説明

異なる個体の核酸を含む生体試料から遺伝子型を決定する方法

【課題】異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つまたは複数の個体の遺伝子型を決定する方法として、前もって決められた配列とそれに相同の配列のコピー数の決定に適した方法を提供する。
【解決手段】生体試料の部分量として濃度が異なる少なくとも2つの部分量を用いて、それぞれ少なくとも1つの増幅反応を行う。続いてこれらの少なくとも2つの部分量のいずれに対しても得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定し、互いに比較する。そして1つの特定の部分量に対して得られた増幅生成物、および/またはすべての部分量に対して得られた増幅生成物をキャラクタリゼーションする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つまたは複数の個体の遺伝子型を決定する方法、特にはあらかじめ決められた配列のコピー数を決定する方法に関する。本発明はまた、異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つまたは複数の個体の遺伝子型を決定するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料から個体の遺伝子型を決定する方法、例えば個別の遺伝子または遺伝子断片といった前もって決められた配列の有無を証明し、または特定の核酸を定量するという方法は、多くの技術分野で用いられている。例を挙げるだけでも、法医学、遺伝子工学例えばクローニングの分野、または医学的診断への応用が知られている。
【0003】
1つまたは複数の個体の遺伝子型をキャラクタリゼーションするため、犯罪学、法医学、父子関係や血縁関係の調査にしばしば用いられる技術は、遺伝子の指紋の構築である。遺伝子指紋の構築のためには、今日特に次の2つの方法が用いられる。その1つはRFLP法(制限酵素断片長多型)であり、もう1つはVNTR類型化法(配列反復回数多型)である。これら2つの方法では、まず、例えば血液、唾液、毛根のある毛髪、精液または膣分泌液を含む微量生体物質から、DNAを分離する。RFLP法の場合は、生体試料からDNAを分離した後、制限酵素を用いてそのDNAを加水分解し、鎖長の異なる多数のDNA断片とする。その後各DNA断片は、寒天ゲル上でその鎖長に従って分離される。続いて公知のサザンブロット法により、各DNA断片を寒天ゲルからナイロン膜状に移し、膜上に固定する。次にこのナイロン膜を、蛍光標識された特異的プローブとハイブリダイゼーションさせ、特定のDNA断片の存在を証明する。続いて特異的プローブとハイブリダイゼーションされたDNA断片を、例えば酵素反応によって可視化して、遺伝子指紋と呼ばれるバンドパターンを得る。例えば参照試料の対応するパターンと比較することにより、各バンドの相対的位置から、その個体の遺伝子型を逆推論することができる。しかしRFLP法を行うには非常に大量のDNAが必要とし、この方法は今のところ、生きている人の父子関係または血縁関係の調査に用いられるに過ぎない。十分な量のDNAを入手できるのは、そのような用途に限られるからである。しかし暴力犯罪の解明といった法医学的方法の場合、極めて小量のDNAしか入手できない場合が多く、RFLP法は適さない。またRFLP法が証言能力を持つのは、その生体出発試料が1つの個体のDNAだけを含む場合に限られる。
【0004】
VNTR類型化法の場合まず、ゲノムの非コード化領域から選択されたDNA領域を、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応、ドイツ語でPolymerasekettenreaktion)によって複製した後、増幅されたDNA断片を、例えばポリアクリルアミドゲル上で鎖長に従って分離し、続いて可視化する。こうして得られた長いパターンを、対応する参照試料から得られたバンドパターンと比較することによって、参照試料ドナーと、生体試料中にある核酸の持ち主個体との同一性または非同一性を、ある程度の確率をもって推論することができる。しかしこの方法の欠点は、この方法は、特にポリアクリルアミドゲル上でDNA断片を分離するため、比較的時間がかかることである。またこの方法が証言能力ある結果が得られるのは、調査される生体試料中に、ただただ1つの個体のDNAが含まれる場合に限られる。しかしこの生体出発試料がさまざまな個体の核酸を含む場合は、RFLP法と同じくVNTR法も役に立たなくなる。
【0005】
分子生物学的診断でも、個体の遺伝子型をキャラクタリゼーションする方法、特に配列を定量する方法、あるいは核酸配列のコピー数を定量的に決定する方法は、重要性を増すばかりである。一部に重いケースがある疾病の多数は、ゲノム中の核酸配列のコピー数が通常より偏差を持つことに原因するので、特定の染色体または特定の遺伝子断片のコピー数を決定することにより、該当する疾病を、すでに成長の初期の段階で信頼性をもって診断することができる。
【0006】
一部に重いケースがある異常であって、染色体全体のコピー数の増加に原因を求められるものの例は、18番トリソミー(エドワード症候群)、13番トリソミー(Patau症候群)、21番トリソミー(ダウン症候群)である。これらの疾病はいずれの場合も、対応する18番、13番、21番染色体の1細胞あたりコピー数は3である。それに対して健康な個体は、1細胞あたり前記染色体を2コピー持つ。3つのケースすべてにおいて、該当染色体のコピー数の増加が、非常に重い成長障害の原因となっている。21番トリソミーのキャリヤはその成長をドラスチックに阻害され、一部に重い奇形を生じる。また18番トリソミーと13番トリソミーのキャリヤは、多くの場合生後1年以内に死亡する。
【0007】
染色体全体のコピー数増加に原因を求められる疾病だけでなく、遺伝子または遺伝子断片のコピー数変化による疾病も、多数知られている。例を挙げるだけでも、この関連ではハンチントン病、進行性の神経変性疾病であって、精神的および身体的能力の衰弱が進んだ場合のアブノーマルで不随意な運動を特徴とするものが挙げられる。
【0008】
生体試料中の配列コピーを定量する方法が必要なため、そのための方法がこれまでも多数提案された。
【0009】
核酸配列の有無について証言能力があり、かつ方法手順に応じて該当核酸配列の1細胞あたりはコピー数を、条件から逆推論できる基本的定量方法は、いわゆるFISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション)である。この方法の場合、調査される生体試料を、相応の前処理の後、1つまたは複数のそれぞれ異なる蛍光色素で標識されたプローブとともに、次のような条件でインキュベートする。すなわち、プローブがそれと相同な生体試料内配列とハイブリダイゼーションされるのが、可能となるような条件である。ハイブリダイゼーション後に試料を洗滌し、不要なハイブリダイゼーション信号を消去する。次に標本の蛍光信号を蛍光顕微鏡で評価する。存在する蛍光信号はいずれも、対応する蛍光マーカーを施されたプローブに対応する配列の存在を表示している。この場合蛍光の強さから生体試料中の配列の個数を、条件から逆推論することができる。前記の方法の欠点は、誤った結果につながる望ましくないクロスハイブリダイゼーションを、完全には除外できないことである。それだけでなくこの方法は比較的高価であるが、それは1つには、どうしても蛍光色素を用いる必要があるからであり、もう1つには、蛍光顕微鏡のような複雑な装置を必要とするからである。またこの方法の証言能力は、使用されるプローブのクォーリティに大きく依存する。信頼性ある結果が得られるのは、プローブが、該当箇所において90%以上の効率でハイブリダイゼーションされ、その結果、ハイブリダイゼーションされずに残ってもはや検出されないのは、ターゲット配列の10%だけとなる場合だけである。また異なる個体の核酸を含む生体試料が用いられる場合は、この方法からは証言能力ある結果は得られない。
【0010】
蛍光に基づくもう1つの方法は、CGH解析(比較ゲノムハイブリダイゼーション)である。この方法の場合、解析される試料の核酸がすべて、色素1で標識される。参照試料から同量の核酸が、色素2で標識される。これら2つの反応投入物は、スプレッドされた中期核型の上でいっしょにハイブリダイゼーションされ、その際、両者の反応投入物に含まれる配列は、スプレッドされた染色体における結合箇所をめぐって競合する。ほぼすべてのハイブリダイゼーション箇所で、色素1の色素2に対する比は1:1に設定される。解析される試料が1つの領域に含むコピーが多くなると(参照試料の通常のコピー数より多くなる)、色素1はそのハイブリダイゼーション箇所で強くなる。解析される試料中に欠失がある場合、このハイブリダイゼーション箇所には色素2だけが認められる。この参照測定によれば、解析される試料中の配列の頻度について相対的な言明が得られる。この方法は手間と費用がかかる。必要な技術機器を比重に正確に設定および/または校正しなければならないからである。異なる標識のため2つの色素が必要とされ、そしてこの実験の標準化は時間もかかるし困難である。それに加えて、様々に異なる個体の核酸を含む生体試料が用いられる場合、この方法からは評価可能な結果が得られない。
【0011】
核酸配列を定量するもう1つの公知の方法は、リアルタイムPCR法である。この方法の場合、例えば蛍光標識されたプライマーを用いてPCRを行い、サイクル数に応じて蛍光信号が増加するのを観察する。蛍光信号が背景蛍光からいちじるしく浮き上がり、PCR生成物形成が指数関数的に生じる時点に、しきい値PCRサイクル(Threshold‐Cycleともいう)を割り当てる。この時点は、増殖されるDNA配列の初期コピー数と相関する。このようにしてDNA試料をDNA希釈シリーズと比較して、相対定量を行う。しかしこの方法の欠点は、出発材料の量を任意に小さくできないことである。なぜならば、出発材料として出発分子が少なくて、例えば10〜100コピーなら、増幅が指数関数的であるため、推計学上の誤差が非常に大きくなって、定量的な言明はできなくなる。それだけでなくこの方法は、蛍光強度測定のために複雑で高価な装置を必要とする。また様々に異なる個体の核酸を含む生体試料を用いる場合、この方法は機能できない。
【0012】
前記の方法すべては、蛍光色素の使用に基づくものであり、蛍光強度を決定するため高価な装置を必要とする。また少なくともある程度信頼性ある結果を得るには、そのため最小限必要な量の出発材料を使わなければならない。さらには異なる個体の核酸を含む生体試料から、個体の遺伝子型を決定するには、前記の方法はいずれも適していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって本発明の課題は、異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つまたは複数の個体の遺伝子型を決定する方法として、前もって決められた配列とそれに相同の配列のコピー数の決定、例えば生体試料内の対立遺伝子の絶対個数または相対個数の決定に適している方法を提供することである。またこの方法は、単純かつ安価に実行できて、特には、例えば法医学的試料に含まれるもののように出発試料が小量であっても、信頼性ある結果が得られるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る異なる個体の核酸を含む生体試料から遺伝子型を決定する方法は、
a)それぞれ異なる濃度の前記生体試料を含む当該生体試料の部分量を少なくとも2つ作成する、
b)前記生体試料から手順a)で作成された部分量のいずれについても、それぞれ少なくとも1つの増幅反応を行うが、この場合、当該少なくとも1つの増幅反応は、生体試料に含まれる核酸の少なくとも1つに含有される1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されたものであり、
c)前記少なくとも2つの部分量に対し、手順b)によるそれぞれ少なくとも1つの増幅反応により得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定して、そこで得られた数を比較する、
d)前記少なくとも2つの部分量のいずれに対しても、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数として手順c)で決定された個数が等しい場合:手順a)で作成された部分量とはそれぞれ異なる濃度を持つ生体試料を少なくとももう1つ作成し、そして手順b)およびc)、そして場合によってはd)を繰り返すが、この繰り返しは、手順c)において少なくとも1つの部分量に対し、それぞれ異なる増幅生成物がそのほかの部分量に対して異なる個数得られるまで行う、
e)前記少なくとも1つの部分量に対して、そのほかの部分量に対するのと異なる個数のそれぞれ異なる増幅生成物が、前記少なくとも1つの増幅反応で得られた場合、当該少なくとも1つの部分量によって得られた増幅性生成物をキャラクタリゼーションし、および/または、そのほかの部分量に対するのとは異なる個数のそれぞれ異なる増幅生成物が得られた前記少なくとも1つの部分量に対してのみならず、そのほかの部分量に対しても、得られた増幅生成物をキャラクタリゼーションする、
という各手順を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つまたは複数の個体の遺伝子型を決定する方法として、前もって決められた配列とそれに相同の配列のコピー数の決定、例えば生体試料内の対立遺伝子の絶対個数または相対個数の決定に適している方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明はこの課題を次のような方法によって解決する。それは、異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つまたは複数の固体の遺伝子型を決定する方法、特には、前もって決められた配列のコピー数を決定する方法であって、次の手順を含む。
a)それぞれ異なる濃度の前記生体試料を含む当該生体試料の部分量を少なくとも2つ作成する。
b)前記生体試料から手順a)で作成された部分量のいずれについても、それぞれ少なくとも1つの増幅反応を行う。この場合、当該少なくとも1つの増幅反応は、生体試料に含まれる核酸の少なくとも1つに含有される1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されたものである。
c)前記少なくとも2つの部分量に対し、手順b)によるそれぞれ少なくとも1つの増幅反応により得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定して、そこで得られた数を比較する。
d)前記少なくとも2つの部分量のいずれに対しても、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数として手順c)で決定された個数が等しい場合、手順a)で作成された部分量とはそれぞれ異なる濃度を持つ生体試料を少なくとももう1つ作成する。そして手順b)およびc)、そして場合によってはd)を繰り返すが、この繰り返しは、手順c)において少なくとも1つの部分量に対し、それぞれ異なる増幅生成物がそのほかの部分量に対して異なる個数得られるまで行う。
e)前記少なくとも1つの部分量に対して、そのほかの部分量に対するのと異なる個数のそれぞれ異なる増幅生成物が、前記少なくとも1つの増幅反応で得られた場合、当該少なくとも1つの部分量によって得られた増幅性生成物をキャラクタリゼーションし、および/または、そのほかの部分量に対するのとは異なる個数のそれぞれ異なる増幅生成物が得られた前記少なくとも1つの部分量に対してのみならず、そのほかの部分量に対しても、得られた増幅生成物をキャラクタリゼーションする。
【0017】
生体試料の濃度がそれぞれ異なる少なくとも2つの生体試料部分量を、本発明の手順a)によって作成するが、これは、専門家にこの目的で知られているいずれの方法でも行うことができる。例えば、少なくとも2つの部分量を作成するための生体試料から、例えば少なくとも2つの部分量を採取して、次のこれらの部分量を、互いに異なる希釈率で希釈する。同じ試料から2つの部分量を採取して、一方の試料を濃縮することも、同様に可能である。それに対して他方の部分量は、希釈しないでそのままとするか、あるいは希釈する。生体試料の濃度がそれぞれ異なる生体試料部分量を少なくとも2つ作成する畝法であれば、そのほかあらゆる方法を手順a)に使用できる。
【0018】
手順a)で少なくとも2つの部分量を採取するという最初に説明したケースで、次にこれら部分量を互いに異なる希釈率で希釈する場合、本発明による方法は例えば下記の手順を含む。
a)前記生体試料の1つの部分量を作成する。
b)前記生体試料の部分量を用いて少なくとも1つの増幅反応を行うが、その際、当該少なくとも1つの増幅反応は、生体試料に含まれる核酸の少なくとも1つに含有される1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されたものである。
c)手順b)の少なくとも1つの増幅反応のいずれに対しても、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定する。
d)前記生体試料のもう1つの部分量を作成し、当該生体試料の当該もう1つの部分量を希釈し、そして当該希釈された試料を用いて、手順b)と同じ条件下で少なくとも1つの増幅反応を行う。
e)手順d)の少なくとも1つの増幅反応のいずれに対しても、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定する。
f)手順c)で決定された様々に異なる増幅生成物の個数を、手順e)で決定された様々に異なる増幅生成物の個数と比較する。
g)手順c)で決定された個数が、手順e)で決定された個数に等しい場合、当該生体試料の希釈率を高くして手順d)〜f)を繰り返し、この繰り返しは、手順e)で得られる様々に異なる増幅生成物の個数が、手順c)におけるよりも小さくなるまで行う。
h)手順e)で得られたさそれぞれ異なる増幅生成物の個数が手順c)におけるよりも小さくなる希釈率を用いて、手順d)による少なくとも1つの増幅反応の際にではなく手順b)による少なくとも1つの増幅反応の際に得られた増幅生成物を、キャラクタリゼーションする。および/または、手順e)で得られたそれぞれ異なる増幅生成物が手順c)におけるよりも小さくなる希釈率を用いて、手順b)による少なくとも1つの増幅反応の際だけでなく手順d)による少なくとも1つの増幅反応の際にも得られた増幅生成物を、キャラクタリゼーションする。
【0019】
本発明にいう1つまたは複数の個体の遺伝子型の決定とは、1つの個体の前もって決められた少なくとも1つの配列について、その有無、コピー数、または核酸配列をキャラクタリゼーションすること、特には前もって決められた配列、例えばゲノム、遺伝子または遺伝子断片の前もって決められた配列の絶対個数または相対個数を決定すること、および/または前もって決められた配列の有無を決定することをいう。
【0020】
また本発明にいう異なる個体という概念は、―人間の場合―異なる人物だけでなく、1人の人物の様々に異なる細胞タイプ、すなわち互いに遺伝子タイプが異なる細胞タイプをもいう。その例は遺伝子モザイクまたはキメラ、すなわち1人の人物の遺伝子タイプがそれぞれ異なる細胞であって、これは、異なる遺伝子型を混合あるいは交換して初めて形成されるもの(キメラ)、または1つの個体内に生じるもの(遺伝子モザイク)である。遺伝子モザイクの例はガン細胞であって、LOH(“異型接合性の消失”)によって生じる。
【0021】
また本発明にいう相同配列という概念は、ヌクレオチド配列の相互間類似性が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは90%、さらに特に好ましくは少なくとも95%である配列をいう。それに対して非相同配列は、相互間の配列類似性が相応に小さい配列をいう。
【0022】
さらには本発明の場合、生体試料中の前もって決められた配列の個数を相対的に定量決定するとは、1つの生体試料が、前もって決められた配列のコピーを、参照試料よりも少なく含むか、等しく含むか、多く含むかを、決定することをいう。そして試料中の前もって決められた配列の個数を絶対的に定量決定するとは、前もって決められた配列が生体試料中に含まれている具体的個数を決定することをいう。
【0023】
生体試料から1つの個体の遺伝子型を決定する方法として、従来の技術から知られているものとは異なり、本発明による方法は、1つの個体のDNAを含む生体試料に適するだけでなく、少なくとも2つの異なる個体の核酸を含む生体試料にも適する。本発明はこれを次のようにして達成する。すなわち、まず希釈されていない生体試料の1つの部分量を用いて、少なくとも1つの増幅反応を行う。この増幅反応は、生体試料に含まれる核酸の少なくとも1つが包含する1つの配列、または少なくとも2つの相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されているものとする。そしてこの少なくとも1つの増幅反応によって得られた、それぞれ異なる増幅生成物の個数を、生体試料の希釈された部分量を用いて同条件下で行われた増幅生成物であって、かつ少なくとも1つの増幅反応で得られた増幅生成物の個数と比較する。この場合の希釈は、希釈された部分量に対する増幅反応においては、生体試料の希釈されない部分量を用いた場合よりも、得られる増幅生成物が少なくなるように行う。したがって本発明による方法の原理は、理論的に可能な増幅生成物の少なくとも一部が得られなくなるまで、異なる個体の核酸を含む生体試料の部分量を希釈することに基づく。この場合、“消失する”増幅生成物は、通常は生体試料中にごくわずかの濃度で存在するDNAの増幅生成物である。異種遺伝子DNA混合物、例えば異なる個体の核酸を含む試料の当該混合物中には、各個体の核酸の配列が、異なるコピー数存在する。この場合、各個体の核酸は、それぞれ異なる量が生体試料中に存在する。PCRは各ターゲット配列を指数関数的に増幅するので、上記の分布の量的不均一性が非常に強められ、1つの個体にわずかな濃度で存在するDNAのターゲット配列、すなわち増幅反応で用いられたプライマーによって増幅されるべき配列は、他方の個体におけるより高い濃度のDNAの対応する配列と比較して、存在するのは非常にわずかであるため、このターゲット配列はもはや検出できない。これは、“アリール・ドロップアウト”と呼ばれる効果、すなわちただ1つの個体のDNAを含む生体試料中で、さまざまな対立遺伝子の1つが増幅される効果と同様である。本発明は、個別細胞に対する実験で得られた驚くべき認識、すなわちこのドロップアウト過程は非常に急激に発生するという認識に基づく。
【0024】
前記の原理と関連に基づいて、生体試料の希釈されない部分量によって得られた増幅生成物の個数を、生体試料の相応に希釈された部分量によって得られた増幅生成物の個数と比較することによって、それぞれの増幅生成物を、生体出発試料中の核酸が含まれているそれぞれの個体に割り当てることができる。ただしこの場合の希釈率は、希釈された試料によって得られた増幅生成物が、希釈されない試料による増幅生成物よりも少なくなるような値とする。一方では、希釈されない試料だけでなく、希釈された試料によっても得られた増幅生成物は、生体試料中に含まれている核酸の量が多い方の個体に割り当てられる。他方では、希釈されない生体試料によって得られた増幅生成物であっても、希釈された料によってはもはや得られない増幅生成物は、生体試料内に存在するDNA量が少ない方の個体に割り当てられる。このようにして生体試料のそれぞれの個体に割り当てられた増幅生成物をさらにキャラクタリゼーションすることによって、それぞれ異なる個体の遺伝子タイプを推論することができる。
【0025】
これを1つの仮想上の実験によって詳しく説明しよう。ある犯行現場で微量の生体試料が得られ、この生体試料は(当初はわからないことであるが)2つの異なる個体の核酸、すなわち犠牲者の核酸と犯人の核酸とを含む。この場合(これも当初はわからないことであるが)生体試料中にある犠牲者の核酸は、犯人の核酸よりも量が多い。ここで1つのプライマー対を用いるPCRを行い、このPCRは、例えば18番染色体に含まれる正確に1つの核酸配列を増幅するために適合されているものとする。健康な人間は18番染色体を2つ持つので、18番染色体の異型接合性キャリヤに対しては、正確に2つの増幅生成物が期待される。犠牲者も犯人も、それぞれ18番染色体に対して異型接合性がある場合、上記の生体試料の部分量を用いて行われた増幅反応の場合、増幅生成物の理論的に最大可能な個数は、4つの増幅生成物である。この場合、犠牲者の2つの対立因子に対して2つの増幅生成物、犯人の2つの対立因子に対して2つの増幅生成物が含まれる。生体試料の1つの部分量をここで連続的に希釈すると、ある特定の希釈率からは、犠牲者のDNAに対する増幅生成物だけが得られるが、犯人のDNAに対する増幅生成物が得られなくなるという現象が生じる。この特定の希釈率とは、希釈された生体試料中の犯人の核酸の濃度が、ある特定の最小限濃度を下回る希釈率である。これを根拠に、生体試料のこのように希釈された部分量を含む増幅生成物、例えば鎖長120および130bpの当該各増幅生成物を、生体試料中に含まれているDNAの量が多い方の個体に、割り当てることができる。これに対して、たしかに生体試料の希釈されない部分量による増幅反応によって得られたものであるが、生体試料の希釈された部分量による増幅反応によっては得られなかった増幅生成物、例えば鎖長125および135bpの各増幅生成物は、生体試料中に含まれているDNAの量が少ない方の個体に割り当てられる。個々の増幅生成物をさらにキャラクタリゼーションすることによって、ここで両者の個体の遺伝子型を推論することができる。例えば個々の増幅生成物を、犠牲者の細胞を含む参照試料によるPCRから得られた増幅生成物と比較して、両者DNA試料のいずれが犠牲者に由来するか、正確に割り当てることができる。犠牲者の参照試料を用いて、例えば鎖長120および130bpの各PCR生成物が得られる場合、犯行現場で発見された生体試料中に、少なくとも2つの異なる個体のDNAが存在し、少なくともその一方のDNAが犠牲者に由来することを、上記の実験からある程度の確率をもって推論することができる。さらには、生体試料中で濃度の高い方のDNAは犠牲者のものとすることができ、増幅反応の際に鎖長125および135bpという2つの増幅生成物を生じたDNAは、犠牲者ではなく犯人に、または犯行に関与しない第三者に割り当てられることが、この実験から推論できる。これにより、犯人または関与しない第三者のものとして得られた増幅生成物を、的を絞ってさらに解析し、例えばデータベースに記憶されているデータと比較することにより、犯人同定の推論が可能となる。
【0026】
本発明のもう1つの利点は、従来の技術による方法ではどうしても必要だった、PCR生成物の絶対的な蛍光強度の決定を、省略できることである。むしろ本発明による方法の場合、それぞれ少なくとも1つの増幅反応によって得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数だけを決定し、それを互いに比較する。その限りにおいて、本発明による方法では、蛍光標識されたプライマーの使用はかならずしも必要ではない。しかしそのようなプライマーを、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数検出に用いる場合、得られたそして蛍光標識された増幅生成物の絶対的蛍光強度を、手間をかけて決定する必要はない。定められたしきい値(例えば係数10または100)を超える蛍光が、使用された蛍光係数に対応する波長で存在するか、存在しないかを評価すればそれでよい。したがって本発明の方法は、蛍光を定量的に検出するための高価な装置を用いないで、簡単かつ安価に行うことができる。
【0027】
基本的に本発明の方法は、異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つまたは複数の個体の遺伝子型を決定するのに適する。この場合異なる個体の具体的個数のいかんに依存しない。しかし特に良好な結果が得られるのは、生体試料が、少なくとも2つ、しかし10個未満の異なる個体の核酸を含む場合である。特に好ましくは、この生体試料は、少なくとも2つ、しかし5つ未満、さらに好ましくは2つまたは3つ、最も好ましくは正確に2つの異なる個体の核酸を含むものとする。
【0028】
個々の核酸相互間の量的相違または濃度上の相違の点でも、本発明は制限を受けない。しかし好ましくは、生体試料に含まれる個々の個体の核酸相互間の濃度上の相違は1:1000〜1:1、特に好ましくは1:500〜1:5、さらに好ましくは1:100〜1:10とする。
【0029】
すでに説明したように、本発明による方法は、特に法医学的調査、例えば犯罪捜査に関連する法医学的調査に適する。しかし本発明の方法はそれだけに限定されるものではなく、少なくとも2つの異なる個体の核酸を含む生体試料であれば、どのような種類のものにでも用いることができる。
【0030】
本発明による方法のもう1つの特別な用途は、例えば、母性すなわち母体血液や胎児細胞を含む生体試料から、1つまたは複数の個体の遺伝子型を決定することである。胎児細胞は、約1:1,000,000の頻度で母体血液中に現れる。母体血液中の胎児細胞は比較的少ないにもかかわらず、本発明の方法によれば、胎児の遺伝子型を迅速かつ簡単に逆推論することができる。そのためにはまず、希釈されない試料の1つの部分量を用いて増幅反応を行う。この増幅反応は、母親のゲノムから増幅により例えば15個の異なる増幅生成物を得るよう、適合されているものとする。そして次にこの生体試料のもう1つの部分量を用いて、1つの希釈シリーズを作成する。この場合、各希釈段階間の希釈率を1:2とする。続いていずれの希釈段階でも増幅反応を、希釈されない試料の場合と正確に同じ条件下で行い、いずれの増幅反応に対しても、そこで得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定する。増幅生成物のうち、希釈されない生体試料の部分量によって得られたものであって、生体試料の希釈された部分量によって得られなかったものは、胎児に割り当てることができる。それに対してそのほかの増幅生成物、すなわち希釈されない生体試料によっても、希釈された生体試料によっても得られた増幅生成物は、母親に割り当てることができる。これらの増幅生成物をキャラクタリゼーションすることによって、例えば胎児が21番トリソミーに罹患しているか、またはその点に関しては健康であるかを、決定することができる。本発明による方法の特別な利点は、母体血液をも胎児細胞をも含む生体試料から、上記のキャラクタリゼーションを行うことができることである。しかもこの場合、従来の技術では必要だった母体血液から胎児細胞を分離することは不要である。
【0031】
また本発明による方法は、LOH(“異型接合性の消失”)によって生じたガン細胞を、混合試料からキャラクタリゼーションするために、例えばこのガン細胞を類型化するために用いることができる。この場合生体試料は、例えば健康な細胞とLOHによって生じたガン細胞の混合物を含む。
【0032】
この少なくとも1つの増幅反応については、本発明による方法は制限を受けない。むしろ配列多型を証明できるものであれば、考えられるすべての増幅反応を用いることができる。しかし少なくとも1つの増幅反応としてPCRを行えば、有利であることがわかっている。なぜならばPCRは簡単かつ比較的迅速に、わずかな技術上の手間で実行できて、適切なプライマー対を選択することにより、生体試料中の任意の核酸配列を増幅できるからである。
【0033】
本発明の方法を用いて、異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つまたは複数の個体の遺伝子型を決定するため、本発明の考えの発展形として次のことを提案する。それは、DNA非コード化領域に含まれる1つの配列、または少なくとも2つ以上の互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するため、前記の少なくとも1つの増幅反応を適合させることである。知られていることであるが、DNA非コード化領域はDNAコード化領域よりもいちじるしく多型性があり、その結果、DNA非コード化領域に含まれる配列を増幅することによって、比較的大きな確率をもって、個体特異的な配列を増幅する可能性がある。このことは、法医学的な混合試料の際にも、胎児細胞を含む母体血液中にある胎児細胞の遺伝子型を決定する際にも有利である。
【0034】
さらには、1つの高多型性配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な高多型性配列を増幅するために、前記の少なくとも1つの増幅反応を適合させるのが有利である。特にSTR配列、VNTR配列、SNP配列、およびこれらを任意に組み合わせたものから選択された1つの配列、または2つ以上の互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために、この少なくとも1つの増幅反応を適合させる場合に良好な結果が得られる。STR配列すなわちshort tandem repeat配列は高多型性の配列であって、2〜4bpの鎖長の繰り返し単位だけからなり、個々の個体の間で高い多型性を示す。それとは異なって、VNTR配列すなわちvariable number of tandem repeat配列は、約15〜30bpの鎖長に構築された繰り返しDNA断片からなり、この断片の全長は、この基本単位の繰り返し回数によって決定されている。VNTR配列もまた、通常は高多型性であり、すなわち各繰り返し単位の個数は、異なる個体の間では非常に大きく異なっている。SNP(single nucleotide polymorphism)とは、相同な各配列がただ1つの塩基によって相違するという単純な多型をいう。この配列もまた、本発明による方法を実行するのに非常に適している。なぜならばこの配列は、それぞれの個体の間で非常に大きく異なるからである。しかしこのことを別にすれば、そのほかすべての高多型性配列もまた、本発明による方法のためのマーカーとして適している。
【0035】
そのほか、ドナーのゲノム中に1対立遺伝子あたり1回だけ生じる1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために、前記の少なくとも1つの増幅反応を適合させるのが好ましい。そうすれば、増幅生成物のキャラクタリゼーションの際に、1つの個体の個々の対立遺伝子を逆推論できるので、例えば異なる個体の核酸を含む生体試料において、1つの個体の個々の対立遺伝子の個数を決定することができる。
【0036】
1〜100個、好ましくは2〜20個、特に好ましくは5〜15個の互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために、前記少なくとも1つの増幅反応を適合させるのが好ましい。これにより、増幅生成物をキャラクタリゼーションする際に的を絞って個体特異的な結果を得るのに、十分にさまざまな増幅生成物が得られる。他面では実験の手間がそれほどかからない。
【0037】
本発明の1つの好ましい実施形態の場合、手順b)〜手順d)において、少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されたPCRを行う。このPCRにおいては、少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されているプライマー対を用いるが、そのプライマー対の個数は、この少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列の個数に相当する。この実施形態の利点は、生体試料の希釈されない部分量を用いて増幅反応を行う場合も、生体試料の部分量の希釈段階を用いて増幅反応を行う場合も、それぞれ1つのPCRしか必要としないので、本方法を迅速に、かつ大がかりなピペット計量なしに行うことができることである。適切な手順実施の例はマルチプレックスPCRであるが、この場合、増幅されるべき1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を、同時に1つの反応で増幅できるものであれば、そのほかいかなる増幅反応をも使用できる。
【0038】
本発明のもう1つの好ましい実施形態の場合、手順b)〜手順d)において、少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されたPCRを行う。この場合手順a)において、少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列の個数に相当する個数の生体試料部分量を作成する。またいずれの部分量も、同量の生物物質を含む。そして手順b)〜手順d)において、それぞれプライマー対を1つずつ使用するPCRを行う。この場合、様々に異なるPCRで使用されるプライマー対は、少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されているものとする。この方法手順の利点は、個々の増幅が互いに対立的に、場合によってはネガティブに作用する恐れがないことである。
【0039】
特に前記の実施形態の場合や、希釈された試料を用いて、希釈されない試料の場合よりもわずかな個数の増幅生成物を得るため、多数の希釈段階を必要とする場合、次のことが必要となる可能性がある。それは、手順a)を行う前に、すなわち生体試料の1つの部分量を作成する前に、生体試料を例えば非特異的PCRによって増幅することである。これは、生体試料の部分量を必要な個数作成するに十分な出発試料を得るためである。
【0040】
本発明による前記2つの実施形態のほか、これら2つの実施形態の混合形態も考えられる。例えば1つの混合形態の場合、増幅されるべき少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列の一方の部分を、少なくとも2つのプライマー対を用いるPCRで、そしてまた増幅されるべき少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列の他方の部分を、上記PCRとは分離されたPCRで増幅する。後者のPCRでは、プライマー対をただ1つだけ用いる。
【0041】
得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定できるためには、まず増幅生成物の有無を決定しなければならない。増幅生成物の有無を決定するためには、専門化にはこの目的で知られているあらゆる方法を用いることができる。その例を挙げるだけでも、ゲル電気泳動法、一般に行われるハイブリダイゼーション技術、例えばDNAアレイ上の当該技術がある。この場合、使用される検出方法に応じてしきい値を定義し、そのしきい値より上ではPCR生成物の存在を、しきい値より下ではPCR生成物の非存在を想定することができる。
【0042】
増幅生成物の有無の決定だけでなく、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定するため、好ましくは物理的および/または化学的に測定可能な第2のパラメーターを決定しなければならない。これは、個々の増幅生成物を互いに区別するためである。この場合、個々のPCR生成物を互いに区別するパラメーターの種類は、主として、増幅されるべき1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列の種類に依存する。例えば少なくとも1つの増幅反応におけるPCRプライマーを選択する際に、STR断片および/またはVNTR断片が、互いに相同な配列および/または非相同な配列として増幅されるように選択する場合、個々のPCR生成物の第2のパラメーター、または第2の区別標識として、個々のPCR生成物の鎖長を選択するのが好ましい。その結果として、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数の決定は、PCR生成物の有無のチェックと、個々のPCR生成物の鎖長の決定を含むことになる。この場合、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数は、得られた増幅生成物であって互いに鎖長の異なるものの個数に相当する。これに適する方法は、例えば毛管電気泳動法である。
【0043】
これに対して前記少なくとも1つの増幅反応の場合、PCRプライマーとして、1つのSNP配列、または少なくとも2つの互いに相同なSNPな配列および/または非相同なSNP配列を増幅するために適合されたプライマーを用いる。したがって第2の区別標識、または第2のパラメーターは、SNP断片の場合通常はヌクレオチドに限定される配列、かつ互いに異なる配列の決定であることが望ましい。このために、専門化にはこの目的で知られているすべての方法を利用できる。この場合例を挙げるだけでも、DNAシーケンシング、または公知のハイブリダイゼーション法がある。
【0044】
本発明の場合、手順b)〜手順d)による少なくとも1つの増幅反応において、パラメーターを設定する場合、1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列に対して、正の増幅反応の相対頻度が、それぞれ少なくとも近似的に同じ高さとなるように設定する。そうすれば、生体試料中に含まれるそれぞれ異なる個体の核酸が同量で存在する限り、それら核酸の増幅されるべき配列が、等しい効率で増幅される。その結果、ある1つの希釈段階以降は1つの増幅生成物が消失することから、その増幅生成物の消失の原因は、生体試料中の該当個体のDNAが、そのほかの個体のDNAよりも相応に少なくなったためであると、推論することができる。すなわちこの消失の原因は、この増幅生成物に対する増幅反応の効率が、DNAが同じ量のときでも、そのほかの増幅生成物の場合よりも小さいためだけではない。したがって、個々のPCRプライマーのプライマー結合箇所に対する結合親和力と、そのほかのPCRパラメーター、特にサイクル数および温度制御が、次のように設定されるのが好ましい。すなわち、いずれの増幅されるべき互いに相同な配列および/または非相同な配列に対しても、少なくとも1つの増幅反応の正の増幅反応の相対的頻度が0.2から1未満の範囲、好ましくは0.4から0.6の範囲、特に好ましくは約0.5となるように設定する。増幅されるべき互いに相同な配列および/または非相同な配列に対して、正の増幅反応の相対的頻度が、1となるようなことがあれば、生体試料中のDNA濃度が小さい核酸の増幅生成物の消失は、希釈段階が比較的高くなってから観察されることであろう。したがって、この少なくとも1つの増幅反応の正の増幅の相対的頻度は、1より下に設定するのが有利である。PCR生成物の消失が希釈されない試料ですでに観察されるのを防止するためには、正の増幅反応の相対的頻度が低すぎないようにするべきであろう。
【0045】
しかし増幅されるべき配列のいずれに対しても、前記少なくとも1つの増幅反応の正の増幅反応に対して設定されるべき相対的頻度として、前記の数値(下記では効率という)が固定された量ではないこと、そして特にPCRに用いられた出発コピーに依存することを、考慮しなければならない。出発コピー数が大きくなるほど、少なくとも1つの増幅反応の効率をそれだけ小さく設定するべきであろう。これは、生体試料中のDNA濃度が小さい核酸に対する増幅生成物の消失に、すでに比較的低い希釈段階で達するためである。設定される効率の、出発コピー数に対する、すなわち使用される細胞の個数または使用されるコピーの個数に対する依存性を、図1に示した。
【0046】
本発明の考えの発展形として、手順b)〜手順d)による少なくとも1つの増幅反応と平行して、同じ条件下で対照試料を用いる増幅反応を行うことを提案する。この場合対照試料は、それぞれ異なる増幅生成物を既知の個数生じるのが好ましい。こうして、手順b)〜手順d)による少なくとも1つの増幅反応が正しく行われたかどうか、あるいは場合によってはサーモサイクラーの故障によって、上記の増幅反応がまったく行われなかったか、または行われても不十分だったかを、簡単な方法で確認することができる。
【0047】
生体試料の部分量の選択されるべき希釈率は、特に生体試料中の核酸の濃度に依存していて、専門家が一般に行う試験の際に容易に決定することができる。しかし基本的には、生体試料の部分量は比率1:1〜1:1000、好ましくは1:1〜1:100、特に好ましくは1:1〜1:10、さらに特に好ましくは1:1〜1:2で希釈するのが有利である。
【0048】
増幅生成物をキャラクタリゼーションするためには、該当個体の遺伝子系を逆推論できるものであれば、専門家に知られているあらゆる技術を用いることができる。例えばこの増幅生成物のキャラクタリゼーションは、前もって決められた配列の1つまたは複数の対立遺伝子の相対個数を決定することを含む。
【0049】
前もって決められた配列、例えば染色体、遺伝子または遺伝子断片の対立遺伝子の相対個数を決定するためには、この目的のため専門家に知られているあらゆる方法を用いることができる。例えばこの決定を次のようにして行うことができる。すなわち少なくとも1つの増幅反応を、本発明の手順b)と同じ条件下で参照試料を用いて行う。そして参照試料を用いるこの少なくとも1つの増幅反応によって得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を、部分量の一部分だけに対して得られた増幅生成物の個数と比較する。この参照試料は既知の遺伝子型を持つのが好ましい。そのためには例えば、参照試料を採取された個体が、前もって決められた配列、すなわち決定されるべき対立遺伝子が存在する配列の点で健康な個体であるか、病気の個体であるかを知れば十分である。参照試料の前もって決められた配列のコピー数もまた、同様に既知のものとすることができる。そのほか、前記少なくとも1つの増幅反応においては、本発明の手順b)による少なくとも1つの増幅作用と同じ量のDNAを用いるのが好ましい。これを可能とするためには例えば、生体試料中のDNA濃度を―場合によっては材料を増殖するための非特異的PCRの後に―決定することが必要になる場合がある。部分量の一部分だけに対して得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数、すなわち生体試料中に含まれる量が大きい方の個体に対する個数を、参照試料に対して同一の増幅反応によって得られたそれぞれ異なる増幅生成物の対応する個数と比較する。少なくとも1つの増幅反応で使用された対応するプライマー対が、前もって決められた配列に含まれる対立遺伝子を増幅するために適合されているならば、この比較によって、前もって決められた配列の対立遺伝子の相対個数を決定することができる。
【0050】
前記の実施形態に代わるものとして、増幅生成物をキャラクタリゼーションするため、手順b)と同条件下で参照試料を用いて少なくとも1つの増幅反応を行い、そしてこの少なくとも1つの増幅反応によって得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を、すべての部分量に対して得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数と、比較することができる。これによれば前期の実施形態とは異なって、生体試料中に得られたDNAの量が少ない方の個体において、前もって決められた配列の対立遺伝子の相対個数を決定することができる。
【0051】
本発明の考えの発展形として、増幅生成物をキャラクタリゼーションするために、前記部分量の一部だけに対して得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数、および/または生体試料のすべての部分量に対して決定されたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を、少なくとも1つの頻度分布と比較することを提案する。この頻度分布とは、例えば手順b)における反応条件と同一の反応条件下で用いられた少なくとも1つの増幅反応かつ同じ増幅反応を、別々にそれぞれ複数回行うことによって、そして続いて1参照試料ごとにそこに含まれたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定することによって、得られた/得られるものである。なおここに挙げた少なくとも1つの増幅反応においては、手順a)に挙げたと同じ量の出発材料を、少なくとも2つのそれぞれ異なる参照試料とともに使用している。以上のような方法によって、生体試料中の核酸を採取された個体のいずれにおいても、前もって決められた対立遺伝子の相対個数、あるいは絶対個数さえも、特別な信頼性をもって決定できる。
【0052】
さらには、増幅生成物をキャラクタリゼーションするため、得られた増幅生成物をシーケンシングし、あるいはこの生成物に適切なプローブを用いてハイブリダイゼーション法を行う。これは例えば、遺伝子または遺伝子断片の配列を逆推論するためである。
【0053】
また増幅生成物をキャラクタリゼーションするため、生体試料の1つまたは複数の希釈段階を用いて、PCRの多重決定を行うことができる。これは、個々の決定の際に得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数の平均値を比較したものから、例えば生体試料中の前もって決められた配列の相対的または絶対個数を推論するためである。生体試料の1つまたは複数の希釈段階を用いて、PCRの多重決定を行い、そこで得られた1つの特異的な増幅生成物、例えば対立遺伝子特異的な増幅生成物の個数の平均値を、そこで得られたそのほかの特異的な増幅生成物、例えば対立遺伝子特異的な増幅生成物の個数の平均値と、比較することもできる。例えば生体試料の希釈段階1:5および1:10に対して、PCRの5重決定をそれぞれ1つずつ行うことができる。この場合、PCRで用いられるプライマー対は、少なくとも1つの対立遺伝子特異的な配列を増幅するため、適合されている。1つの個体の対立遺伝子特異的プライマー対に対するPCRによって、例えば2つの増幅生成物が得られる場合、そしてこれら2つの増幅生成物は、個々の希釈段階においては等しい頻度で現れ、例えばそれぞれ平均値で希釈段階1:5のとき0.5回、希釈段階1:10のとき0回現れる場合、バイアリールダイソミーを推論することができる。しかし個々の希釈段階において2つの対立遺伝子特異的な増幅生成物が得られ、2つのうち一方は、平均すると他方の2倍の頻度で、例えば増幅生成物1は希釈段階1:5で平均0.9回、増幅生成物は2希釈段階1:10で平均0.5回現れる場合、あるいは一方は他方よりも高い希釈段階で初めて消失して、例えば増幅生成物1は、希釈段階1:10で初めて得られなくなるが、増幅生成物2は、すでに希釈段階1:5で得られなくなる場合、この場合はバイアリールトリソミーであることを示す。この多重決定をなす回数は好ましくは2〜1000、特に好ましくは3〜100、さらに特に好ましくは4〜15、最も好ましくは5〜10とする。
【0054】
本発明のもう1つの対象物は、異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つまたは複数の個体の遺伝子タイプを決定するためのキット、特に前記の方法を行うための当該キットであって、下記を含むものである。
a)生体試料中に含まれる少なくとも1つの核酸の1つの配列、または少なくとも2つの相同な配列および/または非相同な配列を、少なくとも1つのPCRで増幅するために適合されている少なくとも1つのプライマー対。
b1)既知の遺伝子型と、好ましくは前もって決められた配列の既知のコピー数とを持つ参照試料。および/または
b2)少なくとも1つの増幅生成物が20%から100%未満の確率で生じるように、反応条件が選択されていた場合に、参照試料を用いて、d)に記載のプロトコルに指定されているのと同じ条件下で行われた少なくとも1つの増幅反応の結果。および/または
b3)少なくとも2つの異なる参照試料が、前もって決められた配列の互いに異なる既知のコピー数を1つずつ持つ場合、当該2つの互いに異なる参照試料を用いて、プロトコルd)で指定されたのと同じ反応条件下で、少なくとも1つを増幅反応として同じものを別々にそれぞれ複数回行うことと、次に1参照試料当たり得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定することとによって得られた少なくとも1つの頻度分布。および
c)場合によってはPCR用緩衝液。および
d)a)において少なくとも1つのPCRを行うためのプロトコル、および場合によっては濃度の異なる少なくとも2つの部分量について行われる希釈に関するデータ。
【0055】
本発明の1つの好ましい実施形態では、このキットが、既知の遺伝子型と、好ましくは前もって決められた配列に関して既知であるコピー数とを持つ参照試料b1)を含む。遺伝子型が既知である参照試料を用いて、生体試料の個々の部分量を用いる場合と同じ増幅反応を少なくとも1つ行う。これにより、本発明の範囲内で増幅生成物をキャラクタリゼーションするとき、生体試料の部分量の1つに対して得られた増幅生成物の個数を、少なくとも1つの増幅反応において参照試料に対して得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数と比較する。この比較によって、生体試料中の1つの個体の核酸において、前もって決められた配列の相対的コピー数を推論することができる。参照試料のうち少なくとも2つの濃度の異なる部分量に、調査される生体試料の部分量と同じ条件下で行われる増幅反応をそれぞれ少なくとも1回加えると、生体試料に含まれる1つの個体の核酸において、前もって決められた配列の絶対的コピー数さえ推論することができる。
【0056】
本発明のキットは、参照試料の代わりに、あるいはそれより好ましさが減じるとしても参照試料b1)に加えて、d)に記載のプロトコルに指定されるのと同じ条件下で参照試料を用いておこなわれる少なくとも1つの増幅反応の結果b2)、および/または少なくとも1つの頻度分布b3)を含むことができる。上記の反応条件は、少なくとも1つの増幅生成物が、20%から100%未満までの確率で形成されるような条件を選択されている。また上記の頻度分布は、少なくとも2つの異なる参照試料を用いて、プロトコルd)に指定されたのと同一な反応条件下で行われた少なくとも1つの増幅反応、かつ同一の増幅反応を別々にそれぞれ複数回行うことによって、そしてそれに続いて、1参照試料ごとに得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定することによって、得られたものである。上記の少なくとも2つの異なる参照試料は、前もって決められた配列の、互いに異なる既知のコピー数を1つずつ持つ。プロトコルd)にいう生体試料の1つの部分量を用いて少なくとも1つの増幅反応を行い、そこで得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数と、b2)にいう結果を比較することにより、生体試料に含まれる1つの個体の核酸中にある前もって決められた配列の相対的コピー数を決定することができる。他方では、b3)にいう頻度分布と相応に比較することによって、生体試料中に含まれる1つの個体の核酸中にある前もって決められた配列の絶対的コピー数を決定することができる。
【0057】
本発明のキットの1つの好ましい実施形態では、DNA非コード化領域に属する1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列、好ましくは高多型性の互いに相同な配列および/または非相同な配列であって、かつ特に好ましくはSTR配列、VNTR配列、SNP配列、およびこれらの任意の組み合わせからなるグループから選択されたものを、少なくとも1つのPCRにおいて増幅するため、前記少なくとも1つのプライマー対が適合されているものとする。
【0058】
本発明の考えの発展形として、互いに相同な配列および/または非相同な配列を1〜100個、好ましくは2〜20個、特に好ましくは5〜15個、少なくとも1つのPCRで増幅するために、a)にいう少なくとも1つのプライマー対、および/または本発明によるキットのd)にいうプロトコルを適合させることを提案する。
【0059】
下記では実施例を挙げて本発明を説明するが、これらの実施例は本発明を説明するものであって、本発明を限定するものではない。
【0060】
(実施例1)
本例は、母体血液中にある胎児細胞の遺伝子型を決定しようというものである。
【0061】
胎児細胞は、母体血液中に約1:1,000,000の頻度で現れる。胎児細胞は母体血液中で、さまざまな方法で濃縮することができる。その例として、胎児細胞に対して特異的な抗体を持つ磁気ビードを用いるか、あるいは、メンブレン蛋白質によって胎児細胞を検出、分離する細胞ソーターを用いることができる。この方法で、母体血液中にある胎児細胞を、比率1:1000まで濃縮することができる。
【0062】
下記では、そのようにして濃縮された試料を用いて、胎児が21番トリソミーに該当するかどうかを決定したい。この例では、試料中に約10,000個の細胞があることが、細胞ソーター実験から既知である。そのほか参照試料実験から、次のことが既知である。すなわち、1細胞あたり21番染色体が2コピーのとき、PCRで10細胞未満を用いるならば、あるいは1細胞あたり21番染色体が3コピーのとき、PCRで7細胞未満を用いるならば、ここで用いられたSTRシステムに対して(参照実験と同じプロトコルの場合)ドロップアウトが生じる。すなわち使用されたプライマー対に含まれる増幅生成物の非増幅が生じる。
【0063】
まず濃縮された混合試料の1つの部分量に、1つのプライマー対を用いるPCRを行ったが、この混合試料は、胎児細胞と母体血液を1:1000の比率で含む。この場合のプライマー対は、21番染色体のSTR配列を1つずつ増幅するために適合されていた。したがって、21番染色体に関して同型接合性ある健康な個体に対しては1つの増幅生成物が、21番染色体に関して異型接合性ある健康な個体に対しては2つの増幅生成物が、モノアリールトリソミーを持つ個体に対しては1つの増幅生成物が、バイアリールトリソミーを持つ個体に対しては2つの増幅生成物が予想される。また生体試料のもう1つの部分量を用いて希釈シリーズをピペット計量し、いずれの希釈段階の部分量にも、希釈されない試料の部分量に対するのと同じPCRを行った。この場合下記表1の結果が得られた。
【0064】
【表1】

表1で認められるように、鎖長が132bpおよび144bpの各増幅生成物は、希釈率が1:1000および1:500となるまで得られる。それに対して、そのほかの2つの増幅生成物、鎖長が136bpのものおよび156bpのものは、すでに希釈率が1:5および1:7で消失する。このことから、対立遺伝子で鎖長が136bpのもの、および156のものは、胎児に割り当てることができる。なぜならばこれらの対立遺伝子は、そのほかの2つの対立遺伝子であって鎖長が132bpのもの、および144bpのものよりも、はるかに小さい希釈率で消失するからである。組織内の母体細胞と比較することにより、この結果を確認することができる。
【0065】
しかし上記の結果だけでは、鎖長136bpおよび156bpの各対立遺伝子が、1コピーで現れるか、2コピーで現れるかを、確実に結論することはできない。このためには、希釈段階1:5の生体試料の複数の部分量を用いて、それぞれ前記の増幅反応と同じ増幅反応を、5回の平行する実験で行う。これは基本的に、5回からなる多重決定に相当する。この場合下記表2の結果が得られた。
【0066】
【表2】

続いて同じ実験を、希釈段階1:7の部分量を用いてそれぞれ5回行った。この場合、下記表3の結果が得られた。
【0067】
【表3】

上記の表から、鎖長156bpの対立遺伝子は、あたえられた希釈段階で、鎖長136bpの対立遺伝子よりもいちじるしく高い確率で、ドロップアウト、すなわち予想された増幅生成物の消失を示す。このことから、鎖長136bpの対立遺伝子は1細胞あたりそれぞれ2コピー、鎖長156bpの対立遺伝子は1細胞あたり1コピー現れることを、ある程度の確率で結論できる。これら2つの対立遺伝子が1細胞当たり等しいコピー数現れるようなことがあれば、等しい希釈率におけるドロップアウトの頻度も等しいこととなろう。
【0068】
したがって上記の実験によって、2つの異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つの個体の対立遺伝子の相対個数について言明することができる。この具体的ケースでは、この胎児に対してバイアリール21番トリソミーを診断した。専門家には理解できることであるが、この増幅反応の際に2つ以上のプライマー対を用いるならば、上記の試みによる当該証言の確実性を向上できるであろう。
【0069】
(実施例2)
実施例1に記載したと同様なプロセスを行ったが、PCRにおいて、胎児細胞を含む母体血液から、もう1つの生体試料を用いた。この場合、下記表4の結果を得た。
【0070】
【表4】

上記表4に記載したように、鎖長が136bp、156bp、160bpの各増幅生成物は、鎖長が132bp、144bpの各増幅生成物よりも低い希釈段階で消失する。このことから、前者3つの増幅生成物は、生体試料中に微量存在する胎児細胞に割り当てるべきであり、それに対して後者2つの増幅生成物は、母親に割り当てるべきであると推論される。希釈されない試料の場合、胎児のものとしては3つの増幅生成物が、それに対して母親のものとしては2つの増幅生成物が含まれていたので、胎児は21番染色体のトリアリールトリソミーに罹患していると、大きな確率をもって言明することができる。
【0071】
(実施例3)
下記では法医学的混合試料、すなわち、暴力犯罪の犯行現場で得られた、様々に異なるあの核酸を含む生体試料を、キャラクタリゼーションしたい。
【0072】
このため実施例1と同様に、生体試料の様々に異なる希釈段階を用いて増幅反応を行い、下記表5の結果を得た。
【0073】
【表5】

表5から認められるように、合計4つの増幅生成物が得られ、そのうち2つ、すなわち鎖長132bpおよび144bpの各増幅生成物は、高い希釈段階(1:500および1:1000)で初めて消失する。それに対してそのほかの2つ、すなわち鎖長136bpおよび156bpの各増幅生成物は、1:5および1:7という低い希釈段階ですでに消失する。このことから、この生体試料は2つの異なる個体の核酸を含み、個体1には鎖長132bpおよび144bpの各対立遺伝子が割り当てられ、他方で個体2には鎖長136bpおよび156bpの各対立遺伝子が割り当てられると推論される。これらの組み合わせには類似の希釈段階でドロップアウトが生じるので、この結論には容易に達することができる。したがって、さらに第三者の核酸がその生体試料内に含まれていることは、非常にありえない。もしそうならば、2つの個体からただ1つの対立遺伝子が生体試料中に存在することになるからである。しかしこれは非常にありえない。これら2つの個体の核酸は、ここで前記の同様に詳しくキャラクタリゼーションできる。
【0074】
前記の実施例が示すように、希釈シリーズと、希釈されない生体試料や生体試料の個々の希釈段階を用いて対応する増幅反応を行うこととによって、少なくとも1つの前もって決められた配列の相対的頻度を決定するだけでなく、アイデンティティ決定、すなわち個々の対立遺伝子のコピー数の決定を行うこともできる。そのための前提条件は、生体試料中の個々の個体の核酸の量に差があることである。アイデンティティ決定のためには、この差は係数にして約10が好ましい。しかし、例えば微量の混合試料から取った1つの固体の対立遺伝子のコピー数を決定したいならば、それより小さい差でも十分である。しかしその場合統計上の確かさを上げるためにはある程度の冗長性、例えば該当する部分量を用いたマルチプレックスPCR、またはPCRの多重決定などによる冗長性が必要である。
【0075】
(実施例4)
例えば妊娠中の女性の場合、母体血液だけでなく胎児細胞も含む可能性がある生体試料が、そのような胎児細胞を含むかどうかを、そしてそのような細胞が存在する場合は、母体細胞と胎児細胞との関係はいかなるものかを決定したい。
【0076】
母体血液に対する胎児細胞の相対的細胞数の決定は、従来の技術で知られているようなPCRに基づく方法では不可能であるか、もし可能であるとしても極めて不完全である。なぜならば、母体血液中に胎児細胞は、細胞百万個に対して1個という頻度でしか現れないからである。その点で、従来の技術から知られている方法の場合、そもそも評価可能な結果を得ようとすれば、母体血液1μg以上をPCRに投入しなければならない。しかしこの種の高いDNA出発量を用いるPCRは、経過がもはや最適ではなく、その結果、不正確な結果しか得られない。これを避けるため、胎児細胞をFACS(蛍光細胞分別器)によって濃縮することが、すでに提案されている。しかしこの濃縮によっては状況にいちじるしくバイアスがかかる。
【0077】
生体試料中には、胎児細胞以外に母体細胞が過剰量存在し、双方の細胞型がそれぞれ2倍体核型を持つので、この生体試料中には、いずれの遺伝子に対しても最大4個のそれぞれ異なる対立遺伝子が存在する。母体細胞が過剰量存在するという仮説は、つねに存在することとなろう。PCRにおいて、ここである特定の遺伝子断片に対して対立遺伝子特異的なプライマー対を用い、下記表6の結果を得た。
【0078】
【表6】

1希釈段階ごとの正のPCRの個数を比較すると、生体試料中に母体細胞が、胎児細胞よりも多く含まれていることは明らかであることがわかる。なぜならば胎児細胞の増幅の場合の方が、母体細胞の場合よりも早く、DNAコピーにドロップアウトを生じるからである。したがって胎児細胞の場合、最初のドロップアウトは、希釈段階1:8ですでに観察され、1:16の希釈段階で胎児細胞に対しては何ら増幅生成物が得られなくなる。しかし母体細胞の場合、ドロップアウトは希釈段階1:32で初めて開始され、その後希釈段階1:64以降になってから、母体細胞にも増幅細胞が得られなくなる。
【0079】
これらの2つの試料は最初から混合されていて、ドロップアウトから得たこれら試料に関しての相対比較による言明は(母体細胞の場合の希釈段階1:64を胎児細胞の場合の希釈段階1:16と比較)、ここでは、母体細胞は胎児細胞の4倍の量が存在したということである。
【0080】
胎児細胞および/または母体細胞を、ここで前記と同じようにしてさらにキャラクタリゼーションできる。
【0081】
(実施例5)
1人の人間の生体試料が、健康な細胞だけでなく、LOHによって生じたガン細胞をも含むかどうか決定したい。
【0082】
このため、遺伝子断片D85522を増幅するプライマー対を用いて、生体試料の様々に異なる希釈段階で増幅反応を行い、下記表7の結果を得た。
【0083】
【表7】

上記表7からは、対立遺伝子I‐2は、すべての希釈段階で含まれていたが、対立遺伝子I−1が増幅されたのは、希釈段階1:16までに限られた。このことは、この生体試料中に、対立遺伝子I‐2の方が対立遺伝子I‐1よりも多くのコピー数が存在することを示す。このことから、この生体試料が、対立遺伝子Iの点で異型接合性ある健康な細胞だけでなく、LOHによって生じたガン細胞、すなわち対立遺伝子Iの点では同型接合性しかないガン細胞をも含むことを、ある程度の確率をもって推論することができる。
【0084】
この結果が正しいことは次のようにして確認できる。すなわちこの生体試料の複数の部分量を希釈して、それにより、これら部分量がそれぞれ細胞を1つだけ含むようにして、次に各分量のDNAを非特異的に増幅する。その後、各部分量のDNAをゲル電気泳動法によって分離し、前記の遺伝子断片にとって特異的なプローブを用いて、サザンブロット法によって可視化する。2つの部分量を適用した後の結果を、図2に記載した。
【0085】
図2に記載するように、この生体試料は2つの細胞型を含み、そのうち1つは、D85522遺伝子の2つの対立遺伝子を含む(トレース“N”の下側2つのバンド)。それに対してもう1つは、D85522遺伝子の2つの対立遺伝子の一方だけを含む(トレース“T”の下側のバンド)。ゲルの上半分に結像されたバンドは、いわゆる“コンフォメーション・バンド(conformation band)”であって、新たにフォールディングされた配列によって、各対立遺伝子から生じるものである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明は、異なる個体の核酸を含む生体試料から遺伝子型を決定する方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】使用される細胞の個数または使用されるコピーの個数に対する依存性を示す図である。
【図2】可視化した正常な細胞及びガン細胞のDNAを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つまたは複数の固体の遺伝子型を決定する方法、特には、前もって決められた配列のコピー数を決定する方法であって、
a)それぞれ異なる濃度の前記生体試料を含む生体試料の部分量を少なくとも2つ作成する、
b)前記生体試料から手順a)で作成された部分量のいずれについても、それぞれ少なくとも1つの増幅反応を行うが、この場合、少なくとも1つの増幅反応は、生体試料に含まれる核酸の少なくとも1つに含有される1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されたものであり、
c)前記少なくとも2つの部分量に対し、手順b)によるそれぞれ少なくとも1つの増幅反応により得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定して、そこで得られた数を比較する、
d)前記少なくとも2つの部分量のいずれに対しても、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数として手順c)で決定された個数が等しい場合、手順a)で作成された部分量とはそれぞれ異なる濃度を持つ生体試料を少なくとももう1つ作成し、そして手順b)およびc)、そして場合によってはd)を繰り返すが、この繰り返しは、手順c)において少なくとも1つの部分量に対し、それぞれ異なる増幅生成物がそのほかの部分量に対して異なる個数得られるまで行う、
e)前記少なくとも1つの部分量に対して、そのほかの部分量に対するのと異なる個数のそれぞれ異なる増幅生成物が、前記少なくとも1つの増幅反応で得られた場合、当該少なくとも1つの部分量によって得られた増幅性生成物をキャラクタリゼーションし、および/または、そのほかの部分量に対するのとは異なる個数のそれぞれ異なる増幅生成物が得られた前記少なくとも1つの部分量に対してのみならず、そのほかの部分量に対しても、得られた増幅生成物をキャラクタリゼーションする、
という各手順を含む、方法。
【請求項2】
異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つまたは複数の個体の遺伝子型を決定する方法、特には、前もって決められたコピー数を決定する方法であって、
a)前記生体試料の1つの部分量を作成する、
b)前記生体試料の部分量を用いて少なくとも1つの増幅反応を行うが、その際、当該少なくとも1つの増幅反応は、生体試料に含まれる核酸の少なくとも1つに含有される1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されたものであり、
c)手順b)の少なくとも1つの増幅反応のいずれに対しても、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定する、
d)前記生体試料のもう1つの部分量を作成し、当該生体試料の当該もう1つの部分量を希釈し、そして当該希釈された試料を用いて、手順b)と同じ条件下で少なくとも1つの増幅反応を行う、
e)手順d)の少なくとも1つの増幅反応のいずれに対しても、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定する、
f)手順c)で決定された様々に異なる増幅生成物の個数を、手順e)で決定された様々に異なる増幅生成物の個数と比較する、
g)手順c)で決定された個数が、手順e)で決定された個数に等しい場合、当該生体試料の希釈率を高くして手順d)〜f)を繰り返し、この繰り返しは、手順e)で得られる様々に異なる増幅生成物の個数が、手順c)におけるよりも小さくなるまで行う、
h)手順e)で得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数が手順c)におけるよりも小さくなる希釈率を用いて、手順d)による少なくとも1つの増幅反応の際にではなく、手順b)による少なくとも1つの増幅反応の際に得られた増幅生成物をキャラクタリゼーションし、および/または、手順e)で得られたそれぞれ異なる増幅生成物が、手順c)におけるよりも小さくなる希釈率を用いて、手順b)による少なくとも1つの増幅反応の際だけでなく、手順d)による少なくとも1つの増幅反応の際にも得られた増幅生成物をキャラクタリゼーションする、
という各手順を含む方法。
【請求項3】
前記生体試料が、少なくとも2つの異なる個体、好ましくは少なくとも2つから10個未満までの範囲、特に好ましくは少なくとも2つから5つ未満までの範囲、さらに好ましくは2つまたは3つ、最も好ましくは正確に2つの異なる個体の核酸を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記各個体の生体試料中に含まれる核酸の濃度の相違が、1:1000〜1:1、好ましくは1:500〜1:5、特に好ましくは1:100〜1:10であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記生体試料として法医学的試料が用いられることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記生体試料が胎児細胞を含む母体血液を含み、あるいは好ましくは胎児細胞を含む母体血液からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記生体試料が健康な細胞とLOHによって生じたガン細胞との混合試料であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの増幅反応はPCR反応であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの増幅反応が、DNA非コード化領域に由来する1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を、増幅するため適合されたものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの増幅反応が、多型性の高い1つの配列、または多型性の高い少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を、増幅するために適合されたものであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの増幅反応が、STR配列、VNTR配列、SNP配列、およびこれらの任意の組み合わせからなるグループから選択された1つの配列、または同様に選択された少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を、増幅するために適合されたものであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの増幅反応が、ドナーのゲノムにおいて1対立遺伝子あたりただ1回だけ現れる1つの配列、または同様な現れ方をする少なくとも2つの相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されたものであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの増幅反応が1〜100個の、好ましくは2〜20個の、特に好ましくは5〜15個の互いに相同な配列および/または非相同な配列を、増幅するために適合されたものであることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
手順b)〜手順d)において、少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するため適合されたPCRを行い、当該PCRにおいては、前記少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されているプライマー対が、前記少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列の個数に相当する個数だけ使用されていることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
手順b)〜手順d)において、少なくとも2つの相同な配列および/または非相同な配列を増幅するため適合されたPCRが行われ、その際手順a)において、前記生体試料の部分量が、当該少なくとも2つの相同な配列および/または非相同な配列の個数に相当する個数だけ作成され、その際、いずれの部分量も同量の生物物質を含むことと、そしてまた手順b)〜手順d)においては、部分量のいずれについても、プライマー対が1つずつ用いられるPCRが行われ、この場合、それぞれ異なるPCRで用いられるプライマー対が、当該少なくとも2つの相同な配列および/または非相同な配列を増幅するため適合されていることとを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記生体試料が、手順a)が行われる前に非特異的なPCRによって増幅され、そして場合によっては、こうして得られた反応生成物が、必要な個数の部分量に区分されることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記増幅生成物の有無の決定が、ゲル電気泳動法、DNAアレイ上のハイブリダイゼーション技術、ビードシステム、またはそのほかの光学的、電気的、または電気化学的測定によって行われることを特徴とする、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記増幅反応の後、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定するため、1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列の有無を決定し、そして、得られた増幅生成物から、物理的および/または化学的に測定可能な第2のパラメーターを決定することを特徴とする、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列が、STRは配列および/またはVNTR配列であり、そして第2のパラメーターとして、得られた増幅生成物の鎖長が決定され、その際、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数が、それと異なる鎖長の増幅生成物として得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数に相当することを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記増幅生成物の鎖長が、毛管電気泳動法によって決定されることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記1つの配列、または少なくとも2つの互に相同な配列および/または非相同な配列がSNP配列であり、そして第2のパラメーターとして、得られた増幅生成物の配列が決定され、その際、得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数が、それと異なる配列を持つ増幅生成物として得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数に相当することを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記増幅生成物の配列が、DNAシーケンシングまたはハイブリダイゼーション法によって決定されることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
手順b)〜手順d)における少なくとも1つのPCRで、前記パラメーターが選択される際、前記1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列のいずれに対しても、正の増幅反応の相対的頻度が、それぞれ少なくともほぼ等しくなるように選択されることを特徴とする、請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
手順b)〜手順d)における少なくとも1つのPCRで、前記パラメーターが選択される際、前記1つの配列、または少なくとも2つの互いに相同な配列および/または非相同な配列のいずれに対しても、正の増幅反応の相対的頻度が、0.2から1未満までの範囲、好ましくは0.4から0.6までの範囲、特に好ましくは約0.5であることを特徴とする、請求項1〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
手順b)〜手順d)による少なくとも1つの増幅反応と平行して、対照試料を用いながら同条件下で増幅反応を行うことを特徴とする、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
請求項2に記載する方法の手順d)における生体試料の部分量は、1:1〜1:1000、好ましくは1:1〜1:100、特に好ましくは1:1〜1:10、さらに好ましくは1:1〜1:2の比率で希釈されることを特徴とする、請求項1〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記増幅生成物をキャラクタリゼーションする際に、前もって決められた配列の対立遺伝子の相対個数を決定することを特徴とする、請求項1〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記増幅生成物をキャラクタリゼーションするため、少なくとも1つの増幅反応を、手順b)と同条件下で参照試料を用いて行い、当該参照試料は、前記生体試料と同量のDNAを持ち、そして好ましくは既知の遺伝子型を持つことと、当該少なくとも1つの増幅反応によって得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を、前記部分量のただ一部分に対して得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数と、または、請求項2の方法においてその手順c)で得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数から手順e)で得られたそれを引いたものと、および/または、すべての部分量に対して得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数と、または、請求項2の方法における手順e)で決定されたそれぞれ異なる増幅生成物の個数と、比較することを特徴とする、請求項1〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
手順c)で得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数から手順e)で得られたそれの個数を差し引いたもの、および/または手順e)で決定されたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を、少なくとも1つの頻度分布と比較するが、当該頻度分布とは、手順b)におけると同じ反応条件下で用いられた少なくとも1つの増幅反応として同じ当該増幅反応を別々にそれぞれ複数回、少なくとも2つの異なる参照試料を用いて行うことによって、そしてまた1参照資料ごとに得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定することによって、得られた/得られるものであり、この場合、当該増幅反応においては、手順a)に挙げたと同量の出発材料が用いられた/用いられるものであり、またこの場合、前記少なくとも2つの異なる参照試料は、前もって決められた配列の互いに異なる既知のコピー数をそれぞれ1つずつ持つことを特徴とする、請求項2〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記増幅生成物をキャラクタリゼーションするため、得られた増幅生成物をシーケンシングし、あるいは当該増幅生成物にハイブリダイゼーション法を行うことを特徴とする、請求項1〜29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記生体試料の1つまたは複数の希釈段階を用いて増幅生成物をキャラクタリゼーションするため、少なくとも1つのPCRの多重決定を行い、当該PCRの際には好ましくは少なくとも1つの対立遺伝子特異的なプライマー対を使用することを特徴とする、請求項1〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記多重決定をなす回数が2〜1000、好ましくは3〜100、特に好ましくは4〜15、最も好ましくは5〜10であることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
異なる個体の核酸を含む生体試料から、1つまたは複数の個体の遺伝子タイプを決定するためのキット、特に請求項1〜32のいずれかに記載の方法を行うための当該キットであって、
a)生体試料中に含まれる少なくとも1つの核酸の1つの配列、または少なくとも2つの相同な配列および/または非相同な配列を、少なくとも1つのPCRで増幅するために適合されている少なくとも1つのプライマー対、
b1)既知の遺伝子型と、好ましくは前もって決められた配列の既知のコピー数とを持つ参照試料、および/または
b2)少なくとも1つの増幅生成物が20%から100%未満の確率で生じるように、反応条件が選択されていた場合に、参照試料を用いて、d)に記載のプロトコルに指定されているのと同じ条件下で行われた少なくとも1つの増幅反応の結果、および/または
b3)少なくとも2つの異なる参照試料が、前もって決められた配列の互いに異なる既知のコピー数を1つずつ持つ場合、当該2つの互いに異なる参照試料を用いて、プロトコルd)で指定されたのと同じ反応条件下で、少なくとも1つを増幅反応として同じものを別々にそれぞれ複数回行うことと、次に1参照試料当たり得られたそれぞれ異なる増幅生成物の個数を決定することとによって得られた少なくとも1つの頻度分布、および
c)場合によってはPCR用緩衝液、および
d)a)において少なくとも1つのPCRを行うためのプロトコル、および場合によっては実行される希釈に関するデータ
を含む、キット。
【請求項34】
前記少なくとも1つのPCRにおいて、DNA非コード化領域にある1つの配列、または少なくとも2つの相同な配列および/または非相同な配列、好ましくは高多型性の互いに相同な配列および/または非相同な配列、特に好ましくはSTR配列、VNTR配列、SNP配列、およびこれらの任意の組み合わせからなるグループから選択された当該高多型性の配列を増幅するために、前記少なくとも1つのプライマー対が適合されていることを特徴とする、請求項33に記載のキット。
【請求項35】
前記a)に記載の少なくとも1つのプライマー対および/または前記d)に記載のプロトコルが、少なくとも1つのPCRにおいて、1〜100個の、好ましくは2〜20個の、特に好ましくは5〜15個の互いに相同な配列および/または非相同な配列を増幅するために適合されていることを特徴とする、請求項33または34に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−518051(P2009−518051A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544777(P2008−544777)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/010245
【国際公開番号】WO2007/068305
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(502096196)アドヴァリティクス アーゲー (9)
【Fターム(参考)】