説明

異常レール特定装置

【課題】並走レールA〜Cの異常を検知して異常レールBを特定する。
【解決手段】検査信号を送出する送信機11と、鉄道の線路に三本以上並設された多数レールA〜Cに係る検査区間の一端側で多数レールA〜Cに接続されて検査信号の送信先レールA+B,B+C,C+Aを切り替える切替手段12と、検査区間の他端側で多数レールA〜Cに接続されて検査信号の検出を可能とする区間端画定手段13(受信先切替手段,検査信号伝搬端短絡手段)と、検査信号に係る物理量(受信レベル,インピーダンス)を検出する検出部14(受信機,電流電圧計)と、送信先切替手段12での切替が一巡する間に得られた検出値に基づいて多数レールA〜Cの正否を判別するとともに異常であると判別したときには異常レールBを特定する判定部20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の線路に敷設されたレールを対象にして破断などのレール異常を検出する装置に関し、詳しくは、並設された多数本のレールの中から異常なレールを特定する異常レール特定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レール異常を検出する従来装置として、軌道回路を利用して故障区間を判定する装置が開発されている(例えば特許文献1参照)。この故障区間判定装置は、軌道回路の区間の両端に設置されたインピーダンスボンドを介して送信端から軌道回路へモニタ信号を送信するとともに受信端でモニタ信号を受信し、その受信状態に応じて軌道回路の送信端から受信端までの区間に断線や短絡などの故障が有るか否かを判別するようになっている。また、モニタ用ケーブルの共通化によってケーブル布設の手間が軽減されるとともに、モニタ送信器やモニタ受信器の接続先の切替によって故障区間や故障ケーブルが特定されるようにもなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平3−50583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来装置では、軌道回路に含まれている一対のレールのうち何れが異常になったのかまでは分からない。また、軌道回路装置の設置されていない所では使うことができないうえ、最近の鉄道技術では、列車検知方式の無線化や高周波化が進んで、軌道回路の無くなる傾向が強まっている。
そのため、並設された複数本のレールを対象にして異常の有無を調べるとともに、異常検出時には異常なレールを特定することまで行うことが、要請される。
そこで、並走レールの異常を検知して異常レールを特定する異常レール特定装置を実現することが技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の異常レール特定装置は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、検査信号を送出する送信機と、鉄道の線路に三本以上並設された多数レールに係る検査区間の一端側で前記多数レールに接続されて前記検査信号の送信先レールを切り替える送信先切替手段と、前記多数レールに接続されて前記検査区間の他端側を画定する区間端画定手段と、前記検査信号に係る物理量を検出する検出部と、前記送信先切替手段での切替が一巡する間に得られた前記検出部の検出値に基づいて前記多数レールの状態が正常であるか異常であるかを判別するとともに異常であると判別したときには異常レールを特定する判定部とを備えている。
【0006】
また、本発明の異常レール特定装置は(解決手段2)、上記解決手段1の異常レール特定装置であって、 前記送信先切替手段での切替は、前記多数レールから二本以上を選出して前記送信先レールに含めるとともに、前記多数レールの各レール総てについて切替一巡間に該レールを前記送信先レールに含めるときと含めないときとがあり且つ含めないときの前記送信先レールの和集合が前記多数レールから該レールを除いた全レールになる、というものであり、 前記判定部での特定は、前記送信先切替手段での切替が一巡する間に前記多数レールのうちで一度も正常と判別されなかったレールがあればそれを異常レールとする、というものである。
【0007】
さらに、本発明の異常レール特定装置は(解決手段3)、上記解決手段1の異常レール特定装置であって、前記送信先切替手段での切替は、前記多数レールから二本ずつ選出して前記送信先レールに含めることを二本選出の組み合わせ総てについて行うことで一巡するものであり、前記判定部での特定は、前記送信先切替手段での切替が一巡する間に前記多数レールのうちで一度も正常と判別されなかったレールがあればそれを異常レールとする、というものである。
【0008】
また、本発明の異常レール特定装置は(解決手段4)、上記解決手段2,3の異常レール特定装置であって、前記判定部での異常レール特定は、前記送信先切替手段での切替が一巡する間に一度でも正常と判別されたレールを前記多数レールのうちから除外して残ったものがあればそれを異常レールとする、というものである。
【0009】
また、本発明の異常レール特定装置は(解決手段5)、上記解決手段1〜4の異常レール特定装置であって、前記区間端画定手段が、前記検査信号の伝搬については前記多数レールを接続箇所で短絡する検査信号伝搬端短絡手段であり、前記検出部が、前記送信機とともに前記検査区間の一端側寄りに設けられて前記検査信号から前記送信先レールのインピーダンス算出に適う物理量を検出するものであり、前記判定部が、算出したインピーダンス値に応じて前記送信先レール毎に正否判別を行うものである、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の異常レール特定装置は(解決手段6)、上記解決手段1〜4の異常レール特定装置であって、前記区間端画定手段が、前記送信先切替手段での切替に同期して前記検査信号の受信先レールを前記送信先レールに一致するよう切り替える受信先切替手段であり、前記検出部が、前記受信先切替手段を介して前記受信先レールから前記検査信号を受信する受信機であり、前記判定部が、前記受信機での前記検査信号の受信レベルに応じて前記送信先レール毎に正否判別を行うものである、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の異常レール特定装置は(解決手段7)、上記解決手段6の異常レール特定装置であって、前記送信先切替手段での切替と前記受信先切替手段での切替とを制御するレール選出手段が、前記判定部とともに前記検査区間の他端側寄りに設けられて、前記受信先切替手段に対する制御は有線で行うが、前記送信先切替手段に対する制御は無線で行うようになっている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明の異常レール特定装置にあっては(解決手段1)、検査信号が、送信機から多数レールの検査区間に送信されて、その区間の一端側から他端側へ伝搬し、他端側区間端画定手段に達することで、検査区間の全域に及ぶレール状態を反映したものとなるが、電気信号である検査信号の伝搬には二本以上のレールが必要なので、送信先切替手段によって多数レールから複数本が検査信号の送信先レールに選出されるとともに送信先レールに含まれるレールの組み合わせが次々に替えられる。そして、随時あるいは少なくとも送信先レールの切替の度に検出部によって検査信号に係る物理量が検出され、送信先切替手段による送信先レールの切替が一巡する間に得られた検出部の検出値に基づき判定部によって、多数レールの状態が正常であるか異常であるかが判別される。
【0013】
上述したように送信先レールに複数本のレールが含まれるため、送信先レール毎の判別だけでは個々のレールの正否まで切り分けることができないが、本発明にあっては、送信先レールに含まれるレールの組み合わせを切り替えながら検出と判別を行うようにしたことにより、送信先レールの切替が一巡すればその間に組み替えたレールの相違に基づいて判別結果を細分化することが可能になっているため、正否状態を個々のレールについてまで切り分けられるので、異常があったときには判定部によって異常レールが特定される。
したがって、この発明によれば、並走レールの異常を検知して異常レールを特定する異常レール特定装置を実現することができる。
【0014】
また、本発明の異常レール特定装置にあっては(解決手段2)、異常レールが一本だけであれば、その特定が確実になされる。
さらに、本発明の異常レール特定装置にあっては(解決手段3)、二本の並走レールを選出して検査信号を送信するという基本的な信号伝搬態様を採用したうえで、解決手段2を具体化しているので、実用化に適したものとなっている。
また、本発明の異常レール特定装置にあっては(解決手段4)、異常レール特定の手順がより具体化されたものとなっている。
【0015】
また、本発明の異常レール特定装置にあっては(解決手段5)、レールのインピーダンス変化に基づいてレール状態の正否判別が行われるが、インピーダンス算出に適う物理量としては電圧や電流が代表例であるところ、検査区間の他端側に設置される区間端画定手段が検査信号の伝搬について多数レールを接続箇所で短絡するものなので、電圧ばかりか電流までも検査信号の送信側で検出することができる。そして、検出部を送信機とともに検査区間の一端側寄りに設置したので、検査信号の検出や処理のための配線も、送信先切替手段の切替制御のための配線も、検査区間の一端側に集約される。
しかも、検査信号の伝搬についてレールを短絡すれば足りる区間端画定手段は、切替手段などと異なり、制御信号を供給しない態様でも、容易に具現化することができる。
そのため、検査区間の全長に匹敵する長いケーブル配線は不要となる。
【0016】
また、本発明の異常レール特定装置にあっては(解決手段6)、送信先切替手段と受信先切替手段によって送信先レールと受信先レールとが一致させられるため、検査信号の受信レベル変化に基づくレール状態の正否判別が行えるが、検査信号の受信が検査区間の他端側で受信機にて行われることから、検査区間の全域におけるレール状態が的確に検出値に反映されるので、レール破断などの異常が、検査区間のどこで発生しても、見落とされることなく確実に検知されることとなる。また、受信レベルの検出は、検査信号に係る物理量として電圧か電流の何れかを測定すれば足りるので、簡便に行える。
【0017】
また、本発明の異常レール特定装置にあっては(解決手段7)、制御信号の供給を要する送信先切替手段と受信先切替手段とのうち、検査信号の検出や処理のための配線を要する受信機や判定部に近い受信先切替手段については、有線で制御し、受信機等から遠い送信先切替手段については、無線で制御するようにしたことにより、レベル変化検知方式でも、検査区間の全長に匹敵する長いケーブル配線が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1について、レベル変化検知方式を具現化した基本的な異常レール特定装置の構造を示すブロック図である。
【図2】(a)〜(e)何れも判別データと集約データと異常レール特定結果の例である。
【図3】本発明の実施例2について、インピーダンス変化検知方式を具現化した基本的な異常レール特定装置の構造を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施例3について、インピーダンス変化検知方式を具現化した実用的な異常レール特定装置の構造を示すブロック図である。
【図5】(a)〜(e)何れも判別データと集約データと異常レール特定結果の例である。
【図6】本発明の実施例4について、インピーダンス変化検知方式を具現化した変形可能な異常レール特定装置の構造を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例5について、レベル変化検知方式を具現化した実用的な異常レール特定装置の構造を示すブロック図である。
【図8】その制御判定部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
このような本発明の異常レール特定装置について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜5により説明する。
図1〜2に示した実施例1は、上述した解決手段1〜4,6(出願当初の請求項1〜4,6)を具現化したものであり、図3に示した実施例2と、図4〜5に示した実施例3は、上述した解決手段1〜5(出願当初の請求項1〜5)を具現化したものであり、図6に示した実施例4は、上述した解決手段1〜2,4〜5(出願当初の請求項1〜2,4〜5)を具現化したものであり、図7〜8に示した実施例5は、上述した解決手段1〜4,6〜7(出願当初の請求項1〜4,6〜7)を具現化したものである。
【実施例1】
【0020】
図1にブロック図を示した本発明の異常レール特定装置10は、レベル変化検知方式を具現化したものであって、鉄道の線路に並設された3本の多数レールA〜Cを破断検出対象とする基本的なものである。
【0021】
この異常レール特定装置10には、送信機11と送信先切替手段12と受信先切替手段13(区間端画定手段)と受信機14(検出部)とA/D変換器15と制御判定部20とが具わっている。
制御判定部20は、個別設計の論理回路等で具体化しても良いが、プログラマブルで使い易い汎用の又はフェールセーフなマイクロプロセッサシステムやシーケンサが採用されて、以下に述べる制御手段21〜22(制御部)や判定手段23〜29(判定部)がインストールされている。
【0022】
送信機11は、二つの出力端子から検査信号を送出できれば従来の軌道回路用電源や軌道回路用送信器あるいはモニタ送信器と同様構成のものでも良く他の構成のものでも良い。検査信号は、多数レールA〜Cを検査区間の一端側から他端側まで検出可能なレベルを保って伝搬するもので、電車電流による雑音から識別可能な周波数とする。電圧や周波数も、信号検出や列車制御等の妨げにならなければ任意であり、例えば、電車電流の雑音と弁別容易な120Hz程度の周波数が採用される。単純な正弦波信号でも良く、変調や符号化も、受信機14で復調や復号できれば、使用可能である。
【0023】
送信先切替手段12は、入力端子が二つで出力端子が三つの切替回路であるが、例えば1入力2出力のスイッチを二つ組み合わせて具体化され、入力端子がそれぞれ送信機11の出力端子に一対一で接続され、出力端子がそれぞれ多数レールA〜Cに係る検査区間の一端側で多数レールA〜Cに一対一で接続されている。そして、制御判定部20の制御手段21〜22の切替制御信号(長破線で図示)を受け、それに従って、送信機11から出力された検査信号の送信先レールを多数レールA〜C内で切り替えるようになっている。なお、各スイッチは、機械式でも半導体でもリレーでも、電路切替可能ならば良い。
【0024】
受信先切替手段13は、多数レールA〜Cに接続されて、多数レールA〜Cに係る検査区間の他端側を画定する区間端画定手段であるが、この実施例では、送信先切替手段12に入出力逆向きで対応している3入力2出力の切替回路が採用され、切替回路の入力端子がそれぞれ多数レールA〜Cに係る検査区間の他端側で多数レールA〜Cに一対一で接続されるとともに、切替回路の出力端子がそれぞれ受信機14の入力端子に一対一で接続されて、検査信号の受信先レールを多数レールA〜C内で切り替えるものとなっている。また、送信先切替手段12と同じく上述の切替制御信号を受けて、それに従い、検査信号の受信先レールを送信先切替手段12での切替に同期して送信先レールに一致するよう切り替えるようになっている。
【0025】
受信機14は、検査信号に係る物理量を検出する検出部として機能するために、受信先切替手段13を介して多数レールA〜Cのうちの受信先レールから検査信号を受信するようになっている。また、適宜なバンドパスフィルタや包絡線検波回路などを具備していて、検査信号に係る物理量として受信レベルを検出するようになっている。さらに、それで得られた検出値を、制御判定部20で処理し易いようA/D変換器15などでデジタル化してから、制御判定部20に送出するようにもなっている。
【0026】
制御手段21〜22は、多数レールA〜Cの部分集合のうち2本のレールだけからなるものを規定した選択データ21と、それを参照しながら切替制御信号を生成して送信先切替手段12と受信先切替手段13へ有線で送るプログラムのレール選出手段22とからなり、送信先レール及び受信先レールとして順にレールA,BとレールB,CとレールC,Aを選択するのを繰り返す切替制御信号を生成して、送信先切替手段12での送信先レールの切替と受信先切替手段13での受信先レールの切替を制御するようになっている。
【0027】
このような切替制御信号により、送信先切替手段12での切替は、多数レールA〜Cから二本ずつ選出して送信先レールに含めることを二本選出の組み合わせ総てについて行うことで一巡するものになる。また、多数レールA〜Cから二本以上を選出して送信先レールに含めるとともに、多数レールA〜Cの各レール総てについて切替一巡間に該レールを送信先レールに含めるときと含めないときとがあり且つ含めないときの送信先レールの和集合が多数レールA〜Cから該レールを除いた全レールになる、という条件も満たされる。さらに、受信先切替手段13での切替が送信先切替手段12での切替に同期して、検査信号の受信先レールと検査信号の送信先レールとが一致することとなる。
【0028】
判定手段23〜29は、送信先切替手段12及び受信先切替手段13での切替が一巡する間に得られた受信機14での検出値に基づいて多数レールA〜Cの状態が正常であるか異常であるかを判別するとともに異常であると判別したときには異常レールを特定する判定部として機能するために、プログラムとデータで具体化された検出値入力手段23と検出データ24と状態判別手段25と判別データ26と正常レール除外手段27と集約データ28と異常レール特定手段29とを具えている。
【0029】
検出値入力手段23は、受信機14で受信した検査信号の受信レベルの検出値をA/D変換器15経由で入力して検出データ24に記憶保持させるプログラムである。検出データ24は、送信先レール及び受信先レールがレールA,BのときとレールB,CのときとレールC,Aのときとで、検出値の記憶領域を異ならせることで、送信先切替手段12での切替が一巡する間に亘る受信レベル検出値を保持するようになっている。
【0030】
状態判別手段25は、設計仕様や実測資料などに基づいて正否判別用に予め規定された下限の閾値と検出データ24の各検出値とを比較して、受信レベル検出値が閾値を上回っていれば、その受信レベル検出値を得たときに選択されていた送信先レールが正常であると判別し、検出値が閾値を下回っていれば該当する送信先レールが異常であると判別し、判別結果を判別データ26に記憶保持させるプログラムである。判別データ26は、検出データ24と同様、送信先レール及び受信先レールがレールA,BのときとレールB,CのときとレールC,Aのときとで、判別結果の記憶領域を異ならせることで、送信先切替手段12での切替が一巡する間に亘る判別結果を保持するようになっている。
【0031】
正常レール除外手段27は、多数レールA〜Cの各レールに対応させて記憶領域が割り振られている集約データ28を先ずクリアし、それから判別データ26に保持されている判別結果のうち正常とされたもの総てについて、その判別の基になった受信レベル検出時の受信先レールに含まれる各レールに割り振られた集約データ28の記憶領域にマークする、というプログラムである。図示した具体例で説明すると、この場合、送信先レール及び受信先レールがレールC,Aのときだけ正常「○」で、他は異常「×」であるから、集約データ28では、レールAとレールCとが「○」でマーキングされ、レールBはマーキングされない。
【0032】
このような正常レール除外手段27は、送信先切替手段12での切替が一巡する間に多数レールA〜Cのうちで一度でも正常と判別されたレールはマーキングし、送信先切替手段12での切替が一巡する間に多数レールA〜Cのうちで一度も正常と判別されなかったレールはマーキングされないままにしておくものとなっている。
異常レール特定手段29は、正常レール除外手段27による一連の処理が終了したときに集約データ28を調べて、正常「○」とマーキングされたレールを多数レールA〜Cから除外して、マーキングされていないレールが残っていれば、それ(「↓B」で図示した例ではレールB)を異常レールとして特定するようになっているプログラムである。
【0033】
この実施例1の異常レール特定装置10について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図2(a)〜(e)は、何れも、判別データ26と集約データ28と異常レール特定手段29の特定結果(29)とを組にしたデータ例である。
【0034】
異常レール特定装置10は、多数レールA〜Cの検査区間に列車が進入していないときに多数レールA〜Cの検査区間に検査信号を伝搬させることでレール破断などのレール異常を検知するためのものなので、多数レールA〜Cの検査区間に列車が進入していないことが分かっているときだけ動作させるか、常時動作させておいて列車の進入していないときの判定結果だけを採用する、といった態様で使用される。
【0035】
そして、列車の進入していないときに異常レール特定装置10が作動すると、多数レールA〜Cのうちから送信先レール及び受信先レールとして順にレール対A,Bとレール対B,Cとレール対C,Aが選択され、各レール対について、一端側から検査信号が送信されるとともに、検査区間を伝搬した後の検査信号が他端側で受信機14にて受信されてその受信レベルが検出され、その検出値が検出値入力手段23によって検出データ24に蓄積され、その検出値の正否状態が状態判別手段25によって判別される。
【0036】
各レール対の選択切替が多数レールA〜Cにおける2本レールの部分集合について一巡すると、判別データ26には送信先レール及び受信先レールの判別結果が蓄積され、集約データ28では、多数レールA〜Cのうちで一度でも正常と判別されたレールには正常「○」がマーキングされ、多数レールA〜Cのうちで一度も正常と判別されなかったレールにはマーキングがされず、そのようにマーキングされないで残ったレールが異常レール特定手段29によって異常レールとして特定される。
【0037】
場合分けして具体的に説明すると、多数レールA〜Cの何れもが正常な場合は(図2(a)参照)、レール対A,Bもレール対B,Cもレール対C,Aも正常「○」と判別されることから、レールAもレールBもレールCも正常「○」とマーキングされるので、マーキングされずに残るレールが無いため、異常レールが無いという判定結果が出される。
これに対し、レールAだけに破断等の異常が生じた場合(図2(b)参照)、レール対A,Bとレール対C,Aが異常「×」と判別され、レール対B,Cが正常「○」と判別されるので、レールBとレールCは正常「○」とマーキングされるが、レールAはマーキングされずに残るため、レールAが異常レールとして特定される。
【0038】
また、レールBだけに破断等の異常が生じた場合(図2(c)参照)、レール対A,Bとレール対B,Cが異常「×」と判別され、レール対C,Aが正常「○」と判別されるので、レールAとレールCは正常「○」とマーキングされるが、レールBはマーキングされずに残るため、レールBが異常レールとして特定される。
さらに、レールCだけに破断等の異常が生じた場合(図2(d)参照)、レール対B,Cとレール対C,Aが異常「×」と判別され、レール対A,Bが正常「○」と判別されるので、レールAとレールBは正常「○」とマーキングされるが、レールCはマーキングされずに残るため、レールCが異常レールとして特定される。
【0039】
なお、複数本のレールに異常が生じた場合、図示は割愛したが、多数レールA〜Cの総てが異常レールとされるので、異常レールの特定まではできないが、異常を見落とす訳ではないので、安心して異常レール特定装置10を使用することができる。
また、送信先切替手段12での切替が多数レールA〜Cにおける2本レールの部分集合について一巡する間に何れかの送信先レール及び受信先レールが異常「×」と判別されたのに、レールAもレールBもレールCも正常「○」とマーキングされて、マーキングされずに残ったレールが無い、といった想定外の事態では(例えば図2(e)参照)、その発生が一時的な場合は無視されるが、継続的な場合は装置故障等の警報が出される。
【実施例2】
【0040】
図3にブロック図を示した本発明の異常レール特定装置30は、インピーダンス変化検知方式を具現化したものであって、並設された3本のレールA〜Cを破断検出対象とする基本的なものである。
【0041】
この異常レール特定装置30が上述した実施例1の異常レール特定装置10と相違するのは、レベル変化検知方式からインピーダンス変化検知方式への変更のために改造された部分である。具体的には、受信先切替手段13(区間端画定手段)が検査信号伝搬端短絡手段33a(区間端画定手段)になっている点と、受信機14(検出部)が電圧計34aと電流計34b(検出部)になっている点と、検出値入力手段23,検出データ24,状態判別手段25がそれぞれ検出値入力手段33,検出データ34,状態判別手段35になっている点で、相違している。
【0042】
検査信号伝搬端短絡手段33aは、上述の実施例と同様、多数レールA〜Cに接続されて、多数レールA〜Cに係る検査区間の他端側を画定する区間端画定手段であるが、この実施例では、検査信号は通すが他の周波数の信号は通さない三つのバンドパスフィルタ(BPF)が採用され、スター結線にて各BPFの一端が共通接続され他端が多数レールA〜Cに一対一で分散接続されて、検査信号の伝搬については多数レールA〜Cを接続箇所で短絡するが他の信号たとえば軌道回路の列車検知信号などは短絡しないようになっている。このような検査信号伝搬端短絡手段33aは、各BPFが受動素子だけで構成できるため、制御判定部20から切替制御信号を送信する必要が無いので、制御判定部20とはケーブル接続されていないものとなっている。また、軌道回路が無い場合は短絡線でも可とする。
【0043】
電圧計34a及び電流計34bは、送信機11の出力する検査信号の電圧と電流を計測しうるよう、送信機11の出力端子や出力ラインに接続されており、送信機11とともに検査区間の一端側寄りに設けられて検査信号から送信先レールのインピーダンス算出に適う物理量を検出する検出部となっている。なお、電圧計34aで計測した電圧値も、電流計34bで計測した電流値も、上述の信号レベル検出値と同様、A/D変換器15でデジタル化してから制御判定部20に取り込むようになっており、A/D変換器15は二個を図示したが、一個を切り替えて時間差で電圧値と電流値を変換するようにしても良い。
【0044】
検出値入力手段33は、検出値として二個一組の電圧値と電流値とを入力するようになったこと以外は、上述の検出値入力手段23を踏襲したものである。
検出データ34は、上述の検出データ24を電圧値保持用と電流値保持用の二組に拡張したものとなっている。
状態判別手段35は、状態判別に先立って電圧値と電流値とからインピーダンスを算出し、送信先レール毎の正否判別を算出インピーダンス値に応じて行うようになったこと以外は、上述の状態判別手段25を踏襲している。
【0045】
この場合、列車の進入していないときに異常レール特定装置30が作動すると、多数レールA〜Cのうちから送信先レールとして順にレール対A,Bとレール対B,Cとレール対C,Aが選択され、選択された各レール対が検査信号については検査区間の他端側の検査信号伝搬端短絡手段33aで折り返す形の電路を成すが、そのような各レール対について、検査区間の一端側から検査信号が送信されるとともに、その検査信号の電圧と電流が、電圧計34aと電流計34bにて検出されて、検出値入力手段33にて制御判定部20に入力されて検出データ34に記憶保持される。また、状態判別手段35によって、各レール対のインピーダンスが算出されるとともに、その正否が判別される。
【0046】
そして、各レール対の選択切替が多数レールA〜Cにおける2本レールの部分集合について一巡すると、判別データ26には送信先レールの判別結果が蓄積され、集約データ28では、多数レールA〜Cのうちで一度でも正常と判別されたレールに正常「○」がマーキングされ、多数レールA〜Cのうちで一度も正常と判別されなかったレールにはマーキングがされず、そのようにマーキングされないで残ったレールが異常レール特定手段29によって異常レールとして特定される。
【0047】
こうして、この場合も、レール異常の検出および異常レールの特定が的確に行われるが、異常レール特定装置30はインピーダンス変化検知方式なので、例えば、状態判別手段35に閾値として上限値と下限値とを持たせて、インピーダンス算出値が上限値を上回ったときにはレール破断と判別し、インピーダンス算出値が下限値を下回ったときにはレール短絡と判別するといった改造により、異常状態を細分化して判別することもできる。
【実施例3】
【0048】
図4にブロック図を示した本発明の異常レール特定装置40は、インピーダンス変化検知方式を具現化したものであって、並設された4本のレールA〜Dを破断検出対象とする実用的なものである。多くの線路では上り線と下り線とで計4本のレールが並走する。
【0049】
この異常レール特定装置40が上述した実施例2の異常レール特定装置30と相違するのは、破断検出対象にレールDが加わったことに対応した改造であり、具体的には、送信先切替手段12が送信先切替手段42になっている点と、検査信号伝搬端短絡手段33aが検査信号伝搬端短絡手段43(区間端画定手段)になっている点と、選択データ21,レール選出手段22,検出値入力手段33,検出データ34,状態判別手段35,判別データ26,正常レール除外手段27,集約データ28,異常レール特定手段29がそれぞれ選択データ51,レール選出手段52,検出値入力手段53,検出データ54,状態判別手段55,判別データ56,正常レール除外手段57,集約データ58,異常レール特定手段59になっている点である。
【0050】
送信先切替手段42は、送信機11に接続される入力端子は二つのままであるが、多数レールA〜Dに一対一で接続される出力端子がレールD用に一つ増えて四つになっている。そして、制御判定部20の制御手段51〜52の切替制御信号(長破線で図示)に従って検査信号の送信先レールを多数レールA〜D内で切り替えるようになっている。
検査信号伝搬端短絡手段43は、検査信号は通すが他の周波数の信号は通さないバンドパスフィルタ(BPF)が四つに増えて、検査信号の伝搬については多数レールA〜Dを接続箇所で短絡するものとなっている。
【0051】
制御手段51〜52は、多数レールA〜Dの部分集合のうち2本のレールだけからなるものを総て規定した選択データ51と、それを参照しながら切替制御信号を生成して送信先切替手段42へ有線で送るプログラムのレール選出手段52とからなり、送信先レールとして順にレール対A,Bとレール対A,Cとレール対A,Dとレール対B,Cとレール対B,Dとレール対C,Dを選択するのを繰り返す切替制御信号を生成して、送信先切替手段42での送信先レールの切替を制御するようになっている。
【0052】
検出値入力手段53,検出データ54,状態判別手段55,判別データ56,正常レール除外手段57,集約データ58,異常レール特定手段59は、送信先切替手段42による送信先レールの切替が一巡する間に選択されるレールの組み合わせパターンが3対から6対に増えたことに対応してデータ数や判別回数が増えてはいるが、それ以外は上述した実施例1又は2のもの(21,22,33,34,35,26,27,28,29)を踏襲している。
【0053】
この実施例3の異常レール特定装置40について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図5(a)〜(e)は、何れも、判別データ56と集約データ58と異常レール特定手段59の特定結果(59)とを組にしたデータ例である。
この場合も、多数レールA〜Dの検査区間に列車が進入していないことが分かっているときだけ動作させるか、常時動作させておいて列車の進入していないときの判定結果だけを採用する、といった態様で使用される。
【0054】
そして、列車の進入していないときに異常レール特定装置40が作動すると、多数レールA〜Dのうちから送信先レールとして順にレール対A,Bとレール対A,Cとレール対A,Dとレール対B,Cとレール対B,Dとレール対C,Dが選択され、選択時には各レール対が検査信号については検査区間の他端側の検査信号伝搬端短絡手段43で折り返す形の電路を成し、そのような各レール対について、検査信号が送信されるとともに、その検査信号の電圧と電流が検出され、更にインピーダンス算出と正否判別がなされる。
【0055】
そして、各レール対の選択切替が多数レールA〜Dにおける2本レールの部分集合について一巡すると、判別データ56には送信先レールの判別結果が蓄積され、集約データ58では、多数レールA〜Dのうちで一度でも正常と判別されたレールに正常「○」がマーキングされ、多数レールA〜Dのうちで一度も正常と判別されなかったレールにはマーキングがされず、そのようにマーキングされないで残ったレールが異常レール特定手段59によって異常レールとして特定される。
【0056】
ここでも、場合分けして具体的に説明すると、多数レールA〜Dの何れもが正常な場合は(図5(a)参照)、レール対A,Bもレール対A,Cもレール対A,Dもレール対B,Cもレール対B,Dもレール対C,Dも正常「○」とマーキングされるので、マーキングされずに残るレールが無いため、異常レールが無いという判定結果が出される。
これに対し、レールAだけに破断等の異常が生じた場合(図5(b)参照)、レール対A,Bとレール対A,Cとレール対A,Dが異常「×」と判別され、レール対B,Cとレール対B,Dとレール対C,Dが正常「○」と判別されるので、レールBとレールCとレールDは正常「○」とマーキングされるが、レールAはマーキングされずに残るため、レールAが異常レールとして特定される。
【0057】
また、レールBだけに破断等の異常が生じた場合(図5(c)参照)、レール対A,Bとレール対B,Cとレール対B,Dが異常「×」と判別され、レール対A,Cとレール対A,Dとレール対C,Dが正常「○」と判別されるので、レールAとレールCとレールDは正常「○」とマーキングされるが、レールBはマーキングされずに残るため、レールBが異常レールとして特定される。
繰り返しとなる詳細な説明は割愛するが、同様にして、レールCだけに破断等の異常が生じた場合にはレールCが異常レールとして特定され、レールDだけに破断等の異常が生じた場合にはレールDが異常レールとして特定される。
【0058】
さらに、レールAとレールCに破断等の異常が生じた場合(図5(d)参照)、レール対A,Bとレール対A,Cとレール対A,Dとレール対B,Cとレール対C,Dが異常「×」と判別され、レール対B,Dが正常「○」と判別されるので、レールBとレールDは正常「○」とマーキングされるが、レールAとレールCはマーキングされずに残るため、レールAとレールCが異常レールとして特定されるので、複数の異常レールまで特定できることもある。また、上述した例と同様、想定外の事態では(例えば図5(e)参照)、その発生が一時的な場合は無視されるが、継続的な場合は装置故障等の警報が出される。
【実施例4】
【0059】
図6にブロック図を示した本発明の異常レール特定装置60は、インピーダンス変化検知方式を具現化したものであって、並設された4本のレールA〜Dを破断検出対象としながらも、実施可能な範囲内で変形したものである。
【0060】
この異常レール特定装置60が上述した実施例3の異常レール特定装置40と相違するのは、多数レールA〜Dのうちから送信先レールとして3本づつ選出するようになったことであり、そのために、単相の検査信号を発生していた送信機11に代わって三相交流の検査信号を発生する送信機61aが導入された点と、送信先切替手段42に代えて3入力4出力の送信先切替手段62aが導入された点と、電圧計34a及び電流計34bが3組に増えている点と、選択データ51,レール選出手段52,検出値入力手段53,検出データ54,状態判別手段55,判別データ56,正常レール除外手段57がそれぞれ選択データ61,レール選出手段62,検出値入力手段63,検出データ64,状態判別手段65,判別データ66,正常レール除外手段67になっている点である。
【0061】
選択データ61とレール選出手段62とからなる制御手段は、多数レールA〜Dから送信先レールとして順にレール組A,B,Cとレール組A,B,Dとレール組A,C,Dとレール組B,C,Dを選出するようになっている。また、送信先切替手段62aは、その選択を指示する切替制御信号に従って接続状態を切り替えるので、多数レールA〜Dから3本ずつレールを選出して検査信号の送信先レールに含めるようになっている。このような選択切替では、多数レールA〜Dの各レール総てについて切替一巡の間に該レールが送信先レールに含められるときと含められないときとがあり、而も、含められないときの送信先レールの和集合が多数レールA〜Dから該レールを除いた全レールになる。
【0062】
検出部における検出値入力手段63と検出データ64は、送信先レールが切り替えられる度に検出値として検査信号の電圧と電流を3組ずつ取り込んで保持するようになったこと以外は、上述した検出値入力手段53と検出データ54を踏襲している。
判定部における状態判別手段65と判別データ66と正常レール除外手段67は、3本一組の送信先レールそれぞれについて、3組の検出値からインピーダンスを算出するとともに平均化あるいは中間値採用などで算出インピーダンス値を一つに統合してから、その正否状態を判別して正常レール除外するようになったこと以外は、上述した状態判別手段55と判別データ56と正常レール除外手段57を踏襲している。
【0063】
このような異常レール特定装置60の場合も、列車の進入していないときに異常レール特定装置60が作動すると、多数レールA〜Dのうちから送信先レールとして順にレール組A,B,Cとレール組A,B,Dとレール組A,C,Dとレール組B,C,Dが選択され、選択時には各レール組が検査信号については検査区間の他端側の検査信号伝搬端短絡手段43で折り返す形の電路を成し、そのような各レール組について、検査信号が送信されるとともに、その検査信号の電圧と電流が検出され、更にインピーダンス算出と正否判別がなされる。
【0064】
そして、各レール組の選択切替が多数レールA〜Dにおける3本レールの部分集合について一巡すると、判別データ66には送信先レールの判別結果が蓄積され、集約データ58では、上述した異常レール特定装置40と同様に、多数レールA〜Dのうちで一度でも正常と判別されたレールに正常「○」がマーキングされ、多数レールA〜Dのうちで一度も正常と判別されなかったレールにはマーキングがされず、そのようにマーキングされないで残ったレールが異常レール特定手段59によって異常レールとして特定される。
【実施例5】
【0065】
図7,図8にブロック図を示した本発明の異常レール特定装置70は、レベル変化検知方式を具現化したものであって、並設された4本のレールA〜Dを破断検出対象とする実用的なものである。
【0066】
この異常レール特定装置70が上述した実施例3の異常レール特定装置40と相違するのは、インピーダンス変化検知方式からレベル変化検知方式への変更のために改造された部分と、無線機75,76の追加である。検知方式変更での改造点は、区間端画定手段が検査信号伝搬端短絡手段43から受信先切替手段73になっている点と、検出部が電圧計34a及び電流計34bから受信機14になっている点と、検出値入力手段53,検出データ54,状態判別手段55がそれぞれ検出値入力手段83,検出データ84,状態判別手段85になっている点である。
【0067】
また、この異常レール特定装置70が上述した実施例1の異常レール特定装置10と相違するのは、破断検出対象レールが3本の多数レールA〜Cから4本の多数レールA〜Dになったことに対応した改造と、無線機75,76の追加である。レール数の増加に対応した改造点は、送信先切替手段12が送信先切替手段42になっている点と、区間端画定手段が受信先切替手段13から受信先切替手段73になっている点と、選択データ21,レール選出手段22,検出値入力手段23,検出データ24,状態判別手段25,判別データ26,正常レール除外手段27,集約データ28,異常レール特定手段29がそれぞれ選択データ51,レール選出手段52,検出値入力手段83,検出データ84,状態判別手段85,判別データ56,正常レール除外手段57,集約データ58,異常レール特定手段59になっている点である。
【0068】
受信先切替手段73は、送信先切替手段42に入出力逆向きで対応している4入力2出力の切替回路が採用され、受信先切替手段13と同様に多数レールA〜Dに接続されて多数レールA〜Dに係る検査区間の他端側を画定するとともに、検査信号の受信先レールを多数レールA〜D内で切り替えるものであり、送信先切替手段42と同じくレール選出手段52の切替制御信号を受けて、それに従い、検査信号の受信先レールを送信先切替手段42での切替に同期して送信先レールに一致するよう切り替えるものとなっている。
【0069】
検出値入力手段83,検出データ84,状態判別手段85,判別データ56,正常レール除外手段57,集約データ58,異常レール特定手段59は、送信先切替手段42による送信先レールの切替が一巡する間に選択されるレールの組み合わせパターンが3対から6対に増えたことに対応してデータ数や判別回数が増えてはいるが、それ以外は上述した実施例1のもの(21,22,23,24,25,26,27,28,29)を踏襲している。
【0070】
無線機75,76は、レール選出手段52の生成した切替制御信号を無線通信で制御判定部20から送信先切替手段42へ伝達できれば汎用で安価な市販の小電力無線機などで足り、受信用の無線機75は送信先切替手段42の近くに設置されるが、送信用の無線機76は制御判定部20と共に受信機14の近くに設置される。このような異常レール特定装置70は、送信先切替手段42での切替と受信先切替手段73での切替とを制御するレール選出手段52が判定部83〜59とともに多数レールA〜Dの検査区間の他端側寄りに設けられて、受信先切替手段73に対する制御は有線で行うが、送信先切替手段42に対する制御は無線で行うものになっている。
【0071】
この場合も、列車の進入していないときに異常レール特定装置70が作動すると、多数レールA〜Dのうちから送信先レール及び受信先レールとして順にレール対A,Bとレール対A,Cとレール対A,Dとレール対B,Cとレール対B,Dとレール対C,Dが選択され、選択された各レール対について、一端側から検査信号が送信されるとともに、検査区間を伝搬した後の検査信号が他端側で受信機14にて受信されてその受信レベルが検出され、その検出値が検出値入力手段83によって検出データ84に蓄積され、その検出値の正否状態が状態判別手段85によって判別される。
【0072】
そして、各レール対の選択切替が多数レールA〜Dにおける2本レールの部分集合について一巡すると、判別データ56には送信先レール及び受信先レールの判別結果が蓄積され、集約データ58では、多数レールA〜Dのうちで一度でも正常と判別されたレールには正常「○」がマーキングされ、多数レールA〜Dのうちで一度も正常と判別されなかったレールにはマーキングがされず、そのようにマーキングされないで残ったレールがあれば、それ(「↓B」で図8に示した例ではレールB)が異常レール特定手段59によって異常レールとして特定される。
こうして、この場合も、レール異常の検出と異常レールの特定が的確に行われる。
【0073】
[その他]
上記実施例では、異常レール特定の処理遂行が、状態判別手段25,35,55,65,85と正常レール除外手段27,57,67と異常レール特定手段29,59とで明確に分担されているが、このような分担は必須でない。送信先切替手段12,42,62aでの切替が一巡する間に多数レールA〜C,A〜Dのうちで一度も正常と判別されなかったレールがあればそれを異常レールとする、という処理が行われれば、分担されていなくても良く、他の形の分担でも良い。
上記実施例では、正否判別用の閾値が単純な固定値になっていたが、閾値は、可変値でも良く、例えばレール温度や線路周りの湿度などの環境条件に応じて調整しても良い。
【0074】
上記実施例では、レベル変化検知方式とインピーダンス変化検知方式とのうち何れか一方だけが具現化されていたが、両方式を併用することも可能であり、併用して異常状態を細分化すれば、レール同士の短絡とレールの地絡とを切り分けられることもある。
また、上記実施例では、検査信号送信先のレールを切り替える送信先切替手段12,42,62aの制御処理も、検出値に基づく状態判別や異常レール特定といった判別処理も、制御判定部20が行うようになっていたが、それらの処理は別ユニットで分担して行うようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の異常レール特定装置の適用は、上述した3本や4本のレールが並設された線路に限られる訳でなく、本発明の異常レール特定装置は、5本以上のレールが並設された線路に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
A,B,C,D…レール、
10…異常レール特定装置、
11…送信機、12…送信先切替手段、
13…受信先切替手段(区間端画定手段)、
14…受信機(検出部)、15…A/D変換器(入力手段)、
20…制御判定部(判定部)、
21…選択データ、22…レール選出手段、23…検出値入力手段、
24…検出データ、25…状態判別手段、26…判別データ、
27…正常レール除外手段、28…集約データ、29…異常レール特定手段、
30…異常レール特定装置、
33a…検査信号伝搬端短絡手段(区間端画定手段)、
34a…電圧計(検出部)、34b…電流計(検出部)、
33…検出値入力手段、34…検出データ、35…状態判別手段、
40…異常レール特定装置、
42…送信先切替手段、43…検査信号伝搬端短絡手段(区間端画定手段)、
51…選択データ、52…レール選出手段、53…検出値入力手段、
54…検出データ、55…状態判別手段、56…判別データ、
57…正常レール除外手段、58…集約データ、59…異常レール特定手段、
60…異常レール特定装置、
61a…送信機、62a…送信先切替手段、61…選択データ、
62…レール選出手段、63…検出値入力手段、64…検出データ、
65…状態判別手段、66…判別データ、67…正常レール除外手段、
70…異常レール特定装置、
73…受信先切替手段(区間端画定手段)、75,76…無線機、
83…検出値入力手段、84…検出データ、85…状態判別手段、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査信号を送出する送信機と、鉄道の線路に三本以上並設された多数レールに係る検査区間の一端側で前記多数レールに接続されて前記検査信号の送信先レールを切り替える送信先切替手段と、前記多数レールに接続されて前記検査区間の他端側を画定する区間端画定手段と、前記検査信号に係る物理量を検出する検出部と、前記送信先切替手段での切替が一巡する間に得られた前記検出部の検出値に基づいて前記多数レールの状態が正常であるか異常であるかを判別するとともに異常であると判別したときには異常レールを特定する判定部とを備えている異常レール特定装置。
【請求項2】
前記送信先切替手段での切替は、前記多数レールから二本以上を選出して前記送信先レールに含めるとともに、前記多数レールの各レール総てについて切替一巡間に該レールを前記送信先レールに含めるときと含めないときとがあり且つ含めないときの前記送信先レールの和集合が前記多数レールから該レールを除いた全レールになる、というものであり、
前記判定部での特定は、前記送信先切替手段での切替が一巡する間に前記多数レールのうちで一度も正常と判別されなかったレールがあればそれを異常レールとする、というものである
ことを特徴とする請求項1記載の異常レール特定装置。
【請求項3】
前記送信先切替手段での切替は、前記多数レールから二本ずつ選出して前記送信先レールに含めることを二本選出の組み合わせ総てについて行うことで一巡するものであり、前記判定部での特定は、前記送信先切替手段での切替が一巡する間に前記多数レールのうちで一度も正常と判別されなかったレールがあればそれを異常レールとするようになっている、ことを特徴とする請求項1記載の異常レール特定装置。
【請求項4】
前記判定部での異常レール特定は、前記送信先切替手段での切替が一巡する間に一度でも正常と判別されたレールを前記多数レールのうちから除外して残ったものがあればそれを異常レールとするようになっている、ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載された異常レール特定装置。
【請求項5】
前記区間端画定手段が、前記検査信号の伝搬については前記多数レールを接続箇所で短絡する検査信号伝搬端短絡手段であり、前記検出部が、前記送信機とともに前記検査区間の一端側寄りに設けられて前記検査信号から前記送信先レールのインピーダンス算出に適う物理量を検出するものであり、前記判定部が、算出したインピーダンス値に応じて前記送信先レール毎に正否判別を行うものである、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載された異常レール特定装置。
【請求項6】
前記区間端画定手段が、前記送信先切替手段での切替に同期して前記検査信号の受信先レールを前記送信先レールに一致するよう切り替える受信先切替手段であり、前記検出部が、前記受信先切替手段を介して前記受信先レールから前記検査信号を受信する受信機であり、前記判定部が、前記受信機での前記検査信号の受信レベルに応じて前記送信先レール毎に正否判別を行うものである、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載された異常レール特定装置。
【請求項7】
前記送信先切替手段での切替と前記受信先切替手段での切替とを制御するレール選出手段が、前記判定部とともに前記検査区間の他端側寄りに設けられて、前記受信先切替手段に対する制御は有線で行うが、前記送信先切替手段に対する制御は無線で行うようになっている、ことを特徴とする請求項6記載の異常レール特定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−207453(P2011−207453A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79780(P2010−79780)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000207470)大同信号株式会社 (83)
【Fターム(参考)】