説明

画像形成装置及び方法

【課題】着弾干渉を回避するとともに、メディア上の溶媒を確実かつ迅速に除去することができる画像形成装置及び方法を提供する。
【解決手段】本発明による画像形成装置は、カチオンポリマー及び色材凝集剤を含有する処理液(110)を記録媒体(16)に付着させる処理液付着手段(11)と、前記色材凝集剤との反応によって凝集する色材を含有し、かつアニオン性を有するインク液(120)を液滴として吐出するインク液吐出手段(50)と、記録媒体(16)上に付着させた処理液とインク液との混合によって2液の液界面で膜(124)を形成する第1の反応及び前記膜(124)の形成後に当該インク液中の色材の凝集物(126)を形成する第2の反応を経て色材の凝集物(126)と溶媒(134)とが分離された状態で記録媒体(16)上の溶媒(134)を吸収する溶媒吸収手段(15)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像形成装置及び方法に係り、特にノズルから液滴を吐出して記録媒体上に画像を形成するインクジェット記録装置などに好適な画像形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の画像形成装置は、印字ヘッドのノズルからインク滴を吐出して記録紙などの記録媒体(メディア)上にインクを付着させ、その付着インクのドットにより文字や画像(以下、これらを包括して「画像」という。)の記録を行っている。
【0003】
特許文献1では、OHPシートに代表されるインク吸収性を持たない各種の非吸収性の記録面に対し、ビーディング(インクはじきと集合不良)、ブリーディング(色混じり不良)といった不良を発生させることなく、良好な画像を形成することを目的として、メディアの記録面を親水化処理するための液を付与する手段と、親水化処理された記録面にインクを高粘度化するための液を付与する手段とを備え、高粘度化液が付与された上にインクを吐出して画像を形成する構成が提案されている。
【0004】
染料や顔料などの着色剤(色材)を含むインクと、当該インクの組成物と反応する性質を有する組成物を含む反応液(処理液)とを用いる画像形成方法に関しては、上記特許文献1の他にも様々な提案がなされている(特許文献2〜6等)。
【0005】
特許文献2には、多数枚印字の場合の裏移りを防止するため、インク着色剤との離型性を有する表面を持つ溶媒吸収体をメディア上のインクに接触させて溶媒(印字後に記録媒体上に残存するインクの溶媒、特にインクの主成分である液体溶媒(一般に水))を吸収する構成が開示されている。また、同文献には、インク内の着色剤(染料や顔料)を凝集・析出させるための凝集助剤を用いてインク内の着色剤を粒子化し、着色剤と液体溶媒とが相分離した状態で溶媒吸収体を接触させることで溶媒のみを吸収する構成が開示されている。
【0006】
特許文献3では、多様な種類の記録紙においても良好な印字品位を確保するとともに、擦過性、耐水性、耐光性等の堅牢性に優れた記録画像を得ることも目的として、記録液(インク)中に含まれるポリマーの極性とは逆極性をもつポリマーを含有する溶液を、記録を行う前に記録媒体上に噴射し、この液滴が付着した部分に記録液を吐出して画像の記録を行うインクジェット記録方法が提案されている。
【0007】
更に、多価金属塩溶液を用いて色材を凝集させる技術も知られており(特許文献4〜6)、例えば、特許文献6には、インク液と反応液の打滴順序により、反応液の分量を変えることにより、良好な画像を得る方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−90596号公報
【特許文献2】特開2001−179959号公報
【特許文献3】特開平6−99576号公報
【特許文献4】特開平5−202328号公報
【特許文献5】特開平9−286940号公報
【特許文献6】特開平11−348255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1は、ビーディングとブリーディングを防止するために2種類の処理液を使用することを提案するものであって、メディア上に残る溶媒の処理(除去)に関する記述はない。一方、特許文献2はメディア上の溶媒を吸収除去する技術に関して記載されているものの、着弾干渉を回避する技術に関する記述はない。
【0009】
着弾干渉とは、着弾直後に記録媒体上の表面でインク液滴同士が合体することにより、本来の単独での液滴の形状が変形し、ドット形状が崩れてしまう現象である。他色インク間では、本来ドットが重ならない部分でもインクの色間の干渉が起こり混色が発生する。同色インク同士でも所望の(例えば、理想的な円形の)ドット形状でなくなるので画像劣化となる。着弾干渉は、互いに隣接するドットを短時間で(高速に)打滴する場合に特に問題となる。
【0010】
特許文献3〜6は、インク液や処理液(反応液)の組成に関する開示はあるものの、着弾干渉回避、色材と溶媒の分離、更には、分離された溶媒の処理に関する記述はない。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、着弾干渉を回避するとともに、メディア上の溶媒を確実かつ迅速に除去することができる画像形成装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1記載の発明に係る画像形成装置は、カチオンポリマー及び色材凝集剤を含有する処理液を記録媒体に付着させる処理液付着手段と、前記色材凝集剤との反応によって凝集する色材を含有し、かつアニオン性を有するインク液を液滴として吐出するインク液吐出手段と、前記処理液付着手段により前記記録媒体上に付着させた処理液と前記インク液吐出手段から吐出したインク液との混合によって2液の液界面で膜を形成する第1の反応及び前記膜の形成後に当該インク液中の色材の凝集物を形成する第2の反応を経て前記色材の凝集物と溶媒とが分離された状態で前記記録媒体上の前記溶媒を吸収する溶媒吸収手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、記録媒体上で処理液とインク液を混合させると、処理液中のカチオンポリマーとインク液中のアニオン性物質(アニオン基を有する色材やインク液に添加されたアニオンポリマーなど)とが化学反応を起こして液界面に膜が形成される(第1の反応)。この第1の反応で形成された膜によって、隣接ドットの合一化及び記録媒体上でのインクの移動が防止される。
【0014】
また、第1の反応後又はこれと並行して色材凝集剤による反応が進み、インク液中の色材が凝集して色材の凝集物が生成される(第2の反応)。色材の凝集物を作るための反応としては、pH変化によって顔料の分散状態を破壊する反応や、多価金属と色材(顔料又は染料)の反応によって凝集物を生成する反応などを利用できる。かかる反応を利用することで、色材を溶媒中に残すことなく確実に分離できる。
【0015】
こうして、記録媒体上のインク液滴内で色材凝集物と溶媒とが分離し、当該分離した状態で溶媒吸収手段によって溶媒を吸収する。このとき、ドットの周りには膜が形成されているため、溶媒吸収手段が溶媒を吸収する際に、色材が移動せず(溶媒吸収手段に色材が付着するのを防止することができ)、画像の乱れが発生しない。
【0016】
このように本発明によれば、2系統の反応を利用したことによって、着弾干渉を回避すると同時に、画像の乱れを防止しつつ記録媒体上の溶媒を確実かつ迅速に除去することができる。
【0017】
本発明における処理液付着手段には、例えば、インクジェット方式の吐出ヘッドを用いて処理液を液滴状に吐出する手段、ローラや刷毛、ブレード状の部材、多孔質部材などを用いて処理液を塗布する手段、処理液を噴霧状に噴射して付着させる手段、或いはこれらの適宜の組み合わせなどの態様がある。
【0018】
インク液吐出手段には、描画用の画像情報(印字データ)に基づいてインク液を吐出するインクジェット方式の吐出ヘッドが好適に用いられる。
【0019】
例えば、本発明の画像形成装置におけるインク液吐出ヘッドの構成例として、記録媒体の全幅に対応する長さにわたって複数のノズル(吐出口)を配列させたノズル列を有するフルライン型のインクジェットヘッドを用いることができる。この場合、記録媒体の全幅に対応する長さに満たないノズル列を有する比較的短尺の吐出ヘッドモジュールを複数個組み合わせ、これらを繋ぎ合わせることで全体として記録媒体の全幅に対応する長さのノズル列を構成する態様がある。
【0020】
フルライン型のインクジェットヘッドは、通常、記録媒体の相対的な送り方向(相対的搬送方向)と直交する方向に沿って配置されるが、搬送方向と直交する方向に対して、ある所定の角度を持たせた斜め方向に沿ってインクジェットヘッドを配置する態様もあり得る。
【0021】
また、カラー画像を形成する場合は、複数色のインク(記録液)の色別にフルライン型の記録ヘッドを配置してもよいし、1つの記録ヘッドから複数色のインクを吐出可能な構成としてもよい。
【0022】
記録媒体とインク液吐出ヘッドを相対的に移動させる搬送手段は、停止した(固定された)ヘッドに対して記録媒体を搬送する態様、停止した記録媒体に対してヘッドを移動させる態様、或いは、ヘッドと記録媒体の両方を移動させる態様の何れをも含む。
【0023】
「記録媒体」は、インク液吐出ヘッド(記録ヘッド)から吐出される液によって画像の記録を受ける媒体(印字媒体、被画像形成媒体、被記録媒体、受像媒体、メディアなど呼ばれ得るもの)であり、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フイルム、布、配線パターン等が形成されるプリント基板、中間転写媒体、その他材質や形状を問わず、様々な媒体を含む。
【0024】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の画像形成装置の一態様に係り、前記溶媒吸収手段は、表面が多孔質部材で構成されていることを特徴とする。
【0025】
分離された溶媒と接する溶媒吸収手段の表面を多孔質部材で構成することにより、記録媒体上の溶媒を毛細管現象により高速に吸収することができる。多孔質部材の形状は、特に限定されないが、ローラ状又はベルト状であることが好ましい。ローラ状又はベルト状の吸収部材は、記録媒体との相対速度が0となるように回動しながら、記録媒体上から溶媒を吸収することができるので、記録面と吸収部材との擦れによる画像劣化を防止することができる。
【0026】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の画像形成装置の一態様に係り、前記インク液吐出手段及び前記記録媒体のうち少なくとも一方を搬送して前記インク液吐出手段と前記記録媒体を相対的に移動させる搬送手段を備え、前記インク液吐出手段に対する前記記録媒体の相対移動方向の上流側から、前記処理液付着手段、前記インク液吐出手段、前記溶媒吸収手段の順に下流に向かって配置されており、前記搬送手段によって前記インク液吐出手段と前記記録媒体を所定の相対速度で移動させる場合に、前記インク液吐出手段より吐出されたインク液滴の着弾時から当該インク液滴の溶媒が前記溶媒吸収手段に接触するまでの時間が、前記第2の反応による前記色材と前記溶媒の分離が完了するまでの時間よりも長くなるように、前記インク液吐出手段と前記溶媒吸収手段とが所要の距離を隔てて配置されることを特徴とする。
【0027】
かかる態様によれば、色材と溶媒の分離反応が完了するまでの反応時間を確保すべく、インク液吐出手段と溶媒吸収手段の配置間隔及び搬送手段による搬送速度(相対移動速度)の条件が設定される。これにより、分離された溶媒を確実に除去することができ、滲み防止、色間ブリーディング防止、乾燥・定着の促進、コックリング(記録媒体に溶媒が浸透することによって生じる記録媒体面のうねり、波打ち、しわ)の防止等の効果を得ることができる。
【0028】
請求項4に係る発明は、請求項1、2又は3記載の画像形成装置の一態様に係り、前記処理液と前記インク液との反応によって、帯電した色材凝集物が生成され、前記溶媒吸収手段に当該色材凝集物と同極性の電圧を印加する電圧付与手段を備えたことを特徴とする。
【0029】
色材凝集物を正又は負に帯電させる手段としては、アニオン/カチオン反応の際に、色材凝集物表面にアニオン又はカチオン基が残るようインク液又は処理液の組成を調整する態様、或いは、色材の表面電位をpH調整剤によって制御する態様などがある。
【0030】
帯電させた色材凝集物と同極性の電圧を溶媒吸収手段に印加することで、静電反発力が作用するため、溶媒吸収手段が溶媒を吸収する際に、色材が溶媒吸収手段に付着するのを防止することができる。この結果、画像劣化を回避しつつ、記録媒体上の溶媒を確実かつ迅速に除去することができる。
【0031】
請求項5に係る発明は、請求項4記載の画像形成装置の一態様に係り、前記記録媒体の記録面と反対側の面から当該記録媒体を支持する媒体支持部材と、前記媒体支持部材に前記色材凝集物と逆極性の電圧を印加する電圧付与手段を備えたことを特徴とする。
【0032】
かかる態様によれば、帯電した色材凝集物は、逆極性の媒体支持部材側、すなわち媒体支持部材に支持されている記録媒体側に引き寄せられるので、色材凝集物の沈降促進、並びに、溶媒吸収手段への色材凝集物の移動(付着)抑制の効果をもたらす。これにより、画像劣化の回避効果及び溶媒の除去効果を一層高めることができる。なお、前記媒体支持部材は、記録媒体を搬送するための搬送手段で兼ねることができる。
【0033】
請求項6に係る発明は、前記目的を達成する方法発明を提供する。すなわち、請求項6記載の画像形成方法は、カチオンポリマー及び色材凝集剤を含有する処理液を記録媒体に付着させる処理液付着工程と、前記色材凝集剤との反応によって凝集する色材を含有し、かつアニオン性を有するインク液を液滴として吐出するインク液吐出工程と、前記処理液付着工程で前記記録媒体上に付着させた処理液と前記インク液吐出工程で吐出したインク液との混合によって2液の液界面で膜を形成する第1の反応及び前記膜の形成後に当該インク液中の色材の凝集物を形成する第2の反応を生じさせる反応工程と、前記反応工程を経て前記色材の凝集物と溶媒とが分離された状態で前記記録媒体上の前記溶媒を吸収部材によって吸収する溶媒除去工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、処理液とインク液の混合によって、液界面で膜を作る反応(第1の反応)と、色材凝集物を生成して溶媒と色材とを分離させる反応(第2の反応)と起こさせ、分離後の溶媒を吸収除去する構成にしたので、着弾干渉を防止することができると同時に、画像の乱れを防いで溶媒を効果的に除去することができる。これにより、良好な高速印刷を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0036】
〔第1の実施形態:インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は本発明の第1の実施形態に係る画像形成装置の一形態としてのインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示したように、このインクジェット記録装置10は、処理液を吐出するための処理液用ヘッド(処理液付着手段に相当)11と、黒(K),シアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y)の各色のインクを吐出するために各色に対応して設けられた複数の印字ヘッド(インク液吐出手段に相当)12K,12C,12M,12Yを有する印字部12と、処理液用ヘッド11に供給する処理液を貯蔵しておく処理液貯蔵/装填部13と、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに供給する色インクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、印字部12の後段に配置される溶媒吸収ローラ(溶媒吸収手段に相当)15と、記録媒体16を供給するメディア供給部18と、記録媒体16のカールを除去するデカール処理部20と、前記処理液用ヘッド11及び印字部12のノズル面(液吐出面)に対向して配置され、記録媒体16の平面性を保持しながら記録媒体16を搬送する吸着ベルト搬送部(搬送手段に相当)22と、記録済みの記録媒体16(プリント物)を外部に排出する排出部26と、を備えている。
【0037】
記録媒体16の供給系に関して図1では、メディア供給部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジン19が示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0038】
複数種類の記録媒体を利用可能な構成にした場合、記録媒体の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される記録媒体の種類(メディア種)を自動的に判別し、メディア種に応じて適切な処理液及びインクの吐出を実現するように吐出制御を行うことが好ましい。
【0039】
メディア供給部18から送り出される記録媒体16はマガジン19に装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録媒体16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0040】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0041】
デカール処理後、カットされた記録媒体16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成されている。
【0042】
ベルト33は、記録媒体16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引穴(不図示)が形成されている。ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによって記録媒体16がベルト33上に吸着保持される。
【0043】
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図7中符号88)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の反時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録媒体16は図1の右から左へと搬送される。
【0044】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。吸着の方式は、上記した吸引吸着(真空吸着)に限らず、静電吸着によるものでもよい。
【0045】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0046】
処理液用ヘッド11及び印字ヘッド12K,12C,12M,12Yは、当該インクジェット記録装置10が対象とする記録媒体16の最大紙幅に対応する長さを有し(図2参照)、そのノズル面には最大サイズの記録媒体の少なくとも一辺を超える長さ(描画可能範囲の全幅)にわたりインク吐出用のノズル又は処理液吐出用のノズルが配列されたフルライン型のヘッドとなっている。
【0047】
図1に示したように、印字ヘッド12K,12C,12M,12Yは、記録媒体16の送り方向に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の色順に配置され、印字部12の更に上流側に処理液用ヘッド11が配置されている。各ヘッド11,12K,12C,12M,12Yは、記録媒体16の搬送方向と略直交する方向に沿って延在するように固定設置される。
【0048】
かかるヘッド配置により、印字部12で各色のインクを打滴する前に、処理液用ヘッド11によって記録媒体16の記録面(被印字面)に処理液を付着させることができる。また、吸着ベルト搬送部22により記録媒体16を搬送しつつ、処理液を付着させた記録媒体16に向けて印字ヘッド12K,12C,12M,12Yからそれぞれ異色のインクを吐出することにより記録媒体16上にカラー画像を形成することができる。
【0049】
このように、紙幅の全域をカバーするノズル列を有するフルライン型の処理液用ヘッド11及び印字ヘッド12K,12C,12M,12Yを設ける構成によれば、紙送り方向(副走査方向)について記録媒体16と印字部12を相対的に移動させる動作を1回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録媒体16の全面に画像を記録することができる。これにより、記録ヘッドが紙搬送方向と直交する方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0050】
本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。また、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0051】
処理液貯蔵/装填部13は、処理液を貯蔵する処理液タンクを有し、該タンクは適宜の管路を介して処理液用ヘッド11と連通されている。処理液タンクから供給された処理液は処理液用ヘッド11から液滴として吐出される。処理液貯蔵/装填部13は、処理液の残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備える。
【0052】
インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K,12C,12M,12Yに対応する色のインクを貯蔵するインクタンク14K,14C,14M,14Yを有し、各タンクは不図示の管路を介して印字ヘッド12K,12C,12M,12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0053】
本例で用いる処理液は、溶媒としての水、界面活性剤、保湿剤、カチオンポリマー、色材凝集剤(例えば、pH調整剤又は多価金属塩)を含む。
【0054】
また、本例で用いるインクは、溶媒としての水、色材(顔料又は染料)、界面活性剤、及び保湿剤を含んで構成される。なお、更にアニオンポリマーを含む構成も可能である。一般に、色材(顔料又は染料)は、溶媒(水)中でマイナスイオン(アニオン)となるため、顔料又は染料自体が処理液中のカチオンポリマーと反応する反応物質となり得る。
【0055】
処理液に含まれるカチオンポリマーの材料例としては、ポリアリルアミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン、キトサン、及びこれらの酸による中和物等を用いることができる。
【0056】
pH調整剤の材料例としては、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸等)、有機酸(カルボン酸、スルホン酸などを含有する酸が好ましく、より具体的には、酢酸、メタンスルホン酸等)を用いることができる。
【0057】
多価金属塩としては、各種多価金属イオン、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、錫等を用いることができる。
【0058】
また、必要に応じてインクに付加されるアニオンポリマーの材料例としては、ポリアクリル酸、セラック、スチレン−アクリル酸共重合物、スチレン−無水マレイン酸共重合物等を用いることができる。
【0059】
記録媒体16上で処理液とインクを混合すると、処理液中のカチオンポリマーと、インク中のアニオン性物質(アニオンポリマー、顔料又は染料)との化学反応によって、極めて短時間に液界面にポリマー膜が形成される(第1の反応)。更に反応が進むと、処理液中の色材凝集剤の作用によって色材が凝集し、その色材凝集物が記録媒体16側に沈降して色材と溶媒とが分離される(第2の反応)。
【0060】
処理液及びインクについてそれぞれの組成や反応に寄与する物質の濃度等を調節することによって、反応速度や各液の物性(表面張力や粘度など)を調整することができ、所望の反応性及び物性を実現できる。
【0061】
溶媒吸収ローラ15は、その表面が多孔質部材15Aで構成されており、当該インクジェット記録装置10が対象とする記録媒体16の最大幅に対応する長さを有している。当該溶媒吸収ローラ15の回転軸15Bは、記録媒体16の搬送方向と直交する方向(主走査方向)に沿って配置されている。回転軸15Bを中心に回動自在に支持された溶媒吸収ローラ15は、記録媒体16の搬送速度に合わせて、記録媒体16との相対速度が0となるように回動することができ、インクの擦れによる画像の乱れを防いでいる。
【0062】
なお、溶媒吸収ローラ15は、1本の(単一の)長尺ローラ部材によって記録媒体16の全幅に対応する長さを実現してもよいし、記録媒体16の搬送方向と略直交する方向(主走査方向)に沿って複数個のローラモジュールに分割し、これらを並べて所要の長さを実現してもよい。また、記録媒体16の搬送方向に沿って複数列の溶媒吸収ローラを配置する構成も可能である。
【0063】
図1には示されていないが、記録媒体16に対して溶媒吸収ローラ15を上下させるための上下機構が設けられている。後述するシステム制御系の指令に応じて上下機構を制御し、溶媒吸収ローラ15の位置(記録媒体16の記録面に直交する方向の相対位置)を調整することによって、記録媒体16との接触圧力や記録媒体16とのクリアランスを可変させることができる。複数個のローラモジュールを有する構成の場合は、各ローラモジュールについて上下位置を制御するための機構を設ける態様が好ましい。
【0064】
溶媒吸収ローラ15を記録媒体16上のインクに接触させながら記録媒体16を搬送方向に移動させることで、多孔質部材15Aの毛細管力により、記録媒体16上の溶媒(色材と分離された溶媒)が溶媒吸収ローラ15に吸収される。こうして、溶媒吸収ローラ15によって余分な溶媒が除去されたインクは、色材同士の結合力が増し、記録媒体16に定着される。
【0065】
本例では、溶媒を吸収除去するための手段として、多孔質部材15Aから成る溶媒吸収ローラ15を用いたが、溶媒吸収手段の形状は、ローラ状に限定されるものでなく、ベルト状であってもよい。
【0066】
こうして、生成されたプリント物(印字によって生成された結果物)は排出部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える不図示の選別手段が設けられている。
【0067】
なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)38によってテスト印字の部分を切り離す。このカッター38は、排出部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。
【0068】
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
【0069】
〔印字ヘッドの構造〕
次に、印字ヘッドの構造について説明する。色別の印字ヘッド12K,12C,12M,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によって印字ヘッドを示すものとする。
【0070】
図2(a) は印字ヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図2(b) はその一部の拡大図である。また、図3は印字ヘッド50の他の構造例を示す平面透視図、図4は1つの液滴吐出素子(1つのノズル51に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図2中の4−4線に沿う断面図)である。
【0071】
記録媒体16上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、印字ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例の印字ヘッド50は、図2(a),(b) に示したように、インク滴の吐出口であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなるインク室ユニット(液滴吐出素子)53を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0072】
記録媒体16の送り方向(矢印S方向;副走査方向)と略直交する方向(矢印M方向;主走査方向)に記録媒体16の全幅Wm に対応する長さ以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図2(a) の構成に代えて、図3に示すように、複数のノズル51が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録媒体16の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。
【0073】
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており(図2(a),(b) 参照)、対角線上の両隅部にノズル51への流出口と供給インクの流入口(供給口)54が設けられている。なお、圧力室52の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
【0074】
図4に示したように、各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。共通流路55はインク供給源たるインクタンク(図4中不図示、図6中符号60として記載)と連通しており、インクタンク60から供給されるインクは図4の共通流路55を介して各圧力室52に分配供給される。
【0075】
圧力室52の一部(図4において天面)を構成している加圧板(共通電極と兼用される振動板)56には個別電極57を備えたアクチュエータ58が接合されている。個別電極57と共通電極間に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ58が変形して圧力室52の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル51からインクが吐出される。なお、アクチュエータ58には、チタン酸ジルコン酸鉛やチタン酸バリウムなどの圧電体を用いた圧電素子が好適に用いられる。インク吐出後、アクチュエータ58の変位が元に戻る際に、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
【0076】
かかる構造を有するインク室ユニット53を図5に示す如く主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向とに沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
【0077】
すなわち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなり、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、高密度のノズル列を実現することが可能になる。
【0078】
なお、印字可能幅の全幅に対応した長さのノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、用紙の幅方向(用紙の搬送方向と直交する方向)に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
【0079】
特に、図5に示すようなマトリクス状に配置されたノズル51を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。すなわち、ノズル51-11 、51-12 、51-13 、51-14 、51-15 、51-16 を1つのブロックとし(他にはノズル51-21 、…、51-26 を1つのブロック、ノズル51-31 、…、51-36 を1つのブロック、…として)、記録媒体16の搬送速度に応じてノズル51-11 、51-12 、…、51-16 を順次駆動することで記録媒体16の幅方向に1ラインを印字する。
【0080】
一方、上述したフルラインヘッドと用紙とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
【0081】
そして、上述の主走査によって記録される1ライン(或いは帯状領域の長手方向)の示す方向を主走査方向といい、上述の副走査を行う方向を副走査方向という。すなわち、本実施形態では、記録媒体16の搬送方向が副走査方向であり、それに直交する方向が主走査方向ということになる。
【0082】
本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。また、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ58の変形によってインク滴を飛ばす方式が採用されているが、本発明の実施に際して、インクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。
【0083】
処理液用ヘッド11の構造は、図示しないが、上述した印字ヘッド50と概略共通している。ただし、処理液は、記録媒体16上においてインクが打滴される領域に略一様(略均一)に付着させればよいため、インクに比べると高密度ドット形成は要求されない。したがって、処理液用ヘッド11はインク吐出用のヘッド50に比べて、ノズル数を少なく(ノズル密度を低く)した構成も可能である。また、処理液用ヘッド11のノズル径をインク吐出用の印字ヘッド50のノズル径よりも大きくする構成も可能である。
【0084】
〔インク供給系の構成〕
図6はインクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。インクタンク60は印字ヘッド50にインクを供給する基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。すなわち、図6のインクタンク60は、図1のインク貯蔵/装填部14と等価のものである。インクタンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に、不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。
【0085】
図6に示したように、インクタンク60と印字ヘッド50の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下とすることが好ましい。図6には示さないが、印字ヘッド50の近傍又は印字ヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
【0086】
また、インクジェット記録装置10には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64と、ノズル面50Aの清掃手段としてのクリーニングブレード66とが設けられている。これらキャップ64及びクリーニングブレード66を含むメンテナンスユニット(回復手段)は、不図示の移動機構によって印字ヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置から印字ヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
【0087】
キャップ64は、図示せぬ昇降機構によって印字ヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、印字ヘッド50に密着させることにより、ノズル面50Aをキャップ64で覆う。
【0088】
クリーニングブレード66は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構により印字ヘッド50のノズル面50A(ノズル板表面)に摺動可能である。ノズル板表面にインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード66をノズル板に摺動させることでノズル板表面を拭き取る。
【0089】
印字中又は待機中において、特定のノズルの使用頻度が低くなり、ノズル近傍のインク粘度が上昇した場合、その劣化インクを排出すべくキャップ64(インク受けとして兼用)に向かって予備吐出が行われる。
【0090】
印字ヘッド50は、ある時間以上吐出しない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してノズル近傍のインクの粘度が高くなってしまい、吐出駆動用のアクチュエータ58が動作してもノズル51からインクを吐出できなくなる。したがって、この様な状態になる手前で(アクチュエータ58の動作によってインク吐出が可能な粘度の範囲内で)、インク受けに向かってアクチュエータ58を動作させ、粘度上昇したノズル近傍のインクを吐出させる「予備吐出」が行われる。また、ノズル面50Aの清掃手段として設けられているクリーニングブレード66等のワイパーによってノズル板表面の汚れを清掃した後に、このワイパー摺擦動作によってノズル51内に異物が混入するのを防止するためにも予備吐出が行われる。なお、予備吐出は、「空吐出」、「パージ」、「唾吐き」などと呼ばれる場合もある。
【0091】
その一方で、ノズル51や圧力室52に気泡が混入したり、ノズル51内のインクの粘度上昇があるレベルを超えたりすると、上記予備吐出ではインクを吐出できなくなる。このような場合、印字ヘッド50のノズル面50Aに吸引手段たるキャップ64を当接させて、吸引ポンプ67で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク又は増粘インク)を吸引する。かかる吸引動作によって吸引除去されたインクは回収タンク68へ送られる。回収タンク68に集められたインクは、再利用してもよいし、再利用不能な場合は廃棄してもよい。
【0092】
上記の吸引動作は、圧力室52内のインク全体に対して行われるためインク消費量が大きいため、粘度上昇が少ない場合はなるべく予備吐出を行うことが好ましい。なお、上記の吸引動作は、印字ヘッド50へのインク初期装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも行われる。
【0093】
処理液の供給系については、図示しないが、図6で説明したインク供給系の構成と略同様である。
【0094】
〔制御系の説明〕
図7はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、画像メモリ74、ROM75、モータドライバ76、ヒータドライバ78、溶媒吸収ローラ駆動部79、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、処理液用ヘッドドライバ83、インク用ヘッドドライバ84等を備えている。
【0095】
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB、IEEE1394、イーサネット、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。
【0096】
ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ74に記憶される。画像メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0097】
システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。すなわち、システムコントローラ72は、通信インターフェース70、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御し、ホストコンピュータ86との間の通信制御、画像メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
【0098】
ROM75には、システムコントローラ72のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、ROM75は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。画像メモリ74は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
【0099】
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示に従ってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって後乾燥部等のヒータ89を駆動するドライバである。
【0100】
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、画像メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)を処理液用ヘッドドライバ83及びインク用ヘッドドライバ84に供給する制御部である。
【0101】
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。図7において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、画像メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0102】
画像入力から印字出力までの処理の流れを概説すると、印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース70を介して外部から入力され、画像メモリ74に蓄えられる。この段階では、例えば、RGBの画像データが画像メモリ74に記憶される。
【0103】
インクジェット記録装置10では、インク(色材) による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。そのため、画像メモリ74に蓄えられた元画像(RGB)のデータは、システムコントローラ72を介してプリント制御部80に送られ、該プリント制御部80においてディザ法や誤差拡散法などのハーフトーン化技術によってインク色ごとのドットデータに変換される。
【0104】
すなわち、プリント制御部80は、入力されたRGB画像データをK,C,M,Yの4色のドットデータに変換する処理を行う。また、プリント制御部80は、各色のドットデータを基に処理液の打滴領域(処理液の打滴が必要な記録面の領域)を判別し、処理液打滴用のドットデータを生成する。こうして、プリント制御部80で生成されたドットデータ(処理液用及び各色用)は、画像バッファメモリ82に蓄えられる。
【0105】
処理液用ヘッドドライバ83は、画像バッファメモリ82に記憶された処理液打滴用のドットデータに基づき、処理液用ヘッド11の駆動制御信号を生成する。処理液用ヘッドドライバ83で生成された駆動制御信号が処理液用ヘッド11に加えられることによって、処理液用ヘッド11から処理液が吐出される。
【0106】
同様に、インク用ヘッドドライバ84は、画像バッファメモリ82に記憶されたインク打滴用のドットデータに基づき、印字ヘッド50の駆動制御信号を生成する。インク用ヘッドドライバ84で生成された駆動制御信号が印字ヘッド50に加えられることによって、印字ヘッド50からインクが吐出される。なお、処理液用ヘッドドライバ83及びインク用ヘッドドライバ84には、それぞれヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0107】
記録媒体16の搬送速度に同期して処理液用ヘッド11からの処理液の吐出、及び印字ヘッド50からのインクの吐出を制御することにより、記録媒体16に画像が形成される。
【0108】
上記のように、プリント制御部80における所要の信号処理を経て生成されたドットデータに基づき、処理液用ヘッドドライバ83及びインク用ヘッドドライバ84を介して各ノズルからの液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0109】
本例のインクジェット記録装置10は、更に、インク情報読取部90、処理液情報読取部92及びメディア種検出部94を備えている。インク情報読取部90は、インク種の情報を取得する手段である。具体的には、例えば、インクタンク60(図6参照)のカートリッジの形状(インク種を識別可能な特定の形状)、或いはカートリッジに組み込まれたバーコードやICチップなどからインクの識別情報や物性情報を読み取る手段を用いることができる。その他、ユーザインターフェースを利用してオペレータが必要な情報を入力してもよい。
【0110】
同様に、処理液情報読取部92は、処理液の種類に関する情報を取得する手段である。具体的には、例えば、処理液タンクのカートリッジの形状(液種を識別可能な特定の形状)、或いはカートリッジに組み込まれたバーコードやICチップなどから処理液の識別情報や物性情報を読み取る手段を用いることができる。その他、ユーザインターフェースを利用してオペレータが必要な情報を入力してもよい。
【0111】
メディア種検出部94は、記録媒体の種類(紙種)やサイズを検出する手段である。例えば、メディア供給部18のマガジン19に付されたバーコード等の情報(識別情報やメディア種情報など)を読み込む手段、メディア搬送路中の適当な場所に配置されたセンサ(メディア幅検出センサ、メディアの厚みを検出するセンサ、メディアの反射率を検出するセンサなど)が用いられ、これらの適宜の組み合わせも可能である。また、これら自動検出の手段に代えて、若しくはこれと併用して、所定のユーザインターフェースからの入力によって紙種やサイズ等の情報を指定する構成も可能である。
【0112】
インク情報読取部90、処理液情報読取部92及びメディア種検出部94の各手段から得られた情報はシステムコントローラ72に送られ、処理液及びインクの吐出制御(吐出量や吐出タイミングの制御)等に利用され、条件に応じた適切な打滴が実行される。すなわち、システムコントローラ72は、インク情報読取部90、処理液情報読取部92及びメディア種検出部94の各手段から得られた情報に基づいて、記録媒体16の浸透速度特性を判別し、処理液を用いるか否かの判断、並びに、処理液を用いる場合にはその吐出量の制御を行う。
【0113】
例えば、インクジェット記録装置10は、メディア種と浸透速度特性とを対応付けたメディア種テーブルのデータを格納した情報記憶手段(例えば、図7に示したROM75、或いは、不図示の内部メモリ又は外部メモリ)を備えており、システムコントローラ72は、このメディア種テーブルを参照して、使用する記録媒体16の浸透速度特性を判断する。
【0114】
記録媒体16の浸透速度特性を把握する手段としては、メディア種検出部94からメディアのID(識別情報)を取得し、メディア種テーブルを参照して、当該メディアの浸透速度特性を把握してもよいし、マガジンに付したバーコード等の情報記録体にメディアの浸透速度特性を示す情報を記録しておき、メディア種検出部94から直接的にメディアの浸透速度特性の情報を読み込んでもよい。
【0115】
或いはまた、記録媒体16の浸透速度を実際に測定する手段を用いることも可能である。例えば、記録媒体16上にインク又は処理液、若しくはこれら両方を打滴し、そのテスト打滴によって形成されるドットの様子を撮像素子などの検出手段(不図示)によって読み込み、得られた情報に基づいて浸透速度を計算することができる。
【0116】
図1で説明したとおり、本例のインクジェット記録装置10では、印字部12の上流に処理液用ヘッド11を備え、印字部12によるインクの打滴前に、先行する(上流の)処理液用ヘッド11によって予め記録媒体16の印字面に処理液を1回だけ付着させる構成としている。かかる構成の場合、印字部12によるインクの打滴量の増加に伴って、次第に記録媒体16上の処理液量は減少するため、印字部12の下流側へ行くほど、記録媒体16上の処理液量は少なくなる。印字部12における最終段(最下流)の印字ヘッド(図1においてイエローのヘッド12Y)による打滴が終了するまで、記録媒体16の表面近傍に処理液が残存していることが必要となるため、記録媒体16の種類や処理液の物性、インクの吐出量、記録媒体16の搬送速度などから、所要の処理液量を確保できるように処理液用ヘッド11による処理液の打滴量が決定される。
【0117】
また、図7に示したシステムコントローラ72は、記録媒体16の厚みや浸透速度特性などに応じて溶媒吸収ローラ駆動部79を制御して、溶媒吸収ローラ15の上下位置(記録媒体16への当接圧又は記録媒体16とのクリアランス量)並びに回転速度を適切に制御する。溶媒吸収ローラ駆動部79は、記録媒体16の記録面に対する溶媒吸収ローラ15の位置並びに回転速度を調節するための手段であり、溶媒吸収ローラ15を上下移動させる上下機構と、その機構を電動で駆動するための動力源となるモータ(アクチュエータ)及びドライバ、モータの駆動力を上下機構に伝達する動力伝達機構(ベルト、プーリー又はギア、若しくはこれらの適宜の組み合わせなど)、溶媒吸収ローラ15を回転させるための動力源となるモータ及びドライバ、動力伝達機構等を含んで構成される。
【0118】
〔画像形成プロセスの説明〕
次に、本例のインクジェット記録装置10における画像形成プロセスについて説明する。図8はインクジェット記録装置10の印字部12周辺の要部構成を模式的に描いた拡大図である。同図では、図示を簡略化するために、処理液用ヘッド11の後段にインク用ヘッド(印字ヘッド50)を1つのみ描いているが、実際の印字部12は、図1で説明したように、4色の色別に印字ヘッド12K,12C, 12M, 12Yを備えている。
【0119】
図8において、記録媒体16は右から左へと搬送される。画像形成のプロセスは、以下のとおりである。
【0120】
(工程1)記録媒体搬送方向(図8中矢印A方向)の上流に配置された処理液用ヘッド11から処理液110を液滴として吐出し、予め記録媒体16の記録面16Aに処理液110を付着させておく。
【0121】
(工程2)処理液用ヘッド11の下流に配置された印字ヘッド50からインク120を液滴として吐出し、表面に処理液110が存在する記録媒体16上にインク120を着弾させる。
【0122】
(工程3)記録媒体16表面上で処理液110とインク120が混合されることにより、処理液110中のカチオンポリマーとインク中のアニオン性物質とが反応して、液界面(ドット間、並びに、記録媒体16とインク120の間)で膜124を形成する。このドット間膜124によって、ドットの合一化、記録媒体16上でのインクの移動が抑制される。カチオンポリマーとアニオン性物質の反応を利用して高速でドット界面に膜124を形成することにより、着弾干渉を確実に回避できる。
【0123】
(工程4)更に、2系統目の反応が進み、インク120中の色材が凝集して凝集物(色材凝集物)126が生成される。そして、図8に示したように、色材凝集物126は、記録媒体16側(下方)に沈降する。こうして、記録媒体16上のインク120の液滴(ドット)130は、沈降した色材凝集物126から成る色材層132と、溶媒134の層とに分離される。
【0124】
(工程5)記録媒体16の搬送(図8中矢印A方向への搬送)に伴い、色材層132と溶媒134に分離された液滴130が溶媒吸収ローラ15の位置まで移動される。当該液滴130の溶媒134が溶媒吸収ローラ15に接触すると、多孔質部材15Aの毛細管力によって溶媒134が溶媒吸収ローラ15に吸収される。溶媒吸収ローラ15は、記録媒体16の搬送速度に合わせて、記録媒体16との相対速度が0となるように図8中矢印B方向に回転し、インクの擦れによる画像の乱れを防いでいる。また、このとき、各ドット130の周りにはポリマーの膜124が形成されているため、記録媒体16表面上で色材の移動が抑制され、溶媒吸収ローラ15への色材の付着も抑止されるため、画像の乱れなども発生しない。すなわち、溶媒吸収ローラ15による溶媒吸収時にもドット間に膜124が存在するため、この膜124がインクの移動を抑制し、溶媒吸収ローラ15とインクの接触時の画像の乱れを防ぐ役割を果たす。
【0125】
なお、印字ヘッド50から吐出されたインク120の着弾時(すなわち、2液の混合時)から溶媒134が溶媒吸収ローラ15に接触するまでの時間は、2液反応による色材/溶媒の分離が完了するまでの時間よりも長くなるように、印字ヘッド50と溶媒吸収ローラ15との位置関係(着弾位置から溶媒接触位置までの距離L)及び記録媒体16の搬送速度が設定される。
【0126】
(工程6)こうして、溶媒吸収ローラ15によって溶媒が除去されたインク(図8において符号138)は、色材同士の結合力が増し、記録媒体16に定着される。これにより、にじみの発生が防止されるとともに、色間ブリーディング防止、乾燥、定着の促進、コックリングの防止等の効果が得られる。
【0127】
〔第2の実施形態〕
図9は、本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録装置の要部構成を表した構成図である。図9中、図1に示した構成と同一又は類似する部材には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0128】
図9に示したインクジェット記録装置210で用いる処理液及びインクの成分は、図1で説明した構成と同様であるが、ここでの処理液は、インクと混合した場合に、色材の凝集物を生成するとともに、その色材凝集物を正負のいずれか(本例では負)に帯電させるような反応を引き起こす液体とする。
【0129】
色材凝集物を帯電させる手段としては、アニオン/カチオン反応時に色材の凝集物表面にアニオン又はカチオン基が残るようにインク又は処理液の組成を調整したり、顔料の表面電位をpH調整により制御する方法等がある。
【0130】
インクジェット記録装置210におけるメディア搬送部222は、ローラ31,32間に無端状の搬送ベルト(静電吸着ベルト)233が巻き掛けられた構造を有する。
【0131】
搬送ベルト233は、導電性部材から構成されており、直流電源(電圧付与手段に相当)240の正電極が電気的に接続されている。直流電源240の他端(負電極)は、溶媒吸収ローラ15に電気的に接続されている。直流電源240により搬送ベルト233に直流電圧が印加されると、静電吸着効果によって、記録媒体16は搬送ベルト233上に吸着保持される。
【0132】
溶媒吸収ローラ15は、金属ローラ15Dの表面に薄層の多孔質部材15Eが構成された構造を有し(図10参照)、図9のように直流電源240から負の電圧(色材凝集物と同極性の電圧)が印加される。
【0133】
溶媒吸収ローラ15の後段には、記録面の乾燥を促進させる手段(乾燥促進手段)としての赤外線ヒータ244が配設されている。
【0134】
次に、図9に示した構成におけるインクと処理液の2液反応について図10を用いて説明する。図10は、記録媒体16上の混合液を拡大した模式図である。
【0135】
処理液上にインクが打滴されると、図8で説明したとおり、2液の反応によって液界面に膜124が形成される。この膜124の形成により、着弾干渉が防止される。また、着弾したインク液滴の内部では、図10の符号126で示したように、負に帯電した色材凝集物が生成される。色材凝集物126は、記録媒体16側(下方)に沈降し、記録媒体16上の液滴(ドット)130は、沈降した色材凝集物126から成る色材層132と、溶媒134の層とに分離される。
【0136】
記録媒体16を裏面側から支持する搬送ベルト233の表面(記録媒体16と接触する側の面)は、図10のように、色材凝集物126と逆極性(本例の場合、正)に帯電している。このため、負に帯電した色材凝集物126は搬送ベルト233側に引き寄せられるように静電引力が作用するので、色材凝集物126の沈降がより一層促進され、色材(色材凝集物126)と溶媒134を短時間で確実に2層に分離することができる。
【0137】
溶媒吸収ローラ15は、金属ローラ15Dの表面に薄層の多孔質部材15Eが設けられた構造を有する。溶媒吸収ローラ15の最下部と記録媒体16との間に微小な隙間が形成されるように、溶媒吸収ローラ15は配置され、図10中矢印B方向に回動しながら、記録媒体16上の溶媒134の層と接触する。図示のとおり、溶媒吸収ローラ15に接触した溶媒134は、毛細管現象によって多孔質部材15Eに吸収される。
【0138】
溶媒吸収ローラ15は、記録媒体16上の色材凝集物126と同じ極性(本例では負)に帯電しており、色材凝集物126には多孔質部材15Eと離れる方向に静電反発力が作用する。このため、多孔質部材15Eが溶媒134を吸収する際に、多孔質部材15Eの表面に色材凝集物126が付着するのを防止することができる。
【0139】
また、搬送ベルト233は、前述した通り、色材凝集物126と逆の極性(本例では正)に帯電しているため、多孔質部材15Eが溶媒134を吸収する際に、色材凝集物126が溶媒吸収ローラ15側に移動するのを抑制する効果があり、多孔質部材15Eの表面に色材凝集物126が付着するのをより一層防止することが可能となっている。
【0140】
更に、多孔質部材15Eの孔15Fの径は、色材凝集物126の粒子径に比べて十分小さいことが望ましい。かかる構成によれば、多孔質部材15Eのフィルタ効果によって、多孔質部材15Eの孔15Fへの色材凝集物126の進入が抑止されるため、色材凝集物126が溶媒134とともに多孔質部材15Eに吸収されてしまうのを防ぐことができる。
【0141】
図9及び図10の説明では、負に帯電させた色材凝集物126を生成する例を述べたが、色材凝集物を正に帯電させる態様も可能である。
【0142】
前述のように、インクと処理液の2液反応によって、正負のいずれかに帯電した色材凝集物を生成して色材と溶媒を確実に分離する一方、記録媒体16支持する搬送ベルト233を色材凝集物126と逆極性の電位に、溶媒吸収手段である溶媒吸収ローラ15を色材凝集物126と同極性の電位にすることによって、色材と溶媒の沈降分離を一層促進することができ、かつ、色材の移動を防止して溶媒134をより確実かつ迅速に吸収することができる。
【0143】
〔第3の実施形態〕
図11は、本発明の第3の実施形態に係るインクジェット記録装置の要部構成を表した構成図である。図11中、図9に示した構成と同一又は類似する部材には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0144】
図9で示した第2の実施形態に係るインクジェット記録装置210は、処理液付着手段としてインクジェット方式による処理液用ヘッド11を備えた構成であるのに対し、図11に示した第3の実施形態に係るインクジェット記録装置310は、処理液付着手段として処理液塗布ローラ311を備えた構成である。
【0145】
処理液塗布ローラ311は、1本の(単一の)長尺ローラ部材によって記録媒体16の全幅に対応する長さを実現してもよいし、記録媒体16の搬送方向と略直交する方向(主走査方向)に沿って複数個のローラモジュールに分割し、これらを並べて所要の長さを実現してもよい。また、記録媒体16の搬送方向に沿って複数列の処理液塗布ローラを配置する構成も可能である。
【0146】
図11には示されていないが、記録媒体16に対して処理液塗布ローラ311を上下させるための上下機構が設けられている。システム制御系の指令に応じて上下機構を制御し、処理液塗布ローラ311の位置(記録媒体16の記録面に直交する方向の相対位置)を調整することによって、記録媒体16との接触圧力や記録媒体16とのクリアランスを可変させることができる。複数個のローラモジュールを有する構成の場合は、各ローラモジュールについて上下位置を制御するための機構を設ける態様が好ましい。
【0147】
処理液塗布ローラ311は多孔質部材から成り、処理液が含浸された処理液塗布ローラ311を記録媒体16に接触させながら記録媒体16を紙送り方向に移動させることで記録媒体16の所定の領域(全領域又は一部の領域)に処理液が塗布されるように構成されている。
【0148】
本例では、処理液塗布ローラ311に多孔質部材を適用したが、例えば、ゴム等の部材から成る塗布ローラを所定の方向に回動させながら処理液を該塗布ローラを介して記録媒体16上へ流し込むような構造から成る処理液塗布手段を用いてもよい。
【0149】
なお、図1、図9で説明したように、処理液用ヘッド(吐出ヘッド)を用いて処理液を付着させる構成の場合、画像データに基づいて、記録媒体上の必要な範囲に(例えば、インクによる描画箇所に限って)選択的に処理液を付着させることができるため、ローラ等による塗布手段と比較して、処理液の消費量を低減できる。
【0150】
一方、図11で示したように処理液塗布ローラ311等の部材を用いて処理液を塗布する手段は、インクジェット方式の吐出ヘッドでは吐出が困難なレベルの高粘度の液を取り扱うことができるとともに、多くの液量を短時間で付着させることができるという利点がある。
【0151】
〔第4の実施形態〕
図12は、本発明の第4の実施形態に係るインクジェット記録装置の要部構成を表した構成図である。図12中、図9に示した構成と同一又は類似する部材には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0152】
図9で示した第2の実施形態に係るインクジェット記録装置210は、印字ヘッド12Kの紙搬送方向上流側(図9において右側)にのみ処理液用ヘッド11を配置した構成であるのに対し、図12に示した第4の実施形態に係るインクジェット記録装置410は、各印字ヘッド12K,12M,12C,12Yの上流側にそれぞれ処理液用ヘッド11が配置されるとともに、各印字ヘッド12K,12M,12C,12Yの下流側に溶媒吸収ローラ15が配置されている。かかる構成により、インクの色ごとに適切な処理液量の付与及び溶媒の除去が可能である。
【0153】
なお、上記の説明では、処理液を付着させた後にインクを打滴する例を述べたが、インクの打滴後に、処理液を打滴する構成でもよいし、処理液とインクが記録媒体16上の同じ打滴位置に対して略同時に打滴されるような構成でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る画像形成装置としてのインクジェット記録装置の全体構成図
【図2】印字ヘッドの構造例を示す平面透視図
【図3】フルライン型印字ヘッドの他の構成例を示す平面透視図
【図4】図2中の4−4線に沿う断面図
【図5】図2に示した印字ヘッドのノズル配列を示す拡大図
【図6】インクジェット記録装置のインク供給系の構成を示した概要図
【図7】インクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図である。
【図8】本例のインクジェット記録装置における画像形成プロセスを説明するために用いた模式図
【図9】本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録装置の要部構成を表した構成図
【図10】記録媒体の混合液の拡大図
【図11】本発明の第3の実施形態に係るインクジェット記録装置の要部構成を表した構成図
【図12】本発明の第4の実施形態に係るインクジェット記録装置の要部構成を表した構成図
【符号の説明】
【0155】
10…インクジェット記録装置、11…処理液用ヘッド、12K,12M,12C,12Y…印字ヘッド、15…溶媒吸収ローラ、15A,15E…多孔質部材、16…記録媒体、33,233…搬送ベルト、110…処理液、120…インク、124…膜、126…色材凝集物、134…溶媒、240…直流電源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオンポリマー及び色材凝集剤を含有する処理液を記録媒体に付着させる処理液付着手段と、
前記色材凝集剤との反応によって凝集する色材を含有し、かつアニオン性を有するインク液を液滴として吐出するインク液吐出手段と、
前記処理液付着手段により前記記録媒体上に付着させた処理液と前記インク液吐出手段から吐出したインク液との混合によって2液の液界面で膜を形成する第1の反応及び前記膜の形成後に当該インク液中の色材の凝集物を形成する第2の反応を経て前記色材の凝集物と溶媒とが分離された状態で前記記録媒体上の前記溶媒を吸収する溶媒吸収手段と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記溶媒吸収手段は、表面が多孔質部材で構成されていることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記インク液吐出手段及び前記記録媒体のうち少なくとも一方を搬送して前記インク液吐出手段と前記記録媒体を相対的に移動させる搬送手段を備え、
前記インク液吐出手段に対する前記記録媒体の相対移動方向の上流側から、前記処理液付着手段、前記インク液吐出手段、前記溶媒吸収手段の順に下流に向かって配置されており、
前記搬送手段によって前記インク液吐出手段と前記記録媒体を所定の相対速度で移動させる場合に、前記インク液吐出手段より吐出されたインク液滴の着弾時から当該インク液滴の溶媒が前記溶媒吸収手段に接触するまでの時間が、前記第2の反応による前記色材と前記溶媒の分離が完了するまでの時間よりも長くなるように、前記インク液吐出手段と前記溶媒吸収手段とが所要の距離を隔てて配置されることを特徴とする請求項1又は2記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記処理液と前記インク液との反応によって、帯電した色材凝集物が生成され、
前記溶媒吸収手段に当該色材凝集物と同極性の電圧を印加する電圧付与手段を備えたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記記録媒体の記録面と反対側の面から当該記録媒体を支持する媒体支持部材と、
前記媒体支持部材に前記色材凝集物と逆極性の電圧を印加する電圧付与手段を備えたことを特徴とする請求項4記載の画像形成装置。
【請求項6】
カチオンポリマー及び色材凝集剤を含有する処理液を記録媒体に付着させる処理液付着工程と、
前記色材凝集剤との反応によって凝集する色材を含有し、かつアニオン性を有するインク液を液滴として吐出するインク液吐出工程と、
前記処理液付着工程で前記記録媒体上に付着させた処理液と前記インク液吐出工程で吐出したインク液との混合によって2液の液界面で膜を形成する第1の反応及び前記膜の形成後に当該インク液中の色材の凝集物を形成する第2の反応を生じさせる反応工程と、
前記反応工程を経て前記色材の凝集物と溶媒とが分離された状態で前記記録媒体上の前記溶媒を吸収部材によって吸収する溶媒除去工程と、
を含むことを特徴とする画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−205677(P2006−205677A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24125(P2005−24125)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.イーサネット
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】