説明

界面活性剤無添加エマルション接液部用構成材料

【課題】界面活性剤を添加することなくエマルションを製造するにあたり、エマルションの状態を安定に保持することを可能にする界面活性剤無添加エマルション接液部用構成材料を提供する。
【解決手段】界面活性剤無添加エマルションが接する接液部の表面が絶縁材料33である界面活性剤無添加エマルション接液部用構成材で、エマルション製造装置の構成部材である循環タンク、配管などの界面活性剤無添加エマルションが接する接液部に適用可能である。絶縁材料33にはガラス、絶縁性プラスチックが利用可能であり、例えば、絶縁性プラスチックにはテフロン又はポリ塩化ビニルなどを使用し、絶縁材料33はエマルションの接液部の表面に被覆したり、あるいは循環タンク、配管、貯蔵容器を絶縁材料で作製したりする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤無添加エマルションの液滴が合一することなく分散した状態を安定して維持できる界面活性剤無添加エマルション接液部用構成材料に関する。
【背景技術】
【0002】
エマルションは、化粧品、食品、医薬部外品、医薬品等に広く用いられている。エマルションは元来物理的に不安定であるため、界面活性剤を添加して安定化させている。
【0003】
例えば水と油のように、通常混じり合わない液体を乳化させる場合には、エマルションは安定化のために界面活性剤を添加して製造されるが、界面活性剤を用いることで製造コストが非常に高くなるだけでなく、界面活性剤のなかには、環境的に望ましくなかったり、毒性があったり、皮膚に対して刺激性を有したり、あるいは望ましくない香りを与えたりするので、医薬品、化粧品、食品等には使用できないものも多く、その使用が制限される場合がある。
【0004】
そこで、界面活性剤を添加しない界面活性剤無添加エマルションが提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
前記引用文献1には、乳化剤を添加するエマルション燃料は価格が高くなるだけでなく、燃焼に悪影響を与えることから、乳化剤を用いずに燃料油と水とを混合したエマルション燃料について開示されている。
【0006】
前記引用文献2には、乳化界面活性剤を含まず、優れた化粧品特性を有する一方で、安定且つ効果的な水中油型エマルションの形態である、クレンジング及び/またはメイクアップ除去化粧品組成物として、水性相中に分散したオイル相を含む、クレンジング及び/またはメイクアップ除去用化粧品組成物であって、(1)遊離形態または部分的もしくは完全な中和形態でスルホ基を含むエチレン性不飽和を含む少なくとも1つのモノマーを含み、少なくとも1つの疎水性部分を含む、両親媒性ポリマー、及び(2)少なくとも1つのメイクアップ除去オイルを含む化粧品組成物が開示されている。
【0007】
前記引用文献3には、含有するオイルの量に関わらず、乳化界面活性剤を含まず、さらに従来の欠点を有することなく優れた化粧品特性を示す安定な水中油型エマルションを提供するため、
水相中に分散した油相を含む水中油型エマルションの形態の組成物であって、生理学的に許容される媒体中に、界面活性剤を含まず、(1)少なくとも一のオキシアルキレン基を含む少なくとも一の架橋した固形オルガノポリシロキサンエラストマー、及び(2)水溶性または水中で膨潤可能な少なくとも一のポリマーを含む組成物が開示されている。
【0008】
前記引用文献4には、O/Wエマルションにおいて通常使用される乳化性界面活性剤を具備せず、流動性及び安定性の高い水中油型エマルションを提供することを目的として、水相に分散された油相を生理学的に許容される媒体中において具備する水中油型エマルションの流動性組成物であって、当該組成物の全量に対して活性物質を最大で0.5重量%具備し、当該組成物が、界面活性剤を含まず、(a)α,β−エチレン性不飽和を具備するカルボン酸、(b)(a)以外のエチレン性不飽和を具備する非界面活性性のモノマー、及び(c)1水酸基性の非イオン性両親媒性化合物とイソシアネートとの反応生成物であって、モノエチレン性不飽和を具備した非イオン性ウレタンモノマー、より得られる少なくとも一のアクリルターポリマーである組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−203323号公報
【特許文献2】特開2003−128532号公報
【特許文献3】特開2001−019850号公報
【特許文献4】特開2000−297006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
O/Wエマルションが界面活性剤を添加することなく安定化するメカニズムとしては、図4に示すように、油滴表面が比較的高いマイナスのゼータ電位(−40mv程度)を帯びているため油滴どうしがお互いに反発することにより、油滴が合一することなく安定分散化していることによる。
【0011】
しかしながら、エマルション製造装置の循環タンクや配管あるいは充填容器などのエマルションが接する接液面にステンレスなどの金属材料を使用すると、油滴の合一が発現する。この油滴の合一現象は、生成したエマルションを二つのビーカーにとりわけ、片方のみにアルミ板を浸漬すると、3〜4日後アルミ板を入れた方だけに合一現象が発現することからも、界面活性剤を添加せずに製造したエマルションは、油滴の表面電位が金属が有するプラスの電荷に奪われることで合一するものと推察される。
【0012】
このことから、界面活性剤を添加することなく製造したエマルションはお互いが有するマイナスの電位で反発しながら安定しているので、このようなエマルションを製造する場合は、従来から多用されているステンレス等の金属を製造装置や貯蔵タンクの接液部に使用すると、安定したエマルションの製造や保管ができないことを知見した。
【0013】
そこで、本発明は、界面活性剤を添加することなくエマルションを製造するにあたり、エマルションの状態を安定に保持することを可能にする界面活性剤無添加エマルション接液部用構成材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、界面活性剤無添加エマルションが接する接液部の表面が絶縁材料であることを特徴とする界面活性剤無添加エマルション接液部用構成材である。
【0015】
本発明は、例えばエマルション製造装置の構成部材である循環タンク、配管などの界面活性剤無添加エマルションが接する接液部に適用可能である。
【0016】
エマルション燃料製造装置としては、例えば、超音波キャビテーション効果を利用したエマルション製造装置(特開2006−322463号公報)、乳化剤を用いずに燃料油と水とを一つのミキサーに供給して混合するエマルション燃料製造装置(特開平10−185183号公報)、攪拌容器内の混合液に旋回流を形成する噴射ノズルを利用したエマルション燃料製造装置(特開2006−111666号公報)、仕切板で仕切られている循環タンク注入液分散ノズルで噴射したエマルションを循環させるエマルション製造装置(特開2011−105375号公報)に使用可能である。
【0017】
また、上記エマルション製造装置限らず、界面活性剤や乳化剤を添加することなく製造したエマルションを充填・保管する収容容器においても使用可能である。
【0018】
本発明は、前記絶縁材にはガラス、絶縁性プラスチックが利用可能であり、例えば、絶縁性プラスチックにはポリテトラフルオロエチレン(テフロン商標名)又はポリ塩化ビニルなどを使用する。
【0019】
絶縁材料はエマルションの接液部の表面に被覆したり、あるいは循環タンク、配管、貯蔵容器を絶縁材料で作製したりしてもよい。
【0020】
図5に示すように、装置の循環タンクを含む接液部および貯蔵タンクまたは充填容器の表面にテフロン等の絶縁被膜を施すか、装置の循環タンクを含む接液部および貯蔵タンクまたは充填容器の材賃をプラスチックや塩ビ等の絶縁材料にて製作する。これにより、金属が有するプラスの電荷による油滴のマイナス電位低下を阻止する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、エマルションの接液部を絶縁材料としたことによって、長期間にわたりエマルションの分散質である油滴が合一することなく安定した状態を保つことができるO/Wエマルション及び逆の形態をなすW/Oのエマルションを製造、保管することが可能となる。
【0022】
また、本発明により、高価な界面活性剤を添加することなくエマルションを安定した状態に維持することが可能となるばかりでなく、さらに、界面活性剤を使用しないので、安全性や環境についての問題がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用したエマルション製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】図1の一部拡大断面図である。
【図3】(a)は図1に示す注入液分散ノズルの断面図、(b)は流入面を示す図、(c)は流出面を示す図、(d)は流出面からみた拡大側面図である。
【図4】金属が有するプラスの電荷によるO/Wエマルションの合一メカニズムの説明図である。
【図5】絶縁被膜による油滴のマイナス電位低下を阻止するメカニズムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明では、エマルションが接するタンクや配管などの接液部の表面をテフロン等の絶縁材料とするため、金属製のタンクや配管などが金属製の場合は、その表面に絶縁被膜を施すか、タンクや配管を絶縁材料にて製作することにより、金属が有するプラスの電荷による油滴のマイナス電位低下による合一を阻止してエマルションの製造・保管を安定させる。
【実施例1】
【0025】
本発明をエマルション製造装置に適用した実施例について図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1に示すように、エマルション製造装置は、分散媒となる液体と分散質となる注入液が混合された循環液が循環する循環タンク10、注入液を貯留する注入液用タンク14が配置されている。
【0027】
循環タンク10には、上部に循環液が流入する循環液流入口21が設けられ、下部には循環タンク内の循環液を流出させる循環液流出口22が設けられ、循環液流入口21および循環液流出口22は、それぞれ循環用配管2に接続され、循環用配管2の途中には循環液11を送液するポンプ12及び注入液を微細化して分散させる注入液分散ノズル1が接続されている。ポンプ12の出側には、圧力計13が設けられている。循環タンク10の循環液11が循環用配管2及び循環タンク10を通って循環する。また、循環配管2には、エマルションの生成状態を検知する手段として、例えば、透過光測定装置が設けられ、透過光測定装置により光の透過度を検出し、透過度が安定した時点で循環を終了する。
【0028】
注入液用タンク14には分散質となる注入液を注入液分散ノズル1に導入するための注入液導入配管6が接続され、注入液導入管6には注入液導入量調整弁7が設けられ、この注入液導入量調整弁7の開度を調整して注入される注入液の送液量を調節するとともに、注入終了時には注入液導入量調整弁7を閉じ、注入を停止させる。なお、注入液導入配管6には注入液の逆流を防止する逆止弁8が取り付けられている。
【0029】
循環タンク10内には、タンク10の中心に立設された支柱30に、上下方向に複数の仕切板31が間隔をおいて支持されている。循環タンク10と仕切板31は、図2に示すように、絶縁材料33で被覆されている。絶縁材料は、例えば、テフロン、ポリ塩化ビニルなどの絶縁性樹脂が適している。
【0030】
仕切板31は循環液11が通る開口32が形成されており、開口32の配置が異なる2種類の仕切板31が交互に支柱30に支持されている。一方の仕切板31は開口32が外周側に外周に沿って間隔をおいて形成され、他方の仕切板31は開口32が中心部の周りに間隔をおいて形成されている。
【0031】
仕切板31の外周側の開口32と中心部周りの開口32が上下に交互に配置されることにより、循環タンク10に循環液流入口21から接線方向に流入した液体は仕切板31の外周側の開口32に向かって外周側に向かい、外周側32の開口を通過した液体は、次の仕切板31の中心部周りの開口32により中心側に向かい、次の仕切板31の開口32により外周側の開口32に向かって外周側に向かい、外周側32の開口を通過した液体は、循環液流出口22に向かって流れ循環する。
【0032】
両端が循環用配管2に接続された注入液分散ノズル1は、図3に示すように、循環用配管2で送液される液体が流入し流出する液体流路3が形成され、液体の流入側には液体流入孔3aが形成され、液体の流出側には混合室4へ液体流出孔3bが開口している。本実施例では3個の液体流路3が端面でそれぞれが点対称位置になるように形成されている。
【0033】
注入液分散ノズル1には、分散媒の液体に混合する分散質の注入液を自吸により導入する注入液導入流路5が配置され、注入液導入流路5は、導入側に注入液分散ノズル1の外側面に注入液導入孔5aが開口し、流出側に注入液注入孔5bが開口している。注入液注入孔5bは、3個の液体流出孔3bに囲まれる配置にする。この配置により、注入液が自吸により連続的に液体中に注入ができる。
【0034】
液体流路3の液体流出孔3bから流出する液体と、注入液導入流路5の液体注入孔5bから注入される注入液が混合される混合室4は、液体流出孔3bから流出する液体に注入液注入孔5bから流出した注入液が注入される注入室4aと、この注入室4aに連続して注入室4aより大きい径の撹拌室4bが形成される。
【0035】
注入室4aでは液体流出孔3bから吐出された液は、オリフィス効果による自吸作用により注入液が注入液注入孔5bから安定して連続的に吸入され、液体注入孔5bを有する吐出面にキャビテーションを伴う剥離域が発生することで、液体と注入液の混合液を微細化することができる。注入室4aを出た混合液は、撹拌室4b内に発生する乱流によって均一に撹拌される。
【0036】
本実施例のエマルション製造装置による分散媒(水)と分散質(椿油)からなる界面活性剤無添加エマルションの製造過程は次のとおりである。
【0037】
ポンプ12を作動させると、循環タンク10に貯留されていた分散媒(水)が循環用配管2に流れ、同時に注入液分散ノズル1の注入室4aの注入液注入孔5b近傍に負圧が発生し、注入液用タンク14から注入液導入管6を通して注入する分散質(椿油)が自吸作用により自動的に注入される。注入量は注入液導入管6に取り付けた注入液導入量調整弁7の開度によって調整する。注入室4aで水に椿油が注入され、注入液分散ノズル1で微細化された椿油が混合された混合液は撹拌室4bで撹拌されながら吐出され循環タンク10へ送られる。
【0038】
循環タンク10では、循環タンク10に循環液流入口21から接線方向に流入した液体は、仕切板31の外周側の開口32に向かって流れ、開口32を通って次の仕切板31の中心部周りの開口32により中心側に向かい、開口32を通って次の仕切板31の開口32に向かって外周側に向かい、開口32を通って循環液流出口22に向かって流れる。循環タンク10では、循環液が旋回流れを伴い仕切板の外周側と中心側を交互に通過するため、循環タンク内の液体が淀むことなく循環回数を均一化できる。
【0039】
循環タンク10の混合液は、タンク10の下部からポンプ12により吸込まれ循環用配管2を通って注入液分散ノズル1で椿油を水に注入しながら、混合して微細化され、分散される。
【0040】
所定量の椿油が注入されると、注入液導入量調整弁7を閉じる。注入停止後も循環を繰り返して循環タンク10で混合液の微細化、拡散を繰り返す。
【0041】
循環タンク10と仕切板31等の接液部が絶縁製のテフロンで被覆されているので、金属が有するプラスの電荷による椿油の油滴のマイナス電位低下が阻止され、油滴は合一することなく安定分散した状態が維持されていた。
【0042】
<試験例>
接液部材の違いによるエマルションのTOC(全有機炭素量)残存率(%)について試験した。油には椿油を使用した。
(1)本発明実施例
エマルションをテフロンコーティングのステンレス製タンクで製造):79.86%(2)
(2)比較例1
エマルションをステンレス製タンクで製造:6.66%
(3)比較例2
前記本発明実施例でエマルション生成後、アルミ容器に一週間保管:2.43%
【0043】
以上の結果から、前記本発明実施例に示すように、接液部を絶縁材料で構成することにより、界面活性剤無添加エマルションを安定した状態に維持することが可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0044】
1:注入液分散ノズル
2:循環用配管
3:液体流路
3a:液体流入孔
3b:液体流出孔
4:混合室
4a:注入室
4b:撹拌室
5:注入液導入流路
5a:注入液導入孔
5b:注入液注入孔

6:注入液導入管
7:注入液導入量調整弁
8:逆止弁
10:循環タンク
11:循環液
12:ポンプ
13:圧力計
14:注入液用タンク
21:循環液流入口
22:循環液流出口
23:排気バルブ
30:支柱
31:仕切板
32:開ロ
33:絶縁材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤無添加エマルションが接する接液部の表面が絶縁材料であることを特徴とする界面活性剤無添加エマルション接液部用構成材。
【請求項2】
前記絶縁材料が、ガラス又は絶縁性プラスチックであることを特徴とする請求項1に記載の界面活性剤無添加エマルション接液部用構成材。
【請求項3】
前記接液部が界面活性剤無添加エマルション製造装置又は界面活性剤無添加エマルション収容容器の界面活性剤無添加エマルションの接液部であることを特徴とする請求項1に記載の界面活性剤無添加エマルション接液部用構成材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−704(P2013−704A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136713(P2011−136713)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(398005630)株式会社オ−ラテック (15)
【Fターム(参考)】