説明

畜肉エキスの製造法

本発明は、乳化剤を添加する工程およびUHT滅菌処理工程を有することを特徴とする畜肉エキスの保存性向上方法、乳化剤を添加する工程およびUHT滅菌処理工程を有することを特徴とする畜肉エキスの製造法、および該製造法により得られる畜肉エキスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、畜肉エキス、畜肉エキスの製造方法および畜肉エキスの保存性向上方法に関する。
【背景技術】
飲食品を常温で流通させる場合、保存性向上のためにレトルト滅菌等の加熱滅菌が行われる。しかし、加熱滅菌を行うと加熱臭の発生、フレーバーの揮発等、品質の劣化が起こることがある。この問題を解決するために飲食品を冷凍して流通する(コールドチェーン流通)ことが行われているが、コールドチェーン流通はコストが高いという問題がある。また、飲食品製造時の加熱が不十分な場合、流通過程で菌により汚染される恐れがある。
常温で流通でき、かつ加熱による悪影響を最小限に抑えることのできる液状飲食品の殺菌処理方法としてUHT(Ultra High Temperature)滅菌処理等のいわゆる高温瞬間滅菌法がある。
しかし、UHT滅菌処理では、低酸度液状食品や中性液状食品を対象とした場合、一般に芽胞菌と呼ばれる耐熱性の高い微生物、例えばバチルス(Bacillus)属、スポロラクトバチルス(Sporolactobacillus)属、クロストリディウム(Clostridium)属またはスポロサルシナ(Sporosarcina)属に属する微生物等が残存することがある。
一般に、飲食品の耐熱性の芽胞菌による変敗を加熱処理により防止する方法として、シュガーエステルを添加する方法(特開昭56−18578号公報参照)、モノグリセリン脂肪酸エステルを添加する方法(特開昭51−61630号公報参照)、ジグリセリン脂肪酸エステルを添加する方法(特開平7−39354号公報参照)、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加する方法(特開昭62−163678号公報参照)等が知られている。しかし、これらの方法では、121℃で30分程度の加熱滅菌が必要であるとされている。
高温での加熱滅菌を必要としない方法としては、ショ糖脂肪酸エステルを添加し、50℃以下、加圧条件下で滅菌を行う方怯(特開平5−284949号公報参照)、リゾチームおよびショ糖脂肪酸エステルを添加する方法(特開2002−234808号公報参照)等が知られている。
しかし、加圧条件下で滅菌するためには圧力容器が必要でありコストがかかるという問題がある。また、リゾチームを使用する方法では、リゾチームはグラム陰性細菌には効果が低いので、滅菌が不十分になる恐れがある。
畜肉エキスは、一般にスープとして利用されている。蓄肉エキスの長期保存のためにはレトルト滅菌処理等の滅菌処理が必要であるが、レトルト滅菌処理すると加熱臭が生じるという問題がある。また、UHT滅菌処理しても芽胞菌の胞子が残存する可能性があり、そのため処理温度を高くするか処理時間を長くする必要があることから、加熱臭が発生しやすくなる。
高温での加熱を必要としない方法として加圧処理を行った場合、畜肉エキスの主成分であるゼラチンが変性する恐れがある。また、畜肉エキスはグラム陽性菌およびグラム陰性菌のいずれの細菌によっても汚染されるので、リゾチームによる滅菌方法は適当ではない。
このようなことから、畜肉エキスの品質に影響を与えることなく、効率よく滅菌できる方法が求められている。
【発明の開示】
本発明の目的は、畜肉エキスの保存性向上方法、保存性の良好な畜肉エキスの製造法および保存性の良好な畜肉エキスを提供することにある。
本発明は、以下の(1)〜(7)に関する。
(1) 乳化剤を添加する工程およびUHT滅菌処理工程を含むことを特徴とする畜肉エキスの製造法。
(2) 乳化剤が、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれる乳化剤である、上記(1)の製造法。
(3) 畜肉エキスが、清澄な畜肉エキスである、上記(1)または(2)の製造法。
(4) 乳化剤を添加し、UHT滅菌処理を行うことを特徴とする、畜肉エキスの保存性向上方法。
(5) 乳化剤が、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれる乳化剤である、上記(4)の保存性向上方法。
(6) 畜肉エキスが清澄な畜肉エキスである、上記(4)または(5)の保存性向上方法。
(7) 上記(1)〜(3)いずれか1つの製造法により得られる畜肉エキス。
本発明において用いられる乳化剤としては、飲食品に供される乳化剤であれば、いずれの乳化剤でも用いることができる。
たとえば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビタン、ショ糖、これらの脂肪酸エステル、およびレシチンをあげることができるが、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルが好ましく用いられる。
グリセリン脂肪酸エステルのグリセリンとしては、モノグリセリン、ポリグリセリン等をあげることができる。ポリグリセリンはいずれのポリグリセリンであってもよいが、ジグリセリンが好ましく用いられる。
グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンまたはポリグリセリンのモノ、ジ、トリ、テトラ、またはペンタエステルのいずれの脂肪酸エステルであってもよいが、モノ脂肪酸エステルであることが好ましい。ジ、トリ、テトラまたはペンタ脂肪酸エステルである場合の脂肪酸は同一の脂肪酸であっても異なる脂肪酸であってもよい。
グリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸としては、いずれの脂肪酸であってもよいが、例えば、カプリル酸(炭素数8)、カプリン酸(炭素数10)、ラウリン酸(炭素数12)、ミリスチン酸(炭素数14)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)、オレイン酸(炭素数18)等、炭素数が8以上、好ましくは8以上18以下、さらに好ましくは8以上14以下の直鎖の飽和または不飽和脂肪酸が好適に用いられる。脂肪酸エステルは単独として用いても2種以上の混合物として用いてもよい。
ソルビタン脂肪酸エステルのソルビタンは、1,5−ソルビタン、3,6−ソルビタンおよび1,4−ソルビタンから選ばれるソルビタンをあげることができる。ソルビタン脂肪酸エステルの脂肪酸としては、いずれの脂肪酸でもよいが、例えば、カプリル酸(炭素数が8)、ラウリン酸(炭素数12)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)、オレイン酸(炭素数18)等、炭素数が8以上、好ましくは8以上18以下の直鎖の飽和または不飽和脂肪酸が好ましく用いられる。ソルビタン脂肪酸エステルは単独で用いても、2種以上の混合物として用いてもよい。
ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸としては、パルミチン酸(炭素数16)、またはステアリン酸(炭素数18)等をあげることができる。
ショ糖脂肪酸エステルはモノエステルであっても、ジエステルであっても、これらの混合物であってもよいが、モノエステルとジエステルとの混合物である場合、モノエステルの含有量は該混合物の60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがさらに好ましい。
本発明において、畜肉エキスとは、動物の骨、肉等から、水等の水性媒体またはアルコール等の有機溶媒により抽出して得られる抽出液として製造することができるが、市販のものを用いて行ってもよい。
動物は、いずれの動物であってもよいが、トリ、ウシまたはブタが好適に用いられる。抽出の原料として用いられる部位としては、骨および肉のいずれでもよく、これらを単独または2種類以上混合して用いてもよい。
原料からの抽出は、水性媒体、有機溶媒等の抽出媒体を用いて行われるが、水性媒体が好ましく用いられる。
水性媒体としては、水または無機塩水溶液が用いられる。無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等があげられる。
有機溶媒としては、飲食品への利用という点から、エタノールが好ましく用いられる。エタノールは含水エタノールであってもよく、含水率が10%(v/v)〜90%(v/v)のものが好ましく用いられる。
抽出は、原料からタンパク質、ペプチド、その他の呈味成分を抽出できるものであればいずれの装置を用いて行ってもよい。例えば、常圧釜、加圧釜等の加熱装置があげられる。
抽出は、通常、上記の原料に抽出媒体を加え、60℃〜150℃で30分間〜1週間加熱することにより行う。
また、酵素処理により抽出する方法、室温程度で長時間保持する方法等(特開平3−130048号、特開平3−259063号、特開平6−062792号等)を用いることができる。
抽出操作後、沈降分離、ケーク濾過、清澄濾過、遠心濾過、遠心沈降、圧搾、分離、フィルタープレス等の固液分離方法を用いて、好ましくは濾過により、抽出液を取得し、これを畜肉エキスとして用いてもよい。
なお、抽出時に生じる油分は固液分離時に3層分離機等で分離除去してもよい。油分を分離除去して得られる抽出液は、透明感があり、清澄な畜肉エキスとして使用することができる。
本発明において清澄な畜肉エキスとは、畜肉エキス中の粗脂肪が、2%(w/w)以下、好ましくは1%(w/w)以下である畜肉エキスをいう。畜肉エキス中の粗脂肪量は常法により分析することができる。
このような清澄な畜肉エキスは、一般に「清湯」として用いられる。
固液分離により得られた抽出液を、加熱濃縮、逆浸透濃縮、減圧濃縮、凍結濃縮等の方法により濃縮し、得られた濃縮液を畜肉エキスとして用いてもよい。ただし、ゼラチンの含有率が高い抽出液は、ゼラチンがゲル化しない温度以上に保持するのが好ましく、たとえば40℃以上に保持することが好ましい。
上記畜肉エキスの製造工程において、油分を分離しなかった抽出液はそのまま、油分を分離除去した抽出液は、分離した油分、または必要に応じて植物油等の油脂を再び添加し、ホモミクサー、コロイドミル、高圧ホモゲナイザー、ボテーター、超音波発生装置等を用いて乳化してこれを畜肉エキスとして用いてもよい。このように乳化して得られる畜肉エキスは、一般に「白湯」として用いられる。
上記で得られる畜肉エキスは、必要に応じて無機塩、酸、アミノ酸類、核酸、糖類、調味料、香辛料等の飲食品に使用可能な各種添加物を含有していてもよい。
無機塩としては、食塩、塩化カリウム、塩化アンモニウム等があげられる。酸としては、アスコルビン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、脂肪酸等のカルボン酸およびそれらの塩等があげられる。該塩としては、ナトリウムおよびカリウム塩があげられる。アミノ酸としては、グルタミン酸ナトリウム、グリシン等があげられる。核酸としてはイノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等があげられる。糖類としては、ショ糖、ブドウ糖、乳糖等があげられる。調味料としては醤油、味噌、エキス等の天然調味料、香辛料としては各種の香辛料があげられる。これらの含有量は、使用目的に応じて適宜設定することができるが、例えば畜肉エキス100重量部に対して0.1〜500重量部含有できる。
本発明で用いられる畜肉エキスは、上記の畜肉エキスであればいずれの畜肉エキスであってもよいが、清澄な畜肉エキスであることが好ましい。
乳化剤は、UHT滅菌処理を行う前であれば、畜肉エキスの製造工程のいずれかの工程の間に添加してもよいし、畜肉エキス製造後、UHT滅菌処理の直前に添加してもよいが、乳化剤の濃度をコントロールするためには、UHT滅菌処理を行う直前に添加することが好ましい。乳化剤はあらかじめ水等に溶解して添加することが好ましい。
乳化剤の添加量は、乳化剤の種類、畜肉エキス中に存在する微生物の種類、畜肉エキス中の微生物の数等により異なるが、乳化剤添加後の畜肉エキス中、0.01重量%以上、好ましくは0.03重量%以上、さらに好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上となるように添加される。乳化剤の添加量の上限は特に制限はないが、5重量%以下であることが好ましい。
乳化剤を添加した後、畜肉エキスと乳化剤とを十分に混合することが好ましい。
本発明において、UHT滅菌処理法は、UHT滅菌処理することのできる方法であれば、直接加熱法、間接加熱法のいずれの方法であってもよい。直接加熱法としては、高圧蒸気を直接畜肉エキスに注入噴射する方法であるスチームインジェクション法、高圧蒸気の中に畜肉エキスを噴射する方法であるスチームインフュージョン法、畜肉エキスに通電する方法であるジュール加熱法等があげられる。間接加熱法としては、プレート式熱交換法、チューブ式熱交換法、かき取り式熱交換法等があげられる。
UHT滅菌処理を行う装置としては、上記UHT滅菌処理を行える装置であれば、いずれの装置であってもよい。例えば、アセブライザーSDI型(スチーム直接加熱滅菌用、イズミフードマシナリ社製)、ジュール加熱滅菌システムFJLシリーズ(ジュール加熱法用、フロンティアエンジニアリング社製)、アセブライザーPHX型(プレート式間接加熱滅菌用、イズミフードマシナリ社製)、アセブライザーSHE型(かき取り式間接加熱滅菌用、イズミフードマシナリ社製)、アセブライザーTHX型(チューブ式間接加熱滅菌用、イズミフードマシナリ社製)、少容量液体連続滅菌試験機RMS型(日阪製作所社製)等、があげられる。
本発明において、UHT滅菌処理の条件は乳化剤の種類、畜肉エキスの種類、畜肉エキス中の微生物の種類や数等により適宜選定されればよいが、処理温度は、通常120〜150℃、好ましくは120〜140℃であり、処理時間は、通常、1〜60秒間、好ましくは5〜30秒間である。なお、本発明のUHT滅菌処理の条件としては、畜肉エキスのpHが4.0未満の場合には、65℃で10分間の加熱滅菌処理を行った場合と同等もしくはそれ以上の滅菌効果、畜肉エキスのpHが4.0以上の場合には、85℃で30分間の加熱滅菌処理を行った場合と同等もしくはそれ以上の滅菌効果が、それぞれ得られる条件であることが好ましい。
滅菌効果は、畜肉エキスを、必要に応じて滅菌水等で希釈し、普通寒天培地(日水製薬社製、肉エキス35g、ペプトン10g、塩化ナトリウム15gおよび寒天15gを水1Lに含有する。)に塗布し、50℃で、48時間培養した後に、該寒天培地に生育するコロニーの数を指標として、コロニーの数が少ないほど滅菌効果が高いと判断することができる。
UHT滅菌処理の完了した畜肉エキスは、無菌容器に無菌的に充填される。
以下に、本発明の実施例を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
a)下記参考例1で作製したチキンエキスに、ショ糖脂肪酸エステルであるDKエステルF−160(モノエステル含量約70重量%、第一工業製薬社製)をそれぞれ最終濃度0.1重量%、0.05重量%、0.03重量%および0.01重量%となるように添加し、参考例2で作製したバチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillusstearothermophilus)の胞子懸濁液をチキンエキス中の胞子濃度が約300個/mlとなるように添加した。
なお、バチルス・ステアロサーモフィラスは芽胞菌の一種であり、通常の加熱処理では生菌が残る可能性の高い細菌の一つである。
各チキンエキスを少容量液体連続滅菌試験機RMS型(日阪製作所社製)を用いて125℃で10秒間UHT滅菌処理し、300ml容のアルミパウチに無菌的に充填した。これを試験区1とした。
DKエステルF−160(第一工業製薬社製)のかわりにジグリセリン脂肪酸エステルであるサンソフトQ−14D(脂肪酸の炭素数14、太陽化学株式会社製)を用いる以外は、試験区1と同様の方法により、チキンエキスを300ml容のアルミパウチに無菌的に充填した。これを試験区2とした。
参考例1で作製したチキンエキスに、参考例2で作製したバチルス・ステアロサーモフィラスの胞子を、チキンエキス中の胞子濃度が約300個/mlとなるように添加し、レトルトパウチに充填した。これを試験区3とした。
参考例1で作製したチキンエキスに、参考例2で作製したバチルス・ステアロサーモフィラスの胞子懸濁液をチキンエキス中の胞子濃度が約300個/mlとなるように添加し、レトルトパウチに充填し、少容量液体連続殺菌試験機RMS型(日阪製作所社製)を用いて121℃で30分間レトルト滅菌処理した。これを試験区4とした。
参考例1で作製したチキンエキスに、参考例2で作製したバチルス・ステアロサーモフィラスの胞子をチキンエキス中の胞子濃度が約300個/mlとなるように添加し、少容量液体連続殺菌試験機RMS型(日阪製作所社製)を用いて135℃で10秒間UHT滅菌処理し、300ml容のアルミパウチに無菌的に充填した。これを試験区5とした。
UHT滅菌処理の加熱処理温度を125℃で行う以外は、試験区5と同様の方法でチキンエキスを300ml容のアルミパウチに無菌的に充填した。これを試験区6とした。
各試験区をまとめた表を第1表に示す。

試験区3〜6のチキンエキスについて、専門パネル6名による官能評価を行った。評価は加熱臭および嗜好性について行った。
結果として、加熱臭が強いと判定されたものから順に示すと、試験区4>試験区5>試験区3および試験区6であった。
すなわち、加熱臭については、加熱処理をしていない試験区3のチキンエキスに比べて、レトルト滅菌処理した試験区4のチキンエキスは明らかに加熱臭が強く、UHT滅菌処理した試験区5および6のチキンエキスについては試験区4のチキンエキスに比べて、明らかに加熱臭が弱かった。さらに、試験区6のチキンエキスの加熱臭は、加熱処理をしていない試験区3のチキンエキスと同等であり、試験区5のチキンエキスに比べて明らかに加熱臭が弱かった。
一方、嗜好性について好ましくないと判断されたものから順に示すと、試験区4>試験区5>試験区6>試験区3であった。
すなわち、嗜好性については、最も好ましいものは、加熱処理していない試験区3であり、最も好ましくないものは試験区4のレトルト処理を行ったものであった。また、UHT滅菌処理した試験区では、処理温度の低い試験区6の方が、試験区5より好ましいという結果であった。
b)試験区1〜6のチキンエキスをそれぞれの容器に充填した状態で50℃のインキュベーター中で保存し、1週間および1ヶ月間保存した後にサンプリングした。
サンプリングしたエキス1mlを50℃に保温した普通寒天培地に添加、混合しプレートに撒いて50℃で48時間培養し、菌の生育を観察した。
結果を第2表に示す。
なお、第2表中、試験区3と同程度のコロニーの生育が認められた場合を「++」で表し、コロニーの生育が認められるが試験区3と比べて明らかにコロニー数が少ない場合を「+」で表し、コロニーが認められない場合を「−」で表す。

第2表に示されるとおり、レトルト滅菌処理した試験区4およびUHT滅菌処理した試験区5では乳化剤を添加しない場合においても、長期間の保存が可能であった。
一方、UHT滅菌処理した場合においても、試験区6の結果に示されるとおり、加熱温度が低く、かつ乳化剤の添加がない場合には、長期間の保存ができなかった。
これに対し、試験区6と同一の加熱条件でUHT滅菌処理を行った試験区1および2では、乳化剤を添加することにより、長期間の保存が可能であり、レトルト滅菌処理および高温条件でのUHT滅菌と同様に良好な保存性を示した。
c)試験区1、2および6のチキンエキスを水で10倍希釈し、食塩を0.3%添加し、得られたチキンエキスについて、3点識別試験を行ったところ、いずれのチキンエキスについても、風味が良好で各試験区間の有意差は認められなかった。
a)〜c)の結果より、畜肉エキスに乳化剤を添加してUHT滅菌処理を行うことにより、風味を損なうことなく保存性の良好な畜肉エキスを製造できることが明らかである。
【実施例2】
下記参考例1で作製したチキンエキスに、第3表に示す乳化剤をそれぞれ最終濃度0.005重量%、0.01重量%、0.05重量%となるように添加した。さらに各チキンエキスに、参考例2で作製したバチルス・ステアロサーモフィラスの胞子懸濁液をチキンエキス中の胞子濃度が約300個/mlとなるように添加した。
乳化剤および胞子懸濁液を添加した各チキンエキスを少容量液体連続滅菌試験機RMS型(日阪製作所社製)を用いて125℃で10秒間UHT滅菌処理し、300ml容のアルミパウチに無菌的に充填した。
なお、乳化剤を添加しない以外は、同様の操作を行った畜肉エキスをコントロールとした。
アルミパウチに充填して1週間後に、保存中の各チキンエキスから無菌的にサンプリングを行い、サンプリングしたチキンエキス1mlを50℃に保温した普通寒天培地に添加、混合しプレートに撒いて50℃で48時間培養し、菌の生育を観察した。
なお、モノグリセリン酸脂肪酸エステルは、脂肪酸の炭素数が8のものとして、サンソフト700P−2(太陽化学社製)を用い、脂肪酸の炭素数が10のものとして、サンソフト760(太陽化学社製)を用い、脂肪酸の炭素数が12のものとして、サンソフト750(太陽化学社製)を用い、脂肪酸の炭素数が14のものとして、サンソフト#8002(太陽化学社製)を用いた。モノグリセリン脂肪酸エステルのモノエステル含量は、いずれも約90重量%である。
ジグリセリン酸脂肪酸エステルは、脂肪酸の炭素数が8のものとして、サンソフトQ−8D(太陽化学社製)を用い、脂肪酸の炭素数が12のものとして、サンソフトQ−12D(太陽化学社製)を用い、脂肪酸の炭素数が14のものとして、サンソフトQ−14D(太陽化学社製)を用いた。ジグリセリン脂肪酸エステルのモノエステル含量は、いずれも約90重量%である。
ソルビタン脂肪酸エステルは、脂肪酸の炭素数が8ものとして、ソルゲン100(第一工業製薬社製)を用いた。
結果を第3表に示す。
なお、第3表中、コントロールと同程度のコロニーの生育が認められた場合を「++」で表し、コロニーの生育が認められるがコントロールと比べて明らかにコロニー数が少ない場合を「+」で表し、コロニーが認められない場合を「−」で表す。

第3表に示されるとおり、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステルおよびソルビタン脂肪酸エステルのいずれの乳化剤を用いた場合も、コントロールに比べてUHT滅菌処理により畜肉エキスを効果的に滅菌できることが明らかである。
参考例1
鶏骨と鶏肉の混合物150kgおよび水350kgを加圧釜に入れ、115℃で1時間加熱することで抽出処理を行った。抽出処理後、釜を70℃まで自然冷却し、液体部分を釜の下部に設けられている抜き取り口から、浮上した油分が含まれないように抜き取り、350kgの鶏骨抽出液を得た。得られた抽出液は、Brix4、粗脂肪濃度0.2%(w/w)の清澄な液体であった。この抽出液を、エバポール型式CEP1(大川原製作所社製)を用いて濃縮し、Brix10、粗脂肪濃度0.5%(w/w)の清澄な液体約140kgを得た。該濃縮された液体をチキンエキスとして用いた。
参考例2
バチルス・ステアロサーモフィラスを普通寒天培地(日水製薬社製、肉エキス35g、ペプトン10g、塩化ナトリウム15gおよび寒天15gを水1Lに含有する)に塗布して50℃で、48時間培養し、顕微鏡観察により、胞子が形成されていることを確認した。寒天培地上の菌体をかき取り、滅菌水に懸濁後、沸騰水中で10分間加熱処理を行った。その後10分間遠心分離し、得られた沈殿を滅菌水に懸濁し、再度沸騰水中で10分間、加熱処理を行った。これを10分間遠心分離し、沈殿を回収した。得られた沈殿を滅菌水に3×10〜3×10個/mlの胞子濃度となるように懸濁し、これを胞子懸濁液として用いた。
【産業上の利用可能性】
本発明により、畜肉エキスの保存性向上方法、保存性の良好な畜肉エキスの製造法および保存性の良好な畜肉エキスを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤を添加する工程およびUHT滅菌処理工程を有することを特徴とする畜肉エキスの製造法。
【請求項2】
乳化剤が、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれる乳化剤である、請求項1記載の製造法。
【請求項3】
畜肉エキスが、清澄な畜肉エキスである、請求項1または2記載の製造法。
【請求項4】
乳化剤を添加し、UHT滅菌処理を行うことを特徴とする、畜肉エキスの保存性向上方法。
【請求項5】
乳化剤が、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルからなる群より選ばれる乳化剤である、請求項4記載の保存性向上方法。
【請求項6】
畜肉エキスが清澄な畜肉エキスである、請求項4または5記載の保存性向上方法。
【請求項7】
請求項1〜3いずれか1項に記載の製造法により得られる畜肉エキス。

【国際公開番号】WO2004/060082
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564516(P2004−564516)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016698
【国際出願日】平成15年12月25日(2003.12.25)
【出願人】(505144588)協和発酵フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】