異なる複数の液体除去部材を具備する液体除去手段と、
前記複数の液体除去部材のうち、前記記録媒体上の液体に接触させる液体除去部材を選択的に切り換える切換手段と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記記録媒体の種類を判断する記録媒体判断手段と、
前記記録媒体判断手段の判断結果に基づいて前記切換手段を制御する切換制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記液体除去部材の表面に設けられる穴は、前記溶媒を通過させつつ前記色材を通過させない大きさを有する貫通穴であり、
前記液体除去部材は、前記貫通穴を介して前記溶媒を吸収することを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記液体除去部材は、表面が金属又は多孔質体により構成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記液体除去部材は、中空構造を有し、
前記液体除去部材の表面から中空部へ液体を吸引する吸引手段を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
記録媒体に色材を含むインクを吐出させて所望の画像を形成する吐出ヘッドと、
前記記録媒体と前記吐出ヘッドとを相対的に搬送させる搬送手段と、
前記吐出ヘッドを基準とする前記記録媒体の搬送方向下流側に設けられ、表面に穴が設けられた構造を有し、前記記録媒体上において色材と溶媒に分離させた前記インクに表面を接触させて、前記穴を介して前記溶媒を除去し、表面の表面自由エネルギーが前記記録媒体の表面自由エネルギーよりも小さい条件を満たし、かつ、前記表面の表面自由エネルギーが異なる複数の液体除去部材を具備する液体除去手段と、
前記複数の液体除去部材のうち、前記記録媒体上のインクに接触させる液体除去部材を選択的に切り換える切換手段と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記記録媒体の種類を判断する記録媒体判断手段と、
前記記録媒体判断手段の判断結果に基づいて前記切換手段を制御する切換制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記処理液付与手段は、前記処理液を吐出させる処理液吐出ヘッドを備えたことを特徴とする請求項6又は7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記液体除去部材の表面に設けられる穴は、前記溶媒を通過させつつ前記色材を通過させない大きさを有する貫通穴であり、
前記液体除去部材は、前記貫通穴を介して前記溶媒を吸収することを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記液体除去部材は、表面が金属又は多孔質体により構成されることを特徴とする請求項6から9のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記液体除去部材は、中空構造を有し、
前記液体除去部材の表面から中空部へ液体を吸引する吸引手段を備えたことを特徴とする請求項6から10のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−245865(P2011−245865A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139696(P2011−139696)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【分割の表示】特願2006−92315(P2006−92315)の分割
【原出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】