説明

画像形成装置

【課題】機械的な構成を用いることなくスペックルノイズを低減する。
【解決手段】画像形成装置は、レーザー光を出射する光源1、レーザー光の光路上に配置されたプリズム素子3、プリズム素子を通過するレーザー光の光路上に配置されたホログラム素子4、光源とプリズム素子の間の光路上若しくはプリズム素子3とホログラム素子4の間の光路上又はホログラム素子4を通過するレーザー光の光路上に配置された光変調器5、プリズム素子3へ駆動信号を供給するプリズム素子駆動部7を含む。プリズム素子3は、相互に対向配置される第1基板及び第2基板、第1基板21上に設けられた第1電極、第1基板上に設けられた複数のプリズムを有するプリズムアレイ、第1電極及びプリズムアレイの上側に設けられた第1配向膜、第2基板上に設けられた第2電極、第2電極の上側に設けられた第2配向膜、第1基板と第2基板の間に設けられた液晶層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光源を用いる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヘッドアップディスプレイ(HUD)などの投影型の画像表示装置における光源としてレーザー光源が使われ始めている。このような先行例は、例えば特開2010−139688号公報(特許文献1)や特開2010−139927号公報(特許文献2)に開示されている。レーザー光は、単色性、高指向性の点においてディスプレイ用途として理想的な光源であるが、レーザー光の干渉性に起因するスペックルノイズが発生するという不都合がある。ここで、スペックルとは、レーザー光をスクリーンや紙や壁のような粗面に照射すると観察される細かい斑点模様のことをいう。このスペックルは不規則な凹凸形状を持つ粗面の各点で散乱した光が互いに干渉を起こすことによって生じるランダムな強度分布を持つ干渉パターンである。このスペックルパターンが画像ノイズとなって画質を低下させるため、レーザー光を用いたディスプレイではこれを低減することが重要になる。
【0003】
これに対して、視認者がスペックルノイズの影響を受けずに明瞭な表示を視認することができるように改良したヘッドアップディスプレイの先行例は、例えば特開2010−276689号公報(特許文献3)や特開2010−276742号公報(特許文献4)に開示されている。特許文献3に係る先行例のヘッドアップディスプレイは、半導体レーザーから出射したレーザー光を光ファイバーで表示像生成手段に導くことによって表示像を生成している。そして、振動発生手段によって光ファイバーへ振動を与えることにより光ファイバーのモード分散を時間的に変化させており、これにより光ファイバーから出射するレーザー光のスペックルパターンを変化させてスペックルノイズを低減させている。また、特許文献4に係る先行例のヘッドアップディスプレイは、レーザー光をスクリーン上に走査して表示像を生成する表示像生成手段を備え、上記のスクリーンがレーザー光を拡散および透過する少なくとも2個の拡散部材を有して構成され、かつ表示像生成手段が拡散部材の少なくとも1つを揺動させる揺動手段を有して構成されており、拡散部材を揺動させることによりスペックルノイズの低減を図っている。
【0004】
ところで、上記した特許文献3、4に開示された先行例は、スペックルノイズを低減するために、光ファイバーを振動させる振動発生手段または拡散部材を揺動させる揺動手段という、いずれも機械的な動作によって振動等を発生させる手段を必要としている。このため、ヘッドアップディスプレイ全体の装置構成が大型化し、消費電力も増加し、機械的な動作を用いることによるノイズ(騒音)も発生するという不都合がある。また、特に長期の信頼性という点でも不都合がある。また、スクリーンに拡散部材を設ける先行例では、例えば車載用ヘッドアップディスプレイにおいてスクリーンとしてフロントガラスを用いる場合には適用することが困難であるという不都合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−139688号公報
【特許文献2】特開2010−139927号公報
【特許文献3】特開2010−276689号公報
【特許文献4】特開2010−276742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明に係る具体的態様は、機械的な構成を用いることなくスペックルノイズを低減することが可能な画像形成技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一態様の画像形成装置は、(a)レーザー光を出射する光源と、(b)レーザー光の光路上に配置されたプリズム素子と、(c)プリズム素子を通過するレーザー光の光路上に配置されたホログラム素子と、(d)光源とプリズム素子の間の光路上若しくはプリズム素子とホログラム素子の間の光路上又はホログラム素子を通過するレーザー光の光路上に配置された光変調器と、(e)プリズム素子へ駆動信号を供給するプリズム素子駆動部を含み、上記のプリズム素子は、(f)相互に対向配置される第1基板及び第2基板と、(g)第1基板上に設けられた第1電極と、(h)第1基板上に設けられた複数のプリズムを有するプリズムアレイと、(i)第1電極及びプリズムアレイの上側に設けられた第1配向膜と、(j)第2基板上に設けられた第2電極と、(k)第2電極の上側に設けられた第2配向膜と、(l)第1基板と第2基板の間に設けられた液晶層を有する。
【0008】
上記の画像形成装置では、プリズム素子の液晶層に電圧を印加すると、液晶層の液晶分子の配列が変化し、それにより液晶層の屈折率値が変化するため、複数の微少な傾斜状の突起形状であるプリズムアレイと液晶層との界面を透過する光の屈折角が変化する(スネルの法則)。それにより、プリズム素子を通過するレーザー光の光路を時間的に変動させることができることから、結果として機械的な構成を用いた場合と同様にスペックルノイズを低減することができる。したがって、光変調器によって形成される画像をスクリーン等に投影している間、プリズム素子に対してプリズム素子駆動部から駆動信号を供給することにより、スペックルノイズの低減された鮮明な映像を得ることができる。
【0009】
なお、同様な効果を奏する別の技術的手段としてポリゴンミラーを用いる光路変換手段が考えられる。しかしポリゴンミラーを用いる場合、次の問題が生じ得る。第一に、ポリゴンミラーはその面数が反射面の傾斜角範囲を定め、結果として走査角範囲を定める構造となっている。一般的な6から12面程度では比較的狭い範囲の走査を行う場合、不要な範囲への走査を生じエネルギーロスを生じる。第二に、適正範囲への走査を行うポリゴンミラーを製作するとなると、非常に多数の面を有するポリゴンミラーの製作が必要となり、精度維持に困難を生じる。第三に、ポリゴンミラー自身の回転空間、場合によってはモータの冷却空路など光路以外に多くの空間を要し省スペースの要望に応え難い。
【0010】
上記の画像形成装置において、ホログラム素子は、レーザー光を同じ方向に屈折しながら反射することが好ましい。
【0011】
また、上記の画像形成装置において、プリズムアレイは、複数のプリズムの各々の高さをh、当該複数のプリズムの配置ピッチをPとしたときに両者の比P/hが5〜200の範囲であることがより好ましい。
【0012】
また、上記の画像形成装置において、プリズム素子駆動部の供給する駆動信号は、例えば、所定周波数の電圧を印加する期間と印加しない期間を交互に繰り返した信号波形を有することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態の画像形成装置の構成を示す図である。
【図2】プリズム素子の構造を示す模式的な断面図である。
【図3】プリズムアレイの模式的な斜視図である。
【図4】ラビング処理および光配向処理の方向について説明するための図である。
【図5】ホログラム素子の製造に用いる光学系を説明するための図である。
【図6】プリズム素子の他の構造例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、一実施形態の画像形成装置の構成を示す図である。図1に示す画像形成装置は、レーザー光源1、コリメートレンズ2、プリズム素子3、ホログラム素子4、光変調器5、ミラー6およびプリズム素子駆動部7を含んで構成されており、スクリーン(コンバイナ)8へ画像を投影するものである。
【0016】
レーザー光源1は、レーザー光を出射するものである。例えば本実施形態のレーザー光源1は、波長532nmのレーザー光(グリーンレーザー)を出射する。
【0017】
コリメートレンズ2は、レーザー光源1から出射するレーザー光の光路上に配置されており、レーザー光を集光して略平行光に変換する。
【0018】
プリズム素子3は、レーザー光の光路上に配置されており、コリメートレンズ2によって略平行光に変換されたレーザー光の光路を微小に変化させる。このプリズム素子3は、プリズムアレイと液晶層を内蔵しており、液晶層の液晶分子の配向状態を電気的に制御することによって液晶層の屈折率を変化させることにより、プリズムアレイと液晶層の界面におけるレーザー光の屈折角を変化させるものである。
【0019】
ホログラム素子4は、レーザー光の光路上に配置されており、プリズム素子3を通過して光路を変更されたレーザー光が都度異なる点に照射された場合でも光変調器5上の同じ位置に再生されるようにレーザー光を広げながら高効率(80〜90%以上)で反射する機能を有するものである。詳細には、ホログラム素子4は、プリズム素子3によってレーザー光の光路の方向が変更されたとしても所定の画像パターンがスクリーン8上の同じ位置に投影されるように設計されたホログラム(三次元像を記録した写真)を備えている。このようなホログラム素子4を用いた場合には、ホログラムの作製時に所望のエリアに所望の光強度分布(例えば光強度が均一になるような分布)を与えることが可能であるため、レンズアレイや自由曲面ミラー等の光学部品が不要になる利点がある。
【0020】
光変調器5は、スクリーン8上に投影するための画像を生成する。この光変調器5は、例えば透過型の液晶表示装置からなり、ホログラム素子4から照射されるレーザー光を用いて画像を生成する。
【0021】
ミラー6は、光変調器5によって形成され、入射する画像をスクリーン8の方向へ反射する。なお、光学系の設置状況等によってはこのミラー6は省略することができる。ミラー6によって反射された画像はスクリーン8上に投影される。
【0022】
プリズム素子駆動部7は、プリズム素子3へ駆動信号を供給する。駆動信号の具体例については後述する。
【0023】
スクリーン8は、画像を投影したい所望の位置に設置される。例えば本実施形態の画像形成装置を車載用のヘッドアップディスプレイとして用いる場合であれば、このスクリーン8は車両のフロントガラス上に設置される。
【0024】
図2は、プリズム素子の構造を示す模式的な断面図である。なお、図2においては便宜上、一部構成を除いてハッチング記載を省略する。図2に示す本実施形態のプリズム素子3は、第1基板21、第1電極22、プリズムアレイ23、第1配向膜24、第2基板25、第2電極26、第2配向膜27、液晶層28を含んで構成される。
【0025】
第1基板21および第2基板25は、相互に対向配置されており、それぞれ例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。第1基板21と第2基板25との相互間には、例えば多数のスペーサー(粒状体)が分散して配置されており(図示せず)、それらのスペーサーによって第1基板21と第2基板25との相互間隔が保たれる。
【0026】
第1電極22は、第1基板21の一面側に設けられている。同様に、第2電極26は、第2基板25の一面側に設けられている。第1電極22および第2電極26、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を用いて構成される。例えば本実施形態では、第1電極22、第2電極26ともに、基板一面に形成されている。なお、第1電極22、第2電極26は、適宜パターニングされていてもよい。
【0027】
プリズムアレイ23は、複数の微少な傾斜状の突起形状(プリズム)を一方向に配列して構成されている。図3は、プリズムアレイの模式的な斜視図である。図3に示すように各プリズムの断面形状は直角三角形(例えば頂角85°、底角が5°と90°)である。また、各プリズムの配置ピッチPは例えば8μm程度、高さtは例えば2μm程度である。図3に示すように、プリズムアレイ23は、上面から見るとスリット形状に形成されている。このプリズムアレイ23は、例えば耐熱性および密着性に優れた樹脂材料を成形することにより得られる。プリズムアレイ23の成形方法の詳細については後述する。
【0028】
第1配向膜24は、第1基板21の一面側に、第1電極22およびプリズムアレイ23を覆うようにして設けられている。また、第2配向膜27は、第2基板25の一面側に、第2電極26を覆うようにして設けられている。本実施形態においては、第1配向膜24および第2配向膜27として、液晶層28の液晶分子の初期状態(電圧無印加時)における配向状態を垂直配向状態に規制するもの(垂直配向膜)が用いられている。これらの第1配向膜24、第2配向膜27に対しては、所定の表面処理(ラビング処理、光配向処理等)が施されている。
【0029】
液晶層28は、第1基板21の一面と第2基板25の一面の相互間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが負のネマティック液晶材料を用いて液晶層28が構成されている。液晶層28に図示された太線は、液晶層28内の液晶分子を模式的に示したものである。電圧無印加時における液晶分子は、第1基板21および第2基板25の各基板面に対して所定のプレティルト角を有してほぼ垂直に配向する。
【0030】
本実施形態のプリズム素子3は一般的な液晶素子とは異なり偏光板が不要であるため原理的に高透過率である。具体的には、プリズム素子自体の透過率として90%以上が見込まれ、プリズム素子3の表面に反射防止コート(ARコート)を施した場合には95%以上の透過率が見込まれる。
【0031】
次に、プリズム素子3の基本的な動作について詳述する。プリズム素子3の第1電極22および第2電極26を介して液晶層28に電圧を印加すると、液晶層28の液晶分子の配列が変化し、それにより液晶層28の屈折率値が変化する。このため、複数の微少な傾斜状の突起形状であるプリズムアレイ23と液晶層28との界面を透過する光の屈折角が変化する(スネルの法則)。屈折角の大きさは、プリズムアレイ23の形状や液晶層28の屈折率異方性の値等により一概にいえないが、諸条件を調整することにより現状で18°程度までの屈折角を実現し得ることが確認できている。この屈折角は、プリズム素子3へ印加される電圧に応じて変化させることができる。
【0032】
したがって、スクリーン8に映像を投影している間、プリズム素子3に対してプリズム素子駆動部7から交流の駆動信号を連続的に変化させながら印加することにより、スペックルノイズの低減された鮮明な映像を得ることができる。これは、プリズム素子3を通過するレーザー光の光路、具体的にはホログラム素子4に入射する位置を時間的に変動させることができることから、結果としてスクリーン8を振動させていることと同様の効果が得られるためである。なお、駆動信号としては、例えば、500Hzの交流波形を1秒間に50回の割合でオン/オフさせた電圧を用いることができる。このとき、例えばオン電圧は8V、オフ電圧は0Vとすることができるが、駆動条件はこれに限らない。
【0033】
ところで、レーザー光は干渉を起こしやすいため、プリズム素子3のプリズムアレイ23の配置ピッチPが細かいと干渉の影響が顕著になりやすい。これに対して、レーザー光の光路が複数に分岐してもホログラム素子4によって全ての光路は元の1点に戻されるため、多少干渉が生じても画像の鮮明度への影響は少ないが、スペックルノイズを低減させるという面では干渉が少ないほど効果は大きい。このため、なるべく干渉を起こしにくいようにプリズムアレイ23を形成することが望ましく、配置ピッチPを理想的にはレーザー光のスポット径(<1mmφ)以上とすることが望ましい。しかし、プリズムアレイ23の配置ピッチPが大きいと液晶層28の層厚やレーザー光を曲げる角度に影響が出るため、これらを勘案すると、プリズムアレイ23の配置ピッチPはレーザー光の波長よりも十分に大きくすることが望ましいといえる。
【0034】
より詳細には、レーザー光のスポット径(ビーム径)よりもプリズムアレイ23の配置ピッチPが小さい場合、基本的にはスポット光が発生する。プリズム素子3に電圧(駆動信号)を印加していないときにはレーザー光をそのまま素通しした方向のスポット光が最も明るく、プリズム素子3に電圧を印加したときにはこの最も明るいスポット光の位置を変えることができる。しかし、弱いながら別の位置に発生するスポット光を完全になくすことは難しい。プリズムアレイ23の配置ピッチPをレーザー光のスポット径(例えば500μm〜1mmφ)より大きくすればよいが、同じ角度(各プリズムの底角)を維持しようとすると各プリズムの高さが大きくなり、結果としてプリズム素子3のセル厚(液晶層28の層厚)が大きくなり応答速度が低下する。プリズムアレイ23の配置ピッチPがレーザー光のスポット径より小さい場合でも、プリズムアレイ23の配置ピッチPはなるべく大きい方が干渉で現れるスポット光の強度を低くできる。したがって、必要とされるプリズム素子3の応答速度とレーザー光の移動量(角度)に応じて各プリズムの形状を最適化することが望ましい。
【0035】
一例を挙げると、50Hz(応答速度2ミリ秒以下)の高速応答が要求される場合はプリズムアレイ23の各プリズムの高さを2〜3μmとし、10Hz(応答速度10ミリ秒以下)程度の応答速度でよい場合には各プリズムの高さを5μmとすればよい。プリズムアレイ23の配置ピッチPは、レーザー光の移動量(角度)が1°以下でよい場合には100〜500μm、1°以上必要な場合には10〜100μm程度が望ましい。したがって、各プリズムの高さh、配置ピッチPとした場合、両者の比P/hは5〜200程度であることが望ましい。ただし、P/hが大きくなるにつれプリズム素子3によるレーザー光の移動量(角度)が小さくなるため、光学系の光路長をより長くとる必要がある。
【0036】
次に、プリズム素子3の製造方法の一例を説明する。
【0037】
まず、第1基板21および第2基板25として用いるためのガラス基板を用意する。これらのガラス基板としては、予めITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電材料からなる導電膜を有するものがより好ましい。例えば、厚さが1500ÅのITO膜を有し、板厚が0.7mm、ガラス材質が無アルカリガラスである一対のガラス基板を用意する。第1基板21、第2基板25のそれぞれについて、ITO膜を適宜パターニングすることにより、第1電極22、第2電極26を形成する。
【0038】
次に、第1基板21の第1電極22上にプリズムアレイ23を形成する。ここでは、断面が三角形状であり、その配置ピッチPが20μm、高さtが約1.8〜2μm、頂角85°、底角が5°と90°であり、上面から見るとスリット形状を有する金型を用いてプリズムアレイ23を形成する。具体的には、第1基板21上に所定量の光硬化性樹脂を滴下し、その上に金型を置き、かつ第1基板21の裏面側を厚手の石英基板等で補強した状態でプレスを行う。プレス後にある程度の時間(例えば1分間以上)だけ放置し、光硬化性樹脂材料を十分に広げた後、第1基板21側から光を照射することで光硬化性樹脂材料を硬化させる。光の照射量は光硬化性樹脂材料が硬化するのに十分な値(例えば20J/cm程度)を適宜に設定する。ここで、一般にプリズム用材料は耐熱性が低く、プリズムアレイ23上に第1配向膜24を形成する際の熱処理(例えば180℃以上)により特性が劣化してしまう場合が多い。これに対して、本実施形態では、熱処理前後での透過率特性の低下がほとんど生じない光硬化性(例えば紫外線硬化性)のアクリル系樹脂材料を用いる。以上により第1基板21上に透明樹脂膜からなるプリズムアレイ23が形成される。
【0039】
次に、プリズムアレイ23が形成された第1基板21を洗浄機により洗浄する。洗浄は、例えば、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、紫外線(UV)照射、赤外線(IR)乾燥の順に行うことができるがこれに限定されない。高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0040】
次いで、プリズムアレイ23が形成された第1基板21に第1配向膜24を形成する。同様に、第2基板25に第2配向膜27を形成する。ここでは、例えば無機の垂直配向膜材料を用いる。なお、ポリイミド等の有機の垂直配向膜材料を用いることも可能であるが、プリズム素子3には比較的に強い光が入射するので、耐久性の観点からは無機の垂直配向膜材料を用いることがより好ましい。フレキソ印刷法、インクジェット法、スピンコート法、スリットコート法、スリット法とスピンコート法の組み合わせ等の適宜の方法で配向膜材料を第1基板21上、第2基板25上にそれぞれ適当な膜厚(例えば800Å程度)で塗布し、熱処理(例えば220℃で1.5時間の焼成)を行う。そして、熱処理によって得られた第1配向膜24、第2配向膜27のそれぞれに対して配向処理を行う。この配向処理は、第1基板21と第2基板25とを重ね合わせたときに各基板上の液晶分子の配向方向がアンチパラレル配向になるように行う。
【0041】
ここでは配向処理として、例えばラビング処理や光配向処理等を用いることができ、また複数種の配向処理を組み合わせて用いてもよい。本実施形態では、プリズムアレイ23の形成された第1基板21に対しては光配向処理を行い、第2基板25にはラビング処理を行う。ラビング処理については、押し込み量を比較的大きく(例えば0.8mm)に設定したストロングアンカリング条件に設定して行われる。光配向処理については、例えば紫外線を偏光した光を第1基板21に対して法線方向から照射する。このときの紫外線は、第1基板21に対しては垂直方向から照射しているが、プリズムアレイ23の各プリズムの斜面部分に対しては相対的に45°傾いた方向から照射しているに等しいことになる。露光に用いる偏光フィルタの波長は例えば310nmである。
【0042】
図4は、ラビング処理および光配向処理の方向について説明するための図である。図4に示すように、例えば、偏光フィルタの偏光方向a1がプリズムアレイ23の各プリズムの長手方向と略平行となるようにする。この場合、第1配向膜24と接した液晶層28における液晶分子の配向方向a2は図示のように偏光フィルタの偏光方向a1および各プリズムの長手方向と略直交する方向となる。また、ラビング処理の方向a3については図示のようにプリズムアレイ23の各プリズムの傾斜方向に対してアンチパラレルとなるように設定される。
【0043】
次に、一方の基板(例えば第1基板21)上に、ギャップコントロール剤を適量(例えば2〜5wt%)含んだメインシール剤を形成する。メインシール剤の形成は、例えばスクリーン印刷やディスペンサーによる。また、ギャップコントロール剤の径は、プリズムアレイ23のベース層とプリズムの高さを含め、液晶層28の厚さが2〜4μm程度と比較的に薄くなるように材料を選ぶことができる。本実施形態では、ギャップコントロール剤としてその径が6μmのプラスチックボールを用いる。また、他方の基板(例えば第2基板25)上にはギャップコントロール剤を散布する。例えば本実施形態では、3.0μmもしくは3.5μmのプラスチックボールを乾式のギャップ散布機によって散布する。
【0044】
次に、第1基板21と第2基板25とを重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させる。ここでは、例えば150℃で3時間の熱処理を行う。その後、第1基板21と第2基板25の間隙に液晶材料を充填することにより液晶層28を形成する。液晶材料の充填は、例えば真空注入法によって行う。本実施形態では、誘電率異方性△εが負であり比較的に粘度の低く(例えば20ccp程度)、かつ屈折率異方性が比較的に大きい(例えばΔn=0.21程度)液晶材料を用いる。液晶材料の注入後、その注入口にエンドシール剤を塗布し封止する。そして、封止後に適宜熱処理(例えば120℃で1時間)を行うことにより、液晶層28の液晶分子の配向状態を整える。以上のようにして本実施形態のプリズム素子3が得られる。
【0045】
なお、液晶材料の注入から熱処理まではなるべく速やかに行うことが望ましい。なぜならば、プリズムアレイ23上の光配向処理がなされた第1配向膜24の配向規制力はそれほど強くなく、注入時の液晶材料の流れの影響を受け、流れる方向に配向する現象(流動配向現象)が生じやすいからである。これについては、高温での熱処理を行って液晶材料を一旦、等方相温度以上にすることで流動配向を消去し、本来の光配向処理による配向方向へ液晶分子を再配向させることができるが、注入後に長い時間が経過してしまうと流動配向状態が安定してしまい、多少の熱処理ではこれを消去し難くなるからである(これを配向のメモリー性という)。したがって、なるべく速やかに熱処理を行うことが望ましく、可能であれば3時間以内、遅くとも24時間以内に熱処理を行うことが望ましい。
【0046】
上記した条件にて製造されたプリズム素子3にレーザー光を入射した場合、液晶層28への印加電圧が0Vのときを基準とすると、印加電圧が10Vのときのレーザー光の角度θ(図1参照)は約1.5°となる。また、応答速度は数ミリ秒であり、比較的に高速応答が得られる。ここでの数値は、レーザー光の偏光方向と液晶層28のプリズムアレイ23側の界面付近における液晶分子の配向方向が略平行になるようにした場合のものである。
【0047】
次に、ホログラム素子4の製造方法の一例を説明する。
【0048】
図5は、ホログラム素子の製造に用いる光学系を説明するための図である。ホログラム素子4は、例えば感光性モノマーを用いて製造される。本実施形態では緑色の波長域に感度をもつ感光性モノマーを用いる。図5に示すように、レーザー光源50から出射するレーザー光はハーフミラー51によって分岐される。分岐されたレーザー光の一方は参照光として用いられる。上記した図1におけるプリズム素子3とホログラム素子4の位置関係と同じ配置(距離、角度θ)となるように凹レンズ59の位置と感光性フィルム57の位置を設定する。このとき、ミラー58で反射され、凹レンズ59を通った参照光61が感光性フィルム57に当たるときの角度θが図1におけるプリズム素子3とホログラム素子4の関係と同じになるようにする。また、参照光のロスを低減するためには凹レンズ59の曲率を調整し、凹レンズ59を通過して広がった参照光61がちょうど感光性フィルム57の大きさで照射されるか、もしくは感光性フィルム57の大きさよりも少し大きい範囲で照射されるようにすることが望ましい。
【0049】
ハーフミラー51によって分岐される他方のレーザー光は物体光として用いられる。図1におけるホログラム素子4と光変調器5の位置関係と鏡面配置(線対称な距離と角度)になるように拡散レンズ56の位置および感光性フィルム57の位置を設定する。物体光のロスを低減するためには拡散レンズ56の散乱度を調整し、拡散レンズ56を通過して広がった物体光60がちょうど感光性フィルム57の大きさで照射されるか、もしくは感光性フィルム57の大きさよりも少し大きい範囲で照射されるようにすることが望ましい。
【0050】
また、ミラー52で反射したレーザー光が2つの凸レンズ53、55およびピンホール54を通過して拡散レンズ56に照射されるとき、拡散レンズ56上の光強度分布がなるべく均一になるように2つの凸レンズ53、55の曲率を調整することが望ましい。また、感光性フィルム57上における参照光61と物体光60の光強度比は、2:1から10:1程度の範囲であることが望ましく、参照光61と物体光60の光強度の和は例えば1mJ/cm程度、照射時間は例えば30秒間程度とする。また、ここで用いた感光性フィルム57は、120℃にて2時間程度の熱処理を行うことにより高回折効率化することができる。
【0051】
このようにして作製されるホログラム素子4は、入射光を同じ方向に屈折しながら反射する機能を有しており、ある位置から入射される参照光の入射角度が変わってもその反射像(再生像)は同じ形状、同じ方向に形成される。ここでは光変調器5が配置される位置に光変調器5の形状で光強度が均一になるように再生像が形成される。
【0052】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【0053】
例えば、上記した実施形態では、プリズム素子における液晶層は垂直配向に設定されていたが、水平配向、90°捩れ配向等の配向モードとしてもよい。また、液晶層にカイラル剤を添加することなどにより液晶分子の配列方向を変えてもよい。また、配向膜への配向処理法として光配向処理を併用していたが、ラビング処理のみでもよい。また、特に配向膜として垂直配向膜を用いて液晶層を垂直配向にした場合には、プリズムアレイの形状効果により液晶層の液晶分子の配向方向が電圧印加時に傾く方向はある程度制御されるため、配向処理を省略することも可能である。また、液晶層を形成する際の手法は真空注入にのみ限定されず、ODF法を用いてもよい。
【0054】
また、上記した実施形態では画像形成装置の適用例として四輪車両用のヘッドアップディスプレイを挙げていたが、これに限られず、二輪車両、農機、船舶、航空機に適用してもよいし、ゲーム機等に用いられるヘッドマウントディスプレイに適用してもよい。また、三次元スキャナなど、レーザーを用いた様々なセンサー等に適用してもよい。
【0055】
また、上記した実施形態では、光変調器をホログラム素子とミラーの間に配置していたが、光変調器の配置はこれに限られず、ミラーとスクリーンの間に配置してもよいし、レーザー光源側(ホログラム素子とプリズム素子の間など)に配置してもよい。ただし、後者の場合にはホログラム像はスクリーン上に形成される必要がある。
【0056】
また、上記した実施形態のプリズム素子では第1電極上にプリズムアレイが形成されていたが、配置を逆にしてもよい。図6は、プリズム素子の他の構造例を示す模式的な断面図である。図6に示すプリズム素子3aは、第1基板21、第1電極22a、プリズムアレイ23a、第1配向膜24a、第2基板25、第2電極26、第2配向膜27、液晶層28を含んで構成される。上述した図2に示したプリズム素子3では第1電極22の上側にプリズムアレイ23が配置されていたが、図6に示す例のプリズム素子3aはプリズムアレイ23a上に第1電極22aが配置されている点が構造上の相違である。上記したような高い耐熱性を有する樹脂材料を用いて形成されたプリズムアレイ23a上であれば、本例のようにプリズムアレイ23aの上側にITO等の透明導電材料からなる第1電極22aを設けることもできる。なお、図示を省略するがプリズムアレイ23aと第1電極22aとの間に両者の密着性をより向上させるための酸化珪素(SiO)膜が設けられていることも好ましい。図6に例示するプリズム素子3aにおいては、第1基板21上の第1電極22aと液晶層28との間にプリズムアレイ23aが存在することなく、第1電極22aから直接的に液晶層28へ電圧を印加できることから、プリズム素子3aを駆動するための電圧をより低下させることが可能になる。
【0057】
また、プリズムアレイの断面形状は、上記した三角形状にのみ限定されない。断面形状は、例えば正弦波(サインカーブ)状でもよい。また、プリズムアレイの上面形状は、上記したストライプ状にのみ限定されない。上面形状は、例えば格子状、同心円状、楕円状、フレネルレンズ状、ドット状などでもよい。
【符号の説明】
【0058】
1:レーザー光源
2:コリメートレンズ
3、3a:プリズム素子
4:ホログラム素子
5:光変調器
6:ミラー
7:プリズム素子駆動部
8:スクリーン
21:第1基板
22、22a:第1電極
23、23a:プリズムアレイ
24、24a:第1配向膜
25:第2基板
26:第2電極
22:第2配向膜
28:液晶層
50:レーザー光源
51:ハーフミラー
52、58:ミラー
53、55:凸レンズ
54:ピンホール
56:拡散レンズ
57:感光性フィルム
59:凹レンズ
60:物体光
61:参照光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を出射する光源と、
前記レーザー光の光路上に配置されたプリズム素子と、
前記プリズム素子を通過する前記レーザー光の光路上に配置されたホログラム素子と、
前記光源と前記プリズム素子の間の光路上若しくは前記プリズム素子と前記ホログラム素子の間の光路上又は前記ホログラム素子を通過する前記レーザー光の光路上に配置された光変調器と、
前記プリズム素子へ駆動信号を供給するプリズム素子駆動部、
を含み、
前記プリズム素子は、
相互に対向配置される第1基板及び第2基板と、
前記第1基板上に設けられた第1電極と、
前記第1基板上に設けられた複数のプリズムを有するプリズムアレイと、
前記第1電極及び前記プリズムアレイの上側に設けられた第1配向膜と、
前記第2基板上に設けられた第2電極と、
前記第2電極の上側に設けられた第2配向膜と、
前記第1基板と前記第2基板の間に設けられた液晶層、
を有する、画像形成装置。
【請求項2】
前記ホログラム素子は、前記レーザー光を同じ方向に屈折しながら反射する、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記プリズムアレイは、前記複数のプリズムの各々の高さをh、当該複数のプリズムの配置ピッチをPとしたときに両者の比P/hが5〜200の範囲である、請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記プリズム素子駆動部の供給する前記駆動信号は、所定周波数の電圧を印加する期間と印加しない期間を交互に繰り返した信号波形を有する、請求項1〜3の何れか1項に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−109029(P2013−109029A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251689(P2011−251689)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】