説明

画像特徴抽出方法及び画像特徴抽出装置並びにこれを用いた画像照合方法及び画像照合装置

【課題】画像に含まれるエッジ情報に関し位置ずれによる影響を抑制しながらエッジに係る特徴を失うことなく抽出する。
【解決手段】入力画像に所定方向の微分フィルタを適用して微分画像を生成する微分画像生成工程と、この微分画像生成工程で生成された微分画像の微分値に基づいて正領域及び負領域を分離する正負分離工程と、この正負分離工程により分離された正領域に基づいて正画像を生成するとともに負領域に基づいて負画像を生成する正負画像生成工程と、この正負画像生成工程で生成された正画像及び負画像から各画像に含まれる正領域を膨張させた正特徴画像及び負領域を膨張させた負特徴画像を生成する特徴画像生成工程とを含む画像特徴抽出方法によって画像の特徴を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、画像照合に利用することを目的として画像に含まれる特徴を抽出するための画像特徴抽出方法及び画像特徴抽出装置並びにこれを用いた画像照合方法及び画像照合装置に関する。特に、照合対象画像と参照画像間の変形の影響を抑制しながら、画像の特徴を抽出可能な画像特徴抽出方法及び画像特徴抽出装置並びにこれを用いた画像照合方法及び画像照合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、照合対象として入力された画像(以下、「入力画像」と記載する)の特徴量と予め登録された参照用の画像(以下、「参照画像」と記載する)の特徴量とを照合する技術が知られている。特徴量としては、例えば、微分フィルタを用いて文字の輪郭のエッジ情報を抽出して利用する。
【0003】
ところが、かかるエッジを特徴量として用いる場合に、入力画像及び参照画像が同一の対象物から生成されたものであったとしても、両画像を撮影した際の対象物の向き等に変化があるとエッジの位置がずれてしまうケースがある。このため、かかるエッジの位置ずれを吸収する従来技術が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、画像を複数のブロックに分割して、各ブロックをモザイク化した後に比較することによって、エッジのずれの影響を抑制する方法が開示されている。具体的には、画像をぼかすようにモザイク化して、エッジを形成する画素が含まれているブロック全体をエッジとして取り扱うことによって、2つの画像の間でエッジがずれている場合にも一致すると判定することができる。また、特許文献2には、特許文献1と同様に、エッジの幅を広げる膨張処理として画像に最大値フィルタを適用する方法が開示されている。
【0005】
このように、エッジを含むブロック領域をモザイク化したり、最大値フィルタを適用してエッジを膨張させることにより、画素単位で位置ずれしている場合でも、この影響を抑制して、参照画像と入力画像との間でエッジが一致すると判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−221547号公報
【特許文献2】特許第3524853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術によれば、エッジをぼかしたり膨張処理を施したりすることによって特徴情報が失われてしまう場合がある。かかる従来技術における問題点を、図8及び図9を参照しながら具体的に説明する。
【0008】
図8は、例えば、文字画像を形成するエッジを抽出した部分画像であるブロック画像100、200及び300を示している。図8(A)は判定基準となる参照画像から切り出されたブロック画像100で、略中央位置にエッジ110がある。図8(B)は、同図(A)と同じ文字を撮像した入力画像から、同図(A)に対応する領域を切り出したブロック画像200である。これに対し、図8(C)は、同図(A)及び(B)とは異なる文字を撮像した入力画像から、同図(A)及び(B)に対応する領域を切り出したブロック画像300である。すなわち、図8(A)と同図(B)とは同じ画像であると判定されるべき関係にあり、図8(A)と同図(C)とは異なる画像であると判定されるべき関係にある。
【0009】
図8(B)では、同図(A)と同じ位置にエッジが含まれるべき所、エッジ210の位置が、同図(A)のエッジ110よりも右側(X軸正方向)に位置ずれしている。例えば、撮像時のカメラの位置や向きが変化したり、撮像対象の文字が印字された紙に歪みが生じた場合に、このような位置ずれが生ずることがある。図8(A)と同図(B)とを比較すると、2つのエッジ110及び210の位置がずれているため、異なる画像であると判定される可能性がある。
【0010】
従来技術によれば、最大値フィルタを適用することにより、このような誤判定を回避することができる。具体的には、最大値フィルタの適用により、エッジに関する特徴画像として、図8(A)からは図9(A)に示す特徴画像が、図8(B)からは図9(B)に示す特徴画像を得ることができる。図9(A)及び(B)の特徴画像を比較すれば、図8(A)と同図(B)とが同じ画像であると判定することができる。
【0011】
ところが、同様に図8(C)のブロック画像300に最大値フィルタを適用すると、図9(C)に示すように、同図(A)及び(B)と同じ特徴画像が得られる。このため、図9(A)及び(C)の特徴画像を比較すると、図8(A)と同図(C)も同じ画像であると誤判定されてしまう。すなわち、最大値フィルタを適用することによって、エッジの位置ずれによる影響を抑制することはできるが、同時にエッジに関する特徴情報が失われ、画像照合の結果を誤る可能性がある。
【0012】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、正確な画像照合を行うために、画像に含まれるエッジの位置ずれによる影響を抑制しながら、エッジに関する特徴を失うことなく抽出することができる画像特徴抽出方法及び画像特徴抽出装置並びにこれを用いた画像照合方法及び画像照合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、画像特徴抽出方法であって、入力画像に所定方向の微分フィルタを適用して微分画像を生成する微分画像生成工程と、前記微分画像生成工程で生成された前記微分画像の微分値に基づいて正領域及び負領域を分離する正負分離工程と、前記正負分離工程により分離された前記正領域に基づいて正画像を生成するとともに、前記負領域に基づいて負画像を生成する正負画像生成工程と、前記正負画像生成工程で生成された前記正画像及び前記負画像から、各画像に含まれる前記正領域を膨張させた正特徴画像及び前記負領域を膨張させた負特徴画像を生成する特徴画像生成工程とを含んだことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記発明を用いて入力画像と参照画像とを照合する画像照合方法であって、画像照合の対象を撮像して前記入力画像を生成するステップと、前記入力画像から上記発明に係る画像特徴抽出方法を用いて特徴画像を生成するステップと、前記入力画像から生成された前記特徴画像と参照用特徴画像とを比較して、前記入力画像と前記参照画像とが一致するか否かを判定するステップとを含んだことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、画像特徴抽出装置であって、入力画像に所定方向の微分フィルタを適用して微分画像を生成する微分画像生成部と、前記微分画像生成部で生成された前記微分画像から、微分値が正の値である領域に基づいて正画像を生成するとともに、微分値が負の値である領域に基づいて負画像を生成する正負画像生成部と、前記正負画像生成部で生成された前記正画像及び前記負画像に膨張フィルタを適用して、前記正領域を膨張させた正特徴画像及び前記負領域を膨張させた負特徴画像を生成する特徴画像生成部とを備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記発明を用いて入力画像と参照画像とを照合する画像照合装置であって、画像照合の対象を撮像して前記入力画像を生成する撮像部と、前記撮像部によって生成された前記入力画像から特徴画像を生成する上記発明に係る画像特徴抽出装置と、参照用特徴画像が保存された記憶部と、前記入力画像から生成された前記特徴画像と前記記憶部に保存された前記参照用特徴画像とを比較して、前記入力画像と前記参照画像とが一致するか否かを判定する画像照合部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、微分画像を正画像及び負画像の2つの画像に分離して、正画像及び負画像の各々を膨張させた画像を正特徴画像及び負特徴画像とすることとしたので、膨張処理による効果として画像に含まれるエッジの位置ずれによる影響を抑制しながら、エッジに関する情報が失われることを回避できる。また、本発明によれば、画像に、微分フィルタ及び膨張フィルタを順次適用することにより、高速かつ容易に正特徴画像及び負特徴画像を容易に生成することができる。
【0018】
また、本発明によれば、入力画像及び参照画像から正特徴画像及び負特徴画像を生成して比較することによって画像照合を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本実施例に係る画像処理装置の構成概要を示すブロック図である。
【図2】図2は、文字を撮像した画像からの処理対象画像の切り出しを説明する図である。
【図3】図3は、処理対象画像及び該画像から生成した微分画像を示す図である。
【図4】図4は、微分画像から生成された正画像及び負画像を示す図である。
【図5】図5は、正画像から生成された正特徴画像及び負画像から生成された負特徴画像を示す図である。
【図6】図6は、特徴画像を生成する方法を説明するフローチャートである。
【図7】図7は、処理対象画像の部分画像であるブロック画像を説明する図である。
【図8】図8は、エッジを含むブロック画像の複数の例を示す図である。
【図9】図9は、図8に示す各ブロック画像から従来技術により生成された特徴画像を示す図である。
【図10】図10は、ブロック画像から正領域及び負領域を分離する方法を示す図である。
【図11】図11は、図8に示す各ブロック画像から分離された正領域及び負領域を示す図である。
【図12】図12は、図11に示す各ブロック画像から生成された正画像及び負画像を示す図である。
【図13】図13は、図12に示す各ブロック画像から生成された正特徴画像及び負特徴画像を示す図である。
【図14】図14は、画像を正領域及び負領域に分離するために利用する微分フィルタの例を示す図である。
【図15】図15は、本実施例に係る特徴画像を利用して画像照合を行う画像照合装置の構成概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る画像特徴抽出装置及び画像特徴抽出方法の好適な実施例を詳細に説明する。本発明は、例えば、文字の照合を行うために、該文字を撮像した画像から文字の輪郭等の特徴を抽出する際に利用可能である。本実施例では、文字画像を対象とし、文字画像から特徴を抽出して特徴情報として記録する場合を例に説明する。
【0021】
図1は、画像から特徴を抽出する画像特徴抽出装置として動作する画像処理装置1の概要を示すブロック図である。図1に示すように、画像処理装置1は、画像を処理して特徴情報を抽出する画像特徴抽出部10と、各種の処理に必要なデータ等を保存するための記憶部20と、外部の装置等とデータの送受信を行うための通信インターフェイス30(以下「通信I/F」と記載する)とを備えている。
【0022】
通信I/F30は、画像処理装置1の外部からの信号の受信、画像処理装置1から外部への信号の送信を行う機能を有する。通信I/F30によって、例えば、外部からの信号を受信して、画像特徴抽出部10の動作設定を変更したり、記憶部20に記憶されているソフトウェアプログラムやデータの更新、追加及び削除の処理を行ったり、画像処理装置1による処理の結果を外部へ出力することができる。
【0023】
記憶部20には、処理対象となる画像や各種の処理を行う際に一時的に生成される画像等の画像データ21と、画像特徴抽出部10での処理に利用される各種のフィルタデータ22と、画像特徴抽出部10によって抽出された特徴画像を含む特徴情報23等が保存される。記憶部20は、揮発性又は不揮発性の半導体メモリやハードディスク等の記憶装置によって構成される。
【0024】
画像特徴抽出部10は、処理対象となる部分画像を切り出す画像切出部11と、切り出した部分画像からエッジを検出した微分画像を生成する微分画像生成部12と、微分画像から正画像及び負画像を生成する正負画像生成部13と、正画像及び負画像から正特徴画像及び負特徴画像を生成する膨張処理部14とを有している。
【0025】
画像特徴抽出部10は、例えば、各種の処理を実現するためのソフトウェアプログラムと、当該ソフトウェアプログラムを実行するCPUと、当該CPUによって制御される各種ハードウェア等によって構成されている。各部の動作に必要なソフトウェアプログラムやデータの保存には、記憶部20や、別途専用に設けられたRAMやROM等のメモリ又はハードディスク等が利用される。
【0026】
画像切出部11は、例えば、撮像した画像から、処理対象となる画像を切り出す機能を有する。具体的には、例えば、図2に示すように、文字を含むように撮像された画像40上で文字を含む領域を認識して、図3(A)に示すように文字画像50を切り出す。
【0027】
微分画像生成部12は、画像切出部11によって切り出された画像に微分フィルタを適用して微分画像を生成する機能を有する。具体的には、例えば、図3(A)に示す白黒の濃度画像50に、ガボールフィルタ(Gabor Filter)やガウス導関数フィルタ(Gaussian Derivative Filter)等の微分フィルタを適用して所定方向の微分画像を生成する。例えば、図3(A)の濃度画像50に、横方向(図2のX軸方向)の微分フィルタを適用すると、図3(B)に示す微分画像51が得られる。
【0028】
正負画像生成部13は、微分画像生成部12によって生成された微分画像51から、微分値が正となる部分を抽出した正画像と、微分値が負となる部分を抽出した負画像とを生成する機能を有する。具体的には、例えば、図3(B)に示す微分画像51から、図4(A)に示す正画像52Aと、同図(B)に示す負画像52Bとが得られる。
【0029】
膨張処理部14は、正負画像生成部13によって生成された正画像52A及び負画像52Bに膨張フィルタを適用してエッジを膨張させる機能を有する。具体的には、例えば、図4(A)に示す正画像52Aに、縦横数画素程度の所定サイズの最大値フィルタを適用すると、図5(A)に示すように正特徴画像53Aが得られる。同様に、図4(B)に示す負画像52Bに最大値フィルタを適用すると、図5(B)に示すように負特徴画像53Bが得られる。こうして得られた2つの特徴画像53A及び53Bは、画像特徴抽出部10によって、特徴情報23として記憶部20内に保存される。
【0030】
このようにして、画像照合に利用される参照画像及び入力画像から、正特徴画像及び負特徴画像が生成され記憶部20に保存される。そして、参照画像の正特徴画像と入力画像の正特徴画像とを比較するとともに、参照画像の負特徴画像と入力画像の負特徴画像とを比較する画像照合を行って、参照画像と入力画像とが一致するか否かが判定される。画像照合には、パターンマッチング等の公知の技術が利用される。
【0031】
なお、各部11〜14の機能説明で示したガボールフィルタ、ガウス導関数フィルタ等の微分フィルタ及び最大値フィルタ等の各種のフィルタは、フィルタデータ22として記憶部20内に記憶されているが、フィルタの種類は例示であって、他のフィルタであっても構わない 。
【0032】
例えば、上述した微分フィルタは例示であって、所定方向への画素値の変化に基づいて、エッジと背景との境界を、背景からエッジに至る領域とエッジから背景に至る領域とに区別して抽出できるものであれば、ラプラシアンフィルタ等を利用してもよい。また、膨張フィルタについても、所定領域内でエッジを膨張させることができるものであれば、スムージングフィルタ等を利用してもよい。
【0033】
また、X軸方向の微分フィルタを適用する例を示したが、本実施例がこれに限定されるものではない。具体的には、X軸方向に代えて又はX軸方向に加えて、Y軸方向や斜め方向のフィルタを適用してもよい。複数の方向にフィルタを適用して、各方向での正特徴画像及び負特徴画像を生成して画像照合に利用することもできる。
【0034】
次に、上記構成を有する画像処理装置1によって画像から特徴を抽出する方法を説明する。図6は、画像から特徴を抽出する方法を示すフローチャートである。
【0035】
まず、画像切出部11によって、図2に示す画像40上で特定された文字を含む領域が部分画像50として切り出される(図6ステップS1)。切り出される部分画像50は、図3(A)に示すように、特徴を抽出する処理の対象となる文字画像50である。
【0036】
次に、微分画像生成部12によって、切り出された文字画像50に微分フィルタが適用され、輪郭等の特徴部を検出した微分画像が生成される(図6ステップS2)。微分画像生成部12によって得られる微分画像51は、例えば、図3(B)に示すように、文字の輪郭等のエッジ部のみが強調された画像となる。
【0037】
次に、正負画像生成部13によって、微分画像51の微分値に基づいて、正画像及び負画像が生成される(図6ステップS3)。正負画像生成部13によって得られる正画像52A及び負画像52Bは、各々、図4(A)及び(B)に示すような画像となる。
【0038】
ここで、正負画像生成部13による正画像52A及び負画像52Bの生成方法の詳細について、図7に示す入力画像50の部分画像であるブロック画像100を処理する場合を例にして説明する。
【0039】
図10(A)に示すブロック画像100に、X軸方向の微分フィルタを適用すると、同図(B)に示すような微分値が得られる。この微分値に基づいて表された画像が図3(B)に示す微分画像51である。
【0040】
正負画像生成部13は、微分画像51を形成するブロック画像102上で、図10(B)の微分値に従って、図10(C)に示すように正の値が得られた正領域112Aと負の値が得られた負領域112Bとを特定する。正領域112AはX軸正方向に背景からエッジ110となる領域であり、負領域112BはX軸正方向にエッジ110から背景となる領域に対応している。なお、図10(C)では、正領域112A及び負領域112Bを区別して認識しやすいように正領域112Aを白、負領域112Bを黒で表している。
【0041】
正領域112A及び負領域112Bを特定する方法は、微分値に基づき、0(ゼロ)を境界として正負に分割する方法に限定されず、例えば、所定の正のしきい値より大きい値を示す領域を正領域とし、所定の負のしきい値より小さい値を示す領域を負領域としてもよい。
【0042】
こうして、図10(C)に示すように正領域112Aと負領域112Bとが特定されると、次に、正負画像生成部13は、この結果に基づいて正画像及び負画像を生成する。
【0043】
具体的には、図10(C)に示すブロック画像102から負領域112Bを除いた画像を正画像とする。正画像103Aは、図12(A)左図に示すように背景に対して正領域112Aを含む画像となる。そして、図10(C)に示すブロック画像102から正領域112Aを除くとともに負領域112Bの微分値の絶対値をとった画像を負画像とする。負画像103Bは、図12(A)右図に示すように背景に対して負領域112Bを含む画像となる。
【0044】
こうして、正負画像生成部13によって、正画像103A及び負画像103Bが生成されると、次に、膨張処理部14によって、膨張フィルタが適用され、エッジを膨張した特徴画像が生成される(図6ステップS4)。図12(A)左図に示す正画像103Aに膨張フィルタが適用されると図13(A)左図に示す正特徴画像104Aが得られる。また、図12(A)右図に示す負画像103Bに膨張フィルタが適用されると図13(A)右図に示す負特徴画像104Bが得られる。
【0045】
正負画像生成部13によって、図7に示す入力画像50を分割した全てのブロック画像に同様の処理が施され、図4(A)に示す正画像52Aと、図4(B)に示す負画像52Bとが生成される。また、膨張処理部14によって、図4(A)に示す正画像52Aからは図5(A)に示す正特徴画像53Aが生成され、図4(B)に示す負画像52Bからは図5(B)に示す負特徴画像53Bが生成される。
【0046】
こうして、画像特徴抽出部10によって図3(A)に示す文字画像50から抽出された、図5(A)に示す正特徴画像53Aと同図(B)に示す負特徴画像53Bとが、特徴情報23として記憶部20に保存される(図6ステップS5)。
【0047】
ここでは、X軸方向に、微分画像を生成し(ステップS2)、正負画像を生成し(ステップS3)、特徴画像を生成する(ステップS4)方法を示したが、本実施例がこれに限定されるものではない。X軸方向に代えて又はこれに加えて、Y方向、X軸に対して45度方向、X軸に対して−45度方向等についても、同様の処理を施して、各方向での特徴画像を生成することもできる。
【0048】
また、一次微分を利用して画像を正画像及び負画像に分ける方法を示したが、本実施例がこれに限定されるものではない。具体的には、例えば、図14に示す一次微分と二次微分との関係から分かるように、二次微分を利用する場合でも、同様の処理を実現することができる。二次微分を利用する場合には、例えば、微分値が正の値を示してから、ゼロクロスを経て、負のピーク値を示した後再びゼロとなる位置までを正領域として、その後負の値を示してから、ゼロクロスを経て、正のピーク値を示した後再びゼロとなる位置までを負の領域とすればよい。
【0049】
次に、本実施例に係る画像特徴抽出方法(図6ステップS1〜S5)によって抽出された特徴画像では、エッジに関する情報を失うことなくエッジの位置ずれによる影響を抑制できることを示す。
【0050】
図8(A)に示したブロック画像100は、図3(A)に示す文字画像50の部分画像である。このブロック画像100は、図7の領域100に対応しており、文字の一部を形成する領域110(以下「エッジ」と記載する)を含んでいる。
【0051】
これに対して、図8(B)に示すブロック画像200は、図3(A)と同じ文字を対象として撮像した異なる画像から、図7の領域100に対応する部分画像を抽出したものである。カメラの位置や向きの違い或いは撮像対象となる文字が印字された紙の歪み等によって、同じ文字を撮像したにも拘わらず、画像上で文字の位置がずれる場合がある。図8(B)は、同図(A)に対して文字の位置がX軸方向にずれた場合の例を示している。図8(B)に示すブロック画像200では、同じ文字画像を形成するエッジ210が、同図(A)のエッジ110の位置からずれた位置に表れている。
【0052】
また、図8(C)に示すブロック画像300は、図3(A)とは異なる文字を撮像した画像から図7の領域100に対応する部分画像を抽出したものである。
【0053】
よって、画像から正確に特徴が抽出された場合には、図8(A)と同図(B)とが同じ特徴を示すとともに、これらと同図(C)とが異なる特徴を示すことになる。
【0054】
しかし、従来技術によれば、図8(A)〜(C)のエッジ110,210及び310に最大値フィルタを適用して膨張させた図9(A)〜(C)の特徴画像は、全て同じ画像となり、図8(A)及び(B)と、同図(C)の画像とを区別することができない。
【0055】
これに対して、本実施例では、図10を参照しながら説明したように膨張フィルタを適用する前段階で微分フィルタを適用する。この結果、図8(A)〜(C)に示すブロック画像100,200及び300上で、各々、図11(A)〜(C)に示すように正領域(112A、212A及び312)と負領域(112B及び212B)とを特定することができる。
【0056】
すなわち、図8(B)のブロック画像200では、図11(B)に示すように、同図(A)と同様に正領域212A及び負領域212Bが生成される。しかし、図8(C)のブロック画像300では、図11(C)に示すように、同図(A)及び(B)とは異なり、正領域312のみが得られ、負領域は得られない。
【0057】
正負画像生成部13によって、微分フィルタを適用して得られた図11(A)〜(C)に示す画像102,202及び302から、各々、図12(A)〜(C)に示す正画像103A,203A及び303Aと、負画像103B,203B及び303Bが生成される。そして、膨張処理部14によって、図12(A)〜(C)に示す正画像及び負画像から、各々、図13(A)〜(C)に示す正特徴画像及び負特徴画像が生成される。
【0058】
すなわち、図8(A)に示すエッジ110のブロック画像100から図13(A)に示す正特徴画像104A及び負特徴画像104Bが生成され、図8(B)に示すエッジ210のブロック画像200から図13(B)に示す正特徴画像204A及び負特徴画像204Bが生成される。また、図8(C)に示すエッジ310のブロック画像300からは、図13(C)に示す正特徴画像304A及び負特徴画像304Bが生成される。
【0059】
こうして、生成された特徴画像を比較すると、図8(A)に示すブロック画像100から得られた図13(A)左図の正特徴画像104Aと、図8(B)に示すブロック画像200から得られた図13(B)左図の正特徴画像204Aとは一致する。また、同様に、図8(A)に示すブロック画像100から得られた負特徴画像104Bと、図8(B)に示すブロック画像200から得られた負特徴画像204Bとは一致する。
【0060】
このように、正特徴画像及び負特徴画像を比較することにより、エッジの位置がずれている場合でも、位置ずれによる影響を抑制して、これらが同じエッジであることを判定することができる。すなわち、例えば撮像された文字が位置ずれした画像間においても、文字が一致することを正しく判定することができる。
【0061】
次に、図8(C)に示すブロック画像300について比較を行うと、同図から得られた図13(C)左図の正特徴画像304Aは、図8(A)及び(B)から得られた図13(A)及び(B)の左図に示す正特徴画像104A及び204Aと一致する。
【0062】
しかし、図8(C)に示すブロック画像300から得られた図13(C)右図の負特徴画像304Bは、図8(A)及び(B)から得られた図13(A)及び(B)の右図に示す負特徴画像104B及び204Bとは異なる特徴を示す画像となる。よって、図8(A)及び(B)と、同図(C)の画像を、特徴画像に基づいて区別することができる。
【0063】
このように、本実施例によれば、正特徴画像及び負特徴画像を比較することにより、図8(A)及び(B)に示すエッジ110及び210と、同図(C)に示すエッジ310とが異なるエッジであることを正確に判定することができる。すなわち、膨張処理を行った後も画像に係る特徴を維持して、撮像対象が異なる文字であることを正しく判定することができる。
【0064】
なお、図11及び図12から分かるように、微分フィルタを適用して正領域と負領域とを分けた段階で、同図(A)及び(B)と、同図(C)とが異なる画像であることを判定することも可能である。しかし、この段階では、同図(A)と(B)の間のエッジの位置ずれによる影響が残っているので、これらが同じ画像であることを判定するためには、(A)又は(B)の画像をずらしながら、2つの画像が一致するか否かを判定する必要がある。これに対し、本実施例で得られた図13(A)〜(C)に示す特徴画像では、画像をずらすような複雑な処理を必要とせず、容易かつ高速に特徴画像が一致するか否かを判定することができる。
【0065】
このように、本実施例に係る正特徴画像及び負特徴画像を比較することにより、従来技術と同様にエッジの位置ずれによる影響を抑制しながら、従来技術では同じ画像であると誤判定されるような場合にも異なる画像であることを正確に判定することができる。
【0066】
上述した特徴画像を利用すれば、文字や人物等を撮像した入力画像と予め準備された参照画像との間で正確な画像照合を行うことができる。図15は、このような画像照合を行う画像照合装置400の概要を示すブロック図である。
【0067】
画像照合装置400は、図1に示す画像処理装置1によって生成された特徴画像を利用して画像照合を行う。なお、以下では、画像処理装置1を、特徴画像を生成する機能部として画像特徴抽出装置1と記載する。画像照合装置400は、この画像特徴抽出装置1の他に、画像照合の対象となる文字等を撮像するためのカメラ401と、画像照合結果等の各種情報を表示するための表示装置402と、各部の動作を制御して画像照合を行うための制御部403と、制御部403に対する命令信号の入力や処理内容に関する設定データを入力するための操作部404と、各部の動作に必要な各種のデータを保存するための記憶部405とを備えている。
【0068】
カメラ401は、CCDセンサ等の撮像素子を利用して画像照合の処理対象となる文字等を撮像し、画像データを生成する機能を有する。生成された画像データは制御部403を介して、入力画像405Aとして記憶部405に保存される。なお、カメラ401は一例であって、対象物を撮像した画像データを生成することができれば特に限定されない。例えば、撮像対象が紙媒体に印字された文字である場合には、カメラ401に代えてスキャナを利用してもよい。
【0069】
表示装置402は例えば液晶ディスプレイであり、制御部403から出力される情報を視認可能に表示する機能を有する。また、操作部404は例えば液晶ディスプレイの備えるタッチパネルであり、制御部403へ信号やデータを入力するための機能を有する。
【0070】
また、記憶部405は、例えば半導体メモリであり、カメラ401で撮像された入力画像405Aや、画像照合に利用する参照画像405Bを保存するために利用される。また、画像特徴抽出装置1の処理過程で生成されるデータの一時的な保存にも利用される。例えば、図2に示す画像40が入力画像405Aとして保存される。また、図3Aに示す濃淡画像である参照画像405Bが保存され、この画像から予め生成された図5に示すような正特徴画像53A及び負特徴画像53Bが参照用特徴画像として保存される。また、入力画像405Aから特徴画像を生成する過程で図3及び図4に示す微分画像や正画像及び負画像を一時保存するために記憶装置405が利用される。
【0071】
制御部403は、画像照合部403Aを有する。画像特徴抽出装置1によって入力画像405Aから特徴画像が生成され、画像照合部403Aに入力される。画像照合部403Aは、画像特徴抽出装置1から特徴画像が入力されると、予め記憶部405に保存されていた参照用特徴画像を読み出す。そして、入力画像405Aから生成された特徴画像と参照用特徴画像とを比較することによって、入力画像405Aと参照画像405Bとが一致するか否かを判定する画像照合を行う。
【0072】
具体的には、入力画像405Aから生成された正特徴画像と参照用特徴画像として保存された正特徴画像とを比較すると共に、入力画像405Aから生成された負特徴画像と参照特徴画像として保存された負特徴画像とが比較される。画像の比較は、例えば、相関係数を利用したパターンマッチング処理によって行われる。
【0073】
そして、入力画像405Aと一致すると判定された参照画像405Bがあった場合には、制御部403によって、これを報知する情報が表示部402上に表示される。
【0074】
画像照合部403Aは、予め生成された参照用特徴画像を利用する態様の他、参照画像405Bを利用して画像照合を行うこともできる。具体的には、画像照合部403Aは、画像特徴抽出装置1を利用して記憶部405に保存された参照画像405Bから参照用特徴画像を生成する。そして、入力画像405Aから生成された特徴画像と、参照画像405Bから生成した参照用特徴画像とを比較することによって画像照合を行う。例えば、従来から利用されていた参照画像405Bがある場合には、事前に参照用特徴画像を生成する処理を行わずとも、従来の参照画像405Bをそのまま記憶装置405に保存して本実施例に係る画像照合に利用することができる。
【0075】
参照画像405Bから特徴画像を生成する処理と、予め準備された参照用特徴画像を利用する処理とのいずれを行うかは操作部404を利用して設定することができる。操作部404によって設定された内容は記憶部405に保存される。制御部403は、記憶部405保存された設定内容に基づいて各部を制御して特徴画像の生成や画像照合等の処理を実現する。
【0076】
なお、図15では、画像特徴抽出装置1を、制御部403から独立した構成として示しているが、本実施例がこれに限定されるものではなく、上述した機能を実現可能な範囲で装置の構成を変更してもよい。例えば、制御部403内に画像特徴抽出装置1が含まれるような構成であっても構わない。また、画像特徴抽出装置1が内部に記憶部20を有さず、制御部403に接続された記憶部405を利用する態様であっても構わない。
【0077】
このように、画像照合装置400が、画像特徴抽出装置1を備えることによって、入力画像405Aから特徴画像を生成し、正確な画像照合を行うことができる。また、従来装置で利用されていた参照画像405Bから特徴画像を生成することができるので、従来の参照画像405Bデータを活用することができる。また、従来の画像照合装置に画像特徴抽出装置1を組み込んで利用することも可能である。
【0078】
なお、本実施例では、文字を利用して説明を行ったが、本発明がこれに限定されるものではない。画像上でエッジ部分を抽出して画像照合を正確に行うことができることから、例えば、画像に含まれる対象は特に限定されない。例えば、人物を撮像して認証を行う場合の顔画像の照合等にも利用することができる。
【0079】
上述してきたように、本実施例によれば、微分画像を正領域と負領域とに分離して生成した特徴画像を利用することとしたので、従来技術では区別できなかった画像を異なるものとして正確に判定することができる。
【0080】
また、正画像及び負画像に膨張処理を施すこととしたので、従来と同様に、エッジのずれによる影響を抑制して正確に判定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上のように、本発明は、エッジのずれによる影響を抑制しながら、エッジに関する特徴を失うことなく抽出するために有用な技術である。また、画像間に位置ずれ等の変形がある場合にも画像照合を正確に行うために有用な技術である。
【符号の説明】
【0082】
1 画像処理装置
10 画像特徴抽出部
11 画像切出部
12 微分画像生成部
13 正負画像生成部
14 膨張処理部
20 記憶部
21 画像データ
22 フィルタデータ
23 特徴情報
30 通信インターフェイス
50 顔領域
51 微分画像
52A 正画像
52B 負画像
53A 正特徴画像
53B 負特徴画像
100、200、300 ブロック画像
101、201、301 膨張処理後のブロック画像
103A、203A、303A 正のブロック画像
103B、203B、303B 負のブロック画像
104A、204A、304A 正特徴画像
104B、204B、304B 負特徴画像
110、210、310 エッジ
112A、212A、312 正領域
112B、212B 負領域
400 画像照合装置
401 カメラ
402 表示装置
403 制御部
403A 画像照合部
404 操作部
405 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力画像に所定方向の微分フィルタを適用して微分画像を生成する微分画像生成工程と、
前記微分画像生成工程で生成された前記微分画像の微分値に基づいて正領域及び負領域を分離する正負分離工程と、
前記正負分離工程により分離された前記正領域に基づいて正画像を生成するとともに、前記負領域に基づいて負画像を生成する正負画像生成工程と、
前記正負画像生成工程で生成された前記正画像及び前記負画像から、各画像に含まれる前記正領域を膨張させた正特徴画像及び前記負領域を膨張させた負特徴画像を生成する特徴画像生成工程と
を含んだことを特徴とする画像特徴抽出方法。
【請求項2】
前記正負分離工程では、前記微分フィルタを適用して得られた微分値が正の値である領域が前記正領域として分離され、前記微分値が負の値である領域が前記負領域として分離されることを特徴とする請求項1に記載の画像特徴抽出方法。
【請求項3】
前記特徴画像生成工程では、前記正画像および前記負画像に最大値フィルタを適用することにより、前記正特徴画像及び前記負特徴画像が生成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像特徴抽出方法。
【請求項4】
前記所定方向を含む複数方向の各方向で前記微分画像生成工程、前記正負分離工程、前記正負画像生成工程及び前記特徴画像生成工程を実行して、複数の前記正特徴画像及び前記負特徴画像を生成することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の画像特徴抽出方法。
【請求項5】
入力画像に所定方向の微分フィルタを適用して微分画像を生成する微分画像生成部と、
前記微分画像生成部で生成された前記微分画像から、微分値が正の値である領域に基づいて正画像を生成するとともに、微分値が負の値である領域に基づいて負画像を生成する正負画像生成部と、
前記正負画像生成部で生成された前記正画像及び前記負画像に膨張フィルタを適用して、前記正領域を膨張させた正特徴画像及び前記負領域を膨張させた負特徴画像を生成する特徴画像生成部と
を備えることを特徴とする画像特徴抽出装置。
【請求項6】
入力画像と参照画像とを照合する画像照合方法であって、
画像照合の対象を撮像して前記入力画像を生成するステップと、
前記入力画像から請求項1〜4のいずれか1項に記載の画像特徴抽出方法を用いて特徴画像を生成するステップと、
前記入力画像から生成された前記特徴画像と参照用特徴画像とを比較して、前記入力画像と前記参照画像とが一致するか否かを判定するステップと
を含んだことを特徴とする画像照合方法。
【請求項7】
入力画像と参照画像とを照合する画像照合装置であって、
画像照合の対象を撮像して前記入力画像を生成する撮像部と、
前記撮像部によって生成された前記入力画像から特徴画像を生成する請求項5に記載の画像特徴抽出装置と、
参照用特徴画像が保存された記憶部と、
前記入力画像から生成された前記特徴画像と前記記憶部に保存された前記参照用特徴画像とを比較して、前記入力画像と前記参照画像とが一致するか否かを判定する画像照合部と
を備えることを特徴とする画像照合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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