説明

画像形成装置

【課題】画像形成時に商用電源の許容電力を従来よりも有効に利用して、定着加熱装置に効率よく電力を供給可能にする。
【解決手段】画像形成装置1は、第2電流検出部46で検出される電流値をフィードバックし、商用電源の定格電流値を目標値として、励磁コイルに供給する電流の値を算出する定着電流算出部511と、装置全体の総駆動電流値から商用電源の定格電流値を減算した値を、第2電流検出部46で検出された電流値から減算して、励磁コイル43への供給電流値を算出する許容電流算出部512と、定着電流算出部511及び許容電流算出部512で算出された電流値に対応する周波数を算出するIH制御部41と、上記総駆動電流値に応じて、定着電流算出部511又は許容電流算出部512のいずれに、励磁コイル43への供給電流値を算出させるかを切り替える切替部513とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
誘導加熱方式の定着加熱装置による定着加熱を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
励磁コイルに高周波電流を供給して被加熱体を発熱させる誘導加熱方式の定着加熱装置、及びこれを搭載した画像形成装置が知られている。この定着加熱装置は、励磁コイルに供給する高周波電流の周波数を高くするほど定着加熱装置で消費する電力は低くなり、高周波電流の周波数を低くするほど定着加熱装置で消費する電力は高くなる特性がある。当該定着加熱装置では、被加熱体の温度を一定に維持するために必要な電力に近付けるために、実際の加熱時における消費電力をフィードバックし、この消費電力に応じて高周波電流の周波数をPID制御することで安定した電力を供給している。
【0003】
また、下記特許文献1に示されるように、電源投入時には、定着装置以外で消費する電力量を差し引いた全ての電力が励磁コイルに供給されて加熱されるとともに、複写装置の各構成および複写装置にさらに付加される補助装置が動作するにつれて、入力許容電力から複写装置の各構成および複写装置にさらに付加される補助装置が消費する電力を差し引いた電力が供給されて加熱される複写装置も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−122124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に示された画像形成装置の場合、当該画像形成装置に接続されたオプション機器等の動作等の如何に応じて、当該オプション機器を含む画像形成装置全体で使用する総電力が頻繁に変化すると、定着加熱装置に供給する電力の変更が当該総電力の頻繁な変化に追い付かなくなり、画像形成装置の総電力が商用電源の許容電力を超えてしまう虞がある。これを解消するために、励磁コイルに供給する電力を、上記総電流が最大値となっても商用電源の許容電力を超えない最も低い値に設定する固定電力制御が行われる。しかし、このように固定電力制御を行うと、オプション機器等の動作如何によって、商用電源の許容電力範囲内で定着加熱装置に供給できる電力に余裕ができた場合であっても、当該余裕分の電力を定着加熱装置に供給しないため、定着加熱装置に効率よく電力を供給できないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、画像形成時に商用電源の許容電力を従来よりも有効に利用して、定着加熱装置に効率よく電力を供給可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載の発明は、被加熱体を電磁誘導により発熱させる励磁コイルと、
前記被加熱体の温度を検出する温度検出部と、
当該画像形成装置を駆動制御する本体側制御部と、
前記本体側制御部の制御による当該画像形成装置の駆動に用いられる駆動電流の値を検出する第1電流検出部と、
前記励磁コイルに対して高周波電流をその周波数を変化させて供給する電流供給制御部と、
前記励磁コイルに供給される電流の値を検出する第2電流検出部と、
前記励磁コイルに供給される電源電圧の値を検出する電圧検出部と、
前記温度検出部によって検出される前記被加熱体の表面温度を、画像形成時に用いられる予め定められた表面温度にするために、前記第2電流検出部によって検出される電流値をフィードバックし、商用電源の定格電流値に相当する電流値を目標値として、前記励磁コイルに供給する電流の値を算出する定着電流算出部と、
前記第1電流検出部によって検出される駆動電流値から、予め記憶している商用電源の定格電流値を減算した値を、前記第2電流検出部によって検出された電流値から減算することによって、前記励磁コイルに供給する電流の値を算出する許容電流算出部と、
前記定着電流算出部及び前記許容電流算出部によって算出された電流値に対応する周波数を前記電流供給制御部に出力する周波数設定部と、
前記第1電流検出部によって検出される駆動電流値に応じて、前記定着電流算出部又は前記許容電流算出部のいずれに、前記励磁コイルに供給する電流の値を算出させるかを切り替える切替部と
を備えるである。
【0008】
この発明では、第1電流検出部によって検出される駆動電流値に応じて、定着電流算出部又は許容電流算出部のいずれかにより励磁コイルへの供給電力が設定されるので、例えば、励磁コイルへの供給電力を短時間で商用電源の定格電力内に戻す必要がある場合には、励磁コイルへの供給電力を大幅に変更可能な許容電流算出部により、励磁コイルに供給する電流の値を算出させ、励磁コイルへの供給電力を短時間に急激に変化させる必要がない場合には、励磁コイルに供給する電流の値をフィードバック制御により正確に変更可能な定着電流算出部により当該電流値の算出を行わせる、等の制御が可能になる。すなわち、本発明によれば、画像形成時に商用電源の許容電力を従来よりも有効に利用して、励磁コイルを備える定着加熱装置に効率よく電力を供給することが可能となる。
【0009】
また、本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の画像形成装置であって、前記切替部は、前記第1電流検出部によって検出される駆動電流値が商用電源の定格電流値を上回る値となった場合に、前記励磁コイルに供給する電流の値を前記許容電流算出部が算出し、前記第1電流検出部によって検出される駆動電流値が商用電源の定格電流値を上回る値となっていない場合には、前記励磁コイルに供給する電流の値を前記定着電流算出部が算出するように切り替えるものである。
【0010】
この発明によれば、画像形成装置全体で用いられている総電流が商用電源の定格電流値を超えるような事態となって、励磁コイルへの供給電力を短時間に急激に変化させる必要がある場合には、許容電流算出部により、励磁コイルへの供給電流が適切な値へと大幅に変更され、画像形成装置全体で用いられている総電流が商用電源の定格電流値を超えておらず、励磁コイルへの供給電力を短時間に急激に変化させる必要がない場合には、定着電流算出部により、励磁コイルへの供給電流を正確に変更することが可能になる。これにより、画像形成装置全体の総電力が商用電源の許容電力を超えるような事態となっても、即座に当該事態を回避可能である。
【0011】
また、本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の画像形成装置であって、前記許容電流算出部は、前記第1電流検出部によって検出される駆動電流値から、予め記憶している商用電源の定格電流値を減算した値を、前記第2電流検出部によって検出された電流値から減算した値が、前記商用電源の定格電流値よりも小さい予め定められた定着上限電流値を上回る場合は、当該定着上限電流値を前記励磁コイルに供給する電流の値として算出するものである。
【0012】
この発明によれば、励磁コイルに供給する電流の値が、商用電源の定格電流値よりも小さい値となるので、画像形成装置全体で用いられている総電流が商用電源の定格電流値を超えるような事態となって、励磁コイルへの供給電力を短時間に大幅に適切な値に変更させる場合に、当該変更後の励磁コイルへの供給電力を、確実に商用電源の定格電力を下回らせることが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、画像形成時に商用電源の許容電力を従来よりも有効に利用でき、定着加熱装置に効率よく電力を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の内部構成を概略的に示した側面図である。
【図2】定着装置と、誘導加熱装置と、当該定着装置の制御に関連する本体側制御部の動作機能を説明するためのブロック図である。
【図3】複数の周波数変化パターンの例をグラフで示す図である。
【図4】定着装置の定着動作時におけるIH制御部による励磁コイルへの供給電流制御を示すフローチャートである。
【図5】IH制御部による電流制御の例をグラフにより示す図である。
【図6】励磁コイルに供給する電力と、画像形成装置における定着装置以外の各動作機構部で消費される電力と、画像形成装置で消費される総電力量との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る誘導加熱装置、定着装置及び画像形成装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置1の内部構成を概略的に示した側面図である。尚、画像形成装置1は、複写機、プリンタ及びファクシミリ機等であり、用紙に載せられたトナー像を加圧・加熱によって定着させるプロセスを持つ画像形成装置であればよい。画像形成装置1は、本体部2、本体部2の左方に配設されたスタックトレイ3、本体部2の上部に配設された原稿読取部4、原稿読取部4の上方に配設された原稿給送部5を備えている。
【0016】
また、画像形成装置1のフロント部には、操作部6が設けられている。この操作部6には、電源キーやユーザが印刷実行指示を入力するためのスタートキー、印刷部数等を入力するためのテンキー、各種複写動作の操作ガイド情報等を表示し、これら各種設定入力用にタッチパネル機能を有する液晶ディスプレイ等からなる表示部9等を有する。
【0017】
原稿読取部4は、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のイメージセンサ及び露光ランプ等からなるスキャナ部13、ガラス等の透明部材により構成された原稿台14及び原稿読取スリット15を備える。スキャナ部13は、図略の駆動部によって移動可能に構成され、原稿台14に載置された原稿を読み取るときは、原稿台14に対向する位置で原稿面に沿って移動され、原稿画像を走査しつつ取得した画像データを画像メモリ(不図示)へ出力する。また、原稿給送部5により給送された原稿を読み取るときは、原稿読取スリット15と対向する位置に移動され、原稿読取スリット15を介して原稿給送部5による原稿の搬送動作と同期して原稿の画像を取得し、その画像データを画像メモリへ出力する。
【0018】
原稿給送部5は、原稿を載置するための原稿載置部16と、画像読み取り済みの原稿を排出するための原稿排出部17、原稿載置部16に載置された原稿を1枚ずつ繰り出して原稿読取スリット15に対向する位置へ搬送し、原稿排出部17へ排出するための給紙ローラや搬送ローラ(不図示)等からなる原稿搬送機構18を備える。
【0019】
また、原稿給送部5は、その前面側が上方に移動可能となるように本体部2に対して回動自在に設けられている。原稿給送部5の前面側を上方に移動させて原稿台14上面を開放することにより、原稿台14の上面に読み取り原稿、例えば見開き状態にされた書籍等をユーザが載置できるようになっている。
【0020】
本体部2は、複数の給紙カセット19と、給紙カセット19から用紙を1枚ずつ繰り出して画像形成部21へ搬送する給紙ローラ20と、給紙カセット19から搬送されてきた用紙に画像を形成する画像形成部21とを備える。
【0021】
画像形成部21は、スキャナ部13で取得された画像データに基づきレーザ光等を出力して感光体ドラム22を露光し、感光体ドラム22の表面に静電潜像を形成する光学ユニット23と、静電潜像が形成された感光体ドラム22の表面にトナーを付着することによりトナー像を形成する現像部24と、感光体ドラム22上のトナー像を用紙に転写する転写部25とを備える。
【0022】
定着装置(定着加熱装置)28は、トナー像が転写された用紙を加熱してトナー像を用紙に融解定着させる熱ローラ26及び加圧ローラ27を備える。
【0023】
画像形成部21内の用紙搬送路中には、用紙をスタックトレイ3又は排出トレイ29まで搬送する搬送ローラ対30及び31等が備えられている。
【0024】
また、用紙の両面に画像を形成する場合は、画像形成部21で用紙の一方の面に画像を形成した後、この用紙を排出トレイ29側の搬送ローラ対30,31にニップされた状態とする。この状態で搬送ローラ対30,31を反転させて用紙をスイッチバックさせ、搬送ローラ対38及び39が用紙を用紙搬送路32に送って画像形成部21の上流域に再度搬送し、画像形成部21により他方の面に画像を形成した後、用紙をスタックトレイ3又は排出トレイ29に排出する。
【0025】
図2は、定着装置28と、誘導加熱装置10と、当該定着装置28の制御に関連する本体側制御部51の動作機能を説明するためのブロック図である。
【0026】
本体側制御部51は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)等によって構成され、画像形成装置1の各構成部から入力された指示信号等に応じてプログラムを読み出して処理を実行し、各機能部への指示信号の出力等を行って画像形成装置1を統括的に制御する。
【0027】
本体側制御部51は、画像形成時に定着装置28に定着動作を開始させる定着指示信号と、駆動回路42による励磁コイル43への高周波電流の供給を停止させる電流遮断指示信号とをIH制御部41へ出力する。
【0028】
さらに、本体側制御部51は、定着電流算出部511と、許容電流算出部512と、切替部513とを備える。
【0029】
定着電流算出部511は、温度センサ44によって検出される熱ローラ26の表面温度に基づいて、熱ローラ(被加熱体)26の表面温度を、画像形成時に用いる予め定められた表面温度(例えば、180〜200℃)にするために、第1電流検出部48によって検出される電流値をフィードバックし、商用電源の定格電流値に相当する電流値(一例として、商用電源の定格電流値よりも予め定められた値だけ小さい電流値。例えば、14.6A。商用電源の定格電流値15A,定格電力1500Wの場合)を目標値として得られる、励磁コイル43に供給する電流の値を算出する。定着電流算出部511による定着電流算出の詳細は後述する。定着電流算出部511は、算出した電流値を定着電流値としてIH制御部41に出力する。
【0030】
許容電流算出部512は、第1電流検出部48によって検出される画像形成装置1全体の駆動に用いられる駆動電流から、商用電源の定格電流(予め設定された固定値。例えば、15A。定格電力1500W時)を減算した値を、第1電流検出部48によって検出された電流値から更に減算することによって、励磁コイル43に供給可能な許容電流の値を算出する。許容電流算出部512は、算出した電流値を許容電流値としてIH制御部41に出力する。
【0031】
なお、許容電流算出部512は、上記のように算出した許容電流の値が、商用電源の上記定格電流値よりも小さい予め定められた定着上限電流値(例えば、画像形成装置1における定着装置28以外の各動作機構7が全て動作している状態で、励磁コイル43に高周波電流を供給しても、第2電流検出部48によって検出される駆動電流値が、商用電源の定格電流値を超えないと想定される励磁コイル43への供給電流値)を上回る場合は、当該定着上限電流値を許容電流値として算出する。例えば、商用電源の上記定格電流値が15Aの場合、当該予め定められた値を2Aとし、定着上限電流値を13Aとする。
【0032】
切替部513は、第1電流検出部48によって検出される画像形成装置1全体の駆動電流値に応じて、定着電流算出部511又は許容電流算出部512のいずれに、励磁コイル43に供給する電流の値を算出させるかを切り替える。
【0033】
第1電流検出部48は、本体側制御部51の制御による当該画像形成装置1の駆動に用いられている駆動電流の値を検出する。
【0034】
定着装置28は、熱ローラ26、加圧ローラ27(図2では不図示)、IH制御部41、駆動回路42、励磁コイル43、温度センサ44、電圧検出部45、及び第2電流検出部46を有する。なお、誘導加熱装置10は、IH制御部41、駆動回路42、励磁コイル43、温度センサ44、電圧検出部45、及び電流検出部46を備えている。なお、誘導加熱装置10のうち、励磁コイル43を除く部分は、定着装置28とは別個に画像形成装置1の本体部2に備えられていてもよい。
【0035】
励磁コイル43は、導電性材料からなる筒状の熱ローラ26の内部に設けられている。なお、本実施形態では、熱ローラ26が特許請求の範囲でいう被加熱体の一例である。
【0036】
温度センサ(温度検出部)44は、熱ローラ26の表面温度を検出するセンサである。温度センサ44は、検出した当該表面温度を、本体側制御部51に出力する。
【0037】
電圧検出部45は、熱ローラ26内の励磁コイル43に供給される電源電圧を検出し、検出した電圧値をIH制御部41に出力する。
【0038】
第2電流検出部46は、熱ローラ26内の励磁コイル43に供給される高周波電流を検出し、検出した電流値をIH制御部41に出力する。
【0039】
駆動回路(電流供給制御部)42は、IH制御部41による制御で駆動し、IH制御部41から出力されてくる周波数で励磁コイル43に高周波電流を供給する。この電流供給により励磁コイル43に生じた高周波磁界で、導電性材料からなる熱ローラ26本体に誘導渦電流が発生し、熱ローラ26が発熱するようになっている。
【0040】
IH(Induction Heating)制御部41は、CPU等によって構成され、本体側制御部51から出力された指示信号に応じて駆動回路42を制御する。具体的には、IH制御部41は、本体側制御部51から出力された定着指示信号に基づいて熱ローラ26を発熱させるとき、励磁コイル43に供給する高周波電流の周波数を算出して駆動回路42に出力する。また、本体側制御部51から電流遮断指示信号が出力された場合、IH制御部41は駆動回路42に対して電流遮断制御を行う。この電流遮断制御により、駆動回路42は励磁コイル43に対する高周波電流の供給を停止する。
【0041】
IH制御部(周波数設定部)41は、定着電流算出部511及び許容電流算出部512から出力されてきた電流値に対応する周波数を設定して駆動回路42に出力する。
【0042】
IH制御部41による当該周波数設定は、例えば、定着電流算出部511又は許容電流算出部512から出力されてきた電流値に、電圧検出部45によって検出された電圧値を乗じて得られる上限電力と、温度センサ44により検出された熱ローラ26の表面温度と、電圧検出部45によって検出された電圧値とを用いて直接に、励磁コイル43に供給する高周波電流の周波数を算出することによって行われる。この場合、IH制御部41は、図略の周波数変化パターン記憶部を有する。周波数変更パターン記憶部は、ROMや不揮発性メモリ等からなり、上記の上限電力に応じて変化させる励磁コイル43への高周波電流の周波数のパターンである周波数変化パターンが、電圧検出部45による検出電圧及び温度センサ44による検出温度に応じて複数記憶された記憶テーブルを有している。
【0043】
図3は、当該複数の周波数変化パターンの例をグラフで示す図である。図3には、例として、表面温度Tが50℃,電源電圧値Vが120(V)の場合に用いる周波数変化パターンを実線で示し、表面温度Tが150℃,電源電圧値Vが120(V)の場合に用いる周波数変化パターンを
破線で示し、表面温度Tが50℃,電源電圧値Vが100(V)の場合に用いる周波数変化パターンを一点鎖線で示し、表面温度Tが150℃,電源電圧値Vが100(V)の場合に用いる周波数変化パターンを二点鎖線で示している。但し、周波数変更パターン記憶部に記憶される周波数変化パターンの数を4つに限定する趣旨ではない。様々な高周波電流の供給開始直前における熱ローラ26の表面温度T及び熱ローラ26に供給される電源電圧値Vに対応すべく、多くの周波数変化パターンが周波数変更パターン記憶部に記憶されていることが好ましい。
【0044】
IH制御部41は、電圧検出部45による検出電圧及び温度センサ44による検出温度に対応する周波数変化パターンを周波数変更パターン記憶部から読み出し、上記上限電力の値に対応する周波数を、当該読み出した周波数変化パターンから算出し、励磁コイル43に供給する高周波電流の周波数を、当該算出した周波数に設定する。
【0045】
なお、IH制御部41は、電圧検出部45による検出電圧及び温度センサ44による検出温度に対応する周波数変化パターンが周波数変更パターン記憶部に記憶されていない場合は、上記周波数変更パターン記憶部に記憶されている周波数変化パターンに基づいた線形補間により、上記高周波電流の周波数を算出する。
【0046】
IH制御部41による当該線形補間の例として、ベルト温度T=100℃、電源電圧V=110V、上限電力Pt=1000Wの場合の励磁コイル43に供給する高周波電流の周波数f[V=110,T=100,Pt=1000]を算出する計算式を示す。
上記図3に示す周波数変化パターンより、
f1[V=100,T=50,Pt=1000] = 24.6[kHz]・・・・・式(1)
f2[V=120,T=50,Pt=1000] = 27.1[kHz]・・・・・式(2)
f3[V=100,T=150,Pt=1000] = 23.2[kHz]・・・・・式(3)
f4[V=120,T=150,Pt=1000] = 25.6[kHz]・・・・・式(4)
式(1)、式(2)に基づく線形補間により以下を算出する。
f5[V=110,T=50,Pt=1000] = (110 -100)×(f2 - f1) / (120 - 100) + f1 = 25.8[kHz]・・・式(5)
式(3)、式(4) に基づく線形補間により以下を算出する。
f6[V=110,T=150,Pt=1000] = (110 -100)×(f4 - f3) / (120 - 100) + f3 = 24.3[kHz]・・・式(6)
式(5)、式(6) に基づく線形補間により以下を算出する。
f7[V=110,T=100,Pt=1000] = (100 -50)×(f6 - f5) / (150 - 50) + f5 = 25.1[kHz]・・・式(7)
以上より、IH制御部41は、ベルト温度T=100℃、電源電圧V=110V、上限電力Pt=1000Wの場合には、励磁コイル43に供給する高周波電流の周波数f[V=110,T=100,Pt=1000]として、上記線形補間により算出した25.1[kHz](式(7))を用いる。
【0047】
なお、本実施形態では、このように、周波数変更パターン記憶部に記憶されている周波数変化パターンに基づいて、IH制御部41はテーブル制御により周波数設定制御を行う。
【0048】
このように、IH制御部41では、上記上限電力の値の増減に応じて、駆動回路42に出力する高周波電流の周波数を変更することにより、励磁コイル43に供給する電力値を変化させ、励磁コイル43に供給される電力値が上記上限電力の値に一致するように制御する。
【0049】
次に、定着装置28の定着動作時におけるIH制御部41による励磁コイル43への供給電流制御を説明する。図4は、定着装置28の定着動作時におけるIH制御部41による励磁コイル43への供給電流制御を示すフローチャートである。図5はIH制御部41による電流制御の例をグラフにより示す図である。図6は、励磁コイル43に供給する電力と、画像形成装置1における定着装置28以外の各動作機構部で消費される電力と、画像形成装置1で消費される総電力量との関係を示した図である。
【0050】
例えば本体側制御部51が画像形成動作開始の指示を受け付けると(S1でYES)、定着電流算出部511は、温度センサ44によって検出される熱ローラ26の表面温度に基づいて、熱ローラ26の表面温度を、画像形成時に用いる予め定められた表面温度にするために、第1電流検出部48によって検出される電流値をフィードバックし、商用電源の定格電流値に相当する電流値を目標値として、励磁コイル43に供給する電流(定着電流)の値をPID制御により算出し、IH制御部41に出力する(S2)。
【0051】
例えば、定着電流算出部511は、温度センサ44によって検出される熱ローラ26の表面温度Aと、上記画像形成時に用いる予め定められた表面温度Bとを比較し、表面温度Aが表面温度Bに至っていないときは、下記により定着電流値Q(n)を算出する。
【0052】
MVn = Kp (En - En1) + Ki En + Kd (En - 2*En1 + En2) ・・・式1
Q(n)= Q(n-1) + MVn*C
En2 = It-Im2
En1 = It-Im1
En = It-Im
MVn:電流値の増減量(操作量)
Kp, Ki, Kd:定数
Q(n):定着電流値
Q(n-1):前回の定着電流値
C:MVnを増減させる定数
It :商用電源の定格電流値に相当する電流値(例えば、14.6Aのように定格電流15Aよりも低い値)
Im:第1電流検出部48によって検出された今回の電流値
Im1:第1電流検出部48によって検出された前回の電流値(前回の定着電流算出時)
Im2:第1電流検出部48によって検出された前々回の電流値(前々回の定着電流算出時)
S2で算出された定着電流値Q(n)がIH制御部41に入力されると、IH制御部41は、当該定着電流値Q(n)に対応する周波数(駆動回路42に出力する周波数)を上記に示した算出方法により導き出す(S3)。IH制御部41は、当該算出した周波数を駆動回路42に出力し、駆動回路42は、当該周波数からなる高周波電流を励磁コイル43に供給する。
【0053】
ここで、本体側制御部51の切替部513は、第1電流検出部48によって検出される駆動電流値が商用電源の定格電流値を上回っているかを判断する(S4)。切替部513は、当該第1電流検出部48によって検出される駆動電流値が商用電源の定格電流値を上回っていると判断した場合(S4でYES)、許容電流算出部512が上記許容電流値を算出するように設定し、IH制御部41に許容電流算出部512から出力される許容電流値が入力するように設定する(S8)。許容電流算出部512は、許容電流値の算出を、例えば以下のようにして行う。
【0054】
許容電流値Q(n)、画像形成装置1の駆動時における実際の駆動電流値Im(A)、商用電源の定格電流値Imr(A)、励磁コイル43に供給されている電流の電流値Ims(A)、とした場合、許容電流算出部512は、許容電流値Q(n)=電流値Ims−(駆動電流値Im(A)−定格電流値Imr(A))として許容電流値を算出する。
【0055】
このため、駆動電流値Im(A)が定格電流値Imr(A)よりも大きい場合は、それまで励磁コイル43に供給されていた電流の電流値Ims(A)から、駆動電流値Im(A)と定格電流値Imr(A)との差分を減じた値が許容電流値Q(n)となり、定格電流値Imr(A)が駆動電流値Im(A)よりも大きい場合は、それまで励磁コイル43に供給されていた電流の電流値Ims(A)に、駆動電流値Im(A)と定格電流値Imr(A)との差分の絶対値を加算した値が許容電流値Q(n)となる。
【0056】
なお、許容電流算出部512は、許容電流値Q(n)が上述した定着上限電流値を上回る場合は、当該定着上限電流値を許容電流値として算出する。
【0057】
そして、IH制御部41は、当該許容電流算出部512から入力される許容電流値に対応する周波数(駆動回路42に出力する周波数)を上記に示した算出方法により算出する(S6)。IH制御部41は、当該算出した周波数を駆動回路42に出力し、駆動回路42は、当該周波数からなる高周波電流を励磁コイル43に供給する。
【0058】
また、切替部513は、第1電流検出部48によって検出される駆動電流値が商用電源の定格電流値を上回っていないと判断した場合は(S4でNO)、定着電流算出部511が上記定着電流値を算出する設定を維持し、IH制御部41に定着電流算出部511から出力される定着電流値が入力する設定とする(S5)。IH制御部41は、当該定着電流値に対応する周波数(駆動回路42に出力する周波数)を上記に示した算出方法により算出し(S6)、当該算出した周波数を駆動回路42に出力する。駆動回路42は、当該周波数からなる高周波電流を励磁コイル43に供給する。
【0059】
本体側制御部51がIH制御部41に電流遮断指示信号を出力する状態に至るまで、IH制御部41、切替部513、定着電流算出部511、及び許容電流算出部512は、S4乃至S6、S8の処理を繰り返し(S7でNO)、本体側制御部51がIH制御部41に電流遮断指示信号を出力する状態に至ると(S7でYES)、IH制御部41は、当該励磁コイル43への供給電力制御を終了する。
【0060】
上記制御によれば、図5に示すように、第1電流検出部48によって検出される画像形成装置1全体での総駆動電流が、商用電源の定格電流以下である場合は、励磁コイル43に供給される電流値は、定着電流算出部511により算出される定着電流値となるため、この定着電流値は急激には上昇せず、PID制御により徐々に、商用電源の定格電流値から各動作機構7の駆動電流値を差し引いた限界値に相当する値まで近付く。一方、各動作機構7の駆動等により、画像形成装置1全体での総駆動電流値が上昇して商用電源の定格電流値を超えた場合、許容電流算出部512により算出された許容電流値が適用されるため、即座に超えた分だけ、励磁コイル43に供給される電流値が下がる。このように励磁コイル43に供給される電流値が下がって、画像形成装置1全体の総駆動電流が減少して、商用電源の定格電流まで余裕が生まれた場合は、再び、励磁コイル43に供給される電流値は、定着電流算出部511により算出される定着電流値となるため、この定着電流値はPID制御により緩やかに推移する。
【0061】
また、図6に示すように、IH制御部41は、当該画像形成装置1における定着装置28以外の各動作機構部によって消費される消費電力に応じて、励磁コイル43に供給可能な最大限の電力(画像形成装置1が商用電源から最大限に受け入れ可能な電力であるピーク電力と、当該画像形成装置1における定着装置28以外の各動作機構部によって消費される消費電力との差)を、励磁コイル43に供給することになるため、励磁コイル43に供給する電力と、定着装置28以外の各動作機構部によって消費される消費電力との合計電力量が、商用電源の定格電力に近付く。これにより、商用電源からの電力を、熱ローラ26の加熱のために最大限に供給可能となり、商用電源から得られる電力を有効に活用することができる。また、励磁コイル43に供給する電力と、定着装置28以外の各動作機構部によって消費される消費電力との合計電力量が一時的に商用電源の定格電力を超えるような場合であっても、当該合計量を迅速に商用電源の定格電力内に戻すことが可能である。
【0062】
なお、上記各実施形態によれば、画像形成装置1の定着装置28以外の各動作機構7等で必要な駆動電力が頻繁に変化する場合でも、当該画像形成装置1全体の総駆動電力が、常に商用電源の定格電力を超えない状態を平均的に保って、商用電源の電力を効率よく定着装置28での加熱に用いることができる。当該定着装置28に効率よく電力を供給できることにより、熱ローラ26の表面温度を急速に立ち上げ可能となり、画像形成装置1のウォームアップに必要に時間も短縮される。
【0063】
また、画像形成装置1にオプション機器が追加されて駆動され、画像形成装置1全体での総駆動電力が変化した場合であっても、当該追加されたオプション機器を含めた画像形成装置1全体の総駆動電流値が第1電流検出部48により検出され、上限電力算出部511による上限電力算出に用いられるようにすれば、当該追加されたオプション機器を含めた画像形成装置1全体の総駆動電力が商用電源の定格電力を超えない状態を平均的に保って、商用電源の電力を効率よく定着装置28での加熱に用いることができる。
【0064】
同様に、画像形成装置1が量産された場合に、各装置固有の部品ばらつきにより各装置の総駆動電流値が異なるような場合でも、上記各実施形態による励磁コイル43への供給電力制御では、各装置毎の総駆動電流値の差を見越したマージンを設定した制御を行わなくてよい。このため、画像形成装置1を、その動作モードや各装置の状態に左右されないロバスト設計することが可能になる。
【0065】
なお、本発明は上記実施の形態の構成に限られず種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、被加熱体の例として励磁コイル43及び熱ローラ26を示し、また、本発明に係る誘導加熱装置が適用される例として定着装置28及び画像形成装置1を示しているが、本発明をこれらに限定する趣旨ではない。
【0066】
また、上記実施形態で示したフィードバック制御は単なる一例に過ぎず、本発明で行うフィードバック制御を上記に示した内容に限定する趣旨ではない。
【0067】
また、上記実施形態では、励磁コイル43への供給電流制御に用いる各種電流値及び各種電力の算出は、本体側制御部51で行うものとしているが、この構成は単なる一例に過ぎず、例えば、当該各種電流値及び各種電力の算出をIH制御部41において行うようにしてもよい。
【0068】
また、図1乃至図6に示す構成及び処理は、本発明に係る誘導加熱装置10、定着装置28及び画像形成装置1の構成及び処理の一実施形態に過ぎず、本発明に係る誘導加熱装置10、定着装置28及び画像形成装置1を当該構成及び処理に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0069】
1 画像形成装置
10 誘導加熱装置
26 熱ローラ
27 加圧ローラ
28 定着装置
41 IH制御部
42 駆動回路
43 励磁コイル
44 温度センサ
45 電圧検出部
46 第2電流検出部
48 第1電流検出部
51 本体側制御部
511 定着電流算出部
512 許容電流算出部
513 切替部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱体を電磁誘導により発熱させる励磁コイルと、
前記被加熱体の温度を検出する温度検出部と、
当該画像形成装置を駆動制御する本体側制御部と、
前記本体側制御部の制御による当該画像形成装置の駆動に用いられる駆動電流の値を検出する第1電流検出部と、
前記励磁コイルに対して高周波電流をその周波数を変化させて供給する電流供給制御部と、
前記励磁コイルに供給される電流の値を検出する第2電流検出部と、
前記励磁コイルに供給される電源電圧の値を検出する電圧検出部と、
前記温度検出部によって検出される前記被加熱体の表面温度を、画像形成時に用いられる予め定められた表面温度にするために、前記第2電流検出部によって検出される電流値をフィードバックし、商用電源の定格電流値に相当する電流値を目標値として、前記励磁コイルに供給する電流の値を算出する定着電流算出部と、
前記第1電流検出部によって検出される駆動電流値から、予め記憶している商用電源の定格電流値を減算した値を、前記第2電流検出部によって検出された電流値から減算することによって、前記励磁コイルに供給する電流の値を算出する許容電流算出部と、
前記定着電流算出部及び前記許容電流算出部によって算出された電流値に対応する周波数を前記電流供給制御部に出力する周波数設定部と、
前記第1電流検出部によって検出される駆動電流値に応じて、前記定着電流算出部又は前記許容電流算出部のいずれに、前記励磁コイルに供給する電流の値を算出させるかを切り替える切替部と
を備える画像形成装置。
【請求項2】
前記切替部は、前記第1電流検出部によって検出される駆動電流値が商用電源の定格電流値を上回る値となった場合に、前記励磁コイルに供給する電流の値を前記許容電流算出部が算出し、前記第1電流検出部によって検出される駆動電流値が商用電源の定格電流値を上回る値となっていない場合には、前記励磁コイルに供給する電流の値を前記定着電流算出部が算出するように切り替える請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記許容電流算出部は、前記第1電流検出部によって検出される駆動電流値から、予め記憶している商用電源の定格電流値を減算した値を、前記第2電流検出部によって検出された電流値から減算した値が、前記商用電源の定格電流値よりも小さい予め定められた定着上限電流値を上回る場合は、当該定着上限電流値を前記励磁コイルに供給する電流の値として算出する請求項1又は請求項2に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−173364(P2012−173364A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32617(P2011−32617)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】