説明

界面活性剤を含有する排水の処理方法および排水処理システム

【課題】逆浸透膜処理装置の膜面に対してカチオン系またはノニオン系の界面活性剤が吸着することによる透過流束低下を抑制する。
【解決手段】飲料製造工場等の飲料製造設備10から排出され、カチオン系および/またはノニオン系の界面活性剤を含有する排水を、殺菌剤分解用触媒112に通液して殺菌剤を分解し、殺菌剤分解用触媒112を経た排水をカチオン荷電の逆浸透膜処理装置150に通液することを特徴とする界面活性剤を含有する排水の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤を含有する排水の処理方法および排水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲料製造工場などにおいて、排水を再利用するシステムが注目を浴びている。排水の再利用は、水道水の使用量を低減でき、また排水量を削減することもできることから、工場の運転コストの低減のみならず環境に対する配慮の点からも好ましい。従って、水を大量に消費する企業の間では、排水の再利用システムを導入する必要性が急速に高まっている。この排水の再利用システムは、清涼飲料などの一般充填設備や、無菌充填設備にて用いられ、回収対象となる排水としては、飲料充填前の容器洗浄に用いられたリンサー排水や充填後の容器洗浄に用いられたパストライザー排水等が挙げられる。
【0003】
例えば、飲料製造工場などの一般充填設備や無菌充填設備のリンサーでは、飲料を充填しようとする容器を次亜塩素酸ナトリウムや過酸化物(過酸化水素、過酢酸等)を含む酸化性の殺菌剤で殺菌した後に、この容器を無菌水ですすぐ作業が行われる。そのために、リンサーからは、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、過酢酸等の殺菌剤を含む排水が連続的に排出され、この排水中の殺菌剤をいかに処理するかが従来から課題となっていた。
特許文献記載の従来技術として、例えば、供給された排水中の過酢酸を過酢酸分解槽(活性炭塔)で酢酸に分解し、分解した酢酸含有水中の酢酸を逆浸透膜により除去する処理装置が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−170657号公報(第3−5頁、図1)
【特許文献2】特開2002−307081号公報(第3頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、飲料製造工場のなかで、主にペットボトルの清涼飲料水を製造する工場では、容器の殺菌洗浄水の中にコンベア潤滑剤が混入している。このコンベア潤滑剤は、ペットボトルが生産ラインをスムーズに流れるようにコンベア表面に吹き付けられるもので、例えば界面活性剤が用いられる。ペットボトルは軽量であることから、特に飲料充填前は生産ライン上で転倒が起こり易く、転倒が起こると生産ラインが停止して生産性が低下することに鑑み、これを防止するためにコンベア潤滑剤が用いられる。このコンベア潤滑剤は、リンサーに容器を搬送するコンベアラインだけでなく、飲料が充填された後の容器をパストライザーに搬送するコンベアラインにも用いられている。
【0006】
しかしながら、これらのコンベア潤滑剤の含有排水を逆浸透膜処理装置で処理する場合に、界面活性剤の極性と膜面の荷電により、透過流束の低下が発生することがある。これは、従来のコンベア潤滑剤としてはアニオン(陰イオン)系が多く使用されていたが、近年では滑り剤としての機能の他に殺菌性、低発泡性を考慮して、カチオン(陽イオン)系、ノニオン(非イオン)系の界面活性剤が用いられる場合が多くなっており、その一方で、逆浸透膜は通常、アニオン荷電となっている。そのために、カチオン系の界面活性剤が膜面に吸着し、透過流束の低下を引き起こしてしまう。ノニオン系の界面活性剤であっても、長期間、用いられた場合には、界面活性剤の膜面吸着による透過流束の低下現象が問題となってしまう。上記各特許文献を含む従来の技術では、このような界面活性剤の極性と膜面の荷電による問題には対応することができない。
【0007】
本発明は、以上のような技術的課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、逆浸透膜処理装置の膜面に対してカチオン系またはノニオン系の界面活性剤が吸着することによる透過流束低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かくして、下記請求項[1]〜[4]に係る発明が提供される。
[1]請求項1に係る発明は、飲料製造工場から排出され、カチオン系および/またはノニオン系の界面活性剤を含有する排水を、殺菌剤分解用触媒に通液して殺菌剤を分解し、前記殺菌剤分解用触媒を経た排水をカチオン荷電の逆浸透膜に通液することを特徴とする界面活性剤を含有する排水の処理方法です。
[2]請求項2に係る発明は、前記殺菌剤を分解するステップは、前記排水を一度中性付近に調整した後、前記殺菌剤分解用触媒に通液することを特徴とする請求項1に記載の界面活性剤を含有する排水の処理方法です。
【0009】
[3]請求項3に係る発明は、飲料製造工場から排出され、カチオン系および/またはノニオン系の界面活性剤を含有する排水を処理する排水処理システムであって、前記界面活性剤を含有する前記排水から殺菌剤を分解する殺菌剤分解装置と、前記殺菌剤分解装置により殺菌剤が分解された排水をカチオン荷電の逆浸透膜によってろ過する逆浸透膜処理装置とを含む排水処理システムです。
[4]請求項4に係る発明は、前記排水は、容器の殺菌・洗浄に用いられるリンサー排水および/またはパストライザー排水であることを特徴とする請求項4に記載の排水処理システムです。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、逆浸透膜処理装置における透過流束の低下が起こり難くなり、逆浸透膜処理装置の長期安定運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1が適用される排水処理システムの全体構成を示した図である。
【図2】実施の形態2における排水処理システムの全体構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態が適用される排水処理システム100の全体構成を示した図である。図1に示す排水処理システム100は、一般充填PETラインや無菌充填PETライン等からなる飲料充填設備10に接続され、この飲料充填設備10からの排水を回収して再利用するための設備(システム)を構成している。飲料充填設備10は、例えば飲料が充填されるボトルやキャップ等の容器を殺菌・洗浄するリンサー(図示せず)や、容器に充填した飲料などの製品に対して冷却および殺菌を施すパストライザー(図示せず)などの水処理工程を含んでいる。排水処理システム100では、このリンサーからの排水であるリンサー排水や、パストライザーからの排水であるパストライザー排水などの排水を処理し、飲料充填設備10に戻すことで、排水の再利用を実現している。
【0014】
ここで、飲料充填設備10では、例えば生産ライン(コンベアライン)でペットボトルなどの容器を搬送している。このとき、ペットボトルなどの容器が生産ラインをスムーズに流れるように、コンベア表面にコンベア潤滑剤が噴射される。そのために、リンサー排水やパストライザー排水には、殺菌剤や、製品を容器に充填した際に容器に付着した製品成分(コーヒー、茶、果汁、シロップなど)の他に、コンベア潤滑剤が混入している。従来のコンベア潤滑剤としてはアニオン系の界面活性剤が多く使用されていた。しかしながら、近年、潤滑性に加えて殺菌性や低発泡性を確保するために、このコンベア潤滑剤としてカチオン系(またはノニオン系)の界面活性剤が用いられる状況が増えており、排水処理システム100にて処理されるリンサー排水やパストライザー排水には、カチオン系やノニオン系の界面活性剤が含まれている。
【0015】
このようなリンサー排水やパストライザー排水を処理するシステムとして、本実施の形態が適用される排水処理システム100は、殺菌剤分解装置110と、pH調整装置120と、逆浸透膜処理装置130とを備えている。この殺菌剤分解装置110は、リンサー排水やパストライザー排水に含まれる殺菌剤(次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、過酢酸等)を分解している。より詳しくは、殺菌剤分解装置110は、殺菌剤の分解反応に適したpHに排水を調整するためのpH調整111と、殺菌剤を分解するための触媒が充填された殺菌剤分解用触媒112とを含んでいる。殺菌剤分解装置110では、まず、pH調整111にて、排水を苛性ソーダ等により中性付近(通常pH7程度)に調整する。酸性では分解効率が悪いことから、中性かアルカリ性となるように調整される。そして、pHが調整された排水に混入した殺菌剤は、主に活性炭からなる殺菌剤分解用触媒112にて分解される。例えば殺菌剤である過酢酸は、殺菌剤分解装置110によって酢酸に分解される。
【0016】
排水処理システム100のpH調整装置120は、殺菌剤分解装置110によって殺菌剤が分解された排水に対し、この排水を受け渡す逆浸透膜処理装置130にカチオン系やノニオン系の界面活性剤が吸着することを抑制するためにpHを調整している。このpHの調整は、殺菌剤分解装置110によって殺菌剤が分解された排水のpHをpH測定器(図示せず)によって測定し、例えば塩酸等によりpHが6以下となるようにフィードバック制御がなされる。
【0017】
逆浸透膜処理装置130は、排水中の主として溶解性不純物を除去する膜処理装置であり、逆浸透膜(RO膜)や、ルーズRO膜とも呼ばれるNF膜(ナノろ過膜)から構成されている。尚、本実施の形態では、NF膜も含めて「逆浸透膜」として説明する。この逆浸透膜処理装置130では、殺菌剤分解装置110によって分解された、例えば酢酸や、製品を容器に充填した際に容器に付着した製品成分(コーヒー、茶、果汁、シロップなど)、コンベア潤滑剤の成分などをろ過している。ろ過されるこれらの汚染物質は、リンサー排水やパストライザー排水中では、溶解物質または懸濁物質として存在している。
【0018】
逆浸透膜処理装置130を構成する逆浸透膜には、親水性を持たせるために、カルボキシル基(COOH)などの官能基が導入されている。この官能基にはアニオン系、カチオン系、ノニオン系があり、その一種または数種が導入されている。しかしながら、その種類や配合量は銘柄毎に異なっていることから、それによって膜ごとに電荷の違いが生じる。また、中性雰囲気に解離度を持っている弱酸基、弱塩基を多く含有している場合には、中性雰囲気でのpHの変化に対して解離度が変わり、表面電荷を変化させる。
【0019】
アニオン荷電膜では、官能基として例えばカルボキシル基だけを有し、pH変化によるカルボキシル基の解離度により、マイナス荷電性が変化する。このカルボキシル基を含むアニオン荷電膜では、中性雰囲気では解離状態となっているため、アニオン荷電となっているが、pH4以下では解離がなくなり、中性荷電となる。これに対して、pH依存性両性荷電膜は、pH変化によりアニオン荷電にもカチオン荷電にもなり得る膜のことであり、例えばアニオン系のカルボキシル基と共にカチオン系のアミノ基が含有されており、アルカリ性から中性域ではアニオン荷電であるが、酸性域になるとアニオン荷電からカチオン荷電へと変化する。
カチオン荷電膜では、官能基として例えばアミノ基を有し、カチオン荷電の性質を有している。
【0020】
本実施の形態では、コンベア潤滑剤が含有される排水をpH6以下に調整し、下流側の逆浸透膜処理装置130に通液する。pHを6以下とすることで、逆浸透膜処理装置130の膜表面のアニオン荷電(マイナス荷電)を弱めたり、中性〜カチオン荷電(プラス荷電)へと変えることができる。これにより、カチオン荷電のコンベア潤滑剤が膜表面へ吸着することを最小限に抑えることが可能となる。この調整するpHの値は、膜の銘柄と使用するコンベア潤滑剤によって、それぞれ異なった最適値をとる。即ち、膜に導入されている官能基の種類、量や、界面活性剤に含有されている成分によって変化する。そこで、事前に試験を行い、最適値を決定することが好ましい。
【0021】
ここで、カルボキシル基の解離度合いについて説明する。
アニオン荷電の逆浸透膜に用いられているカルボキシル基(酢酸)の解離度合いは、以下の通りとなる。
【0022】
【表1】

【0023】
表1では、排水のpHの値に対してカルボキシル基の解離している割合(%)が表示されている。この表1に示すように、解離している割合は、pH7以上で99%以上となっており、この状態では未解離の部分は殆どない。一方で、pH6.5から徐々に解離が始まっている。後述する実施例では、pH5.8で効果が確認されており、微量でも未解離の部分があると効果が出てくると考えられる。
【0024】
また、膜の荷電の絶対的な大きさ(強さ)は、pHだけではなく、導入されている交換基の絶対量にも大きく影響を受ける。pHによる解離の割合が小さくても、交換基の量が多ければ、強い荷電を示す。一般的に膜の荷電は銘柄により異なるが、メーカのデータや文献では、RO膜は強く、NF膜は弱くなっていると言われている。
尚、アニオン荷電が強い程、カチオン荷電物質が吸着し易くなる。この為、NF膜では元々の荷電が弱いことから、pHが高めでも実施効果が出る傾向にある。一方で、RO膜では荷電が強い為、pHを低めに調整する必要があると考えられる。
カルボキシル基の解離度合いからは、pHの適用範囲は、ほとんど解離の無くなるpH4以下、好ましくは3.5以下が適当であると考えられる。しかしながら、後述する膜の使用条件、経済性から許容上限値を上げることが好ましく、適用上限値は、pHにより解離が始まる6.5以下、好ましくは解離度合いが立ち上り始める6以下がよいと考えられる。
【0025】
次に、膜の使用条件について説明する。逆浸透膜の銘柄によっても異なるが、一般的には以下の通りとなる。
まず、pHの許容範囲はpH3〜9になっていることが多く、供給水、濃縮水ともに、この範囲を守ることが必要となる。逆浸透膜ではイオンの濃縮が起こるため、供給水が酸性の場合には処理水の酸性度はさらに強くなる。本実施の形態にて、pHを下げる操作は、濃縮水でもpH3以上を維持しなければならず、供給水の上限値はそれを考慮する必要がある。供給水と処理水とのpHの差は、濃縮倍率により異なってくるが、一般的に供給水のpHを3.5〜4以上に調整する必要がある。
また、脱塩性能は、供給水pHにより影響を受け、pH4以下になると急激に性能低下が起きてしまう。そこで、本実施の形態における適用下限値は、3.5以上が好ましく、4以上が更に好ましいと考えられる。
ここで、pHをより低い値に下げることは、より多くの薬剤を使用することになり、経済性が悪化する。そこで、経済性からはできるだけ中性付近が好ましい条件となる。
以上、全体をまとめると、pH調整装置120によるpH調整範囲としては、pH3.5〜6.5程度が好ましく、5〜6程度が最も好ましいと考えられる。
【0026】
尚、容器殺菌洗浄排水が酢酸を含有している場合には、排水原液のpHが6以下となっている。殺菌剤分解装置110の殺菌剤分解用触媒112は、前述のように、通常、中性〜アルカリ側で分解効率が高いため、殺菌剤分解装置110のpH調整111で、一度、中性付近に調整する必要がある。pH調整装置120による酸性側への調整は、殺菌剤分解用触媒112による殺菌剤の分解後とした方が良いが、分解効率に問題がない場合には、触媒前段で逆浸透膜の最適pHに調整しても構わない。
【0027】
[実施例]
以下、実施例により本実施の形態(実施の形態1)を具体的に説明する。但し、本実施例は、本実施の形態を限定するものではない。
(実施例1)
各実施例および比較例では、逆浸透膜処理装置130として、東レ(株)製のSU600(アニオン荷電、NF膜)を用いた。また、コンベア潤滑剤として、エコラボ(株)製のサニクレンズPET(カチオン、ノニオン系界面活性剤含有)を使用した。この実施例1では、膜浸漬液として、コンベア潤滑剤の原液を41倍希釈したところ、希釈後のpHは5.8であった。膜処理の試験条件は、水回収率を50%、ろ過の際の圧力を0.35MPa、試験原液は、ペットボトル容器の殺菌洗浄排水を用いた。試験手順としては、まず、初期の透過流束(L/m2・h)を測定した後、浸漬液(コンベア潤滑剤の希釈液)に15時間浸漬した。最後に純水でよく洗浄した後、透過流束を測定した。
【0028】
(実施例2)
逆浸透膜処理装置130として、東レ(株)製のSU600を同様に用いた。コンベア潤滑剤として、エコラボ(株)製のルボドライブZF(カチオン、アニオン、ノニオン系界面活性剤含有)を使用した。この実施例2では、膜浸漬液として、コンベア潤滑剤の原液を33倍希釈したところ、希釈後のpHは3.9であった。他の条件は実施例1と同様である。
【0029】
(比較例1)
逆浸透膜処理装置130として、東レ(株)製のSU600を同様に用いた。また、コンベア潤滑剤としては、実施例1と同様に、エコラボ(株)製のサニクレンズPETを使用した。この比較例1では、膜浸漬液のpHを苛性ソーダにより7に調整した。他の条件は実施例1と同様である。
【0030】
(比較例2)
逆浸透膜処理装置130として、東レ(株)製のSU600を同様に用いた。また、コンベア潤滑剤としては、実施例2と同様に、エコラボ(株)製のルボドライブZFを使用した。この比較例2では、膜浸漬液のpHを苛性ソーダにより7に調整した。他の条件は実施例1と同様である。
【0031】
上記各実施例におけるコンベア潤滑剤の希釈液浸漬前に対する透過流束の変化を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示すように、比較例1および比較例2で浸漬液のpHが7である場合には、浸漬前と比べ透過流束が87%および85%と低下している。一方、実施例1および実施例2で浸漬液のpHが酸性側に調整されている場合には、浸漬後の透過流束は浸漬前の99%および95%であり、透過流束の低下を抑えることができる。
このように、逆浸透膜処理装置130に通液する前にpHを6以下に調整することで、逆浸透膜処理装置130の透過流束の低下が発生し難くなり、逆浸透膜処理装置130の長期間にわたる安定運転を可能とすることができる。
【0034】
(実施の形態2)
実施の形態1では、図1に示すように、逆浸透膜処理装置130の前処理としてpHを6以下に調整するpH調整装置120を設けることで、カチオン系またはノニオン系の界面活性剤が逆浸透膜処理装置130の膜面に吸着することを抑制した。実施の形態2では、実施の形態1と同様な課題に対応するために、排水にカチオン系またはノニオン系の界面活性剤が含まれるシステムにおいて、予めカチオン荷電の逆浸透膜を用いる。これによって、カチオン系またはノニオン系の界面活性剤による膜面の透過流束低下の発生を抑制している。
尚、実施の形態1と同様な機能については同様な符号を用い、ここではその詳細な説明を省略する。
【0035】
図2は、実施の形態2における排水処理システム100の全体構成を示した図である。図2に示す排水処理システム100は、殺菌剤分解装置110の下流側に、カチオン荷電の膜からなる逆浸透膜処理装置150を設けている。一般の排水処理では、原水にアニオン荷電を有する天然系の有機物が多く含まれる。そのために、逆浸透膜としてカチオン荷電の膜を用いると直ぐに閉塞してしまうことから、排水処理では、通常、アニオン荷電のものが用いられる。しかしながら、本実施の形態では、純水が用いられ天然系の有機物があまり含まれていない飲料製造工場からの排水の特質と、近年、コンベア潤滑剤としてカチオン系またはノニオン系の界面活性剤が用いられることが多いという点に鑑み、逆浸透膜処理装置150にカチオン荷電の膜を用いている。
【0036】
図2に示す排水処理システムでは、リンサーやパストライザーからの、カチオン系またはノニオン系の界面活性剤からなるコンベア潤滑剤が含有された排水を処理する。このとき、まず、殺菌剤分解装置110のpH調整111にて、コンベア潤滑剤の含有排水を苛性ソーダ等により中性付近に調整(排水原液のpHが6以下の場合)する。その後、殺菌剤分解装置110の主に活性炭からなる殺菌剤分解用触媒112に通液し、含有している殺菌剤(次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、過酢酸等)を分解する。本実施の形態では、このようにして殺菌剤が分解された排水を、カチオン荷電の逆浸透膜からなる逆浸透膜処理装置150に通液する。逆浸透膜処理装置150にて、このカチオン荷電の膜を使用することで、カチオン系の界面活性剤が膜面に吸着し、膜面が閉塞することを抑制することができる。
【0037】
〔実施例〕
以下、実施例により本実施の形態(実施の形態2)を具体的に説明する。但し、本実施例は、本実施の形態を限定するものではない。
(実施例3)
ここでは、逆浸透膜処理装置150として、東レ(株)製のSU200(カチオン荷電、NF膜)を用いた。また、コンベア潤滑剤として、エコラボ(株)製のサニクレンズPET(カチオン、ノニオン系界面活性剤含有)を使用した。膜浸漬液として、コンベア潤滑剤の原液を41倍希釈したところ、希釈後のpHは5.8となった。これを苛性ソーダにより7に調整した。膜処理の試験条件は、水回収率を50%、ろ過の際の圧力を0.75MPa、試験原液は、ペットボトル容器の殺菌洗浄排水を用いた。試験手順としては、まず、初期の透過流束を測定した後、浸漬液(コンベア潤滑剤の希釈液)に15時間浸漬した。その後、純水でよく洗浄した後、透過流束を測定した。
【0038】
(比較例3)
逆浸透膜処理装置150として、東レ(株)製のSU600(アニオン荷電、NF膜)を用いた。また、コンベア潤滑剤としては、実施例3と同様な、エコラボ(株)製のサニクレンズPETを使用し、他の条件も全て実施例3と同様にした。
【0039】
上記各実施例におけるコンベア潤滑剤の希釈液浸漬前に対する透過流束の変化を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3に示す比較例3のように、アニオン荷電の逆浸透膜処理装置150を用いた場合には、浸漬前と比べ透過流束が87%と低下率が大きい。一方、実施例3のようにカチオン荷電の逆浸透膜処理装置150を用いた場合には、浸漬後の透過流束を99%と高く維持でき、透過流束の低下を抑えることができた。
このように、逆浸透膜処理装置150にカチオン荷電膜を使用することで、逆浸透膜処理装置150の透過流束の低下が発生し難くなり、逆浸透膜処理装置150の長期間にわたる安定運転を可能とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、例えば一般充填設備や無菌充填設備などの、例えば飲料製造工場における排水回収システムなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10…飲料充填設備、100…排水処理システム、110…殺菌剤分解装置、111…pH調整、112…殺菌剤分解用触媒、120…pH調整装置、130…逆浸透膜処理装置、150…逆浸透膜処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料製造工場から排出され、カチオン系および/またはノニオン系の界面活性剤を含有する排水を、殺菌剤分解用触媒に通液して殺菌剤を分解し、
前記殺菌剤分解用触媒を経た排水をカチオン荷電の逆浸透膜に通液することを特徴とする界面活性剤を含有する排水の処理方法。
【請求項2】
前記殺菌剤を分解するステップは、前記排水を一度中性付近に調整した後、前記殺菌剤分解用触媒に通液することを特徴とする請求項1に記載の界面活性剤を含有する排水の処理方法。
【請求項3】
飲料製造工場から排出され、カチオン系および/またはノニオン系の界面活性剤を含有する排水を処理する排水処理システムであって、
前記界面活性剤を含有する前記排水から殺菌剤を分解する殺菌剤分解装置と、
前記殺菌剤分解装置により殺菌剤が分解された排水をカチオン荷電の逆浸透膜によってろ過する逆浸透膜処理装置と
を含む排水処理システム。
【請求項4】
前記排水は、容器の殺菌・洗浄に用いられるリンサー排水および/またはパストライザー排水であることを特徴とする請求項3に記載の排水処理システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−235288(P2011−235288A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167400(P2011−167400)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【分割の表示】特願2005−69898(P2005−69898)の分割
【原出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000232863)日本錬水株式会社 (75)
【Fターム(参考)】