説明

画像形成装置

【課題】記録媒体をプラテンに吸着させつつ画像形成を行う画像形成装置で、インク滴の打ち込み量に拘らずコックリングを低減する。
【解決手段】S82で、プラテンに記録媒体を吸着させる吸引ファンの吸引力をPWM制御のデューティ100%にした場合、記録媒体の搬送方向に関する第1の設定範囲でのドットカウントを画像データから取得する(S85)。次いで、このドットカウントが第1の閾値が超えた場合(S86)、即ち、インク滴の打ち込み量が多い場合、吸引ファンの吸引力を下げる(S87)。これにより、記録媒体の浮きを分散して、この浮きが集中することを抑え、コックリングを低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット方式の画像形成装置に関し、特に、記録媒体を支持部材(プラテン)に吸着させつつ画像形成を行う画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ、スキャナ、あるいはこれらの複合機器やシステムなどでは、画像情報に基づいて記録紙等の記録媒体に画像を形成する画像形成装置が使用されている。かかる画像形成装置の一形態として、記録ヘッドの吐出口(ノズル)から記録媒体へインクを吐出して画像を記録するインクジェット方式の画像形成装置が広く使用されている。
【0003】
インクジェット方式の画像形成装置では、記録ヘッドによりインクを吐出しながら記録媒体の進行方向(搬送方向、副走査方向)と直角方向(主走査方向)に記録ヘッドを走査させる記録走査と、記録媒体を搬送させる搬送動作を交互に繰り返すことによって、記録媒体に対し画像形成を行っている。
【0004】
インクジェット方式の画像形成装置は、記録媒体にインクを記録ヘッドから吐出して画像を形成するため、紙をベースとした記録媒体にインクが吸収されると紙が伸びて皺や波打ち状の変形(コックリングという)を発生する。このようなコックリングが発生すると、記録媒体と記録ヘッドで擦れを起こし記録面を汚してしまったり、記録媒体が浮き上がることで記録ヘッドから吐出されたインクの着弾位置がずれてしまったり等の不具合が生じる場合がある。これらの不具合により、記録媒体に形成された画像の品位が下がってしまうことがあった。このために、記録媒体の表面と記録ヘッドとの間隔を一定に保持するため従来様々な方法が提案されている。
【0005】
これらの不具合を防ぐために、画像形成部におけるプラテンから記録ヘッドへ向けての紙浮きを拍車やガイドなどで防止する手段も提案されているが、このような方法では、拍車やガイドが記録面に接触するため記録媒体に傷などをつけてしまう可能性がある。
【0006】
そこで、記録媒体を裏面からリブによって支えることで、コックリングによって発生した波打ちの高低差をプラテンのリブとリブの間に逃がす構造が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この構造の場合、記録ヘッドに対するこすれには効果が得られるが、着弾位置(距離の差)による画像品位の低下は避けられない。
【0007】
また、記録媒体を支持するプラテンに記録紙を吸着して画像形成を行うことで、記録媒体をプラテンに引き寄せ、記録媒体の浮きが大きくならないようにする構造が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
なお、別の形態のインクジェット方式の画像形成装置では、記録ヘッドを記録媒体の搬送方向の幅方向に並べて画像を形成するものもある。このような画像形成装置では、記録媒体の幅よりも短い複数のヘッドを前後にずらして千鳥状にヘッドを並べるため、画像を形成する領域が記録媒体の搬送方向に広がる。このため、コックリングが発生しやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−103706号公報
【特許文献2】特開平9−220837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
コックリングによる記録媒体の浮き上がりは、形成する画像によって異なり、また、使用する記録媒体の種類によっても大きく異なる。一般的に、プラテンに吸引孔を設けてコックリングの浮き上がり高さを抑えようとする装置においては、吸引力が記録媒体に対するインク滴の数(打ち込み量)が最大となる場合に合わせて、吸引制御を行う。
【0011】
しかし、インク滴の打ち込みによって伸びた記録媒体を、プラテンに強く吸引し続けると、コックリングが大きくなる可能性がある。即ち、或る領域でインク滴の打ち込み量が多く記録媒体の伸びが大きくなった場合、この領域のうち、プラテンに吸着されている部分はそのまま吸着されている。これに対して、吸引孔から外れた部分は、記録媒体の伸びに対して逃げ場が無くなり、高さ方向に浮き上がってしまい、コックリングが大きくなってしまう場合がある。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑み、インク滴の打ち込み量に拘らずコックリングを低減すべく、発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、画像データに基づいて、ノズルからインク滴を吐出し記録媒体に画像を形成する記録ヘッドと、前記記録ヘッドに対向して配置され、複数の吸引孔を有する支持部材と、前記複数の吸引孔に接続される負圧発生手段と、記録媒体を搬送する搬送手段と、を備え、前記負圧発生手段が発生させた負圧力で前記支持部材に記録媒体を吸着しつつ該記録媒体を前記搬送手段が搬送し、前記支持部材に吸着させられた記録媒体に前記記録ヘッドが画像形成を行う画像形成装置において、記録媒体の第1の設定範囲で前記記録ヘッドが吐出するインク滴の数を画像データから取得し、取得した値が第1の閾値以下の場合、前記負圧発生手段が発生させる負圧力を所定の値に設定し、取得した値が前記第1の閾値を越えた場合、前記負圧発生手段が発生させる負圧力を前記所定の値よりも低く設定する制御を行う制御手段を有する、ことを特徴とする画像形成装置にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第1の設定範囲でインク滴の数の取得値が第1の閾値を越えた場合、即ち、インク滴の打ち込み量が多い場合に、記録媒体の支持部材への吸引力を小さくできる。このため、インク滴の打ち込み量に拘らずコックリングを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置の一部を透視して示す斜視図。
【図2】図1のA−A断面概略図。
【図3】図2のプラテン及びファン部分の一部を同図の紙面表裏方向に切断して示す概略図。
【図4】PWM制御のデューティ(Duty)と吸引ファンの吸引圧との関係を示す図。
【図5】本実施形態の制御を説明するためのブロック図。
【図6】本実施形態の制御を示すフローチャート。
【図7】本実施形態の印刷中のドットカウントのシーケンスを説明するためのフローチャート。
【図8】本実施形態の効果を説明するための、(a)はコックリングが大きくなった場合を、(b)はコックリングを低減できた場合を示す、記録媒体とプラテンの断面概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[画像形成装置]
本発明の実施形態について、図1ないし図8を用いて説明する。まず、図1ないし図3を用いて本実施形態のインクジェット方式の画像形成装置について説明する。画像形成装置100は、図1矢印X方向(主走査方向)に往復動するキャリッジ52を備えている。キャリッジ52は、ヘッドホルダ53を備えており、このヘッドホルダ53には、記録ヘッド51が着脱自在に装着される。記録ヘッド51には、不図示のインクタンクユニットから不図示のインク供給チュ−ブを経由してインクが供給される。そして、記録ヘッド51の記録媒体搬送方向(図2の左方向)上流に設けられたノズル51aからインク滴を吐き出すようにしている。
【0017】
また、画像形成装置100の記録ヘッド51に対向する位置には、支持部材であるプラテン21が配置されている。プラテン21には、後述するように、複数の吸引孔22が形成され、複数の吸引孔22には、負圧発生手段である吸引ファン27が接続されている。なお、記録ヘッド51のノズル51aは、少なくとも、プラテン21の記録材搬送方向中央よりも上流側に対向するように配置される。
【0018】
また、画像形成装置100は、キャリッジモータ114と記録媒体搬送モータ110とを備えている。キャリッジモータ114は、記録ヘッド51を主走査方向Xに移動するための正逆両方向に回転駆動可能なモータである。キャリッジ52は、キャリッジモータ114により回転駆動するタイミングベルト211に接続され、キャリッジモータ114が回転することにより、タイミングベルト211を介して、主走査方向に配置されたメインレール57に沿って、主走査方向Xに移動する。
【0019】
記録媒体搬送モータ110は、記録媒体であるロール紙82を副走査方向Yに搬送するためのモータである。記録媒体搬送モータ110は、不図示のタイミングベルトによって、従動ローラであるピンチローラ11とローラ対をなす搬送手段である搬送ローラ12を回転駆動させる。エンコーダフィルム212は、搬送ローラ12と一体化されている。不図示のエンコーダセンサによりエンコーダフィルム212全周にあるスリットを読み取り、読み取り結果を後述するCPUに出力する。そして、その読み取り結果に基づいて、CPUが搬送ローラ12の回転量をフィードバック制御する。
【0020】
このように、主走査方向Xに往復運動するキャリッジ52の記録走査と、ロール紙82を所定量ずつ引き出しながら副走査方向Yにピッチ搬送する搬送ローラ12の搬送動作とが各々交互に動作することで目的とする画像形成を達成する。
【0021】
本実施形態の画像形成装置100は、シ−ト状の記録媒体と、ロ−ル状に巻かれた記録媒体(ロ−ル紙)82に印字できるが、ここでは、本体背面側の記録媒体挿入口41から挿入されたロ−ル紙82に画像形成を行う場合について説明する。
【0022】
ロール紙82はスプール81に装填され、プリンタ本体後方に取り付けられる。ユーザーはロ−ル紙82の先端をプリンタ本体後方から記録媒体挿入口41に挿入する。制御部95は、給紙ガイド40の下流に配設された上流側記録媒体検知装置91(例えばフォトインタラプタ)からの検知情報によって記録媒体82の有り無しを検知する。この上流側記録媒体検知装置91は、発行素子から信号光を検出物体に照射し、その反射光を受光素子で受けて信号を出力し、記録媒体82の有無を検知する。記録媒体(ロール紙)82が挿入されたことを検知すると、記録媒体82は給紙ガイドに案内されて、搬送ローラ12とピンチローラ11に狭持されながら、プラテン21の記録ヘッド51直下(画像形成領域)に搬送される。
【0023】
記録ヘッド51直下にあって記録媒体82を支持するプラテン21には、多数の吸引孔22が主走査方向X及び副走査方向Yにそれぞれ整列するように形成されている。吸引孔22は接続ダクト28を介してダクト26と吸引ファン27に接続されている。記録媒体82が記録ヘッド51直下に搬送される際は、吸引ファン27を回転させ、吸引孔22を通してプラテン21上の記録媒体82を吸引保持する。そして、プラテン21上面から記録媒体82が浮かないようにした状態で、前述のようにヘッドを主走査方向Xに往復動作させ画像を形成する。
【0024】
その後、記録媒体82は搬送ローラ12とピンチローラ11に狭持されながらさらに搬送され、印字が完了すると切断装置72にて切断され、本体前面側の記録媒体排紙口42から排出され、本体下に配設されたバスケット37へ収納される。
【0025】
また、図3に示すように、プラテン21上に設けられたインク捕集孔25は、接続ダクト28を介してダクト26と吸引ファン27に接続され、余白なし印刷をするために記録媒体82の外側に吐出されたインクを吸引捕集する。インク捕集孔25で捕集したインクは不図示の廃インク貯蔵庫まで排出される構成になっている。
【0026】
なお、余白なし印刷に対応する記録媒体82の幅は複数あるため、上記のインク捕集孔25はその数に応じて複数設けられる。小サイズ用のインク捕集孔25は大サイズの記録媒体82が搬送される場合には記録媒体82を吸引保持する機能もになう。本実施形態の吸引孔は、プラテン21上に設けられた吸引ファン27と接続する全ての孔を指し、本実施形態では吸引孔22およびインク捕集孔25である。
【0027】
また、接続ダクト28が複数の部屋に分けられているため、他の部屋と連結した吸引孔22又はインク捕集孔25からのエアーリークの影響を最小限に抑えることができる。そして、記録媒体82のサイズ変化による吸引圧の低下を最小限に抑えることができるようになっている。
【0028】
また、本実施形態の場合、記録媒体82の吸着力は負圧発生手段である吸引ファン27の回転数を変えることにより制御できるようになっている。即ち、本実施形態の場合には、吸引ファン27をPWM制御により、ファンの回転数を制御して吸引ファン27による負圧力、即ち吸着力を制御する構成としている。このようなPWM制御のデューティ(Duty)と吸引ファン27による吸引圧との関係は、図4に示すように、デューティが高くなれば吸引圧が高くなる関係となっている。なお、吸引ファン27の吸引圧の最大値(デューティ100%)でも、搬送ローラ12が記録媒体82をプラテン21上で搬送できる程度に、吸引圧は設定されている。
【0029】
[画像形成装置の制御]
次に、本実施形態の画像形成装置100の制御について説明する。図5に示すように、画像形成装置100の制御部95は、制御手段であるCPU101、ROM102、RAM108、入力インターフェース106を有する。CPU101は、ホストコンピュータ104から入力インターフェース106を介して送られた画像データに基づいて、定められたプログラムにより各種パラメータのテーブルを参照する。そして、CPU101は、キャリッジモータ114、記録媒体搬送モータ110、吸引ファン27を駆動し、記録ヘッド51にインク吐出信号を出して画像を形成する。
【0030】
また、CPU101は、記録環境によって上述のテーブルを参照して設定値を決定する。記録環境とは、記録媒体の種類、記録媒体のサイズ、記録媒体へのインク打ち込み量のレベル及び記録モードである。これらのパラメータに対するテーブル値は、あらかじめテーブルに保存されており、CPU101は記録環境とテーブルインデックスを比較し、両者が一致したテーブルの値を参照してそれぞれに設定値を送信する。
【0031】
パラメータテーブルは、リード/ライトが可能な構成であり、記録環境以外のパラメータの変化によって書き換えることが可能である。例えば、周囲温度や湿度、あるいは使用するインクの種類によってテーブル値を書き換えることにより、更に適切な吸着力の設定が可能になる。本実施形態の場合、画像形成装置100の、画像形成中に環境変化が少ない位置、例えば、モータ114、110から離れた位置に、温度と湿度又はその両方を測定する環境センサ107を設けている。
【0032】
特に、本実施形態の場合、CPU101は、画像データから、記録媒体82の搬送方向(副走査方向)に関する第1の設定範囲での記録ヘッド51が吐出するインク滴の数(ドットカウント)を取得する。そして、CPU101は、取得した値が第1の閾値以下の場合に吸引ファン27の負圧力を所定の値(例えば最大値)に設定し、取得した値が第1の閾値を越えた場合に、吸引ファン27の負圧力を所定の値よりも低く設定する制御を行う。
【0033】
ここで、第1の設定範囲とは、副走査方向(記録媒体の搬送方向に対するシートの幅方向)に関して設定された長さで画像形成が行われる範囲である。この第1の設定範囲としては、記録ヘッド51が主走査方向に1回移動(1走査)した場合に画像が形成される長さの2〜8倍とすることが好ましく、より好ましくは3〜6倍である。例えば、記録ヘッド51が1走査した場合、副走査方向に関して25mmの長さの範囲に画像が形成されるとする。本実施形態において、第1の設定範囲は、例えば、この4倍の長さの100mmに設定する。そして、この100mmの長さの範囲内でのドットカウントを取得する。即ち、この範囲内でトッドカウントを累積した値を取得する。
【0034】
具体的には、CPU101は、記録ヘッド51が1走査する際に吐出するドットカウントをそれぞれ取得し、記録ヘッド51が次の走査を行う際には、それまで取得したドットカウント(吐出したドットカウント)を累積して、RAM108に記憶しておく。そして、記録ヘッド51の走査回数が第1の設定範囲に到達した時点で、累積したドットカウントと、これから記録ヘッド51が行う1走査の際に吐出するドットカウントとの合計を第1の閾値と比較する。この到達した時点とは、その走査を行うためのドットカウントをCPU101が取得した時点であり、その走査を行う前である。走査回数が第1の設定範囲に到達した後は、CPU101は、次の走査に必要なドットカウントを取得した時点で、第1の設定範囲が1走査分、副走査方向にずれ、このずれた第1の設定範囲のドットカウントを取得する。言い換えれば、その走査でのドットカウントと、それまで累積したドットカウントから、この走査を行う前の第1の設定範囲における最初の1走査分のドットカウントを差し引いた値とを足し合わせる。そして、次の第1の設定範囲におけるドットカウントの累積値(取得値)とする。このように、第1の設定範囲は、画像形成の進行と共に副走査方向にずれていく。そして、それぞれの第1の設定範囲でのドットカウントを取得し、第1の閾値と比較する。
【0035】
また、第1の閾値とは、第1の設定範囲でこの値よりも大きいドットカウントに応じたインク滴が記録媒体82に打ち込まれた場合に、吸引ファン27による負圧力が大き過ぎる(例えば最大値である)と、コックリングが大きくなってしまう値である。このような第1の閾値は、次述するように、記録媒体82の種類や環境に応じて定まるが、例えば、第1の設定範囲でのドットカウントの最大値に対し、50%以上の値とする。具体的には、普通紙に、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の4色の画像形成を行う場合に、第1の設定範囲でのドットカウントの最大値に対し、例えば60%の値が第1の閾値となる。
【0036】
このような第1の閾値は、記録媒体82の種類及び環境センサ107により検知した湿度に応じて可変である。即ち、ユーザが操作パネル213により記録媒体82の種類を入力することによって、CPU101は第1の閾値を変える。更に、CPU101は、環境センサ107が検知した湿度に応じて第1の閾値を変える。このような記録媒体82の種類及び湿度に応じた閾値は、予め実験などにより求める。
【0037】
記録媒体82は、使用環境の温湿度とその記録媒体82の吸水率から、インクが打ち込まれたときの伸び量が異なる。例えば温度15℃、相対湿度10%の環境下で、主走査方向に300mmの幅、副走査方向に200mmに長さの範囲に、この範囲でのドットカウントの最大値に対し、80%のドットカウントに対するインク滴の打ち込みがあったとする。この場合、記録媒体82として、主走査方向に1mm伸びるものや0.5mm伸びるものなどがある。このため、このパラメータに対するテーブルは記録媒体82の種類毎に設定される。即ち、記録媒体82の種類毎にそれぞれ湿度に対する第1の閾値が設定されたテーブルを持ち、ユーザの入力情報及び環境センサ107の検知結果により、このテーブルを参照して第1の閾値を決定する。
【0038】
また、本実施形態の場合、このような第1の設定範囲での制御を行う前、或は、この制御の後に、次のような制御を行う。まず、CPU101は、画像データから、画像形成開始から搬送方向に関する第1の設定範囲よりも狭い第2の設定範囲での、記録ヘッド51から吐出するインク滴の数(ドットカウント)を取得する。或は、第1の設定範囲でのインク滴の数の取得値が第1の閾値以下となってから第2の設定範囲での、記録ヘッド51から吐出するインク滴の数を取得する。そして、取得した値が、第1の閾値よりも小さい第2の閾値を越えた場合には、CPU101は、吸引ファン27の負圧力を所定の値(例えば最大値)に設定する。一方、取得した値が、第2の閾値以下の場合には、CPU101は、吸引ファン27の負圧力を所定の値よりも低く設定する制御を行う。
【0039】
ここで、第2の設定範囲とは、副走査方向に関して設定された長さで画像形成が行われる範囲である。この第2の設定範囲としては、記録ヘッド51が主走査方向に1回移動(1走査)した場合に画像が形成される長さの2倍以下とすることが好ましい。例えば、記録ヘッド51が1走査した場合、副走査方向に関して25mmの長さの範囲に画像が形成されるとする。本実施形態において、第2の設定範囲は、例えば、この長さである25mmに設定する。そして、この25mmの長さ(1走査)の範囲内でのドットカウントを取得する。
【0040】
また、第2の閾値とは、第2の設定範囲でこの値よりも大きいドットカウントに応じたインク滴が記録媒体82に打ち込まれた場合に、吸引ファン27による負圧力が小さ過ぎる(例えば最大値の60%である)と、記録媒体82が浮き上がってしまう値である。このような第2の閾値は、次述するように、記録媒体82の種類や環境に応じて定まるが、例えば、第2の設定範囲でのドットカウントの最大値に対し、50%以上の値とする。具体的には、普通紙に、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の4色の画像形成を行う場合に、第2の設定範囲でのドットカウントの最大値に対し、60%の値が第2の閾値となる。
【0041】
このような第2の閾値も、第1の閾値と同様に、記録媒体82の種類及び環境センサ107により検知した湿度に応じて可変である。このため、記録媒体82の種類毎にそれぞれ湿度に対する第2の閾値が設定されたテーブルを持ち、ユーザの入力情報及び環境センサ107の検知結果により、このテーブルを参照して第2の閾値を決定するようにしている。
【0042】
上述のように、第1の設定範囲と第2の設定範囲で、吸引ファン27の負圧力を最大値にしたり、所定の値よりも低く設定する制御は、前述のようにPWM制御により行う。例えば、PWM制御のデューティを50〜80%とすることにより、所定の値(デューティ100%)に対し、負圧力を低く設定する。
【0043】
次に、上述のような本実施形態の制御の流れの1例について、図6及び図7を用いて説明する。まず、全体の流れについて、図6により説明する。画像形成をスタートし、CPU101がホストコンピュータ104から画像データを受信する(S1)と、CPU101は、画像データの解析を行い、第2の設定範囲(例えば1走査の長さの範囲)におけるドットカウントを取得する(S2)。そして、取得したドットカウントが第2の閾値(例えば最大値の60%)を超えているか否かを判断する(S3)。ドットカウントが第2の閾値を超えている場合には、吸引ファン27をデューティ100%で駆動する(S4)。ドットカウントが第2の閾値以下である場合には、吸引ファン27をデューティ60%で駆動する(S5)。
【0044】
そして、吸引ファン27をこれらの何れかの出力で駆動した状態で、記録媒体82の搬送を開始し(S6)、記録媒体82に画像データに基づいた印刷を開始する(S7)。印刷中は、図7に示すドットカウント監視シーケンスを実行する(S8)。このシーケンスが終了したら、記録媒体82の搬送及び吸引ファン27を停止し(S9)、印字を終了する。印字が完了すると記録媒体82が切断装置72にて切断され、印字された記録媒体82が記録媒体排紙口42から排出され、本体下に配設されたバスケット37へ収納される。
【0045】
次に、S8のドットカウント監視シーケンスについて、図7を用いて説明する。このシーケンスでは、まず、画像データから、第2の設定範囲(例えば1走査の範囲)におけるドットカウントを取得する(S81)。そして、取得したドットカウントが第2の閾値(例えば最大値の60%)を超えているか否かを判断する(S82)。ドットカウントが第2の閾値を超えている場合には、吸引ファン27をデューティ100%で駆動する(S83)。ドットカウントが第2の閾値以下である場合には、吸引ファン27をデューティ60%で駆動する(S84)。即ち、画像形成開始時には、S82の判断は、図6のS3と同じである。
【0046】
ドットカウントが第2の閾値を超えて、吸引ファン27をデューティ100%で駆動した場合、第1の設定範囲(例えば、1走査の幅の4倍の範囲)におけるドットカウントを累積し、累積した値を取得する(S85)。そして、取得したドットカウントが第1の閾値(例えば最大値の60%)を超えているか否かを判断する(S86)。ドットカウントが第1の閾値を超えている場合には、吸引ファン27をデューティ60%に下げて駆動する(S87)。ドットカウントが第1の閾値以下である場合には、吸引ファン27をデューティ100%のままとする(S88)。
【0047】
ドットカウントが第1の閾値を超えて、吸引ファン27をデューティ60%に下げた場合、画像形成が終了したか否かを判断し(S89)、終了していなければ、S85に戻り、次の第1の設定範囲でのドットカウントを取得する。そして、画像形成が終了するか、或は、第1の設定範囲でのドットカウントが第1の閾値以下となるまで、このような動作を繰り返す。画像形成が終了した場合には、それまで累積したドットカウントをリセットし(S90)、図6のS9に進む。
【0048】
一方、第1の設定範囲でドットカウントが第1の閾値以下で、吸引ファン27をデューティ100%のままとした場合、画像形成が終了したか否かを判断し(S91)、終了していなければ、S81に戻り、次の第2の設定範囲でのドットカウントを取得する。そして、S82で、ドットカウントが第2の閾値を超えた場合、吸引ファン27をデューティ100%のままとし(S83)、S85に進む。ドットカウントが第2の閾値以下である場合、吸引ファン27をデューティ60%に下げ(S84)、画像形成が終了したか否かを判断し(S91)、終了していなければ、S81に戻る。S91で、画像形成が終了した場合、それまで累積したドットカウントをリセットし(S90)、図6のS9に進む。
【0049】
即ち、本実施形態の場合、第2の設定範囲でのドットカウント(インク滴の数の取得値)が第2の閾値を超えた場合には、第1の設定範囲でのドットカウントの累積値に基づいて負圧力の制御を行う。また、ドットカウントが第2の閾値以下の場合には、更に第2の設定範囲でのドットカウント値に基づいて負圧力の制御を行う。
【0050】
このような本実施形態によれば、第1の設定範囲でドットカウントが第1の閾値を越えた場合、即ち、インク滴の打ち込み量が多い場合に、記録媒体82のプラテン21への吸引力を小さくできる。このため、インク滴の打ち込み量に拘らずコックリングを低減できる。そして、このコックリングによる画像の斑や記録ヘッド51と記録媒体82の擦れを低減できる。この結果、例えば、高い濃度の画像をプリントしても良好な画質を得られる。
【0051】
また、本実施形態の場合、画像形成開始時点、或は、第1の設定範囲でのドットカウントが少なった時点から、第2の設定範囲でドットカウントが第2の閾値を超えた場合、記録媒体82のプラテン21への吸引力を大きくしている。即ち、記録媒体82に多量のインクが打ち込まれ始め、記録媒体82が浮き上がり易い条件で、吸引力を大きくしている。このため、記録媒体82の浮き上がりを低減して、良好な画質を得られる。
【0052】
これらの点について、より具体的に説明する。まず、記録媒体82の伸びは、インクが打ち込まれる画像形成領域以降で発生し、プラテン21とプラテン21より搬送方向下流で、その伸びがプラテン21の吸引力が弱い部分に集中する。そして、吸引力が弱い部分で記録媒体82が浮き上がる。そこで、本実施形態では、まず浮き上がりを防止するため、インク量が多い画像が形成される最初の段階、即ち、第2の設定範囲でドットカウントが第2の閾値を超えた場合、吸引力を強く設定している。ここで、インク量が多い画像が形成される最初の段階とは、画像形成開始時点だけではなく、画像形成の途中でも、それまでインクの打ち込みが少なく、それ以降にインク量が多くなった時点も該当する。
【0053】
次に、画像形成が進み、広範囲に多量のインクが打ち込まれた場合、吸引力が強いと、コックリングが大きくなってしまう。即ち、図8(a)に示すように、吸引力が強いと、プラテン21に吸着されている部分はそのまま吸着され、吸引孔22から外れて浮き上がっている部分は、記録媒体82が伸びた分だけ更に高さ方向へ高くなってしまう。そこで、本実施形態では、広範囲に多量のインクが打ち込まれる状態となった場合、即ち、第1の設定範囲で第1の閾値を超えた場合に、吸引力を低くするように制御している。これにより、図8(b)に示すように、記録媒体82の浮きを分散して、この浮きが集中することを抑え、コックリングを低減できる。
【0054】
以上のように、本実施形態によれば、高い濃度の記録によって発生する紙浮き現象を効果的に抑えることが可能である。さらに、記録媒体82の部分ごとにインク打ち込み量によって最適に設定されたファンの回転数を用いることで、騒音も低減することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
12・・・搬送ローラ(搬送手段)、21・・・プラテン(支持部材)、22・・・吸引孔、27・・・吸引ファン(負圧発生手段)、51・・・記録ヘッド、51a・・・ノズル、82・・・ロール紙(記録媒体)、100・・・画像形成装置、101・・・CPU(制御手段)、107・・・環境センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データに基づいて、ノズルからインク滴を吐出し記録媒体に画像を形成する記録ヘッドと、前記記録ヘッドに対向して配置され、複数の吸引孔を有する支持部材と、前記複数の吸引孔に接続される負圧発生手段と、記録媒体を搬送する搬送手段と、を備え、前記負圧発生手段が発生させた負圧力で前記支持部材に記録媒体を吸着しつつ該記録媒体を前記搬送手段が搬送し、前記支持部材に吸着させられた記録媒体に前記記録ヘッドが画像形成を行う画像形成装置において、
記録媒体の第1の設定範囲で前記記録ヘッドが吐出するインク滴の数を画像データから取得し、取得した値が第1の閾値以下の場合、前記負圧発生手段が発生させる負圧力を所定の値に設定し、取得した値が前記第1の閾値を越えた場合、前記負圧発生手段が発生させる負圧力を前記所定の値よりも低く設定する制御を行う制御手段を有する、
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記制御手段は、画像形成開始時、前記第1の設定範囲よりも狭い第2の設定範囲における、前記記録ヘッドから吐出するインク滴の数を、画像データから取得し、取得した値が、前記第1の閾値よりも小さい第2の閾値を越えた場合、前記負圧発生手段が発生させる負圧力を前記所定の値に設定し、前記第2の閾値以下の場合、前記負圧発生手段が発生させる負圧力を前記所定の値よりも低く設定する制御を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記第2の設定範囲でのインク滴の数の取得値が前記第2の閾値を超えた場合には、前記第1の設定範囲でのインク滴の数の取得値に基づいた負圧力の制御を行い、前記取得値が前記第2の閾値以下の場合には、更に前記第2の設定範囲でのインク滴の数の取得値に基づいた負圧力の制御を行う、
ことを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1の設定範囲でのインク滴の数の取得値が前記第1の閾値を越えた場合、前記負圧発生手段が発生させる負圧力を前記所定の値よりも低く設定し、その後更に、前記第1の設定範囲でのインク滴の数の取得値に基づいた負圧力の制御を行い、前記第1の設定範囲でのインク滴の数の取得値が前記第1の閾値以下となった場合、前記負圧発生手段が発生させる負圧力を前記所定の値に設定し、その後、前記第2の設定範囲でのインク滴の数の取得値に基づいた負圧力の制御を行う、
ことを特徴とする請求項3記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記制御手段は、記録媒体の種類に応じて前記第1の閾値を可変とした、
ことを特徴とする請求項1ないし4のうちの何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記制御手段は、記録媒体の種類に応じて前記第2の閾値を可変とした、
ことを特徴とする請求項2ないし5のうちの何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
湿度を検知する環境センサを有し、
前記制御手段は、前記環境センサにより検知した湿度に応じて前記第1の閾値を可変とした、
ことを特徴とする請求項1ないし6のうちの何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
湿度を検知する環境センサを有し、
前記制御手段は、前記環境センサにより検知した湿度に応じて前記第2の閾値を可変とした、
ことを特徴とする請求項2ないし7のうちの何れか1項に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−255591(P2011−255591A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132015(P2010−132015)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】