説明

画像読取装置、その制御方法およびそのプログラム

【課題】作動手段の作動の制限をより適切に行うことができる画像読取装置を提供する。
【解決手段】スキャナーユニット40は、光源ユニット71と光源ユニット71で発光したあとの反射光を受光するCIS74とを備えたCISモジュール76と、CISモジュール76に隣接して設けられCISモジュール76による読取時に発熱を伴って作動するキャリッジモーター78と、暗時にCISモジュール76により読み取られた測定暗時データがキャリッジモーター78の温度に対応付けて定められた所定の基準暗時範囲内にあるか否かを判定する判定部51と、測定暗時データが基準暗時範囲内にあるときには原稿を読み取る読取処理を実行するようCISモジュール76とキャリッジモーター78とを制御し測定暗時データが基準暗時範囲外にあるときには上述した読取処理に比してキャリッジモーター78の作動を制限させる制御部53などを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像読取装置、その制御方法およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の画像読取装置としては、レンズ部と光電変換部との熱膨張の差に起因して、レンズ部の光電変換部との位置ずれが発生した場合、レンズ部の光電変換部に対するずれを検出し、検出されたずれに基づいて、予め記憶された複数の補正データの中から補正データを選択し、その補正データに基づいて電気信号を補正するものが提案されている(例えば特許文献1参照)。この装置では、主走査方向の筋状のムラを良好に補正することができるなど、温度変化による影響を軽減し、原稿の読取品質を向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−56732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の装置では、温度変化による影響を軽減することができるものの、より高い温度では補正だけでは温度変化による影響を十分に軽減できないことがあった。そこで、画像の読み取りに際して温度が高くなった場合には、定期的に冷却時間を設けるなどして作動制限を行うことが考えられるが、このようなものでは作動制限の時間や間隔に余裕を持たせる必要があるため原稿の読み取りに要する時間が長くなることがあった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、作動制限をより適切に行うことができる画像読取装置、その制御方法及びプログラムを提供することを主目的とする。
【0006】
本発明の画像読取装置、その制御方法およびプログラムは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の画像読取装置は、
原稿へ光を照射する発光部と前記光が前記原稿で反射した反射光を受光する受光素子を有する受光部とを備え該原稿を読み取る読取手段と、
前記読取手段に隣接して設けられ前記読取手段による読取時に発熱を伴って作動する作動手段と、
暗時の前記読取手段により読み取られた測定暗時データが、前記作動手段の温度に対応付けて定められた所定の基準暗時範囲内にあるか否かを判定する判定手段と、
前記測定暗時データが前記基準暗時範囲内にあるときには前記原稿を読み取る読取処理を実行するよう前記読取手段と前記作動手段とを制御し、前記測定暗時データが前記基準暗時範囲外にあるときには前記読取処理に比して前記作動手段の作動を制限させる制御手段と、
を備えたものである。
【0008】
この画像読取装置では、測定暗時データが基準暗時範囲内にあるときは原稿の読取処理を行い、測定暗時データが基準暗時範囲外にあるときには原稿の読取処理に比して作動を制限する。ここで、作動手段の温度が高いときには、読取手段に熱影響が及ぶなどして、暗時の読取データである測定暗時データが白色側に移行することがある。この性質を利用し、この装置では、測定暗時データが基準暗時範囲内にあるときには作動手段の温度が高温でないものとして原稿の読取処理を行い、測定暗時データが基準暗時範囲外にあるときには作動手段の温度が高温であるものとして原稿の読取処理のときより作動手段の作動を制限するのである。このように、画像を読み取って測定暗時データを取得し、測定暗時データから推定される作動手段の温度に応じた制御を行うため、作動制限をより適切に行うことができる。なお、隣接とは、作動手段の熱影響が読取手段に及ぶほど、作動手段が読取手段に接近して配設されていることをいい、接している場合のみならず、接していない場合をも含むものとする。また、受光素子は、発光部で照射した光が原稿で反射した反射光を受光するものとしたが、ここでいう原稿には白基準板などの読取対象を含むものとしてもよい。すなわち、発光部で照射したあとの反射光を受光するものとしてもよい。
【0009】
本発明の画像読取装置において、前記作動手段は、前記原稿と前記読取手段とを相対的に移動させる際に駆動される駆動手段であるものとしてもよい。こうすれば、発熱量が大きくなりやすい作動手段である駆動手段の作動制限をより適切に行うことができる。また、前記作動手段は、移動を伴って前記原稿を読み取る前記読取手段に固定され該読取手段と共に移動する駆動手段であるものとしてもよい。こうすれば、より小型化・高出力化が求められ発熱量が大きくなりやすい自らが移動する駆動手段の作動制限をより適切に行うことができる。
【0010】
本発明の画像読取装置において、前記判定手段は、前記作動手段が設けられた範囲の測定暗時データが所定の基準暗時範囲内にあるか否かを判定するものとしてもよい。こうすれば、判定に用いる情報量を少なくすることができ、効率よく判定を行うことができる。
【0011】
本発明の画像読取装置において、前記判定手段は、前記読取手段による測定暗時データの読み取りと該測定暗時データが所定の基準暗時範囲内にあるか否かの判定とを繰り返し、前記制御手段は、前記測定暗時データが前記基準暗時範囲内となるまで前記作動手段の作動を制限させるものとしてもよい。こうすれば、作動制限をより適切に行うことができる。また、前記制御手段は、所定の冷却時間が経過するまで前記作動手段の作動を制限させるものとしてもよい。こうすれば、測定暗時データの読取処理と判定処理の回数を抑制し、効率よく作動手段の作動制限を行うことができる。
【0012】
本発明の画像読取装置の制御方法は、
原稿へ光を照射する発光部と前記光が前記原稿で反射した反射光を受光する受光素子を有する受光部とを備え該原稿を読み取る読取手段と、前記読取手段に隣接して設けられ前記読取手段による読取時に発熱を伴って作動する作動手段と、を備えた画像読取装置の制御方法であって、
(a)暗時の前記読取手段により読み取られた測定暗時データが、前記作動手段の温度に対応付けて定められた所定の基準暗時範囲内にあるか否かを判定するステップと、
(b)前記測定暗時データが前記基準暗時範囲内にあるときには前記原稿を読み取る読取処理を実行するよう前記読取手段と前記作動手段とを制御し、前記測定暗時データが前記基準暗時範囲外にあるときには前記読取処理に比して前記作動手段の作動を制限させるステップと、
を備えた制御方法。
【0013】
この制御方法では、測定暗時データが基準暗時範囲内にあるときには作動手段の温度が高温でないものとして原稿の読取処理を行い、測定暗時データが基準暗時範囲外にあるときには作動手段の温度が高温であるものとして原稿の読取処理のときより作動手段の作動を制限するのである。このように、原稿を読み取る読取手段を用いて測定暗時データを読み取り、測定暗時データから推定される作動手段の温度に応じた制御を行うため、作動制限をより適切に行うことができる。なお、この制御方法において、上述した画像読取装置の種々の態様を採用してもよいし、また、上述した画像読取装置の各機能を実現するようなステップを追加してもよい。
【0014】
本発明のプログラムは、上述した制御方法の各ステップを1以上のコンピューターに実現させるためのものである。このプログラムは、コンピューターが読み取り可能な記憶媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記憶されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピューターから別のコンピューターへ配信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。このプログラムを一つのコンピューターに実行させるか又は複数のコンピューターに各ステップを分担して実行させれば、上述した制御方法の各ステップが実行されるため、制御方法と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】マルチファンクションプリンター20の構成の概略を示す構成図。
【図2】スキャナーユニット40の構成の概略を示す構成図。
【図3】画像読取処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図4】判定範囲の一例を示す説明図。
【図5】基準暗時範囲の求め方の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるマルチファンクションプリンター20の構成の概略を示す構成図である。図2は、スキャナーユニット40の構成の概略を示す構成図である。
【0017】
本実施形態のマルチファンクションプリンター20は、図1に示すように、筐体21と、筐体21の上面を開閉可能な筐体カバー22とにより構成されており、原稿を光学的に読み取ってイメージデータを生成するスキャナーユニット40と、カセット23内にセットされている用紙を給紙し印刷して排紙トレイ24に排紙するプリンターユニット42と、ユーザーによる各種操作が可能な操作パネル46と、装置全体の制御を司るメインコントローラー80と、を備える。筐体21の上面には、ガラス台32を有するフラットベッド部31が配設されており、ガラス台32に載置された原稿をスキャナーユニット40で光学的に読み取ることができるようになっている(以下、この動作モードを原稿固定読取モードと呼ぶ)。また、筐体カバー22には、オートドキュメントフィーダーユニット61(以下、ADFユニットと呼ぶ)が内蔵されており(図2参照)、原稿ガイド29によりガイドされADF挿入口26にセットされている原稿を連続的に自動搬送しながらスキャナーユニット40で光学的に読み取ることができるようになっている(以下、この動作モードをADF読取モードと呼ぶ)。
【0018】
スキャナーユニット40は、スキャナーASIC50と、スキャナーエンジン60とを備える。スキャナーASIC50は、スキャナーエンジン60を制御する集積回路であり、メインコントローラー80からのスキャン指令を受けると、原稿固定読取モードかADF読取モードかのいずれかのモードで原稿をイメージデータとして読み取るようスキャナーエンジン60を制御する。なお、ASICは、Application Specific Integrated Circuitの略である。
【0019】
スキャナーエンジン60は、図2に示すように、ADF挿入口26にセットされた原稿をADF読取領域34に自動搬送するADFユニット61と、ガラス台32あるいはADF読取領域34に光を照射する光源ユニット71と、原稿からの反射光を受光して電荷として蓄えることにより原稿を読み取るコンタクトイメージセンサー(CIS)74と、光源ユニット71とCIS74とを搭載したCISモジュール76と、CISモジュール76の筐体の下側に固定されCISモジュール76と共に移動するキャリッジモーター78と、キャリッジモーター78により回転駆動されるモーターギア78aと、副走査方向に配設されたガイドギア79と、を備える。ここでは、モーターギア78aと、ガイドギア79とが噛み合わされており、かつ、ガイドギア79の配設された副走査方向にCISモジュール76の移動が規制されている。即ち、CISモジュール76は、キャリッジモーター78の駆動に伴いガイドギア79に沿って副走査方向に往復動するよう構成されている。キャリジモーター78は、CISモジュール76による読取時に1ラインずつCISモジュール76を移動させるステッピングモーターであり、発熱を伴って作動する。ADFユニット61は、ADF挿入口26付近に配置されたピックアップローラー63と、搬送経路62に配置された複数の搬送ローラー64と、ADF排紙トレイ28付近に配置された排紙ローラー65とを備えており、各ローラー63,64,65を搬送モーター66で回転駆動させることにより、ADF挿入口26にセットされた原稿を一枚ずつ取り込んで搬送経路62上に自動搬送する。光源ユニット71は、赤色光を点灯する赤LED72Rと、緑色光を点灯する緑LED72Gと、青色光を点灯する青LED72Bの3色の光源を有しており、光源からの光を導光体73を介してガラス台32或いはADF読取領域34に照射する。CIS74は、一ライン分の複数の受光素子(CMOSイメージセンサー)75が主走査方向に配列されたものとして構成されており、各色のLED72R,72G,72Bの点灯を順次切り替えながら反射光を一色ずつ読み取ることによりカラーイメージデータを生成する。
【0020】
スキャナーASIC50は、各デバイスの制御を司る読取処理部51と、LED72R,72G,72Bを個別にオンオフするLED駆動部54と、CIS74で生じたアナログ信号を図示しない増幅器を介して入力してデジタル信号に変換するA/D変換部56と、読取処理部51からの制御信号を受けてキャリッジモーター78や搬送モーター66を駆動するモーター駆動部58と、を備える。読取処理部51は、判定部52と、制御部53と、を備え、原稿の読取処理や、暗時の読取データである測定暗時データの読取処理などを制御する。判定部52は、測定暗時データが、キャリッジモーター78の温度に対応付けて定められた後述する基準暗時範囲内の画素値であるか否かに基づいて、キャリッジモーター78の温度が所定範囲内であるか否かを判定する。制御部53は、判定部52での判定結果に基づいてモーター駆動部58に指令を出力してキャリッジモーター78の駆動を制御する。
【0021】
ガラス台32の副走査方向の端部には、白基準板36が設けられている。この白基準板36は、光源ユニット71の発光のバラツキや受光素子75の素子毎の感度特性のバラツキなどに起因して画素毎に生じる濃度ムラを除去(シェーディング補正)するためのものである。ここで、黒基準データは、原稿の読み取り前に、キャリッジ76を白基準板36に対向する位置まで移動させた状態で、全てのLED72R、72G、72Bをオフとしてスキャンしたときに受光素子75で得られる出力電圧であり、白基準データは、同じくキャリッジ76を白基準板36に対向する位置まで移動させた状態で、現在設定されている原稿読取条件をもって各色のLED72R、72G、72Bをオンとしてスキャンしたときに受光素子75で得られる出力電圧から黒基準データを減算したものである。
【0022】
プリンターユニット42は、プリンターASIC44とプリンターエンジン45とを備える。プリンターASIC44は、プリンターエンジン45を制御する集積回路であり、メインコントローラー80から印刷指令を受けると、印刷指令の対象となる画像ファイルに基づいて記録紙に画像を印刷するようプリンターエンジン45を制御する。プリンターエンジン45は、印刷ヘッドから用紙へインクを吐出することにより印刷を行なう周知のインクジェット方式のカラープリンター機構として構成されている。なお、プリンターユニット42は、本発明の要旨をなさないから、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0023】
操作パネル46は、中央に配置された表示部47と、この表示部47の左隣に配置された電源ボタン48と、を備える。表示部47は、タッチパネル式の液晶ディスプレイとして構成されており、モードを選択するモードボタンや、ディスプレイ上に表示される案内に従ってタッチすることによりメニューや項目を選択する選択/設定ボタン,コピーや印刷を開始するスタートボタンなどを表示してタッチ操作を受け付ける。ここで、モード選択ボタンにより選択可能なモードとしては、ガラス台32に載置された原稿をスキャンしてコピーするコピーモードやメモリーカードスロット49に装着されたメモリーカードMCに記憶された画像を用いて印刷したり原稿をスキャンしてデータ化してメモリーカードMCに保存するメモリーカードモード,写真フィルムをスキャンして印刷したりデータをメモリーカードMCに保存したりするフィルムモードなどがある。
【0024】
メインコントローラー80は、CPU82を中心とするマイクロプロセッサーとして構成されており、各種処理プログラムや各種データ、各種テーブルなどを記憶したROM84と、一時的にスキャンデータや印刷データを記憶するRAM86と、操作パネル46との通信を可能とする内部通信インタフェース88と、を備える。メインコントローラー80は、プリンターユニット42やスキャナーユニット40からの各種動作信号や各種検出信号を入力したり、操作パネル46のタッチ操作に応じて発生する操作信号を入力したりする。また、メモリーカードMCから画像ファイルを読み出したり、画像データの印刷を実行するようプリンターユニット42に指令を出力したり、操作パネル46からのスキャン指令に基づいてガラス台32に載置された原稿を画像データとして読み取るようスキャナーユニット40に指令を出力したり、操作パネル46に表示部47の制御指令を出力したりする。
【0025】
次に、こうして構成された本実施形態のマルチファンクションプリンター20の動作、特に、原稿固定読取モードでスキャンする際の動作について説明する。図3は、スキャナーASIC50により実行される画像読取処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。ここでは、ユーザーが、原稿をガラス台32に載置し操作パネル46に表示された図示しないスタートボタンを押下するという操作を繰り返すことにより、複数の原稿の読取指示を連続的に行う場合を主に説明する。この処理は、例えば、ユーザーにより電源ボタン27が押下され電源がオンされたときに実行される。
【0026】
画像読取処理ルーチンが実行されると、CPU82は、スキャナーASIC50に指令を出力し、シェーディング補正に用いる白基準データ及び黒基準データを検出する処理を実行させる(ステップS100)。ここで、白基準データの検出では、CISモジュール76と白基準板36とが対向する位置まで移動するようキャリッジモーター78を駆動制御し、光源ユニット71の各色LED72R,72G,72Bの全てをオンとして白基準板36をスキャンし、各受光素子75で得られた出力電圧を主走査方向の画素数分格納する処理を行うものとした。また、黒基準データの検出ではCISモジュール76と白基準板36とが対向する位置で、光源ユニット71の各色LED72R,72G,72Bの全てをオフとして白基準板36をスキャンし、各受光素子75で得られた出力電圧を主走査方向の画素数分格納するよう処理を行うものとした。ここで、各基準データは、本実施形態では、スキャンを所定回数繰り返して所定回数分のデータをとり、これらの平均値として設定するものとした。
【0027】
こうして白基準データと黒基準データとを検出すると、CPU82は、読取開始がユーザーにより指示されたか否かを、操作パネル46に表示された図示しないスタートボタンが押下されたか否かに基づいて判定し(ステップS110)、読取開始が指示されると、温度判定タイミングか否かを判定する(ステップS120)。ここでは、温度判定タイミングは、電源をONしてから所定回数(例えば、2回や3回など)の読取指示が連続的に行われた、すなわち、各読取指示の間隔が所定時間内に行われたときとするものとした。所定時間としては、例えば、30秒や1分、5分などとしてもよい。ステップS120で温度判定タイミングでないと判定された場合には、CPU82は、スキャナーASIC50へ指令を出力し、読取手段としてのCISモジュール76を走査し、ガラス台32に載置された原稿を読み取るようCISモジュール76を制御し、原稿の読取処理を実行する(ステップS130)。原稿の読取処理では、各色LED72R,72G,72Bをオンとして原稿に発光し、発光したあとの原稿からの反射光を受光素子75で受光し得られた出力電圧を主走査方向の画素数分格納することにより1ライン分のイメージデータを取得するものとした。そして、キャリッジモーター78を駆動させてCISモジュール76を副走査方向に1ライン分移動させ、イメージデータの取得と副走査方向への移動を繰り返して原稿全体のイメージデータを取得するものとした。続いて、ステップS100で求めた白基準データと黒基準データとを用いて画素ごとの濃度レベルのムラを補正するシェーディング補正処理を実行する(ステップS140)。ステップS140でシェーディング補正が終了したとき、あるいは、ステップS110で読取指示がされていないと判定された場合には、ユーザーにより電源ボタン27が押下され電源がオフされたか否かを判定する(ステップS150)。電源がオフされていないときにはステップS110以降の処理を繰り返し実行する。
【0028】
ステップS120で温度判定タイミングであると判定された場合には、CPU82は、スキャナーASIC50に指令を出力して、読取手段としてのCISモジュール76を制御し、測定暗時データの読取処理を実行する(ステップS160)。測定暗時データの読取処理では、上述した黒基準データの検出と同様に、光源ユニット71の各色LED72R,72G,72Bの全てをオフとして白基準板36をスキャンし、さらに、RGB値の平均値(以下、画素値とも称する)を求め、これを測定暗時データとするものとした。また、測定暗時データは、本実施形態では、スキャンを所定回数繰り返して所定回数分のデータをとり、これらの平均値として設定するものとした。このようにして読み取った測定暗時データから判定範囲のデータを抽出する(ステップS170)。図4は、判定範囲の一例を示す説明図である。この図4には、高温時および通常時に読み取った測定暗時データ90のイメージ図も示した。図4に示すように、CIS74に熱が加わった状態で得られる画像は、熱影響を受けた範囲で白色側に移行することがある。例えば8bitのRGB値(0〜255)として表現すると、25℃などの通常時では全体が黒(例えばRGB値:10〜20)となるのに対し、100℃などの高温時では、熱影響を受けた範囲で白色側に移行する(例えばRGB値:30〜40)ことがある。ここでは、判定範囲は、キャリッジモーター78が設けられたCISモジュール76の範囲とした。キャリッジモーター78が設けられた範囲では、CISモジュール76は、特に熱の影響を受けやすく、このように熱の影響を受けやすい範囲から得られるデータを用いて判定を行えば、効率よく判定を行うことができる。また、この判定範囲は、所定の受光素子と対応づけて判定部に記憶されているものとした。つづいて、判定範囲の測定暗時データが基準暗時範囲内であるか否かを判定する(ステップS180)。ここでは、基準暗時範囲は、判定部52に数値範囲として記憶されているものとした。このように、CIS74などが高温にさらされると、黒い画像が通常よりも白色側に移行する性質を利用して、CISモジュール76で読み取られた測定暗時データに基づいてキャリッジモーター78の温度を推定するのである。図5は、基準暗時範囲の求め方の一例を示す説明図である。基準暗時範囲は、キャリッジモーター78の温度とそのときに得られる画素値との関係を実験などによって求め、良好な読取品質が得られるときのキャリッジモーター78の温度範囲に対応する画素値の範囲として定められている。ここで、キャリッジモーター78の温度T(℃)と画素値Dとの関係は、キャリッジモーター78の温度がTL℃のときの画像の画素値DLと、TL℃より高温であるTH℃のときに読み取った画像の画素値DHとを測定し、これらの値から直線近似により求めるものとした。この場合、TとDは下記式(1)によって求めることができる。なお、ここでは、TLおよびTHはキャリッジモーター78にサーモセンサーを接触させて直接測定するものとした。
【0029】
T=((TH−TL)/(DH−DL))D+(DH・TL−DL・TH)/(DH−DL)…(1)
【0030】
ステップS180で基準暗時範囲内であると判定されたときには、キャリッジモーター78は高温でないものとみなし、ステップS130以降の原稿の読取処理を行う。一方、ステップS180で基準暗時範囲内でないと判定されたときには、キャリッジモーター78が高温となっているものとみなし、キャリッジモーター78の駆動を制限する(ステップS190)。そして、ステップS160〜ステップS180の処理を繰り返し、ステップS180で基準暗時範囲内であると判定されるまで、駆動制限を継続する。ここでは、キャリッジモーター78の駆動制限は、キャリッジモーター78への電力の供給を停止することにより行うものとした。ステップS180で基準暗時範囲内であると判定されると、上述と同様にステップS130以降の原稿の読取処理を行う。そして、ステップS150で電源がオフされたと判定されたときにはこのルーチンを終了する。
【0031】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の光源ユニット71が本発明の発光部に相当し、CIS74が本発明の受光部に相当し、CISモジュール76が読取手段に相当し、キャリッジモーター78が作動手段に相当し、CPU82及び判定部52が判定手段に相当し、CPU82及び制御部53が制御手段に相当する。なお、本実施形態では、画像読取装置の動作を説明することにより本発明の制御方法の一例も明らかにしている。
【0032】
以上詳述した本実施形態のマルチファンクションプリンター20では、測定暗時データが基準暗時範囲内にあるときはキャリッジモータ78の温度が高温でないとして原稿の読取処理を行い、測定暗時データが基準暗時範囲外にあるときにはキャリッジモーター78の温度が高温であるとしてキャリッジモーター78の作動を制限する。このように、読み取った画像データである測定暗時データに基づいてキャリッジモーター78の温度を推定するため、キャリッジモーター78の作動の制限をより適切に行うことができる。また、測定暗時データが基準暗時範囲内となると作動の制限を解除して速やかに原稿の読取処理に移行するため、作動制限をより適切に行うことができる。また、キャリッジモーター78の作動制限をより適切に行うことができるため、読取品質を低下させずに効率よく読取処理を行うことができる。また、原稿を読み取るCISモジュール76を用い、これにより得られた画像データである測定暗時データを用いてキャリッジモーター78の温度を推定するため、温度センサーなどの新たな部品を必要とせず、既存の部品構成で、より容易に作動手段の作動の制限を行うことができる。
【0033】
また、発熱量が大きくなりやすいキャリッジモーター78の作動制限をより適切に行うことができるため、CISモジュール76への熱影響を効率よく抑制することができる。特に、キャリッジモーター78は、CISモジュール76の筐体に固定されCISモジュール76と共に移動するため、より小型化・高出力化が求められ発熱量が大きくなりやすい。また、判定部52は、キャリッジモーター78が設けられた範囲である判定範囲の測定暗時データが所定の基準暗時範囲内にあるか否かを判定するため、判定に用いる情報量を少なくすることができ、効率よく判定を行うことができる。
【0034】
また、CISモジュール76は、キャリッジモーター78の駆動に伴いガイドギア79に沿って副走査方向に往復動するよう構成されているため、スキャナ装置の筐体の一端に取り付けられた駆動モータと筐体の他端側に取り付けられた従動ローラとの間に架設されたキャリッジベルトが駆動モータによって駆動されるのに伴ってキャリッジ移動方向(副走査方向)へ移動するものなどと比較して、構成を簡略化できる。また、CISモジュール76の筐体の下側にキャリッジモーター78が固定されているから、省スペース化が可能である。
【0035】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0036】
上述した実施形態では、原稿固定読取モードの場合について説明したが、ADF読取モードの場合に適用してもよい。ADF読取モードでは、キャリッジモーター78を移動しないが、CIS76をADF読取領域34に固定するために電力を供給し続ける場合がある。このような場合に、電力の供給を停止したり制限することにより、駆動制限を行うことができる。また、上述した実施形態では、ADFユニット61は、ADF読取範囲34で原稿を読み取るタイプのものとしたが、ガラス台32に原稿を移動させるタイプのものとしてもよい。この場合、キャリッジモーター78の駆動制限は、原稿固定読取モードの場合と同様に行うことができる。
【0037】
例えば、上述した実施形態では、キャリッジモーター78の温度を推定するものとしたが、CISモジュール76による読取時に発熱を伴って作動するものの温度を推定するものであれば特に限定されない。例えば、ADF読取モードでの読取時に発熱を伴って作動する搬送モーター66の温度を推定してもよい。こうしても、作動制限をより適切に行うことができる。
【0038】
上述した実施形態では、キャリッジモーター78は、CISモジュール76の筐体に固定されたものとしたが、CISモジュール76に直接的又は間接的に固定されているものとしてもよい。こうしても、CISモジュール76の作動制限をより適切に行うことができる。また、キャリッジモーター78は、ステッピングモーターであるものとしたが、特にこれに限定されない。
【0039】
上述した実施形態では、キャリッジモーター78の駆動制限は、キャリッジモーター78への電力の供給を停止することにより行うものとしたが、電力の供給量を減らすものとしてもよい。電力の供給量を減らす態様としては、キャリッジモーター78の回転駆動の速度を遅くするものとしてもよいし、回転しないように固定するものとしてもよい。このように電力の供給量を減らすことで、キャリッジモーター78の発熱量を減少させることができる。また、これらの駆動制限を組み合わせ、測定暗時データの値に応じて多段又は無段に変化させてもよい。さらに、キャリッジモーター78の駆動制限とあわせてキャリッジモーター78を冷却する処理を行ってもよい。また、キャリッジモーター78の駆動制限は、ステップS180で基準暗時範囲内であると判定されるまで継続するものとしたが、所定の冷却時間が経過するまで駆動制限を継続した状態で待機するものとしてもよい。この場合、所定の冷却時間が経過したときは、キャリッジモーター78の温度が高温でなくなっているものとみなして以降の処理を行うものとしてもよい。こうすれば、読取や判定の回数を抑制することができ、効率的に作動制限を行うことができる。このような、駆動制限の時間は、キャリッジモーター78の温度と駆動制限の種類とに基づいて経験的に求めた時間としてもよい。また、所定の冷却時間が経過するたびにステップS160〜ステップS180の処理を行いキャリッジモーター78の温度を判定し、ステップS180で基準暗時範囲内であると判定されるまで、駆動制限を継続するものとしてもよい。この所定の冷却時間は、キャリッジモーター78の温度と駆動制限の種類とに基づいて経験的に求めた時間としてもよい。これら種々の態様とすることで、作動制限をより適切に行うことができる。
【0040】
上述した実施形態では、キャリッジモーター78の駆動制限をしている間は原稿の読取処理を行わないものとしたが、原稿の読取処理を行ってもよい。例えば、キャリッジモーター78の駆動制限にあわせて、原稿の読取処理を行ってもよい。こうすれば、駆動制限中も原稿の読取処理を行うことができるため、より効率よく原稿の読取処理を行うことができる。
【0041】
上述した実施形態では、温度判定タイミングは電源をONしてから所定回数(例えば、2回や3回など)の読取指示があり、かつ、各読取指示の間隔が所定時間内に行われたときとするものとしたが、特にこれに限定されない。例えば、読取指示があったときを毎回温度判定タイミングとしてもよいし、所定時間内に所定回数以上読取指示があったときとしてもよい。また、測定暗時データの読取は、白基準板の位置で行ったが、測定暗時データの読取時に光が入らないようなければ、特に限定されない。例えば、読取位置で行ってもよい。
【0042】
上述した実施形態では、キャリッジモーター78が設けられたCIS74の範囲である判定範囲のデータを測定暗時データから抽出し、これが基準暗時範囲内であるか否かを判定するものとしたが、判定範囲のデータを抽出しなくてもよい。また、判定範囲は、キャリッジモーター78が設けられた範囲でなくてもよく、例えば、主走査方向全体でもよいし、キャリッジモーター78が設けられた範囲から所定の距離の範囲などとしてもよい。
【0043】
上述した実施形態では、基準暗時範囲や測定暗時データは、画素値(RGB値)の平均値としたが、これに限定されない。例えば、電荷の量や電圧など、各素子75から得られる電気信号としてもよい。こうすれば、読取から判定までの処理をより少なくできる。また、画素値から推定される温度としてもよい。
【0044】
基準暗時範囲の設定はどのように行うものとしてもよいが、工場での製品出荷前に行ってもよいし、ユーザーが行ってもよいし、定期点検時などにサービスマンが行ってもよい。また、基準暗時範囲は、直線近似によって定めたが、これに限定されず種々の近似を用いることができる。また、温度と画素値との関係を実測した点は2点としたが、この点数を増やしてもよい。こうすれば、より正確な近似を行うことができる。また、基準暗時範囲は、数値範囲として判定部52が有しているものとしたが、これに限定されない。例えば、近似式などを判定部52が有するものとし、近似式を用いて基準暗時範囲内か否かを求めるものとしてもよい。また、基準暗時範囲の設定を行う際、温度は、キャリッジモーター78にサーモセンサーを接触させて直接測定するものとしたが、これに限定されない。例えば、所定条件で所定時間キャリッジモーター78を駆動させた場合の温度を経験的に求めておき、その条件でキャリッジモーター78を駆動させたときの画素値などを初回起動時などに読み取るものとしてもよい。
【0045】
上述した実施形態では、シェーディング補正を行うものとしたが、これを行わなくてもよい。
【0046】
上述した実施形態では、マルチファンクションプリンター20として説明したが、例えば、スキャナー装置としてもよいし、FAX機能を備えたFAX装置としてもよい。また、プリンターユニット42は、インクジェット方式のカラープリンター機構としたが、特にこれに限定されず、電子写真方式のカラープリンターとしてもよいし、ドットインパクト方式のカラープリンターとしてもよいし、これらのモノクロプリンターとしてもよい。
【0047】
上述した実施形態では、マルチファンクションプリンター20として説明したが、制御方法としてもよいし、この方法を実行するプログラムとしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
20 マルチファンクションプリンター、21 筐体、22 筐体カバー、23 カセット、24 排紙トレイ、26 ADF挿入口、28 ADF排紙トレイ、29 原稿ガイド、31 フラットベッド部、32 ガラス台、34 ADF読取領域、36 白基準板、40 スキャナーユニット、42 プリンターユニット、44 プリンターASIC、45 プリンターエンジン、46 操作パネル、47 表示部、48 電源ボタン、49 メモリーカードスロット、50 スキャナーASIC、51 読取処理部、52 判定部、53 制御部、54 LED駆動部、56 A/D変換部、58 モーター駆動部、60 スキャナーエンジン、61 オートドキュメントフィーダー(ADF)ユニット、62 搬送経路、63 ピックアップローラー、64 搬送ローラー、65 排紙ローラー、66 搬送モーター、71 光源ユニット、72R,72G,72B LED、73 導光体、74 CIS、75 受光素子、76 CISモジュール、78 キャリッジモーター、78a モーターギア、79 ガイドギア、80 メインコントローラー、82 CPU、84 ROM、86 RAM、88 インターフェース(I/F)、90 測定暗時データ、MC メモリーカード、S 原稿。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原稿へ光を照射する発光部と前記光が前記原稿で反射した反射光を受光する受光素子を有する受光部とを備え該原稿を読み取る読取手段と、
前記読取手段に隣接して設けられ前記読取手段による読取時に発熱を伴って作動する作動手段と、
暗時の前記読取手段により読み取られた測定暗時データが、前記作動手段の温度に対応付けて定められた所定の基準暗時範囲内にあるか否かを判定する判定手段と、
前記測定暗時データが前記基準暗時範囲内にあるときには前記原稿を読み取る読取処理を実行するよう前記読取手段と前記作動手段とを制御し、前記測定暗時データが前記基準暗時範囲外にあるときには前記読取処理に比して前記作動手段の作動を制限させる制御手段と、
を備えた画像読取装置。
【請求項2】
前記作動手段は、前記原稿と前記読取手段とを相対的に移動させる際に駆動される駆動手段である、請求項1に記載の画像読取装置。
【請求項3】
前記作動手段は、移動を伴って前記原稿を読み取る前記読取手段に固定され該読取手段と共に移動する駆動手段である、請求項1又は2に記載の画像読取装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記作動手段が設けられた範囲の測定暗時データが所定の基準暗時範囲内にあるか否かを判定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の画像読取装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記読取手段による測定暗時データの読み取りと該測定暗時データが所定の基準暗時範囲内にあるか否かの判定とを繰り返し、
前記制御手段は、前記測定暗時データが前記基準暗時範囲内となるまで前記作動手段の作動を制限させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の画像読取装置。
【請求項6】
前記制御手段は、所定の冷却時間が経過するまで前記作動手段の作動を制限させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の画像読取装置。
【請求項7】
原稿へ光を照射する発光部と前記光が前記原稿で反射した反射光を受光する受光素子を有する受光部とを備え該原稿を読み取る読取手段と、前記読取手段に隣接して設けられ前記読取手段による読取時に発熱を伴って作動する作動手段と、を備えた画像読取装置の制御方法であって、
(a)暗時の前記読取手段により読み取られた測定暗時データが、前記作動手段の温度に対応付けて定められた所定の基準暗時範囲内にあるか否かを判定するステップと、
(b)前記測定暗時データが前記基準暗時範囲内にあるときには前記原稿を読み取る読取処理を実行するよう前記読取手段と前記作動手段とを制御し、前記測定暗時データが前記基準暗時範囲外にあるときには前記読取処理に比して前記作動手段の作動を制限させるステップと、
を備えた制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載された画像読取装置の制御方法の各ステップを1又は複数のコンピューターに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−124811(P2012−124811A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275494(P2010−275494)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】